説明

磁気ヘッドおよびその製造方法

【課題】磁気ヘッドにおいて、簡単かつ迅速な処理で再生素子の磁極高さと記録素子の磁極高さをいずれも精度良く形成できるようにする。
【解決手段】磁気情報を読み出すための再生素子7と、磁気情報を書き込むための記録素子8と、再生素子7と同一平面上に形成された再生素子マーカー11と、記録素子8と同一平面上に形成された記録素子マーカー12とを有する磁気ヘッド2を、基板1上に複数個形成し、基板1を切断して、複数の磁気ヘッド2を含むバー14を形成する。このバー14を保持し、保持されているバー14の再生素子マーカー11と記録素子マーカー12を光学的に検知し、それらの位置を求め、それに基づいて、保持されているバー14の姿勢を調節する。そして、姿勢が調節された状態のバー14を研磨し、研磨されたバー14を個々の磁気ヘッド2ごとに切り離す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置等の磁気記録再生装置における記録方式としては、信号磁化の向きが記録媒体の面内方向(長手方向)である長手磁気記録方式と、信号磁化の向きが記録媒体の面に対して垂直な方向である垂直磁気記録方式とがある。垂直磁気記録方式は、長手磁気記録方式に比べて、記録媒体の熱揺らぎの影響を受けにくく、高い線記録密度を実現することが可能であるという利点がある。
【0003】
一般的な磁気ヘッドの製造方法では、磁気情報を読み出すための再生素子と磁気情報を書き込むための記録素子とを有する磁気ヘッドを、基板(ウェハ)上に複数個形成し、その基板を切断して、複数の磁気ヘッドをそれぞれ含む複数のバーを形成し、このバーに研磨を施し、それから、研磨されたバーを個々の磁気ヘッドごとに切り離している。従来の長手磁気記録方式の磁気ヘッドでは、再生素子の磁極長さ(MRハイト)を精度良く形成するために研磨量が決められていた。具体的には、再生素子の磁極長さが適正寸法になったときに信号を出力する測定機器を用いて、バーの被研磨面(完成時に磁気記録媒体の上方で磁気記録媒体と対向する浮上面)を研磨しながら測定機器からの信号を観測し、信号が出力された時点で研磨を終了する方法が採用されていた。これは、磁気記録媒体に記録された微弱な磁力を確実に読み取るために、再生素子の磁極長さが大きく影響するためである。ただし、記録素子の磁極長さ(ネックハイト)に関しては、再生素子の磁極長さほどの精度は要求されていなかった。
【0004】
これに対し、垂直磁気記録方式の磁気ヘッドでは、長手磁気記録方式に比べて高密度であるため、記録素子の磁極長さが記録特性に大きく影響する。従って、再生素子の磁極長さと同様に、記録素子の磁極長さを精度良く形成する必要がある。
【0005】
バーの研磨を行う際には、バーを加工用治具に取り付けて研磨盤に対して押し当てるのが一般的であるが、バーの加工用治具への取り付け時に傾きが生じると、その傾きが記録素子の磁極高さのばらつきの原因となる。
【0006】
そこで特許文献1には、レーザーオートコリメータなどの光学的角度測定器具を用いて、磁気ヘッドの素子形成面と被研磨面(浮上面)との間の角度を調節して研磨する方法が開示されている。また、特許文献2には、再生素子の磁極高さと記録素子の磁極高さとに基づいて、被研磨面の角度を調節する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−172691号公報
【特許文献2】特開2006−331562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法では、基板上に形成された時点で既に再生素子と記録素子の位置がずれている場合には、素子形成面と被研磨面(浮上面)の角度を調節しても再生素子と記録素子の位置のずれを補正することはできなかった。そして、再生素子の磁極高さを高精度にしたとしても、同時に記録素子の磁極高さを高精度にすることはできなかった。
【0008】
また、特許文献2に記載の方法では、走査型電子顕微鏡(SEM)などの装置を用いて、再生素子と記録素子の長さを実際に測定し、それに基づいてバーの傾きを計算するため、時間がかかっていた。また、記録素子の磁極高さを求めるときの測定誤差が大きく、その結果、バーの傾きの誤差も大きかった。従って、求められているほどの高精度化は困難であった。
【0009】
