説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】SARや血管信号の残存を低減するとともに、血流信号のSNRを向上させることができる磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置では、撮像条件設定部は、被検体内を流れる流体の流速に応じて、当該流体の標識化を行うためのRF波が印加されるタグ領域の空間的な厚さを示すタグ厚及び当該RF波が印加される時間間隔を示すタグ間隔を含むタグ条件を設定する。データ収集部は、前記撮像条件設定部により設定された前記タグ間隔で前記RF波を前記タグ領域に複数回印加し、当該RF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に前記流体が流れる撮像領域の磁気共鳴データを収集する。画像再構成部は、前記データ収集部により収集された磁気共鳴データから画像を再構成する。流体画像生成部は、画像再構成部により再構成された画像から流体画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気共鳴イメージング装置により造影剤を用いずに血流情報を得る方法として、ASL(Arterial Spin Labeling)法が知られている。ASL法は、被検体にRF波を印加することで被検体内を流れる血液を磁気的に標識化し、標識化された血液をトレーサとして利用することによって、灌流(パフュージョン:Perfusion)画像を得る方法である。
【0003】
かかるASL法には、例えば、PASL(Pulsed ASL)法や、CASL(Continuous ASL)法、PCASL(Pulsed Continuous ASL)法がある。PASL法はパルス波(RFパルス)を用いる方法であり、CASL法は連続波を用いる方法である。また、PCASL法は、CASL法の実用化を目的としたものであり、短いRFパルスを多数用いる方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Edelmann RR et al、Radiology 192:513-519(1994)
【非特許文献2】木村徳典: Modified STAR using asymmetric inversion slabs(ASTAR)法による非侵襲血流イメージング、日磁医誌 2001;20(8)、374-385
【非特許文献3】Kwong KK, Chesler DA, koff RM, Donahue KM, et al、MR perfusion studies with T1-weighted echo planar imaging、Magn Reson Med 1995; 34:878-887
【非特許文献4】Mani S et al. MRM 37:898-905 (1997)
【非特許文献5】Wells JA at al. In vivo hadamard encoded continuous arterial spin labeling(H−CASL). MRM 63:1111-1118 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、SARや血管信号の残存を低減するとともに、血流信号のSNRを向上させることができることができる磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、撮像条件設定部と、データ収集部と、画像再構成部と、流体画像生成部とを備える。撮像条件設定部は、被検体内を流れる流体の流速に応じて、当該流体の標識化を行うためのRF波が印加されるタグ領域の空間的な厚さを示すタグ厚及び当該RF波が印加される時間間隔を示すタグ間隔を含むタグ条件を設定する。データ収集部は、前記撮像条件設定部により設定された前記タグ間隔で前記RF波を前記タグ領域に複数回印加し、当該RF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に前記流体が流れる撮像領域の磁気共鳴データを収集する。画像再構成部は、前記データ収集部により収集された磁気共鳴データから画像を再構成する。流体画像生成部は、画像再構成部により再構成された画像から流体画像を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、第1の実施形態に係るMRI装置の構成例を示す図である。
【図2】図2は、従来のASL法の原理を説明するための図(1)である。
【図3】図3は、従来のASL法の原理を説明するための図(2)である。
【図4】図4は、従来のASL法の原理を説明するための図(3)である。
【図5】図5は、従来のASL法の原理を説明するための図(4)である。
【図6】図6は、従来のPASL法を説明するための図である。
【図7】図7は、第1の実施形態に係るMRI装置100により実行されるMT−PASL法の概要を示す図である。
【図8】図8は、第1の実施形態に係るMT−PASL法による血液の標識化を説明するための図(1)である。
【図9】図9は、第1の実施形態に係るMT−PASL法による血液の標識化を説明するための図(2)である。
【図10】図10は、第1の実施形態に係るMRI装置100の構成例を示す図である。
【図11】図11は、第1の実施形態に係るMT−PASL法におけるタグ間隔とAIFとの関係を示す図(1)である。
【図12】図12は、第1の実施形態に係るMT−PASL法におけるタグ間隔とAIFとの関係を示す図(2)である。
【図13】図13は、第1の実施形態に係るMT−PASL法におけるタグ間隔とAIFとの関係を示す図(3)である。
【図14】図14は、第1の実施形態に係るMRI装置100によって実行されるMT−PASL法の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】図15は、第2の実施形態に係るMT−PASL法によるタグ厚を固定した場合のデータ収集を説明するための図(1)である。
【図16】図16は、第2の実施形態に係るMT−PASL法によるタグ厚を固定した場合のデータ収集を説明するための図(2)である。
【図17】図17は、第2の実施形態に係るMT−PASL法によるタグ厚を固定した場合のデータ収集を説明するための図(3)である。
【図18】図18は、第2の実施形態に係るMT−PASL法による通過時間を固定した場合のデータ収集を説明するための図(1)である。
【図19】図19は、第2の実施形態に係るMT−PASL法による通過時間を固定した場合のデータ収集を説明するための図(2)である。
【図20】図20は、第2の実施形態に係るMT−PASL法による通過時間を固定した場合のデータ収集を説明するための図(3)である。
【図21】図21は、第2の実施形態に係るMT−PASL法におけるRFパルスのプロファイルの改善を説明するための図である。
【図22】図22は、第3の実施形態に係るHE−MT−MASL法を説明するための図(1)である。
【図23】図23は、第3の実施形態に係るHE−MT−MASL法を説明するための図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下では添付図面を参照して、磁気共鳴イメージング装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態では、磁気共鳴イメージング装置をMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置と呼ぶ。
【0009】
実施形態に係るMRI装置は、撮像条件設定部と、データ収集部と、画像再構成部と、流体画像生成部とを備える。撮像条件設定部は、被検体内を流れる流体の流速に応じて、当該流体の標識化を行うためのRF波が印加されるタグ領域の空間的な厚さを示すタグ厚及び当該RF波が印加される時間間隔を示すタグ間隔を含むタグ条件を設定する。データ収集部は、前記撮像条件設定部により設定された前記タグ間隔で前記RF波を前記タグ領域に複数回印加し、当該RF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に前記流体が流れる撮像領域の磁気共鳴データを収集する。画像再構成部は、前記データ収集部により収集された磁気共鳴データから画像を再構成する。流体画像生成部は、画像再構成部により再構成された画像から流体画像を生成する。
【0010】
なお、以下に示す実施形態では、流体を血液とし、流体画像を血流画像とした場合の例について説明するが、例えば、流体をCSF(CcerebroSpinal fluid)とした場合でも同様の実施形態を適用可能である。また、以下に示す実施形態では、血流画像を灌流画像とした場合の例について説明するが、例えば、血流画像を血管画像(MRA(MR Angio):アンギオ画像)とした場合でも同様の実施形態を適用可能である。
