説明

磁気テープおよびその製造方法

【課題】薄層の非磁性層を有する磁気テープにおいて優れた電磁変換特性を得るための手段の提供。
【解決手段】非磁性支持体上に非磁性層と磁性層とをこの順に有する磁気テープ。非磁性層は、非磁性粉末および結合剤成分を含む放射線硬化性組成物を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層である。結合剤成分は、一般式(2)で表されるスルホン酸塩(基)含有ポリオール化合物を原料として得られた放射線硬化性ポリウレタン樹脂を含む。非磁性層の厚さは0.5〜1.3μmである。放射線硬化性組成物に含有される非磁性粉末および結合剤成分は480≦(非磁性粉末のBET比表面積(m2/g)×非磁性粉末の質量(g))/結合剤成分の質量(g)≦650を満たす。


Xは二価の連結基を表し、R101およびR102はそれぞれ独立に少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、M1は水素原子または陽イオンを表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープおよびその製造方法に関するものであり、詳しくは、優れた電磁特性を発揮し得る高密度記録用磁気テープ、および該磁気テープを高い生産性をもって製造可能な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録分野において、ミニコンピューター、パーソナルコンピューター、ワークステーションなどのオフィスコンピューターの普及に伴って、外部記憶媒体としてコンピュータデータを記録するための磁気テープ(いわゆるデータバックアップ用テープ)の研究が盛んに行われている。
【0003】
記録情報の多様化・高容量化に伴い、データバックアップ用テープとして高記録容量のものが商品化されている。テープの高記録容量化のためには、磁性層と磁気ヘッドとのスペーシングを減らす必要がある。例えば、磁性層の表面に大きな突起や凹みが存在すると、スペーシングロスによる出力低下が起こり、これがドロップアウト、エラーレートの悪化、S/N低下等の電磁変換特性を悪化させる原因となる。したがって高記録容量データバックアップ用テープの磁性層表面には、高い電磁変換特性を達成するために、きわめて平滑であることが求められる。
【0004】
例えば特許文献1に記載されているように、磁性層の表面平滑性を高める手段としては、磁性層の下層に位置する非磁性層を放射線硬化層とすることが知られている。また、特許文献2には、非磁性層形成用塗布液を乾燥、カレンダー加工、および硬化して形成した非磁性層上に磁性層を形成する工程により磁気記録媒体を製造する際に、非磁性層の硬化前後の超微小硬度をそれぞれ別々に規定するとともに、非磁性層中の非磁性粉末、カーボンブラックおよびバインダーの間に所定の関係を成立させることが提案されている。特許文献2によれば、上記工程により優れた平滑性を有する磁気記録媒体が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3698540号明細書
【特許文献2】特開2002−42327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気テープにおいては、高記録容量化のためにはテープ厚みを薄くすることが必要であり、磁性層のみならず非磁性層も薄層化する傾向にある。そこで、本願発明者らは、薄層の非磁性層を有する磁気テープにおいて、高記録容量データバックアップ用テープに求められる優れた電磁変換特性を得るための手段について検討したところ、特許文献1および2に記載の方法をはじめとする従来の技術では、十分な電磁変換特性を有する磁気テープを得ることが困難であることが判明した。
【0007】
そこで本発明の目的は、薄層の非磁性層を有する磁気テープにおいて、優れた電磁変換特性を得るための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、薄層の非磁性層を有する磁気テープにおいて電磁変換特性が低下する理由について検討を重ねた結果、非磁性層を単に薄層化すると非磁性層のクッション性が低下するためカレンダー処理の加工性が不十分となり、その結果磁性層表面から突出したフィラー(研磨剤、カーボンブラック等)が磁性層表面に突起を形成することが、電磁変換特性低下の原因であるとの結論を得るに至った。
そこで本願発明者らは、上記結論を踏まえて鋭意検討を重ねた結果、非磁性層中の非磁性粉末の表面積の総和に対する結合剤成分量を減量するとともに、非磁性層を後述する一般式(2)で表されるスルホン酸塩(基)含有ポリオール化合物を原料として得られた放射線硬化性ポリウレタン樹脂から形成される放射線硬化層とすることにより、非磁性層が薄層化(0.5〜1.3μm)された磁気テープにおいて、優れた電磁変換特性を得ることができることを新たに見出した。これは、以下の理由によると推察される。
上記の通り非磁性層中の非磁性粉末の表面積の総和に対する結合剤成分量を減量することは非磁性層の空隙率を高める効果があり、空隙率を高めた非磁性層側にカレンダー処理によって磁性層中のフィラーが適度に沈み込む結果、磁性層表面からのフィラーの突出が少なくなると考えられる。なお特許文献2にも、非磁性層中の非磁性粉末およびカーボンブラックの表面積の総和に対する結合剤量が規定されているが、同公報段落0015に記載されているように、特許文献2では硬化性を維持するために結合剤量を増量する際の指標とするものであり、本願発明者らが見出した知見とは全く別異のものである。
しかるに、結合剤成分を減量すると非磁性層中の粉末成分が増量することとなるため、粉末成分が凝集し易くなり非磁性層の表面平滑性が低下し、結果的に上層に形成される磁性層の表面平滑性も低下してしまう。これに対し上記特定の放射線硬化性ポリウレタン樹脂は、優れた分散性向上効果を発揮することができるため、結合剤成分を減量した状態で非磁性層中の非磁性粉末の分散性を高めることが可能である。更に非磁性層を放射線硬化層とすることで、非磁性層と磁性層との界面混合を抑制できることも磁性層表面の平滑性向上に寄与すると考えられる。
更に、上記のようにカレンダー処理による加工性が向上することで、カレンダー処理の回数を減らすことができ、これにより生産性を高めることも可能となる。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0009】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気テープであって、
前記非磁性層は、非磁性粉末および結合剤成分を含む放射線硬化性組成物を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層であって、該結合剤成分は、下記一般式(2):
【化1】

[一般式(2)中、Xは二価の連結基を表し、R101およびR102は、それぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、M1は水素原子または陽イオンを表す。]
で表されるスルホン酸塩(基)含有ポリオール化合物を原料として得られた放射線硬化性ポリウレタン樹脂を含み、
前記非磁性層の厚さは0.5〜1.3μmの範囲であり、かつ、
前記放射線硬化性組成物に含有される非磁性粉末および結合剤成分は、下記式(I):
480≦(非磁性粉末のBET比表面積(m2/g)×非磁性粉末の質量(g))/結合剤成分の質量(g)≦650
を満たすことを特徴とする磁気テープ。
[2]前記結合剤成分は、下記一般式(1)で表される構造単位を含む放射線硬化性塩化ビニル系共重合体を含む、[1]に記載の磁気テープ。
【化2】

[一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、L1は下記式(2)、式(3)または下記一般式(4)で表される二価の連結基を表す。]
【化3】

[一般式(4)中、R41は水素原子またはメチル基を表す。]
[3]前記放射線硬化性塩化ビニル系共重合体は、下記一般式(5)で表される構造単位を更に含む、[2]に記載の磁気テープ。
【化4】

[一般式(5)中、R51およびR52は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、L51は前記式(2)、式(3)または一般式(4)で表される二価の連結基を表し、L52は二価の連結基を表す。]
[4]前記放射線硬化性塩化ビニル系共重合体は、環状エーテル構造を更に含む、[2]または[3]に記載の磁気テープ。
[5]前記放射線硬化性塩化ビニル系共重合体は、スルホン酸(塩)基および硫酸(塩)基からなる群から選ばれる極性基を更に含む、[2]〜[4]のいずれかに記載の磁気テープ。
[6]前記非磁性層の空隙率は、25〜38体積%の範囲である、[1]〜[5]のいずれかに記載の磁気テープ。
[7]前記磁性層の厚さは、0.01〜0.10μmの範囲である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の磁気テープ。
[8]前記磁性層の原子間力顕微鏡によって測定される中心面平均表面粗さRaは、1.00〜3.30nmの範囲である、[1]〜[7]のいずれかに記載の磁気テープ。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の磁気テープの製造方法であって、
前記放射線硬化性組成物の塗布および放射線硬化後、形成された放射線硬化層上に磁性層を形成し、次いでカレンダー処理を行う、ただし、上記磁性層形成前の非磁性層に対してカレンダー処理を行わないことを特徴とする、前記製造方法。
[10]前記カレンダー処理による磁性層の原子間力顕微鏡によって測定される中心面平均表面粗さRaの変化量ΔRaは、6.00〜7.50nmの範囲である、[9]に記載の磁気テープの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた電磁変換特性を有する高記録容量バックアップ用テープを、高い生産性をもって提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気テープに関する。前記非磁性層は、非磁性粉末および結合剤成分を含む放射線硬化性組成物を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層であって、該結合剤成分は、下記一般式(2):
【化5】

[一般式(2)中、Xは二価の連結基を表し、R101およびR102は、それぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、M1は水素原子または陽イオンを表す。]
で表されるスルホン酸塩(基)含有ポリオール化合物を原料として得られた放射線硬化性ポリウレタン樹脂を含む。前記非磁性層の厚さは0.5〜1.3μmの範囲であり、かつ、前記放射線硬化性組成物に含有される非磁性粉末および結合剤成分は、下記式(I):
480≦(非磁性粉末のBET比表面積(m2/g)×非磁性粉末の質量(g))/結合剤成分の質量(g)≦650
を満たすものである。
先に説明したように、式(I)を満たすように非磁性層中の非磁性粉末の表面積の総和に対する結合剤成分量を減量すること、そして非磁性層の結合剤成分として優れた分散性向上効果を発揮し得る放射線ポリウレタン樹脂を使用することにより、0.5〜1.3μmと薄層化された非磁性層を有する磁気テープにおいて、優れた電磁変換特性を得ることが可能となり、更にはカレンダー加工性を向上することも可能となる。
以下、本発明の磁気テープについて、更に詳細に説明する。
【0012】
放射線硬化性ポリウレタン樹脂
本発明の磁気テープにおいて、非磁性層を形成する放射線硬化性組成物に含まれる放射線硬化性ポリウレタン樹脂(以下、「ポリウレタン樹脂A」ともいう)は、下記一般式(2)で表されるスルホン酸塩(基)含有ポリオール化合物を原料として得られたものである。
【0013】
【化6】

