説明

磁気共鳴撮像装置の発熱性構成要素を冷却するための温度管理システム

【課題】MRI装置の発熱性構成要素を冷却するための温度管理システムを提供すること。
【解決手段】磁気共鳴撮像(MRI)装置の発熱性構成要素を冷却するための温度管理システム(70)は、傾斜コイル(54)及び/またはRFコイルなどの発熱性構成要素の近傍にその一部を配置させた少なくとも1つのヒートパイプ(72)を含む。構成要素から熱を除去する際に、ヒートパイプ(72)の相対的に高温側の端部(90)にある作動流体が気化し、ヒートパイプ(72)の相対的に低温側の端部(92)に向かって移動する。低温側端部(92)からの熱を除去しシステム(70)の全体効率を上昇させるために、低温側端部(92)をヒートシンク(94、96)と動作可能に結合させることがある。ヒートパイプ(72)は、発熱性構成要素に対する水平方向、垂直方向及び/または斜方向に配置させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的には磁気共鳴撮像(MRI)装置に関し、さらに詳細には、MRI装置の傾斜コイルアセンブリ、RFコイルアセンブリ、その他などの発熱性構成要素を冷却するための温度管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
AC環境で動作する例示的な超伝導マグネットシステムは、変圧器、発電機、モータ、超伝導マグネットエネルギー蓄積器(SMES)、及び磁気共鳴(MR)装置を含む。従来のMRマグネットはDCモードで動作するが、幾つかのMRマグネットはマグネットに対する傾斜漏れ磁場が高い場合に傾斜コイルからのAC磁場下で動作することがある。こうしたAC磁場はマグネット内にAC損失を生成する。説明を目的としてMR装置の例示的な詳細に関する例証検討を提示することにする。
【0003】
人体組織などの物質を均一な磁場(偏向磁場B)にかけると、組織中のスピンの個々の磁気モーメントはこの偏向磁場と整列しようとして、この周りをラーモアの特性周波数によってランダムな秩序で歳差運動することになる。この物質や組織に、x−y平面内にありラーモア周波数に近い周波数をもつ磁場(励起磁場B)がかけられると、正味の整列モーメント(すなわち、「縦磁化」)Mは、x−y平面内に来るように回転させられ(すなわち、「傾けられ(tipped)」)、正味の横方向磁気モーメントMが生成される。励起信号Bを停止させた後、励起したスピンにより信号が放出され、さらにこの信号を受信し処理して画像を形成させることができる。
【0004】
これらの信号を用いて画像を作成する際には、磁場傾斜(G、G及びG)が利用される。典型的には、撮像しようとする領域は、使用する具体的な位置特定方法に従ってこれらの傾斜を変更させている一連の計測サイクルによりスキャンを受ける。結果として得られる受信した核磁気共鳴(NMR)信号の組はディジタル化されかつ処理され、よく知られている多くの再構成技法のうちの1つを用いて画像が再構成される。
【0005】
傾斜コイルの温度管理は、MR装置の発達に関する最大の技術的障壁の1つである。より大型の患者スペースとより良好な画像品質に対する要求の結果、電流密度がより高くなり、これが体積発熱率の増大につながっている。コイル内(また具体的には、傾斜コイル内)で発生した熱は、装置の安全かつ高信頼性の動作、並びに患者の快適性及び安全のためにMR装置から除去する必要がある。過剰な熱によって、エポキシ絶縁を軟化させるような温度上昇が生じることがある。ある箇所がしきい値温度に達すると、エポキシ樹脂は溶解に向かい、このためにシステムに対してその構造的耐久性を失わせることになる。絶縁が軟化すると放電を促進させることがあり、また装置故障を生じさせることがある。したがって温度を受容可能な限界以下に保つためには、効果的な温度管理が重要である。
【0006】
MR装置の温度管理の一方法は傾斜コイルに対して気体冷却を提供することである。しかし気体冷却は、MR装置の傾斜コイル内で発生する種類の熱負荷など非常に高い熱負荷については十分でない。
【0007】
MR装置の温度管理の別の方法はハーメチック封止した液体冷却システムを提供することである。典型的な液体冷却機構では、直接冷却のために液体チャンネルに液体を通過させるか、あるいは伝導体の内部に液体を配置している。典型的には冷却回路は、銅チューブか非常に長いプラスチックチューブのいずれかを用いた蛇行スキームによっている。適正な冷却のためにはこの液体は、MR円筒に沿うか中空の伝導体に沿って軸方向で進入させかつ移動させる必要がある。液体冷却は高熱負荷に関する実用可能な選択肢の1つであるが、液体冷却ではチャンネル全体にわたって冷却剤を均等に分布させて最適な動作性能を得るために大型のポンプ及びマニホールドが必要となる。さらにこの方法では、冷却剤フローを均一に分布させかつ複数の注入口/出口接続が要求されるような複雑なマニホールドシステムが必要となる。これらの接続は、撮像アーチファクトを生成させる伝導性の閉ループの形成を防止するために電気的に絶縁させなければならない。さらに、マニホールド設計、フロー回路数、冷却剤の注入口/排出口位置、その他といった液体冷却に関する補給が、MR構成要素の別の設計スペースを妨害し全体的な複雑さ、コスト及び信頼性の問題を増大させる可能性がある。
