説明

磁気記録媒体および磁気ディスク装置

【課題】遷移ノイズを低減するとともに、信頼性が高くて製造が容易な熱アシスト記録方式による高記録密度磁気ディスク装置を提供する。
【解決手段】本発明は、磁気記録に関わる技術であり、基板と、基板上に形成された第1導電性材料層13Aと、第1導電性材料層の上に形成された半導体層12と、半導体層12の上に形成された第2導電性材料層13Bと、第2導電材料層13Bの上に形成された磁気記録層11と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク装置、特に加熱動作により記録を補助する磁気ディスク装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの外部記憶装置として不可欠な存在である磁気ディスク装置は、高記録密度化が急速に進んでいる。高記録密度を実現するに当たって、SN比の向上が必要となるが、中でも遷移ノイズの低減は最重要課題の一つである。
【0003】
遷移ノイズは、媒体上で隣接するビット0を記録した位置とビット1を記録した位置の間の遷移領域にて、ビットの読み出し時に発生する。すなわち、ビット0に対応する磁性粒子とビット1に対応する磁性粒子とが入り組む構造によって、ビット0から1またはビット1から0に読み出し信号が変化するときの信号をノイズとしている。ビット0から1またはビット1から0に読み出し信号が変化するとき、変化の程度が緩やかになると、ビット0と1との境界部分の識別化困難となり、ノイズ成分となる。
【0004】
遷移ノイズは、媒体の記録材料を構成する磁性粒子の大きさに依存し、粒径が小さいほど抑制できる。ビット0に対応する磁性粒子とビット1に対応する磁性粒子とが入り組む構造が小さくなるからである。しかしながら、粒径の低減は、個々の磁性粒子が持つ磁気異方性エネルギーを小さくする結果となり、磁気記録の熱安定性を低下させる。このため、粒径の低減に対応して、記録材料には磁気異方性エネルギー密度の高い材料が必要となる。磁気異方性エネルギーは、磁性材料内で、スピンを所定の方向に向ける(例えば、90度方向を変える)ために必要なエネルギーと考えることができる。したがって、磁気異方性エネルギー密度を高めることは、ヘッドによる媒体への書き込みを困難にすることを意味している。
【0005】
このため、磁気異方性エネルギー密度の高い材料を使用すると、磁性粒子の粒径を小さくしても、ビット0の領域とビット1の領域との境界付近でビット0およびビット1の粒子が混在した状態となると推定され、必ずしも遷移ノイズの低減につながらないと考えられる。
【0006】
ところで、磁気異方性エネルギーが大きい小径粒子を用いた場合に、書き込みを容易にする技術として、記録動作時に媒体面を加熱する熱アシスト方式がある(原理計算例 Journal of Applied Physics vol94, pp.1119 (2003))。熱アシスト記録方式の一般的な構
成は、熱源としてレーザ光を用い、記録ヘッド近傍の記録媒体表面を加熱するものである(例えば、下記特許文献1参照)。なお、レーザ光源の替わりに電熱体を磁気ヘッドスライダの、磁気ヘッド近傍に組み込む技術も提案されている(例えば、下記特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平6−243527号公報
【特許文献2】特開2006−12256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱アシスト記録方式を磁気ディスク装置で実現しようとする場合には、熱源をどう組み込むかという問題を解決する必要がある。熱アシスト記録を行う場合、媒体面の余り広い領域を加熱すると、熱緩和による記録消失が顕著になる。そこで、データを書き込むトラックのトラック幅を大きく超えない範囲に加熱を行うために、スポット径を100nmオ
ーダーまで絞ることができるレーザ光を熱源に用いることが多い。
【0008】
その場合に、磁気ヘッドの真下において十分高い温度が得られるようにするには、磁気ヘッドのごく近くにレーザ光源を組み込む必要がある。しかしながら、このような磁気ヘッドとレーザ光源とが近接した構造のヘッドスライダを製造するのは容易ではない。そこで、レーザ光源の替わりに、製造がより容易な電熱体を磁気ヘッドの近傍に組み込む提案がなされた。
