説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 検査中に被検体が動いて、撮像目的部位が設定済みのスライス位置からずれた場合でも、容易に位置修正を可能とする。
【解決手段】 予め取得された3次元画像データと、被検体が動いた後に撮像された画像の少なくとも一部のデータと、から、被検体が動く前のスライス位置を求め、その求めた被検体が動く前のスライス位置を撮像する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置において、被検体が動いた場合の撮像位置の設定に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生する核磁気共鳴(以下、NMRという)信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮像においては、NMR信号は、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
上記MRIを用いた検査では、1回の検査において、同一のスライス位置にて、複数のコントラスト画像を撮像し、それらを比較することで診断が行われる。例えば、脳ドックの場合、スライス位置決めの後、T1強調画像、T2強調画像、FLAIR(もしくは、プロトン密度画像)、T2*強調画像が同一スライス位置にて撮像される(例えば非特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】脳ドックのガイドライン2003 p.5、日本脳ドック学会発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、MRI装置における検査では、同一のスライス位置にて、複数のコントラスト画像が撮像される。この場合に問題となるのが、検査がある程度進行した状態で、被検体が動いた場合である。被検体が検査中に動くと、撮像目的部位が設定済みのスライス位置からずれてしまう。そのため、各コントラスト画像に写っている部位が異なり、診断に支障を来たすことになる。このような場合、従来では、操作者は、スカウト画像を撮り直して、被検体が動く前のスライス位置と同じになるようにスライス位置を合わせ直す必要がある。実際には、操作者の手動で、スライス位置を完全に同位置に合わせることは困難であるため、スカウト画像も含め、全コントラスト画像を撮り直すことも有り得る。
【0006】
そこで、本発明の目的は、MRI装置において、検査中に被検体が動いて、撮像目的部位が設定済みのスライス位置からずれた場合でも、容易に位置修正を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のMRI装置は、予め取得された3次元画像データと、被検体が動いた後に撮像された画像の少なくとも一部のデータと、から、被検体が動く前のスライス位置を求め、その求めた被検体が動く前のスライス位置を撮像することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のMRI装置によれば、検査中に被検体が動いて、撮像目的部位が設定済みのスライス位置からずれた場合でも、容易に位置修正が可能となる。そのため、従来必要であった、スカウト画像の撮り直しや、スライス位置の再設定を行うことなく、被検体が動く前のスライス位置で撮像できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0010】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体101の断層画像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生磁石102と、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109と、送信RFコイル104及びRF送信部110と、受信RFコイル105及び信号検出部106と、信号処理部107と、計測制御部111と、全体制御部108と、表示・操作部113と、被検体101を搭載してその被検体101を静磁場発生磁石102の内部に出し入れするベッド112と、を備えて構成される。
【0011】
静磁場発生磁石102は、垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0012】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれ後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzが発生する。撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0013】
送信RFコイル104は、被検体101に高周波磁場(以下、RFという)パルスを照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴が誘起される。具体的には、RF送信部110が、後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスを振幅変調し、増幅した後に被検体101に近接して配置された送信RFコイル104に供給することにより、RFパルスが被検体101に照射される。