そこで本発明の目的は、簡単かつ迅速な処理で再生素子の磁極高さと記録素子の磁極高さをいずれも精度良く形成することができる磁気ヘッドおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気ヘッドの製造方法は、磁気情報を読み出すための再生素子と、磁気情報を書き込むための記録素子と、再生素子と同一平面上に形成された再生素子マーカーと、記録素子と同一平面上に形成された記録素子マーカーとを有する磁気ヘッドを、基板上に複数個形成する工程と、基板を切断して、複数の磁気ヘッドを含むバーを形成する工程と、バーを保持し、保持されているバーの再生素子マーカーと記録素子マーカーを光学的に検知し、それらの位置を求める工程と、再生素子マーカーの位置と記録素子マーカーの位置とに基づいて、保持されているバーの姿勢を調節する工程と、姿勢が調節された状態のバーを研磨する工程と、研磨されたバーを個々の磁気ヘッドごとに切り離す工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
なお、ここで言う「バー」とは、1列の磁気ヘッド群を含むバーのみならず、複数列の磁気ヘッド群を含む、いわば複数のバーの集合体であってもよい。その場合、個々の磁気ヘッドごとに切り離す工程では、磁気ヘッド群の1列ごとに(すなわち1つのバーごとに)切り離した後に、各バーをさらに分割することになる。なお、このような複数のバーの集合体は、ブロック(スタック)とも言う。
【0012】
再生素子マーカーと記録素子マーカーの位置を求める工程は、磁気ヘッドの表面に露出していない再生素子マーカーおよび記録素子マーカーの、磁気ヘッドの一部を透過した像を光学的に検知することを含む。
【0013】
磁気ヘッドを形成する工程は、再生素子と再生素子マーカーとを同一の材質で同時に形成する工程と、記録素子と記録素子マーカーとを同一の材質で同時に形成する工程とを含み、再生素子マーカーは再生素子に対する相対位置関係が規定されており、記録素子マーカーは記録素子に対する相対位置関係が規定されている。ただし、再生素子と再生素子マーカーとを異なる材質で形成し、記録素子と記録素子マーカーとを異なる材質で形成することも可能である。その場合にも、再生素子マーカーは再生素子に対する相対位置関係が規定され、記録素子マーカーは記録素子に対する相対位置関係が規定される。
【0014】
バーの保持は、バーを加工用治具に取り付けることによって行われ、バーの姿勢を調節する工程は、バーの加工用治具への取り付け姿勢を調節する工程である。
【0015】
このような方法によると、再生素子および記録素子の位置が不適切であれば、バーの姿勢の調節、例えばバーの加工用治具による保持姿勢の調節によって位置ずれを補正した状態で、このバーに研磨を施すことができる。バーの姿勢を調節することにより、再生素子の磁極長さと記録素子の磁極長さのいずれも精度良くなるようにバーを研磨することができる。
【0016】
なお、バーの姿勢を調節する工程は、再生素子マーカーの位置と記録素子マーカーの位置が適正である場合には、バーを加工用治具に対して垂直になるように姿勢を調節して取り付けることによってバーを保持し、再生素子マーカーの位置と記録素子マーカーの位置がずれている場合には、バーを加工用治具に対して、そのずれに応じた角度だけ斜めになるように姿勢を調節して取り付けることによってバーを保持する工程であることが好ましい。これによると、バーに研磨を施す場合に、大まかな研磨時にも細かい研磨時にも同じ姿勢で、加工用治具を傾けることなく研磨盤に垂直に保持したままでよく、それによって、加工レートのばらつきに伴う各素子の磁極高さのばらつきが防げる。また、バーの中に特別に研磨されにくい個所が生じにくくなり、特別に研磨されにくい個所のことを考慮して必要以上に研磨量を大きくする必要がなくなる。
【0017】
さらに、バーの姿勢を調節する工程は、バーの幅方向の角度を調節する工程と、バーの長手方向の角度を調節する工程とを含むことが好ましい。その場合、2つの方向から再生素子マーカーと記録素子マーカーの位置ずれを検知して、2つの方向においてバーの角度を調節するため、非常に高い精度が得られる。
【0018】