【0009】
しかし、記録を行う200℃程度以上の温度まで媒体面を加熱するためには、電熱体自身の温度をこれ以上にする必要がある。このため、読み取り用磁気抵抗効果素子の劣化リスクが上昇する。また、この方式では、加熱の度に、磁気ヘッドを有するヘッドスライダの空気潤滑面が熱膨張により変形することになり、磁気ヘッド部分の磁気スペーシングが設計値から離れてしまい、装置の信頼性、安定性が低下するという問題もある。
【0010】
本発明の目的は、上記遷移ノイズを低減するとともに、信頼性が高くて製造が容易な熱アシスト記録方式による高記録密度磁気ディスク装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、本発明は、磁気記録に関わる技術であり、基板と、基板上に形成された第1導電性材料層と、第1導電性材料層の上に形成された半導体層と、半導体層の上に形成された第2導電性材料層と、第2導電材料層の上に形成された磁気記録層と、を備える磁気記録媒体を使用することを特徴とする。
【0012】
本発明では、第1導電性材料層と第2導電性材料層を通じて、半導体層に電圧を印加することができる。
【0013】
このような磁気記録媒体に、さらに、媒体上の所望の半径位置を加熱可能な機構、例えば、レーザ照射機構、放電、あるいはトンネル現象による通電が可能な電極を含む通電機構を設けることで、磁気記録媒体上の所望の位置を選択して加熱できる。その場合、第1導電性材料層と第2導電性材料層を通じて、半導体層に電圧を印加しておくことで、半導体層の抵抗を低減し、前記所望の位置での半導体層だけを選択して、電流を流すことができる。その結果、前記加熱された位置では、ジュール熱によって、さらにその加熱状態を維持できる。
【0014】
このような構成によって、磁気記録媒体への磁気記録を書き込む磁気ヘッドと近接しない位置に、上記加熱可能な機構を設け、その加熱状態を維持した状態で、加熱箇所を磁気ヘッドの書き込み位置に移動可能にし、磁気ディスク装置を構成できる。
【0015】
その場合、磁気ヘッドと加熱可能な機構とを独立に移動可能な構成としてもよい。また、磁気ヘッドと加熱可能な機構とが近接しない距離で、一体となって連動する構成であってもよい。連動する構成の場合には、磁気ヘッドの読み取り信号から、加熱可能な機構の位置を制御すればよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、信頼性が高くて製造が容易な熱アシスト記録方式による高記録密度磁気ディスク装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)に
係る磁気ディスク装置について説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成には限定されない。
【0018】
<発明の骨子>
磁気記録媒体の記録層の下に、発熱機構を設ける。発熱機構として、温度の上昇に伴って電気抵抗が下がる半導体材料を金属膜で挟んだ構造を設け、これら金属膜間に電圧を印加する回路を設ける。その場合、熱アシスト記録を行う場合に、記録を行う箇所以外の媒体面を加熱することは、記録の消失を招くため、好ましくない。
【0019】
そこで、本実施形態では、書き込みを行うトラックの記録箇所に限定して加熱を行う構造を提案する。すなわち、本磁気ディスク装置は、上記金属膜間の電圧を維持した状態で媒体面にレーザ光を照射する(以下一次加熱と記す)。上記半導体材料を挟む金属膜間に電圧を印加して、レーザ光を照射すると、照射を受けた磁気記録媒体の温度が上昇する。すると、温度が上昇した箇所の半導体材料の電気抵抗が低下する。このため、レーザが照射された位置付近の半導体材料部分に集中的に電流が流れることになる(図2(1)参照)。すなわち、特定の位置にて選択的に通電できる。
【0020】
それに伴って発生するジュール熱により温度が維持される(以下二次加熱と記す)。そして、金属膜間への電圧印加により、電気抵抗が低下した半導体材料の電流が維持される。その結果、レーザの照射位置が移動し、あるいは、レーザの照射が停止しても、ジュール熱による発熱箇所では、電流が維持されことになる(図2(2)参照)。
【0021】
