説明

磁気記録媒体および磁気記録再生装置

【課題】 加熱による熱膨張を抑制して磁気記録層の変形を抑制しつつ、記録時の記録ビット周辺の温度勾配を急峻にしてSNRの高い記録状態を実現させることができる磁気記録媒体を提供することにある。
【解決手段】 基板(10)の上に、軟磁性層(20)と、熱膨張率が負を示す負膨張材料からなる負膨張層(30)と、配向層(40)と、磁気記録層(50)と、を有し、配向層(40)は磁気記録層(50)の下側に配置され、軟磁性層(20)および負膨張層(30)は、それぞれ配向層(40)の下側に配置され、負膨張層(30)の熱伝導率が配向層(40)の熱伝導率よりも大きくなるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、特に、媒体の一部を局所加熱しながら外部磁界を印加することによって情報の記録がなされる、いわゆる熱アシスト磁気記録媒体に関する。さらに詳しくは、レーザ光照射や近接場光照射により、局所加熱を行いながら記録膜の保磁力を低下させた状態で外部磁界を印加することによって情報が記録される熱アシスト磁気記録媒体およびそれを用いた磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置等の磁気記録装置では、高記録密度化に伴い、薄膜磁気ヘッドおよび磁気記録媒体のそれぞれの性能の向上が要求されている。
【0003】
磁気ディスク装置に搭載される磁気記録媒体の磁気記録層は磁性微粒子の集合体で作られており、それぞれの磁性微粒子は単磁区構造をなしている。そして、複数の磁性微粒子を用いて例えば垂直方向の一つの情報(1つの記録ビット)の記録がなされる。このような構造を備える磁気記録媒体において、記録密度を高めるためには記録ビットの境界の磁性微粒子間の凹凸を減らす必要がある。そのため、磁性微粒子の体積Vを小さくする必要がある。
【0004】
しかしながら、磁性微粒子の体積Vを小さくし過ぎると、熱的安定性が劣化してしまい温度などの影響により磁化方向が乱されてしまうおそれが生じる。従って、熱的安定性を損なわずに磁性微粒子の体積Vを小さくすることが要求される。
【0005】
ところで、熱的安定性の目安である熱揺らぎ指数は、KuV/KBTで与えられる。ここで、Kuは磁性微粒子の異方性エネルギー定数、Vは磁性微粒子1個の体積、KBはボルツマン定数、Tは絶対温度である。記録密度を上げるために、単に、磁性微粒子1個の体積を小さくすると、熱揺らぎ指数が小さくなり、熱的安定性が損なわれ、記録を保持することができなくなる。
【0006】
このような熱揺らぎの問題を解決するには異方性エネルギー定数Kuの大きな磁性材料を使用すればよい。しかしながら、磁性微粒子の保磁力Hcが、異方性エネルギー定数Kuに比例して大きくなるために、一般のヘッドでは記録できなくなってしまうという不都合が生じる。
【0007】
このような問題を解決するためにいわゆる熱アシスト磁気記録(Thermally Assisted Magnetic Recording :TAMR)方式が提案されている。熱アシスト磁気記録方式は、記録時にレーザ光や近接場光等により磁気記録媒体の記録対象となる微小なエリア(記録ビット)を加熱し、磁性微粒子のHcを小さくして情報を記録する方式である。これにより、室温において記録ヘッド磁界Hよりも大きなHcを持つ磁性材料を用いることができる。そのため、熱安定性の目安である熱揺らぎ指数を小さくせずに、磁性微粒子1個の体積Vを小さくすることができ、高記録密度が可能となる。
【0008】
しかしながら、磁気記録層が加熱される際、記録ビットの周囲は例えば300℃程度の高温になり、微視的に観察すると記録ビット周辺が熱膨張を起こしてしまう。このような熱膨張が生じると、磁気異方性軸の方向が媒体の歪む方向につれて傾いてしまう。つまり、本来、垂直であるべき磁化方向がランダムに傾斜した状態となってしまう(加熱時の状態)。一方、磁化方向がランダムに傾斜した状態から冷却過程に入り、冷却後に高いHc状態になった磁化方向は、隣接する磁性グレインとの交換結合と相まって、磁化方向がランダムに傾斜した状態で固着される。つまり、冷却過程(冷却時)において、磁気記録層を構成する膜応力が緩和されても、磁化方向は交換相互作用のために磁化方向の乱れが残ったままになってしまう(冷却時の状態)。
