磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法
【課題】 実行処理の高速化と記憶スペースの削減とを図りつつ、HDDにおけるRROの影響を最小限にする。
【解決手段】 トランスデューサ13からの位置信号75は、基準位置信号70と加算(引算)され、位置エラー信号(PES)80が得られる。PES80は、現サーボウェッジにおける現補正の実行のために制御部60に入力されると共に、フィードフォワードアルゴリズム部50にも入力される。フィードフォワードアルゴリズム部50は、RROのみに起因するトランスデューサ位置ずれ分を示すフィードフォワード値を反復合算により算出し、その結果を、その次のサーボウェッジ用のフィードフォワードRRO補正項として出力する。このフィードフォワードRRO補正項は、制御部60から出力される補償出力と加算され、その加算結果100が、制御信号としてプラント200のボイスコイルモータに供給される。
【解決手段】 トランスデューサ13からの位置信号75は、基準位置信号70と加算(引算)され、位置エラー信号(PES)80が得られる。PES80は、現サーボウェッジにおける現補正の実行のために制御部60に入力されると共に、フィードフォワードアルゴリズム部50にも入力される。フィードフォワードアルゴリズム部50は、RROのみに起因するトランスデューサ位置ずれ分を示すフィードフォワード値を反復合算により算出し、その結果を、その次のサーボウェッジ用のフィードフォワードRRO補正項として出力する。このフィードフォワードRRO補正項は、制御部60から出力される補償出力と加算され、その加算結果100が、制御信号としてプラント200のボイスコイルモータに供給される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、記録再生トランスデューサ(磁気ヘッド)の位置を案内するためのサーボ情報が記録された回転磁気ディスクを内蔵する磁気記録装置に係わり、特に、リピータブルランアウト(RRO;反復性心振れ)の影響をキャンセルするためにサーボ情報を最適化することが可能な磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示したように、ハードディスクドライブ11の回転可能なスピンドルに装着された一般的な磁気ディスク1は、アクチュエータアッセンブリ14に搭載された磁気記録再生ヘッドとしての記録再生トランスデューサ(以下、単にトランスデューサという。)13によってデータの読み書きが可能な同心円環状の複数のトラック17によって特徴付けられる。トランスデューサ13がデータの読み書きを行いながら上記のような円形トラック17に正確に追従するためには、すなわち、ディスクの回転中にディスク半径方向におけるトランスデューサ位置をトラック17の中心線の上方に保つためには、トランスデューサを、ディスク上の様々な位置に位置合わせできるようにすることが必要である。そのような位置合わせは、通常、閉ループのサーボ制御機構(図示せず)によって行われる。
【0003】
このサーボ制御機構は、トラック上の実際のトランスデューサ位置を示す信号を入力として、トランスデューサが実際に位置すべき位置(通常は、トラックの半径方向中心線)を求め、目標位置と実際位置との差に関連した補正量をフィードバックし、この補正量を用いてトランスデューサを再位置合わせするものである。目標位置と実際位置との差によって生成される信号は、位置エラー信号PESと呼ばれる。この信号は、その性質上、通常はディジタル信号であることから、DSP(ディジタル信号プロセッサ)によって処理されて補正信号が得られる。この補正信号はDAC(ディジタルアナログコンバータ)に供給されて対応するアナログ信号に変換され、さらにボイスコイルアクチュエータ(VCA)に送られる。このVCAにより、トランスデューサは最終的に必要な位置へ再位置合わせされる。
【0004】
このような機構によって得られるPESは、ディスクに書き込まれた、サーボデータと呼ばれるデータを用いて求められる。このサーボデータは、円形の各トラック上に周期的に繰り返し配置された小さな角度幅をもつサーボウェッジ(角度楔)16に記録されている。図1では、そのようなサーボウェッジを2つだけ図示している。ここでは、簡単のため、サーボウェッジを矩形形状に図示している。サーボデータは、半径方向および円周方向の両方において、各サーボウェッジ内で互いに分離された磁気的遷移(微小な磁化変化)のバーストの形をとる。
【0005】
ディスクが回転してトランスデューサが各サーボウェッジ(サーボセクタとも呼ばれる)の上を通過すると、トランスデューサは、バーストに対する自分の相対位置を読み取り、それらから等距離でなかったときに、トラック中心線からのずれを示すようになっている。トランスデューサとトラック中心線との距離は位置エラー信号としてサーボ制御機構にフィードバックされ、トランスデューサの位置補正に用いられる。サーボ制御機構は、PESを求めて補正値を算出し、これをDACに送るようになっているが、その位置エラー補正能力は、有限なものであり、かつ周波数依存性を有する。したがって、トランスデューサから得られた、トラック中心線からのずれを示す信号が、(ずれ量対サーボウェッジ位置の関数としての)複雑な振動波形であると、閉ループサーボ制御機構がトランスデューサの位置合わせミスを適切に補正することができない。
【0006】
サーボ制御機構が、複雑な振動に対するトラッキングをしなくても済むようにする方法として、可能であれば、そのような振動から規則的成分を除去する方法がある。以下に説明するように、サーボ制御機構が追従しなければならない振動には、概して2つの成分がある。
【0007】
1.ある振動周波数または周波数の組み合わせにおいて規則的に繰り返す成分であり、ディスクの回転周波数と関連するもの
2.ランダムで規則性のないもの
【0008】
第1の成分は、リピータブルランアウト(RRO;反復性の心振れ)と呼ばれ、第2の成分は、ノンリピータブルランアウト(NRRO;非反復性の心振れ)と呼ばれる。
【0009】
理想的には、円形状の各トラックは、ディスクを回転させるドライブスピンドルと同心であって、かつ、ハードディスクドライブの動作中において同心状態に保たれるべきである。もしもこのような理想状態であったならば、PESはゼロであり、閉ループサーボ制御機構は、トランスデューサ位置の補正を行わないであろう。しかしながら、実際には、トラックは同心ではなく、したがって、補正を行わなければならない。このような同心性の欠如には、多くの理由がある。その主要な理由としては、トラックとスピンドルとの同心性が欠けていることや、トラックが真円から外れていること等がある。この結果、ディスク回転中に、トラックがスピンドルの周りで偏心運動をすることになる。
【0010】
図2は、名目上、磁気ディスク1の中心がスピンドル12の中心と一致している状態を表すものである。いくつかの不特定の回転ずれによって、実際上、ディスクは、ずれた中心14の周りを回転することになる。その結果、トランスデューサは、本来は同心のトラック17上をトラッキングすべきところ、破線15に沿ってトレースすることになる。トランスデューサの破線軌道が、交差点16a,16b等においてサーボウェッジ16を通過するとき、サーボ制御機構は、トランスデューサをトラック17へと戻すために移動させようとする。1周期にわたってトランスデューサを固定点で観測すると、振動運動が観測される。そのようなトランスデューサの振動が起きる他の原因としては、ディスクの滑り、ディスクの反り、およびサーボデータの書き込みが不十分であること等があげられる。トラック偏心の影響は、問題なことではあるが、それは周期的なものである点で利点となる特徴であり、上記したように、決まったRRO成分として現れる。
【0011】
円形のトラック内にある任意のディスク上の点は、空間に固定された別の点に対する相対的な動きとして規定することができる。RROによって生ずる問題は、ハードディスクトランスデューサが上記の点の動きに追従しようとすることに起因する。RROが周期的であることから、後述するいくつかの手法のいずれかを用いることによって、それを除去することも可能である。位置エラーの他の要因として、ノンリピータブルランアウトと呼ばれるものがある。これは、様々なランダムな周囲の影響がディスクの動きに加わることによって生ずるものであり、容易に除去できるものではない。しかしながら、もしもRROの影響を十分になくすことができるのであれば、サーボ制御機構によってNRROに対する補正を行うことが容易となるのは明らかである。
【0012】
もしもRROがわずかであれば、閉ループサーボ制御機構を用いることによって、それを補償することが可能である。しかしながら、もしも、RROが、ディスクドライブの製造パラメータによって決まる所定の許容限度を超えるものであると、サーボ制御機構は、それを完全には補正することができず、ディスクドライブは正常に動作しない。
【0013】
RROを補償するための方法のひとつとして、各サーボセクタにあるRRO量を予め決めておき、ディスクドライブの使用に先立って、それらの全サーボセクタに関する情報(RRO量)を一括してサーボ機構に供給するというやり方がある。これは、サーボウェッジ“n”の位置で行われた計算に基づいて得られた、トランスデューサがサーボウェッジ“n+1”の位置に達したときのトランスデューサ予想位置に関するデータを記憶するためのアレイにデータを入力することにより、実現することができる。こうして、トランスデューサがサーボウェッジ“n”にあるときに、トランスデューサが今まさに位置合わせされようとしているところの位置が補正される。これは、スタティックフィードフォワード補償と呼ばれる。これに代えて、フィードフォワード補償をドライブ使用中の様々な時点で行うようにしてもよく、これは、適応フィードフォワード補償と呼ばれる。
【0014】
これらの補償されたRRO値をサーボ制御機構に供給(例えば、それらの値をアレイに格納)すると、サーボ制御機構は、それらの格納されたRRO値を、いわば正常なものとみなし、それらの補正を行おうとはしないであろう。もちろん、ディスクドライブの動作中に生ずる任意の量のNRROは、この格納されたRROに関連して求められ、そのような別の位置ずれのPESは、サーボ制御機構による作用を受ける(処理される)であろう。
【0015】
RROの補償のためにシステムにフィードフォワードすべきPESの値を適切に決定するのは、簡単なことではない。システムがただ単に運転され各トラック上の選択されたポイントでPES値の測定が行われた場合、そのシステムにより測定されたPES値は、RROだけではなく他のすべての位置ずれ成分をも含んでいるであろう。
【0016】
摂動(perturbing)としての他の位置ずれ成分を無視してRRO成分のみを求める方法として、PESの波形を、数回にわたるディスク回転の回転角度の関数として求め、それらの結果の平均をとる方法がある。NRRO成分は、その性質上ランダムなものなので、PESの平均をとることにより、NRRO成分の影響を取り除くことができる。一旦、その平均振動波形が求まれば、その波形の高調波成分を分析することができる。そうした高調波分析によって、ディスク回転周波数の様々な倍数のRRO成分を明らかにすることができるであろう。
【0017】
上記のような高調波分析に先立って回転平均化を行うようにすると、サーボ機構を低バンド幅状態に設定することによってNRRO成分を可能な限りまで十分に取り除くことができ、アクチュエータ搭載トランスデューサの、ランダムな影響に対する感度を低くすることができる。本発明者Drouinは、特許文献1において、フーリエ変換および逆変換を用いてRRO波形の様々な周波数成分の影響を特定し補償するようにしたRRO補償方法を開示している。なお、この特許文献1の内容は、本出願にもそっくりそのまま組み入れられている。そのようなアルゴリズムおよび手法についての他の態様を開示した別の多数の先行技術(特許文献2〜9)が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5,550,685号
【特許文献2】米国特許第6,700,728号
【特許文献3】米国特許第7,042,827号
【特許文献4】米国特許第5,854,722号
【特許文献5】米国特許第6,999,267号
【特許文献6】米国特許第6,826,006号
【特許文献7】米国特許第6,924,959号
【特許文献8】米国特許第7,196,864号
【特許文献9】米国特許第7,286,317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1の方法は、補償すべき個々の周波数の特定と、特定された各周波数ごとの大規模な計算と、フーリエ変換アルゴリズムの適用とを必要とする。したがって、この方法は、多くの記憶容量を要し処理時間のかかる演算集約的な手法である。
【0020】
Smith らによる特許文献2には、PES値の平均値を用いるフィードフォワードシステムが開示されている。このシステムは、特に、極端な値によってRRO補償試行に悪影響を与えるようなPES異常値を補正する技術に関するものである。
【0021】
Cho らによる特許文献3には、ディスクドライブを様々なスピードで回転させることにより、フィードフォワード値を計算する方法が開示されている。
【0022】
Cunninghamらによる特許文献4は、サーボセクタ間のフィードフォワード補正信号について開示している。より詳細には、この技術は、アクチュエータがディスク表面に沿ってトラッキングをする際にアクチュエータアームが弧状のパスを描くことの影響を補償する方法に関するものである。
【0023】
Melkote らによる特許文献5には、各セクタについて予め得た値と、各セクタおよび隣接セクタについて得たPESとを用いて、各サーボセクタについてRRO補償を繰り返し行うことが開示されている。
【0024】
Melkote らによる特許文献6には、各サーボウェッジの値に基づいてRROキャンセル値を計算する方法が開示されている。
【0025】
Melkote らによる特許文献7には、現在のPES値と以前のRRO評価結果とに基づいてRRO値を評価する方法が開示されている。
【0026】
Yiらによる特許文献8は、RRO較正中においてPES値を処理する第1のサーボループ補償器について開示している。
【0027】
Liらによる特許文献9は、ディスク上での情報読出間隔のタイミングを測定することによりRROの補償を行うことを開示している。
【0028】
しかしながら、上記の各技術のいずれにおいても、計算時間と記憶スペースが少なくて済み、正確かつ簡単にRROの影響を除去し得るものはなかった。
【0029】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、RROの影響を最小限にすることができる磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法を提供することにある。
【0030】
また、本発明の第2の目的は、優れた性能をもたらすものでありながら、必要とするプロセッサリソースや演算回数が少なくて済む簡単なアルゴリズムを適用することによって上記第1の目的を達成することができる磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の上記目的は、計算量を最小限化したアルゴリズムを適用して実行する手法によって達成される。すなわち、この手法の特徴は、高速な実行時間を確保し得ると共に、少ないプロセッサコードと最小限のデータメモリ空間しか必要としない点にある。
【0032】
本発明の磁気ハードディスクドライブは、半径方向に間隔をもって複数(第1の数)の円環状のデータトラックが形成されると共にこれらのデータトラックを半径方向に沿って複数(第2の数)のゾーンに分割することにより各データトラックが1つのゾーンに属するように構成され、かつ、半径方向位置およびトラック内角度位置を規定する埋め込み情報であるサーボデータを含む小さい角度幅の複数(第3の数)のサーボウェッジが、各データトラックの円周上に規則的な間隔をもって配置された磁気ハードディスクと、磁気ハードディスクが搭載されるモータ駆動回転スピンドルと、移動自在なアクチュエータアッセンブリと、アクチュエータアッセンブリに搭載され、このアクチュエータアッセンブリの移動によって磁気ハードディスク上の選択されたターゲット位置に位置合わせされると共に、サーボウェッジに書き込まれている情報を読み出す記録再生用のトランスデューサと、リピータブルランアウト(RRO)とノンリピータブルランアウト(NRRO)の双方を示す情報を含む位置エラー信号(PES)に応答する電気機械的な閉ループのサーボ機構と、トランスデューサを磁気ハードディスク上のターゲット位置に位置合わせする制御を行うディジタルアナログ変換部(DAC)とを備えたものである。
上記のサーボ機構は、ハードディスクドライブの物理的動作を特徴付けるボードプロット(Bode plot ;ボードダイアグラム)から求められた一セットのゲイン係数を保有する手段と、ゲイン係数を用いて、磁気ハードディスクのRROによって引き起こされるトランスデューサの位置ずれを補正するためのフィードフォワードRRO補正項のアレイを生成する手段と、生成されたフィードフォワードRRO補正項のアレイを格納する手段と、トランスデューサからPESを受け取り、このPES値にフィードフォワードRRO補正項を加算する手段とを含んでいる。