【0011】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係るMRI装置の構成例について説明する。図1は、第1の実施形態に係るMRI装置の構成例を示す図である。図1に示すように、このMRI装置100は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、寝台4、寝台制御部5、送信RFコイル6、送信部7、受信RFコイル8、受信部9、シーケンサ10、ECG(Electrocardiogram)センサ21、ECGユニット22、及び計算機システム30を備える。
【0012】
静磁場磁石1は、中空の円筒形状に形成された磁石であり、内部の空間に一様な静磁場を発生する。この静磁場磁石1としては、例えば永久磁石、超伝導磁石等が使用される。
【0013】
傾斜磁場コイル2は、中空の円筒形状に形成されたコイルであり、静磁場磁石1の内側に配置される。この傾斜磁場コイル2は、互いに直交するX,Y,Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成されており、これら3つのコイルは、後述する傾斜磁場電源3から個別に電流供給を受けて、X,Y,Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生させる。なお、Z軸方向は、静磁場と同方向とする。傾斜磁場電源3は、傾斜磁場コイル2に電流を供給する。
【0014】
ここで、傾斜磁場コイル2によって発生するX,Y,Z各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge及びリードアウト用傾斜磁場Grにそれぞれ対応する。スライス選択用傾斜磁場Gsは、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場Geは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の位相を変化させるために利用される。リードアウト用傾斜磁場Grは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の周波数を変化させるために利用される。
【0015】
寝台4は、被検体Pが載置される天板4aを備え、後述する寝台制御部5による制御のもと、被検体Pが載置された状態で天板4aを傾斜磁場コイル2の空洞(撮像口)内へ挿入する。通常、この寝台4は、長手方向が静磁場磁石1の中心軸と平行になるように設置される。寝台制御部5は、制御部36による制御のもと、寝台4を制御する装置であり、寝台4を駆動して、天板4aを長手方向及び上下方向へ移動する。
【0016】
送信RFコイル6は、傾斜磁場コイル2の内側に配置され、送信部7から高周波パルスの供給を受けて高周波磁場を発生する。送信部7は、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信RFコイル6に送信する。
【0017】
受信RFコイル8は、傾斜磁場コイル2の内側に配置され、上記の高周波磁場の影響によって被検体Pから放射される磁気共鳴信号を受信する。この受信RFコイル8は、磁気共鳴信号を受信すると、その磁気共鳴信号を受信部9へ出力する。
【0018】
受信部9は、受信RFコイル8から出力される磁気共鳴信号に基づいてMR(Magnetic Resonance:磁気共鳴)データを生成する。具体的には、この受信部9は、受信RFコイル8から出力される磁気共鳴信号をデジタル変換することによってMRデータを生成する。このMRデータは、前述したスライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge及びリードアウト用傾斜磁場Grによって、PE(Phase Encode)方向、RO(Read Out)方向、SE(Slice Encode)方向の空間周波数の情報が対応付けられることで、k空間に対応するデータとして生成される。そして、MRデータを生成すると、受信部9は、そのMRデータをシーケンサ10へ送信する。なお、受信部9は、静磁場磁石1や傾斜磁場コイル2などを備える架台装置側に備えられていてもよい。
【0019】
シーケンサ10は、計算機システム30から送信されるシーケンス情報に基づいて、傾斜磁場電源3、送信部7及び受信部9を駆動することによって、被検体Pのスキャンを行う。ここで、シーケンス情報とは、傾斜磁場電源3が傾斜磁場コイル2に供給する電源の強さや電源を供給するタイミング、送信部7が送信RFコイル6に送信するRF信号の強さやRF信号を送信するタイミング、受信部9が磁気共鳴信号を検出するタイミングなど、スキャンを行うための手順を定義した情報である。
【0020】
なお、シーケンサ10は、傾斜磁場電源3、送信部7及び受信部9を駆動して被検体Pをスキャンした結果、受信部9からMRデータが送信されると、そのMRデータを計算機システム30へ転送する。
【0021】
ECGセンサ21は、被検体Pの体表に付着され、被検体Pの心拍、脈波、呼吸などを示すECG信号を電気信号として検出する。ECGユニット22は、ECGセンサ21により検出されたECG信号にA/D変換処理やディレー処理を含む各種処理を施してゲート信号を生成し、生成したゲート信号をシーケンサ10に送信する。
【0022】
計算機システム30は、MRI装置100の全体制御を行う。例えば、計算機システム30は、上述した各部を駆動することで、データ収集や画像再構成などを行う。この計算機システム30は、インタフェース部31、画像再構成部32、記憶部33、入力部34、表示部35、及び制御部36を有する。
【0023】
インタフェース部31は、計算機システム30とシーケンサ10との間でやり取りされる各種信号の送受信を制御する。例えば、このインタフェース部31は、シーケンサ10に対してシーケンス情報を送信し、シーケンサ10からMRデータを受信する。MRデータを受信すると、インタフェース部31は、各MRデータを被検体Pごとに記憶部33に格納する。
【0024】
画像再構成部32は、記憶部33によって記憶されたMRデータに対して後処理すなわちフーリエ変換等の再構成処理を施すことで、被検体Pの体内が描出された画像データを生成する。
【0025】
記憶部33は、インタフェース部31により受信されたMRデータや、画像再構成部32により生成された画像データなどを被検体Pごとに記憶する。
【0026】
入力部34は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。この入力部34としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスを適宜に利用可能である。
【0027】
表示部35は、制御部36による制御のもと、スペクトラムデータあるいは画像データ等の各種の情報を表示する。この表示部35としては、液晶表示器などの表示デバイスを利用可能である。
【0028】
制御部36は、図示していないCPUやメモリ等を有し、MRI装置100の全体制御を行う。具体的には、この制御部36は、入力部34を介して操作者から受け付けられた各種指示に基づいてシーケンス情報を生成し、生成したシーケンス情報をシーケンサ10に送信することによってスキャンを制御したり、スキャンの結果としてシーケンサ10から送られるMRデータに基づいて行われる画像の再構成を制御したりする。
【0029】
以上、実施形態1に係るMRI装置の構成例について説明した。このような構成のもと、MRI装置100は、ASL法により灌流画像を作成する機能を有する。なお、ASL法は、被検体にRF波を印加することで被検体内を流れる血液を磁気的に標識化し、標識化された血液をトレーサとして利用することによって、灌流画像を得る方法である。
【0030】
ここで、従来のASL法による灌流画像の作成について説明する。図2〜5は、従来のASL法の原理を説明するための図である。図2の(a)及び(b)は、それぞれ血管のフローモデルを示しており、「artery」は動脈を示し、「arteriole」は細動脈を示し、「capillary」は毛細血管を示し、「vein」は静脈を示し、「Tracer」はトレーサを示している。また、「flow:f」は血流の流れを示しており、矢印が血流の向きを示している。
【0031】
図2の(a)に示すように、酸素や栄養素を含んだ血液は、動脈から流入し、平均通過時間(MTT:Mean Transit Time)の間に毛細血管床内でガスや代謝物との交換後に、静脈へ流出される。ここで、比較的太い血管内の血液は灌流には寄与しないので、正確な灌流測定を行うためには、図2の(b)に示すように、トレーサがすべて毛細血管内にあり、動脈及び静脈にはトレーサがない状態が望ましい。
【0032】