本発明の磁気ヘッドは、磁気情報を読み出すための再生素子と、磁気情報を書き込むための記録素子と、再生素子と同一平面上に形成された再生素子マーカーと、記録素子と同一平面上に形成された記録素子マーカーとを有することを特徴とする。再生素子マーカーは、再生素子と同一の材質で再生素子と同時に形成されたものであり、再生素子に対する相対位置関係が規定されており、記録素子マーカーは、記録素子と同一の材質で記録素子と同時に形成されたものであり、記録素子に対する相対位置関係が規定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、再生素子マーカーと記録素子マーカーを用いて、基板上における再生素子および記録素子の位置ずれが生じている場合と、バーの保持姿勢にずれが生じている場合のいずれも、バーの姿勢を調節することによって、バーを適切な姿勢に保持することができる。その状態で研磨を行うことによって、再生素子の磁極高さと記録素子の磁極高さの両方を精度良く形成することが可能になる。しかも、再生素子マーカーと記録素子マーカーの位置を光学的に検知してそれらの位置ずれを計算するため、各素子の磁極長さを実際に計算するよりもはるかに速く処理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して具体的に説明する。
【0021】
本実施形態の磁気ヘッドの製造方法によると、まず、図1〜4に示すように基板(ウェハ)1に、多数の磁気ヘッド2を形成する。例えば、図3に示すようにアルティック(Al23・TiC)等の基体1aとその上に積層されたアルミナ(Al23)等の絶縁材料からなる下地層1bとからなる基板1に、再生部3と記録部4を含む磁気ヘッド2をマトリクス状に形成する。再生部3は、基板1上の下部シールド層5と、上部シールド層6との間に再生素子7が挟まれた構成である。再生素子7は、例えば1対の磁性体層の間に絶縁層が挟まれたTMR(Tunneling Magneto Resistance)素子であってもよい。一方、記録部4は垂直磁気記録(PMR:Perpendicular Magnetic Recording)方式にて磁気記録を行うものであり、主に、記録素子8となる主磁極と、補助磁極9と、薄膜コイル10とによって構成されている。なお、図2,4において、再生素子7と記録素子8とは平面的に同一の位置に重なって配置されている。
【0022】
そして、本実施形態では、再生素子7と同時に再生素子マーカー11を形成し、記録素子8と同時に記録素子マーカー12を形成している。再生素子マーカー11は、再生素子7を構成する各層のうちのいずれかと同じ材質の層、または再生素子7と同じ構成の積層体であり、再生素子7に対する相対位置が規定されている。また、記録素子マーカー12は記録素子(主磁極)8と同じ材質の層であり、記録素子8に対する相対位置が規定されている。再生素子マーカー11および記録素子マーカー12の平面寸法は、5μm×10μm程度である。または、再生素子マーカー11および記録素子マーカー12の長手方向の寸法を変えて、両マーカー11,12を容易に見分けられるようにすることも可能である。
【0023】
図4に示すように、磁気ヘッド2の完成時に磁気記録媒体(図示せず)の上方で磁気記録媒体と対向する浮上面13(ABS:Air Bearing Surface)内で、再生素子7と再生素子マーカー11は同一平面内、すなわち同一高さの位置にあり、記録素子8と記録素子マーカー12は同一平面内(同一高さの位置)にある。こうして、再生素子7と再生素子マーカー11と記録素子8と記録素子マーカー12を含む磁気ヘッド2を形成する。図1に示すように、本実施形態では、このような磁気ヘッド2が多数マトリクス状に並ぶように、再生素子7と再生素子マーカー11と記録素子8と記録素子マーカー12を多数並べて形成する。
【0024】
次に、多数の磁気ヘッド2がマトリクス状に配列されている基板1を切断して、複数の細長いバー14(図5参照)を得る。このバー14内に、多数の磁気ヘッド2が並んで配列されている。
【0025】
それから、図6に概略的に示すように加工用治具15にバー14を取り付ける。そして、光学センサー17を用いて、バー14の素子形成面18の上方から再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置を検知する。ここで言う素子形成面18とは、基板1の、各層が形成される上面、およびそれに平行な面を指す。
【0026】
再生素子マーカー11と記録素子マーカー12は、バー14内の記録ヘッド2の表面に露出してはいないが、少なくとも素子形成面18側において、各記録ヘッド2の各層はごく薄く、透光性を有する材料からなるため、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の透過像を光学センサー17によって検知することができる。
【0027】
