磁気浮上式鉄道の軌道用コイル及び軌道用コイルセット
【課題】エネルギー効率の高い磁気浮上式鉄道の軌道用コイル及び軌道用コイルセットを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、導電部材14aが巻回される第1コイル部21と、第1コイル部21の下側に配置され、導電部材14aが第1コイル部21と逆方向に巻回される第2コイル部22とを備え、導電部材14aは、帯状形状を有し、第1及び第2コイル部21、22では、導電部材14aの幅方向が各コイル部21、22の軸c1、c2方向と平行で且つ各コイル部21、22の径方向において隣り合う導電部材14a、14a間に絶縁層14cが位置するよう導電部材14aがそれぞれ巻回され、第1及び第2コイル部21、22は、互いの軸c1、c2方向が平行となるように特定の垂直面に沿って上下に並び且つ閉回路を構成するように互いに接続されることを特徴とする。
【解決手段】本発明は、導電部材14aが巻回される第1コイル部21と、第1コイル部21の下側に配置され、導電部材14aが第1コイル部21と逆方向に巻回される第2コイル部22とを備え、導電部材14aは、帯状形状を有し、第1及び第2コイル部21、22では、導電部材14aの幅方向が各コイル部21、22の軸c1、c2方向と平行で且つ各コイル部21、22の径方向において隣り合う導電部材14a、14a間に絶縁層14cが位置するよう導電部材14aがそれぞれ巻回され、第1及び第2コイル部21、22は、互いの軸c1、c2方向が平行となるように特定の垂直面に沿って上下に並び且つ閉回路を構成するように互いに接続されることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上式鉄道用車両の軌道に沿って設置され、前記車両を軌道上に浮上させる磁場を形成する軌道用コイル及び軌道用コイルセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気浮上式鉄道用車両(以下、単に「車両」とも称する。)を軌道上に浮上させる磁場を形成するコイル(軌道用コイル)として、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
この軌道用コイルは、図25に示されるように、車両100の通過する軌道Tの両側において当該軌道Tに沿って等間隔に配置される。
【0004】
各軌道用コイル210は、導電線を8の字型に複数回巻回することにより構成されている。この導電線は、導電材料により形成される長尺な素線と、絶縁材料により形成されて素線を周方向に囲む絶縁被覆とを備える。
【0005】
具体的には、軌道用コイル210は、一方向に導電線が巻回される第1コイル部211と、第1コイル部211の下方に設けられ、第1コイル部211と逆方向に導電線が巻回される第2コイル部212とを備える。そして、こられ第1コイル部211と第2コイル部212とは、閉回路を構成する。
【0006】
この軌道用コイル210では、車両100が軌道T上を進行することにより、当該車両100に設けられた磁石102が形成する磁場による誘導電流が流れる。このとき、第1コイル部211と第2コイル部212とは、互いに導電線の巻回方向が逆であるため各コイル部211、212を流れる電流の向きが逆となり、異なる極性の磁場を形成する。その結果、下側の第2コイル部212と車両100の磁石102とが反発し、且つ上側の第1コイル部211と車両100の磁石102とが引き合い、これにより、軌道用コイル210は車両100を軌道T上に浮上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−166812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の軌道用コイル210では、車両100が軌道T上を進行する際の磁場変動によって、コイル線に沿った上記誘導電流だけでなく、素線の断面内にも局所的な渦電流が生じる。軌道用コイル210において渦電流が生じると、軌道用コイル210の温度上昇等によって渦電流損失が発生して当該軌道用コイル210のエネルギー効率が低下する。
【0009】
この軌道用コイル210に生じる渦電流は、当該軌道用コイル210を構成する導電線の電流の流れる部位(素線)の径をより小さくすることによってその発生を抑えることができる。
【0010】
しかし、素線の径(素線の断面積)を小さくして軌道用コイル210に生じる渦電流を抑えることができても、素線の径を小さくするとコイル抵抗(銅損)が大きくなって浮上力を生じさせる誘導電流が導電線を流れ難くなり、これにより、軌道用コイル210のエネルギー効率が低下する。
【0011】
そこで、上記問題点に鑑み、エネルギー効率の高い磁気浮上式鉄道の軌道用コイル及び軌道用コイルセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の発明により達成されることを見出した。即ち、本発明の一態様にかかる磁気浮上式鉄道の軌道用コイルは、磁気浮上式鉄道用車両の軌道に沿って設置されるコイルであって、長尺の導電部材が巻回される第1コイル部と、前記第1コイル部の下側に配置され、前記導電部材が前記第1コイル部と逆方向に巻回される第2コイル部と、を備える。そして、前記導電部材は、その幅寸法が厚さ寸法よりも大きい帯状形状を有し、前記第1コイル部は、前記導電部材の幅方向が当該第1コイル部の軸方向と平行で且つ当該第1コイル部の径方向において隣り合う導電部材間に絶縁層が位置するよう前記導電部材が巻回されることにより構成され、前記第2コイル部は、前記導電部材の幅方向が当該第2コイル部の軸方向と平行で且つ当該第2コイル部の径方向において隣り合う導電部材間に絶縁層が位置するよう前記導電部材が巻回されることにより構成され、前記第1コイル部及び前記第2コイル部は、互いの軸方向が平行となるように上下に並び且つ閉回路を構成するように互いに接続された状態で各コイル部の軸方向が磁気浮上式鉄道における軌道の法線方向と交差するように配置される。
【0013】
本発明に係る軌道用コイルによれば、導電部材の断面内に生じる渦電流の発生を効果的に抑えて渦電流損失を抑制しつつ各コイル部における誘導電流の流れる部位(導電部材)の断面積(誘導電流の流れる向きに対して直交する断面の面積)を幅方向に確保することにより、エネルギー効率の向上を効果的に図ることができる。
【0014】
具体的には、各コイル部(第1コイル部及び第2コイル部)の軸方向が磁気浮上式鉄道における軌道の法線方向と交差するように軌道用コイルが軌道に沿って配置されることにより、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより形成される磁場の磁力線(磁束線)は各コイル部と鎖交する。このとき、導電部材において磁力線と直交する面の面積に比例して渦電流が生じるが、帯状形状の導電部材の幅方向とコイル部の軸方向とが平行であるため、導電部材の幅方向が前記磁力線と沿った方向となり、その結果、磁力線に直交する面(厚さ方向に拡がる面)の面積が幅方向に広がる面に比べて小さくなる。このため、各コイル部の導電部材における渦電流の発生が抑えられ、これにより当該軌道用コイルにおける渦電流損失が抑制される。しかも、帯状形状の導電部材が絶縁層を挟んで積層されているため、図9(A)及び図9(B)に示されるように、細線状の導体(素線)の周囲を絶縁部材で被覆した導電線により構成される従来の軌道用コイルに比べて、各コイル部の断面積(誘導電流が流れる方向と直交する断面の面積)における電流が流れる部位の面積が大きくなる。このため、各コイル部において誘導電流が流れ易くなり、当該軌道用コイルにおけるエネルギー効率がより向上する。
【0015】
また、第1コイル部と第2コイル部とが閉回路を形成することにより、外部から給電することなく、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することによって生じる磁場変動に起因する誘導電流を有効に利用して磁気浮上車両を軌道上に浮上させる磁場を発生させることができる。
【0016】
各コイル部は、当該コイル部の単位断面積当たりに流れる電流の電流密度が当該コイル部の径方向における他の領域よりも小さい領域をそれぞれ有することが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより形成される磁場の磁力線が当該コイル部と鎖交したときに、前記径方向における全ての領域が同じ電流密度で電流の流れるコイル部に比べ、磁気浮上式鉄道用車両の磁石に加わる浮上力(磁気浮上式鉄道車両を持ち上げる方向の力)が大きくなる。
【0018】
この径方向において電流密度が他の領域よりも小さい領域を有するコイル部の具体的な構成としては、例えば、各コイル部は、当該コイル部がその径方向に分割されたように並ぶ複数の分割コイルによって構成され、共通のコイル部において、前記径方向に隣り合う分割コイル同士は、内側の分割コイルの外周面における周方向の少なくとも一部が外側の分割コイルの内周面と離間した状態となるように配置されていてもよい。このように、内側の分割コイルの外周面と外側の分割コイルの内周面とが離間している領域では、電流が流れないため電流密度が小さくなる。
【0019】
さらに、前記第1コイル部及び前記第2コイル部は、磁性体を備え且つその幅寸法が厚さ寸法よりも大きい帯状形状を有する磁性部材をそれぞれ有し、前記磁性部材は、前記第1コイル部及び前記第2コイル部において前記導電部材と共巻きされることが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、各コイル部内に磁気異方性を有する部位を設けて導電部材の内部を通過する磁力線の数を減らすことにより、導電部材における渦電流の発生をより効果的に抑制することができる。即ち、導電部材よりも透磁率の高い磁性部材の方が磁力線を通し易く、このため、磁性部材を導電部材と共巻きすることによって各コイル部内に入った磁力線を磁性部材に集中させて導電部材の内部を通過する磁力線の数を低減させることができる。これにより、導電部材における渦電流の発生を効果的に抑えることができる。
【0021】
この場合、前記導電部材の厚さ寸法は、当該導電部材に磁気浮上式鉄道用車両の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下であり、前記磁性部材の厚さ寸法は、当該磁性部材に前記磁気浮上式鉄道用車両の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下であることがより好ましい。
【0022】
帯状形状の導電部材が巻回されたコイルに所定の周波数以上の交流電流が流れた場合、電流は、導電部材の表面から表皮深さ(スキンデプス:skin depth)までの領域内を流れる。このため、導電部材の厚さ寸法を表皮深さ以下にする(即ち、導電部材を、磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を通過することにより各コイル部に生じる誘導電流が流れる部位だけにする)ことにより、導電部材の内部を誘導電流が流れるときの抵抗を増大させることなく軌道用コイルの小型化、若しくは、導電部材を構成する材料の削減を図ることができる。
【0023】
また、物質に入射した電磁場は、物質の内側に入るほど減衰し、表皮深さよりも内側(深い領域)に入り難い。このため、磁性部材の厚さ寸法を表皮深さ以下にすることによって磁場が入り難い領域を減らし、これにより、磁性部材を構成する材料の削減を図ることができる。
【0024】
前記軌道用コイルは、磁性体によって形成され、前記導電部材の幅方向における前記第1コイル部と前記第2コイル部との一方側の端部同士を当該第1コイル部の軸と第2コイル部の軸との並び方向に接続するバックヨーク部をさらに備えることが好ましい。
【0025】
このようなバックヨーク部を設けることにより、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより発生する磁場の磁力線であって各コイル部と鎖交する磁力線の数が増加して導電部材の幅方向に磁力線の方向が揃うと共に、軌道外への漏れ磁束も低減する。これにより、磁気浮上式鉄道用車両がより大きな浮上力を得ることができると共に、磁気浮上式鉄道の複線区間において隣接する軌道への磁場の影響を効果的に低減することができる。
【0026】
しかも、磁気浮上式鉄道用車両が浮上することによって各コイル部に加わる力をバックヨーク部を設けてこれに支持させることにより、各コイル部の前記力に対する負担を低減させ、これにより前記力に起因する各コイル部の劣化を抑制することができる。
【0027】
前記バックヨーク部は、磁性体により形成された複数の板状部材がその厚さ方向に積層されることにより構成され、前記厚さ方向は、前記各コイル部の軸とそれぞれ直交し且つ前記各コイル部の軸の並び方向と直交する方向であることが好ましい。
【0028】
バックヨーク部をこのような複数の板状部材の積層構造にすることによって、磁気異方性を有する部位を設けた各コイル部の透磁率を改善することができ、これにより、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより形成される磁場の磁力線であって各コイル部と鎖交する磁力線の数をより増加させることができる。
【0029】
この場合、前記板状部材の厚さ寸法は、当該板状部材に前記磁気浮上式鉄道の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下であることがより好ましい。
【0030】
このような厚さ寸法として板状部材内における磁力線が通過し難い部位をなくすことにより前記各コイル部における透磁率の改善をより促進させ、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより形成される磁場の磁力線であって各コイル部と鎖交する磁力線の数をより増大させることができる。
【0031】
また、本発明の一態様にかかる磁気浮上式鉄道の軌道用コイルセットは、上記いずれかの軌道用コイルであって一対の軌道用コイルと、両コイル部を前記磁気浮上式鉄道の軌道側に向けて当該軌道を当該軌道の幅方向から挟むように前記一対の軌道用コイルが配置されたときに、当該一対の軌道用コイルのバックヨーク部における上端部同士の間隔を保つための補強部と、を備える。
【0032】
かかる構成によれば、磁気浮上式鉄道の軌道を挟んで対向する一対の軌道用コイル間の間隔を確実に保つことができる。
【発明の効果】
【0033】
以上より、本発明によれば、エネルギー効率の高い磁気浮上式鉄道の軌道用コイル及び軌道用コイルセットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態に係る軌道用コイルの配置状態を示す図である。
【図2】磁気浮上式鉄道の軌道を挟んで配置される一対の軌道用コイルの接続状態を示す斜視図である。
【図3】前記軌道用コイルを構成するコイル線材を説明するための図である。
【図4】銅と鉄の表皮深さと前記銅と鉄に流れる電流の周波数との関係を示す図である。
【図5】前記軌道用コイルのコイル本体の概略構成図である。
【図6】他実施形態における各コイル部と第1接続部との接続状態を説明するための図である。
【図7】磁気浮上式鉄道の軌道を挟んで配置される一対の軌道用コイルの接続状態を示す図であって、(A)は第3接続部による接続状態を示す図であり、(B)は第4接続部による接続状態を示す図である。
【図8】補強部及びバックヨーク部に働く力を説明するための図である。
【図9】軌道用コイルの一部拡大断面図であって、(A)は従来の軌道用コイルの断面図であり、(B)は本実施形態に係る軌道用コイルの断面図である。
【図10】第2実施形態に係る軌道用コイルにおけるコイル本体の概略構成図である。
【図11】本実施形態に係る軌道用コイルが配置された軌道上を、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行したときに形成される磁場を示す図である。
【図12】従来の軌道用コイルが配置された軌道上を、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行したときに形成される磁場を示す図である。
【図13】バックヨーク部がない軌道用コイルが配置された軌道上を、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行したときに形成される磁場を示す図である。
【図14】(A)は、第1コイル部と第2コイル部とが近接した状態のコイル本体の正面図であり、(B)は、第1コイル部と第2コイル部とが離れた状態のコイル本体の正面図であり、(C)は、第1コイル部と第2コイル部との間隔が、図14(A)のコイル本体と図14(B)のコイル本体との中間であるコイル本体の正面図である。
【図15】(A)は、図14(A)に示すコイル本体が配置された軌道上を、車体コイルを備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図であり、(B)は、図14(B)に示すコイル本体が配置された軌道上を、車体コイルを備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図であり、(C)は、図14(C)に示すコイル本体が配置された軌道上を、車体コイルを備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図16】(A)は、第1コイル部の内側コイル下部と外側コイル下部とが接し、第2コイル部の内側コイル上部と外側コイル上部とが接したコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図であり、(B)は、第1コイル部(第2コイル部)の内側コイルと外側コイルとが全周に亘って離間したコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図17】第2コイル部の中央縦断面位置における内側コイル下部の断面積(厚さ)と外側コイル下部の断面積(厚さ)との比を説明するための図である。