したがって、媒体がディスク状に形成され、回転移動する装置では、レーザが照射された箇所を、その箇所の温度が上昇した状態で、レーザ照射位置から離れた場所まで移動することができる(第3図参照)。したがって、磁気ヘッドスライダの外部に加熱用レーザ光源を設け、電圧印加と共に記録を行うべき箇所にレーザを照射し、温度を維持した状態で照射箇所を磁気ヘッドまで回転移動させることで、熱アシスト記録を行うことができる。そして、記録動作が終了した時点で電圧印加を終了し、余分に発生した熱を拡散させる。これにより、余剰の熱による記録消失を抑制する。
【0022】
上記発熱機構に用いる半導体材料としては、室温30℃での比抵抗1.5×108オー
ムcmに対して250℃における比抵抗が1.5×103オームcmと変化の大きいGa
AsCrのほか、同じく室温30℃での比抵抗〜104オームcmに対して250℃にお
ける比抵抗が9オームcmであるGaAsFeや、室温30℃での比抵抗7×108オー
ムcmに対して250℃における比抵抗が〜104オームcmであるGaPなどが好適で
ある。
【0023】
なお、加熱方法はレーザ光のみに限定されるものではなく、加熱範囲をトラック幅に限定可能であれば、他の方法を用いることもできる。例えば、磁気ヘッドスライダと同様のスライダに電極を組み込み、媒体との間で放電を行うことでも同様の動作が可能である。
【実施例1】
【0024】
図1に本発明による磁気記憶媒体の一実施形態の断面図を示す。基板上に第1導電層13AとしてTa膜を50nm厚で成膜し、続いて抵抗発熱層12となる半導体層としてGeP膜を20nm成膜し、さらに100nm厚のFeNi軟磁性層を成膜し、これを第2導電層13Bとした。第2導電層13Bの上には、磁気記録層11を形成した。
【0025】
磁気記録層11は、結晶構造を制御するためのRu(ルテニウム)を3nm厚で成膜し、続いて12nm厚のCoCrPt/SiO2(コバルト、クロム、白金/酸化シリコン
)グラニュラ垂直磁性層を成膜し、さらに、6nm厚のカーボン保護膜を成膜して、垂直
磁気記録媒体を作製した。ここで、CoCrPt/SiO2グラニュラ垂直磁性層は、SiO2膜中に、CoCrPtが複数個柱状に埋め込まれた層である。
【0026】
なお、周知であるが、第2導電層13Bを構成するFeNi軟磁性層は、磁気記録層11に対して磁気ヘッドが近接したときに、磁気ヘッドとの間で、磁気記録層11を貫通する磁束の磁路を構成する。
【0027】
本実施形態では、半導体層を挟む二つの導電層層13A、13Bにそれぞれ導線を接続できるように、Ta成膜後基板中心部の穴から2mmまでの範囲をカバーした状態でGePを成膜し、続いて同様に穴から3mmまでの範囲をカバーした状態でFeNi、Ru、CoCrPt/SiO2、カーボン保護膜の成膜を行った。ここで、カバーは、ディスク状の磁気記録媒体を装着する円柱状のクランプで構成できる。成膜では、磁気記録媒体のディスク状の基板中心部の穴から2mmまでの範囲をカバーする金属の円柱部材をクランプとして装着し、GeP材料をスパッタすればよい。続いて、基板中心部の穴から3mmまでの範囲をカバーする金属の円柱部材を装着し、FeNi、Ru、CoCrPt/SiO2、およ
びカーボンをそれぞれ順にスパッタすればよい。
【0028】
続いて作製した磁気記録媒体をスピンスタンドに装着し、その最内周から1mm以内の、Taが露出している箇所に正極を、最内周から4mmのカーボン保護膜上に負極を接続し、回転軸を通して任意の電圧を印加できる構成とした(正極と負極が本発明の一対の導電端子に相当する)。
【0029】
図4に、本実施例に係る磁気ディスク装置の概要図を示す。この磁気ディスク装置は、磁気記録媒体を回転する不図示の回転台と、回転台を駆動する不図示のモータと、回転台に搭載した磁気記録媒体を固定するクランプ1と、磁気記録媒体へのデータの書き込みおよび磁気記録媒体からのデータの読み出しを実行する磁気ヘッドスライダ2と、磁気記録媒体のトラックを横切る方向に磁気ヘッドスライダ2を相対移動させるアーム3と、加熱用レーザ光源を備えた光ヘッドスライダ4と、磁気記録媒体のトラックを横切る方向に光ヘッドスライダ4を相対移動させるアーム5とを有する。
【0030】
磁気ヘッドスライダ2およびアーム3の構造は、通常の磁気ディスク駆動装置と同様であるので、その詳細は省略する。
【0031】