こうして求めた再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置に基づいて、加工用治具15に取り付けられたバー14が適切な状態であるか否かを確認する。この確認のために、後述する研磨工程においてバー14を研磨盤16(図13参照)に押し当てた際に所望の再生素子7の磁極長さLaと所望の記録素子8の磁極長さLb(図9参照)とが同時に得られるような、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の相対的な位置関係を予め求めておく。そして、この予め求められている位置関係と、光学センサー17によって検知された再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置関係とを対比する。一例としては、図7に示すように、素子形成面18上において、再生素子マーカー11の中心線Aと記録素子マーカー12の中心線Bとが一致している場合には、基板1上にて再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置ずれが生じていないと判断して、後述する研磨工程を行う。なお、この図7と後述する図8,10は、光学センサー17によって認識されたバー14の素子形成面18を拡大して示しているが、見易くするために、バー14内の再生素子マーカー11と記録素子マーカー12のみを図示し、再生素子7や記録素子8などの部材は図示省略している。
【0028】
これに対し、図8に示すように、素子形成面18上において、再生素子マーカー11の中心線Aに対して記録素子マーカー12の中心線Bが矢印C方向にずれている場合には、バー14を矢印D方向に回転させる。この回転は、図9に示すようにバー14の姿勢を調節すること、特にその幅方向の角度を調節することによって行われる。この角度調節によって(バー14を斜めに傾けることによって)、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12をできるだけ水平方向の同一直線上に位置させる。
【0029】
また、図10に示すように、素子形成面18上において、再生素子マーカー11の中心線Aに対して記録素子マーカー12の中心線Bが矢印D方向にずれている場合には、バー14を矢印C方向に回転させる。この回転は、図9に示すようにバー14の姿勢を調節すること、特にその幅方向の角度を調節することによって行われる。この角度調節によって(バー14を斜めに傾けることによって)、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12をできるだけ水平方向の同一直線上に位置させる。
【0030】
図8〜10に示すようにバー14の角度を調節する場合には、バー14の角度調節後に、光学センサー17によって再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置を再び検知し、角度調節が不十分で再生素子マーカー11と記録素子マーカー12が依然として水平方向の同一直線上にない場合には、角度調節を再度行う。このように、再生素子マーカー11および記録素子マーカー12の位置の検知と、検知されたそれらの位置に基づくバー14の角度調節とを何度か繰り返し、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置ずれが所定の許容範囲内に入った時点で、後述する研磨工程に移行するようなフィードバックループを構成していてもよい。
【0031】
本実施形態によると、バー14内に複数の磁気ヘッド2が存在し、各磁気ヘッド2には再生素子7および記録素子8とともに再生素子マーカー11および記録素子マーカー12が設けられている。従って、複数の再生素子マーカー11および記録素子マーカー12の位置を検出することで、バー14の長手方向における再生素子7と記録素子8の位置関係を間接的に知ることができる。そして、それらの位置関係を求め、それに基づいてバーの最適な角度を設定する。具体的には、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置関係が適正である場合、すなわち、再生素子7と記録素子8の位置関係が適正である場合には、バー14を、後述する加工用治具15に対して垂直になるように姿勢を調節して取り付ける。
【0032】
これに対し、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置関係が適正でない場合、すなわち、再生素子7と記録素子8の位置関係が適正でない場合には、バー14を、後述する加工用治具15に対して斜めになるように姿勢を調節して取り付ける。このように、バー14を加工用治具15に対して斜めにすることによって、再生素子7と記録素子8が適正な位置にある時と実質的に同じ姿勢で、バー14が研磨盤16(図13参照)に押し当てられるようにする。この時の、バー14を加工用治具15に対して斜めにする角度は、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置に基づいて決められる。
