説明

磁気記録媒体、磁気記録再生装置及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁性ドットが、分離形成されたパターンド媒体形式の磁気記録媒体に関し、磁性ドットの間隔を狭くしても、サイドイレーズを抑圧する。
【解決手段】磁気記録媒体(3)の軟磁性下地層(32)上に、非磁性層(34)を介し、磁性ドット(36)と軟磁性層(38)を設け、軟磁性層(38)で、磁性ドット(36)を分離する。磁性ドット(36)への記録時の漏れ磁束を、軟磁性層(38)が吸収し、サイドイレーズを抑圧でき、且つ軟磁性下地層(32)と、軟磁性層(38)とが、分離しているため、記録再生特性への影響を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッドにより記録、再生を行うための磁気記録媒体、磁気記録再生装置及び磁気記録媒体の製造方法に関し、特に、物理的に分離された磁気記録ドットを備える磁気記録媒体、磁気記録再生装置及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の超高密度垂直磁気記録方式として、ビットパターン記録方式(BPR : Bit Patterned Recording)が提案されている。BPR方式は、記録媒体の硬磁性材料をフォトリソプロセス及びエッチングプロセス等を用いて、凹凸に加工し、その凸部を記録ドットとして形成し、1ドット=1ビットとして記録再生を行う方法である。
【0003】
隣接ビットとは、物理的にも磁気的にも分離されていることから、ビット間の磁気的な相互作用が少なく、高密度記録に適している。また、ドットを構成する硬磁性材料の微結晶化を必要としないため、高熱安定性(高信頼性)に優れている。
【0004】
図14は、第1の従来のパターンド媒体の構成図、図15は、第2の従来のパターンド媒体の構成図である。
【0005】
図14に示すように、磁性記録膜を成膜したガラス基板上にレジストを塗布し、レジストに記録ドットパターン、サーボパターンを形成した後、エッチングプロセスにより、磁性記録膜を除去し、レジストパターンを磁性記録膜102に転写する。レジストを除去し、エッチングプロセスで除去された部分に非磁性膜104を埋め込み、最後に平坦化を行い、パターンド媒体100を形成する。以上の方法で作製したパターンド媒体は、ドット102間を、非磁性層104で区切っているため、磁気的にも物理的にも孤立しており高密度記録に適している(例えば、特許文献1,2参照)。
【0006】
又、図15に示すように、裏打ち層と非磁性層を一体形成する目的で、基板110上に、ポリマーを含んだ軟磁性微粒子をインプリントによりプレス加工し、その後過熱して、軟磁性層106を形成し、その凹部に、下地層及び中間層108と、磁気記録ドット102を形成したパターンド媒体が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
このパターンド媒体では、磁気記録ドット102の周り及び下部を、軟磁性層106で囲む構造を備える。
【特許文献1】特開平9−97419号公報
【特許文献2】特開2005−267736公報
【特許文献3】特開2004−227639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
磁気記録装置は、継続して記録密度の高密度化が要求されている。このため、パターンド媒体にも、そのドット間隔を、狭くすることが要求される。
【0009】
図16は、従来技術の問題点の説明図である。このドット間の狭小化が進むと、あるドットへ記録時に、磁気ヘッド(ライトヘッド)110からの記録磁界の漏れ磁界が、隣接ドット102へ影響を与え、その隣接ドット102の磁気情報を消してしまう。いわゆる、サイドイレーズが生じることが問題となる。ドット間の狭小化により、ライトヘッド110の浮上量も小さくなり、サイドイレーズの発生を避けることは、難しい。
【0010】
一方、第2の従来技術のパターンド媒体では、図17に示すように、ビット間の軟磁性膜と、記録層102の下部の軟磁性膜106は、連続して一体になっており、ビット間の軟磁性層と軟磁性裏打ち層106間の磁気的な結合が生じる。このため、記録再生時に磁気ノイズの発生が懸念される。さらに、パターン形成後、軟磁性微粒子を固めるために熱処理が必要となるため、基板、下地層材料として耐熱性に優れた材料の選定が求められる。
【0011】
即ち、図16の記録時に動く記録層下部の軟磁性膜106の磁化方向の影響を受け、ビット間の軟磁性膜106の磁化方向も動き易い。又、ビット間の軟磁性膜は、その形状から、磁化方向が垂直に向きやすい。
【0012】
