説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】S/N比が低い画像であっても折り返しアーチファクトを効果的に抑制する。
【解決手段】取得した複数スライスの感度画像を絶対値加算した画像からマスク画像を作成する。取得した複数スライスの感度画像を複素加算することにより得られる画像に、作成したマスク画像を乗算することにより、S/N比が良く、かつ、効率的に低信号領域が除去された受信コイルの感度分布を得る。得られた感度分布を用いて、形態画像から折り返しを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」と呼ぶ。)の折り返し除去技術に関する。特に、パラレルイメージング法における折り返し除去技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」と呼ぶ。)信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する。NMR信号は、印加される傾斜磁場により位相エンコードおよび周波数エンコードされ、時系列データとして取得される。取得されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換され、画像に再構成される。
【0003】
MRI装置において、撮像時間を短縮する技術の一つとして、パラレルイメージング法と呼ばれる手法がある。パラレルイメージング法では、複数の高周波受信コイル(以下、「受信コイル」と略記する。)を用いて計測空間(以下、「k空間」と略記する)の位相エンコードステップを間引きながらエコーデータの計測を行い、撮像時間を短縮する。位相エンコードステップを間引いたことによって再構成画像上に発生する折り返しアーチファクト(以下、「折り返し」と略記する。)は、各受信コイルの受信感度分布(以下、「感度分布」と略記する。)を用いて行列演算を行うことで画像を展開し、除去する(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
パラレルイメージング法では、折り返し展開の演算に受信コイルの感度分布を用いるため、折り返しの無い良好な画像を得るためには、この受信コイルの感度分布を出来るだけ正確に取得する必要がある。より正確な感度分布を取得するために、少なくとも二つの撮像スライスにおける各受信コイル感度分布を複素加算または複素加算平均または複素幾何平均し、感度分布のS/N比を向上させる技術がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、パラレルイメージング法では、背景などの低信号領域を含んだまま行列演算を行うと、ノイズの影響で折り返しの展開時の誤差が大きくなり、画像上に輝点のアーチファクトが発生する。これを防ぐため、低信号領域を除くためのマスクを用いる技術がある(例えば、特許文献2参照。)
【0006】
【特許文献1】特開2005−168868号公報
【特許文献2】特開2002−315731号公報
【非特許文献1】SENSE:Sensitivity Encoding for Fast MRI(Klaas P. Pruessmann et al.),Magnetic Resonance in Medicine42:952−962(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ノイズなどのスライス方向に様々な位相をもつ信号は、複素加算により打ち消し合うため、結果的にS/N比が向上する。特許文献1で開示されている技術によれば、複数のスライスの感度分布を複素加算するため、感度分布のS/N比が向上する。従って、各スライスから得られる感度分布のS/N比が低い場合でも、S/N比の良い感度分布を用いて折返し除去の処理を行うことができ、アーチファクトの少ない結果画像を得ることができる。
【0008】
しかしながら、例えば、副鼻腔など磁化率アーチファクトが発生する領域のように位相の変化が大きい領域を撮影対象の被検体領域に含む場合、複数のスライスの感度分布を複素加算すると信号が打ち消しあってその大きさが低下する。被検体領域の信号が低下した感度分布を、特許文献2に開示されているマスクを用いた手法に用いると、被検体領域と背景領域との分離の精度が悪くなり、結果画像にアーチファクトが発生する。
【0009】
このように、撮影対象に位相の変化が大きい領域を含む場合、折り返し除去に効果的な、複数の撮像スライスの感度分布を複素加算等の演算により求めて感度分布のS/N比を向上させる技術と、マスクを用いて低信号領域を除く技術とを両立させることは難しい。このため、形態画像のS/N比が低い場合、効果的にアーチファクトを除去できず、画像の質を高めることができない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、取得した感度分布のS/N比が低い場合であっても、効果的にアーチファクトを除去し、良質な画像を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、取得した複数スライスの感度画像を絶対値加算した画像からマスク画像を作成する。取得した複数スライスの感度画像を複素加算することにより得られる画像に、作成したマスク画像を乗算することにより、受信コイルの感度分布を得る。得られた感度分布を用いて、形態画像の画質を向上させる。
【0012】
