説明

磁気記録ヘッドおよび磁気記録装置

【課題】スピントルク発振子から発生する高周波磁界を安定させることを可能にする。
【解決手段】第1および第2主磁極11,12と、第1および第2主磁極の間に配置されたスピントルク発振子20と、を備えている。当該スピントルク発振子は、第1磁性層と、中間層と、第2磁性層と、第3磁性層とがこの順で積層された積層構造を有し、前記第1磁性層に対して前記中間層と反対側に前記第1主磁極が配置され、前記第3磁性層に対して前記第2磁性層と反対側に前記第2主磁極が配置されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高記録密度、高記録容量、高データ転送レートのデータストレージの実現に好適なスピントルク発振子を備えた磁気記録ヘッドおよび磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代においては、MR(Magneto-Resistive effect)ヘッドとGMR(Giant Magneto-Resistive effect)ヘッドの実用化が引き金となって、HDD(Hard Disk Drive)の記録密度と記録容量が飛躍的な増加を示した。しかし、2000年代に入ってから磁気記録媒体の熱揺らぎの問題が顕在化してきたために、記録密度の増加のスピードが一時的に鈍化した。それでも、面内磁気記録よりも原理的に高密度記録に有利である垂直磁気記録が2005年に実用化されたことが牽引力となって、昨今、HDDの記録密度は年率約40%の伸びを示している。
【0003】
また、最新の記録密度の実証実験では400Gbits/inchを超えるレベルが達成されており、このまま堅調に進展すれば、2012年頃には記録密度1Tbits/inchが実現されると予想されている。しかしながら、このような高い記録密度の実現は、垂直磁気記録方式を用いても、再び熱揺らぎの問題が顕在化するために容易ではないと考えられる。
【0004】
この問題を解消し得る記録方式として「高周波磁界アシスト記録方式」が提案されている。高周波磁界アシスト記録方式では、記録信号周波数より十分に高い、磁気記録媒体の共鳴周波数付近の高周波磁界を局所的に印加する。この結果、磁気記録媒体が共鳴し、高周波磁界を印加された磁気記録媒体の保磁力Hcは元々の保磁力の半分以下となる。このため、記録磁界に高周波磁界を重畳することにより、保磁力Hcがより高くかつ磁気異方性エネルギーKuがより高い磁気記録媒体への磁気記録が可能となる(例えば、特許文献1)。しかし、この特許文献1に開示された手法ではコイルにより高周波磁界を発生させており、高密度記録時に効率的に高周波磁界を印加することが困難であった。
【0005】
そこで高周波磁界の発生手段として、スピントルク発振子を利用する手法も提案されている(例えば、特許文献2)。この特許文献2および3に開示された技術においては、スピントルク発振子は、スピン注入層と、非磁性層と、磁性層と、電極層とからなる。電極層を通じてスピントルク発振子に直流電流を通電すると、スピン注入層によって生じたスピントルクにより、磁性層の磁化が強磁性共鳴を生じる。その結果、スピントルク発振子から高周波磁界が発生することになる。
【0006】
スピントルク発振子のサイズは数十ナノメートル程度であるため、発生する高周波磁界はスピントルク発振子の近傍の数十ナノメートル程度に局在する。このため、高周波磁界の面内成分により、垂直磁化した磁気記録媒体を効率的に共鳴すること可能となり、磁気記録媒体の保磁力を大幅に低下させることが可能となる。この結果、主磁極による記録磁界と、スピントルク発振子による高周波磁界とが重畳した部分のみで高密度の磁気記録が行われ、保磁力Hcが高くかつ磁気異方性エネルギーKuの高い磁気記録媒体を利用することが可能となる。このため、高密度記録時の熱揺らぎの問題を回避できる。
【特許文献1】米国特許第6011664号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0023938号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、高周波アシスト記録においては,主磁極から発生される記録磁界がスピントルク発振子に加わることにより,スピントルク発振子から発生される高周波磁界の周波数が変化してしまう。このため一定の周波数を持つ高周波磁界が発生できず,安定した磁気記録をおこなうことができないという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、スピントルク発振子から発生する高周波磁界を安定させることのできる磁気ヘッドおよびこの磁気ヘッドを備えた磁気記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様による磁気ヘッドは、第1および第2主磁極と、前記第1および第2主磁極の間に配置されたスピントルク発振子と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第2の態様による磁気記録装置は、第1の態様による磁気ヘッドを備え、前記磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体に書き込みを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スピントルク発振子から発生する高周波磁界を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態を以下に図面を参照して説明する。
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による磁気ヘッドを図1に示す。図1は、本実施形態の磁気ヘッド1を、磁気記録媒体100の進行方向に平行でかつ磁気記録媒体100に対向する媒体対向面に垂直な面で切断した断面図である。磁気記録媒体100の進行方向は図中に示したとおり、紙面に向かって左側に進行するかあるいは右側に進行するかのいずれかである。
【0014】
本実施形態の磁気ヘッド1は、磁気記録媒体100の進行方向に沿って配置され記録磁界40を発生する主磁極11,12と、これらの主磁極11,12間の磁気記録媒体100側に設けられたスピントルク発振子20と、主磁極11,12を介してスピントルク発振子20に駆動電流を流す駆動電流源30と備えている。駆動電流源30は配線32によって主磁極11,12と電気的に接続されている。なお、駆動電流源30は、スピントルク発振子20に所定の電流を流すことが可能であれば、駆動電圧源に置き換えてもよい。
【0015】
磁気記録媒体100は、基板101と、この基板101上に設けられた軟磁性層103と、この軟磁性層103上に設けられた磁気記録層105とを備えている。磁気記録層105には垂直磁化が記録される材料を用いることが好ましい。
【0016】
スピントルク発振子20は、電極20と、バイアス層(第3磁性層)20と、発振層(第2磁性層)20と、中間層20と、スピン注入層(第1磁性層)20と、電極20とを備えている。電極20は主磁極11と電気的に接続しており、電極20は主磁極12と電気的に接続している。電極20、20には、電気抵抗が低くかつ酸化されにくい材料、例えばTi、Cuが用いられる。しかし、後述する主磁極とスピントルク発振子の電極を兼ねる構造の場合,主磁極材料により駆動電流がスピン偏極し、スピントルク発振子20から発生される高周波磁界44が不安定になるおそれがある。このため、電極20、20には、スピン情報を消すような材料、例えばTaやRuを用いることが好ましい。これにより、上記不安定さを減じることができる。
