説明

磁気吸着ユニット

【課題】被吸着体が凹凸面であっても強力に磁気吸着可能な磁気吸着ユニットを提供することにある。
【解決手段】磁気吸着ユニット10は、磁気により被吸着体に吸着するユニットであって、固定磁石11と、該固定磁石を固定する固定ヨーク12と、該固定ヨーク内にて移動自在な移動ヨーク13とを備えている。そして、前記被吸着体に近付くと、先ず前記移動ヨークが移動して該被吸着体に吸着し、次に前記固定ヨークが該被吸着体側に引き込まれる。これにより、固定ヨークが固定磁石の磁束を誘導し、移動ヨークが該磁束が形成する磁気回路の力により移動するという構成となり、同磁極を対向することで発生する特異な動的磁束誘導メカニズムにより該被吸着体が凹凸面でも強力な磁気吸着力を示すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気により被吸着体に吸着する磁気吸着ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
危険な作業を人の代わりに担う壁面移動型ロボットの需要は近年増加している。その壁面移動型ロボットの発達に欠かせない要素のひとつに磁気吸着器がある。永久磁石はエネルギの供給無しに磁性体に吸引し続けられるため、磁性体への吸着固定を行うためには有効である。磁気吸着器のひとつとして本発明者が開発した内部力補償型磁気吸着器は永久磁石の強力な磁気吸着力を僅かな力で脱離する特徴を有することから用途開発が進められている(非特許文献1,2,3参照)。なお、本発明に関連する技術内容を開示している(非特許文献4参照。)。これは、特許法第30条第1項を適用できるものと考えられる。
【0003】
【非特許文献1】広瀬茂男、今里峰久、工藤良昭、梅谷陽二:“内部力補償型磁気吸着ユニット”、日本ロボット学会、vol.3,no.1.1985
【非特許文献2】鶴清、広瀬茂男:“壁面吸着移動型全方向移動ロボット”、ロボティクス・メカトロニクス講演会、講演論文集1P1−H05(2002)
【非特許文献3】北井慎也、鶴清、広瀬茂男:“群型壁面移動ロボット”AnchorClimber“の研究”、日本機械学会ロボットメカトロニクス部門発表、2A1−L1−72,2004
【非特許文献4】鶴清、広瀬茂男:“永久磁石吸着ユニットの性能向上に関する考察”第25回日本ロボット学会学術講演会 講演論文集3I34(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、固形の永久磁石は平らな面では全面で密着して大きな吸着力を示すが、リベットや溶接箇所などの凹凸面では全面で密着できないため吸着力は著しく低下してしまう。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、被吸着体が凹凸面であっても強力に磁気吸着可能な磁気吸着ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的達成のため、本発明の磁気吸着ユニットでは、磁気により被吸着体に吸着する磁気吸着ユニットであって、固定磁石と、該固定磁石を固定する固定ヨークと、該固定ヨーク内にて移動自在な複数の移動ヨークとを備え、前記被吸着体に近付くと、先ず前記移動ヨークが移動して該被吸着体に吸着し、次に前記固定ヨークが該被吸着体側に引き込まれて固定磁石が被吸着体に近づき、さらに複数の移動ヨークが凹凸のある吸着面に沿って吸着した状態で固定ヨークに対して固定されることを特徴としている。
【0007】
これにより、固定ヨークと複数の移動ヨークが固定磁石の磁束を被吸着体に効率よく誘導されるため、この状態で移動ヨークが固定ヨークに対して固定されると、固定磁石と固定ヨークそして複数の移動ヨークは、被吸着板の凹凸に慣れた形状の磁気吸着ユニットを構成するため、この状態で強力な磁気吸着力を示すことができる。
【0008】