具体的には、複数のRF受信コイルから成るマルチプル受信コイルと、前記マルチプル受信コイルを用いて、前記RF受信コイル毎の被検体の形態画像用データと前記RF受信コイル毎の感度画像用データとを1以上のスライス分計測する計測手段と、前記形態画像用データおよび前記感度画像用データからそれぞれ前記形態画像と前記感度画像とを再構成する信号処理手段と、を備える磁気共鳴イメージング装置であって、前記信号処理手段は、RF受信コイル毎の1以上のスライスの前記感度画像用データに基づき、RF受信コイル毎の画像を作成する画像作成手段と、前記RF受信コイル毎の1以上のスライスの前記感度画像用データに基づき全RF受信コイルについての画像を合成し、被検体領域と背景領域とを分離するマスク画像を作成するマスク画像作成手段と、前記RF受信コイル毎の画像に前記マスク画像を作用させ、前記RF受信コイル毎の感度分布を作成する感度分布作成手段と、前記形態画像と前記感度分布とを用いて画像を生成する結果画像生成手段と、を備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、取得した感度分布のS/N比が低い場合であっても、効果的にアーチファクトを除去し、良質な画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<<第一の実施形態>>
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、発明の実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
最初に本実施形態のMRI装置の構成を説明する。図1は本実施形態のMRI装置100の構成の概略図である。MRI装置100は、被検体101の周囲に静磁場を発生させる磁石102と、傾斜磁場を発生させる傾斜コイル103と、被検体にRF波を照射する照射コイル104と、被検体からのNMR信号を検出する受信コイル105と、被検体101が横たわるベッド106と、傾斜磁場電源107と、RF送信部108と、信号検出部109と、信号処理部110と、表示部120と、制御部130と、を備える。
【0016】
磁石102は、被検体101の周りのある広がりをもった空間に配置された、永久磁石・超伝導磁石・常伝導磁石のいずれかからなり、体軸と平行または垂直な方向に均一な静磁場を発生させる。傾斜磁場コイル103は、傾斜磁場電源107からの信号に従って、X,Y,Zの3軸の方向の傾斜磁場を、被検体101に印加する。この傾斜磁場の加え方によって、被検体の撮影断面が設定される。照射コイル104は、RF送信部108の信号に応じて高周波磁場を発生する。この高周波磁場は、傾斜磁場コイル103によって設定された被検体101の撮影断面の生体組織を構成する原子の原子核を励起して核磁気共鳴を起こさせるために発生させる。
【0017】
受信コイル105は、被検体101に近接して配置され、照射コイル104から照射された高周波磁場によって被検体101の生休組織を構成する原子の原子核の磁気共鳴によるエコー信号であるNMR信号を受信する。受信したNMR信号は、信号検出部109で検出され、信号処理部110で信号処理し画像に変換される。変換された画像は、表示部120に表示される。
【0018】
なお、受信コイル105には、複数のRF受信コイルからなるマルチプルRFコイル(フェーズドアレイコイル)を用いる。マルチプルRFコイルとは、相対的に高感度な小型RF受信コイルを複数個並べ、各コイルで取得した信号を合成することにより、高い感度を保ったまま視野を拡大し、高感度化を図る受信専用RFコイルである。
【0019】
制御部130は、スライスエンコード、位相エンコード、周波数エンコードの各傾斜磁場と高周波磁場パルスとを所定のパルスシーケンスに従って繰り返し発生させるとともにNMR信号を受信させるために、傾斜磁場電源107と、RF送信部108と、信号処理部110とを制御する。本実施形態では、形態画像用データの計測と、受信コイルの感度分布を得るための感度画像用データの計測とを行うよう各部を制御する。また、複数のスライスの計測を行うよう各部を制御する。
【0020】
さらに、本実施形態の信号処理部110は、複素画像作成処理部111と、マスク画像作成処理部112と、感度分布作成処理部113と、計測画像作成処理部114と、折り返し除去処理部115と、を備える。以下、各機能の説明に先立ち、従来のマルチプルRFコイルを用いたパラレルイメージング法における、折り返しと呼ばれるアーチファクトの除去の手法について説明する。以下、マルチプルRFコイルを構成する各受信コイルをRF受信コイルと呼ぶ。
【0021】
図2は、パラレルイメージング法による折り返しについて説明するための図である。パラレルイメージング法は、マルチプルRFコイルを用いて、位相エンコードの繰り返し回数(ステップ数)を一定の割合で間引いて計測することにより高速撮影を実現する手法である。位相エンコードのステップ数を間引く割合は、逆数で表され、一般に倍速数と呼ばれる。例えば倍速数2の場合、位相エンコードのステップ数が1/2になるよう間引かれる。これを、2倍速で位相エンコードのステップ数を間引いて計測すると呼ぶ。2倍速で位相エンコードのステップ数を間引いて計測すると、位相エンコードのステップ間隔が2倍になり、k空間上のデータは、図2の201に示すように1ライン置きに埋められる。例えば、間引かないで計測して得られたデータに2次元フーリエ変換を施して再構成される画像が図2の202の場合、201の示すように埋められたk空間のデータから再構成される画像は図2の203のように倍速数回の折り返しが発生したものとなる。パラレルイメージング法では、このような折り返しが発生した画像に信号処理を施して折り返しを除去する。
【0022】
位相エンコードのステップ数が1/Nになるよう等間隔に間引いて計測を行った場合、上述したように、2次元フーリエ変換後の画像にはN回の折り返しが発生する。M個(M≧N)のRF受信コイルを用いてN倍速で位相エンコードのステップ数を間引いて計測を行うと、N回折り返しの発生した画像がM個取得できる。M個のRF受信コイルの感度分布を用いてN回の折り返し画像を展開し、折り返しを除去した1枚の画像を取得する。以下、展開の手法を説明する。
【0023】
x、y方向の画像マトリスク数をそれぞれX、Yとし、画像内の座標(x,y)(x:1≦x≦X,y:1≦y≦Y)の画素値をs(x,y)、i番目のRF受信コイルの感度をc(x,y)、同じく被検体の密度をp(x,y)とすると、間引きをしないで計測した場合は、画像を構成する各画素値s(x,y)は、以下の(式1)のように、被検体の磁化密度p(x,y)と、RF受信コイルの感度c(x,y)との積で表される。ここで、添え字iは、1≦i≦Mである。
【数1】

