説明

磁気歯車減速機

【課題】減速機の軸方向への長さをコンパクトに保ちつつ、減速比を大きく取ることができ、且つ高い伝達トルク/体積重量を確保する。
【解決手段】入力軸102に設けられた偏心体112と、該偏心体112が嵌合され、該偏心体112により揺動回転すると共に、軸方向Oに磁極の対を有して交互に向きが異なる複数の磁気歯124B、126Bを自身の側面に備える複数の第1磁気歯車124、126と、該第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bの磁極の対の少なくとも一方と所定の空隙で該軸方向Oに対峙して磁気的噛合する磁気歯132B、134B、136Bを備えると共に、該第1磁気歯車124、126の歯数より僅少の差で歯数が多い複数の第2磁気歯車132、134、136と、前記第1磁気歯車124、126と前記第2磁気歯車132、134、136との相対回転成分を取出す出力軸154と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気を利用した歯車により非接触でトルクを伝達する磁気歯車減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機の主流は、インボリュートの平又ははす歯歯車を用い、その歯数比によって減速を行うものである。このような減速機は自動車をはじめ、あらゆる産業において広く用いられている。
【0003】
この種の減速機の問題点としては、減速機の歯車を構成する金属同士の接触に起因するものがほとんどである。それは、接触による振動・騒音の発生、歯車の寿命、及び潤滑油を必ず必要とすること、などである。
【0004】
これに対し、その問題を解決する1つの方法として減速機を用いず、モータと負荷をダイレクトで結合することが挙げられる。モータの回転速度を制御するドライバの性能が向上し、また、永久磁石を用いた小型のモータが製作可能となるなど技術的な進展があったこと、また、クリーンルームやクリーンな環境が必要である食品製造現場など従来の工場とは異なる環境の工場に設置するなど潤滑剤を使用する減速機の存在をなくしたいという環境側からの要請によるものである。
【0005】
しかし、モータドライバの低速回転における効率の問題や、価格の問題、またモータの小型化に限界がある点などにより、容易に置き換えができない事情も存在する。今後も今まで主流であった減速機が必要とされる領域が存在し、その領域はロボットなど装置の小型化が必然とされる分野では成長を続けていくと考えられる。
【0006】
こういった状況の中で、前記問題を解決するもう1つの方法として、金属の接触をなくし磁気による吸引・反発により減速機構を実現するための歯車及び歯車機構の使用が挙げられる。例えば、歯車の歯面に磁力を付加し、互いに反発する力により噛合する歯車同士の空隙を確保して、歯車同士を非接触にする特許文献1に示す磁気歯車が提案されている。また、対峙させた磁気歯を有する回転円板の磁気歯の比により、入力された回転を減速する特許文献2、3に示す磁気歯車が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特公平6−52096号公報
【特許文献2】特開平03−285556号公報
【特許文献3】特開2005−114162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示す磁気歯車では、単位体積又は単位重量あたりの伝達トルク(以下伝達トルク/体積重量)は小さくならざるを得ず、急激な負荷変動時には歯面が接触することがあり、また伝達トルクの脈動が発生し易いなどの構造的な欠陥が内在する。
【0009】
また、特許文献2、3に示す磁気歯車においては、減速比を大きくしようとすると磁気歯の噛合い面積が小さくなりすぎるために減速比を大きく取れず、また、伝達トルク/体積重量は、一般のインボリュート形状の歯形を用いた減速機の1/4から1/5になってしまうという問題が生じていた。更に、特許文献2、3に示す磁気歯車においては、永久磁石から形成された磁気歯を、回転運動を行う円板上(軸方向から見た面)に取り付けて支持する。このとき、円板に鋼材を採用して永久磁石単体よりも磁力を確保しようとすると、円板の厚みをある程度確保する必要があり、回転運動を行う磁気歯車は、軸方向に厚くなると共に、重量が増大することとなる。即ち、特許文献2、3に示す磁気歯車で減速機を構成した場合には、減速機は軸方向に長くなると共に、重量が増大することが予想される。