説明

磁気共鳴撮像装置および傾斜磁場コイル

【課題】被検体が搬入される開口部の形状が非円形であっても、シム6cを配置することによって、均一磁場空間3の磁場を高精度に均一に調整可能な磁気共鳴撮像装置1を提供する。
【解決手段】筒状の外観形状を有しその筒状の内側に均一磁場空間3を生成する磁石装置2と、磁性材のシム6cを筒状の内側のシム配置曲面C1上に配置し均一磁場空間3の磁場をより均一にする磁場調整手段6とを備え、シム配置曲面C1の中心軸zに垂直な平面での断面上の形状は非円形であり、その平面上におけるシム配置曲面C1と中心軸zとの距離が、シム配置曲面C1上の箇所によって異なり、その距離が大きい箇所と前記大きい箇所より小さい箇所があり、その距離が大きい箇所での中心軸zの周方向に隣り合うシム6c同士の間隔が、その距離が小さい箇所での間隔より広くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一磁場空間の磁場をより均一にするためにシムを配置している磁気共鳴撮像装置および傾斜磁場コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮像(MRI; Magnetic Resonance Imaging)装置は、静磁場の均一磁場空間に置かれた被検体に高周波パルスを照射したときに生じる核磁気共鳴現象を利用して被検体の物理的、化学的性質を表す画像を撮像することができ、特に、医療用として用いられている。磁気共鳴撮像装置は、被検体が搬入される撮像領域に均一磁場空間を生成させる磁場発生源(磁石装置)と、撮像領域(均一磁場空間)に向けて高周波パルスを照射するRFコイルと、撮像領域(均一磁場空間)からの応答を受信する受信コイルと、撮像領域(均一磁場空間)に共鳴現象の位置情報を与えるための勾配磁場を重畳する傾斜磁場コイルとを備えている。
【0003】
磁気共鳴撮像装置で撮像される画像の画質を決める要件の一つが、撮像領域(均一磁場空間)内の静磁場の均一度である。静磁場の均一度は、例えば、撮像領域(均一磁場空間)内の最大の磁場強度と最小の磁場強度との差の、撮像領域(均一磁場空間)内の平均磁場強度に対する比として算出することができる。静磁場の均一度は、撮像対象によって要求される値が異なり、例えば、一般的な画像を得るためには、直径30cmの球状の撮像領域(均一磁場空間)で30ppm以下の均一度が要求され、脂肪部分の受信信号を除去するために直径10cmの球状の撮像領域(均一磁場空間)で3ppm以下の均一度が要求される。
【0004】
磁気共鳴撮像装置では、撮像領域(均一磁場空間)でこのような高度な均一度を達成するために、磁気共鳴撮像装置の製作段階あるいは据付段階においてシミングと呼ばれる磁場調整作業が行われる。シミングには、磁場発生源あるいは傾斜磁場コイルに均一度を向上させるための内蔵コイルに通電するアクティブシミング方式や、鉄や永久磁石などの磁性材のシムを撮像領域(均一磁場空間)の周囲に配置して磁束を制御することで均一磁場を実現するパッシブシミング方式がある。現在、多くの磁気共鳴撮像装置では、パッシブシミング方式を採用している。
【0005】
このパッシブシミング方式を実現する方法としては、例えば、傾斜磁場コイルの主コイルと副コイル(シールドコイル)との間にシムを配置する方法が提案されている(特許文献1等参照)。さらに、この配置において、円筒形状の傾斜磁場コイルの軸方向および周方向に等間隔にシムを配置する方法が提案されている(特許文献2等参照)。特許文献2では、均一度を高めることを目的として、シムを軸方向に不等間隔に配置することも提案されている。さらに、シムを配置する軸方向間隔を任意に設定できる方法が提案されている(特許文献3等参照)。また、シムを傾斜磁場コイルの内周側に配置する方法も提案されている(特許文献4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−299304号公報
【特許文献2】特開2009−273930号公報
【特許文献3】特許第4368909号公報
【特許文献4】特開平8−53187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気共鳴撮像装置の磁石装置は、二重円筒状の外観形状を有し、撮像領域(均一磁場空間)は、その磁石装置の外観形状の内筒の内側に生成する。このため、被検体は、撮像するために、内筒内に搬入されることになる。被検体である人の中には、内筒内に搬入されることについて圧迫感を受ける場合がある。そこで、圧迫感を緩和するために、さまざまな提案がなされている。例えば、被検体が搬入される開口部(ボア)の形状をできる限り人型に近づけ大きくするために、非円形、例えば、楕円状やレーストラック状にすることが提案されている。これに応じて、磁石装置の内筒内に配置される傾斜磁場コイルの内筒の断面形状を非円形にしている。