[一般式(2)中、Xは二価の連結基を表し、R101およびR102は、それぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、M1は水素原子または陽イオンを表す。]
【0014】
通常のポリウレタン合成反応は有機溶媒中で行われるのに対し、スルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物は一般的に有機溶媒に対する溶解性が低いため反応性に乏しく所望量のスルホン酸(塩)基が導入されたポリウレタン樹脂を得ることが困難である点が課題であった。これに対し上記スルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物は、有機溶媒に対して高い溶解性を示すため、所望量のスルホン酸(塩)基が均一に導入されたポリウレタン樹脂を容易に得ることができる。したがってポリウレタン樹脂Aによれば、式(I)を満たすように結合剤成分が減量された非磁性層において、分散性を高めることができ、結果的に磁性層の表面平滑性を高めることができることが、電磁変換特性向上に寄与していると考えられる。
以下、ポリウレタン樹脂Aについて更に詳細に説明する。
【0015】
一般式(2)におけるXは、二価の連結基を表し、有機溶媒への溶解性の点から、炭素数2〜20であることが好ましく、また、二価の炭化水素基であることが好ましく、アルキレン基、アリーレン基、または、これらを2以上組み合わせた基であることがより好ましく、アルキレン基またはアリーレン基であることがさらに好ましく、エチレン基またはフェニレン基であることが特に好ましく、エチレン基であることが最も好ましい。
また、前記フェニレン基としては、o−フェニレン基、m−フェニレン基、および、p−フェニレン基を例示することができ、o−フェニレン基またはm−フェニレン基であることが好ましく、m−フェニレン基であることがより好ましい。
【0016】
前記アルキレン基の炭素数は、2以上20以下であることが好ましく、2以上4以下であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。また、前記アルキレン基は、直鎖状のアルキレン基であっても、分岐を有するアルキレン基であってもよいが、直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0017】
前記アリーレン基の炭素数は、6以上20以下であることが好ましく、6以上10以下であることがより好ましく、6であることがさらに好ましい。
【0018】
前記アルキレン基および前記アリーレン基は、下記に示す置換基を有していてもよいが、炭素原子および水素原子のみからなる基であることが好ましい。
前記アルキレン基が有していてもよい置換基としては、アリール基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基、アリールオキシ基、および、アルキル基が例示できる。
前記アリーレン基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基、アリールオキシ基、および、アリール基が例示できる。
【0019】
一般式(2)におけるR101およびR102はそれぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、前記アルキル基およびアラルキル基は置換基を有していてもよい。
前記アルキル基およびアラルキル基が水酸基以外に有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、スルホニル基、および、シリル基が例示できる。これらの中でも、アルコキシ基またはアリールオキシ基であることが好ましく、炭素数1〜20のアルコキシ基または炭素数6〜20のアリールオキシ基であることがより好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基またはフェノキシ基であることがさらに好ましい。
また、前記アルキル基およびアラルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。
【0020】
101およびR102における水酸基の数は、それぞれ1以上であり、1または2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。すなわち、一般式(2)で表されるスルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物は、スルホン酸ジオール化合物であることが特に好ましい。
【0021】
101およびR102におけるアルキル基の炭素数は、有機溶媒への溶解性、原料調達性、コスト等の観点から2以上であり、2〜22であることが好ましく、3〜22であることがより好ましく、4〜22であることがよりいっそう好ましく、4〜8であることがさらに好ましい。
【0022】
101およびR102におけるアラルキル基の炭素数は、有機溶媒への溶解性、原料調達性、コスト等の観点から8以上であり、8〜22であることが好ましく、8〜12であることがより好ましく、8であることがさらに好ましい。
また、R101およびR102におけるアラルキル基は、窒素原子のα位およびβ位が飽和炭化水素鎖であることが好ましい。また、その場合、窒素原子のβ位には水酸基を有していてもよい。
また、R101およびR102は、窒素原子のα位には水酸基を有しないことが好ましく、少なくとも窒素原子のβ位に水酸基を1つ有していることがより好ましく、窒素原子のβ位のみに水酸基を1つ有していることが特に好ましい。窒素原子のβ位に水酸基を有することにより合成が容易となり、また、有機溶媒への溶解性を更に高めることができる。
【0023】
また、R101およびR102はそれぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2〜22のアルキル基、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8〜22のアラルキル基、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数3〜22のアルコキシアルキル基、または、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数9〜22のアリールオキシアルキル基であることが好ましく、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2〜20のアルキル基、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8〜20のアラルキル基、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数3〜20のアルコキシアルキル基、または、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数9〜20のアリールオキシアルキル基であることがより好ましい。
【0024】
前記少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基として具体的には、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシペンチル基、2−ヒドロキシヘキシル基、2−ヒドロキシオクチル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−エトキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシ−ブチル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシ−3−メチルブチル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシブチル基、および、4−ヒドロキシブチル基、1−メチル−2−ヒドロキシエチル基、1−エチル−2−ヒドロキシエチル基、1−プロピル−2−ヒドロキシエチル基、1−ブチル−2−ヒドロキシエチル基、1−ヘキシル−2−ヒドロキシエチル基、1−メトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−エトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−ブトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−フェノキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−(1−メトキシエチル)−2−ヒドロキシエチル基、1−(1−メトキシ−1−メチルエチル)−2−ヒドロキシエチル基、1,3−ジヒドロキシ−2−プロピル基等が例示できる。この中でも、2−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル基、および、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル基、1−メチル−2−ヒドロキシエチル基、1−メトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−ブトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−フェノキシエチル−2−ヒドロキシエチル基を好ましく例示できる。
【0025】
前記少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基として具体的には、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル基、2−ヒドロキシ−2−フェニルプロピル基、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピル基、2−ヒドロキシ−2−フェニルブチル基、2−ヒドロキシ−4−フェニルブチル基、2−ヒドロキシ−5−フェニルペンチル基、2−ヒドロキシ−2−(4−メトキシフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−2−(4−フェノキシフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−2−(3−メトキシフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−3−(4−メトキシフェニル)プロピル基、および、2−ヒドロキシ−3−(4−クロロフェニル)プロピル基、1−フェニル−2−ヒドロキシエチル基、1−メチル−1−フェニル−2−ヒドロキシエチル基、1−ベンジル−2−ヒドロキシエチル基、1−エチル−1−フェニル−2−ヒドロキシエチル基、1−フェネチル−2−ヒドロキシエチル基、1−フェニルプロピル−2−ヒドロキシエチル基、1−(4−メトキシフェニル)−2−ヒドロキシエチル基、1−(4−フェノキシフェニル)2−ヒドロキシ−エチル基、1−(3−メトキシフェニル)−2−ヒドロキシエチル基、1−(4−クロロフェニル)−2−ヒドロキシエチル基、1−(4−ヒドロキシフェニル)2−ヒドロキシエチル基、1−(4−メトキシフェニル)−3−ヒドロキシ−2−プロピル基等が例示できる。この中でも、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル基、1−フェニル−2−ヒドロキシフェニル基を好ましく例示できる。
【0026】
一般式(2)におけるM1は、水素原子または陽イオンを表す。
前記陽イオンは、無機陽イオンであっても、有機陽イオンであってもよい。前記陽イオンは、一般式(2)中の−SO3-を電気的に中和するものであり、1価の陽イオンに限定されず、2価以上の陽イオンとすることもできるが、1価の陽イオンが好ましい。なお、n価の陽イオンを使用する場合には、一般式(2)で表される化合物に対して、(1/n)モルの陽イオンを意味する。
【0027】
無機陽イオンとしては、特に制限はないが、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンが好ましく例示でき、アルカリ金属イオンがより好ましく例示でき、Li+、Na+、K+、Rb+、またはCs+がさらに好ましく例示できる。
有機陽イオンとしては、アンモニウムイオン、第四級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等を例示できる。
【0028】
前記Mは、水素原子またはアルカリ金属イオンであることが好ましく、水素原子、Li+、Na+またはK+であることがより好ましく、K+であることが特に好ましい。
【0029】
一般式(2)で表されるポリオール化合物は、有機溶媒への溶解性をさらに向上させるため、分子内に1以上の芳香環を有することもできる。
また、一般式(2)におけるR101とR102とは、同じであっても、異なっていてもよいが、合成上の容易性から、同じであることが好ましい。
一般式(2)におけるR101およびR102は、それぞれ、炭素数5以上の基であることが好ましい。また、一般式(2)におけるR101およびR102は、それぞれ、芳香環および/またはエーテル結合を有する基であることが好ましい。
【0030】
以上説明した一般式(2)で表されるポリオール化合物の詳細については、特開2009−96798号公報を参照できる。特に一般式(2)で表されるポリオール化合物の合成方法については、特開2009−96798号公報段落[0028]、[0029]および[0045]ならびに同公報の実施例を参照できる。また、一般式(2)で表されるポリオール化合物としては、特開2009−96798号公報記載の式(2)、式(3)で表される化合物を挙げることができる。その詳細は、同公報段落[0030]〜[0034]に記載されている。一般式(2)で表されるポリオール化合物の具体例としては、以下の上記特開2009−96798号公報記載の例示化合物(S−1)〜(S−74)および下記例示化合物(S−71)〜(S−74)を挙げることができる。なお、以下においてPhはフェニル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
また、ポリウレタン樹脂Aの合成原料としては、上記一般式(2)で表されるポリオール化合物とともに、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ダイマージオール等、一般にポリウレタン合成時に鎖延長剤として使用される公知のポリオール化合物を使用することもできる。併用するポリオール化合物については、特開2009−96798号公報段落[0056]〜[0065]を参照できる。また、下記式で表されるフルオレン誘導体アルコールも使用可能である。
【0041】
【化16】

[上記式において、R1はHまたはCH3を表し、R2はOHまたは−OCH2CH2OHを表し、2つ存在するR1、R2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0042】
ポリウレタン樹脂Aは、イソシアネート化合物とポリオール化合物とのウレタン化反応により得ることができる。原料化合物を溶剤(重合溶媒)に溶解し、必要に応じて加熱、加圧、窒素置換等を行うことによりウレタン化反応を進行させることができる。ウレタン化反応のための反応温度、反応時間等の反応条件は、ウレタン化反応のための通常の反応条件を採用することができる。ウレタン化反応については、例えば、特開2009−96798号公報段落[0067]および[0068]、ならびに同公報の実施例を参照することもできる。
【0043】
イソシアネート化合物とは、イソシアネート基を有する化合物をいい、2官能以上の多官能イソシアネート化合物(以下、「ポリイソシアネート」という)が好ましい。ポリウレタン樹脂Aの合成原料として使用可能なポリイソシアネートとしては、特に限定されず公知のものを用いることができる。例えば、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、p−フェニレンジイソシアネート、o−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのジイソシアネートを、1種または2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0044】
ポリウレタン樹脂Aは放射線硬化性樹脂であるため、放射線硬化性官能基を含有する。含有される放射線硬化性官能基は、放射線照射により硬化反応(架橋反応)を起こし得るものであればよく特に限定されるものではないが、反応性の点から、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合基が好ましく、アクリル系二重結合基が更に好ましい。アクリル系二重結合基の中でも、反応性の点からは(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましい。
【0045】
放射線硬化性官能基は、イソシアネート化合物とポリオール化合物のいずれか一方に含まれていればよく、両方に含まれていてもよい。原料の入手容易性、コスト面を考慮すると、ポリオール化合物として、放射線硬化性官能基を有するものを使用することが好ましい。
【0046】
放射線硬化性官能基を有するポリオール化合物としては、グリセリンモノアクリレート(グリセロールアクリレートとも呼ばれる)、グリセリンモノメタクリレート(グリセロールメタクリレートとも呼ばれる)(例えば日本油脂(株)製商品名ブレンマーGLM)、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(例えば共栄社化学(株)製商品名エポキシエステル3000A)等の分子内にアクリル系二重結合を少なくとも1個有するジオールが好適である。これらジオールの中でも、硬化性の観点からは、下記化合物(グリセリンモノ(メタ)アクリレート)が好ましい。以下において、Rは水素原子またはメチル基である。
【0047】
【化17】

【0048】
次に、ポリウレタン樹脂Aの各種物性について説明する。
【0049】
(a)平均分子量
ポリウレタン樹脂Aは、質量平均分子量が1万以上50万以下(本発明において、「1万以上50万以下」を、「1万〜50万」とも記載することとする。以下、同様。)であることが好ましく、1万〜40万であることがより好ましく、1万〜30万であることがさらに好ましい。質量平均分子量が1万以上であれば、ポリウレタン樹脂Aを結合剤として形成された塗布層の保存性が良好であり好ましい。また、質量平均分子量が50万以下であれば、良好な分散性が得られるので好ましい。
【0050】
例えば、グリコール由来のOH基とジイソシアネート由来のNCO基のモル比の微調整や反応触媒を用いることで質量平均分子量を所望の範囲に調整することができる。また、反応時の固形分濃度、反応温度、反応溶媒、反応時間等を調整することでも質量平均分子量を調整することができる。
【0051】
ポリウレタン樹脂Aの分子量分布(Mw/Mn)は1.00〜5.50であることが好ましい。より好ましくは1.01〜5.40である。分子量分布が5.50以下であれば、組成分布が少なく、良好な分散性が得られるので好ましい。
【0052】
(b)ウレタン基濃度
ポリウレタン樹脂Aのウレタン基濃度は2.0mmol/g〜5.0mmol/gであることが好ましく、2.1mmol/g〜4.5mmol/gであることがさらに好ましい。
ウレタン基濃度が2.0mmol/g以上であれば、ガラス転移温度(Tg)が高く良好な耐久性を有する塗膜を形成することができ、また、分散性も良好であり好ましい。また、ウレタン基濃度が5.0mmol/g以下であれば、良好な溶剤溶解性が得られ、ポリオール含有量の調整が可能であり、分子量のコントロールが容易であるので好ましい。
【0053】
(c)ガラス転移温度
ポリウレタン樹脂Aのガラス転移温度(Tg)は、10℃〜180℃であることが好ましく、10℃〜170℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が10℃以上であれば、放射線硬化により高強度の塗膜を形成することができ、耐久性、保存性に優れた塗膜を得ることができるため好ましい。また、ポリウレタン樹脂Aのガラス転移温度が180℃以下であれば、カレンダー成形性が良好であり、電磁変換特性が良好な磁気記録媒体が得られるため好ましい。ポリウレタン樹脂Aを含む放射線硬化性組成物を放射線硬化することにより形成される放射線硬化層のガラス転移温度(Tg)は、30℃〜200℃であることが好ましく、40℃〜160℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であれば、良好な塗膜強度が得られ、耐久性、保存性が向上するので好ましい。また、磁気記録媒体において塗膜のガラス転移温度が200℃以下であれば、カレンダー成形性が良好であり、電磁変換特性が良好であるので好ましい。
【0054】
(d)極性基含有量
ポリウレタン樹脂Aは、前述のようにスルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物を原料として得られるものであるため、スルホン酸(塩)基を含有する。また、これに加えて他の極性基を含むこともできる。他の極性基としては、ヒドロキシアルキル基、カルボン酸(塩)基、硫酸(塩)基、燐酸(塩)基等を挙げることができ、−OSO3M’、−PO3M’2、−COOM’、−OHが好ましい。この中でも、−OSO3M’がさらに好ましい。M’は、水素原子または1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、アルカリ金属またはアンモニウムを例示できる。ポリウレタン樹脂A中の極性基の含有量は、1.0mmol/kg〜3500mmol/kgであることが好ましく、1.0mmol/kg〜3000mmol/kgであることがより好ましく、1.0mmol/kg〜2500mmol/kgであることが更に好ましい。
極性基の含有量が1.0mmol/kg以上であれば、非磁性粉末粉末成分への十分な吸着力を得ることができ、分散性が良好であり、また遊離のポリウレタン量を減量できるので好ましい。また、3500mmol/kg以下であれば、良好な溶剤への溶解性が得られるので好ましい。
【0055】
(e)水酸基含有量
ポリウレタン樹脂Aには、水酸基(OH基)が含まれていてもよい。含まれるOH基の個数は1分子あたり1〜100000個が好ましく、1〜10000個がより好ましい。OH基の個数が上記範囲内であれば、溶剤への溶解性が向上するので分散性が良好となる。
【0056】
(f)放射線硬化性官能基含有量
ポリウレタン樹脂Aが有する放射線官能基の詳細は、先に説明した通りである。その含有量は、1.0mmol/kg〜4000mmol/kgであることが好ましく、1.0mmol/kg〜3000mmol/kgであることがより好ましく、1.0mmol/kg〜2000mmol/kgであることがさらに好ましい。放射線硬化性官能基の含有量が1.0mmol/kg以上であれば、放射線硬化により高い強度を有する塗膜を形成できるので好ましい。また、放射線硬化性官能基の含有量が4000mmol/kg以下であれば、カレンダー成形性が良好であり、電磁変換特性が良好な磁気記録媒体が得られるので好ましい。
【0057】
放射線硬化性塩化ビニル系共重合体
非磁性層を形成するための放射線硬化性組成物に含まれる結合剤成分は、上記ポリウレタン樹脂Aのみであってもよいが、高強度の塗膜を形成するためには放射線硬化性塩化ビニル系共重合体と併用することが好ましい。併用する放射線硬化性塩化ビニル系共重合体としては、下記一般式(1)で表される構造単位を含むものが好ましい。
【0058】
【化18】

[一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、L1は下記式(2)、式(3)または下記一般式(4)で表される二価の連結基を表す。]
【化19】