【0009】
このような加熱−冷却を経た後の磁気記録媒体に対して再生ヘッドを用いて記録情報を再生した場合、熱膨張の程度が大きいと磁気情報の磁化遷移幅が増加して、結果としてSNR(SN比)が低下するという問題が生じる。
【0010】
さらには、記録時に局所的に加熱する記録部分の媒体表面が突出することにより、ヘッドと媒体表面との間隔が狭くなり、熱膨張の程度が大きいとヘッドと媒体が衝突してしまうおそれがあるという問題が生じ得る。
本願発明と関連すると思われる先行技術として、下記特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−26511号公報
【0012】
特許文献1(特開2007−26511号公報)においては、局所加熱によって、磁気記録層と密着されている磁気異方性誘発補助層が負の熱膨張率に起因して、局所的に凹形状に変形する。この凹形状の変形により磁気異方性誘発補助層と磁気記録層との界面に引っ張り応力を発生させ、当該引っ張り応力が磁歪を介して磁気異方性エネルギーを誘発させるとの作用が開示されている。しかしながら、加熱時応力による磁気記録層の変形は、記録後の磁化方向の乱れの原因となり、再生信号のSNRが低下してしまう。また、磁気異方性誘発補助層を直接、磁気記録層の下に配置する構造であるため、十分な磁気特性をもった磁気記録層を形成するのが困難であるという問題がある。このような理由から、特許文献1に記載の磁気記録媒体の構成では、再生信号の高いSNRを実現させることはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような実状のもとに、本発明は創案されたものであって、その目的は、加熱による熱膨張を抑制して磁気記録層の変形を抑制しつつ、記録時の記録ビット周辺の温度勾配を急峻にしてSNRの高い記録状態を実現させることのできる磁気記録媒体を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を解決するために、本願発明の磁気記録媒体は、基板の上に、軟磁性層と、熱膨張率が負を示す負膨張材料からなる負膨張層と、配向層と、磁気記録層と、を有し、前記配向層は前記磁気記録層の下側に配置され、前記軟磁性層および前記負膨張層は、それぞれ前記配向層の下側に配置され、前記負膨張層の熱伝導率が配向層の熱伝導率よりも大きくなるように構成される。
【0015】
また、本願発明の磁気記録媒体の好ましい態様として、前記軟磁性層は、前記負膨張層の下側に配置される。
【0016】
また、本願発明の磁気記録媒体の好ましい態様として、前記負膨張層は、前記軟磁性層の下側に配置される。
【0017】
また、本願発明の磁気記録媒体の好ましい態様として、前記負膨張層の熱伝導率が0.1〜1.5W/cm・Kとなるように構成される。
【0018】
また、本願発明の磁気記録媒体の好ましい態様として、前記配向層の熱伝導率が0.01〜0.05W/cm・Kとなるように構成される。
【0019】
また、本願発明の磁気記録媒体の好ましい態様として、前記負膨張層がマンガン窒化物から構成される。
【0020】
また、本願発明の磁気記録媒体の好ましい態様として、前記負膨張層がリチウム酸化物から構成される。
【0021】
本発明の磁気記録再生装置は、前記記載の磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に対して磁気信号の記録/再生を行うための磁気ヘッドと、を備えて構成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の磁気記録媒体は、基板の上に、軟磁性層と、熱膨張率が負を示す負膨張材料からなる負膨張層と、配向層と、磁気記録層と、を有し、前記配向層は前記磁気記録層の下側に配置され、前記軟磁性層および前記負膨張層は、それぞれ前記配向層の下側に配置され、前記負膨張層の熱伝導率が配向層の熱伝導率よりも大きくなるように構成されているので、加熱による熱膨張を抑制して磁気記録層の変形を抑制しつつ、記録時の記録ビット周辺の温度勾配を急峻にしてSNRの高い記録状態を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、磁気記録媒体の構成例を模式的に示した断面図である。
