説明

磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】イオン系コンタミが少なく、かつ乾燥不良が起きず、その結果ヘッド浮上量が微少なハードディスクに搭載してもヘッドクラッシュを起こさない磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】電気抵抗値が10MΩ・cm以下である水溶液を用いてガラス基板10をリンスする処理と、水よりも沸点の低い水溶性溶剤の蒸気を、前記リンス処理したガラス基板に接触させる乾燥処理とを含む磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、前記乾燥処理において、前記蒸気中の水分量が0.5質量%以下である蒸気を用いる。前記水よりも沸点の低い水溶性溶剤が、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトンから選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気情報記録装置は、磁気、光及び光磁気等を利用することによって、情報を情報記録媒体に記録させるものである。その代表的なものとしては、例えば、ハードディスクドライブ装置等が挙げられる。ハードディスクドライブ装置は、基板上に記録層を形成した情報記録媒体としての磁気ディスクに対し、磁気ヘッドによって磁気的に情報を記録する装置である。このような情報記録媒体の基材、いわゆるサブストレートとしては、ガラス基板が好適に用いられている。
【0003】
また、ハードディスクドライブ装置は、磁気ヘッドを磁気ディスクに接触することなく、磁気ディスクに対し僅か数nm程度浮上させ、高速回転させながら磁気ディスクに情報を記録させている。さらに、近年においては、ますますハードディスクの記録密度が向上しており、それに伴って磁気ヘッドと磁気ディスクの差(以下、ヘッド浮上量という。)が小さくなってきている。特に、DFH(Dynamic Flying Hight)機構を有するようなハードディスクにおいては、ヘッド浮上量が3nm以下のものが開発されている。しかしながら、DFH機構においては、ヘッド浮上量が極めて小さいために、磁気ヘッドと磁気ディスクとが衝突してヘッドクラッシュが生じるといった問題が頻発していた。
【0004】
また、近年のハードディスクドライブ装置は、その記録密度が向上していることにより、そのハードディスクに使用される基板の表面清浄性の高いものが要求されてきている。この基板の表面清浄性を高めるために、磁気情報記録媒体用基板に研削及び研磨を施した後に洗浄処理、リンス処理、乾燥処理を含む洗浄工程が施されている。この洗浄工程の際、特にリンス処理、乾燥処理において水より沸点の低い水溶性溶剤、例えばイソプロピルアルコールがよく用いられる。
【0005】
特許文献1には、水より沸点が低い温度の液体の蒸気で乾燥させるベーパー方式において、液体の電気抵抗値を測定することにより液体中の異物を測定し、それらを管理することで基板の清浄度を一定に保つ製造方法が開示されている。また、特許文献2には、上記ベーパー方式において、ベーパー槽に供給されるイソプロピルアルコール中の水分量を1%以下に保ちながら製造する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、近年のハードディスク記録密度の上昇に伴って、さらに微小な基板上の突起物の存在も許されなくなっており、上記のような方法で製造を行っても新たな評価装置、及びメディアにて、一部基板に線状の異物(乾燥ムラ)というものが残ることが確認された。なお、これらの乾燥ムラは、ヘッド浮上量2nm程度のハードディスクにおいて傾向が躊躇になる。
【0007】
また、上記の方法では、リンス工程において比較的電気抵抗値の高い溶液(例えば、10MΩ・cm)を用いてリンスを行っている。しかし、このリンス工程にて電気抵抗値の大きい溶液を使用した場合、研磨液由来の有機酸成分や、化学強化工程時に発生する塩(硝酸系)の付着が原因となってイオン系のコンタミが基板上に残存してしまう。また、静電的に空気などから溶液にイオン系コンタミが入り込み、リンスした基板にイオン系コンタミが付着してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−245481号公報
【特許文献2】特開2007−91478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、その解決すべき課題は、イオン系コンタミが少なく、かつ乾燥不良が起きず、その結果ヘッド浮上量が微少なハードディスクに搭載してもヘッドクラッシュを起こさない磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明者らは、磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造工程中におけるリンス処理に用いられる溶液、及び乾燥処理に用いられる液体蒸気の水分量に着目し、鋭意検討を行った。この結果、電気抵抗値が10MΩ・cm以下である水溶液を用いてリンス処理を行い、さらに蒸気中の水分量が0.5質量%以下である蒸気を用いて乾燥処理を行うことでイオン系コンタミが少なく、洗浄度の高い磁気情報記録媒体用ガラス基板を製造し得ることを見出した。さらに、前記磁気情報記録媒体用ガラス基板であれば、ヘッド浮上量が3nm以下と微少なハードディスクに搭載してもヘッドクラッシュを起こしにくいことを見出した。
【0011】