光ヘッドスライダ4(本発明の照射機構に相当)は、一次加熱用のレーザ光源を有し、磁気記録媒体の上面に略垂直にレーザ光を照射する。光ヘッドスライダ4は、CDドライブに用いる光ピックアップと同様の構成である。また、レーザ光のスポット径は、磁気記録媒体のトラックの幅以下(例えば、100nm以下)の寸法が望ましい。
【0032】
アーム5は、ピボット6を中心に回動可能に構成されている。アーム5は、不図示のアクチュエータによって駆動され、光ヘッドスライダ4を磁気記録媒体上で、トラックを横切る方向に移動させる。このような構造により、光ヘッドスライダ4は、媒体上の所望の半径位置にレーザ光のスポットを照射可能である。
【0033】
本実施例では、半径20mmの位置においてレーザ照射とほぼ同時に正極と負極を通じて磁気記録媒体に1Vの電圧を印加し、通常の磁気ヘッドスライダを用いてトラック1/2周に対して記録を行った。ただし、正極と負極を通じて磁気記録媒体への電圧の印加は、レーザ照射より前に開始してもよい。
【0034】
レーザ光で加熱されたスポット領域は、磁気記録媒体の回転とともに、磁気ヘッドスライダ2の位置に移動する。この間、正極および負極間に1Vの電圧が印加されており、第
1導電層13Aおよび第2導電層13Bを介して、レーザ光で加熱されたスポット位置の抵抗発熱層12に電流が流れ、加熱状態が維持される。そして、加熱状態が維持された状態で、磁気ヘッドスライダ2の磁気ヘッドによってデータの書き込みを行った。
【0035】
その結果、レーザ光あるいは電圧印加を用いない場合と比較して約2dBのSN比向上が得られ、熱アシスト記録動作と、その効果が確認された。ここで、SN比は、磁気媒体からの読み出し信号によって定義する。すなわち、ビット0とビット1の間の遷移領域での読み出し信号の変化率(微分波形)のピーク値と、ノイズ信号出力との比によってSN比を定義する。
【0036】
本実施形態の構成によって、磁気記録媒体にて、スピンの方向が揃った磁性粒子の割合が増加し、確実にデータの書き込みが可能になったと推定される。その結果、ビット0とビット1の遷移領域において、ビット0に対応する磁性粒子とビット1に対応する磁性粒子の混在が低減され、S/N比が向上したと考えられる。
【0037】
なお、この熱アシスト動作における、半径位置30mmでの媒体表面の温度上昇は、1℃未満であった。
【0038】
<変形例>
上記実施例1では、第2導電層13Bとして、100nm厚のFeNi軟磁性層を成膜した。しかし、これに代えて、第1導電層13Aと同様、Ta膜等の金属膜によって第2導電層13Bを構成してもよい。その場合に、第2導電層13Bの上層に、さらに、FeNi軟磁性層を成膜すればよい。そして、FeNi軟磁性層の上層に、磁気記録層11を実施例1と同様に形成すればよい。このような構成によっても、抵抗発熱層12への給電と、磁気ヘッド22から磁気記録層11を貫通する磁束に対する磁路の形成とを実現できる。
【実施例2】
【0039】
実施例2では、実施例1と同一構造の磁気記録媒体を用い、同様にスピンスタンドを通じて電圧印加可能な構成として、レーザ光源の代わりにスライダの終端部に90nm幅の電極を形成した加熱用ヘッドスライダ4A(本発明の通電機構に相当)を用いた(図5参照)。
【0040】
磁気記録ヘッドスライダ2の磁気ヘッドは、通常磁気記録層11の表面から約10nmの位置に離間させて、データの書き込みおよび読み出し動作を実行する。実施例2では、加熱用ヘッドスライダ4Aの90nm幅の電極についても、磁気ヘッドと同様、磁気記録層11の表面から約10nmの位置に離間させて保持した。
【0041】
そして、実施例1と同様に、半径20mmの位置において加熱用ヘッドスライダ4Aに設置した加熱用の電極と磁気記録媒体面との間に1Vを印加するとともに、正極および負極を通じて磁気記録媒体内の抵抗発熱層12に1Vの電圧を印加した。これによって、加熱用の電極と媒体面との間に放電を発生させ、磁気記録媒体表面を加熱した。その結果、実施例1と同様、半導体の抵抗発熱層12にジュール熱が発生し、加熱状態が維持された。
【0042】
そして、通常の磁気ヘッドスライダ2を用いてトラック1/2周に対して記録を行った。その結果、電圧印加を用いない場合と比較して約2dBのSN比向上が得られ、レーザを用いた熱アシスト記録動作と同様の効果が確認された。
【0043】
<変形例>
