磁気共鳴画像化装置の測定方法および磁気共鳴画像化装置のチューニング用試料
【課題】核磁気共鳴を利用して、リアルタイムで高精度に被測定対象の断層撮影を行なうことを可能とするために、精度の高いチューニングを行なうことが可能な磁気共鳴画像化装置の測定方法を提供する。
【解決手段】被測定対象からの核磁気共鳴に起因する検出信号を検知して、前記被測定対象の断層画像を生成するための磁気共鳴画像化装置の測定方法であって、前記磁気共鳴画像化装置において、水と脂肪が均一に混在した試料により中心周波数のチューニングを行なうステップ(S100)と、前記チューニングされた中心周波数に基づいて、被験者の断面画像を前記磁気共鳴画像化装置による計測で生成するステップ(S104〜S212)とを備える。
【解決手段】被測定対象からの核磁気共鳴に起因する検出信号を検知して、前記被測定対象の断層画像を生成するための磁気共鳴画像化装置の測定方法であって、前記磁気共鳴画像化装置において、水と脂肪が均一に混在した試料により中心周波数のチューニングを行なうステップ(S100)と、前記チューニングされた中心周波数に基づいて、被験者の断面画像を前記磁気共鳴画像化装置による計測で生成するステップ(S104〜S212)とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体の断層撮影を行なうための核磁気共鳴画像化装置(MRI : Magnetic Resonance Imaging)の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の脳や全身の断面を画像する方法として、生体中の原子、特に、水素原子の原子核に対する核磁気共鳴現象を利用した核磁気共鳴映像法が、人間の臨床画像診断等に使用されている。
【0003】
核磁気共鳴映像法は、それを人体に適用する場合、同様の人体内断層画像法である「X線CT」に比較して、たとえば、以下のような特徴がある。
【0004】
(1)水素原子の分布と、その信号緩和時間(原子の結合の強さを反映)に対応した濃度の画像が得られる。このため、組織の性質の差異に応じた濃淡を呈し、組織の違いを観察しやすい。
【0005】
(2)磁場は、骨による吸収がない。このため、骨に囲まれた部位(頭蓋内、脊髄など)を観察しやすい。
【0006】
(3)X線のように人体に害になるということがないので、広範囲に活用できる。
このような核磁気共鳴影像法は、人体の各細胞に最も多く含まれ、かつ最も大きな磁性を有している水素原子核(陽子)の磁気性を利用する。水素原子核の磁性を担うスピン角運動量の磁場内での運動は、古典的には、コマの歳差運動にたとえられる。
【0007】
以下、本発明の背景の説明のために、この直感的な古典的モデルで、簡単に核磁気共鳴の原理をまとめておく。
【0008】
上述したような水素原子核のスピン角運動量の方向(コマの自転軸の方向)は、磁場のない環境では、ランダムな方向を向いているものの、静磁場を印加すると、磁力線の方向を向く。
【0009】
この状態で、さらに振動磁界を重畳すると、この振動磁界の周波数が、静磁界の強さで決まる共鳴周波数f0=γB0/2π(γ:物質に固有の係数)であると、共鳴により原子核側にエネルギーが移動し、磁化ベクトルの方向が変わる(歳差運動が大きくなる)。この状態で、振動磁界を切ると、歳差運動は、傾き角度を戻しながら、静磁界における方向に復帰していく。この過程を外部からアンテナコイルにより検知することで、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)信号を得ることができる。
【0010】
このような共鳴周波数f0は、静磁界の強度がB0(T)であるとき、水素原子では、42.6×B0(MHz)となる。
【0011】
1)画像構成方法
実際に核磁気共鳴信号からどのように3次元の位置情報を得るかについて、スピンエコー法を例にとって、簡単に説明する。
【0012】
図11は、スピンエコー法のシーケンスを示す概念図である。
(スライス選択)
被験者の足から頭の方向がZ軸の方向だとすると、この方向に向かって磁場が次第に強くなるように傾斜磁場Gzをかける。これにより被験者の各横断スライスは異なる周波数により共鳴することになる。そのためRFパルスの周波数を調整することで、特定のスライスにのみエネルギーを吸収させることが可能となる。スピンエコー法では、最初の90度励起パルスを与えてからエコーの帰ってくるまでの時間をTEと呼び、TE/2の時に再び180°のRFパルスで励起を行なう。
【0013】
(空間エンコーディングと画像再構成)
傾斜磁場Gzにより選択されたスライスは2次元である。実際の断層画像を得るためには得られた信号成分をこの平面上の位置に対応させなければならない。
【0014】
そのため選択された2次元のスライスをXY平面とすると、MRIではX方向に傾斜磁場Gxをかける周波数エンコーディングと、Y方向にGyをかける位相エンコーディングを行なう。
【0015】
はじめにY軸方向に傾斜磁場を短時間かけると、わずかな時間に強い磁場を受けたところは速く、弱い磁場を受けたところは遅く回転するために、傾斜磁場Gy消失後Y軸方向に沿って異なる位相のスピンが生じる。次に、X軸方向に傾斜磁場をかけることにより、X軸に沿って異なる周波数のエコーが得られる。以上の操作によりスライス選択(Z軸)と空間エンコーディング(XY軸)が完了する。Nx×Nyドットの画像を得たい場合、Nx個のデータ点によりこの信号をサンプリングする。
【0016】
次に、Y軸方向の傾斜磁場の度合いGyを変化させながらこの過程をNy回繰り返してNy個のエコー信号を得る。これを2次元フーリエ変換すると、周波数の違いからX,Y方向に展開され画像が復元される。
【0017】
すなわち、スピンエコー法では、繰り返し時間(TR)の間に一断面中のひとつのデータを収集しこれを、k空間でのマトリックス数回繰り返すことで断面のデータを収集する。
【0018】
さらに、核磁気共鳴映像法では、血流量の変化に応じて、検出される信号に変化が現れることを用いて、外部刺激等に対する脳の活動部位を視覚化することも可能である。このような核磁気共鳴映像法を、特に、fMRI(functional MRI)と呼ぶ。
【0019】
fMRIでは、装置としては通常のMRI装置に、さらに、fMRI計測に必要なハードおよびソフトを装備したものが使用される。
【0020】
ここで、血流量の変化がNMR信号強度に変化をもたらすのは、血液中の酸素化および脱酸素化ヘモグロビンは磁気的な性質が異なることを利用している。酸素化ヘモグロビンは反磁性体の性質があり、周りに存在する水の水素原子の緩和時間に影響を与えないのに対し、脱酸素化ヘモグロビンは常磁性体であり、周囲の磁場を変化させる。したがって、脳が刺激を受け、局部血流が増大し、酸素化ヘモグロビンが増加すると、その変化分をMRI信号として検出する事ができる。被験者への刺激は、たとえば、視覚による刺激や聴覚による刺激等が用いられる。
【0021】
