磁気共鳴イメージング装置
【課題】パルスシーケンスの所望のパラメータを反映したエコー情報をイメージングスキャンの撮像前に収集して、イメージングスキャンにおける最適値を得る。
【解決手段】実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、準備スキャンにより収集されたデータに基づいて、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのパラメータについて相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像を生成する準備画像生成手段と、特定の準備画像のパラメータ量を前記イメージングスキャンに反映させ、当該パラメータ量が反映されたイメージングスキャンを実行するイメージングスキャン実行手段と、を備え、前記準備スキャンは2次元スキャンであり、前記イメージングスキャンは心電同期法による3次元スキャンであり、前記複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像は、同一の遅延時間で準備スキャンが行われたデータに基づくものであることを特徴とする。
【解決手段】実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、準備スキャンにより収集されたデータに基づいて、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのパラメータについて相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像を生成する準備画像生成手段と、特定の準備画像のパラメータ量を前記イメージングスキャンに反映させ、当該パラメータ量が反映されたイメージングスキャンを実行するイメージングスキャン実行手段と、を備え、前記準備スキャンは2次元スキャンであり、前記イメージングスキャンは心電同期法による3次元スキャンであり、前記複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像は、同一の遅延時間で準備スキャンが行われたデータに基づくものであることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用の磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをそのラーモア周波数の高周波信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
この磁気共鳴イメージングの分野において昨今注目されている撮像法の一つに、非造影アンギオグラフィがある。つまり、被検体に造影剤を投与することなく、被検体内の血管像や血流の情報を得る撮像法である。この非造影アンギオグラフィを行う場合、得られる情報量の多さの観点からは、3次元のイメージングスキャンが好まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した非造影アンギオグラフィを実施する場合、イメージングスキャンは、被検体のMR画像の質に影響するパルスシーケンスのパラメータは必ずしも最適とは言えない状態で実行されることが多々ある。
【0005】
このパラメータとして例えばフローボイド(flow void)現象を抑えるディフェーズパルスが挙げられる。血流が流れることによりフローボイド(flow void)現象が発生すると、収集するエコー信号の強度が低下するなどの不都合が生じることから、このフローボイドの程度は事前に把握して、フローボイドを考慮した撮像条件を個々の被検体毎に設定することが好ましい。
【0006】
非造影MRアンギオグラフィにより例えば下肢の血管を撮像する場合、血管の流速は、個人差に拠る違いがあることは勿論のこと、健常者と患者との間だけでも相当の違いある。また、同一被検体の下肢であっても、スキャンする部位が違えば血流速度は異なる。
【0007】
しかしながら、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの各種のパラメータの撮像前の適正化については、従来、殆ど研究されていないのが実情である。このため、オペレータが3次元のイメージングスキャン前に被検体内部まで見通して所望読出し方向におけるフローボイドの程度を正確に知ることは困難であった。そこで、オペレータは経験に基づいて又は現場で思考錯誤的に、かかるフローボイドの程度を推定し、これを撮像条件に反映させることしかできなかった。トライアルのスキャンを行ってフローボイドの程度を推定することはできるが、その場合、1人の患者に要するトータルの撮像時間が長くなって、患者スループットが低下する。また、患者のSARが大きくなる多い。
【0008】
非造影アンギオグラフィを実施する上で、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのパラメータは、上述のフローボイド値に限られず、実効エコー時間TEeff、流れの補償(flow compensation)、反転回復(IR)時間、エコー間隔ETS(echo train spacing)、脂肪抑制パルスのフリップ角、脂肪抑制パルス印加後の反転時間TI、MTパルスのフリップ角度、リフォーカスパルスのフリップ角度などがある。
【0009】
従来、特開平11−239571号には、心電同期法の基づくイメージングスキャンを行う際、事前に、最適な心電同期タイミングを測定するスキャンを行う手法が提案されている。しかしながら、この公報記載の手法は心電同期タイミングを考慮するものであり、その他のスキャンパラメータを広範囲に考慮するという視点に欠けていた。
【0010】
本発明は、このような現状を打破するためになされたもので、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの所望のパラメータを反映したエコー情報をイメージングスキャンの撮像前に収集して、この収集情報からそのパラメータのイメージングスキャンにおける最適値を確実に知ることができるようにした磁気共鳴イメージング装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様に係る磁気共鳴イメージング装置は、被検体のMR画像を得るためのイメージングスキャンを実行する磁気共鳴イメージング装置において、準備スキャンにより収集されたデータに基づいて、前記イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのパラメータについて複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像を生成する準備画像生成手段と、前記複数の準備画像のうちの特定の準備画像のパラメータ量を前記イメージングスキャンに反映させ、当該パラメータ量が反映されたイメージングスキャンを実行するイメージングスキャン実行手段と、を備え、前記準備スキャンは2次元スキャンであり、前記イメージングスキャンは心電同期法による3次元スキャンであり、前記複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像は、同一の遅延時間で準備スキャンが行われたデータに基づくものであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成の一例を示す機能ブロック図。
【図2】実施形態におけるprep.スキャンとメージングスキャンの時間の前後関係を説明する図。
【図3】ホスト計算機によるprep.スキャンで値を可変するパラメータの選択処理とその後処理を例示する概略フローチャート。
【図4】prep.スキャンの一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図5】prep.スキャンの別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図6】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図7】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図8】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図9】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図10】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図11】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図12】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図13】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0014】
この実施形態にかかる磁気共鳴イメージング装置の概略構成を図1に示す。
【0015】
この磁気共鳴イメージング装置は、被検体としての患者Pを載せる寝台部と、静磁場を発生させる静磁場発生部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と、RF(高周波)信号を送受信する送受信部と、システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部と、患者Pの心時相を表す信号としてのECG(心電図)信号を計測する心電計測部と、患者Pに息止めを指令する息止め指令部とを機能的に備えている。
【0016】
静磁場発生部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを備え、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部(診断用空間)の長手軸方向(Z軸方向)に静磁場H0を発生させる。なお、この磁石部にはシムコイル14が設けられている。このシムコイル14には、後述するホスト計算機の制御下で、シムコイル電源15から静磁場均一化のための電流が供給される。寝台部は、被検体Pを載せた天板を磁石1の開口部に退避可能に挿入できる。
