説明

磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法

【課題】研削工程及び/又は研磨工程における加工レートを向上させると共に、基板表面に残存する加工ダメージ層を低負荷で効果的に除去することが可能となり、表面の研磨加工によるダメージ発生を抑制し、耐衝撃性に優れた、強度信頼性の高い磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とすることを目的とする。
【解決手段】磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、ガラス基板表面に引張応力層を形成させる引張応力層形成工程を含み、前記引張応力層形成工程は精密研磨工程の前に備えることを特徴とする磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。前記引張応力層形成工程は、ガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンの交換を行うイオン交換処理法を含み、前記イオン交換処理法はガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンのイオン半径よりもイオン半径が小さいイオンを含有する処理液に前記ガラス基板を浸漬させ、ガラス基板表面に引張応力層を形成させることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気情報記録装置は、磁気、光及び光磁気等を利用することによって、情報を情報記録媒体に記録させるものである。その代表的なものとしては、例えば、ハードディスクドライブ装置等が挙げられる。ハードディスクドライブ装置は、基板上に記録層を形成した情報記録媒体としての磁気ディスクに対し、磁気ヘッドによって磁気的に情報を記録する装置である。このような情報記録媒体の基材、いわゆるサブストレートとしては、ガラス基板が好適に用いられている。
【0003】
近年においては、低価格のパソコンが登場してきたことにより、これに用いられる磁気情報記録媒体用ガラス基板についても低コストなものが望まれている。一方、家電製品等の急速なデジタル化に伴い、取り扱う情報量が急速に増大しており、大容量の情報記録媒体としてハードディスクに対する記録密度の向上も益々望まれて来ており、そのガラス基板を研削や研磨を施す工程の際にそのレートを向上させたり、ガラス基板表面の平滑性や微小うねりを大幅に抑制させたり、微小な欠陥を削減したりする必要があった。
【0004】
特に、近年の超高密度化を達成するため基板表面の平滑性や微小なうねり品質をより一層の向上を目的として、精密かつ微細に仕上げ研磨工程を制御できる極微小な研磨粒子が用いられるようになり、ますます加工性が低下するという問題が顕著となってきた。そのような課題に対して、例えば特許文献1には、主表面が鏡面であるガラス基板をフッ酸処理で荒らし、その後に研削を施すことで研削工程の加工レートを向上させる技術が開示されている。しかしながら、上記技術のようにフッ酸処理を施すと、基板表面全体がエッチングされて厚みの制御が困難になってしまう。また、過度に平滑性やうねり等の品質が劣化し、その特性を改質・向上させるためにかえって過剰に加工する必要が出て生産性を低下させてしまうこともある。さらに、フッ酸処理工程を新たに導入することが必要となり、よりコストが高くなると同時に良品率の低下を招いてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−205382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、その解決すべき課題は、研削工程及び/又は研磨工程における加工レートを向上させると共に、基板表面に残存する加工ダメージ層を低負荷で効果的に除去することが可能となり、表面の研磨加工によるダメージ発生を抑制し、耐衝撃性に優れた、強度信頼性の高い磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明者らは、磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造工程における基板の研磨加工が施される前の表面状態に着目し、鋭意検討を行った。この結果、研磨工程の前に基板表面に引張応力層を形成させることによって、同じ研磨条件でも研磨レートを大きく向上させることのできる磁気情報記録媒体用ガラス基板を製造し得ることを見出した。さらに、このような製造方法によって得られた磁気情報記録媒体用ガラス基板であれば、高密度化に好適な優れた基板表面品質を維持し、且つ高い強度信頼性を備えることができることを見出した。
【0008】
本発明に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ガラス基板表面に引張応力層を形成させる引張応力層形成工程を含み、前記引張応力層形成工程は精密研磨工程の前に備えることを特徴とする磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法である。
【0009】
前記引張応力層形成工程は、ガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンの交換を行うイオン交換処理法を含み、前記イオン交換処理法はガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンのイオン半径よりもイオン半径が小さいイオンを含有する処理液に前記ガラス基板を浸漬させ、ガラス基板表面に引張応力層を形成させることが好適である。このような構成によれば、短時間で基板表面に均質な引張応力層を形成することができる。
【0010】
前記イオン交換処理法は、前記引張応力層形成処理の前に、前記ガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンのイオン半径よりもイオン半径が大きいイオンを含有する処理液に前記ガラス基板を浸漬させて、前記ガラス基板表面に圧縮応力を形成させる圧縮応力形成処理をさらに含むことが好適である。このような構成であれば、圧縮応力層を引張応力層よりも十分深く形成することで、研磨加工が施される極最表面により強い引張応力が発生させる事が可能となり、一層高加工レートで研磨処理することが可能となり、さらに基板表面に圧縮応力層が出現することで、強度信頼性の高いガラス基板を得ることができる。