【0008】
シムも、傾斜磁場コイルと同様に、磁石装置の内筒内に配置されるので、ボアの形状ができる限り人型に近づき大きくなり非円形になるように、配置されることが望ましい。ただ、このシムの配置によっても、撮像領域(均一磁場空間)の磁場を高精度に均一にできなければならない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、被検体が搬入される開口部(ボア)の形状が非円形であっても、シムを配置することによって、撮像領域(均一磁場空間)の磁場を高精度に均一に調整することが可能な磁気共鳴撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、
筒状の外観形状を有し、前記筒状の内側に均一磁場空間を生成する磁石装置と、
磁性材のシムを前記筒状の内側のシム配置曲面上に配置し、前記均一磁場空間の磁場をより均一にする磁場調整手段とを備え、
前記シム配置曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状は非円形であり、
前記平面上における前記シム配置曲面と前記中心軸との距離が、前記シム配置曲面上の箇所によって異なり、前記距離が大きい箇所と前記大きい箇所より小さい箇所があり、前記距離が前記大きい箇所での前記中心軸の周方向に隣り合う前記シム同士の間隔が、前記距離が前記小さい箇所での前記間隔よりも広いことを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、
筒状であり前記筒状の内側に均一磁場空間を生成する磁石装置の内側に設けられ、前記均一磁場空間に勾配磁場を重畳するための傾斜磁場コイルにおいて、
シム配置曲面上に配置され、磁性材のシムを収納することで、前記均一磁場空間の磁場をより均一にする収納穴を備え、
前記シム配置曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状は非円形であり、
前記平面上における前記シム配置曲面と前記中心軸との距離が、前記シム配置曲面上の箇所によって異なり、前記距離が大きい箇所と前記大きい箇所より小さい箇所があり、前記距離が前記大きい箇所での前記中心軸の周方向に隣り合う前記収納穴同士の間隔が、前記距離が前記小さい箇所での前記間隔よりも広いことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検体が搬入される開口部(ボア)の形状が非円形であっても、シムを配置することによって、撮像領域(均一磁場空間)の磁場を高精度に均一に調整することが可能な磁気共鳴撮像装置および傾斜磁場コイルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置の斜視図である。
【図1B】本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置をyz平面で切断した断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置の傾斜磁場コイルをxy平面で切断した断面図である。
【図3】シムトレイの斜視図である。
【図4】シム(シムトレイ)を周方向に配置すべき間隔を算出する際に用いた解析格子の一例を示す図である。
【図5A】シム(シムトレイ)を周方向に配置すべき間隔を算出する際の計算法を用いて算出したx軸方向(長径方向)を中心とした磁気モーメントの分布の一例を示すグラフである。
【図5B】シム(シムトレイ)を周方向に配置すべき間隔を算出する際の計算法を用いて算出したy軸方向(短径方向)を中心とした磁気モーメントの分布の一例を示すグラフである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置の傾斜磁場コイルをxy平面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1Aに、本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置1の斜視図を示す。磁気共鳴撮像装置1は、撮像領域(均一磁場空間)3に均一な静磁場を生成する磁石装置2と、撮像領域(均一磁場空間)3に位置情報を付与するために空間的に磁場強度が傾斜勾配した傾斜磁場をパルス状に発生させる傾斜磁場コイル4と、撮像領域(均一磁場空間)3に導入された被検体に高周波パルスを照射するRFコイル5と、被検体からの磁気共鳴信号を受信する受信コイル(図示省略)と、受信した磁気共鳴信号を処理して画像を表示するコンピュータシステム(図示省略)とを有している。そして、磁気共鳴撮像装置1によれば、均一な静磁場中に置かれた被検体に高周波パルスを照射したときに生じる核磁気共鳴現象を利用して、被検体の物理的、化学的性質を表す断層画像等の画像を得ることができ、その画像は、特に、医療用として用いられている。