【図2】図2は、磁気記録媒体の他の構成例を模式的に示した断面図である。
【図3】図3は、磁気記録再生装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の磁気記録媒体の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の磁気記録媒体1の要部構造を模式的に示した概略断面図である。図2は、他の構成例である磁気記録媒体2を模式的に示した断面図である。
【0026】
図1や図2において、各層を積み上げる方向を「上方」または「上側」、その反対方向を「下方」または「下側」と称する。
【0027】
図1や図2の実施形態に示されるように、本発明の磁気記録媒体1は、基板10の上に、軟磁性層20と、熱膨張率が負を示す負膨張材料からなる負膨張層30と、配向層40と、磁気記録層50と、を有して構成されている。そして、本発明において、配向層40は磁気記録層50の下側に配置され、かつ、軟磁性層20および負膨張層30は、それぞれ配向層40の下側に配置されて構成される。
【0028】
より具体的に、図1においては、基板10/軟磁性層20/負膨張層30/配向層40/磁気記録層50の積層順で磁気記録媒体1が構成されている例が示されている。
【0029】
また、この変形例として、図2に示されるごとく、基板10/負膨張層30/軟磁性層20/配向層40/磁気記録層50の積層順で磁気記録媒体2が構成されるようにしてもよい。
【0030】
このような各構成において、本発明では、各層の配列順および熱伝導率の設定仕様が重要となり、特に、負膨張層30の熱伝導率が配向層40の熱伝導率よりも大きいことが重要な要件となる。
【0031】
また、図1や図2に示される形態で積層される磁気記録媒体1や2では各層は接しているが、磁気記録媒体1や2において、各層間に、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、適宜、下地層等の各種の中間層を介在させるようにしてもよい。例えば、Ru、Cr、Rh、Pd、Pt等が挙げられる。
【0032】
以下、磁気記録媒体1を構成する各層ごとに、詳細に説明する。
〔基板10の説明〕
本発明における基板10は、ガラス、アルミニウム、シリコン、プラスチックなどを用いることができる。また、硬質の材料からなる基板に金属やセラミックス等を堆積させた複合基板を用いることもできる。このような基板10の厚さについては特に制限はないが、例えば0.5〜1.0mm程度とされる。
【0033】
また、基板10の形態としては、ディスク状の形態とされるのが一般的である。
【0034】
〔磁気記録層50の説明〕
本発明における磁気記録層50は、いわゆる垂直磁化膜として構成され、FePt、CoPt、FePd、CoPd、CoCrPr等の材料や、Co/Pd積層膜、CoB/Pd積層膜、Co/Pt積層膜、CoB/Pt積層膜等が好適に用いられる。
【0035】
特により好ましくは、上記の材料等からなる磁性粒子間の粒界に、O、SiOx、TiOx、TaOx、B、Cなどの非磁性材料を介在させたいわゆるグラニュラー記録材料を用いるのがよい。
【0036】
磁気記録層50の膜厚は、例えば10〜20nmとされる。
また、磁気記録層50の熱伝導率は、例えば0.5〜1.5W/cm・K程度とされる。
なお、磁気記録層50の上には、通常、各種の保護膜が形成される。
【0037】
〔配向層40の説明〕
本発明における配向層40は、磁気記録層50の下側に配置される。
【0038】
配向層40は、磁気記録層50の磁性粒子の垂直配向を容易にさせるための配向下地膜として機能する。配向層40の存在により、磁気特性の良好な磁気記録層を形成することができる。また、配向層40の熱伝導率は磁気記録層50の熱伝導率よりも小さく、記録時のレーザ光や近接場光等の照射により磁気記録層50の温度を効率よく上昇させるための断熱層(熱バリア層)として機能する。
【0039】
従って、配向層40の材料は、用いる磁気記録層50との関係をも考慮して選定されるべきものであるとともに、配向層40における熱伝導率は、例えば0.01〜0.05W/cm・Kの範囲内とされる。
【0040】
