説明

磁気共鳴撮影装置および方法

【課題】
理想的な励起プロファイルで励起した場合と同様の信号を得ることができ、劣化の極めて少ない画像やスペクトルを得る。
【解決手段】
静磁場中に置かれた被検体に核磁気共鳴を生じさせる高周波磁場を発生する高周波磁場発生手段は、高周波磁場として、選択領域外は励起せず、立ち上がりが急峻で、励起面に凹凸がある励起プロファイルを作る高周波磁場を発生する。このような高周波磁場を用いて計測した信号を、後処理によって励起面の凹凸が解消されるように補正する。上記高周波磁場は、初期関数から算出される励起プロファイルと所望の形状の励起プロファイルとの二乗和に制限(重み付け)を加えて評価関数とし、この評価関数を最小とするように決定することにより最適化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴撮影装置および方法に係り、特に、スライス励起方向に位置情報がある画像撮影法に好適な装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮影装置は、静磁場中に置かれた被検体に対し、特定周波数の高周波磁場を照射することにより、核磁気共鳴現象を引き起こし、被検体から発生する核磁気共鳴信号を利用して、被検体の物理的・化学的情報を取得することができる。
【0003】
このような磁気共鳴撮影装置による撮影では、高周波磁場パルスと傾斜磁場パルスを用いて、所望する領域の核磁化のみを励起して、位置情報を付加させることで、所望する領域のみの水素原子核および、水素原子核を含むさまざまな分子の化学結合の密度分布を得る。高周波磁場パルスとしては、通常、矩形状の励起周波数特性を有するsinc波形(sin(t)/t)が用いられる。ここで、図10(a)に示すように、高周波磁場パルスと、励起される核磁化の励起プロファイルは、フーリエ変換の関係で結ばれており、sinc波形を無限の時間印加したときの励起プロファイルは完全な矩形となる。しかしながら、図10(b)に示すように、実際の高周波磁場パルスの印加時間は有限であるため、得られる励起プロファイルの形状は矩形とはならず、サイドローブが現れたり、励起面に凹凸ができてしまう。
【0004】
サイドローブがあると、本来励起したくない皮下脂肪などの余計な信号を励起してしまうことによって、取得した画像やスペクトルに劣化が生じる。また励起面に凹凸があると、取得される信号は凹凸に起因する不均一を含むこととなり、画像やスペクトルの劣化につながる。
【0005】
所望の励起プロファイルを実現するための高周波磁場パルスの設計方法は、特許文献1〜特許文献3等に提案されている。例えば特許文献1には、非対称波形部分を持ったベース関数波形の非対称波形部分に、その時間範囲よりも大きいゲインに設定したウィンドウ関数を掛け合わせて高周波磁場パルスを生成することが記載されている。また特許文献2には、元となるsinc波形に対して、励起プロファイルの中央をフラットにするためのDCオフセットと、サイドローブを除くためのcosオフセットとをウィンドウ処理により加え、その波形に基づいて高周波磁場パルスの波形を決定することが記載されている。さらに特許文献3には、ベッセル関数を用いて解析的に高周波磁場パルスを計算し、その周波数プロファイルを計算、表示し、周波数プロファイルが望ましい周波数プロファイルに近づくようにベッセル関数のパラメータの設定変更を繰り返す手法が記載されている。
【特許文献1】特開平8−299300号公報
【特許文献2】特開平6−233748号公報
【特許文献3】特開平7−79927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで磁気共鳴撮影装置を用いた撮影方法には、被検体中(主に水分子に含まれる)の水素原子核の密度分布を反映した画像を取得する磁気共鳴イメージング(以下、MRIと略す)のほか、水素原子核を含む様々な分子の化学結合の違いによる磁気共鳴周波数の差異(以下、ケミカルシフトと呼ぶ)を利用して、分子ごとの信号を分離する方法(プロトン磁気共鳴スペクトロスコピー、以下、1H-MRSと略す)や、多数の画素のスペクトルを同時に取得し、分子ごとに画像化を行い、代謝物質ごとの濃度分布を視覚的に捉えること方法(プロトン磁気共鳴スペクトロスコピックイメ−ジング、以下、1H-MRSIと略す)がある。このようなMRS/MRSIで取得する代謝物質の信号は、通常のMRI撮影で取得する信号に比べ非常に弱く、励起領域外に皮下脂肪などの大きな信号がある場合、励起領域外の核磁化は確実に励起しないことが重要になる。
