説明

磁気ディスクの製造方法

【課題】近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの低浮上量のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとで、良好な磁気特性、信頼性特性を有する磁気ディスクの製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に少なくとも磁性層と保護層が設けられた磁気ディスクの製造方法であって、前記保護層はプラズマCVD法により成膜され、反跳分子散乱法を用いて測定される前記磁性層中の水素含有量が許容値となるように前記保護層の成膜条件を設定し、該設定した成膜条件により前記保護層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードディスクドライブ(以下、HDDと略記する)などの磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDDの面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚当り250Gバイトを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような所要に応えるためには1平方インチ当り400Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。HDD等に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来より商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。
【0003】
この阻害要因を解決するために、近年、垂直磁気記録方式用の磁気記録媒体が提案されている。垂直磁気記録方式の場合では、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。このような垂直磁気記録媒体としては、例えば特開2002-74648号公報に記載されたような、基板上に軟磁性体からなる軟磁性下地層と、硬磁性体からなる垂直磁気記録層を備える、いわゆる二層型垂直磁気記録ディスクが知られている。
【0004】
ところで、従来の磁気ディスクは、磁気ディスクの耐久性、信頼性を確保するために、基板上に形成された磁気記録層の上に、保護層と潤滑層を設けている(例えば特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−282238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、最近のHDDでは400Gbit/inch以上の情報記録密度が要求されるようになってきたが、限られたディスク面積を有効に利用するために、HDDの起動停止機構が従来のCSS(ContactStart and Stop)方式に代えてLUL(Load Unload:ロードアンロード)方式のHDDが用いられるようになってきた。LUL方式では、HDDの停止時には、磁気ヘッドを磁気ディスクの外に位置するランプと呼ばれる傾斜台に退避させておき、起動動作時には磁気ディスクが回転開始した後に、磁気ヘッドをランプから磁気ディスク上に滑動させ、浮上飛行させて記録再生を行なう。停止動作時には磁気ヘッドを磁気ディスク外のランプに退避させたのち、磁気ディスクの回転を停止する。この一連の動作はLUL動作と呼ばれる。LUL方式のHDDに搭載される磁気ディスクでは、CSS方式のような磁気ヘッドとの接触摺動用領域(CSS領域)を設ける必要がなく、記録再生領域を拡大させることができ、高情報容量化にとって好ましいからである。
【0007】
このような状況の下で情報記録密度を向上させるためには、磁気ヘッドの浮上量を低減させることにより、スペーシングロスを限りなく低減する必要がある。1平方インチ当り400Gビット以上の情報記録密度を達成するためには、磁気ヘッドの浮上量は少なくとも5nm以下にする必要がある。LUL方式ではCSS方式と異なり、磁気ディスク面上にCSS用の凸凹形状を設ける必要が無く、磁気ディスク面上を極めて平滑化することが可能となる。よってLUL方式のHDDに搭載される磁気ディスクでは、CSS方式に比べて磁気ヘッド浮上量を一段と低下させることができるので、記録信号の高S/N比化を図ることができ、磁気ディスク装置の高記録容量化に資することができるという利点もある。
【0008】
最近のLUL方式の導入に伴う、磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、5nm以下の超低浮上量においても、磁気ディスクが安定して動作することが求められるようになってきた。とりわけ上述したように、近年、磁気ディスクは面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式に移行しており、磁気ディスクの大容量化、それに伴うフライングハイトの低下が強く要求されている。
【0009】
また最近では、磁気ディスク装置は、従来のパーソナルコンピュータの記憶装置としてだけでなく、携帯電話、カーナビゲーションシステムなどのモバイル用途にも多用されるようになってきており、使用される用途の多様化により、磁気ディスクに求められる環境耐性は非常に厳しいものになってきている。したがって、これらの状況に鑑みると、従来にもまして、磁気ディスクの安定性、信頼性などの更なる向上が急務となっている。