【特許文献1】米国特許第7140420号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、例えば加えられた選択励起によらず傾斜コイル温度をある指定された範囲内に維持するためにより単純かつ費用対効果の高い温度管理システムを提供することが望ましく、これよってシステムの信頼性を向上させ、画質が高くスキャン時間が長い場合のより高速な撮像のためのより高出力の利用を可能とすると同時に、患者に快適性と安全を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様では、磁気共鳴撮像(MRI)装置の発熱性構成要素を冷却するための温度管理システムは、磁気共鳴撮像装置の発熱性構成要素の近傍に第1の端部を有する少なくとも1つのヒートパイプを備えており、該少なくとも1つのヒートパイプの第1の端部は発熱性構成要素からの熱を除去している。
【0010】
本発明の別の態様の温度管理システムは、磁気共鳴撮像(MRI)装置の傾斜コイルの近傍にその第1の端部を有する第1の端部及び第2の端部を有する少なくとも1つのヒートパイプと、該少なくとも1つのヒートパイプと動作可能に結合されたヒートシンクと、を備える。
【0011】
本発明のまた別の態様では、磁気共鳴撮像(MRI)装置のための温度管理システムは、少なくとも1つのヒートパイプを備えており、該少なくとも1つのヒートパイプはさらに該MRI装置の傾斜コイルの近傍にある該傾斜コイルアセンブリからの熱が該少なくとも1つのヒートパイプ内に蒸発を生じさせるような蒸発器セクションを備える。
【0012】
本発明に関する別の様々な特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び図面から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図面では、本発明を実施するために目下のところ企図される好ましい実施形態を図示している。
【0014】
図1を参照すると、磁気共鳴撮像(MRI)装置10は、交番電流(AC)環境で動作する超伝導マグネットシステムを備えている。例示的な超伝導マグネットシステムは、変圧器、発電機、モータ、超伝導マグネットエネルギー蓄積器(SMES)、及び/または磁気共鳴(MR)装置を含む。従来のMRマグネットはDCモードで動作するが、幾つかのMRマグネットはマグネットに対する傾斜漏れ磁場が高い場合に傾斜コイルからのAC磁場下で動作することがある。こうしたAC磁場はマグネット内にAC損失を生成する。単に説明を目的として、磁気共鳴及び/または磁気共鳴撮像(MRI)装置及び/またはシステムの例示的な詳細に関する例証検討を提示することにする。
【0015】
このMR装置の動作は、キーボードその他の入力デバイス13、制御パネル14及び表示画面16を含むオペレータコンソール12から制御を受けている。コンソール12は、オペレータが画像の作成及び表示画面16上への画像表示を制御できるようにする単独のコンピュータシステム20と、リンク18を介して連絡している。コンピュータシステム20は、バックプレーン20aを介して互いに連絡している多くのモジュールを含んでいる。これらのモジュールには、画像プロセッサモジュール22、CPUモジュール24、並びに当技術分野でフレームバッファとして知られている画像データアレイを記憶するためのメモリモジュール26が含まれる。コンピュータシステム20は、画像データ及びプログラムを記憶するためにディスク記憶装置28及びテープ駆動装置30とリンクしており、さらに高速シリアルリンク34を介して単独のシステム制御部32と連絡している。入力デバイス13は、マウス、ジョイスティック、キーボード、トラックボール、タッチ作動スクリーン、光学読取り棒、音声制御器、あるいは同様な任意の入力デバイスや同等の入力デバイスを含むことができ、また入力デバイス13は対話式幾何学指定のために使用することができる。
【0016】