用いられる配向層40の材料としては、例えば、MgO、TiO、ZnO、CrO等を例示することができる。
配向層40の膜厚は、例えば2〜4nm程度とされる。
【0041】
〔負膨張層30の説明〕
本発明に用いられる負膨張層30は、配向層40の下側に配置されて構成される。
【0042】
負膨張層30の熱伝導率は配向層40の熱伝導率よりも大きい。負膨張層30の熱伝導率は、例えば、0.1〜1.5W/cm・Kの範囲内とすることが望ましい。
【0043】
このような、熱伝導率が配向層40よりも大きい負膨張層30を設けることによって、加熱による磁気記録媒体の熱膨張を抑制して磁気記録層50の変形を抑制するとともに、熱伝導率が大きい負膨張層30が記録後に磁気記録層50の熱を下方に速く逃がすことにより、記録時の記録ビット周辺の温度勾配を急峻にしてSNRの高い記録状態を実現させることができる。
【0044】
負膨張層30を構成する負膨張材料としては、室温(25℃)から加熱による最高到達温度までの温度範囲の中で負の熱膨張率の値を示す材料を用いる。例えばマンガン窒化物、リチウム酸化物等を用いることが好ましい。負膨張層30の最高到達温度は例えば、100℃〜200℃である。従って、室温から200℃までの温度範囲の中で、負の熱膨張率の値を示す物性を備えることが望ましい。
【0045】
マンガン窒化物としては、逆ペロブスカイト構造を持つMn窒化物であることが望ましく、具体的には、一般式 Mn3XNとして表示することができる材料が挙げられる。ここでXは、Cu、Ge、Sn等のグループから選定された少なくとも1種の元素である。通常、Cu−Ge系であれば、Mn3(Cu1-xGex)Nとして表され、Cu−Sn系であれば、Mn3(Cu1-xSnx)Nとして表される。元素比率xは0.4〜0.6の範囲が好ましい。また、(Mn3CuS)Nのような材料も挙げられる。
【0046】
リチウム酸化物としては、例えば、Li2O−Al23−nSiO2(nは0〜2.0の範囲が好ましい)等が挙げられる。
【0047】
特に、室温から最高到達温度までの温度範囲で常に負の熱膨張率の値が得られる物性を備えることが望ましい。例えば、負膨張層30の最高到達温度が100℃の場合、室温から100℃までの温度範囲で常に負の熱膨張率の値が得られる物性を備えることが望ましい。
【0048】
このような負膨張材料からなる負膨張層30の厚さは、使用する材料系に応じて最適膜厚を適宜設定して用いればよい。例えば、3〜20nmの範囲から選定される。
【0049】
〔軟磁性層20の説明〕
本発明における軟磁性層20は、配向層40の下側に配置されて構成される。
【0050】
軟磁性層20は、記録ヘッドとの磁気的な相互作用により、急峻で大きな垂直方向の磁界を発生させるために設けられている。
【0051】
用いられる材料としては、NiFe合金、FeCo合金等の軟磁性材料が挙げられる。
【0052】
軟磁性層20の膜厚は、例えば25〜50nmとされる。この厚さが25nm未満となると、SNRの高い磁化遷移を得るための十分高いヘッド磁界強度を得ることができなくなるという不都合が生じる傾向がある。この一方で、50nmを超えると、DCノイズが増加するという不都合が生じる傾向がある。
【0053】
軟磁性層20の熱伝導率は、配向層40の熱伝導率よりも大きく、例えば0.5〜1.5W/cm・Kの範囲内とされる。
【0054】
上述してきた本発明の磁気記録媒体について、図1に示される実施形態においては、軟磁性層20は、前記負膨張層30の下側に配置されている。逆に、図2に示される実施形態においては、前記負膨張層30が軟磁性層20の下側に配置されている。いずれの態様においても本願発明の効果は発現できるが、図2に示される実施形態においては、負膨張層30と磁気記録層50との距離が遠くなるために、負膨張層30の厚さを、図1の実施形態における負膨張層30の厚さよりも若干厚めに設定することが必要となる。図2の実施形態では、記録ヘッドと軟磁性層20との距離を小さくできるので、磁気記録層50への印加記録磁界を大きくすることができる。
【0055】