【0011】
前記引張応力層の厚みは、研削工程により研削される取り代及び研磨工程によって研磨される取り代よりも小さいことが好適である。このような構成であれば、加工後の基板表面に引張応力が存在しなくなることから、強度信頼性が損なわれることはない。
【0012】
前記引張応力層形成工程において形成された引張応力層の応力は、0.1〜15kg/mmであることが好適である。このような構成であれば、研削工程及び研磨工程における加工レートを向上させることができ、ガラス基板の形状を制御しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、研削工程及び/又は研磨工程における加工レートを向上させると共に、基板表面に残存する加工ダメージ層を低負荷で効果的に除去することが可能となり、表面の研磨加工によるダメージ発生を抑制し、耐衝撃性に優れた、強度信頼性の高い磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法を提供することを目的とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造における工程を説明する製造工程図である。
【図2】本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造される磁気情報記録媒体用ガラス基板を示す上面図である。
【図3】本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における粗研磨工程や精密研磨工程で用いる研磨装置の一例を示す概略断面図である。
【図4】本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造された磁気情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを示す一部断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ガラス基板表面に引張応力層を形成させる引張応力層形成工程を含む磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、前記引張応力層形成工程は精密研磨工程の前に備えることを特徴とする。
【0017】
また、本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、引張応力層形成工程が精密研磨工程の前に備えていること以外は、特に限定されず、従来公知の製造方法であればよい。
【0018】
磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法としては、前記引張応力層形成工程の他に、例えば、円盤加工工程、ラッピング工程、粗研磨工程(1次研磨工程)、精密研磨工程(2次研磨工程)、洗浄工程等を備える方法等が挙げられる。そして、前記各工程を、この順番で行うものであってもよいし、精密研磨工程(2次研磨工程)と洗浄工程の順番が入れ替わったものであってもよい。さらに、これら以外の工程を備える方法であってもよい。例えば、ラッピング工程と粗研磨工程(1次研磨工程)との間に、端面研磨工程を行うものを備えてもよい。
【0019】
特に、洗浄工程については、粗研磨工程の後に行っても、精密研磨工程の後に行ってもよく、さらに粗研磨工程及び精密研磨工程の後にそれぞれ一度ずつ行ってもよい。
【0020】
ここで、本発明の製造方法における引張応力層形成工程について詳述する。
【0021】
<引張応力層形成工程>
引張応力層形成工程は、ガラス基板表面に引張応力層を形成させる工程である。そして、例えば図1(a)に示されているように、本発明の実施形態にかかる引張応力層形成工程は、後述する精密研磨工程の前に備えていればよく、研削工程の前であってもよい。研磨工程前に引張応力層形成工程を施すことによって、コストのかかる研磨工程の処理時間を短縮することが可能となり、酸化セリウム等の研磨剤の使用量を削減することが出来る。また、引張応力層形成工程後に出現する微小うねりについても、その後に研磨処理を施すことで容易に除去することができる。
【0022】
引張応力層を形成させる方法としては、具体的にはガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンと、処理液内に含まれるアルカリ金属イオンとを交換させるイオン交換処理法、ガラス表面を均等に加熱し、表面と内部に強制的に温度差を発生させた際に生じる熱収縮の差により、表層に引張応力を、内部に圧縮応力を形成させる熱処理法、スパッタリング現象を活用し、ガラス表面の成分をより小さなイオンなどに置換するスパッタリング活用法等が挙げられる。また、前記イオン交換処理法には、温水や酸性水溶液に浸漬することで基板表面のアルカリイオンを抜き出してより小さいHイオンに交換する脱アルカリ処理法等も含まれる。
【0023】
以下、引張応力層形成工程において用いられる各処理法について詳述する。
【0024】
(イオン交換処理法)
イオン交換処理法は、主として、ガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンのイオン半径よりもイオン半径が小さいイオンを含有する処理液に前記ガラス基板を浸漬させる工程である。前記イオンは、ガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンの中で最も小さいアルカリ金属イオンのイオン半径と同じイオン半径であるイオンでもよい。このイオン半径は、化学便覧等の刊行物に記載されているように、イオンによって一義的に確定される各元素固有の物理定数である。
【0025】
このイオン交換処理法に含まれる引張応力層形成工程は、公知のイオン交換処理法を用いることができる。また、処理液としては、加熱した溶融塩を用いることができる。また、溶融塩は、アルカリ金属元素を含有する硝酸塩、例えば、硝酸リチウムなどを含有する硝酸塩を用いることが好適である。硝酸塩に含有されるリチウム元素は、硝酸塩中に含まれるアルカリ元素総量に対し、50atomic%以上とすることが好適であり、より好ましくは70atomic%以上、さらに好ましくは95atomic%以上である。
【0026】
イオン交換処理法としては、低温型イオン交換処理法、高温型イオン交換処理法、表面結晶化法、ガラス表面の脱アルカリ法等を用いることができるが、ガラスの徐冷点を超えない温度領域でイオン交換を行える点から、低温型イオン交換処理法を用いることが好ましい。