【0017】
傾斜磁場発生部は、磁石1に組み込まれた傾斜磁場コイルユニット3を備える。この傾斜磁場コイルユニット3は、互いに直交するX、Y、Z軸方向の傾斜磁場を発生させるための3組(種類)のx,y,zコイル3x〜3zを備える。傾斜磁場部はさらに、x,y,zコイル3x〜3zに電流を供給する傾斜磁場電源4を備える。この傾斜磁場電源4は、後述するシーケンサの制御のもと、x,y,zコイル3x〜3zに傾斜磁場を発生させるためのパルス電流を供給する。
【0018】
傾斜磁場電源4からx,y,zコイル3x〜3zに供給されるパルス電流を制御することにより、3軸X,Y,Z方向の傾斜磁場を合成して、スライス方向傾斜磁場GS、位相エンコード方向傾斜磁場GE、および読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場GRの各方向を任意に設定・変更することができる。スライス方向、位相エンコード方向、および読出し方向の各傾斜磁場は静磁場H0に重畳される。
【0019】
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて患者Pの近傍に配設されるRF(高周波)コイル7と、このRFコイル7に接続された送信器8T及び受信器8Rとを備える。後述するシーケンサの制御のもと、この送信器8Tは、磁気共鳴(NMR)を励起させるためのラーモア周波数のRF電流パルスをRFコイル7に供給する一方、受信器8Rは、RFコイル7が受信したMR信号(高周波信号)を受信し、この受信信号に各種の信号処理を施して、対応するデジタルデータを形成するようになっている。
【0020】
さらに、制御・演算部は、シーケンサ(シーケンスコントローラとも呼ばれる)5、ホスト計算機6、演算ユニット10、記憶ユニット11、表示器12、および入力器13を備える。この内、ホスト計算機6は、記憶したソフトウエア手順により、シーケンサ5にパルスシーケンス情報を指令するとともに、シーケンサ5を含む装置全体の動作を統括する機能を有する。
【0021】
このMRI装置は、撮像のためのイメージングスキャンの前に、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスに関わるパラメータのうち、所望のパラメータの量を測定し、その最適な量のパラメータをイメージングスキャンに反映させること特徴としている。具体的には、ホスト計算機6は図2に示す如く、準備(preparation)スキャン(以下、prep.スキャンと呼ぶ)及び画像再構成用のエコーデータの収集を担うイメージングスキャンを行う。prep.スキャンは、その後のイメージングスキャンで使用するパルスシーケンスに関わる複数のパラメータのうち、所望のパラメータの量を適正化するために実行される。
【0022】
本実施形態では、パルスシーケンスに関わる複数のパラメータとして、
・被検体内の流体(血流など)のフローボイド現象を抑えるパルスの強度、
・被検体内のスピンの挙動に関する実行TEeff時間、
・流体の流れに拠るスピン移動を補償するパルス、
・スピンの反転回復、
・被検体から収集されるエコー信号のETS時間、
・被検体内に存在する脂肪から信号収集を抑制するために印加する脂肪抑制パルスのフリップ角、
・脂肪抑制パルス印加後のTI時間、
・スピンの挙動に関連して発生するMT効果を起こさせるMTパルスの強度、及び
・MT効果を低減させるリフォーカスパルスの角度
を考慮する。被検体の撮像したい血流、撮像部位、被検体の個体差などが考慮されてイメージングスキャンに使用するパルスシーケンスの種類が決まると、そのパルスシーケンスの各種のパラメータのうち、所望のパラメータが選択される。このパラメータが選択されると、prep.スキャンが、そのパラメータの量を複数回にわたって変更しながら実行される。つまり、1回のRF励起に伴う同一心時相での、被検体の撮像部位(イメージングスキャンと同一又は殆ど同一の部位)に対する複数回のデータ収集が行われる。これにより、同一撮像部位に対する複数枚の画像データが揃い、それぞれ再構成される。オペレータは再構成された複数枚の画像の中から、例えば最も画質に優れた画像を指定する。これにより、その指定画像がprep.スキャンで撮像されたときに設定していた選択パラメータの量が特定される。この選択パラメータの量は、一例として、オペレータの操作を介して続くイメージングスキャンに反映される。つまり、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの各種のパラメータのうち、prep.スキャンで可変されたパラメータに相当するパラメータには、prep.スキャンを通して特定された量(パルス強度、パルス角度、時間など)が設定される。
【0023】
また、prep.スキャン及びイメージングスキャン共に、例えば音声指示に拠る息止め法が併用される。
【0024】
なお、prep.スキャンは撮像部位の診断用の撮像自体を目的とするものではなく、上述のようにパルスシーケンスの所望パラメータの最適化を図るために実行される。このため、prep.スキャンで撮像する画像のマトリクスはイメージングスキャンのそれよりも粗いものでよい。また、イメージングスキャンが3次元スキャンのときに、prep.スキャンは2次元スキャンを行ってスキャン時間を節約することが好適である。さらに、prep.スキャン及びイメージングスキャンに用いるパルスシーケンスの種類自体は同一であることが望ましい。
【0025】
図1に戻って、シーケンサ5は、CPUおよびメモリを備えており、ホスト計算機6から送られてきたパルスシーケンス情報を記憶し、この情報にしたがって傾斜磁場電源4、送信器8T、受信器8Rの一連の動作を制御する。ここで、パルスシーケンス情報とは、一連のパルスシーケンスにしたがって傾斜磁場電源4、送信器8Tおよび受信器8Rを動作させるために必要な全ての情報であり、例えばx,y,zコイル3x〜3zに印加するパルス電流の強度、印加時間、印加タイミングなどに関する情報を含む。また、シーケンサ5は、受信器8Rが出力するデジタルデータ(MR信号)を入力して、このデータを演算ユニット10に転送する。
【0026】
このパルスシーケンスとしては、フーリエ変換法を適用できるものであれば、2次元(2D)スキャンまたは3次元(3D)スキャンであってもよい。また、パルス列の形態としては、SE(スピンエコー)法、FE(フィールド・グラジェントエコー)法、FSE(高速SE)法、EPI(エコープラナーイメージング)法、Fast asymmetric SE(FASE:FSE法にハーフフーリエ法を組み合わせた手法)法などを適用できる。
【0027】
また、演算ユニット10は、受信器8Rからシーケンサ5を介して送られてくるMR信号のデジタルデータを入力してフーリエ空間(k空間または周波数空間とも呼ばれる)への原データ(生データとも呼ばれる)の配置、および、原データを実空間画像に再構成するための2次元または3次元のフーリエ変換処理を行う一方で、画像データの合成処理を行うようになっている。なお、フーリエ変換処理はホスト計算機6に担当させてもよい。
【0028】
記憶ユニット11は、原データおよび再構成画像データのみならず、各種の処理が施された画像データを保管することができる。表示器12は画像を表示する。また入力器13を介して、オペレータが希望するパラメータの種類、スキャン条件、パルスシーケンスの種類とそのパラメータ、所望の画像処理法などの情報をホスト計算機6に入力できるようになっている。
【0029】
また、息止め指令部として音声発生器19を備えている。この音声発生器19は、ホスト計算機6から指令があったときに、息止め開始および息止め終了の例えばメッセージを音声として発することができる。
【0030】
さらに、心電計測部は、患者Pの体表に付着させてECG信号を電気信号として検出するECGセンサ17と、このセンサ信号にデジタル化処理を含む各種の処理を施してホスト計算機6およびシーケンサ5に出力するECGユニット18とを備える。この心電計測部による計測信号は、prep.スキャンスキャンとイメージングスキャンとを心電同期法に拠り実行するときにホスト計算機6およびシーケンサ5により用いられる。
【0031】
次に、本実施形態の全体動作を説明する。
【0032】
撮像開始に際し、ホスト計算機6は、イメージングスキャンの前に、息止め法を併用してprep.スキャンの実行を指令する(図2参照)。
【0033】
具体的には、ホスト計算機6は、prep.スキャンを実行するスキャン条件およびパラメータの情報を入力器13から読み込む(図3ステップS1)。これらのスキャン条件及びパラメータの情報は、オペレータにより、後続のイメージングスキャンを考慮して任意に指定される。スキャン条件には、スキャンの種類、パルスシーケンスの種類、位相エンコード方向などが含まれる。パラメータ情報には、心電同期ためのR波からの遅延時間、パルスシーケンスに関わる複数のパラメータの所定値が含まれる。
【0034】
prep.スキャンには、好適には、撮像部位における所望のスライス領域を撮像可能な2次元スキャンパルスのシーケンスが指定される。また、パルスシーケンスのシーケンス列の種類としては、1回の励起で1スライスの画像再構成に使用する全データを収集可能なシーケンスが指定される。そのようなパルスシーケンスとしては、FASE法、FSE法、EPI法などである。
【0035】
次いで、ホスト計算機6は、上述した複数のパラメータの中で、データ収集毎に量を可変させるパラメータの指定情報を入力器13から読み込む(ステップS2)。この指定情報は、オペレータにより、パルスシーケンスの種類や撮像部位における血流の速度などの特性を考慮して指定される。
【0036】
次いで、ホスト計算機6は、図3に示すステップS3〜S19の処理を介して、読込情報から可変パラメータの種類を判定する。
【0037】
(1.フローボイド用のprep.スキャン)
最初に、可変パラメータ=フローボイド現象に関わるディフェーズ(dephase)パルスの強度か否かが判定される(ステップS3)。この判断がYESの場合、ディフェーズパルスの強度のデータ収集毎に変えたパルスシーケンスが設定される。
【0038】