【0024】
一方、N倍速で位相エンコードのステップ数を間引いて計測した場合は、画像の位相エンコード方向のマトリクス数Δyは、Y/Nとなる。得られる画像を構成する各画素値s(x,y)は、以下の(式2)で表される。
【数2】

簡単に表現するために、(式3)に示す、画像内の画素値sの分布S、感度分布Cij、磁化密度分布P
【数3】

を用いて、(式2)を変形すると、
【数4】

と表される。(式4)はM個のRF受信コイルそれぞれについて同様に成り立つため、画素値の分布Sおよび被検体の磁化密度分布Pは、M行1列の、感度分布CijはM行N列の行列として、(式5)のように表すことができる。
【数5】

それぞれ、
【数6】

である。
【0025】
折り返しの無い画像は、すなわち、被検体の磁化密度分布Pである。(式6)より、被検体の磁化密度分布Pは、以下のように求められる。
【数7】

【数8】

である。ここで、Hは随伴行列、-1は逆行列を示す。
【0026】
このように、コイルの感度分布Cがわかれば、その随伴行列および逆行列を計算することにより被検体の磁化密度分布Pを得ることができる。従来のパラレルイメージング法では、これを利用し、コイルの密度分布Cを用い、折り返しを除去した画像を算出する。
【0027】
また、本実施形態では、特許文献1に記載されている技術同様、複数のスライスの計測を行い、そこで取得したそれぞれの感度画像用データから各RF受信コイルの感度分布を算出する。以下、複数のRF受信コイルでそれぞれ取得した複数のスライスの画像用データを処理することを前提に、本実施形態の信号処理部110の各機能について説明する。
【0028】
複素画像作成処理部111は、各RF受信コイルで取得した、スライス毎の、感度分布を作成するための感度画像用データから複素加算画像を作成する。具体的には、スライス毎の感度用画像データにそれぞれ2次元フーリエ変換を施し、感度画像を得る。各感度画像を各受信コイル毎にスライス方向に複素加算し、複素加算画像を得る。なお、スライス方向に加算とは、1のRF受信コイルで取得した各スライスの同じ位置の画素値を加算することである。
【0029】
マスク画像作成処理部112は、複素画像作成処理部111が生成した感度画像からマスク画像を作成する。具体的には、スライス毎の感度画像を各RF受信コイル毎にスライス方向に絶対値加算し、RF受信コイル毎の絶対値加算画像を得る。全てのRF受信コイルの絶対値加算画像を合成し、合成後の絶対値加算画像に対し、マスク画像作成処理を行い、マスク画像を作成する。マスク画像作成処理は、閾値処理により被検体領域を抽出し、抽出した被検体領域を1、その他の領域を背景領域として0とするなどの手法により画像を2値化する。この2値化された画像をマスク画像と呼ぶ。なお、マスク画像は、全RF受信コイルおよびスライス方向の加算分のスライスについて1つ作成される。
【0030】
感度分布作成処理部113は、複素画像作成処理部111が作成した複素加算画像にマスク画像作成処理部112が作成したマスク画像を乗算し、感度分布を作成する。具体的には、全RF受信コイルの複素加算画像を合成し、全体複素加算画像を得る。RF受信コイル毎の複素加算画像をそれぞれ全体複素加算画像で除算し、さらにマスク画像を乗算し、RF受信コイル毎の感度分布を得る。上述のように、マスク画像では背景領域が0であるため、得られる感度分布では、ノイズを含んだ背景部分の信号値は0となる。この結果、被検体領域のみの感度分布が作成できる。
【0031】
計測画像作成処理部114は、各RF受信コイルのスライス毎に、形態画像用データに2次元フーリエ変換を施し、倍速数回の折り返しのある計測画像を作成する。
【0032】
折り返し除去処理部115は、計測画像作成処理部114が作成した計測画像から、感度分布作成処理部113が作成した感度分布を用いて折り返しを除去する。折返しの除去は従来の手法を用い、RF受信コイルの感度分布の行列から随伴行列および逆行列を計算し、(式8)に従って結果画像を得る。
【0033】
以上説明した複素画像作成処理部111と、マスク画像作成処理部112と、感度分布作成処理部113と、計測画像作成処理部114と、折り返し除去処理部115とは、MRI装置100のメモリ(不図示)に格納されたプログラムを、信号処理部110を実現する演算装置が実行することにより実現される。
【0034】
次に、本実施形態の信号処理部110の上記各機能による折り返し除去処理の流れについて説明する。上述のように、本実施形態では、複数のRF受信コイルで、それぞれ、複数のスライスの計測を行い、感度画像用データと形態画像用データとをそれぞれ取得する。以下、本文中では、RF受信コイル数はM、各受信コイルでの取得スライス数はLとして説明する。M、Lは、それぞれ2以上の自然数である。
【0035】
図3は、本実施形態の折り返し除去処理の処理の流れを説明するための図である。本図では一例として2つのRF受信コイルで3スライス分の画像を撮像する場合、すなわち、M=2、L=3の場合の処理の流れを示す。すなわち、30111と30711、30121と30721、30112と30712、30122と30722、30113と30713、30123と30723は、それぞれ同一受信コイルによる同一スライスの感度画像用データおよび形態画像用データである。
【0036】
ここで、パラレルイメージング法において受信コイルの感度分布を取得する手法の代表的なものに、SCM法とPCM法とがある。PCM法は、受信コイルの感度分布の計測を、画像再構成用データを計測する本計測に先立って行う。一方、SCM法は、k空間の低空間周波数領域のみ、位相エンコードのステップ数を間引かずに計測を行い、本計測中に感度分布の計測を行う。なお、本実施形態では、いずれの方法で感度分布を取得しても構わない。
【0037】
まず、複素画像作成処理部111は、各RF受信コイルの各スライスで取得した感度画像用データ30111、30112、30113、30121、30122、30123に対してそれぞれ2次元フーリエ変換302を行い、感度画像30311、30312、30313、30321、30322、30323を得る。そして、複素画像作成処理部111は、得られた感度画像30311、30312、30313をマスク画像作成処理部112に受け渡すとともに、感度画像30311、30312、30313、30321、30322、30323を受信コイル毎にスライス方向に複素加算304し、複素加算画像305、305を得る。
【0038】
i(≦M)番目のRF受信コイルのl(≦L)番目のスライスの感度画像303ijの座標(x,y)の画素値の実部をrreal,i,l(x,y)、虚部をrimag,i,l(x,y)とすると、複素加算304した複素加算画像305の座標(x、y)の画素値の実部rreal,i,sum(x,y)および虚部rimag,i,sum(x,y)は以下の(式9)で得られる。
【数9】

