説明

磁気ディスク用ブランク材の製造方法及び磁気ディスク用ブランク材

【課題】アルミニウム合金からなる平坦度及び耐衝撃性に優れた磁気ディスク用ブランク材の製造方法及びその製造方法によって製造された磁気ディスク用ブランク材を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法の特徴は、加圧焼鈍工程(ステップ102)において、1.5MPa以上4MPa以下の負荷荷重を負荷して加圧しながら、210℃以上280℃以下の温度(焼鈍温度)で焼鈍することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスクの基板(ブランク材)に適したアルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材の製造方法及びその製造方法によって製造された磁気ディスク用ブランク材に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクは、ハードディスク等の記憶装置の記憶媒体として用いられている。磁気ディスクの材料としては、アルミニウム合金やガラスなどが知られている。特に、モバイルパソコン等に使用されるハードディスクの材料としては、剛性が高いことから、薄く、小さく設計することが可能なガラスからなる磁気ディスク用ブランク材(ガラスブランク材)が用いられている。
【0003】
しかし、近年、ガラスブランク材の供給量不足やコスト削減のために、アルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材(以下、アルミニウムブランク材と呼ぶ)をモバイルパソコン等のハードディスクの材料として使用することが期待されている。
【0004】
アルミニウムブランク材は、鋳造、固溶化処理、熱間圧延、冷間圧延の順に処理されて作製されたアルミニウム合金板を、以下のような工程を経ることによって一般的に形成される。
(a)打抜き加工工程:アルミニウム合金板をプレスによりドーナツ状に打抜き加工する工程。
(b)加圧焼鈍工程:打抜き加工工程(a)の後に、打抜き加工によって生じた残留歪の除去や平坦度向上のために、複数枚の打抜いたドーナツ状のアルミニウム合金板を加圧しながら焼鈍を行う(以下、加圧焼鈍と呼ぶ)工程。
(c)切削加工工程:加圧焼鈍工程(b)の後に、目標の外径寸法及び内径寸法になるまでブランク外周縁部及びブランク内周縁部の端面を切削する工程。
(d)研削加工工程:切削加工工程(c)の後に、両面研削機の砥石により、目標の板厚になるまで研削する工程。
(e)めっき処理工程:研削加工工程(d)の後に、めっき前処理を施し、Ni−Pのめっき層を形成する工程。
【0005】
上述したように、アルミニウムブランク材は、アルミニウム合金板の上にNi−Pめっき層が形成されているだけで、ガラスブランク材に比較すると剛性が低く、加工による歪が出来やすく、そのため平坦性の悪いアルミニウムブランク材が出来てしまうことがあった。特に、モバイルパソコン等のハードディスクのように、アルミニウムブランク材をより薄く、小さく設計する必要がある場合には、平坦性の問題が顕著に表れていた。
【0006】
このような平坦性の悪化の問題を解決するために、焼鈍処理(昇温し、高温加熱後、降温する焼鈍方法)により、アルミニウムブランク材の歪を矯正して、優れた平坦性を得る方法が、一般的に知られている。
【0007】
例えば、特許文献1では、加圧焼鈍工程において、390〜600℃の温度に加熱して、11×10−4〜75×10−4N/mmの荷重を負荷することで、優れた平坦性を得る方法が提案されている。また、特許文献2では、加圧焼鈍工程において、昇温速度を0.5〜150℃/秒、到達温度を380〜540℃、保持時間を0〜900秒、負荷荷重を10×10−4〜75×10−4N/(mm・枚)の条件で、荷重負荷を行いながら急速昇温をし、所定時間保持後に荷重除荷し、降温することによって、優れた平坦性を得る方法が提案されている。また、特許文献3では、アルミニウムブランク材をスペーサで挟み、更に上下の定盤で挟み込んで300〜400kgの荷重を負荷しながら350℃で5時間保持後、常温まで冷却する加圧焼鈍の際に、上下の定盤とスペーサとの間に皿ばねを間挿させることによって平面性の優れたアルミニウムブランク材を製造する製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−117825号公報
【特許文献2】特開平6−145928号公報