【0027】
なお、ここでいう低温型イオン交換処理法は、ガラスの徐冷点以下の温度領域において、ガラス中のアルカリ金属イオンをこのアルカリ金属イオンよりもイオン半径の小さいアルカリ金属イオンと置換し、ガラス表層に引張応力を発生させる方法である。
【0028】
また、イオン交換処理法において、処理液にガラス基板を浸漬させる時間は、特に限定されないが、1時間乃至数10時間とすることが好ましい。
【0029】
なお、ガラス基板を溶融塩に接触させる前に、予備加熱として、ガラス基板を100℃乃至450℃に加熱しておくことが好ましい。
【0030】
そして、化学強化処理を行なうときの溶融塩の加熱温度は、イオン交換が良好に行われるという観点等から、280℃乃至660℃、特に、300℃乃至450℃であることが好ましい。
【0031】
イオン交換処理法を行うためのイオン交換槽の材料としては、耐食性に優れるとともに、低発塵性の材料であれば、特に限定されない。また、溶融塩は酸化性があり、かつ、処理温度が高温であることから、耐食性に優れた材料を選定することにより、損傷や発塵を抑制し、もって、サーマルアスペリティ障害や、ヘッドクラッシュを抑制する必要がある。従って、イオン交換槽の材料としては、石英材が特に好ましいが、ステンレス材や、特に耐食性に優れるマルテンサイト系、オーステナイト系ステンレス材を用いることができる。
【0032】
以下に上述したイオン交換処理法の一種である脱アルカリ処理法について詳述する。
【0033】
〈脱アルカリ処理法〉
脱アルカリ処理法によるガラス基板の引張応力層形成は、温水や酸性水溶液(例えば塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、又は塩酸と硝酸の混酸等)にガラス基板を浸漬することで行われる。具体的には、50〜99℃の温水中に5分〜10時間程度浸漬する、又は、25℃〜99℃であって、pHが7より小さい酸性水溶液中に5秒〜3時間程度浸漬することで行われる。この脱アルカリ処理によって、ガラス基板表面のアルカリイオンを抜き出すことができ、アルカリイオンが抜き出たガラス基板に対して、前記アルカリイオンよりイオン半径の小さいHイオンが入ることでガラス基板表面に引張応力層が形成されることになる。
【0034】
(熱処理)
熱処理による引張応力層形成は、ガラス表層が内部よりも高温になるように電気炉やレーザーパルス等でガラス表層を均質に加熱することで行われる。ガラス基板の表層及び内部に強制的に温度差を発生させた際に生じた熱収縮の差により、ガラス基板表層に引張応力を、内部に圧縮応力を形成させることができる。なお、ガラス基板表面における引張応力層は、ガラス基板表層を歪み点以上の温度域まで加熱することによって得ることができる。
【0035】
以上のような引張応力形成工程を経ることによって、ガラス基板表面に引張応力を有する引張応力層を備えることができる。この引張応力層の厚みについては、特に限定されないが、後述する研削工程により研削される取り代及び研磨工程によって研磨される取り代よりも小さいことが好ましい。引張応力層の厚みが前記取り代より小さいと、引張応力層除去後にガラス基板内部が表面に出現することで、基板の表面硬度を向上させることができる。これは、引張応力層を形成する際にガラス基板全体に均衡な応力状態を保つべく内部に圧縮応力が形成されていて、その圧縮応力層部分が基板表面に出現するためであると推測される。
【0036】
また、引張応力層形成工程において形成された引張応力層の応力は、0.1〜15kg/mmであることが好ましく、0.5〜10kg/mmであることがより好ましい。前記応力が0.1kg/mより小さいと、その後の研削工程又は研磨工程における加工レートを向上させる効果が十分に得られない場合がある。また、15kg/mmより大きいと、加工中にガラス基板の割れが多発し、ガラス基板の歩留まりが低下するおそれがある。
【0037】
<圧縮応力層形成工程>
イオン交換処理法に含まれる圧縮応力層形成工程についても、前述したように、ガラス基板と化学強化処理液とを始めに接触させる圧縮応力層形成工程においては、ガラス基板に含まれるイオンのイオン半径よりもイオン半径が大きいイオンを含有する処理液とガラス基板とを接触させて、イオン交換させる。この圧縮応力層形成工程については、ガラス基板に含まれるイオンのイオン半径よりも大きいイオンを含有する処理液を用いる点以外は、前述した引張応力層形成工程と同様のイオン交換処理法を用いることができる。
【0038】
処理液としては、アルカリ金属元素を含有する硝酸塩、例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウムなどを含有する硝酸塩を用いることが好適である。
【0039】
以上のように、引張応力層形成工程の前に圧縮応力層形成工程を備えることによって、
圧縮応力層を引張応力層よりも深く形成するため、その後引張応力層を高加工レートで除去することが可能となり、さらに基板表面に圧縮応力層が出現することで表面硬度の高いガラス基板を得ることができる。
【0040】
また、例えば、図1(b)に示されているように、前記引張応力層形成処理及び圧縮応力層形成工程は、研磨工程の前に備えられればよく、研磨工程の前であれば、研削工程の前であってもよい。また、引張応力層形成処理を施した後に、粗研磨工程行い、その後に圧縮応力層形成処理を行ってもよい。
【0041】
<円盤加工工程>
円盤加工工程は、所定の組成のガラス素材から板状に成形したガラス素板から、図2に示すように、内周及び外周が同心円となるように、中心部に貫通孔10aが形成された円盤状のガラス素板10に加工する工程である。具体的には、例えば、以下のようにして加工する。まず、板状に成形したガラス素板であって、そのガラス組成が、後述する組成であって、その厚み0.95mmであるガラス素板を所定の大きさの四角形に切断する。
【0042】
そして、その切断されたガラス素板の一方の表面に、ガラスカッターにて上述した内周及び外周を形成するように円形の切り筋を形成する。そして、この切り筋を形成したガラス素板を、その切り筋を形成させた側の表面から加熱する。そうすることによって、前記切り筋が、ガラス素板の他方の表面に向かって深くなる。そして、内周及び外周が同心円となるように、中心部に貫通孔10aが形成された円盤状のガラス素板10に加工される。
【0043】