【0033】
具体的に例示すると、例えば、多数の磁気ヘッド2を有するバー14において、一定の間隔で16個の磁気ヘッド2を抽出してそれぞれの再生素子マーカー11の位置検出値Aと記録素子マーカー12の位置検出値Bを求め、さらにそれらの差、すなわち位置ずれ量(A−B)を求めた。その結果を、以下の表1および図11に示す。なお、位置検出値A,Bは、図示しない水平方向の基準線から、前記したそれぞれの中心線A,Bまでの距離として示している。
【0034】
【表1】

この16個の磁気ヘッド2におけるそれぞれの位置ずれ量(A−B)に基づいて、位置ずれが0の場合の姿勢にできるだけ近づけるようにする。例えば、表1に示す量では、位置ずれ量(A−B)の平均値が約0.017μmである。そこで、このバー14全体において、再生素子マーカー11から記録素子マーカー12に向かって0.017μmだけずれるように傾ける。要するに、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の間の距離と、位置ずれ量(A−B)の平均値(例えば0.017μm)とによって決まる角度だけ、バー14が加工用治具15に対して斜めになるようにバー14の姿勢を調節して取り付ける。これによって、後述するとおり高精度の研磨を容易に行うことができ、歩留まりの低下を防ぐことができる。
【0035】
表1に示すデータは、バー14を加工用治具15に取り付けた状態で測定したものである。バー14を加工用治具15に接着すると、基板1の内部応力の開放や接着ひずみなどによってバー14が曲がり、そのバー14の曲がりが各マーカー11,12の位置ずれによって表される。表1および図11に示す例は、バー14の両端部の再生素子マーカー11の位置を0としたときの、各マーカー11,12の位置を示しており、それがバー14の曲がり量を表している。一般的に、バーの曲がりは表1および図11に示すように2次曲線的に曲がることが多い。この例ではバー14が凸状の2次曲線を描くように曲がっているが、凹状に曲がる場合もある。表1および図11に示す例では、各再生素子マーカー11を結んだ線と各記録素子マーカー12を結んだ線とが平行になっていないため、位置ずれ量(A−B)は一定ではない。従って、バー14の加工用治具15への取り付け角度を調節しても、バー14内のすべての再生素子マーカー11および記録素子マーカー12の位置を0に合わせることはできない。それでも、位置ずれ量(A−B)の平均値を用いて取り付け角度を調節することにより、調節後に再測定時に位置ずれ量(A−B)ができるだけ0に近づくようにすることができる。それによって、歩留まり損失を最小限にすることができる。
【0036】
ここで、バー14の他の例における各マーカー11,12の位置検出値A,Bと位置ずれ量(A−B)を、表2および図12に示す。
【0037】
【表2】


表2および図12に示す例は、各再生素子マーカー11を結んだ線と各記録素子マーカー12を結んだ線とが平行になっているため、位置ずれ量(A−B)は一定である。従って、バー14の加工用治具15への取り付け角度を調節すると、バー14内のすべての再生素子マーカー11および記録素子マーカー12の位置を0に合わせることができる。
【0038】
以上説明した2つの例は非常に規則的な位置ずれ量(A−B)を生じた例であるが、もちろん、もっと不規則な位置ずれが生じることもある。そのような場合でも、前記した例と同様に位置ずれ量(A−B)の平均値を用いてバー14の加工用治具15への取り付け角度を調節することにより、バー14内のすべての再生素子マーカー11および記録素子マーカー12の位置を0に近づけることができる。
【0039】
図7に示すように再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置ずれが生じていない場合と、前記した2つの例のようにバー14の角度を調節して(斜めに傾けて)再生素子マーカー11と記録素子マーカー12を水平方向の同一直線上に位置させた後には、図13に示すようにバー14の被研磨面(浮上面13)を研磨盤16に押し当てて研磨する。その結果、再生素子7の磁極な長さLaと記録素子8の磁極長さLbをいずれも所望の値にすることができる。
【0040】