【0014】
受信RFコイル105は、被検体101の生体組織を構成する原子核スピンのNMR現象により放出されるエコー信号(NMR信号)を受信するコイルであり、信号検出部106に接続されて受信したエコー信号を信号検出部106に送る。信号検出部106は、受信RFコイル105で受信したエコー信号の検出処理を行う。具体的には、RF送信コイル104から照射されたRFパルスによって誘起された被検体101の応答のエコー信号が被検体101に近接して配置された受信RFコイル105で受信され、後述の計測制御部111からの命令に従って、信号検出部106が、受信したエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば128,256,512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換し、後述の信号処理部107に送る。 従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、エコーデータという)として得られる。
【0015】
計測制御部111は、被検体101の断層画像の再構成に必要なデータ収集のための種々の命令を、主に、傾斜磁場電源109と、RF送信部110と、信号検出部106に送信してこれらを制御する制御部である。具体的には、計測制御部111は、後述する全体制御部108の制御で動作し、ある所定のパルスシーケンスに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号検出部106を制御して、被検体101へのRFパルスと傾斜磁場パルスの印加及び被検体101からのエコー信号の検出を繰り返し実行し、被検体101の断層画像の再構成に必要なエコーデータを収集する。
【0016】
全体制御部108は、計測制御部111の制御、及び、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等の制御を行うものであってCPU及びメモリを内部に有する演算処理部と、光ディスク、磁気ディスク等の記憶部とを有して成る。具体的には、計測制御部111を制御してエコーデータの収集を実行させ、信号処理部107からのエコーデータが入力されると、演算処理部が信号処理、フーリエ変換による画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の断層画像を、後述の表示・操作部108に表示させると共に記憶部に記録する。
【0017】
表示・操作部113は、被検体101の断層画像を表示するディスプレイと、MRI装置の各種制御情報や上記全体制御部108で行う処理の制御情報を入力するトラックボール又はマウス及びキーボード等の操作部と、から成る。この操作部はディスプレイに近接して配置され、操作者がディスプレイを見ながら操作部を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0018】
なお、図1において、送信側のRF送信コイル104と傾斜磁場コイル103は、被検体101が挿入される静磁場発生磁石102の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体101に対向して、水平磁場方式であれば被検体101を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の受信RFコイル105は、被検体101に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0019】
現在のMRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0020】
上記のようなMRI装置における典型的な撮像は計測制御部111の制御の下に次の様に行われる。即ち、所定のパルスシーケンスに基づいて、被検体101に、スライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加された状態でRFパルスが照射されることにより所望のスライス領域にNMR現象が誘起される。次に、発生したエコー信号に位相エンコード傾斜射場(Gp)と周波数エンコード傾斜磁場(Gf)が印加されて、RF受信コイル105で受信され、信号検出部106で受信されたエコー信号が検出されてエコーデータとされ、そのエコーデータが演算処理部のメモリに記憶される。この操作が、位相エンコード傾斜磁場の印加量(傾斜磁場波形と時間軸との囲む面積)を変えて、所定回数(例えば、128,256,512等)繰り返される。これにより2次元断層像の画像再構成に必要な所定数(例えば、128X128, 128X256, 256X256,256X512, 512X512等)のデータが取得される。
【0021】
(第1の実施形態)