また、90°パルスのあとx−y平面内の磁化は横緩和により減衰するが、消滅しないうちに位相エンコードのステップにより連続的なグラジエントエコーを発生させ、画像再構成に必要なすべてのデータを集めてしまう方法として、EPI(Echo Planar Imaging)と呼ばれるシーケンスが知られている。
【0022】
図12は、このようなEPIのシーケンスを説明するための概念図である。
脳機能の画像を撮影するためには、このEPIが、一般に採用される。
【0023】
次に、fMRIとして動作するときの動作シーケンスについて、さらに、詳しく説明する。
【0024】
図13は、このようなfMRIの測定シーケンスの概要を示すタイミングチャートである。
【0025】
被験者10に、同一の刺激タスクを、所定の期間ごと一定の間隔をおいて繰り返し与える。このとき、脳内の同一断面について断層撮影は時系列的に続行しつつ、その断面内で刺激タスク期間内のEPI信号の変化を検出する。
【0026】
このような信号強度の変化は、上述したように、脳内の血流量の変化に起因するものである。ただし、このような信号強度の変化は、数パーセントのオーダーであり、十分なSN比を得るために、同一の刺激タスクを複数回繰り返して、各回のEPI信号の変化パターンを、タスクの開始時点を揃えて平均する。このような処理により、刺激に対する脳内の応答を視覚化する。つまり、ある特定のタスクを行なっているときに、脳内で活動が活性化する部位を特定できる。
【0027】
なお、このようなエコープレナーイメージングによる画像生成の原理および臨床応用等については、非特許文献1〜2に記載されている。
【0028】
一方で、このようなEPIのシーケンスを使って観察を行なう結果、NMRで単純に断面形状を撮影するのよりも、fMRIでは、長時間のスキャンが必要になる。
【0029】
ところが、測定前にチューニングを取った後に、10分や20分という時間のオーダーで測定を繰り返すと、信号のベースラインのレベルが変動してしまうという現象や「画像のずれ」が確認される。このようなベースラインの変動は「低周波ドリフト」と呼ばれる。ここで、信号のベースラインとは、ファントムと呼ばれる較正用の試料で、測定条件を最適化した際の信号のベースレベルである。「低周波ドリフト」がfMRIの測定に与える影響については、非特許文献3に記載されている。
【0030】
特に、EPIの場合、測定される共鳴周波数のピーク値(以下、中心周波数と呼ぶ)の値f0のわずかな変動も画像の位置ずれとして顕著に現われる。
【非特許文献1】押尾晃一,「EPI Revisited」,日本磁気共鳴医学会誌,第19巻1号(1999)p.1−5
【非特許文献2】鈴木清隆,「Echo Planar Imaging」,日本磁気共鳴医学会誌,第19巻1号(1999)p.7−18
【非特許文献3】アン・M・スミス(Anne M. Smith)他7名「fMRI信号における低周波ドリフトの研究(Investigation of Low Frequency Drift in fMRI Signal)」、ニューロイメージ(NeuroImage) 9,p.526−533(1999) Article ID nimg. 199.0435
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
そこで、MRI装置での撮影時には、以下に説明するようなチューニングを、正確に行なう必要がある。
【0032】
MRI装置の性能評価やチューニングには上述したように「ファントム」と呼ばれる模擬生体試料が用いられる。
【0033】
ファントムに用いられる信号源には、水、塩化ニッケル水溶液、硫酸銅水溶液、塩化ナトリウム水溶液などの液体やポリビニルアルコール(PVA)のようなゲル状信号源が用いられアクリル容器などに封入される。
【0034】
これらの従来のファントムはいずれも周波数スペクトル上に、ひとつの信号ピークをもっている。撮影の際のチューニングでは、まずこのピークに中心周波数を合致させる操作が行なわれる。
【0035】
しかしながら、生体においては、水成分の水素と脂肪成分の水素とで、共鳴周波数に差があるため、ファントムにおいて、脂肪成分からの影響を考慮してチューニングを正確に行なうことが必要である。
【0036】
しかしながら、従来は、このような脂肪成分の影響を十分考慮したチューニングが行なえないため、良好な精度の信号計測が行なえない、という問題点があった。
【0037】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、核磁気共鳴を利用して、リアルタイムで高精度に被測定対象の断層撮影を行なうことを可能とするために、精度の高いチューニングを行なうことが可能な磁気共鳴画像化装置の測定方法または磁気共鳴画像化装置のチューニングに使用される試料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0038】
このような目的を達成するために、本発明は、被測定対象からの核磁気共鳴に起因する検出信号を検知して、被測定対象の断層画像を生成するための磁気共鳴画像化装置の測定方法であって、磁気共鳴画像化装置において、水と脂肪が均一に混在した試料により中心周波数のチューニングを行なうステップと、チューニングされた中心周波数に基づいて、被験者の断面画像を磁気共鳴画像化装置による計測で生成するステップとを備える。
【0039】
好ましくは、試料は、乳化剤を用いて水と脂肪を均等に混在させた材料を容器内に封入したものである。
【0040】
この発明の他の局面に従うと、磁気共鳴画像化装置のチューニングに使用される試料であって、容器と、乳化剤を用いて水と脂肪を均等に混在させた材料であって、容器内に封入された材料とを備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[磁気共鳴画像化装置の構成および動作]
図1は、このような核磁気共鳴現象を利用したMRI装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0042】
図1を参照して、MRI装置は、被験者10を支持するための台部12と、上述した静磁界を生成するための静磁場コイル100と、後に説明するように被験者における観測断面(スライス)の位置およびスライス内の位置の情報を観測信号に付与するための傾斜磁場コイル102と、観測対象となる原子核に振動磁場を印加するために電磁波を出力するRFコイル104と、観測対象となる原子核からの信号を受信するためのRFコイル106と、コイル100〜104を制御し、かつ、RFコイル106で受信された信号を基に、断層画像を生成するための断層撮影制御部200とを備える。
【0043】
さらに、断層撮影制御部200は、使用者からの指示等の入力を行なうための入力部210と、入力部210からの指示に基づいて、たとえば、各被験者10に対する測定ごとに、RFコイル104から与える電磁場の強度およびRFコイル106で検出される信号強度の調整値や測定される共鳴周波数(中心周波数)の値f0の合わせ込みの結果(較正値)などをチューニング値として保存するためのチューニング値記憶部220とを備える。ここで、少なくとも被験者10ごとに、このようなチューニングを行なうのは、被験者10によって、コイル内の磁場の環境が微妙に変化するために、これを調整する必要があるからである。