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、減速機の軸方向への長さをコンパクトに保ちつつ、減速比を大きく取ることができ、且つ高い伝達トルク/体積重量を確保することの可能な磁気歯車減速機の構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、入力軸に設けられた偏心体と、該偏心体が嵌合され、該偏心体により揺動回転すると共に、軸方向に磁極の対を有して交互に向きが異なる複数の磁気歯を自身の側面に備える複数の第1磁気歯車と、該第1磁気歯車の磁気歯の磁極の対の少なくとも一方と所定の空隙で該軸方向に対峙して磁気的噛合する磁気歯を備えると共に、該第1磁気歯車の歯数より僅少の差で歯数が多い複数の第2磁気歯車と、前記第1磁気歯車と前記第2磁気歯車との相対回転成分を取出す出力軸と、を備えることにより前記課題を解決したものである。
【0012】
本発明によれば、第1磁気歯車の磁気歯が偏心体の回転により揺動回転し、第2磁気歯車の磁気歯と所定の空隙(非接触)で軸方向に対峙して磁気的噛合する。このとき、第1磁気歯車の磁気歯と第2磁気歯車の磁気歯とは、複数で互いに引き合うので、磁気歯の噛合面積を大きくすることができる。なお、急激な負荷変動により伝達トルクが過大となっても、第1磁気歯車と第2磁気歯車とは、軸方向に所定の空隙を有するように配置されているため接触することはなく、接触による互いの破損等を防止することが可能である。
【0013】
又、第1磁気歯車の磁気歯は、第1磁気歯車の側面に備えられているので、第1磁気歯車の軸方向から見た面上に磁気歯が取り付けられている場合に比べて、第1磁気歯車を軽く、且つ厚みを薄くすることができる。
【0014】
又、減速比は、第1磁気歯車の歯数に対する第2磁気歯車と第1磁気歯車歯数との歯数の僅少の差で定まるので、一段で高い減速比を実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁気歯車減速機の軸方向の長さをコンパクトに保ちつつ、磁気歯の噛合面積を増やすことができ、高い伝達トルク/体積重量を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の例を詳細に説明する。
【0017】
図1は本実施形態に係る磁気歯車減速を模式的に示す断面図、図2は偏心体を模式的に示す断面図及び正面図、図3は図1のIII部分の第1磁気歯車と第2磁気歯車の関係を模式的に示す断面図、図4は第1磁気歯車全体を模式的に示す正面図及び磁気歯部分を模式的に示す拡大正面図、図5は第1及び第2磁気歯車の噛合状態を表すスケルトン図、である。
【0018】
最初に、本実施形態の磁気歯車減速機の構成について、図1から図5を用いて説明する。
【0019】
磁気歯車減速機100は、図1に示す如く、偏心体112と、2つの第1磁気歯車124、126と、3つの第2磁気歯車132、134、136と、出力軸154と、を備える。偏心体112は、入力軸102に設けられている。第1磁気歯車124、126は、偏心体112が嵌合され、偏心体112により揺動回転する。又、第1磁気歯車124、126は、軸方向Oに磁極の対を有して交互に向きが異なる複数の磁気歯124B、126Bを外周の側面に備えている。第2磁気歯車132、134、136は、磁気歯124B、126Bの磁極の対の両方と、所定の空隙S(図3参照)で軸方向Oに対峙して磁気的噛合する磁気歯132B、134B、136Bを備えている。又、第2磁気歯車132、134、136は、ケーシングに固定されて第1磁気歯車124、126の歯数より僅少の差で歯数が多い。そして、出力軸154は、第1磁気歯車124、126の自転成分(第1磁気歯車124、126と第2磁気歯車132、134、136との相対回転成分)を取出している。なお、ケーシングは、ケーシング本体138と、入力段カバー140と、補助カバー142と、出力段カバー146と、から構成されて、ボルト孔162にボルトが挿通されることで固定される。
【0020】
なお、この実施形態における磁気的な噛合とは、第1磁気歯車124、126の外周の側面に備えられて、軸方向Oに磁極の対を有して交互に向きが異なる磁気歯124B、126Bが、所定の空隙(非接触)Sで、第2磁気歯車132、134、136を構成する磁気歯132B、134B、136Bと図1の軸方向Oで重なり磁気的に引き合う状態をいう。
【0021】
以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0022】