次に、本発明のMRI装置の第1の実施形態を説明する。本実施形態は、被検体が動いた後に撮像された画像上で設定されたROI内データと3次元画像データとのマッチングを行い、被検体が動く前のスライス位置を求め、その求めたスライス位置を撮像する。以下、図2,3に基づいて本実施形態を説明する。
【0022】
図2は、3つのスカウト画像(スカウトAX201,スカウトSAG202,スカウトCOL203)を用いて位置決めを行い、診断用としてT1強調画像(211)、T2強調画像(212)、FLAIR(213)の順で撮像する場合を示す。そして、T1強調画像とT2強調画像の撮像完了した時点で被検体が動き、最後のFLAIR画像213は、スカウト画像上で設定したスライス位置で撮像できなかった場合を示している。
【0023】
このような場合であっても本実施形態では、FLAIR画像213のスライス位置を、T1強調画像211、T2強調画像212のスライス位置に合わせるために、スカウト画像の撮り直し、および、再位置決めは行わない。その代わりに、被検体が動いた後に取得された画像(この例では、FLAIR画像213)と、予め取得された3次元画像データ(以下、3Dデータ)301を用いて、被検体が動いた量を算出し、被検体の動き分だけスライス位置を調整し、調整されたスライス位置の画像(この例ではFLAIR画像303)を撮像する。
【0024】
以下に、スライス位置調整方法の具体的処理内容を図3に示すフローチャートに基づいて説明する。本処理はプログラムとして記憶部に記憶されており、必要に応じて演算処理部のCPUがメモリに読み出して実行することにより実施される。
【0025】
ステップ311で、操作者は、被検体が動いたと判断される画像213を選択する。操作者は、撮像された全ての画像(211〜213)を見比べて、被検体が動いて撮像された画像213(この例ではFLAIR画像)を選択する。
【0026】
ステップ312で、操作者は、表示・操作部113のトラックボール又はマウスを操作して、被検体が動いたと判断した画像213上でその特徴部位(例えば、頭部であれば脳室など)を内部に含む様にROI302を設定する。
【0027】
ステップ313で、CPUは、ステップ312で設定されたROI302内の画像パターンを抽出し、この抽出した画像パターンを、被検体が動く前に取得された3Dデータ301内で検索し、3Dデータ301内で一致するスライス位置を検索する。なお、ここで使用する3Dデータ301は、RF受信コイルの感度補正やパラレルイメージングの展開処理に使用する等の目的で、あらかじめ取得されたものを用いる。そのため、スライス位置調整のために新たな3Dデータを取得する必要は無い。
【0028】
ステップ314で、ステップ313における3Dデータ301内でROI302内の画像パターンの検索が行われた結果、一致するスライス位置が見つかれば、CPUは、被検体が動いたことによる、最初に設定されたスライス位置の位置ずれ量、つまり被検体が動いたことによる、一連の診断画像の撮像前に設定されたスライス位置の移動量及び回転量を算出する。
【0029】
ステップ315で、CPUは、ステップ314で取得したスライス位置ずれ量に基づいて、被検体が動く前の位置を再撮像するように、最初に設定されたスライス位置を調整する。具体的には、被検体が動いたことによる最初に設定されたスライス位置の移動量に基づいて、調整後のスライス位置の静磁場中心の法線ベクトル成分、法線距離及びFOVのOff-Center量を求め、被検体が動いたことによる最初に設定されたスライス位置の回転量から調整後のスライス位置の法線の(静止座標系における)方向ベクトルを求める。
【0030】
ステップ316で、CPUは、計測制御部111に、スライス位置調整した位置のスライスを、被検体が動いた画像と同じコントラスト種となる撮像条件での撮像を指示し、計測制御部111は指示された撮像条件でスライス位置調整されたスライスを撮像する。具体的には、CPUは、調整後のスライス位置の静磁場中心の法線距離に応じて照射パルスの周波数を設定し、調整後のスライス位置の静磁場中心からの法線距離に応じてスライス位置のオブリーク角度を求め、このオリーブ角度に応じて、各方向の傾斜磁場(Gx,Gy,Gz)を求め、調整後のスライス位置のFOVのOff-Center量に応じて、エコー信号の検波周波数及び位相エンコード方向の位相回転量を求め、スライス面の方向ベクトル(Row,Col)からスライスの面内回転量を求める。そして、CPUは、求めたこれらの値を計測制御部111に指示して、調整されたスライス位置を撮像させる。これにより、被検体が動く前のT1強調画像211、T2強調画像212と同位置のFLAIR画像303が得られる。
【0031】
以上までが、スライス位置調整方法の具体的処理フローの概要である。以上の処理により、調整後のスライス位置で取得されたFLAIR画像303は、被検体が動く前に取得されたT1強調画像211、T2強調画像212と、撮像対象のスライス位置及び表示された画像の位置関係とが一致することになる。
【0032】
次に、ROI302内の画像パターンを3Dデータ301内で検索するステップ313の詳細を図4に示すフローチャートに基づいて以下説明する。
【0033】