図4に、かかるパルスシーケンスの概略を例示する。この例示に係るパルスシーケンスは、2次元のFASE法で各データ収集毎に1回の励起に付き合計4回(Acq.1〜Acq.4)のデータ収集を息止め法及び心電同期法を併用して実行するようになっている。心電同期法によりECG波の中のR波から同一遅延時間、即ち同一心時相で各回のデータ収集が開始される。パルスシーケンスとしては、この他にも、EPI法、FSE法などを用いてもよいが、複数回のデータ収集を息止め法及び心電同期法を併用して短時間で終わらせるには、各回のデータ収集が1回の励起で1スライス分のデータを収集できるシーケンスが望ましい。
【0039】
FASE法に係るパルスシーケンスに拠る各回のデータ収集において、1回のRF励起に付き、複数のエコーが時系列に発生し、各エコーが周波数エンコード方向、即ち読出し(Read−Out)方向傾斜磁場RO(白抜き部分)の印加と共に読み出される。このとき、読出し方向傾斜磁場ROの時間軸方向の前後に、当該磁場パルスROに連続させて、ディフェーズパルスDP(斜線部分)が付加されている。このディフェーズパルスDPの強度はデータ収集毎が変えられている。図4の例の場合、1回目のデータ収集Acc.1ではディフェーズパルスDP=0に、2回目のデータ収集Acc.2ではディフェーズパルスDP=小の強度に、3回目のデータ収集Acc.3ではディフェーズパルスDP=中の強度に、4回目のデータ収集Acc.4ではディフェーズパルスDP=大の強度に、それぞれ設定されている。なお、図4では位相エンコード方向傾斜磁場の図示を省略している。
【0040】
このように可変パラメータ=ディフェーズパルスDPが選択された場合、その他の可変パラメータを選択するステップS7,S9,S11,S13,S15,S17,S19,S21の判断はNOとなる。このため、ホスト計算機6は可変パラメータ=ディフェーズパルスDPに対応して設定されたprep.スキャンのパルスシーケンス情報を読み出してシーケンサ5に渡し、待機する(ステップS21)。
【0041】
次いで、ホスト計算機6はprep.スキャンの開始を判断できると(ステップS22)、シーケンサ5に指示を送り、息止めの指示を音声により行わせ(ステップS23)、心電同期法の基に同一心時相(即ちシングルフェーズ)にてprep.スキャンを実行させてエコーデータを収集する(ステップS24)。スキャン後には、息止め解除の音声メッセージが発せられる(ステップステップS25)。
【0042】
このprep.スキャンにより、図4に示す如く、合計4画像分に対する4回のRF励起によるデータ収集が順次実行される。各回のRF励起によるデータ収集で1スライス分のエコーデータが収集される。つまり、この例の場合、シングルスライス・シングルフェーズにてデータ収集がなされる。なお、同一の撮像部位であれば、マルチスライス・シングルフェーズでデータ収集を行うように設定してもよい。
【0043】
各RF励起に伴うデータ収集において、前述したように、読出し方向傾斜磁場ROに付加するディフェーズパルスDPの強度が変えられ、スピンの位相分散(ばらけ度合い)がその都度異なる。このため、4回のRF励起に伴う収集を介して収集されるエコーデータには、各回毎に異なるスピン位相分散が反映している。
【0044】
ホスト計算機6はprep.スキャンが終わると、演算ユニット10に画像再構成を指示し(ステップS26)、それらの再構成画像を表示させる(ステップS27、S28)。この表示画像は同一スライスの4枚の画像である。これらの画像には、ディフェーズパルスDPに拠る合計4通りの位相分散の度合いを変えた画質状態が反映されている。
【0045】
そこで、オペレータは表示された4枚の画像の中から血流画像が最も明瞭に描出された画像を、入力器13を介して指定する。この指定情報はホスト計算機6に読み取られ(ステップS29,S30)、次いで、ホスト計算機6により、この指定情報に対応する画像が収集されたときのディフェーズパルスDPの強度が判定される(ステップS31)。次いで、このディフェーズパルスDPの強度が、後続のイメージングスキャンのパルスシーケンスにおけるディフェーズパルスの強度として設定される(ステップS32)。
【0046】
このため、イメージングスキャンは、このようにprep.スキャンを通して設定されたディフェーズパルスDPの強度を含め、オペレータが設定する各種のパラメータ及びスキャン条件にて、実行される。例えば、prep.スキャンを通して設定されたディフェーズパルスDPの強度を含めた、3次元FASE法に基づくパルスシーケンスでイメージングスキャンが実行される。これにより、エコーデータの収集、画像再構成、画像処理、及び画像表示が行われる。
【0047】
従って、このイメージングスキャンにより得られる画像は、血流スピンの最適なばらけ状態で撮像された、フローボイド現象に因る信号値低下などの不都合を排除した描出能の優れたものとなる。
【0048】
すなわち、事前のprep.スキャンにより撮像部位の読出し方向における適切なフローボイド値(ディフェーズパルスの読出し傾斜磁場パルスに対する強度比)を確実に把握でき、これの把握結果を反映させた3次元のイメージングスキャンを行うことができる。
【0049】
なお、上述したディフェーズパルスに拠るprep.スキャンの収集データの信号値から血流の流速を測定することもできる。
【0050】
(2.実効TEeff時間用のprep.スキャン)
図3の処理に戻って、残りの可変パラメータの選択について説明する。図3のステップS3でNOの判断になる場合、ステップS5にて、可変パラメータ=実効TEeff時間か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図5に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集において実効TEeff時間の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS6)。この実効TEeff時間を変えるのは、撮像部位の画像のコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、実効TEeff時間=20ms,40ms,80ms,120ms,180ms,240msと変更される。
【0051】
このパルスシーケンスが実行されると、実効TEeff時間を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの実効TEeff時間を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0052】
なお、このprep.スキャンにおいて読出し時間を一致させることでT2緩和時間を測定することができる。
【0053】
(3.フロー補償用のprep.スキャン)
図3のステップS5でNOの判断になる場合、ステップS7にて、可変パラメータ=フロー補償パルスか否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図6に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてフロー補償パルスの強度を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS8)。このフロー補償パルスは、読出し傾斜磁場パルスの時間軸方向の前後それぞれに連続して付加される。このフロー補償パルスは、その強度を変えて、撮像部位における読出し周波数方向ROに発生するN/2アーチファクト成分の制限状況を変化させるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。図6の例は、FASE法に拠るパルス列を示しており、1回のprep.スキャンを構成する複数回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、フロー補償パルスFCPの強度が変更されている。例えば、このパルスシーケンスは、例えばシングルスライス・シングルフェーズにて実行されるが、マルチスライス・シングルフェーズで実行してもよい。
【0054】
このパルスシーケンスが実行されると、フロー補償パルスFCPの強度を変えたことに伴って、読出し方向のN/2アーチファクト成分が異なる画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望の画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのフロー補償パルスの強度を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0055】
(4.反転時間TI用のprep.スキャン)
図3のステップS7でNOの判断になる場合、ステップS9にて、可変パラメータ=TI時間か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図7に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてTI時間の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS10)。この実効TI時間を変えるのは、撮像部位の画像のコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元の反転回復(IR)法を併用したFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、TI時間=100ms,200ms,300ms,400ms,500ms,600msと変更される。
【0056】
このパルスシーケンスが実行されると、TI時間を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのTI時間を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0057】
なお、このprep.スキャンにおいて読出し時間を一致させることでT1緩和時間を測定することができる。
【0058】
(5.エコー間隔ETS用のprep.スキャン)
