説明

磁気共鳴撮像方法並びに該方法に用いられる化合物

本発明は、磁気共鳴撮像(MRI)方法に関し、具体的には、心筋虚血の早期検出を可能にするMRI方法、及びこの方法においてMR造影剤として用いられる化合物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴撮像(MRI)方法に関し、具体的には、心筋虚血の早期検出を可能にするMRI方法、及びこの方法においてMR造影剤として用いられる化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血関連疾患、特に冠状動脈疾患は、西欧諸国で死因の大半を占める。心筋虚血は深刻な状態であり、従って、不可逆的な心筋損傷が生ずる前に速やかに所要の処置例えば治療又は外科的処置を講じ得るように心筋虚血の迅速な識別及び位置決定を行なうことが極めて望ましい。
【0003】
虚血性損傷は、次の二つの主な事象から生ずると考えることができる。すなわち(i)低酸素によって組織への酸素供給が不十分になる、及び(ii)組織への代謝基質の輸送及び組織からの代謝最終生成物の輸送が減少する。直接的な帰結としては、虚血の領域でのエネルギ欠乏並びにプロトン及び乳酸の蓄積がある。他の帰結としては、交感神経系の顕著で且つ潜在的に有害な刺激があり、これにより、最終的にはアデノシン三リン酸(ATP)が急速に失われて、アシドーシスが早期に開始し、また器官機能が衰える。
【0004】
心組織も、他の代謝活性組織と同様に、虚血性損傷に極めて敏感である。急性心筋梗塞の初期段階は一般的には、正常な収縮機能の損失と関連しており、この損失は局所的運動異常として現われる。この原因は、急性冬眠状態を誘発する冠状灌流圧の急降下、及び正常な経膜イオン輸送の急激な停止による場合がある。不可逆的損傷の開始に先立つ虚血心筋への再灌流によって、正常な心代謝及び心機能への急速な回復又は遅延した回復(気絶)を生ずることができる。
【0005】
磁気共鳴撮像(MRI)は有用な心撮像手法として確立されている。スピンエコー撮像を用いたMR手法は心臓の解剖学的構造を示すことができるが、心筋虚血及び心筋梗塞の検出には造影剤の利用が必要である。MR造影剤の一つの種別は常磁性金属イオンを含んでなる常磁性造影剤であり、塩の形態、又はキレート生成/錯生成部分との錯体の形態にある。
【0006】
常磁性造影剤GdDTPA(Magnevist(商標))は、心筋撮像用途のための臨床試験を受けてきた。この金属錯体は、動物及び人間のMR画像において急性心筋梗塞の識別を改善することが判明しているが、心筋の撮像での臨床的利用は、急速な排出及び細胞外体液空間内への分配のため、限られている。
【0007】
Mn2+は、収縮している心筋への遅いCa2+チャネルを介した流入時にCa2+と競合する常磁性金属イオンであり、緩和時間Tの著しい短縮を生じ、これにより正常な心筋組織での信号強度が高まる。単位時間当たりのMn2+の合計流入量は、心拍数及び収縮力が増している間に増大する。しかしながら、虚血心筋では、血流の減少及び収縮性の低下のため摂取されるMn2+が遥かに少なくなる。ゆえに、常磁性Mn2+を造影剤として用いたMR撮像によって正常な心筋組織から虚血心筋を検出して識別することができる。さらに、Mn2+は、緩和時にはCa2+ATPアーゼ及びNa/Ca2+交換体の基質ではなくなり、ゆえに多くの時間にわたって心臓に保持される。この「記憶効果」は、Mn2+を含む造影剤を投与された患者が、心拍数を高めるためにMRイメージャの外部で運動をし、次いで続いての撮像を投与後1時間までの間に実行するような方式でMR検査を行なうのに十分なだけ長く続く。Ca2+とは対照的に、Mn2+は心臓収縮を引き起こすことができない。投与量が多い場合すなわち200μmolMn2+/体重kgを上回る場合には、Mn2+はかかる範囲へのCa2+の流入を阻害するため、心臓の収縮力が低下する。しかしながら、臨床的に適当な容量では、Mn2+は反対の効果を有しすなわち心臓の収縮力を実際に高め(Kasten et al., Eur. J. Pharmacol. 253, 35, 1994)、また心臓毒性を示す場合がある。心筋虚血及び心筋梗塞を検出するためにMR撮像を受けなければならない目標患者群については、かかる効果は言うまでもなく望ましくない。
【0008】
Lauterbur及びその共同研究者等は、動物モデルにおいて造影剤として塩化マンガン(MnCl)の形態のMn+を検討している(P. Lauterbur et al., Augmentation of tissue water proton spin−lattice relaxation rates by in vivo addition of paramagnetic ions. In: Sutton, Leigh, Scarpa (Eds) Frontiers of Biological Energetics Vol I, Academic Press, New York (1978) 752−759)。塩化マンガンの利用によって肝臓及び他の器官の有意の画像強調が実証されたが、血液ではない。しかしながら、塩化マンガンの潜在的な臨床的有用性は、その急性心臓毒性のため限定されると考えられていた。
【0009】
常磁性金属イオンの毒性効果は、キレート化剤と錯生成すると著しく低下する。このことは緩和性と毒性との間の兼ね合いと見ることができ、これについてはV. M. Runge et al., Work in progress: potential oral and intravenous paramagnetic NMR contrast agentsを参照されたい。また、R. B. Lauffer, Paramagnetic Metal Complexes as Water Proton Relaxation Agents for NMR Imaging: Theory and Design. Chem. Rev. 87 (1987) 901−927によれば、生体内でかかる錯体からの遊離金属イオンの放出を阻止するためには、約1016の熱力学的生成定数が必要であることが判明した。
【0010】
米国特許第5246696号は、[[(2−ヒドロキシトリメチレン)ジニトリロ]テトラアセト]二ナトリウムマンガン(II)及び[[(2−ヒドロキシトリメチレン)ジニトリロ]テトラアセト]ナトリウムガドリニウム(III)のようなマンガン又はガドリニウムの錯体を記載しており、これらの錯体は体内器官及び組織の磁気共鳴画像を強調するのに有用であり毒性が低いと記載されている。マンガン錯体は、腎臓、肝臓、脾臓、膵臓及び胃腸管のT及びT緩和時間を短縮すると記載されている(第3欄、第61行〜第66行)。さらに、実施例8では、マンガン錯体は、特に肝臓でであるが心臓、膵臓及び腎臓でも組織Tを短縮すると報告されている。しかしながら、本文献は、かかる錯体を例えば心筋虚血のような心筋疾患の検出に用い得ることを開示していない。
【0011】
