説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】適切にTIを設定したIR法によるイメージングによって心臓等の撮像部位における有用な診断情報を得ることが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、算出手段及びイメージング手段を備える。算出手段は、反転回復法の異なる複数の反転時間に対応する被検体の複数の画像データ又は複数の磁気共鳴信号を解析することによって、イメージング用の反転時間を算出する。イメージング手段は、前記イメージング用に算出された前記反転時間で前記反転回復法による前記イメージングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する磁気共鳴(MR: magnetic resonance)信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
MRIによる心臓の形態撮像法として、遅延造影撮像(DE: Delayed Enhancement 又は LGE: Late Gadolinium Enhancement)法が知られている。遅延造影撮像法は、造影剤を被検体に注入して所定の遅延時間後にイメージングを行う撮像法である。
【0004】
心臓の遅延造影撮像では、イメージング用のMRデータの収集に先だって静磁場下における心臓の縦磁化Mzを180°反転させて負値とする180°反転回復(IR: inversion recovery)パルスが印加される。そして、IRパルスの印加後、縦緩和(T1緩和)によって心筋部分における縦磁化がゼロ付近となるタイミングでイメージングデータが収集される。このIRパルスの印加時刻からイメージングデータの収集のために印加される90°RFパルスまでの時間は、反転時間(TI: inversion time)と呼ばれる。すなわち、TIが心筋における縦磁化がゼロとなるタイミングに設定され、心筋の組織からの信号が抑制される。
【0005】
また、心臓の遅延造影撮像において、被検体に投与された造影剤が正常な心筋に流入すると10〜15分程度で心筋からウォッシュアウトされる。このため、造影剤投与から10〜15分経過後の正常な心筋の組織内では、造影剤の残留量が少なくなる。これに対し、心筋梗塞等の病変部に流入した造影剤は、10〜15分経過してもウオッシュアウトされずに心筋組織内に残留する。
【0006】
また、心筋梗塞部位の縦緩和時間(T1)は、造影剤の効果によって正常な心筋組織におけるT1よりも短くなる。従って、造影剤投与から10〜15分経過後においてイメージングデータが収集されるようにTIを設定すると、縦磁化が正の値となるまで回復した心筋梗塞部位から収集されるMR信号の強度は、正常な心筋から収集されるMR信号の強度よりも大きくなる。特に、TIを心筋における縦磁化がゼロに近いタイミングでイメージングデータが収集されるように設定すると、正常な心筋から収集されるMR信号の強度がゼロ程度となり、心筋梗塞部位を高信号部として明瞭に描出することができる。
【0007】
従って、正常な心筋と心筋梗塞部位の明瞭なコントラストを得るためには、イメージングデータの収集タイミングにおいて心筋における縦磁化がゼロ付近となるようなTIを正確に求めることが重要となる。
【0008】
そこで、TIを変えて複数フレーム分の画像データを収集するプレスキャンをイメージングスキャンに先だって行い、プレスキャンにより収集された異なるTIに対応する複数の画像に基づいて適切なTIを求めるTI-Prep法が提案されている。TI-Prep法では、異なるTIに対応する複数の画像が表示され、ユーザが目視により心筋における信号強度が最も低下した画像を選択することにより、適切なTIを求めることができる。すなわち、心筋における信号強度が最も小さい画像に対応するTIが適切なTIとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−24637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
心臓の遅延造影撮像に代表されるように、IR法によるイメージングでは、TIを精度良く設定することが重要である。特に、画像信号の絶対値を用いたIRイメージングの場合には、サンプリングされる信号が離散的であるのに対して、信号の最小値が理論的には1点となるため、TIの最適設定が重要な課題である。そして、適切にTIを設定したイメージングによって、より有用な診断支援情報を得ることが望まれる。
【0011】
本発明は、適切にTIを設定したIR法によるイメージングによって心臓等の撮像部位における有用な診断情報を得ることが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、算出手段及びイメージング手段を備える。算出手段は、反転回復法の異なる複数の反転時間に対応する被検体の複数の画像データ又は複数の磁気共鳴信号を解析することによって、イメージング用の反転時間を算出する。イメージング手段は、前記イメージング用に算出された前記反転時間で前記反転回復法による前記イメージングを行う。
また、本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、算出手段及び物質特定手段を備える。算出手段は、反転回復法の異なる複数の反転時間に対応する複数の画像データ又は複数の磁気共鳴信号を用いたカーブフィッティングにより得られる曲線の式を算出する。物質特定手段は、前記カーブフィッティングにより得られるT1値、前記曲線の値がゼロとなるときの反転時間、前記曲線の形状及び前記T1値に基づいて推定される物質情報の少なくとも1つを表示装置に表示させる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図。
【図2】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図2に示す撮像条件設定部において設定されるプレスキャン用のIRシーケンス及びイメージングスキャン用のIRシーケンスを示す図。
【図4】図2に示すデータ処理部において設定されるROIの一例を示す図。
【図5】図2に示すデータ処理部におけるイメージングスキャン用のTIoptの第1の決定方法を説明する図。
【図6】図2に示すデータ処理部におけるイメージングスキャン用のTIoptの第2の決定方法を説明する図。
