説明

磁性粒子

【課題】 より多くのタンパク質を結合でき、かつ、結合したタンパク質が脱離しにくい磁性粒子を提供する。
【解決手段】 磁性粒子は磁性体微粒子およびポリマー部を含み、かつ、以下の式(1)〜式(4)を満たす。
体積平均粒子径d=0.5×10−6〜5.0×10−6[m] ・・・・・(1)
カルボン酸換算表面荷電量E=50〜400[μmol/g] ・・・・・(2)
比表面積S=2〜50[m/g] ・・・・・(3)
比表面積S/球状相当比表面積Sg≧3(ここで、Sg=6/(d・ρ)、ρ[g/m]は磁性粒子の密度である。) ・・・・・(4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多くのタンパク質を結合でき、しかも結合したタンパク質が脱離しにくい磁性粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁性粒子は、磁気分離による洗浄が容易で、抗原と抗体との免疫反応やDNA同士またはDNAとRNAとのハイブリダイゼーションにおいて優れた反応場を提供できることから、特に診断薬や医薬品研究用などの生化学用途への応用が活発になっている。このような用途においては、IgG抗体やアビジンに代表されるタンパク質を磁性粒子表面に化学結合させて使用することが多く、より多くのタンパク質を結合でき、しかも結合後のタンパク質の脱離が少ないことが求められる。
【0003】
特に、磁性粒子の表面を多孔質にすることで表面積を大きくして、タンパク質等の生化学物質の結合量を増やすことが可能である。例えば、米国特許第4774265号には、多孔質表面を有する磁性粒子が開示されている。しかしながら、該特許で開示されている粒子は、比表面積が例えば128〜472[m/g]と非常に大きく、多くのタンパク質を結合できるものの、結合したタンパク質の脱離量が多く、実用には適さない。
【0004】
また、特開2003−301114号公報には、比表面積が5[m/g]以上の無機物からなる粒子が開示され、さらに、特開2003−151817号公報には、比表面積が10〜60[m/g]の無機物からなる粒子が開示されている。しかしながら、これらの粒子は焼成によって得られる無機質粒子であり、タンパク質を安定的に結合することができないため、生化学用としては適さない。
【特許文献1】米国特許第4774265号
【特許文献2】特開2003−301114号公報
【特許文献3】特開2003−151817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、多くのタンパク質を結合でき、かつ、結合したタンパク質が脱離しにくい磁性粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、体積平均粒径、表面荷電量、および比表面積(さらに必要に応じて表面電荷密度)を特定の条件とすることにより、タンパク質結合量の多さと、結合したタンパク質の脱離量の少なさとを両立することができることを発見し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の磁性粒子は、磁性体微粒子およびポリマー部を含み、かつ、以下の式(1)〜式(4)を満たす。
【0008】
体積平均粒子径d=0.5×10−6〜5.0×10−6[m] ・・・・・(1)
カルボン酸換算表面荷電量E=50〜400[μmol/g] ・・・・・(2)
比表面積S=2〜50[m/g] ・・・・・(3)
比表面積S/球状相当比表面積Sg≧3(ここで、Sg=6/(d・ρ)、ρ[g/m]は磁性粒子の密度である。) ・・・・・(4)
ここで、上記本発明の磁性粒子において、表面荷電密度E/Sが30[μmol/m]以下であることができる。
【0009】
ここで、上記本発明の磁性粒子において、表面にタンパク質が結合できる。
【0010】
本発明において、「タンパク質」とは、隣り合うアミノ酸のアミノ基とカルボキシル基との間で脱水重縮合したもの(ポリペプチド)をいい、その分子量は特に限定されない。すなわち、本発明において、「タンパク質」には、一般に「ペプチド」と呼ばれている、より低分子量のポリペプチドが含まれる。