このため、記録ビット間の軟磁性膜の磁化方向は、常に、不安定状態であり、サイドイレーズの低減効果は、期待できない。しかも、記録ドット自体の磁化にも影響を与え、読み出し時のSN(Signal to Noise)比の増大をもたらすおそれがある。
【0013】
従って、本発明の目的は、記録ドット間を狭くしても、サイドイレーズを有効に抑圧するための磁気記録媒体、磁気記録再生装置及び磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【0014】
又、本発明の他の目的は、記録ドット間を狭くしても、サイドイレーズを有効に抑圧し、且つ記録ドットの磁気的な分離性を確保するための磁気記録媒体、磁気記録再生装置及び磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【0015】
更に、本発明の他の目的は、記録ドット間を狭くしても、サイドイレーズを有効に抑圧し、高密度記録を実現するための磁気記録媒体、磁気記録再生装置及び磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的の達成のため、本発明の磁気記録媒体は、基板と、前記基板上に設けられた軟磁性裏打ち層と、前記軟磁性裏打ち層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられ、硬磁性材料によって形成され、物理的に分離された複数の磁性ドットを有する磁性記録層と、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に設けられた軟磁性層とを有する。
【0017】
又、本発明の磁気記録再生装置は、磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体のデータを読み取り且つ書き込む電磁変換素子と、前記電磁変換素子を前記磁気記録媒体の任意の位置に移動するアクチュエータとを有し、前記磁気記録媒体は、基板と、基板上に設けられた軟磁性裏打ち層と、前記軟磁性裏打ち層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられ、硬磁性材料によって形成され、物理的に分離された複数の磁性ドットを有する磁性記録層と、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に設けられた軟磁性層とを有する。
【0018】
又、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に、軟磁性裏打ち層と、非磁性層と、硬磁性材料によって形成された磁気記録層を、成膜する第1の工程と、前記成膜された基板の前記磁気記録層にレジストを塗布し、前記レジストに、物理的に分離された複数の磁性ドットを形成するためのパターンを形成する第2の工程と、前記パターン形成されたレジストを介し、エッチング又はイオン注入のいずれかにより、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に軟磁性層を形成する第3の工程とを有する。
【0019】
更に、本発明では、好ましくは、前記軟磁性層の磁化容易軸方向が、前記基板に対して水平であり、前記磁気記録層の磁化容易軸方向が、前記基板に対して垂直である。
【0020】
更に、本発明では、好ましくは、前記磁性ドットと前記軟磁性層との境界に、非磁性部材を設ける。
【0021】
更に、本発明では、好ましくは、前記軟磁性層の保磁力が、前記磁気記録層の保持力より小さい。
【0022】
更に、本発明では、好ましくは、前記磁性記録層は、垂直磁化膜で構成された。
【0023】
更に、本発明では、好ましくは、前記磁気記録媒体は、磁気ディスクで構成され、前記電磁変換素子は、前記磁気ディスクのデータを読み取る読み取り素子と、前記磁気ディスクにデータを書き込む書込み素子とで構成された。
【0024】
更に、本発明では、好ましくは、前記第3の工程は、前記パターン形成されたレジストを介し、前記磁気記録層をエッチングする工程と、前記レジストを剥離する工程と、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に軟磁性層を形成する工程とを有する。
【0025】
更に、本発明では、好ましくは、前記第3の工程は、前記パターン形成されたレジストを介し、前記磁気記録層に、非磁性材料原子をイオン注入して、軟磁性に改質する工程と、前記レジストを剥離する工程とを有する。
【0026】
更に、本発明では、好ましくは、前記軟磁性層を形成する工程は、前記エッチングされた磁性記録層に対し、非磁性材料と前記軟磁性材料とを、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に形成する工程を有する。