国際公開第99/01162号は、人間又は動物の心筋虚血を検出する方法を記載しており、この方法では、マンガン錯体を含む造影剤を高速画像形成と共に用いている。マンガンイオンは生きた心筋細胞によって迅速に摂取されてここで保持されるが、再灌流した梗塞組織ではマンガンイオンは組織の全体に迅速に分配されるが生きていない細胞には保持されないと考えられている。ゆえに、マンガンイオンはこの組織から効率的に一掃されるが、血液からは相対的に緩慢に一掃される。撮像は、注入後の3〜6時間の時間内に行なわれると好都合であると記載されている。負荷治療のような患者の付加的治療については言及されていない。
【0012】
米国特許第5980863号は、例えばグルコン酸塩のような塩の形態のMn2+イオンと、少なくとも2倍量のCa2+イオンとを含有する組成物を記載している。Mnイオンが毒性であると記載されているが、2倍以上のモル比のCaイオンを含むMnイオンの組成物では安全性が高まると考えられている。実施例では、Mn/Caモル比が1:8〜10を呈する組成物を用いている。この特許でカバーされると考えられるEVP1001と呼ばれる組成物は開発中である。
【0013】
P. Seoane et al, Proc. Intl. Soc. Magn. Reson. Med 8 (2000) 1593 and 2047は、MR造影剤として用いられているEVP1001と呼ばれているMnイオンの組成物を記載している。ドブタミンすなわち薬物負荷を誘発する化合物をブタに同時に注入して、薬剤の撮像効果及び及び安全性を実証している。また、負荷及び造影剤投与が磁石外で行なわれ得ることも示唆されている。
【0014】
キレート生成していないMnイオン及びCaイオンを含む所載の造影剤は、良好な緩和特性を有するように見えるが、安全性に関する懸念は依然としてある。数分間にわたる点滴注入を伴う投与体制(regime)は重要であるらしいが、偶発的なボーラス注入又は速過ぎる点滴注入速度によって急性心臓毒性の問題が生ずる。
【0015】
カルシウム塩は、血液循環内に導入されると無害ではない。CaClについては、マウスでの静注のLD50は42.2mg/kgである。これに比較して、周知の心臓毒BaClでは、対応するLD50投与量は19.2mg/kgである。I. B. Syed et al., Toxicol. Appl. Pharmacol. 22, (1972), 150を参照されたい。造影剤組成物に多量のカルシウムを用いるさらにもう一つの短所は、筋細胞への二価イオンの流入においてカルシウムチャネルについてカルシウムがマンガンと競合することである。これにより、効力の低下が生じ、またこの影響を補償するために多量の造影剤を引き続き注入する必要がある。
【0016】
MnClの心筋記憶特性についてのもう一つの研究がHu et al., Magn. Res. in Medicine 46, (2001), 884−890によって報告されている。MnClの点滴静注と同時に薬物負荷剤ドブタミンを注入してから約1時間にわたって、MR撮像での明瞭な造影効果を実証することができた。水溶性の高い薬剤MnClの利用に関わる前述のような安全性の問題は、点滴注入速度を遅くしてMnClを投与する場合でも依然として懸念材料である。
【0017】
このため、キレート生成していないMn+の特に濃縮したボーラスとしての注入又は点滴注入の利用は、心臓毒性の危険性を持ち続けており、特に心筋機能が低下した患者には危険である。Mn+は心筋の健全な部分の細胞内に摂取されて、これにより疾患を有する心臓の罹患していない部分の機能まで損なう虞がある。
【0018】
結果的に、遊離したマンガンイオン、及びガドリニウムイオンのような他の常磁性金属イオンの体内での利用は毒性によって制限される。従って、これらのカチオンの適当なリガンド及びキレートとの錯生成であれば、常磁性を部分的に保ちながら毒性を大幅に低下させるのに役立つので、推奨される。
【0019】
しかしながら、かかる錯体の熱力学的生成定数が高いと、検出可能な量の遊離金属イオンが生体内で十分に速やかに放出されず、造影剤は生きた組織の細胞に摂取されることがない。Magnevist(商標)及びDotarem(商標)のような他の市販細胞造影剤は、高い安定度定数を有する造影剤の例であり、従って心筋虚血の検出に好ましい造影剤ではない。
【0020】
物理負荷及び/又は薬物負荷を用いると、正常な心筋と虚血心筋との間のコントラスト差が4〜5倍大きくなる。従って、造影剤が比較的少量でよくなるので負荷体制を用いることが好ましい。さらに、患者がMR磁石の内部に配置される前に造影剤を投与することを可能にする方法が、臨床環境で好ましい手順である。
【特許文献1】米国特許第5246696号明細書
【特許文献2】米国特許第5980863号明細書
【非特許文献1】Kasten et al., Eur. J. Pharmacol. 253, 35, 1994
【非特許文献2】P.Lauterbur et al., Augmentation of tissue water proton spin−lattice relaxation rates by in vivo addition of paramagnetic ions. In: Sutton, Leigh, Scarpa (Eds) Frontiers of Biological Energetics Vol I, Academic Press, New York (1978) 752−759
【非特許文献3】R.B.Lauffer, Paramagnetic Metal Complexes as Water Proton Relaxation Agents for NMR Imaging: Theory and Design. Chem. Rev. 87 (1987) 901−927
【非特許文献4】P.Seoane et al, Proc. Intl. Soc. Magn. Reson. Med 8 (2000) 1593 and 2047
【非特許文献5】I.B.Syed et al., Toxicol. Appl. Pharmacol. 22, (1972), 150
【非特許文献6】Hu et al., Magn. Res. in Medicine 46, (2001), 884−890