図3の(a)は、図2と同様のフローモデルを示しており、血液が標識化されてから対象組織に達する前の遅れ時間Td(Transit delay)が異なる3種類の毛細血管床を示している。また、図3の(b)は、図3の(a)に示した3種類の毛細血管床それぞれの組織における信号強度の経時的な変化と、血液のT1緩和の経時的な変化を示している。ここで、血液のT1緩和D(t)は、血液の縦緩和時間をT1とすると、時間tの関数D(t)=exp[−t/T1]で表される。
【0033】
例えば、図3の(a)に示すように、脳などの一つの臓器内の毛細血管床には、Tdが異なる無数の組織が集まっている(図3の(a)に示すA、B、C)。そして、一般的に、トレーサは動脈の上流のある1地点で与えられる。例えば、ASLでは、トレーサは頚動脈にRF波を印加することによって与えられる。その結果、毛細血管床の組織における信号強度の変化は、トレーサによって、t=Tdの到達後に立ち上がり、組織の血流動態に応じたTIC(Time Intensity Curve:信号強度曲線)となる。例えば、図3の(b)に示すように、組織AではTdに立ち上がるTICとなり、組織BではTdに立ち上がるTICとなり、組織CではTdに立ち上がるTICとなる。また、ASLでは、Tdが長いほどT1緩和による信号の減衰が大きくなる。
【0034】
図4及び5は、図3と同様のフローモデルと信号強度及びT1緩和の経時的な変化とを示している。図4は、ボーラス幅が短い場合(図4の(a)に示すTbolusを参照)を示し、図5は、ボーラス幅が長い場合(図5の(a)に示すTbolusを参照)を示している。なお、図4及び5において、ボーラス濃度(AIF(Arterial Input Function)の縦軸の大きさ)のは一定であるとする。このような場合には、図4の(b)及び図5の(b)に示すように、血液を標識化した後のある時刻TIにおいて、Tdの異なる組織間でトレーサ濃度(信号強度)の差異が低減し、トレーサ濃度自体も増大する。すなわち、ボーラス幅が長い方が、TdにロバストにSNRも大きくなる。
【0035】
しかし、ある時刻TIにおけるトレーサ濃度のみの測定では、測定された信号値は正しく血流に比例せず、組織毎にTdに応じた補正が必要になる。ASLでは、血液の縦緩和D(t)は時間tのみに依存するので、測定された信号値を1/D(t)で補正すれば、緩和を無視することができる。また、対象組織の大きさがボクセルサイズに比べて同程度か小さければ、ボクセル内でトレーサ濃度が平衡状態でなくても、トレーサの平均濃度が測定されるとみなすことができる。なお、トレーサのボーラス幅が組織内の毛細血管を満たすのに十分長ければ、トレーサの平均濃度は一定値以上にはならない。
【0036】
このようなASL法のニーズは、「造影剤を用いずに、毛細血管床のみで、太い血管の信号が抑制され、かつ、極力SNR(Signal Noise Ratio)が大きく定量的な血流情報を得たい」ということである。また、別途、血管内の血流の形態や動態情報などを「付加的に得たい」というニーズもある。
【0037】
従来、ASL法は、その用途から、大きく、MRA(MR Angio)とMRP(MR Perfusion)とに分けられる。MRAは血管画像を得るための方法であり、MRPは灌流画像を得るための方法である。MRPでは、MRAに比べて血流信号のSNRが背景の静止組織よりもはるかに小さい(1/1000以下)画像が得られる。そのため、MRPでは、タグ画像とコントロール画像との差分をとるなど、背景信号を抑制するための処理が行われる。また、差分をとる場合でもコントロール画像とタグ画像とでMTC効果を同じにしたり、低マトリクスでの複数回の加算平均が行われたりする。
【0038】
また、ASL法は、RF波によるラベル方式の違いから、大きく、PASL法と、CASL法と、PCASL法とに分けられる。PASL法はパルス波(RFパルス)を用いる方法であり、CASL法は連続波を用いる方法である。また、PCASL法は、CASL法の実用化を目的としたものであり、短いRFパルスを多数用いる方法である。
【0039】
なお、CASL法とPCASL法は性質が類似しているため、以下では、両者をまとめてCASL法と呼ぶ。また、PASL法とCASL法とは、動脈血を標識化する際のトレーサ濃度の時間関数であるAIF(Arterial Input Function)に相当する縦磁化密度Mz(t)の違いとしてモデル化される。
【0040】
PASL法は、CASL法に対して血流信号のSNRが不十分とされているが、RFパルスの印加が1回であるので、RFパルスの印加時間が20msec程度と短い。そのため、PASL法は、標識用のRFパルスが印加される範囲を通過する血液が反転される割合であるタグ効率が100%に近い、流速や磁場変動に対して安定している、SARが比較的小さい、などの特長を有する。
【0041】
このPASL法では、タグ厚が10cm〜∞と大きく設定され、標識化された血液のうち、上流側に位置する後端部が下流側に位置する先端部より送れて撮像領域に到達する。そのため、PASLのAIFは、TIの長さによって、血液のT1緩和による減衰を伴う形状となる。ここで、AIFにおける印加時間Ttagは、血流の流速Vbloodとタグ厚Dtagとから決まる。タグ内の通過時間Ttagは、定常流の場合は、Ttag=Dtag/Vblood及びTtecのうち短い方、すなわち、Ttag=min[Dtag/Vblood,Ttec]で決まる。なお、Ttecは、標識用のRFパルスが印加されてからタグの血液信号をゼロにするためのサチュレーションパルスが印加されるまでの時間である。
【0042】
一方、CASL法は、標識化される血液の量(AIFの時間積分値)が大きいため、血流信号であるASL信号のSNRが高い。そのため、CASL法では、標識用のRF波が印加されてから磁気共鳴データが収集されるまでの待ち時間TIを長く設定できるので、流速が遅い血管内の血液が撮像領域に残存しにくいという特長を有する。
【0043】
以上、従来のPASL法及びCASL法について説明したが、これらPASL法及びCASL法では、以下のような課題があることが知られている。
【0044】
まず、PASL法は、SNRが低下するため、TIを長く設定できない。そのため、PASL法では、血流の流速が遅いか、又は流路が長いために、Tdが大きい血管では血管信号が残存しやすいという課題がある。
【0045】
一方、CASL法は、RFアンプやSARの制約によって実用的でない場合もある。また、CASL法の改良法であるPCASL法は、パルス波(RF波)を用いるものの、全体の印加時間が2sec程度と長い。そのため、CASL法では、磁場不均一性に弱い、流速によりタグ効率がばらつく、PASL法と比べてSARが大きい、などの課題がある。
【0046】
また、CASL法は、CASL法は、SNRが大きいものの、TIはAIFの前半部(標識用のRF波が印加される時間内で最初に標識化された部分)の方が後半部より長いため、Tdの大きな組織でのASL信号に寄与する確率が増大する。しかし、後半で標識化された部分は、撮像領域に到達できずに血管内に残存する確率が増大する。CASLでは、これを低減するために、標識用のRF波が印加された後の待ち時間Tpld(post labeling delay)を長くすることで、標識化された血液を消している。しかし、このTpldが経過するまでの間は何も行わずに待つしかなく、無駄な時間が生じる。なお、かかるCASLでは、Ttag=Tpldで決まる。
【0047】
また、連続的に血流の時間的な変化である動態変化を観察する場合には、CASL法では、標識用のRF波の印加からデータ収集までを繰り返す間隔である繰り返し時間Trepeatが長いため、PASL法と比べて時間的な効率が劣る。標識用のRF波を1回印加した後にTIを変化させながら連続的にデータ収集を行う場合は、CASL法でもよい。しかし、通常のMRPでは、イメージングのSNRが不十分であるため、標識用のRF波を複数回印加することによる加算平均が必要となるので、Trepeatは短いほうがトータルの時間は短くできる。
【0048】
また、時間的な効率を向上させるための手法として、近年、Hadamard Encoding(HE)を応用した方法(以下、HE法と呼ぶ)が提案されている。このHE法は、TIの間の待ち時間を有効に利用して、タグモード用及びコントロールモード用のRF波を効率よく組み合わせて複数の画像を収集し、収集した画像を加減算することによりTIを変えた複数のASL画像を作成することで、収集時間を低減しつつSNRを向上させる方法である。このHE法は、CASL法との組み合わせで提案されている。
【0049】