図3のステップS9でNOの判断になる場合、ステップS11にて、可変パラメータ=ETS時間か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図8に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてETS時間の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS12)。このETS時間を変えるのは、撮像部位の画像のコントラスト又はその位相エンコード方向におけるぼけ(Blurring)を変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元の反転回復(IR)法を併用したFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、ETS時間=5ms,5.5ms,6ms,6.5ms,7ms,7.5msと変更される。
【0059】
このパルスシーケンスが実行されると、ETS時間を変えたことに伴って異なるコントラスト又は位相エンコード方向に異なるぼけの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラスト又はぼけの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのETS時間を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0060】
なお、このprep.スキャンにおいて読出し時間を一致させることでT2緩和時間を測定することができる。
【0061】
(6.脂肪抑制パルスのフリップ用のprep.スキャン)
図3のステップS11でNOの判断になる場合、ステップS13にて、可変パラメータ=脂肪抑制パルスFatSatのフリップ角か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図9に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてフリップ角の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS14)。この脂肪抑制パルスFatSatのフリップ角の値を変えるのは、撮像部位の画像の脂肪抑制に伴うコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元の反転回復(IR)法を併用したFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、脂肪抑制パルスFatSatのフリップ角=90°,95°,100°,105°,110°,120°と変更される。
【0062】
このパルスシーケンスが実行されると、フリップ角の値を変えたことに伴って脂肪の異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの脂肪抑制パルスFatSatのフリップ角を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0063】
(7.脂肪抑制後のTI用のprep.スキャン)
図3のステップS13でNOの判断になる場合、ステップS15にて、可変パラメータ=脂肪抑制パルスFatSatを印加した後の反転時間TIか否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図10に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてTI時間の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS16)。この脂肪抑制パルスFatSat印加後のTI時間の値を変えるのは、撮像部位の画像の脂肪抑制に伴うコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、脂肪抑制パルスFatSat印加後のTI時間=10ms,12ms,14ms,16ms,18ms,20msと変更される。
【0064】
このパルスシーケンスが実行されると、TI時間値を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの脂肪抑制パルスFatSat印加後のTI時間を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0065】
(8.MTパルスのフリップ角用のprep.スキャン)
図3のステップS15でNOの判断になる場合、ステップS17にて、可変パラメータ=MTパルスのフリップ角か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図11に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてMTパルスのフリップ角(強度)の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS18)。このフリップ角の値を変えるのは、撮像部位の画像のMT(Magnetization Transfer:MTCとも呼ばれる)効果に拠るコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、MTパルスのフリップ角MTCFlip=90°,95°,100°,105°,110°,120°と変更される。
【0066】
このパルスシーケンスが実行されると、MTパルスのフリップ角の値を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのMTパルスのフリップ角を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0067】
(9.リフォーカスパルスのフリップ角用のprep.スキャン)
図3のステップS17でNOの判断になる場合、ステップS19にて、可変パラメータ=リフォーカスパルスのフリップ角か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図12に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてリフォーカスパルスのフリップ角(強度)の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS20)。このフリップ角の値を変えるのは、撮像部位の画像のコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、リフォーカスパルスのフリップ角Flop=180°,170°,160°,150°,140°,130°と変更される。
【0068】
このパルスシーケンスが実行されると、リフォーカスパルスのフリップ角の値を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのリフォーカスパルスのフリップ角を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0069】
なお、上述した実施形態において可変パラメータは常に1種類ずつ選択し、その値を可変するように構成しているが、必ずしもそうでなくてもよい。その一例を図13に示す。同図は、可変パラメータとしてフローボイドのディフェーズパルスDPとフロー補償のフロー補償パルスFCPとを一緒に選択し、この両方の値を変えながら前述と同様にprep.スキャンを行うときの、両パルスの印加の仕方を示している。これにより、複数回のRF励起を伴う1回のprep.スキャンにより、その複数回分に相当した複数枚の画像が、フローボイド及びフロー補償の双方について同時に収集できる。これにより、収集時間を節約できる一方で、双方パルスについて独立してその最適強度を設定することができる。
【0070】
なお、図13に示したパルス列では、フロー補償パルスFCPから印加を始めているが、その反対に、ディフェーズパルスDPから印加を始めるようにしてもよい(この場合、図13に示す矢印は下向きで表わされる)。
【0071】
これにより、従来のように、オペレータは経験に基づいて又は現場で思考錯誤的に、かかるフローボイド値を推定するという手間や時間が不要になる。つまり、試行錯誤で行うトライアルのスキャンも不要になる。この結果、1人の患者に要するトータルの撮像時間が確実に短縮され、患者スループットが改善され、また患者のSARを抑制できる。また、従来に比べて、オペレータの負担も軽減される。
【0072】
ところで、上述した各実施形態およびその変形例では、非造影に拠るMRアンギオグラフィ(MRA)を目的としていたが、撮像対象は血管のみに限定されず、繊維状に走行する組織等、任意の対象のものであってよい。
【符号の説明】
【0073】
1 磁石
2 静磁場電源
3 傾斜磁場コイルユニット
4 傾斜磁場電源
5 シーケンサ
6 コントローラ
7 RFコイル
8T 送信器
8R 受信器
10 演算ユニット
11 記憶ユニット
12 表示器
13 入力器
16 音声発生器
17 ECGセンサ
18 ECGユニット
19 音声発生器
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用の磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをそのラーモア周波数の高周波信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するMR信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
この磁気共鳴イメージングの分野において昨今注目されている撮像法の一つに、非造影アンギオグラフィがある。つまり、被検体に造影剤を投与することなく、被検体内の血管像や血流の情報を得る撮像法である。この非造影アンギオグラフィを行う場合、得られる情報量の多さの観点からは、3次元のイメージングスキャンが好まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した非造影アンギオグラフィを実施する場合、イメージングスキャンは、被検体のMR画像の質に影響するパルスシーケンスのパラメータは必ずしも最適とは言えない状態で実行されることが多々ある。
【0005】