【0010】
ところで、磁気ディスクの保護層は、一般的にはプラズマCVD法により形成されることが多い。しかし、プラズマCVD法による成膜プロセスにおいては、原料ガスの分解により水素が発生し、この水素が磁気ディスクの保護層及び磁性層に取り込まれることが予想される。保護層においては、水素が適当量含有されることにより、保護層の膜質を向上できるので望ましいが、それを超える水素含有量であると磁気ディスクの信頼性特性に影響を与えるものと考えられる。また、磁性層にも水素が浸透して取り込まれると、磁気特性に影響を与えるものと考えられる。しかしながら、従来は深さ方向での水素含有量の分析手段が無く、磁気ディスクの保護層、磁性層に取り込まれている水素量が具体的にはどの程度であり、それが磁気ディスクの磁気特性や信頼性特性にどの程度影響を与えているのか皆目見当がつかないのが現状であった。なお、従来はラザフォード後方散乱による分析法が知られているが、該方法では膜中に含まれる水素を検出することができない。
【0011】
本発明は、このような従来の状況に鑑みなされたもので、その目的とするところは、近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの低浮上量のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとで、良好な磁気特性、信頼性特性を有する磁気ディスクの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下の発明により、前記課題が解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
基板上に少なくとも磁性層と保護層が設けられた磁気ディスクの製造方法であって、反跳分子散乱法を用いて測定される前記磁性層中の水素含有量が許容値7原子%以下となるように前記保護層の成膜条件を設定し、該設定した成膜条件により前記保護層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【0013】
(構成2)
予め前記保護層の成膜条件が判っている磁気ディスクについて、反跳分子散乱法を用いて前記磁性層中の水素含有量を測定し、前記磁性層中の水素含有量の許容値を設定し、該設定した許容値となるように前記保護層の成膜条件を設定することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスクの製造方法。
【0014】
(構成3)
前記保護層は、プラズマCVD法により成膜される炭素系保護層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスクの製造方法。
【0015】
(構成4)
成膜前基板加熱温度、及び/又は、ガス流量を制御することにより、前記保護層の成膜条件を設定することを特徴とする請求項2又は3に記載の磁気ディスクの製造方法。
【0016】
(構成5)
前記磁性層は、少なくとも垂直磁気記録層とその上に設けられた補助記録層とからなり、該補助記録層中の水素含有量が許容値となるように前記保護層の成膜条件を設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気ディスクの製造方法。
【0017】
(構成6)
起動停止機構がロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気ディスクの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁性層中の水素含有量をモニターし、これが許容値となるように保護層の成膜条件を最適化して、水素含有量を好適に制御することができ、結果、近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの低浮上量のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとで、良好な磁気特性、信頼性特性を有する磁気ディスクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施の形態により詳細に説明する。
まず、磁気ディスクについて、概略を説明する。
【0020】
例えば高記録密度化に有効な垂直磁気記録ディスクの層構成としては、具体的には、基板に近い側から、例えば密着層、軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層(垂直磁気記録層)、保護層、潤滑層などを積層したものである。
【0021】
上記基板用ガラスとしては、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダタイムガラス等が挙げられるが、中でもアルミノシリケートガラスが好適である。また、アモルファスガラス、結晶化ガラスを用いることができる。軟磁性層をアモルファスとする場合にあっては、基板をアモルファスガラスとすると好ましい。なお、化学強化したガラスを用いると、剛性が高く好ましい。本発明において、基板主表面の表面粗さはRmaxで1nm以下、Raで0.3nm以下であることが好ましい。
【0022】