【0027】
更に、本発明では、好ましくは、前記磁気記録層をエッチングする工程は、前記レジストを介し、イオンミリング法により前記硬磁性材料及び下部の非磁性材料を削り、前記下部非磁性材料のミリング時に生じる前記磁気記録層の形成パターン側壁への非磁性材料の再付着により、前記非磁性材料を前記磁性ドットの周囲に形成する工程を有する。
【発明の効果】
【0028】
軟磁性下地層上に、非磁性層を介し、磁性ドットと軟磁性層を設け、軟磁性層で、磁性ドットを分離するため、磁性ドットへの記録時の漏れ磁束を、軟磁性層が吸収し、サイドイレーズを抑圧でき、且つ軟磁性下地層と、軟磁性層とが、分離しているため、記録再生特性への影響を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、磁気記録再生装置の構成、磁気記録媒体の第1の実施の形態、磁気記録媒体の第2の実施の形態、磁気記録媒体の製造方法の第1の実施の形態、磁気記録媒体の製造方法の第2の実施の形態、磁気記録媒体の製造方法の第3の実施の形態、磁気記録媒体の製造方法の第4の実施の形態、他の実施の形態の順で説明するが、本発明は、この実施の形態に限られない。
【0030】
(磁気記録再生装置)
図1は、本発明の磁気記録再生装置の一実施の形態の外観図である。図1は、磁気記録再生装置として、磁気ディスク装置(ハードディスクドライブ)を例に示す。
【0031】
図1に示すように、ディスクエンクロージャ(DEという)1では、磁気記録媒体である磁気ディスク3が、スピンドルモータ4の回転軸に設けられている。スピンドルモータ4は、磁気ディスク3を回転する。アクチュエータ(VCMという)5は、アーム(ヘッドアクチュエータという)52、サスペンションの先端に磁気ヘッド53を備え、磁気ヘッド53を磁気ディスク3の半径方向に移動する。
【0032】
アクチュエータ5は、回転軸を中心に回転するボイスコイルモータ(VCM)で構成される。図1では、磁気ディスク装置に、1枚の磁気ディスク3が搭載され、2つの磁気ヘッド53が、同一のアクチュエータ5で同時に駆動される。
【0033】
磁気ヘッド53は、リード素子と、ライト素子とからなる。磁気ヘッド53は、スライダに、磁気抵抗(MR)素子を含むリード素子を積層し、その上にライトコイルを含むライト素子を積層して、構成される。
【0034】
磁気ディスク3の外側には、磁気ヘッド2を磁気ディスク3から退避し、パーキングするためのランプ機構54が設けられる。
【0035】
又、図1の下部には、プリント回路アッセンブリ(制御回路部)が設けられ、プリント回路アッセンブリには、ハードディスクコントローラ(HDC)、マイクロコントローラ(MCU)、リード/ライトチャネル回路(RDC)、サーボコントロール回路、データバッファ(RAM)、ROM(リードオンリーメモリ)が設けられる。この磁気ディスク3として、以下で説明するパターンド媒体が用いられ、磁気ヘッド53は、垂直記録ヘッドで構成される。
【0036】
(磁気記録媒体の第1の実施の形態)
図2は、本発明の磁気記録媒体の第1の実施の形態の断面図、図3は、図2の斜視図、図4は、図2の構成によるサイドイレーズ抑圧効果の説明図、図5は、垂直記録の磁気フラックスの説明図、図6は、図2の構成の磁化方向の説明図である。
【0037】
図2に示すように、磁気記録媒体3は、基板30上に、軟磁性裏打ち層32、非磁性中間層34、磁気記録層(硬磁性材料)36を設けた多層構造である。そして、図3にも示すように、磁気記録層36は、軟磁性膜38で区切られ、記録ドットを形成する。軟磁性膜38の保磁力は、磁気記録層36よりも少なく、約100Oe(エルステッド)程度であり、且つ磁化方向は、基板面に対して水平(面内)方向を持つことが望ましい。
【0038】
軟磁性層38の形成方法としては、上記した多層構造の膜を、パターン形状に、一層又は二層以上をエッチング法などにより除去した後、スパッタ法などにより、除去した部分に、軟磁性材料38を成膜する。その後、余分な軟磁性層膜38を除去し、最後に、表面平坦化を行い、形成する。
【0039】
基板30としては、ガラス基板が用いられ、ガラス基板に密着性向上のため、ガラス基板30上に、下地層としてクロム合金膜を設けることが望ましい。軟磁性裏打ち層32としては、Co合金/Ru/Co合金からなるAPS−SUL構造(Anti-Parallel-Structure magnetic Soft Under Layer)を持つ多層膜を用いることが望ましい。又、中間層34としてRu層を、磁気記録層36として、Co合金垂直磁化膜を用いる。
【0040】
軟磁性材料38としては、NiFe合金やCoNiFe合金などを用いる。このときに必要であれば、スパッタ成膜時に磁場を印加する)。
【0041】