上記目的達成のため、本発明の他の磁気吸着ユニットでは、磁気により被吸着体に吸着する磁気吸着ユニットであって、所定間隔で並列配置された角柱状の複数の固定磁石と、該固定磁石を固定するように該固定磁石間に配置された角柱状の複数の固定ヨークと、前記各固定ヨークを所定間隔で貫通する複数の貫通穴内にて移動自在な円筒状の複数の移動ヨークとを備え、吸着状態に無い状態では複数の移動ヨークはストッパで拘束される位置まで外に飛び出ているので、前記被吸着体に近付くと、先ず前記移動ヨークが該被吸着体に吸着し、次に移動ヨークが貫通穴の内部に引き込む力を生成するので、前記固定ヨークが該被吸着体側に引き込まれ磁気吸着ユニットが被吸着体に最短距離まで近づく。そして、さらに複数の移動ヨークがこの状態で固定ヨークに対して固定させる、という動作が実現可能な装置を有することを特徴としている。
【0009】
これにより、固定磁石の磁束を誘導する固定ヨークに、滑らかに出入りする複数の円柱型の移動ヨークを設けていてそれが外に飛び出ているので、該被吸着体の凹凸面に対して複数の移動ヨークが最初に吸着し、その後に移動ヨークが貫通穴の内部に引き込む力を生成するので固定ヨークが凹凸面を固定磁石側に吸引し、さらにその状態で移動ヨークが固定ヨークに対して固定されるため、凹凸のある吸着面でも大きな吸着力が生成できる。
【0010】
上記目的達成のため、本発明の他の磁気吸着ユニットでは、磁気により被吸着体に吸着する磁気吸着ユニットであって、円周上に所定間隔で配置された角柱状の複数の固定磁石と、該固定磁石を固定するように該固定磁石間に配置された扇状の複数の固定ヨークと、前記各固定ヨークを貫通する複数の貫通穴内にて移動自在な円筒状の複数の移動ヨークとを備え、前記被吸着体に近付くと、先ず前記移動ヨークが該被吸着体に吸着し、次に前記固定ヨークが該被吸着体側に引き込まれて固定磁石が被吸着体に近づき、さらに複数の移動ヨークが凹凸のある吸着面に沿って吸着した状態で固定されることを特徴としている。
【0011】
移動ヨークを設けた貫通穴を有する固定ヨークは、磁性が同極の固定磁石によって挟まれ、しかも両方の磁石から同一の磁気吸着力が生成されるように配置されている。そのため、移動ヨークには逆方向に同一の強さの磁気吸着力が加わるため、その総和の磁気吸着力はお互いに打ち消しあうようになり、移動ヨークの貫通穴を移動するときの摺動抵抗が小さく、滑らかな摺動運動が得られる。
【0012】
また、前記移動ヨークは、前記被吸着体との対向側を磁性材で構成され、前記被吸着体との反対向側を非磁性材で構成されていることを特徴としている。そして、前記磁性材は、略円錐形状部を有するように形成され、前記非磁性材は、前記略円錐形状部が嵌る略円垂穴形状部を有するように形成されていることを特徴としている。
これにより、移動ヨークの磁気抵抗に勾配が生じるので、移動ヨークのスムーズな引き込み動作を実現することができる。
【0013】
また、固定磁石が被吸着体に近づき、さらに複数の移動ヨークが凹凸のある吸着面に沿って吸着した状態で固定ヨークに対して固定させることが可能な装置を有することを特徴としている。
これにより、固定磁石と固定ヨークそして複数の移動ヨークは、被吸着板の凹凸に慣れた形状を構成するため、この状態で強力な磁気吸着力を示すことができることを特徴としている。
また、前記移動ヨークは、前記被吸着体との反対向側に抜け止めが設けられていることを特徴としている。
これにより、凹凸面を移動する際に移動ヨークの抜けを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
図1は、本発明の磁気吸着ユニットの第1の実施形態を示す断面図である。
この磁気吸着ユニット10は、永久磁石でなる角柱状の固定磁石11aと11bの間に、磁性材でなる角柱状の固定ヨーク12が嵌め込まれて固定され、さらに固定ヨーク12に設けられた貫通穴に、磁性材13a及び非磁性材13bでなる円柱状の移動ヨーク13が移動自在に挿入されたものである。また、この移動ヨーク13の移動運動を制動する制動装置14は移動ヨーク13を横から圧接することで移動ヨーク13の貫通穴に沿った動きを制動することができるように構成されている。
【0016】