本発明に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、電気抵抗値が10MΩ・cm以下である水溶液を用いてガラス基板をリンスする処理と、水よりも沸点の低い水溶性溶剤の蒸気を、前記リンス処理したガラス基板に接触させる乾燥処理とを含む磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、前記乾燥処理において、前記蒸気中の水分量が0.5質量%以下である蒸気を用いることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、イオン系コンタミが少なく、洗浄度の高い磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することができる。また、ヘッド浮上量が微少なハードディスクに搭載してもヘッドクラッシュを起こさない磁気情報記録媒体用ガラス基板を提供することができる。
【0013】
前記前記水よりも沸点の低い水溶性溶剤が、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトンから選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。これらの蒸気を乾燥処理に用いることで、乾燥不良の起こりにくい磁気情報記録媒体用ガラス基板を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオン系コンタミが少なく、洗浄度の高い磁気情報記録媒体用ガラス基板であって、ヘッド浮上量が微少なハードディスクに搭載してもヘッドクラッシュを起こさない磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るリンス処理、及び乾燥処理を説明する図である。
【図2】本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造される磁気情報記録媒体用ガラス基板を示す上面図である。
【図3】本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における粗研磨工程や精密研磨工程で用いる研磨装置の一例を示す概略断面図である。
【図4】本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造された磁気情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを示す一部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、電気抵抗値が10MΩ・cm以下である水溶液を用いてガラス基板をリンスする処理と、水よりも沸点の低い水溶性溶剤の蒸気を、前記リンス処理したガラス基板に接触させる乾燥処理とを含む磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、前記乾燥処理において、前記蒸気中の水分量が0.5質量%以下である蒸気を用いることを特徴とする。
【0018】
また、本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、洗浄工程において前記リンス処理と前記乾燥処理を備えていれば、特に限定されない。具体的には、リンス処理に用いる水溶液として上記のものを用いること、及び乾燥処理において上記条件を満たす蒸気を用いること以外は、特に限定されず、従来公知の製造方法であればよい。
【0019】
磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法としては、例えば、円盤加工工程、ラッピング工程、粗研磨工程(1次研磨工程)、洗浄工程、化学強化工程、精密研磨工程(2次研磨工程)等を備える方法等が挙げられる。そして、前記各工程を、この順番で行うものであってもよいし、化学強化工程と精密研磨工程(2次研磨工程)との順番が入れ替わったものであってもよい。さらに、これら以外の工程を備える方法であってもよい。例えば、ラッピング工程と粗研磨工程(1次研磨工程)との間に、端面研磨工程を行うものであってもよい。
【0020】
特に、洗浄工程については、粗研磨工程の後に行っても、精密研磨工程の後に行ってもよく、さらに粗研磨工程及び精密研磨工程の後にそれぞれ一度ずつ行ってもよい。
【0021】
ここで、本発明の製造方法における洗浄工程について詳述する。
<洗浄工程>
前記洗浄工程は、前記粗研磨工程や前記精密研磨工程が施されたガラス素板を洗浄する工程である。具体的には、洗浄処理とリンス処理と乾燥処理とを含む以下のような洗浄工程が挙げられる。
【0022】
図1は、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の洗浄処理、リンス処理、及び乾燥処理を含む洗浄工程について示したブロック図である。
(洗浄処理)
本発明において図1に示すように、研磨工程後のガラス基板10を洗浄層2に浸漬させて、洗浄処理を行う。具体的には、まず、pH13以上のアルカリ洗剤を用いて、ガラス素板の洗浄を行い、ガラス素板にリンスを行う。次に、pH1以下の酸系洗剤を用いて、ガラス素板の洗浄を行い、ガラス素板にリンスを行う。最後に、フッ化水素酸(HF)溶液を用いて、ガラス素板の洗浄を行う。酸化セリウムに関しては、アルカリ洗浄、酸洗浄、HF洗浄の順で洗浄を行うことが最も効率的である。アルカリ洗剤で研磨材を分散除去し、次に酸洗剤で研磨材を溶解除去し、最後に、HFによってガラス素板をエッチングし、ガラス素板に深く刺さっている研磨材を除去するためである。
【0023】
前記アルカリ洗浄、酸洗浄、HF洗浄は、それぞれ別の槽で行うことが好ましい。これらの洗浄を単一の槽で行った場合には、効率的な洗浄ができない場合がある。特に、酸洗剤とHFを同一槽に入れた場合、HFのエッチング速度が研磨材の多い場所で低下するため、基板を均一にエッチングできなくなる。
【0024】
また、他の洗浄処理としては、例えばHFが1質量%、硫酸が3質量%の洗浄液にガラス基板を浸漬させ、その洗浄液に80kHzの超音波振動を印加させる。その後、ガラス基板を取り出し、取り出したガラス基板を中性洗剤液に浸漬させる。その際、その中性洗剤液に、120kHzの超音波振動を印加させる方法も採り得る。