[一般式(4)中、R41は水素原子またはメチル基を表す。]
【0059】
上記一般式(1)で表される構造単位を含む放射線硬化性塩化ビニル系共重合体は、放射線照射による硬化性に優れるものである。この高い硬化性は、含有される放射線硬化性官能基の反応性が高いことと、その構造に適度な柔軟性が付与されていることによるものと考えられる。即ち、下記一般式(1)で表される構造中、丸枠線で囲んだ(メタ)アクリロイルオキシ基が放射線硬化性官能基の中でも特に高い反応性を有する基であることと、四角枠線で囲んだ主鎖との連結部分が架橋構造を形成するに足る適度な柔軟性を有することが、上記放射線硬化性塩化ビニル系共重合体が放射線照射時に高い硬化性を示す理由であると推察している。これに対し、高い反応性を有する放射線硬化性官能基が導入された樹脂であっても、その構造が剛直であると放射線硬化性官能基同士が十分に近接することができず、結果的に架橋構造を形成することが困難となると考えられる。
【0060】
【化20】

[一般式(1)の詳細は後述する。]
【0061】
以下、上記放射線硬化性塩化ビニル系共重合体(以下、「共重合体B」ともいう)について説明する。
【0062】
共重合体Bは、放射線照射により硬化反応(架橋反応)を起こし得る放射線硬化性官能基を有する塩化ビニル系共重合体であり、放射線硬化性官能基の少なくとも1つが、下記一般式(1)で表される構造単位に含まれる(メタ)アクリロイルオキシ基である。共重合体Bは、先に説明したように、高い反応性を有する(メタ)アクリロイルオキシ基が適度な柔軟性を有する連結部分を介して主鎖と結合していることにより、放射線照射時に高い硬化性を示すことができると推察される。
なお、本発明において、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、メタクリロイルオキシ基とアクリロイルオキシ基とを含むものとし、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートとを含むものとする。
また、共重合体Bは、放射線硬化性官能基として(メタ)アクリロイルオキシ基以外の基を含むこともできる。そのような放射線硬化性官能基としては、反応性の点から、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合基が好ましく、アクリル系二重結合基が更に好ましい。ここでアクリル系二重結合基とは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド等の残基をいう。
【0063】
【化21】

【0064】
以下、一般式(1)について更に詳細に説明する。
【0065】
一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表す。R1が水素原子、メチル基のいずれであっても高い硬化性を得ることができるが、供給性の観点からは、R1はメチル基であることが好ましい。
【0066】
一般式(1)中、L1は下記式(2)、式(3)または下記一般式(4)で表される二価の連結基を表す。一般式(4)中、R41は水素原子またはメチル基を表し、供給性の観点から、R41は水素原子が好ましい。使用する系により異なるが、一般に、硬化性の観点からは、式(3)、一般式(4)で表される二価の連結基が好ましく、コストの点からは、式(2)、式(3)で表される二価の連結基が好ましい。
【0067】
【化22】

【0068】
共重合体Bは、放射線照射時の硬化性をよりいっそう高める観点から、一般式(1)で表される構造単位を、全重合単位を100モル%として1モル%以上含むことが好ましい。共重合体B中の一般式(1)で表される構造単位の含有率の上限は特に限定されるものではないが、例えば5モル%以下程度であっても十分にその効果を発揮し得る。共重合体Bは、一般式(1)で表される構造単位を全重合単位100モル%あたり、好ましくは1モル%以上50モル%以下含有することができる。共重合体Bは、一般式(1)で表される構造単位を上記含有率で含むことにより、よりいっそう高い硬化性を示すことができる。
【0069】
共重合体Bは塩化ビニル系共重合体であるため、一般式(1)で表される構造単位とともに塩化ビニル由来の構造単位(下記構造単位)を含む。
【0070】
【化23】

【0071】
共重合体B中の上記塩化ビニル由来の構造単位の含有率は特に限定されるものではないが、全重合単位を100モル%として50〜99モル%程度が好適である。
【0072】
共重合体Bは、下記一般式(5)で表される構造単位を含むこともできる。下記一般式(5)で表される構造単位を含むことは硬化性をよりいっそう高めるために有効である。また、下記一般式(5)で表される構造単位を含む共重合体は合成反応が容易であるため合成適性上も好ましい。
【0073】
【化24】

【0074】
以下、一般式(5)について説明する。
【0075】
一般式(5)中、R51およびR52は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。R51およびR52が水素原子、メチル基のいずれであっても高い硬化性を得ることができるが、供給性の観点からは、R51、R52はメチル基であることが好ましい。また、一般式(5)中、L51は前記式(2)、式(3)または一般式(4)で表される二価の連結基を表す。
【0076】
一般式(5)中、L52は二価の連結基を表す。L52で表される二価の連結基としては、炭素数1〜25のアルキレン基またはアルキレンオキシ基が好ましく、炭素数1〜20のアルキレン基またはアルキレンオキシ基がさらに好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、エチレンオキシ基、ジエチレンオキシ基、トリエチレンオキシ基が特に好ましい。これらの基は置換基を有していてもよい。その場合、上記炭素数は該置換基を含まない部分の炭素数をいう。
【0077】
前記L52に含まれ得る置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、なかでも、炭素数1〜15のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1〜7のアルキル基が特に好ましい。前記置換基として具体的には、原料および合成適性等を考慮すると、メチル基、エチル基、分岐または直鎖のプロピル基、分岐または直鎖のブチル基、分岐または直鎖のペンチル基、分岐または直鎖のヘキシル基が最も好ましい。
【0078】
共重合体Bは、一般式(5)で表される構造単位を全重合単位100モル%あたり、例えば1モル%以上45モル%以下含有することができる。共重合体Bは、一般式(5)で表される構造単位を上記含有率で含むことにより、よりいっそう高い硬化性を示すことができる。
【0079】
共重合体Bは、環状エーテル構造を含有することもできる。環状エーテル構造を含有することは、共重合体合成時の安定性、種々の条件下での硬化性、を高めるうえで有効である。また、環状エーテル構造は、共重合体に極性基を導入するための官能基としても有効である。上記環状エーテル構造としては、オキシラン環、オキセタン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、クラウンエーテルが好ましく、オキシラン環、オキセタン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環がより好ましく、オキシラン環、オキセタン環、テトラヒドロフラン環が特に好ましい。上記環状エーテル構造は、例えば共重合体の側鎖部分に含まれる。その好ましい態様の一例としては、下記一般式(8)で表される構造単位に、環状エーテル構造を含むものを挙げることができる。
【0080】
【化25】

【0081】
一般式(8)中、L8は二価の連結基を表し、例えば−CH2OCH2−等のオキシアルキレン基を表す。R8は環状エーテル構造を表し、その詳細は上述の通りである。
【0082】
共重合体Bは、硬化性向上の観点から、1分子あたり1〜100個の環状エーテル構造を含むことが好ましい。また、上記一般式(8)で表される構造単位の含有率としては、全重合単位100モル%あたり、例えば1モル%以上45モル%以下が好ましい。
【0083】
ところで、磁気記録媒体用結合剤には、磁性粉末、非磁性粉末等の分散性を高めるために極性基を導入することが広く行われている。したがって共重合体Bも、磁気記録媒体用結合剤としての適性の観点から、分散性向上のために極性基を有することが好ましい。極性基としては、例えば、ヒドロキシアルキル基、カルボン酸(塩)基、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、燐酸(塩)基等を挙げることができる。なお、本発明において「スルホン酸(塩)基」とは、下記一般式(A)中のaが0である置換基であり、スルホン酸基(−SO3H)と−SO3Na、−SO3Li、−SO3K等のスルホン酸塩基とを含むものとする。また、「硫酸(塩)基」とは、下記一般式(A)中のaが1である置換基であり、上記と同様に硫酸基と硫酸塩基とを含むものとする。カルボン酸(塩)基、燐酸(塩)基等についても同様である。
【0084】
【化26】

【0085】
上記一般式(A)中、Mは、水素原子または陽イオンを表し、*は結合位置を表す。aは0または1であり、上記の通りa=0の場合、一般式(A)で表される置換基はスルホン酸(塩)基であり、a=1の場合、一般式(A)で表される置換基は硫酸(塩)基である。
前記陽イオンは、無機陽イオンであっても、有機陽イオンであってもよい。前記陽イオンは、一般式(A)中の−(O)aSO3-を電気的に中和するものであり、1価の陽イオンに限定されず、2価以上の陽イオンとすることもできる。Mで表される陽イオンとしては1価の陽イオンが好ましい。なお、n価の陽イオンを使用する場合には、前記一般式(A)で表される置換基に対して、(1/n)モルの陽イオンを意味する。
【0086】
無機陽イオンとしては、特に制限はないが、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンが好ましく、アルカリ金属イオンがより好ましく、Li+、Na+またはK+がさらに好ましい。
有機陽イオンとしては、アンモニウムイオン、第四級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等を例示できる。
【0087】
前記Mは、水素原子、アルカリ金属イオン、第四級アンモニウムイオンまたはピリジニウムイオンであることが好ましく、水素原子、Li+、Na+、K+、テトラアルキルアンモニウムイオンまたはピリジニウムイオンであることがより好ましく、K+、テトラアルキルアンモニウムイオンまたはピリジニウムイオンであることが特に好ましい。
【0088】
硫酸(塩)基を含む共重合体Bの一態様としては、一般式(1)で表される構造単位に硫酸(塩)基が置換した、下記一般式(6)で表される構造単位を有するものを挙げることができる。
【0089】
【化27】

【0090】
一般式(6)中、Mは水素原子または陽イオンを表し、その詳細は一般式(A)中のMについて前記した通りである。
【0091】
一般式(6)中、R6は水素原子またはメチル基を表し、L6は前記式(2)、式(3)または一般式(4)で表される二価の連結基を表す。一般式(6)中のR6、L6の詳細は、一般式(1)中のR1、L1について述べた通りである。
【0092】
共重合体Bは、例えば、下記一般式(7)で表される構造単位中にスルホン酸(塩)基を含むことができる。
【0093】
【化28】

