説明

磁気光学素子および磁気光学素子の製造方法

【課題】高速駆動が可能であり、SN比が良好で光信号をオン・オフでき、信頼性が高く堅牢な磁気光学素子とその製造方法を提供する。
【解決手段】基板43上に、略球状の微少な物体41(例えば、ポリスチレン微粒子)を周期的に配列して周期構造を形成し(工程A4)、工程A4において形成された周期構造以外の部分を構成する略球状の微少な物体の隙間にナノスケールの磁性粒子を含む液状樹脂(例えば、L10−FePtナノ粒子が分散したスチレンモノマー溶液)を充填し(工程B4)、工程B4により充填された液状樹脂を固化して反転構造42を形成し、L10−FePtナノ粒子の磁化容易軸を配向制御して周期性構造体49とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶を用いて磁気光学効果を増大させる磁気光学素子に関し、詳しくは、微少な物体もしくは空体が周期的に配列された周期構造と、該周期構造以外の領域を磁性材料を含む材料で形成した反転構造とからなる周期性構造体を備えた磁気光学素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニックバンドギャップにより結晶中に光を閉じ込めることが可能なフォトニック結晶は、光学デバイスに利用できる材料として期待され、研究開発が盛んになされている。
フォトニック結晶形成技術として、光学媒質(微粒子)の自己組織化を利用した方法がある。自己組織化を利用して配列された微粒子膜(周期構造体、フォトニック結晶)は、高品質、大表面積を可能にするものとして特に期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1において、コロイド溶液を用いた微粒子薄膜の製造方法が提案されている。この提案では、液体の毛管力を利用し、溶媒の蒸発速度、微粒子の体積分率を制御することにより集積される結晶の高品質化を図っている。また、特許文献2では、2枚の実質的に平行な面の間の狭い間隙にコロイド結晶を成長させる方法が提案されている。
その際に、2枚の基板のうちの下部基板に型を施し、この型を利用して、微粒子で形成される形状を制御するようにした技術が提案されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
使用する微粒子としては単分散性の良いシリカやポリスチレンが用いられるのが一般的である。しかしながら、これらの物体ではデバイス材料としては屈折率が十分に高くなく所望の特性のデバイスを得ることができない。
屈折率のより高い微粒子膜を作製するために、前記の方法により作製された微粒子膜を利用してさらに改善した方法が報告されている。このような方法としては、例えば、微粒子膜の微粒子間の空隙に光硬化性樹脂などのモノマーを流し込み、固体させた後、微粒子をエッチングにより取り除いて、ポリマーによる周期構造体(反転構造、逆オパール構造、インバース構造、あるいはテンプレートと呼ばれる)を得るインバースオパール法と呼ばれる方法がある。インバースオパール法については、例えば、非特許文献3、非特許文献4、特許文献3で報告されている。反転構造の形成に関しては、例えば、非特許文献5で報告されている。また、特許文献4に、周期性構造物を組み合せた技術として、所定の三次元パターンに並ぶテンプレイト孔内にナノ結晶を凝集させて量子ドット固体を形成する方法が提案されている。
【0004】
光学素子として使用する場合、例えば、導波路では、周期構造体の中に微粒子が存在しない空間が連続的に存在するなど、光路となる箇所が必要となる。このような光路となる箇所の作製方法としては、非特許文献6で提案されている。
この文献で提案されている方法は、シリカ球による周期構造体の間隙にモノマーを流し込み、レーザを用いて特定の箇所のモノマーを選択的に硬化させるとともに、硬化していないモノマーを取り除いてシリコンを導入し、シリカ球とポリマーを選択的に取り除き、ポリマーが存在していた箇所を導波路とする方法である。
また、フォトニックバンドギャップを確実に開き、特定波長の光の閉じ込めを行う必要がある。そのためには、高屈折率箇所の体積分率が低い方がフォトニックバンドギャップは大きくなると考えられている。
微粒子による周期性構造物を作製する際には、一度数層の膜を作製した後に、その基板を再度コロイド液に浸すことにより、作製された周期性構造物上にさらに新たな周期性構造物を作製することが可能である。この際にコロイド液の微粒子の材質や粒径を変えることによって最初に作製された周期性構造物とその上に作製された周期性構造物のフォトニックバンドギャップ波長を変えることができる。
フォトニック結晶や、逆オパール構造の空隙に、導電性高分子、フォトクロミック色素等を導入し、フォトニックバンドギャップ波長を変化させる試みも行われている。なお、一次元フォトニック結晶に関しては、例えば、非特許文献7、非特許文献8に記載されている。
【0005】
一方、フォトニック結晶を利用して光をオン・オフさせる光学素子としては、レーザを光路に用いることから、信頼性が重要であり、無機材料を用いることが好ましい。
例えば、無機材料として磁性材料を用いれば、磁気光学効果を示す。つまり、物体に磁場をかけた際に直線偏光の偏光面が回転する効果が磁気光学効果であり、透過光へ影響を及ぼす場合をファラデー効果、反射光に影響を及ぼす場合を磁気カー効果と呼ぶ。
【0006】
フォトニック結晶での磁気光学効果を増大させる磁気光学素子はこれまで数少なかった。
一次元フォトニック結晶と磁性体薄膜の組み合わせとしては、特許文献5において、磁気光学体及びこの磁気光学体を用いた光アイソレ−タが提案されている。この提案では、磁気光学薄膜を有する第1組1次元磁性フォトニック結晶及び磁気光学薄膜を有する第2組1次元磁性フォトニック結晶を光学長がλ/4+mλ/2(λは光の波長、mは0または正の整数)である低屈折率誘電体薄膜を介して積層することにより、ファラデー回転角を大きくするというものである。
また、特許文献6において、屈折率制御方法および屈折率制御の可能な周期性構造物並びに光学素子が提案されている。この提案では周期性構造物に磁場を印加することによって光学媒質(誘電性と磁性を併せ持つ微粒子、誘電体と磁性微粒子の混合物からなる媒質)の屈折率を部分的に変化させて屈折率の非周期性を持たせるとしている。しかし、磁性を有する微粒子が数百nmサイズの微粒子では光透過率が大きく低下してしまうという課題がある。
また、特許文献7において、フォトニック構造を有する屈折率周期構造体の製造方法、及びそれを用いた光機能素子が提案されている。この提案では光波長程度の2次元周期性を持った凹凸構造を原盤とし、スタンパ材料を堆積し剥離することにより前記凹凸構造の反転構造を有する型を作成して、2次元屈折周期構造を得るとしている。この場合にも特許文献7と同様に、光機能材料として磁性体を用いた場合に、光透過率が低下してしまい、ファラデー効果の増大など目的の効果を得るのは難しい。
【0007】