【図18】図17のCase1のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図19】図17のCase2のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図20】図17のCase3のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図21】図17のCase4のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図22】図17のCase5のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図23】図17のCase6のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図24】図17のCase7のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図25】従来の軌道用コイルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の第1実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0036】
本実施形態の軌道用コイルは、所謂リニアモーターカー等の磁気浮上式鉄道用車両(以下、単に「車両」とも称する。)を軌道上に浮上させる磁場を形成するのに用いられる。この軌道用コイルは、図1及び図2に示されるように、車両100の通過する軌道Tの両側に配置される。具体的には、軌道Tをその幅方向から挟むように配置される一対の軌道用コイル10、10(軌道用コイルセット)が、当該軌道Tに沿って間隔をおいて複数配置される。尚、本実施形態において軌道Tとは、車両100の移動経路に沿って延び、その上側を車両100が進行する面のことをいう。
【0037】
この軌道用コイル10は、長尺のコイル線材12によって構成されるコイル本体20と、コイル本体20に取り付けられるバックヨーク部30とを備える。
【0038】
コイル線材12は、幅寸法が厚み寸法よりも大きい帯状形状を有し、図3にも示されるように、複数の線材(本実施形態の例では3つの線材)14、14、…が積層されることにより形成される。具体的に、コイル線材12は、導電テープ(導電部材)14aと、磁性テープ(磁性部材)14bと、絶縁性テープ14cと、を備える。これら各テープ14a、14b、14cの幅寸法は等しい。そのため、コイル線材12を幅方向から見ると、各テープ14a、14b、14cの幅方向の端面が露出している。
【0039】
導電テープ14aは、導電材料により形成され、その幅寸法が厚み寸法よりも大きい帯状形状を有する。この導電テープ14aは、幅寸法をwa、厚み寸法をtaとしたときに、ta/wa=1/10となることが好ましいが、wa>taであればよく、例えば、ta/wa=2/3やta/wa=1/5等であってもよい。
【0040】
帯状形状(テープ状)の導体に所定の周波数以上の交流電流が流れた場合、電流は、帯状形状の導体の表面から、導体(導体を構成する部材)の導電率と透磁率とに対応した表皮深さ(スキンデプス:skin depth)δまでの領域に集中して流れる。このため、本実施形態の導電テープ14aの厚さ寸法は、表皮深さδ以下とする。これにより、導電テープ14aの内部を誘導電流が流れるときの抵抗を増大させることなく軌道用コイル10の小型化、若しくは、導電テープ14aを構成する材料を削減して省コスト化を図ることができる。尚、より高い効率を目指すには、車両100が軌道T上を進行したときに軌道用コイル10に生じる誘導電流の周波数(車両100の駆動周波数)の高調波に対する渦電流も抑制する必要がある。その場合、導電テープ14aの厚さ寸法は、駆動周波数の5倍程度の高調波が導電テープ14aに流れたときの表皮深さδ以下であることが好ましい。
【0041】
この導電テープ14aの表皮深さδ1は、下記の式(1)により求められる。
【0042】
【数1】
ここで、ρは導電率[S/m]であり、μは透磁率[H/m]であり、fは交流電流の周波数[Hz]である。
【0043】
本実施形態の導電テープ14aは、例えば、銅(Cu)によって形成される。導電テープ14aが銅の場合、導電率は、ρ=58×106[S/m]である。また、銅は非磁性体であるため、透磁率は空気中の透磁率とほぼ等しくなり、μ≒4π×10−7[H/m]である。また、下記の表1に示されるように、車両100が軌道T上を例えば時速500km/hで進行したときに、軌道用コイル10に生じる誘導電流の周波数(車両100の駆動周波数)は、10[Hz]となる。この場合、導電テープ14aの表皮深さδ1は、上記式(1)から、約20mmとなる(図4参照)。
【0044】
【表1】
導電テープ14aの厚さ寸法は、表皮深さδ1の1/2以下が好ましく、本実施形態の例では、5mmである。尚、導電テープ14aの厚さ寸法は、表皮深さ(本実施形態の例では20mm)δ1の1/2以下に限定されず、表皮深さδ1以下であればよい。
【0045】
磁性テープ14bは、磁性体により形成され、その幅寸法が厚み寸法よりも大きい帯状形状を有する。この磁性テープ14bは、幅寸法をwb、厚み寸法をtbとしたときに、導電テープ14aと同様にtb/wb=1/10となることが好ましいが、wb>tbであればよく、例えば、tb/wb=2/3やtb/wb=1/5等であってもよい。
【0046】
磁性テープに入射した電磁場は、磁性テープの内側に入るほど減衰して表皮深さよりも内側(深い領域)に入り難い。このため、本実施形態の磁性テープ14bの厚さ寸法は、導電テープ14aと同様に、表皮深さδ以下とする。これにより、磁性テープ14bにおける磁場が入り難い領域を減らし、当該磁性テープ14bを構成する材料の削減を図ることができる。
【0047】
本実施形態の磁性テープ14bは、例えば、鉄(Fe:例えば、純鉄、商用純鉄、低炭素鋼等)によって形成される。磁性テープ14bが鉄の場合、導電率は、ρ=1.0×105[S/m]である。また、鉄の透磁率は、μ=π×10−2[H/m]である。また、上記同様に、車両が軌道上を例えば時速500km/hで進行したときに、軌道用コイル10に生じる誘導電流の周波数(車両100の駆動周波数)は、10[Hz]である(表1参照)。この場合、磁性テープ14bの表皮深さδ2は、上記式(1)から、約2mmとなる(図4参照)。
【0048】
磁性テープ14bの厚さ寸法は、表皮深さδ2以下であればよく、本実施形態の例では、2mmである。
【0049】
絶縁性テープ14cは、樹脂やアモルファス等の絶縁材料により形成され、その幅寸法が厚み寸法よりも大きい帯状形状を有する。絶縁性テープ14cの厚さ寸法は、コイル線材12がその厚さ方向に積層されたときに、積層方向に隣り合う導電テープ14a、14a間が絶縁状態となる大きさであればよい。
【0050】
コイル本体20は、第1コイル部21と、第2コイル部22と、これら第1コイル部21及び第2コイル部22を接続するコイル部間接続部23と、を備える。
【0051】
第1コイル部21は、コイル線材12が巻回されることにより形成される。具体的に、第1コイル部21は、帯状形状を有するコイル線材12の幅方向が第1コイル部21の軸c1方向(図5において紙面と直交する方向)と平行になるようにコイル線材12が巻き重ねられて形成される。本実施形態の第1コイル部21は、コイル線材12を例えば20ターン巻き重ねることにより形成されている。
【0052】
このように導電テープ14aと磁性テープ14bと絶縁性テープ14cとが積層されたコイル線材12が巻回される(巻き重ねられる)ことにより、第1コイル部21において当該第1コイル部21の径方向に隣り合う導電テープ14a、14a間に絶縁性テープ14cが挟みこまれ、これにより前記導電テープ14a,14a間が絶縁状態となる。また、導電テープ14aと磁性テープ14bとが積層されたままで巻き重ねられているため、第1コイル部21において磁性テープ14bが導電テープ14aと共巻きされた状態となっている。
【0053】
本実施形態の第1コイル部21では、当該第1コイル部21の軸c1方向から見たときに、水平方向に長いレーストラック形状となるようにコイル線材12が巻回される。このレーストラック形状とは、陸上競技等において走者が周回するトラック(racetrack)のような形状のことをいい、具体的には、互いに平行且つ同一長さの一対の直線の端部同士を半円によって接続した形状である(図3及び図5参照)。
【0054】
第2コイル部22は、第1コイル部21の下側に配置され、第1コイル部21と逆方向にコイル線材12が巻回されることにより形成される。図5に示される例では、第1コイル部21においてコイル線材12が時計回りに巻回され、第2コイル部22においてコイル線材12が反時計回りに巻回されている。第2コイル部22は、帯状形状を有するコイル線材12の幅方向が第2コイル部22の軸c2方向(図5において紙面と直交する方向)と平行になるようにコイル線材12が巻き重ねられて形成される。本実施形態の第2コイル部22は、コイル線材12を例えば20ターン巻き重ねることにより形成されている。
【0055】
このように導電テープ14aと磁性テープ14bと絶縁性テープ14cとが積層されたコイル線材12が巻回されることにより、第2コイル部22においても、第1コイル部21同様に、当該第2コイル部22の径方向に隣り合う導電テープ14a、14a間に絶縁性テープ14cが挟みこまれ、これにより前記導電テープ14a,14a間が絶縁状態となる。また、導電テープ14aと磁性テープ14bとが積層されたままで巻き重ねられているため、第2コイル部22において磁性テープ14bが導電テープ14aと共巻きされた状態となっている。
【0056】
本実施形態の第2コイル部22では、第1コイル部21同様に、当該第2コイル部22の軸c2方向から見たときに、水平方向に長いレーストラック形状となるようにコイル線材12が巻回される。
【0057】
以上の第1コイル部21と第2コイル部22とは、互いの軸c1、c2方向が平行となるように特定の垂直面(図5に示す例では紙面)に沿って上下に並ぶ。このとき、第1のコイル部21と第2のコイル部22との上下方向の間隔が小さい程、当該コイル本体20が配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなる。このため、第1のコイル部21の下端と第2のコイル部22の上端とが密着している構成が好ましい。
【0058】
コイル部間接続部23は、閉回路を構成するように第1コイル部21と第2コイル部22とを互いに接続する。具体的に、コイル部間接続部23は、第1接続部23aと、第2接続部23bとを有する。第1接続部23aは、第1コイル部21の径方向内側に位置するコイル線材12の端部と、第2コイル部22の径方向内側に位置するコイル線材12の端部とを接続する。また、第2接続部23bは、第1コイル部21の径方向外側に位置するコイル線材12の端部と、第2コイル部22の径方向外側に位置するコイル線材12の端部とを接続する。本実施形態の第2接続部23bは、両コイル部21、22に用いられるコイル線材12と一体的に形成され、帯状のコイル線材12がひねられることなくその幅面を保った状態で第1コイル部21の最外層と第2コイル部22の最外層とを滑らかに接続する。
【0059】
本実施形態のコイル部間接続部23は、両コイル部21、22に用いられるコイル線材12と同じ線材により構成されるが、これに限定されず、通常の(即ち、帯状形状でない断面円形の)電線等であってもよい。即ち、コイル部間接続部23は、第1コイル部21を構成するコイル線材12と第2コイル部22を構成するコイル線材12とを接続して閉回路を形成できればよい。
【0060】
尚、本実施形態の第1接続部23aと、各コイル部21、22の内側に位置するコイル線材12の端部との接続部は、図2に示されるように線材同士を接続するようにしてもよい。また、図6に示されるように、各コイル部21、22と第1接続部23aとが一本のコイル線材12を折り曲げることによって構成されてもよい。
【0061】
また、本実施形態のように各コイル部21、22と第2接続部23bとが一本のコイル線材12によって構成されてもよく、第1コイル部21と第2コイル部22と第2接続部23bとが別部材によって構成されてもよい。
【0062】
バックヨーク部30は、磁性体によって形成され、コイル線材12の幅方向における第1コイル部21と第2コイル部22との一方側の端部同士を接続する。このとき、コイル線材12の幅方向の端面において、導電テープ14aの端面が露出しているため、導電テープ14aに生じた熱がバックヨーク部30に伝わる。これにより、各コイル部21、22において誘導電流が生じたときの熱による当該コイル部21、22の温度上昇を防ぐことができる。このバックヨーク部30は、複数の板状部材32、32、…が積層されることにより形成される。
【0063】
板状部材32は、磁性体によって形成され、第1コイル部21の軸c1と第2コイル部22の軸c2との並び方向(図2における上下方向)、及び各コイル部21、22の軸c1、c2方向に沿って拡がる部材である。本実施形態の板状部材32は、各コイル部21、22の軸c1、c2の並び方向に長い矩形状の板である。この板状部材32は、例えば、鉄粉を混ぜたコンクリート等によって形成される。尚、板状部材32は、磁性を有していればよく、例えば、珪素鋼板などの一般磁性鋼板や、構造用炭素鋼等であってもよい。
【0064】
この板状部材32の厚さ寸法は、当該板状部材32の抵抗率と透磁率とに対応した表皮深さδ3以下である。尚、本実施形態の板状部材32の厚さ寸法は、板状部材32が各コイル部21、22よりも透磁率の小さい素材によって形成されているため、各コイル部21、22の磁性テープ14bの厚さ寸法よりも大きい。また、板状部材32の表皮深さδ3は、上記式(1)から求められる。
【0065】
このような板状部材32は、各コイル部21、22の軸c1、c2とそれぞれ直交し且つ各コイル部21、22の軸c1、c2の並び方向に直交する方向(図2において左右方向)に積層される。即ち、複数の板状部材32、32、…がその厚さ方向に積層されることにより、バックヨーク部30が形成される。本実施形態のバックヨーク部30は、各コイル部21、22同士を接続する第1接続部23aが配置できるよう、第1接続部23aに対応する位置において板状部材32、32間に隙間sを設けている。尚、この第1接続部23a等を配置するための隙間sは、バックヨーク部30の上下方向の全体に亘って形成されているが、これに限定されない。バックヨーク部30の上下方向の一部に形成されていてもよい。また、バックヨーク部30に、第1接続部23aの端部を各コイル部21、22の内側に引き込むための孔が設けられていてもよい。
【0066】
以上のように構成される軌道用コイル10は、上記のように磁気浮上式鉄道の軌道Tをその幅方向から挟むように対向配置される。具体的に、一対の軌道用コイル10、10(軌道用コイルセット)は、図7(A)及び図7(B)に示されるように、第1コイル部21と第2コイル部22とが上下に並び、軌道T上を通過(進行)する車両100側にコイル本体20を向けた姿勢でそれぞれ配置される。詳しくは、各軌道用コイル10は、コイル本体20を軌道T側に向け、各コイル部21、22の軸c1、c2方向が軌道Tの法線方向と交差(本実施形態の例では、直交)する姿勢で軌道Tに沿って配置される。そして、一対の軌道用コイル10、10の第1接続部23a、23a同士が第3接続部40によって接続され(図7(A)参照)、第2コイル部22の径方向の最も外側に位置するコイル線材12同士が第4接続部42によって接続される(図7(B)参照)。これら第3接続部40及び第4接続部42は、コイル線材12と同じ線材である。これら第3接続部40及び第4接続部42は、車両100が軌道T上を進行することにより発生する磁場の磁力線の向きと平行になるように配置されることによって、当該接続部40、42における渦電流の発生を抑制して渦電流損失を防いでいる。
【0067】
このように対向配置されたコイル本体20、20同士が第3接続部40及び第4接続部42によって接続されることにより、対向する第1コイル部21、21同士が閉回路を形成すると共に対向する第2コイル部22、22同士が閉回路を形成する。
【0068】
このように配置された軌道用コイル10には、図8に示されるように、バックヨーク部30の上端部と、軌道面(軌道Tを含む面)とを繋ぐ支持部材(補強部)44が取り付けられる。この支持部材44は、対向配置された一対の軌道用コイル10、10のバックヨーク部30における上端部同士の間隔を保つための補強部材である。具体的には、車両100が軌道T上に浮上したときに、車両100(軌道T)を挟んで対向するバックヨーク部30、30の上端部同士が接近する方向の力がバックヨーク部30に加わる。この力は、車両100が軌道T上に浮上するために第1コイル部21と車両100の車体コイル102とが引き合うことにより生じる。そこで、支持部材44を設けることにより、バックヨーク部30に前記上端部同士が接近する方向の力が加わっても、車両100(軌道T)を挟んで対抗する一対のコイル本体20、20間の間隔を確実に保つことが出来る。尚、支持部材44は、対向するバックヨーク部30、30の上端部同士の間隔を保つことが出来ればよく、バックヨーク部30の上端部と軌道面とを繋ぐ部材でなくてもよい。例えば、支持部材44Aは、図8において一点鎖線で示されるような架橋部材により構成されてもよい。
【0069】
以上のような軌道用コイルセット(一対の軌道用コイル10、10)が軌道Tに沿って等間隔に配置される。この軌道用コイルセットは、例えば、表1に示されるように、車両100が時速500km/hで軌道T上を進行したときに、各軌道用コイル10に生じる誘導電流の周波数が10Hzとなるような間隔で軌道Tに沿って配置される。
【0070】
以上の軌道用コイル10は、以下のようにして車両100を軌道T上に浮上させると共に、軌道Tに沿って車両100を案内する。
【0071】