ステップ421で、前述のステップ312で、被検体が動いた後のFLAIR画像213上にROI302が設定されると、CPUは、被検体が動く前に取得された3Dデータ301内で、ROI302と同じ位置情報を持つ位置にROI412を設定する。ここで、FLAIR画像213のスライス位置は、スライス面内の1点(Pos1)と、2方向の単位ベクトル(Row1,Col1)で定義できる。Pos1、Row1、Col1は、撮像時に既に指定済みである。また、ROI302はFLAIR画像213のスライス面内にあるため、ROI302内の1点(Pos1')とROI302のサイズ(FOVr1,FOVr2)を指定すれば、FLAIR画像213と同じ2つの単位ベクトル(Row1,Col1)を用いてROI302を定義できる。したがって、これらのPos1',FOVr1,FOVr2、及びRow1,Col1とを用いて、FLAIR画像213上で設定されたROI302と同じROI412及びそのROI412を含むスライス位置411を3Dデータ303内に容易に設定可能となる。Pos1'、FOVr1、FOVr2は、操作者がディスプレイに表示されたUI上でマウスやキーボード入力によって設定する。この状態では、ROI302とROI412の位置情報は一致しているが、被検体の位置が異なるため、両ROI内の画像は異なっている。
【0034】
ステップ422で、CPUは、被検体が動く前の画像であるROI412を3Dデータ301内で平行移動と回転移動させて移動させながら、移動後のROI412内画像パターンと被検体が動いた後の画像データであるROI302内画像パターンとのマッチングを繰り返し行い、一致するスライス位置を検索する。ROI内画像パターンの一致判定には、相関計算や残差計算(いずれも詳細は後述する)などが用いられる。一致判定の計算は、ROI412の3Dデータ301内での平行移動と回転移動の度に実行され、一致度合いが高いと判定される方向に移動方向を絞り込みながらマッチングが繰り返される。
【0035】
ステップ423で、CPUは、相関計算や残差計算により、ROI302とROI412の画像パターンが一致するROI413が見つかったら、そのROI413を含むスライス位置403を調整後のスライス位置とする。
【0036】
以上までがROI302内の画像パターンを3Dデータ301内で検索するステップ313の詳細である。
【0037】
次に、前述のステップ422における相関計算の処理フローの一例を図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0038】
ステップ520で、CPUは、図4に示したROI302と3Dデータ301内のROI412それぞれで、x方向、もしくは、y方向の信号値プロファイルを取得する。図5の501,511は、それぞれROI302とROI412のy方向に信号値プロファイルを取得する位置を示す。また、501,511の信号値プロファイルをそれぞれ502,512とする。
【0039】
ステップ521で、CPUは、得られた2つの信号値プロファイルを、(y1,y2)={(y1i,y2i)}(i=1,2,・・・n、nはライン数)とすると、2つの信号値プロファイルの相関係数を(1)式のように計算する。





ステップ522で、CPUは、隣接するラインでも同様の処理を行い、ROI内の全ラインで相関係数を算出する。図5に示す例では、ROI内の全x方向ラインについて、ステップ520〜521の処理が繰り返される。
【0040】
ステップ523で、CPUは、全ライン分(nライン分)の相関係数が算出されたら、それらの平均値を求める。
【0041】
ステップ524で、CPUは、ステップ523で求めた平均値と、検索用画像(3Dデータからの切り出し画像)のスライス位置情報と、を共に記憶部に保存する。
【0042】
ステップ525で、CPUは、ステップ520〜524を、ステップ527で検索用画像のスライス位置を変更して、繰り返し実行し、3Dデータ301内の全ての位置を探索する。
【0043】
ステップ526で、CPUは、全検索が終了したら、ステップ524にて保存した相関計数の平均値の中で、最大値となるスライス位置を、両ROI内の画像パターンが、最も一致したスライス位置と判定する。
【0044】
以上までが、相関計算の処理フローの一例の概要である。なお、本例は、y方向の信号値プロファイル間の相関係数演算をx方向に繰り返す例をであったが、x方向の信号値プロファイル間の相関係数演算をy方向に繰り返してもよい。
【0045】
次に、前述のステップ422における残差計算の処理フローの一例を図6に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0046】
ステップ601で、CPUは、図4に示したROI302と、3Dデータ301内のROI412の画素値を、それぞれ(x1i,y1j)、(x2i,y2j) (i=1,2,・・・,n:nはx方向のROI内画素数、j=1,2,・・・,m:mはy方向のROI内画素数)とすると、(x1i-x2i,y1j-y2j)で表すことができる差分画像を作成する。
【0047】
ステップ602で、CPUは、ステップ601で作成した差分画像の全画素の平均画素値を算出する。