その他各種素子として、例えば、特許文献8には、誘電体多層膜を利用した磁気光学素子が提案されている。
また、特許文献9には、フォトニック結晶において光や電場などの外場を変化させることによってフォトニックバンド構造を変化させ光スイッチング動作を可能とした能動的な光素子および分波器が提案されている。
また、特許文献10には、磁気ヘッド層と、磁気光学効果を有する層と、偏光子層とから構成させる光スイッチが提案されている。磁気光学効果を有する層は表面のみが磁性体及び非磁性体の周期構造(磁性体幅/非磁性体幅:1/5)で構成されている。
また、特許文献11には、ナノスケールオーダーの強磁性構造体の長手方向に括れ部を有する磁気情報記録素子が提案されている。この磁気情報記録素子によれば、大容量化、高集積化が可能であり次世代の高密度磁気情報記録媒体に対応できるとしている。
また、特許文献12には、基板表面に0.2〜2μmの範囲のピッチと深さよりなるグレーティング形状で同一方向の周期構造を有し、この周期構造上に一層の20〜200nmの厚さの磁性層を有し、可視光に対して前記周期構造と格子部からの光の干渉でファラデー効果を増大させることを特徴とするディスプレイを構成する磁気光学素子が提案されている。また、特許文献13には、前記特許文献12の周期構造上に平均粒径が200Å以下のFe、Co、Ni又はこれらの合金の微粒子を含む磁気光学素子が提案されている。
また、特許文献14には、特定箇所にて光学特性が異なる周期性構造物(特性がパターニングされた周期性構造物)の作製方法(光学素子)が提案されている。例えば、石英基板上にシリカ微粒子薄膜層を形成して、シリカ微粒子間に光硬化樹脂を流し込み硬化させて、フッ酸などにより処理して石英基板とシリカを除去し光硬化樹脂からなる約400nmの周期を持つ球形の空隙からなる規則構造体に、シリカ粒子、チタニア微粒子を含む樹脂等を充填する。
また、特許文献15には、非磁性支持体上に少なくとも、規則的に配列した金属磁性微粒子を含む微粒子層を有し、前記金属磁性微粒子に対し外部から磁界を印加して磁化を発生せしめ、かつ直線偏光を入射し、前記金属磁性微粒子への入射光と金属のプラズモン振動との相互作用によって磁気光学効果を増大させることを特徴とする磁気光学素子が提案されている。
【0008】
上述のようにフォトニック結晶を利用した各種光学素子の開発が進められているが、高速駆動による光信号のオン・オフができ、SN比が良好で信頼性が高く堅牢な高速光変調素子として使用できる十分なものはなかった。
【0009】
【特許文献1】特許第2828386号公報(特開平7−116502号公報)
【特許文献2】特許第2693844号公報 (特表平3−504462号公報)
【特許文献3】特開2003−2687号公報
【特許文献4】特許第3183344号公報 (特開2000−108100号公報)
【特許文献5】特開2002−090525号公報
【特許文献6】特開2003−177201号公報
【特許文献7】特開2001−296442号公報
【特許文献8】特開2002−303840号公報
【特許文献9】特許第3763709号公報(特開2001−91912号公報)
【特許文献10】特開2004−309700号公報
【特許文献11】特開2006−196708号公報
【特許文献12】特許第4090462号公報(特開2005−55921号公報)
【特許文献13】特許第3628859号公報(特開平11−176635号公報)
【特許文献14】特開2007−33593号公報
【特許文献15】特開2007−213004号公報
【非特許文献1】B. T. Mayers, et al., Advanded Materials, 12, No.21, pp.1629-1632, 2000.
【非特許文献2】S. H. Park, et al., Advanded Materials, 11, No.6, pp. 462-466, 1999.
【非特許文献3】P. Jiang, et al., J. Am. Chem. Soc., 121, pp. 11630-11637, 1999.
【非特許文献4】K. M. Kulinowski, et al., Advanded Materials, 12, No.11, pp.833-838, 2000.
【非特許文献5】P. Jiang, et al., Science, Vol.291, pp. 453-457, 2001.
【非特許文献6】Lee, et al.Adv. Mater.14, 271-274, 2003
【非特許文献7】K. Yoshino, et al., Jpn. J. Appl. Phys., vol.38, ppL786-788, 1999.
【非特許文献8】Y. Shimoda, et al., Appl. Phys. Lett., vol.79, pp.3627-3629, 2001.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、高速駆動が可能であり、SN比が良好で光信号をオン・オフでき、信頼性が高く堅牢な磁気光学素子とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の〔1〕〜〔10〕に記載する発明によって上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
【0012】
〔1〕:上記課題は、略球状の微少な物体もしくは空体が周期的に配列されてなる周期構造と、該周期構造以外の領域を構成する反転構造とからなる周期性構造体を備えた磁気光学素子において、
前記反転構造が、磁性材料を含む材料により構成されていることを特徴とする磁気光学素子により解決される。
【0013】
〔2〕:上記〔1〕に記載の磁気光学素子において、前記磁性材料を含む材料が、ナノスケールの磁性粒子を含むものであることを特徴とする。
【0014】
〔3〕:上記〔1〕または〔2〕に記載の磁気光学素子において、前記磁性材料を含む材料が、ナノスケールの磁性粒子とポリマーからなる複合物により構成されていることを特徴とする。
【0015】
〔4〕:上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の磁気光学素子において、前記略球状の微少な物体が、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルまたは硫化亜鉛のいずれかの材料からなる微粒子であることを特徴とする。
【0016】
〔5〕:上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の磁気光学素子において、前記略球状の微少な空体が、空隙であることを特徴とする。
【0017】
〔6〕:上記課題は、基板上に略球状の微少な物体を周期的に配列して周期構造を形成する工程A1と、工程A1において形成された周期構造以外の部分を構成する略球状の微少な物体の隙間に磁性材料を含む材料を充填して反転構造を形成する工程B1とを有することを特徴とする磁気光学素子の製造方法により解決される。
