説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 MRI装置に残留磁化が残存する場合であっても、MPGパルス印加に伴うk空間データ歪みを適正に補正する。
【解決手段】 補正用エコーデータ計測部の位相エンコード方向を異ならせて、補正用エコーデータの計測を行なう第1の予備計測と第2の予備計測との間で、置構造物に残存する残留磁化を消磁するデガウスシーケンスを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体中の水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を測定し、核の密度分布や緩和時間分布等を画像化する核磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置に関し、特に拡散強調画像におけるk空間データ歪みを補正することに関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
拡散強調画像を取得するシーケンス(以下「DWIパルスシーケンス」という)は、π(180度)パルスの前後に1対の強力な傾斜磁場パルス(以下「MPGパルス」という)を付加することにより、拡散運動の低い分子を高コントラストで取得することが可能である。その反面、強力な傾斜磁場パルスに起因する渦電流の影響を受け易くk空間データ歪みが生じ易い。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された技術は、MPGパルスに起因する渦電流によるk空間データ歪み量を、リードアウト方向および位相エンコード方向を第1の組に設定して、第1のリファレンスデータを取得し、次いで、リードアウト方向および位相エンコード方向を入れ替えて第1の組に設定して、第2のリファレンスデータを取得し、第1のリファレンスデータと第2のリファレンスデータとを用いて、本撮影(画像用エコーデータ計測部)で計測されたk空間データにおける歪みを補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2010/035569号公報
【特許文献2】特開2003-225223号公報
【特許文献3】特開2005-46587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に開示された技術では、MRI装置にMPGパルス等の傾斜磁場印加に伴う残留磁化が残る場合に、第1のリファレンスデータと第2のリファレンスデータとは、異なった磁場環境で計測されることになる。このような異なった磁場環境で計測されたリファレンスデータを用いて、k空間データ歪みを補正しても適正に補正されずに、最終的に再構成される画像にアーチファクトが残存する可能性が考えられる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、MRI装置に残留磁化が残存する場合であっても、MPGパルス印加に伴うk空間データ歪みを適正に補正することができるMRI装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、補正用エコーデータ計測部の位相エンコード方向を異ならせて、補正用エコーデータの計測を行なう第1の予備計測と第2の予備計測との間で、置構造物に残存する残留磁化を消磁するデガウスシーケンスを実行することを特徴とする。
【0009】
具体的には、本発明のMRI装置は、補正用エコーデータ計測部と画像用エコーデータ計測部とを有して成る撮像シーケンスを用いて、それぞれエコーデータの計測を制御する計測制御部と、補正用エコーデータ計測部で計測された補正用エコーデータを用いて、画像用エコーデータ計測部で計測されたk空間データの歪み補正を行う演算処理部と、を備え、計測制御部は、第1の方向を位相エンコード方向として第1の補正用エコーデータを計測する第1の予備計測と、第2の方向を位相エンコード方向として第2の補正用エコーデータを計測する第2の予備計測とで、それぞれ補正用エコーデータ計測部を実行し、演算処理部は、第1の補正用エコーデータと第2の補正用エコーデータとを用いて、k空間データの歪み補正を行う。その際、計測制御部は、第1の予備計測と第2の予備計測との間に、装置構造物に残存する残留磁化を消磁するデガウスシーケンスを実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のMRI装置によれば、MRI装置に残留磁化が残存する場合であっても、MPGパルス印加に伴うk空間データ歪みを適正に補正することができる。その結果、MRI装置に残留磁化が残存する場合であっても高画質のDWI画像を取得することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るMRI装置の一実施例における全体基本構成を示すブロック図。