【0017】
バイアス層20および発振層20は、いずれも磁化容易軸が膜面に対し垂直である磁性体膜を有している。バイアス層20は、発振層20の磁化を固着する役割をする。中間層20はCu、Ag、Auなどのスピン透過率が高い非磁性材料が用いられることが好ましい。スピン注入層20は磁化容易軸が膜面に対し垂直である磁性体膜を有している。本実施形態においては、電流が流れない状態での磁化の向きは、バイアス層20、スピン注入層20のいずれも同じ向き(平行)となっている。図1では磁化の向きを紙面で右向きとしているが左向きでも良い。なお、左向きであっても駆動電流の向き35は変わらず、紙面で左向きである。
【0018】
スピン注入層20、発振層20、およびバイアス層20は、以下の材料を用いることができる。
(1) CoFe、CoNiFe、NiFe、CoZrNb、FeN、FeSi、FeAlSi等の、比較的、飽和磁束密度が大きく、膜面に平行な方向に磁気異方性を有する軟磁性膜(発振層に適する)
(2) 膜面に平行な方向に磁化が配向したCoCr系の磁性合金膜
(3)膜面に垂直な方向に磁化が配向したCoCrPt、CoCrTa、CoCrTaPt、CoCrTaNb等のCoCr系磁性膜(スピン注入層,バイアス層に適する)
(4) TbFeCo等のRE−TM系アモルファス合金磁性膜(スピン注入層,バイアス層に適する)
(5) Co/Pd、Co/Pt、CoCrTa/Pd等のCo人工格子磁性膜(スピン注入層,バイアス層に適する)
(6) CoPt系やFePt系の合金磁性膜や、SmCo系合金磁性層など、垂直配向性に優れた材料(スピン注入層,バイアス層に適する)
(7) CoFeにAl,Si,Ge,Mn,Crなどを添加した合金(スピン注入層,バイアス層に適する)
【0019】
また、飽和磁束密度および異方性磁界を調整するため、スピン注入層20、バイアス層20,発振層20のそれぞれについて、上記材料を積層してもよい。この他にも、上記材料を、非磁性体層(Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Ru等の貴金属を用いることが好ましく、Cr、Rh、Mo、W等の非磁性遷移金属を利用することも可能である)を介して積層し、上記材料の磁化の向きが反平行状態となる積層フェリ構造や、上記材料の磁化の向きが平行となる積層構造を用いてもよい。あるいは,積層フェリ構造とよばれる、2枚の磁性膜の間に非磁性層(Ruが特に好ましく用いられる)を挟んだものを用いても良い。更に他の例として、交換結合を利用した強磁性体/反強磁性体の積層構造を用いても良い。これらは、発振層20の発振周波数を上げるため、またはスピン注入層20の磁化を効率的に固着するためである。ここで、反強磁性体として、FeMn、NiMn、FeNiMn、FeMnRh、RhMn、CoMn、CrMn、CrMnPt、CrMnRh、CrMnCu、CrMnPd、CrMnIr、CrMnNi、CrMnCo、CrMnTi、PtMn、PdMn、PdPtMn、IrMnなどを用いることができる。発振層20の厚みは十分な高周波磁界を磁気記録媒体100に付与するためには5nm以上が好ましく、均一発振モードの観点からは20nm以下が望ましい。スピン注入層20の厚みは、スピン注入層での発振を抑制するために2nm以上が望ましい。
【0020】
次に、スピントルク発振子20の動作原理を説明する。駆動電流に伴う電子は電極20から電極20に向かって流れる。このとき、中間層20とスピン注入層20の界面において、スピン注入層20の磁化方向と反対向きのスピンを持つ伝導電子が反射される。反射された電子は中間層20を通り発振層20に注入され、ここで発振層20における磁化が発振を起こし、高周波磁界44を発生することとなる。
【0021】
通常、主磁極は1本であるが、これを2本にしてその間にスピントルク発振子20設置するところが本実施形態の特徴となっている。主磁極を2本にすることにより、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界40の、媒体対向面に平行な成分(スピントルク発振子20の膜面に垂直な方向の成分)が打ち消し合うので、スピントルク発振子20に流入する記録磁界40が減少し、これによりスピントルク発振子20から発生する高周波磁界44が安定する。特に、高周波磁界44は、スピントルク発振子20の発振層20から発生するので、発振層20における記録磁界40を打ち消すことが重要である。主磁極11と主磁極12との間のスピントルク発振子20の長さは、磁気記録媒体100の進行方向に対して50nm〜200nm程度となる。スピントルク発振子20は主磁極11,12にできるだけ近い位置においたほうが、高周波磁界44と記録磁界40の重なりが大きくなるため、保持力が高くかつ磁気異方性エネルギーが高い磁気記録媒体への記録を容易に行うことができる。磁気記録媒体100の進行方向は、図1の紙面に対して右あるいは左向きに進行する方が、紙面に対して垂直の方向に進行する場合よりも望ましい。その理由は、磁気記録媒体の進行方向が紙面に対して左右の方向であれば、磁気記録媒体100の高周波磁界44が加わった部分が主磁極11,12の下側に移動することにより高周波アシストの効果がより期待できるからである。
【0022】
このスピントルク発振子20の発振層20における磁化の容易軸方向は、駆動電流の通電方向と同じか、あるいは反対の向きとすることが特に好ましい。これは、駆動電流による電流磁界の影響を受けにくくするためである。
【0023】
発振層20における記録磁界40を打ち消すために重要な制御要素について以下述べる。図2は、図1で示すx方向(水平方向)における、主磁極11および主磁極12から発生する記録磁界44のx方向の成分Hxを示す模式図である。発振層20における主磁極11,12のそれぞれの記録磁界HとHの水平方向成分の大きさが等しくて打ち消しあうように設計することが重要である。そのためには、主磁極11の飽和磁化をMs、主磁極12の飽和磁化をMs、主磁極11の記録媒体に対抗する面の面積をS、主磁極12の記録媒体に対向する面の面積をSとしたときに、主磁極11から発生する記録磁界40の水平方向成分と、主磁極12から発生する記録磁界40の水平方向成分が打ち消しあうようにするために下記の関係を満たすように設計することが一つの目安となる。
Ms・S=Ms・S (1)
【0024】
この場合、発振層20を2つの主磁極11,12の中央に配置すると、主磁極11,12から印加される磁界がもっとも小さくなる。一方、(1)式の関係が成り立たない場合や他の原因により、主磁極11と主磁極12から発生する記録磁界のバランスが崩れた場合には、必ずしも発振層20を2つの主磁極11,12の中央に配置することは必ずしも好ましくないので、適宜設置場所をずらす必要がある。
【0025】