側面に車体コイル(例えば、超電導マグネット等)102を備えた車両100が軌道T上を進行すると、その磁場変動により、各軌道用コイル10に誘導電流が生じる。このとき、第1コイル部21と第2コイル部22とにおけるコイル線材12の巻回方向が逆であるため、第1コイル部21において生じる誘導磁場と第2コイル部22において生じる誘導磁場との極性は、互いに逆になっている(図8に示される例では、第1コイル部21がN極で、第2コイル部22がS極)。そして、第1コイル部21と車体コイル102とが引き合い且つ第2コイル部22と車体コイル102とが反発し合うよう、車体コイル102の軌道用コイル側がS極となるようにすると、車両100が第1コイル部21に引き上げられると共に第2コイル部22に押し上げられる。これにより、車両100が軌道T上に浮上する。
【0072】
また、車両100が軌道Tの幅方向において中央から一方側にずれると軌道Tを挟んで対向する一対の軌道用コイル10が形成する誘導磁場の大きさが変化し、これにより、車両100が軌道Tの幅方向中央に戻される。その結果、車両は、軌道用コイル10によって軌道Tの中央を進むように案内される。詳しくは、以下に説明する。
【0073】
対向する一対の軌道用コイル10、10が第3接続部40と第4接続部42とによってそれぞれ接続されることにより、対向する第1コイル部21、21同士、及び対向する第2コイル部22、22同士が閉回路をそれぞれ形成する。ここで、車両100が軌道Tの幅方向において中央から一方側にずれると、軌道用コイル10と車体コイル102との間隔が左右(幅方向)において異なった状態となる。そうすると、車両100を挟んで対向するコイル部21、21及び22、22同士において異なる大きさの誘導電流が生じるが、第3接続部40及び第4接続部42によって対向するコイル部21、21及び22、22同士が閉回路となっているため、第3接続部40及び第4接続部42を通じてコイル部21、21及び22、22間に電流が流れる。これにより、左右のコイル部21、21及び22、22において異なる大きさの誘導磁場が形成され、その結果、車両100が軌道Tの幅方向中央に押し戻される。
【0074】
以上のような軌道用コイル10によれば、導電テープ12aの断面内に生じる渦電流の発生を効果的に抑えて渦電流損失を抑制しつつ各コイル部21、22における誘導電流の流れる部位(導電テープ14a)の断面積(誘導電流の流れる向きに対して直交する断面の面積)を幅方向に確保することにより、エネルギー効率の向上を効果的に図ることができる。
【0075】
具体的には、第1コイル部21の軸c1及び第2コイル部22の軸c2が軌道Tの幅方向に沿うように軌道用コイル10を軌道Tに沿って配置した場合、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することにより形成される磁場の磁力線は、各コイル部21、22と鎖交する。このとき、磁力線と直交する面の面積に比例して渦電流が生じるが、帯状形状の導電テープ14aの幅方向とコイル部21、22の軸c1、c2方向とが平行であるため、導電テープ14aの幅方向が前記磁力線と沿った方向となり、その結果、磁力線に直交する面(導電テープ14aの厚さ方向に拡がる面)の面積が幅方向に広がる面に比べて小さくなる。このため、各コイル部21、22の導電テープ14aにおいて渦電流の発生が抑えられ、これにより当該軌道用コイル10における渦電流損失が抑制される。しかも、帯状形状の導電テープ14aが絶縁層(絶縁性テープ14c)を挟んで積層されているため、図9(A)及び図9(B)に示されるように、従来の細線状の導体(素線)の周囲を絶縁部材で被覆した導電線により構成されるコイルに比べて、各コイル部の断面積(誘導電流が流れる方向と直交する断面の面積)における電流が流れる部位(導電テープ14a又は前記細線状の導体(素線))の面積が大きくなる。このため、当該軌道用コイル10の各コイル部21、22において誘導電流が流れ易くなり、当該軌道用コイル10におけるエネルギー効率がより向上する。
【0076】
また、上記の軌道用コイル10では、第1コイル部21の最外層から巻き出た第2接続部23b(帯状のコイル線材12)がひねられることなくその幅面を保った状態で第2コイル部22の最外層と滑らかに接続され、第1コイル部21と第2コイル部22とが閉回路を形成する。これにより、外部から給電することなく、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することによって生じる磁場変動に起因する誘導電流を有効に利用して車両100を軌道T上に浮上させる磁場を発生させることができる。
【0077】
また、本実施形態の軌道用コイル10では、磁性テープ14bを導電テープ14aと共巻きすることによって各コイル部21、22内に磁気異方性を有する部位を設けて導電テープ14aの内部を通過する磁力線の数を減らすことにより、導電テープ14aにおける渦電流の発生をより効果的に抑制することができる。即ち、導電テープ14aよりも透磁率の高い磁性部材(本実施形態の例では磁性テープ14b)の方が磁力線を通し易く、このため、磁性テープ14bを導電テープ14aと共巻きすることによって各コイル部21、22内に入った磁力線を磁性テープ14bに集中させて導電テープ14aの内部を通過する磁力線の数を低減させることができる。これにより、導電テープ14aにおける渦電流の発生を効果的に抑えることができる。
【0078】
帯状形状の導電部材が巻回されたコイルに所定の周波数以上の交流電流が流れた場合、電流は、表面から表皮深さδまでの領域内を流れる。このため、本実施形態の軌道用コイル10では、導電テープ14aの厚さ寸法を表皮深さδ1以下にする(即ち、導電テープ14aを、車両100が軌道T上を通過することによって各コイル部21、22に生じる誘導電流が流れる部位だけにする)ことにより、導電テープ14aの内部を誘導電流が流れるときの抵抗を増大させることなく軌道用コイル10の小型化、若しくは、導電テープ14aを構成する材料の削減を図ることができる。
【0079】
また、物質に入射した電磁場は、物質の内側に入るほど減衰し、表皮深さよりも内側(深い領域)には入り難い。このため、本実施形態の軌道用コイル10では、磁性テープ14bの厚さ寸法を表皮深さδ2以下にすることによって磁場が入り難い領域を減らし、これにより、磁性テープ14bを構成する材料(本実施形態の例では鉄)の削減を図ることができる。
【0080】
また、本実施形態の軌道用コイル10では、バックヨーク部30を設けることにより、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することにより発生する磁場の磁力線であって各コイル部21、22と鎖交する磁力線の数が増加して導電テープ12aの幅方向に磁力線の方向が揃うと共に、軌道T外への漏れ磁束も低減する。これにより、車両100がより大きな浮上力を得られると共に、磁気浮上式鉄道の複線区間において隣接する軌道への磁場の影響を効果的に低減することができる。
【0081】
しかも、車両100が浮上することによって各コイル部21、22に加わる力をバックヨーク部30を設けてこれに支持させることにより、各コイル部21、22の前記力に対する負担を低減させ、これにより前記力に起因する各コイル部21、22の劣化を抑制することができる。
【0082】
バックヨーク部30を複数の板状部材32が軌道Tに沿った方向(車両100の進行方向)に積層された構造とすることによって、磁気異方性を有する部位(本実施形態の例では磁性テープ14b)を設けた各コイル部21、22の透磁率を改善することができ、これにより、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することにより形成される磁場の磁力線であって各コイル部21、22と鎖交する磁力線の数をより増加させることができる。
【0083】
また、バックヨーク部30を構成する板状部材32の厚さ寸法を表皮深さδ3以下にして板状部材32内における磁力線が通過し難い部位をなくすことにより前記各コイル部21、22における透磁率の改善をより促進させることができる。その結果、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することにより形成される磁場の磁力線であって各コイル部21、22と鎖交する磁力線の数をより増大させることができる。
【0084】
次に、本発明の第2実施形態について図10を参照しつつ説明するが、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成ついてのみ詳細に説明する。
【0085】
本実施形態に係るコイル本体20Aは、第1実施形態のコイル本体20に対し、各コイル部(第1コイル部21A及び第2コイル部22A)の構成が異なる。
【0086】
第1コイル部21Aは、複数の分割コイル121、121、…と、コイル接続部123と、を有する。本実施形態の第1コイル部21Aは、2つの分割コイル121、121を有する。以下では、第1コイル部21Aの径方向において、内側の分割コイル121を内側コイル121aとも称し、外側の分割コイル121を外側コイル121bとも称する。
【0087】
尚、第1コイル部21Aにおける分割コイルの数は、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0088】
各分割コイル121a、121bは、第1コイル部21Aがその径方向に分割されたように並んでいる。詳しくは、内側コイル121aの中心軸と外側コイル121bの中心軸とが平行で、且つ、外側コイル121bが内側コイル121aを当該内側コイル121aの周方向に囲むように配置されている。
【0089】
各コイル121a、121bは、コイル線材12が巻回されることにより形成され、内側コイル121aを形成するコイル線材12と外側コイル121bを形成するコイル線材12とは、同じ方向に巻回されている。
【0090】
本実施形態の第1コイル部21Aでは、内側コイル121aが外側コイル121bに対して下方側に偏って配置されている。即ち、外側コイル121bの中心軸C12に対して内側コイル121aの中心軸C11が下方側にずれている。 尚、この外側コイル121bの中心軸C12に対する内側コイル121aの中心軸C11のずれ方向は、下方に限定されず、上方や側方、斜め方向等であってもよい。また、内側コイル121aの中心軸C11と外側コイル121bの中心軸C12とが一致してもよい。
【0091】
本実施形態の内側コイル121aと外側コイル121bとは、内側コイル121aの下部の外周面(底面)が外側コイル121bの下部の内周面(第1コイル部21Aの径方向内側の面)に接する(密着する)ように配置されている。これは、内側コイル121aの下部の外周面と、外側コイル121bの下部の内周面との間隔が小さい程、当該コイル本体20Aが配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなるためである。尚、内側コイル121aと外側コイル121bとは、内側コイル121aの外周面における周方向の少なくとも一部が外側コイル121bの内周面と離間した状態となるように配置されてもよく、また、コイル接続部123によって接続されている部位以外は、一切接していない配置(外側コイル121bの内周面と内側コイル121aの外周面とが全周に亘って離間した状態)でもよい。
【0092】
本実施形態の第1コイル部21Aでは、コイル本体20Aの中央縦断面において、外側コイル121bの上部の断面積(上部の上下方向の厚さ)と内側コイル121aの上部の断面積(上部の上下方向の厚さ)とが同じであるが、異なっていてもよい。異なる場合、前記中央縦断面において、外側コイル121bの上部の断面積(厚さ)が、内側コイル121aの上部の断面積(厚さ)より大きい構成が好ましい。これは、前記中央縦断面において、外側コイル121bの上部の断面積(厚さ)が、内側コイル121aの上部の断面積(厚さ)よりも大きい程、当該コイル本体20Aが配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなるためである。
【0093】
このように各分割コイル121が配置されることによって、第1コイル部21Aにおいて、当該コイル部21Aを流れる電流の電流密度が当該コイル部21Aの径方向における他の領域よりも小さい領域(本実施形態では内側コイル121aの外周面と外側コイル121bの内周面とが離間している領域)がそれぞれ形成される。
【0094】
尚、前記電流密度は、コイル線材12の単位断面積当たりに流れる電流ではなく、第1コイル部21Aの単位断面積当たりに流れる電流である。
【0095】
コイル接続部123は、内側コイル121aの径方向外側に位置するコイル線材12の端部と、外側コイル121bの径方向内側に位置するコイル線材12の端部とを接続する。
【0096】
第2コイル部22Aは、複数の分割コイル122、122、…と、コイル接続部123と、を有する。本実施形態の第2コイル部22Aは、第1コイル部21Aと同様、2つの分割コイル122、122を有する。以下では、第2コイル部22Aの径方向において、内側の分割コイル122を内側コイル122aとも称し、外側の分割コイル122を外側コイル122bとも称する。
【0097】
尚、第2コイル部22Aにおける分割コイルの数は、第1コイル部21Aと同様、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0098】
各分割コイル122a、122bは、第1コイル部21Aと同様に、第2コイル部22Aがその径方向に分割されたように並んでいる。
【0099】
各コイル122a、122bは、コイル線材12が巻回されることにより形成され、内側コイル122aを形成するコイル線材12と外側コイル122bを形成するコイル線材12とは、同じ方向に巻回されている。
【0100】
本実施形態の第2コイル部22Aでは、内側コイル122aが外側コイル122bに対して上方側に偏って配置されている。即ち、外側コイル122bの中心軸C22に対して内側コイル122aの中心軸C21が上方側にずれている。尚、この外側コイル122bの中心軸C22に対する内側コイル122aの中心軸C21のずれ方向は、上方に限定されず、下方や側方、斜め方向等であってもよい。また、内側コイル122aの中心軸C21と外側コイル122bの中心軸C22とが一致してもよい。
【0101】
本実施形態の内側コイル122aと外側コイル122bとは、内側コイル122aの上部の外周面(底面)が外側コイル122bの上部の内周面(第2コイル部22Aの径方向内側の面)に接する(密着する)ように配置されている。これは、第1コイル部21Aと同様に、内側コイル122aの下部の外周面と、外側コイル122bの下部の内周面との間隔が小さい程、当該コイル本体20Aが配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなるためである。尚、内側コイル122aと外側コイル122bとは、内側コイル122aの外周面における周方向の少なくとも一部が外側コイル122bの内周面と離間した状態となるように配置されてもよく、また、コイル接続部123によって接続されている部位以外は、一切接していない配置(外側コイル122bの内周面と内側コイル122aの外周面とが全周に亘って離間した状態)でもよい。
【0102】
本実施形態の第2コイル部22Aでは、コイル本体20Aの中央縦断面において、外側コイル122bの下部の断面積(下部の上下方向の厚さ)と内側コイル122aの下部の断面積(下部の上下方向の厚さ)とが同じであるが、異なっていてもよい。異なる場合、前記中央縦断面において、外側コイル122bの下部の断面積(厚さ)が、内側コイル122aの下部の断面積(厚さ)より大きい構成が好ましい。これは、前記中央縦断面において、外側コイル122bの下部の断面積(厚さ)が、内側コイル122aの下部の断面積(厚さ)よりも大きい程、当該コイル本体20Aが配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなるためである。
【0103】
このように各分割コイル122が配置されることによって、第2コイル部22Aにおいても、第1コイル部21と同様に、当該コイル部22Aを流れる電流の電流密度が当該コイル部22Aの径方向における他の領域よりも小さい領域(本実施形態では内側コイル122aの外周面と外側コイル122bの内周面とが離間している領域)がそれぞれ形成される。
【0104】
尚、第2コイル部22Aにおいても、第1コイル部21Aと同様、前記電流密度は、コイル線材12の単位断面積当たりに流れる電流ではなく、第2コイル部22Aの単位断面積当たりに流れる電流である。
【0105】
以上のようなコイル本体20Aを用いた軌道用コイル10によっても、第1実施形態の軌道用コイル10と同様に、導電テープ12aの断面内に生じる渦電流の発生を効果的に抑えて渦電流損失を抑制しつつ各コイル部21A、22Aにおける誘導電流の流れる部位(導電テープ14a)の断面積(誘導電流の流れる向きに対して直交する断面の面積)を幅方向に確保することにより、エネルギー効率の向上を効果的に図ることができる。
【0106】
また、本実施形態のコイル本体20Aを用いた軌道用コイル10によれば、車両100が軌道T上を進行することにより形成される磁場の磁力線が当該コイル部21A、22Aと鎖交したときに、第1実施形態のような径方向における全ての領域が同じ電流密度で電流の流れるコイル部21、22に比べ、車両100の車体コイル102に加わる浮上力(車両100を軌道Tから持ち上げる方向の力)が大きくなる。
【0107】
尚、本発明の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル、及び軌道用コイルセットは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0108】