このような構成によれば、図4に示すように、ドット間隔を狭めた場合でも、磁気ヘッド(ライトヘッド)53aからの漏れ磁界が,ビット36間の軟磁性層38に吸い込まれ,隣接ドット36への漏れ磁界の影響を防ぐことができる。このため、サイドイレーズ問題が解決される。
【0042】
又、軟磁性層38と軟磁性裏打ち層32も分離されており、高密度記録用パターンド媒体構造として適している。更に、熱処理も不要であるため、膜構造、基板及び膜材料の選択性の自由度が高い。
【0043】
図5に示すように、垂直磁気記録方式では、ライトヘッド23の磁極23−1とライトヘッド23のシールド23−2間の磁界フラックスの流れは、基板3の磁気記録層38、下地層を介し、軟磁性裏打ち層32を通る。ここで、磁気記録層38への垂直方向の磁気フラックスは、軟磁性裏打ち層32で水平方向になり、シールド23−3へ、垂直方向に分散される。
【0044】
図6に示すように、軟磁性層38と軟磁性裏打ち層32が、非磁性下地層34で分離されているため、記録時に動く軟磁性裏打ち層32の磁化方向が、軟磁性層38の磁化に影響しない。このため、ビット間の軟磁性層38の磁化方向は、常に安定しており、軟磁性層38で、磁気記録層36を分離しても、記録特性に影響を与えず、サイドイレーズを抑圧できる。
【0045】
しかも、ビット間の軟磁性層38の磁化方向は、その形状から、垂直にも向きやすいが、スパッタ法等で形成された磁気特性(異方性)が優れているため、面内方向を向いている。このため、軟磁性層38の磁化が、磁気記録層36の磁化方向に影響しない。
【0046】
このように、記録ドット36間に軟磁性層38を設け、記録時に発生する記録磁界の隣接ドットへの漏れ磁界を軟磁性層で吸収し、サイドイレーズを抑制できる。しかも、軟磁性層38と軟磁性裏打ち層32が、非磁性下地層34で分離されているため、より記録・再生エラーの少ない高信頼のパターンド媒体の提供が可能となる。また、軟磁性層を介すことにより、ドット間をさらに狭めることを可能とし、高記録密度で信頼性の高いパターンド媒体を提供できる。
【0047】
(磁気記録媒体の第2の実施の形態)
図7は、本発明の磁気記録媒体の第2の実施の形態の斜視図、図8は、図7の断面図であり、図2及び図6の記録層と軟磁性層の部分のみを示す。
【0048】
図7及び図8に示すように、上記した図2及び図6の構成に加えて、軟磁性層38と磁気記録層36の間に非磁性層37を挟む構成とする。
【0049】
即ち、図2及び図6に示したように、基板30上に、軟磁性裏打ち層32、非磁性中間層34、磁気記録層(硬磁性材料)36を設けた多層構造の磁気記録媒体に、磁気記録層36を、軟磁性膜38で区切り、記録ドットを形成する。この構成において、軟磁性層38と磁気記録層36の間に非磁性層37を挟む構成とする。
【0050】
この構成により、軟磁性層38から磁気記録層36への磁気的な結合を低減することが可能となり、記録磁界分布を急峻にすることができる。このため、より、高密度記録に適している。
【0051】
(磁気記録媒体の製造方法の第1の実施の形態)
図9は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の第1の実施の形態の工程図である。図9は、図2、図3で説明した第1の実施の形態の磁気記録媒体を製造する方法を示す。
【0052】
(a)スパッタ成膜工程:2.5インチHDD(ハードディスクドライブ)用ガラス基板30上に、スパッタ法を用いて多層膜の成膜を行う。多層膜の構成として、基板30側から下地層33、軟磁性裏打ち層32、中間層34、磁気記録層36の順番で、成膜を行う。尚、各層の構成は単層とは限らず、多層膜によって構成されても良い。
【0053】
本実施例では、下地層33としてクロム合金膜を、軟磁性裏打ち層32としてCo合金/Ru/Co合金からなるAPS−SUL構造(Anti-Parallel-Structure magnetic Soft Under Layer)を持つ多層膜を、中間層34としてRu層を、磁気記録層36としてCo合金垂直磁化膜を用いた。
【0054】
(b)、(c)UVインプリント工程:上記スパッタ成膜されたサンプルの磁気記録層36上に、レジスト42(紫外線硬化樹脂等)を塗布し、電子線描画装置などにより、データ領域及びサーボパターンを描画され、記録ドットパターンを凸部として形成されたガラスモールド40を使用し、UV(紫外線)インプリント法を行う。即ち、上記スパッタ成膜されたサンプル上に塗布されたレジスト(UV硬化樹脂など)42上に、モールド40を押し当て、紫外線を照射して、レジスト42へのパターンの転写を行う。
【0055】