【図7】図1に示す磁気共鳴イメージング装置20によりIR法によるイメージングを行う際の流れを示すフローチャート。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置によるイメージングの流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
【0016】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
【0017】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
【0018】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0019】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0020】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0021】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0022】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0023】
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0024】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
【0025】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0026】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0027】
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
【0028】
尚、拍動を心拍情報として表すECG信号の代わりに拍動を脈波情報として表す脈波同期(PPG: peripheral pulse gating)信号を取得することもできる。PPG信号は、例えば指先の脈波を光信号として検出した信号である。PPG信号を取得する場合には、PPG信号検出ユニットが設けられる。以下、ECG信号を取得する場合について述べる。
【0029】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0030】
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0031】
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40及びデータ処理部41として機能する。また、記憶装置36は、k空間データ記憶部42及び画像データ記憶部43として機能する。撮像条件設定部40は、マルチTI設定部40A及びIRシーケンス設定部40Bを有する。データ処理部41は、フィッティング部41A、物質特定情報取得部41B及び画像生成部41Cを有する。
【0032】
撮像条件設定部40は、IR法によるイメージングを行うためのIRシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する機能を有する。特に、撮像条件設定部40は、イメージングスキャン用の撮像条件に加え、イメージングスキャンに先だって、IRパルスの印加タイミングを決定するためのプレスキャン用のデータ収集条件を設定する機能を備えている。
【0033】
プレスキャン用のデータ収集条件は、IRシーケンスにより180°IRパルスの印加時刻からMRデータ収集用のα°RFパルスの印加時刻までのTIを変えて複数フレーム分の画像データの生成に必要なMRデータを収集する条件とされる。
【0034】
また、心臓のイメージングや血流のイメージングのように拍動の影響により動きや移動を伴う対象のイメージングを行う場合には、ECGユニット38から取得したECG信号に同期してデータが収集される。一方、脳脊髄液(CSF: cerebrospinal fluid)や末端の血流のように周期性のない流体及び動きのない臓器をイメージングする場合には、同期は不要である。
【0035】
一方、イメージングスキャン用の撮像条件としては、着目する部位が高信号として描出される一方、他の部分については信号が抑制されるようなTIのIRシーケンスが設定される。例えば、心臓の遅延造影イメージングを行う場合には、正常な心筋組織からの信号が抑制され、梗塞部位が高信号部として描出されるようなTIでIRシーケンスが設定される。また、非造影の血流イメージングを行う場合には、背景からの信号が抑制され、血流部分が高信号部として描出されるようなTIでIRシーケンスが設定される。
【0036】
そして、イメージングスキャン用の適切なTIが、後述するデータ処理部41において、プレスキャンによって収集されたデータに基づいて決定される。
【0037】
ここでは、正常な心筋組織からの信号を抑制し、梗塞部位を高信号部として描出する心臓の遅延造影イメージングをECG同期下において行う場合を例に説明する。
【0038】
マルチTI設定部40Aは、プレスキャン用のIRシーケンスを設定するための互いに異なる複数のTIを設定する機能を有する。
【0039】
IRシーケンス設定部40Bは、マルチTI設定部40Aにおいて設定された複数のTIを用いてプレスキャン用のIRシーケンスを設定する機能と、フィッティング部41Aにおいて算出されたTIを用いてイメージングスキャン用のIRシーケンスを設定する機能とを有する。
【0040】
図3は、図2に示す撮像条件設定部40において設定されるプレスキャン用のIRシーケンス及びイメージングスキャン用のIRシーケンスを示す図である。
【0041】
図3において横軸は時間を、ECGはECG信号を示す。また、図3(A)は、プレスキャン用のIRシーケンスを示し、図3(B)は、イメージングスキャン用のIRシーケンスを示す。
【0042】
図3(A)に示すように、ECG信号の基準波の1つであるR波から所定の遅延時間(Td)後に180°IRパルスが印加され、180°IRパルスの印加時刻から異なるTI (T1, T2, T3, ..., Te)後においてそれぞれMRデータの収集を行うIRシーケンスがプレスキャン用の撮像条件として設定される。