【図2】本発明の一実施例の処理フローを表すフローチャート。
【図3】SE-EPIシーケンスを基本とするDWIシーケンスの一例を示すシーケンスチャート。
【図4】補正用エコーデータを計測するための補正用エコーデータ計測部の一例を示すシーケンスチャート。(a)図が第1の予備計測における補正用エコーデータ計測部の一例を示すシーケンスチャート、(b)図が第2の予備計測における補正用エコーデータ計測部の一例を示すシーケンスチャート。
【図5】デガウスシーケンスの一例を示す消磁パルス系列を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施例について詳説する。なお、発明の実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0013】
最初に、本発明に係るMRI装置を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。
【0014】
このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体101の断層画像を得るもので、図1に示すように、静磁場発生磁石102と、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109と、RF送信コイル104及びRF送信部110と、RF受信コイル105及び信号検出部106と、信号処理部107と、計測制御部111と、全体制御部108と、表示・操作部113と、被検体101を搭載する天板を静磁場発生磁石102の内部に出し入れするベッド112と、を備えて構成される。
【0015】
静磁場発生磁石102は、垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0016】
傾斜磁場コイル103[m1]は、MRI装置の実空間座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれ後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzが発生する。
【0017】
2次元スライス面の撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード(リードアウト)傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、NMR信号(エコー信号)にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0018】
RF送信コイル104は、被検体101にRFパルスを照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子のスピンにNMR現象が誘起される。具体的には、RF送信部110が、後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスが振幅変調され、増幅された後に被検体101に近接して配置されたRF送信コイル104に供給されることにより、RFパルスが被検体101に照射される。
【0019】
RF受信コイル105は、被検体101の生体組織を構成するスピンのNMR現象により放出されるエコー信号を受信するコイルであり、信号検出部106に接続されて受信したエコー信号が信号検出部106に送られる。
【0020】
信号検出部106は、RF受信コイル105で受信されたエコー信号の検出処理を行う。具体的には、後述の計測制御部111からの命令に従って、信号検出部106が、受信されたエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば128、256、512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換し、後述の信号処理部107に送る。 従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、エコーデータという)として得られる。
【0021】
信号処理部107は、エコーデータに対して各種処理を行い、処理したエコーデータを計測制御部111に送る。
【0022】