【0033】
本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法は、磁気ハードディスクと、磁気ハードディスクが搭載されるモータ駆動回転スピンドルと、移動自在なアクチュエータアッセンブリと、記録再生用のトランスデューサと、サーボ機構と、トランスデューサを磁気ハードディスク上のターゲット位置に位置合わせする制御を行うディジタルアナログ変換部とを備えた磁気ハードディスクドライブを用意することから始まる。
ここで、磁気ハードディスクは、半径方向に間隔をもって複数(第1の数)の円環状のデータトラックが形成されると共にこれらのデータトラックを半径方向に沿って複数(第2の数)のゾーンに分割することにより各データトラックが1つのゾーンに属するように構成され、かつ、半径方向位置およびトラック内角度位置を規定する埋め込み情報であるサーボデータを含む小さい角度幅の複数(第3の数)のサーボウェッジが、各データトラックの円周上に規則的な間隔をもって配置されたものである。トランスデューサは、アクチュエータアッセンブリに搭載され、このアクチュエータアッセンブリの移動によって磁気ハードディスク上の選択されたターゲット位置に位置合わせされると共に、サーボウェッジに書き込まれている情報を読み出すものである。サーボ機構は、リピータブルランアウト(RRO)とノンリピータブルランアウト(NRRO)の双方を示す情報を含む位置エラー信号(PES)に応答する電気機械的な閉ループのサーボ機構である。
さらに、この運転方法は、磁気ハードディスクを所定の回転数で回転させると共に、a)一のゾーンを選択し、b)選択したゾーン内の一のデータトラックを選択し、c)選択したデータトラック上のサーボウェッジ“n”のターゲット位置にトランスデューサを位置合わせすると共に、ターゲット位置におけるPES値を求め、d)サーボウェッジ“n”のターゲット位置におけるRRO補正項を求めると共に、このRRO補正項を加算部においてPES値に加算することにより、ターゲット位置におけるトランスデューサの動きのRRO成分の影響を補償し、さらに、サーボウェッジ“n”のターゲット位置において、e)ハードディスクドライブの振幅および位相の性能特性を示すボードプロットを用いて、直後のサーボウェッジのRRO補正項を特徴付ける、Nh個の高調波に対応するNg個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、f)フィードフォワードゲイン係数を用いて、直後のサーボウェッジのRROを特徴付けるフィードフォワード用のRRO補正項を算出し、g)得られたRRO補正項を、直後のサーボウェッジにおける使用に備えて、先送りして(feeding forward )保存する、という一連のステップを含んでいる。
【0034】
本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法では、さらに、h)ステップgののち、直後のサーボウェッジのターゲット位置にトランスデューサを位置合わせし、ステップdからステップgまでを繰り返し、i)データトラック上のすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、ステップcからステップhまでを繰り返すようにすることが可能である。
【0035】
本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法では、さらに、ゾーン内の次のデータトラックを選択し、このゾーン内のすべてのデータトラックのすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、ステップbからステップhまでを繰り返すようにすることが可能である。
【0036】
本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法では、さらに、次のゾーンを選択し、すべてのゾーン内のすべてのデータトラックのすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、ステップaからステップhまでを繰り返すようにすることが可能である。
【0037】
本発明の磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法では、PESは、トランスデューサから出力された実位置信号から所定の基準位置信号を差し引くことによって生成可能である。具体的には、PESは、サーボウェッジ“n”に埋め込まれた、トランスデューサの実際の位置を与えるサーボデータを読み出し、この読み出したサーボデータに、トラック中心線位置を示す値、または、予め計算されたRRO補正項をトラック中心線位置から差し引いた値、である基準位置データを代数的に加算することにより、得ることができる。このとき、選択された回数にわたるディスク回転中にサーボウェッジ“n”において同じ測定を繰り返し行うことにより得られた平均位置をトランスデューサの位置として採用することにより、ノンリピータブルランアウトの影響を低減するようにすることが好ましい。
【0038】
本発明の磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法では、加算部によって、フィードフォワード補正項を、DACの入力またはサーボ制御機構の入力に加算するように構成可能である。この場合、DACにRRO補正項を加えるようにすれば、トランスデューサをトラックのRRO挙動に忠実に追従させることができる。一方、サーボ制御機構にRRO補正項を加えるようにした場合には、RRO成分の除かれたトラック中心線位置が新たに設定されることになる。
【0039】
フィードフォワード用のRRO補正項は、システム動作に関するボードプロットから得た振幅および位相を用いて、所定個数のフィードフォワードゲイン係数のアレイを求めるステップと、サーボ機構内に記憶されているフィードフォワードRRO補正項のアレイを初期化するステップと、算出されたフィードフォワードゲイン係数を用い、各サーボウェッジ位置において所定個数の高調波にわたって反復合算(iterative sum )を行うことにより、フィードフォワードRRO補正項のアレイの値を反復的に求めるステップとにより算出することができる。上記の初期化にあたっては、電源オン時において、フィードフォワードRRO補正項のアレイを、予め計算された収斂データによって初期化するようにしてもよい。上記のボードプロットとしては、実際のハードディスクドライブの動作評価により得られたものを用いることが好ましい。また、上記の反復合算の間に前記フィードフォワードゲイン係数を変化させるようにすれば、フィードフォワードRRO補正項の収斂を早めることが可能になる。
【0040】
本発明の磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法では、所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために、単一のフィードフォワードゲイン係数のみを用いるようにしてもよい。あるいは、5個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、これらのゲイン係数を所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために用いるようにしてもよい。
【0041】
本発明の磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法では、反復合算の間にフィードフォワードゲイン係数を変化させるようにすれば、フィードフォワードRRO補正項の収斂を早めることが可能である。このフィードフォワードゲイン係数を可変とすることは、ゾーンごとに一連の初期ゲイン係数を規定するステップと、初期ゲイン係数を用いて、各ゾーン内の代表的なトラックセットにおけるすべてのサーボウェッジについてフィードフォワード補正項のセットを算出するステップと、一連の初期ゲイン係数の個数を減らし、フィードフォワード補正項を再計算するステップとを含む方法により実現可能である。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、高速な実行時間を確保しつつ、少ないプロセッサコードと最小限のデータメモリ空間しか必要としない磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法を提供することができる。
【0043】
特に、フィードフォワードRRO補正項の入力先をDAC加算点とPES加算点との間で切り換えるようにした場合には、前者の状態ではトランスデューサをRROに追従させる一方、後者の状態では、RRO成分が取り除かれて新たに設定されたトラック中心ターゲット位置をトランスデューサが追従するようにすることができる。
【0044】
また、本発明では、ディスク表面を複数のゾーンに分割し、ゾーンごとに自身の個別のフィードフォワード補正値(RRO補正項)のアレイを持つようにした場合には、演算収斂時間を著しく短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】トラックとトラックに埋め込まれたサーボウェッジとを有する磁気ハードディスクを備えた磁気ハードディスクドライブを表す概略構成図である。
【図2】ハードディスクが偏心して回転している状態において、サーボウェッジがトランスデューサを再位置合わせしなければならない様子を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る磁気ハードディスクドライブにおいて、トランスデューサのPES信号からRRO成分をキャンセルするプロセスを示すブロック図である。
【図4】ディスクの回転中にRROを示す代表的な磁気ハードディスクドライブのボードプロットにおける位相およびゲイン成分を示す図である。
【図5a】フィードフォワードゲイン係数の計算値およびその計算に用いられる各種パラメータの具体例を含むテーブルを表すものである。
【図5b】図4に示したようなボードプロットから決定されるフィードフォワード係数アレイの一例を示す図である。
【図6】図7,図8bに示す結果をもたらすフィードフォワード計算のCコードインプリメンテーションを示す図である。
【図7】あるハードディスクドライブにフィードフォワードアルゴリズムを適用したときの結果を示すテーブルである。
【図8a】本発明のフィードフォワードアルゴリズムによる補正処理を行わなかった場合におけるPESの値とPESの中のRRO部分の値の一例を示す図である。
【図8b】本発明のフィードフォワードアルゴリズムによる補正処理を行った場合におけるPESの値とPESの中のRRO部分の値の一例を示し、ハードディスクドライブからRROの影響がある程度まで取り除かれた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1、図2および図3は、本発明の一実施の形態に係る磁気ハードディスクドライブの要部を表すものである。なお、本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法は、この磁気ハードディスクドライブによって具現化されるので、以下、併せて説明する。
【0047】
図1は、ハードディスクドライブ(以下、HDDという。)11の主要要素の配置構成を表すものである。このHDD11は、回転可能なスピンドル12に装着された磁気ディスク1と、磁気記録再生ヘッドとしてのトランスデューサ13と、トランスデューサ13を搭載すると共に、自ら移動することによってトランスデューサ13を磁気ディスク1の半径方向に移動させるアクチュエータアッセンブリ14とを備えている。磁気ディスク1には、トランスデューサ13によるデータ読み書き対象となる同心円環状の複数のトラック17が形成されている。アクチュエータアッセンブリ14は、トランスデューサ13がデータの読み書きを行いながらトラック17に正確に追従するように、閉ループサーボ制御機構(図3における制御部60)によって制御されるようになっている。
【0048】
図2に示したように、円形の各トラック17には、小さな角度幅をもつサーボウェッジ16が周期的に繰り返し配置され、これらのそれぞれにサーボデータが記録されている。磁気ディスク1が回転してトランスデューサ13が各サーボウェッジ(サーボセクタとも呼ばれる)の上を通過すると、トランスデューサ13は、サーボデータに基づき自分とトラック中心線との相対距離を取得し、これを位置エラー信号(PES)としてサーボ制御機構(後述する図3)にフィードバックする。サーボ制御機構は、PESに基づいて補正値を算出し、これをDAC(図示せず)に送ることにより、トランスデューサ13の位置補正を行うようになっている。
【0049】
図2において、磁気ディスク1の中心がスピンドル12の中心と一致しているのが理想であるが、実際上、磁気ディスク1は、ずれた中心14の周りを回転することが多い。その場合には、トランスデューサ13が、同心のトラック17から外れた破線軌道15をトレースすることになる。トランスデューサ13の破線軌道15が、交差点16a〜16hにおいてサーボウェッジ16を通過するとき、サーボ制御機構は、トランスデューサ13をトラック17へと戻すために移動させようとすることから、トランスデューサ13は、磁気ディスク1の1回転を1周期として半径方向に振動し、これがRRO成分として現れることとなる。
【0050】
RRO成分は、周期的であることから、それを除去することは比較的容易である。これに対し、様々なランダムな周囲の影響がディスクの動きに加わることによって生ずる位置エラーであるNRROは、容易に除去できるものではない。但し、RRO成分を十分に小さくすることができれば、サーボ制御機構によってNRROに対する補正を行うことがより容易となる。
【0051】
RRO成分の補正は、現在のサーボウェッジの位置において次のサーボウェッジでのトランスデューサ予想位置に関するデータを計算して記憶しておき、これを用いて次のサーボウェッジの位置におけるトランスデューサ13の位置合わせ補正を行うフィードフォワード補償によって実現される。
【0052】
図3は、本発明の磁気ハードディスクドライブにおけるRRO補正機構の概略構成を表すものである。この図で、各矩形ボックスは、動作中のHDD11における各電気機械的動作部分を示している。これらの動作は、閉ループサーボ制御機構としての制御部60により、記憶されたフィードフォワードアルゴリズム部50を用いて実行され、これにより、プラント200の動作が有効に制御されるようになっている。ここで、プラント200は、HDD11のアクチュエータアッセンブリ14、トランスデューサ13およびスピンドル駆動部等を総称したものである。なお、フィードフォワードアルゴリズム部50については、後述する。
【0053】
トランスデューサ13の実際の現在位置を示す位置信号75は、現在のサーボウェッジ“n”に埋め込まれているサーボデータから求められる。ここで、“n”は、1とサーボウェッジの総数との間の整数である。サーボウェッジの総数は、各ディスクに特有の値である。この位置を特定するディジタル出力(位置信号75)は、加算部(summing junction)90において、(通常は)トラック中心線のターゲット位置を示す基準位置信号70と代数的に加算される。このトラック中心線は、トランスデューサ13が現在位置すべき位置であり、かつ、それ以後もトランスデューサ13が追従すべきものである。
【0054】
ここで注意すべきことは、加算部90に入力される基準位置信号70を選ぶことにより、トランスデューサ13が追従しようとする特定のトラッキング線を変更することができ、その結果、基準位置信号70が、固定位置ではなく予め計算されたトラッキング位置を参照するという適応的態様で働くようになるということである。
【0055】
加算部90において基準位置信号70から位置信号75を差し引くことにより、(目標位置と現在位置との差を示す)位置エラー信号(PES)80が得られる。このPES80は、現サーボウェッジにおける現補正の実行のために制御部60に入力される。PES80はまた、フィードフォワードアルゴリズム部50にも入力され、ここで、その次のサーボウェッジに適用されるべき補正項(correction term )、すなわち、フィードフォワードRRO補正項が算出される。
【0056】
上記の生成されたPES80は、トラックに対するすべての摂動と、RRO成分およびNRRO成分とに起因する、トランスデューサ13の位置ずれの総和を表している。従来のHDDは、本実施の形態のフィードフォワード機構を有しておらず、制御部はサーボ補償信号を生成するが、位置ずれの総和からRRO成分の影響を取り除くことはしない。
【0057】