【0011】
また、本発明において、「タンパク質」には、ポリペプチド鎖のみからなる単純タンパク質のほか、ポリペプチド鎖以外の部位を含む複合タンパク質(例えば、核タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、リンタンパク質など)が含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の磁性粒子は、体積平均粒径、表面荷電密度、および比表面積(さらに必要に応じて表面電荷密度)を特定の条件とすることにより、タンパク質結合量の多さと、結合したタンパク質の脱離量の少なさとを両立させることができる。
【0013】
本発明の磁性粒子は、診断薬用担体などの生化学用担体、塗料、紙、電子材料、電子写真、化粧品、医薬品、農薬、食品、触媒など広い分野で利用できる。応用例としては、医療用診断薬用途、特に自動測定器対応粒子に応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の磁性粒子について詳細に説明する。
【0015】
1.磁性粒子
本発明の磁性粒子は、磁性体微粒子およびポリマー部を含み、かつ、以下の式(1)〜式(4)を満たす。
【0016】
体積平均粒子径d=0.5×10−6〜5.0×10−6[m] ・・・・・(1)
カルボン酸換算表面荷電量E=50〜400[μmol/g] ・・・・・(2)
比表面積S=2〜50[m/g] ・・・・・(3)
比表面積S/球状相当比表面積Sg≧3(ここで、Sg=6/(d・ρ)、ρ[g/m]は磁性粒子の密度である。) ・・・・・(4)
本発明の磁性粒子内部における磁性体微粒子およびポリマー部の存在形態としては、例えば、ポリマー部の連続相中に磁性体微粒子が均一に分散した形態、磁性体微粒子およびポリマー部がコア/シェル構造に偏在した形態をとることができる。
【0017】
本発明の磁性粒子がコア/シェル構造である場合においては、ポリマー部は、コア部およびコア部を覆うシェル部のうち少なくとも一方に含まれる。この場合、コア部およびシェル部の少なくとも一方の中に磁性体微粒子が混在することができる。
【0018】
より具体的には、本発明の磁性粒子がコア/シェル構造である場合としては、(i)シェル部が磁性体微粒子を含み、コア部が磁性体微粒子を実質的に含まない場合、(ii)コア部が磁性体微粒子を含み、シェル部が磁性体微粒子を実質的に含まない場合、および(iii)コア部およびシェル部がいずれも磁性体微粒子を含む場合が挙げられる。
【0019】
(i)または(iii)の場合、コア部(コア粒子)の表面に磁性体微粒子を吸着させて、磁性体微粒子を含むシェル部を形成することにより、磁性粒子を形成することができる。これらの具体的な方法としては、例えば、特許第1804757号、特開2004−205481号公報などに開示されている方法が好適である。
【0020】
ここで、コア部の表面に磁性体微粒子を吸着させる方法としては、以下の方法が挙げられる。
【0021】
例えば、コア部および磁性体微粒子を混合し、コア部の表面に磁性体微粒子を物理的に吸着させることにより、磁性体微粒子をコア部の表面に付着させることができる。ここで、「物理的吸着」とは、化学反応を伴わない吸着を意味する。「物理的吸着」の原理としては、例えば、疎水/疎水吸着、溶融結合または吸着、融着結合または吸着、水素結合、ファンデルワールス結合などが挙げられる。疎水/疎水吸着を利用する吸着としては、例えば、コア部の表面および磁性体微粒子の表面が疎水性のものあるいは疎水化処理されたものを選択し、これらのコア部および磁性体微粒子をドライブレンドするか、あるいは、コア部および磁性体微粒子の双方を侵すことなく良分散性の溶剤(例えばトルエン、ヘキサン)中で充分分散させた後、混合条件下で溶剤を揮発させる方法が挙げられる。
【0022】