【0043】
プレスキャンでは、データ収集時間の短縮化のためにイメージングスキャンにおいて必要な画像マトリクスより少ない画像マトリクスのデータを収集するようにしてもよい。更に、イメージングスキャンが3次元(3D: three dimensional)イメージングスキャンの場合であっても、シングルスライス又は少数のスライスからデータを収集するようにプレスキャン用のIRシーケンスを設定することができる。この場合、画像マトリクスサイズ等の条件の変更によってTIが変わらないように、コントラストへの影響が大きいk空間の中心付近におけるデータから収集するようにすればよい。
【0044】
尚、図3(A)において異なるTIに対応する複数のMRデータをオーバーラップさせて収集しても良い。すなわち、共通のMR信号を異なるTIに対応する複数のMRデータ用に用いることができる。この場合、プレスキャンの時間を短縮化することができる。
【0045】
逆に、図3(A)に示すように共通の180°IRパルスから異なるTI後に複数のMRデータを収集せずに、180°IRパルスの印加と異なるTIに対応するMRデータの収集とを繰返すようにしてもよい。すなわち、互いにTIが異なる複数の180°IRパルスを順次印加するようにしてもよい。
【0046】
一方、図3(B)に示すように、ECG信号のR波から所定の遅延時間Td後に180°IRパルスが印加され、180°IRパルスの印加時刻からフィッティング部41Aにおいて算出された適切なTIopt後にデータ収集を行うIRシーケンスがイメージングスキャン用の撮像条件として設定される。
【0047】
データ処理部41は、シーケンスコントローラ31から出力されたMRデータを取得してk空間データ記憶部42に形成されたk空間にk空間データとして配置する機能、プレスキャン及びイメージングスキャンにより収集されたデータに対するデータ処理によって画像データを生成し、生成した画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能、プレスキャンにより収集されたIR法の異なる複数のTIに対応する被検体Pの複数の画像データを解析することによって、イメージング用の適切なTIoptを算出する機能、画像データ記憶部43から読み込んだ画像データを表示装置34に表示させる機能を有する。
【0048】
フィッティング部41Aは、プレスキャンにより収集された複数の異なるTI (T1, T2, T3, ..., Te)に対応する画像データを画像データ記憶部43から取得して、単一または複数の関心領域(ROI: region of interest)についてカーブフィッティングによりTI変化に対する心筋組織における画像信号の強度変化曲線を算出する機能と、算出したROIごとのTI変化に対する信号強度の変化曲線に基づいて信号強度がゼロとなるときのTIをイメージングスキャン用のTIoptとしてIRシーケンス設定部40Bに与える機能を有する。
【0049】
図4は、図2に示すデータ処理部41において設定されるROIの一例を示す図である。
【0050】
フィッティング部41Aにおいて、プレスキャンにより収集されたMRデータの画像再構成処理が行われると、図4に示すような所望の心臓断面における形態画像データがTIごとに生成される。図4は、あるTIに対応する心臓の短軸画像データを生成した場合の例を示している。心臓の短軸断面は、心筋で囲まれた領域に左室及び右室が形成される構造となる。
【0051】
そして、ユーザが表示装置34に表示された心臓の短軸画像を参照しつつ入力装置33を操作することによって心筋断面上の任意の位置に単一又は複数のROIを設定することができる。イメージングスキャン用のTIoptを精度良く求めるためにはROIの数が多い方が好適である。図4は、4つのROIを設定した例を示している。
【0052】
次に、フィッティング部41Aにより、ROIごとにTI変化に応じた心筋組織における画像信号の強度変化を表すカーブが作成される。そして、複数のROIに対応する複数のカーブに基づいてイメージングスキャン用のTIが決定される。
【0053】
図5は、図2に示すデータ処理部41におけるイメージングスキャン用のTIoptの第1の決定方法を説明する図である。
【0054】
図5において、縦軸は画像信号の強度を示し、横軸はTIを示す。プレスキャンにより収集された複数の画像データのROI内におけるTIごとの信号値をプロットすると、実線マークで示す離散的なプロットデータIabsが得られる。尚、ROI内の信号値は、ROI内における複数のピクセル値の平均値や最大値等の代表値とすることができる。
【0055】
IRイメージングでは、通常、実部(Real part)と虚部(Imaginary part)からなる複素画像信号の絶対値が画像データとして表示される。また、画像信号の生成に用いられるMR信号は、180°IRパルスの印加後においてT1緩和により回復する縦磁化に応じた強度となる。従って、値が絶対値である画像信号のプロットデータIabsは、縦磁化の回復曲線の絶対値を表す不連続な曲線と同様な曲線に沿うデータとなる。つまり、画像信号のプロットデータIabsは、図5に示すように、あるTIにおいて正の最小値となり、TIが小さい程及び大きい程、大きくなる。
【0056】
従って、縦磁化の回復曲線に対応する実線で示す画像信号回復曲線Icurveの値がゼロとなるときのTIがイメージング用の最適なTIoptである。そのためには、絶対値をとることによって正側に反転した画像信号を、元の負側に反転させることが必要である。そこで、複素画像信号の実部の符号によって極性反転の有無を判断することができる。しかし、画像信号の位相がシフトしていると、画像信号の正確な符号及び本来の極性を正確に判定することが困難である。
【0057】
そこで、フィッティング部41Aにより、T1緩和によって十分に強度が回復し、安定した画像信号の位相φが計算される。例えば、閾値Thを超える強度を有する任意の画像信号を位相φの計算対象とすることができる。但し、位相φの計算精度を向上させるためには、最も長いTIに対応する画像信号を位相φの計算対象とすることが好適である。
【0058】