次に、シールドについて述べる。通常の磁気ヘッドはシールドが1本である。本実施形態において、シールドを1本とすることも可能である。しかしシールドを1本としてしまうと、記録磁界40がどうしてもシールドのある側に集まりやすくなるとい傾向がある。結果として、スピントルク発振子20に印加される記録磁界40が打ち消し合いにくくなる。これを解決するためには、図3に示す、本実施形態の変形例による磁気ヘッド1Aのように、2本のシールド13,14を設けることが好ましい。シールド13は、主磁極11に対してスピントルク発振子20とは反対側に配置され、シールド14は主磁極12に対してスピントルク発振子20とは反対側に配置される。
【0026】
次に、本実施形態における主磁極とスピントルク発振子の配置の第1具体例を図4に示す。図4は、磁気記録媒体100側からみた平面図である。この第1具体例においては、主磁極11と主磁極12とが対向して配置され、主磁極11と主磁極12との間にスピントルク発振子20が配置されている。
【0027】
本実施形態における主磁極とスピントルク発振子の配置の第2具体例を図5に示す。図5は、磁気記録媒体100側からみた平面図である。この第2具体例においては、主磁極11と主磁極12とが一体化された主磁極10となり、この主磁極10がスピントルク発振子20を取り囲むように配置されている。なお、この場合、スピントルク発振子20の側面(磁気記録媒体100の進行方向に平行な側面)には絶縁膜15が設けられている。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界40の、スピントルク発振子20の膜面に垂直な方向の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20に流入する記録磁界40が減少し、これによりスピントルク発振子20から発生する高周波磁界44を安定させることができる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による磁気ヘッドを図6に示す。図6は、本実施形態の磁気ヘッド1Bを、磁気記録媒体100の進行方向に平行でかつ磁気記録媒体100に対向する媒体対向面に垂直な面で切断した断面図である。磁気記録媒体100の進行方向は図中に示したとおり、紙面に向かって左側に進行するかあるいは右側に進行するかのいずれかである。
【0030】
本実施形態の磁気ヘッド1Bは、図1に示す第1実施形態の磁気ヘッド1において、スピントルク発振子20をスピントルク発振子20Aに置き換えた構成となっている。このスピントルク発振子20Aは、電極20と、バイアス層20と、発振層20と、中間層20と、スピン注入層20と、電極20とを備えている。そして、バイアス層20、発振層20、およびスピン注入層20の磁化の向きが、第1実施形態におけるスピントルク発振子20と異なり、膜面に実質的に平行となっている。なお、第1実施形態に係るスピントルク発振子20においては、バイアス層20、発振層20、およびスピン注入層20の磁化の向きは膜面に実質的に垂直となっている。また、本実施形態に係るスピントルク発振子20Aにおいては、バイアス層20、発振層20、およびスピン注入層20の磁化の向きは、電流が流れていない状態では紙面上で奥から手前に向くようになっている。すなわち、磁化の向きは、同じ向き(平行)となっている。なお、紙面上で手前から奥に向いていても良い。また、磁化の向きは互いに反平行でもよい。ただしこの場合には駆動電流の向きを反対向きにする。
【0031】
本実施形態におけるスピントルク発振子20の動作は、第1実施形態と同様となっている。すなわち、駆動電流に伴う電子は電極20から電極20に向かって流れる。このとき、中間層20とスピン注入層20の界面において、スピン注入層20の磁化方向と反対向きのスピンを持つ伝導電子が反射される。反射された電子は中間層20を通り発振層20に注入され、ここで発振層20における磁化が発振を起こし、高周波磁界44を発生することとなる。
【0032】
バイアス層20、発振層20、スピン注入層20、および中間層20には、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。特にバイアス層20には反強磁性体を用いると、発振周波数の安定化等の観点で好ましい。
【0033】
本実施形態も第1実施形態と同様に、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界40の、スピントルク発振子20Aの膜面に垂直な方向の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Aに流入する記録磁界40が減少し、これによりスピントルク発振子20Aから発生する高周波磁界44を安定させることができる。
【0034】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による磁気ヘッドの図7に示す。図7は、本実施形態の磁気ヘッド1Cを、磁気記録媒体100の進行方向に平行でかつ磁気記録媒体100に対向する媒体対向面に垂直な面で切断した断面図である。磁気記録媒体100の進行方向は図中に示したとおり、紙面に向かって左側に進行するかあるいは右側に進行するかのいずれかである。
【0035】
本実施形態の磁気ヘッド1Cは、図6に示す第2実施形態の磁気ヘッド1Bにおいて、スピントルク発振子20Aをスピントルク発振子20Bに置き換えた構成となっている。このスピントルク発振子20Bは、電極20と、バイアス層20と、発振層20と、中間層20と、スピン注入層20と、電極20とを備えている。そして、本実施形態に係るスピントルク発振子20Bにおいては、電流が流れていない状態では、バイアス層20、発振層20、およびスピン注入層20の磁化の向きは、膜面に実質的に平行となっている。すなわち、磁化の向きは同じ向き(平行)となっている。しかし、上記磁化の向きが紙面上で上方向に向いている点が第2実施形態のスピントルク発振子20Aと異なっている。なお、下向きに向いていてもいい。あるいは反平行でも良い。ただしこの場合には通電方向を逆向きにする。
【0036】
本実施形態において、スピントルク発振子20Bに電流を矢印35に示すように、紙面で右から左に流すと電子流は紙面で左から右に流れる。バイアス層20やスピン注入層20の磁化と反対向きのスピンを持つ電子が、中間層20とスピン注入層20との界面で反射されて発振層20に入ることにより,発振層20の磁化が回転して高周波磁界44が生じる。
【0037】
バイアス層20、発振層20、スピン注入層20、および中間層20には、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。特にバイアス層20には反強磁性体を用いると、発振周波数の安定化等の観点で好ましい。
【0038】
本実施形態も第2実施形態と同様に、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界40の、スピントルク発振子20Bの膜面に垂直な方向の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Bに流入する記録磁界40が減少し、これによりスピントルク発振子20Bから発生する高周波磁界44を安定させることができる。
【0039】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による磁気ヘッドの図8に示す。図8は、本実施形態の磁気ヘッド1Dを、磁気記録媒体100の進行方向に平行でかつ磁気記録媒体100に対向する媒体対向面に垂直な面で切断した断面図である。磁気記録媒体100の進行方向は図中に示したとおり、紙面に向かって左側に進行するかあるいは右側に進行するかのいずれかである。