【特許文献3】特開平6−235052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような従来の方法によって作製されたアルミニウムブランク材は、アルミニウムブランク材を高温で焼鈍するために、アルミニウムブランク材の耐力が低下してしまい、モバイルパソコン等のハードディスクとして使用するのに十分な耐衝撃性が得られないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、アルミニウム合金からなる平坦性及び耐衝撃性に優れた磁気ディスク用ブランク材の製造方法及びその製造方法によって製造された磁気ディスク用ブランク材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した従来の問題点を解決すべく下記の発明を提供する。
本発明の第1の態様にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法は、Mgを3.0〜6.0質量%含有し、残部がAlおよび不純物であるアルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材の製造方法であって、前記磁気ディスク用ブランク材に対して、1.5MPa以上4MPa以下の負荷荷重を負荷して加圧しながら、210℃以上280℃以下の焼鈍温度で焼鈍する加圧焼鈍工程を備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の態様にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法は、本発明の第1の態様にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法において、前記加圧焼鈍工程が、前記磁気ディスク用ブランク材を複数枚毎にフラットな中間スペーサを介して積層し、全ての前記磁気ディスク用ブランク材及び全ての前記中間スペーサをフラットな最下位スペーサと最上位スペーサとで挟み、更に、前記最上位前記スペーサ、全ての前記磁気ディスク用ブランク材、全ての前記中間スペーサ及び前記最下位スペーサを、上定盤と下定盤とで挟んだ状態で、前記上定盤の上に配置されたばね下板とばね上板との間に挟まれた耐熱コイルばねを介して、負荷荷重を前記磁気ディスク用ブランク材に負荷して加圧しながら、焼鈍することを特徴とする。
【0013】
本発明の第1の態様にかかる磁気ディスク用ブランク材は、Mgを3.0〜6.0質量%含有し、残部がAlおよび不純物であるアルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材であって、本発明の第1または2の態様にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法によって製造されることを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の態様にかかる磁気ディスク用ブランク材は、本発明の第1の態様にかかる磁気ディスク用ブランク材において、平坦度が5μm以下で、かつ、JIS Z2201の試験片を用いてJIS Z2241引張試験によって測定した0.2%耐力が200N/mm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた平坦性を有するとともに、耐衝撃性に優れたアルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材(アルミニウムブランク材)を製造することが出来る。また、ガラスブランク材の替わりに、本発明の方法によって製造されたアルミニウムブランク材を、モバイルパソコン等のハードディスクとして使用するによって、ハードディスクの加工コストを低減することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法の一例を説明するためのフローチャート図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法における加圧焼鈍工程の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本実施の形態における記述は、本発明にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における磁気ディスク用ブランク材の製造方法の細部構成等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0018】
図1は、本発明の実施形態にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法の一例を説明するためのフローチャート図である。
図1に示すように、本発明の実施形態にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法は、まず、鋳造、固溶化処理、熱間圧延、冷間圧延の順に処理されて製造されたアルミニウム合金板をプレスによりドーナツ状に打抜き加工する(ステップ101:S101)。ここで、アルミニウム合金板におけるMgの含有量は、3.0〜6.0質量%(3.0質量%以上で6.0質量%以下)であり、更に好ましくは、3.5〜5.0質量%である。アルミニウム合金において、Mgは、磁気ディスク用ブランク材の材料に適した機械的強度を向上させるのに最も有効な元素であり、3.0質量%未満では、十分な機械的強度を得られず、また、6.0質量%を超えると熱間圧延時に割れが生じやすいためである。