そして、フィッティング部41Aにより位相φを用いた画像信号の位相補正が行われる。具体的には、TIごとの画像信号にexp(-iφ)が乗じられる。これにより、位相補正後の画像信号が得られる。次に、位相補正後において実部の符号が負値となる画像信号が負側にプロットされる。そうすると、図5において実線マークで示すような極性が補正された離散的な補正プロットデータIcorが得られる。これにより、極性が反転された補正プロットデータIcor及び極性が反転されなかったプロットデータIabsで構成される特異点のない離散データが極性補正後における複数の画像信号として得られる。
【0059】
次に、T1値をパラメータとした回復曲線を用いて最小二乗法による離散データのカーブフィッティングが行われる。これにより、離散データから連続データである画像信号回復曲線Icurveの式が算出される。そして、画像信号回復曲線Icurveの値がゼロとなるときのTIを最適なTIoptとして正確に計算することができる。
【0060】
このように、複数のTIに対応する複数の絶対値画像信号に対して位相補正を行い、位相補正後における複数の絶対値画像信号の極性補正後における複数の画像信号を用いてカーブフィッティングを行うことができる。そしてカーブフィッティングによって得られた曲線の値がゼロとなるときのTIを最適なTIoptとして計算することができる。
【0061】
尚、不連続な絶対値画像信号の曲線を用いてカーブフィッティングを行うようにしてもよい。この場合、計算式が複雑になるが位相補正処理及び極性の反転処理が不要となる。
【0062】
また、位相補正処理を行わずに、絶対値画像信号を用いて簡易に最適なTIoptを計算することもできる。
【0063】
図6は、図2に示すデータ処理部41におけるイメージングスキャン用のTIoptの第2の決定方法を説明する図である。
【0064】
図6において、縦軸は画像信号の強度を示し、横軸はTIを示す。上述のように、プレスキャンにより収集された複数の画像データのROI内におけるTIごとの信号値をプロットすると、実線マークで示す離散的な絶対値のプロットデータIabsが得られる。
【0065】
次に、離散的なプロットデータIabsの最小値Iminが求められる。そして、最小値Iminに対応するTIよりも短いTIに対応する絶対値のプロットデータIabsの極性を全て負値に反転させて、最小二乗法によるカーブフィッティングが行われる。これにより、連続データとして点線で示す第1の画像信号回復曲線Icurve1の式が算出される。
【0066】
次に、最小値Iminの極性も負値に反転させて、最小二乗法によるカーブフィッティングが行われる。これにより、連続データとして一点鎖線で示す第2の画像信号回復曲線Icurve2の式が算出される。
【0067】
そして、第1及び第2の画像信号回復曲線Icurve1 ,Icurve2のうちカーブフィッティングの近似の程度が良好な画像信号回復曲線がイメージング用のTIoptの計算用として採用される。カーブフィッティングの近似の程度を表す指標としては、例えば離散データと回復曲線との間における残差の二乗和を用いることができる。すなわち、第1及び第2の画像信号回復曲線Icurve1 ,Icurve2とこれらの曲線をそれぞれ求めるために用いた各離散データとの間における残差の二乗和が最小となる曲線がイメージング用のTIoptの計算用の画像信号回復曲線Icurveに決定される。そして、画像信号回復曲線Icurveの値がゼロとなるときのTIをイメージング用のTIoptとして計算することができる。
【0068】
このように、複数のTIに対応する複数の絶対値画像信号の最小値Iminに対応するTIよりも短いTIに対応する絶対値画像信号の各極性を反転させて得られる第1の複数の画像信号を用いたカーブフィッティングにより第1の画像信号回復曲線Icurve1を求める一方、最小値Iminに対応する絶対値画像信号の極性及び最小値Iminに対応するTIよりも短いTIに対応する絶対値画像信号の各極性を反転させて得られる第2の複数の画像信号を用いたカーブフィッティングにより第2の画像信号回復曲線Icurve2を求め、カーブフィッティングの近似の程度が最も良好な画像信号回復曲線を採用する第2の方法によって、簡易に画像信号回復曲線Icurve及び画像信号回復曲線Icurveの値がゼロとなるときのTIを計算することができる。
【0069】
更に、離散的なプロットデータIabsの最小値Iminに隣接するTIが長い側の絶対値のプロットデータIabsの極性を負値に反転させたカーブフィッティングを行ってもよい。この場合、図6に示すように、連続データとして二点鎖線で示す第3の画像信号回復曲線Icurve3の式が算出される。そして、第1、第2及び第3の画像信号回復曲線Icurve1 ,Icurve2 ,Icurve3のうちカーブフィッティングの近似の程度が良好な画像信号回復曲線がイメージング用のTIoptの計算用として採用される。第3の画像信号回復曲線Icurve3を求めるようにすれば、呼吸などの影響でデータにばらつきが生じたとしてもロバストな処理を行うことができる。
【0070】
つまり、イメージング用のTIoptの第1の決定方法は、画像信号回復曲線Icurveの真の最小値が不明であることから位相補正を行うことによって負値に反転すべき絶対値の離散データを決定する方法である。これに対して、第2の決定方法は、真の最小値付近となる離散データの最小値及び最小値に隣接する離散データを反転させた場合と反転させない場合におけるカーブフィッティングの誤差を比較することによって負値に反転すべき絶対値の離散データを決定する方法である。
【0071】
第2の決定方法によれば、煩雑な位相補正処理を行うことなく、確からしい信号回復曲線及び信号回復曲線のゼロクロス点であるイメージング用のTIoptを求めることができる。また、第2の決定方法において、第3の画像信号回復曲線Icurve3の式を算出しない場合には、一層データ処理を簡易にすることができる。
【0072】
ところで、カーブフィッティングにより信号回復曲線を決定するため、理論的には少なくとも3つのTIに対応する画像データをプレスキャンで収集すればよいことになる。従って、プレスキャンの時間を従来よりも短縮することが可能である。但し、実用的な精度でイメージング用のTIoptを求めるためには、少なくともゼロクロス点近傍になると予測される範囲については十分な数のTIに対応する画像データを収集することが必要である。
【0073】
また、画像信号回復曲線Icurve及びイメージング用のTIoptはROIごとに算出される。このため、ROI内における心筋組織の成分や造影剤の濃度の相違に起因してROIごとに画像信号回復曲線Icurve及びイメージング用のTIoptが異なる場合がある。しかし、イメージング用に設定されるのは、1つのTIである。