【0040】
本実施形態の磁気ヘッド1Dは、図1に示す第1実施形態の磁気ヘッド1において、スピントルク発振子20への駆動電流源30からの駆動電流を、主磁極11,12のそれぞれの対向する面に絶縁層24を挟むようにして設けられた引き出し配線22を介して流す構成としたものである。この引き出し配線22は配線32を介して駆動電流源30に電気的に接続される。したがって、第1乃至第3実施形態の磁気ヘッドと異なり、スピントルク発振子20への駆動電流は、主磁極11,12を介して流さない構成となっている。なお、絶縁層24の材料としては、例えばアルミニウム酸化物が用いられる。また、本実施形態においては、電流が流れない状態での磁化の向きは、バイアス層20、発振層20、スピン注入層20のいずれも同じ向き(平行)となっている。
【0041】
本実施形態のように、スピントルク発振子への通電を、主磁極11,12のそれぞれの対向する面に絶縁層24を挟むようにして設けられた引き出し配線22を介して行うことは、第1実施形態ばかりでなく第2および第3実施形態の磁気ヘッドにも適用できることは云うまでもない。
【0042】
本実施形態も第1実施形態と同様に、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界40の、スピントルク発振子20の膜面に垂直な方向の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20に流入する記録磁界40が減少し、これによりスピントルク発振子20から発生する高周波磁界44を安定させることができる。
【0043】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態による磁気ヘッドを図9に示す。図9は、本実施形態の磁気ヘッド1Eを、磁気記録媒体100の進行方向に平行でかつ磁気記録媒体100に対向する媒体対向面に垂直な面で切断した断面図である。磁気記録媒体100の進行方向は図中に示したとおり、紙面に向かって左側に進行するかあるいは右側に進行するかのいずれかである。
【0044】
本実施形態の磁気ヘッド1Eは、図1に示す第1実施形態の磁気ヘッド1において、スピントルク発振子20をスピントルク発振子20Cに置き換えた構成となっている。このスピントルク発振子20Cは、スピントルク発振子20と異なり、電流が流れない状態での磁化の向きは、バイアス層20、スピン注入層20では逆の向き(反平行)となっている。また、駆動電流源30からの駆動電流の向き35も第1実施形態の場合と逆になっている。
【0045】
本実施形態において、駆動電流がスピントルク発振子20を流れる際には、スピン注入層20において偏極したスピンを持つ電子が中間層20を通過して発振層110に到達し、ここで発振層110の磁化と相互作用して高周波磁界が発生する。なお、本実施形態の磁気ヘッド1Eにおいても、図8に示した引き出し配線22を用いることが可能である。
【0046】
このスピントルク発振子20における磁化の容易軸方向は、駆動電流の通電方向と同じか、あるいは反対の向きとなっている。これは、駆動電流による電流磁界の影響を受けにくいためである。
【0047】
本実施形態も第1実施形態と同様に、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界40の、スピントルク発振子20Cの膜面に垂直な方向の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Cに流入する記録磁界40が減少し、これによりスピントルク発振子20Cから発生する高周波磁界44を安定させることができる。
【0048】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態による磁気ヘッドを図10に示す。図10は、本実施形態の磁気ヘッドの斜視図である。本実施形態の磁気ヘッド1Fは、対向して配置された主磁極11,12と、これらの主磁極11,12間に配置されたスピントルク発振子20Dと、を備えている。スピントルク発振子20Dは、一対の電極20,20と、これら電極20,20間に設けられた、発振層20、中間層20、およびスピン注入層20からなる積層構造と、この積層構造を挟むように設けられ同じ磁化の向きを有する磁区制御層(磁界印加部)21a、21bと、を備えている。なお、図示しないが適宜電極等を備えることも可能である。磁区制御層21a、21bは、駆動電流がスピントルク発振子20Dに流れないときに、発振層203の磁化の向きを磁区制御層21a、21bの磁化の向きと同じ(平行)となるように制御し、一対の主磁極11,12の配置される方向と直交する方向に配置される。また、本実施形態においては、スピン注入層20の磁化の向きは膜面に平行でかつ図示しない磁気記録媒体に平行となっており、磁区制御層21a,21bの磁化の向きはスピン注入層20の磁化の向きに平行となっている。
【0049】
本実施形態においては、スピン注入層20の磁化と反対向きのスピンを持つ電子が中間層20とスピン注入層20との界面で反射されて、発振層20に注入され、発振がおこる。
【0050】
本実施形態における、発振層20、スピン注入層20、中間層20の材料として、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。発振層20の磁化とスピン注入層20の磁化は平行でも良いが、中間層20にRuなどを用いて積層フェリ構造として、発振層20の磁化とスピン注入層20の磁化を反平行とする方法もある。その場合は駆動電流の向きを逆にする。
【0051】
磁化制御膜としては,
(2) 膜面に平行な方向に磁化が配向したCoCr系の磁性合金膜
(3)膜面に垂直な方向に磁化が配向したCoCrPt、CoCrTa、CoCrTaPt、CoCrTaNb等のCoCr系磁性膜(スピン注入層,バイアス層に適する)
(4) TbFeCo等のRE−TM系アモルファス合金磁性膜(スピン注入層,バイアス層に適する)
(5) Co/Pd、Co/Pt、CoCrTa/Pd等のCo人工格子磁性膜(スピン注入層,バイアス層に適する)
(6) CoPt系やFePt系の合金磁性膜や、SmCo系合金磁性層など、垂直配向性に優れた材料(スピン注入層,バイアス層に適する)
(7) CoFeにAl,Si,Ge,Mn,Crなどを添加した合金(スピン注入層,バイアス層に適する)
を好ましく用いることが出来る。
【0052】
本実施形態も第1実施形態と同様に、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界の、スピントルク発振子20Dの膜面に垂直な方向の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Dに流入する記録磁界が減少し、これによりスピントルク発振子20Dから発生する高周波磁界を安定させることができる。
【0053】
(第7実施形態)