上記実施形態では、コイル線材12は、導電テープ14aと磁性テープ14bと絶縁性テープ14cとが積層されることにより構成されているが、これに限定されない。例えば、コイル線材は、導電テープ(導電部材)14aと絶縁性テープ(絶縁部材)14cとが積層されることにより構成されてもよい。即ち、コイル線材を構成する導電部材(上記実施形態の例では導電テープ14a)が帯状形状を有し、この導電部材が、各コイル部21、22において、導電部材の幅方向が当該コイル部21、22の軸c1、c2方向と平行で且つ当該コイル部21、22の径方向において隣り合う導電部材間が絶縁状態となるように巻回されれば、渦電流の発生を効果的に抑えて渦電流損失を抑制しつつ各コイル部21、22における誘導電流の流れる部位の断面積を確保してエネルギー効率の向上を効果的に図ることができる。
【0109】
また、各コイル部21、22において、コイル部21、22の径方向に隣り合う導電テープ14a、14a間の絶縁を図る部材は、絶縁性テープ14cに限定されない。例えば、導電テープ14aや、導電テープ14aと磁性テープ14bとを積層したものを周方向に囲う絶縁材料で形成された被覆部材が前記絶縁を図る部材として用いられてもよい。また、導電テープ14aの両面や導電テープ14aと磁性テープ14bとを積層したものの両面が絶縁処理されてもよい。
【0110】
また、上記実施形態の各コイル部21、22の軸c1、c2方向から見た形状は、レーストラック型に限定されない。例えば、各コイル部の軸方向から見た形状は、四隅を丸くした四角形や、円形等でもよい。即ち、第1コイル部の導電部材の巻回方向と第2コイル部の導電部材の巻回方向とが互いに逆向きであり、これら第1コイル部と第2コイル部とにより閉回路が形成されていればよい。
【実施例1】
【0111】
ここで、上記第1実施形態の軌道用コイルが形成する磁場(誘導磁場)を評価するために、上記第1実施形態の軌道用コイルが配置された軌道T上を、磁石(上記第1実施形態の例では車体コイル102)を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図11に示す。この図11は、上記実施形態の軌道用コイル10が配置された軌道T上を、前記車両が進行することにより形成される磁場の解析結果である。また、図11に示す状態において、車体コイルに働く浮上力(図10における上向きの力)を求め、下記の表2の実施例1の欄に示す。
【実施例2】
【0112】
実施例2では、上記第1実施形態の軌道用コイルの代わりに、上記第2実施形態の軌道用コイルが配置された軌道T上を、前記浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の解析を行い、車体コイルに働く浮上力を求めた。この軌道用コイルは、実施例1の軌道用コイルの前記断面積を100としたときに前記断面積が80となる(即ち、実施例1の軌道用コイルよりも前記断面積を20%減少させた)大きさである。
【0113】
その結果を下記の表2の実施例2の欄に示す。尚、本実施例2の軌道用コイルでは、図10に示されるように、各コイル部がそれぞれ2分割されている。
【実施例3】
【0114】
実施例3では、第2実施例同様の図10に示されるような各コイル部が2分割された軌道用コイルであって、実施例1の軌道用コイルの前記断面積を100としたときに前記断面積が60となる(即ち、実施例1の軌道用コイルよりも前記断面積を40%減少させた)大きさの軌道用コイルを用いて実施例1と同様の解析を行い、車体コイルに働く浮上力を求めた。その結果を下記の表2の実施例3の欄に示す。
〔比較例1〕
【0115】
比較例1では、上記実施形態の軌道用コイル10の代わりに、細線状の導体の周囲を絶縁部材で被覆した導電線を巻回することにより形成される従来の軌道用コイルが配置された軌道T上を前記車両が進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図12に示す。この図12は、従来の軌道用コイルが配置された軌道T上を、前記車両が進行することにより形成される磁場の解析結果である。また、図12に示す状態において、車体コイルに働く浮上力(図11における上向きの力)を求め、下記の表2の比較例1の欄に示す。
〔比較例2〕
【0116】
比較例2では、実施例1の軌道用コイルと同様に各コイル部が分割されていないが、導電テープ(本比較例2ではCuテープ)のみが巻回された軌道用コイルを用いて実施例1と同様の解析を行い、車体コイルに働く浮上力を求めた。この軌道用コイルは、実施例1の軌道用コイルの前記断面積を100としたときに前記断面積が80となる(即ち、実施例1の軌道用コイルよりも前記断面積を20%減少させた)大きさである。
【0117】
その結果を下記の表2の比較例2の欄に示す。
〔比較例3〕
【0118】
比較例3では、実施例1の軌道用コイルと同様に各コイル部が分割されていないが、導電テープ(本比較例3ではCuテープ)のみが巻回された軌道用コイルを用いて実施例1と同様の解析を行い、車体コイルに働く浮上力を求めた。この軌道用コイルは、実施例1の軌道用コイルの前記断面積を100としたときに前記断面積が60となる(即ち、実施例1の軌道用コイルよりも前記断面積を40%減少させた)大きさである。
【0119】
その結果を下記の表2の比較例3の欄に示す。
〔比較例4〕
【0120】
比較例4では、バックヨーク部による漏れ磁束の低減効果を評価するために、バックヨーク部が設けられていないこと以外は上記実施例1の軌道用コイルと同じ構成の軌道用コイルが配置された軌道T上を、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を、図13に示す。
【0121】
また、図13に示す状態において、車体コイルに働く浮上力(図12における上向きの力)を求め、下記の表2の比較例4の欄に示す。
【0122】
【表2】
これら実施例1〜比較例4によって、以下のことが確認できた。
【0123】
図11と図12とを比較することによって、従来の軌道用コイルを用いた場合に比べて実施例1(第1実施形態)の軌道用コイルを用いた方が、各コイル部と鎖交する磁束線が増加している。即ち、従来の軌道用コイルに比べて実施例1の軌道用コイルの方がエネルギー効率が高いことが確認できた。また、表2において実施例1と比較例1とを比較することによって従来の軌道用コイルを用いた場合に比べて実施例1の軌道用コイルを用いた方が浮上力が大きいことからも、従来の軌道用コイルに比べて実施例1の軌道用コイルの方がエネルギー効率の高いことが確認できる。
【0124】
また、表2において、実施例2と比較例2との比較、及び、実施例3と比較例3との比較から、軌道用コイルにおいて各コイル部を径方向に分割することによって浮上力が増加していることが分かり、これにより、各コイル部を径方向に分割することによってエネルギー効率が向上していることが確認できた。
【0125】
また、図11と図13とを比較することにより、バックヨーク部を設けることによって漏れ磁束が効果的に低減していることが確認できた。また、表2において、実施例1と比較例4とを比較することによって、バックヨーク部を設けることによって浮上力が増加することも確認できた。
【実施例4】
【0126】
次に、第1コイル部と第2コイル部との間隔を変えたときの軌道用コイルの形成する磁場(誘導磁場)を評価するために、図14(A)〜図14(C)に示すコイル本体が配置された各軌道上を、磁石(上記第1実施形態の例では車体コイル)を備えた磁気浮上式鉄道用車両がそれぞれ進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図15(A)〜図15(C)に示す。
【0127】
尚、図14(A)は、第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとが近接した状態のコイル本体を示し、図14(B)は、第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとが離れた状態のコイル本体を示し、図14(C)は、第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとの間隔が、図14(A)に示すコイル本体と図14(B)に示すコイル本体との中間であるコイル本体を示す。
【0128】
また、図15(A)は、図14(A)に示すコイル本体が配置された軌道T上を、車体コイル102を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布(図14(A)に示すコイル本体の中央縦断面位置の垂直面おける磁束線の分布)と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図15(B)は、図14(B)に示すコイル本体が配置された軌道T上を、車体コイル102を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布(図14(B)に示すコイル本体の中央縦断面位置の垂直面おける磁束線の分布)と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図15(C)は、図14(C)に示すコイル本体が配置された軌道T上を、車体コイル102を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布(図14(C)に示すコイル本体の中央縦断面位置の垂直面おける磁束線の分布)と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。
【0129】
また、図14(A)〜図14(C)に示すA〜Dの各領域は、図15(A)〜図15(C)に示すA〜Dの各領域と対応する。
【0130】
これらの結果から、コイル本体において第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとの間隔が小さい程、車体コイル102に働く浮上力が大きくなる(換言すると、第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとの間隔が大きい程、車体コイル102に働く浮上力が小さくなる)ことが確認できた。
【実施例5】
【0131】
次に、各コイル部における内側コイルと外側コイルとの相対位置を変えたときの軌道用コイルの形成する磁場(誘導磁場)を評価するために、前記相対位置を変えた軌道用コイルが配置された各軌道上を、車体コイルを備えた磁気浮上式鉄道用車両がそれぞれ進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図16(A)及び図16(B)に示す。
【0132】
図16(A)は、第1コイル部21Aの内側コイル121aの下部と外側コイル121bの下部とが接し、第2コイル部22Aの内側コイル122aの上部と外側コイル122bの上部とが接したコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図16(B)は、第1コイル部21A(第2コイル部22A)の内側コイル121a(122a)と外側コイル121b(122b)とが全周に亘って離間したコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。尚、図16(A)に示すコイル本体の各内側コイル121a、122aの断面積(中央縦断面の断面積)及び各外側コイル121b、122bの断面積と、図16(B)に示すコイル本体の各内側コイル121a、122aの断面積及び各外側コイル121b、122bの断面積とは、同じである。
【0133】
これらの結果から、第1コイル部21Aにおいて内側コイル121aの下部と外側コイル121bの下部とが接し、且つ、第2コイル部22Aにおいて内側コイル122aの上部と外側コイル122bの上部とが接したコイル本体を用いた方が、第1コイル部21Aにおいて内側コイル121aの下部と外側コイル121bの下部とが離間し、且つ、第2コイル部22Aにおいて内側コイル122aの上部と外側コイル122bの上部とが離間したコイル本体を用いるよりも、車体コイル102に働く浮上力が大きくなることが確認できた。
【実施例6】
【0134】
次に、第2コイル部の中央縦断面位置における内側コイルの下部の断面積(厚さ)と外側コイルの下部の断面積(厚さ)との比を図17に示すCase1〜7のように変えたときの軌道用コイルの形成する磁場(誘導磁場)を評価するために、図17のCase1〜7に示す面積比を有するコイル本体が配置された各軌道上を、磁石(上記第1実施形態の例では車体コイル)を備えた磁気浮上式鉄道用車両がそれぞれ進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図18〜図24に示す。
【0135】
ここで、図17に示す面積比において、内側コイル122aの値と外側コイル122bの値との間の数値は、第2コイル部22Aの中央縦断面位置における内側コイル122a下部と外側コイル122b下部との間隙の大きさ(面積)を示す値である。
【0136】
図18は、図17のCase1のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図19は、図17のCase2のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図20は、図17のCase3のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図21は、図17のCase4のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図22は、図17のCase5のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図23は、図17のCase6のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図24は、図17のCase7のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。
【0137】
これらの結果から、第2コイル部22Aの中央縦断面位置における面積(断面積)比において外側コイル122b下部の断面積が大きくなる程(換言すると内側コイル122a下部の断面積が小さくなる程)、車体コイル102に働く浮上力が大きくなることが確認できた。
【符号の説明】
【0138】
10 軌道用コイル
14a 導電テープ(導電部材)
14b 磁性テープ(磁性部材)
14c 絶縁性テープ(絶縁層)
20、20A コイル本体
21、21A 第1コイル部
22、22B 第2コイル部
121、122 分割コイル
30 バックヨーク部
32 板状部材
100 磁気浮上式鉄道用車両
102 車体コイル(磁石)
c1 第1コイル部の軸
c2 第2コイル部の軸
T 軌道
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上式鉄道用車両の軌道に沿って設置され、前記車両を軌道上に浮上させる磁場を形成する軌道用コイル及び軌道用コイルセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気浮上式鉄道用車両(以下、単に「車両」とも称する。)を軌道上に浮上させる磁場を形成するコイル(軌道用コイル)として、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
この軌道用コイルは、図25に示されるように、車両100の通過する軌道Tの両側において当該軌道Tに沿って等間隔に配置される。
【0004】
各軌道用コイル210は、導電線を8の字型に複数回巻回することにより構成されている。この導電線は、導電材料により形成される長尺な素線と、絶縁材料により形成されて素線を周方向に囲む絶縁被覆とを備える。
【0005】
具体的には、軌道用コイル210は、一方向に導電線が巻回される第1コイル部211と、第1コイル部211の下方に設けられ、第1コイル部211と逆方向に導電線が巻回される第2コイル部212とを備える。そして、こられ第1コイル部211と第2コイル部212とは、閉回路を構成する。
【0006】
この軌道用コイル210では、車両100が軌道T上を進行することにより、当該車両100に設けられた磁石102が形成する磁場による誘導電流が流れる。このとき、第1コイル部211と第2コイル部212とは、互いに導電線の巻回方向が逆であるため各コイル部211、212を流れる電流の向きが逆となり、異なる極性の磁場を形成する。その結果、下側の第2コイル部212と車両100の磁石102とが反発し、且つ上側の第1コイル部211と車両100の磁石102とが引き合い、これにより、軌道用コイル210は車両100を軌道T上に浮上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−166812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の軌道用コイル210では、車両100が軌道T上を進行する際の磁場変動によって、コイル線に沿った上記誘導電流だけでなく、素線の断面内にも局所的な渦電流が生じる。軌道用コイル210において渦電流が生じると、軌道用コイル210の温度上昇等によって渦電流損失が発生して当該軌道用コイル210のエネルギー効率が低下する。
【0009】
この軌道用コイル210に生じる渦電流は、当該軌道用コイル210を構成する導電線の電流の流れる部位(素線)の径をより小さくすることによってその発生を抑えることができる。
【0010】
しかし、素線の径(素線の断面積)を小さくして軌道用コイル210に生じる渦電流を抑えることができても、素線の径を小さくするとコイル抵抗(銅損)が大きくなって浮上力を生じさせる誘導電流が導電線を流れ難くなり、これにより、軌道用コイル210のエネルギー効率が低下する。
【0011】