システム制御部32は、バックプレーン32aにより互いに接続させたモジュールの組を含んでいる。これらのモジュールには、CPUモジュール36や、シリアルリンク40を介してオペレータコンソール12に接続させたパルス発生器モジュール38が含まれる。システム制御部32は、実行すべきスキャンシーケンスを指示するオペレータからのコマンドをこのリンク40を介して受け取っている。パルス発生器モジュール38は、各システムコンポーネントを動作させて所望のスキャンシーケンスを実行させ、発生させる無線周波数(RF)パルスのタイミング、強度及び形状、並びにデータ収集ウィンドウのタイミング及び長さを指示するデータを発生させている。パルス発生器モジュール38は、スキャン中に発生させる傾斜パルスのタイミング及び形状を指示するために1組の傾斜増幅器42と接続させている。パルス発生器モジュール38はさらに、生理学的収集制御器44から患者データを受け取ることができ、この生理学的収集制御器44は、患者に装着した電極からのECG信号など患者に接続した異なる多数のセンサからの信号を受け取っている。また最終的には、パルス発生器モジュール38はスキャン室インタフェース回路46と接続されており、スキャン室インタフェース回路46はさらに、患者及びマグネット系の状態に関連付けした様々なセンサからの信号を受け取っている。このスキャン室インタフェース回路46を介して、患者位置決めシステム48はスキャンのために患者を所望の位置に移動させるコマンドを受け取っている。
【0017】
パルス発生器モジュール38が発生させる傾斜波形は、Gx増幅器、Gy増幅器及びGz増幅器を有する傾斜増幅器システム42に加えられる。各傾斜増幅器は、収集する信号の空間エンコードに使用する磁場傾斜を生成させるように全体を番号50で示す傾斜コイルアセンブリ内の物理的に対応する傾斜コイルを励起させている。マグネットアセンブリ52は傾斜コイルアセンブリ50及び全身用RFコイル56を含む。一般に、傾斜コイルアセンブリ50はエポキシ材料で分離させた複数の傾斜コイル54(3つの次元方向)を含む。システム制御部32内の送受信器モジュール58は、RF増幅器60により増幅を受けて送信/受信スイッチ62によりRFコイル56に結合されるようなパルスを発生させている。患者内の励起された原子核が放出して得られた信号は、同じRFコイル56により検知し、送信/受信スイッチ62を介して前置増幅器64に結合させることができる。増幅したMR信号は、送受信器58の受信器部分で復調され、フィルタ処理され、さらにディジタル化される。送信/受信スイッチ62は、パルス発生器モジュール38からの信号により制御し、送信モードではRF増幅器60をコイル56と電気的に接続させ、受信モードでは前置増幅器64をコイル56に接続させている。送信/受信スイッチ62によりさらに、送信モードと受信モードのいずれに関しても独立したRFコイル(例えば、表面コイル)を使用することが可能となる。
【0018】
RFコイル56により取り込まれたMR信号は送受信器モジュール58によりディジタル化され、システム制御部32内のメモリモジュール66に転送される。未処理のk空間データのアレイをメモリモジュール66内に収集し終わると1回のスキャンが完了となる。この未処理のk空間データは、各画像を再構成させるように別々のk空間データアレイの形に配置し直しており、これらの各々は、データをフーリエ変換して画像データのアレイにするように動作するアレイプロセッサ68に入力される。この画像データはシリアルリンク34を介してコンピュータシステム20に送られ、コンピュータシステム20において画像データはディスク記憶装置28内などの記憶装置内に格納される。この画像データは、オペレータコンソール12から受け取ったコマンドに応じて、テープ駆動装置30上などの長期記憶内にアーカイブしたり、画像プロセッサ22によりさらに処理してオペレータコンソール12に伝達しディスプレイ16上に表示させたりすることができる。
【0019】
動作時においてMR装置10は大量の電気出力を消費する。具体的には傾斜コイル54及びRFコイル56が過剰な量の電力を消費する。とりわけこれらの発熱性構成要素が、かなりの熱(典型的には、概ね数10キロワット)を発生させる。過剰な熱はシステム構成要素を劣化させるまたは故障を早めさせる可能性があり、またこれによって信頼性に悪影響を与える可能性があることは予期されよう。さらに、温度の上昇は電気抵抗を増加させてコイル電流を減少させると共に、コイル電流の低下が信号生成に影響を及ぼし、この結果画像分解能が悪くなる。さらに、熱は撮像過程にある患者にとって不快となることがあり、過剰であれば患者に損傷を及ぼす可能性もある。この理由から、MRIシステムで使用できる電力量を実効的に制限させるように患者支持テーブルの最大温度を規定する規制が存在する。
【0020】
本発明は、MRI装置10の傾斜コイルアセンブリ50やRFコイル56などの発熱性構成要素の熱除去を向上させる一方、内部温度及び外部温度を最大動作限界未満に維持するシステム及び方法を提供し、これによって画質を向上させたより高速な撮像のためのより高出力の利用を可能にし、かつ介入的手技に関してより長いスキャン時間が許容される。さらに本発明は、均一な温度を維持しかつ発熱性構成要素内のホットスポットを排除するためのシステム及び方法を提供すると共に、これによって当該MRI装置の信頼性を増大させる。