次に、本発明の第7実施形態による磁気ヘッドを図11に示す。本実施形態の磁気ヘッド1Gは、第6実施形態の磁気ヘッド1Fにおいて、スピントルク発振子20Dをスピントルク発振子20Eに置き換えた構成となっている。このスピントルク発振子20Eは、スピントルク発振子20Dの発振層20と、電極20との間にバイアス層20を設けた構成となっている。このバイアス層20を設けることにより、発振層20の発振動作が安定し、高周波磁界の周波数も安定する効果がある。
【0054】
本実施形態のバイアス層20、発振層20、スピン注入層20、および中間層20には、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。特にバイアス層20には反強磁性体を用いると、発振周波数の安定化等の観点で好ましい。
【0055】
本実施形態も第6実施形態と同様に、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界の、スピントルク発振子20Eの膜面に垂直な方向の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Eに流入する記録磁界が減少し、これによりスピントルク発振子20Eから発生する高周波磁界を安定させることができる。
【0056】
(第8実施形態)
次に、本発明の第8実施形態による磁気ヘッドを図12に示す。図12は、本実施形態の磁気ヘッド1Hを磁気記録媒体側から見た平面図である。本実施形態の磁気ヘッド1Hは、対向して配置された一対の主磁極11,12と、これらの主磁極11,12間に設けられたスピントルク発振子20Fとを備えている。スピントルク発振子20Fは、電極20と、バイアス層20と、発振層20と、中間層20と、スピン注入層20と、電極20との積層構造を備えている。そして、スピントルク発振子20の各層の積層方向は、主磁極11,12の配列方向と実質的に直交している。すなわち、スピントルク発振子20Fの側部に主磁極11,12が配置された構成となっている。また、スピントルク発振子20Fの上記側部の側面と、主磁極11,12とは絶縁層24によって電気的に絶縁されている。電流が流れない状態におけるバイアス層20と、発振層20と、スピン注入層20との磁化の向きは同じ向き(平行)となっており、膜面に実質的に垂直でかつ電極20から電極20に向かう方向となっている。
【0057】
本実施形態においては、スピントルク発振子20Fに流れる電流は電極20から電極20に向かう方向に流れ、磁気記録媒体の進行方向は主磁極11,12の配列方向に平行となっている。
【0058】
本実施形態のバイアス層20、発振層20、スピン注入層20、および中間層20には、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。特にバイアス層20には反強磁性体を用いると、発振周波数の安定化等の観点で好ましい。
【0059】
本実施形態は、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界の、スピントルク発振子20Fの膜面に平行な方向(主磁極11,12の配列方向)の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Fに流入する記録磁界が減少し、これによりスピントルク発振子20Fから発生する高周波磁界を安定させることができる。
【0060】
(第9実施形態)
次に、本発明の第9実施形態による磁気ヘッドを図13に示す。図13は、本実施形態の磁気ヘッド1Iを磁気記録媒体側から見た平面図である。本実施形態の磁気ヘッド1Iは、図12に示す第8実施形態による磁気ヘッド1Hのスピントルク発振子20Fをスピントルク発振子20Gに置き換えた構成となっている。このスピントルク発振子20Gは、スピントルク発振子20Fと同じ積層構造を有しているが、電流が流れない状態における、バイアス層20および発振層20の磁化の向きは、スピン注入層20の磁化の向きは逆向き(反平行)となっており、電極20から電極20に向かう方向となっている。なお、本実施形態においては、スピントルク発振子20Gに流れる電流は第8実施形態と逆に電極20から電極20に向かう方向に流れが、磁気記録媒体の進行方向は第8実施形態と同様に主磁極11,12の配列方向に平行となっている。
【0061】
本実施形態のバイアス層20、発振層20、スピン注入層20、および中間層20には、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。特にバイアス層20には反強磁性体を用いると、発振周波数の安定化等の観点で好ましい。
【0062】
本実施形態も第8実施形態と同様に、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界の、スピントルク発振子20Gの膜面に平行な方向(主磁極11,12の配列方向)の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Gに流入する記録磁界が減少し、これによりスピントルク発振子20Gから発生する高周波磁界を安定させることができる。
【0063】
(第10実施形態)
次に、本発明の第10実施形態による磁気ヘッドを図14に示す。図14は、本実施形態の磁気ヘッド1Jを磁気記録媒体側から見た平面図である。本実施形態の磁気ヘッド1Jは、図12に示す第8実施形態による磁気ヘッド1Hのスピントルク発振子20Fをスピントルク発振子20Hに置き換えた構成となっている。このスピントルク発振子20Hは、スピントルク発振子20Fと同じ積層構造を有しているが、電流が流れない状態における、バイアス層20、発振層20、およびスピン注入層20の磁化の向きは同じ向き(平行)となっており、積層構造の膜面に実質的に平行でかつ主磁極11から主磁極12に向かう方向となっている。なお、本実施形態においては、スピントルク発振子20Hに流れる電流は第8実施形態と同様に電極20から電極20に向かう方向に流れ、磁気記録媒体の進行方向は第8実施形態と同様に主磁極11,12の配列方向に平行となっている。
【0064】
バイアス層20および発振層20とスピン注入層20の磁化の向きを反対向きにすることも可能である。この場合には中間層20の材料にRuなどを用いていわゆる積層フェリ構造を形成する。また駆動電流の通電方向を逆向きにする。
【0065】
本実施形態のバイアス層20、発振層20、スピン注入層20、および中間層20には、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。特にバイアス層20には反強磁性体を用いると、発振周波数の安定化等の観点で好ましい。
【0066】
本実施形態も第8実施形態と同様に、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界の、スピントルク発振子20Hの膜面に平行な方向(主磁極11,12の配列方向)の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Hに流入する記録磁界が減少し、これによりスピントルク発振子20Hから発生する高周波磁界を安定させることができる。
【0067】
(第11実施形態)