【0018】
〔7〕:上記課題は、基板上に略球状の微少な物体を周期的に配列して周期構造を形成する工程A2と、工程A2において形成された周期構造以外の部分を構成する略球状の微少な物体の隙間に磁性材料を含む材料を充填して反転構造を形成する工程B2と、反転構造を形成した後に前記工程A2で形成した周期的に配列された略球状の微少な物体を除去して空体とする工程C2とを有することを特徴とする磁気光学素子の製造方法により解決される。
【0019】
〔8〕:上記〔7〕に記載の磁気光学素子の製造方法において、前記略球状の微少な物体を除去する工程C2が熱処理によるものであることを特徴とする。
【0020】
〔9〕:上記課題は、基板上に略球状の微少な物体を周期的に配列して周期構造を形成する工程A3と、工程A3において形成された周期構造以外の部分を構成する略球状の微少な物体の隙間にナノスケールの磁性粒子を含む溶液を充填し、充填後に溶媒を乾燥させる工程B3と、工程B3において充填されたナノスケールの磁性粒子間および前記工程Aで形成した周期的に配列された略球状の微少な物体間に液状樹脂を充填する工程C3と、工程C3により充填された液状樹脂をポリマー化して反転構造を形成する工程D3とを有することを特徴とする磁気光学素子の製造方法により解決される。
【0021】
〔10〕:上記課題は、基板上に略球状の微少な物体を周期的に配列して周期構造を形成する工程A4と、工程A4において形成された周期構造以外の部分を構成する略球状の微少な物体の隙間にナノスケールの磁性粒子を含む液状樹脂を充填する工程B4と、工程B4により充填された液状樹脂をポリマー化して反転構造を形成する工程C4とを有することを特徴とする磁気光学素子の製造方法により解決される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の磁気光学素子によれば、略球状の微少な物体もしくは空体が周期的に配列されてなる周期構造と、該周期構造以外の領域を構成する反転構造とからなる周期性構造体を備えているため、高速駆動(例えば、周期性構造体における磁化の反転速度が数ナノ秒である)が可能であり、SN比が良好で光信号をオン・オフでき、信頼性が高く堅牢である。
本発明における周期性構造体は、フォトニックバンドギャップによる光閉じ込め効果やバンド端における特異な光学現象を利用して磁気光学効果を特定波長にて増大することができ、光スイッチ、光分波器などのフォトニック結晶光学デバイス、また、表示デバイス、センサ(バイオセンサやガスセンサ等)などに応用することが可能である。
本発明の磁気光学素子の製造方法によれば、略球状の微少な物体もしくは空体が周期的に配列されてなる周期構造と、該周期構造以外の領域を構成する反転構造とからなる周期性構造体を備えた磁気光学素子を、例えば、ボトムアップ手法により自己組織化を利用して形成できるため、材料の無駄がなく、プロセスとしても容易であり、また、省資源・省エネルギーの観点からも有利で環境面でも優れている。すなわち、本発明の磁気光学素子の製造方法により、コントラスト比が大きな高速光スイッチング機能を有し、磁性材料からなる信頼性が高く堅牢な磁気光学素子を、環境負荷を最小限に、かつ低コストで作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
前述のように本発明における磁気光学素子は、略球状の微少な物体もしくは空体が周期的に配列されてなる周期構造と、該周期構造以外の領域を構成する反転構造とからなる周期性構造体を備えた磁気光学素子において、前記反転構造が、磁性材料を含む材料により構成されていることを特徴とするものである。
ここで、磁性材料を含む材料が、ナノスケールの磁性粒子を含むもの、あるいはナノスケールの磁性粒子とポリマーからなる複合物により構成されていることが好ましい。また、前記略球状の微少な空体が、空隙であることが好ましい。
つまり、周期構造以外の領域を構成する反転構造が、磁性材料により構成されることにより、コントラスト比が大きな高速光スイッチング機能を持ち、信頼性の高い、堅牢な磁気光学素子が提供される。特に、ナノスケールの磁性粒子を含む構成により、光透過性を犠牲にせず、また磁気光学効果の増大が強まり、素子歩留まりも向上する。
以下、前記本発明〔1〕〜〔10〕の代表的な組み合せを例に取上げて具体的に説明する。
【0024】
先ず、本発明の〔1〕−〔5〕−〔7〕、〔8〕の組み合せを例に説明する。
図1は、本発明の〔1〕−〔5〕−〔7〕、〔8〕に係る磁気光学素子の模式図である。
図1において、符号10は略球状の微少な空体[ほぼ球形の空隙(周期構造を形成)]、符号2は磁性材料を含む材料(反転構造を形成)、符号9は周期性構造体、符号3は基板(例えば、石英基板)を示す。
図1では、周期構造の周期間隔や層数、基板に加工された箇所の形状や大きさなどは簡略化して模式的に示している。基板は表面が研磨された石英基板であり、その上に、球状の空隙(例えば、直径:約300nm)が規則配列した構造を持つ三次元の周期性構造物が形成されている。基板に垂直方向への積層数は必要に応じて決められる(例えば、10層)。このような構造は、インバースオパール構造(逆オパール構造)と呼ばれる。球状空隙の外壁を構成している材料は、磁性材料を含む材料(例えば、ビスマス置換希土類ガーネット〔BiYIG、Y3-xBixFe5O12〕)である。
【0025】
図1において、入射光4が偏光子(グラントムソンプリズム)5を透過した直線偏光は、周期性構造体9に入射した後、周期性構造体9を透過する。この際に、透過光6は微粒子から形成される周期性構造体における反転構造部分の磁性材料を含む材料(例えば、ビスマス置換希土類ガーネット〔BiYIG〕)の磁気モーメントの向きにより、直線偏光の回転方向が互いに逆向きになる。一方の直線偏光を透過するように検光子(グラントムソンプリズム)7を配置してある。また、周期性構造体の上部に図示しないハードディスク用の磁気ヘッドを配置して磁界を印加させれば、磁界の向きによって光をスイッチングすることができる。
磁場印加方法としては、ハードディスクに用いられる磁気ヘッド(TMRやGMR)を利用する方法もあるし、コイル形状と磁芯からなる微小磁気ヘッドを磁気光学素子内に形成する方法や、永久磁石を近接させる方法もある。
磁界印加の関係で、入射光は斜め入射の例を示したが、透明磁気ヘッドを用いた場合には垂直入射も可能である。透過によるファラデー効果の例を記載したが、反射によるカー効果を用いることもできる。磁気光学効果は、光の進行方向とスピンの方向とが平行の場合に最大の効果が得られる。
【0026】
上記のような構成とした本発明の磁気光学素子の特徴として、磁化の反転速度が数ナノ秒であることが挙げられる。すなわち、このような高速動作により超高速光スイッチングが可能である。略球状の微少な空体(空隙)が周期的に配列された周期構造と、該周期構造以外の領域を磁性材料を含む材料で構成した反転構造とからなる周期性構造体を備えた三次元フォトニック結晶を利用しているため、入射光にレーザ(例えば、He−Neレーザ)を用いた場合に、はファラデー回転角も比較的大きく、コントラスト比も大きくでき、超高速光スイッチングが可能である。
