説明

磁気記録媒体のための潤滑剤の真空噴霧塗膜

【課題】マイクロディスペンシングバルブによる噴霧化を用いた記憶媒体上への潤滑剤塗膜の蒸着装置および方法に関する。
【解決手段】チャンバと、数マイクロ秒未満の最小時間開くことができ、マイクロディスペンシングバルブが開くたびに1マイクロリットル以下の量の液体を定量分配できるマイクロディスペンシングバルブとを備える磁気記録媒体を製造するための処理装置。潤滑剤と、潤滑剤とは異なる溶媒とを含む液体が、マイクロディスペンシングバルブを通して定量分配される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロディスペンシングバルブによる噴霧化を用いた記憶媒体上への潤滑剤塗膜の蒸着装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどすべてのコンピュータシステムで磁性化可能な媒体を備えた磁気ディスクがデータ記憶のために使用されている。現在の磁気ハードディスクドライブは、ディスク表面からわずか数ナノメートル上にある読出し/書込みヘッドで比較的高速で、通常は数メートル/秒で動作する。読出し/書込みヘッドは、動作中にディスク表面に接触することがあるため、ディスク表面には潤滑剤の層が塗布されて磨耗と摩擦とを低減している。
【0003】
図1は、ディスク記録媒体および横方向と垂直方向の記録の差を示すディスクの断面図を示す。図1は、非磁性ディスクの片面しか示していないが、磁気記録層は、図1の非磁性アルミニウム基板の両側にスパッタ蒸着されている。また、図1は、アルミニウム基板を示しているが、他の実施例は、ガラス、ガラスセラミック、NiP/アルミニウム、金属合金、プラスチック/ポリマー材料、セラミック、ガラスポリマー、複合材料またはその他の非磁性材料からなる基板を含む。
【0004】
一般に、潤滑剤は、潤滑剤を含む処理槽内にディスクを浸すことでディスク表面に塗布される。処理層は、通常、潤滑剤と、通常は粘性の油の潤滑剤の塗布特性を改良する塗布溶媒とを含む。ディスクは、処理層から取り除かれ、溶媒は蒸発してディスク表面に潤滑剤の層を残すことができる。
【0005】
ハードディスク上の潤滑剤の膜は、炭素の保護塗膜の磨耗を防止することで下地の磁気合金を保護する。さらに、潤滑剤の膜は保護塗膜と協働して下地の磁気合金の腐食を防止する。
【0006】
気相潤滑工程で、潤滑剤を一定の温度に加熱することで潤滑剤蒸気が真空中に生成され、次に、潤滑剤蒸気は、炭素の保護塗膜でディスク上に凝縮した。堆積速度は、液体潤滑剤加熱装置の温度によって制御された。従来の浸漬塗膜潤滑工程と比べて、潤滑剤の蒸発による気相潤滑は、溶媒を使用しない工程、潤滑剤の特徴が浸漬潤滑工程に依存せず潤滑剤の厚さが一定であるなどの利点を有する。しかし、現在の気相潤滑工程には1つの欠点がある。現在使用されている潤滑剤は、一定の分子量(MW)分布(多分散度指数>1)を有するパーフルオロポリエーテル(PFPE)であるため、軽量のMW成分が最初に蒸発する。固定堆積速度を保つために、潤滑剤加熱温度はゆっくりと上昇する。その結果、ディスク上に蒸着される潤滑剤のMWは、浸漬潤滑工程の固定MW分布と比較して低から高へと次第に変化する。潤滑剤のMWは、粘度、表面移動度、潤滑剤のピックアップなどの潤滑剤の特性に影響するため、ディスク製造での潤滑剤使用のHDI性能の変化が発生する。さらに、所望の信頼性性能を達成するために、一定の比率の複数の異なる種類の潤滑剤がディスク表面に塗布される。異なる種類の潤滑剤は、蒸気圧が異なるため、これは現在の蒸気潤滑システムでは実現が困難である。したがって、製造時に固定MW分布および複数成分の潤滑剤をディスク表面上に得ることが極めて望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マイクロディスペンシングバルブによる噴霧化を用いた記憶媒体上への潤滑剤塗膜の蒸着装置および方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高速マイクロディスペンシングバルブを有し、それによって、潤滑層全体にわたって潤滑剤の均一な組成物を有する潤滑層を有する記憶媒体の表面を形成するマイクロディスペンシングバルブによる噴霧化を用いた記憶媒体上への潤滑剤塗膜の蒸着方法および装置に関する。