次に、本発明の第11実施形態による磁気ヘッドを図15に示す。図15は、本実施形態の磁気ヘッド1Kを磁気記録媒体側から見た平面図である。本実施形態の磁気ヘッド1Kは、図14に示す第10実施形態による磁気ヘッド1Jのスピントルク発振子20Hをスピントルク発振子20Iに置き換えた構成となっている。このスピントルク発振子20Iは、スピントルク発振子20Hと同じ積層構造を有しているが、電流が流れない状態における、バイアス層20、発振層20、およびスピン注入層20の磁化の向きは同じ向き(平行)となっており、積層構造の膜面に実質的に平行でかつ主磁極11から主磁極12に向かう方向に実質的に垂直となっている。なお、本実施形態においては、スピントルク発振子20Iに流れる電流は第10実施形態と同様に電極20から電極20に向かう方向に流れ、磁気記録媒体の進行方向は第10実施形態と同様に主磁極11,12の配列方向に平行となっている。
【0068】
バイアス層20および発振層20とスピン注入層20の磁化の向きを反対向きにすることも可能である。この場合には中間層20の材料にRuなどを用いていわゆる積層フェリ構造を形成する。また駆動電流の通電方向を逆向きにする。
【0069】
本実施形態のバイアス層20、発振層20、スピン注入層20、および中間層20には、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。特にバイアス層20には反強磁性体を用いると、発振周波数の安定化等の観点で好ましい。
【0070】
本実施形態も第10実施形態と同様に、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界の、スピントルク発振子20Iの膜面に平行な方向(主磁極11,12の配列方向)の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Iに流入する記録磁界が減少し、これによりスピントルク発振子20Iから発生する高周波磁界を安定させることができる。
【0071】
(第12実施形態)
次に、本発明の第12実施形態による磁気ヘッドを図16に示す。図16は、本実施形態の磁気ヘッド1Lの斜視図である。本実施形態の磁気ヘッド1Lは、図11に示す第7実施形態による磁気ヘッド1Gのスピントルク発振子20Eをスピントルク発振子20Jに置き換えた構成となっている。スピントルク発振子20Eは積層構造の膜面が主磁極11,12の配列された方向に実質的に垂直となっていた。これに対して、スピントルク発振子20Jは、磁区制御層21a、スピン注入層20、中間層20、発振層20、および磁区制御層21bからなる積層構造を有し、この積層構造の膜面が主磁極11,12の配列方向に実質的に平行となっている。電流が流れない状態での磁区制御層21a、スピン注入層20、発振層20、および磁区制御層21bの磁化の向きは膜面に実質的に垂直でかつ磁区制御層21aから磁区制御層21bに向かう方向である。
【0072】
本実施形態においては、磁区制御層21a、21bがスピントルク発振子20Lの電極を兼ねていてもよいし、磁区制御層21a、21bの外側に電極を設けてもよい。そして、スピントルク発振子20Jを流れる電流の向きは、磁区制御層21aから磁区制御層21bに向かう方向、すなわち、電流が流れない状態での磁区制御層21a、スピン注入層20、発振層20、および磁区制御層21bの磁化の向きと同じ向きである。
【0073】
本実施形態の発振層20、スピン注入層20、および中間層20には、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。
【0074】
本実施形態も、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界の、スピントルク発振子20Jの膜面に平行な方向(主磁極11,12の配列方向)の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Jに流入する記録磁界が減少し、これによりスピントルク発振子20Jから発生する高周波磁界を安定させることができる。
【0075】
(第13実施形態)
次に、本発明の第13実施形態による磁気ヘッドを図17に示す。図17は、本実施形態の磁気ヘッド1Mの斜視図である。本実施形態の磁気ヘッド1Mは、図16に示す第12実施形態による磁気ヘッド1Lのスピントルク発振子20Jをスピントルク発振子20Kに置き換えた構成となっている。スピントルク発振子20Kは、スピントルク発振子20Jにおいて、発振層20と磁区制御層21bとの間にバイアス層20を設けた構成を有している。すなわち、スピントルク発振子20Kは、磁区制御層21a、スピン注入層20、中間層20、発振層20、バイアス層20、および磁区制御層21bからなる積層構造を有し、この積層構造の膜面が主磁極11,12の配列方向に実質的に平行となっている。電流が流れない状態での磁区制御層21a、スピン注入層20、発振層20、バイアス層20、および磁区制御層21bの磁化の向きは膜面に実質的に垂直でかつ磁区制御層21aから磁区制御層21bに向かう方向である。
【0076】
本実施形態においては、第12実施形態と同様に、磁区制御層21a、21bがスピントルク発振子20Lの電極を兼ねていてもよいし、磁区制御層21a、21bの外側に電極を設けてもよい。そして、スピントルク発振子20Lを流れる電流の向きは、磁区制御層21aから磁区制御層21bに向かう方向、すなわち、電流が流れない状態での磁区制御層21a、スピン注入層20、発振層20、バイアス層20、および磁区制御層21bの磁化の向きと同じ向きである。
【0077】
本実施形態のバイアス層20、発振層20、スピン注入層20、および中間層20には、第1実施形態において述べた材料を用いることができる。特にバイアス層に反強磁性体を用いると、発振周波数の安定化等の点で好ましい。
【0078】
本実施形態も、主磁極11と主磁極12のそれぞれから発生する記録磁界の、スピントルク発振子20Lの膜面に平行な方向(主磁極11,12の配列方向)の成分が打ち消し合うので、スピントルク発振子20Lに流入する記録磁界が減少し、これによりスピントルク発振子20Lから発生する高周波磁界を安定させることができる。
【0079】
(第14実施形態)
次に、本発明の磁気記録再生装置について説明する。図1乃至図17に関して説明した本発明の各実施形態およびその変形例による磁気ヘッドは、例えば、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込まれ、磁気記録再生装置に搭載することができる。
【0080】
図18は、このような磁気記録装置の概略構成を例示する要部斜視図である。すなわち、本実施形態の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、長手記録用または垂直記録用磁気ディスク200は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。磁気ディスク200は、垂直記録用の記録層と、軟磁性裏打ち層とを有した、2層の磁気記録媒体である。磁気ディスク200に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダ153は、例えば、前述したいずれかの実施の形態にかかる磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
【0081】
磁気ディスク200が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。