かかるHE法は、PASL法及びCASL法の両方に適用可能であるが、イメージングの前に、標識用の多くのRF波が必要になるため、1つのRFパルスを用いる方法と比べてSARが増大する方法である。したがって、HE法は、SARが比較的大きくなることや、標識用のRFパルス間に空き時間が生じることなどの理由から、PASL法との相性がよい。また、PASL法では、RF波間の空き時間における任意の時刻に、背景組織を抑制するための複数個のmIRパルスを追加しやすい。また、PASL法では、標識用のRF波が印加される際のSARを抑えることができるので、イメージングで許容されるSARを増やすことができる。すなわち、特に高磁場でSSFPが用いられる場合には、FA(Flip Angle)を大きく設定することができ、SNRを向上させることができる。
【0050】
以上のように、従来のPASL法には、SNRが低い、大きな血管で血管信号が残存しやすいなどの課題がある。また、従来のCASL法には、PASL法と比べてSARが大きい、タグ(標識用のパルス)の印加時間が長いなどの課題がある。
【0051】
このような課題に対し、第1の実施形態に係るMRI装置100は、PASL法をベースにしながら、CASL法と比べてSARや血管信号の残存を低減するとともに、CASL法と同じがそれ以上の血流信号のSNRを提供することができるデータ収集方法を実行する。
【0052】
具体的には、MRI装置100は、被検体内を流れる血液の流速に応じて、当該血液の標識化を行うためのRF波が印加されるタグ領域の空間的な厚さを示すタグ厚及び当該RF波が印加される時間間隔を示すタグ間隔を含むタグ条件を設定する。そして、MRI装置100は、設定されたタグ間隔で標識用のRF波をタグ領域に複数回印加し、当該RF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に血液が流れる撮像領域のMRデータを収集し、収集されたMRデータから画像を再構成する。
【0053】
以下、かかるMRI装置100について具体的に説明する。まず、第1の実施形態に係るMRI装置100について説明する前に、従来のPASL法について説明しておく。図6は、従来のPASL法を説明するための図である。図6は、タグモード用のRFパルスを1回印加し、当該RFパルスを印加してから待ち時間TIが経過した後にデータ収集を行うSingle−Tag−PASL(ST−PASL)法の一例を示している。図6において、(a)は、ST−PASL法におけるRFパルスの印加範囲の一例を示しており、(b)は、ST−PASL法のパルスシーケンスの一例を示している。
【0054】
PASL法では、タグ画像を生成するためのタグモードのデータ収集とコントロール画像を生成するためのコントロールモードのデータ収集とがそれぞれ実行される。例えば、タグモードでは、図6に示すように、まず、撮像領域41を包含する領域42に飽和パルスSAT1が印加され、続いて、撮像領域41の上流に設定されたタグ領域43にタグモード用のRFパルスtag RFが印加される。
【0055】
その後、データ収集(図6(b)示すimaging)の開始からTInss2だけ前の時点で、撮像領域41の上流に設定されたタグ領域43及び下流に設定されたコントロール領域44を含む領域45に、領域非選択IRパルスnssIR2が印加される。続いて、RFパルスtag RFを印加してから所定の時間Ttecが経過した後に、撮像領域41の上流に設定されたタグ領域43を包含する領域46に、飽和パルスSAT2が印加される。ここで、飽和パルスSAT2は、撮像領域41内にある太い血管内の信号を低減させるために用いられる。
【0056】
その後、データ収集の開始からTInss1だけ前の時点で、撮像領域41の上流に設定されたタグ領域43及び下流に設定されたコントロール領域44を含む領域45に、領域非選択IRパルスnssIR1が印加される。ここで、領域非選択IRパルスnssIR1及びnssIR2は、所定のタイミングで縦磁化を反転させることで、脳の白質や灰白質などの複数の異なる組織の信号強度を選択的に抑制するために用いられる。そして、タグモード用のRFパルスを印加してから待ち時間TIが経過した時点で、撮像領域41からのデータ収集が開始される。
【0057】
一方、コントロールモードでは、図6に示すように、まず、撮像領域41を包含する領域42に飽和パルスSAT1が印加され、続いて、撮像領域41の下流に設定されたコントロール領域44にコントロールモード用のRFパルスcontrol IRが印加される。
【0058】
その後、タグモードと同様に、領域非選択IRパルスnssIR2、飽和パルスSAT2、及び領域非選択IRパルスnssIR1が順に印加される。そして、領域非選択IRパルスnssIR1を印加してからTInss1が経過した時点で、撮像領域41からのデータ収集が開始される。
【0059】
第1の実施形態に係るMRI装置100は、上述したPASL法をベースにしながら、1回のデータ収集に対して標識用のRFパルスを複数回印加する撮像法を実行する。以下では、かかるMRI装置100によって実行される撮像法をMulti−Tag−PASL(MT−PASL)法と呼ぶ。
【0060】
図7は、第1の実施形態に係るMRI装置100により実行されるMT−PASL法の概要を示す図である。図7において、(a)は、従来のST−PASL法によるデータ収集におけるAIFと組織TICとを示しており、(b)は、MT−PASL法によるデータ収集におけるAIFと組織TICとを示している。
【0061】
図7の(a)に示すように、従来のST−PASL法では、標識用のRFパルス(tag/control RF)51が1回され、RFパルス51が印加されてから待ち時間TIが経過した後にデータ収集(imaging)が行われる。この結果、図7の(a)に示すAIF61及び組織TIC71が得られる。
【0062】
これに対し、第1の実施形態に係るMRI装置100は、MT−PASL法を実行する場合には、図7の(b)に示すように、例えば、複数の標識用のRFパルス52〜54をタグ間隔Tintで印加し、最初のRFパルス52が印加されてから待ち時間TIが経過した後にデータ収集を行う。なお、図7の(b)において、AIF62及び組織TIC72はRFパルス52に対応し、AIF63及び組織TIC73はRFパルス53に対応し、AIF64及び組織TIC74はRFパルス54に対応する。
【0063】
ここで、例えば、MRI装置100は、被検体内を流れる血液の流速に応じて、タグ厚Dtag及びタグ間隔Tintを含むタグ条件を設定する。具体的には、MRI装置100は、血液がタグ領域を通過するのに要する通過時間Ttagとタグ間隔Tintとが同じになるように、タグ厚Dtag及びタグ間隔Tintの少なくとも一方を設定する。これにより、タグ間隔Tintごとにタグ厚Dtagで標識化された血液が空間的に隙間なく連続することになる。
【0064】
図8及び9は、第1の実施形態に係るMT−PASL法による血液の標識化を説明するための図である。図8は、MT−PASL法において標識用のRFパルスを3回印加した場合に標識化 される血液の空間的な分布の一例を示している。図8の(a)〜(c)に示すように、例えば、t=0、t=Tint、t=2Tintそれぞれにおいて、タグ厚をDtagとしたタグ領域81にRFパルスが印加されたとする。この場合は、図8の(d)に示すように、t=3Tintにおいてタグ領域81の外に流出する血液は、空間的に隙間なく標識化される結果、3Dtagの範囲が標識化されることになる。
【0065】
一方、図9は、ST−PASL法において標識用のRFパルスを1回印加した場合に標識化される血液の空間的な分布の一例を示している。図9の(a)に示すように、例えば、t=0において、タグ厚が3Dtagであるタグ領域82にRFパルスが印加された場合には、図9の(b)に示すように、t=3Tintにおいてタグ領域82の外に流出する血液は、3Dtagの範囲が標識化されることになる。すなわち、MT−PASL法においてタグ厚をDtagとしてRFパルスを3回印加した場合に標識化される血液の範囲は、ST−PASL法においてタグ厚を3Dtagとした場合に標識化される血液の範囲と同じになる。
【0066】
この結果として、図7の(c)に示すように、MT−PASL法における全体のAIF65は、AIF62〜64を合成したものになり、ST−PASL法におけるAIF61に比べて、AIFの時間積分値が大きくなる。また、MT−PASL法における全体の組織TIC75は、組織TIC72〜74を合成したものになり、組織ASL信号のSNRが増大する。したがって、第1の実施形態に係るMRI装置100によれば、PASL法をベースにしながら、CASL法と比べてSARや血管信号の残存を低減するとともに、CASL法と同じがそれ以上の血流信号のSNRを提供することができる。
【0067】
次に、上述したMRI装置100の構成例について説明する。図10は、第1の実施形態に係るMRI装置100の構成例を示す図である。図10では、図1に示したシーケンサ10及び計算機システム30を示しており、さらに、計算機システム30が有する機能部のうち、インタフェース部31、画像再構成部32、記憶部33、入力部34、表示部35、及び制御部36を示している。