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、最新式の撮像プロトコルにおいて持続した造影効果を与えるのに十分な量で生きた筋細胞によって摂取される造影発生部分(例えば常磁性金属イオン)を含む造影剤が必要とされている。造影発生部分は、患者がMR検査処置を受けることを可能にするのに十分に長い時間にわたって筋細胞の内部に留まるすなわち「記憶効果」を有するものでなければならない。さらに、血液プールと虚血心筋組織と正常な心筋組織との間のコントラスト強調の差は、虚血心筋組織と正常な心筋組織との間の画定を与えるのに十分なものでなければならない。造影剤は、例えばマンガン塩のようなキレート生成していないマンガンイオン等の遊離金属イオンについて上述した不都合を回避する安全性プロフィールを有しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明では、驚くべきことに、金属イオンと錯生成部分/キレート生成部分とからなる錯体からの常磁性金属イオン(造影発生部分)すなわちMn2+等の静注後の中間的な放出を与え得る造影剤は、心疾患の診断に特に有用であることが判明した。かかる造影剤は、十分な効力と安全性との間で最適な兼ね合いを与える。これらの造影剤は好ましくは、「記憶効果」を有しており、すなわち造影剤の造影発生部分が心筋の細胞に過渡的に蓄積して、正常な組織と患部組織との間にコントラスト差を与える。撮像ウィンドウでは、血液プールのコントラストは造影剤投与前の基準線血液プールとあまり違わない。さらに、血液の生理学的パラメータの有意の変化として測定される心臓毒性は、撮像手順中に観察されない。
【0023】
「記憶効果」を有する造影剤は、人間又は人間以外の被検体に物理負荷及び/又は薬物負荷を与えることを可能にする。本発明による造影剤は比較的弱い錯体であり、投与後に制御された量の常磁性イオンが血液内に放出される。放出された常磁性金属イオンは、特定領域例えば心筋内の生きた細胞に入ることができ、画像データ取得の時間にわたって細胞内に留まる。常磁性イオンの濃度は撮像域のT短縮を与えるのに十分なものでなければならないが、心臓毒性が問題となるような量を上回ってはならない。被検体は好ましくは、造影剤が投与される前に負荷を受けている。最も好ましくは、造影剤は、ピーク負荷時に、且つ患者がMR機械に配置される前に投与される。
【0024】
このため、一観点からは、本発明は、
(a)常磁性金属イオン及び錯生成部分を含む1種以上の錯体を含んでなる造影剤を人間又は人間以外の動物の身体に投与するステップであって、錯体は10〜1016の熱力学的生成定数を有する、投与するステップと、
(b)上述の身体を造影剤投与の前に又は投与と同時に、物理負荷及び/又は薬物負荷の体制下に置くステップと、
(c)MR撮像データを収集するステップと、
(d)適宜特定領域のMR画像を形成するステップと、
を備えたMR撮像法を提供する。
【0025】
造影剤は、上の段落で記載したような単一の錯体又は複数の錯体の混合物のいずれかを含んでなる。
【0026】
別の観点では、本発明は、MR造影剤に用いられる式(I)の化合物を提供する。
【0027】
Mn(P105− (I)
式中、m、n及びoは1〜10の正の整数であり、Zは水素又は薬剤としての許容可能な対イオンである。薬剤としての許容可能な適当な対イオンは、例えばアンモニウム、置換アンモニウム、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属(例えばカルシウム)カチオン、又は無機酸若しくは有機酸から誘導されるアニオンである。好ましい実施形態では、MnはMn2+である。
【0028】
さらに別の観点では、本発明は、心筋虚血の検出にMR造影剤として用いられる造影剤の製造のための、式(II)の化合物の使用を提供する。
【0029】
MnHPTAZ (II)
式中、mは1又は2であり、oは0〜2であり、Zは水素又は薬剤としての許容可能な対イオンである。HPTAのIUPACの命名は、1,7−ジカルボキシ−2,6−ビス(カルボキシメチル)−4−ヒドロキシ−2,6−ジアザ)ヘプタンである。好ましい実施形態では、MnはMn2+である。薬剤としての許容可能な適当な対イオンは、例えばアンモニウム、置換アンモニウム、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属(例えばカルシウム)カチオン、又は無機酸若しくは有機酸から誘導されるアニオンである。
【0030】
式(I)及び式(II)の化合物は、本発明による方法に用いられる錯体の好例を示す。
【0031】
本発明のさらに他の観点は、特許請求の範囲及び本明細書から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
第一の観点では、本発明は、
(e)常磁性金属イオン及び錯生成部分を含む1種以上の錯体を含んでなる造影剤を人間又は人間以外の動物の身体に投与するステップであって、錯体は10〜1016の熱力学的生成定数を有する、投与するステップと、
(f)上述の身体を造影剤投与の前に又は投与と同時に、物理負荷及び/又は薬物負荷の体制下に置くステップと、
(g)MR撮像データを収集するステップと、
(h)適宜特定領域のMR画像を形成するステップと、
を備えたMR撮像法を提供する。
【0033】
好ましい実施形態では、この撮像方法を用いて心筋虚血の罹患域を識別し、ゆえに特定領域は心筋となる。
【0034】
本発明によるこのMR撮像法では、錯体からの常磁性金属イオンが制御された態様で放出されることが重要である。錯体からの金属イオンの放出は、錯体の安定度定数に関係する。熱力学的生成定数kが10〜1016(logkが3〜16)である錯体が、常磁性金属イオンの十分に迅速な放出を可能にして、磁気共鳴撮像に心筋コントラストを生成するのに十分な心筋での当該金属イオンの細胞内濃度を与えることが判明した。かかる錯体では、放出速度は、ボーラス注入のように静注後に体内の有害事象の危険性を生ずるような濃度での金属イオンの細胞内心筋蓄積を回避するのに十分に遅くされる。好ましくは熱力学的生成定数kは10〜1010(logkが5〜10)であり、さらに好ましくは10〜109.5(logkが7〜9.5)である。
【0035】
本発明の方法に用いられる錯体は、イオン性錯体又は非イオン性錯体のいずれの形態にあってもよい。適当な常磁性金属イオンは、無傷の細胞によって摂取されるか又は無傷の細胞の細胞膜を通過することが可能な任意の常磁性金属イオンである。好ましい常磁性金属イオンは、心筋細胞のCaチャネルによって摂取されるものであり、特に好ましいのはMnイオン、さらに特に好ましいのはMn2+である。
【0036】
本発明の方法に用いられる錯体の好ましい錯生成部分は、低分子量親水性錯生成部分である。有用な錯生成剤の例は、N,N′−ビス(ピリドキサル−5−ホスフェート)エチレンジアミン−N,N′−二酢酸(DPDP)、N,N′−ビスピリドキサルエチレンジアミン−N,N′−二酢酸(PLED)、ジエチレントリアミン五酢酸ビスメチルアミド(DTPABMA)、エチレンジアミン四酢酸ビスメチルアミド(EDTABMA)、ポリホスフェート特にトリホスフェート(P105−、TPP))、及び1,7−ジカルボキシ−2,6−ビス(カルボキシメチル)−4−ヒドロキシ−2,6−ジアザ)ヘプタン(HPTA)である。
【0037】
本発明の方法に用いられる好ましい錯体はMnDPDPであり、その熱力学的生成定数は1015.1である。
【0038】
本発明の方法に用いられるさらに好ましい錯体は式(I)の錯体である。
【0039】
Mn(P105− (I)