【0025】
なお、前記各洗浄に用いる洗剤には界面活性剤、分散材、キレート剤、還元材などを添加しても良く、場合によっては超音波を印加してもよい。
(リンス処理)
本発明において図1に示すように、前記洗浄処理後のガラス基板をリンス槽3に浸漬させて、超音波洗浄してリンス処理を行う。
【0026】
前記リンス処理に用いられるリンス溶液は、電気抵抗値が10MΩ・cm以下であることが好ましい。リンス溶液の電気抵抗値が10MΩ・cmより大きいものを用いると、リンス溶液中にイオン系のコンタミが残存してしまう。
【0027】
前記水溶液は、前述のようにその電気抵抗値が10MΩ・cm以下であれば特に限定されないが、炭酸水、水素水、窒素水が好ましく用いられ、特に炭酸水がより好ましい。
(乾燥工程)
そして、前記リンス処理がなされたガラス基板を、乾燥処理する。すなわち、図1に示すように、リンス処理後のガラス基板10をベーパー槽4において水より沸点の低い水溶性溶剤の蒸気で接触させて、脱水処理を行い、乾燥させる。
【0028】
このような水よりも沸点の低い水溶性溶剤としては、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、アセトンが好適である。これらの中でも、沸点の観点からIPAがより好適である。
【0029】
ベーパー槽4における水溶性溶剤蒸気の接触時の含水量(水溶性溶剤蒸気に含まれる水分量)は、0.5質量%以下であることがより好ましい。前記含水量が0.5質量%より大きいと、乾燥不良を起こしてしまう。
【0030】
なお、本発明における水溶性溶剤蒸気に含まれる水分量とは、ベーパー槽4にてガラス基板を乾燥させる領域付近での気体を採取し、その採取した気体を20℃の冷却コイルに接した際に凝結した液体のうち、水分の量を指す。
【0031】
前記含水量は、ベーパー槽4に対して水分量測定装置5を備え、これを用いて前記水分量を測定する。前記水分量測定装置は、カールフィッシャー水分計等の滴定装置、赤外線測定装置、ガスクロマトグラフィー等が用いられる。
【0032】
前記リンス工程で用いた水溶液に由来する水が、乾燥工程での水溶性溶剤に混入してしまい、繰り返し乾燥工程を経るうちに該水溶性溶剤中の水分量が増加してしまうからである。この水分量が増加によって、乾燥不良の原因となってしまう。
【0033】
したがって、前記水分量測定装置5において、蒸気の水分量が0.5質量%を超える測定結果となった場合、直ちにベーパー槽4の水溶性溶剤を高純度なものと交換する。なお、前記ベーパー槽はアルゴンや窒素等で置換させると、接触時のベーパー槽4内での水溶性溶剤の水分量が増加しにくくなり、水溶性溶剤の使用量が少なくて済む。
【0034】
また、ベーパー槽4には、水溶性溶剤タンク6から水溶性溶剤が供給される。ベーパー槽4において使用され、前記水分量測定装置によって水分量が0.5質量%以上であると測定された水溶性溶剤は、排タンク7に排出される。そして、このIPAタンク6には、新たな水溶性溶剤8が補充され、ベーパー槽4に送られる。
【0035】
以上の洗浄工程後のガラス素板は、その表面に残存したアルカリ土類金属が、10ng/cm以下であることが好ましく、5ng/cm以下であることがより好ましい。前記残存したアルカリ土類金属が10ng/cm以下であると付着物の少ない磁気情報記録媒体用ガラス基板を得ることができるからである。また、化学強化工程を施す場合、該化学強化工程を阻害しうるアルカリ土類金属の付着量が少なくさせることにより、化学強化がガラス素板全面に対してより均一に施すことができる。
【0036】
また、この粗研磨後のガラス素板の洗浄は、ガラス素板表面の酸化セリウム量が0.125ng/cm以下となるように行なわれる。ガラス素板表面の酸化セリウム量が多すぎると、後述する精密研磨工程による精密研磨後のガラス素板の平坦度を良好にできないことがある。
【0037】
なお、精密研磨工程を終えたガラス基板を洗浄工程に搬送する場合は、ガラス素板を乾燥(自然乾燥を含む)させることなく、水中で保管し、湿潤状態のまま次の洗浄工程へ搬送する。研磨残渣が残った状態のままガラス素板を乾燥させてしまうと、洗浄処理により研磨材(コロイダルシリカ)を除去することが困難になる場合がある。この洗浄は、鏡面仕上げされたガラス素板の表面を荒らすことなく、研磨剤を除去することが求められる。
<円盤加工工程>
円盤加工工程は、所定の組成のガラス素材から板状に成形したガラス素板から、図2に示すように、内周及び外周が同心円となるように、中心部に貫通孔10aが形成された円盤状のガラス素板10に加工する工程である。具体的には、例えば、以下のようにして加工する。まず、板状に成形したガラス素板であって、そのガラス組成が、後述する組成であって、その厚み0.95mmであるガラス素板を所定の大きさの四角形に切断する。
【0038】
そして、その切断されたガラス素板の一方の表面に、ガラスカッターにて上述した内周及び外周を形成するように円形の切り筋を形成する。そして、この切り筋を形成したガラス素板を、その切り筋を形成させた側の表面から加熱する。そうすることによって、前記切り筋が、ガラス素板の他方の表面に向かって深くなる。そして、内周及び外周が同心円となるように、中心部に貫通孔10aが形成された円盤状のガラス素板10に加工される。
【0039】
この円盤加工工程で、例えば、外径r1が2.5インチ(約64mm)、1.8インチ(約46mm)、1インチ(約25mm)、0.8インチ(約20mm)等で、厚みが2mm、1mm、0.63mm等の円盤状のガラス素板に加工される。また、外径r1が2.5インチ(約64mm)のときは、内径r2が0.8インチ(約20mm)等に加工される。なお、図1は、本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造される磁気情報記録媒体用ガラス基板を示す上面図である。