図3に示されるように、上述してきた磁気記録媒体1または2と、当該磁気記録媒体1または2に対して磁気信号の記録/再生を行うための磁気ヘッド5を備え、磁気記録再生装置が構成される。磁気記録媒体1または2は、例えばスピンドルモータ6により回転駆動される。また、磁気記録媒体に対してデータの読み出しや書き込みを行なうために、媒体の外側方向から媒体内側方向に向けて延設された回動アーム4が設けられており、当該回動アーム4の先端には記録/再生を行うための磁気ヘッド5が設けられている。回動アーム4は、例えばボイスコイルモータ3によって回動されるようになっており、例えば、磁気ヘッド5により検出されたサーボ信号に基づき磁気ヘッド5を所定のトラックに位置決めできるようになっている。
【実施例】
【0056】
以下、上述してきた本発明の磁気記録媒体に関する具体的実験例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0057】
〔実験例I〕
(実施例I−1サンプル)
図1に示されるように、基板10/軟磁性層20/負膨張層30/配向層40/磁気記録層50の積層順で順次成膜した本発明の磁気記録媒体の実施例I−1サンプルを作製した。
【0058】
具体的な各積層膜の材料、物性等は以下の通りとした。
基板10
材料:ガラス 厚さ:0.8mm
【0059】
軟磁性層20
材料:NiFe合金 膜厚:50nm 熱伝導率:0.5W/cm・K
【0060】
負膨張層30
材料:(Mn3CuS)N
膜厚:1nm、3nm、5nm、7nm、9nm、11nm、13nmの7種
熱伝導率:0.5W/cm・K
【0061】
配向層40
材料:MgO 膜厚:2nm 熱伝導率:0.01W/cm・K
【0062】
磁気記録層50
材料:FePt-granular 膜厚:10nm
熱伝導率:0.5W/cm・K
【0063】
(実施例I−2サンプル)
上記実施例I−1サンプルにおいて、負膨張層30の仕様を下記のように変更した。それ以外は、上記実施例I−1サンプルと同じ要領で、実施例I−2サンプルを作製した。
【0064】
負膨張層30
材料:Li2O−Al23−SiO2(n=1)
膜厚:1nm、3nm、5nm、7nm、9nmの5種
熱伝導率:0.1W/cm・K
【0065】
(比較例I−1サンプル)
上記実施例I−1サンプルにおいて、負膨張層30の仕様を下記のように変更した。それ以外は、上記実施例I−1サンプルと同じ要領で、比較例I−1サンプルを作製した。
【0066】
負膨張層30
材料:ZrW28
膜厚:1nm、3nm、5nm、7nm、9nm、11nm、13nmの7種
熱伝導率:0.008W/cm・K
【0067】
このような要領で作製した各サンプルについて、1000kFCIの記録信号を記録・再生してSNRを測定し、SNRの改善量(dB)を求めた。すなわち、負膨張層が存在しない場合を基準として、当該基準に対するSNRの改善量(dB)を求めた。
【0068】
結果を下記表1に示した。
【0069】
【表1】

【0070】
〔実験例II〕
(実施例II−1サンプル)
図2に示されるような基板10/負膨張層30/軟磁性層20/配向層40/磁気記録層50の積層順で順次成膜した本発明の磁気記録媒体の実施例II−1サンプルを作製した。
【0071】
具体的な積層膜の材料、物性等は以下の通りとした。
【0072】
基板10
材料:ガラス 厚さ:0.8mm
【0073】
負膨張層30
材料:(Mn3CuS)N
膜厚:5nm、7nm、9nm、11nm、13nm、15nm、17nmの7種
熱伝導率:0.5W/cm・K
【0074】
軟磁性層20
材料:NiFe合金 膜厚:50nm 熱伝導率:0.5W/cm・K
【0075】
配向層40
材料:MgO 膜厚:2nm 熱伝導率:0.01W/cm・K
【0076】
磁気記録層50
材料:FePt-granular 膜厚:10nm
熱伝導率:0.5W/cm・K
【0077】
(実施例II−2サンプル)
上記実施例II−1サンプルにおいて、負膨張層30の仕様を下記のように変更した。それ以外は、上記実施例II−1サンプルと同じ要領で、実施例II−2サンプルを作製した。
【0078】
負膨張層30
材料:Li2O−Al23−SiO2(n=1)
膜厚:5nm、7nm、9nm、11nm、13nmの5種
熱伝導率:0.1W/cm・K
【0079】
(比較例II−1サンプル)
上記実施例II−1サンプルにおいて、負膨張層30の仕様を下記のように変更した。それ以外は、上記実施例II−1サンプルと同じ要領で、比較例II−1サンプルを作製した。