前記入力軸102は、図1に示す如く、一対の軸受104、106によって軸支されている。即ち、入力軸102は、軸受104を介して、ケーシングを構成する入力段カバー140に支持されている。又、入力軸102は、軸受106を介して、出力軸154と一体であるフランジ体152の内面に支持されている。軸受104、106は、例えば、玉軸受であり、潤滑油を内部に封止可能な構造を備えている。この構造は、他の軸受122、156、158も同一である。なお、入力段カバー140には補助カバー142がボルト144で固定されており、補助カバー142が軸受104を押えて、入力軸102が軸方向Oに動くのを防止している。又、組立て時に軸受106が入力軸102から脱落しないように、軸受106を入力軸102と挟み込んで、円板形状の押え板108がボルト110で入力軸102に止められている。
【0023】
前記偏心体112は、図1に示す如く、軸受104、106の間のキー構造102Aが設けられた入力軸102に、位置がずれないように取り付けられて固定されている。図2(A)に示す如く、偏心体112は、2つの偏心体部112A、112Bを備えて、偏心体部112A、112Bは、中心Cから、それぞれ最大偏心量eで逆方向に偏心している。このため、偏心体112は、軸受122を介して2つの第1磁気歯車124、126の回転位相をそれぞれ180度異ならせることができる。なお、偏心体112には、軸方向Oにおいて、2つの第1磁気歯車124、126の磁力による変位を防止して一定の間隔を保つために、偏心体部112A、112Bのそれぞれに凸部112AA、112BAが設けられている。更に、偏心体軸受止め板114、118が、複数のボルト116、120で偏心体112に止められている(図2(B)では3本のボルト120)。
【0024】
軸受122は、図1に示す如く、2つの第1磁気歯車124、126と偏心体112との間に配置される。このため、2つの第1磁気歯車124、126と偏心体112との間で発生するトルク伝達ロスである熱や振動・接触騒音などを低減することができる。又、軸受122は、前述の如く、潤滑油が封止可能な構造であるため、潤滑油の漏れを防止できる。なお、2つの軸受122を用いて第1磁気歯車124(126)と接しているのは、2つの軸受122を用いることにより、磁力によって生じる力による第1磁気歯車124(126)の軸方向Oへの位置変動を低減するためである。従って、軸受122は1つの第1磁気歯車124(126)に対して3つ以上並べても構わず、その場合には第1磁気歯車124(126)の位置変動をより低減することができる。
【0025】
前記第1磁気歯車124、126は、図3、図4(A)に示す如く、軸方向Oの厚みt2の円板形状の回転ヨーク124A、126Aとその外周の側面に配置される軸方向Oの厚みt1の磁気歯124B、126Bとを有する。なお、回転ヨーク124A、126Aへの磁気歯124B、126Bの取付けは、図4(B)に示す如く、例えば接着剤124C、126C等で行うことができる。
【0026】
回転ヨーク124A、126Aは、図1、図4(A)に示す如く、その中央部に偏心体孔125、127を有して、軸受122を介して、偏心体112の外周に嵌合されている。又、回転ヨーク124A、126Aは、その周辺部に貫通した4つのキャリアピン孔128、130を同一円周上に等間隔で有し、平行ローラ150が遊嵌される。なお、キャリアピン孔128、130の直径は、トルクを伝達するために、平行ローラ150の外径と偏心体112の最大偏心量eの2倍との和に等しい。
【0027】
磁気歯124B、126Bには、図3に示す如く、厚みt1で軸方向Oに磁極の対が形成されている。図4(A)に示すように、軸方向Oから第1磁気歯車124(126)を見たとき、一方の磁気歯124B(126B)がN極側であれば、その隣はS極側となるように磁気歯124B(126B)の磁極の対の向きが交互に変えられて回転ヨーク124A(126A)の外周の側面に合わせて配置される。即ち、第1磁気歯車124、126は、軸方向Oに磁極の対を有して交互に向きが異なる複数の磁気歯124B、126Bを、第1磁気歯車124、126自身の外周の側面に備えている。このため、永久磁石を用いた磁気歯124B、126Bの磁力を最大限に利用することができる。なお、第1磁気歯車124と第1磁気歯車126とは、偏心体112により回転位相が180度異なるために、図3に示す状態においては、第1磁気歯車124は磁気歯124Bの磁極の向きが軸方向Oで紙面左からN極、S極の順番となるが、第1磁気歯車126は磁気歯126Bの磁極の向きが軸方向Oで紙面左からS極、N極の順番となる。
【0028】