【0021】
図2及び3は、本発明の例示的実施形態による磁気共鳴撮像(MRI)装置10の発熱性構成要素を冷却するための温度管理システム(その全体を70で示す)の概要図である。例証的な一実施形態としてこの発熱性構成要素は傾斜コイルアセンブリ50の傾斜コイル54を含む。しかし本発明の原理は、RFコイル56その他などMR装置10の別の発熱性構成要素にも適用可能であることを理解されたい。MRI装置10は軸110の周りで鏡面対称であることを理解されたい。
【0022】
一実施形態では温度管理システム70は、傾斜コイル54が発生させた熱の放散を支援するために傾斜コイル54の近傍にその一部を配置させるようにした1つまたは複数の市場入手可能なヒートパイプ72を備える。一実施形態では、ヒートパイプ72の一部は傾斜コイル54の製造中に傾斜コイル54を囲繞するエポキシ55の内部に埋め込みかつ含浸させることができ、これによって傾斜コイル54の不可分の一部となる。ヒートパイプ72は傾斜コイル54の中心軸73の周りで対称に位置させることも、非対称に位置させることもできる。ヒートパイプ72は望ましい任意の断面形状を有することができる。例えばヒートパイプ72は、円形、矩形、正方形、あるいは別の任意の多角形断面形状を有することができる。ヒートパイプ72は互いから等しい離間とさせることや、互いからの離間距離を等しくさせないこともある。例えばヒートパイプ72は傾斜コイル54の「ホットスポット」内に位置させることがある(これについては以下で説明する)。各発熱性コイルに関して、ヒートパイプは下側(より小半径の側)か上側(より大半径の側)のいずれかに位置させることや、これらのいずれかまたは両者の組み合わせで位置させることがある。各コイルはそれ独自のヒートパイプ冷却スキームを有することがある。
【0023】
ここで図4を参照すると、ヒートパイプ72は、高温側界面と低温側界面の間で非常にわずかな温度差で大量の熱を伝達することが可能な熱伝達機構である。典型的にはヒートパイプ72は封止された中空のチューブ74からなる。チューブ74を製作するには、銅、アルミニウム、その他などの熱伝導性金属を用いている。ヒートパイプ72は、水、エタノール、水銀、その他、あるいは流体の組み合わせなどの「作動流体」または冷却剤76を相対的にわずかな量(例えば、約5〜10%)だけ収容しており、ヒートパイプ72の残りの部分は気相の作動流体で満たされており、他のすべての気体はヒートパイプ72のハーメチックシールによって排除されている。
【0024】
材料及び冷却剤の選択は、冷却剤を用いたヒートパイプ72が動作しなければならない熱過剰及び温度条件に依存しており、ごく低温度用途の液体ヘリウムから高温条件の水銀にまで及ぶ。したがってヒートパイプ72は、ヒートパイプ72が動作しなければならない温度条件に応じた1つまたは複数の材料から構成させることが可能である。
【0025】
液体冷却剤76を使用することによって患者快適性の向上、分解能に関するシステム動作性能の増大、従来の気体冷却式システムが必要とする気体ダクトを無くすことができることによるサイズの減少、並びにシステムの全体効率の増大が提供されることに留意すべきである。一実施形態ではヒートパイプ72は、アンモニア、アルコール(メタノールやエタノール)または水のある種の組み合わせを作動流体76として使用している。別の実施形態では作動流体76は、水−エチレン−グリコール混合物、水−プロピレン−グリコール混合物、あるいは任意の熱伝達流体である。
【0026】
一実施形態ではヒートパイプ72は、チューブ74の側壁のうち液相の作動流体76に対して毛管力が作用する内側に関してウィック構造78を含むことがある。ウィック構造78は、ヒートパイプ72の長さ方向における熱除去量を選択的に調整するために不均一の厚さを有することがある。これは典型的には、焼結した金属粉末、あるいはチューブ軸に平行な一連の溝であるが、原則的には冷却剤76を吸い込むことが可能な任意の材料とすることができる。ヒートパイプ72が高温側端部が下になった連続的な傾斜を有する場合、ウィック構造78は不要である。この実施形態ではその作動流体76は単に重力によってヒートパイプ72に流し戻されている。このタイプのヒートパイプは、Jacob Perkinsに因んだPerkinsチューブの名で知られている。
【0027】
ヒートパイプ72は望ましい任意の断面形状を有することがあることを理解されたい。例えばヒートパイプ72は、円形または丸みのある断面形状、実質的に矩形の断面形状、実質的に長円形の断面形状、その他を有することがある。