レジスト42へのモールドパターン転写法としては、UVインプリント法の他に、レジストを熱で軟化させた後、モールド40を押し付け、パターンを転写する熱インプリント法の使用も可能である。また、上記スパッタ成膜後のサンプルに、レジスト42を塗布し、電子線描画装置で直接パターンを描画する方法もある。この方法は、描画に時間が掛かり、量産には、好ましくない。
【0056】
(d)イオンミリング工程:エッチング法として、イオンミリング法を用いて、レジスト42をマスクとして、磁気記録層36のエッチングを行い、レジスト42のパターンにより、磁気記録層36の凹凸を形成する。エッチング方法としては、イオンミリング法のほかに、リアクティブエッチング方法なども適用できる。また、エッチングは、必要であれば、磁気記録層36の途中、または磁気記録層36の下部の層までエッチングすることも可能である。
【0057】
(e)レジスト剥離工程:レジスト42を溶剤などで除去することにより、磁気記録層36にドットパターン(凹凸)を形成する。
【0058】
(f)軟磁性材料成膜工程:スパッタ成膜法などにより、軟磁性材料38を、上記サンプルの(磁性記録層36)上に成膜を行い、磁性記録層36の凹部に、軟磁性材料38を埋め込む。軟磁性材料38としては、NiFe合金やCoNiF合金などを用いる。このときに必要であれば、スパッタ成膜時に磁場を印加する。
【0059】
(g)表面平坦化工程:表面に溢れた軟磁性材料38を除去するため、平坦化処理を行う。平坦化方法として、CMP法(Chemical Mechanical Polishing)や機械研磨法、低角ミリング法、ガスクラスターイオンビーム法などを適用できる。研磨後のサンプル表面は、磁気ヘッド53の浮上が可能な平坦性が必要とされる。本実施例では、原子間力顕微鏡(AFM; Atomic Force Microscopy : Veeco製)の測定で、中心線平均粗さ(Ra)<1nmとした。
【0060】
(h)保護膜形成及び潤滑油塗布工程:保護膜44としてスパッタ成膜法により、カーボンを成膜した後、潤滑剤46を浸漬法で塗布する。
【0061】
このようにして、図2、図3で説明した第1の実施の形態の磁気記録媒体を、熱処理工程なしに、製造できる。
【0062】
(磁気記録媒体の製造方法の第2の実施の形態)
図10は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の第2の実施の形態の工程図である。図10は、図7、図8で説明した第2の実施の形態の磁気記録媒体を製造する方法を示す。
【0063】
以下、図9も参照して、説明する。図7及び図8の磁気記録層36と軟磁性層38間に、非磁性層37を挟む構造を作製する方法として、図9の軟磁性材料成膜工程(f)を変形する。
【0064】
即ち、成膜工程(f)のスパッタ法による軟磁性材料38の埋め込み時に、軟磁性材料38の代わりに非磁性材料37/軟磁性材料38の二層構造膜を成膜する方法である。この場合は、成膜後のプロセスは、図9の表面平坦化工程(g)、保護膜形成及び潤滑油塗布工程(h)と同じ工程を行う。この時、軟磁性層36の下部には、成膜した非磁性層38が残り、図7、図8で説明した第2の実施の形態の磁気記録媒体を、熱処理工程なしに、製造できる。
【0065】
(磁気記録媒体の製造方法の第3の実施の形態)
図11は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の第3の実施の形態の工程図である。図11は、図7、図8で説明した第2の実施の形態の磁気記録媒体を製造する方法を示す。
【0066】
以下、図9も参照して、説明する。図7及び図8の磁気記録層36と軟磁性層38間に、非磁性層37を挟む構造を作製する方法として、図9のイオンミリング工程(d)を変形する。即ち、イオンミリング装置によるパターンエッチング時に生じるエッチングされた材料の再付着を用いる方法を利用する。
【0067】
イオンミリング装置でエッチングを行う場合、エッチングされた材料が、エッチングで形成されたパターンの側壁に付着することが知れられている。例えば、特開2005−267736号公報では、レジストに磁性材料を付着させて突起を形成し、平坦化工程での平坦性を制御する方法に使われている。
【0068】
本実施の形態では、図11に示す例は、磁気記録層36の下部層に、非磁性層39を設け、前述のミリング工程を実行する。このミリング工程において、磁気記録層36をミリングする時には、レジスト42の側面に、エッチングされた磁気記録層36が付着する。更に、磁気記録層36のミリング後、非磁性層39にイオンミリングを行い、上部の磁気記録層36の壁面に、非磁性材料39を付着させる。
【0069】
その後、図9のレジスト剥離工程(e)を行い、軟磁性材料充填工程(f)で、軟磁性材料38を、スパッタ法などにより成膜する。成膜後のプロセスは、図9の表面平坦化工程(g)、保護膜形成及び潤滑油塗布工程(h)と同じ工程を行う。