計測制御部111は、被検体101の断層画像の再構成に必要なエコーデータ収集のための種々の命令を、主に、傾斜磁場電源109と、RF送信部110と、信号検出部106に送信してこれらを制御する制御部である。具体的には、計測制御部111は、後述する全体制御部108の制御で動作し、ある所定のシーケンスに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号検出部106を制御して、被検体101へのRFパルスの照射及び傾斜磁場パルスの印加と、被検体101からのエコー信号の検出と、を繰り返し実行し、被検体101の撮像領域についての画像の再構成に必要なエコーデータの収集を制御する。繰り返しの際には、2次元撮像の場合には位相エンコード傾斜磁場の印加量を、3次元撮像の場合には更にスライスエンコード傾斜磁場の印加量も、変えて行なう。位相エンコードの数は通常1枚の画像あたり128、256、512等の値が選ばれ、スライスエンコードの数は、通常16、32、64等の値が選ばれる。これらの制御により信号処理部107からのエコーデータを全体制御部108に出力する。
【0023】
全体制御部108は、計測制御部111の制御、及び、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等の制御を行うものであって、CPU及びメモリを内部に有する演算処理部114と、光ディスク、磁気ディスク等の記憶部115とを有して成る。具体的には、計測制御部111を制御してエコーデータの収集を実行させ、計測制御部111からのエコーデータが入力されると、演算処理部114がそのエコーデータに印加されたエンコード情報に基づいて、メモリ内のk空間に相当する領域に記憶させる。以下、エコーデータをk空間に配置する旨の記載は、エコーデータをメモリ内のk空間[m2]に相当する領域に記憶させることを意味する。また、メモリ内のk空間に相当する領域に記憶されたエコーデータ群をk空間データともいう。そして演算処理部114は、このk空間データに対して信号処理やフーリエ変換による画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の画像を、後述の表示・操作部113に表示させると共に記憶部115に記録させる。
【0024】
表示・操作部113は、再構成された被検体101の画像を表示する表示部と、MRI装置の各種制御情報や上記全体制御部108で行う処理の制御情報を入力するトラックボール又はマウス及びキーボード等の操作部と、から成る。この操作部は表示部に近接して配置され、操作者が表示部を見ながら操作部を介してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0025】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0026】
次に、本発明のMRI装置の実施例を説明する。本実施例は、補正用エコーデータ計測部と画像用エコーデータ計測部とを有して成る撮像シーケンスを用いてDWI計測を行なう際に、補正用エコーデータ計測部で計測された補正データを用いて、画像用エコーデータ計測部で計測されたk空間データの歪みを補正する。補正用エコーデータの計測においては、画像用エコーデータ計測部と異なる位相エンコード方向に設定された補正用エコーデータ計測部で補正用エコーデータを計測する第1の予備計測と、同じ位相エンコード方向に設定された補正用エコーデータ計測部で補正用エコーデータを計測する第2の予備計測と、を行う。そして、両者の補正用エコーデータを用いて、画像用エコーデータ計測部で計測されたk空間データの歪みを補正する。
【0027】
その際、2つの予備計測の間に、MRI装置構造物に残存する残留磁場を消磁するためのデガウスシーケンスを実行する。これにより、第1の予備計測後にMRI装置に残存する残留磁化による誤差磁場が、第2の予備計測及びその後の画像用エコーデータの計測に残らずに影響しないようにする。また、先に実行する第1の予備計測における補正用エコーデータ計測部の位相エンコード方向を、画像用エコーデータ計測部における位相エンコード方向と異なる方向とし、後に実行する第2の予備計測における補正用エコーデータ計測部の位相エンコード方向を、画像用エコーデータ計測部における位相エンコード方向と同じ方向とする。これにより、画像用エコーデータ計測部で計測される画像用エコーデータへの影響を最小限にすることができ、画像の画質を向上させる。
【0028】
以下、本実施例の処理フローの概要を図2に示すフローチャートを用いて説明する。本処理フローは、予めプログラムとして記憶部に記憶されており、演算処理部114が記憶部からそのプログラムを読み込んで実行することにより実施される。
【0029】
ステップ201で、演算処理部114は、位相エンコード方向を第1の方向に設定して、計測制御部111に補正用エコーデータ計測部を実行させて第1の予備計測を行なわせる。第1の方向は、後述する第2の予備計測で実行される補正用エコーデータ計測部及びその後の画像用エコーデータ計測部における位相エンコード方向である第2の方向と異なる方向であり、スライス方向に対しても直交する方向とする。つまり、第1の予備計測においては、位相エンコード方向が第1の方向とされ周波数エンコード方向が第2の方向とされる。この指示を受けて計測制御部111は、位相エンコード方向を第1の方向とする補正用エコーデータ計測部を実行して、補正用エコーデータを計測し、計測した補正用エコーデータ(以下、第1の補正用エコーデータという)を演算処理部114に通知する。なお、位相エンコード方向を第1の方向に設定した補正用エコーデータ計測部の詳細は後述する。