本発明の一実施例は、チャンバと、0.3マイクロ秒の最小時間開くことができ、マイクロディスペンシングバルブが開くたびに約100ナノリットルから約500マイクロリットルの量の液体を定量分配できるマイクロディスペンシングバルブとを備える磁気記録媒体であって、潤滑剤と、潤滑剤とは異なる溶媒とを備える液体がマイクロディスペンシングバルブを通して定量分配される磁気記録媒体を製造するための処理装置に関する。これらおよび種々の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明を読むことで明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明は、添付の図面と共に発明の詳細な説明を参照することでよりよく理解することができる。
【0010】
【図1】磁気記録媒体を示す図である。
【図2】磁気記録媒体を製造するためのインライン工程を示す図である。
【図3】マイクロディスペンシングバルブによる噴霧化を用いた記憶媒体上に潤滑剤の膜を蒸着させる装置の概略図である。
【図4】バートレル(登録商標)XF中に0.005wt%のZdol−TXを含ませた溶液をパルス継続時間5秒で真空噴霧した後の95mmディスク表面上のHDI表面スキャンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、本明細書で「ルブ」とも呼ぶ潤滑剤を基板、特に記録媒体(記録ディスク)に塗布する方法に関する。潤滑剤は、通常、数百ダルトンから数千ダルトンにわたる分子量成分を含む。
【0012】
媒体の腐食耐性を向上させる方法の1つは、炭素の保護塗膜の蒸着の直後に真空状態で媒体上に潤滑剤を蒸着させる蒸気潤滑工程である。この方法は、媒体が大気環境にさらされる前に潤滑剤で保護されると腐食が遅延するという考えに基づいている。蒸気潤滑工程は、媒体上へのパーフルオロポリエーテル(PFPE)潤滑剤の蒸着を含む。この工程で、潤滑剤は、上昇した温度でのPFPE潤滑剤の蒸発によって気化する。本発明の過程で、発明者らは、熱蒸発工程に関連するいくつかの問題を認識した。
【0013】
第一に、熱蒸発は、潤滑剤の分子量に依存する。潤滑剤の分子量が小さいと蒸気圧が高くなり、分子量が大きい潤滑剤よりも速く蒸発する。蒸発速度のこの差によって、処理時間にわたって媒体上に蒸着した潤滑剤の潤滑剤分子量が連続的にドリフトする。さらに、一定の堆積速度を維持することは困難であると分かり、処理時間と共に蒸発温度を連続して上げなければならなかった。さらに、潤滑剤処理槽は、上昇した温度に維持されていたため、ある期間にわたって潤滑剤の熱劣化が発生する場合があった。
【0014】
第二に、複数成分の潤滑システムの熱蒸気潤滑は困難であると判明した。今日、ビス(4−フルオロフェノキシ)テトラキス(3−トリフルオロメチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン(X1P)などの潤滑添加剤が皮膜媒体の減摩性能を向上させるために広く用いられている。そのような複数成分の潤滑システムは、潤滑剤および添加剤を順次付着させる複数の蒸気潤滑ステーションを必要とするであろう。それでも、各成分層の厚さを制御するのは困難であった。
【0015】
図2に磁気記録媒体を製造するためのインライン工程の概略を示す。媒体基板は、加熱装置からサブシード層蒸着ステーションへと順次移動し、媒体基板上にサブシード層が形成される。次に、媒体基板は、シード層、通常NiAlを蒸着させるシード層ステーションへ移動する。サブシード層およびシード層の蒸着に続けて、媒体基板は下地層が蒸着される下地層蒸着ステーションを通過する。次に、媒体は、磁気層蒸着ステーション、さらに保護炭素塗膜蒸着ステーションへ送られる。最後に、媒体は、潤滑層蒸着ステーションを通過する。
【0016】