【0027】
磁気光学素子とそれらを駆動するシステムとしては、磁気モーメントの向きを変化させることができる磁界印加部、入射光を直線偏光とする偏光子、磁気光学素子からの反射光、透過光のある方向に回転した偏光成分を遮断するとともに、逆方向に回転した偏光成分を透過させる検光子からなり、磁場の印加により光のオン・オフを制御する。例えば、正方向の磁界が印加されたときに+θFのファラデー回転、負方向の磁界が印加されたときに−θFのファラデー回転が生じるとし、検光子の偏光透過面が+θFに設定されているとすると+θFのファラデー回転した光は透過するが(ONの状態)、−θFの回転をした光は透過しない(OFFの状態)。したがって、磁界の向きを制御することで、光のオン・オフを制御できる。本実施例では、ファラデー効果を用いた動作原理の例を示しているが、磁気カー効果の動作原理においても光のオン・オフにおける検光子の調整などは同じ原理である。
【0028】
本発明の磁気光学素子(以降の例においても同様)では、均一粒径の微粒子フォトニック結晶による磁気光学効果の増大を利用している点が大きな特徴である。ほぼバンドギャップ波長に対応する入射波長にて磁気光学効果が増大する。光路における磁性体体積が大きい方が磁気光学効果の大きいことが知られているが、同体積にて比較した場合にフォトニック結晶を用いた場合には光の局在効果により磁気光学効果が強まる。
【0029】
以下に、図1に示す周期性構造体9の製造方法の例を示す。
まず、所定寸法(例えば、直径300nm程度)で粒度分布の標準偏差が揃った(3%以内が好ましい)のポリマー微粒子(例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル)を分散した水溶液(例えば、0.5wt%程度)を調製する。
次に、基板(例えば、石英基板)3を、図2の模式図に示すように水面がほぼ垂直になるように微粒子分散水溶液(この場合には、ポリマー微粒子のコロイド溶液)8に浸し、基板の上部を固定する。次いで、一定速度で基板を引き上げた後、十分乾燥させる。このような操作により、基板表面にポリマー微粒子(例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル)が基板垂直方向に積層(例えば、10層程度)されて膜厚がほぼ一定の周期構造9が形成される。
その後、作製したポリマー微粒子が積層された周期構造に、磁性材料を含む材料の原料として用いられる溶液[例えば、ビスマス置換希土類ガーネット〔BiYIG〕の有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液:例えば、MOD(Metal Organic Decomposition)塗布材料]を塗布し、周期構造以外の領域に十分充填されるようにして後、乾燥させる。乾燥後、熱処理工程により、前記原料(BiYIGの有機化合物)を焼成する(例えば、〜700℃)。この工程により、BiYIGが焼成されて結晶性が向上するとともに、ポリマー微粒子が完全に焼失し、ポリマー微粒子が存在していた箇所が空体(空隙)となる。このような構造は、電子顕微鏡(SEM)観察により確認することができる。
【0030】
図1に示す周期性構造体9は、球状空隙を配列させた形状となり、その外壁が磁性材料を含む材料(反転構造)で囲われている。
このような構造は、インバースオパール構造であるため、オパール構造よりも光の局在効果は強く、磁気光学効果も強い。磁界印加により磁化のスイッチングが可能であり、コントラスト比も大きい。
なお、上記作製方法では、ポリマー微粒子(例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなど)の熱処理による焼失を利用したが、シリカ微粒子を用いて周期構造とし、反転構造を形成した後にフッ酸で除去するなど、他の微粒子を用いた場合も球形空隙は形成可能である。
【0031】
本発明における磁性材料としてBiYIGを例示したが、これは希土類鉄ガーネットであり、希土類金属としてYのほかに、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどでもよい。また、Bi置換型を例示したが、他にCe、Pb、Ca、Ptでもよい。また、Feの一部をAl、Ga、Cr、Mn、Sc、In、Ru、Rh、Co、Cu、Ni、Zn、Li、Si、Ge、Zr、Tiなどとしてもよい。
【0032】
基板を微粒子分散水溶液(ポリマー微粒子のコロイド溶液)に浸して一定速度で引き上げることにより、微粒子が自己組織的に配列する現象を利用したボトムアップ手法は、例えば、エッチング装置などを用いて材料を加工するトップダウン手法と比較して、材料の無駄がなく、プロセスとしても容易であり、また、省資源・省エネルギーの観点からも有利で環境面でも優れている。例えば、反転構造の形成において、磁性材料を含む材料の原料として前述のようなMOD(Metal Organic Decomposition)塗布材料を用いることができ、省エネルギープロセスで形成することができる。
従来ではフォトニック結晶は微細加工を施す方法でしか作製できず、環境面で問題があった。しかしながら、本発明により、環境面に優れた光スイッチを作製できるようになった。
【0033】
次に、本発明の〔2〕−〔4〕−〔6〕の組み合せを例に説明する。
図3は、本発明の〔2〕−〔4〕−〔6〕に係る磁気光学素子の模式図である。
図3において、符号31は略球状の微少な物体、(前記略球状の微少な物体が、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルまたは硫化亜鉛のいずれかの材料からなる微粒子)、符号32は磁性材料(ナノスケールの磁性粒子)を含む材料(反転構造)、符号39は周期性構造体、符号33は基板(例えば、石英基板)を示す。
図3では、周期構造の周期間隔や層数、基板に加工された箇所の形状や大きさなどは簡略化して模式的に示している。基板は表面が研磨された石英基板であり、その上に、略球状の微少な物体(例えば、球状シリカ微粒子;直径:約300nm程度、屈折率:1.4程度)が規則配列した周期構造が形成され、周期構造以外の領域を構成する反転構造には磁性材料を含む材料[例えば、ナノスケールの磁性粒子]が充填されて三次元の周期性構造体を構成している。基板に垂直方向への積層数は必要に応じて決められる(例えば、5層)。なお、ナノスケールの磁性粒子としては、例えば、フェライト微粒子(Fe23、粒径:約2〜3nm程度)などが挙げられる。
【0034】
図3において、入射光4が偏光子(グラントムソンプリズム)5を透過した直線偏光は、周期性構造体39に入射した後、周期性構造体39を透過する。この際に、透過光6は微粒子から形成される周期性構造体における反転構造部分の磁性材料を含む材料(例えば、フェライト微粒子)の磁気モーメントの向きにより、直線偏光の回転方向が互いに逆向きになる。一方の直線偏光を透過するように検光子(グラントムソンプリズム)7を配置してある。また、周期性構造体の上部に図示しないハードディスク用の磁気ヘッドを配置して磁界を印加させれば、磁界の向きによって光をスイッチングすることができる。