【0030】
ステップ202で、演算処理部114は、計測制御部111にデガウス(Degauss)シーケンスを実行させる。その指示を受けて計測制御部111は、デガウスシーケンスを実行し、MRI装置本体に残留する残留磁場を消磁する。デガウスシーケンスの詳細は後述する。
【0031】
ステップ203で、演算処理部114は、位相エンコード方向を第2の方向に設定して、計測制御部111に補正用エコーデータ計測部を実行させて第2の予備計測を行なわせる。第2の方向は、前述した第1の予備計測で実行された補正用エコーデータ計測部における位相エンコード方向である第1の方向と異なる方向であり、スライス方向に対しても直交する方向とする。つまり、第2の予備計測においては、位相エンコード方向が第2の方向とされ周波数エンコード方向が第1の方向とされる。この指示を受けて計測制御部111は、位相エンコード方向を第2の方向とする補正用エコーデータ計測部を実行して、補正用エコーデータを計測し、計測した補正用エコーデータ(以下、第2の補正用エコーデータという)を演算処理部114に通知する。なお、第2の予備計測で実行される補正用エコーデータ計測部における位相エンコード方向は、この後に実行される画像用エコーデータ計測部における位相エンコード方向と同一するのが好ましく、それ故、本ステップの位相エンコード方向と画像用エコーデータ計測部の位相エンコード方向とを、同じ第2の方向とする。なお、位相エンコード方向を第2の方向に設定した補正用エコーデータ計測部の詳細は後述する。
【0032】
ステップ204aで、演算処理部114は位相エンコード方向を第2の方向に設定して、計測制御部111に画像用エコーデータ計測部を実行させる。その指示を受けて計測制御部111は、位相エンコード方向を第2の方向とする画像用エコーデータ計測部を実行して、画像用エコーデータを計測し、計測した画像用エコーデータを演算処理部114に通知する。演算処理部114は、計測された画像用エコーデータをメモリ内の所定のk空間に配置してk空間データとする。
【0033】
ステップ204bで、演算処理部114は、ステップ201で取得された第1の補正用エコーデータと、ステップ203で取得された第2の補正用エコーデータと、を用いて、ステップ204aで取得されたk空間データの歪みを補正するための補正データを作成する。なお、本ステップ204bの演算処理は演算処理部114が行い、ステップ204aの計測処理と並行して行っても良い。
【0034】
ステップ205で、演算処理部111は、ステップ204aで取得されたk空間データに対して、ステップ204bで作成した補正データを用いてk空間データ歪補正を行う。k空間データ歪み補正の詳細は特許文献1に記載されており、本実施例でもこの手法を用いるものであるので、詳細な説明は省略する。
【0035】
ステップ206で、演算処理部111は、ステップ205で歪み補正されたk空間データを用いて、画像を再構成する。
【0036】
ステップ207で、演算処理部111は、ステップ206で再構成された画像を表示部に表示させる。
以上までが、本実施例の処理フローの概要である。
【0037】
次に、上記処理フローにおける各処理の詳細を説明する。最初に、補正用エコーデータ計測部と画像用エコーデータ計測部の詳細を説明する。
【0038】
画像用エコーデータ計測部は拡散強調画像(Diffusion Weighted Image; DWI)を取得するので、そのパルスシーケンスはDWIパルスシーケンスを基本とする。DWIパルスシーケンスの一例として、SE-EPIパルスシーケンスにMPGパルスを適用したパルスシーケンスが公知(特許文献2)であり、本実施例の画像用エコーデータ計測部は、このSE-EPIパルスシーケンスを基本とする。また、補正用エコーデータ計測部は、画像用エコーデータ計測部で計測されるエコーデータに潜在する位相ひずみを補正するためのエコーデータを計測するため、画像用エコーデータ計測部と略同一形状のパルスシーケンスを用いるが、位相エンコード傾斜磁場を印加しない。従って、位相エンコード傾斜磁場以外は補正用エコーデータ計測部もSE-EPIパルスシーケンスを基本とする。なお、画像用エコーデータ計測部と補正用エコーデータ計測部は、基本とするパルスシーケンスが他のタイプのDWIパルスシーケンスでも良い。
【0039】