移動ヨーク13は、先端側(図示下側)が円柱状の磁性材13aでなり、後端側(図示上端)が円柱状の非磁性材13bでなり、両者が接合された構成となっている。そして、非磁性材13bの頂部には、抜け止めとなるフランジ状のストッパ13cが設けられている。このように構成される図1に示す本発明の磁気吸着ユニットは、固定磁石11aが移動ヨーク13と、左側に位置する移動ヨークを介して構成する磁気回路15aによって移動ヨーク13を左に引く吸引力16aと、固定磁石11bが移動ヨーク13と右側に位置する移動ヨークを介して構成する磁気回路15bで移動ヨーク13を右に引く吸引力16bとはお互いに大きさが同じで逆向きなので、移動ヨーク13に働く横方向の力はほとんどゼロになり摩擦がなく容易に貫通穴内を摺動可能となる。
【0017】
このような構成の磁気吸着ユニット10は、被吸着体が無い場合は、空気を介在して構成される磁気回路の磁気抵抗を最小化するため、移動ヨーク13はストッパで拘束された最大限外に飛び出た状態にある。そして被吸着体に吸着すると、磁束が移動ヨーク群を介して被吸着体との間で磁気回路が形成され、その磁気抵抗を減少させるように、今度は移動ヨークは貫通穴に引き込む力を生成し、固定ヨーク12を被吸着体に対して近づけることになる。そして最終的には、移動ヨーク先端(下部)が被吸着体に接触した状態で凹凸のある被吸着体は固定磁石に対して最短の位置にまで引き寄せられ固定される。この状態では、被吸着体に凹凸があっても、永久磁石11の磁束は移動ヨーク13を介して被吸着体に誘導されるため、移動ヨークが無くて空気を介して被吸着体を吸引するよりはるかに大きな吸着力で吸着できることになる。さらに移動ヨークが凹凸のある吸着面に吸着した状態で制動装置14を働かすと、固定ヨークと移動ヨークは被吸着体の凹凸に馴れた形状で固定されるため、この磁気吸着ユニット10は大きな吸着力を生成可能となる。
【0018】
なお、この磁気吸着ユニット10を被吸着体から脱離した後に、制動装置14を解除すると、移動ヨーク13は自由に貫通穴を摺動できるようになり、再び最も外側(図では下方)に飛び出した状態となる。このように被吸着体に吸着状態でないときは、移動ヨーク13は飛び出した状態で待機する状態に戻るためこの磁気吸着ユニット10は繰り返しの使用ができる。この磁気吸着ユニット10は、以上のような磁気同極対向型による動的磁束誘導メカニズムで得られる、移動ヨーク13の動きの滑らかさと、移動ヨークの被吸着体の状態に応じて生成する貫通穴内の動きと、制動装置14の移動ヨーク固定機能、とを利用して実現したものであり、さらに図を参照してその動作を詳細に説明する。
【0019】
図2(A)〜(C)は、図1の磁気吸着ユニットの動作を示す断面図である。
図2(A)に示すように、固定磁石11の同極が対向すると、中心部の移動ヨークには両方向に同一で逆向きの吸着力が生成され、その吸着力はお互いに打ち消しあう。もしも、片側だけにマグネットがあると、図9の様に固定ヨークと移動ヨークの間にはその吸着力に比例した摩擦力が生成してしまうため、移動ヨークの貫通穴内での摺動抵抗は大きくその動きは滑らかでないが、本発明のように対向する方向から吸引力を生成することによって、吸着力を打ち消しあうため移動ヨークの貫通穴内での摺動抵抗は著しく小さくなり、移動ヨークは貫通穴内を容易に移動可能となる。そして、この状態では、移動ヨーク13は下側に延びてストッパで止められた状態となっている。
【0020】
次に、図2(A)に示すように、移動ヨーク13が固定ヨーク12から突出している状態で磁気吸着ユニット10を被吸着体1に近付けると、図2(B)に示すように、移動ヨーク13が被吸着体1に吸着後、図2(C)に示すように、固定ヨーク12を被吸着体1に引き込む。
【0021】
この理由は、移動ヨーク13は吸着前は飛び出ている状態で静止している。そして、磁気吸着ユニット10を被吸着体1に近付けると、磁束は被吸着体1に吸引されるため移動ヨーク13が被吸着体1に吸着するように動く。そして、移動ヨーク13が被吸着体1に吸着した後には磁気回路の磁気抵抗を最小化するため、固定ヨーク12を被吸着体1に引き込もうとする力が働くからである。
【0022】