上記実施例2では、加熱用の電極と、媒体面との間に放電を発生させて、媒体面を加熱した。しかし、放電に代えて、トンネル電流によって媒体面を加熱してもよい。すなわち、加熱用の電極を磁気記録層11の表面にさらに近接させて電圧を印加し、トンネル電流を発生させて加熱してもよい。
【実施例3】
【0044】
図6に、実施例3に係る磁気ディスク装置の構成をモデル化して示す。上記実施例1では、磁気ヘッドスライダ2とは別に、加熱用のレーザ光源を備えた加熱用の光ヘッドスライダ4を設けた。また、実施例2では、磁気ヘッドスライダ2とは別に、加熱用の電極を設けた加熱用ヘッドスライダ4Aを設けた。本実施形態では、加熱用の電極を磁気ヘッドスライダ2Aに設けた例を説明する。
【0045】
図6に示すように、磁気ヘッドスライダ2Aの終端部に、一次加熱用に幅90nmの電極21(以下、加熱用電極という)を形成した。図6の構成では、磁気ヘッド22の位置に対して、回転する磁気記録媒体の移動方向に対して後方側に、加熱用電極21を設けている。このように、本実施例の構成では、加熱用電極21は、必ずしも、磁気ヘッド22の位置に近接させる必要はない。
【0046】
なお、加熱用電極21の代わりに、実施例1と同様に、レーザ光源を設けてもよい。ただし、図6に示した場合加熱用電極21と同様、レーザ光源は、磁気ヘッド22に近接させる必要はない。
【0047】
本実施例では、磁気ヘッドスライダ2Aのヨー角が0度となる半径位置において、媒体の加熱と媒体への書き込みを実施した。ここで、ヨー角0度とは、磁気ヘッド22の位置と、加熱用電極21の位置とが、媒体の回転方向に対して接線上に位置するスライダ位置をいう。この場合には、加熱用電極21と磁気ヘッド22とは、ほぼ同一円周状に位置する。したがって、加熱用電極21で加熱された部分は、磁気記録媒体の回転によって1周した後に、磁気ヘッド22の位置に達する。
【0048】
この場合、実施例2と同様に磁気ヘッドスライダ2Aに設置した加熱用電極21と媒体面との間に1Vを印加し、同時に正極と負極を通じて磁気記録媒体内の半導体層に1Vの電圧を印加して、通常の磁気ヘッドスライダを用いてトラック1/2周に対して記録を行った。その結果、電圧印加を用いない場合と比較して約2dBのSN比向上が得られ、熱アシスト記録の効果が確認された。
【0049】
<ヨー角が0度以外への対応>
実際の磁気ディスク装置では、磁気ヘッドスライダには半径位置に対応したヨー角が付く。すなわち、磁気ヘッドスライダは、所定のピボットによって固定されたアームによって移動されるため、ヨー角は、書き込み位置(媒体が構成するディスクの半径位置)に依存して変化する。したがって、すべての半径位置にて、磁気ヘッド22の位置と、加熱用電極21の位置とを媒体の回転方向の接線上に位置付けることはできない。
【0050】
そのため、磁気ヘッド22の半径位置と加熱用電極21の半径位置がずれる。このずれの分量は、ヨー角および磁気ヘッド22と加熱電極21との距離とから、幾何学的に算出される。そのため、書き込みを行う目標トラック上に加熱用電極21を位置させるときに、目標トラックに幾何学的に対応する読み取りトラック上に磁気ヘッド22を位置させるように実験装置を構成した。ここで、「目標トラックに幾何学的に対応する」とは、加熱用電極21を目標トラックに位置付けたときに、磁気ヘッド22が近接するトラックという意味である。
【0051】
図7に、この位置関係の例を示す。図7では、モデルを簡略化し、アーム5とアーム5のピボット6と、磁気ヘッド22と、加熱用電極21とが、一直線上になるように例示した。図7の例では、加熱用電極21は、半径R1の位置にあり、磁気ヘッド22は、半径R2の位置にある。半径R1と半径R2との関係は、磁気ヘッド2Aの位置、すなわち、アーム5の回転角度に伴って変化する。しかし、半径R1と半径R2との関係は、加熱用電極21と磁気ヘッド22との距離、アーム5の長さ、磁気記録媒体の寸法等の幾何学的位置関係から数式にて一意に記述できる。
【0052】
したがって、次にデータを書き込むべき、目標トラックのトラック番号(本発明の識別情報に相当)が決定されると、その目標トラックの半径R1は、磁気記録媒体の規格にて決定できる。そして、その半径R1の位置に加熱用電極21を位置付けるための磁気ヘッド22の半径位置R2を決定できる。
【0053】