【0074】
そこで、例えば、ROI間におけるイメージング用のTIoptの平均値をイメージング用の撮像条件とすることができる。或いは、複数のROIに対応する複数のTIoptのうち最も長いTIをイメージング用の撮像条件とすることもできる。特に、心筋組織に対応する信号回復曲線のゼロクロス点に相当するTIよりも短いTIで遅延造影イメージングを行うと、心筋上に黒い線上のアーチファクトが現れることが知られている。従って、遅延造影イメージングを行う場合には、最も長いTIをイメージング用の撮像条件とすることがアーチファクトの抑制に繋がる。
【0075】
そこで、フィッティング部41Aには、複数のROIに対応する複数の画像信号回復曲線Icurveの値がそれぞれゼロとなるときの複数のTIoptを算出し、複数のROIに対応する複数のTIoptのうち最も長いTIoptをイメージング用のTIとする機能が備えられる。
【0076】
物質特定情報取得部41Bは、イメージング用のTIoptを算出するためのカーブフィッティングにおいて得られるT1の値, TIoptの値及び画像信号回復曲線Icurveの形状を表示装置34に表示させる機能を有する。また、物質特定情報取得部41Bは、必要に応じて、所望のROIについての離散画像データのカーブフィッティングを通じてT1の値, TIoptの値及び画像信号回復曲線Icurveの形状を求め、求めたT1の値, TIoptの値及び画像信号回復曲線Icurveの形状の少なくとも1つに基づいてROI内における物質の推定情報又は特定情報を表示装置34に表示させるように構成される。すなわち、物質特定情報取得部41Bは、カーブフィッティングにより得られるT1値、画像信号回復曲線Icurveの値がゼロとなるときのTI、画像信号回復曲線Icurveの形状及びT1値に基づいて推定される物質情報の少なくとも1つを表示装置34に表示させる機能を備えている。
【0077】
T1及びTIoptはROI内における成分に応じた値となる。従って、T1の値、TIoptの値、画像信号回復曲線Icurveの形状等のT1値に依存する情報を表示装置34に表示させれば、ユーザはROI内における成分を推定することができる。また、複数のROIに対応する画像信号回復曲線Icurveの形状を並列表示させれば、画像信号回復曲線Icurveの形状の相違に基づいて特定のROI内に他のROI内と異なる成分が存在することをユーザが確認することができる。
【0078】
例えば、心臓の遅延造影イメージングの場合には、ROI内の主要な成分が血液、梗塞部位及び造影剤のいずれであるのかを特定することができる。従って、イメージング用のTIoptを算出するためのROIのみならず、病変部である疑いのある部位など着目する部位にROIを設定してT1値に依存する情報を算出して表示装置34に表示させてもよい。また、T1の値及びTIoptの値に応じて推定される血液、梗塞部位、造影剤成分等の名称自体を物質の推定情報又は特定情報として表示装置34に表示させることもできる。
【0079】
これにより、ユーザは病変部として疑いのある高信号部位がアーチファクトによるものであるのか病変組織によるものであるのかなどを判断することができる。
【0080】
画像生成部41Cは、プレスキャン及びイメージングスキャンにより収集されたk空間データに対するフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理及び必要な画像処理を施すことにより画像データを生成する機能、画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能及び画像データ記憶部43から読み込んだ画像データに必要な画像処理を施して表示装置34に表示させる機能を有する。
【0081】
例えば、イメージング用のTIoptを算出するためのROIのみならず、画像データ全体又は所望の部分に対して位相補正処理及びカーブフィッティングによる画像信号回復曲線Icurveの算出処理を画像処理として施すようにしてもよい。これにより、画像信号回復曲線Icurve上の値を用いて画像データを生成することが可能となる。
【0082】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。
【0083】
図7は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20によりIR法によるイメージングを行う際の流れを示すフローチャートである。ここでは、イメージングスキャン用のTIoptを図5に示す位相補正を伴う第1の決定方法で決定する場合を例に説明する。
【0084】
まず予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0085】
そして、ステップS1において、TIを変えて複数フレーム分の画像データを収集するIRプレスキャンが実行される。すなわち、マルチTI設定部40Aが、互いに異なる複数のTIを設定し、IRシーケンス設定部40Bが複数のTIを用いてプレスキャン用のIRシーケンスを設定する。これにより図3(A)に示すようなECG信号のR波に同期して異なるTIでデータ収集を行うIRシーケンスがプレスキャン用の撮像条件として設定される。
【0086】
そして、撮像条件設定部40は、IRシーケンスを含むプレスキャン用の撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する。そうすると、シーケンスコントローラ31は、撮像条件に従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0087】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からMR信号を受けて、デジタルデータのMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成したMRデータをシーケンスコントローラ31に与え、シーケンスコントローラ31は、MRデータをデータ処理部41に出力する。そうすると、データ処理部41は、MRデータをk空間データ記憶部42に形成されたk空間にk空間データとして配置する。
【0088】