【0068】
図10に示すように、記憶部33は、撮像パラメータ記憶部33a、MRデータ記憶部33b、及び画像データ記憶部33cを有する。
【0069】
撮像パラメータ記憶部33aは、血流画像を得るための撮像条件を設定するうえで必要な各種の撮像パラメータを記憶する。MRデータ記憶部33bは、インタフェース部31を介してシーケンサ10から受信されたMRデータを記憶する。画像データ記憶部33cは、画像再構成部32によりMRデータから再構成された画像を記憶する。
【0070】
また、制御部36は、撮像条件設定部36a、データ収集部36b、血流画像生成部36c、及び表示制御部36dを有する。
【0071】
撮像条件設定部36aは、入力部34を介して操作者から受け付けられた各種指示と、撮像パラメータ記憶部33aにより記憶された撮像パラメータとに基づいて撮像条件を設定する。また、撮像条件設定部36aは、MT−PASL法による撮像が行われる場合には、被検体内を流れる血液の流速に応じて、当該血液の標識化を行うためのRF波が印加されるタグ領域の空間的な厚さを示すタグ厚及び当該RF波が印加される時間間隔を示すタグ間隔を含むタグ条件を設定する。
【0072】
なお、第1の実施形態では、撮像条件設定部36aは、MT−PASL法による撮像が行われる場合に、血液の流れを定常流とみなしてタグ条件を設定する例について説明する。血液の流れを定常流とすると、血液の流速をVblood、タグ厚をDtagとした場合に、血液がタグ領域を通過するのに要する通過時間をTtagは、Ttag=Dtag/Vbloodで表される。
【0073】
ここで、タグ効率を最大にするためには、血液の流速に応じて、タグ厚及びタグ間隔を含むタグ条件を最適に設定することが望まれる。そこで、撮像条件設定部36aは、MT−PASL法による撮像が行われる場合に、血液が流れる方向で、順次標識化される血液が2回以上標識化されないように干渉を避け、かつ、標識化された血液間に隙間が生じないように、タグ条件を設定する。
【0074】
具体的には、撮像条件設定部36aは、血液がタグ領域を通過するのに要する通過時間Ttagとタグ間隔Tintとが同じになるように、タグ厚Dtag及びタグ間隔Tintを設定する。すなわち、撮像条件設定部36aは、以下に示す式1を満たすように、タグ間隔Tintを設定する。
【0075】
int=Dtag/Vblood ・・・(式1)
【0076】
図11〜13は、第1の実施形態に係るMT−PASL法におけるタグ間隔とAIFとの関係を示す図である。図11は、Tint=Ttagとした場合を示しており、(a)は、標識化される血液の空間的な分布を示しており、(b)は、標識用のRFパルスの印加タイミングを示しており、(c)は、(a)に示した矢印83の位置におけるAIFを示している。また、図12は、Tint>Ttagとした場合を示しており、(a)は、標識化される血液の空間的な分布を示しており、(b)は、標識用のRFパルスの印加タイミングを示しており、(c)は、(a)に示した矢印84の位置におけるAIFを示している。また、図13は、Tint<Ttagとした場合を示しており、(a)は、標識化される血液の空間的な分布を示しており、(b)は、標識用のRFパルスの印加タイミングを示しており、(c)は、(a)に示した矢印85の位置におけるAIFを示している。
【0077】
前述したように、通過時間Ttagとタグ間隔Tintとが同じになるようにタグ厚Dtag及びタグ間隔Tintを設定することによって、図11の(a)に示すように、血液が流れる方向で、タグ間隔Tintごとにタグ厚Dtagで標識化された血液が空間的に隙間なく連続することになる。この結果、図11の(c)に示すように、各RFパルスに対応する個々のAIFでは磁化が緩和しつつも、全体のAIFでは、時間軸に沿ってAIFが隙間なく並ぶことになり、AIFの時間積分値が増大する。
【0078】
なお、Tint>Ttagとした場合には、図12の(a)に示すように、空間的に標識化されない血液が生じるので、図12の(c)に示すように、各RFパルスに対応するAIFの間にも隙間が生じることになる。したがって、Tint=Ttagとした場合と比べてAIFの時間積分値が小さくなり、タグ効率が低下することになる。
【0079】
また、Tint<Ttagとした場合には、図13の(a)に示すように、いったん標識化された血液の一部に含まれる核スピンが次のRFパルスによって再度反転(inversion)されることになる。これにより、ΔMzの値は、緩和によってM0からM0×exp(−t/Tint)だけ小さくなった後に反転された値をM0から差し引くことになる。この結果、図13の(c)に示すように、各RFパルスに対応するAIFは、Tint<t<TtagでΔMzは0にならず、小さな正の値として残る。しかし、Tint=Ttagとした場合と比べてAIFの時間積分値が小さくなり、タグ効率が低下することになる。
【0080】
なお、撮像条件設定部36aは、例えば、血液の流速として、タグ部の血管(標識用のパルスが印加される血管)の種類ごとにあらかじめ決められた血液の標準的な流速を用いる。または、撮像条件設定部36aは、例えば、血液の流速として、本スキャンの前に行われるプリスキャンにより計測された血液の流速を用いるようにしてもよい。この場合には、MRI装置100は、例えば、プリスキャンにおいてPhase Contrast(PC)法を実行することによって、血液の流速を計測する。
【0081】
図10の説明にもどって、データ収集部36bは、撮像条件設定部36aにより設定された撮像条件に基づいてシーケンス情報を生成し、インタフェース部31を介して、生成したシーケンス情報をシーケンサ10に送信する。また、データ収集部36bは、インタフェース部31を介してシーケンサ10から受信したMRデータをMRデータ記憶部33bに格納する。
【0082】
また、データ収集部36bは、MT−PASL法による撮像が行われる場合には、撮像条件設定部36aにより設定されたタグ間隔で標識用のRF波をタグ領域に複数回印加し、当該RF波が印加されてから所定の待ち時間TIが経過した後に血液が流れる撮像領域のMRデータを収集する。
【0083】
具体的には、データ収集部36bは、上述したPASL法によるデータ収集において、タグモードでは、撮像条件設定部36aにより設定されたタグ間隔で、タグモード用のRFパルスをタグ領域に複数回印加し、RF波が印加されてから待ち時間TIが経過した後に撮像領域のMRデータを収集する。また、データ収集部36bは、コントロールモードでは、撮像条件設定部36aにより設定されたタグ間隔で、コントロールモード用のRFパルスをコントロール領域に複数回印加し、RF波が印加されてから待ち時間TIが経過した後に撮像領域のMRデータを収集する。
【0084】
例えば、データ収集部36bが、t=0、t=Tint、t=2Tintそれぞれにおいて、タグ厚をDtagとしたタグ領域81にRFパルスを印加した場合には、図8に示したように、t=3Tintにおいてタグ領域81の外に流出する血液は、空間的に隙間なく標識化される結果、3Dtagの範囲が標識化されることになる。
【0085】
画像再構成部32は、データ収集部36bにより収集されたMRデータから複数の異なる待ち時間TIそれぞれに対応する複数の画像を再構成する。具体的には、画像再構成部32は、タグモードで収集されたMRデータからタグ画像を再構成し、コントロールモードで収集されたMRデータからコントロール画像を再構成する。
【0086】
血流画像生成部36cは、画像再構成部32により再構成された画像から血流画像を生成する。具体的には、血流画像生成部36cは、画像再構成部32により再構成されたタグ画像とコントロール画像とを同じTIごとに画像データ記憶部33cから読み出し、読み出したタグ画像とコントロール画像との差分画像を血流画像として生成する。そして、血流画像生成部36cは、生成した血流画像を内部メモリなどに保存する。
【0087】
表示制御部36dは、血流画像生成部36cによって生成された血流画像を表示部35に表示させる。具体的には、表示制御部36dは、血流画像生成部36cによって血流画像が内部メモリなどに保存されると、保存された血流画像を読み出して表示部35に表示させる。
【0088】
次に、第1の実施形態に係るMRI装置100によって実行されるMT−PASL法の処理手順について説明する。図14は、第1の実施形態に係るMRI装置100によって実行されるMT−PASL法の処理手順を示すフローチャートである。図14に示すように、MRI装置100は、入力部34を介して操作者からMT−PASL法による撮像の開始指示を受け付けると(ステップS11,Yes)、以下の処理を実行する。
【0089】