【0044】
断層撮影制御部200は、さらに、上述したようなチューニング動作や測定動作の制御を行なうための制御部230と、制御部230に制御されてRFコイル104に対してRFパルスを与えるためのRFパルス送信部240と、RFコイル106からの信号を増幅して検出信号を取得するための信号増幅部250と、信号増幅部250からの検出信号に対応する測定データを記憶するデータ記憶部252と、チューニング値記憶部220中に格納されている中心周波数の較正値等の情報とデータ記憶部252からの測定データとに基づいて、フーリエ変換処理を行なうことにより、観測する断面の断面画像データを再構成するための画像再構成部260と、画像再構成部260からの情報をもとに再構成された断面画像を表示するための表示部270とを備える。なお、このようにして再構成された断面画像データは、データ記憶部252に格納される。
【0045】
ここで、静磁場コイル100は、より詳しくは、たとえば、4個の空芯コイルから構成され、その組み合わせで内部に均一な磁界を作り、被験者10の体内の水素原子核のスピンに配向性を与える。
【0046】
RFコイル104は、高周波を発して被験者10の体内の原子核を励起し、RFコイル106は、生じた核磁気共鳴を起因とする検出信号(エコー信号)を検知する。
【0047】
傾斜磁場コイル102は、図示しないX, Y, Zの3組の傾斜コイルを備え、Zコイルは励起時に、磁界強度をZ方向に傾斜させて共鳴面を限定し、Yコイルは、Z方向の磁界印加の直後に短時間の傾斜を加えて検出信号にY座標に比例した位相変調を加え(位相エンコーディング)、Xコイルは、続いてデータ採取時に傾斜を加えて、検出信号にX座標に比例した周波数変調を与える(周波数エンコーディング)。
【0048】
すなわち、静磁界にZ軸傾斜磁界を加えた状態にある被験者10に、共鳴周波数の高周波電磁界を、RFコイル104を通じて印加すると、磁界の強さが共鳴条件になっている部分の水素原子核が、選択的に励起されて共鳴し始める。共鳴条件に合致した部分(たとえば、被験者10の所定の厚さの断層)にある水素原子核が励起され、スピンがいっせいに回転する。励起パルスを止めると、RFコイル106には、今度は、回転しているスピンが放射する電磁波が信号を誘起し、しばらくの間、この信号が検出される。この信号によって、被験者10の体内の、水を含んだ組織を観察する。そして、信号の発信位置を知るために、XとYの傾斜磁界を加えて信号を検知する、という構成になっている。
【0049】
制御部230は、励起信号を繰り返し与えつつ検出信号を測定し、画像再構成部260は、1回目のフーリエ変換計算により、共鳴の周波数をX座標に還元し、2回目のフーリエ変換でY座標を復元して画像を得て、表示部270に対応する画像を表示する。
【0050】
以上の説明は、通常のMRI装置の動作と本質的に同じである。
図2は、上述したようなfNMR測定の典型的なフローを示す図である。
【0051】
図2を参照して、処理が開始されると、被験者10ごとに装置の初期チューニング処理が行なわれ(ステップS100)、制御部230は、RFコイル104から与える電磁場の強度およびRFコイル106で検出される信号強度の調整値や測定される中心波数値f0の合わせ込みの結果(較正値)などをチューニング値として、チューニング値記憶部220に保存する(ステップS102)。
【0052】
続いて、被験者10に対する測定が開始されると(ステップS104)、制御部230は、傾斜磁場コイル102を制御しつつ、RFパルス送信部240からの電磁波をRFコイル104から出力させる(ステップS108)。被験者10からの信号は、RFコイル106により受信され、信号増幅部250により増幅されて(ステップS110)、画像再構成部260に送られる。
【0053】
画像再構成部260は、フーリエ変換処理を利用して、画像を再構成して、表示部270に表示させる(ステップS112)。測定が終了していなければ、さらに、処理はステップ308に復帰して、測定が続行される(ステップS120)。一方、処理が所定の終了条件を満たしていると判断されれば、処理は終了する。
【0054】
[脂肪抑制パルスおよび周波数シフト]
図3は、人体と従来のファントムとで、観測される検出信号波形を示す概念図である。
【0055】
図3において、縦軸は検出信号の振幅を表し、横軸は周波数を表す。なお、図の右側から左側に向けて周波数が減少する。
【0056】
図3中では、選択したスライスに相当して、所定の周波数幅(時間軸では約1.5msecに相当)が励起されている。
【0057】
図3において、まず、第1に注意するべきことは、中心周波数値f0が測定期間中において、チューニング時よりも何らかの原因で移動すると、MRIでは、画像の位置ずれとして観測されることである。
【0058】
次に、従来のファントムでは、水の水素に起因するピークのみが観測されるのに対して、人体では、水の水素だけでなく脂肪中の水素に起因するピークが、ケミカルシフトのために水の水素からの信号とは分離して低周波側に相対的に小さなサブピークとして存在することである。このため、人体を測定するときは、脂肪抑制パルス(Fat−satパルス)を付加して、図3中で斜線により示した周波数帯域(時間軸では約10msecに相当)をマスクする処理が行なわれる。
【0059】
そして、人体からの信号では、Fat−satパルスが付加されている場合は、中心周波数f0の変動により、選択されたスライスに相当する周波数帯域中において、ピーク波形により囲まれる面積が大きく変動する。
【0060】
これに対して、人体からの信号に対してFat−satパルスが付加されていない場合や従来のファントムからの信号波形の場合は、中心周波数f0が変動しても、選択されたスライスに相当する周波数帯域中において、ピーク波形により囲まれる面積の変動がほとんどない。
【0061】
したがって、人体からの信号でFat−satパルスが付加されている場合は、中心周波数f0の変動があると仮定すると、観測されたようなベースラインの変動が説明可能と考えられる。
【0062】
次に、中心波数値f0が移動すると、MRIの撮影画面上では、画像の位置ずれとして観測されることについて、簡単に説明する。
【0063】
図4は、周波数空間において、観測されるデータのトラジェクトリを示す図である。
図4において、縦軸の方向は、位相の変化を表しており、縦軸の間隔は、エコー間時間(Inter echo time)を示す。横軸は、周波数を示し、間隔はリードアウトサンプリング時間を示す。
【0064】
図5は、図4に対応して再構成された画像空間を示す図である。
画像空間では、縦軸方向は、位相差として観測される。
【0065】
見かけの横緩和時間T2*を無視した場合、EPIの画像信号は次の式で示される。
【0066】
【数1】
【0067】
ここで、ρ(x、y)は、観測断面(スライス)内の水素(プロトン)密度である.