【0035】
上記のような構成とした本発明の磁気光学素子の特徴として、磁化の反転速度が数ナノ秒であることが挙げられる。すなわち、このような高速動作により超高速光スイッチングが可能である。
すなわち、略球状の微少な物体(例えば、球状シリカ微粒子)が周期的に配列された周期構造と、該周期構造以外の領域を磁性材料を含む材料(例えば、フェライト微粒子)で構成した反転構造とからなる周期性構造体を備えた三次元フォトニック結晶を利用しているため、入射光にレーザ(例えば、He−Neレーザ)を用いた場合に、はファラデー回転角も比較的大きく、コントラスト比も大きくでき、超高速光スイッチングが可能である。
このような磁気光学素子は応用範囲が広く、光スイッチのほか、バイオセンサやガスセンサなどのセンサとしての利用も可能である。
【0036】
以下に、図3に示す周期性構造体39の製造方法の例を示す。
まず、所定寸法(例えば、直径300nm程度)で粒度分布の標準偏差が揃った(3%以内が好ましい)の略球状の微少な物体(微粒子)を分散した水溶液(例えば、0.5wt%程度)を調製する。
次に、基板(例えば、石英基板)33を、図2の模式図に示すように水面がほぼ垂直になるように微粒子分散水溶液8(この場合は、例えば、シリカなどの略球状の微少な微粒子を分散した水溶液)に浸し、基板の上部を固定する。次いで、一定速度で基板を引き上げた後、十分乾燥させる。このような操作により、基板垂直方向に微粒子(例えば、シリカ)が積層(例えば、5層程度)されて膜厚がほぼ一定の周期構造が形成される。
【0037】
その後、作製した微粒子(例えば、シリカ)が積層された周期構造を、磁性材料を含む材料(ナノスケールの磁性粒子:例えば、ナノスケールのフェライト微粒子)の原料が含まれる溶液に浸し、基板を引き上げた後、乾燥させることにより、配列された周期構造からなるシリカ微粒子間にフェライト粒子を周期構造以外の領域に充填し、図3に示す周期性構造体39が形成される。
【0038】
図3において、入射光4が偏光子(グラントムソンプリズム)5を透過した直線偏光は、周期性構造体39に入射した後、周期性構造体39を透過する。この際に、透過光6は微粒子から形成される周期性構造物における反転構造部分の磁性材料を含む材料(例えば、フェライト微粒子)の磁気モーメントの向きにより、直線偏光の回転方向が互いに逆向きになる。一方の直線偏光を透過するように検光子(グラントムソンプリズム)7を配置してある。また、周期性構造物の上部に図示しないハードディスク用の磁気ヘッドを配置して磁界を印加させれば、磁界の向きによって光をスイッチングすることができる。
磁場印加方法としては、ハードディスクに用いられる磁気ヘッド(TMRやGMR)を利用する方法もあるし、コイル形状と磁芯からなる微小磁気ヘッドを磁気光学素子内に形成する方法や、永久磁石を近接させる方法もある。
磁界印加の関係で、入射光は斜め入射の例を示したが、透明磁気ヘッドを用いた場合には垂直入射も可能である。透過によるファラデー効果の例を記載したが、反射によるカー効果を用いることもできる。磁気光学効果は、光の進行方向とスピンの方向とが平行の場合に最大の効果が得られる。
【0039】
図3に示す磁気光学素子は、略球状の微少な物体(例えば、球状シリカ微粒子)を配列させた周期構造の隙間に磁性材料を含む材料(ナノスケールの磁性粒子:例えば、フェライト微粒子)を充填している。
略球状の微少な物体からなる周期構造をアモルファスからなるシリカ微粒子(例えば、屈折率:1.4〜1.45程度)とすれば、比較的単分散性もよい。また、周期構造の隙間(反転構造の領域)を、例えば、2〜3nm程度の粒径からなるフェライト微粒子で満たせば、シリカ微粒子間への充填も密度が高く充填される。そのため、磁性も生じ、磁界印加により磁化のスイッチングが可能である。略球状の微少な物体からなる周期構造を形成するには、シリカ以外にもポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、硫化亜鉛などが、他の材料と比較して粒形をほぼ均一に形成できる材料として有用である。
ナノスケールの磁性粒子としては、フェライト微粒子のほか、Fe、Co、Ptおよびそれらの合金や酸化物などを用いることができる。
【0040】
基板を略球状の微少な物体を分散した水溶液(例えば、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルまたは硫化亜鉛などの微粒子分散水溶液)に浸して一定速度で引き上げることにより、微粒子が自己組織的に配列する現象を利用したボトムアップ手法は、例えば、エッチング装置などを用いて材料を加工するトップダウン手法と比較して、材料の無駄がなく、プロセスとしても容易であり、また、省資源・省エネルギーの観点からも有利で環境面でも優れている。例えば、反転構造の形成において、磁性材料を含む材料の原料として前述のようなMOD(Metal Organic Decomposition)塗布材料を用いることができ、省エネルギープロセスで形成することができる。
従来ではフォトニック結晶は微細加工を施す方法でしか作製できず、環境面で問題があった。しかしながら、本発明により、環境面に優れた磁気光学素子および磁気光学システムを作製できるようになった。
【0041】
次に、本発明の〔3〕−〔4〕−〔10〕の組み合せを例に説明する。
図4は、本発明の〔3〕−〔4〕−〔10〕に係る磁気光学素子の模式図である。
図4において、符号41は略球状の微少な物体、(例えば、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルまたは硫化亜鉛などからなる微粒子)、符号42は磁性材料を含む材料(ナノスケールの磁性粒子とポリマーからなる複合物)〔反転構造〕、符号49は周期性構造体、符号43は基板(例えば、石英基板)を示す。
図4では、周期構造の周期間隔や層数、基板に加工された箇所の形状や大きさなどは簡略化して模式的に示している。基板は表面が研磨された石英基板であり、その上に、略球状の微少な物体(例えば、ポリスチレン微粒子;直径:約300nm程度)が規則配列した周期構造が形成され、周期構造以外の領域を構成する反転構造には磁性材料を含む材料[ナノスケールの磁性粒子とポリマーからなる複合物(例えば、L10−FePtナノ粒子とポリスチレンの複合材料)]が充填されて三次元の周期性構造体を構成している。基板に垂直方向への積層数は必要に応じて決められる(例えば、5層)。
【0042】