式中、m、n及びoは1〜10の正の整数であり、Zは水素又は薬剤としての許容可能な対イオンであり、この錯体はMR造影剤として用いられる。薬剤としての許容可能な適当な対イオンは、例えばアンモニウム、置換アンモニウム、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属(例えばカルシウム)カチオン、又は無機酸若しくは有機酸から誘導されるアニオンである。好ましい実施形態では、MnはMn2+である。さらに好ましい実施形態では、式(I)の錯体は式(III)の三リン酸マンガンである(MnTPPと表記する)。
【0040】
Mn2+(P105−) (III)
MnTPPは熱力学的生成定数が10であり(Smith & Martell, Critical Stability Constants, Vol. 4, Inorganic Complexes, Plenum Press, New York (1976) page 63)、特に適当な生体内マンガン放出速度を与えることが判明している。
【0041】
本発明の方法に特に有用な他の錯体は、式(II)の錯体である。
【0042】
MnHPTAZ (II)
式中、mは1又は2であり、oは0〜2であり、Zは水素又は薬剤としての許容可能な対イオンである。薬剤としての許容可能な適当な対イオンは、例えばアンモニウム、置換アンモニウム、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属(例えばカルシウム)カチオン、又は無機酸若しくは有機酸から誘導されるアニオンである。好ましい実施形態では、MnはMn2+である。
【0043】
さらに好ましい式(II)の錯体は以下のものである。
【0044】
MnNaHPTA (IV) 及び MnHPTA (V)
式中、Mnは好ましくはMn2+である。式(IV)の錯体は熱力学的生成定数kが109.1である。
【0045】
本発明の方法に用いられる錯体が全体的な電荷を担持している場合には、生理学的に許容可能な対イオン、例えばアンモニウム、置換アンモニウム、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属(例えばカルシウム)カチオン、又は無機酸若しくは有機酸から誘導されるアニオンとの塩の形態で用いられると好都合である。この観点では、メグルミン塩、カルシウム塩及びナトリウム塩が特に好ましい。
【0046】
さらに好ましい実施形態では、本発明の方法に用いられる錯体は、Mn2+と錯生成部分とを含んでなり、錯体は生理学的条件下で50%を上回る解離率及び1分間に満たない半減期を示す。前述のように、造影剤の効力としては、常磁性金属イオン、好ましくはMn2+が、筋細胞に入ることのできる遊離Mn2+が相対的に高い濃度で存在するように錯体から十分に速く放出されることが重要である。一方、遊離Mn2+の濃度は、急性心臓毒性の危険性があるようなものであってはならない。本研究では、生理学的条件下で50%を上回る解離率及び1分間に満たない半減期を示す錯体が、これらの規準を満たすため好ましいことが判明した。解離率が生理学的条件下で50%を上回ることにより、良好な効力を与えるのに十分に高い遊離Mn2+の濃度が確保される。しかしながら、Mn2+が錯体から迅速に放出されるとさらに好ましく、ゆえに、本発明の方法に好ましく用いられる錯体は、生理学的条件下で1分間に満たない半減期を有する。
【0047】
好ましい実施形態では、錯体は生理学的条件下で60%を上回る解離率を示し、さらに好ましくは70%を上回る解離率を示し、最も好ましくは80%を上回る解離率を示す。
【0048】
本出願の文脈での「生理学的条件」との用語は、温度範囲を35〜40℃として血漿、好ましくは哺乳類又は人間の血漿の存在下であることを意味する。血漿は、例えばZn2+、Fe2+、Cu2+又はMg2+のような多様な体内カチオンを含有している。これらのカチオンの存在下では金属交換が生じ、すなわちMn2+が錯体から放出されて、錯生成部分の選択性が特定の体内カチオンについての方がMn2+よりも大きい場合には錯生成部分が引き続きこれらの体内カチオンと錯体を形成する。
【0049】
本発明の方法に用いられる錯体の生理学的条件下での解離百分率及び半減期を決定するためには幾つかの可能な方法が存在する。一般的には、解離の動態(kinetics)を観察して決定する方法は当技術分野で公知であり、例えば、様々な分光学的方法を用いることができる。一実施形態では、錯体のサンプルを血漿と混合して、解離動態をHPLCによって追跡する。錯体の解離百分率及び半減期は、当技術分野で公知の方法でHPLCデータから算出される。
【0050】
好ましい実施形態では、錯体の解離百分率及び半減期はMR分光測定によって決定される。錯体を35〜40℃の温度の血漿と混合して(=サンプル)、サンプルの縦緩和速度R1をこの温度で一定の時間区間にわたって決定する。サンプルの縦緩和rは式(1)に従って時間の関数として決定される。
【0051】
=(R1sample−R1blank)/Mn2+濃度[mM] (1)
式中、rは縦緩和(s−1mM−1)であり、R1sampleはサンプルすなわち血漿内錯体の緩和速度(s−1)であり、R1blankは錯体が存在しない状態での血漿の緩和速度(s−1)である。好ましくは、約0.05〜0.2mMのMn2+濃度が用いられる。というのは、この濃度範囲ではR1と血漿内Mn2+濃度との間に線形関係が存在するからである。血漿内解離百分率は、式(2)に従って決定される。
【0052】
解離百分率=(1−(r1 MnCl2 in plasma−r1 sample,t)/r1 MnCl2 in plasma)・100 (2)
式中、r1 MnCl2 in plasmaはMnClの血漿内での緩和であり、r1 sample,tは所与の時刻tでのサンプルの緩和である。好ましくは、時間区間は約1時間であり、ゆえに解離百分率は、血漿内での錯体の35〜40℃の温度での1時間のインキュベーションの後に算出される。時間の関数としてのrの値、例えば1時間の時間区間でのrの値を用いて、所与の温度における錯体の血漿内での解離速度及び半減期(t1/2)を計算する。
【0053】
本発明の方法に用いられる錯体は、市販の錯生成部分から、又は文献に記載されている錯生成部分から生成することができ、また例えば米国特許第4647447号には常磁性金属の酸化物又は塩素のような酸塩及び酢酸塩が記載されている。MnDPDPの合成は、欧州特許第0290047号に記載されている。HPTA錯体の合成については、米国特許第5246696号に記載されている。これらの文献を参照により本出願に援用する。簡単に述べると、本発明の方法に用いられるMn錯体の形成は、酸化マンガン、又は塩化マンガン若しくは酢酸マンガンのようなマンガン塩を水、又はメタノール、エタノール若しくはイソプロパノールのような低級アルコールに溶解或いは懸濁させることによる。この溶液又は懸濁液に、水内又は低級アルコール内の錯生成部分の等モル量を加え、必要があれば加熱しながら反応が完了するまで混合物をかき混ぜる。形成された錯体が、用いられている溶媒に不溶である場合には、反応生成物は濾過によって簡便に単離される。可溶である場合には、反応生成物を例えば噴霧乾燥又は凍結乾燥によって蒸発乾燥させることにより単離する。