なお、図3に示す如く、回転ヨーク124A、126Aの厚みt2と磁気歯124B、126Bの厚みt1とは、同一なので、第1磁気歯車124、126は、磁気歯124B、126Bの軸方向Oの厚みt1で形成されていることとなる。ここで、回転ヨーク124A、126Aの厚みt2を、磁気歯124B、126Bの厚みt1よりも薄くすることは可能であり、この場合には、第1磁気歯車124、126をより軽くすることができ、第1磁気歯車124、126の慣性モーメントを小さくすることができる。但し、この場合においても、第1磁気歯車124、126の厚みは、磁気歯124B、126Bの厚みt1に律されるため、磁気歯124B、126Bの厚みt1と同一となる。本実施形態において、第1磁気歯車124、126の軸方向Oの厚みと磁気歯124B、126Bの軸方向Oの厚みt1とが同一という範囲は、第1磁気歯車124、126の軸方向Oの厚みが磁気歯124B、126Bの軸方向Oの厚みt1の2倍未満とする。2倍未満であれば、回転ヨークの軸方向Oから見る面上に、磁気歯を取り付けた磁気歯車と比べて、磁気的噛合と軸方向Oの厚みにおいて、本願の効果の優位性が明確となるからである。なお、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bの対の数は、本実施形態では例えば、20対とすることができる。
【0029】
前記第2磁気歯車132(134、136)は、図5に示す如く、それぞれ、円環状に並べられた磁気歯132B(134B、136B)から構成されている。そして、第2磁気歯車132、134、136は、図1に示す如く、それぞれ、ケーシングを構成する入力段カバー140と、ケーシング本体138と、出力段カバー146に固定されている。第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bは、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bと同様に、軸方向Oに磁極が形成されている。そして、第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bは、図1、図3、図5に示す如く、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bの両方の磁極と所定の空隙Sを有して軸方向Oに対峙している。
【0030】
ここで、所定の空隙Sとは、磁気歯車減速機100が動作した際に第1磁気歯車124、126と第2磁気歯車132、134、136とが接触しない最小の間隔を指す。なお、第2磁気歯車132、134、136は、図1、図5に示す如く、第1磁気歯車124、126の歯数より僅少の差で歯数が多いので、第2磁気歯車132、134、136の内径D2は、第1磁気歯車124、126の回転ヨーク124A、126Aの直径D1よりも大きくなる(D1<D2)。なお、本実施形態の磁気歯124B、126B、132B、134B、136Bで用いる永久磁石は、市販の量産されている角磁石で実現することができるため、容易に且つ低コストで第1磁気歯車124、126及び第2磁気歯車132、134、136を構成することができる。
【0031】
ここで、第2磁気歯車132は、磁気歯132Bの一方の磁極(図1上では左側)が入力段カバー140に固定され、第2磁気歯車134は、磁気歯134Bの磁極の対の向きとは垂直の面(図1上では上側あるいは下側)がケーシング本体138に固定され、第2磁気歯車136は、磁気歯136Bの一方の磁極(図1上では右側)が出力段カバー146に固定されている。即ち、ケーシング本体138に固定された第2磁気歯車134は、第1磁気歯車124、126と同様に磁気歯134Bの磁極の対の両方で、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bと磁気的噛合を構成する。このため、軸方向Oの厚みを増加させずに、磁気歯124B(126B)、134B間の噛合面積を増大させて、伝達トルクを大きくすることができる。
【0032】
第2磁気歯車132、134、136は、僅少の差(1乃至5)で第1磁気歯車124、126よりも歯数が多い、即ち、磁気歯132B、134B、136Bの対の数が磁気歯124B、126Bの対の数よりも多くなるように設定されている。例えば、磁気歯132B、134B、136Bの対の数の差を1に設定し、第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bで21対(N極側21とS極側21)とすると、1/20という大きな減速比が得られると共に、第1磁気歯車124、126と第2磁気歯車132、134、136の磁気的噛合も円滑に行うことができる。
【0033】
前記キャリアピン148が連結固定されているフランジ体152は、軸方向Oにおいて、入力軸102の反対側に配置されている。キャリアピン148にはパイプ状の平行ローラ150が挿嵌され、平行ローラ150は第1磁気歯車124、126のキャリアピン孔128、130に遊嵌されている。従ってキャリアピン148は、第2磁気歯車132、134、136と磁気的噛合する第1磁気歯車124、126の自転成分を取出す軸として機能する。
【0034】