あるいは、例えば、物理的に強い力を外部から加えて、コア部および磁性体微粒子の複合化を実現させることにより、磁性体微粒子をコア部の表面に付着させることができる。物理的に強い力の付加としては、例えば、乳鉢、自動乳鉢、ボールミル、ブレード加圧式粉体圧縮法、メカノフュージョン法のようなメカノケミカル効果を利用するもの、あるいはジェットミル、ハイブリダイザーなど高速気流中衝撃法を利用するものが挙げられる。効率よくかつ強固に複合化を実施するには、物理的吸着力が強いことが望ましい。その方法としては、攪拌翼付き容器中で攪拌翼の周速度が好ましくは15m/秒以上、より好ましくは30m/秒以上、さらに好ましくは40〜150m/秒で実施することが挙げられる。撹拌翼の周速度が15m/秒より低いと、コア部の表面に磁性体微粒子を吸着させるのに十分なエネルギーを得ることができないことがある。なお、撹拌翼の周速度の上限については、特に制限はないが、使用する装置、エネルギー効率などの点から自ずと決定される。
【0023】
次いで、表面に磁性体微粒子が付着したコア部(コア粒子)を分散媒中でモノマーと反応させることにより、磁性体微粒子およびポリマー部を含むシェル部を形成することができる。ここで、モノマーとしては、後述するポリマー部を形成するためのモノマーとして例示するものを使用することができる。特に、シェル部を形成するためのモノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸などに代表される、カルボキシル基を有するモノマーを使用することにより、後述のカルボン酸換算表面荷電量を調整することができる。
【0024】
本発明の磁性粒子は、分散媒に分散させて使用することができる。分散媒としては、例えば水系媒体が挙げられる。水系媒体は特に限定されないが、例えば、水、水系溶剤を含む水が挙げられる。水系溶剤としては、例えば、アルコール類(例えば、エタノール、アルキレングリコール、モノアルキルエーテルなど)が挙げられる。
【0025】
以下に、本発明の磁性粒子の構成要素についてそれぞれ説明する。
【0026】
1−1.磁性体微粒子
磁性体微粒子の組成は、磁性体である限り、特に制限はないが、酸化鉄系の物質が代表的であり、MFe(M=Co、Ni、Mg、Cu、Li0.5Fe0.5等)で表現されるフェライト、Feで表現されるマグネタイト、あるいはγFeが挙げられる。特に、飽和磁化が高く、かつ残留磁化が低い磁気材料として、γFe、Feが好ましい。
【0027】
本発明で使用する磁性体微粒子は、残留磁化が少ないことが求められ、例えば、粒子径5〜20nm程度のフェライトおよび/またはマグネタイトの微粒子が好適に使用できる。
【0028】
また、磁性体微粒子としては、表面が疎水化処理されたものを用いることができる。磁性体微粒子表面の疎水化処理方法は特に限定されないが、例えば、磁性体微粒子と極めて親和性の高い部分と疎水性の部分とを分子内に有する化合物を磁性体微粒子に接触させて結合させる方法を挙げることができる。このような化合物としては、シランカップリング剤に代表されるシラン化合物および長鎖脂肪酸石鹸に代表される界面活性剤を挙げることができる。
【0029】
シラン化合物による疎水化は、薬品耐性、特にアルカリ耐性に優れており、使用中に疎水性部分が脱落することによる磁性体の剥離、磁気性能の低下、ならびに脱離した磁性体微粒子および界面活性剤の浮遊による系内への汚染物の混入を効果的に防止することができる。また、本発明においては、表面が疎水化処理された磁性体微粒子が、たとえばトルエンに良好に分散することができる場合に、表面が十分に疎水化されているということができる。
【0030】
1−2.ポリマー部