【0028】
動作時においてヒートパイプ72は、作動流体または冷却剤の気化及び液化によってある点から別の点まで熱エネルギーを転送するような蒸発冷却を利用する。ヒートパイプ72はパイプの端部同士の温度差に依拠しており、いずれの端部の温度も周囲温度を超えて低下させることができない(したがって、ヒートパイプはパイプ内部の温度を一様にする傾向がある)。
【0029】
ヒートパイプ72の一方の端部90が加熱されると、当該端部にあるパイプ72内部の作動流体76が矢印80の方向に気化すると共に、ヒートパイプ72の蒸気キャビティ82内部の蒸気圧を上昇させる。作動流体76の気化によって吸収される気化潜熱はパイプ72の相対的に高温側の端部90の温度を低下させる。
【0030】
パイプ72の相対的に高温側の端部90における高温の液状作動流体に対する蒸気圧はパイプ72の相対的に低温側の端部92における凝縮性作動流体に対する平衡水蒸気圧より高く、またこの圧力差によって矢印84の方向で凝縮端部への迅速な質量移転が推進され、この凝縮端部において過剰な蒸気は矢印86の方向で凝縮し、その潜熱を開放し、かつパイプ72の低温側端部92を暖める。蒸気中にある非凝縮性の気体(例えば、汚染によって生じる)は気体の流れを妨害すると共にヒートパイプの効果を(特に、蒸気圧が低い低い温度において)低下させる。気体中の分子の速度は概ね音の速さであり、またこの速さは非凝縮性気体が無い場合にヒートパイプ内を伝播可能な最大速度である。実際上は、蒸気がヒートパイプ72を通過する速さは低温端部92における液化速度に依存する。
【0031】
次いで、凝縮された作動流体は高温側端部90に向かう矢印88の方向でパイプの高温側端部まで流し戻され、再度気化してこのサイクルが反復される。垂直方向に向けたヒートパイプの場合には、流体76は重力によって移動させることができる。ウィック構造78を包含したヒートパイプの場合には、流体76は毛管作用によって戻される。
【0032】
ヒートパイプ72を製作する際に、パイプ内を真空にする必要がない。単にヒートパイプ内の作動流体を沸騰させ、得られた蒸気によってパイプから非凝縮性気体を追い出し、次いで端部を封止するだけでよい。
【0033】
ヒートパイプ72の興味深い特徴の1つはこれが効果を示す温度にある。一見すると、水を作動流体としたヒートパイプは高温側端部が100℃に達した時点でのみ作用が開始されており、この水が沸騰してヒートパイプの極意である質量移転が生じるとの疑念があるかもしれない。しかし、水の沸点はその水が置かれた圧力に依存する。排気したパイプ(約700Paの圧力)では、水の沸騰が0℃まで低下することになる。したがって高温側端部が低温端部より高温であれば熱伝達が始まることになる。同様にして、水を作動流体とするヒートパイプは100℃以上でも良好に動作させることができる。
【0034】
ヒートパイプの全体圧力に対する制御レベルは作動流体の量を制御することによって得ることができる。例えば水は1気圧で気化すると1600倍に膨張する。ヒートパイプの体積の1/1600が水で満たされていれば、単にこの流体すべてを気化させると、圧力は1気圧になる。当該パイプの安全作動圧力が例えば5大気であれば、全体積の5/1600に等しい量の水を用いることが可能である。
【0035】
ヒートパイプ72は熱を転送する効率が大きい。ヒートパイプ72は実際に、固体の銅の同等の断面と比べてかなり良好な熱伝導体である。230MW/m(太陽の表面における熱流の概ね4倍)以上の熱の流れが記録されている。ヒートパイプが有効である主たる理由は、単なる温度変化と比べて遥かに多くのエネルギーを要求/開放するような作動流体の気化及び液化に由来する。一例として水を用いる場合、1グラムの水の気化に要するエネルギーは、同じグラム数の水の温度を540℃だけ上昇させるのに要する量のエネルギーに等しい。こうしたエネルギーのほとんどすべてが「低温」端部に迅速に伝達されてそこで流体が凝縮し、これによって可動部の無い非常に効果的な熱伝達システムが作られる。
【0036】
ヒートパイプ72は可動部を全く包含しておらず、また典型的にはメンテナンスを必要としない(ただし、作動流体の蒸気圧が低い場合に特に、パイプ壁を通って拡散する非凝縮性気体がその効果を事実上低下させることはあり得る)。
【0037】