【0039】
複素画像作成処理部111は、得られた複素加算画像305を感度分布作成処理部113に受け渡す。
【0040】
マスク画像作成処理部112は、複素画像作成処理部111から感度画像30311、30312、30313、30321、30322、30323を受け取ると、スライス方向に絶対値加算320を行い、絶対値加算画像321、321を得る。絶対値加算320により得られる絶対値加算画像321の座標(x、y)の画素値rabs,i,sum(x,y)は以下の(式10)のとおりである。
【数10】

【0041】
そして、マスク画像作成処理部112は、マスク画像作成処理323を行い、マスク画像324を得る。ここでは、まず、各受信コイルの絶対値加算画像321、321を合成し、合成画像を得る。このとき、合成画像の座標(x、y)の画素値rabs,sum(x,y)は、(式11)のとおりである。
【数11】

【0042】
そして、合成画像に対し、所定の閾値thによる閾値処理を行い、マスク画像324を得る。ここでは、マスク画像324の被検体領域を1、背景領域を0とすると、マスク画像324の座標(x、y)の画素値m(x,y)は、(式12)のとおりである。
【数12】

【0043】
マスク画像作成処理部112は、得られたマスク画像324を感度分布作成処理部113に受け渡す。
【0044】
次に、感度分布作成処理部113は、複素画像作成処理部111およびマスク画像作成処理部112からそれぞれ受け取った、複素加算画像305、305およびマスク画像324を用いて感度分布作成処理325を行い、RF受信コイル毎の感度分布326、326を得る。
【0045】
ここでは、感度分布作成処理部113は、まず、M個のRF受信コイルの複素加算画像305を合成し、全体複素加算画像rbody(x、y)を得る。全体複素加算画像の座標(x、y)の画素値rbody(x、y)は、(式13)のとおりである。
【数13】

そして、感度分布作成処理部113は、RF受信コイル毎の複素加算画像305を全体複素加算画像で除算し、さらにマスク画像324を乗算することにより、感度分布326を得る。感度分布326の座標(x、y)の値c(x、y)は(式14)のとおりである。
【数14】