本発明の磁性粒子を構成するポリマー部は、特に、ビニル系ポリマーからなることが好ましく、その製造に使用するビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレートなどの官能基を有する(メタ)アクリレートなどを例示することができる。このビニル系ポリマーは単独重合体であっても、あるいは上記ビニル系モノマーから選ばれた2種以上のモノマーからなる共重合体であってもよい。また、上記ビニル系モノマーとブタジエン、イソプレンなどの共役ジオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアリルフタレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレートなどの共重合可能なモノマーとの共重合体も使用することができる。ここで、モノマーとしてアクリル酸、メタクリル酸などに代表されるカルボキシル基を有するモノマーを適切な量で共重合することにより、後述のカルボン酸換算表面荷電量を調整することができる。
【0031】
1−3.体積平均粒径
本発明の磁性粒子の体積平均粒子径dは、0.5×10−6〜5×10−6[m]であり、好ましくは0.8×10−6〜4×10−6[m]である。体積平均粒子径dは、光散乱法によって測定することができ、より詳しくは、Mie散乱をモニターする粒径測定装置によって測定することができる。体積平均粒子径dが0.5×10−6[m]未満である場合、磁気分離が困難になることがあり、一方、5×10−6[m]を越えると、タンパク質結合量に劣る。
【0032】
1−4.カルボン酸換算表面荷電量
本発明の磁性粒子のカルボン酸換算表面荷電量Eは、50〜400[μmol/g]であり、好ましくは70〜300[μmol/g]である。
【0033】
本発明の磁性粒子において、「カルボン酸換算表面荷電量」とは、電導度滴定により、磁性粒子の表面に存在する酸を測定して得られる値をいい、本発明においては、磁性粒子1g当たりの粒子表面に存在するカルボキシル基のモル数を示す。カルボン酸換算表面荷電量Eの測定方法が記載されている文献としては、例えば、「J.Electroanal.Chem.,Vol.37 P.161(1972)」および特開平10−270233号公報を挙げることができる。
【0034】
カルボン酸換算表面荷電量Eが50[μmol/g]未満である場合および400[μmol/g]を超える場合のいずれにおいても、結合タンパク質が脱離しやすくなる。カルボン酸換算表面荷電量Eは、粒子表面に導入されたカルボキシル基の量によって調整することができる。粒子表面に導入されたカルボキシル基の量は通常、ポリマー部を形成するために使用される上述のモノマー成分の種類および量を選択することにより制御することができる。すなわち、ポリマー部を形成するために使用されるモノマー成分の種類および量を選択することにより、カルボン酸換算表面荷電量Eを制御することができる。
【0035】
1−5.比表面積
本発明の磁性粒子において、「比表面積」とは、磁性粒子1g当たりの磁性粒子の総表面積[m]をいう。
【0036】
本発明の磁性粒子の比表面積Sは、2〜50[m/g]であり、好ましくは5〜30[m/g]である。本発明の磁性粒子の比表面積Sは、アルゴンガスを用いたBET法により測定される吸着表面積である。本発明の磁性粒子の比表面積Sの具体的な測定方法は、後述する実施例に記載されている。
【0037】
本発明の磁性粒子の比表面積Sが2[m/g]未満の場合、タンパク質結合量に劣り、一方、50[m/g]を超えると、結合タンパク質が脱離しやすくなる。
【0038】
また、本発明の磁性粒子は、以下の式(4)を満たす。
【0039】
比表面積S/球状相当比表面積Sg≧3 ・・・・・(4)
を満たす。なお、式(4)において、
Sg=6/(d・ρ) ・・・・・(5)
である。式(4)において、ρは1mあたりのグラム数で示した磁性粒子の密度であり、磁性粒子を分散させた水分散体の比重を比重ビンで測定して算出することができる。式(4)において、dは体積平均粒径であり、上述の式(1)から得ることができる。式(4)の範囲外ではタンパク質結合量に劣る。
【0040】
なお、式(4)を満たす形態(比表面積Sが球状相当比表面積Sgの3倍以上である形態)としては、例えば、以下の場合が挙げられる。
【0041】
(i)粒子表面が凸凹である
(ii)粒子が非球状である
(iii)粒径分布がブロードである