この円盤加工工程で、例えば、外径r1が2.5インチ(約64mm)、1.8インチ(約46mm)、1インチ(約25mm)、0.8インチ(約20mm)等で、厚みが2mm、1mm、0.63mm等の円盤状のガラス素板に加工される。また、外径r1が2.5インチ(約64mm)のときは、内径r2が0.8インチ(約20mm)等に加工される。なお、図2は、本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造される磁気情報記録媒体用ガラス基板を示す上面図である。
【0044】
また、板状に成形したガラス素板は、その製造方法は特に限定されないが、例えば、フロート法により製造されたもの等が挙げられる。フロート法とは、例えば、ガラス素材を溶融させた溶融液を、溶融したスズの上に流し、そのまま固化させる方法である。得られたガラス素板は、一方の面がガラスの自由表面であり、他方の面が、ガラスとスズとの界面であるため、平滑性の高い、例えば、算術平均粗さRaが0.001μm以下の鏡面を備えたものとなる。そして、その厚みとしては、例えば、0.95mmのものが挙げられる。なお、ガラス素板やガラス基板の表面粗さ、例えばRaは、一般的な表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
【0045】
<ラッピング工程>
ラッピング工程は、前記ガラス素板を所定の板厚に加工する工程である。具体的には、ガラス素板の両面を研削(ラッピング)加工する工程等が挙げられる。このように加工することによって、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを調整することができる。また、このラッピング工程は、1回であってもよいし、2回以上であってもよい。例えば、2回行う場合、1回目のラッピング工程(第1ラッピング工程)で、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを予備調整し、2回目のラッピング工程(第2ラッピング工程)で、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを微調整することが可能となる。
【0046】
より具体的には、前記第1ラッピング工程としては、ガラス素板の表面全体が略均一の表面粗さとなるようにする工程等が挙げられる。その際、例えば、ガラス素板の算術平均粗さRaを複数個所測定した際に、得られたRaの最小値と最大値との差が0.01〜0.4μm程度にすることが好ましい。
【0047】
また、前記第2ラッピング工程としては、粗面化されたガラス基板の主表面を、さらに固定砥粒研磨パッドを用いて研削する行程等が挙げられる。この第2ラッピング工程においては、例えば、粗面化されたガラス基板をラッピング装置にセットし、ダイヤモンドタイル(Diamond Tile)のような表面模様付きの三次元固定研磨物を用いることで、ガラス基板の表面をラッピングすることができる。
【0048】
前記第2ラッピング行程を施すと、後述する粗研磨行程にて行われる研磨を効率良く行うことができる。また、第2ラッピング行程によって施された研磨工程に用いるガラス素板ガラス素板の表面粗さRaは0.10μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。
【0049】
<粗研磨工程>
前記粗研磨工程(1次研磨工程)は、前記ラッピング工程が施されたガラス素板の表面に粗研磨を施す工程である。この粗研磨は、上述したラッピング工程で残留した傷や歪みの除去を目的とするもので、下記の研磨方法を用いて実施する。
【0050】
なお、前記粗研磨工程で研磨する表面は、主表面である。主面とは、ガラス素板の面方向に平行な面である。
【0051】
粗研磨工程で用いる研磨装置は、ガラス基板の製造に用いる研磨装置であれば、特に限定されない。具体的には、図3に示すような研磨装置1が挙げられる。なお、図3は、本実施形態に係る磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における粗研磨工程や精密研磨工程で用いる研磨装置1の一例を示す概略断面図である。
【0052】
図3に示すような研磨装置11は、両面同時研磨可能な装置である。また、この研磨装置11は、装置本体部11aと、装置本体部11aに研磨液を供給する研磨液供給部11bとを備えている。
【0053】
装置本体部11aは、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13とを備えており、それらが互いに平行になるように上下に間隔を隔てて配置されている。そして、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13とが、互いに逆方向に回転する。
【0054】
この円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13との対向するそれぞれの面にガラス素板10の表裏の両面を研磨するための研磨パッド15が貼り付けられている。この粗研磨工程で使用する研磨パッド15は、粗研磨工程で用いられる研磨パッドであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ポリウレタン製の硬質研磨パッド等が挙げられる。
【0055】
また、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13との間には、回転可能な複数のキャリア14が設けられている。このキャリア14は、複数の素板保持用孔51が設けられており、この素板保持用孔51にガラス素板10をはめ込んで配置することができる。キャリア14としては、例えば、素板保持用孔51を100個有していて、100枚のガラス素板10をはめ込んで配置できるように構成されていてもよい。そうすると、一回の処理(1バッチ)で100枚のガラス素板10を処理できる。
【0056】
研磨パッドを介して定盤12、13に挟まれているキャリア14は、複数のガラス素板10を保持した状態で、自転しながら定盤12,13の回転中心に対して下定盤13と同じ方向に公転する。なお、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13とは、別駆動で動作することができる。このように動作している研磨装置11において、研磨スラリー16を上定盤12とガラス素板10との間、及び下定盤13とガラス素板10との間、夫々に供給することでガラス素板10の粗研磨を行うことができる。
【0057】