図3は、本発明の磁気吸着ユニットの第2の実施形態を図1に対応させて示す断面図である。図1に示す第1の実施形態の磁気吸着ユニットと同一構成部材は同一番号を付して詳細な説明を省略する。
この磁気吸着ユニット20は、固定磁石11及び固定ヨーク12は図1に示す磁気吸着ユニット10と同一構成であるが、移動ヨーク23が異なる構成となっている。この移動ヨーク23は、先端側(図示下側)が円柱状の磁性材23aでなり、後端側(図示上端)が円柱状の非磁性材23bでなり、非磁性材23bの頂部にフランジ状のストッパ23cが設けられている点では図1に示す移動ヨーク13と同一構成であるが、両者の接合状態が異なる構成となっている。
【0023】
すなわち、図1に示す移動ヨーク13では、磁性材13aと非磁性材13bは平坦面で接合されていたが、この移動ヨーク23では、磁性材23aの頂部が円錐体23aaに形成され、非磁性材23bの底部に磁性材23aの円錐体23aaが嵌め込み可能な円錐穴23baが形成されて接合されている。このようなテーパ構成によれば、移動ヨーク13の貫通穴内の摺動距離と磁気抵抗の変化がより大きくなるので、移動ヨーク13の貫通穴に引き込む力がより大きくすることができる。
【0024】
図4及び図5は、磁気吸着ユニットの第1及び第2の実施例を示す斜視図である。
図4(A)に示す磁気吸着ユニット30は、角柱状の複数(本例では4本)の固定磁石31が所定間隔で並列配置され、角柱状の複数(本例では3本)の固定ヨーク32が各固定磁石31を固定するように該固定磁石31間に配置され、円筒状の複数(本例では12本、この図では記載を省略)の移動ヨーク33が各固定ヨーク32を所定間隔で貫通する複数(本例では12個)の貫通穴32a内にて移動自在に挿入され、角柱状の4本のフレーム34がそれらの回りを囲んで固定するように配置された構成となっている。
【0025】
図5(A)に示す磁気吸着ユニット40は、角柱状の複数(本例では8個)の固定磁石41が円周上に所定間隔で配置され、扇状の複数(本例では8個)の固定ヨーク42が各固定磁石41を固定するように該固定磁石41間に配置され、円筒状の複数(本例では8本、この図では記載を省略)の移動ヨーク43が各固定ヨーク42を貫通する複数(本例では8個)の貫通穴42a内にて移動自在に挿入された構成となっている。
【0026】
固定磁石31,41は、たとえばネオジウム磁石でなり、固定ヨーク32,42は、軟鉄でなり、移動ヨーク33,43は、軟鉄とアルミニウムでなる。なお、移動ヨーク33,43は、図3に示すようなテーパ形状の移動ヨーク23のかわりに、図6に示すように、円錐体23aaは段差のある円柱体33ab,43abで形成し、円錐穴23baは段差のある円柱穴33bb,43bbで形成することでテーパ形状と同様の効果を生成しながら部品製作コストを低く抑えることもできる。
【0027】
図4(A)に示す磁気吸着ユニット30は、図4(B)に示すように、中間の移動ヨーク33においては磁力が矢印で示すように全方向に働いてバランスしているためスムーズな移動が得られるが、図4(C)に示すように、端部の移動ヨーク33においては磁力が矢印で示すように左方向のみに働いてアンバランスとなっているためスムーズな移動が得難くなる。このような端部の移動ヨーク部に関しては、図4(D)の様に、固定ヨークを固定磁石より短く縮めると、この狭い固定ヨークの部分に固定磁石の右端部からの磁束が集中して大きな磁気吸着力が生成し、その結果この固定ヨーク端部の縮め方を適当に設定するとちょうど両側の磁石に働く力をバランスさせることができてスムーズの移動が可能になる。一方、図5(A)に示す磁気吸着ユニット40の場合は、図5(B)のように貫通穴が中心部に位置すると、両側の固定磁石から働く吸着力の合力はリングの内側になりスムーズな移動が出来なくなる。しかし、図5(C)のように、内側に偏った位置にすると、リングの内側に働く力より外側に働く力のほうが大きくなり、結果的にこの内側にずらす距離を適当に設定すると、左右の固定磁石によって生成する吸引力が図のようにちょうど対向する正反対の方向にできる。そのためこの位置に貫通穴42aを設け移動ヨークを動かせばスムーズの移動が可能になる。