【0016】
磁石装置2は、二重円筒状の外観形状を有し、その内筒2aと外筒2bの中心軸は互いに概ね一致し、さらに、それらはz軸に一致している。内筒2aと外筒2bの中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上の形状は、略円形になっている。磁石装置2の内筒2aの内側には、傾斜磁場コイル4が設けられている。
【0017】
傾斜磁場コイル4も、二重円筒状の外観形状を有し、その内筒と外筒の中心軸は互いに概ね一致し、さらに、それらはz軸に一致している。傾斜磁場コイル4の外筒の中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上の形状は、略円形になっている。傾斜磁場コイル4の内筒の中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上の形状は、非円形である楕円形になっている。なお、第1の実施形態では、非円形として、円形より人型(検査対象の断面形状)に似ている楕円形にしているが、これに限らず、人型に似ていれば、例えば、レーストラック形を採用してもよい。
【0018】
傾斜磁場コイル4の非円形の内筒の内側には、その内筒に沿うようにRFコイル5が設けられている。RFコイル5は、筒形状を有し、その筒形状の中心軸はz軸に一致している。RFコイル5の中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上の形状は、非円形である楕円形になっている。そして、RFコイル5の筒形状の内側の空間が、被検体が搬入される開口部(ボア)となる。このため、被検体が搬入される開口部(ボア)の形状も非円形である楕円形になっている。そして、この被検体が搬入される開口部(ボア)内に、撮像領域(均一磁場空間)3が生成されている。なお、本実施形態においては、y軸方向は垂直方向上向きに設定されている。x軸方向は、水平方向に設定され、さらに、y軸方向からz軸方向にネジを回したときにネジの進む方向に設定されている。
【0019】
傾斜磁場コイル4には、磁場調整手段6が設けられている。磁場調整手段6は、磁性材のシム6cを収めた複数のシムトレイ6aを、傾斜磁場コイル4内に環状に配置し、撮像領域(均一磁場空間)3内の磁場をより均一にする。シム6cは、シムトレイ6aのポケット6dに収められる。シムトレイ6aは、傾斜磁場コイル4に設けられたトレイ収納穴(収納穴)6bに収められる。トレイ収納穴6bの深さ方向は、中心軸(z軸)の方向と平行になっている。トレイ収納穴6bは、中心軸(z軸)の周方向に複数配置されている。トレイ収納穴6bは、シム配置曲面C1上に配置されている。シム配置曲面C1は筒形状を有し、その筒形状の中心軸はz軸に一致している。シム配置曲面C1の中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上の形状は、非円形である楕円形になっている。そして、シム配置曲面C1の中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上におけるシム配置曲面C1と中心軸(z軸)との距離が大きいほど、中心軸(z軸)の周方向に隣り合うシムトレイ6a(シム6c)同士の間隔が広くなっている。前記平面上におけるシム配置曲面C1と中心軸(z軸)との距離が、シム配置曲面C1上の箇所によって異なり、前記距離が大きい箇所(例えば、x軸上の箇所)と前記大きい箇所より小さい箇所(例えば、y軸上の箇所)があり、前記距離が前記大きい箇所での中心軸(z軸)の周方向に隣り合うトレイ収納穴(収納穴)6b(シム6c)同士の間隔が、前記距離が前記小さい箇所でのトレイ収納穴(収納穴)6b(シム6c)同士の間隔よりも広くなっている。
【0020】