磁場強度に変動(△B)が生じた場合、式(1)は次のように表現され、変動量に応じた画像シフトが発生する。
【0068】
【数2】
【0069】
ここでγは磁気回転比、△tはリードアウトのデータサンプリング間隔、Tは位相方向のデータサンプリング時間であり傾斜磁場が理想的な形状を示す場合、
T=Δt・Nx (Nx:リードアウトマトリックス数)
の関係にある。
【0070】
従って、ΔBの影響を受けた再構成画像の位置(xn、yn)とオリジナル画像位置(x、y)の差(画像シフトΔxn、Δyn)は、以下のようになる。
【0071】
【数3】
【0072】
ここで、式(3)の各記号の意味は、以下の通りである。
【0073】
【数4】
【0074】
また、以下の関係が成り立つ。
【0075】
【数5】
【0076】
したがって、式(3)は、次の式(5)のようにも表現できる。
【0077】
【数6】
【0078】
ここで明らかなように磁場変動(周波数変動)の影響は位相方向に顕著に現れ、この項で用いたシーケンス(インターエコー時間:880μsec)の場合、約17.75Hzの周波数変動が1ピクセルの画像シフトをもたらすことになる。
【0079】
[画像位置ずれの具体例]
図6は、典型的な画像位置ずれであるケミカルシフトアーチフアクトを示す図である。
【0080】
ケミカルシフトアーチフアクトとは、MRIで計測される主要な信号とされる水成分と脂肪成分に周波数の違いがあることから発生するアーチフアクトである。図6(a)では、このようなこのアーチフアクトが発生している状態の断面撮像図を示す。
【0081】
一方、上述したように、EPIを用いた撮像では、脂肪のケミカルシフトアーチフアクトを防ぐために脂肪抑制パルスが併用される。図6(b)は、このような脂肪抑制パルスを印加した場合の断面撮像図を示す。
【0082】
ここで、脂肪成分に対する画像評価を行なうときに、脂肪のみを含む材料を用いたファントムを小さな試料容器にセットする方法を用いるとすると、EPIを用いて評価を行なおうとする場合、脂肪信号は周波数の違いによる画像シフトが大きすぎるため、良好な精度の信号計測が行なえない。
【0083】
そこで、水信号と脂肪信号が均等に混在する信号源が必要となる。
本発明では、したがって、ファントムとして、乳化現象を利用して、水と脂肪が均一に混在したファントムを用いて、図2のステップS100におけるチューニングを行なう。
【0084】
水と脂肪を均等に混在させるためには、乳化現象を利用する。適度な量の界面活性剤(乳化剤)を両者と混和させることでこの状態を作り上げることが出来、このような試料をたとえば、アクリル容器などに封入することでファントムとして利用することができる。このような混和した状態の材料としては、たとえば、マヨネーズが挙げられる。
【0085】
図7は、このように乳化現象を利用した信号物質混在型ファントムの周波数スペクトルの一例を示す図である。
【0086】
従来のファントムとは異なり、水成分に起因するピークと脂肪成分に起因するピークとが同時に観測される。
【0087】
図8は、この乳化現象を利用した信号物質混在型ファントムを用いてMRI装置の性能評価に適用したデータを示す。
【0088】
このデータは、横軸にスキャン数をとり、縦軸に相対信号強度をとることで、中心周波数の変動で画像信号がどれほど変化するかを測定したデータである。
【0089】
一方、図9は、単一ピークを有する従来の液体ファントムについてのスキャン数と相対信号強度との関係を示す図である。
【0090】
さらに、図10は、人体についてのスキャン数と相対信号強度との関係を示す図である。
【0091】
従来の液体ファントムでは、信号変動の量やパターンが人体の変動パターンとは異なっているが、信号物質混在型のファントムでは人体と同様の変動パターンを示しており、水成分、脂肪成分の混在比を変化させることで、人体各部を模倣した試料作成が可能となる。
【0092】
つまり、乳化現象を利用して水および脂肪信号が均等均質に存在する模擬生体試料(ファントム)を用いて脳機能計測用シーケンスの信号変動を評価すると、生体と同様の信号変動パターンを示し、シーケンスやシステムの評価に用いることができる。
【0093】
したがって、また、このような信号物質混在型のファントムを用いることで、MRI装置のより正確なチューニングを行なうことが可能である。
【0094】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る磁気共鳴画像化装置の一例のfMRI装置1000の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】fMRI装置1000の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図3】人体と従来のファントムとで、観測される検出信号波形を示す概念図である。
【図4】周波数空間において、観測されるデータのトラジェクトリを示す図である。
【図5】図4に対応して再構成された画像空間を示す図である。
【図6】典型的な画像位置ずれであるケミカルシフトアーチフアクトを示す図である。
【図7】乳化現象を利用した信号物質混在型ファントムの周波数スペクトルの一例を示す図である。
【図8】乳化現象を利用した信号物質混在型ファントムを用いてMRI装置の性能評価に適用したデータを示す図である。
【図9】単一ピークを有する従来の液体ファントムについてのスキャン数と相対信号強度との関係を示す図である。
【図10】人体についてのスキャン数と相対信号強度との関係を示す図である。
【図11】スピンエコー法のシーケンスを示す概念図である。
【図12】EPIのシーケンスを説明するための概念図である。
【図13】fMRIの測定シーケンスの概要を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0096】
10 被験者、12 台部、100 静磁場コイル、102 傾斜磁場コイル、104,106 RFコイル、200 断層撮影制御部、210 入力部、220 チューニング値記憶部、230 制御部、240 RFパルス送信部、250 信号増幅部、252 データ記憶部、260 画像再構成部、270 表示部、1000 fMRI装置。
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体の断層撮影を行なうための核磁気共鳴画像化装置(MRI : Magnetic Resonance Imaging)の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の脳や全身の断面を画像する方法として、生体中の原子、特に、水素原子の原子核に対する核磁気共鳴現象を利用した核磁気共鳴映像法が、人間の臨床画像診断等に使用されている。