ディスク媒体の製造のほとんどすべてが、大気中の埃の量が極めて小さく保たれ、厳格に制御および監視されているクリーンルーム内で実行される。非磁性基板上の1つまたは複数の清掃工程の後で、基板はウルトラクリーン表面を有し、基板上の磁気媒体の層の蒸着の準備が整う。そのような媒体に必要なすべての層を蒸着させる装置は、潤滑剤以外のすべての層が適切な真空環境で順次蒸着される静的スパッタシステムまたはパスバイシステムである。
【0017】
本発明の磁気記録媒体を構成する層の各々は、炭素保護塗膜および潤滑剤トップコート層を除き、任意の適したスパッタリングなどの物理蒸着技術(PVD)、またはスパッタリング、真空蒸着などのPVD技術の組み合わせによって蒸着できるか、または形成できるが、スパッタリングが好ましい。炭素保護塗膜は、通常、スパッタリングまたはイオンビーム蒸着で蒸着される。潤滑層は、通常、潤滑剤の化合物の溶液を含む処理槽内に媒体を浸し、その後真空環境でワイピングまたは潤滑剤蒸着法などを用いて余分な液体を除去することでトップコートとして提供される。
【0018】
スパッタリングは、記録媒体を製造する工程全体でもっとも重要なステップであろう。スパッタリングには、パスバイスパッタリングと静的スパッタリングの2種類がある。パスバイスパッタリングでは、ディスクは、真空チャンバ内へ運ばれ、そこでディスクが移動する間、基板上の1つまたは複数の層として蒸着される磁気及び非磁気材料がディスクに蒸着される。静的スパッタリングは、より小さいマシンを使用し、静止時に各ディスクは個々につまみ上げられて蒸着処理される。本発明のこの実施例のディスク上の層は、スパッタマシンで静的スパッタリングによって蒸着された。
【0019】
スパッタリングされた層は、スパッタリングマシン上に積載されたいわゆるボンベ内に蒸着される。ボンベは、両側にターゲットを備えた真空のチャンバである。基板は、上昇してボンベ内に収容され、スパッタリング材料が蒸着される。
【0020】
好ましくは、潤滑層がディスクのトップコートの1つとして炭素表面に塗布される。
【0021】
スパッタリングの結果、スパッタリング後のディスク上に微粒子が形成される。これらの微粒子によってヘッドと基板との間に確実に傷ができないように微粒子を除去する必要がある。潤滑層が塗布されると、基板は、バフ研磨ステージへ移動し、そこで基板は、好ましくは、軸を中心に回転する間に研磨される。ディスクはワイピングされ、汚れのない潤滑剤が表面に均一に塗布される。
【0022】
その後、場合によって、ディスクが作成され3ステージ工程によって品質が検査される。第一に、艶出しヘッドは、表面の上側を通過して隆起(技術用語では凹凸)があればこれを除去する。次にグライドヘッドがディスクの上側を移動し、残っている隆起がないか検査する。最後に保証ヘッド(certifying head)が表面に製造上の欠陥がないか検査し、ディスクの磁気記録性能を測定する。
【0023】
本発明は、薄膜媒体上の潤滑剤および潤滑添加剤の蒸着工程を含む。図3に示すように、X−1pなどの潤滑剤および潤滑添加剤を含む潤滑剤溶液が、マイクロディスペンシングバルブを通して真空状態の工程チャンバ内に直径数ミクロンまたは数サブミクロンの超微細液滴になって噴霧される。図3に示すように、マイクロ/ナノリットルディスペンシングバルブを用いて高圧で一定量の潤滑剤/溶媒溶液が真空チャンバ内で噴霧される。溶媒が蒸発して排出されると、潤滑剤の均一な層がディスク表面に蒸着される。バルブによって定量分配される潤滑剤溶液が同じMWおよび成分分布を有するたびに、各ディスクは、元の潤滑剤に近いMWおよび成分分布を有する。溶媒の使用量を低減するために、コールドトラップを真空チャンバ内または排出ラインに配置して溶媒を収集して再利用することができる。
【0024】
図3では、媒体と真空チャンバとの間にバッフルを示していないが、オプションでそのようなバッフルを図3の真空チャンバ内に組み込むことができる。図3には示していないが、潤滑剤は、加圧ポンプからマイクロディスペンシングバルブおよびソレノイドバルブ用のプログラマブルコントローラによるフロー制御を行うソレノイドバルブなどの高速マイクロディスペンシングバルブへ押し出される。図3のフロー制御は、高速マイクロディスペンシングバルブを通過する潤滑剤および添加剤のストリームのフローを制御する任意の入力信号または供給ストリームによって実行できる。