図1Bに、本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置1をyz平面で切断した断面図を示す。磁石装置2には、撮像領域(均一磁場空間)3に均一な静磁場を発生させる超電導コイル群2fが設けられている。超電導コイル群2fは、z軸を共通の中心軸とする円環形状をしている。超電導コイル群2fは、3層構造の容器内に収納されている。超電導コイル群2fは、冷媒の液体ヘリウム(He)と共にヘリウム容器2e内に収容されている。ヘリウム容器2eは内部への熱輻射を遮断する輻射シールド2dに内包されている。そして、二重円筒状の真空容器2cは、ヘリウム容器2e及び輻射シールド2dを収容しつつ、内部を真空に保持している。真空容器2cは、普通の室温の室内に配置されても、真空容器2c内が真空になっているので、室内の熱が伝導や対流で、ヘリウム容器2eに伝わることはない。また、輻射シールド2dは、室内の熱が輻射によって真空容器2cからヘリウム容器2eに伝わることを抑制している。このため、超電導コイル群2fは、液体ヘリウムの温度である極低温に安定して設定することができ、超伝導電磁石として機能させることができる。これにより、超電導コイル群2fは電気抵抗ゼロの状態で大電流を維持し、撮像領域(均一磁場空間)3に強力かつ均一な磁場を生成することができる。
【0021】
図2に、本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置1の傾斜磁場コイル4をxy平面で切断した断面図を示す。傾斜磁場コイル4は、撮像領域(均一磁場空間)3に任意の傾斜磁場を生成するためのコイルであり、直交する三軸(x軸、y軸、z軸)それぞれに任意の強度の傾斜磁場をつくることができる独立した主コイル7x、7y、7zが内蔵されている。
【0022】
傾斜磁場コイル4は、内側(中心軸(z軸)側)に配置される主コイル7x、7y、7zと、外側(磁石装置2側)に配置される副コイル8x、8y、8zを有している。主コイル7x、7y、7zは、撮像領域(均一磁場空間)3に傾斜磁場を発生させるが、磁石装置2の内筒2a(図1A参照)の配置される空間にも、いわゆる漏れ磁場を発生させる。そこで、副コイル8x、8y、8zには、主コイル7x、7y、7zとは反対方向の電流を流し、その漏れ磁場をキャンセル(抑制)する磁場を発生させている。主コイル7x、7y、7zは、主に撮像領域(均一磁場空間)3に勾配磁場を生成するように、副コイル8x、8y、8zは主に主コイル7x、7y、7zが作る磁場が磁石装置2(内筒2a)へ漏洩するのを防ぐように、それぞれ配線パターンを決めてある。
【0023】
主コイル7x、7y、7zは、z軸方向に線形に変化する傾斜磁場を発生させるz主コイル7zと、x軸方向に線形に変化する傾斜磁場を発生させるx主コイル7xと、y軸方向に線形に変化する傾斜磁場を発生させるy主コイル7yとからなっている。z主コイル7zとx主コイル7xとy主コイル7yのそれぞれに、パルス状の電流を印加することで、対応するそれぞれの方向に傾斜した傾斜磁場を発生させ、磁気共鳴信号に被検体内の位置情報を付与している。z主コイル7zは、z主曲面C7z上に配置されている。x主コイル7xは、x主曲面C7x上に配置されている。y主コイル7yは、y主曲面C7y上に配置されている。
【0024】
副コイル8x、8y、8zは、z主コイル7zが発生させる漏れ磁場を抑制するz副コイル8zと、x主コイル7xが発生させる漏れ磁場を抑制するx副コイル8xと、y主コイル7yが発生させる漏れ磁場を抑制するy副コイル8yとからなっている。z副コイル8zは、z副曲面C8z上に配置されている。x副コイル8xは、x副曲面C8x上に配置されている。y副コイル8yは、y副曲面C8y上に配置されている。
【0025】
x主コイル7xとy主コイル7yとz主コイル7zとx副コイル8xとy副コイル8yとz副コイル8zは、図示を省略した絶縁材に埋め込まれ積層されている。
【0026】
主コイル7x、7y、7zは、被検体が搬入される開口部(ボア)の空間を人型に大きく確保するために、主コイル7x、7y、7zが配置される主曲面C7x、C7y、C7zの中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上の形状が、互いに略相似であり、非円形の楕円形状になっている。楕円形状の長軸方向が、水平方向(x軸方向)となり、短軸方向が、垂直方向(y軸方向)となっている。
【0027】
一方、副コイル8x、8y、8zは、傾斜磁場コイル4の全体としてのインダクタンスを低下させるために、主コイル7x、7y、7zから空間的に離し、磁石装置2の内筒2aに沿わせている。これにより、副コイル8x、8y、8zが配置される副曲面C8x、C8y、C8zの中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上の形状は、円形になっている。
【0028】