【0040】
また、板状に成形したガラス素板は、その製造方法は特に限定されないが、例えば、フロート法により製造されたもの等が挙げられる。フロート法とは、例えば、ガラス素材を溶融させた溶融液を、溶融したスズの上に流し、そのまま固化させる方法である。得られたガラス素板は、一方の面がガラスの自由表面であり、他方の面が、ガラスとスズとの界面であるため、平滑性の高い、例えば、算術平均粗さRaが0.001μm以下の鏡面を備えたものとなる。そして、その厚みとしては、例えば、0.95mmのものが挙げられる。なお、ガラス素板やガラス基板の表面粗さ、例えばRaは、一般的な表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
<ラッピング行程>
ラッピング工程は、前記ガラス素板を所定の板厚に加工する工程である。具体的には、ガラス素板の両面を研削(ラッピング)加工する工程等が挙げられる。このように加工することによって、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを調整することができる。また、このラッピング工程は、1回であってもよいし、2回以上であってもよい。例えば、2回行う場合、1回目のラッピング工程(第1ラッピング工程)で、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを予備調整し、2回目のラッピング工程(第2ラッピング工程)で、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを微調整することが可能となる。
【0041】
より具体的には、前記第1ラッピング工程としては、ガラス素板の表面全体が略均一の表面粗さとなるようにする工程等が挙げられる。その際、例えば、ガラス素板の算術平均粗さRaを複数個所測定した際に、得られたRaの最小値と最大値との差が0.01〜0.4μm程度にすることが好ましい。
【0042】
また、前記第2ラッピング工程としては、粗面化されたガラス基板の主表面を、さらに固定砥粒研磨パッドを用いて研削する行程等が挙げられる。この第2ラッピング工程においては、例えば、粗面化されたガラス基板をラッピング装置にセットし、ダイヤモンドタイル(Diamond Tile)のような表面模様付きの三次元固定研磨物を用いることで、ガラス基板の表面をラッピングすることができる。
【0043】
前記第2ラッピング行程を施すと、後述する粗研磨行程にて行われる研磨を効率良く行うことができる。また、第2ラッピング行程によって施された研磨工程に用いるガラス素板ガラス素板の表面粗さRaは0.10μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。
<粗研磨工程>
前記粗研磨工程(1次研磨工程)は、前記ラッピング工程が施されたガラス素板の表面に粗研磨を施す工程である。この粗研磨は、上述したラッピング工程で残留した傷や歪みの除去を目的とするもので、下記の研磨方法を用いて実施する。
【0044】
なお、前記粗研磨工程で研磨する表面は、主表面及び/又は端面である。主端面とは、ガラス素板の面方向に平行な面である。端面とは内周端面と外周端面とからなる面のことである。また、内周端面とは、内周側の、ガラス素板の面方向に垂直な面及びガラス素板の面方向に対して傾斜を有する面である。また、外周端面とは、外周側の、ガラス素板の面方向に垂直な面及びガラス素板の面方向に対して傾斜を有する面である。
【0045】
粗研磨工程で用いる研磨装置は、ガラス基板の製造に用いる研磨装置であれば、特に限定されない。具体的には、図3に示すような研磨装置1が挙げられる。なお、図3は、本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における粗研磨工程や精密研磨工程で用いる研磨装置1の一例を示す概略断面図である。
【0046】
図3に示すような研磨装置11は、両面同時研削可能な装置である。また、この研磨装置11は、装置本体部11aと、装置本体部11aに研磨液を供給する研磨液供給部11bとを備えている。
【0047】
装置本体部11aは、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13とを備えており、それらが互いに平行になるように上下に間隔を隔てて配置されている。そして、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13とが、互いに逆方向に回転する。
【0048】
この円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13との対向するそれぞれの面にガラス素板10の表裏の両面を研磨するための研磨パッド15が貼り付けられている。この粗研磨工程で使用する研磨パッド15は、粗研磨工程で用いられる研磨パッドであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ポリウレタン製の硬質研磨パッド等が挙げられる。
【0049】
また、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13との間には、回転可能な複数のキャリア14が設けられている。このキャリア14は、複数の素板保持用孔51が設けられており、この素板保持用孔51にガラス素板10をはめ込んで配置することができる。キャリア14としては、例えば、素板保持用孔51を100個有していて、100枚のガラス素板10をはめ込んで配置できるように構成されていてもよい。そうすると、一回の処理(1バッチ)で100枚のガラス素板10を処理できる。
【0050】