次に、画像生成部41Cは、プレスキャンにより収集されたk空間データに対する画像再構成処理によって画像データを生成する。これにより、複数のTIに対応する複数フレームの画像データが生成される。生成された画像データは、表示装置34に表示される。
【0089】
次にステップS2において、フィッティング部41Aは、ユーザによって操作された入力装置33からの情報に従って、プレスキャンにより収集された画像データ上にROIを設定する。例えば、図4に示すような複数のROIが設定される。
【0090】
次にステップS3において、フィッティング部41Aは、ROI毎に十分にT1回復したTIに対応する複素絶対値画像信号の位相φを計算する。画像信号が十分にT1回復したか否かの判定は、図5に示すように設定された閾値Thを超えたか否かの判定処理によって行うことができる。
【0091】
次にステップS4において、フィッティング部41Aは、計算した位相φを用いて全てのTIに対応する複素絶対値画像信号の位相を補正する。
【0092】
次にステップS5において、フィッティング部41Aは、位相補正後における各複素絶対値画像信号の実部の極性が負値であるか否かを判定し、図5に示すように極性が負値であると判定された複素絶対値画像信号の極性を負に補正して反転させる。
【0093】
次にステップS6において、フィッティング部41Aは、極性の補正後における離散的な複数のTIに対応する画像信号を用いた最小二乗法によるカーブフィッティングを行うことによって図5に示すような画像信号回復曲線Icurveの式を算出する。
【0094】
次にステップS7において、フィッティング部41Aは、画像信号回復曲線Icurveの式の値がゼロとなるときのTIoptを算出する。これによりTIoptがROIごとに得られる。そこで、フィッティング部41Aは、ROI間におけるTIoptの平均値又は最も長いTIoptをイメージング用のTIoptとして決定する。
【0095】
次にステップS8において、物質特定情報取得部41Bは、カーブフィッティングにおいて得られたT1の値, TIoptの値及び画像信号回復曲線Icurveの形状を表示装置34に表示させる。また、ユーザが入力装置33の操作によって新たなROIの指定情報を入力した場合には、物質特定情報取得部41Bは、新たに設定されたROIについての画像データのカーブフィッティングを通じてT1の値, TIoptの値及び画像信号回復曲線Icurveの形状を求める。
【0096】
そして、物質特定情報取得部41Bは、T1の値, TIoptの値及び画像信号回復曲線Icurveの形状等のT1値に依存する情報とともにT1値に依存する情報に基づいて推定される物質の推定情報又は特定情報を表示装置34に表示させる。このため、ユーザはROI内における主要な成分を推定することができる。また、ユーザは、フィッティング部41Aにおける解析計算の結果として算出されたTIoptの計算値の確認を行うことができる。そして、必要に応じてROIの再設定及びTIoptの再計算を行うことができる。
【0097】
次にステップS9において、磁気共鳴イメージング装置20のイメージングを行うための構成要素は、イメージング用に算出されたTIoptでIR法によるイメージングを行う。具体的には、IRシーケンス設定部40Bにより図3(B)に示すようなECG信号のR波に同期してTIoptでデータ収集を行うIRシーケンスがイメージングスキャン用の撮像条件として設定される。そして、プレスキャンと同様な流れでイメージングスキャンが実行される。
【0098】
そして、画像生成部41Cは、イメージングスキャンにより収集されたk空間データに対する画像再構成処理及び必要な画像処理によって診断画像データを生成する。これにより、最適なTIoptに対応する診断画像データが生成される。生成された診断画像データは、表示装置34に表示される。
【0099】
診断画像が心臓の遅延造影画像である場合には、正常な心筋組織からの信号が抑制されるように設定された適切なTIoptでIRイメージングが行われたため、梗塞部位があれば明瞭に高信号部として描出される。このため、ユーザは梗塞部位の有無及び位置を容易に把握することができる。
【0100】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、IR法においてTIを変えて画像データを収集し、TIごとの画像信号のカーブフィッティングにより得られる信号回復曲線の値がゼロとなるときのTIを撮像条件としてイメージングスキャンを実行するようにしたものである。
【0101】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、遅延造影イメージング等のIRイメージングにおいて、より適切なTIを容易かつ正確に求めることができる。この結果、より高画質な画像データを得ることができる。特に、磁気共鳴イメージング装置20では、連続的な信号回復曲線の式に基づいて解析的にTIが決定される。このため、絶対値画像を目視にて判断する従来のTIの決定法に比べて、画像信号の最小値の誤認識を抑制することができる。この結果、イメージングスキャンの失敗、プレスキャンのやり直し及び画像データの描出不良を抑制することができる。
【0102】
(第2の実施形態)
図8は本発明の第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置によるイメージングの流れを示すフローチャートである。
【0103】
第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置では、ROIをプレスキャン前に設定することによって、プレスキャンとイメージングスキャンとを連続的に実行できるようにした点、MR信号又は画像信号の実部信号を用いてカーブフィッティングを行うようにした点及び各構成要素の詳細機能が第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置20と異なる。第2の実施形態の磁気共鳴イメージング装置のその他の構成及び機能については、第1の実施形態の磁気共鳴イメージング装置20と同様である。従って、フローチャートのみ図示し、第1の実施形態と同等な磁気共鳴イメージング装置の構成要素及びフローチャートのステップには同符号を付して説明を省略する。
【0104】
すなわち、第2の実施形態の磁気共鳴イメージング装置におけるイメージング用の構成要素は、イメージングと複数のTIに対応する複数の画像データ又は複数のMR信号の収集とを連続して行う。
【0105】