【0003】
核磁気共鳴映像法は、それを人体に適用する場合、同様の人体内断層画像法である「X線CT」に比較して、たとえば、以下のような特徴がある。
【0004】
(1)水素原子の分布と、その信号緩和時間(原子の結合の強さを反映)に対応した濃度の画像が得られる。このため、組織の性質の差異に応じた濃淡を呈し、組織の違いを観察しやすい。
【0005】
(2)磁場は、骨による吸収がない。このため、骨に囲まれた部位(頭蓋内、脊髄など)を観察しやすい。
【0006】
(3)X線のように人体に害になるということがないので、広範囲に活用できる。
このような核磁気共鳴影像法は、人体の各細胞に最も多く含まれ、かつ最も大きな磁性を有している水素原子核(陽子)の磁気性を利用する。水素原子核の磁性を担うスピン角運動量の磁場内での運動は、古典的には、コマの歳差運動にたとえられる。
【0007】
以下、本発明の背景の説明のために、この直感的な古典的モデルで、簡単に核磁気共鳴の原理をまとめておく。
【0008】
上述したような水素原子核のスピン角運動量の方向(コマの自転軸の方向)は、磁場のない環境では、ランダムな方向を向いているものの、静磁場を印加すると、磁力線の方向を向く。
【0009】
この状態で、さらに振動磁界を重畳すると、この振動磁界の周波数が、静磁界の強さで決まる共鳴周波数f0=γB0/2π(γ:物質に固有の係数)であると、共鳴により原子核側にエネルギーが移動し、磁化ベクトルの方向が変わる(歳差運動が大きくなる)。この状態で、振動磁界を切ると、歳差運動は、傾き角度を戻しながら、静磁界における方向に復帰していく。この過程を外部からアンテナコイルにより検知することで、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)信号を得ることができる。
【0010】
このような共鳴周波数f0は、静磁界の強度がB0(T)であるとき、水素原子では、42.6×B0(MHz)となる。
【0011】
1)画像構成方法
実際に核磁気共鳴信号からどのように3次元の位置情報を得るかについて、スピンエコー法を例にとって、簡単に説明する。
【0012】
図11は、スピンエコー法のシーケンスを示す概念図である。
(スライス選択)
被験者の足から頭の方向がZ軸の方向だとすると、この方向に向かって磁場が次第に強くなるように傾斜磁場Gzをかける。これにより被験者の各横断スライスは異なる周波数により共鳴することになる。そのためRFパルスの周波数を調整することで、特定のスライスにのみエネルギーを吸収させることが可能となる。スピンエコー法では、最初の90度励起パルスを与えてからエコーの帰ってくるまでの時間をTEと呼び、TE/2の時に再び180°のRFパルスで励起を行なう。
【0013】
(空間エンコーディングと画像再構成)
傾斜磁場Gzにより選択されたスライスは2次元である。実際の断層画像を得るためには得られた信号成分をこの平面上の位置に対応させなければならない。
【0014】
そのため選択された2次元のスライスをXY平面とすると、MRIではX方向に傾斜磁場Gxをかける周波数エンコーディングと、Y方向にGyをかける位相エンコーディングを行なう。
【0015】
はじめにY軸方向に傾斜磁場を短時間かけると、わずかな時間に強い磁場を受けたところは速く、弱い磁場を受けたところは遅く回転するために、傾斜磁場Gy消失後Y軸方向に沿って異なる位相のスピンが生じる。次に、X軸方向に傾斜磁場をかけることにより、X軸に沿って異なる周波数のエコーが得られる。以上の操作によりスライス選択(Z軸)と空間エンコーディング(XY軸)が完了する。Nx×Nyドットの画像を得たい場合、Nx個のデータ点によりこの信号をサンプリングする。
【0016】
次に、Y軸方向の傾斜磁場の度合いGyを変化させながらこの過程をNy回繰り返してNy個のエコー信号を得る。これを2次元フーリエ変換すると、周波数の違いからX,Y方向に展開され画像が復元される。
【0017】
すなわち、スピンエコー法では、繰り返し時間(TR)の間に一断面中のひとつのデータを収集しこれを、k空間でのマトリックス数回繰り返すことで断面のデータを収集する。
【0018】
さらに、核磁気共鳴映像法では、血流量の変化に応じて、検出される信号に変化が現れることを用いて、外部刺激等に対する脳の活動部位を視覚化することも可能である。このような核磁気共鳴映像法を、特に、fMRI(functional MRI)と呼ぶ。
【0019】
fMRIでは、装置としては通常のMRI装置に、さらに、fMRI計測に必要なハードおよびソフトを装備したものが使用される。
【0020】
ここで、血流量の変化がNMR信号強度に変化をもたらすのは、血液中の酸素化および脱酸素化ヘモグロビンは磁気的な性質が異なることを利用している。酸素化ヘモグロビンは反磁性体の性質があり、周りに存在する水の水素原子の緩和時間に影響を与えないのに対し、脱酸素化ヘモグロビンは常磁性体であり、周囲の磁場を変化させる。したがって、脳が刺激を受け、局部血流が増大し、酸素化ヘモグロビンが増加すると、その変化分をMRI信号として検出する事ができる。被験者への刺激は、たとえば、視覚による刺激や聴覚による刺激等が用いられる。
【0021】
また、90°パルスのあとx−y平面内の磁化は横緩和により減衰するが、消滅しないうちに位相エンコードのステップにより連続的なグラジエントエコーを発生させ、画像再構成に必要なすべてのデータを集めてしまう方法として、EPI(Echo Planar Imaging)と呼ばれるシーケンスが知られている。
【0022】
図12は、このようなEPIのシーケンスを説明するための概念図である。
脳機能の画像を撮影するためには、このEPIが、一般に採用される。
【0023】
次に、fMRIとして動作するときの動作シーケンスについて、さらに、詳しく説明する。
【0024】
図13は、このようなfMRIの測定シーケンスの概要を示すタイミングチャートである。
【0025】
被験者10に、同一の刺激タスクを、所定の期間ごと一定の間隔をおいて繰り返し与える。このとき、脳内の同一断面について断層撮影は時系列的に続行しつつ、その断面内で刺激タスク期間内のEPI信号の変化を検出する。
【0026】