まず、撮像条件設定部36aが、被検体内を流れる血液の流速に応じて、当該血液の標識化を行うためのRF波が印加されるタグ領域の空間的な厚さを示すタグ厚及び当該RF波が印加される時間間隔を示すタグ間隔を含むタグ条件を設定する(ステップS12)。
【0090】
続いて、データ収集部36bが、撮像条件設定部36aにより設定されたタグ間隔で標識用のRF波をタグ領域に複数回印加し、当該RF波が印加されてから所定の待ち時間TIが経過した後に血液が流れる撮像領域のMRデータを収集する(ステップS13)。
【0091】
続いて、画像再構成部32が、データ収集部36bにより収集されたMRデータからタグ画像及びコントロール画像を再構成する(ステップS14)。その後、血流画像生成部36cが、画像再構成部32により再構成されたタグ画像とコントロール画像との差分画像を血流画像として生成する(ステップS15)。そして、表示制御部36dが、血流画像生成部36cによって生成された血流画像を表示部35に表示させる(ステップS16)。
【0092】
上述したように、第1の実施形態に係るMRI装置100では、撮像条件設定部36aが、被検体内を流れる血液の流速に応じて、当該血液の標識化を行うためのRF波が印加されるタグ領域の空間的な厚さを示すタグ厚及び当該RF波が印加される時間間隔を示すタグ間隔を含むタグ条件を設定する。また、データ収集部36bが、撮像条件設定部36aにより設定されたタグ間隔で標識用のRF波をタグ領域に複数回印加し、当該RF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に、血液が流れる撮像領域のMRデータを収集する。そして、画像再構成部32が、データ収集部36bにより収集されたMRデータから画像を再構成する。したがって、第1の実施形態によれば、PASL法をベースにしながら、CASL法と比べてSARや血管信号の残存を低減するとともに、CASL法と同じがそれ以上の血流信号のSNRを提供することができる。
【0093】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、撮像条件設定部36aが、MT−PASL法による撮像が行われる場合に、血液の流れを定常流とみなしてタグ条件を設定する場合の例について説明した。第2の実施形態では、血液の流れを拍動流(定常流ではない流れ)としてタグ条件を設定する場合の例について説明する。
【0094】
第2の実施形態でも、撮像条件設定部36aは、血液がタグ領域を通過するのに要する通過時間Ttagとタグ間隔Tintとが同じになるように、タグ厚及びタグ間隔の少なくとも一方を設定する。具体的には、第2の実施形態では、撮像条件設定部36aは、時刻tにおける血液の流速をVblood(t)、タグ厚をDtag、タグ間隔をTintとして、以下に示す式1を満たすように、Dtag及びTintの少なくとも一方を設定する。
【0095】
【数1】

【0096】
例えば、撮像条件設定部36aは、血液の流れが拍動流である場合に、当該血液の流速の変化に応じて、タグ厚Dtagが一定となるように、タグ間隔Tintを動的に設定する。具体的には、撮像条件設定部36aは、タグ厚Dtagを固定の値としたうえで、式2を満たすように、血液の流速Vblood(t)に応じて、タグ間隔Tintを動的に設定する。これは、撮像条件設定部36aが、血液の流速の変化に応じてタグ間隔Tintを変動させることを意味する。
【0097】
図15〜17は、第2の実施形態に係るMT−PASL法によるタグ厚Dtagを固定した場合のデータ収集を説明するための図である。図15の(a)は、ECGセンサ21によって検出されるECG信号の経時的な変化を示しており、図15の(b)は、血液の流速Vblood(t)の経時的な変化を示している。また、図15の(c)は、標識用のRFパルスの印加タイミングを示しており、図15の(d)は、図16の(c)に示した矢印86に対応するAIFを示している。また、図16の(a)〜(c)は、MT−PASL法においてタグ厚Dtagを固定した場合に標識化される血液の空間的な分布を示しており、図17は、ST−PASL法において標識化される血液の空間的な分布の一例を示している。
【0098】
第2の実施形態では、撮像条件設定部36aは、ECGセンサ21によって検出された心拍に基づいて、MT−PASL法のシーケンスの実行を制御する。例えば、図15の(a)〜(c)に示すように、撮像条件設定部36aは、1回のMT−PASL法のシーケンスで印加されるRFパルスの数を3回とし、1心拍ごとに1回のMT−PASL法のシーケンスを実行するようにタグ条件及び撮像条件を設定する。この結果、図16に示すように、標識化された血液は、同じタグ厚で空間的に隙間無く並ぶことになる。
【0099】
そして、AIFは、図15の(d)に示すように、RFパルスごとに異なる時間間隔で並ぶことになる。例えば、MT−PASL(図15の(d)に示す実線を参照)におけるAIFは、図17に示すようにST−PASL法において標識用のRFパルスを1回印加した場合のAIF(図15の(d)に示す破線を参照)と比べて、時間積分値が大きくなる。
【0100】
なお、撮像条件設定部36aは、例えば、超音波血流計などの血流計によって血液の流速Vblood(t)をリアルタイムに計測し、計測された流速を用いて動的にタグ間隔Tintを設定する。または、例えば、撮像条件設定部36aは、血液の流速Vblood(t)として、タグ部の血管の種類ごとにあらかじめ決められた血液の標準的な流速を用いる。または、撮像条件設定部36aは、例えば、血液の流速Vblood(t)として、本スキャンの前に行われるプリスキャンにより計測された血液の流速を用いるようにしてもよい。この場合には、MRI装置100は、例えば、プリスキャンにおいてPhase Contrast(PC)法を実行することによって、血液の流速を計測する。
【0101】
標準的な流速又はプリスキャンにより計測された流速を用いる場合には、例えば、本スキャンの前に計測された1心拍時間(TRR)分の流速を用いて、1心拍内で印加するRFパルスの数nと、タグ間隔Tint(t1)、Tint(t2)、・・・Tint(tn)とが事前に決定されて記憶部33などに記憶される。そして、撮像条件設定部36aは、ECGセンサ21によって検出された心拍に基づいて、ゲート信号をR波と同期させながら、R波からの遅れ時間より所望の位相での流速を類推することにより、1心拍ごとに1回のMT−PASL法のシーケンスが実行されるように撮像条件を動的に設定する。なお、血液の流速は連続的に変化するので、例えば、撮像条件設定部36aは、各Tint間の平均流速を用いればよい。また、TRRは同一対象測定中に変動する可能性があるが、R波のタイミングは常に測定しており、次のR波までの変動が多少あっても大きな問題は生じない。
【0102】
または、例えば、撮像条件設定部36aは、血液の流れが拍動流である場合に、当該血液の流速の変化に応じて、血液がタグ領域を通過するのに要する通過時間Ttagが一定となるようにタグ厚Dtagを動的に設定してもよい。具体的には、撮像条件設定部36aは、通過時間Ttagを固定の値としたうえで、式2を満たすように、血液の流速Vblood(t)に応じて、タグ厚Dtagを動的に設定する。これは、撮像条件設定部36aが、血液の流速の変化に応じてタグ厚Dtagを変動させることを意味する。
【0103】
図18〜20は、第2の実施形態に係るMT−PASL法による通過時間Ttagを固定した場合のデータ収集を説明するための図である。図18の(a)は、ECGセンサ21によって検出されるECG信号の経時的な変化を示しており、図18の(b)は、血液の流速Vblood(t)の経時的な変化を示している。また、図18の(c)は、標識用のRFパルスの印加タイミングを示しており、図18の(d)は、図19の(c)に示した矢印87に対応するAIFを示している。また、図19の(a)〜(c)は、MT−PASL法において通過時間Ttagを固定した場合に標識化される血液の空間的な分布を示しており、図20は、ST−PASL法において標識化される血液の空間的な分布の一例を示している。
【0104】
第2の実施形態では、撮像条件設定部36aは、ECGセンサ21によって検出された心拍に基づいて、MT−PASL法のシーケンスの実行を制御する。例えば、図18の(a)〜(c)に示すように、撮像条件設定部36aは、1回のMT−PASL法のシーケンスで印加されるRFパルスの数を3回とし、1心拍ごとに1回のMT−PASL法のシーケンスを実行するようにタグ条件及び撮像条件を設定する。この結果、図19に示すように、標識化された血液は、流速に比例したタグ厚Dtag(t)、Dtag(t)、Dtag(t)で空間的には隙間無く並ぶことになる。
【0105】
そして、AIFは、図18の(d)に示すように、RFパルスごとに同じ時間間隔で並ぶことになる。例えば、MT−PASL(図18の(d)に示す実線を参照)におけるAIFは、図20に示すようにST−PASL法において標識用のRFパルスを1回印加した場合のAIF(図18の(d)に示す破線を参照)と比べて、時間積分値が大きくなる。また、TRR間でのAIF時間幅および空間厚は、タグ厚Dtagを固定する場合と同じになる。