前記出力軸154は、キャリアピン148と連結されたフランジ体152と一体であり、一対の軸受156、158を介して出力段カバー146によって支持されている。なお、出力段カバー146には、出力軸154が軸方向Oに動くのを規制するためのカラー160が設けられている。
【0035】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0036】
入力軸102を介して図示しない動力源から動力が伝達されると、入力軸102に取付け固定された偏心体112も偏心回転する。本実施形態では、偏心体112が最大に偏心している回転角度のときに、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bと第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bとが軸方向Oで最も重なるようにしている。このため、最大に偏心している回転角度のときに最も強力に磁気的噛合がなされる。作用的には偏心体112の偏心方向が第2磁気歯車132、134、136の円周方向に移動(偏心回転)することで、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bと第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bとが円周方向で順番に噛合していく。そして、第1磁気歯車124、126が1回転するたびに、第2磁気歯車132、134、136との噛合位置が順次ずれていくことになる。
【0037】
ここで、第2磁気歯車132、134、136はケーシングに固定されている。このため、偏心体112が揺動しながら1回転した段階で、第1磁気歯車124、126は、第2磁気歯車132、134、136との磁気歯の対の数の差、すなわち1対分だけ、偏心体112の回転方向と逆方向に回転する。このとき、各第1磁気歯車124、126の慣性モーメントは大きくなく、且つ、回転位相の異なる2つの第1磁気歯車124、126によって動バランスを保つことができる。このため、第1磁気歯車124、126の揺動運動がなされても振動や騒音を最小限に低減することができる。
【0038】
ここで、第1磁気歯車124、126と第2磁気歯車132、134、136との相対回転成分、すなわち第1磁気歯車124、126の自転成分が、キャリアピン孔128、130に遊嵌されたキャリアピン148及び平行ローラ150を介してフランジ体152に取出される。なお、第1磁気歯車124、126の揺動成分はキャリアピン孔128、130に対するキャリアピン148及び平行ローラ150の遊嵌によって吸収される。
【0039】
従って、入力軸102の回転は、(第1磁気歯車124、126と第2磁気歯車132、134、136との磁気歯の対の数の差)/(第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bの対の数)にまで減速されることとなる。本実施形態においては、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bの対の数は20、第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bの対の数は21、歯数の対の数の差は1であるので、減速比は、1/20である。このフランジ体152の減速された回転は、フランジ体152と一体に形成された出力軸154へと伝達され、図示しない負荷へ動力を伝達することとなる。
【0040】
ここで、図5に、第1磁気歯車124(126)の磁気歯124B(126B)の対の数が20対で、第2磁気歯車132(134、136)の磁気歯132B(134B、136B)の対の数が21対の場合における磁気的噛合状態を示す。第1磁気歯車124(126)においては、ハッチング部分の磁極をN極、白抜きの磁極をS極として、第2磁気歯車132(134、136)においては、ハッチング部分の磁極をS極、白抜きの磁極をN極としている。すなわち、白抜き部分の磁極、及びハッチング部分の磁極同士が重なるときに、強い磁気的噛合いが生じていることを示す。この図5から明らかなように、1/2を優に超える円周部分Aで相互の磁気歯124B(126B)、132B(134B、136B)が強固に噛合している。これは、第1磁気歯車124(126)がこの円周部分Aで第2磁気歯車132(134、136)側からの十分な噛合反力を得られていることを示している。
【0041】