【0082】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
【0083】
アクチュエータアーム155は、固定軸157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
【0084】
図19は、アクチュエータアーム155から先の磁気ヘッドアセンブリをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、磁気ヘッドアッセンブリ160は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。
【0085】
サスペンション154の先端には、図1乃至図17に関して前述したいずれかの磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165は磁気ヘッドアッセンブリ160の電極パッドである。
【0086】
ここで、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)と磁気ディスク200の表面との間には、所定の浮上量が設定されている。
【0087】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、磁気記録媒体として用い得るものは、図1乃至図17に例示した磁気記録媒体100には限定されず、記録層および軟磁性層を有する磁気記録媒体であれば、あらゆる媒体を用いて同様の効果を奏する。例えば、並列して配置された複数のトラックと、隣接するトラック間に設けられる非磁性部と有するディスクリートトラック型媒体や、複数の磁性体ビットと、これら複数の磁性体ビット間に設けられた非磁性体とを有するディスクリートビット型媒体を用いることができる。
【0088】
また、磁気ヘッドを構成する各要素の材料や形状などに関しても、具体例として前述したものには限定されず、当業者が選択しうる範囲のすべてを同様に用いて同様の効果を奏し得る。
【0089】
また、磁気記録再生装置に関しても、磁気記録媒体は、ハードディスクには限定されず、その他、フレキシブルディスクや磁気カードなどのあらゆる磁気記録媒体を用いることが可能である。さらに、磁気記録媒体を装置から取り外し可能した、いわゆる「リムーバブル」の形式の装置であっても良い。
【0090】
次に、上記各実施形態において用いることができる磁気記録媒体の一具体例を図23に示す。すなわち、本具体例の磁気記録媒体201は、ディスクリート型磁気記録媒体であって、非磁性体(あるいは空気)287により互いに分離された垂直配向した多粒子系の磁性ディスクリートトラック286を有する。この媒体201がスピンドルモータ204により回転され、媒体走行方向285に向けてヘッドスライダ203移動する際に、このヘッドスライダ203に搭載された磁気記録ヘッド205により、記録磁化284を形成することができる。なお、ヘッドスライダ203はサスペンション202の先端に取り付けられている。このサスペンション202には信号の書き込みおよび読み取り用のリード線を有し、これらのリード線とヘッドスライダ203に組み込まれた磁気ヘッド205の各電極とが電気的に接続される。
【0091】
スピン発振子の記録トラック幅方向の幅(TS)を記録トラック286の幅(TW)以上で、且つ記録トラックピッチ(TP)以下とすることによって、スピン発振子から発生する漏れ高周波磁界による隣接記録トラックの保磁力低下を大幅に抑制することができる。このため、本具体例の磁気記録媒体では、記録したい記録トラック286のみを効果的に高周波アシスト磁気記録することができる。
【0092】
本具体例によれば、いわゆる「べた膜状」の多粒子系垂直媒体を用いるよりも、狭トラックすなわち高トラック密度の高周波アシスト記録装置を実現することが容易になる。また、高周波アシスト磁気記録方式を利用し、さらに従来の磁気記録ヘッドでは書き込み不可能なFePtやSmCo等の高磁気異方性エネルギー(Ku)の媒体磁性材料を用いることによって、媒体磁性粒子のさらなる微細化(ナノメータ級のサイズ)が可能となり、記録トラック方向(ビット方向)においても、従来よりも遥かに線記録密度の高い磁気記録装置を実現することができる。
【0093】
図24は、上記各実施形態において用いることができるもう一つの磁気記録媒体を例示する模式図である。すなわち、本具体例の磁気記録媒体201は、ディスクリートビット型磁気記録媒体であって、非磁性体287により違いに分離された磁性ディスクリートビット288を有する。この媒体201がスピンドルモータ204により回転され、媒体走行方向285に向けてヘッドスライダ203移動する際に、このヘッドスライダ203に搭載された磁気記録ヘッド205により、記録磁化284を形成することができる。
【0094】
上記実施形態の磁気ヘッドによれば、図23及び図24に表したように、ディスクリート型の磁気記録媒体201において、高い保磁力を有する記録層に対しても確実に記録することができ、高密度且つ高速の磁気記録が可能となる。
【0095】
この具体例においても、スピン発振素子の記録トラック幅方向の幅(TS)を記録トラック286の幅(TW)以上で、且つ記録トラックピッチ(TP)以下とすることによって、スピン発振子から発生する漏れ高周波磁界による隣接記録トラックの保磁力低下を大幅に抑制することができるため、記録したい記録トラック286のみを効果的に高周波アシスト磁気記録することができる。本実施例を用いれば、使用環境下での熱揺らぎ耐性を維持できる限りは、磁性ドット288の高磁気異方性エネルギー(Ku)化と微細化を進めることで、10Tbits/inch以上の高い記録密度の高周波アシスト磁気記録装置を実現できる可能性がある。
【0096】
本発明の各実施形態の磁気ヘッドに対しては、磁気記録媒体として、ECC媒体(exchange composite media)と呼ばれている、硬磁性材料で構成される磁気記録層とこの磁気記録層に隣接する軟磁性材料で構成される軟磁性層を含む磁気記録媒体を特に好ましい。軟磁性材料としてはFeSiO合金やNiFe合金などを好ましく用いることができる。また硬磁性材料としては、CoPtCr−SiO合金やFePt合金など一般に垂直磁気記録用に用いられる材料が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1実施形態による磁気ヘッドの断面図。
【図2】本発明の各実施形態の効果を説明する図。
【図3】第1実施形態の変形例による磁気ヘッドの断面図。
【図4】第1実施形態における主磁極とスピントルク発振子の配置の第1具体例を示す平面図。
【図5】第1実施形態における主磁極とスピントルク発振子の配置の第2具体例を示す平面図。
【図6】第2実施形態による磁気ヘッドの断面図。
【図7】第3実施形態による磁気ヘッドの断面図。
【図8】第4実施形態による磁気ヘッドの断面図。
【図9】第5実施形態による磁気ヘッドの断面図。
【図10】第6実施形態による磁気ヘッドの斜視図。
【図11】第7実施形態による磁気ヘッドの斜視図。
【図12】第8実施形態による磁気ヘッドの平面図。
【図13】第9実施形態による磁気ヘッドの平面図。
【図14】第10実施形態による磁気ヘッドの平面図。
【図15】第11実施形態による磁気ヘッドの平面図。
【図16】第12実施形態による磁気ヘッドの斜視図。