【0106】
なお、撮像条件設定部36aは、例えば、超音波血流計などの血流計によって血液の流速Vblood(t)をリアルタイムに計測し、計測された流速を用いて動的にタグ間隔Tintを設定する。または、例えば、撮像条件設定部36aは、血液の流速Vblood(t)として、タグ部の血管の種類ごとにあらかじめ決められた血液の標準的な流速を用いる。または、撮像条件設定部36aは、例えば、血液の流速Vblood(t)として、本スキャンの前に行われるプリスキャンにより計測された血液の流速を用いるようにしてもよい。この場合には、MRI装置100は、例えば、プリスキャンにおいてPhase Contrast(PC)法を実行することによって、血液の流速を計測する。
【0107】
標準的な流速又はプリスキャンにより計測された流速を用いる場合には、例えば、本スキャンの前に計測された1心拍時間(TRR)分の流速を用いて、1心拍内で印加するRFパルスの数nと、タグ厚Dtag(t1)、Dtag(t2)、・・・Dtag(tn)とが事前に決定されて記憶部33などに記憶される。そして、撮像条件設定部36aは、ECGセンサ21によって検出された心拍に基づいて、ゲート信号をR波と同期させながら、R波からの遅れ時間より所望の位相での流速を類推することにより、1心拍ごとに1回のMT−PASL法のシーケンスが実行されるように撮像条件を動的に設定する。なお、血液の流速は連続的に変化するので、例えば、撮像条件設定部36aは、各Tint間の平均流速を用いればよい。また、TRRは同一対象測定中に変動する可能性があるが、R波のタイミングは常に測定しており、次のR波までの変動が多少あっても大きな問題は生じない。
【0108】
上述したように、第2の実施形態に係るMRI装置100では、撮像条件設定部36aが、血液がタグ領域を通過するのに要する通過時間とタグ間隔とが同じになるように、タグ厚及びタグ間隔の少なくとも一方を設定する。例えば、撮像条件設定部36aは、通過時間が一定となるようにタグ厚を動的に設定する。または、撮像条件設定部36aは、タグ厚が一定となるようにタグ間隔を動的に設定する。いずれの場合でも、拍動流下でのMT−PASLでも時間的な隙間のないAIFが生成され、タグ効率を向上させることができる。
【0109】
なお、例えば、標識用のRFパルスが印加される総時間が同じであれば、Dtagを小さく、又は、Tintを短くすることでRFパルスの印加回数を多くしたほうが、AIFの緩和による減衰が小さくなるので、RFパルスのスラブ空間特性(プロファイル)がより矩形に近くなってタグ効率が向上する。
【0110】
図21は、第2の実施形態に係るMT−PASL法におけるRFパルスのプロファイルの改善を説明するための図である。図21において、(a)は、ST−PASL法におけるRFパルスのプロファイルを示しており、(b)は、MT−PASL法におけるRFパルスのプロファイルを示している。
【0111】
図21に示すように、MT−PASL法では、標識用のRFパルスを複数回印加することによって、ST−PASL法と比べて、同一のRFパルスを用いても空間軸(z)方向のスラブ空間特性(profile)が改善される。
【0112】
ここで、例えば、核スピンが最大で180°倒れるRFパルスの場合には、複数のRFパルスについて、隣り合うRFパルスの180°以下となる部分を半値幅の90°になる位置ごとに重ねるようにするのが望ましい。これにより、2つのRFパルスが印加された場合に、それらのRFパルスの間の部分が合計で約180°になるので、核スピンが180°倒れることになる。すなわち、RFパルスのプロファイルの半値幅FWHMが、RFパルスの数の倍率に改善される。
【0113】
なお、MT−PASL法で用いられる標識用のRFパルスは、必ずしもスラブ励起特性が良くなくてもよい。Z軸方向に流れがある場合でも、一様な栓流(plub flow)でタグ条件を最適化して緩和を無視すれば、静止部と同じになる。層流や乱流の場合は流れが互いに混じるので多少異なる可能性はあるが、空間的に0°〜180°に至る遷移部が短く、Tintが十分に短ければ(〜100ms)、誤差として無視できる。
【0114】
また、タグ厚は、通常用いられるRFパルスのプロファイルの半値幅FWHMで定義されるので、複数の標識用のRFパルスのFWHMごとに流速方向で隙間なく重なるようにすれば、スラブ間の180°以下の部分でのtag効率の劣化を無視できる。逆に、slab空間特性が同等でよいのであれば、MT−PASLでは、ピーク値の小さいプロファイルの良くないRFパルスを使用すれば、SARは同等にできるし、最大RFパワーの制約も低減できる。
【0115】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、上述した第1及び第3の実施形態に関する各種の変形例について説明する。
【0116】
例えば、標識用のRFパルスを印加するタイミングについては、頭部のASLでは、標識用のRFパルスが印加される位置となる頸動脈の近辺では流速が心臓の収縮期で最大となる。そのため、例えば、撮像条件設定部36aは、ECGセンサ21によって検出された心拍に基づいて、血流の流速が最大速度となる心臓の収縮期を含む期間に標識用のRF波が印加されるように撮像条件を設定するようにしてもよい。タグ厚が薄いか流速が速くて、Ttagが1心拍周期に比べて短くなる場合は、VbloodはTtag内で一定とみなせるので、定常流に近似でき、かつ、その場合は流速が速い方がTintを短くできるので都合がよい。
【0117】
例えば、心拍周期は通常1sec前後で、Vbloodが頸動脈で平均とされる30cm/secの場合、通常のタグ厚とされるDtag=10〜20cmでTtag=0.33−0.67secと心拍周期以下となる。心拍に基づいて標識用のRFパルスの印加タイミングを収縮期に合わせると、Vbloodが大きいので、Tintはもっと短くできる。例えば、Dtag=10cmでVblood=100cmであれば、Tint=0.1secとなる。このように、最適条件でのTintが心拍周期以下ならば、収縮期から複数のRFパルスを印加するのは効果的である。
【0118】
また、Dtag自体をTintが心拍周期の整数倍(通常は1倍)になるように設定することも可能である。特に、SARが問題となる場合には、Tintを大きくしつつタグ効率を最大化するための1つの方法である。例えば、Dtag=100cmでVblood=100cm/secであれば、Tint=1secとほぼ心拍周期となる。ただし、実際は血液のT1が1.5sec程度なので、心拍周期間隔で標識用のRFパルスを印加する回数は、2回程度が望ましい。
【0119】
ここで、MT−PASL法では、必ずしも心拍に基づいてRFパルスの印加タイミングを制御しなくても、タグ条件を対象血管の平均流速(公称値又は計測値)における最適条件に設定しておけば、心電同期しないST−PASL法に比べて、タグ効率の向上が期待できる。
【0120】
なお、ここで説明した最適なタグ条件の設定方法は、MT−PASL法のみならず、後述するHE−MT−PASL法でも同様に適用できる。また、標識用のRFパルスの印加に関する特長であるので、イメージング部とは独立に適用できる。すなわち、イメージング部が1つであるsingle TIでも複数のmulti TIでも適用できる。
【0121】
また、ここで説明した流速変動時のTtag制御法はMulti−Tag(MT)においてタグ効率の向上に有用であるが、Single−Tag(ST)のST−PASLにおいても流速が複数回のタグごとに変動する場合にTtagを一定化、ひいてはtag血液の流量を一定化するために適用可能である。
【0122】
なお、タグ部に流速の異なる複数の血管が存在する場合は、一本の結果の流速(時間分布)で決めても他の血管では合わなくなる。標識対象が頚部なら脳組織へ行く主要な動脈として内頸動脈、外頸動脈と脊椎骨動脈があり、前者2者により後者より流速が遅い。その場合は平均流速であわせるか血流量の多い頸動脈であわせるのがよいが、MT−PASL法のタグ厚が薄くなるほどあまり差異はなくなる。
【0123】
また、上記実施形態で説明したMT−PASL法は、Hadamard Encoding(HE)法に適用することもできる。HE法については、例えば、CASL法と組み合わせた方法が、Wells JA at al. In vivo hadamard encoded continuous arterial spin labeling (H-CASL). MRM 63:1111-1118 (2010)により提案されている。以下では、HE法を用いたMT−PASL法であるHE−MT−MASL法について説明する。
【0124】