【0070】
(磁気記録媒体の製造方法の第4の実施の形態)
図12は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の第4の実施の形態の工程図、図13は、エッチング法とイオン注入法との工程比較図である。図12は、図2、図3で説明した第1の実施の形態の磁気記録媒体を製造する方法を示す。
【0071】
図12は、本発明による構造の軟磁性層を形成する方法として、イオン注入法を用いる方法である。イオン注入法は、例えば、特開2006−286085号公報では、磁性材料イオンを注入し、部分的に硬磁性化し、磁気パターンを形成する例を開示している。
【0072】
一方、本実施の形態の場合は、硬磁性材料の軟磁性化を目的としており、注入するイオンとしてアルゴン、酸素、窒素、ボロン、リンなどの非磁性材料を用いる。イオン注入による硬磁性材料(磁気記録材料)への不純物の添加や、構造の破壊効果などにより、軟磁磁気特性に改質することが可能である。
【0073】
また、図13に示すように、イオン注入法は、エッチング工程がないため、溝への軟磁性材料の充填及び平坦化工程(図9の(f)、(g)、(h))が不要である。このため、製造装置や工程数が、上記エッチングによるパターン形成より少なく、低製造コストが可能である。
【0074】
図12により詳細に説明する。
【0075】
(a)スパッタ成膜工程:2.5インチHDD(ハードディスクドライブ)用ガラス基板30上に、スパッタ法を用いて多層膜の成膜を行う。多層膜の構成として、基板30側から下地層33、軟磁性裏打ち層32、中間層34、磁気記録層36、保護層44の順番で、成膜を行う。尚、各層の構成は単層とは限らず、多層膜によって構成されても良い。
【0076】
本実施例では、下地層33としてクロム合金膜を、軟磁性裏打ち層32としてCo合金/Ru/Co合金からなるAPS−SUL構造(Anti-Parallel-Structure magnetic Soft Under Layer)を持つ多層膜を、中間層34としてRu層を、磁気記録層36としてCo合金垂直磁化膜を用いた。
【0077】
(b)、(c)UVインプリント工程:上記スパッタ成膜されたサンプルの磁気記録層36上に、レジスト42(紫外線硬化樹脂等)を塗布し、電子線描画装置などにより、データ領域及びサーボパターンを描画され、記録ドットパターンを凸部として形成されたガラスモールド40を使用し、UV(紫外線)インプリント法を行う。即ち、上記スパッタ成膜されたサンプル上に塗布されたレジスト(UV硬化樹脂など)42上に、モールド40を押し当て、紫外線を照射して、レジスト42へのパターンの転写を行う。
【0078】
レジスト42へのモールドパターン転写法としては、UVインプリント法の他に、レジストを熱で軟化させた後、モールド40を押し付け、パターンを転写する熱インプリント法の使用も可能である。また、上記スパッタ成膜後のサンプルに、レジスト42を塗布し、電子線描画装置で直接パターンを描画する方法もある。この方法は、描画に時間が掛かり、量産には、好ましくない。
【0079】
(d)イオン注入工程:イオン注入法により、磁気記録層36のレジスト42が除去された部分に、イオン(アルゴン、酸素、窒素、ボロン、リンなどの非磁性材料)の注入を行い、磁気記録層(硬磁性層)36を、軟磁性層38に変化させる。
【0080】
(e)レジスト剥離工程:レジスト42を溶剤などで除去した後、浸漬法により、潤滑剤46の塗布を行う。
【0081】
このように、イオン注入法は、エッチング工程がないため、製造装置や工程数が、上記エッチングによるパターン形成より少なく、低製造コストが可能である。
【0082】
(他の実施の形態)
前述の実施の形態では、1枚の磁気ディスクを搭載した磁気ディスク装置で説明したが、2枚以上の磁気ディスクを搭載した装置にも適用できる。磁気記録媒体の形態も、ディスク形状に限らず、他の磁気記録媒体に適用でき、磁気ヘッドの形態は、図5のものに限らず、他の分離型磁気ヘッドの形態にも適用できる。
【0083】
尚、本発明は、以下に付記する発明を包含する。
【0084】
(付記1)基板と、基板上に設けられた軟磁性裏打ち層と、前記軟磁性裏打ち層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられ、硬磁性材料によって形成され、物理的に分離された複数の磁性ドットを有する磁性記録層と、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に設けられた軟磁性層とを有することを特徴とする磁気記録媒体。
【0085】