この場合、磁気ディスク駆動装置では、磁気ヘッド22を特定のトラックに駆動することはできるが、磁気ヘッド22が所望の半径R2の位置にあるか否かを確認することはできない。そこで、本実施例では、磁気ヘッド22を半径R2に最も近いトラック(以下、読み取りトラックという)に位置付けた後、磁気ヘッド22(の読み取りヘッド)からの読み取り信号によって磁気ヘッド22の位置を微調整し、半径R2に位置付ける。
【0054】
ここでは、1トラック分に満たない半径位置のずれは、トラック中心と磁気ヘッド22の中心とをずらすことで調整した。すなわち、通常のトラッキング動作によって得られる、読み取りトラックからの読み出し信号をトラックの幅方向の中心位置からの信号と仮定して、トラックの幅方向の位置と、その位置での読み取り信号の変動値との関係から、トラックの幅方向の中心位置からずれを推定した。
【0055】
例えば、読み取り位置のずれと、信号の変動が線形関係にあると仮定した場合、磁気ヘッドを内側にずらして出力が平均20%落ちた場合に、その半径位置をトラック中心からトラック幅の20%分内側と判断して、加熱電極21の半径位置を計算できる。磁気ヘッドをトラックの外側にずらす場合も同様である。
【0056】
図8に、この処理を実行する制御プログラムのフローチャートを示す。この制御プログラムは、磁気ディスク駆動装置を制御するCPU(本発明の制御部に相当)で実行される。
【0057】
この処理では、CPUは、まず、次に書き込むべき書き込みトラック番号T1のトラックを決定し、さらに、そのトラックT1の中心半径R10を算出する(S1)。以下、単にトラック番号TのトラックをトラックTと呼ぶ。
【0058】
次に、CPUは、加熱用電極21を中心半径R10に位置付けるための磁気ヘッド22(読み取りヘッド)の目標位置半径R2および目標位置半径R2に近いトラックT2を決定する(S2)。
【0059】
次に、CPUは、磁気ヘッド22をトラックT2に位置付ける(S3)。さらに、CPUは、トラックT2の中心半径R20を決定する(S4)。そして、CPUは、トラックT2の中心半径R20と、目標位置半径R2との差分ΔR=R2−R20を算出する(S5)。
【0060】
そして、CPUは、磁気ヘッド22をトラックの中心半径R20から差分ΔRだけ移動した場合の磁気ヘッド22からの読み取り信号の減少分ΔSを算出する(S6)。ΔSは、例えば、トラックの中心半径R20での読み取り信号の強度に対する比率(百分率)で
求めればよい。その場合、磁気ヘッド22のトラックの幅方向の中心からのずれ量と読み取り信号の変化を実験的に測定しておけばよい。そして、ΔRとΔSとの関係をテーブルまたは実験式で格納しておき、ΔSからΔRが決定できるようにすればよい。
【0061】
次に、CPUは、磁気ヘッド22の半径位置をΔS減少するまで移動する(S7)。移動方向は、差分ΔRの符号から決定される。すなわち、差分ΔRが正であれば、磁気ヘッド22を中心半径R20の外側に移動し、差分ΔRが負であれば、磁気ヘッド22を中心半径R20の内側に移動すればよい。
【0062】
次に、CPUは、抵抗発熱層12を挟む導電層13A、13Bに電圧を印加する(S8)。さらに、CPUは、加熱用電極21に電圧を投入する(S9)。これにより、書き込みトラックT1の中心半径R1にて、磁気記録媒体の表面上で加熱用電極21に相当するスポットを含むトラックが加熱される。そして、CPUは、磁気ヘッド22(書き込みヘッド)を書き込みトラックT1に位置付け、データを書き込む(S10)。このとき、実施例1、2で述べた場合と同様、抵抗発熱層12への加熱によってトラックT1の書き込み状態が維持されている。
【0063】
書き込み完了後、CPUは、抵抗発熱層12への加熱および加熱用電極21への電圧印加を停止する(S11)。これにより、書き込みトラックのデータ書き込み先への加熱が停止され、熱が拡散し、加熱状態が消滅する。
【0064】
この方法によって所望の位置に加熱電極を保持し、書き込みを行う範囲に対して一次加熱を行い、続いて二次加熱を行いながら該当箇所に書き込み用磁気ヘッドを移動させて記録を行った。その結果、ヨー角が0度であった場合と同等の記録・再生結果が得られた。これにより、上記の構成によっても、所望の位置に対する書き込み動作ができることが判明した。
【0065】
<変形例>