図4において、入射光4が偏光子(グラントムソンプリズム)5を透過した直線偏光は、周期性構造体49に入射した後、周期性構造体49を透過する。この際に、透過光6は微粒子から形成される周期性構造体における反転構造部分の磁性材料を含む材料(例えば、L10-FePtナノ粒子)の磁気モーメントの向きにより、直線偏光の回転方向が互いに逆向きになる。一方の直線偏光を透過するように検光子(グラントムソンプリズム)7を配置してある。また、周期性構造体の上部に図示しないハードディスク用の磁気ヘッドを配置して磁界を印加させれば、磁界の向きによって光をスイッチングすることができる。
【0043】
上記のような構成とした本発明の磁気光学素子の特徴として、磁化の反転速度が数ナノ秒であることが挙げられる。すなわち、このような高速動作により超高速光スイッチングが可能である。
すなわち、略球状の微少な物体(例えば、球状シリカ微粒子)が周期的に配列された周期構造と、該周期構造以外の領域を磁性材料を含む材料(例えば、L10-FePtナノ粒子)で構成した反転構造とからなる周期性構造体を備えた三次元フォトニック結晶を利用しているため、入射光にレーザ(例えば、He−Neレーザ)を用いた場合に、はファラデー回転角も比較的大きく、コントラスト比も大きくでき、超高速光スイッチングが可能である。
このような磁気光学素子は応用範囲が広く、光スイッチのほか、バイオセンサやガスセンサなどのセンサとしての利用も可能である。
【0044】
以下に、図4に示す周期性構造体49の製造方法の例を示す。
まず、所定寸法(例えば、直径300nm程度)で粒度分布の標準偏差が揃った(3%以内が好ましい)の略球状の微少な物体(微粒子:例えば、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルまたは硫化亜鉛など)を分散した水溶液(例えば、0.5wt%程度)を調製する。
次に、基板(例えば、石英基板)43を、図2の模式図に示すように水面がほぼ垂直になるように微粒子分散水溶液(例えば、ポリスチレン微粒子分散水溶液)8に浸し、基板の上部を固定する。次いで、一定速度で基板を引き上げた後、十分乾燥させる。このような操作により、基板垂直方向に微粒子(例えば、ポリスチレン微粒子)が積層(例えば、5層程度)されて膜厚がほぼ一定の周期構造が形成される。
【0045】
その後、作製した微粒子(例えば、ポリスチレン微粒子)が積層された周期構造を、磁性材料(ナノスケールの磁性粒子)を含む材料の原料として用いられる溶液(例えば、L10−FePtナノ粒子が分散したスチレンモノマー溶液)に浸し、基板を一定速度で引き上げる。構造物を、アルゴンガス中にての磁場(50kOe程度)下にて加熱処理する(例えば、60℃×20時間程度)放置し、L10−FePtナノ粒子の磁化容易軸を配向制御することにより、配列された周期構造からなるポリスチレン微粒子間にL10−FePtナノ粒子とポリスチレンが充填された反転構造を有する図4に示す周期性構造体49が形成される。
【0046】
図4において、入射光4が偏光子(グラントムソンプリズム)5を透過した直線偏光は、周期性構造体49に入射した後、周期性構造体49を透過する。この際に、透過光6は微粒子から形成される周期性構造物における反転構造部分の磁性材料を含む材料(例えば、L10−FePtナノ粒子)の磁気モーメントの向きにより、直線偏光の回転方向が互いに逆向きになる。一方の直線偏光を透過するように検光子(グラントムソンプリズム)7を配置してある。また、周期性構造物の上部に図示しないハードディスク用の磁気ヘッドを配置して磁界を印加させれば、磁界の向きによって光をスイッチングすることができる。
磁場印加方法としては、ハードディスクに用いられる磁気ヘッド(TMRやGMR)を利用する方法もあるし、コイル形状と磁芯からなる微小磁気ヘッドを磁気光学素子内に形成する方法や、永久磁石を近接させる方法もある。
磁界印加の関係で、入射光は斜め入射の例を示したが、透明磁気ヘッドを用いた場合には垂直入射も可能である。透過によるファラデー効果の例を記載したが、反射によるカー効果を用いることもできる。磁気光学効果は、光の進行方向とスピンの方向とが平行の場合に最大の効果が得られる。
【0047】
図4に示す磁気光学素子は、略球状の微少な物体(例えば、ポリスチレン微粒子)を配列させた周期構造の隙間に磁性材料を含む材料(ナノスケールの磁性粒子とポリマー:例えば、L10-FePtナノ粒子とポリスチレン)を充填している。すなわち、ポリスチレン微粒子周期構造の外壁が磁性材料とポリマーの複合材料からなっている。逆オパール構造にてポリスチレン微粒子が残存した構造であるため、オパール構造よりも光の局在効果は強く、磁気光学効果も強い。磁界印加により磁化のスイッチングが可能であり、コントラスト比も大きい。
【0048】
次に、本発明の〔3〕−〔4〕−〔9〕の組み合せを例に説明する。
前述と同様にして周期性構造体が形成できるため詳細は省略するが、例えば、前記〔2〕−〔4〕−〔6〕の組み合せ例を基本に説明する。
前記〔2〕−〔4〕−〔6〕の組み合せ例において、周期構造からなるシリカ微粒子間にフェライト粒子を周期構造以外の領域に充填した後に、さらに重合性モノマー(例えば、光硬化型樹脂)を滴下することにより、配列されたシリカ微粒子間、およびにフェライト微粒子間に光硬化型樹脂を充填する。その後、紫外線を照射して重合により硬化させて完全に固化させ、周期性構造体とする。光硬化型樹脂を充填することで強固な構造とされ、この場合にも光硬化型樹脂を充填しない場合と同様に、光スイッチング機能を有する。
このような磁気光学素子は応用範囲が広く、光スイッチのほか、バイオセンサやガスセンサなどのセンサとしての利用も可能である。
【0049】
以上、本発明を説明するために実施例を示してきたが、本発明はこれらの実施例にとどまることなく応用できることは言うまでもない。透過光を利用したファラデー効果の例を主に挙げたが、図5に示すような反射光を利用した磁気カー効果を用いた磁気光学素子もある。
図5において各符号はそれぞれ、4:入射光、5:偏光子、7:検光子、11:反射光、50:略球状の微少な物体または空体、52:磁性材料を含む材料、53:基板、59:周期性構造体を示す。
【0050】
周期性構造体を形成する略球状の微少な物体(微粒子)の種類は限定されないが、単分散粒子を得やすいという点で、シリカ、ポリスチレン、メタクリル酸メチル、硫化亜鉛のいずれかの材料からなる微粒子であることが好ましい。微粒子周期性構造物の作製方法は、コロイド液を用いた場合には、基板を水平に設置する、基板に加工を施すなど、他の作製方法による周期性構造物であってもよい。周期性構造物は基板間に作製して、一方の基板を取り外す場合と、最初から1枚の基板表面に作製する場合がある。作製される周期性構造物、使用する基板等の大きさ等は限定されず、材質は請求項を満たす範囲で限定されない。周期性構造物作製時における溶液濃度、温度などは限定されない。また、光圧を利用した方法や、ミクロな装置を用いて微粒子を配列し、規則構造を形成しても構わない。
【0051】
ナノスケールの磁性粒子を充填する工程や、磁性材料を形成する工程においては、磁性微粒子を用いる方法や、磁性体・ポリマー複合材料を用いる方法、ゾルゲル法を用いた方法、MOD材料を用いる方法のほか、スパッタリングを用いた成膜方法や、バナジウムクロムヘキサシアノ錯体などの分子磁性体を用いる方法、ナノシート積層を用いた方法、常温衝撃固化現象を用いたエアロゾルデポジッション法(ADM)などもある。