【0007】
しかしながら、上述した従来の高周波磁場パルスの設計では、全体として矩形に近づくような励起プロファイルを用いており、励起領域以外を励起しないという要求に十分に対応することは困難である。
そこで本発明は、励起領域外の核磁化を励起せず、励起面の不均一による影響を実質的に排除し、矩形に近い励起プロファイルで励起したのと同等の信号を得ることが可能な磁気共鳴撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁気共鳴撮影装置は、励起領域内の均一度を犠牲にし、励起領域外の核磁化を励起せず、立ち上がりを急峻にすることを優先した高周波磁場パルスの設計を行う。その上で、励起面の不均一に関しては、後処理で補正を加えることで、矩形に近い励起プロファイルを取得する。
【0009】
すなわち、本発明の磁気共鳴撮影装置は、静磁場を発生する静磁場発生手段と、前記静磁場中に置かれた被検体の所望の領域を選択的に励起する高周波磁場を印加する送信手段と、前記被検体から発生する核磁気共鳴信号を検出する検出手段と、前記核磁気共鳴信号を用いて被検体情報を算出する演算手段と、前記演算手段で算出された被検体情報を表示する表示手段とを備えた磁気共鳴撮影装置において、前記送信手段は、選択領域外は励起せず、立ち上がりが急峻で、励起面に凹凸がある励起プロファイルを作る高周波磁場を発生する高周波磁場発生手段を備え、前記演算手段は、前記高周波磁場によって励起された領域からの核磁気共鳴信号を補正し、前記励起面を実質的に平坦にする補正手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の磁気共鳴撮影装置は、例えば、高周波磁場パルスの初期関数から、選択領域外は励起せず、立ち上がりが急峻で、励起面に凹凸がある励起プロファイルを作る高周波磁場パルスを設計する設計手段を備える。設計手段は、例えば、前記初期関数から算出される励起プロファイルと所望の形状の励起プロファイルとの二乗和に、励起プロファイルの選択領域外および立ち上がり部分を最大重みとする重み付け関数を乗じて評価関数とし、前記評価関数を最小とするように前記高周波磁場を決定する。
【0011】
また本発明の磁気共鳴撮影装置において、補正手段は、例えば、高周波磁場発生手段が発生する高周波磁場の励起プロファイルを参照データとして用いて補正用データを作成し、計測データのうち励起面を含む部分について前記補正用データを用いた補正を行う。補正手段は、例えば、参照データを、被検体またはファントムから取得された核磁気共鳴信号から作成する。或いは送信手段が印加する高周波磁場パルスから計算によって求める。
また本発明の磁気共鳴撮影装置は、参照データをあらかじめ保持しておくための記憶手段を備える。
【0012】
本発明の核磁気共鳴撮影方法は、静磁場中に置かれた検査対象に1ないし複数の励起用高周波磁場パルスおよび1ないし複数の反転用高周波磁場パルスを印加し、前記検査対象の選択された領域を励起し、当該選択領域から得られる核磁気共鳴信号を検出し、前記核磁気共鳴信号を用いて前記選択領域に含まれる化学種のスペクトルまたは化学種毎の画像を作成する核磁気共鳴撮影方法であって、前記励起用高周波磁場パルスおよび反転用高周波磁場パルスの少なくとも一つに、選択領域外は励起せず、立ち上がりが急峻で、励起面に凹凸がある励起プロファイルを作る高周波磁場を用い、前記検出した核磁気共鳴信号について、前記励起プロファイルの励起面の凹凸を補正した後、前記化学種のスペクトルまたは画像を作成することを特徴とする。
【0013】