このような信号強度の変化は、上述したように、脳内の血流量の変化に起因するものである。ただし、このような信号強度の変化は、数パーセントのオーダーであり、十分なSN比を得るために、同一の刺激タスクを複数回繰り返して、各回のEPI信号の変化パターンを、タスクの開始時点を揃えて平均する。このような処理により、刺激に対する脳内の応答を視覚化する。つまり、ある特定のタスクを行なっているときに、脳内で活動が活性化する部位を特定できる。
【0027】
なお、このようなエコープレナーイメージングによる画像生成の原理および臨床応用等については、非特許文献1〜2に記載されている。
【0028】
一方で、このようなEPIのシーケンスを使って観察を行なう結果、NMRで単純に断面形状を撮影するのよりも、fMRIでは、長時間のスキャンが必要になる。
【0029】
ところが、測定前にチューニングを取った後に、10分や20分という時間のオーダーで測定を繰り返すと、信号のベースラインのレベルが変動してしまうという現象や「画像のずれ」が確認される。このようなベースラインの変動は「低周波ドリフト」と呼ばれる。ここで、信号のベースラインとは、ファントムと呼ばれる較正用の試料で、測定条件を最適化した際の信号のベースレベルである。「低周波ドリフト」がfMRIの測定に与える影響については、非特許文献3に記載されている。
【0030】
特に、EPIの場合、測定される共鳴周波数のピーク値(以下、中心周波数と呼ぶ)の値f0のわずかな変動も画像の位置ずれとして顕著に現われる。
【非特許文献1】押尾晃一,「EPI Revisited」,日本磁気共鳴医学会誌,第19巻1号(1999)p.1−5
【非特許文献2】鈴木清隆,「Echo Planar Imaging」,日本磁気共鳴医学会誌,第19巻1号(1999)p.7−18
【非特許文献3】アン・M・スミス(Anne M. Smith)他7名「fMRI信号における低周波ドリフトの研究(Investigation of Low Frequency Drift in fMRI Signal)」、ニューロイメージ(NeuroImage) 9,p.526−533(1999) Article ID nimg. 199.0435
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
そこで、MRI装置での撮影時には、以下に説明するようなチューニングを、正確に行なう必要がある。
【0032】
MRI装置の性能評価やチューニングには上述したように「ファントム」と呼ばれる模擬生体試料が用いられる。
【0033】
ファントムに用いられる信号源には、水、塩化ニッケル水溶液、硫酸銅水溶液、塩化ナトリウム水溶液などの液体やポリビニルアルコール(PVA)のようなゲル状信号源が用いられアクリル容器などに封入される。
【0034】
これらの従来のファントムはいずれも周波数スペクトル上に、ひとつの信号ピークをもっている。撮影の際のチューニングでは、まずこのピークに中心周波数を合致させる操作が行なわれる。
【0035】
しかしながら、生体においては、水成分の水素と脂肪成分の水素とで、共鳴周波数に差があるため、ファントムにおいて、脂肪成分からの影響を考慮してチューニングを正確に行なうことが必要である。
【0036】
しかしながら、従来は、このような脂肪成分の影響を十分考慮したチューニングが行なえないため、良好な精度の信号計測が行なえない、という問題点があった。
【0037】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、核磁気共鳴を利用して、リアルタイムで高精度に被測定対象の断層撮影を行なうことを可能とするために、精度の高いチューニングを行なうことが可能な磁気共鳴画像化装置の測定方法または磁気共鳴画像化装置のチューニングに使用される試料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0038】
このような目的を達成するために、本発明は、被測定対象からの核磁気共鳴に起因する検出信号を検知して、被測定対象の断層画像を生成するための磁気共鳴画像化装置の測定方法であって、磁気共鳴画像化装置において、水と脂肪が均一に混在した試料により中心周波数のチューニングを行なうステップと、チューニングされた中心周波数に基づいて、被験者の断面画像を磁気共鳴画像化装置による計測で生成するステップとを備える。
【0039】
好ましくは、試料は、乳化剤を用いて水と脂肪を均等に混在させた材料を容器内に封入したものである。
【0040】
この発明の他の局面に従うと、磁気共鳴画像化装置のチューニングに使用される試料であって、容器と、乳化剤を用いて水と脂肪を均等に混在させた材料であって、容器内に封入された材料とを備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
[磁気共鳴画像化装置の構成および動作]
図1は、このような核磁気共鳴現象を利用したMRI装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0042】
図1を参照して、MRI装置は、被験者10を支持するための台部12と、上述した静磁界を生成するための静磁場コイル100と、後に説明するように被験者における観測断面(スライス)の位置およびスライス内の位置の情報を観測信号に付与するための傾斜磁場コイル102と、観測対象となる原子核に振動磁場を印加するために電磁波を出力するRFコイル104と、観測対象となる原子核からの信号を受信するためのRFコイル106と、コイル100〜104を制御し、かつ、RFコイル106で受信された信号を基に、断層画像を生成するための断層撮影制御部200とを備える。
【0043】
さらに、断層撮影制御部200は、使用者からの指示等の入力を行なうための入力部210と、入力部210からの指示に基づいて、たとえば、各被験者10に対する測定ごとに、RFコイル104から与える電磁場の強度およびRFコイル106で検出される信号強度の調整値や測定される共鳴周波数(中心周波数)の値f0の合わせ込みの結果(較正値)などをチューニング値として保存するためのチューニング値記憶部220とを備える。ここで、少なくとも被験者10ごとに、このようなチューニングを行なうのは、被験者10によって、コイル内の磁場の環境が微妙に変化するために、これを調整する必要があるからである。
【0044】