主コイル7x、7y、7zと、副コイル8x、8y、8zとの間に挟まれるように、シム6cを収めたシムトレイ6aを1つずつ収納したトレイ収納穴6bが、中心軸(z軸)の周方向に一重に複数配置されている。トレイ収納穴6bは、主コイル7x、7y、7zに近接し、主コイル7x、7y、7zに沿うように配置されている。これは、シム6c(シムトレイ6a)を、撮像領域(均一磁場空間)3のなるべく近くに配置することで、均一磁場を得るための調整に必要なシム6cの体積を減らすことができるからである。トレイ収納穴6bは、シム配置曲面C1上に配置されている。シム配置曲面C1の中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上の形状は、主曲面C7x、C7y、C7zのそれと略相似の非円形の楕円形状になっている。シム配置曲面C1の中心軸(z軸)に垂直な平面での断面上の形状である楕円形状は、主曲面C7x、C7y、C7zの場合と同様に、最も長い径(長径)の方向が、水平方向(x軸方向)になり、最も短い径(短径)の方向が、垂直方向(y軸方向)になるように配置されている。なお、第1の実施形態では、非円形として、円形より人型(検査対象の断面形状)に似ている楕円形にしているが、これに限らず、人型に似ていれば、例えば、レーストラック形を採用してもよい。
【0029】
トレイ収納穴6bは、周方向に等間隔に配置されておらず、不等間隔で配置されている。特に、主コイル7x、7y、7zと、副コイル8x、8y、8zとの間隔(径方向の間隔)が最も狭くなる、主コイル7x、7y、7zの長軸(x軸、最も長い径d5)付近では、隣り合うトレイ収納穴6b同士の周方向の間隔s5が最も広く、逆に、主コイル7x、7y、7zと、副コイル8x、8y、8zとの間隔(径方向の間隔)が最も広くなる、主コイル7x、7y、7zの短軸(y軸、最も短い径d1)付近では、隣り合うトレイ収納穴6b同士の周方向の間隔s1が最も狭くなるように配置されている。そして、シム配置曲面C1と中心軸(z軸)との距離(径)が大きいほど、隣り合うトレイ収納穴6b(シム6c)同士の間隔が広くなっている。具体的には、隣り合うトレイ収納穴6b同士の間隔s1が生じている箇所のシム配置曲面C1と、中心軸(z軸)との距離(径)が距離d1であり、同様に、間隔s2が生じている箇所の距離が距離d2であり、間隔s3が生じている箇所の距離が距離d3であり、間隔s4が生じている箇所の距離が距離d4であり、間隔s5が生じている箇所の距離が距離d5であり、それらの距離d1〜d5に、距離d1は距離d2より小さく、距離d2は距離d3より小さく、距離d3は距離d4より小さく、距離d4は距離d5より小さいという大小関係があれば(d1<d2<d3<d4<d5)、間隔s1は間隔s2より小さく、間隔s2は間隔s3より小さく、間隔s3は間隔s4より小さく、間隔s4は間隔s5より小さなっている(s1<s2<s3<s4<s5)。すなわち、距離d1〜d5は、互いに等しくなく、トレイ収納穴6bは、周方向に不等間隔で配置されている。
【0030】
また、トレイ収納穴6bの周方向の幅と、それに隣り合うトレイ収納穴6bとの周方向の間隔との両方、すなわち、トレイ収納穴6b(シム6c)のピッチを中心軸(z軸)から見込む角度θ1〜θ5も、短軸側より長軸側で大きくなるように(θ1<θ2<θ3<θ4<θ5)、互いに大きさが異なっている。
【0031】
図3に、シムトレイ6aの斜視図を示す。シムトレイ6aは、例えばプラスチックなど、非磁性の材料で作られている。シムトレイ6aには、一列に複数のポケット6dが形成されている。ポケット6dには、平板状に加工された、たとえば鉄や鉄基の合金製の磁性材のシム6cを、撮像領域(均一磁場空間)3の磁場の均一性の向上のための必要に応じて、収容できるようになっている。なお、隣り合うポケット6dの間隔は、等間隔であっても不等間隔であってもよい。
【0032】
次に、図2で示した隣り合うトレイ収納穴6b(シム6c)同士の周方向の間隔s1〜s5や、トレイ収納穴6bのピッチを見込む角度θ1〜θ5を決定(算出)する方法を、数式を用いて説明する。この第1の実施形態では、逆問題解法による方法を示すが、これに限らず、例えば、線形計画法などの数理計画法や、その他の最適化手法であってもよい。
【0033】
図4に、トレイ収納穴6b(シム6c)を周方向に配置すべき間隔s1〜s5等を算出する際に用いた解析格子の一例を示す。シム配置曲面C1上と、撮像領域(均一磁場空間)3の表面上とに、計算格子(解析格子)を形成する。
【0034】
シム配置曲面C1上の計算格子上のある節点iに、体積Vi、磁化Mのシム6c(磁気双極子モーメントmi(ma、mb))を配置するとき、このシム6cが撮像領域(均一磁場空間)3上の計算格子上のある節点jにつくる磁場強度B(i,j)は、式(1)に示すように、体積Viおよび磁化Mに比例する。
【数1】

【0035】
ここで、磁化Mは一定としている。ゆえに、撮像領域(均一磁場空間)3の計算格子上の各節点iに配置されたシム6cの磁気モーメントmiの分布(ベクトルm)は、式(2)のように表現することができる。
【数2】

【0036】