そこで、上記問題点に鑑み、エネルギー効率の高い磁気浮上式鉄道の軌道用コイル及び軌道用コイルセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の発明により達成されることを見出した。即ち、本発明の一態様にかかる磁気浮上式鉄道の軌道用コイルは、磁気浮上式鉄道用車両の軌道に沿って設置されるコイルであって、長尺の導電部材が巻回される第1コイル部と、前記第1コイル部の下側に配置され、前記導電部材が前記第1コイル部と逆方向に巻回される第2コイル部と、を備える。そして、前記導電部材は、その幅寸法が厚さ寸法よりも大きい帯状形状を有し、前記第1コイル部は、前記導電部材の幅方向が当該第1コイル部の軸方向と平行で且つ当該第1コイル部の径方向において隣り合う導電部材間に絶縁層が位置するよう前記導電部材が巻回されることにより構成され、前記第2コイル部は、前記導電部材の幅方向が当該第2コイル部の軸方向と平行で且つ当該第2コイル部の径方向において隣り合う導電部材間に絶縁層が位置するよう前記導電部材が巻回されることにより構成され、前記第1コイル部及び前記第2コイル部は、互いの軸方向が平行となるように上下に並び且つ閉回路を構成するように互いに接続された状態で各コイル部の軸方向が磁気浮上式鉄道における軌道の法線方向と交差するように配置される。
【0013】
本発明に係る軌道用コイルによれば、導電部材の断面内に生じる渦電流の発生を効果的に抑えて渦電流損失を抑制しつつ各コイル部における誘導電流の流れる部位(導電部材)の断面積(誘導電流の流れる向きに対して直交する断面の面積)を幅方向に確保することにより、エネルギー効率の向上を効果的に図ることができる。
【0014】
具体的には、各コイル部(第1コイル部及び第2コイル部)の軸方向が磁気浮上式鉄道における軌道の法線方向と交差するように軌道用コイルが軌道に沿って配置されることにより、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより形成される磁場の磁力線(磁束線)は各コイル部と鎖交する。このとき、導電部材において磁力線と直交する面の面積に比例して渦電流が生じるが、帯状形状の導電部材の幅方向とコイル部の軸方向とが平行であるため、導電部材の幅方向が前記磁力線と沿った方向となり、その結果、磁力線に直交する面(厚さ方向に拡がる面)の面積が幅方向に広がる面に比べて小さくなる。このため、各コイル部の導電部材における渦電流の発生が抑えられ、これにより当該軌道用コイルにおける渦電流損失が抑制される。しかも、帯状形状の導電部材が絶縁層を挟んで積層されているため、図9(A)及び図9(B)に示されるように、細線状の導体(素線)の周囲を絶縁部材で被覆した導電線により構成される従来の軌道用コイルに比べて、各コイル部の断面積(誘導電流が流れる方向と直交する断面の面積)における電流が流れる部位の面積が大きくなる。このため、各コイル部において誘導電流が流れ易くなり、当該軌道用コイルにおけるエネルギー効率がより向上する。
【0015】
また、第1コイル部と第2コイル部とが閉回路を形成することにより、外部から給電することなく、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することによって生じる磁場変動に起因する誘導電流を有効に利用して磁気浮上車両を軌道上に浮上させる磁場を発生させることができる。
【0016】
各コイル部は、当該コイル部の単位断面積当たりに流れる電流の電流密度が当該コイル部の径方向における他の領域よりも小さい領域をそれぞれ有することが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより形成される磁場の磁力線が当該コイル部と鎖交したときに、前記径方向における全ての領域が同じ電流密度で電流の流れるコイル部に比べ、磁気浮上式鉄道用車両の磁石に加わる浮上力(磁気浮上式鉄道車両を持ち上げる方向の力)が大きくなる。
【0018】
この径方向において電流密度が他の領域よりも小さい領域を有するコイル部の具体的な構成としては、例えば、各コイル部は、当該コイル部がその径方向に分割されたように並ぶ複数の分割コイルによって構成され、共通のコイル部において、前記径方向に隣り合う分割コイル同士は、内側の分割コイルの外周面における周方向の少なくとも一部が外側の分割コイルの内周面と離間した状態となるように配置されていてもよい。このように、内側の分割コイルの外周面と外側の分割コイルの内周面とが離間している領域では、電流が流れないため電流密度が小さくなる。
【0019】
さらに、前記第1コイル部及び前記第2コイル部は、磁性体を備え且つその幅寸法が厚さ寸法よりも大きい帯状形状を有する磁性部材をそれぞれ有し、前記磁性部材は、前記第1コイル部及び前記第2コイル部において前記導電部材と共巻きされることが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、各コイル部内に磁気異方性を有する部位を設けて導電部材の内部を通過する磁力線の数を減らすことにより、導電部材における渦電流の発生をより効果的に抑制することができる。即ち、導電部材よりも透磁率の高い磁性部材の方が磁力線を通し易く、このため、磁性部材を導電部材と共巻きすることによって各コイル部内に入った磁力線を磁性部材に集中させて導電部材の内部を通過する磁力線の数を低減させることができる。これにより、導電部材における渦電流の発生を効果的に抑えることができる。
【0021】
この場合、前記導電部材の厚さ寸法は、当該導電部材に磁気浮上式鉄道用車両の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下であり、前記磁性部材の厚さ寸法は、当該磁性部材に前記磁気浮上式鉄道用車両の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下であることがより好ましい。
【0022】
帯状形状の導電部材が巻回されたコイルに所定の周波数以上の交流電流が流れた場合、電流は、導電部材の表面から表皮深さ(スキンデプス:skin depth)までの領域内を流れる。このため、導電部材の厚さ寸法を表皮深さ以下にする(即ち、導電部材を、磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を通過することにより各コイル部に生じる誘導電流が流れる部位だけにする)ことにより、導電部材の内部を誘導電流が流れるときの抵抗を増大させることなく軌道用コイルの小型化、若しくは、導電部材を構成する材料の削減を図ることができる。
【0023】
また、物質に入射した電磁場は、物質の内側に入るほど減衰し、表皮深さよりも内側(深い領域)に入り難い。このため、磁性部材の厚さ寸法を表皮深さ以下にすることによって磁場が入り難い領域を減らし、これにより、磁性部材を構成する材料の削減を図ることができる。
【0024】
前記軌道用コイルは、磁性体によって形成され、前記導電部材の幅方向における前記第1コイル部と前記第2コイル部との一方側の端部同士を当該第1コイル部の軸と第2コイル部の軸との並び方向に接続するバックヨーク部をさらに備えることが好ましい。
【0025】
このようなバックヨーク部を設けることにより、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより発生する磁場の磁力線であって各コイル部と鎖交する磁力線の数が増加して導電部材の幅方向に磁力線の方向が揃うと共に、軌道外への漏れ磁束も低減する。これにより、磁気浮上式鉄道用車両がより大きな浮上力を得ることができると共に、磁気浮上式鉄道の複線区間において隣接する軌道への磁場の影響を効果的に低減することができる。
【0026】
しかも、磁気浮上式鉄道用車両が浮上することによって各コイル部に加わる力をバックヨーク部を設けてこれに支持させることにより、各コイル部の前記力に対する負担を低減させ、これにより前記力に起因する各コイル部の劣化を抑制することができる。
【0027】
前記バックヨーク部は、磁性体により形成された複数の板状部材がその厚さ方向に積層されることにより構成され、前記厚さ方向は、前記各コイル部の軸とそれぞれ直交し且つ前記各コイル部の軸の並び方向と直交する方向であることが好ましい。
【0028】
バックヨーク部をこのような複数の板状部材の積層構造にすることによって、磁気異方性を有する部位を設けた各コイル部の透磁率を改善することができ、これにより、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより形成される磁場の磁力線であって各コイル部と鎖交する磁力線の数をより増加させることができる。
【0029】
この場合、前記板状部材の厚さ寸法は、当該板状部材に前記磁気浮上式鉄道の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下であることがより好ましい。
【0030】
このような厚さ寸法として板状部材内における磁力線が通過し難い部位をなくすことにより前記各コイル部における透磁率の改善をより促進させ、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が軌道上を進行することにより形成される磁場の磁力線であって各コイル部と鎖交する磁力線の数をより増大させることができる。
【0031】
また、本発明の一態様にかかる磁気浮上式鉄道の軌道用コイルセットは、上記いずれかの軌道用コイルであって一対の軌道用コイルと、両コイル部を前記磁気浮上式鉄道の軌道側に向けて当該軌道を当該軌道の幅方向から挟むように前記一対の軌道用コイルが配置されたときに、当該一対の軌道用コイルのバックヨーク部における上端部同士の間隔を保つための補強部と、を備える。
【0032】
かかる構成によれば、磁気浮上式鉄道の軌道を挟んで対向する一対の軌道用コイル間の間隔を確実に保つことができる。
【発明の効果】
【0033】
以上より、本発明によれば、エネルギー効率の高い磁気浮上式鉄道の軌道用コイル及び軌道用コイルセットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1実施形態に係る軌道用コイルの配置状態を示す図である。
【図2】磁気浮上式鉄道の軌道を挟んで配置される一対の軌道用コイルの接続状態を示す斜視図である。
【図3】前記軌道用コイルを構成するコイル線材を説明するための図である。
【図4】銅と鉄の表皮深さと前記銅と鉄に流れる電流の周波数との関係を示す図である。
【図5】前記軌道用コイルのコイル本体の概略構成図である。
【図6】他実施形態における各コイル部と第1接続部との接続状態を説明するための図である。
【図7】磁気浮上式鉄道の軌道を挟んで配置される一対の軌道用コイルの接続状態を示す図であって、(A)は第3接続部による接続状態を示す図であり、(B)は第4接続部による接続状態を示す図である。
【図8】補強部及びバックヨーク部に働く力を説明するための図である。
【図9】軌道用コイルの一部拡大断面図であって、(A)は従来の軌道用コイルの断面図であり、(B)は本実施形態に係る軌道用コイルの断面図である。
【図10】第2実施形態に係る軌道用コイルにおけるコイル本体の概略構成図である。
【図11】本実施形態に係る軌道用コイルが配置された軌道上を、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行したときに形成される磁場を示す図である。
【図12】従来の軌道用コイルが配置された軌道上を、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行したときに形成される磁場を示す図である。
【図13】バックヨーク部がない軌道用コイルが配置された軌道上を、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行したときに形成される磁場を示す図である。
【図14】(A)は、第1コイル部と第2コイル部とが近接した状態のコイル本体の正面図であり、(B)は、第1コイル部と第2コイル部とが離れた状態のコイル本体の正面図であり、(C)は、第1コイル部と第2コイル部との間隔が、図14(A)のコイル本体と図14(B)のコイル本体との中間であるコイル本体の正面図である。
【図15】(A)は、図14(A)に示すコイル本体が配置された軌道上を、車体コイルを備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図であり、(B)は、図14(B)に示すコイル本体が配置された軌道上を、車体コイルを備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図であり、(C)は、図14(C)に示すコイル本体が配置された軌道上を、車体コイルを備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図16】(A)は、第1コイル部の内側コイル下部と外側コイル下部とが接し、第2コイル部の内側コイル上部と外側コイル上部とが接したコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図であり、(B)は、第1コイル部(第2コイル部)の内側コイルと外側コイルとが全周に亘って離間したコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図17】第2コイル部の中央縦断面位置における内側コイル下部の断面積(厚さ)と外側コイル下部の断面積(厚さ)との比を説明するための図である。
【図18】図17のCase1のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図19】図17のCase2のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図20】図17のCase3のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図21】図17のCase4のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図22】図17のCase5のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図23】図17のCase6のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図24】図17のCase7のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイルに働く浮上力と、を示す図である。
【図25】従来の軌道用コイルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の第1実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0036】
本実施形態の軌道用コイルは、所謂リニアモーターカー等の磁気浮上式鉄道用車両(以下、単に「車両」とも称する。)を軌道上に浮上させる磁場を形成するのに用いられる。この軌道用コイルは、図1及び図2に示されるように、車両100の通過する軌道Tの両側に配置される。具体的には、軌道Tをその幅方向から挟むように配置される一対の軌道用コイル10、10(軌道用コイルセット)が、当該軌道Tに沿って間隔をおいて複数配置される。尚、本実施形態において軌道Tとは、車両100の移動経路に沿って延び、その上側を車両100が進行する面のことをいう。
【0037】
この軌道用コイル10は、長尺のコイル線材12によって構成されるコイル本体20と、コイル本体20に取り付けられるバックヨーク部30とを備える。
【0038】
コイル線材12は、幅寸法が厚み寸法よりも大きい帯状形状を有し、図3にも示されるように、複数の線材(本実施形態の例では3つの線材)14、14、…が積層されることにより形成される。具体的に、コイル線材12は、導電テープ(導電部材)14aと、磁性テープ(磁性部材)14bと、絶縁性テープ14cと、を備える。これら各テープ14a、14b、14cの幅寸法は等しい。そのため、コイル線材12を幅方向から見ると、各テープ14a、14b、14cの幅方向の端面が露出している。
【0039】
導電テープ14aは、導電材料により形成され、その幅寸法が厚み寸法よりも大きい帯状形状を有する。この導電テープ14aは、幅寸法をwa、厚み寸法をtaとしたときに、ta/wa=1/10となることが好ましいが、wa>taであればよく、例えば、ta/wa=2/3やta/wa=1/5等であってもよい。
【0040】
帯状形状(テープ状)の導体に所定の周波数以上の交流電流が流れた場合、電流は、帯状形状の導体の表面から、導体(導体を構成する部材)の導電率と透磁率とに対応した表皮深さ(スキンデプス:skin depth)δまでの領域に集中して流れる。このため、本実施形態の導電テープ14aの厚さ寸法は、表皮深さδ以下とする。これにより、導電テープ14aの内部を誘導電流が流れるときの抵抗を増大させることなく軌道用コイル10の小型化、若しくは、導電テープ14aを構成する材料を削減して省コスト化を図ることができる。尚、より高い効率を目指すには、車両100が軌道T上を進行したときに軌道用コイル10に生じる誘導電流の周波数(車両100の駆動周波数)の高調波に対する渦電流も抑制する必要がある。その場合、導電テープ14aの厚さ寸法は、駆動周波数の5倍程度の高調波が導電テープ14aに流れたときの表皮深さδ以下であることが好ましい。
【0041】
この導電テープ14aの表皮深さδ1は、下記の式(1)により求められる。
【0042】
【数1】
ここで、ρは導電率[S/m]であり、μは透磁率[H/m]であり、fは交流電流の周波数[Hz]である。
【0043】
本実施形態の導電テープ14aは、例えば、銅(Cu)によって形成される。導電テープ14aが銅の場合、導電率は、ρ=58×106[S/m]である。また、銅は非磁性体であるため、透磁率は空気中の透磁率とほぼ等しくなり、μ≒4π×10−7[H/m]である。また、下記の表1に示されるように、車両100が軌道T上を例えば時速500km/hで進行したときに、軌道用コイル10に生じる誘導電流の周波数(車両100の駆動周波数)は、10[Hz]となる。この場合、導電テープ14aの表皮深さδ1は、上記式(1)から、約20mmとなる(図4参照)。
【0044】
【表1】
導電テープ14aの厚さ寸法は、表皮深さδ1の1/2以下が好ましく、本実施形態の例では、5mmである。尚、導電テープ14aの厚さ寸法は、表皮深さ(本実施形態の例では20mm)δ1の1/2以下に限定されず、表皮深さδ1以下であればよい。
【0045】