そこで本発明者は、RRO成分を無視できる(すなわち、補償する)ようにするために、フィードフォワードアルゴリズム部50を設けた。ここで特筆すべきことは、そのアルゴリズムのうち、PESからRRO成分を取り除くための演算部分において使用するために、PES80を、特定の位置における所定回数のディスク回転にわたる位置測定の平均値として算出するようにした点である。このような平均値を採用することにより、NRRO成分によるランダムな影響をほぼ取り除くことができ、結果として、補正の目的で用いられるPES値によって、NRRO摂動の影響を受けずにRROの影響を補正できることになる。
【0058】
ここで設けたフィードフォワードアルゴリズム部50は、RROのみに起因するトランスデューサ位置ずれ分を示すフィードフォワード値(ディジタルデータ)を、反復合算(逐次累算;iterative sum )により算出し、その結果をフィードフォワードRRO補正項として出力する。このフィードフォワードRRO補正項(後述する“FFout[ ]”)は、加算部95の図示しないDAC(Digital to Analog Converter )において、制御部60からディジタルデータとして出力される補償出力(後述する“ControlOutput[ ]”)と加算され、その加算結果100(後述する“DAC[ ]”)が、アナログの制御信号としてプラント200(より具体的には、図示しないボイスコイルモータ(VCM))に供給される。
【0059】
RROの影響を正しく補償するためには、フィードフォワードRRO補正項の値が、サーボ機構の振る舞いをRROの様々な高調波成分(個別にキャンセルされるものであるが)にマッチングさせるためのゲインファクター(フィードフォワードゲイン係数、または単にゲイン係数という。)を含む必要がある。このゲイン係数は、システムの実際の動作から実験的に求められるものである。本実施の形態では、プラント200に関するボードプロット(Bode plot ;ボードダイアグラム;後出の図4を参照)を用いてゲイン係数を得る。
【0060】
加算部95からの加算結果100は、アクチュエータに搭載されたトランスデューサ13をトラック中心線(または他の適切なターゲット位置)へと戻して合わせるのに必要な制御をもたらすが、この場合には、PESの中のより小さな部分をなすNRRO成分を補正するだけでよい。フィードフォワードアルゴリズム部50の出力は、加算部95または加算部90のいずれかに供給されるように選択可能である。ここで、加算部95を選択した場合には、プラント200が現在のRRO成分に追従することになり、結果として、PES80の中のRRO成分が減少する。一方、加算部90を選択した場合には、システムは、事実上、RRO成分が除去された新たなターゲットトラック中心線を設定することになる。このような動作全体が、ディスクの各回転期間にわたって、データトラック上の各サーボウェッジにおいて繰り返される。ここでさらに注意すべきことは、複数のデータトラックが複数のゾーンに分割され、ゾーンごとに個別の補正データセット(フィードフォワードRRO補正項)が算出される点である。
【0061】
フィードフォワードアルゴリズム部50において実行されるアルゴリズムは、次のような擬似コードにより表される。
【0062】
1.DAC[n] = ControlOutput[n] + FFout[n]
… Other controller calculations and output sent to DAC
2.FFout[n+1] = (FF[n + delay] * FFGain[0] ) + (FF[n + delay +1] * FFGain[1]) + (FF[n + delay +2] * FFGain[2]) + …
3.FF[n] = FF[n] + PES[n]
【0063】
ここで、
“FFout[ ]”は、サーボ制御出力(制御部60の出力“ControlOutput[ ]”)に加算されるフィードフォワードRRO補正項の値である。
“FF[ ] ”は、フィードフォワード値のアレイであり、各サーボウェッジにつき1つのアレイが用意される。
“FFGain[ ] ”は、フィードフォワードゲイン係数のアレイであり、フィードフォワード値のアレイの各項(FF[ ] )につき1つの係数要素が用意される。
“delay ”は、サーボウェッジ遅延定数であり、プラント200の動作における応答時間遅延を考慮したものである。
“n ”は現在のサーボウェッジの番号である。
【0064】
上記した擬似コードの3行目は、アルゴリズムが収斂していくときに各サーボセクタのPESを累算するための計算を示している。ある特定のサーボウェッジ“n”におけるPESが0になったとすると、FF[n] の値は、もはや変化しない。アルゴリズムが収斂してRROが十分に補償された定常状態においては、すべてのサーボセクタにおける“FF[n] ”の値は、それぞれ、各々の収斂値に近い値に保たれる。擬似コードの2行目に先立って行われる1行目の計算の目的は、サーボウェッジ“n”での制御出力が、“FF[n] ”の値の計算を待たずに、できるだけ早くDACに送られるようにすることである。DAC出力が送られたあと、次のサーボウェッジ“n+1”での使用に備えて、2行目および3行目の予備計算が行われる。
【0065】
このようにして、この繰り返しアルゴリズムは、ディスクが回転している間中、それぞれの現サーボウェッジ位置“n”について実行されると共に、その位置において算出されたフィードフォワードRRO補正項の値が、その次のサーボウェッジ“n+1”に対応した適切な位置のアレイに入力される。ここで、特筆すべきことは、ゲイン係数を可変にすることにより、アルゴリズムの収斂を早めることができるということである。これは、ゲイン係数の初期セットをまず選ぶと共に、これに続いて、入力エラーが徐々に小さくなるにしたがってゲイン係数の数を次々と減らしていくことによって実現される。
【0066】
この演算をよりよく理解するために、上記した擬似コードの第1行目を参照する。ここで、“DAC[n]”は、n番目のサーボウェッジにあるトランスデューサ13を正しく位置合わせするためにアクチュエータを最終的に移動させるのに用いられる全アナログ信号を示す。この信号は、2つの部分の和:“ControlOutput[n] + FFout[n] ”により与えられる。これらの2つの部分の役割は、図3を参照することにより理解される。この図からわかるように、“ControlOutput[n]”は、制御部60から加算部95に供給される量であり、一方、“FFout[n]”は、フィードフォワードアルゴリズム部50におけるフィードフォワード演算の結果であるフィードフォワードRRO補正項である。
【0067】
次に、“FFout[n+1] = (FF[n + delay] * FFGain[0] ) + (FF[n + delay +1] * FFGain[1]) + (FF[n + delay +2] * FFGain[2]) + …”という第2行目の擬似コードについて考察する。この擬似コードは、後続のサーボウェッジ“n+1”においてトランスデューサ13によって利用されるように先行して与えられる(フィードフォワードされる)計算値“FFout ”を示している。この“FFout[n+1]”は、その次のサーボウェッジ“n+1”において、第1行目の場合と同様に“ControlOutput[n+1]”と加算され、“DAC[n+1]”が生成される。
【0068】
このように、現サーボウェッジ“n”では、2つのことが起こる。すなわち、トランスデューサ13が“DAC[n]”によって正しく位置合わせされると共に、その次のサーボウェッジ“n+1”において用いられるべきフィードフォワードRRO補正値“FFout[n+1]”の計算が行われるのである。
さらに、サーボウェッジ“n+1”では“FFout[n+2]”の値が算出され、この値が、その次のサーボウェッジ“n+2”において用いられることになる。
【0069】
“FFout[ ]”の値は、このシステムのボードプロットから得られるゲインおよび位相を用いて計算される。すなわち、システム動作に関するボードプロットから得た振幅(ゲイン)および位相を用いて、所定個数のフィードフォワードゲイン係数のアレイを求めるステップと、算出されたフィードフォワードゲイン係数を用い、各サーボウェッジ位置において所定個数の高調波にわたって反復合算(逐次累算)を行うことにより、フィードフォワードRRO補正項のアレイの値を反復的に合算するステップとにより計算される。なお、フィードフォワードRRO補正項アレイの反復合算を実行するにあたっては、サーボ機構内に記憶されているフィードフォワードRRO補正項のアレイを初期化するのが好ましい。この初期化は、予め計算された収斂データを用いて、電源オン時に行うようにすることが可能である。なお、“FFout[ ]”の求め方の詳細は後述する。事実上、このデータは、サーボ機構の制御効果を特定の高調波にマッチングさせるやり方を(フィードフォワード)アルゴリズムに指示するものといえる。なお、ディスク表面を半径方向において複数のゾーンに分割し、ゾーンごとに自身の個別の“FFout[ ]”アレイを持つようにすることも可能であり、また、こうすることは、演算収斂時間を短縮し得る点で有利である。
【0070】
次に、フィードフォワードRRO補正項“FFout[ ]”の値の求め方についてより詳細に説明する。
【0071】
上記したように、各トラック上には、それぞれが微小角度幅をもつ複数ののサーボウェッジが規則的な間隔をもって配置されており、各サーボウェッジにはサーボトラック情報(サーボデータ)が埋め込まれている。以下の説明では、一回転(一周)あたりのサーボウェッジの数を“wpr”と記すものとする。
【0072】
サーボウェッジに格納されたサーボデータは、トランスデューサ13をトラック上の所望の半径方向位置(ターゲット位置)に位置合わせするために用いられる。本実施の形態では、上記したように、選択されたトラックの各サーボウェッジ(例えば、サーボウェッジ“n”)の位置においてRRO補正を行うと共に、そのサーボウェッジにいる間に、次のサーボウェッジ用のRRO補正値(フィードフォワードRRO補正項)の計算をし、そのRRO補正値が次のサーボウェッジ(例えば、サーボウェッジ“n+1”)でアクセスされ利用されるようにフィードフォワード(先送りして記憶)する、という高速かつ簡単な機構を提供している。こうして、トラック上の各サーボウェッジ位置において、トランスデューサ13の(RROおよびNRROの双方を含む)PES値を、結局RRO補正量の分だけ減少させることができる。結果として、トランスデューサ13の位置合わせは、装置上の固定点を基準として行うのではなく、トラックのRROを基準として行えばよいことになる。
【0073】
擬似コードの第2行目にあるように、フィードフォワードアルゴリズム部50の出力“FFout[ ]”は、ゲイン係数“FFGain[ ] ”を要する反復合算(“FF[ ] ”に“FFGain[ ] ”を乗じたものを高調波の数だけ反復的に合算する演算)によって計算される。これらのゲイン係数“FFGain[ ] ”は、HDDのボードプロットに含まれている振幅および位相の情報を用いて算出される。
【0074】
図4は、そのようなボードプロットの具体例を表すものである。この図で、上側の曲線PHASEは位相を示し、下側の曲線GAINはゲインを示す。このようなボードプロットは、特定のディスクのRROまたはNRROに対する感度が高くないやり方でのシステム性能から得られる。実際上、ボードプロットは、特定の機械的なシステムについて評価可能である。そして、もしもそのような評価が、実際のシステムの振る舞いに対する妥当性のある近似であるのならば、フィードフォワードアルゴリズムはかなり良好に機能することになる。ゲイン係数“FFGain[ ] ”のアルゴリズム的計算は、次のような擬似コードに従って進行する。
【0075】
4.FFGain[i] = D[i] - Average(D[1], D[2], D[3],……,D[Ng])
5.D[i] = C[i] / C[1]
6.C[i] = X[1,i] + X[2,i] + X[3,i] + …… +X[k,i]
7.X[k,i] = (1/G[i]) * {cos(-P[i] + 2*pi*k*(i-1)/wpr) +
cos(P[i] + 2*pi*k*(wpr-i+1)/wpr)}
【0076】
ここで、
“k”は、高調波のインデックス番号( 次数) を示し、1からNh(Nhは高調波の最大個数)の値をとる。
“i”は、フィードフォワードゲイン係数のインデックス番号であり、1からNg(Ngはフィードフォワードゲイン係数の最大個数)をとる。
“wpr ”は、一回転あたりのサーボウェッジの個数である。
“G[ ]”は、プラントにおけるゲインのアレイである。
“P[ ]”は、プラントにおける位相のアレイである。
“Average(D[1], D[2], D[3], …) ”は、“D[1]”〜“D[Ng] ”のすべての値の平均値である。Ngは、このアルゴリズムで用いられるゲイン係数の数である。
【0077】
図5aは、“C[i]”, “D[i]”および“FFGain[i] ”の計算値の具体例を含むテーブルを表すものである。これらの計算値は、2.5インチ型でトラック密度が145kTPI(キロトラックスパーインチ)のHDDにおけるデータである。回転数および第1高調波は70Hzである。このテーブルは、30行で構成され、各行が高調波のインデックス番号“k”に対応する。したがって、“k”は1〜30である。このアレイは、全部で15列からなり、最後の11列はインデックス番号“i”(選ばれたゲイン係数番号)に対応する。
【0078】
第1列: kの値
第2列: 該当する高調波の周波数
第3列: ボードプロットのゲインの大きさG[ ](dB)
第4列: ボードプロットの位相P[ ](ラジアン)
第5列: X[1,1], X[2,1], X[3,1], … , X[k,1]
第6列: X[1,2], X[2,2], X[3,2], … , X[k,2]
第7列: X[1,3], X[2,3], X[3,3], … , X[k,3]
・
・
・
第15列:X[1,11], X[2,11], X[3,11],… , X[k,11]
【0079】
ゲイン係数の計算時に考慮すべき高調波の数は、変化させるようにしてもよい。ある環境では、特定の高調波周波数から独立した(それを含んでいない)ゲイン係数を計算することが望ましい。そうした環境とは、その特定の高調波周波数において共振が起きたような場合である。これは、その特定周波数に先立って計算を終了するか、あるいは、その高調波の数を非常に大きな数に設定することにより、行うことが可能である。ゲイン係数の計算において用いられるべき高調波の数は、含まれている様々な数の高調波を用いてフィードフォワードアルゴリズムの性能を観測することにより、実験的に決定可能である。
【0080】
図5bは、行のゲイン係数“FFGain[i] ”(i=1,2,3,…)の値とゲイン係数のインデックス番号“i”との対応関係を示すグラフを表すものである。これらの行ゲインは、計算において用いる“FFGain[i] ”の値を得るために適切な値へとスケーリングされる。ここで示した例では、5個の“FFGain[i] ”(i=1〜5)の値のみを用いる。但し、それ以上あるいはそれ以下でもよい。例えば、1つだけ用いるようにしてもよい。用いるべきゲイン係数の数は、様々な数のゲイン係数を用いてフィードフォワードアルゴリズムの性能を観測することにより、決定可能である。5個のゲイン係数を用いることが妥当であることが実験的に認められた。
【0081】
図6は、フィードフォワードアルゴリズム部50において実行されるアルゴリズムを具体的にCコードで記述したときのソースコードの一例を表すものである。このインプリメンテーションは、DACへの制御出力(ControlOutput[n])の実行が完了したのち、各サーボ割り込みにおいて実行される。このCコードにおいて、“FFout ”の値が、次のサーボ割り込みで使用するために、予備計算されている。このCコードにおいて計算された“FFout ”の値は、制御出力に加算され、その加算結果がDACに供給される。すなわち、擬似コードの第1行目の“DAC[n] = ControlOutput[n] + FFout[n]”という処理が実行される。
【0082】
擬似コードの第4行目〜第7行目において説明したように、フィードフォワードゲイン係数は、プラントボードプロットにおける振幅の大きさと位相とから計算される。このCコードにおける“FFShift ”および“FFShiftX”の値は、特定の機械的プラント用に選ばれたものであり、十分な計算値ダイナミックレンジおよびループスタビリティが得られるように可変スケーリングになっている。そのような実験的な手法は、サーボ制御システムの技術分野における当業者であれば容易に実施可能である。
【0083】
上記のCコードには、“ApplyOn"および“AcquireOn"という論理量が含まれている。これらは、それぞれ、アルゴリズムが適用される条件と、計算を停止する条件とを制御するものである。より詳細には、トラック追従がなされていない場合やPESが外乱によって大きくなっている場合には、“AquireOn”が“FALSE ”にセットされると共に、“ApplyOn ”が“TRUE”にセットされる。また、RROがしきい値以下に低下したときには、“AcquireOn ”が“FALSE ”にセットされる。
【0084】