そこで、SE-EPIパルスシーケンスの詳細を図3に示すシーケンスチャートに基づいて説明する。このパルスシーケンスは、例えばプログラムとして予め記憶部に記憶されて、必要に応じて演算処理部114が読み出して計測制御部111にその内容を送信して実行される。そして、計測制御部111は補正用エコーデータ計測部の実行において次の制御を行なう。即ち、スライス方向Gs(装置座標でZ方向とする)にスライス選択傾斜磁場311を印加しながらスライス選択90°RFパルス301を印加して所望のスライス領域を励起する。その後に読み出し方向Gr(装置座標でX方向とする)に第1MPGパルス331を印加する。次に、励起領域の磁化を反転してエコー信号を形成させるためにスライス方向Gsに傾斜磁場312と180°反転RFパルス302を印加する。その後に読み出し方向Gr(装置座標でY方向とする)に第2MPGパルス332を印加する。これらのRFパルス及び傾斜磁場の後に、位相エンコード方向Gpに空間情報のエンコードを行うための位相エンコード傾斜磁場322と、信号読み出し方向Grに周波数エンコードを行うと同時にエコー信号の読み出しを行うための傾斜磁場334の極性を反転させながら印加して、画像再構成用の複数のエコー信号を計測する。位相エンコード傾斜磁場322及び信号読みだし傾斜磁場334の印加の前には、それぞれディフェーズ傾斜磁場321,333を印加して、k空間上に配置するエコーデータの初期位置を調整する。
【0040】
なお、補正用エコーデータ計測部は、ディフェーズ傾斜磁場321及び位相エンコード322が印加されない。つまり、補正用エコーデータ計測部では、位相エンコード方向に傾斜磁場が印加されない。このSE-EPIパルスシーケンスは、例えば(特許文献2)に説明されているので、これ以上の詳述は省略する。
【0041】
特に、補正用エコーデータ計測部では、上記SE-EPIパルスシーケンスにおいて、位相エンコード方向を第1の方向に設定した第1の予備計測と、位相エンコード方向を第2の方向に設定した第2の予備計測と、を行う。そのため、図2に示す位相エンコード方向Gpの軸は第1の予備計測と第2の予備計測とでは異なる。例えば、MRI装置の実空間座標系(静止座標系)である(X,Y,Z)の3軸方向に関して、図4(a)に示す様に第1の予備計測では、位相エンコード方向GpをX軸方向に、図4(b)に示す様に第2の予備計測では位相エンコード方向GpをY軸方向に、それぞれ設定することができる。オブリーク撮像の場合には、スライス方向Gs、位相エンコード方向Gp、周波数エンコード方向Grが静止座標系(X,Y,Z)内で複雑に回転するために、(Gs,Gp,Gr)と(X,Y,Z)との対応が複雑になる。
【0042】
以上は、補正用エコーデータ計測部の概要の説明であるが、本実施例の補正用エコーデータ計測部、及び、この補正用エコーデータ計測部で計測されるべき補正用エコーデータの詳細は、特許文献1に記載されており、本実施例の詳細は、この特許文献1に開示された手法を用いるので、詳細な説明は省略する。
【0043】
次に、デガウスシーケンスの詳細を説明する。デガウスとは、傾斜磁場の印加に基づくMRI装置の構造物に残留する残留磁化をゼロにすることであり、そのためのパルスシーケンスがデガウスシーケンスである。図5にデガウスシーケンスの一例のシーケンスチャートを示す。図5に示すデガウスシーケンスは、MRI装置が印加可能な最大強度の傾斜磁場から振幅が順次減衰し且つ極性が交互に反転する一連の消磁パルス列からなる。このような消磁パルス列を、少なくとも1軸、好ましくは3軸方向のすべてに印加することにより、MRI装置の構造物(例えば永久磁石等の強磁性体)が保持する残留磁化をゼロに戻すことができる。なお、図5では一例として8個のパルスからなる消磁パルス列を示しているが、必要に応じて傾斜磁場パルスの個数および印加時間を変更することができる。なお、図3に示す消磁パルスの詳細は、特許文献3に詳述されているので、これ以上の詳述は省略する。ただし、本実施例のデガウスシーケンスは、図3に示すデガウスシーケンスに限られず、残留磁化をゼロにする機能を有するパルスシーケンスであればいずれも適用可能である。
【0044】
なお、前述の処理フローでは、第1の予備計測と第2の予備計測との間にデガウスシーケンスを実行する例を説明したが、第2の予備計測と画像用エコー信号計測部の実行との間にもデガウスシーケンスの実行を挿入してもよい。さらに、第1の予備計測と第2の予備計測との間に実行されるデガウスシーケンスと、第2の予備計測と画像用エコー信号計測部の間に実行されるデガウスシーケンスとで、それらの消磁パルス系列を異ならせても良い。例えば、消磁パルス数や、各消磁パルスの振幅や極性を異ならせても良い。第2の予備計測における補正用エコーデータ計測部と画像用エコーデータ計測部とでは位相エンコード方向が同一にされるので、第2の予備計測と画像用エコーデータ計測部との間の磁場環境の変化は、第1の予備計測と第2の予備計測との間よりも少なくなると考えられる。そのため、第2の予備計測と画像用エコーデータ計測部との間に実行されるデガウスシーケンスは、第1の予備計測と第2の予備計測との間に実行されるデガウスシーケンスよりも、消磁パルス数や消磁パルスの振幅を少なくしても良い。