研磨スラリー供給部11bは、液貯留部110と液回収部120とを備えている。液貯留部110は、液貯留部本体110aと、液貯留部本体110aから装置本体部11aに延ばされた吐出口110eを有する液供給管110bとを備えている。液回収部120は、液回収部本体120aと、液回収部本体120aから装置本体部11aに延ばされた液回収管120bと、液回収部本体120aから研磨スラリー供給部11bに延ばされた液戻し管120cとを備えている。
【0058】
そして、液貯留部本体110aに入れられた研磨スラリー7は、液供給管110bの吐出口110eから装置本体部11aに供給され、装置本体部11aから液回収管120bを介して液回収部本体120aに回収される。また、回収された研磨スラリー16は、液戻し管120cを介して液貯留部110に戻され、再度、装置本体部11aに供給可能とされている。
【0059】
ここで用いる研磨液16は、研磨剤を水に分散させた状態の液体、すなわち、スラリー液である。
【0060】
また、ここで用いる研磨パッド15は、ウレタンやポリエステル等の合成樹脂の発泡体に、酸化セリウム研磨剤を含有させたものである。
【0061】
次に、化学強化工程の前に行われる研磨工程において用いられる研磨剤が、CeOの含有量が多く、アルカリ土類金属の少ないものを用いることによって、研磨速度を高め、研磨後のガラス素板の平滑性を充分に高めることができると考えられる。また、研磨パッドについても、前記研磨剤の場合と同様に、CeOの含有量が多く、アルカリ土類金属の少ないものを用いることによって、研磨速度を高め、研磨後のガラス素板の平滑性を充分に高めることができると考えられる。
【0062】
CeOの含有量が多い研磨剤を用いると、研磨速度を高め、研磨後のガラス素板の平滑性を充分に高めることができる理由としては、以下のような理由によると考えられる。まず、研磨の際にガラス素板の表面に圧力が加わった状態で、ガラス素板とCeOとが接触すると、ガラス素板の表面で主な組成であるSi−Oの結合が、Ce−Oの結合に置き換わると考えられる。そして、この結合は、容易に分解するが、Siとの結合が再度形成されにくいと考えられる。よって、CeOの含有量が多い研磨剤を用いると、研磨速度を高め、研磨後のガラス素板の平滑性を充分に高めることができると考えられる。
【0063】
そして、このようなCeOの含有量が多い研磨剤及び研磨パッドであって、アルカリ土類金属の少ないものを用いることによって、平滑性を充分に高めることができるだけではなく、研磨後のガラス素板に対するアルカリ土類金属の付着が抑制されると考えられる。このようなアルカリ土類金属の付着が抑制されたガラス素板に対して、化学強化工程を施すことによって、均一な化学強化がなされると考えられる。
【0064】
なお、前記研磨剤を水に分散させた状態の研磨液を用いて研磨する際、前記水にアルカリ土類金属が含有されていても、アルカリ土類金属が溶解しているため、ガラス素板の表面に付着しにくく、研磨剤に含まれるアルカリ土類金属が、ガラス素板の表面に付着しやすいと考えられる。よって、アルカリ土類金属の少ない研磨剤を用いることによって、研磨後のガラス素板に対するアルカリ土類金属の付着を充分に抑制できると考えられる。
【0065】
また、CeOの含有量は、高ければ高いほど好ましい。すなわち、研磨剤に含有する希土類酸化物が、全てCeOであることが好ましい。このことは、CeOがガラス素板の研磨性に最も影響することによると考えられる。また、アルカリ土類金属の含有量は、低ければ低いほど好ましい。前記研磨剤に含まれるアルカリ土類金属が少なければ、アルカリ土類金属による化学強化工程の阻害が抑制されることによると考えられる。
【0066】
また、CeOの含有量が、前記研磨剤全量に対して、90質量%以上であることが好ましい。そうすることによって、耐衝撃性に優れた磁気情報記録媒体用ガラス基板を製造でき、さらに、研磨速度をより高めることができ、平滑性のより高い磁気情報記録媒体用ガラス基板を製造することができる。このことは、化学強化工程を阻害しうるアルカリ土類金属の含有量が少なく、さらに、研磨性を高めるCeOの含有量が、研磨剤に含有される希土類酸化物に対して単に多いだけではなく、研磨剤全量に対しても多いことによると考えられる。
【0067】
また、前記研磨液は、前記研磨剤を水に分散させた状態のものであり、CeOの含有量が、前記研磨液全量に対して、3〜15質量%であることが好ましい。そうすることによって、耐衝撃性に優れた磁気情報記録媒体用ガラス基板を製造でき、さらに、研磨速度をより高めることができ、平滑性のより高い磁気情報記録媒体用ガラス基板を製造することができる。また、前記研磨剤を水に分散させた状態の研磨液の場合、上述したように、前記水にアルカリ土類金属が含有されていても、アルカリ土類金属が溶解しているため、ガラス素板の表面に付着しにくく、研磨剤に含まれるアルカリ土類金属が、ガラス素板の表面に付着しやすいと考えられる。よって、前記研磨剤として、アルカリ土類金属の少ないものを用いることによって、研磨後のガラス素板に対するアルカリ土類金属の付着を充分に抑制できると考えられる。
【0068】
また、前記研磨剤が、レーザ回折散乱法で測定された粒度分布における最大値が3.5μm以下であり、レーザ回折散乱法で測定された粒度分布における累積50体積%径D50が0.4〜1.6μmであることが好ましい。
【0069】
前記研磨剤の粒径が小さすぎると、研磨速度が低下する傾向がある。前記研磨剤の粒径が大きすぎると、研磨によってガラス素板上に形成されうる傷が発生しやすくなる。
【0070】
なお、レーザ回折散乱法で測定された粒度分布における最大値とは、レーザ回折式粒度分布測定装置にて測定して得られる粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブの最大値となる点の粒子径を意味する。また、D50とは、レーザ回折式粒度分布測定装置にて測定して得られる粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブが50%となる点の粒子径を意味する。
【0071】
また、前記研磨液16としては、粗研磨工程では、フッ素含有量が5質量%以下であることが好ましい。
【0072】
また、前記研磨パッド15は、酸化セリウムの他に、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化アルミニウム、炭化ケイ素又は二酸化ケイ素を含有させることができ、これらのなかでもケイ酸ジルコニウムを含有させることがより好ましい。
【0073】