図7は、上記したHDD(2.5インチ型でトラック密度が145kTPI)におけるフィードフォワードアルゴリズムの効果を図示したものである。すべての値はピークトゥーピークの測定値である。PESの測定値は、制御部60に入力されたPES値から得られたものである。すなわち、それらは、RROの影響のみならず制御不能なランダム摂動をも含む“PES(RRO+NRRO) ”である。RROの測定値は、PESを25回転の連続したディスク回転にわたって平均することにより得られる。そのような平均化処理を行うことにより、ランダムなNRRO摂動がキャンセルされ、RROの周期的挙動が正確に表されると考えられる。
【0085】
図7から明らかなように、フィードフォワードアルゴリズムをイネーブル(実行状態)にすることにより、ディスエーブル(実行停止状態)の場合と比べて、PESの値がかなり小さくなり、その中のRRO部分はさらに小さくなる。
【0086】
図8aは、フィードフォワードアルゴリズムによる補正処理をディエーブルにした場合におけるPESの値とPESの中のRRO部分の値とを表すものである。図8bは、フィードフォワードアルゴリズムによる補正処理をイネーブルにした場合における行PESの値とPESの中のRRO部分の値とを表すものである。これらの図において、破線PESはPESの値を示す。太線PES_RROは、多数回のディスク回転中におけるPESの平均値であり、PESの中のRRO部分に相当する。細線FFT_of_PESはPESのフーリエ変換を示す。なお、横軸はこのFFT_of_PESの周波数に基づいて描いてある。縦軸は各値の任意スケールの大きさを示す。
【0087】
これらの図8aおよび図8bからも明らかなように、補正処理をディエーブルにした場合(図8a)に比べて、補正処理をイネーブルにした場合(図8b)に、PESおよびPES_RROが改善されていることがわかる。
【0088】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、この実施の形態は、本発明を限定するためのものではなく、本発明を説明するための一事例にすぎない。また、本発明はこれらの実施の形態に限定されず、添付した特許請求の範囲に従ったHDD動作を可能にしつつ動作中のHDDにおける閉ループサーボ機構のPES応答からRRO成分を効果的に取り除くことができる限りにおいて、本実施の形態で説明した方法、構成、材料、構造および寸法等に種々の変形や修正を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0089】
1…磁気ディスク、11…ハードディスクドライブ(HDD)、12…スピンドル、13…トランスデューサ、14…アクチュエータアッセンブリ、16…サーボウェッジ、17…トラック、50…フィードフォワードアルゴリズム部、60…制御部、70…基準位置信号、75…位置信号、80…位置エラー信号(PES)、90,95…加算部、200…プラント。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、記録再生トランスデューサ(磁気ヘッド)の位置を案内するためのサーボ情報が記録された回転磁気ディスクを内蔵する磁気記録装置に係わり、特に、リピータブルランアウト(RRO;反復性心振れ)の影響をキャンセルするためにサーボ情報を最適化することが可能な磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示したように、ハードディスクドライブ11の回転可能なスピンドルに装着された一般的な磁気ディスク1は、アクチュエータアッセンブリ14に搭載された磁気記録再生ヘッドとしての記録再生トランスデューサ(以下、単にトランスデューサという。)13によってデータの読み書きが可能な同心円環状の複数のトラック17によって特徴付けられる。トランスデューサ13がデータの読み書きを行いながら上記のような円形トラック17に正確に追従するためには、すなわち、ディスクの回転中にディスク半径方向におけるトランスデューサ位置をトラック17の中心線の上方に保つためには、トランスデューサを、ディスク上の様々な位置に位置合わせできるようにすることが必要である。そのような位置合わせは、通常、閉ループのサーボ制御機構(図示せず)によって行われる。
【0003】
このサーボ制御機構は、トラック上の実際のトランスデューサ位置を示す信号を入力として、トランスデューサが実際に位置すべき位置(通常は、トラックの半径方向中心線)を求め、目標位置と実際位置との差に関連した補正量をフィードバックし、この補正量を用いてトランスデューサを再位置合わせするものである。目標位置と実際位置との差によって生成される信号は、位置エラー信号PESと呼ばれる。この信号は、その性質上、通常はディジタル信号であることから、DSP(ディジタル信号プロセッサ)によって処理されて補正信号が得られる。この補正信号はDAC(ディジタルアナログコンバータ)に供給されて対応するアナログ信号に変換され、さらにボイスコイルアクチュエータ(VCA)に送られる。このVCAにより、トランスデューサは最終的に必要な位置へ再位置合わせされる。
【0004】
このような機構によって得られるPESは、ディスクに書き込まれた、サーボデータと呼ばれるデータを用いて求められる。このサーボデータは、円形の各トラック上に周期的に繰り返し配置された小さな角度幅をもつサーボウェッジ(角度楔)16に記録されている。図1では、そのようなサーボウェッジを2つだけ図示している。ここでは、簡単のため、サーボウェッジを矩形形状に図示している。サーボデータは、半径方向および円周方向の両方において、各サーボウェッジ内で互いに分離された磁気的遷移(微小な磁化変化)のバーストの形をとる。
【0005】
ディスクが回転してトランスデューサが各サーボウェッジ(サーボセクタとも呼ばれる)の上を通過すると、トランスデューサは、バーストに対する自分の相対位置を読み取り、それらから等距離でなかったときに、トラック中心線からのずれを示すようになっている。トランスデューサとトラック中心線との距離は位置エラー信号としてサーボ制御機構にフィードバックされ、トランスデューサの位置補正に用いられる。サーボ制御機構は、PESを求めて補正値を算出し、これをDACに送るようになっているが、その位置エラー補正能力は、有限なものであり、かつ周波数依存性を有する。したがって、トランスデューサから得られた、トラック中心線からのずれを示す信号が、(ずれ量対サーボウェッジ位置の関数としての)複雑な振動波形であると、閉ループサーボ制御機構がトランスデューサの位置合わせミスを適切に補正することができない。
【0006】
サーボ制御機構が、複雑な振動に対するトラッキングをしなくても済むようにする方法として、可能であれば、そのような振動から規則的成分を除去する方法がある。以下に説明するように、サーボ制御機構が追従しなければならない振動には、概して2つの成分がある。
【0007】
1.ある振動周波数または周波数の組み合わせにおいて規則的に繰り返す成分であり、ディスクの回転周波数と関連するもの
2.ランダムで規則性のないもの
【0008】
第1の成分は、リピータブルランアウト(RRO;反復性の心振れ)と呼ばれ、第2の成分は、ノンリピータブルランアウト(NRRO;非反復性の心振れ)と呼ばれる。
【0009】
理想的には、円形状の各トラックは、ディスクを回転させるドライブスピンドルと同心であって、かつ、ハードディスクドライブの動作中において同心状態に保たれるべきである。もしもこのような理想状態であったならば、PESはゼロであり、閉ループサーボ制御機構は、トランスデューサ位置の補正を行わないであろう。しかしながら、実際には、トラックは同心ではなく、したがって、補正を行わなければならない。このような同心性の欠如には、多くの理由がある。その主要な理由としては、トラックとスピンドルとの同心性が欠けていることや、トラックが真円から外れていること等がある。この結果、ディスク回転中に、トラックがスピンドルの周りで偏心運動をすることになる。
【0010】
図2は、名目上、磁気ディスク1の中心がスピンドル12の中心と一致している状態を表すものである。いくつかの不特定の回転ずれによって、実際上、ディスクは、ずれた中心14の周りを回転することになる。その結果、トランスデューサは、本来は同心のトラック17上をトラッキングすべきところ、破線15に沿ってトレースすることになる。トランスデューサの破線軌道が、交差点16a,16b等においてサーボウェッジ16を通過するとき、サーボ制御機構は、トランスデューサをトラック17へと戻すために移動させようとする。1周期にわたってトランスデューサを固定点で観測すると、振動運動が観測される。そのようなトランスデューサの振動が起きる他の原因としては、ディスクの滑り、ディスクの反り、およびサーボデータの書き込みが不十分であること等があげられる。トラック偏心の影響は、問題なことではあるが、それは周期的なものである点で利点となる特徴であり、上記したように、決まったRRO成分として現れる。
【0011】
円形のトラック内にある任意のディスク上の点は、空間に固定された別の点に対する相対的な動きとして規定することができる。RROによって生ずる問題は、ハードディスクトランスデューサが上記の点の動きに追従しようとすることに起因する。RROが周期的であることから、後述するいくつかの手法のいずれかを用いることによって、それを除去することも可能である。位置エラーの他の要因として、ノンリピータブルランアウトと呼ばれるものがある。これは、様々なランダムな周囲の影響がディスクの動きに加わることによって生ずるものであり、容易に除去できるものではない。しかしながら、もしもRROの影響を十分になくすことができるのであれば、サーボ制御機構によってNRROに対する補正を行うことが容易となるのは明らかである。
【0012】
もしもRROがわずかであれば、閉ループサーボ制御機構を用いることによって、それを補償することが可能である。しかしながら、もしも、RROが、ディスクドライブの製造パラメータによって決まる所定の許容限度を超えるものであると、サーボ制御機構は、それを完全には補正することができず、ディスクドライブは正常に動作しない。
【0013】
RROを補償するための方法のひとつとして、各サーボセクタにあるRRO量を予め決めておき、ディスクドライブの使用に先立って、それらの全サーボセクタに関する情報(RRO量)を一括してサーボ機構に供給するというやり方がある。これは、サーボウェッジ“n”の位置で行われた計算に基づいて得られた、トランスデューサがサーボウェッジ“n+1”の位置に達したときのトランスデューサ予想位置に関するデータを記憶するためのアレイにデータを入力することにより、実現することができる。こうして、トランスデューサがサーボウェッジ“n”にあるときに、トランスデューサが今まさに位置合わせされようとしているところの位置が補正される。これは、スタティックフィードフォワード補償と呼ばれる。これに代えて、フィードフォワード補償をドライブ使用中の様々な時点で行うようにしてもよく、これは、適応フィードフォワード補償と呼ばれる。
【0014】
これらの補償されたRRO値をサーボ制御機構に供給(例えば、それらの値をアレイに格納)すると、サーボ制御機構は、それらの格納されたRRO値を、いわば正常なものとみなし、それらの補正を行おうとはしないであろう。もちろん、ディスクドライブの動作中に生ずる任意の量のNRROは、この格納されたRROに関連して求められ、そのような別の位置ずれのPESは、サーボ制御機構による作用を受ける(処理される)であろう。
【0015】
RROの補償のためにシステムにフィードフォワードすべきPESの値を適切に決定するのは、簡単なことではない。システムがただ単に運転され各トラック上の選択されたポイントでPES値の測定が行われた場合、そのシステムにより測定されたPES値は、RROだけではなく他のすべての位置ずれ成分をも含んでいるであろう。
【0016】
摂動(perturbing)としての他の位置ずれ成分を無視してRRO成分のみを求める方法として、PESの波形を、数回にわたるディスク回転の回転角度の関数として求め、それらの結果の平均をとる方法がある。NRRO成分は、その性質上ランダムなものなので、PESの平均をとることにより、NRRO成分の影響を取り除くことができる。一旦、その平均振動波形が求まれば、その波形の高調波成分を分析することができる。そうした高調波分析によって、ディスク回転周波数の様々な倍数のRRO成分を明らかにすることができるであろう。
【0017】
上記のような高調波分析に先立って回転平均化を行うようにすると、サーボ機構を低バンド幅状態に設定することによってNRRO成分を可能な限りまで十分に取り除くことができ、アクチュエータ搭載トランスデューサの、ランダムな影響に対する感度を低くすることができる。本発明者Drouinは、特許文献1において、フーリエ変換および逆変換を用いてRRO波形の様々な周波数成分の影響を特定し補償するようにしたRRO補償方法を開示している。なお、この特許文献1の内容は、本出願にもそっくりそのまま組み入れられている。そのようなアルゴリズムおよび手法についての他の態様を開示した別の多数の先行技術(特許文献2〜9)が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第5,550,685号
【特許文献2】米国特許第6,700,728号
【特許文献3】米国特許第7,042,827号
【特許文献4】米国特許第5,854,722号
【特許文献5】米国特許第6,999,267号
【特許文献6】米国特許第6,826,006号
【特許文献7】米国特許第6,924,959号
【特許文献8】米国特許第7,196,864号
【特許文献9】米国特許第7,286,317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1の方法は、補償すべき個々の周波数の特定と、特定された各周波数ごとの大規模な計算と、フーリエ変換アルゴリズムの適用とを必要とする。したがって、この方法は、多くの記憶容量を要し処理時間のかかる演算集約的な手法である。
【0020】
Smith らによる特許文献2には、PES値の平均値を用いるフィードフォワードシステムが開示されている。このシステムは、特に、極端な値によってRRO補償試行に悪影響を与えるようなPES異常値を補正する技術に関するものである。
【0021】
Cho らによる特許文献3には、ディスクドライブを様々なスピードで回転させることにより、フィードフォワード値を計算する方法が開示されている。
【0022】
Cunninghamらによる特許文献4は、サーボセクタ間のフィードフォワード補正信号について開示している。より詳細には、この技術は、アクチュエータがディスク表面に沿ってトラッキングをする際にアクチュエータアームが弧状のパスを描くことの影響を補償する方法に関するものである。
【0023】
Melkote らによる特許文献5には、各セクタについて予め得た値と、各セクタおよび隣接セクタについて得たPESとを用いて、各サーボセクタについてRRO補償を繰り返し行うことが開示されている。
【0024】
Melkote らによる特許文献6には、各サーボウェッジの値に基づいてRROキャンセル値を計算する方法が開示されている。
【0025】
Melkote らによる特許文献7には、現在のPES値と以前のRRO評価結果とに基づいてRRO値を評価する方法が開示されている。
【0026】
Yiらによる特許文献8は、RRO較正中においてPES値を処理する第1のサーボループ補償器について開示している。
【0027】
Liらによる特許文献9は、ディスク上での情報読出間隔のタイミングを測定することによりRROの補償を行うことを開示している。
【0028】
しかしながら、上記の各技術のいずれにおいても、計算時間と記憶スペースが少なくて済み、正確かつ簡単にRROの影響を除去し得るものはなかった。
【0029】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、RROの影響を最小限にすることができる磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法を提供することにある。
【0030】
また、本発明の第2の目的は、優れた性能をもたらすものでありながら、必要とするプロセッサリソースや演算回数が少なくて済む簡単なアルゴリズムを適用することによって上記第1の目的を達成することができる磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の上記目的は、計算量を最小限化したアルゴリズムを適用して実行する手法によって達成される。すなわち、この手法の特徴は、高速な実行時間を確保し得ると共に、少ないプロセッサコードと最小限のデータメモリ空間しか必要としない点にある。
【0032】