蒸気が凝縮するとヒートパイプ72の低温側端部92の温度を上昇させるため、温度管理システム70はヒートパイプ72の低温側端部92から熱を除去するための手段を含むことがある。例えば図5及び6に示すように、ヒートパイプ72の低温側端部92をフィン94その他などのヒートシンクと動作可能に結合させることがある。低温側端部92はマニホールド96の内部に配置させることができ、一方このマニホールド96はヒートパイプ72の低温側端部92からの熱を除去するように矢印98の方向に流れる冷却剤98を伝達することが可能である。冷却剤98は、望ましい任意の流体(液体、気体、あるいはこれらの組み合わせ)とすることができる。マニホールド96内に冷却剤98を通過させるためにポンプ(図示せず)を用いることがある。フィン94などのヒートシンク及び/またはマニホールド96の配置によるこうした低温側端部92からの熱の転送によって、ヒートパイプ72の全体的な熱除去効果が増大する。本発明はヒートパイプ72の低温側端部92から熱を除去するための手段によって限定されるものではないことを理解されたい。例えば熱は液体や気体の使用によってヒートパイプ72の低温側端部92から除去することができる。
【0038】
ヒートシンクはさらに、傾斜コイル54からの熱除去を改善するために傾斜コイルアセンブリ50内部で使用できることを理解されたい。例えば、傾斜コイルアセンブリ50のエポキシ55内部にフィン94を埋め込むことによってヒートパイプ72にフィン94を動作可能に結合させることができる。この機構においてフィン94は、相対的に高温側の傾斜コイル54から相対的により低温のヒートパイプ72への熱伝達を上昇させ、これによって温度管理システム70の熱除去効率が増大する。
【0039】
代替的な一実施形態では、1つまたは複数のヒートパイプ72をサブストレート95上に装着しヒートパイプモジュール106を形成することができる。サブストレート95は金属などの熱伝導性材料その他から製作することができる。温度管理システム70は、複数のヒートパイプ72がそれに装着された単一のヒートパイプモジュール106を含むことや、あるいは複数のヒートパイプモジュール106を傾斜コイル54の近傍に位置させることがある。ヒートパイプモジュール106の熱伝達特性をさらに増強するためにフィン94をサブストレート95内に埋め込むことができる。
【0040】
図5及び6に示した温度管理システム70は、1)傾斜コイル54からの熱がヒートパイプ72内に気化を発生させるような蒸発器セクション100を形成させるように傾斜コイル54の内部に配置させるヒートパイプ72の第1の部分;2)ヒートパイプ72からの熱伝達がほとんど無いか全くないような断熱セクション102を形成させるように傾斜コイル54の外部に配置させるヒートパイプ72の第2の部分;並びに3)傾斜コイル54の熱で発生した蒸気をヒートパイプ72の低温側端部92の近傍で液化させるための凝縮器セクション104を形成するようなヒートパイプの第3の部分;という3つのセクションに要約することができる。結果として低温側端部92の温度が蒸気の液化によって徐々に増加する。
【0041】
低温側端部92からの熱伝達並びにヒートパイプ72の効率を向上させるために、フィン94などのヒートシンク及び/またはマニホールド96に低温側端部92を動作可能に結合させることがある。ヒートパイプの第3の部分に関するヒートシンク配置はMRシステムの外部とする(ファンまたはブロアーを配置して凝縮器セクションに空気を通し熱を周囲に排除するように空気中に置かれる)ことがあることに留意されたい。これによって、フロー回路及びマニホールドの設計に関する記載した困難が大幅に緩和される。
【0042】
マグネットアセンブリ52は、円筒座標系(r,θ,h)を用いて最適に記述されるドーナツ型の円筒構造であることを理解されたい。しかし、円筒座標系内部の点の位置Pは次式によってデカルト座標系(x,y,z)に変換可能であることはよく知られている。
【0043】
f(x,y,z)=(rcosθ,rsinθ,h) (式1)
上の実施形態で記載したように、ヒートパイプ72は実質的にMRI装置10の単一の軸に沿って(x方向に)向けられている。しかし本発明は、ヒートパイプ72の向きによる限定を受けない。例えばヒートパイプ72は、2つ以上の軸に沿って(例えば、x軸とy軸に沿って)延びることや、またさらにはMRI装置10内で斜め方向(r軸方向)に延びることができる。
【0044】
図7に示すヒートパイプ72は、MRI装置10のx方向とy方向の両方向に向けられている。図8に示すヒートパイプ72は軸方向と半径方向(x及びz方向)の両方向(水平軸73及び垂直軸75に沿った方向)に向けられている。具体的にはヒートパイプ72は、実質的に水平軸73に沿って軸方向に延びる第1のセクション72aと、実質的に垂直軸75に沿って半径方向に延びる第2のセクション72bと、いう2つのセクションを含む。上で指摘したように、ヒートパイプ72が高温側端部が下になった連続的傾斜を有する場合にはウィック構造78を必要とせず、作動流体76は単に重力のためにヒートパイプ72まで流れ戻る。高温側端部92bが低温側端部92aと比較して半径方向の内側にあるような第2のセクション72bの場合がこれに当たる。図7及び8のヒートパイプ配置は、傾斜コイル54内の局在的な「ホットスポット」からの熱除去において特に有用である。本発明はヒートパイプの軸方向と半径方向の配置に限定されるものではなく、また本発明はMRI装置の円筒座標に関してヒートパイプを所望の任意の方向に配置させることによって実施できることを理解されたい。