最後に、こうして研磨されたバー14を個々の磁気ヘッド2ごとに切り離すことによって、図14に示す磁気ヘッド2を複数個得ることができる。
【0041】
このように、本発明では、再生素子7と同時に再生素子マーカー11を、記録素子8と同時に記録素子マーカー12をそれぞれ形成し、この再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置を光学的に検知している。従って、この検知結果に基づいて、再生素子7と記録素子8の位置ずれ、すなわち、再生素子7および記録素子8の形成時の位置ずれや、バー14の加工用治具15への取り付け姿勢のずれによる位置ずれを補正することができる。その結果、バー14の浮上面13を研磨盤16に押し当てることによって、再生素子7の磁極な長さLaと記録素子8の磁極長さLbがいずれも所望の値になるように研磨することができる。
【0042】
なお、再生素子マーカー11および記録素子マーカー12は、完成状態の磁気ヘッド2において磁気情報の読み出しおよび書き込みに全く関与しないため、自由な形状および寸法に形成することができる。従って、再生素子マーカー11および記録素子マーカー12を、光学センサー17による検知が容易な形状および寸法に形成することができる。そのため、再生素子7および記録素子8の位置を光学センサー17によって直接検知するよりもはるかに容易に位置ずれを検知でき、作業効率が非常に良好である。
【0043】
以上説明した例では、バー14の素子形成面18の上方から再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置を検知し、それらの位置ずれを補正するために、図8〜10に示すように、素子形成面18と浮上面13とにともに垂直な面内で、バー14の角度を調節して、バー14の研磨盤16に当接する姿勢を修正している。これは、バー14内の再生素子7と記録素子8の位置のばらつきを補正するものであり、バー14の素子形成方向の角度の調節である。ただし、それに加えて、バー14の浮上面13側から再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の透過像を光学的に検知することもできる。その場合、浮上面13側から見た方向における再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置ずれを求めると、その位置ずれを補正するために、図15中の矢印で示すように、素子形成面18に平行な面内での角度調節、すなわちバー14の長手方向の角度の調節を合わせて行うことができる。この例によると、再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の、2つの方向(素子形成面18側からの方向と浮上面13側からの方向)から位置ずれを検知するため、より高精度の姿勢調節が行え、ひいては、より高精度の研磨が行える。
【0044】
なお、図示しないが、記録素子8の磁極長さLbを精度良くするために、記録素子ラッピングマーカーを設けてもよい。その場合、前記したとおり再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置を光学的に検知してバー14の角度の大まかな調節を行った後に、記録素子ラッピングマーカーを利用して、例えば研磨中にバー14の角度を微調節する。それによって、より高精度の研磨が可能になる。
【0045】
次に、バー14の加工用治具15への取り付け方法について説明する。
【0046】
バー14を加工用治具15に取り付ける際に、図16(a)に示すように加工用治具15に対してバー14を垂直に固定すると、最初にバー14の被研磨面を大まかに研磨する際には、図16(b)に示すように加工用治具15を傾けずに研磨を行う。そして、ある程度研磨したら、研磨レートを遅くして細かい研磨を行う。その細かい研磨時に、図16(c)に示すように加工用治具15を傾ける。ただし、この方法には以下の欠点がある。
【0047】
第一に、加工用治具15を傾けると被研磨面(浮上面13)には部分的に削られやすい個所と削られにくい個所が生じ、その結果、浮上面13が僅かに角度の異なる2つの面(研磨された部分と研磨されなかった部分)から構成されることになるおそれがあり、磁気ヘッド2の歩留まりが低下する。それを避けるためには、浮上面13全体が確実に研磨されるように、すなわち浮上面13のうち最も研磨されにくい(研磨盤16から遠い)部分まで確実に研磨されるように、研磨量(研磨代)を必要以上に大きく取る必要がある。それにより、研磨時間が長くなったり、研磨スラリーの消耗費が多くなったりする問題が発生する。