本発明の磁気ハードディスクドライブは、半径方向に間隔をもって複数(第1の数)の円環状のデータトラックが形成されると共にこれらのデータトラックを半径方向に沿って複数(第2の数)のゾーンに分割することにより各データトラックが1つのゾーンに属するように構成され、かつ、半径方向位置およびトラック内角度位置を規定する埋め込み情報であるサーボデータを含む小さい角度幅の複数(第3の数)のサーボウェッジが、各データトラックの円周上に規則的な間隔をもって配置された磁気ハードディスクと、磁気ハードディスクが搭載されるモータ駆動回転スピンドルと、移動自在なアクチュエータアッセンブリと、アクチュエータアッセンブリに搭載され、このアクチュエータアッセンブリの移動によって磁気ハードディスク上の選択されたターゲット位置に位置合わせされると共に、サーボウェッジに書き込まれている情報を読み出す記録再生用のトランスデューサと、リピータブルランアウト(RRO)とノンリピータブルランアウト(NRRO)の双方を示す情報を含む位置エラー信号(PES)に応答する電気機械的な閉ループのサーボ機構と、トランスデューサを磁気ハードディスク上のターゲット位置に位置合わせする制御を行うディジタルアナログ変換部(DAC)とを備えたものである。
上記のサーボ機構は、ハードディスクドライブの物理的動作を特徴付けるボードプロット(Bode plot ;ボードダイアグラム)から求められた一セットのゲイン係数を保有する手段と、ゲイン係数を用いて、磁気ハードディスクのRROによって引き起こされるトランスデューサの位置ずれを補正するためのフィードフォワードRRO補正項のアレイを生成する手段と、生成されたフィードフォワードRRO補正項のアレイを格納する手段と、トランスデューサからPESを受け取り、このPES値にフィードフォワードRRO補正項を加算する手段とを含んでいる。
【0033】
本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法は、磁気ハードディスクと、磁気ハードディスクが搭載されるモータ駆動回転スピンドルと、移動自在なアクチュエータアッセンブリと、記録再生用のトランスデューサと、サーボ機構と、トランスデューサを磁気ハードディスク上のターゲット位置に位置合わせする制御を行うディジタルアナログ変換部とを備えた磁気ハードディスクドライブを用意することから始まる。
ここで、磁気ハードディスクは、半径方向に間隔をもって複数(第1の数)の円環状のデータトラックが形成されると共にこれらのデータトラックを半径方向に沿って複数(第2の数)のゾーンに分割することにより各データトラックが1つのゾーンに属するように構成され、かつ、半径方向位置およびトラック内角度位置を規定する埋め込み情報であるサーボデータを含む小さい角度幅の複数(第3の数)のサーボウェッジが、各データトラックの円周上に規則的な間隔をもって配置されたものである。トランスデューサは、アクチュエータアッセンブリに搭載され、このアクチュエータアッセンブリの移動によって磁気ハードディスク上の選択されたターゲット位置に位置合わせされると共に、サーボウェッジに書き込まれている情報を読み出すものである。サーボ機構は、リピータブルランアウト(RRO)とノンリピータブルランアウト(NRRO)の双方を示す情報を含む位置エラー信号(PES)に応答する電気機械的な閉ループのサーボ機構である。
さらに、この運転方法は、磁気ハードディスクを所定の回転数で回転させると共に、a)一のゾーンを選択し、b)選択したゾーン内の一のデータトラックを選択し、c)選択したデータトラック上のサーボウェッジ“n”のターゲット位置にトランスデューサを位置合わせすると共に、ターゲット位置におけるPES値を求め、d)サーボウェッジ“n”のターゲット位置におけるRRO補正項を求めると共に、このRRO補正項を加算部においてPES値に加算することにより、ターゲット位置におけるトランスデューサの動きのRRO成分の影響を補償し、さらに、サーボウェッジ“n”のターゲット位置において、e)ハードディスクドライブの振幅および位相の性能特性を示すボードプロットを用いて、直後のサーボウェッジのRRO補正項を特徴付ける、Nh個の高調波に対応するNg個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、f)フィードフォワードゲイン係数を用いて、直後のサーボウェッジのRROを特徴付けるフィードフォワード用のRRO補正項を算出し、g)得られたRRO補正項を、直後のサーボウェッジにおける使用に備えて、先送りして(feeding forward )保存する、という一連のステップを含んでいる。
【0034】
本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法では、さらに、h)ステップgののち、直後のサーボウェッジのターゲット位置にトランスデューサを位置合わせし、ステップdからステップgまでを繰り返し、i)データトラック上のすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、ステップcからステップhまでを繰り返すようにすることが可能である。
【0035】
本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法では、さらに、ゾーン内の次のデータトラックを選択し、このゾーン内のすべてのデータトラックのすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、ステップbからステップhまでを繰り返すようにすることが可能である。
【0036】
本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法では、さらに、次のゾーンを選択し、すべてのゾーン内のすべてのデータトラックのすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、ステップaからステップhまでを繰り返すようにすることが可能である。
【0037】
本発明の磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法では、PESは、トランスデューサから出力された実位置信号から所定の基準位置信号を差し引くことによって生成可能である。具体的には、PESは、サーボウェッジ“n”に埋め込まれた、トランスデューサの実際の位置を与えるサーボデータを読み出し、この読み出したサーボデータに、トラック中心線位置を示す値、または、予め計算されたRRO補正項をトラック中心線位置から差し引いた値、である基準位置データを代数的に加算することにより、得ることができる。このとき、選択された回数にわたるディスク回転中にサーボウェッジ“n”において同じ測定を繰り返し行うことにより得られた平均位置をトランスデューサの位置として採用することにより、ノンリピータブルランアウトの影響を低減するようにすることが好ましい。
【0038】
本発明の磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法では、加算部によって、フィードフォワード補正項を、DACの入力またはサーボ制御機構の入力に加算するように構成可能である。この場合、DACにRRO補正項を加えるようにすれば、トランスデューサをトラックのRRO挙動に忠実に追従させることができる。一方、サーボ制御機構にRRO補正項を加えるようにした場合には、RRO成分の除かれたトラック中心線位置が新たに設定されることになる。
【0039】
フィードフォワード用のRRO補正項は、システム動作に関するボードプロットから得た振幅および位相を用いて、所定個数のフィードフォワードゲイン係数のアレイを求めるステップと、サーボ機構内に記憶されているフィードフォワードRRO補正項のアレイを初期化するステップと、算出されたフィードフォワードゲイン係数を用い、各サーボウェッジ位置において所定個数の高調波にわたって反復合算(iterative sum )を行うことにより、フィードフォワードRRO補正項のアレイの値を反復的に求めるステップとにより算出することができる。上記の初期化にあたっては、電源オン時において、フィードフォワードRRO補正項のアレイを、予め計算された収斂データによって初期化するようにしてもよい。上記のボードプロットとしては、実際のハードディスクドライブの動作評価により得られたものを用いることが好ましい。また、上記の反復合算の間に前記フィードフォワードゲイン係数を変化させるようにすれば、フィードフォワードRRO補正項の収斂を早めることが可能になる。
【0040】
本発明の磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法では、所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために、単一のフィードフォワードゲイン係数のみを用いるようにしてもよい。あるいは、5個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、これらのゲイン係数を所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために用いるようにしてもよい。
【0041】
本発明の磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法では、反復合算の間にフィードフォワードゲイン係数を変化させるようにすれば、フィードフォワードRRO補正項の収斂を早めることが可能である。このフィードフォワードゲイン係数を可変とすることは、ゾーンごとに一連の初期ゲイン係数を規定するステップと、初期ゲイン係数を用いて、各ゾーン内の代表的なトラックセットにおけるすべてのサーボウェッジについてフィードフォワード補正項のセットを算出するステップと、一連の初期ゲイン係数の個数を減らし、フィードフォワード補正項を再計算するステップとを含む方法により実現可能である。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、高速な実行時間を確保しつつ、少ないプロセッサコードと最小限のデータメモリ空間しか必要としない磁気ハードディスクドライブおよびその運転方法を提供することができる。
【0043】
特に、フィードフォワードRRO補正項の入力先をDAC加算点とPES加算点との間で切り換えるようにした場合には、前者の状態ではトランスデューサをRROに追従させる一方、後者の状態では、RRO成分が取り除かれて新たに設定されたトラック中心ターゲット位置をトランスデューサが追従するようにすることができる。
【0044】
また、本発明では、ディスク表面を複数のゾーンに分割し、ゾーンごとに自身の個別のフィードフォワード補正値(RRO補正項)のアレイを持つようにした場合には、演算収斂時間を著しく短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】トラックとトラックに埋め込まれたサーボウェッジとを有する磁気ハードディスクを備えた磁気ハードディスクドライブを表す概略構成図である。
【図2】ハードディスクが偏心して回転している状態において、サーボウェッジがトランスデューサを再位置合わせしなければならない様子を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る磁気ハードディスクドライブにおいて、トランスデューサのPES信号からRRO成分をキャンセルするプロセスを示すブロック図である。
【図4】ディスクの回転中にRROを示す代表的な磁気ハードディスクドライブのボードプロットにおける位相およびゲイン成分を示す図である。
【図5a】フィードフォワードゲイン係数の計算値およびその計算に用いられる各種パラメータの具体例を含むテーブルを表すものである。
【図5b】図4に示したようなボードプロットから決定されるフィードフォワード係数アレイの一例を示す図である。
【図6】図7,図8bに示す結果をもたらすフィードフォワード計算のCコードインプリメンテーションを示す図である。
【図7】あるハードディスクドライブにフィードフォワードアルゴリズムを適用したときの結果を示すテーブルである。
【図8a】本発明のフィードフォワードアルゴリズムによる補正処理を行わなかった場合におけるPESの値とPESの中のRRO部分の値の一例を示す図である。
【図8b】本発明のフィードフォワードアルゴリズムによる補正処理を行った場合におけるPESの値とPESの中のRRO部分の値の一例を示し、ハードディスクドライブからRROの影響がある程度まで取り除かれた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1、図2および図3は、本発明の一実施の形態に係る磁気ハードディスクドライブの要部を表すものである。なお、本発明の磁気ハードディスクドライブの運転方法は、この磁気ハードディスクドライブによって具現化されるので、以下、併せて説明する。
【0047】
図1は、ハードディスクドライブ(以下、HDDという。)11の主要要素の配置構成を表すものである。このHDD11は、回転可能なスピンドル12に装着された磁気ディスク1と、磁気記録再生ヘッドとしてのトランスデューサ13と、トランスデューサ13を搭載すると共に、自ら移動することによってトランスデューサ13を磁気ディスク1の半径方向に移動させるアクチュエータアッセンブリ14とを備えている。磁気ディスク1には、トランスデューサ13によるデータ読み書き対象となる同心円環状の複数のトラック17が形成されている。アクチュエータアッセンブリ14は、トランスデューサ13がデータの読み書きを行いながらトラック17に正確に追従するように、閉ループサーボ制御機構(図3における制御部60)によって制御されるようになっている。
【0048】
図2に示したように、円形の各トラック17には、小さな角度幅をもつサーボウェッジ16が周期的に繰り返し配置され、これらのそれぞれにサーボデータが記録されている。磁気ディスク1が回転してトランスデューサ13が各サーボウェッジ(サーボセクタとも呼ばれる)の上を通過すると、トランスデューサ13は、サーボデータに基づき自分とトラック中心線との相対距離を取得し、これを位置エラー信号(PES)としてサーボ制御機構(後述する図3)にフィードバックする。サーボ制御機構は、PESに基づいて補正値を算出し、これをDAC(図示せず)に送ることにより、トランスデューサ13の位置補正を行うようになっている。
【0049】
図2において、磁気ディスク1の中心がスピンドル12の中心と一致しているのが理想であるが、実際上、磁気ディスク1は、ずれた中心14の周りを回転することが多い。その場合には、トランスデューサ13が、同心のトラック17から外れた破線軌道15をトレースすることになる。トランスデューサ13の破線軌道15が、交差点16a〜16hにおいてサーボウェッジ16を通過するとき、サーボ制御機構は、トランスデューサ13をトラック17へと戻すために移動させようとすることから、トランスデューサ13は、磁気ディスク1の1回転を1周期として半径方向に振動し、これがRRO成分として現れることとなる。
【0050】
RRO成分は、周期的であることから、それを除去することは比較的容易である。これに対し、様々なランダムな周囲の影響がディスクの動きに加わることによって生ずる位置エラーであるNRROは、容易に除去できるものではない。但し、RRO成分を十分に小さくすることができれば、サーボ制御機構によってNRROに対する補正を行うことがより容易となる。
【0051】
RRO成分の補正は、現在のサーボウェッジの位置において次のサーボウェッジでのトランスデューサ予想位置に関するデータを計算して記憶しておき、これを用いて次のサーボウェッジの位置におけるトランスデューサ13の位置合わせ補正を行うフィードフォワード補償によって実現される。
【0052】
図3は、本発明の磁気ハードディスクドライブにおけるRRO補正機構の概略構成を表すものである。この図で、各矩形ボックスは、動作中のHDD11における各電気機械的動作部分を示している。これらの動作は、閉ループサーボ制御機構としての制御部60により、記憶されたフィードフォワードアルゴリズム部50を用いて実行され、これにより、プラント200の動作が有効に制御されるようになっている。ここで、プラント200は、HDD11のアクチュエータアッセンブリ14、トランスデューサ13およびスピンドル駆動部等を総称したものである。なお、フィードフォワードアルゴリズム部50については、後述する。
【0053】
トランスデューサ13の実際の現在位置を示す位置信号75は、現在のサーボウェッジ“n”に埋め込まれているサーボデータから求められる。ここで、“n”は、1とサーボウェッジの総数との間の整数である。サーボウェッジの総数は、各ディスクに特有の値である。この位置を特定するディジタル出力(位置信号75)は、加算部(summing junction)90において、(通常は)トラック中心線のターゲット位置を示す基準位置信号70と代数的に加算される。このトラック中心線は、トランスデューサ13が現在位置すべき位置であり、かつ、それ以後もトランスデューサ13が追従すべきものである。
【0054】
ここで注意すべきことは、加算部90に入力される基準位置信号70を選ぶことにより、トランスデューサ13が追従しようとする特定のトラッキング線を変更することができ、その結果、基準位置信号70が、固定位置ではなく予め計算されたトラッキング位置を参照するという適応的態様で働くようになるということである。
【0055】