【0045】
上述のように、本発明の温度管理システム70によって、MR装置10の傾斜コイル及びRFコイル54、56などの発熱性構成要素から熱を除去するための単純で軽量で費用対効果の良い解決法が提供される。1つまたは複数のヒートパイプを使用することによって、従来の温度管理システムと比べて流体の循環を使用することなしに、コンパクトな設計、局所的な温度管理、不均一熱除去能力、並びにうず電流効果の最小化が提供される。
【0046】
本記述では、本発明(最適の形態を含む)を開示するため、並びに当業者による本発明の製作及び使用を可能にするために例を使用している。本発明の特許性のある範囲は本特許請求の範囲によって規定していると共に、当業者により行われる別の例を含むことができる。こうした別の例は、本特許請求の範囲の文字表記と異ならない構造要素を有する場合や、本特許請求の範囲の文字表記と実質的に差がない等価的な構造要素を有する場合があるが、本特許請求の範囲の域内にあるように意図したものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】一例としてMR装置を成す超伝導マグネットシステムのブロック概要図である。
【図2】本発明の例示的実施形態によるMR装置の傾斜コイルからの熱を放散させるための温度管理システムの概要図である。
【図3】図2の線3−3に沿って切って見た温度管理システムの断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による温度管理システムのヒートパイプの切欠断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による、温度管理システムの全体効果を増大するために低温側端部にあるフィンと該フィンを冷却するためのマニホールドとを有するヒートパイプを備えた温度管理システムの断面図である。
【図6】図5の温度管理システムの上面図である。
【図7】ヒートパイプがx方向とy方向の両方にある温度管理システムの別の実施形態の上面図である。
【図8】本発明の一実施形態によるヒートパイプが軸方向と半径方向(x方向とz方向)の両方にある温度管理システムの断面図である。
【符号の説明】
【0048】
10 MRI装置
12 オペレータコンソール
13 入力デバイス
14 制御パネル
16 表示画面
18 リンク
20 コンピュータシステム
20a バックプレーン
22 プロセッサモジュール
24 CPUモジュール
26 メモリモジュール
28 ディスク記憶装置
30 テープ駆動装置
32 システム制御部
32a バックプレーン
34 シリアルリンク
36 CPUモジュール
38 パルス発生器モジュール
40 シリアルリンク
42 傾斜増幅器
44 収集制御器
46 インタフェース回路
48 患者位置決めシステム
50 傾斜コイルアセンブリ
52 マグネットアセンブリ
54 傾斜コイル
55 エポキシ
56 RFコイル
58 送受信器モジュール
60 RF増幅器
62 スイッチ
64 前置増幅器
66 メモリモジュール
68 アレイプロセッサ
70 温度管理システム
72 ヒートパイプ
72a 第1のセクション
72b 第2のセクション
73 水平軸
74 チューブ
75 垂直軸
76 作動流体、冷却剤
78 ウィック構造
80 矢印
82 蒸気キャビティ
84 矢印
86 矢印
88 矢印
90 高温側端部
92 低温側端部
92a 低温側端部
92b 高温側端部
94 フィン
95 サブストレート
96 マニホールド
98 冷却剤フロー
100 蒸発器セクション
102 断熱セクション
104 凝縮器セクション
106 モジュール
110 対称軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴撮像(MRI)装置(10)の発熱性構成要素(50、56)の近傍に第1の端部(90)を有する少なくとも1つのヒートパイプ(72)を備えた磁気共鳴撮像装置(10)の発熱性構成要素(50、56)を冷却するための温度管理システム(70)であって、該少なくとも1つのヒートパイプ(72)の第1の端部は該発熱性構成要素(50、56)からの熱を除去しているシステム(70)。
【請求項2】