本発明の磁気共鳴撮影方法において、例えば、反転用高周波磁場パルスは、励起用高周波磁場パルスの印加軸と直交する印加軸を有する2つの高周波磁場パルスを含み、それぞれが、選択領域外は励起せず、立ち上がりが急峻で、励起面に凹凸がある励起プロファイルを作る高周波磁場である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、選択領域外の核磁化を励起せず、立ち上がりを急峻にするという2つの条件のみで励起プロファイルを設計することにより、短時間で両条件を満たす高周波磁場パルスを発生することができる。これらの条件を満たす高周波磁場パルスは、励起面について制限が与えられていないので、励起面に凹凸がある励起プロファイルを生成するが、励起面の凹凸は、他の条件と異なり後処理で容易に補正を行なうことができる。すなわち得られた信号に補正を加えることで、矩形に近い励起プロファイルを取得することができる。その結果、励起領域外にある皮下脂肪などの余計な信号の混入を確実に防ぎ、しかも励起面の凹凸の影響を排除した情報が得られる。このように画像やスペクトル精度が改善されることによって診断能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の磁気共鳴撮影装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1(a)〜(c)に、本発明が適用される磁気共鳴撮影装置の全体構成と外観図を示す。図1(a)はソレノイドコイルで静磁場を発生するトンネル型磁石を用いた水平磁場方式の磁気共鳴撮影装置であり、図1(b)は開放感を高めるために磁石を上下に分離したハンバーガー型(オープン型)の垂直磁場方式の磁気共鳴撮影装置である。また、図1(c)は、図1(a)と同じトンネル型の磁気共鳴撮影装置であるが、磁石の奥行を短くし且つ斜めに傾けることによって、開放感を高めている。本発明は、これら磁気共鳴撮影装置を含む公知の構造の磁気共鳴撮影装置に適用することができる。
【0016】
図2は、本発明が適用される磁気共鳴撮影装置の一例を示すブロック図である。この磁気共鳴撮影装置は、被検体1が置かれる空間に、静磁場を発生する静磁場コイル2と、静磁場に直交する三方向の傾斜磁場を与えるための傾斜磁場コイル3と、被検体1の計測領域に対し高周波磁場を照射する計測用高周波コイル5(以下、単に送信コイルという)と、検体1から発生する磁気共鳴信号を受信する受信用高周波コイル(以下、単に受信コイルという)6とを備えている。また静磁場均一度を調整できるシムコイル4を備えている場合もある。
【0017】
静磁場コイル2は、図1に示した装置の構造に応じて、種々の形態のものが採用される。傾斜磁場コイル3及びシムコイル4は、それぞれ傾斜磁場用電源部12及びシム用電源部13により駆動される。図2では、送信コイルと受信コイルとを別個に示しているが、送信用と受信用を兼用する一つの高周波コイルのみを用いる構成もある。送信コイル5が照射する高周波磁場は、送信機7により生成される。受信コイルが検出した磁気共鳴信号は、受信機8を通して計算機9に送られる。
【0018】
計算機9は、磁気共鳴信号に対して様々な演算処理を行いスペクトル情報や画像情報を生成する。上記演算処理には、磁気共鳴信号の補正処理が含まれる。また計算機9は送信機7が生成する高周波磁場パルスの波形を決定するための最適化演算を行う。高周波磁場パルスの波形演算と磁気共鳴信号の補正処理については後に詳述する。なお本実施の形態では、波形演算は計算機9が行うものとするが、磁気共鳴撮影装置の外部装置である計算機で行うことも可能である。
【0019】
計算機9には、ディスプレイ10、記憶装置11、シーケンス制御装置14、入力装置15などが接続されており、上述した生成したスペクトル情報や画像情報をディスプレイ10に表示したり記憶装置11に記録したりする。入力装置15は、測定条件や演算処理に必要な条件などを入力するためのもので、これら測定条件等も必要に応じて記憶装置11に記録される。シーケンス制御装置14は、傾斜磁場発生コイル3の駆動用電源部12、シムコイル4の駆動用電源部13、送信機7及び受信機8を制御する。制御のタイムチャート(パルスシーケンス)は撮影方法によって予め設定されており、記憶装置11に格納されている。
【0020】
本発明の磁気共鳴撮影装置で実行されるパルスシーケンスの一例を図3にそれぞれ示す。図3において、RF、Gx、Gy、Gz、A/Dは、それぞれ高周波磁場パルスの印加タイミング、x、y、z方向の傾斜磁場パルスの印加タイミング、信号の計測期間を示している。図5に示すパルスシーケンスは、高周波磁場パルスRFの形状が異なることを除き、公知のMRSIのパルスシーケンスと同じであり、1つの励起パルスRF1と2つの反転パルスRF2、RF3を用いて選択された関心領域からFID信号(自由誘導減衰)FID1を得る。このパルスシーケンスによって励起される領域を示す図4を参照しながら簡単に説明する。