【0054】
好ましい実施形態では、本発明の方法に用いられる上述のMn錯体は、Mn2+が筋細胞のカルシウムチャネルによる最も実効的な摂取を保証するためMn2+の形態でMnを含む。これらの錯体を本発明の方法に用いられるMR造影剤で用いるときには、造影剤組成物は好ましくは、酸化防止剤例えばアスコルビン酸又は還元糖を含み、後にMnOとして沈殿するMn3+及びMn4+への酸化を阻害する。不活性ガス雰囲気例えばアルゴンガス雰囲気内で凍結乾燥した形態の商用の造影剤製品を提供すると、貯蔵時に生成物が安定化する。
【0055】
さらに好ましい実施形態では、本発明による方法に用いられる錯体は、Mn2+及び錯生成部分を含み、さらに、molMn2+当たり0〜2molのCa2+、好ましくは0.1〜2mol、さらに好ましくは0.1〜1.75mol、最も好ましくは0.5〜1molのCa2+を含む。ゆえに、特に好ましい錯体は、molMn2+当たり1molのCa2+と好ましい錯生成部分HPTAとを含有するCaMnHPTAである。特に好ましい造影剤はZMnHPTAを含んでおり、式中、Zは水素、又はアルカリ金属イオン、好ましくはナトリウムイオンであり、またmolMn2+当たり0.5molのCa2+でのCa2+である。好ましい実施形態では、本発明の方法に用いられる錯体は、Ca2+(例えば塩化カルシウムのような塩の形態で)とMn2+との所載のモル比の混合物から製造される。別の好ましい実施形態では、造影剤は、Ca2+(例えば塩化カルシウムのような塩の形態で)をMn2+を含有する錯体に加えて所載のモル比を得ることにより製造される。
【0056】
本発明の方法に用いるためには、錯体を含んでなる造影剤はさらに、従来の薬剤組成物助剤又は獣医学的組成物助剤を含んでいてよく、例えば安定剤、酸化防止剤、重量オスモル濃度調節剤、緩衝液及びpH調節剤を含んでいてよい。造影剤は、直接的な注入若しくは点滴注入に適した形態にあってもよいし、又は生理学的に許容可能な担体媒体例えば注入用の水による分散若しくは希釈の後の注入若しくは点滴注入に適した形態にあってもよい。このように、造影剤は、凍結乾燥品、粉末、溶液、懸濁液、分散液等のような従来の薬剤投与形態にあってよい。しかしながら、生理学的に許容可能な担体媒体内の溶液が一般的には好ましい。適当な添加剤としては、例えば生理学的に生体に適合した緩衝液等がある。
【0057】
非経口的投与、例えば経静脈投与用の造影剤の溶液は、殺菌されており、生理学的に許容不能な薬剤を含まず、また低い重量オスモル濃度を有して投与時の興奮や他の副作用を最小限に抑えるものとすべきである。造影剤溶液は好ましくは、等張性又は僅かに高張性にすべきである。適当な担体としては、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、デキストロース注射液、デキストロース及び塩化ナトリウム注射液、乳酸リンゲル注射液及び他の溶液のような非経口的溶液を投与するのに習用されている水性担体がある。かかる担体は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 15th ed., Easton: Mack Publishing Co., pp. 1405−1412 and 1461−1487 (1975) and The National Formulary XIV, 14th ed. Washington: American Pharmaceutical Association (1975)に記載されている。
【0058】
造影剤の溶液は、非経口的溶液に習用されている防腐剤、抗微生物剤、緩衝液及び酸化防止剤をさらに含んでいてよい。賦形剤、及び錯体と相溶性があり製品の製造、貯蔵又は利用を妨げない他の添加剤を用いてもよい。
【0059】
好ましくは、本発明の方法に用いられる錯体を含んでなる造影剤は、0.1〜30μmol常磁性金属イオン/体重kg、さらに好ましくは0.5〜30μmol常磁性金属イオン/kg、最も好ましくは10〜20μmol常磁性金属イオン/kgの量で投与される。
【0060】
本発明による方法では、造影剤は好ましくは、ボーラス注入で投与されるが、造影剤の低速注入又は点滴注入も適当である。生成定数が小さい例えば10〜10の領域のMn2+錯体では、錯体からのMn2+の放出が生体に心臓毒反応を誘発するのに依然として十分に速い危険性があり得る。かかる中毒反応を回避するために、かかる錯体を含んでなる造影剤は、低濃度のかかる錯体を含んでなる溶液として供給されるとよい。溶液の注入の現場調製のために乾燥形態例えば凍結乾燥粉末で造影剤を供給する方が望ましい場合には、高濃度溶液の製造を回避する特性を有する錯体がさらに利点を与える。例えばMnTPPのナトリウム塩NaMnP10は溶解度が限定されているため、マンガンの高濃縮溶液の注入が阻止される。MnTPPのナトリウム塩の水への最大溶解度は23mmol/Lであり、15mmol/Lの濃度での注入に適した組成物に近い。臨床投与量を10μmol/kgとした場合には、容積が45mLを上回る造影剤溶液を注入する必要がある。この注入容積は、MnTPPのナトリウム塩の急速なボーラス注入をさらに阻止する。
【0061】
本発明の方法によれば、身体は負荷の体制下に置かれる。この負荷は好ましくは、磁石外部での物理負荷、例えば運動負荷例えば無端走行装置(トレッドミル)での運動負荷である。代替的には、例えばドブタミン又はジピリダモールのような薬剤の投与による薬物負荷を用いてもよい。造影剤は、負荷付与の最中又は後に身体に投与することができる。好ましくは、造影剤はピーク負荷時に投与される。物理負荷又は薬物負荷を用いることにより、血流が著しく(4〜5倍)増大し、これにより正常心筋と虚血心筋との間の有意のコントラスト差が生ずる。さらに、患者をMR磁石の内部に配置する前に造影剤を投与することを可能にする方法は、臨床環境で好ましい処置である。
【0062】
好ましくは、身体は、血液プールのMR信号強度が造影剤投与前の基準線信号強度と著しく異ならないものとなるのに十分な時間の後にMR撮像を受ける。さらに好ましくは、身体は、造影剤の投与から少なくとも5分間の後にMR撮像を受け、さらに好ましくは造影剤投与から10〜60分間以内、さらに一段と好ましくは10〜45分間の範囲内、最も好ましくは15〜30分間の後にMR撮像を受ける。
【0063】
連続した画像同士の間の時間間隔をできるだけ短くして一連の画像の形成を可能にするT高感度の高速又は超高速撮像手法が好ましい。このことは、造影剤の心臓の初回の通過でのデータの取得を保証し、このため、臨床的に許容可能な量の造影剤を用いることが可能になる。100ミリ秒に満たない時間間隔で画像を形成することが可能なMR撮像手法が特に好ましい。このため、本発明の方法において適当なMR撮像手法は、グラディエントエコー撮像及びエコープラナー撮像、特にインバージョンリカバリー(反転回復)エコープラナー撮像、例えばグラディエントリフォーカストインバージョンリカバリーエコープラナー撮像等がある。特に適したエコープラナー撮像手法は、TI(反転時間)が100〜800ミリ秒であり、TR(繰り返し時間)が心拍数に対応しており、TE(エコー時間)が20ミリ秒未満例えば10〜20ミリ秒であるような手法である。撮像手法の感度は、各回の心拍に対するゲート制御によって高めることができる。画像データ取得に先立つ準備区間に用いられるフリップ角は180°又は90°であってよく、90°が好ましい。90°のフリップ角を用いると、単一の心拍時間分解能を取得するのに好ましい。