ただし、jは虚数を示す。このように、本実施形態では、被検体領域のみで感度分布326を作成できる。
【0046】
感度分布作成処理部113は、得られた感度分布326を折り返し除去処理部115に受け渡す。
【0047】
一方、計測画像作成処理部114は、各受信コイルのスライス毎の形態画像用データ30711、30712、30713、30721、30722、30723にそれぞれ2次元フーリエ変換308を施し、各受信コイルのスライス毎の計測画像30911、30912、30913、30921、30922、30923を得る。計測画像作成処理部114は、得られた計測画像30911、30912、30913、30921、30922、30923を折り返し除去処理部115に受け渡す。
【0048】
折り返し除去処理部115は、感度分布作成処理部113から受け取った感度分布326から(式5)のように行列310を作成し、その随伴行列および逆行列を計算311し、(式8)に従って計測画像作成処理部114から受け取った各計測画像309に乗算することにより、折り返しを除去した結果画像312を得る。すなわち、30911、30921から312を、30912、30922から312を、30913、30923から312を、それぞれ得る。このとき、計測画像30911、30912、30913には感度分布326を、計測画像30921、30922、30923には感度分布326を用いる。すなわち、同一RF受信コイルの感度分布作成に用いた複数のスライスの感度画像と同一位置の各スライスの計測画像には同じ感度分布を用いる。
【0049】
以上、本実施形態の折り返し除去の手順を説明した。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、パラレルイメージング法において、感度分布作成用に取得した複数のスライスの感度画像を絶対値加算した画像からマスク画像を作成する。絶対値加算した画像においては、位相の変化が大きい領域を被検体領域に含む場合であっても、位相の変化により信号が打ち消しあうことがないため、被検体領域と背景領域とを精度良く分離できる。従って、本実施形態によれば、絶対値加算により位相差の影響を排除した画像からマスク画像を作成するため、被検体領域によらず、被検体領域のみ精度良く抽出できるマスク画像を得ることができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、感度分布作成には、感度画像を複素加算した複素画像に上記マスク画像を乗算したものを用いる。従って、本実施形態によれば、被検体領域によらず、S/N比が良く、かつ、背景領域等の低信号領域が効率的に除去された感度分布を得ることができる。そして得られた感度分布を用いて形態画像から折り返しを除去する。このため、精度良く折り返しの展開ができ、アーチファクトを除去できる。
【0052】
また、本実施形態では、同じ感度分布作成用に取得した複数スライスの感度画像から、感度分布のS/N比を向上させる複素画像と、低信号領域を除くための絶対値画像とを得るため、効率も良い。一方、複素画像を得るための複素加算と、マスク画像を作成するための絶対値加算とを独立して行うため、それぞれが影響を与えることはない。
【0053】
また、複数のスライスの各計測画像を、同位置の複数のスライスを用いて作成された1の感度分布により処理する。このため、感度分布の計算回数も少なくて済む。
【0054】
上記実施形態では、パラレルイメージング法を前提に記載したが、本発明の適用はこれに限られない。上述のように本実施形態によれば、複数の受信コイルを用いる撮影において、各受信コイルの精度の高い感度分布を得ることができる。従って、受信コイルの感度分布を用いる撮影一般に広く適用することができる。
【0055】
以下、上記の本実施形態の手順により得られたマスク画像が従来の手順によるものより優れている例を示す。図4は、本実施形態の手順により得られたマスク画像を、図5は、従来の手順により得られたマスク画像を説明するための図である。
【0056】