断層撮影制御部200は、さらに、上述したようなチューニング動作や測定動作の制御を行なうための制御部230と、制御部230に制御されてRFコイル104に対してRFパルスを与えるためのRFパルス送信部240と、RFコイル106からの信号を増幅して検出信号を取得するための信号増幅部250と、信号増幅部250からの検出信号に対応する測定データを記憶するデータ記憶部252と、チューニング値記憶部220中に格納されている中心周波数の較正値等の情報とデータ記憶部252からの測定データとに基づいて、フーリエ変換処理を行なうことにより、観測する断面の断面画像データを再構成するための画像再構成部260と、画像再構成部260からの情報をもとに再構成された断面画像を表示するための表示部270とを備える。なお、このようにして再構成された断面画像データは、データ記憶部252に格納される。
【0045】
ここで、静磁場コイル100は、より詳しくは、たとえば、4個の空芯コイルから構成され、その組み合わせで内部に均一な磁界を作り、被験者10の体内の水素原子核のスピンに配向性を与える。
【0046】
RFコイル104は、高周波を発して被験者10の体内の原子核を励起し、RFコイル106は、生じた核磁気共鳴を起因とする検出信号(エコー信号)を検知する。
【0047】
傾斜磁場コイル102は、図示しないX, Y, Zの3組の傾斜コイルを備え、Zコイルは励起時に、磁界強度をZ方向に傾斜させて共鳴面を限定し、Yコイルは、Z方向の磁界印加の直後に短時間の傾斜を加えて検出信号にY座標に比例した位相変調を加え(位相エンコーディング)、Xコイルは、続いてデータ採取時に傾斜を加えて、検出信号にX座標に比例した周波数変調を与える(周波数エンコーディング)。
【0048】
すなわち、静磁界にZ軸傾斜磁界を加えた状態にある被験者10に、共鳴周波数の高周波電磁界を、RFコイル104を通じて印加すると、磁界の強さが共鳴条件になっている部分の水素原子核が、選択的に励起されて共鳴し始める。共鳴条件に合致した部分(たとえば、被験者10の所定の厚さの断層)にある水素原子核が励起され、スピンがいっせいに回転する。励起パルスを止めると、RFコイル106には、今度は、回転しているスピンが放射する電磁波が信号を誘起し、しばらくの間、この信号が検出される。この信号によって、被験者10の体内の、水を含んだ組織を観察する。そして、信号の発信位置を知るために、XとYの傾斜磁界を加えて信号を検知する、という構成になっている。
【0049】
制御部230は、励起信号を繰り返し与えつつ検出信号を測定し、画像再構成部260は、1回目のフーリエ変換計算により、共鳴の周波数をX座標に還元し、2回目のフーリエ変換でY座標を復元して画像を得て、表示部270に対応する画像を表示する。
【0050】
以上の説明は、通常のMRI装置の動作と本質的に同じである。
図2は、上述したようなfNMR測定の典型的なフローを示す図である。
【0051】
図2を参照して、処理が開始されると、被験者10ごとに装置の初期チューニング処理が行なわれ(ステップS100)、制御部230は、RFコイル104から与える電磁場の強度およびRFコイル106で検出される信号強度の調整値や測定される中心波数値f0の合わせ込みの結果(較正値)などをチューニング値として、チューニング値記憶部220に保存する(ステップS102)。
【0052】
続いて、被験者10に対する測定が開始されると(ステップS104)、制御部230は、傾斜磁場コイル102を制御しつつ、RFパルス送信部240からの電磁波をRFコイル104から出力させる(ステップS108)。被験者10からの信号は、RFコイル106により受信され、信号増幅部250により増幅されて(ステップS110)、画像再構成部260に送られる。
【0053】
画像再構成部260は、フーリエ変換処理を利用して、画像を再構成して、表示部270に表示させる(ステップS112)。測定が終了していなければ、さらに、処理はステップ308に復帰して、測定が続行される(ステップS120)。一方、処理が所定の終了条件を満たしていると判断されれば、処理は終了する。
【0054】
[脂肪抑制パルスおよび周波数シフト]
図3は、人体と従来のファントムとで、観測される検出信号波形を示す概念図である。
【0055】
図3において、縦軸は検出信号の振幅を表し、横軸は周波数を表す。なお、図の右側から左側に向けて周波数が減少する。
【0056】
図3中では、選択したスライスに相当して、所定の周波数幅(時間軸では約1.5msecに相当)が励起されている。
【0057】
図3において、まず、第1に注意するべきことは、中心周波数値f0が測定期間中において、チューニング時よりも何らかの原因で移動すると、MRIでは、画像の位置ずれとして観測されることである。
【0058】
次に、従来のファントムでは、水の水素に起因するピークのみが観測されるのに対して、人体では、水の水素だけでなく脂肪中の水素に起因するピークが、ケミカルシフトのために水の水素からの信号とは分離して低周波側に相対的に小さなサブピークとして存在することである。このため、人体を測定するときは、脂肪抑制パルス(Fat−satパルス)を付加して、図3中で斜線により示した周波数帯域(時間軸では約10msecに相当)をマスクする処理が行なわれる。
【0059】
そして、人体からの信号では、Fat−satパルスが付加されている場合は、中心周波数f0の変動により、選択されたスライスに相当する周波数帯域中において、ピーク波形により囲まれる面積が大きく変動する。
【0060】
これに対して、人体からの信号に対してFat−satパルスが付加されていない場合や従来のファントムからの信号波形の場合は、中心周波数f0が変動しても、選択されたスライスに相当する周波数帯域中において、ピーク波形により囲まれる面積の変動がほとんどない。
【0061】
したがって、人体からの信号でFat−satパルスが付加されている場合は、中心周波数f0の変動があると仮定すると、観測されたようなベースラインの変動が説明可能と考えられる。
【0062】
次に、中心波数値f0が移動すると、MRIの撮影画面上では、画像の位置ずれとして観測されることについて、簡単に説明する。
【0063】
図4は、周波数空間において、観測されるデータのトラジェクトリを示す図である。
図4において、縦軸の方向は、位相の変化を表しており、縦軸の間隔は、エコー間時間(Inter echo time)を示す。横軸は、周波数を示し、間隔はリードアウトサンプリング時間を示す。
【0064】
図5は、図4に対応して再構成された画像空間を示す図である。
画像空間では、縦軸方向は、位相差として観測される。
【0065】
見かけの横緩和時間T2*を無視した場合、EPIの画像信号は次の式で示される。
【0066】
【数1】
【0067】
ここで、ρ(x、y)は、観測断面(スライス)内の水素(プロトン)密度である.