このようにして、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bが偏心体112の回転により揺動回転し、第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bと所定の空隙(非接触)Sで軸方向Oに対峙して磁気的噛合する。このとき、第1磁気歯車124、126と第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bとは、複数で互いに引き合うので、磁気歯の噛合面積を大きくすることができる。なお、急激な負荷変動により伝達トルクが過大となっても、第1磁気歯車124、126と第2磁気歯車132、134、136とは、軸方向Oに所定の空隙Sを有するように配置されているため、接触することはなく、接触による互いの破損等を防止することが可能である。
【0042】
又、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bは、第1磁気歯車124、126の外周の側面に備えられているので、第1磁気歯車124、126の軸方向Oから見た面上に磁気歯が取り付けられている場合に比べて、第1磁気歯車124、126を軽く、且つ厚みを薄くすることができる。そして、第1磁気歯車124、126の軸方向Oの厚みが磁気歯124B、126Bの軸方向Oの厚みt1と同一であることにより、更に第1磁気歯車124、126を軽く、且つ厚みを薄くすることができる。即ち、磁気歯車減速機100を軽量で且つ軸方向Oの長さを短くすることができる。それと共に、第1磁気歯車124、126の慣性モーメントの増大を防止することができる。
【0043】
又、減速比は、第1磁気歯車124、126の歯数に対する第2磁気歯車132、134、136と第1磁気歯車歯数124、126との歯数の僅少の差(1乃至5)で定まるので、例えば、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bの対の数が20対で磁気歯の対の数の差(僅少の差)が1であるので、1/20という高い減速比を一段で実現することができる。
【0044】
又、2つの第1磁気歯車124、126をそれぞれ挟むように、軸方向Oの両側に第2磁気歯車132、134、136が配置されているので、第1磁気歯車124、126自身の外周の側面に備えられた磁気歯124B、126Bの磁極の対であるN極とS極の両方と第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bとが対峙して磁気的噛合が可能となる(磁気歯の両面の利用)ので、更に、磁気歯の噛合面積を飛躍的に増やすことができる。
【0045】
又、第1磁気歯車124、126と第2磁気歯車132、134、136とは、所定の空隙Sを有して(非接触)、入力軸102、出力軸154、偏心体112等の物理的に摺動する箇所に位置する軸受104、106、122、156、158が潤滑油封入可能とする構造であるので、磁気歯車減速機100の全体に潤滑油を注入する必要もなく、密閉するための頑強な材質や構造を不要とすることができる。このため、軽量化や低コスト化を容易に実現することが可能である。
【0046】
又、第1磁気歯車124、126は、2つからなるので、伝達トルクを分散できる。このため、大きなトルクを伝達する場合であっても、1つの第1磁気歯車124(126)で伝達すべきトルクは小さいので、第1磁気歯車124、126を薄く且つ軽く成形することができる。また、第1磁気歯車124、126は、それぞれ、回転位相が異なるので、第1磁気歯車124、126の慣性モーメントが小さいことと相まって、回転速度が高くなっても、動バランスが安定しており、回転によって生じる振動や騒音を最小限に防ぐことができる。
【0047】
又、本実施形態の磁気歯車減速機100は、金属の歯同士の接触がなく、磁気歯による噛合を行うので、次のような効果を併せて得ることができる。先ず、振動・騒音の発生が防止できるので高効率で、音の静かな減速機を実現することが可能である。また、金属疲労や磨耗などによる歯車の寿命もないので、メンテナンスフリーあるいはメンテナンスサイクルの長い減速機を実現することができる。更に、従来の機械的な歯車の噛合によって生じていた応力集中を低減できるので、従来必要とされた歯車の噛合のための局所的な高い剛性を必要とせず、磁気歯車減速機100の全体として構造を軽量・簡略化することができる。
【0048】
即ち、本発明においては、磁気歯車減速機100の軸方向Oの長さをコンパクトに保ちつつ、磁気歯の噛合面積を増やすことができるので、一般の減速機と伝達トルク/体積重量において同程度の値となる、高い伝達トルク/体積重量を確保することができる。
【0049】
本実施形態においては、入力軸102の偏心体112として、一般的な鋼製のものを用いているので、例えば、□200mm程度以上の大きさの磁気歯車減速機であった場合においても、本実施形態のように軸受104、106、122、156、158として潤滑油封入可能なものを使用して、密閉のための材質や構造を不要とすることができる。更に、例えば磁気歯車減速機が小型の場合においては、前述の軸受を自己潤滑性を有するプラスチック製として、潤滑油を全く使用しないこととすることもできる。