磁性テープ14bは、磁性体により形成され、その幅寸法が厚み寸法よりも大きい帯状形状を有する。この磁性テープ14bは、幅寸法をwb、厚み寸法をtbとしたときに、導電テープ14aと同様にtb/wb=1/10となることが好ましいが、wb>tbであればよく、例えば、tb/wb=2/3やtb/wb=1/5等であってもよい。
【0046】
磁性テープに入射した電磁場は、磁性テープの内側に入るほど減衰して表皮深さよりも内側(深い領域)に入り難い。このため、本実施形態の磁性テープ14bの厚さ寸法は、導電テープ14aと同様に、表皮深さδ以下とする。これにより、磁性テープ14bにおける磁場が入り難い領域を減らし、当該磁性テープ14bを構成する材料の削減を図ることができる。
【0047】
本実施形態の磁性テープ14bは、例えば、鉄(Fe:例えば、純鉄、商用純鉄、低炭素鋼等)によって形成される。磁性テープ14bが鉄の場合、導電率は、ρ=1.0×105[S/m]である。また、鉄の透磁率は、μ=π×10−2[H/m]である。また、上記同様に、車両が軌道上を例えば時速500km/hで進行したときに、軌道用コイル10に生じる誘導電流の周波数(車両100の駆動周波数)は、10[Hz]である(表1参照)。この場合、磁性テープ14bの表皮深さδ2は、上記式(1)から、約2mmとなる(図4参照)。
【0048】
磁性テープ14bの厚さ寸法は、表皮深さδ2以下であればよく、本実施形態の例では、2mmである。
【0049】
絶縁性テープ14cは、樹脂やアモルファス等の絶縁材料により形成され、その幅寸法が厚み寸法よりも大きい帯状形状を有する。絶縁性テープ14cの厚さ寸法は、コイル線材12がその厚さ方向に積層されたときに、積層方向に隣り合う導電テープ14a、14a間が絶縁状態となる大きさであればよい。
【0050】
コイル本体20は、第1コイル部21と、第2コイル部22と、これら第1コイル部21及び第2コイル部22を接続するコイル部間接続部23と、を備える。
【0051】
第1コイル部21は、コイル線材12が巻回されることにより形成される。具体的に、第1コイル部21は、帯状形状を有するコイル線材12の幅方向が第1コイル部21の軸c1方向(図5において紙面と直交する方向)と平行になるようにコイル線材12が巻き重ねられて形成される。本実施形態の第1コイル部21は、コイル線材12を例えば20ターン巻き重ねることにより形成されている。
【0052】
このように導電テープ14aと磁性テープ14bと絶縁性テープ14cとが積層されたコイル線材12が巻回される(巻き重ねられる)ことにより、第1コイル部21において当該第1コイル部21の径方向に隣り合う導電テープ14a、14a間に絶縁性テープ14cが挟みこまれ、これにより前記導電テープ14a,14a間が絶縁状態となる。また、導電テープ14aと磁性テープ14bとが積層されたままで巻き重ねられているため、第1コイル部21において磁性テープ14bが導電テープ14aと共巻きされた状態となっている。
【0053】
本実施形態の第1コイル部21では、当該第1コイル部21の軸c1方向から見たときに、水平方向に長いレーストラック形状となるようにコイル線材12が巻回される。このレーストラック形状とは、陸上競技等において走者が周回するトラック(racetrack)のような形状のことをいい、具体的には、互いに平行且つ同一長さの一対の直線の端部同士を半円によって接続した形状である(図3及び図5参照)。
【0054】
第2コイル部22は、第1コイル部21の下側に配置され、第1コイル部21と逆方向にコイル線材12が巻回されることにより形成される。図5に示される例では、第1コイル部21においてコイル線材12が時計回りに巻回され、第2コイル部22においてコイル線材12が反時計回りに巻回されている。第2コイル部22は、帯状形状を有するコイル線材12の幅方向が第2コイル部22の軸c2方向(図5において紙面と直交する方向)と平行になるようにコイル線材12が巻き重ねられて形成される。本実施形態の第2コイル部22は、コイル線材12を例えば20ターン巻き重ねることにより形成されている。
【0055】
このように導電テープ14aと磁性テープ14bと絶縁性テープ14cとが積層されたコイル線材12が巻回されることにより、第2コイル部22においても、第1コイル部21同様に、当該第2コイル部22の径方向に隣り合う導電テープ14a、14a間に絶縁性テープ14cが挟みこまれ、これにより前記導電テープ14a,14a間が絶縁状態となる。また、導電テープ14aと磁性テープ14bとが積層されたままで巻き重ねられているため、第2コイル部22において磁性テープ14bが導電テープ14aと共巻きされた状態となっている。
【0056】
本実施形態の第2コイル部22では、第1コイル部21同様に、当該第2コイル部22の軸c2方向から見たときに、水平方向に長いレーストラック形状となるようにコイル線材12が巻回される。
【0057】
以上の第1コイル部21と第2コイル部22とは、互いの軸c1、c2方向が平行となるように特定の垂直面(図5に示す例では紙面)に沿って上下に並ぶ。このとき、第1のコイル部21と第2のコイル部22との上下方向の間隔が小さい程、当該コイル本体20が配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなる。このため、第1のコイル部21の下端と第2のコイル部22の上端とが密着している構成が好ましい。
【0058】
コイル部間接続部23は、閉回路を構成するように第1コイル部21と第2コイル部22とを互いに接続する。具体的に、コイル部間接続部23は、第1接続部23aと、第2接続部23bとを有する。第1接続部23aは、第1コイル部21の径方向内側に位置するコイル線材12の端部と、第2コイル部22の径方向内側に位置するコイル線材12の端部とを接続する。また、第2接続部23bは、第1コイル部21の径方向外側に位置するコイル線材12の端部と、第2コイル部22の径方向外側に位置するコイル線材12の端部とを接続する。本実施形態の第2接続部23bは、両コイル部21、22に用いられるコイル線材12と一体的に形成され、帯状のコイル線材12がひねられることなくその幅面を保った状態で第1コイル部21の最外層と第2コイル部22の最外層とを滑らかに接続する。
【0059】
本実施形態のコイル部間接続部23は、両コイル部21、22に用いられるコイル線材12と同じ線材により構成されるが、これに限定されず、通常の(即ち、帯状形状でない断面円形の)電線等であってもよい。即ち、コイル部間接続部23は、第1コイル部21を構成するコイル線材12と第2コイル部22を構成するコイル線材12とを接続して閉回路を形成できればよい。
【0060】
尚、本実施形態の第1接続部23aと、各コイル部21、22の内側に位置するコイル線材12の端部との接続部は、図2に示されるように線材同士を接続するようにしてもよい。また、図6に示されるように、各コイル部21、22と第1接続部23aとが一本のコイル線材12を折り曲げることによって構成されてもよい。
【0061】
また、本実施形態のように各コイル部21、22と第2接続部23bとが一本のコイル線材12によって構成されてもよく、第1コイル部21と第2コイル部22と第2接続部23bとが別部材によって構成されてもよい。
【0062】
バックヨーク部30は、磁性体によって形成され、コイル線材12の幅方向における第1コイル部21と第2コイル部22との一方側の端部同士を接続する。このとき、コイル線材12の幅方向の端面において、導電テープ14aの端面が露出しているため、導電テープ14aに生じた熱がバックヨーク部30に伝わる。これにより、各コイル部21、22において誘導電流が生じたときの熱による当該コイル部21、22の温度上昇を防ぐことができる。このバックヨーク部30は、複数の板状部材32、32、…が積層されることにより形成される。
【0063】
板状部材32は、磁性体によって形成され、第1コイル部21の軸c1と第2コイル部22の軸c2との並び方向(図2における上下方向)、及び各コイル部21、22の軸c1、c2方向に沿って拡がる部材である。本実施形態の板状部材32は、各コイル部21、22の軸c1、c2の並び方向に長い矩形状の板である。この板状部材32は、例えば、鉄粉を混ぜたコンクリート等によって形成される。尚、板状部材32は、磁性を有していればよく、例えば、珪素鋼板などの一般磁性鋼板や、構造用炭素鋼等であってもよい。
【0064】
この板状部材32の厚さ寸法は、当該板状部材32の抵抗率と透磁率とに対応した表皮深さδ3以下である。尚、本実施形態の板状部材32の厚さ寸法は、板状部材32が各コイル部21、22よりも透磁率の小さい素材によって形成されているため、各コイル部21、22の磁性テープ14bの厚さ寸法よりも大きい。また、板状部材32の表皮深さδ3は、上記式(1)から求められる。
【0065】
このような板状部材32は、各コイル部21、22の軸c1、c2とそれぞれ直交し且つ各コイル部21、22の軸c1、c2の並び方向に直交する方向(図2において左右方向)に積層される。即ち、複数の板状部材32、32、…がその厚さ方向に積層されることにより、バックヨーク部30が形成される。本実施形態のバックヨーク部30は、各コイル部21、22同士を接続する第1接続部23aが配置できるよう、第1接続部23aに対応する位置において板状部材32、32間に隙間sを設けている。尚、この第1接続部23a等を配置するための隙間sは、バックヨーク部30の上下方向の全体に亘って形成されているが、これに限定されない。バックヨーク部30の上下方向の一部に形成されていてもよい。また、バックヨーク部30に、第1接続部23aの端部を各コイル部21、22の内側に引き込むための孔が設けられていてもよい。
【0066】
以上のように構成される軌道用コイル10は、上記のように磁気浮上式鉄道の軌道Tをその幅方向から挟むように対向配置される。具体的に、一対の軌道用コイル10、10(軌道用コイルセット)は、図7(A)及び図7(B)に示されるように、第1コイル部21と第2コイル部22とが上下に並び、軌道T上を通過(進行)する車両100側にコイル本体20を向けた姿勢でそれぞれ配置される。詳しくは、各軌道用コイル10は、コイル本体20を軌道T側に向け、各コイル部21、22の軸c1、c2方向が軌道Tの法線方向と交差(本実施形態の例では、直交)する姿勢で軌道Tに沿って配置される。そして、一対の軌道用コイル10、10の第1接続部23a、23a同士が第3接続部40によって接続され(図7(A)参照)、第2コイル部22の径方向の最も外側に位置するコイル線材12同士が第4接続部42によって接続される(図7(B)参照)。これら第3接続部40及び第4接続部42は、コイル線材12と同じ線材である。これら第3接続部40及び第4接続部42は、車両100が軌道T上を進行することにより発生する磁場の磁力線の向きと平行になるように配置されることによって、当該接続部40、42における渦電流の発生を抑制して渦電流損失を防いでいる。
【0067】
このように対向配置されたコイル本体20、20同士が第3接続部40及び第4接続部42によって接続されることにより、対向する第1コイル部21、21同士が閉回路を形成すると共に対向する第2コイル部22、22同士が閉回路を形成する。
【0068】
このように配置された軌道用コイル10には、図8に示されるように、バックヨーク部30の上端部と、軌道面(軌道Tを含む面)とを繋ぐ支持部材(補強部)44が取り付けられる。この支持部材44は、対向配置された一対の軌道用コイル10、10のバックヨーク部30における上端部同士の間隔を保つための補強部材である。具体的には、車両100が軌道T上に浮上したときに、車両100(軌道T)を挟んで対向するバックヨーク部30、30の上端部同士が接近する方向の力がバックヨーク部30に加わる。この力は、車両100が軌道T上に浮上するために第1コイル部21と車両100の車体コイル102とが引き合うことにより生じる。そこで、支持部材44を設けることにより、バックヨーク部30に前記上端部同士が接近する方向の力が加わっても、車両100(軌道T)を挟んで対抗する一対のコイル本体20、20間の間隔を確実に保つことが出来る。尚、支持部材44は、対向するバックヨーク部30、30の上端部同士の間隔を保つことが出来ればよく、バックヨーク部30の上端部と軌道面とを繋ぐ部材でなくてもよい。例えば、支持部材44Aは、図8において一点鎖線で示されるような架橋部材により構成されてもよい。
【0069】
以上のような軌道用コイルセット(一対の軌道用コイル10、10)が軌道Tに沿って等間隔に配置される。この軌道用コイルセットは、例えば、表1に示されるように、車両100が時速500km/hで軌道T上を進行したときに、各軌道用コイル10に生じる誘導電流の周波数が10Hzとなるような間隔で軌道Tに沿って配置される。
【0070】
以上の軌道用コイル10は、以下のようにして車両100を軌道T上に浮上させると共に、軌道Tに沿って車両100を案内する。
【0071】
側面に車体コイル(例えば、超電導マグネット等)102を備えた車両100が軌道T上を進行すると、その磁場変動により、各軌道用コイル10に誘導電流が生じる。このとき、第1コイル部21と第2コイル部22とにおけるコイル線材12の巻回方向が逆であるため、第1コイル部21において生じる誘導磁場と第2コイル部22において生じる誘導磁場との極性は、互いに逆になっている(図8に示される例では、第1コイル部21がN極で、第2コイル部22がS極)。そして、第1コイル部21と車体コイル102とが引き合い且つ第2コイル部22と車体コイル102とが反発し合うよう、車体コイル102の軌道用コイル側がS極となるようにすると、車両100が第1コイル部21に引き上げられると共に第2コイル部22に押し上げられる。これにより、車両100が軌道T上に浮上する。
【0072】
また、車両100が軌道Tの幅方向において中央から一方側にずれると軌道Tを挟んで対向する一対の軌道用コイル10が形成する誘導磁場の大きさが変化し、これにより、車両100が軌道Tの幅方向中央に戻される。その結果、車両は、軌道用コイル10によって軌道Tの中央を進むように案内される。詳しくは、以下に説明する。
【0073】
対向する一対の軌道用コイル10、10が第3接続部40と第4接続部42とによってそれぞれ接続されることにより、対向する第1コイル部21、21同士、及び対向する第2コイル部22、22同士が閉回路をそれぞれ形成する。ここで、車両100が軌道Tの幅方向において中央から一方側にずれると、軌道用コイル10と車体コイル102との間隔が左右(幅方向)において異なった状態となる。そうすると、車両100を挟んで対向するコイル部21、21及び22、22同士において異なる大きさの誘導電流が生じるが、第3接続部40及び第4接続部42によって対向するコイル部21、21及び22、22同士が閉回路となっているため、第3接続部40及び第4接続部42を通じてコイル部21、21及び22、22間に電流が流れる。これにより、左右のコイル部21、21及び22、22において異なる大きさの誘導磁場が形成され、その結果、車両100が軌道Tの幅方向中央に押し戻される。
【0074】
以上のような軌道用コイル10によれば、導電テープ12aの断面内に生じる渦電流の発生を効果的に抑えて渦電流損失を抑制しつつ各コイル部21、22における誘導電流の流れる部位(導電テープ14a)の断面積(誘導電流の流れる向きに対して直交する断面の面積)を幅方向に確保することにより、エネルギー効率の向上を効果的に図ることができる。
【0075】
具体的には、第1コイル部21の軸c1及び第2コイル部22の軸c2が軌道Tの幅方向に沿うように軌道用コイル10を軌道Tに沿って配置した場合、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することにより形成される磁場の磁力線は、各コイル部21、22と鎖交する。このとき、磁力線と直交する面の面積に比例して渦電流が生じるが、帯状形状の導電テープ14aの幅方向とコイル部21、22の軸c1、c2方向とが平行であるため、導電テープ14aの幅方向が前記磁力線と沿った方向となり、その結果、磁力線に直交する面(導電テープ14aの厚さ方向に拡がる面)の面積が幅方向に広がる面に比べて小さくなる。このため、各コイル部21、22の導電テープ14aにおいて渦電流の発生が抑えられ、これにより当該軌道用コイル10における渦電流損失が抑制される。しかも、帯状形状の導電テープ14aが絶縁層(絶縁性テープ14c)を挟んで積層されているため、図9(A)及び図9(B)に示されるように、従来の細線状の導体(素線)の周囲を絶縁部材で被覆した導電線により構成されるコイルに比べて、各コイル部の断面積(誘導電流が流れる方向と直交する断面の面積)における電流が流れる部位(導電テープ14a又は前記細線状の導体(素線))の面積が大きくなる。このため、当該軌道用コイル10の各コイル部21、22において誘導電流が流れ易くなり、当該軌道用コイル10におけるエネルギー効率がより向上する。
【0076】
また、上記の軌道用コイル10では、第1コイル部21の最外層から巻き出た第2接続部23b(帯状のコイル線材12)がひねられることなくその幅面を保った状態で第2コイル部22の最外層と滑らかに接続され、第1コイル部21と第2コイル部22とが閉回路を形成する。これにより、外部から給電することなく、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することによって生じる磁場変動に起因する誘導電流を有効に利用して車両100を軌道T上に浮上させる磁場を発生させることができる。
【0077】
また、本実施形態の軌道用コイル10では、磁性テープ14bを導電テープ14aと共巻きすることによって各コイル部21、22内に磁気異方性を有する部位を設けて導電テープ14aの内部を通過する磁力線の数を減らすことにより、導電テープ14aにおける渦電流の発生をより効果的に抑制することができる。即ち、導電テープ14aよりも透磁率の高い磁性部材(本実施形態の例では磁性テープ14b)の方が磁力線を通し易く、このため、磁性テープ14bを導電テープ14aと共巻きすることによって各コイル部21、22内に入った磁力線を磁性テープ14bに集中させて導電テープ14aの内部を通過する磁力線の数を低減させることができる。これにより、導電テープ14aにおける渦電流の発生を効果的に抑えることができる。