磁場強度に変動(△B)が生じた場合、式(1)は次のように表現され、変動量に応じた画像シフトが発生する。
【0068】
【数2】
【0069】
ここでγは磁気回転比、△tはリードアウトのデータサンプリング間隔、Tは位相方向のデータサンプリング時間であり傾斜磁場が理想的な形状を示す場合、
T=Δt・Nx (Nx:リードアウトマトリックス数)
の関係にある。
【0070】
従って、ΔBの影響を受けた再構成画像の位置(xn、yn)とオリジナル画像位置(x、y)の差(画像シフトΔxn、Δyn)は、以下のようになる。
【0071】
【数3】
【0072】
ここで、式(3)の各記号の意味は、以下の通りである。
【0073】
【数4】
【0074】
また、以下の関係が成り立つ。
【0075】
【数5】
【0076】
したがって、式(3)は、次の式(5)のようにも表現できる。
【0077】
【数6】
【0078】
ここで明らかなように磁場変動(周波数変動)の影響は位相方向に顕著に現れ、この項で用いたシーケンス(インターエコー時間:880μsec)の場合、約17.75Hzの周波数変動が1ピクセルの画像シフトをもたらすことになる。
【0079】
[画像位置ずれの具体例]
図6は、典型的な画像位置ずれであるケミカルシフトアーチフアクトを示す図である。
【0080】
ケミカルシフトアーチフアクトとは、MRIで計測される主要な信号とされる水成分と脂肪成分に周波数の違いがあることから発生するアーチフアクトである。図6(a)では、このようなこのアーチフアクトが発生している状態の断面撮像図を示す。
【0081】
一方、上述したように、EPIを用いた撮像では、脂肪のケミカルシフトアーチフアクトを防ぐために脂肪抑制パルスが併用される。図6(b)は、このような脂肪抑制パルスを印加した場合の断面撮像図を示す。
【0082】
ここで、脂肪成分に対する画像評価を行なうときに、脂肪のみを含む材料を用いたファントムを小さな試料容器にセットする方法を用いるとすると、EPIを用いて評価を行なおうとする場合、脂肪信号は周波数の違いによる画像シフトが大きすぎるため、良好な精度の信号計測が行なえない。
【0083】
そこで、水信号と脂肪信号が均等に混在する信号源が必要となる。
本発明では、したがって、ファントムとして、乳化現象を利用して、水と脂肪が均一に混在したファントムを用いて、図2のステップS100におけるチューニングを行なう。
【0084】
水と脂肪を均等に混在させるためには、乳化現象を利用する。適度な量の界面活性剤(乳化剤)を両者と混和させることでこの状態を作り上げることが出来、このような試料をたとえば、アクリル容器などに封入することでファントムとして利用することができる。このような混和した状態の材料としては、たとえば、マヨネーズが挙げられる。
【0085】
図7は、このように乳化現象を利用した信号物質混在型ファントムの周波数スペクトルの一例を示す図である。
【0086】
従来のファントムとは異なり、水成分に起因するピークと脂肪成分に起因するピークとが同時に観測される。
【0087】
図8は、この乳化現象を利用した信号物質混在型ファントムを用いてMRI装置の性能評価に適用したデータを示す。
【0088】
このデータは、横軸にスキャン数をとり、縦軸に相対信号強度をとることで、中心周波数の変動で画像信号がどれほど変化するかを測定したデータである。
【0089】
一方、図9は、単一ピークを有する従来の液体ファントムについてのスキャン数と相対信号強度との関係を示す図である。
【0090】
さらに、図10は、人体についてのスキャン数と相対信号強度との関係を示す図である。
【0091】
従来の液体ファントムでは、信号変動の量やパターンが人体の変動パターンとは異なっているが、信号物質混在型のファントムでは人体と同様の変動パターンを示しており、水成分、脂肪成分の混在比を変化させることで、人体各部を模倣した試料作成が可能となる。
【0092】
つまり、乳化現象を利用して水および脂肪信号が均等均質に存在する模擬生体試料(ファントム)を用いて脳機能計測用シーケンスの信号変動を評価すると、生体と同様の信号変動パターンを示し、シーケンスやシステムの評価に用いることができる。
【0093】
したがって、また、このような信号物質混在型のファントムを用いることで、MRI装置のより正確なチューニングを行なうことが可能である。
【0094】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る磁気共鳴画像化装置の一例のfMRI装置1000の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】fMRI装置1000の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図3】人体と従来のファントムとで、観測される検出信号波形を示す概念図である。
【図4】周波数空間において、観測されるデータのトラジェクトリを示す図である。
【図5】図4に対応して再構成された画像空間を示す図である。
【図6】典型的な画像位置ずれであるケミカルシフトアーチフアクトを示す図である。
【図7】乳化現象を利用した信号物質混在型ファントムの周波数スペクトルの一例を示す図である。
【図8】乳化現象を利用した信号物質混在型ファントムを用いてMRI装置の性能評価に適用したデータを示す図である。
【図9】単一ピークを有する従来の液体ファントムについてのスキャン数と相対信号強度との関係を示す図である。
【図10】人体についてのスキャン数と相対信号強度との関係を示す図である。
【図11】スピンエコー法のシーケンスを示す概念図である。
【図12】EPIのシーケンスを説明するための概念図である。
【図13】fMRIの測定シーケンスの概要を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0096】
10 被験者、12 台部、100 静磁場コイル、102 傾斜磁場コイル、104,106 RFコイル、200 断層撮影制御部、210 入力部、220 チューニング値記憶部、230 制御部、240 RFパルス送信部、250 信号増幅部、252 データ記憶部、260 画像再構成部、270 表示部、1000 fMRI装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象からの核磁気共鳴に起因する検出信号を検知して、前記被測定対象の断層画像を生成するための磁気共鳴画像化装置の測定方法であって、
前記磁気共鳴画像化装置において、水と脂肪が均一に混在した試料により中心周波数のチューニングを行なうステップと、
前記チューニングされた中心周波数に基づいて、被験者の断面画像を前記磁気共鳴画像化装置による計測で生成するステップとを備える、磁気共鳴画像化装置の測定方法。
【請求項2】
前記試料は、乳化剤を用いて水と脂肪を均等に混在させた材料を容器内に封入したものである、請求項1記載の磁気共鳴画像化装置の測定方法。
【請求項3】
磁気共鳴画像化装置のチューニングに使用される試料であって、
容器と、
乳化剤を用いて水と脂肪を均等に混在させた材料であって、前記容器内に封入された材料とを備える、磁気共鳴画像化装置のチューニング用試料。
【請求項1】
被測定対象からの核磁気共鳴に起因する検出信号を検知して、前記被測定対象の断層画像を生成するための磁気共鳴画像化装置の測定方法であって、
前記磁気共鳴画像化装置において、水と脂肪が均一に混在した試料により中心周波数のチューニングを行なうステップと、
前記チューニングされた中心周波数に基づいて、被験者の断面画像を前記磁気共鳴画像化装置による計測で生成するステップとを備える、磁気共鳴画像化装置の測定方法。
【請求項2】
前記試料は、乳化剤を用いて水と脂肪を均等に混在させた材料を容器内に封入したものである、請求項1記載の磁気共鳴画像化装置の測定方法。
【請求項3】
磁気共鳴画像化装置のチューニングに使用される試料であって、
容器と、
乳化剤を用いて水と脂肪を均等に混在させた材料であって、前記容器内に封入された材料とを備える、磁気共鳴画像化装置のチューニング用試料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図5】
【図6】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図5】
【図6】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−268027(P2007−268027A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98585(P2006−98585)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】
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