HE−MT−MASL法では、例えば、データ収集部36bは、タグモード用のRFパルスとコントロールモード用のRFパルスとを所定の時間間隔ごとに効率よく配置してデータを収集し、収集した画像を加減算することで、待ち時間TIが異なる複数のASL画像を得るHE−MTPASL法を実行する。この方法によれば、ST−SI法やST−MI法に比べて、SNRをより向上させることができる。
【0125】
図22及び23は、第3の実施形態に係るHE−MT−MASL法を説明するための図である。HE−MT−PASL法では、例えば、異なる待ち時間TIの組み合わせ数Nが、3、5、7、15・・・など、すなわち、N=2n−1(nは自然数)に設定される。例えば、図22は、異なる待ち時間TIの組み合わせ数N=7(n=2)である例を示している。
【0126】
なお、図22に示す複数のRFパルス(tag/control RF)のうち、左下がりの斜線が付されたものはタグモード用のRFパルスであり、右下がりの斜線が付されたものはコントロールモード用のRFパルスである。図22に示すように、例えば、N=7とした場合には、RFパルスの順序が異なるN+1=8種類のパルスシーケンスの組み合わせが用いられる。なお、TI(i)は、k=1〜8の各パルスシーケンスで同じであれば、任意の時間間隔でよい。
【0127】
ここで、k=1〜8の各パルスシーケンスで収集されるデータの複素信号をSkとし、各TI(i)における4倍の差分信号S{TI(i)}、i=1〜7は、以下の式で求められる。
【0128】
S{TI(i)}=4[S{TI(i)}−Scont{TI(i)}]
【0129】
すなわち、i=1〜7とした場合には、S{TI(1)}〜S{TI(7)}は、以下の式により求められる。
【0130】
S{TI(1)}=S1−S2+S3−S4+S5−S6+S7−S8
S{TI(2)}=S1+S2−S3−S4+S5+S6−S7−S8
S{TI(3)}=S1−S2−S3+S4+S5−S6−S7+S8
S{TI(4)}=S1+S2+S3+S4−S5−S6−S7−S8
S{TI(5)}=S1−S2+S3−S4+S5−S6+S7−S8
S{TI(6)}=S1+S2−S3−S4−S5−S6+S7+S8
S{TI(7)}=S1−S2−S3+S4−S5+S6+S7−S8
【0131】
そして、この場合のSNRは、1回あたりの差分のNAQ=(N+1)/2回加算に相当するsqrt[(N+1)/2]倍となる。ここでは、NAQ=4回加算に相当するsqrt(4)=2倍となる。すなわち、最終的には、合成演算の結果として、図23に示すように、TIが分離されたRFパルスとイメージング(Imaging)部とが配置され、SNRが2倍の差分画像が生成される。
【0132】
また、1回の繰り返し時間をTrepeatとすると、撮像時間は、N組のTIに対して、
(N+1)*Trepeatとなる。一方、標識用のRFパルスを1回印加するごとにデータ収集を行う場合には、撮像時間は、N組のTIに対して、2*(N+1)/2*N*Trepeat=N(N+1)*Trepeatとなる。したがって、HE−MT−SI法では、標識用のRFパルスを1回印加するごとにデータ収集を行う場合に比べて、撮像時間比はN+1/N(N+1)=1/Nとなる。つまり、N=7とした場合には、標識用のRFパルスを1回印加するごとにデータ収集を行う場合と同等のSNRのTIの異なる差分画像が、1/7の時間で得られることになる。
【0133】
なお、ASL MR Perfusion(ASL−MRP)において一般的なST−PASL法では、十分なSNRを確保するためには数回程度の加算平均が行われる。これに対し、上述したHE−MT−PASL法によれば、同一のデータが1回の収集のみで得られ、かつ、数段階のTIの加算平均と等価な画像が得られるので、収集時間を有効に短縮することができる。なお、コントロールモード用のRFパルスは、MRP用でMTCが問題となる場合のみ印加されればよい。したがって、血管のMRA用などでMTCが問題とならない場合には、コントロールモード用のRFパルスは省略されてもよい。
【0134】
以上、HE−MT−PASL法を用いた例を説明したが、この方法では、血液の流速に応じたタグ間隔の制御など、タグ条件に制約がある。さらに、HE法では、血液の流速が時間的に変動する場合、例えば拍動流下で用いられる場合には、同一時刻でのRFパルスのタイミングで血液の流速が同じでないと、画像を加減算する際、特に減算の際に、不要なタイミングで標識化された流体信号が意図した通りに消えない場合もある。これは、PASLと組み合わせた場合でも、CASLと組み合わせた場合でも同様である。
【0135】
そこで、例えば、同一時刻のRFパルスが同一の心位相で行われるように、例えば、心拍のゲート信号におけるR波をトリガ信号として、最初のRFパルスを印加するようにしてもよい。
【0136】
さらに、PASL法では、定常流であってもタグ効率を最大化するためには、タグ厚とタグ間隔などのタグ条件を血液の流速に合わせて制御するのが望ましい。そこで、例えば、データ収集部36bが、対象血管の流速、径又は流量に基づいて、タグ効率が最大になるように、タグ厚、タグ間隔及びRFパルスの数を設定するようにしてもよい。なお、この場合には、例えば、対象血管の流速、径、及び流量は、統計データなどに基づいて、あらかじめ血管の種類ごとに装置に記憶させておく。また、例えば、対象血管の流速は、phase contrast MRA法などにより、動的に求めてもよい。このようなタグ条件の最適化に関しては、上記実施形態で説明した、複数の標識用のパルスを用いるMT−PASL法をそのまま適用することができる。
【0137】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0138】
100 MRI(磁気共鳴イメージング)装置
30 計算機システム
32 画像再構成部
36 制御部
36a 撮像条件設定部
36b データ収集部
36c 血流画像生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内を流れる流体の流速に応じて、当該流体の標識化を行うためのRF波が印加されるタグ領域の空間的な厚さを示すタグ厚及び当該RF波が印加される時間間隔を示すタグ間隔を含むタグ条件を設定する撮像条件設定部と、
前記撮像条件設定部により設定された前記タグ間隔で前記RF波を前記タグ領域に複数回印加し、当該RF波が印加されてから所定の待ち時間が経過した後に前記流体が流れる撮像領域の磁気共鳴データを収集するデータ収集部と、
前記データ収集部により収集された磁気共鳴データから画像を再構成する画像再構成部と、
画像再構成部により再構成された画像から流体画像を生成する流体画像生成部と、
を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記撮像条件設定部は、前記流体が前記タグ領域を通過するのに要する通過時間と前記タグ間隔とが同じになるように、前記タグ厚及び前記タグ間隔の少なくとも一方を設定することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記撮像条件設定部は、前記流体の流れが拍動流である場合に、当該流体の流速の変化に応じて、前記通過時間が一定となるように前記タグ厚を動的に設定することを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記撮像条件設定部は、前記流体の流れが拍動流である場合に、当該流体の流速の変化に応じて、前記タグ厚が一定となるように前記タグ間隔を動的に設定することを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記撮像条件設定部は、前記流体の流速として、タグ部の流管の種類ごとにあらかじめ決められた流体の標準的な流速を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記撮像条件設定部は、前記流体の流速として、本スキャンの前に行われるプリスキャンにより計測された流体の流速を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記被検体の心拍を検出する検出部をさらに備え、
前記撮像条件設定部は、前記検出部により検出された前記心拍に基づいて、前記流体の流速が最大速度となる心臓の収縮期を含む期間に前記RF波が印加されるように撮像条件を設定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−34549(P2013−34549A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171255(P2011−171255)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】