【0050】
又、本実施形態では、第1磁気歯車124、126の磁気歯124B、126Bの対の数が20対で、第2磁気歯車132、134、136の磁気歯132B、134B、136Bの対の数が21対であったが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
又、磁気歯車減速機100は、上記に限定されるものではなく、例えば、平行ローラ150を使用せずに、キャリアピン148だけをキャリアピン孔128、130に遊嵌させてもよいし、逆にプラスチック製等の軸受を適用してもよい。平行ローラ150がない場合には、より低コストとすることができ、軸受を用いる場合には、振動や騒音の更なる低減と高効率なトルク伝達が可能となる。
【0052】
又、本実施形態では、第2磁気歯車132、134、136の回転を規制して、第1磁気歯車124、126を揺動回転させて、第1磁気歯車124、126から相対回転成分を取出していたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1磁気歯車124、126の回転を規制して、第2磁気歯車132、134、136を揺動回転させて、第2磁気歯車132、134、136から相対回転成分を取出してもよい。
【0053】
又、本発明は、本実施形態のような第1磁気歯車124、126が2つで、第2磁気歯車132、134、136が3つに限定されるものではなく、第1磁気歯車と第2磁気歯車とが複数であればよい。例えば、第1磁気歯車が3つであるときには、回転位相を120度ずつずらすようにすることで、動バランスが改善され、より振動や騒音を低減することができる。なお、1つの第1磁気歯車を軸方向Oで挟み込むように2つの第2磁気歯車を配置する必要はなく、第2磁気歯車の磁気歯が第1磁気歯車の磁気歯と少なくとも一方の磁極と所定の空隙Sで対峙するように備えられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施形態に係る磁気歯車減速機を模式的に示す断面図
【図2】偏心体を模式的に示す断面図及び正面図
【図3】図1のIII部分の第1磁気歯車と第2磁気歯車の関係を模式的に示す断面図
【図4】第1磁気歯車全体を模式的に示す正面図及び磁気歯部分を模式的に示す拡大正面図
【図5】第1及び第2磁気歯車の噛合状態を表すスケルトン図
【符号の説明】
【0055】
100…磁気歯車減速機
102…入力軸
104、106、122、156、158…軸受
112…偏心体
124、126…第1磁気歯車
124A、126A…回転ヨーク
124B、126B、132B、134B、136B…磁気歯
128、130…キャリアピン孔
132、134、136…第2磁気歯車
138…ケーシング本体
140…入力段カバー
142…補助カバー
146…出力段カバー
148…キャリアピン
150…平行ローラ
152…フランジ体
154…出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸に設けられた偏心体と、
該偏心体が嵌合され、該偏心体により揺動回転すると共に、軸方向に磁極の対を有して交互に向きが異なる複数の磁気歯を自身の側面に備える複数の第1磁気歯車と、
該第1磁気歯車の磁気歯の磁極の対の少なくとも一方と所定の空隙で該軸方向に対峙して磁気的噛合する磁気歯を備えると共に、該第1磁気歯車の歯数より僅少の差で歯数が多い複数の第2磁気歯車と、
前記第1磁気歯車と前記第2磁気歯車との相対回転成分を取出す出力軸と、
を備えることを特徴とする磁気歯車減速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1磁気歯車の前記軸方向の厚みが該第1磁気歯車の磁気歯の該軸方向の厚みと同一である
ことを特徴とする磁気歯車減速機。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記偏心体が前記複数の第1磁気歯車のそれぞれの回転位相を相互に異ならせる
ことを特徴とする磁気歯車減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−250358(P2009−250358A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99630(P2008−99630)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】