【0048】
また、細かい研磨中に加工用治具15を傾けて保持するため、加工レートが不安定になるおそれがある。それにより、最終的に再生素子7の磁極長さLaや記録素子8の磁極長さLbの精度が悪くなる。さらに、大まかな研磨中にバー14のエッジのみが研磨盤16に当たることによりバー14または研磨盤16を傷付ける可能性がある。
【0049】
これらの問題を解決するために、図17(a)〜17(c)に示す例では、予めバー14を加工用治具15に対して傾けて取り付けている。それによって、大まかな研磨時(図17(b)参照)にも細かい研磨時(図17(c)参照)にも、加工用治具15を研磨盤18に対して傾けることなく研磨が行える。従って、研磨盤16に対して平行に面加工を行うことが容易なので、バー14または研磨盤16を傷付ける可能性がない。また、研磨中に加工用治具15を傾ける必要がないので、浮上面13が2つの面から構成されるようになる問題は生じず、研磨量(研磨代)を必要以上に大きくする必要はない。なお、このバー14を加工用治具15へ取り付ける角度は、基板1上の再生素子7と記録素子8の位置データや、前記した再生素子マーカー11と記録素子マーカー12の位置データに基づいて予め計算しておくとよい。
【0050】
なお、以上の説明では、基板1を切断して複数の細長いバー14(図5参照)を得て、各バー14ごとに加工する例を示した。しかし、図18に示すように、複数のバー14の集合体であるブロック(スタック)19ごとに加工する、いわゆるスタックラップ加工を行うこともできる。その場合、基板1を切断する際に、複数の磁気ヘッドが並んだ細長いバーを1つずつ切り離すのではなく、いくつかのバーの集合体であるブロック19ごとに切り離す。その後の各工程については、前記した各バー14ごとの処理と同様に行えばよく、各ブロック19ごとに取り扱うことによって複数のバー14をひとまとめにして処理すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態の基板を示す概略斜視図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図1に示す基板に形成された磁気ヘッドの断面図である。
【図4】図3の磁気ヘッドを浮上面側から見た概略図である。
【図5】図1の基板を切断して得られたバーを示す斜視図である。
【図6】図5に示すバーを加工用治具に取り付けた状態を示す模式図である。
【図7】図6に示すバーの再生素子マーカーと記録素子マーカーが位置ずれしていない状態を示す模式図である。
【図8】図6に示すバーの再生素子マーカーと記録素子マーカーが位置ずれしている状態の一例を示す模式図である。
【図9】図8に示す状態におけるバーの姿勢調節を説明する模式図である。
【図10】図6に示すバーの再生素子マーカーと記録素子マーカーが位置ずれしている状態の他の例を示す模式図である。
【図11】バーの再生素子マーカーおよび記録素子マーカーの位置検出値と位置ずれ量を示すグラフの一例である。
【図12】バーの再生素子マーカーおよび記録素子マーカーの位置検出値と位置ずれ量を示すグラフの他の例である。
【図13】図6に示すバーの研磨工程を示す模式図である。
【図14】図5のバーを切断して得られた磁気ヘッドを示す斜視図である。
【図15】図9とは異なる方向のバーの角度を調節する工程を説明する模式図である。
【図16】バーの、加工用治具への一般的な取り付け状態を説明する模式図であり、(a)は取り付け時、(b)は大まかな研磨時、(c)は細かい研磨時を示している。
【図17】バーの、加工用治具への他の取り付け状態を説明する模式図であり、(a)は取り付け時、(b)は大まかな研磨時、(c)は細かい研磨時を示している。
【図18】図1の基板を切断して得られたブロックを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0052】
1 基板(ウェハ)
2 磁気ヘッド
3 再生部
4 記録部
5 下部シールド層
6 上部シールド層
7 再生素子
8 記録素子(主磁極)
9 補助磁極
10 薄膜コイル
11 再生素子マーカー
12 記録素子マーカー
13 浮上面(ABS)
14 バー
15 加工用治具
16 研磨盤
17 光学センサー
18 素子形成面
19 ブロック
La 再生素子7の磁極長さ