前記発熱性構成要素はMRI装置(10)の傾斜コイルアセンブリ(50)を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)は、MRI装置(10)の水平軸(73)と垂直軸(75)の一方に実質的に沿って配置されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)の第2の端部から熱を除去するためのヒートシンク(94)をさらに備える請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記ヒートシンク(94)はその内部に冷却剤を通過させるマニホールド(96)の内部に配置されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)の第1の端部(90)はエポキシ材料(55)内に埋め込まれている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
熱伝導性材料から製作されたモジュール(106)をさらに備えており、前記少なくとも1つのヒートパイプ(106)は該モジュール(106)の上に装着されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
その第1の端部(90)が磁気共鳴撮像(MRI)装置(10)の傾斜コイル(54)の近傍にあるような第1の端部(90)及び第2の端部を有する少なくとも1つのヒートパイプ(72)と、
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)と動作可能に結合されたヒートシンク(94)と、
を備える温度管理システム(70)。
【請求項9】
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)は、MRI装置(10)の水平軸(73)と垂直軸(75)の一方に実質的に沿って配置されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記ヒートシンク(94)は前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)の第2の端部と動作可能に結合されたフィンを備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
その内部に冷却剤を通過させるマニホールド(96)をさらに備える請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記ヒートシンク(94)は前記マニホールド(96)の内部に配置されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)の第2の端部は前記マニホールド(96)の内部に配置されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記ヒートシンク(94)は前記傾斜コイル(54)の近傍でそこから熱を除去するように位置させている、請求項8に記載のシステム。
【請求項15】
少なくとも1つのヒートパイプ(72)を備えた磁気共鳴撮像(MRI)装置(10)のための温度管理システム(70)であって、該少なくとも1つのヒートパイプ(72)は該MRI装置(10)の傾斜コイル(54)の近傍にある該傾斜コイル(54)からの熱が該少なくとも1つのヒートパイプ(72)の内部で蒸発を生じさせるような蒸発器セクション(100)をさらに備える温度管理システム(70)。
【請求項16】
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)はさらに少なくとも1つのヒートパイプ(72)から生じる熱伝達がほとんどないか全くないように傾斜コイル(54)の外部に配置させた断熱セクション(102)を備える、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)はさらに、傾斜コイル(54)からの熱が該少なくとも1つのヒートパイプ(72)の内部で凝縮を受けるような凝縮器セクション(104)を備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)は、MRI装置(10)の水平軸(73)と垂直軸(75)の一方に実質的に沿って配置されている、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記少なくとも1つのヒートパイプ(72)と動作可能に結合されたヒートシンク(94)をさらに備える請求項15に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−119260(P2009−119260A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281038(P2008−281038)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】