基板上には、垂直磁気記録層の磁気回路を好適に調整するための軟磁性層を設けることが好適である。かかる軟磁性層は、第一軟磁性層と第二軟磁性層の間に非磁性のスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magneticexchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することが好適である。これにより第一軟磁性層と第二軟磁性層の磁化方向を高い精度で反並行に整列させることができ、軟磁性層から生じるノイズを低減することができる。具体的には、第一軟磁性層、第二軟磁性層の組成としては、例えばCoTaZr(コバルト−タンタル−ジルコニウム)またはCoFeTaZr(コバルト−鉄−タンタル−ジルコニウム)またはCoFeTaZrAl(コバルト−鉄−タンタル−ジルコニウム−アルミニウム)とすることができる。上記スペーサ層の組成は例えばRu(ルテニウム)とすることができる。
軟磁性層の膜厚は、構造及び磁気ヘッドの構造や特性によっても異なるが、全体で15nm〜100nmであることが望ましい。なお、上下各層の膜厚については、記録再生の最適化のために多少差をつけることもあるが、概ね同じ膜厚とするのが望ましい。
【0023】
また、基板と軟磁性層との間には、密着層を形成することも好ましい。密着層を形成することにより、基板と軟磁性層との間の付着性を向上させることができるので、軟磁性層の剥離を防止することができる。密着層の材料としては、例えばTi含有材料を用いることができる。
【0024】
また、シード層は、下地層の配向ならびに結晶性を制御するために用いられる。全層を連続成膜する場合には特に必要のない場合もあるが、軟磁性層と下地層の相性如何によっては結晶成長性が劣化することがあるため、シード層を用いることにより、下地層の結晶成長性の劣化を防止することができる。シード層の膜厚は、下地層の結晶成長の制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましい。厚すぎる場合には、信号の書き込み能力を低下させてしまう原因となる。
【0025】
上記下地層は、垂直磁気記録層の結晶配向性(結晶配向を基板面に対して垂直方向に配向させる)、結晶粒径、及び粒界偏析を好適に制御するために用いられる。下地層の材料としては、面心立方(fcc)構造あるいは六方最密充填(hcp)構造を有する単体あるいは合金が好ましく、例えばRu、Pd,Pt,Titpそれらを含む合金が挙げられるが、これらに限定はされない。本発明においては、特にRuまたはその合金が好ましく用いられる。Ruの場合、hcp結晶構造を備えるCoPt系垂直磁気記録層の結晶軸(c軸)を垂直方向に配向するよう制御する作用が高く好適である。
【0026】
また、上記垂直磁気記録層は、コバルト(Co)を主体とする結晶粒子と、酸化物またはSi,Ti,,Cr,CoまたはSi,Ti,,Cr,Co酸化物を主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層を含むことが好適である。
具体的に上記強磁性層を構成するCo系磁性材料としては、非磁性物質である酸化チタン(TiO)を含有するCoCrPt(コバルト−クロム−白金)からなる硬磁性体のターゲットを用いて、hcp結晶構造を成型する材料が望ましい。また、この強磁性層の膜厚は、例えば20nm以下であることが好ましい。
【0027】
また、上記垂直磁気記録層の上部には、磁気記録層の高密度記録性と低ノイズ性に加えて、補助記録層の高熱耐性を付加できるための補助記録層を設けることが好適である。補助記録層の組成は、例えばCoCrPtBとすることができる。
【0028】
また、前記垂直磁気記録層と前記補助記録層との間に、交換結合制御層を有することが好適である。交換結合制御層を設けることにより、前記垂直磁気記録層と前記補助記録層との間の交換結合の強さを好適に制御して記録再生特性を最適化することができる。交換結合制御層としては、例えば、Ruなどが好適に用いられる。
【0029】
上記強磁性層を含む垂直磁気記録層の形成方法としては、スパッタリング法で成膜することが好ましい。特にDCマグネトロンスパッタリング法で形成すると均一な成膜が可能となるので好ましい。
【0030】
また、前記垂直磁気記録層の上に、保護層を設けることが好適である。保護層を設けることにより、磁気記録媒体上を浮上飛行する磁気ヘッドから磁気ディスク表面を保護することができる。保護層の材料としては、たとえば炭素系保護層が好適である。本発明における炭素系保護層においては、たとえば保護層の潤滑層側に窒素を含有させ、磁性層側に水素を含有させた組成傾斜層とすることが好適である。また、保護層の膜厚は3〜7nm程度が好適である。3nm未満では、保護層としての性能が低下する場合がある。また7nmを超えると、薄膜化の観点から好ましくない。
【0031】
また、前記保護層上に、更に潤滑層を設けることも好ましい。潤滑層を設けることにより、磁気ヘッドと磁気ディスク間の磨耗を抑止でき、磁気ディスクの耐久性を向上させることができる。潤滑層の材料としては、たとえばPFPE(パーフロロポリエーテル)系化合物が好ましい。潤滑層は、例えばディップコート法で形成することができる。
【0032】
本発明は、前記構成1にあるように、基板上に少なくとも磁性層と保護層が設けられた磁気ディスクの製造方法であって、反跳分子散乱法を用いて測定される前記磁性層中の水素含有量が許容値となるように前記保護層の成膜条件を設定し、該設定した成膜条件により前記保護層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法である。
【0033】
本発明者は、鋭意検討した結果、高深さ分解能を有する反跳分子散乱法を用いることにより、特に磁気ディスクの深さ方向での膜中に含まれる水素量を好適に分析可能であることを見い出した。なお、反跳分子散乱法の測定原理については、理化学文献等で知られている。