前記研磨パッドにおける酸化セリウムの配合量は、研磨パッド全量に対して10〜30質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。
【0074】
本実施形態に係る研磨パッドは、例えば以下のような方法において製造される。
【0075】
まず、樹脂溶液と砥粒とを混合して、砥粒分散液を製造する。次に、成形型を使用して該砥粒分散液を硬化させ、内部及び表面に砥粒を固定した板状のブロックを成形させる。続いて、該ブロックを成形型から取り出した後、ブロックの両面を研削し所定の厚さに加工する。
【0076】
そして、より好適には、まず、樹脂溶液と砥粒とを混合し、この混合液を減圧して脱泡して、無泡砥粒分散液を製造する。次に、成形型を使用して該無泡砥粒分散液を硬化させ、無発泡体の内部及び表面に砥粒を固定した板状のブロックを成形させる。続いて、該ブロックを成形型から取り出した後、ブロックの両面を研削し、所定の厚さに加工する。
【0077】
<端面研磨工程>
本実施の形態では、主表面の研磨について詳細に説明されているが、端面についても従来用いられている方法を用いて研磨されることが好ましい。端面の研磨方法としては、例えば研磨ブラシ及び研磨剤(粒子)を用いた研磨方法等が一般的に用いられている。
【0078】
端面とは内周端面と外周端面とからなる面のことである。また、内周端面とは、内周側の、ガラス素板の面方向に垂直な面及びガラス素板の面方向に対して傾斜を有する面である。また、外周端面とは、外周側の、ガラス素板の面方向に垂直な面及びガラス素板の面方向に対して傾斜を有する面である。
【0079】
<精密研磨工程(2次研磨工程)>
精密研磨工程は、前記粗研磨工程で得られた平坦平滑な主表面を維持しつつ、例えば、主表面の表面粗さ(Rmax)が6nm程度以下である平滑な鏡面に仕上げる鏡面研磨処理である、この精密研磨工程は、例えば、上記粗研磨工程で使用したものと同様の研磨装置を用い、研磨パッドを硬質研磨パッドから軟質研磨パッドに取り替えて行われる。なお、前記精密研磨工程で研磨する表面は、前記粗研磨工程で研磨する表面と同様、主表面である。
【0080】
また、精密研磨工程で用いる研磨剤としては、粗研磨工程で用いた研磨剤より、研磨性が低くても、傷の発生がより少なくなる研磨剤が用いられる。具体的には、例えば、粗研磨工程で用いた研磨剤より、粒子径が低いシリカ系の砥粒(コロイダルシリカ)を含む研磨剤等が挙げられる。このシリカ系の砥粒の平均粒子径としては、20nm程度であることが好ましい。そして、前記研磨剤を含む研磨スラリー液をガラス素板に供給し、研磨パッドとガラス素板とを相対的に摺動させて、ガラス素板の表面を鏡面研磨する。
【0081】
<洗浄工程>
前記洗浄工程は、前記粗研磨工程が施されたガラス素板を洗浄する工程である。
【0082】
前記粗研磨工程による粗研磨後のガラス素板は、洗浄工程によって洗浄することが好ましい。洗浄工程としては、特に限定されない。具体的には、例えば、以下のような洗浄工程が挙げられる。
【0083】
まず、pH13以上のアルカリ洗剤を用いて、ガラス素板の洗浄を行い、ガラス素板にリンスを行う。次に、pH1以下の酸系洗剤を用いて、ガラス素板の洗浄を行い、ガラス素板にリンスを行う。最後に、フッ化水素酸(HF)溶液を用いて、ガラス素板の洗浄を行う。酸化セリウムに関しては、アルカリ洗浄、酸洗浄、HF洗浄の順で洗浄を行うことが最も効率的である。これは、まずアルカリ洗剤で研磨材を分散除去し、次に酸洗剤で研磨材を溶解除去し、最後に、HFによってガラス素板をエッチングし、ガラス素板に深く刺さっている研磨材を除去するのである。
【0084】
前記洗浄工程は、アルカリ洗浄、酸洗浄、HF洗浄において、それぞれ別の槽で行うことが好ましい。これらの洗浄を単一の槽で行った場合には、効率的な洗浄ができない場合があるからである。特に、酸洗剤とHFを同一槽に入れた場合、HFのエッチング速度は、研磨材の多い場所で低下するため、基板内を均一にエッチングできなくなる傾向があるからである。また、各洗浄の後にリンス槽を用いることが好ましい。これらの洗剤には、場合によって界面活性剤、分散材、キレート剤、還元材などを添加しても良い。また、各洗浄槽には、超音波を印加し、それぞれの洗剤には脱気水を使用することが好ましい。
【0085】
また、他の方法としては、まず、HFが1質量%、硫酸が3質量%の洗浄液にガラス素板を浸漬させる。その際、その洗浄液に、80kHzの超音波振動を印加させる。その後、ガラス素板を取り出す。そして、取り出したガラス素板を中性洗剤液に浸漬させる。その際、その中性洗剤液に、120kHzの超音波振動を印加させる。最後に、ガラス素板を取り出し、純水でリンスを行い、IPA乾燥させる。
【0086】
また、前記洗浄工程後のガラス素板は、その表面に残存したアルカリ土類金属が、10ng/cm以下であることが好ましく、5ng/cm以下であることがより好ましい。そうすることによって、耐衝撃性により優れたハードディスク用ガラス基板を得ることができる。このことは、化学強化工程を施すガラス素板の表面に、化学強化工程を阻害しうるアルカリ土類金属の付着量が少ないことによると考えられる。よって、化学強化がガラス素板全面に均一に起こり、耐衝撃性により優れたハードディスク用ガラス基板を得ることができると考えられる。すなわち、記洗浄工程後のガラス素板の表面に残存したアルカリ土類金属が多すぎると、化学強化工程が好適に行われずに、得られたガラス基板の耐衝撃性を充分に高めることができない場合がある。
【0087】
また、前記洗浄工程後のガラス素板の表面に残存したアルカリ土類金属は、少なければ少ないほど好ましいものである。このことは、前記化学強化工程の前に、前記研磨工程で研磨されたガラス素板の表面に残存したアルカリ土類金属が、化学強化工程を阻害し、均一な化学強化を阻害すると考えられるからである。そして、本実施形態においては、前記洗浄工程後のガラス素板の表面に残存したアルカリ土類金属が、少なければ少ないほど好ましく、その量10ng/cm以下であれば、耐衝撃性により優れたハードディスク用ガラス基板を製造することができることを見出したものである。
【0088】
また、この粗研磨後のガラス素板の洗浄は、ガラス素板表面の酸化セリウム量が0.125ng/cm以下となるように行なわれる。ガラス素板表面の酸化セリウム量が多すぎると、ガラス素板の平坦度を良好にできない傾向がある。
【0089】
<成膜工程>