図4の画像401は各受信コイルの絶対値画像321を合成したものである。画像402はマスク画像作成処理323の結果得られた、マスク画像324である。画像402において、白い部分が抽出された被検体領域、黒い部分が背景領域である。本図に示すように、本実施形態の手順によれば、被検体領域と背景領域とが正確に分離できていることがわかる。比較のために、複素加算後の複素画像305を合成した画像に対し、マスク画像作成処理を行い、得られた結果を図5に示す。本図に示すように、画像402では被検体領域として抽出された画像中央の領域が、画像502では背景領域として認識されていることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態のMRI装置の構成の概略図である。
【図2】パラレルイメージング法による折り返しについて説明するための図である。
【図3】本実施形態の折り返し除去処理の処理の流れを説明するための図である。
【図4】本実施形態の手順で得られたマスク画像を説明するための図である。
【図5】従来の手順で得られたマスク画像を説明するための図である。
【符号の説明】
【0058】
100:MRI装置、101:被検体、102:磁石、103:傾斜コイル、104:照射コイル、105:受信コイル、106:ベッド、107:傾斜磁場電源、108:RF送信部、109:信号検出部、110:信号処理部、111:複素画像作成処理部、112:マスク画像作成処理部、113:感度分布作成処理部、114:計測画像作成処理部、115:折り返し除去処理部、120:表示部、130:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のRF受信コイルから成るマルチプル受信コイルと、前記マルチプル受信コイルを用いて、前記RF受信コイル毎の被検体の形態画像用データと前記RF受信コイル毎の感度画像用データとを1以上のスライス分計測する計測手段と、前記形態画像用データおよび前記感度画像用データからそれぞれ前記形態画像と前記感度画像とを再構成する信号処理手段と、を備える磁気共鳴イメージング装置であって、
前記信号処理手段は、
RF受信コイル毎の1以上のスライスの前記感度画像用データに基づき、RF受信コイル毎の画像を作成する画像作成手段と、
前記RF受信コイル毎の1以上のスライスの前記感度画像用データに基づき全RF受信コイルについての画像を合成し、被検体領域と背景領域とを分離するマスク画像を作成するマスク画像作成手段と、
前記RF受信コイル毎の画像に前記マスク画像を作用させ、前記RF受信コイル毎の感度分布を作成する感度分布作成手段と、
前記形態画像と前記感度分布とを用いて画像を生成する結果画像生成手段と、を備えること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記マスク画像作成手段は、前記RF受信コイル毎の1以上のスライスの前記感度画像用データを絶対値加算した絶対値画像を全RFコイルについて合成し、被検体領域と背景領域とを分離するマスク画像を作成すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御手段は、エンコードステップを間引くようにして前記形態画像用データを計測し、
前記結果画像生成手段は、前記RF受信コイル毎に、前記1以上のスライスそれぞれの形態画像と当該RF受信コイルの前記感度分布とから、前記形態画像の折り返しを除去する折り返し除去手段を備えること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像作成手段で用いる感度画像用データと、前記マスク画像作成手段で用いる感度画像用データとは、同一の感度画像用データであること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記感度画像用データは、前記形態画像用データの計測中に計測されるものであること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1から4いずれか1項記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記感度画像用データは、前記形態画像用データの計測に先立って計測されるものであること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−22319(P2009−22319A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185279(P2007−185279)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】