そのためにステップS10において、イメージングスキャンと同様な流れでROIの設定用の位置決め画像データが収集される。そして、収集された位置決め画像は、表示装置34に表示される。
【0106】
次にステップS2において、撮像条件設定部40により位置決め画像を通じたROIの設定が実行される。設定されるROIは、カーブフィッティング用のデータを収集するための領域である。従って、心臓断面における形態画像が位置決め画像として表示されていれば、入力装置33の操作によって心筋組織上に単一又は複数のROIが設定される。
【0107】
次にステップS1においてTIを変えて複数フレーム分の画像データを収集するIRプレスキャンが実行される。但し、カーブフィッティング用のデータの収集用のROIが既に設定されている。従って、画像データの生成用のMR信号に代えて、ROIからMR信号を収集するようにしてもよい。この場合、ROI内の局所励起によってMR信号が収集される。
【0108】
次にステップS3において、フィッティング部41Aにより、ROI毎に十分にT1が回復した後の画像信号又はMR信号の位相φが計算される。但し、ここでは、複素絶対値画像信号ではなく、実部及び虚部を有する複素画像信号又は複素MR信号の位相φが計算される。
【0109】
次にステップS4において、フィッティング部41Aは、計算した位相φを用いて全てのTIに対応するROI内の複素画像信号又は局所励起によって収集された複素MR信号の位相を補正する。この位相補正の結果、虚部信号がゼロで実部信号のみ値を有する画像信号又はMR信号が得られる。
【0110】
次にステップS11において、フィッティング部41Aは、位相補正後における画像信号の実部信号又は局所励起MR信号の実部信号を用いた最小二乗法によるカーブフィッティングを行う。これにより心筋部分等のT1緩和を表す画像信号又はMR信号の回復曲線の式が算出される。
【0111】
次にステップS7において、フィッティング部41Aは、画像信号又はMR信号の回復曲線の式の値がゼロとなるときのTIをイメージング用のTIとして算出する。また必要に応じてステップS8において、物質特定情報取得部41Bは、カーブフィッティングにおいて得られたT1及びTIの値等に基づいて推定される物質の推定情報又は特定情報を表示装置34に表示させる。
【0112】
次にステップS12において、撮像条件設定部40は、IRプレスキャンによって反転した縦磁化が十分に回復したタイミングでイメージングスキャンが自動的に開始されるようにシーケンスコントローラ31を制御する。従って、縦磁化が十分に回復するまでの期間が長い場合には、磁気共鳴イメージング装置が待機状態となる。
【0113】
一般的なIR法によるデータ収集の場合、ECG信号のR波間の時間において反転した縦磁化が所定の縦磁化まで回復するように、データ収集前に数回IRパルスが印加される。すなわち、空うちと呼ばれるMR信号の収集を伴わないIRパルスの印加によって、R波等の基準となるタイミングにおける縦磁化の回復量を事前に調整することができる。IRプレスキャンにおいても空うちを行うことによってR波間における縦磁化の回復量を調整することができる。
【0114】
そこで、撮像条件設定部40は、イメージングスキャンの開始のために十分な縦磁化の回復が見込まれるタイミングにおいてイメージングシーケンスの実行指示情報をシーケンスコントローラ31に出力する。このタイミング制御は、例えばIRプレスキャンにおけるIRパルスの印加タイミングからの経過時間とT1値に基づいて行うことができる。
【0115】
或いは、イメージングデータの収集時において適切な値に縦磁化を回復させるための別のタイミング制御法として、IRプレスキャンのTRとイメージングスキャンのTRを同一に設定する方法が挙げられる。すなわち、ECG信号のR波の間隔をRRと表現すると、IRプレスキャンのTRが1RRであればイメージングスキャンのTRも1RRに、IRプレスキャンのTRが2RRであればイメージングスキャンのTRも2RRに、それぞれ設定することによって縦磁化の回復量をIRプレスキャンの実行時とイメージングスキャンの実行時との間において揃えることができる。
【0116】
この場合、入力装置33から撮像条件設定部40にIRプレスキャン用のTR及びイメージングスキャン用のTRを入力することによって、IRプレスキャンのTRとイメージングスキャンのTRを同一に設定することができる。或いは、IRプレスキャン用のTR及びイメージングスキャン用のTRの一方が入力装置33から撮像条件設定部40に入力された場合に、撮像条件設定部40が他方のTRを自動的に同一のTRに設定するようにしてもよい。
【0117】
IRプレスキャン及びイメージングスキャンのTRを1RR又は2RRに設定すると、ステップS7におけるTIの計算が高速に処理された場合に、IRプレスキャンの直後のR波をトリガとしてイメージングスキャンが実行されるようにタイミング制御されることとなる。すなわち、IRプレスキャンの実行後に過剰に縦磁化が回復しないため引き続きイメージングスキャンを実行することができる。
【0118】
一方、TIの計算に時間を要する場合には、IRプレスキャンから一定の時間経過した後のR波をトリガとしてイメージングスキャンが実行されるようにタイミング制御されることとなる。この場合には、IRプレスキャンの実行後に過剰に縦磁化が回復しないようにイメージングスキャンの実行前においても上述した空うちを実行するとともに、IRプレスキャン及びイメージングスキャンのTRを同一にすることによって、データ収集時における縦磁化を揃えることができる。つまり、TIの計算時間等の条件に応じてイメージングスキャンの実行前に空うちを行うことができる。これにより、イメージングスキャンの実行時における縦磁化の条件を良好にすることができる。
【0119】
縦磁化が十分に回復すると、ステップS9において、イメージングスキャンが自動的に開始される。すなわち、撮像条件設定部40は、イメージング用に算出されたTIを含む撮像条件とともにイメージングスキャンの開始指示情報を制御情報としてシーケンスコントローラ31に出力する。これにより、適切なTIによるIR法のイメージングスキャンが実行され、MR信号の収集及びMR画像データの生成が行われる。
【0120】
このような第2の実施形態の磁気共鳴イメージング装置によれば、IRプレスキャンとイメージングスキャンとを連続的に行うことが可能である。このため、撮像時間の短縮化及びユーザによる操作の削減を図ることができる。