このうち好ましい形態は(i)である。(ii)では、重力沈降が早いため、反応系に供した場合反応が不均一になる可能性がある。(iii)では磁気分離性に劣る場合がある。
【0042】
粒子表面を凸凹にする好適な方法としては、例えば、ポリマー部を含むコア部に磁性体微粒子を吸着させた後、有機溶剤に溶解するポリマードメインと前記有機溶剤に溶解しないポリマードメインとを含むシェル部を、コア部を覆うように形成した後、この粒子を前記有機溶剤で処理することにより、前記有機溶剤に溶解するポリマードメインをシェル部から除去する方法が挙げられる。
【0043】
1−6.表面荷電密度
本発明において、表面荷電密度E/Sは、カルボン酸換算表面荷電量Eを比表面積Sで除して得られる値である。
【0044】
本発明の磁性粒子はさらに、タンパク質の脱離をきわめて低く抑えるために、表面荷電密度E/Sが30[μmol/m]以下であることが好ましく、5〜20[μmol/m]であることが最も好ましい。
【0045】
1−7.用途
本発明の磁性粒子は、生化学分野、塗料、紙、電子写真、化粧品、医薬品、農薬、食品、触媒など広い分野で利用できる。
【0046】
本発明の磁性粒子の主たる用途は、生化学用担体である。また、本発明の磁性粒子の表面に、ビオチン類(後述するビオチンまたはビオチン誘導体)結合部位を有する物質を固定化させることにより、ビオチン類結合用粒子として使用できる。ビオチン類結合部位を有する物質としては、例えば、アビジンや、ストレプトアビジンなどのアビジン誘導体が挙げられる。
【0047】
本発明の磁性粒子を生化学用担体粒子として使用する場合、例えば、本発明の磁性粒子にタンパク質(例えばIgG)等の抗原あるいは抗体を結合して、測定対象である抗体あるいは抗原との抗原抗体反応に基づく受身凝集反応による溶液の濁度変化を利用した定量・定性検出用途,本発明の磁性粒子に抗体を結合して、抗原であるウイルス・細菌・細胞・ホルモン・ダイオキシン類等の化学物質などを前記抗体に結合させて回収・濃縮する用途,本発明の磁性粒子にDNAなどの核酸アナログを結合して、ハイブリダイゼーションを利用して該核酸アナログに核酸を結合させて回収・検出したり、核酸に結合するタンパク質や色素等の化学物質を前記核酸アナログに結合させて回収・検出したりする用途,上述した本発明の磁性粒子にアビジン類またはビオチン類を結合し、前記アビジン類またはビオチン類にビオチン類あるいはアビジン類を有する分子を結合させて回収して検出する用途,本発明の磁性粒子に抗体や抗原を結合し、比色法や化学発光を利用した酵素免疫測定法用の担体として本発明の磁性粒子を使用する用途などが挙げられる。一般に、96穴プレート等を担体として用いる診断項目であれば、本発明の磁性粒子を用いることによって、磁性を利用した自動分析機に置き換えて使用できる。診断の対象となる物質としては、生体由来のタンパク質、黄体形成ホルモン、甲状腺刺激ホルモン等のホルモン、各種ガン細胞や、前立腺特異マーカー、膀胱ガンマーカー等のガンのマーカーとなるタンパク質、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルスなどのウイルス、淋菌、MRSA等の細菌、カンジダ、クリプトコックス等の真菌、トキソプラズマ等の原虫・寄生虫、あるいはそれらウイルス・細菌・真菌・原虫・寄生虫などの構成要素であるタンパク質や核酸、ダイオキシン類等の環境汚染物質、抗生物質や抗てんかん剤など医薬品等の化学物質などがあげられる。
【0048】
なお、本発明の磁性粒子の用途は生化学用担体用途に限定されるわけではなく、例えば、上述した各分野で使用可能である。
【0049】
2.実施例
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0050】
2−1.評価方法
2−1−1.体積平均粒子径d
磁性粒子の水分散体を用いて、レーザ回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製)SALD−200Vにより体積平均粒子径dを測定した。
【0051】