上記実施例3では、書き込みトラックT1に加熱用電極21を位置付けるための磁気ヘッド22の目標位置半径R2、目標半径Rとトラックの中心半径R20との差分ΔR等を磁気ディスク装置の位置関係から算出する制御プログラムの例を示した。しかし、このような位置関係は、固定されているため、それぞれの書き込みトラックT1に対して、目標位置半径のトラックT2および差分ΔRをルックアップテーブルに保持するようにしてもよい。すなわち、CPUがこれらの値を計算する代わりに、制御プログラム実行時、書き込みトラックT1が決定されたときに、ルックアップテーブルから参照するようにしてもよい。
【0066】
<実施形態の効果>
本実施形態で説明した構造を用いることにより、レーザ光源を組み込んだ複雑な構成の磁気ヘッドスライダを用いる必要がなくなるため、熱アシスト記録による高密度記録が低製造コストで実現される。磁気ヘッド22のごく近傍に電熱体を組み込んだ場合と比較すると、ヘッドスライダ上の任意の加工しやすい箇所に電極を一つ設けることで、熱アシスト記録が実現可能であることから、製造コストの面で有利であり、また加熱用電極21と磁気ヘッド22との距離を大きくとることができるため、加熱による磁気ヘッド22の劣化を回避できる。
【0067】
<その他>
本実施形態は、以下の態様(付記という)を含む。
(付記1)
基板と、
前記基板上に形成された第1導電性材料層と、
前記第1導電性材料層の上に形成された半導体層と、
前記半導体層の上に形成された第2導電性材料層と、
前記第2導電材料層の上に形成された磁気記録層と、を備えることを特徴とする磁気記録媒体。(1、図1)
(付記2)
前記第2導電材料層は、前記磁気記録層に対して裏打ち形成されている軟磁性材料層であることを特徴とする付記1に記載の磁気記録媒体。
(付記3)
基板と、
前記基板上に形成された第1導電性材料層と、
前記第1導電性材料層の上に形成された半導体層と、
前記半導体層の上に形成された第2導電性材料層と、
前記第2導電材料層の上に形成された磁気記録層と、を有する磁気記録媒体、および、前記磁気記録媒体への磁気記録の書き込みおよび前記磁気記録媒体からの磁気記録の読み取りを実行するヘッド部を有するスライダ、を備える磁気ディスク装置。(2、図4,図5)
(付記4)
前記半導体層を挟んで存在する第1導電性材料層と第2導電材料層との間に電圧を印加可能な一対の導電端子をさらに備えることを特徴とする付記3に記載の磁気ディスク装置。
(付記5)
レーザ光を媒体上の所望の半径位置に照射可能な照射機構をさらに備え、
上記照射機構が前記スライダとは独立して稼動することを特徴とする、付記3または4に記載の磁気ディスク装置。(3、図4)
(付記6)
磁気記録媒体との間で放電、あるいはトンネル現象による通電が可能な電極を、媒体上の所望の位置に位置付け可能な通電機構をさらに備え、
上記通電機構が前記ライダとは独立して稼動することを特徴とする、付記3または4記載の磁気ディスク装置。(4、図5)
(付記7)
磁気記録媒体との間で放電、あるいはトンネル現象による通電が可能な電極が、前記ヘッド部と共に前記スライダに設置されていることを特徴とする、付記3または4に記載の磁気ディスク装置。(5、図6)
(付記8)
前記電極を前記磁気記録媒体上の目標トラックに位置付けるときに、前記磁気ヘッド部を位置付けるべき目標位置半径を決定し、
前記目標位置半径に近接する読み取りトラックの識別情報、およびその読み取りトラックのトラック幅の中心に位置する中心半径と前記目標位置半径との差分値とを決定し、
前記磁気ヘッド部を前記読み取りトラックに位置付けたときに出力される信号強度をトラック中心での出力と仮定し、前記読み取りトラックのトラック幅の中心から前記磁気ヘッドの半径位置を前記差分値だけずらした場合の出力の減少割合によって前記磁気ヘッドの半径位置を微調整する制御部をさらに備える付記7に記載の磁気ディスク装置(図8)。
(付記9)
レーザ光の照射あるいは電極と磁気記録媒体との間での通電による、磁気記録媒体上の記録対象箇所の加熱と同時に、あるいは加熱に先立って、前記磁気記録媒体に形成された半導体層を挟む導電性材料層間に電圧を印加するステップと、
前記印加された電圧を維持しながら磁気記録媒体上の所定箇所へ磁気によるデータを記録するステップと、を有することを特徴する磁気記録方法(図8)。
(付記10)
前記記録が終了した時点で上記電圧の印加を終了するステップを有することを特徴とする付記9に記載の磁気記録方法(図8)。