研磨パッドを介して定盤12、13に挟まれているキャリア14は、複数のガラス素板10を保持した状態で、自転しながら定盤12,13の回転中心に対して下定盤13と同じ方向に公転する。なお、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13とは、別駆動で動作することができる。このように動作している研磨装置11において、研磨スラリー16を上定盤12とガラス素板10との間、及び下定盤13とガラス素板10との間、夫々に供給することでガラス素板10の粗研磨を行うことができる。
【0051】
研磨スラリー供給部11bは、液貯留部110と液回収部120とを備えている。液貯留部110は、液貯留部本体110aと、液貯留部本体110aから装置本体部11aに延ばされた吐出口110eを有する液供給管110bとを備えている。液回収部120は、液回収部本体120aと、液回収部本体120aから装置本体部11aに延ばされた液回収管120bと、液回収部本体120aから研磨スラリー供給部11bに延ばされた液戻し管120cとを備えている。
【0052】
そして、液貯留部本体110aに入れられた研磨スラリー7は、液供給管110bの吐出口110eから装置本体部11aに供給され、装置本体部11aから液回収管120bを介して液回収部本体120aに回収される。また、回収された研磨スラリー16は、液戻し管120cを介して液貯留部110に戻され、再度、装置本体部11aに供給可能とされている。
【0053】
ここで用いる研磨液16は、研磨剤を水に分散させた状態の液体、すなわち、スラリー液である。
【0054】
また、ここで用いる研磨パッド15は、ウレタンやポリエステル等の合成樹脂の発泡体に、酸化セリウム研磨剤を含有させたものである。
【0055】
次に、化学強化工程の前に行われる研磨工程において用いられる研磨剤が、CeOの含有量が多く、アルカリ土類金属の少ないものを用いることによって、研磨速度を高め、研磨後のガラス素板の平滑性を充分に高めることができると考えられる。また、研磨パッドについても、前記研磨剤の場合と同様に、CeOの含有量が多く、アルカリ土類金属の少ないものを用いることによって、研磨速度を高め、研磨後のガラス素板の平滑性を充分に高めることができると考えられる。
【0056】
CeOの含有量が多い研磨剤を用いると、研磨速度を高め、研磨後のガラス素板の平滑性を充分に高めることができる理由としては、以下のような理由によると考えられる。まず、研磨の際にガラス素板の表面に圧力が加わった状態で、ガラス素板とCeOとが接触すると、ガラス素板の表面で主な組成であるSi−Oの結合が、Ce−Oの結合に置き換わると考えられる。そして、この結合は、容易に分解するが、Siとの結合が再度形成されにくいと考えられる。よって、CeOの含有量が多い研磨剤を用いると、研磨速度を高め、研磨後のガラス素板の平滑性を充分に高めることができると考えられる。
【0057】
そして、このようなCeOの含有量が多い研磨剤及び研磨パッドであって、アルカリ土類金属の少ないものを用いることによって、平滑性を充分に高めることができるだけではなく、研磨後のガラス素板に対するアルカリ土類金属の付着が抑制されると考えられる。このようなアルカリ土類金属の付着が抑制されたガラス素板に対して、化学強化工程を施すことによって、均一な化学強化がなされると考えられる。
【0058】
なお、前記研磨剤を水に分散させた状態の研磨液を用いて研磨する際、前記水にアルカリ土類金属が含有されていても、アルカリ土類金属が溶解しているため、ガラス素板の表面に付着しにくく、研磨剤に含まれるアルカリ土類金属が、ガラス素板の表面に付着しやすいと考えられる。よって、アルカリ土類金属の少ない研磨剤を用いることによって、研磨後のガラス素板に対するアルカリ土類金属の付着を充分に抑制できると考えられる。
【0059】
また、CeOの含有量は、高ければ高いほど好ましい。すなわち、研磨剤に含有する希土類酸化物が、全てCeOであることが好ましい。このことは、CeOがガラス素板の研磨性に最も影響することによると考えられる。また、アルカリ土類金属の含有量は、低ければ低いほど好ましい。前記研磨剤に含まれるアルカリ土類金属が少なければ、アルカリ土類金属による化学強化工程の阻害が抑制されることによると考えられる。
【0060】
また、CeOの含有量が、前記研磨剤全量に対して、90質量%以上であることが好ましい。そうすることによって、耐衝撃性に優れた情報記録媒体用ガラス基板を製造でき、さらに、研磨速度をより高めることができ、平滑性のより高い情報記録媒体用ガラス基板を製造することができる。このことは、化学強化工程を阻害しうるアルカリ土類金属の含有量が少なく、さらに、研磨性を高めるCeOの含有量が、研磨剤に含有される希土類酸化物に対して単に多いだけではなく、研磨剤全量に対しても多いことによると考えられる。
【0061】
また、前記研磨液7は、前記研磨剤を水に分散させた状態のものであり、CeOの含有量が、前記研磨液全量に対して、3〜15質量%であることが好ましい。そうすることによって、耐衝撃性に優れた情報記録媒体用ガラス基板を製造でき、さらに、研磨速度をより高めることができ、平滑性のより高い情報記録媒体用ガラス基板を製造することができる。また、前記研磨剤を水に分散させた状態の研磨液の場合、上述したように、前記水にアルカリ土類金属が含有されていても、アルカリ土類金属が溶解しているため、ガラス素板の表面に付着しにくく、研磨剤に含まれるアルカリ土類金属が、ガラス素板の表面に付着しやすいと考えられる。よって、前記研磨剤として、アルカリ土類金属の少ないものを用いることによって、研磨後のガラス素板に対するアルカリ土類金属の付着を充分に抑制できると考えられる。
【0062】
また、前記研磨剤が、レーザ回折散乱法で測定された粒度分布における最大値が3.5μm以下であり、レーザ回折散乱法で測定された粒度分布における累積50体積%径D50が0.4〜1.6μmであることが好ましい。
【0063】
前記研磨剤の粒径が小さすぎると、研磨速度が低下する傾向がある。前記研磨剤の粒径が大きすぎると、研磨によってガラス素板上に形成されうる傷が発生しやすくなる。