2−1−2.カルボン酸換算表面荷電量E
磁性粒子の固形分1gを含む水分散体を用いて、特開平10−270233号公報に記載された電導度滴定によって、見かけの表面荷電量を求め、さらに、分散媒(水)のみを用いた同様の測定でバックグラウンドの荷電量を求め、これらの荷電量の差から、磁性粒子のカルボン酸換算表面荷電量Eを求めた。
【0052】
2−1−3.比表面積S
加熱乾燥した磁性粒子について、全自動ガス蒸気吸着量測定装置(ユアサアイオニクス(株)製)オートソーブ−1を用い、アルゴンガス吸着による比表面積Sを測定した。
【0053】
2−1−4.球状相当比表面積Sg
磁性粒子を約10重量%含む水分散体の密度ρdispを5[ml]の比重ビンで測定した。また、この水分散液の固形分率fを200℃で5分間乾燥させた前後の重量変化から求め、下記式(6)から磁性粒子の密度ρを求めた。なお、式(6)において、ρwaterは水の密度である。
【0054】
1/ρdisp=(f/ρ)+((1−f)/ρwater) ・・・・・(6)
また、磁性粒子の密度ρおよび体積平均粒子径dを上記式(5)に代入して、球状相当比表面積Sgを求めた。
【0055】
2−1−5.タンパク質結合量
磁性粒子10[mg]を分散させた固形分濃度1%の水分散体に、1−エチル−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(同仁化学社製)水溶液を添加して室温で2時間回転攪拌することにより、カルボキシル基を活性化した。次に、タンパク質としてマウスIgGを200[μg]相当添加し、室温で8時間回転攪拌することより、マウスIgGを固定化し、次いでリン酸バッファーで3回洗浄して、タンパク質固定化粒子を調製した。
【0056】
このタンパク質固定化粒子について、BCA法(タンパク質およびビシンコニン酸による発色を562nmの吸光度で定量)により、磁性粒子1[mg]当たりのタンパク質結合量を決定した。
【0057】
2−1−6.タンパク質脱離量
上記のタンパク質固定化粒子を、0.1%BSA(ウシ血清アルブミン)および0.01%TrironX−100を含む水溶液に1%粒子分散液となるように分散し、37℃で7日間保存した。次に、保存中に粒子から脱離した上清中のタンパク質濃度を、プレート法による抗マウス一次抗体/HRPラベル抗マウス二次抗体を用いたサンドイッチELISA法で定量した。
【0058】
2−2.実施例1
特開平7−238105号公報記載の重合方法を参考に、スチレン/ジビニルベンゼン=95/5共重合体粒子(平均粒子径1.6μm)を作製し、重合後遠心分離により粒子のみ取り出したものをさらに水洗し、乾燥、粉砕した。これをコア部(コア粒子)とする。
【0059】
次に、油性磁性流体(商品名:「EXPシリーズ」,(株)フェローテック製)にアセトンを加えて粒子を析出沈殿、磁気分離した後、上澄みを捨て、沈殿を乾燥することにより、疎水化処理された表面を有するフェライト系の磁性体微粒子(平均一次粒子径:0.02μm)を得た。
【0060】
次いで、コア部15gおよび上記の表面が疎水化処理された磁性体微粒子15gをミキサーでよく混合し、この混合物をハイブリダイゼーションシステムNHS−0型(奈良機械製作所(株)製)を使用して、羽根(撹拌翼)の周速度100m/秒(16200rpm)で5分間処理して、磁性体微粒子をコア部に吸着させることにより、平均数粒子径が2.0μmの磁性体母粒子(1)を得た。
【0061】
次に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.25重量%およびノニオン性乳化剤(商品名:「エマルゲン150」,花王(株)製)0.25重量%を含む水溶液750gを、1Lセパラブルフラスコに投入し、次いで、前記磁性体母粒子(1)30gを投入し、ホモジナイザーで分散した後、60℃に加熱した。次いで、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量%およびノニオン性乳化剤(商品名:「エマルゲン150」,花王(株)製)0.5重量%を含む水溶液50gに、シクロヘキシルメタクリレート30g、tert−ドデカンチオール1.2g、およびターシャリーブチルペルオキシ2−エチルヘキサネート(日本油脂社製;パーブチルO)1.5gを入れて分散させたプレエマルジョンを、60℃にコントロールした前記1Lセパラブルフラスコに2時間かけて滴下した(以上、シェル形成1段目)。