【0019】
次に、複数枚のドーナツ状に打抜き加工されたアルミニウム合金板(以下、アルミニウムブランク材と呼ぶ)に対して、1.5〜4MPa(1.5MPa以上4MPa以下)の負荷荷重を負荷して加圧しながら、210〜280℃(210℃以上280℃以下)の温度(焼鈍温度)で焼鈍する(ステップ102:S102)。例えば、焼鈍は、210〜280℃の焼鈍温度まで昇温した後、その温度を約1時間保持し、その後、常温(約20℃)まで空冷する。生産性を考えると、焼鈍温度の保持時間は、長い時間を望まず、製造プロセスの流れから、1時間以内とすることが望ましい。
【0020】
ステップ102の加圧焼鈍工程の後に、目標の外径寸法及び内径寸法になるまで、アルミニウムブランク材の外周縁部(ブランク外周縁部)及び内周縁部(ブランク内周縁部)の端面を切削する(ステップ103:S103)。次に、切削加工されたアルミニウムブランク材の両面を、両面研削機の砥石により、目標の板厚になるまで研削する(ステップ104:S104)。
【0021】
最後に、研削加工されたアルミニウムブランク材に対して、めっき前処理を施し、アルミニウムブランク材の表面にNi−Pのめっき層を形成する(ステップ105:S105)ことにより、アルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材(アルミニウムブランク材)を形成する。
【0022】
本発明の実施形態にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法の特徴は、加圧焼鈍工程(ステップ102)において、1.5〜4MPaの負荷荷重を負荷して加圧しながら、210〜280℃の焼鈍温度で焼鈍することである。
【0023】
焼鈍温度を280℃以下にするのは、焼鈍したときにアルミニウムブランク材を完全結晶粒の組織にしないためである。アルミニウムブランク材において、完全結晶粒になっていない組織(以下、加工結晶粒組織と呼ぶ)は、塑性変形がおきにくく、引張り強度、0.2%耐力(材料の伸びが0.2%に達したときの引張り強度)、硬度が大きくなる。従って、耐衝撃性の優れたアルミニウムブランク材を形成することが出来る。そのため、焼鈍温度を再結晶温度未満である280℃以下とした。
【0024】
また、焼鈍温度を210℃以上にするのは、210℃未満にすると、圧延時やステップ101の打抜き工程による残留応力を焼鈍によって除去することが出来ず、磁気ディスク用ブランク材として使用可能な十分な平坦度を得ることが出来ないためである。また、210℃未満にすると、積層されたアルミニウムブランク材が割れてしまうこともあるためである。
【0025】
負荷荷重を1.5〜4MPaにするのは、負荷荷重を負荷してアルミニウムブランク材の平坦度を矯正する際に、1.5MPa未満であると、負荷荷重が小さすぎて、磁気ディスク用ブランク材として使用可能な十分な平坦度となるように矯正出来ないためであり、4MPaを超えると、負荷荷重が大きすぎて却って平坦性を悪くしてしまうためである。
【0026】
次に、図1のステップ102の加圧焼鈍工程の具体例について説明する。図2は、本発明の実施形態にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法における加圧焼鈍工程の一例を説明するための図である。
【0027】
図2に示すように、アルミニウムブランク材3を複数枚毎にフラットな中間スペーサ2cを介して積層して、全ての磁気ディスク用ブランク材3及び全ての中間スペーサ2cをフラットな最上位スペーサ2aと最下位スペーサ2bとで上下から挟み、更に、最上位スペーサ2aの上に上定盤1aを、最下位スペーサ2bの下に下定盤1bを配置して、最上位スペーサ2a、最下位スペーサ2b、全ての中間スペーサ2c及び全てのアルミニウムブランク材3を、上定盤1aと下定盤1bで上下から挟んだ状態にする。更に、上定盤1aの上にばね下板5bを配置し、ばね下板5bとばね上板5aとの間に耐熱コイルばね4を挟み、1.5〜4MPaの負荷荷重が負荷されるように耐熱コイルばね4を圧縮した状態にして、下定盤1bに植設されて、最下位スペーサ2b、アルミニウムブランク材3、中間スペーサ2c、最上位スペーサ2a、上定盤1a及びばね下板5bを貫通して、ばね上板5a上に突出したボルト6を、ナット7で固定する。加圧焼鈍工程は、アルミニウムブランク材3を上述した状態で、210〜280℃の焼鈍温度に昇温し、焼鈍温度で約1時間保持し、その後、常温(約20℃)まで空冷する。
【0028】