【0064】
なお、レーザ回折散乱法で測定された粒度分布における最大値とは、レーザ回折式粒度分布測定装置にて測定して得られる粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブの最大値となる点の粒子径を意味する。また、D50とは、レーザ回折式粒度分布測定装置にて測定して得られる粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブが50%となる点の粒子径を意味する。
【0065】
また、前記研磨液16としては、粗研磨工程では、フッ素含有量が5質量%以下であることが好ましい。
【0066】
また、前記研磨パッド15は、酸化セリウムの他に、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化アルミニウム、炭化ケイ素又は二酸化ケイ素を含有させることができ、これらのなかでもケイ酸ジルコニウムを含有させることがより好ましい。
【0067】
前記研磨パッドにおける酸化セリウムの配合量は、研磨パッド全量に対して10〜30質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。
【0068】
本実施形態に係る研磨パッドは、例えば以下のような方法において製造される。
【0069】
まず、樹脂溶液と砥粒とを混合して、砥粒分散液を製造する。次に、成形型を使用して該砥粒分散液を硬化させ、内部及び表面に砥粒を固定した板状のブロックを成形させる。続いて、該ブロックを成形型から取り出した後、ブロックの両面を研削し所定の厚さに加工する。
【0070】
そして、より好適には、まず、樹脂溶液と砥粒とを混合し、この混合液を減圧して脱泡して、無泡砥粒分散液を製造する。次に、成形型を使用して該無泡砥粒分散液を硬化させ、無発泡体の内部及び表面に砥粒を固定した板状のブロックを成形させる。続いて、該ブロックを成形型から取り出した後、ブロックの両面を研削し、所定の厚さに加工する。
<化学強化工程>
本発明の製造方法における化学強化工程は、公知の方法であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ガラス素板を化学強化処理液に浸漬させる工程等が挙げられる。そうすることによって、ガラス素板の表面、例えば、ガラス素板表面から5μmの領域に化学強化層を形成することができる。そして、化学強化層を形成することで耐衝撃性、耐振動性及び耐熱性等を向上させることができる。
【0071】
より詳しくは、化学強化工程は、加熱された化学強化処理液にガラス素板を浸漬させることによって、ガラス素板に含まれるリチウムイオンやナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンをそれよりイオン半径の大きなカリウムイオン等のアルカリ金属イオンに置換するイオン交換法によって行われる。イオン半径の違いによって生じる歪みにより、イオン交換された領域に圧縮応力が発生し、ガラス素板の表面が強化される。
【0072】
本実施形態では、ガラス基板の原料であるガラス素板として、上記のようなガラス組成のものを用いることによって、この化学強化工程により、強化層が好適に形成されると考えられる。具体的には、ガラス素板のアルカリ成分であるLiO、NaO、及びKOのうち、NaOの含有量が多く、このNaOのナトリウムイオンが、化学強化処理液に含まれるカリウムイオンに交換されやすいためと考えられる。さらに、化学強化工程を施す前の研磨工程、ここでは粗研磨工程で用いる研磨剤が、上記のような組成の研磨剤であるので、ガラス素板の表面に付着しているアルカリ土類金属の量が少なく、化学強化が均一になされると考えられる。よって、本実施形態のように、好適な化学強化がなされたガラス素板に、精密研磨工程を行うことによって、耐衝撃性に優れたガラス基板を製造することができる。
【0073】
化学強化処理液としては、磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における化学強化工程で用いられる化学強化処理液であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、カリウムイオンを含む溶融液、及びカリウムイオンやナトリウムイオンを含む溶融液等が挙げられる。
【0074】
これらの溶融液としては、例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸ナトリウム等を溶融させて得られた溶融液等が挙げられる。この中でも、硝酸カリウムを溶融させて得られた溶融液と硝酸ナトリウムを溶融させて得られた溶融液とを組み合わせて用いることが、融点が低く、ガラス素板の変形を防止する観点から好ましい。その際、硝酸カリウムを溶融させて得られた溶融液と硝酸ナトリウムを溶融させて得られた溶融液とを、ほぼ同量ずつの混合させた混合液であることが好ましい。
<精密研磨工程(2次研磨工程)>
精密研磨工程は、前記粗研磨工程で得られた平坦平滑な主表面を維持しつつ、例えば、主表面の表面粗さ(Rmax)が6nm程度以下である平滑な鏡面に仕上げる鏡面研磨処理である、この精密研磨工程は、例えば、上記粗研磨工程で使用したものと同様の研磨装置を用い、研磨パッドを硬質研磨パッドから軟質研磨パッドに取り替えて行われる。なお、前記精密研磨工程で研磨する表面は、前記粗研磨工程で研磨する表面と同様、主表面である。
【0075】
また、精密研磨工程で用いる研磨剤としては、粗研磨工程で用いた研磨剤より、研磨性が低くても、傷の発生がより少なくなる研磨剤が用いられる。具体的には、例えば、粗研磨工程で用いた研磨剤より、粒子径が低いシリカ系の砥粒(コロイダルシリカ)を含む研磨剤等が挙げられる。このシリカ系の砥粒の平均粒子径としては、20nm程度であることが好ましい。そして、前記研磨剤を含む研磨スラリー液をガラス素板に供給し、研磨パッドとガラス素板とを相対的に摺動させて、ガラス素板の表面を鏡面研磨する。