【0078】
帯状形状の導電部材が巻回されたコイルに所定の周波数以上の交流電流が流れた場合、電流は、表面から表皮深さδまでの領域内を流れる。このため、本実施形態の軌道用コイル10では、導電テープ14aの厚さ寸法を表皮深さδ1以下にする(即ち、導電テープ14aを、車両100が軌道T上を通過することによって各コイル部21、22に生じる誘導電流が流れる部位だけにする)ことにより、導電テープ14aの内部を誘導電流が流れるときの抵抗を増大させることなく軌道用コイル10の小型化、若しくは、導電テープ14aを構成する材料の削減を図ることができる。
【0079】
また、物質に入射した電磁場は、物質の内側に入るほど減衰し、表皮深さよりも内側(深い領域)には入り難い。このため、本実施形態の軌道用コイル10では、磁性テープ14bの厚さ寸法を表皮深さδ2以下にすることによって磁場が入り難い領域を減らし、これにより、磁性テープ14bを構成する材料(本実施形態の例では鉄)の削減を図ることができる。
【0080】
また、本実施形態の軌道用コイル10では、バックヨーク部30を設けることにより、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することにより発生する磁場の磁力線であって各コイル部21、22と鎖交する磁力線の数が増加して導電テープ12aの幅方向に磁力線の方向が揃うと共に、軌道T外への漏れ磁束も低減する。これにより、車両100がより大きな浮上力を得られると共に、磁気浮上式鉄道の複線区間において隣接する軌道への磁場の影響を効果的に低減することができる。
【0081】
しかも、車両100が浮上することによって各コイル部21、22に加わる力をバックヨーク部30を設けてこれに支持させることにより、各コイル部21、22の前記力に対する負担を低減させ、これにより前記力に起因する各コイル部21、22の劣化を抑制することができる。
【0082】
バックヨーク部30を複数の板状部材32が軌道Tに沿った方向(車両100の進行方向)に積層された構造とすることによって、磁気異方性を有する部位(本実施形態の例では磁性テープ14b)を設けた各コイル部21、22の透磁率を改善することができ、これにより、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することにより形成される磁場の磁力線であって各コイル部21、22と鎖交する磁力線の数をより増加させることができる。
【0083】
また、バックヨーク部30を構成する板状部材32の厚さ寸法を表皮深さδ3以下にして板状部材32内における磁力線が通過し難い部位をなくすことにより前記各コイル部21、22における透磁率の改善をより促進させることができる。その結果、車体コイル102を備えた車両100が軌道T上を進行することにより形成される磁場の磁力線であって各コイル部21、22と鎖交する磁力線の数をより増大させることができる。
【0084】
次に、本発明の第2実施形態について図10を参照しつつ説明するが、上記第1実施形態と同様の構成には同一符号を用いると共に詳細な説明を省略し、異なる構成ついてのみ詳細に説明する。
【0085】
本実施形態に係るコイル本体20Aは、第1実施形態のコイル本体20に対し、各コイル部(第1コイル部21A及び第2コイル部22A)の構成が異なる。
【0086】
第1コイル部21Aは、複数の分割コイル121、121、…と、コイル接続部123と、を有する。本実施形態の第1コイル部21Aは、2つの分割コイル121、121を有する。以下では、第1コイル部21Aの径方向において、内側の分割コイル121を内側コイル121aとも称し、外側の分割コイル121を外側コイル121bとも称する。
【0087】
尚、第1コイル部21Aにおける分割コイルの数は、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0088】
各分割コイル121a、121bは、第1コイル部21Aがその径方向に分割されたように並んでいる。詳しくは、内側コイル121aの中心軸と外側コイル121bの中心軸とが平行で、且つ、外側コイル121bが内側コイル121aを当該内側コイル121aの周方向に囲むように配置されている。
【0089】
各コイル121a、121bは、コイル線材12が巻回されることにより形成され、内側コイル121aを形成するコイル線材12と外側コイル121bを形成するコイル線材12とは、同じ方向に巻回されている。
【0090】
本実施形態の第1コイル部21Aでは、内側コイル121aが外側コイル121bに対して下方側に偏って配置されている。即ち、外側コイル121bの中心軸C12に対して内側コイル121aの中心軸C11が下方側にずれている。 尚、この外側コイル121bの中心軸C12に対する内側コイル121aの中心軸C11のずれ方向は、下方に限定されず、上方や側方、斜め方向等であってもよい。また、内側コイル121aの中心軸C11と外側コイル121bの中心軸C12とが一致してもよい。
【0091】
本実施形態の内側コイル121aと外側コイル121bとは、内側コイル121aの下部の外周面(底面)が外側コイル121bの下部の内周面(第1コイル部21Aの径方向内側の面)に接する(密着する)ように配置されている。これは、内側コイル121aの下部の外周面と、外側コイル121bの下部の内周面との間隔が小さい程、当該コイル本体20Aが配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなるためである。尚、内側コイル121aと外側コイル121bとは、内側コイル121aの外周面における周方向の少なくとも一部が外側コイル121bの内周面と離間した状態となるように配置されてもよく、また、コイル接続部123によって接続されている部位以外は、一切接していない配置(外側コイル121bの内周面と内側コイル121aの外周面とが全周に亘って離間した状態)でもよい。
【0092】
本実施形態の第1コイル部21Aでは、コイル本体20Aの中央縦断面において、外側コイル121bの上部の断面積(上部の上下方向の厚さ)と内側コイル121aの上部の断面積(上部の上下方向の厚さ)とが同じであるが、異なっていてもよい。異なる場合、前記中央縦断面において、外側コイル121bの上部の断面積(厚さ)が、内側コイル121aの上部の断面積(厚さ)より大きい構成が好ましい。これは、前記中央縦断面において、外側コイル121bの上部の断面積(厚さ)が、内側コイル121aの上部の断面積(厚さ)よりも大きい程、当該コイル本体20Aが配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなるためである。
【0093】
このように各分割コイル121が配置されることによって、第1コイル部21Aにおいて、当該コイル部21Aを流れる電流の電流密度が当該コイル部21Aの径方向における他の領域よりも小さい領域(本実施形態では内側コイル121aの外周面と外側コイル121bの内周面とが離間している領域)がそれぞれ形成される。
【0094】
尚、前記電流密度は、コイル線材12の単位断面積当たりに流れる電流ではなく、第1コイル部21Aの単位断面積当たりに流れる電流である。
【0095】
コイル接続部123は、内側コイル121aの径方向外側に位置するコイル線材12の端部と、外側コイル121bの径方向内側に位置するコイル線材12の端部とを接続する。
【0096】
第2コイル部22Aは、複数の分割コイル122、122、…と、コイル接続部123と、を有する。本実施形態の第2コイル部22Aは、第1コイル部21Aと同様、2つの分割コイル122、122を有する。以下では、第2コイル部22Aの径方向において、内側の分割コイル122を内側コイル122aとも称し、外側の分割コイル122を外側コイル122bとも称する。
【0097】
尚、第2コイル部22Aにおける分割コイルの数は、第1コイル部21Aと同様、2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
【0098】
各分割コイル122a、122bは、第1コイル部21Aと同様に、第2コイル部22Aがその径方向に分割されたように並んでいる。
【0099】
各コイル122a、122bは、コイル線材12が巻回されることにより形成され、内側コイル122aを形成するコイル線材12と外側コイル122bを形成するコイル線材12とは、同じ方向に巻回されている。
【0100】
本実施形態の第2コイル部22Aでは、内側コイル122aが外側コイル122bに対して上方側に偏って配置されている。即ち、外側コイル122bの中心軸C22に対して内側コイル122aの中心軸C21が上方側にずれている。尚、この外側コイル122bの中心軸C22に対する内側コイル122aの中心軸C21のずれ方向は、上方に限定されず、下方や側方、斜め方向等であってもよい。また、内側コイル122aの中心軸C21と外側コイル122bの中心軸C22とが一致してもよい。
【0101】
本実施形態の内側コイル122aと外側コイル122bとは、内側コイル122aの上部の外周面(底面)が外側コイル122bの上部の内周面(第2コイル部22Aの径方向内側の面)に接する(密着する)ように配置されている。これは、第1コイル部21Aと同様に、内側コイル122aの下部の外周面と、外側コイル122bの下部の内周面との間隔が小さい程、当該コイル本体20Aが配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなるためである。尚、内側コイル122aと外側コイル122bとは、内側コイル122aの外周面における周方向の少なくとも一部が外側コイル122bの内周面と離間した状態となるように配置されてもよく、また、コイル接続部123によって接続されている部位以外は、一切接していない配置(外側コイル122bの内周面と内側コイル122aの外周面とが全周に亘って離間した状態)でもよい。
【0102】
本実施形態の第2コイル部22Aでは、コイル本体20Aの中央縦断面において、外側コイル122bの下部の断面積(下部の上下方向の厚さ)と内側コイル122aの下部の断面積(下部の上下方向の厚さ)とが同じであるが、異なっていてもよい。異なる場合、前記中央縦断面において、外側コイル122bの下部の断面積(厚さ)が、内側コイル122aの下部の断面積(厚さ)より大きい構成が好ましい。これは、前記中央縦断面において、外側コイル122bの下部の断面積(厚さ)が、内側コイル122aの下部の断面積(厚さ)よりも大きい程、当該コイル本体20Aが配置された軌道T上を車両100が進行したときに当該車両100の車体コイル102に働く浮上力が大きくなるためである。
【0103】
このように各分割コイル122が配置されることによって、第2コイル部22Aにおいても、第1コイル部21と同様に、当該コイル部22Aを流れる電流の電流密度が当該コイル部22Aの径方向における他の領域よりも小さい領域(本実施形態では内側コイル122aの外周面と外側コイル122bの内周面とが離間している領域)がそれぞれ形成される。
【0104】
尚、第2コイル部22Aにおいても、第1コイル部21Aと同様、前記電流密度は、コイル線材12の単位断面積当たりに流れる電流ではなく、第2コイル部22Aの単位断面積当たりに流れる電流である。
【0105】
以上のようなコイル本体20Aを用いた軌道用コイル10によっても、第1実施形態の軌道用コイル10と同様に、導電テープ12aの断面内に生じる渦電流の発生を効果的に抑えて渦電流損失を抑制しつつ各コイル部21A、22Aにおける誘導電流の流れる部位(導電テープ14a)の断面積(誘導電流の流れる向きに対して直交する断面の面積)を幅方向に確保することにより、エネルギー効率の向上を効果的に図ることができる。
【0106】
また、本実施形態のコイル本体20Aを用いた軌道用コイル10によれば、車両100が軌道T上を進行することにより形成される磁場の磁力線が当該コイル部21A、22Aと鎖交したときに、第1実施形態のような径方向における全ての領域が同じ電流密度で電流の流れるコイル部21、22に比べ、車両100の車体コイル102に加わる浮上力(車両100を軌道Tから持ち上げる方向の力)が大きくなる。
【0107】
尚、本発明の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル、及び軌道用コイルセットは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0108】
上記実施形態では、コイル線材12は、導電テープ14aと磁性テープ14bと絶縁性テープ14cとが積層されることにより構成されているが、これに限定されない。例えば、コイル線材は、導電テープ(導電部材)14aと絶縁性テープ(絶縁部材)14cとが積層されることにより構成されてもよい。即ち、コイル線材を構成する導電部材(上記実施形態の例では導電テープ14a)が帯状形状を有し、この導電部材が、各コイル部21、22において、導電部材の幅方向が当該コイル部21、22の軸c1、c2方向と平行で且つ当該コイル部21、22の径方向において隣り合う導電部材間が絶縁状態となるように巻回されれば、渦電流の発生を効果的に抑えて渦電流損失を抑制しつつ各コイル部21、22における誘導電流の流れる部位の断面積を確保してエネルギー効率の向上を効果的に図ることができる。
【0109】
また、各コイル部21、22において、コイル部21、22の径方向に隣り合う導電テープ14a、14a間の絶縁を図る部材は、絶縁性テープ14cに限定されない。例えば、導電テープ14aや、導電テープ14aと磁性テープ14bとを積層したものを周方向に囲う絶縁材料で形成された被覆部材が前記絶縁を図る部材として用いられてもよい。また、導電テープ14aの両面や導電テープ14aと磁性テープ14bとを積層したものの両面が絶縁処理されてもよい。
【0110】
また、上記実施形態の各コイル部21、22の軸c1、c2方向から見た形状は、レーストラック型に限定されない。例えば、各コイル部の軸方向から見た形状は、四隅を丸くした四角形や、円形等でもよい。即ち、第1コイル部の導電部材の巻回方向と第2コイル部の導電部材の巻回方向とが互いに逆向きであり、これら第1コイル部と第2コイル部とにより閉回路が形成されていればよい。
【実施例1】
【0111】
ここで、上記第1実施形態の軌道用コイルが形成する磁場(誘導磁場)を評価するために、上記第1実施形態の軌道用コイルが配置された軌道T上を、磁石(上記第1実施形態の例では車体コイル102)を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図11に示す。この図11は、上記実施形態の軌道用コイル10が配置された軌道T上を、前記車両が進行することにより形成される磁場の解析結果である。また、図11に示す状態において、車体コイルに働く浮上力(図10における上向きの力)を求め、下記の表2の実施例1の欄に示す。
【実施例2】
【0112】
実施例2では、上記第1実施形態の軌道用コイルの代わりに、上記第2実施形態の軌道用コイルが配置された軌道T上を、前記浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の解析を行い、車体コイルに働く浮上力を求めた。この軌道用コイルは、実施例1の軌道用コイルの前記断面積を100としたときに前記断面積が80となる(即ち、実施例1の軌道用コイルよりも前記断面積を20%減少させた)大きさである。
【0113】
その結果を下記の表2の実施例2の欄に示す。尚、本実施例2の軌道用コイルでは、図10に示されるように、各コイル部がそれぞれ2分割されている。
【実施例3】
【0114】
実施例3では、第2実施例同様の図10に示されるような各コイル部が2分割された軌道用コイルであって、実施例1の軌道用コイルの前記断面積を100としたときに前記断面積が60となる(即ち、実施例1の軌道用コイルよりも前記断面積を40%減少させた)大きさの軌道用コイルを用いて実施例1と同様の解析を行い、車体コイルに働く浮上力を求めた。その結果を下記の表2の実施例3の欄に示す。
〔比較例1〕
【0115】
比較例1では、上記実施形態の軌道用コイル10の代わりに、細線状の導体の周囲を絶縁部材で被覆した導電線を巻回することにより形成される従来の軌道用コイルが配置された軌道T上を前記車両が進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図12に示す。この図12は、従来の軌道用コイルが配置された軌道T上を、前記車両が進行することにより形成される磁場の解析結果である。また、図12に示す状態において、車体コイルに働く浮上力(図11における上向きの力)を求め、下記の表2の比較例1の欄に示す。
〔比較例2〕
【0116】
比較例2では、実施例1の軌道用コイルと同様に各コイル部が分割されていないが、導電テープ(本比較例2ではCuテープ)のみが巻回された軌道用コイルを用いて実施例1と同様の解析を行い、車体コイルに働く浮上力を求めた。この軌道用コイルは、実施例1の軌道用コイルの前記断面積を100としたときに前記断面積が80となる(即ち、実施例1の軌道用コイルよりも前記断面積を20%減少させた)大きさである。
【0117】
その結果を下記の表2の比較例2の欄に示す。
〔比較例3〕
【0118】
比較例3では、実施例1の軌道用コイルと同様に各コイル部が分割されていないが、導電テープ(本比較例3ではCuテープ)のみが巻回された軌道用コイルを用いて実施例1と同様の解析を行い、車体コイルに働く浮上力を求めた。この軌道用コイルは、実施例1の軌道用コイルの前記断面積を100としたときに前記断面積が60となる(即ち、実施例1の軌道用コイルよりも前記断面積を40%減少させた)大きさである。
【0119】
その結果を下記の表2の比較例3の欄に示す。
〔比較例4〕
【0120】
比較例4では、バックヨーク部による漏れ磁束の低減効果を評価するために、バックヨーク部が設けられていないこと以外は上記実施例1の軌道用コイルと同じ構成の軌道用コイルが配置された軌道T上を、磁石を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を、図13に示す。