加算部90において基準位置信号70から位置信号75を差し引くことにより、(目標位置と現在位置との差を示す)位置エラー信号(PES)80が得られる。このPES80は、現サーボウェッジにおける現補正の実行のために制御部60に入力される。PES80はまた、フィードフォワードアルゴリズム部50にも入力され、ここで、その次のサーボウェッジに適用されるべき補正項(correction term )、すなわち、フィードフォワードRRO補正項が算出される。
【0056】
上記の生成されたPES80は、トラックに対するすべての摂動と、RRO成分およびNRRO成分とに起因する、トランスデューサ13の位置ずれの総和を表している。従来のHDDは、本実施の形態のフィードフォワード機構を有しておらず、制御部はサーボ補償信号を生成するが、位置ずれの総和からRRO成分の影響を取り除くことはしない。
【0057】
そこで本発明者は、RRO成分を無視できる(すなわち、補償する)ようにするために、フィードフォワードアルゴリズム部50を設けた。ここで特筆すべきことは、そのアルゴリズムのうち、PESからRRO成分を取り除くための演算部分において使用するために、PES80を、特定の位置における所定回数のディスク回転にわたる位置測定の平均値として算出するようにした点である。このような平均値を採用することにより、NRRO成分によるランダムな影響をほぼ取り除くことができ、結果として、補正の目的で用いられるPES値によって、NRRO摂動の影響を受けずにRROの影響を補正できることになる。
【0058】
ここで設けたフィードフォワードアルゴリズム部50は、RROのみに起因するトランスデューサ位置ずれ分を示すフィードフォワード値(ディジタルデータ)を、反復合算(逐次累算;iterative sum )により算出し、その結果をフィードフォワードRRO補正項として出力する。このフィードフォワードRRO補正項(後述する“FFout[ ]”)は、加算部95の図示しないDAC(Digital to Analog Converter )において、制御部60からディジタルデータとして出力される補償出力(後述する“ControlOutput[ ]”)と加算され、その加算結果100(後述する“DAC[ ]”)が、アナログの制御信号としてプラント200(より具体的には、図示しないボイスコイルモータ(VCM))に供給される。
【0059】
RROの影響を正しく補償するためには、フィードフォワードRRO補正項の値が、サーボ機構の振る舞いをRROの様々な高調波成分(個別にキャンセルされるものであるが)にマッチングさせるためのゲインファクター(フィードフォワードゲイン係数、または単にゲイン係数という。)を含む必要がある。このゲイン係数は、システムの実際の動作から実験的に求められるものである。本実施の形態では、プラント200に関するボードプロット(Bode plot ;ボードダイアグラム;後出の図4を参照)を用いてゲイン係数を得る。
【0060】
加算部95からの加算結果100は、アクチュエータに搭載されたトランスデューサ13をトラック中心線(または他の適切なターゲット位置)へと戻して合わせるのに必要な制御をもたらすが、この場合には、PESの中のより小さな部分をなすNRRO成分を補正するだけでよい。フィードフォワードアルゴリズム部50の出力は、加算部95または加算部90のいずれかに供給されるように選択可能である。ここで、加算部95を選択した場合には、プラント200が現在のRRO成分に追従することになり、結果として、PES80の中のRRO成分が減少する。一方、加算部90を選択した場合には、システムは、事実上、RRO成分が除去された新たなターゲットトラック中心線を設定することになる。このような動作全体が、ディスクの各回転期間にわたって、データトラック上の各サーボウェッジにおいて繰り返される。ここでさらに注意すべきことは、複数のデータトラックが複数のゾーンに分割され、ゾーンごとに個別の補正データセット(フィードフォワードRRO補正項)が算出される点である。
【0061】
フィードフォワードアルゴリズム部50において実行されるアルゴリズムは、次のような擬似コードにより表される。
【0062】
1.DAC[n] = ControlOutput[n] + FFout[n]
… Other controller calculations and output sent to DAC
2.FFout[n+1] = (FF[n + delay] * FFGain[0] ) + (FF[n + delay +1] * FFGain[1]) + (FF[n + delay +2] * FFGain[2]) + …
3.FF[n] = FF[n] + PES[n]
【0063】
ここで、
“FFout[ ]”は、サーボ制御出力(制御部60の出力“ControlOutput[ ]”)に加算されるフィードフォワードRRO補正項の値である。
“FF[ ] ”は、フィードフォワード値のアレイであり、各サーボウェッジにつき1つのアレイが用意される。
“FFGain[ ] ”は、フィードフォワードゲイン係数のアレイであり、フィードフォワード値のアレイの各項(FF[ ] )につき1つの係数要素が用意される。
“delay ”は、サーボウェッジ遅延定数であり、プラント200の動作における応答時間遅延を考慮したものである。
“n ”は現在のサーボウェッジの番号である。
【0064】
上記した擬似コードの3行目は、アルゴリズムが収斂していくときに各サーボセクタのPESを累算するための計算を示している。ある特定のサーボウェッジ“n”におけるPESが0になったとすると、FF[n] の値は、もはや変化しない。アルゴリズムが収斂してRROが十分に補償された定常状態においては、すべてのサーボセクタにおける“FF[n] ”の値は、それぞれ、各々の収斂値に近い値に保たれる。擬似コードの2行目に先立って行われる1行目の計算の目的は、サーボウェッジ“n”での制御出力が、“FF[n] ”の値の計算を待たずに、できるだけ早くDACに送られるようにすることである。DAC出力が送られたあと、次のサーボウェッジ“n+1”での使用に備えて、2行目および3行目の予備計算が行われる。
【0065】
このようにして、この繰り返しアルゴリズムは、ディスクが回転している間中、それぞれの現サーボウェッジ位置“n”について実行されると共に、その位置において算出されたフィードフォワードRRO補正項の値が、その次のサーボウェッジ“n+1”に対応した適切な位置のアレイに入力される。ここで、特筆すべきことは、ゲイン係数を可変にすることにより、アルゴリズムの収斂を早めることができるということである。これは、ゲイン係数の初期セットをまず選ぶと共に、これに続いて、入力エラーが徐々に小さくなるにしたがってゲイン係数の数を次々と減らしていくことによって実現される。
【0066】
この演算をよりよく理解するために、上記した擬似コードの第1行目を参照する。ここで、“DAC[n]”は、n番目のサーボウェッジにあるトランスデューサ13を正しく位置合わせするためにアクチュエータを最終的に移動させるのに用いられる全アナログ信号を示す。この信号は、2つの部分の和:“ControlOutput[n] + FFout[n] ”により与えられる。これらの2つの部分の役割は、図3を参照することにより理解される。この図からわかるように、“ControlOutput[n]”は、制御部60から加算部95に供給される量であり、一方、“FFout[n]”は、フィードフォワードアルゴリズム部50におけるフィードフォワード演算の結果であるフィードフォワードRRO補正項である。
【0067】
次に、“FFout[n+1] = (FF[n + delay] * FFGain[0] ) + (FF[n + delay +1] * FFGain[1]) + (FF[n + delay +2] * FFGain[2]) + …”という第2行目の擬似コードについて考察する。この擬似コードは、後続のサーボウェッジ“n+1”においてトランスデューサ13によって利用されるように先行して与えられる(フィードフォワードされる)計算値“FFout ”を示している。この“FFout[n+1]”は、その次のサーボウェッジ“n+1”において、第1行目の場合と同様に“ControlOutput[n+1]”と加算され、“DAC[n+1]”が生成される。
【0068】
このように、現サーボウェッジ“n”では、2つのことが起こる。すなわち、トランスデューサ13が“DAC[n]”によって正しく位置合わせされると共に、その次のサーボウェッジ“n+1”において用いられるべきフィードフォワードRRO補正値“FFout[n+1]”の計算が行われるのである。
さらに、サーボウェッジ“n+1”では“FFout[n+2]”の値が算出され、この値が、その次のサーボウェッジ“n+2”において用いられることになる。
【0069】
“FFout[ ]”の値は、このシステムのボードプロットから得られるゲインおよび位相を用いて計算される。すなわち、システム動作に関するボードプロットから得た振幅(ゲイン)および位相を用いて、所定個数のフィードフォワードゲイン係数のアレイを求めるステップと、算出されたフィードフォワードゲイン係数を用い、各サーボウェッジ位置において所定個数の高調波にわたって反復合算(逐次累算)を行うことにより、フィードフォワードRRO補正項のアレイの値を反復的に合算するステップとにより計算される。なお、フィードフォワードRRO補正項アレイの反復合算を実行するにあたっては、サーボ機構内に記憶されているフィードフォワードRRO補正項のアレイを初期化するのが好ましい。この初期化は、予め計算された収斂データを用いて、電源オン時に行うようにすることが可能である。なお、“FFout[ ]”の求め方の詳細は後述する。事実上、このデータは、サーボ機構の制御効果を特定の高調波にマッチングさせるやり方を(フィードフォワード)アルゴリズムに指示するものといえる。なお、ディスク表面を半径方向において複数のゾーンに分割し、ゾーンごとに自身の個別の“FFout[ ]”アレイを持つようにすることも可能であり、また、こうすることは、演算収斂時間を短縮し得る点で有利である。
【0070】
次に、フィードフォワードRRO補正項“FFout[ ]”の値の求め方についてより詳細に説明する。
【0071】
上記したように、各トラック上には、それぞれが微小角度幅をもつ複数ののサーボウェッジが規則的な間隔をもって配置されており、各サーボウェッジにはサーボトラック情報(サーボデータ)が埋め込まれている。以下の説明では、一回転(一周)あたりのサーボウェッジの数を“wpr”と記すものとする。
【0072】
サーボウェッジに格納されたサーボデータは、トランスデューサ13をトラック上の所望の半径方向位置(ターゲット位置)に位置合わせするために用いられる。本実施の形態では、上記したように、選択されたトラックの各サーボウェッジ(例えば、サーボウェッジ“n”)の位置においてRRO補正を行うと共に、そのサーボウェッジにいる間に、次のサーボウェッジ用のRRO補正値(フィードフォワードRRO補正項)の計算をし、そのRRO補正値が次のサーボウェッジ(例えば、サーボウェッジ“n+1”)でアクセスされ利用されるようにフィードフォワード(先送りして記憶)する、という高速かつ簡単な機構を提供している。こうして、トラック上の各サーボウェッジ位置において、トランスデューサ13の(RROおよびNRROの双方を含む)PES値を、結局RRO補正量の分だけ減少させることができる。結果として、トランスデューサ13の位置合わせは、装置上の固定点を基準として行うのではなく、トラックのRROを基準として行えばよいことになる。
【0073】
擬似コードの第2行目にあるように、フィードフォワードアルゴリズム部50の出力“FFout[ ]”は、ゲイン係数“FFGain[ ] ”を要する反復合算(“FF[ ] ”に“FFGain[ ] ”を乗じたものを高調波の数だけ反復的に合算する演算)によって計算される。これらのゲイン係数“FFGain[ ] ”は、HDDのボードプロットに含まれている振幅および位相の情報を用いて算出される。
【0074】
図4は、そのようなボードプロットの具体例を表すものである。この図で、上側の曲線PHASEは位相を示し、下側の曲線GAINはゲインを示す。このようなボードプロットは、特定のディスクのRROまたはNRROに対する感度が高くないやり方でのシステム性能から得られる。実際上、ボードプロットは、特定の機械的なシステムについて評価可能である。そして、もしもそのような評価が、実際のシステムの振る舞いに対する妥当性のある近似であるのならば、フィードフォワードアルゴリズムはかなり良好に機能することになる。ゲイン係数“FFGain[ ] ”のアルゴリズム的計算は、次のような擬似コードに従って進行する。
【0075】
4.FFGain[i] = D[i] - Average(D[1], D[2], D[3],……,D[Ng])
5.D[i] = C[i] / C[1]
6.C[i] = X[1,i] + X[2,i] + X[3,i] + …… +X[k,i]
7.X[k,i] = (1/G[i]) * {cos(-P[i] + 2*pi*k*(i-1)/wpr) +
cos(P[i] + 2*pi*k*(wpr-i+1)/wpr)}
【0076】
ここで、
“k”は、高調波のインデックス番号( 次数) を示し、1からNh(Nhは高調波の最大個数)の値をとる。
“i”は、フィードフォワードゲイン係数のインデックス番号であり、1からNg(Ngはフィードフォワードゲイン係数の最大個数)をとる。
“wpr ”は、一回転あたりのサーボウェッジの個数である。
“G[ ]”は、プラントにおけるゲインのアレイである。
“P[ ]”は、プラントにおける位相のアレイである。
“Average(D[1], D[2], D[3], …) ”は、“D[1]”〜“D[Ng] ”のすべての値の平均値である。Ngは、このアルゴリズムで用いられるゲイン係数の数である。
【0077】
図5aは、“C[i]”, “D[i]”および“FFGain[i] ”の計算値の具体例を含むテーブルを表すものである。これらの計算値は、2.5インチ型でトラック密度が145kTPI(キロトラックスパーインチ)のHDDにおけるデータである。回転数および第1高調波は70Hzである。このテーブルは、30行で構成され、各行が高調波のインデックス番号“k”に対応する。したがって、“k”は1〜30である。このアレイは、全部で15列からなり、最後の11列はインデックス番号“i”(選ばれたゲイン係数番号)に対応する。
【0078】
第1列: kの値
第2列: 該当する高調波の周波数
第3列: ボードプロットのゲインの大きさG[ ](dB)
第4列: ボードプロットの位相P[ ](ラジアン)
第5列: X[1,1], X[2,1], X[3,1], … , X[k,1]
第6列: X[1,2], X[2,2], X[3,2], … , X[k,2]
第7列: X[1,3], X[2,3], X[3,3], … , X[k,3]
・
・
・
第15列:X[1,11], X[2,11], X[3,11],… , X[k,11]
【0079】
ゲイン係数の計算時に考慮すべき高調波の数は、変化させるようにしてもよい。ある環境では、特定の高調波周波数から独立した(それを含んでいない)ゲイン係数を計算することが望ましい。そうした環境とは、その特定の高調波周波数において共振が起きたような場合である。これは、その特定周波数に先立って計算を終了するか、あるいは、その高調波の数を非常に大きな数に設定することにより、行うことが可能である。ゲイン係数の計算において用いられるべき高調波の数は、含まれている様々な数の高調波を用いてフィードフォワードアルゴリズムの性能を観測することにより、実験的に決定可能である。
【0080】
図5bは、行のゲイン係数“FFGain[i] ”(i=1,2,3,…)の値とゲイン係数のインデックス番号“i”との対応関係を示すグラフを表すものである。これらの行ゲインは、計算において用いる“FFGain[i] ”の値を得るために適切な値へとスケーリングされる。ここで示した例では、5個の“FFGain[i] ”(i=1〜5)の値のみを用いる。但し、それ以上あるいはそれ以下でもよい。例えば、1つだけ用いるようにしてもよい。用いるべきゲイン係数の数は、様々な数のゲイン係数を用いてフィードフォワードアルゴリズムの性能を観測することにより、決定可能である。5個のゲイン係数を用いることが妥当であることが実験的に認められた。
【0081】
図6は、フィードフォワードアルゴリズム部50において実行されるアルゴリズムを具体的にCコードで記述したときのソースコードの一例を表すものである。このインプリメンテーションは、DACへの制御出力(ControlOutput[n])の実行が完了したのち、各サーボ割り込みにおいて実行される。このCコードにおいて、“FFout ”の値が、次のサーボ割り込みで使用するために、予備計算されている。このCコードにおいて計算された“FFout ”の値は、制御出力に加算され、その加算結果がDACに供給される。すなわち、擬似コードの第1行目の“DAC[n] = ControlOutput[n] + FFout[n]”という処理が実行される。
【0082】