【0034】
本発明における好ましい実施の形態としては、以下が挙げられる。
(1)予め前記保護層の成膜条件が判明している1つあるいは複数の磁気ディスクについて、反跳分子散乱法を用いて前記磁性層中の水素含有量を測定する。なお、本発明において、磁性層中の水素含有量を測定する際の反跳分子散乱法における測定条件は、入射イオンN2を用い480keVで30度より入射する。入射電流は、約0.2nAとする。
【0035】
(2)前記磁性層中の水素含有量の許容値を設定する。本発明者の検討によると、良好な磁気特性を劣化させないようにするためには、磁性層中の水素含有量の許容値は、7原子%以下であることが望ましい。
(3)設定した許容値となるように前記保護層の成膜条件を設定する。
(4)設定した成膜条件により前記保護層を形成する。
【0036】
本発明において炭素系保護層を形成する場合は、特にプラズマCVD法により成膜されたアモルファス炭素保護層とすることが好ましい。プラズマCVD法により成膜することで保護層表面が均一となり密に成膜される。
【0037】
本発明者の検討によると、プラズマCVD法によって保護層を成膜する場合、例えば成膜時の基板加熱温度や、ガス流量を適宜制御することにより、原料ガスの分解による水素発生量を調整することが可能であり、結果的に保護層及び磁性層に取り込まれる水素量を制御することが可能である。
【0038】
従って、すでに判明している保護層の成膜条件とその磁気ディスクにおける磁性層中の水素含有量、および、設定した磁性層中の水素含有量の許容値を考慮して、その設定した許容値となるような保護層の最適化成膜条件、例えば成膜時の基板加熱温度や、ガス流量を設定することができる。
【0039】
磁性層は、垂直磁気記録媒体においては、上記のように、少なくとも垂直磁気記録層とその上に設けられた補助記録層とからなる構成が好ましいが、この場合、水素が浸透し得る補助記録層中の水素含有量が許容値となるように保護層の成膜条件を設定することが好適である。
【0040】
本発明により得られる磁気ディスクは、特にLUL方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクとして好適である。LUL方式の導入に伴う磁気ヘッド浮上量の一段の低下により、例えば5nm以下の超低浮上量においても磁気ディスクが安定して動作することが求められるようになってきており、超低浮上量のもとで良好な磁気特性と信頼性徳性を有する本発明の磁気ディスクは好適である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
(磁気ディスクの製造)
以下のようにして、基板上に、密着層、軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層、炭素系保護層、及び潤滑層を順次形成して、磁気ディスクを作製した。
【0042】
化学強化されたアルミノシリケートガラスからなる2.5インチ型ガラスディスク(外径65mm、内径20mm、ディスク厚0.635mm)を準備し、ディスク基板とした。ディスク基板1の主表面は、Rmaxが2.13nm、Raが0.20nmに鏡面研磨されている。
このディスク基板上に、DCマグネトロンスパッタリング法により、Arガス雰囲気中で、密着層、軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層を順次形成した。
【0043】
以下の各材料の記述における数値は組成を示すものとする。
まず、密着層として、10nmのCr-50Ti層を成膜した。
次に、軟磁性層として、非磁性層を挟んで反強磁性交換結合する2層の軟磁性層の積層膜を成膜した。すなわち、最初に1層目の軟磁性層として、25nmの(50Fe-50Co)-3Ta4Zr層を成膜し、次に非磁性層として、0.7nmのRu層を成膜し、さらに2層目の軟磁性層として、1層目の軟磁性層と同じ、(50Fe-50Co)-3Ta4Zr層を25nmに成膜した。
【0044】
次に、上記軟磁性層上に、シード層として、5nmのNiW層を成膜した。
【0045】
次に,下地層として2層のRu層を成膜した。すなわち、下地第一層として、Arガス圧0.7PaにてRuを12nm成膜し、下地第二層として、Arガス圧4.5PaにてRuを12nm成膜した。
【0046】
次に、下地層の上に、磁気記録層を成膜した。まず、垂直磁気記録層として、10nmの90(Co-10Cr-16Pt)-5SiO2-5TiO2を成膜した。次に、交換結合制御層として、0.3nmのRu層を成膜し、更にその上に磁気記録層の補助記録層として、7nmのCo-15Cr-15Pt-5Bを成膜した。
【0047】
そして次に、上記磁気記録層の上に、プラズマCVD法により、水素化ダイヤモンドライクカーボンからなる炭素系保護層を形成した。成膜時の基板加熱温度及びガス流量は所定の値に設定した。炭素系保護層の膜厚は5nmとした。
そして、真空装置から取り出し、この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)からなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmとした。
以上の製造工程により、垂直磁気記録ディスクAが得られた。
【0048】