また、これらの磁気モーメントmiによって、撮像領域(均一磁場空間)3の計算格子上の各節点jに生じる磁場強度bjの分布(ベクトルb)は、式(3)のように表現することができる。
【数3】

【0037】
これより、磁場分布(ベクトルb)と磁気モーメント分布(ベクトルm)との関係は、係数行列Aを用いて、式(4)のように表現することができる。
【数4】

【0038】
行列Aに特異値分解法を適用すると、行列Aの一般化逆行列A'を求めることができる。これにより、磁気モーメント分布(ベクトルm)を、式(5)に示すように、一般化逆行列A'と磁場分布(ベクトルb)とから算出することができる。
【数5】

【0039】
なお、特異値分解法については、例えば、柳井春夫ほか著の「射影行列 一般行列 特異値分解」、UP応用数学選書10(1983年発行)に詳しい。式(5)により得られる磁気モーメント分布(ベクトルm)は近似解であるが、特異値分解法によれば、近似の精度は任意に設定することができる。つまり、目標とする(生成すべき)磁場分布(ベクトルb)が決まれば、式(5)により行列A'との行列積を取ることで、必要な磁気モーメント分布(ベクトルm)を、任意の精度で計算できる。第1の実施形態においては、精度とは、撮像領域(均一磁場空間)3での磁場調整の精度であり、所望の均一度に対して十分な精度が確保されればよい。
【0040】
具体的に、図4に示すように、シム配置曲面C1上に、磁気モーメントmaとmb(シム6c)を配置した場合を考える。磁気モーメントmaを有するシム6cは、図2に示すように、主コイル7x、7y、7zと、副コイル8x、8y、8zとの間隔が最も狭くなる、主コイル7x、7y、7zの長軸(x軸、最も長い径d5)付近に配置されたシムトレイ6aaに収められている。一方、磁気モーメントmbを有するシム6cは、主コイル7x、7y、7zと、副コイル8x、8y、8zとの間隔が最も広くなる、主コイル7x、7y、7zの短軸(y軸、最も短い径d1)付近に配置されたシムトレイ6abに収められている。
【0041】
配置した磁気モーメントmaに基づいて、式(2)のように磁気モーメント分布(ベクトルm)を生成し、この磁気モーメント分布(ベクトルm)に式(4)を用いて磁場分布(ベクトルb)を算出する。この磁場分布(ベクトルb)に式(5)を用いてある精度での磁気モーメント分布(ベクトルm)を算出する。
【0042】
図5Aに、磁気モーメントmaを、ある精度で算出した磁気モーメント分布(ベクトルm)を示す。磁気モーメントmaは、周方向位置のma位置(ゼロ度)に配置しているのであるが、磁気モーメント分布(ベクトルm)のピークは、周方向に半値幅haを有している。
【0043】
同様に、配置した磁気モーメントmbに基づいて、式(2)のように磁気モーメント分布(ベクトルm)を生成し、この磁気モーメント分布(ベクトルm)に式(4)を用いて磁場分布(ベクトルb)を算出する。この磁場分布(ベクトルb)に式(5)を用いて、磁気モーメントmaの場合と同じある精度での磁気モーメント分布(ベクトルm)を算出する。
【0044】
図5Bに、磁気モーメントmbを、ある精度で算出した磁気モーメント分布(ベクトルm)を示す。磁気モーメントmbは、周方向位置のmb位置(ゼロ度)に配置しているのであるが、磁気モーメント分布(ベクトルm)のピークは、周方向に半値幅hbを有している。
【0045】
これらのことは、撮像領域(均一磁場空間)3の磁場の均一性を向上させる磁場調整に際し、ある精度を確保すればよいのであれば、シムトレイ6a(シム6c)を配置するためのトレイ収納穴6bは、シム配置曲面C1上で周方向に半値幅ha、hbだけ、任意に配置可能であることを示している。すなわち、半値幅ha、hb程度ずれた位置に磁気モーメントma、mb(シム6c)を配置しても、所望の磁場調整の精度には影響がない。したがって、磁気モーメントma、mb(シム6c)を配置するためのトレイ収納穴6bは、半値幅ha、hbだけの間隔をもって周方向に配置されれば十分である。
【0046】
次に、半値幅ha、hbに注目すると、図5Aに示された半値幅haは、略−20度から略+20度までを範囲とする略40度であり、図5Bに示された半値幅hbは、略−10度から略+10度までを範囲とする略20度である。これより、半値幅haは、半値幅hbより略2倍程度大きくなっていることがわかる。なお、この算出では、ボアの寸法として、短径よりも長径を約15%長い寸法としている。そこで、半値幅ha、hbに対応するように、磁気モーメントma、mb(シム6c)を配置するためのトレイ収納穴6bの間隔s5(θ5)、s1(θ1)を決定することができる。そして、間隔s5(θ5)は、間隔s1(θ1)の略2倍程度に、間隔s1(θ1)より大きくなるように、設定されている。