擬似コードの第4行目〜第7行目において説明したように、フィードフォワードゲイン係数は、プラントボードプロットにおける振幅の大きさと位相とから計算される。このCコードにおける“FFShift ”および“FFShiftX”の値は、特定の機械的プラント用に選ばれたものであり、十分な計算値ダイナミックレンジおよびループスタビリティが得られるように可変スケーリングになっている。そのような実験的な手法は、サーボ制御システムの技術分野における当業者であれば容易に実施可能である。
【0083】
上記のCコードには、“ApplyOn"および“AcquireOn"という論理量が含まれている。これらは、それぞれ、アルゴリズムが適用される条件と、計算を停止する条件とを制御するものである。より詳細には、トラック追従がなされていない場合やPESが外乱によって大きくなっている場合には、“AquireOn”が“FALSE ”にセットされると共に、“ApplyOn ”が“TRUE”にセットされる。また、RROがしきい値以下に低下したときには、“AcquireOn ”が“FALSE ”にセットされる。
【0084】
図7は、上記したHDD(2.5インチ型でトラック密度が145kTPI)におけるフィードフォワードアルゴリズムの効果を図示したものである。すべての値はピークトゥーピークの測定値である。PESの測定値は、制御部60に入力されたPES値から得られたものである。すなわち、それらは、RROの影響のみならず制御不能なランダム摂動をも含む“PES(RRO+NRRO) ”である。RROの測定値は、PESを25回転の連続したディスク回転にわたって平均することにより得られる。そのような平均化処理を行うことにより、ランダムなNRRO摂動がキャンセルされ、RROの周期的挙動が正確に表されると考えられる。
【0085】
図7から明らかなように、フィードフォワードアルゴリズムをイネーブル(実行状態)にすることにより、ディスエーブル(実行停止状態)の場合と比べて、PESの値がかなり小さくなり、その中のRRO部分はさらに小さくなる。
【0086】
図8aは、フィードフォワードアルゴリズムによる補正処理をディエーブルにした場合におけるPESの値とPESの中のRRO部分の値とを表すものである。図8bは、フィードフォワードアルゴリズムによる補正処理をイネーブルにした場合における行PESの値とPESの中のRRO部分の値とを表すものである。これらの図において、破線PESはPESの値を示す。太線PES_RROは、多数回のディスク回転中におけるPESの平均値であり、PESの中のRRO部分に相当する。細線FFT_of_PESはPESのフーリエ変換を示す。なお、横軸はこのFFT_of_PESの周波数に基づいて描いてある。縦軸は各値の任意スケールの大きさを示す。
【0087】
これらの図8aおよび図8bからも明らかなように、補正処理をディエーブルにした場合(図8a)に比べて、補正処理をイネーブルにした場合(図8b)に、PESおよびPES_RROが改善されていることがわかる。
【0088】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、この実施の形態は、本発明を限定するためのものではなく、本発明を説明するための一事例にすぎない。また、本発明はこれらの実施の形態に限定されず、添付した特許請求の範囲に従ったHDD動作を可能にしつつ動作中のHDDにおける閉ループサーボ機構のPES応答からRRO成分を効果的に取り除くことができる限りにおいて、本実施の形態で説明した方法、構成、材料、構造および寸法等に種々の変形や修正を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0089】
1…磁気ディスク、11…ハードディスクドライブ(HDD)、12…スピンドル、13…トランスデューサ、14…アクチュエータアッセンブリ、16…サーボウェッジ、17…トラック、50…フィードフォワードアルゴリズム部、60…制御部、70…基準位置信号、75…位置信号、80…位置エラー信号(PES)、90,95…加算部、200…プラント。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向に間隔をもって複数(第1の数)の円環状のデータトラックが形成されると共にこれらのデータトラックを半径方向に沿って複数(第2の数)のゾーンに分割することにより各データトラックが1つのゾーンに属するように構成され、かつ、半径方向位置およびトラック内角度位置を規定する埋め込み情報であるサーボデータを含む小さい角度幅の複数(第3の数)のサーボウェッジが、各データトラックの円周上に規則的な間隔をもって配置された磁気ハードディスクと、
前記磁気ハードディスクが搭載されるモータ駆動回転スピンドルと、
移動自在なアクチュエータアッセンブリと、
前記アクチュエータアッセンブリに搭載され、このアクチュエータアッセンブリの移動によって前記磁気ハードディスク上の選択されたターゲット位置に位置合わせされると共に、前記サーボウェッジに書き込まれている情報を読み出す記録再生用のトランスデューサと、
リピータブルランアウト(RRO)とノンリピータブルランアウト(NRRO)の双方を示す情報を含む位置エラー信号(PES)に応答する電気機械的な閉ループのサーボ機構と、
前記トランスデューサを前記磁気ハードディスク上の前記ターゲット位置に位置合わせする制御を行うディジタルアナログ変換部(DAC)と
を備えた磁気ハードディスクドライブを用意し、
前記磁気ハードディスクを所定の回転数で回転させ、
a)一のゾーンを選択し、
b)前記選択したゾーン内の一のデータトラックを選択し、
c)前記選択したデータトラック上のサーボウェッジ“n”のターゲット位置に前記トランスデューサを位置合わせすると共に、前記ターゲット位置におけるPES値を求め、
d)前記サーボウェッジ“n”のターゲット位置におけるRRO補正項を求めると共に、このRRO補正項を加算部において前記PES値に加算することにより、前記ターゲット位置における前記トランスデューサの動きのRRO成分の影響を補償し、
さらに、前記サーボウェッジ“n”のターゲット位置において、
e)ハードディスクドライブの振幅および位相の性能特性を示すボードプロットを用いて、直後のサーボウェッジのRRO補正項を特徴付ける、Nh個の高調波に対応するNg個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、
f)前記フィードフォワードゲイン係数を用いて、前記直後のサーボウェッジのRROを特徴付けるフィードフォワード用のRRO補正項を算出し、
g)得られた前記RRO補正項を、前記直後のサーボウェッジにおける使用に備えて、先送りして(feeding forward )保存する
磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項2】
さらに、
h)前記ステップgののち、前記直後のサーボウェッジのターゲット位置に前記トランスデューサを位置合わせし、前記ステップdから前記ステップgまでを繰り返し(但し、このときの「サーボウェッジ“n”のターゲット位置」は、前記「直後のサーボウェッジのターゲット位置」と同じものを意味する)、
i)前記データトラック上のすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、前記ステップcから前記ステップhまでを繰り返す
請求項1に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項3】
さらに、
ゾーン内の次のデータトラックを選択し、このゾーン内のすべてのデータトラックのすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、前記ステップbから前記ステップhまでを繰り返す
請求項2に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項4】
さらに、
次のゾーンを選択し、すべてのゾーン内のすべてのデータトラックのすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、前記ステップaから前記ステップhまでを繰り返す
請求項3に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項5】
前記位置エラー信号を、
前記サーボウェッジに埋め込まれた、前記トランスデューサの実際の位置を与える前記サーボデータを読み出すステップと、
この読み出したサーボデータに、トラック中心線位置を示す値、または、予め計算されたRRO補正項をトラック中心線位置から差し引いた値、である基準位置データを代数的に加算するステップと
により求める
請求項1に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項6】
選択された回数にわたるディスク回転中に前記サーボウェッジ“n”において同じ測定を繰り返し行うことにより得られた平均位置を前記トランスデューサの位置として採用することにより、ノンリピータブルランアウトの影響を低減する
請求項5に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項7】
前記加算部によって、前記フィードフォワード補正項を前記DACの入力または前記サーボ制御機構の入力に加算する
請求項1に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項8】
前記DACに前記RRO補正項を加えることにより、前記トランスデューサを前記トラックのRRO挙動に忠実に追従させる一方、前記サーボ制御機構に前記RRO補正項を加えることにより、前記RRO成分の除かれたトラック中心線位置を新たに設定する
請求項7に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項9】
前記フィードフォワード用のRRO補正項を、
システム動作に関するボードプロットから得た振幅および位相を用いて、所定個数のフィードフォワードゲイン係数のアレイを求めるステップと、
サーボ機構内に記憶されているフィードフォワードRRO補正項のアレイを初期化するステップと、
算出された前記フィードフォワードゲイン係数を用い、各サーボウェッジ位置において所定個数の高調波にわたって反復合算(iterative sum )を行うことにより、前記フィードフォワードRRO補正項のアレイの値を反復的に求めるステップと
により算出する
請求項1に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項10】
所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために、単一のフィードフォワードゲイン係数のみを用いる
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項11】
5個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、これらのゲイン係数を所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために用いる
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項12】
前記反復合算の間に前記フィードフォワードゲイン係数を変化させることにより、前記フィードフォワードRRO補正項の収斂を早める
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項13】
前記可変のフィードフォワードゲイン係数を、
ゾーンごとに、一連の初期ゲイン係数を規定するステップと、
前記初期ゲイン係数を用いて、各ゾーン内の代表的なトラックセットにおけるすべてのサーボウェッジについてフィードフォワード補正項のセットを算出するステップと、
前記一連の初期ゲイン係数の個数を減らし、前記フィードフォワード補正項を再計算するステップと
を含む方法により求める
請求項12に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項14】
電源オン時において、前記フィードフォワードRRO補正項のアレイを、予め計算された収斂データによって初期化する
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項15】
前記ボードプロットとして、実際のハードディスクドライブの動作評価により得られたものを用いる
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項16】
半径方向に間隔をもって複数(第1の数)の円環状のデータトラックが形成されると共にこれらのデータトラックを半径方向に沿って複数(第2の数)のゾーンに分割することにより各データトラックが1つのゾーンに属するように構成され、かつ、半径方向位置およびトラック内角度位置を規定する埋め込み情報であるサーボデータを含む小さい角度幅の複数(第3の数)のサーボウェッジが、各データトラックの円周上に規則的な間隔をもって配置された磁気ハードディスクと、
前記磁気ハードディスクが搭載されるモータ駆動回転スピンドルと、
移動自在なアクチュエータアッセンブリと、
前記アクチュエータアッセンブリに搭載され、このアクチュエータアッセンブリの移動によって前記磁気ハードディスク上の選択されたターゲット位置に位置合わせされると共に、前記サーボウェッジに書き込まれている情報を読み出す記録再生用のトランスデューサと、
リピータブルランアウト(RRO)とノンリピータブルランアウト(NRRO)の双方を示す情報を含む位置エラー信号(PES)に応答する電気機械的な閉ループのサーボ機構と、
前記トランスデューサを前記磁気ハードディスク上の前記ターゲット位置に位置合わせする制御を行うディジタルアナログ変換部(DAC)と
を備え、
前記サーボ機構が、
ハードディスクドライブの物理的動作を特徴付けるボードプロット(Bode plot ;ボードダイアグラム)から求められた一セットのゲイン係数を保有する手段と、
前記ゲイン係数を用いて、前記磁気ハードディスクのRROによって引き起こされるトランスデューサの位置ずれを補正するためのフィードフォワードRRO補正項のアレイを生成する手段と、
前記生成されたフィードフォワードRRO補正項のアレイを格納する手段と、
前記トランスデューサから前記PESを受け取り、このPES値に前記フィードフォワードRRO補正項を加算する手段と
を含む磁気ハードディスクドライブ。
【請求項17】
前記PESは、前記トランスデューサから出力された実位置信号から所定の基準位置信号を差し引くことによって生成される
請求項16に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項18】
前記PESは、
前記サーボウェッジ“n”に埋め込まれた、前記トランスデューサの実際の位置を与えるサーボデータを読み出すステップと、
この読み出したサーボデータに、トラック中心線位置を示す値、または、予め計算されたRRO補正項をトラック中心線位置から差し引いた値、である基準位置データを代数的に加算するステップと
により求められる
請求項16に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項19】
選択された回数にわたるディスク回転中に前記サーボウェッジ“n”において同じ測定を繰り返し行うことにより得られた平均位置を前記トランスデューサの位置として採用することにより、ノンリピータブルランアウトの影響を低減する
請求項18に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項20】
前記加算部によって、前記フィードフォワード補正項が前記DACの入力または前記サーボ制御機構の入力に加算される
請求項16に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項21】
前記DACに前記RRO補正項を加えることにより、前記トランスデューサを前記トラックのRRO挙動に忠実に追従させる一方、前記サーボ制御機構に前記RRO補正項を加えることにより、前記RRO成分の除かれたトラック中心線位置を新たに設定する
請求項20に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項22】
前記フィードフォワード用のRRO補正項を、
システム動作に関するボードプロットから得た振幅および位相を用いて、所定個数のゲイン係数のアレイを求めるステップと、
サーボ機構内に記憶されているフィードフォワードRRO補正項のアレイを初期化するステップと、
算出された前記フィードフォワードゲイン係数を用い、各サーボウェッジ位置において所定個数の高調波にわたって反復合算を行うことにより、前記フィードフォワードRRO補正項のアレイの値を反復的に求めるステップと
により算出する
請求項16に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項23】
所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために、単一のフィードフォワードゲイン係数のみを用いる
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項24】