【0028】
図7(A)〜(C)は、図5又は図6の磁気吸着ユニットの動作を示す図である。
図7(A)では移動ヨーク33、あるいは43はばねで外側に押し出されているような状態となっている。
【0029】
次に、図7(B)に示すように、移動ヨーク33,43が被吸着体2に吸着する。このとき、被吸着体2の一部に凸部2aがあると、凸部2aに吸着する移動ヨーク33,43は縮み、凸部2a以外に吸着する移動ヨーク33,43は伸びて、固定ヨーク32,42は被吸着体2と略平行状態を保つ。この現象は被吸着体2の一部に凹部がある場合も同様である。その後、図7(C)に示すように、固定ヨーク32,42を被吸着体2に引き込み、凹凸面であっても全面で密着して大きな吸着力を得ることができる。
【0030】
図8(A)〜(C)は、磁気吸着ユニットの第3の実施例及びその動作を示す断面図である。
この磁気吸着ユニット50は、図4に示す磁気吸着ユニット30の変形例であり、同一構成部材は同一番号を付して詳細な説明を省略する。この磁気吸着ユニット50は、図8(A)に示すように、ユニット上面を覆うガイド板51と、移動ヨーク33の移動を制動する装置として、ラチェット52が追加された構成となっている。
【0031】
ガイド板51は、固定ヨーク32から上方へ所定間隔をあけて配置されている。そして、貫通穴32aに対応する貫通穴51aが穿設されて移動ヨーク33の上端が挿入されている。ラチェット52は、ガイド板51と固定ヨーク32の間に配置され、移動ヨーク33の下方への移動を規制するようになっている。そして、各ラチェット52の回動軸52aは図示しないガイド棒に連結され、ガイド棒は固定ヨーク32に揺動自在に取り付けられている。このガイド棒は各ラチェット52を各移動ヨーク33に対し接触・離間させるように揺動する。
【0032】
このような構成において、図8(B)に示すように、移動ヨーク33が固定ヨーク32から突出している状態で磁気吸着ユニット50を被吸着体3に近付けると、移動ヨーク33が被吸着体3に吸着する。このとき、被吸着体3の凸部3aに吸着する移動ヨーク33は縮み、被吸着体3の凹部3bに吸着する移動ヨーク33は伸びて、固定ヨーク32は被吸着体3と略平行状態を保つ。その後、図8(C)に示すように、固定ヨーク32を被吸着体2に引き込む。
【0033】
このとき、ラチェット52は移動ヨーク33と噛み合わないので、固定ヨーク32は被吸着体2にスムーズに引き込まれる。そして、固定ヨーク32は被吸着体3と最短の距離まで近づく。この状態では磁気吸着ユニット50に被吸着体3から引き剥がす方向の力が働いても、固定ヨーク32に取り付けられたラチェット52が移動ヨーク33と噛み合っているため、磁気吸着ユニット50は被吸着体3に強力な吸着力を生成する。そして、各ラチェット52のかみ合わせを解除するように各移動ヨーク33に対し離間させると、磁気吸着ユニット50を被吸着体3から比較的容易に引き剥がすことができる。
【0034】
図9は、本発明で導入した固定磁石の磁力をバランスさせない構成の一つの実施形態を示す断面図である。この磁気吸着ユニット90は、永久磁石でなる角柱形の固定磁石91の両面に、磁性材でなる角柱形の固定ヨーク92が接触して固定され、さらに固定ヨーク92に設けられた貫通穴に、磁性材93a及び非磁性材93bでなる円柱状の移動ヨーク93が移動自在に挿入されたものである。このような磁気吸着ユニットが被吸着体に対向すると、磁束は94のように閉じようとする。この様な構造では、移動ヨーク93は固定磁石91に引き寄せられて、貫通穴の磁石側の面に強く押し付けられる。そのため移動ヨーク93と貫通穴の間の摩擦は大きくて貫通穴内を摺動できないで、移動ヨーク93は被吸着体に接触した状態のままにとどまる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の磁気吸着ユニットの第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の磁気吸着ユニットの動作を示す断面図である。