【0048】
ステップ603で、CPUは、ステップ602で算出した平均画素値を、検索用画像のスライス位置と共に記憶部に保存する。
【0049】
ステップ604で、CPUは、ステップ601〜603の処理を、ステップ606で検索用画像のスライス位置を変更しながら繰り返し実行し、3Dデータ301内の全ての位置を探索する。
【0050】
ステップ605で、全検索が終了したら、CPUは、ステップ603にて保存した平均画素値の中で、最小値となるスライス位置を、両ROI内の画像パターンが、最も一致したスライス位置と判定する。
【0051】
以上までが、残差計算の処理フローの一例の概要である。
【0052】
なお、前述の相関計算と残差計算は、ROI内画像の画素値をそのまま用いて計算を行う例であったが、比較する画像が、必ずしも同じコントラスト画像とは限らない。コントラストの違いが計算結果に影響を及ぼさないよう、相関係数や残差を計算する前に、画像データに二値化などの前処理を入れることも可能である。二値化処理は、例えば一般的な固定閾値による二値化などを用いることができる。閾値(t)には、画像内の全画素の平均画素値やヒストグラムの谷となる値などを用いることができる。二値化の一例として、i軸、j軸からなる空間内で、ある画素の画素値をf(i,j)とした場合、二値化後の画素値f'(i,j)は、(2)式で表される。



【0053】
以上までが本発明のMRI装置の第1の実施形態の説明である。本実施形態のMRI装置によれば、ROIで設定された画像の特徴的部分で3Dデータ内を検索するので、検索精度を向上させることができる。そのため、スライス位置調整の精度を向上させることができ、検査中の被検体の動きによらずに、同じ撮像部位についての複数のコントラスト画像を撮像することが可能になる。その結果、従来必要であった、スカウト画像の撮り直しや、スライス位置の再設定を行うことなく、被検体が動く前のスライス位置で撮像できることになる。
【0054】
(第2の実施形態)
次に、本発明のMRI装置の第2の実施形態を説明する。前述の第1の実施形態は、被検体が動いた後に撮像された画像に設定されたROIの画像パターンを用いて、被検体が動く前のスライス位置検索を行う例であったが、本実施形態は、ROIの設定を行うことなく、被検体が動いた後に撮像された画像を用いて被検体が動く前のスライス位置検索を行う。以下、前述の第1の実施形態と異なる点のみを図7に示す本実施形態の処理フローを用いて説明し、同一の点についての説明は省略する。(a)は残差計算を用いる場合の処理フローを、(b)は相関計算を用いる場合の処理フローを、それぞれ示す。
【0055】
本実施形態でも、前述の第1の実施形態と同様に、スライス位置の検索は、図4に示す被検体が動いた後の画像213と3Dデータ301からの切り出し画像411とで行う。また、本実施形態では、操作者によるROI設定が無い。つまり、画像パターンのマッチング処理を行いやすい特徴的な領域としてのROIの、操作者による意図的な選択を行わない。以下、図7の処理フローを各処理ステップ毎に説明する。
【0056】
ステップ700で、CPUは、必要に応じて、後述するマッチング処理の精度を向上させるために、例えば、予め画像213と411に輪郭強調処理710を行い、両画像内の被検体形状を認識しやすい状態にする。輪郭強調の必要がなければ、このステップを省略しても良い。
【0057】
輪郭強調は、一般的なフィルタ処理によって行うことができる。一例として、2×2マスクの微分フィルタの場合を示す。i軸、j軸からなる空間内で、ある画素の画素値をf(i,j)とした場合、i、j両方向のフィルタ処理後の画素値gi(i,j)、gj(i,j)は(3)式で表すことができる。



gi(i,j)、gj(i,j)を用いて、フィルタ処理後の新たな画素値は(4)式で定義する。

【0058】
ステップ701で、CPUは、ステップ700で輪郭強調処理した画像213と411を用いて、前述の第1の実施形態と同様に、(a)図6の残差計算によるマッチング、又は、(b)図5の相関計算によるマッチングなどを行い、3Dデータ301内で被検体が動いた後に撮像されたFLAIR画像と同じスライス位置を検索する。
【0059】
ステップ702で、CPUは、図3に示す前述の第1の実施形態のステップ314以降の処理を行い、スライス位置調整した位置のスライス位置の再撮像を行う。
【0060】
以上までが本実施形態の処理フローの概要である。本実施形態のMRI装置によれば、前述の第1の実施形態と比較して、ROIを設定する処理が無いので、スライス位置調整が簡略化される。そのため、操作者の負担を軽減しつつ、検査中の被検体の動きによらずに、同じ撮像部位についての複数のコントラスト画像を撮像することが可能になる。
【0061】
(第3の実施形態)