アルミニウムブランク材3の温度変化に伴い、負荷荷重の変化をなるべく小さく抑える必要があると考え、図2に示したように、上定盤1aに負荷荷重を直接負荷するのではなく、SUS631J1(JIS G6341)またはSWOSC−V相当の耐熱コイルばね4を介して負荷荷重を負荷した。この耐熱コイルばね4の特徴としては、高温300℃から常温20℃までの横弾性係数の変化率は15%以下である。耐熱コイルばね4を介して負荷荷重を負荷することにより、焼鈍温度によって熱膨張率の異なるアルミニウムブランク材3に対して安定的に(均一に)負荷荷重を負荷することが出来る。
【0029】
上述した本発明の実施形態にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法によって製造された、Mgを3.0〜6.0質量%含有し、残部がAlおよび不純物であるアルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材は、平坦度が5μm以下で、かつ、JIS Z2201の試験片を用いてJIS Z2241引張試験によって測定した0.2%耐力が200N/mm以上であり、磁気ディスク用ブランク材として使用するのに十分な表面強度(耐衝撃性)と十分な平坦度を有している。尚、上記では耐衝撃性の評価として0.2%耐力を用いているが、0.2%耐力に限らず、0.2%耐力に対応する引張り強度、伸び率、表面硬度等の値によって、磁気ディスク用ブランク材として使用するのに十分な耐衝撃性を規定することも可能である。
【0030】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる磁気ディスク用ブランク材の製造方法によって、優れた平坦性を有するとともに、耐衝撃性に優れたアルミニウムブランク材を製造することが出来る。また、ガラスブランク材の替わりに、本発明の方法によって製造されたアルミニウムブランク材を、モバイルパソコン等のハードディスクとして使用するによって、ハードディスクの加工コストを低減することが出来る。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 外径φ66mm、内径φ19mm、板厚1mmのドーナツ状に打抜き加工されたアルミニウムブランク材を使用して、図2に示した方法によって、表1に示す負荷荷重を負荷して加圧しながら、表1に示す焼鈍温度まで昇温した後、この温度で1時間保持し、その後、常温まで空冷して、本発明の実施例1〜20にかかるアルミニウムブランク材と、比較例1〜52にかかるアルミニウムブランク材とを作製した。
【0032】
尚、全負荷荷重(kgf)は、外径φ66mm、内径φ19mm、板厚1mmのドーナツ状に打抜き加工されたアルミニウムブランク材に負荷された荷重であり、負荷荷重(MPa)は、単位面積(1mm)当たりに負荷された荷重を示している。また、図2の耐熱コイルばね4として、負荷荷重が0.02〜1.50PMaのときは、SUS631J1の耐熱コイルばね4を使用し、負荷荷重が2.00〜4.00PMaのときは、SWOSC−V相当の耐熱コイルばね4を使用した。また、負荷荷重が4.5MPa以上のときは、負荷荷重を負荷する耐熱コイルばね4がないため、耐熱コイルばね4を介さずにトルクレンチでナット7を締め付けて負荷荷重を負荷した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示した本発明の実施例1〜20にかかるアルミニウムブランク材と、比較例1〜52にかかるアルミニウムブランク材について、0.2%耐力(N/mm)及び平坦度(μm)を測定した。測定した0.2%耐力(N/mm)及び平坦度(μm)のそれぞれの結果を表2及び表3に示す。
【0035】
尚、表2及び表3に示すマトリックスは、本発明の実施例1〜20にかかるアルミニウムブランク材と、比較例1〜52にかかるアルミニウムブランク材の測定結果であり、表1のマトリックスに対応する。また、表2においては、0.2%耐力が200(N/mm)以上のときを「○」とし、それ以外の値を「×」として記載している。また、表3においては、平坦度が5.0(μm)以下のときを「○」とし、それ以外の値を「×」として記載している。
【0036】
また、0.2%耐力(N/mm)の測定は、試験片としてJIS Z2201の引張用試験片を用いて、インストロン社製引張試験機によりJIS Z2241引張試験にて測定した。また、平坦度(μm)は、外径φ66mm、内径φ19mm、板厚1mmのドーナツ状に打抜き加工されたアルミニウムブランク材を試験片として用いて、Zygo非接触平坦度測定機により測定した。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
表2及び表3に示すように、本発明の実施例1〜20にかかるアルミニウムブランク材は、磁気ディスク用ブランク材として使用するのに十分な0.2%耐力を規定する200(N/mm)以上の範囲で、かつ、磁気ディスク用ブランク材として使用するのに十分な平坦度を規定する5.0(μm)以下の範囲を満たした結果となった。