【0121】
また、図13に示す状態において、車体コイルに働く浮上力(図12における上向きの力)を求め、下記の表2の比較例4の欄に示す。
【0122】
【表2】
これら実施例1〜比較例4によって、以下のことが確認できた。
【0123】
図11と図12とを比較することによって、従来の軌道用コイルを用いた場合に比べて実施例1(第1実施形態)の軌道用コイルを用いた方が、各コイル部と鎖交する磁束線が増加している。即ち、従来の軌道用コイルに比べて実施例1の軌道用コイルの方がエネルギー効率が高いことが確認できた。また、表2において実施例1と比較例1とを比較することによって従来の軌道用コイルを用いた場合に比べて実施例1の軌道用コイルを用いた方が浮上力が大きいことからも、従来の軌道用コイルに比べて実施例1の軌道用コイルの方がエネルギー効率の高いことが確認できる。
【0124】
また、表2において、実施例2と比較例2との比較、及び、実施例3と比較例3との比較から、軌道用コイルにおいて各コイル部を径方向に分割することによって浮上力が増加していることが分かり、これにより、各コイル部を径方向に分割することによってエネルギー効率が向上していることが確認できた。
【0125】
また、図11と図13とを比較することにより、バックヨーク部を設けることによって漏れ磁束が効果的に低減していることが確認できた。また、表2において、実施例1と比較例4とを比較することによって、バックヨーク部を設けることによって浮上力が増加することも確認できた。
【実施例4】
【0126】
次に、第1コイル部と第2コイル部との間隔を変えたときの軌道用コイルの形成する磁場(誘導磁場)を評価するために、図14(A)〜図14(C)に示すコイル本体が配置された各軌道上を、磁石(上記第1実施形態の例では車体コイル)を備えた磁気浮上式鉄道用車両がそれぞれ進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図15(A)〜図15(C)に示す。
【0127】
尚、図14(A)は、第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとが近接した状態のコイル本体を示し、図14(B)は、第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとが離れた状態のコイル本体を示し、図14(C)は、第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとの間隔が、図14(A)に示すコイル本体と図14(B)に示すコイル本体との中間であるコイル本体を示す。
【0128】
また、図15(A)は、図14(A)に示すコイル本体が配置された軌道T上を、車体コイル102を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布(図14(A)に示すコイル本体の中央縦断面位置の垂直面おける磁束線の分布)と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図15(B)は、図14(B)に示すコイル本体が配置された軌道T上を、車体コイル102を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布(図14(B)に示すコイル本体の中央縦断面位置の垂直面おける磁束線の分布)と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図15(C)は、図14(C)に示すコイル本体が配置された軌道T上を、車体コイル102を備えた磁気浮上式鉄道用車両が進行することにより形成される磁場の磁束線の分布(図14(C)に示すコイル本体の中央縦断面位置の垂直面おける磁束線の分布)と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。
【0129】
また、図14(A)〜図14(C)に示すA〜Dの各領域は、図15(A)〜図15(C)に示すA〜Dの各領域と対応する。
【0130】
これらの結果から、コイル本体において第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとの間隔が小さい程、車体コイル102に働く浮上力が大きくなる(換言すると、第1コイル部21Aと第2コイル部22Aとの間隔が大きい程、車体コイル102に働く浮上力が小さくなる)ことが確認できた。
【実施例5】
【0131】
次に、各コイル部における内側コイルと外側コイルとの相対位置を変えたときの軌道用コイルの形成する磁場(誘導磁場)を評価するために、前記相対位置を変えた軌道用コイルが配置された各軌道上を、車体コイルを備えた磁気浮上式鉄道用車両がそれぞれ進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図16(A)及び図16(B)に示す。
【0132】
図16(A)は、第1コイル部21Aの内側コイル121aの下部と外側コイル121bの下部とが接し、第2コイル部22Aの内側コイル122aの上部と外側コイル122bの上部とが接したコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図16(B)は、第1コイル部21A(第2コイル部22A)の内側コイル121a(122a)と外側コイル121b(122b)とが全周に亘って離間したコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。尚、図16(A)に示すコイル本体の各内側コイル121a、122aの断面積(中央縦断面の断面積)及び各外側コイル121b、122bの断面積と、図16(B)に示すコイル本体の各内側コイル121a、122aの断面積及び各外側コイル121b、122bの断面積とは、同じである。
【0133】
これらの結果から、第1コイル部21Aにおいて内側コイル121aの下部と外側コイル121bの下部とが接し、且つ、第2コイル部22Aにおいて内側コイル122aの上部と外側コイル122bの上部とが接したコイル本体を用いた方が、第1コイル部21Aにおいて内側コイル121aの下部と外側コイル121bの下部とが離間し、且つ、第2コイル部22Aにおいて内側コイル122aの上部と外側コイル122bの上部とが離間したコイル本体を用いるよりも、車体コイル102に働く浮上力が大きくなることが確認できた。
【実施例6】
【0134】
次に、第2コイル部の中央縦断面位置における内側コイルの下部の断面積(厚さ)と外側コイルの下部の断面積(厚さ)との比を図17に示すCase1〜7のように変えたときの軌道用コイルの形成する磁場(誘導磁場)を評価するために、図17のCase1〜7に示す面積比を有するコイル本体が配置された各軌道上を、磁石(上記第1実施形態の例では車体コイル)を備えた磁気浮上式鉄道用車両がそれぞれ進行することにより形成される磁場の解析を行った。その結果を図18〜図24に示す。
【0135】
ここで、図17に示す面積比において、内側コイル122aの値と外側コイル122bの値との間の数値は、第2コイル部22Aの中央縦断面位置における内側コイル122a下部と外側コイル122b下部との間隙の大きさ(面積)を示す値である。
【0136】
図18は、図17のCase1のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図19は、図17のCase2のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図20は、図17のCase3のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図21は、図17のCase4のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図22は、図17のCase5のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図23は、図17のCase6のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。図24は、図17のCase7のコイル本体を用いた場合の磁場の磁束線の分布と、この磁場において車体コイル102に働く浮上力と、を示す。
【0137】
これらの結果から、第2コイル部22Aの中央縦断面位置における面積(断面積)比において外側コイル122b下部の断面積が大きくなる程(換言すると内側コイル122a下部の断面積が小さくなる程)、車体コイル102に働く浮上力が大きくなることが確認できた。
【符号の説明】
【0138】
10 軌道用コイル
14a 導電テープ(導電部材)
14b 磁性テープ(磁性部材)
14c 絶縁性テープ(絶縁層)
20、20A コイル本体
21、21A 第1コイル部
22、22B 第2コイル部
121、122 分割コイル
30 バックヨーク部
32 板状部材
100 磁気浮上式鉄道用車両
102 車体コイル(磁石)
c1 第1コイル部の軸
c2 第2コイル部の軸
T 軌道
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気浮上式鉄道用車両の軌道に沿って設置されるコイルであって、
長尺の導電部材が巻回される第1コイル部と、
前記第1コイル部の下側に配置され、前記導電部材が前記第1コイル部と逆方向に巻回される第2コイル部と、を備え、
前記導電部材は、その幅寸法が厚さ寸法よりも大きい帯状形状を有し、
前記第1コイル部は、前記導電部材の幅方向が当該第1コイル部の軸方向と平行で且つ当該第1コイル部の径方向において隣り合う導電部材間に絶縁層が位置するよう前記導電部材が巻回されることにより構成され、
前記第2コイル部は、前記導電部材の幅方向が当該第2コイル部の軸方向と平行で且つ当該第2コイル部の径方向において隣り合う導電部材間に絶縁層が位置するよう前記導電部材が巻回されることにより構成され、
前記第1コイル部及び前記第2コイル部は、互いの軸方向が平行となるように上下に並び且つ閉回路を構成するように互いに接続された状態で各コイル部の軸方向が磁気浮上式鉄道における軌道の法線方向と交差するように配置される磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項2】
各コイル部は、当該コイル部の単位断面積当たりに流れる電流の電流密度が当該コイル部の径方向における他の領域よりも小さい領域をそれぞれ有する請求項1に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項3】
前記各コイル部は、当該コイル部がその径方向に分割されたように並ぶ複数の分割コイルによって構成され、
共通のコイル部において、前記径方向に隣り合う分割コイル同士は、内側の分割コイルの外周面における周方向の少なくとも一部が外側の分割コイルの内周面と離間した状態となるように配置されている請求項2に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項4】
前記第1コイル部及び前記第2コイル部は、磁性体を備え且つその幅寸法が厚さ寸法よりも大きい帯状形状を有する磁性部材をそれぞれ有し、
前記磁性部材は、前記第1コイル部及び前記第2コイル部において前記導電部材と共巻きされる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項5】
前記導電部材の厚さ寸法は、当該導電部材に磁気浮上式鉄道用車両の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下であり、
前記磁性部材の厚さ寸法は、当該磁性部材に前記磁気浮上式鉄道用車両の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下である請求項4に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項6】
磁性体によって形成され、前記導電部材の幅方向における前記第1コイル部と前記第2コイル部との一方側の端部同士を接続するバックヨーク部をさらに備える請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項7】
前記バックヨーク部は、磁性体により形成された複数の板状部材がその厚さ方向に積層されることにより構成され、
前記厚さ方向は、前記各コイル部の軸とそれぞれ直交し且つ前記各コイル部の軸の並び方向と直交する方向である請求項6に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項8】
前記板状部材の厚さ寸法は、当該板状部材に前記磁気浮上式鉄道の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下である請求項7に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の軌道用コイルであって一対の軌道用コイルと、
両コイル部を前記磁気浮上式鉄道の軌道側に向けて当該軌道を当該軌道の幅方向から挟むように前記一対の軌道用コイルが配置されたときに、当該一対の軌道用コイルのバックヨーク部における上端部同士の間隔を保つための補強部と、を備える磁気浮上式鉄道の軌道用コイルセット。
【請求項1】
磁気浮上式鉄道用車両の軌道に沿って設置されるコイルであって、
長尺の導電部材が巻回される第1コイル部と、
前記第1コイル部の下側に配置され、前記導電部材が前記第1コイル部と逆方向に巻回される第2コイル部と、を備え、
前記導電部材は、その幅寸法が厚さ寸法よりも大きい帯状形状を有し、
前記第1コイル部は、前記導電部材の幅方向が当該第1コイル部の軸方向と平行で且つ当該第1コイル部の径方向において隣り合う導電部材間に絶縁層が位置するよう前記導電部材が巻回されることにより構成され、
前記第2コイル部は、前記導電部材の幅方向が当該第2コイル部の軸方向と平行で且つ当該第2コイル部の径方向において隣り合う導電部材間に絶縁層が位置するよう前記導電部材が巻回されることにより構成され、
前記第1コイル部及び前記第2コイル部は、互いの軸方向が平行となるように上下に並び且つ閉回路を構成するように互いに接続された状態で各コイル部の軸方向が磁気浮上式鉄道における軌道の法線方向と交差するように配置される磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項2】
各コイル部は、当該コイル部の単位断面積当たりに流れる電流の電流密度が当該コイル部の径方向における他の領域よりも小さい領域をそれぞれ有する請求項1に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項3】
前記各コイル部は、当該コイル部がその径方向に分割されたように並ぶ複数の分割コイルによって構成され、
共通のコイル部において、前記径方向に隣り合う分割コイル同士は、内側の分割コイルの外周面における周方向の少なくとも一部が外側の分割コイルの内周面と離間した状態となるように配置されている請求項2に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項4】
前記第1コイル部及び前記第2コイル部は、磁性体を備え且つその幅寸法が厚さ寸法よりも大きい帯状形状を有する磁性部材をそれぞれ有し、
前記磁性部材は、前記第1コイル部及び前記第2コイル部において前記導電部材と共巻きされる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項5】
前記導電部材の厚さ寸法は、当該導電部材に磁気浮上式鉄道用車両の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下であり、
前記磁性部材の厚さ寸法は、当該磁性部材に前記磁気浮上式鉄道用車両の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下である請求項4に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項6】
磁性体によって形成され、前記導電部材の幅方向における前記第1コイル部と前記第2コイル部との一方側の端部同士を接続するバックヨーク部をさらに備える請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項7】
前記バックヨーク部は、磁性体により形成された複数の板状部材がその厚さ方向に積層されることにより構成され、
前記厚さ方向は、前記各コイル部の軸とそれぞれ直交し且つ前記各コイル部の軸の並び方向と直交する方向である請求項6に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項8】
前記板状部材の厚さ寸法は、当該板状部材に前記磁気浮上式鉄道の駆動周波数に応じた交流電流が流れたときの表皮深さ以下である請求項7に記載の磁気浮上式鉄道の軌道用コイル。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の軌道用コイルであって一対の軌道用コイルと、
両コイル部を前記磁気浮上式鉄道の軌道側に向けて当該軌道を当該軌道の幅方向から挟むように前記一対の軌道用コイルが配置されたときに、当該一対の軌道用コイルのバックヨーク部における上端部同士の間隔を保つための補強部と、を備える磁気浮上式鉄道の軌道用コイルセット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図4】
【公開番号】特開2013−50018(P2013−50018A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−156071(P2012−156071)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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