【0064】
本発明の方法は好ましくは、心筋虚血又は心筋梗塞を検出して識別するために用いられる。
【0065】
さらに別の観点では、本発明はMR造影剤に用いられる式(I)の化合物を提供する。
【0066】
Mn(P105− (I)
式中、m、n及びoは、1〜10の正の整数であり、Zは水素又は薬剤としての許容可能な対イオンである。薬剤としての許容可能な適当な対イオンは、例えばアンモニウム、置換アンモニウム、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属(例えばカルシウム)カチオン、又は無機酸若しくは有機酸から誘導されるアニオンである。好ましい実施形態では、MnはMn2+である。
【0067】
式(I)の好ましい実施形態は式(III)の三リン酸マンガン(MnTPP)錯体である。
【0068】
Mn2+(P105−) (III)
この錯体は、ナトリウム塩NaMnP10のような薬剤としての許容可能な塩の形態であると特に好ましい。
【0069】
式(I)の三リン酸マンガン錯体の合成は、本出願の実施例1bに記載されているようにして実行することができる。簡単に述べると、塩化マンガンMnClを三リン酸五ナトリウムのような三リン酸塩と、好ましくはMn2+の酸化を防ぐ酸化防止剤の存在下で反応させる。
【0070】
さらに別の観点では、本発明は、心筋虚血の検出時にMR造影剤として用いられる造影剤の製造のための式(II)の化合物の使用を提供する。
【0071】
MnHPTAZ (II)
式中、mは1又は2であり、oは0〜2であり、Zは水素又は薬剤としての許容可能な対イオンである。HPTAのIUPACの命名は、1,7−ジカルボキシ−2,6−ビス(カルボキシメチル)−4−ヒドロキシ−2,6−ジアザ)ヘプタンである。好ましい実施形態では、MnはMn2+である。薬剤としての許容可能な適当な対イオンは、例えばアンモニウム、置換アンモニウム、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属(例えばカルシウム)カチオン、又は無機酸若しくは有機酸から誘導されるアニオンである。好ましい実施形態では、ZはNaである。
【0072】
特に好ましい式(II)の錯体は以下のものである。
【0073】
MnNaHPTA (IV) 及び MnHPTA (V)
式中、Mnは好ましくはMn2+である。
【0074】
式(II)の錯体は、米国特許第5246696号に開示されている方法に従って合成することができる。
【0075】
好ましい実施形態では、上述のMn錯体は、Mn2+が筋細胞のカルシウムチャネルによる最も実効的な摂取を保証するためMn2+の形態でMnを含む。これらの錯体をMR造影剤で用いるときには、造影剤組成物は好ましくは、酸化防止剤例えばアスコルビン酸又は還元糖を含み、後にMnOとして沈殿するMn3+及びMn4+への酸化を阻害する。不活性ガス雰囲気例えばアルゴンガス雰囲気内で凍結乾燥した形態での商用の造影剤製品を提供すると、貯蔵時に製品が安定化する。
【0076】
MR撮像時に、上述のMn錯体は、好ましくは0.1〜30μmolMn/体重kg、さらに好ましくは0.5〜30μmolMn/kg、最も好ましくは10〜20μmolMn/kgの量で投与される。
【0077】
本発明の別の観点は、Mn2+及び錯生成部分を含む錯体を含んでなる混合物の使用であり、この錯体は生理学的条件下で50%を上回る解離率及び1分間に満たない半減期を示し、molMn2+当たり0.1〜2molのCa2+を含み、心筋のMR撮像、好ましくは心筋虚血及び心筋梗塞のMR撮像検出に用いられる造影剤の製造のための使用である。
【0078】
ある好ましい実施形態は、熱力学的生成定数が10〜1016であり、Mn2+及び錯生成部分を含む錯体を含んでなる混合物の使用であって、この錯体は生理学的条件下で50%を上回る解離率及び1分間に満たない半減期を示し、molMn2+当たり0.5〜1molのCa2+を含み、心筋のMR撮像、好ましくは心筋虚血及び心筋梗塞のMR撮像検出に用いられる造影剤の製造のための使用である。
【0079】
さらに好ましい実施形態は、熱力学的生成定数が10〜1016であり、Mn2+、HPTA及びmolMn2+当たり0.1〜2molのCa2+を含む錯体を含んでなる混合物の使用であって、心筋のMR撮像、好ましくは心筋虚血及び心筋梗塞のMR撮像検出に用いられる造影剤の製造のための使用である。
【0080】
さらに一段と好ましい実施形態は、熱力学的生成定数が10〜1016であり、Mn2+、HPTA及びmolMn2+当たり0.5〜1molのCa2+を含む錯体を含んでなる混合物の使用であって、心筋のMR撮像、好ましくは心筋虚血及び心筋梗塞のMR撮像検出に用いられる造影剤の製造のための使用である。
【実施例】
【0081】
以下は、本発明の特徴を説明するための非限定的な実施例である。R1はs−1単位での縦緩和速度を表わす。
【0082】
実施例1:マンガン錯体の製造
a)15mMのMnClの製造(比較例)
塩化マンガン四水和物(MnCl・4HO)7.4g(37.5mmol)及びアスコルビン酸13.2g(75mmol)を精製水2.5Lに溶かして、Mn2+濃度を15mMとした。溶液を注入前に0.22μmの濾紙で濾過した。
【0083】
b)MnDPDP
MnDPDPは、Amersham Health AS(ノルウェイ)からTeslascan(商標)との名称で市販されている。
【0084】
c)15mM三リン酸マンガン溶液の製造
塩化マンガン四水和物(MnCl・4HO)7.4g(37.5mmol)、三リン酸五ナトリウム27.6g(75mmol)及びアスコルビン酸13.2g(75mmol)を精製水2.5Lに溶かしてMn2+濃度を15mMとした。溶液を注入前に0.22μmの濾紙で濾過した。
【0085】
実施例2:ブタでの緩和速度研究
既知の内径(0.5mm)及び外径(1.75mm)を有し、長さが6mmの管をガイドワイヤを含むカテーテルと共にLAD(左上行冠状動脈)に挿入することによる管の導入によって虚血ブタモデルを確立した。管の動脈への導入後に、カテーテル及びガイドワイヤを取り外した。造影剤の注入の前後に、冠状動脈が開いたことを確認するためにX線アンジオグラフィ法を行なった。図3を参照されたい。体重が20〜30kgの3匹の虚血ブタに、累積量の次の造影剤を投与した。MnCl、MnTPP及びMnDPDPを5μmol/kg、15μmol/kg及び30μmol/kgである。R1を注入から5分後、15分後、25分後及び35分後に血液及び心筋で測定した。結果を図1に示す。