【0076】
図4は、本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造された磁気情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを示す一部断面斜視図である。この磁気ディスクDは、円形の磁気情報記録媒体用ガラス基板101の主表面に形成された磁性膜102を備えている。磁性膜102の形成には、公知の常套手段による形成方法が用いられる。例えば、磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を磁気情報記録媒体用ガラス基板101上にスピンコートすることによって磁性膜102を形成する形成方法(スピンコート法)や、磁気情報記録媒体用ガラス基板101上にスパッタリングによって磁性膜102を形成する形成方法(スパッタリング法)や、磁気情報記録媒体用ガラス基板101上に無電解めっきによって磁性膜102を形成する形成方法(無電解めっき法)等が挙げられる。
【0077】
磁性膜102の膜厚は、スピンコート法による場合では、約0.3〜1.2μm程度であり、スパッタリング法による場合では、約0.04〜0.08μm程度であり、無電解めっき法による場合では、約0.05〜0.1μm程度である。薄膜化および高密度化の観点から、スパッタリング法による膜形成が好ましく、また、無電解めっき法による膜形成が好ましい。
【0078】
磁性膜102に用いる磁性材料は、公知の任意の材料を用いることができ、特に限定されない。磁性材料は、例えば、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金等が好ましい。より具体的には、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPt、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiO等が挙げられる。
【0079】
磁性膜102は、ノイズの低減を図るために、非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrV等)で分割された多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTa等)であってもよい。磁性膜102に用いる磁性材料は、上記磁性材料の他、フェライト系や鉄−希土類系であってもよく、また、SiO、BN等からなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子を分散した構造のグラニュラー等であってもよい。また、磁性膜102への記録には、内面型および垂直型のいずれかの記録形式が用いられてよい。
【0080】
また、磁気ヘッドの滑りをよくするために、磁性膜102の表面には、潤滑剤が薄くコーティングされてもよい。潤滑剤として、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0081】
さらに必要により磁性膜102に対し下地層や保護層が設けられてもよい。磁気ディスクDにおける下地層は、磁性膜102に応じて適宜に選択される。下地層の材料として、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Ni等の非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。例えば、Coを主成分とする磁性膜102の場合には、下地層の材料は、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。
【0082】
また、下地層は、単層とは限らず、同一または異種の層を積層した複数層構造であってもよい。このような複数層構造の下地層は、例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層が挙げられる。磁性膜102の摩耗や腐食を防止する保護層として、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層等が挙げられる。これら保護層は、下地層および磁性膜102と共にインライン型スパッタ装置で連続して形成することができる。また、これら保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一または異種の層からなる複数層構成であってもよい。
【0083】
なお、上記保護層上に、あるいは、上記保護層に代えて、他の保護層が形成されてもよい。例えば、上記保護層に代えて、Cr層の上にSiO層が形成されてもよい。このようなSiO層は、Cr層の上にテトラアルコキシシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成することによって形成される。
【0084】
このような本実施形態における磁気情報記録媒体用ガラス基板101を基体とした磁気記録媒体は、磁気情報記録媒体用ガラス基板101が上述した組成により形成されるので、情報の記録再生を長期に亘り高い信頼性で行うことができる。
【0085】
なお、上述では、本実施形態における磁気情報記録媒体用ガラス基板101を磁気記録媒体に用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、本実施形態における磁気情報記録媒体用ガラス基板101は、光磁気ディスクや光ディスク等にも用いることが可能である。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