【0021】
まず高周波磁場RF1と傾斜磁場パルスGs1、Gs1'を印加して、Z方向の断面401を励起する。その後、TE/4(ここで、TEはエコー時間)時間で、高周波磁場RF2と傾斜磁場Gs2を印加することによって、Z方向の断面401とY方向の断面402が交差した領域における核磁化の位相のみを戻す。続いて、高周波磁場RF2印加後からTE/2後に高周波磁場RF3と傾斜磁場Gs3を印加することによって、Z方向の断面401、Y方向の断面402、X方向の断面403が交差した関心領域404における核磁化の位相のみを戻し、自由誘導減衰信号FID1を測定する。なおGd4〜Gd7およびGd4’〜Gd7’は高周波磁場RF1で励起された核磁化の位相は乱さず、RF2、RF3で励起された核磁化の位相をディフェイズするための傾斜磁場である。また高周波磁場RF1と高周波磁場RF2との間には、位相エンコード傾斜磁場Gp1、Gp2が印加される。これら位相エンコード傾斜磁場の強度を、1回の励起ごとに変化させることで、関心領域404から発生する磁気共鳴信号に位置情報を付与することができる。この計測した磁気共鳴信号(FID1)に対してフーリエ変換を施すことにより、図4に示す関心領域404に含まれる各代謝物質の分布画像を得ることが可能となる。
【0022】
次に本発明の磁気共鳴撮影装置の動作を説明する。図5にその手順を示す。図示する磁気共鳴撮影方法は、基本的な手順として、高周波磁場の最適化ステップ(511、512)、本計測513、計測後の補正ステップ(514、515)を含んでいる。高周波磁場の最適化ステップでは、所定の評価関数Fを導入し(ステップ511)、評価関数Fが最小になるように、高周波磁場波形H1(t)を数値的に計算する(ステップ512)。本計測513では、最適化ステップで計算された高周波磁場波形H1(t)を用いて、図3に示すようなパルスシーケンスでMRSI画像を計測する。補正ステップでは、励起プロファイル補正を実施するためのリファレンスデータを取得し(ステップ514)、励起プロファイル補正を行う(ステップ515)。以下、各ステップを詳述する。
【0023】
最初に高周波磁場パルスの最適化について説明する。高周波磁場パルスの設計は、本計測とは独立して行うことができ、実験的に行っても良いし、シミュレーションを用いても良い。実験的に設計する場合、シミュレーションによる設計手順を、実験的に行う。または、単純に試行錯誤によりプロファイルを設計することも可能である。ここでは、シミュレーションによる設計法について説明する。
【0024】
本発明の設計思想は、サイドローブがなく、立ち上がりが急峻なスライスプロファイルを得るというものであり、励起面の凹凸は問わない。このため、まず選択領域外と立ち上がり領域に制限を加え、励起面には制限を加えない場合の評価関数Fを導入し、この評価関数Fが最小になるように、高周波磁場波形H1(t)を数値的に計算する。以下に、具体的なアルゴリズムを説明する。
【0025】
まず与えられた高周波磁場波形H1(t)(初期関数)から励起プロファイルを計算する。初期関数としてはsinc関数を用いてもよいし、sinc関数にウィンドウ関数等を適用することによって修正した関数でもよい。選択励起パルスによるスライスプロファイルは、高周波磁場波形H1(t)とスライス中心距離nΔXに対応して定まる。このときの核磁化の運動は、次のBlochの方程式に従うことが知られている。ここで、Mは核磁化ベクトル、γは磁気回転比、Gは傾斜磁場強度である。
【0026】
【数1】

ここでは、時間tを微小区間Δtに分割し、各微小区間においてH1(t)が一定とみなせるものとして近似計算を行う。微小区間kΔtにおいて、核磁化は回転ベクトルωkのまわりに回転する。
【0027】
【数2】

したがって、回転ベクトルωkに対応する回転行列をRxとすると、
M(kΔt) = Rx・M((k-1)Δt)
ただし、M(kΔt)は時刻t = kΔt における磁化ベクトルである。
【0028】
したがって、初期磁化ベクトルM(0)に対応するパルス後(T時間後)の磁化ベクトルM(T)は、回転行列をRとすると、
【数3】

となる。このようにして初期磁化ベクトルM(0)に回転行列Rを作用させることによって、励起プロファイルM(T)を計算することができる。ここで、Rkは回転ベクトルωkに対応する回転行列であるから、回転座標変換によって求められる。具体的な表式は以下のようになる。