図4は、本実施形態に係る製造方法により製造された磁気情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを示す一部断面斜視図である。この磁気ディスクDは、円形の磁気情報記録媒体用ガラス基板101の主表面に形成された磁性膜102を備えている。磁性膜102の形成には、公知の常套手段による形成方法が用いられる。例えば、磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を磁気情報記録媒体用ガラス基板101上にスピンコートすることによって磁性膜102を形成する形成方法(スピンコート法)や、磁気情報記録媒体用ガラス基板101上にスパッタリングによって磁性膜102を形成する形成方法(スパッタリング法)や、磁気情報記録媒体用ガラス基板101上に無電解めっきによって磁性膜102を形成する形成方法(無電解めっき法)等が挙げられる。
【0090】
磁性膜102の膜厚は、スピンコート法による場合では、約0.3〜1.2μm程度であり、スパッタリング法による場合では、約0.04〜0.08μm程度であり、無電解めっき法による場合では、約0.05〜0.1μm程度である。薄膜化および高密度化の観点から、スパッタリング法による膜形成が好ましく、また、無電解めっき法による膜形成が好ましい。
【0091】
磁性膜102に用いる磁性材料は、公知の任意の材料を用いることができ、特に限定されない。磁性材料は、例えば、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金等が好ましい。より具体的には、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPt、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiO等が挙げられる。
【0092】
磁性膜102は、ノイズの低減を図るために、非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrV等)で分割された多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTa等)であってもよい。磁性膜102に用いる磁性材料は、上記磁性材料の他、フェライト系や鉄−希土類系であってもよく、また、SiO、BN等からなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子を分散した構造のグラニュラー等であってもよい。また、磁性膜102への記録には、内面型および垂直型のいずれかの記録形式が用いられてよい。
【0093】
また、磁気ヘッドの滑りをよくするために、磁性膜102の表面には、潤滑剤が薄くコーティングされてもよい。潤滑剤として、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0094】
さらに必要により磁性膜102に対し下地層や保護層が設けられてもよい。磁気ディスクDにおける下地層は、磁性膜102に応じて適宜に選択される。下地層の材料として、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Ni等の非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。例えば、Coを主成分とする磁性膜102の場合には、下地層の材料は、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。
【0095】
また、下地層は、単層とは限らず、同一または異種の層を積層した複数層構造であってもよい。このような複数層構造の下地層は、例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層が挙げられる。磁性膜102の摩耗や腐食を防止する保護層として、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層等が挙げられる。これら保護層は、下地層および磁性膜102と共にインライン型スパッタ装置で連続して形成することができる。また、これら保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一または異種の層からなる複数層構成であってもよい。
【0096】
なお、上記保護層上に、あるいは、上記保護層に代えて、他の保護層が形成されてもよい。例えば、上記保護層に代えて、Cr層の上にSiO層が形成されてもよい。このようなSiO層は、Cr層の上にテトラアルコキシシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成することによって形成される。
【0097】
このような本実施形態における磁気情報記録媒体用ガラス基板101を基体とした磁気記録媒体は、磁気情報記録媒体用ガラス基板101が上述した組成により形成されるので、情報の記録再生を長期に亘り高い信頼性で行うことができる。
【0098】
なお、上述では、本実施形態における磁気情報記録媒体用ガラス基板101を磁気記録媒体に用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、本実施形態における磁気情報記録媒体用ガラス基板101は、光磁気ディスクや光ディスク等にも用いることが可能である。
【実施例】
【0099】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
まず、磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造に用いられる一般的なガラス基板を用意した。そして、公知の方法により、円盤加工工程、ラッピング工程、粗研磨工程(1次研磨工程)、圧縮応力層形成工程(任意)、引張応力層形成工程、精密研磨工程(2次研磨工程)、洗浄工程を施した。
【0101】
表1〜3に、以下に説明する工程順序I〜工程順序VIIから工程を選択し、圧縮応力層及び/又は引張応力層の厚み(μm)を変えて形成させ、さらに研削工程及び/又は研磨工程において加工した際の取り代、及び加工時間を調整して磁気情報記録媒体用ガラス基板を製造した。なお、下記表中の(−)とは、圧縮応力層形成工程、又は引張応力層形成工程を施さなかったことを示すものである。
【0102】
表1〜4の実施例1〜11、比較例1〜10は、引張応力層形成工程としてイオン交換処理法を用いた。また、表3の実施例12は引張応力層形成工程として脱アルカリ処理法を、実施例13は熱処理法を用いた。
【0103】