【図3】本発明の磁気吸着ユニットの第2の実施形態を図1に対応させて示す断面図である。
【図4】磁気吸着ユニットの第1の実施例を示す斜視図である。
【図5】磁気吸着ユニットの第2の実施例を示す斜視図である。
【図6】図3の移動ヨークの変形例を示す断面図である。
【図7】図5又は図6の磁気吸着ユニットの動作を示す断面図である。
【図8】磁気吸着ユニットの第3の実施例及びその動作を示す断面図である。
【図9】磁気吸着ユニットを構成する一つの実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10、20、30、40、50、90 磁気吸着ユニット、11、31、41、91 固定磁石、12、32、42、92 固定ヨーク、13、23、33、43、93 移動ヨーク、51 ガイド板、52 ラチェット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気により被吸着体に吸着する磁気吸着ユニットであって、
固定磁石と、
該固定磁石を固定する固定ヨークと、
該固定ヨーク内にて移動自在な移動ヨークとを備え、
前記被吸着体に近付くと、先ず前記移動ヨークが移動して該被吸着体に吸着し、次に前記固定ヨークが該被吸着体側に引き込まれることを特徴とする磁気吸着ユニット。
【請求項2】
磁気により被吸着体に吸着する磁気吸着ユニットであって、
所定間隔で並列配置された角柱状の複数の固定磁石と、
該固定磁石を固定するように該固定磁石間に配置された角柱状の複数の固定ヨークと、
前記各固定ヨークを所定間隔で貫通する複数の貫通穴内にて移動自在な円筒状の複数の移動ヨークとを備え、
前記被吸着体に近付くと、先ず前記移動ヨークが移動して該被吸着体に吸着し、次に前記固定ヨークが該被吸着体側に引き込まれることを特徴とする磁気吸着ユニット。
【請求項3】
磁気により被吸着体に吸着する磁気吸着ユニットであって、
円周上に所定間隔で配置された扇状の複数の固定磁石と、
該固定磁石を固定するように該固定磁石間に配置された角柱状の複数の固定ヨークと、
前記各固定ヨークを貫通する複数の貫通穴内にて移動自在な円筒状の複数の移動ヨークとを備え、
前記被吸着体に近付くと、先ず前記移動ヨークが移動して該被吸着体に吸着し、次に前記固定ヨークが該被吸着体側に引き込まれることを特徴とする磁気吸着ユニット。
【請求項4】
前記移動ヨークは、前記被吸着体との対向側を磁性材で構成され、前記被吸着体との反対向側を非磁性材で構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の磁気吸着ユニット。
【請求項5】
前記磁性材は、略円錐形状部を有するように形成され、前記非磁性材は、前記略円錐形状部が嵌る略円垂穴形状部を有するように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の磁気吸着ユニット。
【請求項6】
前記移動ヨークは、前記被吸着体との反対向側に抜け止めが設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の磁気吸着ユニット。
【請求項7】
前記固定ヨークを貫通する貫通穴内を移動する前記移動ヨークは、該貫通穴内の任意の位置で、前記固定ヨークに対してその移動運動を制動させるための装置を装備していることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の磁気吸着ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−214273(P2009−214273A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62983(P2008−62983)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月13日 社団法人日本ロボット学会主催の「第25回日本ロボット学会学術講演会講演概要集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】