以上のようにして得られた磁気ディスクAについて、反跳分子散乱法を用いて、上記保護層及び磁気記録層に含まれる水素量の分析を行った。なお、反跳分子散乱法による測定条件は、入射イオンN2を用い480keVで30度より入射した。入射電流は、約0.2nAとした。
【0049】
分析の結果、深さ方向に磁気記録層の補助記録層まで水素が浸透していることが判明した。そして、この補助記録層中の水素含有量は、9原子%であった。本発明者の検討によると、良好な磁気特性を劣化させないようにするためには、補助記録層中の水素含有量の許容値は、7原子%以下であると考えられるため、上記の磁気ディスクAにおける補助記録層中の水素含有量は許容値を超えていることが判明した。
【0050】
そこで、上記プラズマCVD法による炭素系保護層の成膜条件を見直し、成膜時の基板加熱温度及びガス流量を制御することにより、新たな保護層の成膜条件を設定した。このように新たに設定した成膜条件により、プラズマCVD法で炭素系保護層を形成したこと以外は、上記磁気ディスクAと同様にして、磁気ディスクBを作製した。
【0051】
得られた磁気ディスクBについて、上記と同じ反跳分子散乱法を用いて、上記保護層及び磁気記録層に含まれる水素量の分析を行ったところ、磁気記録層の補助記録層中の水素含有量は上記の許容値内であることが確認された。
【0052】
次に、以下の試験方法により、磁気ディスクB及び磁気ディスクA(参考例)の評価を行った。
(1)まず、静磁気特性の評価は、Kerr効果測定器を用いて、保磁力(Hc)を測定した結果、磁気ディスクBの保磁力Hcは4200Oe、磁気ディスクAの保磁力Hcは3500Oeであった。磁気ディスクBは、磁気ディスクAに比べて良好な静磁気特性を備えていることが分かる
【0053】
(2)次に、磁気ディスクのLUL(ロードアンロード)耐久性を評価するために、LUL耐久性試験を行なった。
LUL方式のHDD(5400rpm回転型)を準備し、浮上量が5nmの磁気ヘッドと磁気ディスクBを搭載した。磁気ヘッドのスライダーはNPAB(負圧)スライダーであり、再生素子は磁気抵抗効果型素子(GMR素子)を搭載している。シールド部はFeNi系パーマロイ合金である。このLUL方式HDDに連続LUL動作を繰り返させて、故障が発生するまでに磁気ディスクが耐久したLUL回数を計測した。
【0054】
その結果、磁気ディスクBは、5nmの超低浮上量の下で障害無く60万回のLUL動作に耐久した。通常のHDDの使用環境下ではLUL回数が40万回を超えるには概ね10年程度の使用が必要と言われており、現状では60万回以上耐久すれば好適であるとされているので、磁気ディスクBは極めて高い信頼性を備えていると言える。
また、磁気ディスクAについても同様にして、LUL耐久性試験を行なった結果、5nmの超低浮上量の下では、25万回で故障した。
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、磁性層中の水素含有量をモニターし、許容値となるように好適に制御することができるので、結果、近年の急速な高記録密度化に伴う磁気ヘッドの低浮上量のもとで、また用途の多様化に伴う非常に厳しい環境耐性のもとで、良好な磁気特性、信頼性特性を有する磁気ディスクが得られることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも磁性層と保護層が設けられた磁気ディスクの製造方法であって、
反跳分子散乱法を用いて測定される前記磁性層中の水素含有量が許容値7原子%以下となるように前記保護層の成膜条件を設定し、該設定した成膜条件により前記保護層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項2】
予め前記保護層の成膜条件が判っている磁気ディスクについて、反跳分子散乱法を用いて前記磁性層中の水素含有量を測定し、前記磁性層中の水素含有量の許容値を設定し、該設定した許容値となるように前記保護層の成膜条件を設定することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項3】
前記保護層は、プラズマCVD法により成膜される炭素系保護層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項4】
成膜前基板加熱温度、及び/又は、ガス流量を制御することにより、前記保護層の成膜条件を設定することを特徴とする請求項2又は3に記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項5】
前記磁性層は、少なくとも垂直磁気記録層とその上に設けられた補助記録層とからなり、該補助記録層中の水素含有量が許容値となるように前記保護層の成膜条件を設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の磁気ディスクの製造方法。
【請求項6】
起動停止機構がロードアンロード方式の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気ディスクの製造方法。


【公開番号】特開2010−231862(P2010−231862A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80694(P2009−80694)
【出願日】平成21年3月28日(2009.3.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(501259732)ホーヤ マグネティクス シンガポール プライベートリミテッド (124)
【Fターム(参考)】