まず、情報記録媒体用ガラス基板の製造に用いられる一般的なガラス基板、研磨剤及び研磨パッドを用意した。なお、研磨剤及び研磨パッドの組成は、情報記録媒体用ガラス基板の製造に用いられる一般的な研磨剤及び研磨パッドに含まれているものが含まれている。
【0088】
(実施例1)
ガラス基板を用い、公知の方法により、円盤加工工程、ラッピング工程、粗研磨工程(1次研磨工程)、化学強化工程、精密研磨工程(2次研磨工程)を施した。そして、洗浄工程におけるリンス処理に電気抵抗値が0.2MΩ・cmの炭酸水を用い、水分量が0.1質量%のIPA蒸気で乾燥させた。
【0089】
具体的には、まず、HFが1質量%、硫酸が3質量%の洗浄液にガラス素板を、6分間浸漬させた。その際、その洗浄液に、80kHzの超音波振動を印加させた。その後、ガラス素板を取り出した。そして、取り出したガラス素板を中性洗剤液に6分間浸漬させた。その際、その中性洗剤液に、120kHzの超音波振動を印加させた。最後に、ガラス素板を取り出し、電気抵抗値が0.2MΩ・cmの炭酸水でリンスを行い、水分量が0.1質量%のIPA蒸気で乾燥させた。
【0090】
なお、前記洗浄工程で洗浄した後のガラス素板の表面に残存したアルカリ金属(イオンコンタミ)は、表1に示すように、10ng/cm以下であった。
【0091】
このイオンコンタミは、以下のようにして測定した。
【0092】
まず、前記洗浄工程で洗浄した後のガラス素板を、18MΩ・cm以上の超純水(20℃)20mlに浸漬させ、10分間静置した。このとき、攪拌等は行わず、また、静置中は、容器の蓋を閉め、さらに、クラス100の部屋で作業を行った。10分間の静置後、ガラス素板のみを取り出した、そして、ガラス素板を浸漬させていた超純水をイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製のICS−2100)を用いて、含有されるアルカリ土類金属の量を測定した。そして、測定されたアルカリ金属の量から、洗浄工程で洗浄した後のガラス素板の表面に残存したアルカリ金属(イオンコンタミ)の量を算出した。
【0093】
なお、化学強化工程としては、具体的には、まず、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとを溶融させた混合溶融液を用意した。なお、この混合溶融液は、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとの混合比が質量比で1:1となるように混合させたものである。そして、この混合溶融液を、400℃まで加熱して、その加熱した混合溶融液に、洗浄したガラス素板を、60分間浸漬させた。
【0094】
(比較例1)
リンス処理において、300MΩ・cmのIPAを用いたこと以外、実施例1と同様である。
【0095】
なお、前記洗浄工程で洗浄した後のガラス素板の表面に残存したアルカリ金属(イオンコンタミ)は、表1に示すように、150ng/cm以下であった。
【0096】
(比較例2)
乾燥処理において、リンス処理において、300MΩ・cmのIPAを用い、水分量が1質量%のIPA蒸気で乾燥させたこと以外、実施例1と同様である。
【0097】
なお、前記洗浄工程で洗浄した後のガラス素板の表面に残存したアルカリ金属(イオンコンタミ)は、表1に示すように、128ng/cm以下であった。
【0098】
(乾燥不良試験)
乾燥させたガラス基板をOSA(Optical Surface Analyzer)Candela7120(KLA tencol社製)で測定した。
【0099】
ガラス基板表面上に、表面上に線状の付着があった場合、乾燥不良と判断した。
【0100】
この結果を上記イオンコンタミの量とともに、表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1の結果から明らかなように、電気抵抗値が10MΩ・cm以下である水溶液を用いてガラス基板をリンスし、IPA蒸気中の水分量が0.5質量%以下である蒸気を用いた実施例1では、イオンコンタミが極めて少なく、ガラス基板の乾燥不良が抑制された。
【0103】
一方で、電気抵抗値が10MΩ・cm以上のリンス溶液を用いた場合(比較例1)、乾燥不良は起きなかったもののイオンコンタミが150ng/cmと非常に大きな値となった。また、IPA蒸気中の水分量が0.5質量以上である蒸気を用いた場合(比較例2)、イオンコンタミ量が128ng/cmと大きくなった上に、乾燥不良も起こしてしまった。これは、水分量が上記実施例1よりも水分量が多かったために、完全に乾燥しきれなかったものであると考えられる。
【符号の説明】
【0104】
2 洗浄処理槽
3 リンス処理槽
4 ベーパー槽
5 水分量測定装置
10 ガラス基板
101 磁気情報記録媒体用ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気抵抗値が10MΩ・cm以下である水溶液を用いてガラス基板をリンスする処理と、
水よりも沸点の低い水溶性溶剤の蒸気を、前記リンス処理したガラス基板に接触させる乾燥処理と、を含む磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であって、
前記乾燥処理において、前記蒸気中の水分量が0.5質量%以下である蒸気を用いることを特徴とする磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記水よりも沸点の低い水溶性溶剤が、イソプロピルアルコール、エタノール、アセトンから選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−138155(P2012−138155A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291205(P2010−291205)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】