次に、本発明のMRI装置の第3の実施形態を説明する。前述の第1,2の実施形態は、被検体が動いた後の診断用画像(これまでの例ではFLAIR画像)を見て、被検体が動いたことを認識し、スライス位置調整、および、再撮像を行う場合であった。しかし、診断用画像を撮像する前に、インルームモニタ等で被検者が動いたことを認知できた場合、診断用画像を撮像する必要は無い。そこで本実施形態は、撮像時間の長い診断用画像の代わりに、数秒で撮像可能なスカウト画像を撮像し、このスカウト画像と予め取得しておいた3Dデータとのマッチングを行う。以下、前述の第1、2の実施形態と異なる点のみを図8,9を用いて説明し、同一の点についての説明は省略する。
【0062】
図8は、3つのスカウト画像(スカウトAx801、スカウトSAG802、スカウトCOL803)を用いてスライス位置調整し、T1強調画像811、T2強調画像812まで撮像が完了した状態し、この時点で、インルームモニタ等で被検体が動いたことを、操作者が認識したとする。そのまま撮像すると、T2強調画像の次の画像(例えばFLAIR画像)は、異なる部位が写った画像となる。そこで本実施形態は、被検体が動いた後には診断画像を撮像せずにスカウト画像を撮像して、このスカウト画像を用いてスライス位置調整を行い、調整されたスライス位置の撮像を行う。以下、図9に示すフローチャートを用いて本実施形態の処理フローにおける各処理ステップを詳細に説明する。
【0063】
ステップ911で、操作者は、インルームモニタ等で被検体が動いたことを認識する。
【0064】
ステップ912で、操作者は一連の診断画像の撮像を中止し、スカウト画像813の撮像を行うため、表示・操作部113のキーボード等を介してスカウト画像813の撮像を起動する。そこで、CPUは、計測制御部111に指示して、スカウト画像813を撮像させる。第1,2の実施形態の説明で示したように、スライス位置検索には、相関計算や残差計算を用いるため、比較する画像は、同じコントラスト画像であることが望ましい。そこで、スライス位置調整用のスカウト画像813は、比較対照である予め取得された3Dデータ301と同じコントラスト画像となるような撮像条件で撮像される。
【0065】
ステップ913で、CPUは、スライス位置調整用のスカウト画像813が取得されたら、3Dデータ301内でスライス位置検索を行う。このとき、前述の第1の実施形態で説明したように、特徴部位にROI902を設定して、ROI内画像パターンを用いてスライス位置検索することも可能である。また、前述の第2の実施形態で説明したように、ROIを設定せずに、スカウト画像を用いたスライス位置検索も可能である。
【0066】
ステップ914で、CPUは、ステップ912のスライス位置検索の結果に基づいて、被検体の位置ずれ量を算出する。
【0067】
ステップ915で、CPUは、ステップ914で算出された被検体の位置ずれ量に基づいて、図3に示す前述の第1の実施形態の処理ステップ315及び316の各処理を行う。これにより、被検体が動く前のT1強調811、T2強調画像812と同位置のFLAIR画像903が得られる。
【0068】
以上までが本実施形態の処理フローの概要である。
【0069】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置によれば、前述の第1、2の実施形態と比較して、被検体が動いた後の診断画像を撮像することなく、診断画像の撮像時間より短い時間でスカウト画像を撮像し、このスカウト画像を用いてスライス位置調整を行うので、検査中の被検体の動きによらずに、同じ撮像部位についての複数のコントラスト画像を、より短時間で、撮像することが可能になる。
【0070】
(第4の実施形態)
次に、本発明のMRI装置の第4の実施形態を説明する。前述の各実施形態は、自動的に被検体が動く前のスライス位置に合わせて撮像を実行したが、本実施形態は、スライス位置検索課程で、3Dデータ301から切り出された複数のスライス位置の画像をディスプレイ上にそれぞれ表示し、それらの画像の内から選択された画像と同じスライス位置を撮像する。以下、前述の各実施形態と異なる点のみを図10を用いて説明し、同一の点についての説明は省略する。
【0071】
検査用画像の撮像が終了すると、取得された各コントラスト画像(T1強調画像(T1W)1011,T2強調画像(T2W)1012,FLAIR画像1013)がディスプレイ1001上の、結果画像表示エリア1002に表示される。これらの画像を操作者が確認し、スライス位置を調整して撮り直したい画像を選択する(本例では、1013のFLAIR画像が選択される)。操作者が画像を選択すると、CPUは、前述の第1,2実施形態と同様に、3Dデータ301内で一致するスライスを検索する。その際、CPUは、3Dデータ301から切り出されて、マッチング処理に用いられた各画像をディスプレイ上のマッチング画像表示エリア1003に表示させる。画像表示エリア1003内には、マッチング処理の結果、一致している確率が高い画像を中心にして各画像が表示される。操作者は、マッチング画像表示エリア1003内の画像から、FLAIR画像1013と最も一致している切り出し画像1004を選択し、再撮像スタートボタン1005を押す。これにより、CPUは、図3に示す前述の第1の実施形態におけるステップ314以降の処理を行うことにより、計測制御部111に調整されたスライス位置を撮像させる。撮像が完了すると、結果表示エリア1006に撮り直した画像(この場合はFLAIR画像)が表示される。