(付記2)前記軟磁性層の磁化容易軸方向が、前記基板に対して水平であり、前記磁気記録層の磁化容易軸方向が、前記基板に対して垂直であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【0086】
(付記3)前記上記の磁性ドットと前記軟磁性層との境界に、非磁性部材を設けることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【0087】
(付記4)前記軟磁性層の保磁力が、前記磁気記録層の保持力より小さいことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【0088】
(付記5)前記磁性記録層は、垂直磁化膜で構成されたことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【0089】
(付記6)磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体のデータを読み取り且つ書き込む電磁変換素子と、前記電磁変換素子を前記磁気記録媒体の任意の位置に移動するアクチュエータとを有し、前記磁気記録媒体は、基板と、基板上に設けられた軟磁性裏打ち層と、前記軟磁性裏打ち層上に設けられた非磁性層と、前記非磁性層上に設けられ、硬磁性材料によって形成され、物理的に分離された複数の磁性ドットを有する磁性記録層と、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に設けられた軟磁性層とを有することを特徴とする磁気記録再生装置。
【0090】
(付記7)前記軟磁性層の磁化容易軸方向が、前記基板に対して水平であり、前記磁気記録層の磁化容易軸方向が、前記基板に対して垂直であることを特徴とする請求項6記載の磁気記録再生装置。
【0091】
(付記8)前記上記の磁性ドットと前記軟磁性層との境界に、非磁性部材を設けることを特徴とする請求項6記載の磁気記録再生装置。
【0092】
(付記9)前記軟磁性層の保磁力が、前記磁気記録層の保持力より小さいことを特徴とする請求項6記載の磁気記録再生装置。
【0093】
(付記10)前記磁性記録層は、垂直磁化膜で構成されたことを特徴とする請求項6記載の磁気記録再生装置。
【0094】
(付記11)前記磁気記録媒体は、磁気ディスクで構成され、前記電磁変換素子は、前記磁気ディスクのデータを読み取る読み取り素子と、前記磁気ディスクにデータを書き込む書込み素子とで構成されたことを特徴とする付記6の磁気記録再生装置。
【0095】
(付記12)基板上に、軟磁性裏打ち層と、非磁性層と、硬磁性材料によって形成された磁気記録層を、成膜する第1の工程と、前記成膜された基板の前記磁気記録層にレジストを塗布し、前記レジストに、物理的に分離された複数の磁性ドットを形成するためのパターンを形成する第2の工程と、前記パターン形成されたレジストを介し、エッチング又はイオン注入のいずれかにより、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に軟磁性層を形成する第3の工程とを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0096】
(付記13)前記第3の工程は、前記パターン形成されたレジストを介し、前記磁気記録層をエッチングする工程と、前記レジストを剥離する工程と、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に軟磁性層を形成する工程とを有することを特徴とする付記12の磁気記録媒体の製造方法。
【0097】
(付記14)前記第3の工程は、前記パターン形成されたレジストを介し、前記磁気記録層に、非磁性材料原子をイオン注入して、軟磁性に改質する工程と、前記レジストを剥離する工程とを有することを特徴とする付記12の磁気記録媒体の製造方法。
【0098】
(付記15)前記軟磁性層を形成する工程は、前記エッチングされた磁性記録層に対し、非磁性材料と前記軟磁性材料とを、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に形成する工程を有することを特徴とする付記13の磁気記録媒体の製造方法。
【0099】
(付記16)前記磁気記録層をエッチングする工程は、前記レジストを介し、イオンミリング法により前記硬磁性材料及び下部の非磁性材料を削り、前記下部非磁性材料のミリング時に生じる前記磁気記録層の形成パターン側壁への非磁性材料の再付着により、前記非磁性材料を前記磁性ドットの周囲に形成する工程を有することを特徴とする請求項13記載の磁気記録媒体の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0100】