5個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、これらのゲイン係数を所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために用いる
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項25】
前記反復合算の間に前記フィードフォワードゲイン係数を変化させることにより、前記フィードフォワードRRO補正項の収斂を早める
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項26】
前記可変のフィードフォワードゲイン係数を、
ゾーンごとに、一連の初期ゲイン係数を規定するステップと、
前記初期ゲイン係数を用いて、各ゾーン内の代表的なトラックセットにおけるすべてのサーボウェッジについてフィードフォワード補正項のセットを算出するステップと、
前記一連の初期ゲイン係数の個数を減らし、前記フィードフォワード補正項を再計算するステップと
を含む方法により求める
請求項25に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項27】
電源オン時において、前記フィードフォワードRRO補正項のアレイを、予め計算された収斂データによって初期化する
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項28】
前記ボードプロットが、実際のハードディスクドライブの動作評価により得られたものである
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項1】
半径方向に間隔をもって複数(第1の数)の円環状のデータトラックが形成されると共にこれらのデータトラックを半径方向に沿って複数(第2の数)のゾーンに分割することにより各データトラックが1つのゾーンに属するように構成され、かつ、半径方向位置およびトラック内角度位置を規定する埋め込み情報であるサーボデータを含む小さい角度幅の複数(第3の数)のサーボウェッジが、各データトラックの円周上に規則的な間隔をもって配置された磁気ハードディスクと、
前記磁気ハードディスクが搭載されるモータ駆動回転スピンドルと、
移動自在なアクチュエータアッセンブリと、
前記アクチュエータアッセンブリに搭載され、このアクチュエータアッセンブリの移動によって前記磁気ハードディスク上の選択されたターゲット位置に位置合わせされると共に、前記サーボウェッジに書き込まれている情報を読み出す記録再生用のトランスデューサと、
リピータブルランアウト(RRO)とノンリピータブルランアウト(NRRO)の双方を示す情報を含む位置エラー信号(PES)に応答する電気機械的な閉ループのサーボ機構と、
前記トランスデューサを前記磁気ハードディスク上の前記ターゲット位置に位置合わせする制御を行うディジタルアナログ変換部(DAC)と
を備えた磁気ハードディスクドライブを用意し、
前記磁気ハードディスクを所定の回転数で回転させ、
a)一のゾーンを選択し、
b)前記選択したゾーン内の一のデータトラックを選択し、
c)前記選択したデータトラック上のサーボウェッジ“n”のターゲット位置に前記トランスデューサを位置合わせすると共に、前記ターゲット位置におけるPES値を求め、
d)前記サーボウェッジ“n”のターゲット位置におけるRRO補正項を求めると共に、このRRO補正項を加算部において前記PES値に加算することにより、前記ターゲット位置における前記トランスデューサの動きのRRO成分の影響を補償し、
さらに、前記サーボウェッジ“n”のターゲット位置において、
e)ハードディスクドライブの振幅および位相の性能特性を示すボードプロットを用いて、直後のサーボウェッジのRRO補正項を特徴付ける、Nh個の高調波に対応するNg個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、
f)前記フィードフォワードゲイン係数を用いて、前記直後のサーボウェッジのRROを特徴付けるフィードフォワード用のRRO補正項を算出し、
g)得られた前記RRO補正項を、前記直後のサーボウェッジにおける使用に備えて、先送りして(feeding forward )保存する
磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項2】
さらに、
h)前記ステップgののち、前記直後のサーボウェッジのターゲット位置に前記トランスデューサを位置合わせし、前記ステップdから前記ステップgまでを繰り返し(但し、このときの「サーボウェッジ“n”のターゲット位置」は、前記「直後のサーボウェッジのターゲット位置」と同じものを意味する)、
i)前記データトラック上のすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、前記ステップcから前記ステップhまでを繰り返す
請求項1に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項3】
さらに、
ゾーン内の次のデータトラックを選択し、このゾーン内のすべてのデータトラックのすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、前記ステップbから前記ステップhまでを繰り返す
請求項2に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項4】
さらに、
次のゾーンを選択し、すべてのゾーン内のすべてのデータトラックのすべてのサーボウェッジにおけるRROが補正されるまで、前記ステップaから前記ステップhまでを繰り返す
請求項3に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項5】
前記位置エラー信号を、
前記サーボウェッジに埋め込まれた、前記トランスデューサの実際の位置を与える前記サーボデータを読み出すステップと、
この読み出したサーボデータに、トラック中心線位置を示す値、または、予め計算されたRRO補正項をトラック中心線位置から差し引いた値、である基準位置データを代数的に加算するステップと
により求める
請求項1に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項6】
選択された回数にわたるディスク回転中に前記サーボウェッジ“n”において同じ測定を繰り返し行うことにより得られた平均位置を前記トランスデューサの位置として採用することにより、ノンリピータブルランアウトの影響を低減する
請求項5に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項7】
前記加算部によって、前記フィードフォワード補正項を前記DACの入力または前記サーボ制御機構の入力に加算する
請求項1に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項8】
前記DACに前記RRO補正項を加えることにより、前記トランスデューサを前記トラックのRRO挙動に忠実に追従させる一方、前記サーボ制御機構に前記RRO補正項を加えることにより、前記RRO成分の除かれたトラック中心線位置を新たに設定する
請求項7に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項9】
前記フィードフォワード用のRRO補正項を、
システム動作に関するボードプロットから得た振幅および位相を用いて、所定個数のフィードフォワードゲイン係数のアレイを求めるステップと、
サーボ機構内に記憶されているフィードフォワードRRO補正項のアレイを初期化するステップと、
算出された前記フィードフォワードゲイン係数を用い、各サーボウェッジ位置において所定個数の高調波にわたって反復合算(iterative sum )を行うことにより、前記フィードフォワードRRO補正項のアレイの値を反復的に求めるステップと
により算出する
請求項1に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項10】
所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために、単一のフィードフォワードゲイン係数のみを用いる
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項11】
5個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、これらのゲイン係数を所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために用いる
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項12】
前記反復合算の間に前記フィードフォワードゲイン係数を変化させることにより、前記フィードフォワードRRO補正項の収斂を早める
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項13】
前記可変のフィードフォワードゲイン係数を、
ゾーンごとに、一連の初期ゲイン係数を規定するステップと、
前記初期ゲイン係数を用いて、各ゾーン内の代表的なトラックセットにおけるすべてのサーボウェッジについてフィードフォワード補正項のセットを算出するステップと、
前記一連の初期ゲイン係数の個数を減らし、前記フィードフォワード補正項を再計算するステップと
を含む方法により求める
請求項12に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項14】
電源オン時において、前記フィードフォワードRRO補正項のアレイを、予め計算された収斂データによって初期化する
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項15】
前記ボードプロットとして、実際のハードディスクドライブの動作評価により得られたものを用いる
請求項9に記載の磁気ハードディスクドライブの運転方法。
【請求項16】
半径方向に間隔をもって複数(第1の数)の円環状のデータトラックが形成されると共にこれらのデータトラックを半径方向に沿って複数(第2の数)のゾーンに分割することにより各データトラックが1つのゾーンに属するように構成され、かつ、半径方向位置およびトラック内角度位置を規定する埋め込み情報であるサーボデータを含む小さい角度幅の複数(第3の数)のサーボウェッジが、各データトラックの円周上に規則的な間隔をもって配置された磁気ハードディスクと、
前記磁気ハードディスクが搭載されるモータ駆動回転スピンドルと、
移動自在なアクチュエータアッセンブリと、
前記アクチュエータアッセンブリに搭載され、このアクチュエータアッセンブリの移動によって前記磁気ハードディスク上の選択されたターゲット位置に位置合わせされると共に、前記サーボウェッジに書き込まれている情報を読み出す記録再生用のトランスデューサと、
リピータブルランアウト(RRO)とノンリピータブルランアウト(NRRO)の双方を示す情報を含む位置エラー信号(PES)に応答する電気機械的な閉ループのサーボ機構と、
前記トランスデューサを前記磁気ハードディスク上の前記ターゲット位置に位置合わせする制御を行うディジタルアナログ変換部(DAC)と
を備え、
前記サーボ機構が、
ハードディスクドライブの物理的動作を特徴付けるボードプロット(Bode plot ;ボードダイアグラム)から求められた一セットのゲイン係数を保有する手段と、
前記ゲイン係数を用いて、前記磁気ハードディスクのRROによって引き起こされるトランスデューサの位置ずれを補正するためのフィードフォワードRRO補正項のアレイを生成する手段と、
前記生成されたフィードフォワードRRO補正項のアレイを格納する手段と、
前記トランスデューサから前記PESを受け取り、このPES値に前記フィードフォワードRRO補正項を加算する手段と
を含む磁気ハードディスクドライブ。
【請求項17】
前記PESは、前記トランスデューサから出力された実位置信号から所定の基準位置信号を差し引くことによって生成される
請求項16に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項18】
前記PESは、
前記サーボウェッジ“n”に埋め込まれた、前記トランスデューサの実際の位置を与えるサーボデータを読み出すステップと、
この読み出したサーボデータに、トラック中心線位置を示す値、または、予め計算されたRRO補正項をトラック中心線位置から差し引いた値、である基準位置データを代数的に加算するステップと
により求められる
請求項16に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項19】
選択された回数にわたるディスク回転中に前記サーボウェッジ“n”において同じ測定を繰り返し行うことにより得られた平均位置を前記トランスデューサの位置として採用することにより、ノンリピータブルランアウトの影響を低減する
請求項18に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項20】
前記加算部によって、前記フィードフォワード補正項が前記DACの入力または前記サーボ制御機構の入力に加算される
請求項16に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項21】
前記DACに前記RRO補正項を加えることにより、前記トランスデューサを前記トラックのRRO挙動に忠実に追従させる一方、前記サーボ制御機構に前記RRO補正項を加えることにより、前記RRO成分の除かれたトラック中心線位置を新たに設定する
請求項20に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項22】
前記フィードフォワード用のRRO補正項を、
システム動作に関するボードプロットから得た振幅および位相を用いて、所定個数のゲイン係数のアレイを求めるステップと、
サーボ機構内に記憶されているフィードフォワードRRO補正項のアレイを初期化するステップと、
算出された前記フィードフォワードゲイン係数を用い、各サーボウェッジ位置において所定個数の高調波にわたって反復合算を行うことにより、前記フィードフォワードRRO補正項のアレイの値を反復的に求めるステップと
により算出する
請求項16に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項23】
所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために、単一のフィードフォワードゲイン係数のみを用いる
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項24】
5個のフィードフォワードゲイン係数を算出し、これらのゲイン係数を所定のゾーン内の所定のトラックにおけるすべてのサーボウェッジのために用いる
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項25】
前記反復合算の間に前記フィードフォワードゲイン係数を変化させることにより、前記フィードフォワードRRO補正項の収斂を早める
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項26】
前記可変のフィードフォワードゲイン係数を、
ゾーンごとに、一連の初期ゲイン係数を規定するステップと、
前記初期ゲイン係数を用いて、各ゾーン内の代表的なトラックセットにおけるすべてのサーボウェッジについてフィードフォワード補正項のセットを算出するステップと、
前記一連の初期ゲイン係数の個数を減らし、前記フィードフォワード補正項を再計算するステップと
を含む方法により求める
請求項25に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項27】
電源オン時において、前記フィードフォワードRRO補正項のアレイを、予め計算された収斂データによって初期化する
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【請求項28】
前記ボードプロットが、実際のハードディスクドライブの動作評価により得られたものである
請求項22に記載の磁気ハードディスクドライブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【公開番号】特開2010−218682(P2010−218682A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61619(P2010−61619)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(500475649)ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド (251)
【Fターム(参考)】
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