主コイル7x、7y、7zと、副コイル8x、8y、8zとの間隔が最も狭くなる、主コイル7x、7y、7zの長軸(x軸、最も長い径d5)付近に、最も間隔が広くなる間隔s5(θ5)を設定できるので、磁場調整の精度を落とすことなく、シムトレイ6a(シム6c)と、主コイル7x、7y、7zと、副コイル8x、8y、8zとを容易に配置することができる。なお、前記では、間隔s1(θ1)と、間隔s5(θ5)について検討したが、間隔s2〜s4(θ2〜θ4)についても同様に間隔を決定できる。そして、図2に示すように、シム配置曲面C1と中心軸(z軸)との距離が大きいほど(d1<d2<d3<d4<d5)、隣り合うトレイ収納穴6b(シム6c)同士の間隔が連続的に滑らかに広くなっている(s1<s2<s3<s4<s5、θ1<θ2<θ3<θ4<θ5)。以上述べたように、第1の実施形態によれば、シム配置曲面C1の断面形状が、非円形である楕円形であっても、円形の場合と同様に、磁場調整の精度(能力)を維持し、撮像領域(均一磁場空間)3の磁場を高精度に均一に調整することができる。
【0047】
(第2の実施形態)
図6に、本発明の第2の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置の傾斜磁場コイル4をxy平面で切断した断面図を示す。第2の実施形態の磁気共鳴撮像装置と、第1の実施形態に係る磁気共鳴撮像装置とでは、傾斜磁場コイル4が異なっている。傾斜磁場コイル4について、第2の実施形態と第1の実施形態とで、異なっている点は、シムトレイ6aが収められるトレイ収納穴(溝)6bが配置されるシム配置曲面C1が、主曲面C7x、C7y、C7zの中心軸(z軸)側に配置されている点である。第2の実施形態では、第1の実施形態より、シムトレイ6a(シム6c)を、中心軸(z軸)(撮像領域(均一磁場空間)3)に近く配置できるので、シム6cの体積を減らすことができる。また、トレイ収納穴(溝)6bは、傾斜磁場コイル4の内筒に接し、穴形状ではなく、溝形状になっている。
【0048】
そして、第1の実施形態と同様に、シム配置曲面C1と中心軸(z軸)との距離が大きいほど(d1<d2<d3<d4)、隣り合うトレイ収納穴(溝)6b(シム6c)同士の間隔が連続的に滑らかに広くなっている(s1<s2<s3<s4、θ1<θ2<θ3<θ4)。第2の実施形態によっても、シム配置曲面C1の断面形状が、非円形である楕円形であっても、円形の場合と同様に、磁場調整の精度(能力)を維持し、撮像領域(均一磁場空間)3の磁場を高精度に均一に調整することができる。
【0049】
また、間隔s4のように、広いスペースが確保できるので、この間隔s4に、シムトレイ6a以外の構成要素、例えば、RFコイル5や傾斜磁場コイル4のための冷却配管(図示省略)などを配置することができ、より広いボア空間を実現することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 磁気共鳴撮像装置
2 磁石装置
2a 内筒
2b 外筒
3 均一磁場空間(撮像領域)
4 傾斜磁場コイル
6 磁場調整手段
6a シムトレイ
6b トレイ収納穴(溝)
6c シム
6d ポケット
7x x主コイル
7y y主コイル
7z z主コイル
8x x副コイル
8y y副コイル
8z z副コイル
C1 シム配置曲面
C7x x主曲面
C7y y主曲面
C7z z主曲面
C8x x副曲面
C8y y副曲面
C8z z副曲面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の外観形状を有し、前記筒状の内側に均一磁場空間を生成する磁石装置と、
磁性材のシムを前記筒状の内側のシム配置曲面上に配置し、前記均一磁場空間の磁場をより均一にする磁場調整手段とを備え、
前記シム配置曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状は非円形であり、
前記平面上における前記シム配置曲面と前記中心軸との距離が、前記シム配置曲面上の箇所によって異なり、前記距離が大きい箇所と前記大きい箇所より小さい箇所があり、前記距離が前記大きい箇所での前記中心軸の周方向に隣り合う前記シム同士の間隔が、前記距離が前記小さい箇所での前記間隔よりも広いことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項2】
前記シム配置曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状は、楕円形又はレーストラック形であることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項3】