ゾルゲル材料は、アルコキシド等を加水分解、重合させ、コロイド状にしたものを溶液中に分散させた材料であり、低温製膜性に優れている。また、MOD塗布型材料は、金属の有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液であり、基板上にその溶液を塗布し、乾燥後熱処理を施すことで酸化物薄膜を簡単に形成することができる液体材料である。まず、球形微粒子の周期性構造物を用意し、それらの間隙に磁性材料を充填させる必要があるため、ナノスケールの磁性粒子を充填する方法や、磁性体・ポリマー複合材料を用いる方法、ゾルゲル法を用いた方法、MOD材料を用いる方法が好ましい。磁性ナノ粒子は球形のほか、四角形や棒状形状も形成できる。
【0052】
本発明による周期性構造物は、フォトニックバンドギャップによる光閉じ込め効果やバンド端における異常光学現象を利用して磁気光学効果を特定波長にて増大することができ、光スイッチ、光分波器などのフォトニック結晶光学デバイス、また、表示デバイス、センサなど応用範囲は広い。
【0053】
前述のように、微粒子が自己組織的に配列する現象を利用したボトムアップ手法では、エッチング装置などを用いて材料を加工するトップダウン手法と比較して、材料の無駄がなく、プロセスとしても容易であるため、省資源・省エネルギーであり、環境面でも優れている。トップダウン方式では、真空装置は真空ポンプ、ヒータなども用いるので電力を大量に長時間使用する上、材料が無駄になる。一方、本発明などのようなボトムアップ手法では基板を微粒子分散液に浸すことにより微粒子が集積し、周期性構造物が形成されるので、作製に要するエネルギーが格段に小さく、プロセスそのものも省エネルギーになる。作製プロセスに用いる溶媒なども回収が容易で、省資源かつ環境に優しい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制約を受けるものではない。
【0055】
(実施例1)
まず、直径300nm、粒度分布の標準偏差が3%以内のシリカ微粒子分散水溶液(0.5wt%、100ml)を用意した。石英基板を、前記図2に示すように水面がほぼ垂直になるようにシリカ微粒子分散水溶液に浸し、基板の上部を固定した。一定速度で基板を引き上げた後、十分乾燥させた。基板表面にはシリカ微粒子による膜厚がほぼ一定の周期構造が形成された。基板に垂直方向への積層数は5層であった。
その後、作製した周期構造をナノスケールのフェライト微粒子が含まれる溶液に浸し、基板を引き上げた後、乾燥させることにより、配列されたシリカ微粒子間にフェライト粒子を充填し、前述の図3に示すような周期性構造体を作製した。なお、図3では、周期構造の周期間隔や層数、基板に加工された箇所の形状や大きさなどは実際に作製した構造物とは異なるが簡略化されて模式的に示されている。
作製された周期性構造体は、表面研磨された石英基板上に、球状シリカ微粒子(粒径:約300nm、屈折率:1.4)が規則配列した三次元の周期構造が形成されており、基板垂直方向への微粒子積層数は5層であった。また、球状シリカ微粒子間はナノスケールのフェライト微粒子(Fe23、粒径:約2〜3nm)で充填されていた。
【0056】
得られた周期性構造体は、微粒子を用いた三次元フォトニック結晶を利用しているため、波長633nmのHe−Neレーザを用いた場合にはファラデー回転角も約2°(度)という比較的大きな値で、コントラスト比が大きくスイッチングが可能であった。すなわち、本発明の特徴として、磁化の反転速度が数ナノ秒であるであることに起因して超高速光スイッチングが可能である。
【0057】
(実施例2)
まず、直径300nm、粒度分布の標準偏差が3%以内のポリスチレン微粒子分散水溶液(0.5wt%、100ml:ポリスチレンコロイド溶液)を用意した。石英基板を、水面がほぼ垂直になるようにポリスチレンコロイド溶液に浸し(図2参照)、基板の上部を固定した。一定速度で基板を引き上げ、溶液内の溶媒を乾燥させた。その後、基板を取り出し、十分乾燥させた。その結果、基板表面にはポリスチレン微粒子が基板垂直方向に10層積層された、膜厚ほぼ一定の周期構造が形成された。
【0058】
その後、作製した周期構造に、BiYIGの有機化合物を有機溶剤に溶解した溶液[MOD(Metal Organic Decomposition)塗布材料]を塗布し、乾燥させる作業を5回繰り返した。その後、100℃で30分、500℃で15分、700℃で180分の各熱処理工程を加えた。この工程により、BiYIGが焼成されることにより結晶性が向上したのに加え、ポリスチレン微粒子が完全に焼失し、ポリスチレン微粒子が存在していた箇所が空隙となった。電子顕微鏡(SEM)観察により、前述の図1に示すように球形空隙の周期構造を有する周期性構造体が形成されていることを確認した。
【0059】
得られた周期性構造体は、球形構造の反転構造を用いた三次元フォトニック結晶を利用しているため、波長633nmのHe−Neレーザを用いた場合にはファラデー回転角も約4°(度)という比較的大きな値で、コントラスト比が大きくスイッチングが可能であった。すなわち、本発明の特徴として、磁化の反転速度が数ナノ秒であるであることに起因して超高速光スイッチングが可能である。
【0060】
(実施例3)
まず、直径300nm、粒度分布の標準偏差が3%以内のポリスチレン微粒子分散水溶液(ポリスチレンコロイド溶液:0.5wt%、100ml)を用意した。石英基板を、水面がほぼ垂直になるようにポリスチレンコロイド溶液に浸し(図2参照)、基板の上部を固定した。一定速度で基板を引き上げ、十分乾燥させた。その結果、基板表面にはポリスチレン微粒子が基板垂直方向に5層の積層からなる膜厚制御された周期構造を形成した。
【0061】
その後、作製した周期構造を、L10−FePtナノ粒子が分散したスチレンモノマー溶液に浸透させ、一定速度で引き上げた。構造物を、アルゴンガス中にて50kOeの磁場下にて60℃で20時間放置し、L10−FePtナノ粒子の磁化容易軸を配向制御した。前述の図4に示すような周期性構造体が形成されていることを確認した。
【0062】
得られた周期性構造体は、反転構造を用いた三次元フォトニック結晶を利用しているため、波長633nmのHe−Neレーザを用いた場合にはファラデー回転角も約3°(度)という比較的大きな値で、コントラスト比が大きくスイッチングが可能であった。すなわち、本発明の特徴として、磁化の反転速度が数ナノ秒であるであることに起因して超高速光スイッチングが可能である。
【0063】
(実施例4)
実施例1において、配列されたシリカ微粒子間にフェライト粒子を充填した後、さらにモノマーを滴下することにより、配列されたシリカ微粒子間、およびにフェライト微粒子間に光硬化型樹脂を充填し、紫外線を照射して重合により硬化させた(完全に固化)以外は実施例1と同様にして、前述の図4に示すような周期性構造体を作製した。すなわち、光硬化型樹脂を充填することで強固な構造とした。