(付記11)
読み取りヘッドと連動する対象物のディスク状基板への位置制御方法であり、
前記対象物を前記ディスク状基板の目標トラックに位置付けるときに、前記読み取りヘッドを位置付けるべき目標位置半径を決定するステップと、
前記目標位置半径に近接する読み取りトラックの識別情報、およびその読み取りトラックのトラック幅の中心に位置する中心半径と前記目標位置半径との差分値とを決定するステップと、
読み取りヘッドを前記読み取りトラックに位置付けたときに出力される信号強度をトラック中心での出力と仮定し、前記トラック幅の中心から前記読み取りヘッドの半径位置を前記差分値だけずらした場合の出力の減少割合によって前記読み取りヘッドの半径位置を微調整するステップと、を有し、
前記読み取りヘッドの半径位置制御によって前記対象物を目標位置半径に位置付けるトラッキング方法(図8)。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気記憶素子の1実施形態の模式図(断面)である。
【図2】記録を行う箇所を加熱する動作の原理を示す断面図である。
【図3】記録動作を示す平面図である。
【図4】一次加熱を行う手段として、磁気ヘッドスライダと互いに独立した駆動手段を持つ光ヘッドに搭載されたレーザ光を用いる磁気ディスク装置の概念図である。
【図5】一次加熱を行う手段として、磁気ヘッドスライダと互いに独立した駆動手段を持つスライダに搭載された発熱用電極を用いる磁気ディスク装置の概念図である。
【図6】一次加熱を行う手段である発熱用電極を組み込んだ磁気ヘッドスライダの概念図である。
【図7】実施例3に係る磁気ディスク装置の構成をモデル化して示す図である。
【図8】実施例3の処理を実行する制御プログラムのフローチャートである。
【符号の説明】
【0069】
1 クランプ
2、2A 磁気ヘッドスライダ
3、5 アーム
4 光ヘッドスライダ
4A 加熱用ヘッドスライダ
6 ピボット
11 磁気記録層
12 抵抗発熱層
13 導電層
21 加熱用電極
22 磁気ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1導電性材料層と、
前記第1導電性材料層の上に形成された半導体層と、
前記半導体層の上に形成された第2導電性材料層と、
前記第2導電材料層の上に形成された磁気記録層と、を備えることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成された第1導電性材料層と、
前記第1導電性材料層の上に形成された半導体層と、
前記半導体層の上に形成された第2導電性材料層と、
前記第2導電材料層の上に形成された磁気記録層と、を有する磁気記録媒体、および、
前記磁気記録媒体への磁気記録の書き込みおよび前記磁気記録媒体からの磁気記録の読み取りを実行するヘッド部を有するスライダ、を備えることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項3】
レーザ光を媒体上の所望の半径位置に照射可能な照射機構をさらに備え、
上記照射機構が前記スライダとは独立して稼動することを特徴とする、請求項2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
磁気記録媒体との間で放電、あるいはトンネル現象による通電が可能な電極を、媒体上の所望の位置に位置付け可能な通電機構をさらに備え、
上記通電機構が前記ライダとは独立して稼動することを特徴とする、請求項2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
磁気記録媒体との間で放電、あるいはトンネル現象による通電が可能な電極が、前記ヘッド部と共に前記スライダに設置されていることを特徴とする、請求項2に記載の磁気ディスク装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−210464(P2008−210464A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46886(P2007−46886)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】