【0029】
【数4】

【0030】
次に、このようにして算出された励起プロファイルに対し、評価関数Fとして、所望するプロファイルとのずれの重み付き二乗和を採用する。評価関数Fは、所望するプロファイルをP(x)、計算されたプロファイルをM(x)、重みをW(x)、スライス方向の微小区間をnΔXとすると、以下のようにして表せられる。
【0031】
【数5】

図6に所望するプロファイルP(x)と、計算されたプロファイルM(x)の一例を示す。重みW(x)は、計算されたプロファイルM(x)に適用する条件を決定するものである。ここでは所望するプロファイルP(x)の励起領域外(プロファイルM(x)のサイドローブが生じている領域)および立ち上がり部分のみに制限を加えた評価関数となるように重みを設定する。例えばプロファイルP(x)の境界(立ち上がりの始点)を含む領域を1、それ以外を0とするW(x)を採用する。すなわち、スライス中心からプロファイルP(x)の境界までの距離がN1であるとすると、
【数6】

【0032】
この評価関数Fが最小になるようにして、最急降下法などを用いて最適化を行う。以上のアルゴリズムによって設計した180度パルスの波形と励起プロファイルの計算機シミュレーション結果を図7に示す。図7(a)は、RF波形、(b)は励起プロファイルを示す図で、それぞれ実線は本アルゴリズムで設計した高周波磁場波形H1(t)と、それにより励起された核磁化のプロファイルである。また破線は、sinc(t)波形と、それにより励起した核磁化のプロファイルである。点線は後述する補正後の励起プロファイルである。
図示するように、本アルゴリズムでは、選択領域外と立ち上がり領域に制限を加え、励起面には制限を加えない場合の評価関数Fを採用しているので、励起面には凹凸が生じている。この励起面の凹凸による画像の劣化は、後述する補正ステップで補正される。
【0033】
本計測513は、以上のアルゴリズムで得られた高周波磁場パルスH1(t)を用いて、例えば図3に示すパルスシーケンスに従いMRSI画像を計測する。ここで高周波磁場パルスH1(t)は図3の高周波磁場パルスRF1、RF2、RF3の全てに用いてもよいが、選択する領域の部位や広さを考慮して少なくとも一つの高周波磁場パルスに用いればよい。図4のような関心領域を選択する場合には、高周波磁場パルスRF2、RF3として最適化で計算された高周波磁場パルスH1(t)を用いることが好ましい。
【0034】
次に本計測後の補正ステップについて説明する。補正ステップでは、まず励起プロファイル補正を実施するためのリファレンスデータを取得する(図5、ステップ514)。リファレンスデータを取得する方法としては、例えば以下の(1)〜(4)の方法があり、いずれを採用してもよい。
【0035】
(1)における渦電流補正用の水データを用いる。一般にMRSIでは、渦電流の影響を排除するために本計測に先立って渦電流補正用の水データ(被検体の水信号のデータ)を取得する。このような水データが予め取得されている場合には、これをリファレンスデータとして用いる。
(2)本計測時と同一の高周波磁場パルスを用いたMRI画像を取得する。本計測がMRSIの場合には、本計測の前或いは後にMRI画像の計測を行い、MRI画像をリファレンスデータとする。リファレンスデータは低空間分解能画像でよいので、短時間で計測を行うことができる。
(3)ファントムを用いてMRI画像・MRSI画像をあらかじめ取得しておく。
(4)シミュレーション結果から算出される励起プロファイルを用いる。
【0036】
(3)および(4)の方法の場合には、本計測とは関係なく、最適化71によって高周波磁場パルスH1(t)が決定されたならば適当なときに行い、レファレンスデータとして記憶させておくことができる。
【0037】