【0094】
一般式(7)中、R7は水素原子またはメチル基を表し、L7は二価の連結基を表し、分岐してもよい炭素数1〜7のアルキレン基を表すことが好ましい。該アルキレン基は、置換基を有することもできる。置換基の詳細は、L2に含まれ得る置換基について述べた通りである。
【0095】
一般式(7)中、Mは水素原子または陽イオンを表し、その詳細は一般式(A)中のMについて前記した通りである。
【0096】
但し、共重合体Bは、上記構造単位(6)または(7)を有するものに限定されるものではなく、任意の位置にスルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基等の極性基を含むことができる。なお、共重合体Bの極性基含有量については後述する。
【0097】
次に、共重合体Bの合成方法について説明する。
【0098】
共重合体Bは、一般式(1)で表されるビニルモノマー由来の構造単位を含む塩化ビニル系共重合体であるため、少なくとも塩化ビニルモノマーおよび一般式(1)で表される構造単位を導入するためのビニル系モノマーを共重合することによって合成されるものである。共重合反応においては、例えば、前記一般式(5)〜(8)で表される構造単位を導入するためのモノマー等の他のモノマーを共重合させることもできる。合成反応の具体的態様としては、
(A−1)原料モノマーとして放射線硬化性官能基を有するモノマーを使用し、共重合反応を行う方法;
(A−2)塩化ビニル系共重合体の原料モノマーを放射線硬化性官能基含有化合物の存在下で共重合させる方法;
(A−3)塩化ビニル系共重合体の側鎖に高分子反応によって放射線硬化性官能基を導入する方法;
を挙げることができ、上記態様を必要に応じて組み合わせることにより、共重合体Bを得ることができる。
【0099】
上記いずれの態様についても、使用可能な原料モノマーとしては、以下のモノマーを挙げることができる。
塩化ビニル、塩化ビニリデン、置換基を有していてもよい(メタ)アクリル酸、
置換基を有していてもよいアルキル(メタ)アクリレート類、置換基を有していてもよいアリール(メタ)アクリレート類、置換基を有していてもよい(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリロイルモルホリン類、ビニル基を有する芳香族炭化水素環類(各種スチレン類)、ビニル基を有するヘテロ芳香族環類(ビニルカルバゾール類)、無水マレイン酸、およびその誘導体、脂肪酸ビニルエステル類(各種アセトキシエチレン類)、各種ベンゾイルオキシエチレン類、置換基を有していてもよいアルキルアリルエーテル類、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)クロトンニトリル、エチレン、ブタジエン、イタコン酸エステル類、
クロトン酸エステル類、ビニルピロリドン類。なお、上記において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸とを含む意味であり、他の「(メタ)」との語を含むものについても同様である。
【0100】
合成反応の容易性の点から好ましいモノマーとしては、以下のモノマーを挙げることができる。
塩化ビニル、塩化ビニリデン、置換基を有していてもよい(メタ)アクリル酸、
置換基を有していてもよい炭素数1〜25の(シクロ)アルキル(メタ)アクリレート、置換基を有していてもよい炭素数1〜25のアリール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、置換基を有していてもよい炭素数1〜25の2級または3級の(シクロ)アルキル(メタ)アクリルアミド、置換基を有していてもよい炭素数1〜25の2級または3級のアリール(メタ)アクリルアミド、置換基を有していてもよい炭素数1〜25の(メタ)アクリロイルモルホリン、 ビニル基を有する置換または無置換の炭素数1〜25の芳香族炭化水素環、ビニル基を有する置換または無置換の炭素数1〜25のヘテロ芳香族環、無水マレイン酸、置換または無置換の炭素数1〜25の部分エステル化マレイン酸、置換または無置換の炭素数1〜25の部分アミド化マレイン酸、 イタコン酸、置換基を有していてもよい炭素数1〜25のイタコン酸(シクロ)アルキルエステル、置換基を有していてもよい炭素数1〜25のイタコン酸アリールエステル、 クロトン酸、置換基を有していてもよい炭素数1〜25のクロトン酸(シクロ)アルキルエステル、置換基を有していてもよい炭素数1〜25のクロトン酸アリールエステル、置換基を有していてもよい炭素数1〜25のアセトキシエチレン類、置換基を有していてもよい炭素数1〜25のベンゾイルオキシエチレン類、置換基を有していてもよいアルキルアリルエーテル類、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)クロトンニトリル、エチレン、ブタジエン、ビニルピロリドン。
【0101】
これらの中でも、より好ましいモノマーとしては、以下のモノマーが挙げられる。
塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の(シクロ)アルキル(メタ)アクリレート、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアリール(メタ)アクリレート、 (メタ)アクリルアミド、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2級または3級の(シクロ)アルキル(メタ)アクリルアミド、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2級または3級のアリール(メタ)アクリルアミド、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の(メタ)アクリロイルモルホリン、ビニル基を有する置換または無置換の炭素数1〜20の芳香族炭化水素環、ビニル基を有する置換または無置換の炭素数1〜20のヘテロ芳香族環、無水マレイン酸、置換または無置換の炭素数1〜20の部分エステル化マレイン酸、置換または無置換の炭素数1〜20の部分アミド化マレイン酸、イタコン酸、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のイタコン酸(シクロ)アルキルエステル、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のイタコン酸アリールエステル、クロトン酸、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のクロトン酸(シクロ)アルキルエステル、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のクロトン酸アリールエステル、 置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアセトキシエチレン類、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のベンゾイルオキシエチレン類、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルアリルエーテル類、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の(メタ)アクリロニトリル、(メタ)クロトンニトリル、エチレン、ブタジエン、ビニルピロリドン。
【0102】
上記の中でよりいっそう好ましいモノマーとしては、以下のモノマーが挙げられる。
(メタ)アクリル酸、置換基を有していてもよい、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、直鎖または分岐のプロピル(メタ)アクリレート、直鎖または分岐のブチル(メタ)アクリレート、直鎖または分岐のペンチル(メタ)アクリレート、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルマルヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノルマルオクチル(メタ)アクリレート、ノルマルデシル(メタ)アクリレート、ノルマルドデシル(メタ)アクリレート、置換基を有していてもよいアダマンチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルナンメチル(メタ)アクリレート、ノルボルネンメチル(メタ)アクリレート;置換基を有していてもよいベンジル(メタ)アクリレート、ナフチルメチル(メタ)アクリレート、アントラセンメチル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート;置換基を有していてもよいフェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、置換基を有していてもよい(ジ)メチル(メタ)アクリルアミド、(ジ)エチル(メタ)アクリルアミド、直鎖または分岐の(ジ)プロピル(メタ)アクリルアミド、直鎖または分岐の(ジ)ブチル(メタ)アクリルアミド、直鎖または分岐の(ジ)ペンチル(メタ)アクリルアミド、(ジ)ノルマルヘキシル(メタ)アクリルアミド、(ジ)シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、(ジ−)2−エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド;置換基を有していてもよいアダマンチル(メタ)アクリルアミド、ノルアダマンチル(メタ)アクリルアミド;置換基を有していてもよいベンジル(メタ)アクリルアミド、ナフチルエチル(メタ)アクリルアミド、フェニルエチル(メタ)アクリルアミド;置換基を有していてもよい(ジ)フェニル(メタ)アクリルアミド、ナフチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ピペリジルアクリルアミド、ピロリジルアクリルアミド、(α−メチル−)スチレン、スチレンスルホン酸(塩)、クロロメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルトリアゾール、無水マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、置換基を有していてもよい、メチルクロトネート、エチル(クロトネート、直鎖または分岐のプロピルクロトネート、直鎖または分岐のブチルクロトネート、直鎖または分岐のペンチルクロトネート、ノルマルヘキシルクロトネート、シクロヘキシルクロトネート、ノルマルヘプチルクロトネート、2−エチルヘキシルクロトネート、ノルマルオクチルクロトネート、ノルマルデシルクロトネート、ノルマルドデシルクロトネート;置換基を有していてもよいアダマンチルクロトネート、イソボルニルクロトネート、ノルボルナンメチルクロトネート、ノルボルネンメチルクロトネート;置換基を有していてもよいベンジルクロトネート、ナフチルメチルクロトネート、アントラセンメチルクロトネート、フェニルエチルクロトネート; 置換基を有していてもよいフェニルクロトネート、ナフチルクロトネート、置換基を有していてもよいアセトキシエチレン、置換基を有していてもよいベンゾイルオキシエチレン、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、3−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、置換基を有していてもよいビニルカルバゾール、ビニルピロリドン、(メタ)アクリロニトリル、エチレン、ブタジエン、(メタ)クロトンニトリル。
【0103】
また、溶剤溶解性、塗布適性等の磁気記録媒体用途への適性の点からは、以下のモノマーを用いることが好ましい。
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ノルマルプロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、ノルマルペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、ビニルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、3−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、p−ビニルフェノール、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、ホスホエチル(メタ)アクリレート、スルホエチル(メタ)アクリレート、p−スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびこれらのNa塩、K塩などの金属塩、アンモニウム塩、またはピリジン塩。
【0104】
また、使用可能な共重合モノマーとしては、上記モノマーに放射線硬化性官能基を導入したものを挙げることもできる。放射線硬化性官能基の詳細は、先に説明した通りである。
【0105】
前記共重合モノマーとしては、その他親水性を有するモノマーも好適に用いることができ、燐酸、燐酸エステル、4級アンモニウム塩、エチレンオキシ鎖、プロピレンオキシ鎖、スルホン酸、硫酸基、カルボン酸基およびその塩(例えば金属塩)、モルホリノエチル基等を含んだモノマー等も使用可能である。
【0106】
以上説明したモノマーが有し得る置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールカルボニル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルアミノ基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、フリル基、フルフリル基、オキセタン環、オキシラン環、フラン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロフルフリル基、アルキルチオ基、トリメチルシリル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、チエニル基、モルホリノ基、モルホリノカルボニル基、−OSO3H基、−SO3H基、燐酸、ホスホン酸、ホスフィン酸の部分構造をもつもの、等が挙げられる。
【0107】
前記置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアラルキル基、炭素数1〜20のアリール基、炭素数1〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のアシルオキシ基、炭素数1〜20のアシル基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアリールオキシカルボニル基、炭素数1〜20のアリールカルボニル基、アミノ基、炭素数1〜20のジアルキルアミノ基、炭素数1〜20のアルキルアミノ基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、フリル基、フルフリル基、オキセタン環、オキシラン環、フラン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロフルフリル基、アルキルチオ基、トリメチルシリル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、チエニル基、モルホリノ基、モルホリノカルボニル基、−OSO3H基、−SO3H基、燐酸、ホスホン酸、ホスフィン酸の部分構造をもつもの、ハロゲン原子、等が好ましい。
【0108】
これらの中でも前記置換基としては、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数1〜15のアルコキシ基、炭素数1〜15のアラルキル基、炭素数1〜15のアリール基、炭素数1〜15のアリールオキシ基、炭素数1〜15のアシルオキシ基、炭素数1〜15のアシル基、炭素数1〜15のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜15のアリールオキシカルボニル基、炭素数1〜15のアリールカルボニル基、アミノ基、炭素数1〜15のジアルキルアミノ基、炭素数1〜15のアルキルアミノ基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、フリル基、フルフリル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロフルフリル基、アルキルチオ基、トリメチルシリル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、チエニル基、モルホリノ基、モルホリノカルボニル基、−OSO3H基、−SO3H基、燐酸、ホスホン酸、ホスフィン酸の部分構造をもつもの、ハロゲン原子、等がより好ましい。
【0109】
さらに、前記置換基としては、メチル基、エチル基、直鎖または分岐のプロピル基、直鎖または分岐のブチル基、直鎖または分岐のペンチル基、ノルマルヘキシル基、シクロヘキシル基、ノルマルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、ノルマルオクチル基、ノルマルデシル基、ノルマルドデシル基、メチルオキシ基、エチルオキシ基、直鎖または分岐のプロピルオキシ基、直鎖または分岐のブチルオキシ基、直鎖または分岐のペンチルオキシ基、ノルマルヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ノルマルヘプチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ノルマルオクチルオキシ基、ノルマルデシルオキシ基、ノルマルドデシルオキシ基、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、フェニル基、ナフチル基、 フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、直鎖または分岐のプロピルカルボニルオキシ基、直鎖または分岐のブチルカルボニルオキシ基、直鎖または分岐のペンチルカルボニルオキシ基、ノルマルヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、ノルマルヘプチルカルボニルオキシ基、2−エチルヘキシルカルボニルオキシ基、ノルマルオクチルカルボニルオキシ基、ノルマルデシルカルボニルオキシ基、ノルマルドデシルカルボニルオキシ基、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基、直鎖または分岐のプロピルカルボニル基、直鎖または分岐のブチルカルボニル基、直鎖または分岐のペンチルカルボニル基、ノルマルヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、ノルマルヘプチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ノルマルオクチルカルボニル基、ノルマルデシルカルボニル基、ノルマルドデシルカルボニル基、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、直鎖または分岐のプロピルオキシカルボニル基、直鎖または分岐のブチルオキシカルボニル基、直鎖または分岐のペンチルオキシカルボニル基、ノルマルヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、ノルマルヘプチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、ノルマルオクチルオキシカルボニル基、ノルマルデシルオキシカルボニル基、ノルマルドデシルオキシカルボニル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基;(ジ)メチルアミノ基、(ジ)エチルアミノ基、直鎖または分岐の(ジ)プロピルアミノ基、直鎖または分岐の(ジ)ブチルアミノ基、直鎖または分岐の(ジ)ペンチルアミノ基、(ジ)ノルマルヘキシルアミノ基、(ジ)シクロヘキシルアミノ基、(ジ)ノルマルヘプチルアミノ基、(ジ)2−エチルヘキシルアミノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、フリル基、フルフリル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロフルフリル基、アルキルチオ基、トリメチルシリル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、チエニル基、モルホリノ基、モルホリノカルボニル基、−OSO3H基、−SO3H基、燐酸、ホスホン酸、ホスフィン酸の部分構造をもつもの、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、等が特に好ましい。また、これらの置換基はさらに前記の置換基で置換されていてもよい。
【0110】
原料モノマーの種類および数は、少なくとも塩化ビニルおよび一般式(1)で表される構造単位を導入するためのビニル系モノマーの2種が使用される点以外、特に限定されるものではない。上記2種のモノマー以外に、例えば1〜12種のモノマーを併用することができ、1〜10種を併用することが好ましく、1〜8種を併用することがより好ましい。原料モノマーの混合割合は、所望の共重合体組成に応じて決定すればよいが、原料モノマー中の塩化ビニルモノマーの含有量が60質量%以上95質量%以下であれば良好な力学強度が得られると共に、溶剤溶解性が良好で、溶液粘度が好適であるため良好な分散性が得られるので好ましい。
【0111】
上記(A−2)、(A−3)の態様において放射線硬化性官能基の導入に使用する放射線硬化性官能基含有化合物としては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(2−イソシアナートエチルオキシ)エチルメタクリレート、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等の炭素−炭素二重結合基を含有する化合物を挙げることができる。
【0112】
共重合体Bの合成方法としては、合成の簡便さ、コスト、原料入手性を考慮すると、高分子反応を用いて放射線硬化性官能基を導入する態様(A−3)が好ましい。この態様において使用される塩化ビニル系共重合体としては特に制限されないが、分子内に水酸基、1級または2級アミンのような活性水素基を持つ塩化ビニル系共重合体であれば、放射線硬化性官能基を含有するイソシアネート化合物と反応させることにより側鎖に放射線硬化性官能基を容易に導入できるため好ましい。そのような塩化ビニル系共重合体は、例えば上記共重合可能なモノマーを用いて公知の方法で合成可能である。
【0113】
また、共重合体Bは、前述のように、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基等の極性基を含むこともできる。極性基は一種類のみ含まれていてもよく二種類以上含まれていてもよい。複数種の極性基を含むことにより、極性基を一種のみ含む場合に比べて、磁気記録媒体分野で利用されるシクロヘキサン等の溶媒に対する溶解性が向上することがあるので好ましい場合がある。上記極性基は、公知の方法による共重合または付加反応により共重合体Bに導入することができる。また、スルホン酸(塩)基含有塩化ビニル系共重合体は、公知の方法により塩交換を行い他のスルホン酸塩基含有塩化ビニル系共重合体とすることもでき、または公知の方法により塩を除去しスルホン酸含有塩化ビニル系共重合体とすることもできる。硫酸(塩)基含有塩化ビニル系共重合体についても同様である。
【0114】
共重合体Bを得るための合成反応および放射線硬化性官能基または極性基導入反応は、原料化合物を溶剤(反応溶媒)に溶解し、必要に応じて加熱、加圧、窒素置換等を行うことによって進行させることができる。上記反応のための反応温度、反応時間等の反応条件としては、一般的な反応条件を採用することができる。
【0115】
上記反応に使用可能な反応触媒としては、公知の反応触媒を使用することができ、例えばアミン触媒や有機スズ触媒、有機ビスマス触媒を例示できる。アミン触媒としては、ジエチレントリアミン、N−メチルモルホリン、及び、テトラメチルヘキサメチレンジアミン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンを例示でき、有機スズ触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジデカネート、ジオクチルスズジデカネートを例示できる。有機ビスマス触媒としてはビスマストリス(2−エチルヘキサノエート)を例示できる。本発明において触媒としては、有機スズ触媒または有機ビスマス触媒を使用することが好ましい。
触媒の添加量は、反応に使用する原料化合物の全質量に対して例えば0.00001〜5質量部、好ましくは0.0001〜1質量部、さらに好ましくは0.00001〜0.1質量部である。
【0116】
反応溶媒としては、上記反応に通常使用される公知の溶剤から選択することができ、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、シクロヘキサンが挙げられる。
【0117】
合成反応後、必要に応じて公知の方法で精製等を行うことにより、共重合体Bを得ることができる。目的の共重合体が得られたことは、NMR等の公知の同定方法により確認することができる。または、合成反応を磁気記録媒体形成用塗布液に広く使用されているメチルエチルケトン、シクロヘキサンノンまたはこれらの混合溶媒を反応溶媒として使用することにより、合成後の反応液をそのまま、または任意に添加剤を添加することにより非磁性層形成用塗布液として使用することができる。
【0118】
次に、共重合体Bの各種物性について説明する。
【0119】
(a)平均分子量、分子量分布
共重合体Bは、質量平均分子量が1万〜50万であることが好ましく、1万〜40万であることがより好ましく、1万〜30万であることがさらに好ましい。質量平均分子量が1万以上であれば、共重合体Bを結合剤として形成された塗布層の保存性が良好であり好ましい。また、質量平均分子量が50万以下であれば、良好な分散性が得られるので好ましい。
【0120】
共重合体Bの分子量分布(質量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は1.00〜5.50であることが好ましい。より好ましくは1.01〜5.40である。分子量分布が5.50以下であれば、組成分布が少なく、良好な分散性が得られるので好ましい。なお塩化ビニル系共重合体に放射線硬化性官能基および/または極性基を導入する反応の前後で、質量平均分子量および分子量分布(Mw/Mn)は、通常ほとんど変化しないか変化は大きくない。
【0121】
(b)ガラス転移温度
共重合体Bのガラス転移温度(Tg)は、10℃〜180℃であることが好ましく、10℃〜170℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が10℃以上であれば、放射線硬化により高強度の塗膜を形成することができ、耐久性、保存性に優れた塗膜を得ることができるため好ましい。また、共重合体Bのガラス転移温度が180℃以下であれば、カレンダー成形性が良好であり、電磁変換特性が良好な磁気記録媒体が得られるため好ましい。
【0122】
(c)極性基含有量
共重合体Bは、前述のように極性基を含有することが好ましい。共重合体B中の極性基の含有量は、1.0mmol/kg〜3500mmol/kgであることが好ましく、1.0mmol/kg〜3000mmol/kgであることがより好ましく、1.0mmol/kg〜2500mmol/kgであることが更に好ましい。
極性基の含有量が1.0mmol/kg以上であれば、非磁性粉末等の粉末への十分な吸着力を得ることができ、分散性が良好であるので好ましい。また、3500mmol/kg以下であれば、溶剤への良好な溶解性が得られるので好ましい。前述のように極性基としては、一般式(A)で表されるスルホン酸(塩)基および硫酸(塩)基が好ましい。スルホン酸(塩)基および硫酸(塩)基からなる群から選ばれる極性基の含有量は、分散性と溶剤溶解性を両立する観点から10mmol/kg以上2000mmol/kg以下であることが好ましい。
【0123】
(d)水酸基含有量
共重合体Bには、水酸基(OH基)が含まれていてもよい。含まれるOH基の個数は1分子あたり1〜100000個が好ましく、1〜10000個がより好ましい。OH基の個数が上記範囲内であれば、溶剤への溶解性が向上するので分散性が良好となる。
【0124】
(e)放射線硬化性官能基含有量
共重合体Bは、一般式(1)で表される構造単位中に放射線硬化性官能基である(メタ)アクリロイルオキシ基を含有するものであり、その他にも各種放射線硬化性官能基を含有することもできる。それら放射線硬化性官能基の詳細は、先に説明した通りである。共重合体B中の放射線硬化性官能基の含有量は、1.0mmol/kg〜4000mmol/kgであることが好ましく、1.0mmol/kg〜3000mmol/kgであることがより好ましく、1.0mmol/kg〜2000mmol/kgであることがさらに好ましい。放射線硬化性官能基の含有量が1.0mmol/kgであれば、放射線硬化により高い強度を有する塗膜を形成できるので好ましい。また、放射線硬化性官能基の含有量が4000mmol/kg以下であれば、カレンダー成形性が良好であり、電磁変換特性が良好な磁気記録媒体が得られるので好ましい。
【0125】
以下に、共重合体Bの具体例を示す。但し、本発明は下記具体例に限定されるものではない。以下において、各構造単位の右側に付した数値は、共重合体中の全重合単位に対する各構造単位のモル比率を表す。
【0126】
【化29】