このパラメータとして例えばフローボイド(flow void)現象を抑えるディフェーズパルスが挙げられる。血流が流れることによりフローボイド(flow void)現象が発生すると、収集するエコー信号の強度が低下するなどの不都合が生じることから、このフローボイドの程度は事前に把握して、フローボイドを考慮した撮像条件を個々の被検体毎に設定することが好ましい。
【0006】
非造影MRアンギオグラフィにより例えば下肢の血管を撮像する場合、血管の流速は、個人差に拠る違いがあることは勿論のこと、健常者と患者との間だけでも相当の違いある。また、同一被検体の下肢であっても、スキャンする部位が違えば血流速度は異なる。
【0007】
しかしながら、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの各種のパラメータの撮像前の適正化については、従来、殆ど研究されていないのが実情である。このため、オペレータが3次元のイメージングスキャン前に被検体内部まで見通して所望読出し方向におけるフローボイドの程度を正確に知ることは困難であった。そこで、オペレータは経験に基づいて又は現場で思考錯誤的に、かかるフローボイドの程度を推定し、これを撮像条件に反映させることしかできなかった。トライアルのスキャンを行ってフローボイドの程度を推定することはできるが、その場合、1人の患者に要するトータルの撮像時間が長くなって、患者スループットが低下する。また、患者のSARが大きくなる多い。
【0008】
非造影アンギオグラフィを実施する上で、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのパラメータは、上述のフローボイド値に限られず、実効エコー時間TEeff、流れの補償(flow compensation)、反転回復(IR)時間、エコー間隔ETS(echo train spacing)、脂肪抑制パルスのフリップ角、脂肪抑制パルス印加後の反転時間TI、MTパルスのフリップ角度、リフォーカスパルスのフリップ角度などがある。
【0009】
従来、特開平11−239571号には、心電同期法の基づくイメージングスキャンを行う際、事前に、最適な心電同期タイミングを測定するスキャンを行う手法が提案されている。しかしながら、この公報記載の手法は心電同期タイミングを考慮するものであり、その他のスキャンパラメータを広範囲に考慮するという視点に欠けていた。
【0010】
本発明は、このような現状を打破するためになされたもので、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの所望のパラメータを反映したエコー情報をイメージングスキャンの撮像前に収集して、この収集情報からそのパラメータのイメージングスキャンにおける最適値を確実に知ることができるようにした磁気共鳴イメージング装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様に係る磁気共鳴イメージング装置は、被検体のMR画像を得るためのイメージングスキャンを実行する磁気共鳴イメージング装置において、準備スキャンにより収集されたデータに基づいて、前記イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのパラメータについて複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像を生成する準備画像生成手段と、前記複数の準備画像のうちの特定の準備画像のパラメータ量を前記イメージングスキャンに反映させ、当該パラメータ量が反映されたイメージングスキャンを実行するイメージングスキャン実行手段と、を備え、前記準備スキャンは2次元スキャンであり、前記イメージングスキャンは心電同期法による3次元スキャンであり、前記複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像は、同一の遅延時間で準備スキャンが行われたデータに基づくものであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成の一例を示す機能ブロック図。
【図2】実施形態におけるprep.スキャンとメージングスキャンの時間の前後関係を説明する図。
【図3】ホスト計算機によるprep.スキャンで値を可変するパラメータの選択処理とその後処理を例示する概略フローチャート。
【図4】prep.スキャンの一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図5】prep.スキャンの別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図6】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図7】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図8】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図9】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図10】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図11】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図12】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【図13】prep.スキャンの更に別の一例を示す概略のパルスシーケンス。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0014】
この実施形態にかかる磁気共鳴イメージング装置の概略構成を図1に示す。
【0015】
この磁気共鳴イメージング装置は、被検体としての患者Pを載せる寝台部と、静磁場を発生させる静磁場発生部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と、RF(高周波)信号を送受信する送受信部と、システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部と、患者Pの心時相を表す信号としてのECG(心電図)信号を計測する心電計測部と、患者Pに息止めを指令する息止め指令部とを機能的に備えている。
【0016】
静磁場発生部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを備え、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部(診断用空間)の長手軸方向(Z軸方向)に静磁場H0を発生させる。なお、この磁石部にはシムコイル14が設けられている。このシムコイル14には、後述するホスト計算機の制御下で、シムコイル電源15から静磁場均一化のための電流が供給される。寝台部は、被検体Pを載せた天板を磁石1の開口部に退避可能に挿入できる。
【0017】
傾斜磁場発生部は、磁石1に組み込まれた傾斜磁場コイルユニット3を備える。この傾斜磁場コイルユニット3は、互いに直交するX、Y、Z軸方向の傾斜磁場を発生させるための3組(種類)のx,y,zコイル3x〜3zを備える。傾斜磁場部はさらに、x,y,zコイル3x〜3zに電流を供給する傾斜磁場電源4を備える。この傾斜磁場電源4は、後述するシーケンサの制御のもと、x,y,zコイル3x〜3zに傾斜磁場を発生させるためのパルス電流を供給する。
【0018】
傾斜磁場電源4からx,y,zコイル3x〜3zに供給されるパルス電流を制御することにより、3軸X,Y,Z方向の傾斜磁場を合成して、スライス方向傾斜磁場GS、位相エンコード方向傾斜磁場GE、および読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場GRの各方向を任意に設定・変更することができる。スライス方向、位相エンコード方向、および読出し方向の各傾斜磁場は静磁場H0に重畳される。
【0019】
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて患者Pの近傍に配設されるRF(高周波)コイル7と、このRFコイル7に接続された送信器8T及び受信器8Rとを備える。後述するシーケンサの制御のもと、この送信器8Tは、磁気共鳴(NMR)を励起させるためのラーモア周波数のRF電流パルスをRFコイル7に供給する一方、受信器8Rは、RFコイル7が受信したMR信号(高周波信号)を受信し、この受信信号に各種の信号処理を施して、対応するデジタルデータを形成するようになっている。
【0020】
さらに、制御・演算部は、シーケンサ(シーケンスコントローラとも呼ばれる)5、ホスト計算機6、演算ユニット10、記憶ユニット11、表示器12、および入力器13を備える。この内、ホスト計算機6は、記憶したソフトウエア手順により、シーケンサ5にパルスシーケンス情報を指令するとともに、シーケンサ5を含む装置全体の動作を統括する機能を有する。
【0021】
このMRI装置は、撮像のためのイメージングスキャンの前に、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスに関わるパラメータのうち、所望のパラメータの量を測定し、その最適な量のパラメータをイメージングスキャンに反映させること特徴としている。具体的には、ホスト計算機6は図2に示す如く、準備(preparation)スキャン(以下、prep.スキャンと呼ぶ)及び画像再構成用のエコーデータの収集を担うイメージングスキャンを行う。prep.スキャンは、その後のイメージングスキャンで使用するパルスシーケンスに関わる複数のパラメータのうち、所望のパラメータの量を適正化するために実行される。
【0022】
本実施形態では、パルスシーケンスに関わる複数のパラメータとして、
・被検体内の流体(血流など)のフローボイド現象を抑えるパルスの強度、
・被検体内のスピンの挙動に関する実行TEeff時間、
・流体の流れに拠るスピン移動を補償するパルス、
・スピンの反転回復、
・被検体から収集されるエコー信号のETS時間、
・被検体内に存在する脂肪から信号収集を抑制するために印加する脂肪抑制パルスのフリップ角、
・脂肪抑制パルス印加後のTI時間、
・スピンの挙動に関連して発生するMT効果を起こさせるMTパルスの強度、及び
・MT効果を低減させるリフォーカスパルスの角度