【図17】第13実施形態による磁気ヘッドの斜視図。
【図18】本発明の第14実施形態による磁気記録再生装置を示す斜視図。
【図19】第14実施形態の磁気記録再生装置のアクチュエータアーム155から先の磁気ヘッドアセンブリをディスク側から眺めた斜視図。
【図20】各実施形態に用いることのできるディスクリートトラック型磁気記録媒体を説明する図。
【図21】各実施形態に用いることのできるディスクリートビット型磁気記録媒体を説明する図。
【符号の説明】
【0098】
1〜1M 磁気ヘッド
11 主磁極
12 主磁極
13 シールド
14 シールド
20〜20K スピントルク発振子
20 電極
20 バイアス層
20 発振層
20 中間層
20 スピン注入層
20 電極
21a,21b 磁区制御層
22 引き出し配線
24 絶縁層
30 駆動電流源
32 配線
35 駆動電流の流れる向き
40 記録磁界
44 高周波磁界
100 磁気記録媒体
101 基板
103 軟磁性層
105 磁気記録層
150 磁気記録再生装置
152 スピンドル
153 ヘッドスライダ
154 サスペンション
155 アクチュエータアーム
156 ボイスコイルモータ
157 スピンドル
160 磁気ヘッドアッセンブリ
164 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2主磁極と、前記第1および第2主磁極の間に配置されたスピントルク発振子と、を備えていることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】
前記スピントルク発振子は、第1磁性層と、中間層と、第2磁性層と、第3磁性層とがこの順で積層された積層構造を有し、前記第1磁性層に対して前記中間層と反対側に前記第1主磁極が配置され、前記第3磁性層に対して前記第2磁性層と反対側に前記第2主磁極が配置されることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
【請求項3】
前記第3磁性層は反強磁性体であることを特徴とする請求項2記載の磁気ヘッド。
【請求項4】
前記第1磁性層と第3磁性層の磁化容易軸の向きは前記積層構造の膜面に実質的に垂直であり,前記スピントルク発振子に駆動電流が流れない状態における前記第1磁性層と第3磁性層の磁化の向きは,実質的に互いに逆向きであることを特徴とする請求項2または3記載の磁気ヘッド。
【請求項5】
前記第1磁性層と第3磁性層の磁化容易軸の向きは前記積層構造の膜面に実質的に垂直であり、前記スピントルク発振子に駆動電流が流れない状態における前記第1磁性層および第3磁性層の磁化の向きは実質的に同じであることを特徴とする請求項2または3記載の磁気ヘッド。
【請求項6】
前記第1乃至第3磁性層の磁化の向きは、前記積層構造の膜面に実質的に平行であることを特徴とする請求項2または3記載の磁気ヘッド。
【請求項7】
前記スピントルク発振子は第1磁性層と、中間層と、第2磁性層とがこの順で積層された積層構造を有し、
前記第1磁性層に対して前記中間層と反対側に前記第1主磁極が配置され、前記第2磁性層に対して前記中間層と反対側に前記第2主磁極が配置され、
前記スピントルク発振子は、前記第1主磁極から第2主磁極に向かう方向に実質的に直交する方向に配置された一対の磁場印加部を更に有していることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
【請求項8】
前記スピントルク発振子は、前記第2磁性層に対して前記中間層と反対側に前記第2磁性層に接する第3磁性層を更に備えていることを特徴とする請求項7記載の磁気ヘッド。
【請求項9】
前記第3磁性層は反強磁性体であることを特徴とする請求項8記載の磁気ヘッド。
【請求項10】
前記第1および第2主磁極は、前記スピントルク発振子の電極を兼ねていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の磁気ヘッド。
【請求項11】
前記スピントルク発振子は、第1磁性層と、中間層と、第2磁性層と、第3磁性層とがこの順で積層された積層構造を有し、前記積層構造の膜面に平行な方向において対向する一対の側面のうち一方の側面に対向して前記第1主磁極が配置され、前記一対の側面の他方の側面に対向して前記第2主磁極が配置されていることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
【請求項12】
前記第3磁性層は反強磁性体であることを特徴とする請求項11記載の磁気ヘッド。
【請求項13】
前記第1磁性層と第3磁性層の磁化容易軸は前記積層構造の膜面に実質的に垂直であり,前記スピントルク発振子に電流が流れない状態における前記第1磁性層と第3磁性層の磁化の向きは実質的に同じであることを特徴とする請求項11または12記載の磁気ヘッド。
【請求項14】
前記第1磁性層と第3磁性層の磁化容易軸は前記積層構造の膜面に実質的に垂直であり、前記第1磁性層の磁化の向きは実質的に前記第3磁性層の磁化の向きとは逆向きであることを特徴とする請求項11または12記載の磁気ヘッド。
【請求項15】
前記スピントルク発振子に電流が流れない状態における、前記第1乃至第3磁性層の磁化の向きは、前記積層構造の膜面に実質的に平行であることを特徴とする請求項11または12記載の磁気ヘッド。
【請求項16】
前記スピントルク発振子は、第1磁場印加部と、第1磁性層と、中間層と、第2磁性層と、第2磁場印加部とがこの順で積層された積層構造を有し、
前記積層構造の膜面に直交する方向の対向する一対の側面のうちの一方の側面に対向して前記第1主磁極が配置され、前記一対の側面の他方の側面に対向して前記第2主磁極が配置されていることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
【請求項17】
前記スピントルク発振子は、前記第2磁性層と前記第2磁場印加部との間に第3磁性層を備えていることを特徴とする請求項16記載の磁気ヘッド。
【請求項18】
前記バイアス層は反強磁性体であることを特徴とする請求項16また17記載の磁気ヘッド。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれかに記載の磁気ヘッドを備え、前記磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体に書き込みを行うことを特徴とする磁気記録装置。
【請求項20】
前記磁気記録媒体が、硬磁性材料で構成される磁気記録層と、前記磁気記録層に隣接する軟磁性材料の軟磁性層とを含むことを特徴とする請求項19記載の磁気記録装置。
【請求項21】
前記磁気記録媒体がディスクリートビットメディアであることを特徴とする,請求項19に記載の磁気記録装置。
【請求項22】
前記磁気記録媒体がディスクリートトラックメディアであることを特徴とする,請求項19に記載の磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−80878(P2009−80878A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248047(P2007−248047)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】