【0127】
【化30】

【0128】
ポリウレタン樹脂Aと共重合体Bとを併用する場合、それらの混合比については、高い硬化性とともに適度な柔軟性を有する非磁性層を形成するためには、共重合体B100質量部に対してポリウレタン樹脂Aを50〜80質量部とすることが好ましい。
【0129】
式(I)
本発明の磁気テープの非磁性層は、前述のポリウレタン樹脂Aと、任意に共重合体Bと、を含む結合剤成分に加えて、非磁性粉末を含む放射線硬化性組成物を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層である。ここで上記放射線硬化性組成物において、非磁性粉末と結合剤成分との間には、下記式(I):
480≦(非磁性粉末のBET比表面積(m2/g)×非磁性粉末の質量(g))/結合剤成分の質量(g)≦650
を満たす関係が成立する。上記式(I)は、後述する実施例で示すように、上記放射線硬化性組成物中の質量基準の各成分の割合を示す「質量部」を用いて、
480≦(非磁性粉末のBET比表面積(m2/g)×非磁性粉末の質量(質量部))/結合剤成分の質量(質量部)≦650
と表記することもできる。なお、本発明においてBET比表面積とは、BET法によって測定される比表面積をいうものとする。また、結合剤成分には、先に説明したポリウレタン樹脂A、共重合体Bをはじめとする放射線硬化性官能基が導入された樹脂成分とともに、他の樹脂成分や、それらと重合ないし架橋可能な任意成分、例えば任意に添加される架橋剤や放射線硬化性化合物(モノマー)、も含まれるものとする。
上記式(I)で求められる値が480未満では、電磁変換特性が良好な磁気テープを得ることが困難となる。これは、非磁性層の空隙率が低いため薄層の非磁性層を有する磁気テープではカレンダー加工性が低下する結果、磁性層の表面平滑性を高めることが困難となるためである。他方、上記式(I)で求められる値が650を超えると、カレンダー加工性は良好であるが非磁性粉末に対する結合剤成分量が少なすぎるため非磁性層の分散性が低下する結果、非磁性層の表面が粗くなると考えられる。したがって、その上に形成される磁性層の表面平滑性も低下するため、優れた電磁変換特性を有する磁気テープを得ることが困難となる。上記式(I)で求められる値は、電磁変換特性をより一層向上するためには、490以上640以下であることが好ましい。
【0130】
磁気テープの非磁性層には、通常、カーボンブラックと、カーボンブラック以外の非磁性粉末が併用される。したがって本発明の磁気テープも、カーボンブラックとカーボンブラック以外の非磁性粉末を非磁性層に含むことができる。このように2種以上の異なる非磁性粉末を含む場合、例えば、非磁性粉末1と非磁性粉末2(例えばカーボンブラック)を非磁性層に含む場合、上記式(I)は、
480≦(非磁性粉末1のBET比表面積(m2/g)×非磁性粉末1の質量(g)+非磁性粉末2のBET比表面積(m2/g)×非磁性粉末2の質量(g))/結合剤成分の質量(g)≦650
となる。
【0131】
上記カーボンブラック以外の非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0132】
上記非磁性粉末のBET比表面積は、好ましくは1〜100m2/gであり、より好ましくは30〜90m2/gであり、さらに好ましくは50〜80m2/gである。BET比表面積が1〜100m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さが得られ、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい。
ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、好ましくは5〜100ml/100g、より好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。
比重は好ましくは1〜12、より好ましくは3〜6である。タップ密度は好ましくは0.05〜2g/ml、より好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。
【0133】
カーボンブラック以外の非磁性粉末としては、具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0134】
上記非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。
上記非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜1μmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜1μmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。
これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜2μmであることが好ましい。5nm〜2μmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有する非磁性層が形成できるため好ましい。ただし必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。その他、本発明の磁気テープに使用可能な非磁性粉末の詳細については、特開2009−96798号公報段落[0127]〜[0132]を参照できる。
【0135】
非磁性層にカーボンブラックを混合することにより、表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のμビッカース硬度を得ることができる。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。非磁性層に用いられるカーボンブラックのBET比表面積は好ましくは10〜500m2/g、更に好ましくは50〜300m2/gの範囲である。カーボンブラックのBET比表面積が上記範囲内であれば、分散性が良好であり好ましい。
【0136】
カーボンブラックのDBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、更に好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、更に好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。非磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0137】
非磁性層を形成するための放射線硬化性組成物における非磁性粉末および結合剤成分の含有量については、結合剤成分は、非磁性粉末100質量部あたり、例えば5〜50質量部、好ましくは10〜30質量部である。カーボンブラックと、カーボンブラック以外の非磁性粉末を併用する場合、非磁性粉末成分の合計量100質量部あたり、カーボンブラック、非磁性粉末の含有量は、それぞれ、例えば10〜90質量部、好ましくは20〜80質量部である。ただし本発明では、質量のみならず非磁性層粉末成分の比表面積をも考慮した式(I)を規定する必要がある。質量のみでは非磁性層の分散性および空隙率を十分制御することができないからである。
【0138】
放射線硬化性組成物および非磁性層
前記放射線硬化性組成物は、上記結合剤成分および非磁性粉末を含むものであり、任意に公知の溶剤、重合開始剤、添加剤、他のポリマー等を含むことができる。溶剤としては、先に反応溶媒として例示したものを挙げることができ、磁気記録媒体形成用塗布液に広く使用されているメチルエチルケトン、シクロヘキサンノンまたはこれらの混合溶媒が好適である。なお、硬化反応のために電子線を使用する場合は、重合開始剤が不要である。
【0139】
ところで、塗布型磁気記録媒体を量産する際には、塗布液を例えば半年以上もの長期にわたり保存することが行われるが、塩化ビニル系の結合剤は一般に安定性が低く、特に放射線硬化性塩化ビニル系樹脂を使用すると塗布液の安定性が著しく低下する現象が見られることがある。これは、保存中に放射線硬化性官能基が反応することにより分子量が変化することが原因と考えられる。
一方、放射線硬化性樹脂の合成反応は、通常、放射線硬化性官能基を保護するための重合禁止剤の存在下で行われる。そこで長期保存中に放射線硬化性官能基が反応することを抑制するため、上記重合禁止剤を増量することが考えられるが、単に重合禁止剤を増量するのみでは、放射線照射時の硬化性の低下を引き起こし強靭な塗膜を得ることが困難となるおそれがある。
これに対し、放射線硬化性塩化ビニル系共重合体はベンゾキノン化合物の存在下で保存することにより、硬化性を損なうことなく、長期間保存安定性を良好に維持することができることが明らかとなった。したがって本発明において非磁性層形成のために共重合体Bのような放射線硬化性塩化ビニル系共重合体を、長期保存後に使用する場合にはベンゾキノン化合物を含む組成物中で保存することが好ましい。
【0140】
ベンゾキノン化合物とは、ベンゾキノン骨格を含む化合物であり、含まれるベンゾキノン骨格は、以下に示すo−ベンゾキノン骨格であってもp−ベンゾキノン骨格であってもよい。
【0141】
【化31】

【0142】
ベンゾキノン化合物としては、入手性の観点から、p−ベンゾキノン骨格を有する化合物が好ましい。ベンゾキノン化合物に含まれるベンゾキノン骨格は、無置換であっても置換基を有していてもよい。置換基としては、(置換基を有していてもよい)アルキル基、アルコキシル基、水酸基、ハロゲン原子、アリール基、シアノ基、ニトロ基、等の下記例示化合物に含まれる置換基等が挙げられる。また、ベンゾキノン化合物としてはベンゾキノン骨格を1つ有するものを使用してもよく2つ以上有するものを使用してもよい。好ましいベンゾキノン化合物としては、下記例示化合物を挙げることができる。
【0143】
【化32】