を考慮する。被検体の撮像したい血流、撮像部位、被検体の個体差などが考慮されてイメージングスキャンに使用するパルスシーケンスの種類が決まると、そのパルスシーケンスの各種のパラメータのうち、所望のパラメータが選択される。このパラメータが選択されると、prep.スキャンが、そのパラメータの量を複数回にわたって変更しながら実行される。つまり、1回のRF励起に伴う同一心時相での、被検体の撮像部位(イメージングスキャンと同一又は殆ど同一の部位)に対する複数回のデータ収集が行われる。これにより、同一撮像部位に対する複数枚の画像データが揃い、それぞれ再構成される。オペレータは再構成された複数枚の画像の中から、例えば最も画質に優れた画像を指定する。これにより、その指定画像がprep.スキャンで撮像されたときに設定していた選択パラメータの量が特定される。この選択パラメータの量は、一例として、オペレータの操作を介して続くイメージングスキャンに反映される。つまり、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの各種のパラメータのうち、prep.スキャンで可変されたパラメータに相当するパラメータには、prep.スキャンを通して特定された量(パルス強度、パルス角度、時間など)が設定される。
【0023】
また、prep.スキャン及びイメージングスキャン共に、例えば音声指示に拠る息止め法が併用される。
【0024】
なお、prep.スキャンは撮像部位の診断用の撮像自体を目的とするものではなく、上述のようにパルスシーケンスの所望パラメータの最適化を図るために実行される。このため、prep.スキャンで撮像する画像のマトリクスはイメージングスキャンのそれよりも粗いものでよい。また、イメージングスキャンが3次元スキャンのときに、prep.スキャンは2次元スキャンを行ってスキャン時間を節約することが好適である。さらに、prep.スキャン及びイメージングスキャンに用いるパルスシーケンスの種類自体は同一であることが望ましい。
【0025】
図1に戻って、シーケンサ5は、CPUおよびメモリを備えており、ホスト計算機6から送られてきたパルスシーケンス情報を記憶し、この情報にしたがって傾斜磁場電源4、送信器8T、受信器8Rの一連の動作を制御する。ここで、パルスシーケンス情報とは、一連のパルスシーケンスにしたがって傾斜磁場電源4、送信器8Tおよび受信器8Rを動作させるために必要な全ての情報であり、例えばx,y,zコイル3x〜3zに印加するパルス電流の強度、印加時間、印加タイミングなどに関する情報を含む。また、シーケンサ5は、受信器8Rが出力するデジタルデータ(MR信号)を入力して、このデータを演算ユニット10に転送する。
【0026】
このパルスシーケンスとしては、フーリエ変換法を適用できるものであれば、2次元(2D)スキャンまたは3次元(3D)スキャンであってもよい。また、パルス列の形態としては、SE(スピンエコー)法、FE(フィールド・グラジェントエコー)法、FSE(高速SE)法、EPI(エコープラナーイメージング)法、Fast asymmetric SE(FASE:FSE法にハーフフーリエ法を組み合わせた手法)法などを適用できる。
【0027】
また、演算ユニット10は、受信器8Rからシーケンサ5を介して送られてくるMR信号のデジタルデータを入力してフーリエ空間(k空間または周波数空間とも呼ばれる)への原データ(生データとも呼ばれる)の配置、および、原データを実空間画像に再構成するための2次元または3次元のフーリエ変換処理を行う一方で、画像データの合成処理を行うようになっている。なお、フーリエ変換処理はホスト計算機6に担当させてもよい。
【0028】
記憶ユニット11は、原データおよび再構成画像データのみならず、各種の処理が施された画像データを保管することができる。表示器12は画像を表示する。また入力器13を介して、オペレータが希望するパラメータの種類、スキャン条件、パルスシーケンスの種類とそのパラメータ、所望の画像処理法などの情報をホスト計算機6に入力できるようになっている。
【0029】
また、息止め指令部として音声発生器19を備えている。この音声発生器19は、ホスト計算機6から指令があったときに、息止め開始および息止め終了の例えばメッセージを音声として発することができる。
【0030】
さらに、心電計測部は、患者Pの体表に付着させてECG信号を電気信号として検出するECGセンサ17と、このセンサ信号にデジタル化処理を含む各種の処理を施してホスト計算機6およびシーケンサ5に出力するECGユニット18とを備える。この心電計測部による計測信号は、prep.スキャンスキャンとイメージングスキャンとを心電同期法に拠り実行するときにホスト計算機6およびシーケンサ5により用いられる。
【0031】
次に、本実施形態の全体動作を説明する。
【0032】
撮像開始に際し、ホスト計算機6は、イメージングスキャンの前に、息止め法を併用してprep.スキャンの実行を指令する(図2参照)。
【0033】
具体的には、ホスト計算機6は、prep.スキャンを実行するスキャン条件およびパラメータの情報を入力器13から読み込む(図3ステップS1)。これらのスキャン条件及びパラメータの情報は、オペレータにより、後続のイメージングスキャンを考慮して任意に指定される。スキャン条件には、スキャンの種類、パルスシーケンスの種類、位相エンコード方向などが含まれる。パラメータ情報には、心電同期ためのR波からの遅延時間、パルスシーケンスに関わる複数のパラメータの所定値が含まれる。
【0034】
prep.スキャンには、好適には、撮像部位における所望のスライス領域を撮像可能な2次元スキャンパルスのシーケンスが指定される。また、パルスシーケンスのシーケンス列の種類としては、1回の励起で1スライスの画像再構成に使用する全データを収集可能なシーケンスが指定される。そのようなパルスシーケンスとしては、FASE法、FSE法、EPI法などである。
【0035】
次いで、ホスト計算機6は、上述した複数のパラメータの中で、データ収集毎に量を可変させるパラメータの指定情報を入力器13から読み込む(ステップS2)。この指定情報は、オペレータにより、パルスシーケンスの種類や撮像部位における血流の速度などの特性を考慮して指定される。
【0036】
次いで、ホスト計算機6は、図3に示すステップS3〜S19の処理を介して、読込情報から可変パラメータの種類を判定する。
【0037】
(1.フローボイド用のprep.スキャン)
最初に、可変パラメータ=フローボイド現象に関わるディフェーズ(dephase)パルスの強度か否かが判定される(ステップS3)。この判断がYESの場合、ディフェーズパルスの強度のデータ収集毎に変えたパルスシーケンスが設定される。
【0038】
図4に、かかるパルスシーケンスの概略を例示する。この例示に係るパルスシーケンスは、2次元のFASE法で各データ収集毎に1回の励起に付き合計4回(Acq.1〜Acq.4)のデータ収集を息止め法及び心電同期法を併用して実行するようになっている。心電同期法によりECG波の中のR波から同一遅延時間、即ち同一心時相で各回のデータ収集が開始される。パルスシーケンスとしては、この他にも、EPI法、FSE法などを用いてもよいが、複数回のデータ収集を息止め法及び心電同期法を併用して短時間で終わらせるには、各回のデータ収集が1回の励起で1スライス分のデータを収集できるシーケンスが望ましい。
【0039】
FASE法に係るパルスシーケンスに拠る各回のデータ収集において、1回のRF励起に付き、複数のエコーが時系列に発生し、各エコーが周波数エンコード方向、即ち読出し(Read−Out)方向傾斜磁場RO(白抜き部分)の印加と共に読み出される。このとき、読出し方向傾斜磁場ROの時間軸方向の前後に、当該磁場パルスROに連続させて、ディフェーズパルスDP(斜線部分)が付加されている。このディフェーズパルスDPの強度はデータ収集毎が変えられている。図4の例の場合、1回目のデータ収集Acc.1ではディフェーズパルスDP=0に、2回目のデータ収集Acc.2ではディフェーズパルスDP=小の強度に、3回目のデータ収集Acc.3ではディフェーズパルスDP=中の強度に、4回目のデータ収集Acc.4ではディフェーズパルスDP=大の強度に、それぞれ設定されている。なお、図4では位相エンコード方向傾斜磁場の図示を省略している。
【0040】
このように可変パラメータ=ディフェーズパルスDPが選択された場合、その他の可変パラメータを選択するステップS7,S9,S11,S13,S15,S17,S19,S21の判断はNOとなる。このため、ホスト計算機6は可変パラメータ=ディフェーズパルスDPに対応して設定されたprep.スキャンのパルスシーケンス情報を読み出してシーケンサ5に渡し、待機する(ステップS21)。
【0041】
次いで、ホスト計算機6はprep.スキャンの開始を判断できると(ステップS22)、シーケンサ5に指示を送り、息止めの指示を音声により行わせ(ステップS23)、心電同期法の基に同一心時相(即ちシングルフェーズ)にてprep.スキャンを実行させてエコーデータを収集する(ステップS24)。スキャン後には、息止め解除の音声メッセージが発せられる(ステップステップS25)。
【0042】
このprep.スキャンにより、図4に示す如く、合計4画像分に対する4回のRF励起によるデータ収集が順次実行される。各回のRF励起によるデータ収集で1スライス分のエコーデータが収集される。つまり、この例の場合、シングルスライス・シングルフェーズにてデータ収集がなされる。なお、同一の撮像部位であれば、マルチスライス・シングルフェーズでデータ収集を行うように設定してもよい。
【0043】
各RF励起に伴うデータ収集において、前述したように、読出し方向傾斜磁場ROに付加するディフェーズパルスDPの強度が変えられ、スピンの位相分散(ばらけ度合い)がその都度異なる。このため、4回のRF励起に伴う収集を介して収集されるエコーデータには、各回毎に異なるスピン位相分散が反映している。
【0044】
ホスト計算機6はprep.スキャンが終わると、演算ユニット10に画像再構成を指示し(ステップS26)、それらの再構成画像を表示させる(ステップS27、S28)。この表示画像は同一スライスの4枚の画像である。これらの画像には、ディフェーズパルスDPに拠る合計4通りの位相分散の度合いを変えた画質状態が反映されている。
【0045】