【0080】
負膨張層30
材料:ZrW28
膜厚:5nm、7nm、9nm、11nm、13nm、15nm、17nmの7種
熱伝導率:0.008W/cm・K
【0081】
このような要領で作製した各サンプルについて、上記実験例Iの場合と同様な要領でSNRの改善量(dB)を求めた。すなわち、負膨張層が存在しない場合を基準として、当該基準に対するSNRの改善量(dB)を求めた。
【0082】
結果を下記表2に示した。
【0083】
【表2】

【0084】
図2に示される形態の方が、図1に示される形態と比べて、全体的にSNRが若干大きくなる傾向があった。軟磁性層20と記録ヘッドとの距離が近いためであると考察することができる。
【0085】
また、比較例I−1サンプルおよび比較例II−1サンプルにおいては、負膨張層30の熱伝導率が配向層40の熱伝導率よりも小さいため、記録後に磁気記録層50の熱を下方に速く逃がすことができず、記録時の記録ビット周辺の温度勾配が急峻とはならない結果、SNRの改善量が小さくなっていると考察することができる。
【0086】
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明の磁気記録媒体は、基板の上に、軟磁性層と、熱膨張率が負を示す負膨張材料からなる負膨張層と、配向層と、磁気記録層と、を有し、前記配向層は前記磁気記録層の下側に配置され、前記軟磁性層および前記負膨張層は、それぞれ前記配向層の下側に配置され、前記負膨張層の熱伝導率が配向層の熱伝導率よりも大きくなるように構成されているために、加熱による熱膨張を抑制して磁気記録層の変形を抑制しつつ、記録時の記録ビット周辺の温度勾配を急峻にしてSNRの高い記録状態を実現させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の磁気記録媒体は、例えば、磁気記録装置を含む電子機器産業等の種々の技術分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1、2…磁気記録媒体
10…基板
20…軟磁性層
30…負膨張層
40…配向層
50…磁気記録層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、軟磁性層と、熱膨張率が負を示す負膨張材料からなる負膨張層と、配向層と、磁気記録層と、を有し、
前記配向層は前記磁気記録層の下側に配置され、
前記軟磁性層および前記負膨張層は、それぞれ前記配向層の下側に配置され、
前記負膨張層の熱伝導率が配向層の熱伝導率よりも大きいことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記軟磁性層は、前記負膨張層の下側に配置される請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記負膨張層は、前記軟磁性層の下側に配置される請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記負膨張層の熱伝導率が0.1〜1.5W/cm・Kである請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記配向層の熱伝導率が0.01〜0.05W/cm・Kである請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記負膨張層がマンガン窒化物である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記負膨張層がリチウム酸化物である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に対して磁気信号の記録/再生を行うための磁気ヘッドと、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−123855(P2012−123855A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271102(P2010−271102)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】