次に上記方法によって取得したリファレンスデータを用いて励起プロファイル補正を行う方法を、図8を用いて説明する。図8(a)は補正手順を示すフローチャート、(b)はリファレンスデータと補正後のデータを示す図である。まずリファレンスデータf(x)から最大値Maxを算出し(ステップ81)、この最大値Maxとリファレンスデータf(x)各点の値との比を、補正値C(x)とする(ステップ82)。その後に、本計測データg(x)各点の値を、予め設定した基準値Aと比較し(ステップ83)、本計測データg(x)の値が基準値Aを超えた場合のみに補正値C(x)を掛けて補正後の計測データG(x)を得る(ステップ84)。本計測データg(x)の値が基準値A以下の場合には、本計測データg(x)の値をそのまま用いる(ステップ85)。基準値Aは励起プロファイルの凹凸の幅を考慮して適宜決めることができ、例えば最大値Maxの80%の値を用いることができる。或いは評価関数Fの重みW(x)を0とした境界値(-N1+a、N1-a)またはその近傍における信号値を基準値Aとしてもよい。
【0038】
図7(b)の点線は、励起プロファイルf(x)の最大値の80%を基準値Aとして、補正することによって得られた励起プロファイルG(x)を示している。図示するように、この補正後の励起プロファイルは、所望するプロファイル(図6)とほぼ同じ形状で、サイドローブがなく、立ち上がりが急峻で、且つ励起面が平坦化されている。
【0039】
また、図3に示すパルスシーケンスを用いて、一様なファントムで得られる励起プロファイルを計算機シミュレーションで取得した結果を図9に示す。図9(a)は、sinc(t)波形の高周波磁場パルスRF1、RF2、RF3を用いた場合の核磁化のプロファイル、図9(b)は2つの反転高周波磁場パルスRF2、RF3に本アルゴリズムで設計した高周波磁場波形H1(t)を用いた場合の核磁化のプロファイルである。また図9(c)は図9(b)のプロファイルの最大値に対して80%の値を補正基準値Aとして補正した結果である。
なお以上の実施の形態では、本計測としてMRSI画像を計測する場合を説明したが、本発明はMRSIに限らず、MRS或いはMRIに適用できるのは言うまでもない。
【0040】
以上、説明したように、本発明によれば、選択領域外の核磁化を励起せず、立ち上がりが急峻なプロファイルを実現し、励起面をリファレンスデータによって補正することによって矩形に近い励起プロファイルが得られる。その結果、励起領域外にある皮下脂肪などの余計な信号の混入を防ぎ、画像やスペクトル精度が改善されることによって診断能が向上する。
【0041】
また本発明によれば、高周波磁場波形の最適化において、完全な矩形を目指すのではなく、条件を限定することにより、短時間で且つ条件との適合性の高い最適化波形を得ることができる。特に最適化における波形の初期関数として、修正されたsinc波形を用いることによりさらに最適化に要する演算回数を低減することができる。
さらに本発明によれば補正は、信号値の高い領域で行うので補正精度が高い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、条件の制限された最適化と本計測された信号の補正とを組み合わせることにより、理想的な励起プロファイルで励起した場合と同様の信号を得ることができ、劣化の極めて少ない画像やスペクトルを得ることができる。また本発明によれば選択領域以外の領域を励起せず、立ち上がりが急峻であるという条件が高い充足性で満たされるので、信号強度が微弱であり選択領域以外からの信号の影響を受けやすいMRSIやMRSにおいて診断価値の高い情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明が適用される磁気共鳴撮影装置の外観図。
【図2】本発明が適用される磁気共鳴撮影装置の構成例を示す図。
【図3】本発明の磁気共鳴撮影装置で使用するMRSIパルスシーケンスの一例を示す図。
【図4】図3のパルスシーケンスにより励起される領域の一例を示す図。
【図5】最適な励起プロファイルを得るためのフローチャートの一実施形態を示す図。
【図6】本発明で設定する評価関数Fの境界条件を説明する図。
【図7】励起プロファイルの一例を示す図。
【図8】励起プロファイル補正の手順を示す図。
【図9】励起プロファイル(2次元)の一例を示す図。
【図10】(a)は、無限のsinc波形とその励起プロファイルとの関係を示す図、(b)は、有限のsinc波形とその励起プロファイルとの関係を示す図。
【符号の説明】
【0044】