【0144】
上記例示化合物の中では、例示化合物(1)〜(22)、(25)〜(33)が好ましく、(1)〜(22)、(25)〜(28)、(30)、(32)、(33)がより好ましく、(1)〜(22)、(25)〜(28)、(30)、(32)の化合物が特に好ましい。
【0145】
共重合体Bは、ベンゾキノン化合物を1種または2種以上含む組成物中で保存することが好ましい。この際のベンゾキノン化合物の含有量(複数種のベンゾキノン化合物を使用する場合にはそれらの合計量)は、長期保存安定性と硬化性を両立する観点から、共重合体B(固形分)に対し、1ppm以上500000ppm以下が好ましく、1ppm以上400000ppm以下がより好ましく、100ppm以100000ppm以下が更に好ましい。また、放射線硬化性ポリウレタン樹脂であるポリウレタン樹脂Aも、ベンゾキノン化合物と混合して使用することができる。その場合、ベンゾキノン化合物の使用量は、ポリウレタン樹脂Aの固形分に対し1ppm以上500000ppm以下が好ましく、1ppm以上400000ppm以下がより好ましく、1ppm以上300000ppm以下が更に好ましく、1ppm以上500ppm以下が特に好ましい。
【0146】
ベンゾキノン化合物は、前記放射線硬化性組成物に添加することができ、または共重合体Bまたはポリウレタン樹脂Aの原料化合物を含む組成物に同時または逐次添加してもよい。共重合体B、ポリウレタン樹脂Aの合成反応、放射線硬化性官能基を導入する反応等の放射線硬化性官能基含有成分が存在する反応系においてベンゾキノン化合物が存在することが好ましい。反応中に添加される化合物は、反応中に放射線硬化性官能基が反応することを抑制する役割を果たすとともに、放射線照射時の硬化性を損なわずに保存安定性を高める役割を果たすと考えられる。
以上説明した化合物は、公知の方法または前述の方法により合成することができる。また市販品として入手可能なものもある。
【0147】
本発明の磁気テープの非磁性層を作製するための前記放射線硬化性組成物の固形分濃度は特に限定されるものではないが、取り扱いの容易性の点から10〜80質量%程度がより好ましく、20〜60質量%程度が更に好ましい。
【0148】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0149】
非磁性層の結合剤樹脂については先に説明した通りである。また、非磁性層の潤滑剤、分散剤等の添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、添加剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0150】
前述のように、カレンダー加工性を高め電磁変換特性を向上するためには、非磁性層の空隙率を高めることが有効である。ただし、空隙率が高くことは結合剤成分が少なくなることを意味し、これは即ち分散性が低下することを意味する。したがって分散性を良好に維持し得る範囲で空隙率を高める観点から、非磁性層の空隙率は25〜38体積%の範囲であることが好ましい。本発明によれば、非磁性層形成のために使用する放射線硬化性組成物が上記式(I)の関係を満たすことにより、上記好ましい量の空隙を含む非磁性層を得ることができる。ここで、上記空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察によって求めることができ、または、後述する実施例で示す方法によって求めることもできる。実施例に示す方法は非磁性層と磁性層を合わせた層の空隙率を求めているが、高密度記録用磁気テープでは磁性層の充填率はきわめて高いため、求められる空隙率は非磁性層の空隙率とみなすことができる。なお、従来の比較的厚い非磁性層を有する磁気テープでは、磁性層の充填率を高くすると摩擦係数が上昇し走行性が低下する傾向があった。これは厚い非磁性層は潤滑剤の貯蔵量が多いため潤滑剤成分の滲み出し量が多くなるからと推察される。これに対し本発明の磁気テープは、非磁性層が薄い(厚さ0.5〜1.3μm)ため、空隙率を高くしても摩擦係数の上昇を抑え走行性を良好に維持することができる。なお、非磁性層に添加可能な潤滑剤成分としては、脂肪酸および/またはその誘導体(例えば脂肪酸エステル)を挙げることができ、それらの具体例は特開2009−96798号公報段落[0111]に記載されている。潤滑剤成分の添加量は、非磁性粉末100質量部あたり、例えば0.01〜10質量部であり、好ましくは0.05〜6質量部、より好ましくは0.1〜3質量部である。
【0151】
前記放射線硬化性組成物は、前述の各種成分を混合することにより調製することができる。硬化反応のために照射する放射線として、例えば、電子線や紫外線を用いることができる。電子線を使用する場合は、重合開始剤が不要である点で好ましい。放射線照射は公知の方法で行うことができ、その詳細については、例えば特開2009−134838号公報段落[0021]〜[0023]等を参照できる。また、放射線硬化装置や放射線照射硬化の方法などについては、「UV・EB硬化技術」((株)総合技術センター発行)や「低エネルギー電子線照射の応用技術」(2000、(株)シーエムシー発行)などに記載されているような公知技術を用いることができる。そして、形成される非磁性層の厚さは、0.5〜1.3μmである。これは0.5μm未満では非磁性層が薄いため、式(I)を満たし空隙率を高めたとしても、カレンダー加工性を高め電磁変換特性を向上することが困難だからである。また、1.3μmを超えると空隙率を高めた非磁性層からの潤滑剤成分の滲み出しが過剰になり、摩擦係数が上昇し走行性が低下するからである。非磁性層の厚さは、電磁変換特性と走行性を両立する観点から、0.6〜1.3μmの範囲であることがより好ましい。
【0152】
磁性層
(i)強磁性粉末
本発明の磁気テープは、前述の放射線硬化性組成物を放射線硬化することにより形成された非磁性層(放射線硬化層)上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する。強磁性粉末としては、針状強磁性体、平板状磁性体、または球状もしくは楕円状磁性体を使用することができる。高密度記録化の観点から針状強磁性体のBET比表面積は、好ましくは40m2/g以上80m2/g以下、より好ましくは50m2/g以上70m2/g以下である。平板状磁性体については、BET比表面積は10m2/g以上200m2/g以下であることが好ましい。また、球状もしくは楕円状磁性体については、BET比表面積は30m2/g以上100m2/g以下であることが好ましく、より好ましくは50m2/g以上70m2/g以下である。また、針状強磁性体の平均長軸長は、20nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上45nm以下であることがより好ましい。平板状磁性体の平均板径は、六角板径で10nm以上50nm以下であることが好ましい。磁気抵抗ヘッドで再生する場合は、低ノイズにする必要があり、板径は40nm以下であることが好ましい。板径が上記範囲であれば、熱揺らぎがなく安定な磁化が望める。また、ノイズも低くなるため高密度磁気記録に適する。球状もしくは楕円状磁性体は、高密度記録化の観点から、平均直径が10nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0153】
上記強磁性粉末の平均粒子サイズは、以下の方法により測定することができる。
強磁性粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を強磁性粉末の平均粒子サイズとする。
【0154】
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0155】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
【0156】
以上説明した各磁性体については、特開2009−96798号公報段落[0097]〜[0110]に詳細に記載されている。
【0157】
(ii)添加剤
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤などを挙げることができる。上記添加剤の具体例等の詳細については、例えば特開2009−96798号公報段落[0111]〜[0115]を参照できる。
【0158】
また、磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。カーボンブラックの比表面積は好ましくは100〜500m2/g、より好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、より好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、好ましくは5〜100nm、より好ましく10〜90nm、さらに好ましくは10〜80nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0159】
カレンダー処理によって磁性層の表面平滑性を効果的に高める観点から、磁性層に含まれるカーボンブラックの平均粒径は、好ましくは10〜200nm、より好ましくは50〜150nm、更に好ましくは70〜120nmである。同様の観点から、磁性層中のカーボンブラック量は、強磁性粉末100質量部あたり0.1〜5質量部とすることが好ましく、0.2〜2質量部とすることが更に好ましい。また、同様の観点から、磁性層中の研磨剤の平均粒径は、好ましくは10〜150nm、より好ましくは30〜150nm、更に好ましくは50〜120nmであり、磁性層中の研磨剤量は、強磁性粉末100質量部あたり1〜20質量部とすることが好ましく、3〜15質量部とすることが更に好ましい。研磨剤としては、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモ−ス硬度6以上の公知の材料を単独または組合せて使用することができる。
【0160】
本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに前述の非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0161】
磁性層の形成のために使用される結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を使用することができる。その詳細については、例えば特開2005−222644号公報段落[0014]〜[0020]を参照できる。また、前述のポリウレタン樹脂Aおよび/または共重合体Bを使用し放射線硬化層として磁性層を形成することも可能である。磁性層の結合剤量は、強磁性粉末の充填度と磁性層の強度を両立する観点から、強磁性粉末100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下であることが好ましく、10質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
【0162】
高密度記録化の観点からは、磁性層も薄くすることが好ましく、この点から磁性層の厚さは0.10μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.08μm以下であり、さらに好ましくは0.08μmである。また、均一な磁性層を形成する観点から、磁性層の厚さは0.01μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.03μm以上である。なお、磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0163】
非磁性支持体
本発明に用いることのできる非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さは、後述の実施例に記載の方法で測定される中心線平均粗さが1〜10nmであることが好ましい。
【0164】
バックコート層
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して繰り返し走行性が強く要求される。このような高い保存安定性を維持させるために、非磁性支持体の磁性層が設けられた面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層用塗布液は、研磨剤、帯電防止剤などの粒子成分と結合剤とを有機溶媒に分散させることにより形成することができる。粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができる。また、結合剤としては、例えば、ニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。
【0165】
本発明の磁気テープは、磁性層、非磁性層、任意に形成されるバックコート層に加えて、平滑化層、接着層等を有することもできる。それらについては、公知技術を適用することができる。
【0166】
層構成
本発明の磁気テープにおいて、非磁性支持体の好ましい厚さは3〜80μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に上記平滑化層を設ける場合、平滑化層の厚さは例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。また、上記バックコート層の厚さは、例えば0.1〜1.0μm、好ましくは0.2〜0.8μmである。磁性層および非磁性層の厚さについては、前述の通りである。なお、本発明の磁気テープの非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気テープと実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT(100G)以下または抗磁力が7.96kA/m(100 Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0167】
製造方法
磁性層、非磁性層、バックコート層等の各層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなることが好ましい。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。各層形成用塗布液を調製するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合は、強磁性粉末または非磁性粉末100質量部に対して15〜500質量部の結合剤(但し、全結合剤の30質量%以上が好ましい)を使用して混練処理することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗布液および非磁性層用塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。ガラスビーズ以外には、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0168】
本発明の磁気テープは、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布および放射線硬化して非磁性層(放射線硬化層)を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして塗布して磁性層を形成することにより製造することができる。ここで、複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布することも可能である。
一般に、下層の非磁性層用塗布液と上層の磁性層用塗布液とを逐次で重層塗布する場合には、磁性層塗布液に含まれる溶剤に非磁性層が一部溶解する場合がある。ここで非磁性層を高い硬化性を有する放射線硬化性組成物から形成される放射線硬化層とすれば、放射線照射により非磁性層中で結合剤成分が重合・架橋し高分子量化が生じるため、磁性層塗布液に含まれる溶剤への溶解を抑制ないしは低減することができる。また、非磁性層の硬化性が高く磁性層との界面での混ざり合いを防止できることは、界面変動による磁性層表面平滑性低下および磁性層成分が非磁性層へ浸透しやすくなることによる磁性層の塗膜強度低下を抑制するうえでも有利である。この点から、非磁性層を放射線硬化層とすることは有利であり、中でも、高い硬化性を有する前記した共重合体Bを使用することが有効である。
【0169】
上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。放射線硬化層を形成する際には、塗布液を塗布して形成した塗布層を放射線照射によって放射線硬化させる。放射線照射処理の詳細は、前述の通りである。また、塗布工程後の媒体には、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダー処理)、熱収縮低減のための熱処理等の各種の後処理を施すことができる。
それらの処理の詳細については、例えば特開2009−96798号公報段落[0146]〜[0148]を参照できる。その後、作製された磁気記録媒体原反を裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して磁気テープを得ることができる。
【0170】
ところで、特許文献2では、非磁性層塗布液の塗布後、磁性層形成後の2回にわたりカレンダー処理を行っているが、このように磁性層形成前の非磁性層のカレンダー処理を行うことは、生産性の点から望ましくない。これに対し本発明によれば、非磁性層形成のために使用する放射線硬化性組成物が式(I)を満たすことによりカレンダー加工性を高めることができるため、磁性層形成前の非磁性層にカレンダー処理を施すことなく、磁性層形成後にカレンダー処理を行うことにより優れた電磁変換特性を有する磁気テープを得ることができる。このように優れたカレンダー加工性を有することの指標としては、カレンダー処理による磁性層の原子間力顕微鏡によって測定される中心面平均表面粗さRaの変化量(低下量)ΔRaを用いることができ、本発明によれば、ΔRa6.00〜7.50nmのカレンダー加工性を実現することが可能である。カレンダー処理条件については、上記特開2009−96798号公報に記載の通り、カレンダーロールの温度は60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲であり、圧力は100〜500kg/cmの範囲、好ましくは200〜450kg/cmの範囲であり、特に好ましくは300〜400kg/cmの範囲の条件が好ましい。