そこで、オペレータは表示された4枚の画像の中から血流画像が最も明瞭に描出された画像を、入力器13を介して指定する。この指定情報はホスト計算機6に読み取られ(ステップS29,S30)、次いで、ホスト計算機6により、この指定情報に対応する画像が収集されたときのディフェーズパルスDPの強度が判定される(ステップS31)。次いで、このディフェーズパルスDPの強度が、後続のイメージングスキャンのパルスシーケンスにおけるディフェーズパルスの強度として設定される(ステップS32)。
【0046】
このため、イメージングスキャンは、このようにprep.スキャンを通して設定されたディフェーズパルスDPの強度を含め、オペレータが設定する各種のパラメータ及びスキャン条件にて、実行される。例えば、prep.スキャンを通して設定されたディフェーズパルスDPの強度を含めた、3次元FASE法に基づくパルスシーケンスでイメージングスキャンが実行される。これにより、エコーデータの収集、画像再構成、画像処理、及び画像表示が行われる。
【0047】
従って、このイメージングスキャンにより得られる画像は、血流スピンの最適なばらけ状態で撮像された、フローボイド現象に因る信号値低下などの不都合を排除した描出能の優れたものとなる。
【0048】
すなわち、事前のprep.スキャンにより撮像部位の読出し方向における適切なフローボイド値(ディフェーズパルスの読出し傾斜磁場パルスに対する強度比)を確実に把握でき、これの把握結果を反映させた3次元のイメージングスキャンを行うことができる。
【0049】
なお、上述したディフェーズパルスに拠るprep.スキャンの収集データの信号値から血流の流速を測定することもできる。
【0050】
(2.実効TEeff時間用のprep.スキャン)
図3の処理に戻って、残りの可変パラメータの選択について説明する。図3のステップS3でNOの判断になる場合、ステップS5にて、可変パラメータ=実効TEeff時間か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図5に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集において実効TEeff時間の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS6)。この実効TEeff時間を変えるのは、撮像部位の画像のコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、実効TEeff時間=20ms,40ms,80ms,120ms,180ms,240msと変更される。
【0051】
このパルスシーケンスが実行されると、実効TEeff時間を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの実効TEeff時間を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0052】
なお、このprep.スキャンにおいて読出し時間を一致させることでT2緩和時間を測定することができる。
【0053】
(3.フロー補償用のprep.スキャン)
図3のステップS5でNOの判断になる場合、ステップS7にて、可変パラメータ=フロー補償パルスか否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図6に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてフロー補償パルスの強度を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS8)。このフロー補償パルスは、読出し傾斜磁場パルスの時間軸方向の前後それぞれに連続して付加される。このフロー補償パルスは、その強度を変えて、撮像部位における読出し周波数方向ROに発生するN/2アーチファクト成分の制限状況を変化させるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。図6の例は、FASE法に拠るパルス列を示しており、1回のprep.スキャンを構成する複数回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、フロー補償パルスFCPの強度が変更されている。例えば、このパルスシーケンスは、例えばシングルスライス・シングルフェーズにて実行されるが、マルチスライス・シングルフェーズで実行してもよい。
【0054】
このパルスシーケンスが実行されると、フロー補償パルスFCPの強度を変えたことに伴って、読出し方向のN/2アーチファクト成分が異なる画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望の画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのフロー補償パルスの強度を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0055】
(4.反転時間TI用のprep.スキャン)
図3のステップS7でNOの判断になる場合、ステップS9にて、可変パラメータ=TI時間か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図7に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてTI時間の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS10)。この実効TI時間を変えるのは、撮像部位の画像のコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元の反転回復(IR)法を併用したFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、TI時間=100ms,200ms,300ms,400ms,500ms,600msと変更される。
【0056】
このパルスシーケンスが実行されると、TI時間を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのTI時間を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0057】
なお、このprep.スキャンにおいて読出し時間を一致させることでT1緩和時間を測定することができる。
【0058】
(5.エコー間隔ETS用のprep.スキャン)
図3のステップS9でNOの判断になる場合、ステップS11にて、可変パラメータ=ETS時間か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図8に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてETS時間の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS12)。このETS時間を変えるのは、撮像部位の画像のコントラスト又はその位相エンコード方向におけるぼけ(Blurring)を変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元の反転回復(IR)法を併用したFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、ETS時間=5ms,5.5ms,6ms,6.5ms,7ms,7.5msと変更される。
【0059】
このパルスシーケンスが実行されると、ETS時間を変えたことに伴って異なるコントラスト又は位相エンコード方向に異なるぼけの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラスト又はぼけの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのETS時間を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0060】
なお、このprep.スキャンにおいて読出し時間を一致させることでT2緩和時間を測定することができる。
【0061】
(6.脂肪抑制パルスのフリップ用のprep.スキャン)
図3のステップS11でNOの判断になる場合、ステップS13にて、可変パラメータ=脂肪抑制パルスFatSatのフリップ角か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図9に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてフリップ角の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS14)。この脂肪抑制パルスFatSatのフリップ角の値を変えるのは、撮像部位の画像の脂肪抑制に伴うコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元の反転回復(IR)法を併用したFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、脂肪抑制パルスFatSatのフリップ角=90°,95°,100°,105°,110°,120°と変更される。
【0062】
このパルスシーケンスが実行されると、フリップ角の値を変えたことに伴って脂肪の異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの脂肪抑制パルスFatSatのフリップ角を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0063】
(7.脂肪抑制後のTI用のprep.スキャン)
図3のステップS13でNOの判断になる場合、ステップS15にて、可変パラメータ=脂肪抑制パルスFatSatを印加した後の反転時間TIか否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図10に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてTI時間の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS16)。この脂肪抑制パルスFatSat印加後のTI時間の値を変えるのは、撮像部位の画像の脂肪抑制に伴うコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、脂肪抑制パルスFatSat印加後のTI時間=10ms,12ms,14ms,16ms,18ms,20msと変更される。