2・・・静磁場コイル、3・・・傾斜磁場コイル、5・・・送信コイル、6・・・受信コイル、7・・・送信機、8・・・受信機、9・・・計算機、11・・・記憶装置、14・・・シーケンス制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場を発生する静磁場発生手段と、前記静磁場中に置かれた被検体の所望の領域を選択的に励起する高周波磁場を印加する送信手段と、前記被検体から発生する核磁気共鳴信号を検出する検出手段と、前記核磁気共鳴信号を用いて被検体情報を算出する演算手段と、前記演算手段で算出された被検体情報を表示する表示手段とを備えた磁気共鳴撮影装置において、
前記送信手段は、選択領域外は励起せず、立ち上がりが急峻で、励起面に凹凸がある励起プロファイルを作る高周波磁場を発生する高周波磁場発生手段を備え、
前記演算手段は、前記高周波磁場によって励起された領域からの核磁気共鳴信号を補正し、前記励起面を実質的に平坦にする補正手段を備えたことを特徴とする磁気共鳴撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴撮影装置であって、
高周波磁場パルスの初期関数から、選択領域外は励起せず、立ち上がりが急峻で、励起面に凹凸がある励起プロファイルを作る高周波磁場パルスを設計する設計手段を備えたことを特徴とする磁気共鳴撮影装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴撮影装置において、
前記設計手段は、前記初期関数から算出される励起プロファイルと所望の形状の励起プロファイルとの二乗和に、励起プロファイルの選択領域外および立ち上がり部分を最大重みとする重み付け関数を乗じて評価関数とし、前記評価関数を最小とするように前記高周波磁場を決定する最適化演算手段を有する磁気共鳴撮影装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気共鳴撮影装置において、
前記補正手段は、高周波磁場発生手段が発生する高周波磁場の励起プロファイルを参照データとして用いて補正用データを作成し、計測データのうち励起面を含む部分について前記補正用データを用いた補正を行うことを特徴とする磁気共鳴撮影装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴撮影装置において、
前記補正手段は、被検体またはファントムから取得された核磁気共鳴信号から前記参照データを作成する手段を備えたことを特徴とする磁気共鳴撮影装置。
【請求項6】
請求項4に記載の磁気共鳴撮影装置において、
前記補正手段は、前記参照データを、前記送信手段が印加する高周波磁場パルスから計算によって求める手段を備えたことを特徴とする磁気共鳴撮影装置。
【請求項7】
請求項4ないし6いずれか1項に記載の磁気共鳴撮影装置において、
前記参照データをあらかじめ保持しておくための記憶手段を備えたことを特徴とする磁気共鳴撮影装置。
【請求項8】
静磁場中に置かれた検査対象に1ないし複数の励起用高周波磁場パルスおよび1ないし複数の反転用高周波磁場パルスを印加し、前記検査対象の選択された領域を励起し、当該選択領域から得られる核磁気共鳴信号を検出し、前記核磁気共鳴信号を用いて前記選択領域に含まれる化学種のスペクトルまたは化学種毎の画像を作成する核磁気共鳴撮影方法であって、
前記励起用高周波磁場パルスおよび反転用高周波磁場パルスの少なくとも一つに、選択領域外は励起せず、立ち上がりが急峻で、励起面に凹凸がある励起プロファイルを作る高周波磁場を用い、
前記検出した核磁気共鳴信号について、前記励起プロファイルの励起面の凹凸を補正した後、前記化学種のスペクトルまたは画像を作成することを特徴とする核磁気共鳴撮影方法。
【請求項9】
請求項8記載の磁気共鳴撮影方法であって、
前記反転用高周波磁場パルスは、前記励起用高周波磁場パルスの印加軸と直交する印加軸を有する2つの高周波磁場パルスを含み、それぞれが選択領域外は励起せず、立ち上がりが急峻で、励起面に凹凸がある励起プロファイルを作る高周波磁場であることを特徴とする核磁気共鳴撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−202902(P2007−202902A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27178(P2006−27178)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】