前記周方向に隣り合う前記シム同士の前記間隔の最大値は、前記間隔の最小値の略2倍であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項4】
前記平面上の前記中心軸から、前記周方向に並ぶ前記シムのピッチを見込む角度は、最大で略40度であり、最小で略20度であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項5】
前記筒状の前記中心軸が、水平方向になるように配置され、
前記シム配置曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状の最も長い径の方向が、水平方向になり、最も短い径の方向が、垂直方向になるように配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項6】
前記筒状の内側に、前記均一磁場空間に勾配磁場を重畳するための傾斜磁場コイルを備え、
前記傾斜磁場コイルは、
主曲面上に配置され、前記勾配磁場を発生させる主コイルと、
前記磁石装置の前記筒状に沿って副曲面上に配置され、前記主コイルが前記筒状に発生させる漏れ磁場をキャンセルさせる磁場を発生させる副コイルとを有し、
前記主曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状は、非円形であり、
前記副曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状は、円形であり、
前記シム配置曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状は、前記主曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状に沿うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項7】
前記シム配置曲面が、前記主曲面と前記副曲面とで挟まれていることを特徴とする請求項6に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項8】
前記シム配置曲面が、前記主曲面の前記中心軸側に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項9】
前記シム配置曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状と、前記主曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状は、楕円形又はレーストラック形であることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項10】
前記筒状の前記中心軸が、水平方向になるように配置され、
前記シム配置曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状の最も長い径の方向が、水平方向になり、最も短い径の方向が、垂直方向になり、
前記主曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状の最も長い径の方向が、水平方向になり、最も短い径の方向が、垂直方向になるように配置されていることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の磁気共鳴撮像装置。
【請求項11】
筒状であり前記筒状の内側に均一磁場空間を生成する磁石装置の内側に設けられ、前記均一磁場空間に勾配磁場を重畳するための傾斜磁場コイルにおいて、
シム配置曲面上に配置され、磁性材のシムを収納することで、前記均一磁場空間の磁場をより均一にする収納穴を備え、
前記シム配置曲面の前記筒状の中心軸に垂直な平面での断面上の形状は非円形であり、
前記平面上における前記シム配置曲面と前記中心軸との距離が、前記シム配置曲面上の箇所によって異なり、前記距離が大きい箇所と前記大きい箇所より小さい箇所があり、前記距離が前記大きい箇所での前記中心軸の周方向に隣り合う前記収納穴同士の間隔が、前記距離が前記小さい箇所での前記間隔よりも広いことを特徴とする傾斜磁場コイル。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−217573(P2012−217573A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85294(P2011−85294)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】