【0072】
以上までが本実施形態の処理フローの概要である。本実施形態のMRI装置によれば、操作者により、3Dデータからの切り出し画像の内から、被検体が動いた後に撮像された画像と一致する画像が選択されるので、被検体が動く前のスライス位置検索を確実に行うことが可能になる。その結果、検査中の被検体の動きによらずに、より高い精度で、同じ撮像部位についての複数のコントラスト画像を撮像することが可能になる。
【0073】
以上までが、本発明のMRI装置における、検査中の被検体の動きによらずに、同じ撮像部位についての複数のコントラスト画像を撮像する各実施形態の説明である。しかし、本発明のMRI装置は、上記各実施形態の説明で開示された内容にとどまらず、本発明の趣旨を踏まえた上で他の形態を取り得る。
【0074】
例えば、被検体の動きの検出は、インルームモニタに限らず、周知のナビゲータエコーや、体動検出センサを被検体の腹部等に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を示すブロック図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係り、T1強調画像とT2強調画像の撮像完了した時点で被検体が動き、最後のFLAIR画像は、スカウト画像上で設定したスライス位置で撮像できなかった場合を示す図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係り、スライス位置調整方法の具体的処理内容を示すフルーチャート。
【図4】ROI302内の画像パターンを3Dデータ301内で検索するステップ313の詳細を示すフローチャート。
【図5】相関計算の処理フローの一例を示すフローチャート。
【図6】残差計算の処理フローの一例を示すフローチャート。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る処理内容を示すフルーチャート。
【図8】本発明の第3の実施形態に係り、T1強調画像811、T2強調画像812まで撮像が完了した状態した時点で、被検体が動いたことを操作者が認識し、スカウト画像を撮像する場合を示す図。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る処理内容を示すフルーチャート。
【図10】本発明の第4の実施形態に係るディスプレイ表示の一例を示す図。
【符号の説明】
【0076】
101 被検体、102 静磁場発生磁石、103 傾斜磁場コイル、104 送信RFコイル、105 受信RFコイル、106 信号検出部106、107 信号処理部、108 全体制御部、109 傾斜磁場電源、110 RF送信部、111 計測制御部、112 ベッド、113 表示・操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を撮像して画像の再構成に必要なエコーデータを取得する計測制御部と、前記エコーデータを用いて前記被検体の画像を再構成する演算処理部と、前記画像を表示する表示部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算処理部は、予め取得された3次元画像データと、前記被検体が動いた後に撮像された画像の少なくとも一部のデータと、から、前記被検体が動く前のスライス位置を求め、
前記計測制御部は、前記被検体が動く前のスライス位置を撮像することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算処理部は、前記被検体が動いた後に撮像された画像上で設定されたROI内データと前記3次元画像データとのマッチングを行い、前記被検体が動く前のスライス位置を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算処理部は、前記被検体が動いた後に撮像された画像をフィルタ処理し、該フィルタ処理された画像と前記3次元画像データとのマッチングを行い、前記被検体が動く前のスライス位置を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記計測制御部は、前記被検体が動いた後に撮像された画像として、前記3次元画像データと略同一のコントラスト画像となる撮像条件でスカウト画像を撮像することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記演算処理部は、前記3次元画像データから複数の画像を切り出し、
前記表示部は、前記切り出された複数の画像をそれぞれ表示し、
前記計測制御部は、前記複数の画像の内から選択された画像と同じスライス位置の撮像を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−57532(P2010−57532A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223151(P2008−223151)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】