【0064】
このパルスシーケンスが実行されると、TI時間値を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスの脂肪抑制パルスFatSat印加後のTI時間を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0065】
(8.MTパルスのフリップ角用のprep.スキャン)
図3のステップS15でNOの判断になる場合、ステップS17にて、可変パラメータ=MTパルスのフリップ角か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図11に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてMTパルスのフリップ角(強度)の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS18)。このフリップ角の値を変えるのは、撮像部位の画像のMT(Magnetization Transfer:MTCとも呼ばれる)効果に拠るコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、MTパルスのフリップ角MTCFlip=90°,95°,100°,105°,110°,120°と変更される。
【0066】
このパルスシーケンスが実行されると、MTパルスのフリップ角の値を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのMTパルスのフリップ角を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0067】
(9.リフォーカスパルスのフリップ角用のprep.スキャン)
図3のステップS17でNOの判断になる場合、ステップS19にて、可変パラメータ=リフォーカスパルスのフリップ角か否かの判断がなされる。この判断でYESの場合、図12に示す如く、複数回のRF励起それぞれに伴うデータ収集においてリフォーカスパルスのフリップ角(強度)の値を変えたパルスシーケンスが設定される(ステップS20)。このフリップ角の値を変えるのは、撮像部位の画像のコントラストを変えるためである。パルスシーケンスとしては、2次元のFASE法、EPI法、FSE法などに拠るパルス列が好適である。例えば、1回のprep.スキャンを構成する合計6回のRF励起に伴うエコーデータの収集において、リフォーカスパルスのフリップ角Flop=180°,170°,160°,150°,140°,130°と変更される。
【0068】
このパルスシーケンスが実行されると、リフォーカスパルスのフリップ角の値を変えたことに伴って異なるコントラストの画像が複数枚、表示される(ステップS21〜S28)。このため、オペレータは所望のコントラストの画像を指定することで、イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのリフォーカスパルスのフリップ角を最適に且つ効率良く設定することができる(ステップS29〜S32)。
【0069】
なお、上述した実施形態において可変パラメータは常に1種類ずつ選択し、その値を可変するように構成しているが、必ずしもそうでなくてもよい。その一例を図13に示す。同図は、可変パラメータとしてフローボイドのディフェーズパルスDPとフロー補償のフロー補償パルスFCPとを一緒に選択し、この両方の値を変えながら前述と同様にprep.スキャンを行うときの、両パルスの印加の仕方を示している。これにより、複数回のRF励起を伴う1回のprep.スキャンにより、その複数回分に相当した複数枚の画像が、フローボイド及びフロー補償の双方について同時に収集できる。これにより、収集時間を節約できる一方で、双方パルスについて独立してその最適強度を設定することができる。
【0070】
なお、図13に示したパルス列では、フロー補償パルスFCPから印加を始めているが、その反対に、ディフェーズパルスDPから印加を始めるようにしてもよい(この場合、図13に示す矢印は下向きで表わされる)。
【0071】
これにより、従来のように、オペレータは経験に基づいて又は現場で思考錯誤的に、かかるフローボイド値を推定するという手間や時間が不要になる。つまり、試行錯誤で行うトライアルのスキャンも不要になる。この結果、1人の患者に要するトータルの撮像時間が確実に短縮され、患者スループットが改善され、また患者のSARを抑制できる。また、従来に比べて、オペレータの負担も軽減される。
【0072】
ところで、上述した各実施形態およびその変形例では、非造影に拠るMRアンギオグラフィ(MRA)を目的としていたが、撮像対象は血管のみに限定されず、繊維状に走行する組織等、任意の対象のものであってよい。
【符号の説明】
【0073】
1 磁石
2 静磁場電源
3 傾斜磁場コイルユニット
4 傾斜磁場電源
5 シーケンサ
6 コントローラ
7 RFコイル
8T 送信器
8R 受信器
10 演算ユニット
11 記憶ユニット
12 表示器
13 入力器
16 音声発生器
17 ECGセンサ
18 ECGユニット
19 音声発生器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体のMR画像を得るためのイメージングスキャンを実行する磁気共鳴イメージング装置において、
準備スキャンにより収集されたデータに基づいて、前記イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのパラメータについて複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像を生成する準備画像生成手段と、
前記複数の準備画像のうちの特定の準備画像のパラメータ量を前記イメージングスキャンに反映させ、当該パラメータ量が反映されたイメージングスキャンを実行するイメージングスキャン実行手段と、
を備え、
前記準備スキャンは2次元スキャンであり、
前記イメージングスキャンは心電同期法による3次元スキャンであり、
前記複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像は、同一の遅延時間で準備スキャンが行われたデータに基づくものであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記パラメータは、前記被検体内のスピンの反転時間であり、
前記イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスは、RF励起パルスの前に印加されるIRパルスを含むパルスシーケンスである、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記パラメータは、傾斜磁場ディフェーズパルスの強度であり、
前記イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスは、前記傾斜磁場ディフェーズパルスを含む非造影MRA用のパルスシーケンスである、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項1】
被検体のMR画像を得るためのイメージングスキャンを実行する磁気共鳴イメージング装置において、
準備スキャンにより収集されたデータに基づいて、前記イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスのパラメータについて複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像を生成する準備画像生成手段と、
前記複数の準備画像のうちの特定の準備画像のパラメータ量を前記イメージングスキャンに反映させ、当該パラメータ量が反映されたイメージングスキャンを実行するイメージングスキャン実行手段と、
を備え、
前記準備スキャンは2次元スキャンであり、
前記イメージングスキャンは心電同期法による3次元スキャンであり、
前記複数の相異なるパラメータ量に対応する複数の準備画像は、同一の遅延時間で準備スキャンが行われたデータに基づくものであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記パラメータは、前記被検体内のスピンの反転時間であり、
前記イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスは、RF励起パルスの前に印加されるIRパルスを含むパルスシーケンスである、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記パラメータは、傾斜磁場ディフェーズパルスの強度であり、
前記イメージングスキャンで用いるパルスシーケンスは、前記傾斜磁場ディフェーズパルスを含む非造影MRA用のパルスシーケンスである、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−66149(P2012−66149A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5139(P2012−5139)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2001−264721(P2001−264721)の分割
【原出願日】平成13年8月31日(2001.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2001−264721(P2001−264721)の分割
【原出願日】平成13年8月31日(2001.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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