軟磁性下地層上に、非磁性層を介し、磁性ドットと軟磁性層を設け、軟磁性層で、磁性ドットを分離するため、磁性ドットへの記録時の漏れ磁束を、軟磁性層が吸収し、サイドイレーズを抑圧でき、且つ軟磁性下地層と、軟磁性層とが、分離しているため、記録再生特性への影響を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の一実施の形態の磁気記録再生装置の外観図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の磁気記録媒体の断面図である。
【図3】図2の磁気記録媒体の斜視図である。
【図4】図2、図3の磁気記録媒体のサイドイレーズ抑圧動作の説明図である。
【図5】図2、図3の磁気記録媒体の垂直磁気記録動作の説明図である。
【図6】図2の磁気記録媒体の磁化方向の説明図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態の磁気記録媒体の説明図である。
【図8】図7の磁気記録媒体の断面図である。
【図9】本発明の磁気記録媒体の製造方法の第1の実施の形態の説明図である。
【図10】本発明の磁気記録媒体の製造方法の第2の実施の形態の説明図である。
【図11】本発明の磁気記録媒体の製造方法の第3の実施の形態の説明図である。
【図12】本発明の磁気記録媒体の製造方法の第4の実施の形態の説明図である。
【図13】本発明の磁気記録媒体の製造方法の第1の実施の形態と第4の実施の形態の工程を比較した説明図である。
【図14】従来のパターンド媒体の説明図である。
【図15】従来の他のパターンド媒体の説明図である。
【図16】従来の問題点の説明図である。
【図17】図15の従来技術の磁化方向の説明図である。
【符号の説明】
【0102】
1 磁気ディスクエンクロージャ(DE)
3 磁気ディスク
4 スピンドルモータ
5 アクチュエータ(VCM)
52 アーム
53 磁気ヘッド(電磁変換素子)
30 ガラス基板
32 軟磁性下地層
33 下地層
34 下地層(非磁性層)
36 磁性記録層
38 軟磁性層
39 非磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた軟磁性裏打ち層と、
前記軟磁性裏打ち層上に設けられた非磁性層と、
前記非磁性層上に設けられ、硬磁性材料によって形成され、物理的に分離された複数の磁性ドットを有する磁性記録層と、
前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に設けられた軟磁性層とを有する
ことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記軟磁性層の磁化容易軸方向が、前記基板に対して水平であり、
前記磁性記録層の磁化容易軸方向が、前記基板に対して垂直である
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性ドットと前記軟磁性層との境界に、非磁性部材を設ける
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体のデータを読み取り且つ書き込む電磁変換素子と、
前記電磁変換素子を前記磁気記録媒体の任意の位置に移動するアクチュエータとを有し、
前記磁気記録媒体は、
基板と、
前記基板上に設けられた軟磁性裏打ち層と、
前記軟磁性裏打ち層上に設けられた非磁性層と、
前記非磁性層上に設けられ、硬磁性材料によって形成され、物理的に分離された複数の磁性ドットを有する磁性記録層と、
前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に設けられた軟磁性層とを有する
ことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項5】
基板上に、軟磁性裏打ち層と、非磁性層と、硬磁性材料によって形成された磁気記録層を、成膜する第1の工程と、
前記成膜された基板の前記磁気記録層にレジストを塗布し、前記レジストに、物理的に分離された複数の磁性ドットを形成するためのパターンを形成する第2の工程と、
前記パターン形成されたレジストを介し、エッチング又はイオン注入のいずれかにより、前記磁性記録層の前記磁性ドットの周りを囲むように前記非磁性層上に軟磁性層を形成する第3の工程とを有する
ことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−238317(P2009−238317A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83488(P2008−83488)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】