【0040】
一方、比較例1〜52にかかるアルミニウムブランク材において、負荷荷重が1.5MPa未満の場合、負荷荷重が1.5〜4MPaの場合に比較して、平坦度が大きくなり平坦性が悪い結果となった。また、負荷荷重が4.0MPaを超える場合、負荷荷重が1.5〜4MPaの場合に比較して平坦度が大きくなり平坦性が悪い結果となった。また、焼鈍温度が310°以上の場合、磁気ディスク用ブランク材として使用するのに十分な0.2%耐力を規定する200(N/mm)以上の範囲から外れてしまう結果となった。また、焼鈍温度が210°未満の場合、焼鈍温度が210〜280°の場合に比較して、平坦度が大きくなり平坦性が悪い結果となった。
【0041】
上述の結果から、1.5MPa以上4MPa以下の荷重を負荷して加圧しながら、210℃以上280℃以下の焼鈍温度で焼鈍する加圧焼鈍工程を備えることによって、優れた平坦度を有するとともに、耐衝撃性に優れたアルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材(アルミニウムブランク材)を製造出来ることがわかった。
【0042】
尚、アルミニウムブランク材の耐衝撃性を測る測定値として、0.2%耐力の測定値のほかに引張り強度、伸び率、表面硬度等の測定値が考えられる。表4は、負荷荷重が2.80MPaのときの焼鈍温度の変化に対する0.2%耐力(N/mm)、引張り強度(N/mm)、伸び率(%)及び表面硬度(Hv)の測定結果である。
【0043】
【表4】

【0044】
表4に示すように、焼鈍温度の変化に対する引張り強度の変化及び焼鈍温度の変化に対する表面硬度の変化は、焼鈍温度が小さくなるにつれて引張り強度及び表面硬度が大きくなる。また、焼鈍温度の変化に対する伸び率は、焼鈍温度が小さくなるにつれて伸び率が小さくなる。即ち、焼鈍温度が小さくなるにつれて、0.2%耐力の結果と同様に、耐衝撃性が強くなる傾向を示している。従って、0.2%耐力に限らず、0.2%耐力に対応する引張り強度、伸び率、表面硬度の値によって、磁気ディスク用ブランク材として使用するのに十分な耐衝撃性を規定することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1a : 上定盤
1b : 下定盤
2a : 最上位スペーサ
2b : 最下位スペーサ
2c : 中間スペーサ
3 : アルミニウムブランク材
4 : 耐熱コイルばね
5a : ばね上板
5b : ばね下板
6 : ボルト
7 :ナット



【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを3.0〜6.0質量%含有し、残部がAlおよび不純物であるアルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材の製造方法であって、
前記磁気ディスク用ブランク材に対して、1.5MPa以上4MPa以下の負荷荷重を負荷して加圧しながら、210℃以上280℃以下の焼鈍温度で焼鈍する加圧焼鈍工程を備えていることを特徴とする磁気ディスク用ブランク材の製造方法。
【請求項2】
前記加圧焼鈍工程は、
前記磁気ディスク用ブランク材を複数枚毎にフラットな中間スペーサを介して積層し、全ての前記磁気ディスク用ブランク材及び全ての前記中間スペーサをフラットな最下位スペーサと最上位スペーサとで挟み、更に、前記最上位前記スペーサ、全ての前記磁気ディスク用ブランク材、全ての前記中間スペーサ及び前記最下位スペーサを、上定盤と下定盤とで挟んだ状態で、前記上定盤の上に配置されたばね下板とばね上板との間に挟まれた耐熱コイルばねを介して、負荷荷重を前記磁気ディスク用ブランク材に負荷して加圧しながら、焼鈍することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク用ブランク材の製造方法。
【請求項3】
Mgを3.0〜6.0質量%含有し、残部がAlおよび不純物であるアルミニウム合金からなる磁気ディスク用ブランク材であって、請求項1または2に記載の磁気ディスク用ブランク材の製造方法によって製造されることを特徴とする磁気ディスク用ブランク材。
【請求項4】
平坦度が5μm以下で、かつ、JIS Z2201の試験片を用いてJIS Z2241引張試験によって測定した0.2%耐力が200N/mm以上であることを特徴とする請求項3に記載の磁気ディスク用ブランク材。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−123884(P2012−123884A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276406(P2010−276406)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】