【0171】
以上説明した本発明の磁気テープは、非磁性層の薄層化と電磁変換特性向上を両立し得る、高容量データバックアップ用テープとして好適なものである。本発明によれば、薄層の非磁性層を有する磁気テープにおいて、原子間力顕微鏡によって測定される中心面平均表面粗さRaが1.00〜3.30nmの範囲である、高い表面平滑性を有する磁性層を実現することができる。本発明において磁性層の中心面平均表面粗さRaを測定する原子間力顕微鏡(AFM)の測定条件は以下の通りである。
装置:日本Veeco社製 Nanoscope III
モード:AFMモード(コンタクトモード)
測定範囲:40μm角
スキャンライン:512*512
スキャンスピード:2Hz
スキャン方向:媒体長手方向
【0172】
更に本発明は、本発明の磁気テープの製造方法に関する。本発明の磁気テープの製造方法は、前記放射線硬化性組成物の塗布および放射線硬化後、形成された放射線硬化層上に磁性層を形成し、次いでカレンダー処理を行うものであるが、上記磁性層形成前の非磁性層に対してカレンダー処理を行わない。これにより生産性の向上が可能となる。ここで実現されるカレンダー加工性は、前述の通り、原子間力顕微鏡によって測定される中心面平均表面粗さRaの変化量ΔRaとして、6.00〜7.50nmの範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0173】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に示す「部」、「%」は、特に示さない限り質量部、質量%を示す。なお、以下に記載する1H NMRの測定には、400MHzのNMR(BRUKER社製AVANCEII−400)を使用した。
【0174】
1.放射線硬化性塩化ビニル系共重合体の調製例および評価
【0175】
<調製例1−1>
(1)塩化ビニル系共重合体の重合
塩化ビニル:100部
アリルグリシジルエーテル:11.9部
2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート:4.1部
アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル:3.6部
ラウリル硫酸ソーダ:0.8部
水:117部
を仕込み、50℃で攪拌した。
その後、
過硫酸カリウム:0.6部
を仕込んで乳化重合を開始した。反応10時間後、重合器の圧力が2kg/cm2になった時点で冷却し、未反応塩化ビニルを回収した後、脱液、洗浄、乾燥して、共重合比(モル%)として、
塩化ビニル:93.0モル%
アリルグリシジルエーテル:4.0モル%
2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート:1.0モル%
アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル:1.0モル%
アリルグリシジルエーテルのエポキシ基が硫酸で開環した単位:1.0モル%
の塩化ビニル系共重合体(1)を得た。
【0176】
(2)放射線硬化性官能基の導入反応
2Lフラスコに、塩化ビニル系共重合体(1)の30%シクロヘキサノン溶液416g(固形分124.8g)を添加して攪拌速度210rpmで撹拌した。次いで、1,4−ベンゾキノン0.28g(2.60mol、20000ppm)を添加し撹拌溶解した。
次に、反応触媒としてジラウリン酸ジブチル錫0.125gを添加し、40〜50℃に昇温して撹拌した。次いで、放射線硬化性官能基導入成分として2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製MOI)13.75g(0.09mol)を30分かけて滴下し、滴下終了後、40℃で2時間攪拌した後、室温まで冷却して、放射線硬化性官能基(メタクリロイルオキシ基)含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(1))を含有する樹脂溶液(放射線硬化性組成物)を得た。
上記放射線硬化性官能基(メタクリロイルオキシ基)含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(1)):1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m),4.2-4.0(m), 3.9-3.1(m), 3.1-3.0(br.,s),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m), 2.0-0.7(br.,m).
【0177】
以上の工程で得られた樹脂溶液の固形分は31.0%であった。上記樹脂溶液調製後1日以内に、この溶液に含まれる放射線硬化性基含有塩化ビニル系共重合体の質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を後述の方法で求めたところ、Mw=5.1万、Mn=2.9万であった。上記放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(1))のガラス転移温度(Tg)、硫酸塩基濃度およびメタクリロイルオキシ基濃度を後述の方法で測定したところ、Tg=64℃、硫酸塩基濃度=70mmol/kg、メタクリロイルオキシ基濃度=360mmol/kgであった。
【0178】
<調製例1−2>
調製例1−1の放射線硬化性官能基の導入反応において、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの代わりに、2−(2−イソシアナートエチルオキシ)エチルメタクリレート(昭和電工製Karenz_MOI-EG)を使用した点以外は、調製例1−1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(2))の樹脂溶液を得た。得られた放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m), 4.2-4.0(br.,m), 3.9-3.1(br.,m), 3.1-3.0(br.,s),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m),2.0-0.7(br.,m).
調製例1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、硫酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0179】
<調製例1−3>
調製例1−1の放射線硬化性官能基の導入反応において、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの代わりに、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工製Karenz_AOI)を使用した点以外は、調製例1−1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(3))の樹脂溶液を得た。得られた放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m), 4.2-4.0(br.,m), 3.9-3.1(m), 3.1-3.0(br.,s),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m)、2.0-0.7(br.,m).
調製例1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、硫酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0180】
<調製例1−4>
調製例1−1の放射線硬化性官能基の導入反応において、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの代わりに、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(昭和電工製Karenz_BEI)を使用した点以外は、調製例1−1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(4))の樹脂溶液を得た。得られた放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m), 4.2-4.0(br.,m), 3.9-3.1(m), 3.1-3.0(br.,s),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m),2.0-0.7(br.,m).
調製例1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、硫酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0181】
<調製例1−5>
調製例1−1の塩化ビニル系共重合体の重合において、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレートの代わりに、2−ヒドロキシプロピルアクリレートを使用した点以外は、調製例1−1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(5))の樹脂溶液を得た。得られた放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m), 4.2-4.0(br.,m), 3.9-3.1(m), 3.1-3.0(br.,s),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m),2.0-0.7(br.,m).
調製例1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、硫酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0182】
<調製例1−6>
調製例1−1の塩化ビニル系共重合体の重合において、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレートの代わりに、2−ヒドロキシエチルメタアクリレートを使用した点以外は、調製例1−1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(6))の樹脂溶液を得た。得られた放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m), 4.2-4.0(br.,m), 3.9-3.1(m), 3.1-3.0(br.,s),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m),2.0-0.7(br.,m).
調製例1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、硫酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0183】
<調製例1−7>
調製例1−1の塩化ビニル系共重合体の重合において、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレートを使用しなかった点以外は、調製例1−1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(7))の樹脂溶液を得た。得られた放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m), 4.2-4.0(m), 3.9-3.1(m), 3.1-3.0(br.,s),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m),2.0-0.7(br.,m).
合成1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、硫酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0184】
<調製例1−8>
調製例1−1の塩化ビニル系共重合体の重合において、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレートを使用せず、放射線硬化性官能基の導入反応において、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの代わりに、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工製Karenz_AOI)を使用した点以外は、調製例1−1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(8))の樹脂溶液を得た。得られた放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m), 4.2-4.0(br.,m), 3.9-3.1(m), 3.1-3.0(br.,s),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m),2.0-0.7(br.,m).
調製例1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、硫酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0185】
<調製例1−9>
実施例1−1の塩化ビニル系共重合体の重合において、アリルグリシジルエーテルの代わりに2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のピリジン塩を使用した点以外は、調製例1−1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(9))の樹脂溶液を得た。得られた放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 9.0-7.0(br.、m)、6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m), 4.2-4.0(br.,m), 3.9-3.1(m), 3.1-3.0(br.,s),3.0-2.85(br.,m),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m)、2.0-0.7(br.、m).
調製例1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、スルホン酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0186】
<調製例1−10>
調製例1−1の塩化ビニル系共重合体の重合において、アリルグリシジルエーテルの代わりに2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩を使用した点以外は、調製例1−1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(10))の樹脂溶液を得た。得られた放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm) = 6.2-6.0 (C=C二重結合のピーク), 5.8-5.6 (C=C二重結合のピーク), 4.6-4.2(br.,m),4.2-4.0(br.,m), 3.9-3.1(br.,m), 3.1-3.0(br.,s),3.0-2.85(br.,m),2.7-2.65(br.,s),2.60-2.0(m),2.0-0.7(br.,m).
調製例1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、スルホン酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0187】
<調製例1−11>
調製例1−1の放射線硬化性官能基の導入反応において、1,4−ベンゾキノンを添加しなかった点以外は調製例1と同様の方法で放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体(具体例化合物(1))の樹脂溶液を得た。調製例1−1と同様に、平均分子量測定、Tg測定、硫酸塩基濃度、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、調製例1−1と同じ測定値が得られた。
【0188】
<比較調製例1−1>
特開2004−352804号公報記載の放射線硬化性塩化ビニル系共重合体の合成
特開2004−352804号公報段落[0040]〜[0041]に記載の方法にしたがい、特開2004−352804号公報の調製例1の樹脂(放射線硬化性塩化ビニル系共重合体)を得た。調製例1−1と同様に、放射線硬化性官能基濃度の測定を行ったところ、表1の結果が得られた。
【0189】
<放射線硬化性塩化ビニル系共重合体の評価方法>
(1)平均分子量の測定
調製例および比較調製例の各樹脂溶液中に含まれる放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体の平均分子量(Mw)を、0.3%の臭化リチウムを含有するDMF溶媒を用いてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を使用し、標準ポリスチレン換算で求めた。
(2)硫酸(塩)基濃度、スルホン酸(塩)基濃度
蛍光X線分析により硫黄(S)元素のピーク面積から硫黄元素量を定量し、放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体1kgあたりの硫黄元素量に換算し、放射線硬化性官能基含有塩化ビニル系共重合体中の硫酸(塩)基またはスルホン酸(塩)基濃度を求めた。
(3)ガラス転移温度(Tg)の測定
TOYO BALDWIN製 RHEOVIBRONVIBRONを使用し粘弾性法にて測定した。
(4)共重合体中の放射線硬化性官能基含有量
NMRの積分比より算出した。
【0190】
【表1】