【0045】
以上説明したように、本実施例のMRI装置によれば、補正用エコーデータ計測部と画像用エコーデータ計測部とで、位相エンコード傾斜磁場以外は略同一のパルスシーケンスを用いるので、いかなる撮像条件であっても、k空間データ歪みを適正に補正できる補正データを取得できる。さらに、少なくとも補正用エコーデータを計測する第1の予備計測と第2の予備計測との間に、MRI装置構造部に残留する残留磁場を消磁するためのデガウスシーケンスを挿入して実行するので、第1の予備計測と第2の予備計測とでそれぞれ計測される補正用エコーデータが同じ磁場環境で計測されることになり、画像用エコーデータ計測部で取得されたk空間データの歪みを適正に補正することが可能になる。さらに、画像用エコーデータ計測部とその前に実行される第2の予備計測における補正用エコーデータ計測部とを同一の位相エンコード方向とすることで、つまり、第2の予備計測で実行される補正用エコーデータ計測部と画像用エコーデータ計測部とで、略同一のパルスシーケンスとすることで、画像用エコーデータ計測部で計測される画像用エコーデータへの影響を最小限にすることができ、画像の画質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0046】
101 被検体、102 静磁場発生磁石、103 傾斜磁場コイル、104 送信RFコイル、105 受信RFコイル、106 信号検出部106、107 信号処理部、108 全体制御部、109 傾斜磁場電源、110 RF送信部、111 計測制御部、112 ベッド、113 表示・操作部、114 演算処理部、115 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補正用エコーデータ計測部と画像用エコーデータ計測部とを有して成る撮像シーケンスを用いて、それぞれエコーデータの計測を制御する計測制御部と、
前記補正用エコーデータ計測部で計測された補正用エコーデータを用いて、前記画像用エコーデータ計測部で計測されたk空間データの歪み補正を行う演算処理部と、
を備え、
前記計測制御部は、第1の方向を位相エンコード方向として第1の補正用エコーデータを計測する第1の予備計測と、第2の方向を位相エンコード方向として第2の補正用エコーデータを計測する第2の予備計測とで、それぞれ前記補正用エコーデータ計測部を実行し、
前記演算処理部は、前記第1の補正用エコーデータと前記第2の補正用エコーデータとを用いて、前記k空間データの歪み補正を行う磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、前記第1の予備計測と前記第2の予備計測との間に、装置構造物に残存する残留磁化を消磁するデガウスシーケンスを実行することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、前記画像用エコーデータ計測部の実行前に前記第2の予備計測を実行し、その際、該第2の予備計測における補正用エコーデータ計測部の位相エンコード方向を、該画像用エコーデータ計測部の位相エンコード方向と同じ方向に設定することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、前記第1の予備計測を前記第2の予備計測の前に実行し、その際、該第1の予備計測における補正用エコーデータ計測部の位相エンコード方向と、該第2の予備計測における補正用エコーデータ計測部の位相エンコード方向とを異ならせることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、前記第2の予備計測と前記画像用エコーデータ計測部との間に、前記デガウスシーケンスを実行することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計測制御部は、前記第1の予備計測と前記第2の予備計測との間に実行するデガウスシーケンスと、前記第2の予備計測と前記画像用エコーデータ計測部との間に実行するデガウスシーケンスとを異ならせることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−95891(P2012−95891A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247218(P2010−247218)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】