【0121】
また、局所励起を行うことによって、データ処理部41は、画像データに限らず、複数のTIに対応する複数のMR信号を解析することによっても、イメージング用のTIを算出することができる。すなわち、フィッティング部41Aは、複数のTIに対応する複数の画像データ又は複数のMR信号を用いたカーブフィッティングにより得られる曲線の値がゼロとなるときのTIをイメージング用のTIとして算出することができる。
【0122】
更に、フィッティング部41Aは、絶対値画像信号に代えて、複数のTIに対応する位相補正後における複数の画像データの実部信号又は局所励起によって収集された複数のTIに対応する位相補正後における複数のMR信号の実部信号を用いてカーブフィッティングを行うことができる。これにより、図5又は図7のステップS5に示すような極性の反転処理が不要となる。
【0123】
尚、第1の実施形態においても、絶対値画像信号に代えて、位相補正後の複素画像信号の実部を用いたカーブフィッティングを行うことができる。この場合、第1の実施形態においても、極性の反転処理を不要にすることができる。逆に、図5や図6に示すような絶対値画像信号に基づくカーブフィッティングを行う第1の実施形態において、IRプレスキャン後にイメージングスキャンを自動的に連続実施することもできる。
【0124】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0125】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
32 コンピュータ
37 寝台
38 ECGユニット
40 撮像条件設定部
40A マルチTI設定部
40B IRシーケンス設定部
41 データ処理部
41A フィッティング部
41B 物質特定情報取得部
41C 画像生成部
42 k空間データ記憶部
43 画像データ記憶部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転回復法の異なる複数の反転時間に対応する被検体の複数の画像データ又は複数の磁気共鳴信号を解析することによって、イメージング用の反転時間を算出する算出手段と、
前記イメージング用に算出された前記反転時間で前記反転回復法による前記イメージングを行うイメージング手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記複数の反転時間に対応する前記複数の画像データ又は前記複数の磁気共鳴信号を用いたカーブフィッティングにより得られる曲線の値がゼロとなるときの反転時間を前記イメージング用の反転時間として算出するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記カーブフィッティングにより得られるT1値、前記曲線の値がゼロとなるときの反転時間、前記曲線の形状及び前記T1値に基づいて推定される物質情報の少なくとも1つを表示装置に表示させる物質特定手段を更に備える請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記イメージング手段は、心臓の遅延造影イメージング又は非造影の血流イメージングを行うように構成される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記算出手段は、複数の関心領域に対応する複数の曲線の値がそれぞれゼロとなるときの複数の反転時間を算出し、前記複数の関心領域に対応する前記複数の反転時間のうち最も長い反転時間を前記イメージング用の反転時間とするように構成される請求項2乃至4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記イメージング手段は、前記イメージングと前記複数の反転時間に対応する前記複数の画像データ又は前記複数の磁気共鳴信号の収集とを連続して行うように構成される請求項2乃至5のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
反転回復法の異なる複数の反転時間に対応する複数の画像データ又は複数の磁気共鳴信号を用いたカーブフィッティングにより得られる曲線の式を算出する算出手段と、
前記カーブフィッティングにより得られるT1値、前記曲線の値がゼロとなるときの反転時間、前記曲線の形状及び前記T1値に基づいて推定される物質情報の少なくとも1つを表示装置に表示させる物質特定手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記算出手段は、前記複数の反転時間に対応する位相補正後における複数の画像データの実部信号又は局所励起によって収集された前記複数の反転時間に対応する位相補正後における複数の磁気共鳴信号の実部信号を用いて前記カーブフィッティングを行うように構成される請求項2又は7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記算出手段は、前記複数の反転時間に対応する複数の絶対値画像信号に対して位相補正を行い、前記位相補正後における複数の絶対値画像信号の極性補正後における複数の画像信号を用いて前記カーブフィッティングを行うように構成される請求項2又は7記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記算出手段は、前記複数の反転時間に対応する複数の絶対値画像信号の最小値に対応する反転時間よりも短い反転時間に対応する絶対値画像信号の極性を反転させて得られる第1の複数の画像信号を用いたカーブフィッティングにより第1の曲線を求める一方、前記最小値に対応する絶対値画像信号の極性及び前記最小値に対応する反転時間よりも短い反転時間に対応する絶対値画像信号の各極性を反転させて得られる第2の複数の画像信号を用いたカーブフィッティングにより第2の曲線を求め、カーブフィッティングの近似の程度が最も良好な曲線を採用するように構成される請求項2又は7記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−110690(P2012−110690A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234436(P2011−234436)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】