【0062】
次いで、反応溶液を室温まで冷却した後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量%およびノニオン性乳化剤(商品名:「エマルゲン150」,花王(株)製)0.5重量%を含む水溶液50gに、ターシャリーブチルペルオキシ2−エチルヘキサネート(商品名:「パーブチルO」,日本油脂(株)製)0.375gを入れて分散させたプレエマルジョンを、前記1Lセパラブルフラスコへ投入して、室温で15時間撹拌した。次いで、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量%およびノニオン性乳化剤(商品名:「エマルゲン150」,花王(株)製)0.5重量%を含む水溶液50gに、メタクリル酸2.25gおよびエチレングリコールジメタクリレート9.0gを入れて分散させたプレエマルジョンを、室温で15時間撹拌した前記1Lセパラブルフラスコに投入し、さらに室温で2時間撹拌した。次に、前記1Lセパラブルフラスコを80℃に昇温し、さらに2時間重合を続けて反応を完了させた(以上、シェル形成2段目)。
【0063】
得られた磁性粒子の水分散体を磁気精製および重力沈降精製してから、固形分濃度1%の磁性粒子の水分散体を得た。
【0064】
次いで、この磁性粒子の水分散体から水を取り除くために、アセトン1Lを用いて該水分散体を2回洗浄した。次いで、該粒子をアセトン1Lに分散させて2時間撹拌することにより、アセトン(有機溶剤)に該粒子を接触させた。これにより、アセトンを用いて前記粒子からポリマー部の一部を溶出させた。次いで、アセトン1Lで2回洗浄し、さらにアセトンを取り除くため水で洗浄することにより、粒子表面が凸凹の磁性粒子を得た。この磁性粒子の評価結果を表1に示す。
【0065】
2−3.実施例2および比較例1,2
実施例1で使用したモノマーの仕込み量を変えた以外は、実施例1と同様の方法によって、表1に示す物性の磁性粒子を得た。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるように、実施例1,2の磁性粒子は、上述した式(1)〜式(4)を全て満たしているために、タンパク質の結合量が多く、かつ、結合したタンパク質の脱離量が少なかった。
【0068】
一方、カルボン酸換算表面荷電量Eが50[μmol/g]に満たない比較例1の磁性粒子はタンパク質の脱離量が多く、また、S/Sgが3に満たない比較例2の磁性粒子はタンパク質結合量が少なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体微粒子およびポリマー部を含み、かつ、以下の式(1)〜式(4)を満たす、磁性粒子。
体積平均粒子径d=0.5×10−6〜5.0×10−6[m] ・・・・・(1)
カルボン酸換算表面荷電量E=50〜400[μmol/g] ・・・・・(2)
比表面積S=2〜50[m/g] ・・・・・(3)
比表面積S/球状相当比表面積Sg≧3(ここで、Sg=6/(d・ρ)、ρ[g/m]は磁性粒子の密度である。) ・・・・・(4)
【請求項2】
請求項1において、
表面荷電密度E/Sが30[μmol/m]以下である、磁性粒子。
【請求項3】
請求項1または2において、
表面にタンパク質が結合している、磁性粒子。

【公開番号】特開2007−95903(P2007−95903A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281738(P2005−281738)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】