得られた周期性構造体は、光硬化型樹脂を充填しない場合と同様に、光スイッチング機能を確認できた。この場合にも、磁化の反転速度が数ナノ秒であるであることに起因して超高速光スイッチングが可能である。
【0064】
(実施例5)
実施例1において、シリカ微粒子により形成された周期構造に、フェライト微粒子が分散した光硬化型液状樹脂を充填して、紫外線照射により硬化させた(完全に固化)以外は実施例1と同様にして、前述の図4に示すような周期性構造体を作製した。
得られた周期性構造体は、光硬化型樹脂を充填しない場合と同様に、光スイッチング機能を確認できた。この場合にも、磁化の反転速度が数ナノ秒であるであることに起因して超高速光スイッチングが可能である。
【0065】
以上の実施例からわかるように、本発明による周期性構造物は、フォトニックバンドギャップによる光閉じ込め効果やバンド端における特異な光学現象を利用して磁気光学効果を特定波長にて増大することができ、光スイッチ、光分波器などのフォトニック結晶光学デバイス、また、表示デバイス、センサなど応用範囲は広い。
一方、本発明などのようなボトムアップ手法では基板を微粒子分散液に浸すことにより微粒子が集積し、周期性構造物が形成されるので、作製に要するエネルギーが格段に小さく、プロセスそのものも省エネルギーになる。作製プロセスに用いる溶媒なども回収が容易で、省資源かつ環境に優しい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の〔1〕−〔5〕−〔7〕、〔8〕に係る磁気光学素子の模式図である。
【図2】本発明の周期性構造体の製造方法においてボトムアップ手法により基板上に微粒子を自己組織的に配列して周期構造を形成する様子を説明するための模式図である。
【図3】本発明の〔2〕−〔4〕−〔6〕に係る磁気光学素子の模式図である。
【図4】本発明の〔3〕−〔4〕−〔10〕に係る磁気光学素子の模式図である。
【図5】本発明の磁気光学素子が応用可能な別の例を示す磁気カー効果(反射光)を応用した素子の模式図である。
【符号の説明】
【0067】
(図1の符号)
2 磁性材料を含む材料
3 基板
4 入射光
5 偏光子(グラントムソンプリズム)
6 透過光
7 検光子(グラントムソンプリズム)
9 周期性構造体
10 略球状の微少な空体
(図2の符号)
1 微小粒子
3 基板
8 微粒子分散水溶液
9 周期構造
(図3の符号)
4 入射光
5 偏光子(グラントムソンプリズム)
6 透過光
7 検光子(グラントムソンプリズム)
31 略球状の微少な物体
32 磁性材料(ナノスケールの磁性粒子)を含む材料
33 基板
39 周期性構造体
(図4の符号)
4 入射光
5 偏光子(グラントムソンプリズム)
6 透過光
7 検光子(グラントムソンプリズム)
41 略球状の微小な物体
42 磁性材料を含む材料(ナノスケールの磁性材料とポリマーからなる複合物)
43 基板
49 周期性構造体
(図5の符号)
4 入射光
5 偏光子
7 検光子
11 反射光
50 略球状の微少な物体または空体
52 磁性材料を含む材料
53 基板
59 周期性構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略球状の微少な物体もしくは空体が周期的に配列されてなる周期構造と、該周期構造以外の領域を構成する反転構造とからなる周期性構造体を備えた磁気光学素子において、
前記反転構造が、磁性材料を含む材料により構成されていることを特徴とする磁気光学素子。
【請求項2】
前記磁性材料を含む材料が、ナノスケールの磁性粒子を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の磁気光学素子。
【請求項3】
前記磁性材料を含む材料が、ナノスケールの磁性粒子とポリマーからなる複合物により構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気光学素子。
【請求項4】
前記略球状の微少な物体が、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルまたは硫化亜鉛のいずれかの材料からなる微粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気光学素子。
【請求項5】
前記略球状の微少な空体が、空隙であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気光学素子。
【請求項6】
基板上に略球状の微少な物体を周期的に配列して周期構造を形成する工程A1と、工程A1において形成された周期構造以外の部分を構成する略球状の微少な物体の隙間に磁性材料を含む材料を充填して反転構造を形成する工程B1とを有することを特徴とする磁気光学素子の製造方法。
【請求項7】
基板上に略球状の微少な物体を周期的に配列して周期構造を形成する工程A2と、工程A2において形成された周期構造以外の部分を構成する略球状の微少な物体の隙間に磁性材料を含む材料を充填して反転構造を形成する工程B2と、反転構造を形成した後に前記工程A2で形成した周期的に配列された略球状の微少な物体を除去して空体とする工程C2とを有することを特徴とする磁気光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記略球状の微少な物体を除去する工程C2が熱処理によるものであることを特徴とする請求項7に記載の磁気光学素子の製造方法。
【請求項9】
基板上に略球状の微少な物体を周期的に配列して周期構造を形成する工程A3と、工程A3において形成された周期構造以外の部分を構成する略球状の微少な物体の隙間にナノスケールの磁性粒子を含む溶液を充填し、充填後に溶媒を乾燥させる工程B3と、工程B3において充填されたナノスケールの磁性粒子間および前記工程Aで形成した周期的に配列された略球状の微少な物体間に液状樹脂を充填する工程C3と、工程C3により充填された液状樹脂をポリマー化して反転構造を形成する工程D3とを有することを特徴とする磁気光学素子の製造方法。
【請求項10】
基板上に略球状の微少な物体を周期的に配列して周期構造を形成する工程A4と、工程A4において形成された周期構造以外の部分を構成する略球状の微少な物体の隙間にナノスケールの磁性粒子を含む液状樹脂を充填する工程B4と、工程B4により充填された液状樹脂をポリマー化して反転構造を形成する工程C4とを有することを特徴とする磁気光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−128047(P2010−128047A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300557(P2008−300557)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】