Lb 記録素子8の磁極長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気情報を読み出すための再生素子と、磁気情報を書き込むための記録素子と、前記再生素子と同一平面上に形成された再生素子マーカーと、前記記録素子と同一平面上に形成された記録素子マーカーとを有する磁気ヘッドを、基板上に複数個形成する工程と、
前記基板を切断して、複数の前記磁気ヘッドを含むバーを形成する工程と、
前記バーを保持し、保持されている前記バーの前記再生素子マーカーと前記記録素子マーカーを光学的に検知し、それらの位置を求める工程と、
前記再生素子マーカーの前記位置と前記記録素子マーカーの前記位置とに基づいて、保持されている前記バーの姿勢を調節する工程と、
前記姿勢が調節された状態の前記バーを研磨する工程と、
研磨された前記バーを個々の前記磁気ヘッドごとに切り離す工程と
を含むことを特徴とする、磁気ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記再生素子マーカーと前記記録素子マーカーの位置を求める工程は、前記磁気ヘッドの表面に露出していない前記再生素子マーカーおよび前記記録素子マーカーの、前記磁気ヘッドの一部を透過した像を光学的に検知することを含む、請求項1に記載の磁気ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記磁気ヘッドを形成する工程は、前記再生素子と前記再生素子マーカーとを同一の材質で同時に形成する工程と、前記記録素子と前記記録素子マーカーとを同一の材質で同時に形成する工程とを含み、
前記再生素子マーカーは前記再生素子に対する相対位置関係が規定されており、前記記録素子マーカーは前記記録素子に対する相対位置関係が規定されている、請求項1または2に記載の磁気ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記バーの保持は、前記バーを加工用治具に取り付けることによって行われ、
前記バーの姿勢を調節する工程は、前記バーの前記加工用治具への取り付け姿勢を調節する工程である、請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記バーの姿勢を調節する工程は、前記再生素子マーカーの前記位置と前記記録素子マーカーの前記位置が適正である場合には、前記バーを前記加工用治具に対して垂直になるように姿勢を調節して取り付けることによって前記バーを保持し、前記再生素子マーカーの前記位置と前記記録素子マーカーの前記位置がずれている場合には、前記バーを前記加工用治具に対して、そのずれに応じた角度だけ斜めになるように姿勢を調節して取り付けることによって前記バーを保持する工程である、請求項4に記載の磁気ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記バーの姿勢を調節する工程は、前記バーの幅方向の角度を調節する工程と、前記バーの長手方向の角度を調節する工程とを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気ヘッドの製造方法。
【請求項7】
磁気情報を読み出すための再生素子と、磁気情報を書き込むための記録素子と、前記再生素子と同一平面上に形成された再生素子マーカーと、前記記録素子と同一平面上に形成された記録素子マーカーと、を有する磁気ヘッド。
【請求項8】
前記再生素子マーカーは、前記再生素子と同一の材質で前記再生素子と同時に形成されたものであり、前記再生素子に対する相対位置関係が規定されており、
前記記録素子マーカーは、前記記録素子と同一の材質で前記記録素子と同時に形成されたものであり、前記記録素子に対する相対位置関係が規定されている、請求項7に記載の磁気ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−76122(P2009−76122A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242263(P2007−242263)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(500393893)新科實業有限公司 (361)
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
【住所又は居所原語表記】SAE Technology Centre, 6 Science Park East Avenue, Hong Kong Science Park, Shatin, N.T., Hong Kong
【Fターム(参考)】