【0086】
実施例3:撮像
麻酔した1匹のブタで、心拍数及び心収縮期/心拡張期血圧を監視した。ドブタミンを10μg/体重kg/分の量で点滴注入し、PRP(血圧心拍数積)が2.5倍に達するまで1分間置きに10μg/kg/分ずつ増加させた。
【0087】
10μmol/体重kgのMnTPPを4秒間にわたってボーラスで注入した。実験時には生理学的パラメータの変化によって表わされる臨床的徴候は観察されなかった。
【0088】
ブタを、臨床用スキャナで1.5Tにおいて撮像した。心筋の短軸像の画像を注入から45分後に取得した。画像は灌流不足域を示した(図2)。負荷試験撮像実験の前後にX線アンジオグラフィ法を行なった(図3)。
【0089】
実施例5:MnHPTA及びCa2+を含有するMnHPTAの解離百分率及び半減期の計算
アスコルビン酸CaをMnHPTAに添加することによる0当量、0.5当量及び1当量のCa2+を含有するMnHPTAの製造。MnHPTAの200mMマンガン原液(カルシウム入り及びカルシウムなし)を、RO水10mLに原液250μLを移すことにより5mMマンガンに希釈した。
【0090】
人間の全血10mLを健康な志願者から得た。血液は抗凝固剤としてヘパリンナトリウムを含んでいた。血液のヘマトクリット百分率は微量遠心分離法によって決定され、体内金属カチオンの濃度はICP−AESによって決定された。
【0091】
血液の2mLの4個のアリコートを準備して40℃に温めた。温めた後に、5mM MnHPTA40μLを血液に加えて、0.1mMマンガンを有するサンプルを得た。サンプルを3回反転させて、縦緩和時間(T)を直ちに決定した。T値は、20MHZのBruker Minispec(独国Rheinstetten、Bruker Analytik GmbH)を用いて40℃で動作させて得られた。T値は、12種の異なる反転時間を有する反転回復シーケンスから得られた時間に対する信号強度の単指数フィッティングから算出された。T値は、5分毎に1時間にわたって得られた。以上の手順を0.5当量及び1当量のカルシウムを含有するMnHPTAサンプルについても繰り返した。
【0092】
1時間後のMnHPTAの合計解離百分率は式2から決定した。錯体半減期は、検証済みソフトウェアプログラム(仏国Champs−sur−Marne、InnaPhase、Pharm−NCA version1.4)を用いて(可能な限り)算出した。動態パラメータは、標準的な双指数薬物動態解析を用いて得、錯体半減期は以下の式に従って決定した。
【0093】
【数1】

【0094】
式中、t1/2a及びt1/2bは二成分の錯体半減期であり、fa及びfbは二つの区画の容積分率を表わす。
【0095】
研究の結果から、人間の全血に曝露した後に80%を上回るMnHPTA錯体が1分間以内に解離していることが判明した。カルシウムの添加によって解離の動態が変化することはなかった。
【0096】
実施例7:様々な量のCa2+を有するMnHPTAの心血管効果
様々な量のCa2+(molMn2+当たり0mol、0.5mol及び1molのCa2+)を有するMnHPTAの心血管効果を、麻酔したイヌでのドブタミン誘発による薬物負荷の存在下及び不在下で検討した。
【0097】
麻酔は、ペントバルビタール(12〜25mg/kg静注)及びフェンタニール(1.5〜2.5μg/kg静注)に続いてフェンタニール(20μg/kg/時)及びペントバルビタール(10mg/kg/時)の連続的な点滴静注によって起こした。正常な生理学的血液ガス値を達成することを目的として、気管を介して室内空気によって人工呼吸を行なった。SAPの測定のために、右大腿動脈を介してカテーテルを導入した。また、LVdP/dtの測定のために、頸動脈を介して微小先端(microtip)圧力トランスデューサカテーテル(Millar)を左心室に配置した。PAP(肺動脈圧)を測定するために、右大腿静脈を介してSwan−Ganzカテーテルを導入した。3誘導のECGを絶えず監視した。超音波流動プローブを左大腿動脈の周囲に配置して流れを測定した。Venflonカニューラを左右の頸静脈に導入して、それぞれ造影剤注入及びドブタミン点滴注入を行なった。
【0098】
MnHPTA(様々な添加量のCa2+を含む)の注入を、末梢前肢静脈を介した急速ボーラス注入として(全量30μmol/kgを10秒間にわたって注入)行なった。食塩水を対照物質として用いた。全ての注入は、先ずドブタミン負荷時に行ない、続いて休息時すなわちドブタミン負荷を存在させないで注入した。ドブタミン点滴注入は5〜20μg/kg/分の投与量で行なった。正確な投与量は、最小量から、約50%の心収縮期動脈圧の上昇が観察されるまでの滴定によって選択した。ドブタミン点滴注入は、MnHPTAの注入から2分間にわたって続行され、続いて選択された投与量の30%で3分間の点滴注入を行なった。この後に、ドブタミン点滴注入を停止した。
【0099】
心収縮期、心拡張期及び平均の全身的動脈圧(SYS、DIA、MEAN)、LVdP/dt、大腿動脈血流量、平均PAP(肺動脈圧)、HR(心拍数)及びECGを絶えず監視して、コンピュータシステムによって記憶した。
【0100】
ドブタミン負荷時のMnHPTA注入
ドブタミン単独で、監視されている血行力学的パラメータの殆どが増大した。最も顕著な増大はdP/dt maxにおいて見られ、4倍に増大した。食塩水注入は測定されている血行力学的パラメータに全く大きな変化を生じなかった。MnHPTA30μmol/kgの注入時に見られた血行力学的効果は、2分間以内にピークに達し、すなわち最大のドブタミン点滴注入の間にピークに達した。最も顕著なHRの増大(約50%)は、Ca2+を含まないMnHPTAの後に見られ、同時に大腿血流が増大した。Ca2+を添加するとこれらの効果が弱まり、molMn2+当たり0.5molのCa2+ではmolMn2+当たり1molのCa2+の場合に比べて幾分か広範囲に弱まった。他のパラメータは控え目な影響を与えたが、molMn2+当たり0.5molのCa2+を含むMnHPTAは、molMn2+当たり0mol又は1molのCa2+を含むMnHPTAに比べて全ての例で食塩水対照に近かった。
【0101】
休息時のMnHPTA注入
殆どのパラメータは、MnHPTAの注入後に食塩水対照の近くに留まった。しかしながら、全身的血圧、特にDIAは、MnHPTAを注入するとCa2+含有量に関わりなく一時的に低下した。dP/dt maxは、MnHPTAのCa2+含有量が増大すると増大した。
【0102】
実施例8:様々な量のCa2+を含有するMnHPTAの摂取の比較
molMn2+当たり0mol、1mol、2mol及び6molのCa2+を含有するMnHPTAの摂取の比較を、ブタモデルにおいて注入前及び注入後のR1の変化の定量的な変化を用いることにより検討した。
【0103】