また、表1,4,5は、その表内に記載されているように、取り代は粗研磨工程によるもの、加工時間はその粗研磨工程にかかった時間を記載している。同様に、表2の取り代及び加工時間は精密研磨工程によって得られたもの、表3の取り代及び加工時間は研削工程によって得られたものを記載している。
【0104】
〈工程順序〉
(工程順序I):円盤加工工程→ラッピング工程→圧縮応力層形成工程(任意)→引張応力層形成工程→粗研磨工程→精密研磨工程→洗浄工程
(工程順序II):円盤加工工程→ラッピング工程→粗研磨工程→圧縮応力層形成工程(任意)→引張応力層形成工程→精密研磨工程→洗浄工程
(工程順序III):円盤加工工程→圧縮応力層形成工程(任意)→引張応力層形成工程→ラッピング工程→粗研磨工程→精密研磨工程→洗浄工程
(工程順序IV):円盤加工工程→ラッピング工程→引張応力層形成工程→粗研磨工程→圧縮応力層形成工程→精密研磨工程→洗浄工程
(工程順序V):円盤加工工程→引張応力層形成工程→ラッピング工程→粗研磨工程→圧縮応力層形成工程→精密研磨工程→洗浄工程
(工程順序VI):円盤加工工程→引張応力層形成工程→ラッピング工程→圧縮応力層形成工程→粗研磨工程→精密研磨工程→洗浄工程
(工程順序VII):円盤加工工程→ラッピング工程→粗研磨工程→精密研磨工程→引張応力層形成工程→圧縮応力層形成工程(任意)→洗浄工程
【0105】
(引張応力層および圧縮応力層の厚み測定)
ガラス基板の断面をSEM−EDXにて基板表面から深さ方向のアルカリ量の変化を観察することで確認した。SEMはFE(電界放出)型のS−4800、EDXはHORIBA EX−250を用いた。
【0106】
(硬度)
表面硬度(kg/mm)はビッカース硬度計(ミツトヨ社製)を用いて確認した。
【0107】
(微小うねり)
微小うねりμWaは、「Zygo Corporation」の非接触表面形状測定機(New View 5000)を用いて測定した。微小うねりμWaとは、光学的な干渉(ニュートンリング)によって測定され、基準平面と実際の平面とのずれ量を干渉縞として計測する。測定原理は、基板の表面に白色光を照射し、位相の異なる参照光と測定光の干渉の強度変化を測定することで、表面の微妙な形状変化を測定する方法である。得られた測定データから、30〜200μmの周期の凹凸を抽出した表面うねり高さの平均値を微小うねりμWaと定義する。
【0108】
【表1】

【0109】
表1から明らかなように、引張応力層を形成させた実施例1〜6は、引張応力層を形成させなかった比較例1,2に比べて粗研磨の加工時間が短かった。すなわち引張応力層を形成させると研磨レートが向上することが分かった。さらに、実施例1〜4については、引張応力層の厚みよりも研磨された取り代を大きくすると、取り代が引張応力層より小さい実施例5,6より硬度が高くなることが明らかとなり、特に、引張応力層を形成させる前に圧縮応力層を形成させるとさらに硬度が高くなることが明らかとなった。
【0110】
また、引張応力層形成工程を引張応力層形成工程よりも後に施すと、加工レートが下がり、微小うねりが大きく残ってしまうことが分かった。
【0111】
【表2】

【0112】
表2の実施例7及び比較例6から明らかなように、引張応力層形成工程を粗研磨工程と精密研磨工程の間に施すと、加工レートが向上し、硬度も高くなった。
【0113】
【表3】

【0114】
表3からは、引張応力層形成工程をラッピング工程の前に施したとしても、その研削工程時間を短縮させることができることが分かった。表3の実施例9,10についても、前記同様、引張応力層を形成させる前に圧縮応力層を形成させると更に硬度が高くなることが明らかとなった。
【0115】
【表4】

【0116】
表4から明らかなように、ラッピング工程の後、すなわち粗研磨工程の前に引張応力層を形成さえると粗研磨の加工時間を短縮させることができた。
【0117】
【表5】

【0118】
表5の実施例12は引張応力層形成工程として脱アルカリ処理法を、実施例13は引張応力層形成工程とし熱処理法を用いたものであるが、イオン交換処理法を用いた実施例2と変わらない加工レート及び硬度を得られることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0119】
10 ガラス基板
11 研磨装置
12 上定盤
13 下定盤
16 ポンプ
101 磁気情報記録媒体用ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法において、ガラス基板表面に引張応力層を形成させる引張応力層形成工程を含み、
前記引張応力層形成工程は精密研磨工程の前に備えることを特徴とする磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記引張応力層形成工程は、ガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンの交換を行うイオン交換処理法を含み、
前記イオン交換処理法はガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンのイオン半径よりもイオン半径が小さいイオンを含有する処理液に前記ガラス基板を浸漬させ、ガラス基板表面に引張応力層を形成させることを特徴とする請求項1に記載の磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、前記引張応力層形成工程の前に、前記ガラス基板に含まれるアルカリ金属イオンのイオン半径よりもイオン半径が大きいイオンを含有する処理液に前記ガラス基板を浸漬させて、前記ガラス基板表面に圧縮応力層を形成させる圧縮応力層形成工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記引張応力層の厚みが、研削工程により研削される取り代及び研磨工程によって研磨される取り代よりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記引張応力層形成工程において形成された引張応力層の応力は、0.1〜15kg/mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−216251(P2012−216251A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79112(P2011−79112)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】