【0191】
<樹脂溶液(放射線硬化性組成物)の評価方法>
(1)放射線硬化性の評価
調製例、比較調製例で得られた各樹脂溶液を、固形分濃度約20%に希釈し試料溶液とした。この試料溶液をアラミドベース上にブレード(300μm)を用いて塗布し、室温で二週間乾燥し、塗布厚み30〜50μmの塗布膜を得た。
次いでこの塗布膜に電子線照射器を用いて、10kGの強度で3回、計30kGの電子線を照射した。
次いで、電子線を照射した膜を、テトラヒドロフラン(THF)100ml中に浸漬し、60℃2時間抽出した。抽出終了後、THF100mLで膜を洗浄し、真空乾燥で140℃3時間乾燥させた。次いで、抽出終了後の(乾燥させた膜の)残分の質量をゲル分の質量とし、(ゲル分/抽出前の塗布膜の質量)×100で算出される値をゲル分率として表2に示す。ゲル分率が高いほど塗膜強度が高く放射線硬化が良好に進行したことを示す。
(2)長期保存安定性の評価
調製例で得られた樹脂溶液を23℃、密閉の条件で保存して、GPCにより得られる分子量に変化が現れるまでの日数を調べた。結果を表3に示す。
【0192】
【表2】

【0193】
【表3】

【0194】
<評価結果>
表2に示すように、調製例1−1〜1−11の樹脂溶液は、比較調製例1−1の樹脂溶液と比べて高い硬化性を示した。この結果から、一般式(1)で表される構造単位を有する放射線硬化性塩化ビニル系共重合体が高い硬化性を有することが確認できる。
また、表3に示す結果から、放射線硬化性塩化ビニル系共重合体をベンゾキノン化合物とともに含む樹脂溶液(調製例1−1〜1−10)は、優れた経時安定性を示し長期保存安定性が良好であることが確認できる。通常、長期保存安定性を高めることが可能な成分を添加すると硬化性が低下するのに対し、調製例1−1〜10では表2に示すように、放射線照射して得られた硬化膜のゲル分率が高く硬化性も良好であったことから、放射線硬化性塩化ビニル系共重合体に対してベンゾキノン化合物を使用することにより、その硬化性を損なうことなく、保存安定性を高めることができることが示された。
【0195】
2.ポリウレタン樹脂溶液の調製例
【0196】
<調整例2−1(ポリウレタン樹脂の合成)>
温度計、攪拌機、ヴィグリュー管、リービッヒ冷却器を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチルエステル190部、5−スルホイソフタル酸ジメチルエステル5.9部、プロピレングリコール152部、およびテトラブトキシチタン0.2部を仕込み200〜230℃で4時間エステル交換反応を行った。次いで10分かけて240℃まで昇温すると同時に徐々に減圧し30分間反応させ重合を終了しポリエステルポリオール(a)を得た。
得られたポリエステルポリオール(a):100部をMEK(メチルエチルケトン):37部およびトルエン:37部に溶解し、MDI(4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート):12部、ネオペンチルグリコール1部を加え、触媒としてジブチルチンジラウレート:0.05部を添加し、80℃で5時間反応させた。次いで、MEK:94部、トルエン:94部で溶液を希釈し、ポリウレタン樹脂(Tg=100℃、Mn=25000、SO3Na基濃度=87mmol/kg)を得た。
【0197】
<調整例2−2(放射線硬化性ポリウレタン樹脂の合成)>
(1)スルホン酸塩基含有ジオール化合物の合成
フラスコに、蒸留水100ml、タウリン50g(0.400mol)、和光純薬製KOH 22.46g(純度87%)を添加し、内温を50℃に昇温して内容物を完全に溶解した。
次いで、内温を40℃に冷却し、ブチルグリシジルエーテル 140.4g(1.080mol)を30分かけて滴下した後、50℃に昇温して2時間攪拌した。溶液を室温まで冷却し、トルエン100ml添加して、分液し、トルエン層を廃棄した。次いで、シクロヘキサノン400ml添加し、110℃に昇温してディーンスタークで水を除去してスルホン酸塩基含有ジオール化合物の50%シクロヘキサノン溶液を得た。生成物の1H NMRデータを以下に示す。NMR分析結果から、生成物は特開2009−96798号公報記載の例示化合物(S−31)に加えて、同公報記載の例示化合物(S−64)等、その他の化合物も含む混合物であることが確認された。
1H NMR (CDCl3): δ(ppm) =4.5(br.), 3.95-3.80 (m), 3.50-3.30 (m), 3.25-2.85 (m), 2.65-2.5 (m), 2.45-2.35(m),1.6-1.50 (5重線), 1.40-1.30 (6重線), 1.00-0.90 (3重線).
(2)放射線硬化性ポリウレタン樹脂の調製
フラスコに、4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ジフェノールのメチルオキシラン付加物(ADEKA社製BPX−1000、質量平均分子量1000)、57.50g、グリセロールメタクリレート(日本油脂社製ブレンマーGLM)6.50g、ジメチロールトリシクロデカン(OXEA社製TCDM)10.50g、上記(1)で合成したスルホン酸塩基含有ジオール化合物3.40g、シクロヘキサノン107.66g、ベンゾキノン0.24gを添加した。次いで、メチレンビス(4,1−フェニレン)=ジイソシアネート(MDI)(日本ポリウレタン社製ミリオネートMT)42.21gとシクロヘキサノン51.47gの溶液を15分かけて滴下した。次いで、ジ−n−ブチルチンラウレート0.361gを添加し、80℃に昇温して3時間撹拌した。反応終了後シクロヘキサノン121.28gを添加し、ポリウレタン樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液中の放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂の質量平均分子量を調整例1−1と同様の方法で測定したところ、3.6万であった。得られた樹脂溶液に含まれる放射線硬化性官能基含有ポリウレタン樹脂について、調整例1−1と同様の方法でスルホン酸塩基濃度、放射線硬化性官能基(メタクリロイルオキシ基)濃度の測定を行ったところ、スルホン酸塩基濃度=70mmol/kg、メタクリロイルオキシ基濃度=360mmol/kgであった。
【0198】
3.磁気テープの実施例・比較例
【0199】
<実施例1>
(1)磁性層塗布液の調製
強磁性金属粉末:100部
組成 Fe/Co=100/25
Hc 195kA/m(≒2450Oe)
BET法による比表面積 65m2/g
表面処理剤 Al23、SiO2、Y23
粒子サイズ(長軸径) 38nm
針状比 5
σs 110A・m2/kg(≒110emu/g)
トランスけい皮酸:5部
塩化ビニル共重合体 MR104(日本ゼオン社製):10部
調整例2−1で調製したポリウレタン樹脂:10部
メチルエチルケトン:150部
シクロヘキサノン:150部
α−Al23 モース硬度9(平均粒径0.1μm):15部
カーボンブラック(平均粒径0.08μm):0.5部
【0200】
上記の塗料について、各成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:0.5部
メチルエチルケトン:50部
シクロヘキサノン:50部
トルエン:3部
ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041):5部
を加えさらに20分間撹拌混合した後、超音波処理し、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
【0201】
(2)非磁性層塗布液の調製
非磁性粉末(αFe23 ヘマタイト):75部
長軸長 0.15μm
BET法による比表面積 52m2/g
pH 9
タップ密度 0.8
表面処理剤 Al23、SiO2
カーボンブラック:25部
平均一次粒子径 0.020μm
DBP吸油量 80ml/100g
pH 8.0
BET法による比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
結合剤c(塩化ビニル系共重合体(日本ゼオン社製MR104)):12部
結合剤a(調製例1−1で調製した電子線硬化性ポリウレタン樹脂):7.5部(固形分として)
メチルエチルケトン:150部
シクロヘキサノン:150部
【0202】
上記の塗料について、各成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に
ブチルステアレート:1.5部
ステアリン酸:1部
メチルエチルケトン:50部
シクロヘキサノン:50部
を加え撹拌した後、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、下層塗布層(非磁性層)用の塗布液を調製した。
【0203】
(3)バックコート層塗布液の調製
カーボンブラック(平均粒径40nm):85部
カーボンブラック(平均粒径100nm):3部
ニトロセルロース:28部
ポリウレタン樹脂:58部
銅フタロシアニン系分散剤:2.5部
ポリウレタン樹脂(日本ポリウレタン工業社製ニッポラン2301):0.5部
メチルイソブチルケトン:0.3部
メチルエチルケトン:860部
トルエン:240部
をロールミルで予備混練した後サンドミルで分散し、
ポリエステル樹脂(東洋紡績株式会社製バイロン500)4部、
ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業社製コロネート3041)14部、
α−Al23(住友化学社製)5部
を添加、攪拌濾過してバックコート層塗布液を調製した。
【0204】
(4)磁気記録媒体の作成
厚さ5μmのポリエチレンナフタレート樹脂支持体上に、接着層としてスルホン酸含有ポリエステル樹脂を乾燥後の厚さが0.05μmになるようにコイルバーを用いて塗布した。なお上記支持体としては、上記接着層を塗布した側の支持体表面においてWYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000型を用いて測定面積240μm×180μmで測定し、傾き補正および円筒補正を行った後の中心線平均粗さが0.002μmであり、空間周波数解析を行ったときの5μmの波長のPSDが3,000nm3、20μmの波長のPSDが15,000nm3である支持体を使用した。
次いで、上記の非磁性層塗布液を、乾燥後の厚さが1.0μmになるように塗布し、非磁性層塗布液の塗布層に40kGyの電子線を照射して非磁性層(放射線硬化層)を形成した。
さらにその直後にその上に磁性層の厚さが0.06μmになるように、磁性層塗布液を重層塗布し、0.4T(4000G)の磁力をもつソレノイドにより配向させ乾燥後、非磁性支持体の裏面に上記のバックコート層用塗布液を乾燥後の厚さが0.5μmとなるように塗布した。次いで金属ロールから構成される7段のカレンダーで温度100℃にて分速80m/min(カレンダ圧力300kg/cm)で処理を行い、1/2インチ幅にスリットして磁気テープを作製した。
【0205】
<実施例2>
非磁性下層に使用した塩化ビニル系共重合体を、結合剤b(調製例1−1で調製した電子線硬化性塩化ビニル系共重合体)12部(固形分として)に変更した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0206】
<実施例3〜9>
非磁性下層の非磁性粉末(αFe23 ヘマタイト)、カーボンブラックの種類および/または添加量、結合剤の添加量、非磁性下層の厚さを、表4に示すように変更した点以外、実施例2と同様の方法で磁気テープを作製した。実施例4、5で使用した非磁性粉末(αFe23 ヘマタイト)は、長軸長 0.070μm、BET法による比表面積 75m2/g、pH 9、タップ密度 0.8、表面処理剤 Al23、SiO2、であった。実施例6、7では、それぞれ表4に示すBET比表面積を有するカーボンブラックを使用した。
【0207】
<実施例10>
磁性層の磁性体を以下に変更した点以外は実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
強磁性板状六方晶フェライト粉末:100部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:176kA/m(2200Oe)、平均板径:20nm、平均板状比:3
BET比表面積:65m2/g、σs:49A・m2/kg(49emu/g)
【0208】
<実施例11>
非磁性下層に使用した塩化ビニル系共重合体を、調製例1−1で調製した電子線硬化性塩化ビニル系共重合体12部(固形分として)に変更した点以外、実施例10と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0209】
<比較例1〜10>
非磁性下層の非磁性粉末(αFe23 ヘマタイト)、カーボンブラックの種類および/または添加量、結合剤の種類および/または添加量、非磁性下層の厚さを、表4に示すように変更した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。比較例で使用した結合剤d、eとしては、以下のものを使用した。
結合剤d:電子線硬化型塩化ビニル系共重合体
塩化ビニル−エポキシ含有モノマー共重合体である日本ゼオン社製MR110(平均重合度:310、エポキシ含有量:3質量%)を2−イソシアネートエチルメタクリレートを使用してアクリル変性したもの(アクリル含有量:6モル/1モル)
結合剤e:電子線硬化型ポリウレタン樹脂
ヒドロキシ含有アクリル化合物−ホスホン酸基含有リン化合物−ヒドロキシ含有ポリエステルポリオール
質量平均分子量:23,000
P含有量:0.2質量%
アクリル含有量:8モル/1モル
【0210】
<比較例11>
カーボンブラックを添加せず、非磁性下層の非磁性粉末(αFe23 ヘマタイト)の種類および添加量、結合剤の種類および/または添加量を変更した点以外、実施例10と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0211】
評価方法
(1)非磁性層の空隙率
実施例、比較例の磁気テープについて、バックコート層を溶剤を用いて脱膜した後に非磁性層の空隙率を測定した。空隙率は、オートソーブを用いて液体窒素温度下におけるN2ガス吸着による全細孔容積を測定することで算出した。即ち、窒素を飽和吸着させた吸着曲線と飽和吸着状態から徐々に窒素分圧を低下させて行くときの脱離曲線から算出した。具体的には、表面空隙率はQUANTACHROME社製AUTOSORB-1 SORPTION SYSTEM Model. AS-1を用いて求めた。
(2)摩擦係数
温度23℃湿度50%環境下で磁性層面をAlTiC製の円柱棒に接触させて、荷重100g(T1)をかけ、巻きつけ角180°で14mm/secの摺動速度で摺動させる際に必要な張力(T2)を測定した。繰り返し10パスまで摺動を行った時の測定値を基に下記計算式で摩擦係数を算出した。また、測定時にAlTiC製の円柱棒に貼り付いたものについては、表4にて「貼り付き」と表現した。
摩擦係数 μ=1/π・ln(T2/T1)
(3)磨耗性
磁気テープの磁性層の表面を、温度23℃湿度50%の環境化でAlFeSil角柱(ECMA−288/AnnexH/H2に規定されている角柱)の長手方向と直交するように、AlFeSil角柱の一稜辺にラップ角12度で接触させ、その状態で長さ580mの該磁気テープを1.0Nの張力下において3m/秒の速さで50往復させたあとのAlFeSil角柱の磨耗幅を磨耗性として評価した。
(4)カレンダー前後の磁性層表面粗さ
カレンダー処理前後の磁性層表面について、前述の測定条件で原子間力顕微鏡によって測定される中心面平均表面粗さRaを求めた。カレンダー処理後の表面粗さRaと、ΔRa=(カレンダー処理前のRa)−(カレンダー処理後のRa)として算出される表面粗さの変化量を、表4に示す。
(5)電磁変換特性(BB−SNR)
各磁気テープのS/N比(BB−SNR)を、ヘッドを固定した1/2インチ リニアシステムで測定した。ヘッド/テ−プの相対速度は2m/secとした。記録電流は、各テープの最適記録電流に設定した。記録波長0.2μmの信号を記録し、再生信号をシバソク製スペクトラムアナライザーで周波数分析し、キャリア信号(波長0.2μm)の出力とスペクトル全域の積分ノイズとの比をS/N比とし、表4に、強磁性金属粉末(表4中、「MP」と記載)の磁気テープについては比較例1を0dBとし、六方晶フェライト粉末(表4中、「BaFe」と記載)については比較例11を0dBとした相対値で示した。

以上の結果を、表4に示す。
【0212】
【表4】

【0213】
評価結果
表4に示すように、実施例1〜11の磁気テープは、いずれも対応する比較例と比べて電磁変換特性が良好であった。これは、非磁性層を薄層化したにもかかわらずカレンダー加工性が良好(ΔRaが大きい)であったため磁性層の表面平滑性を高めることができたことに起因すると考えられる。このカレンダー加工性は、式(I)を満たす処方とすることにより非磁性層に適度な空隙が形成されたことによりもたらされたと推察される。
更に、このように適度な空隙を形成した非磁性層を有する磁気テープはクッション性が良好であるため走行時の部材の磨耗量も少なく優れた走行耐久性を示すものでもあった。なお、従来の比較的厚い非磁性層を有する磁気テープでは、このように空隙を形成すると摩擦係数が高くなり走行性が低下する傾向がある。この点は、比較例9、10において摩擦係数が高くなりすぎ貼り付きにより摩擦係数および磨耗性の評価ができなかったことにより実証されている。これに対し実施例の磁気テープでは、摩擦係数が増大することなく安定走行が可能であった。
また、併用する結合剤成分として共重合体Bを使用した実施例2〜9、11において、よりいっそうの電磁変換特性の向上が達成された理由は、第一には当該共重合体が放射線照射による硬化性に優れるため、磁性層塗布液の塗布時に該塗布液による非磁性層表面の溶解による粗面化を抑制できたことにあると推察している。さらに、上記共重合体に含まれる一般式(1)で表される構造単位中のウレタン結合が、併用するポリウレタン樹脂との親和性および非磁性層塗布液の溶媒との親和性に優れるため塗布液の安定性および非磁性粉末の分散性を高めることができたことも、電磁変換特性のよりいっそうの向上に寄与していると考えられる。
これに対し、比較例1、2、4、5および11の磁気テープは電磁変換特性が低下したが、その理由は式(I)の値が480未満であるためカレンダー加工性に劣るものであったことにあると考えられる。
比較例3は、式(I)は満たすがポリウレタン樹脂の分散性向上効果が乏しいため、カレンダー処理前のRaが高く、その結果電磁変特性が低下した。
比較例6、7は、式(I)の値が650を超えるため結合剤量が少なすぎ分散性を確保することができなかったため、電磁変換特性が低下したと考えられる。
比較例8は非磁性層が薄すぎるため電磁変換特性を確保することができなかった。
比較例9、10は電磁変換特性は良好であったが走行性が著しく低下した。これは非磁性層が厚いにもかかわらず空隙も多いため、磁性層表面への潤滑剤供給量が過剰になり摩擦が高くなりすぎたためと推察される。
以上の結果から、本発明によれば、非磁性層を薄層化した高記録容量磁気テープにおいて、優れた電磁変換特性、走行性および走行耐久性を同時に達成できることが確認できる。更に上記優れた特性を兼ね備えた磁気テープを、複数段のカレンダー処理を行うことなく得ることができるため、生産性の向上も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明の磁気テープは、高記録容量データバックアップテープとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層と強磁性粉末および結合剤を含む磁性層とをこの順に有する磁気テープであって、
前記非磁性層は、非磁性粉末および結合剤成分を含む放射線硬化性組成物を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層であって、該結合剤成分は、下記一般式(2):
【化1】

[一般式(2)中、Xは二価の連結基を表し、R101およびR102は、それぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、M1は水素原子または陽イオンを表す。]
で表されるスルホン酸塩(基)含有ポリオール化合物を原料として得られた放射線硬化性ポリウレタン樹脂を含み、
前記非磁性層の厚さは0.5〜1.3μmの範囲であり、かつ、
前記放射線硬化性組成物に含有される非磁性粉末および結合剤成分は、下記式(I):
480≦(非磁性粉末のBET比表面積(m2/g)×非磁性粉末の質量(g))/結合剤成分の質量(g)≦650
を満たすことを特徴とする磁気テープ。
【請求項2】
前記結合剤成分は、下記一般式(1)で表される構造単位を含む放射線硬化性塩化ビニル系共重合体を含む、請求項1に記載の磁気テープ。
【化2】

[一般式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、L1は下記式(2)、式(3)または下記一般式(4)で表される二価の連結基を表す。]
【化3】

[一般式(4)中、R41は水素原子またはメチル基を表す。]
【請求項3】
前記放射線硬化性塩化ビニル系共重合体は、下記一般式(5)で表される構造単位を更に含む、請求項2に記載の磁気テープ。
【化4】

[一般式(5)中、R51およびR52は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、L51は前記式(2)、式(3)または一般式(4)で表される二価の連結基を表し、L52は二価の連結基を表す。]
【請求項4】
前記放射線硬化性塩化ビニル系共重合体は、環状エーテル構造を更に含む、請求項2または3に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記放射線硬化性塩化ビニル系共重合体は、スルホン酸(塩)基および硫酸(塩)基からなる群から選ばれる極性基を更に含む、請求項2〜4のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項6】
前記非磁性層の空隙率は、25〜38体積%の範囲である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項7】
前記磁性層の厚さは、0.01〜0.10μmの範囲である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項8】
前記磁性層の原子間力顕微鏡によって測定される中心面平均表面粗さRaは、1.00〜3.30nmの範囲である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気テープの製造方法であって、
前記放射線硬化性組成物の塗布および放射線硬化後、形成された放射線硬化層上に磁性層を形成し、次いでカレンダー処理を行う、ただし、上記磁性層形成前の非磁性層に対してカレンダー処理を行わないことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項10】
前記カレンダー処理による磁性層の原子間力顕微鏡によって測定される中心面平均表面粗さRaの変化量ΔRaは、6.00〜7.50nmの範囲である、請求項9に記載の磁気テープの製造方法。

【公開番号】特開2011−192360(P2011−192360A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59340(P2010−59340)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】