12匹のブタを四つのグループに分けて、MnHPTAを15μmol/体重kgの投与量で与えた。このMnHPTAは、molMn2+当たり0mol、1mol、2mol及び6molのCa2+を含有していた。心筋の短軸像において、最初の180°反転パルスの後の信号回復に続いてLock−Lockerシーケンスを70データ点で用いて、R1を評価した。T回復を描く単一指数曲線をデータにフィットさせて、RF励起の補償を行なった。次いで、心筋でのR1及びΔR1を、フィットさせたT曲線から算出した。
【0104】
Ca2+の量が多いほど(molMn2+当たり2mol及び6molのCa2+)、ΔR1が早期段階で(0〜20分)有意に小さくなった。このことは、Mnの心筋内への初期摂取が、CaがMnと摂取について競合することにより限定されるとの事実によって説明することができる。しかしながら、後期段階(30〜60分)ではコントラスト強調はCaの量を問わず類似していた。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】体重20〜30kgの3匹の虚血ブタにMnCl、MnTPP及びMnDPDPを5μmol/kg、15μmol/kg及び30μmol/kgの用量で投与して、5分後、15分後、25分後及び35分後に血液及び心筋で測定したR1の結果を示すグラフ。
【図2】注入から45分後に臨床用スキャナで1.5Tで撮像したブタ心筋の短軸像の画像。
【図3】負荷試験撮像実験の前後にX線アンジオグラフィ法で撮像した画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋虚血を起こした領域を含む疾患域を識別するための磁気共鳴(MR)撮像法であって、
(a)(i)Mn2+イオンと、N,N′−ビス−(ピリドキサル−5−ホスフェート)エチレンジアミン−N,N′−二酢酸(DPDP)、N,N′−ビスピリドキサルエチレンジアミン−N,N′−二酢酸(PLED)、ジエチレントリアミン五酢酸ビスメチルアミド(DTPABMA)、エチレンジアミン四酢酸ビスメチルアミド(EDTABMA)、ポリホスフェート、トリホスフェート(P105−、TPP)、及び1,7−ジカルボキシ−2,6−ビス(カルボキシメチル)−4−ヒドロキシ−2,6−ジアザ)ヘプタン(HPTA)からなる群から選択される錯生成部分とを含む1種以上の錯体であって、熱力学的生成定数が10〜1016である錯体と、
(ii)molMn2+当たり0〜2molのCa2+と、
を含んでなる造影剤を人間又は人間以外の動物の身体に投与するステップと、
(b)前記身体を前記造影剤投与の前に又は投与と同時に、物理負荷及び/又は薬物負荷の体制下に置くステップと、
(c)磁気共鳴撮像データを収集するステップと、
(d)適宜特定領域の磁気共鳴画像を形成するステップと、
を備えた方法。
【請求項2】
前記造影剤は複数の錯体の混合物を含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記錯生成部分は、DPDP、TPP及びHPTAからなる群から選択される錯生成部分である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記熱力学的生成定数kは10〜1010であり、好ましくは10〜109.5である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記錯体は、生理学的条件下で50%を上回る解離率及び1分間に満たない半減期を示す、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記造影剤は、molMn2+当たり0.1〜1.75molのCa2+を含んでなる、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記造影剤は、molMn2+当たり0.5〜1molのCa2+を含んでなる、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記負荷は物理負荷である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記造影剤はピーク負荷時に投与される、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
特定領域、好ましくは心筋の磁気共鳴画像が形成される、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
磁気共鳴(MR)造影剤に用いられる式(I)の化合物。
Mn(P105− (I)
式中、m、n及びoは1〜10の正の整数であり、Zは水素又は薬剤としての許容可能な対イオンである。
【請求項12】
磁気共鳴(MR)撮像用造影剤の製造のための、式(I)の化合物の使用。
Mn(P105− (I)
式中、m、n及びoは1〜10の正の整数であり、Zは水素又は薬剤としての許容可能な対イオンである。
【請求項13】
心筋虚血の検出用造影剤の製造のための、式(II)の化合物の使用。
MnHPTAZ (II)
式中、mは1又は2であり、oは0〜2であり、Zは水素又は薬剤としての許容可能な対イオンである。
【請求項14】
MnはMn2+であり、mは1又は2であり、oは0又は2であり、Zは水素、ナトリウム又はカルシウムである、請求項13記載の使用。
【請求項15】
心筋の磁気共鳴(MR)撮像用、好ましくは心筋虚血及び心筋梗塞の磁気共鳴撮像検出用の造影剤の製造のための、熱力学的生成定数が10〜1016であり、Mn2+及び錯生成部分を含む錯体を含んでなる混合物の使用であって、前記錯体は、生理学的条件下で50%を上回る解離率及び1分間に満たない半減期を示し、molMn2+当たり0.1〜2molのCa2+を含む、使用。
【請求項16】
前記混合物はmolMn2+当たり0.5〜1molのCa2+を含んでなる、請求項15記載の使用。
【請求項17】
前記錯生成部分はHPTAである、請求項15又は請求項16記載の使用。
【請求項18】
熱力学的生成定数が10〜1016であり、Mn2+、HPTA、及びmolMn2+当たり0.1〜2molのCa2+を含む錯体を含んでなる混合物。
【請求項19】
molMn2+当たり0.5〜1molのCa2+を含んでなる請求項18記載の混合物。
【請求項20】
磁気共鳴(MR)造影剤として用いられる請求項18又は請求項20記載の混合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−516147(P2006−516147A)
【公表日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502506(P2005−502506)
【出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【国際出願番号】PCT/NO2003/000419
【国際公開番号】WO2004/054623
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(396019387)アメルシャム ヘルス アクスイェ セルスカプ (82)
【Fターム(参考)】