【0025】
本発明のマイクロディスペンシングバルブによる噴霧化を用いた蒸着工程で、バートレル(登録商標)Xfなどの液滴内の沸点が低い潤滑溶媒は真空状態で急速に蒸発する。潤滑溶媒の急速な蒸発によって、液滴は急速に分解し、処理チャンバ内でPFPE潤滑剤を完全に気化または噴霧化させる。その後、媒体表面への潤滑剤および潤滑添加剤の実質的に均一な蒸着が達成される。「噴霧化」という用語は、気体内に浮遊させられる液滴への液体の分解を指す。「実質的に均一な」という字句は、ディスクドライブの性能に影響を与える可能性があるディスク記録媒体表面のある点から別の点への成分濃度がほとんど変動しない(5%未満)ということを意味する。
【0026】
潤滑剤は、噴霧化後に蒸気圧に達する。媒体表面上の潤滑剤分子の衝突速度Sは、関係式S=P/2πmkT(但し、Pおよびmは、それぞれPFPE潤滑剤の蒸気圧および分子量)に従う。分子量が2000原子質量単位であるZdol PFPEの場合、蒸気圧は、20℃で約2×10−5トルである。10Åの潤滑剤塗膜を媒体表面に蒸着させるには、約0.32秒かかる。それ故、潤滑剤および添加剤の蒸着は、潤滑剤および添加剤の蒸気への媒体表面の暴露から5秒以内、より好ましくは、1秒以内に完了できる。
【0027】
図3で、噴霧化チャンバは、好ましい実施例である「真空」という表示がされているが、噴霧化チャンバは、必ずしも真空状態でなくてもよい。噴霧化チャンバ内の気体環境の圧力は、本発明の噴霧化装置が少なくとも液滴の一部がチャンバの気体環境内で浮遊できるようなノズルに注入される液滴を生成するような圧力でなければならない。液滴のサイズは、0.1〜10マイクロメートルの範囲、好ましくは、0.1〜1マイクロメートルの範囲、最も好ましくは、0.1〜0.5マイクロメートルの範囲内である。
【0028】
噴霧化蒸気潤滑工程の利点は、以下の通りである。加熱が不要なため、潤滑剤の経時的な熱劣化がない。ディスク上に蒸着された潤滑剤の組成は、溶液の組成と実質的に同じである。したがって、この工程で同じチャンバ内に同時に複数の組成物を蒸着できる。潤滑剤は室温で蒸着するため、潤滑剤処理槽の温度を制御する必要がない。堆積速度を制御するパラメータは、一定のレベルに設定することが容易な真空圧である。一般に、本発明の設計は、熱気化システムのすべての問題に対処する。
【0029】
一変形例では、媒体を噴霧化チャンバ内の蒸気に暴露する前または暴露中に媒体にUVを放射してもよい。UV露光によって接着された潤滑剤の厚さが増すことがある。発明者らは、炭素表面上のC−OおよびC=O結合の量がUV露光後に増加することを発見した。これは、UV放射工程で生成されるオゾンが炭素表面と反応してCOOHやC−OHなどの官能基を形成することを意味する。潤滑剤を炭素表面に結合させるカルボキシルおよびヒドロキシル末端基の強い双極子相互作用がこうして形成される。
【0030】
本発明の装置によって記録媒体に塗布できる潤滑剤は、ヒドロキシル、カロボキシ、またはアミノなどの極性基で末端を官能基にできるポリフルオロエーテル組成物を含む。極性基は、潤滑剤を記録媒体の表面に付着または接着する能力を向上させる手段を提供する。フッ素化油類は、Fomblin Z(登録商標),Fomblin Z−Dol(登録商標),Fomblin Ztetraol(登録商標),Fomblin Am2001(登録商標),Fomblin Z−DISOC(登録商標)(Montedison);Demnum(登録商標)(Daikin)およびKrytox(登録商標)(Dupont)などの商標名で市販されている。Fomblin潤滑剤のいくつかの化学構造を以下に示す。
X−CF−[(OCF−CF−(OCF]−OCF−X
Fomblin Z:非反応性末端基
X=F
Fomblin Zdol:反応性末端基
X=CH−OH
Fomblin AM2001:反応性末端基
【化1】


Fomblin Ztetraol:反応性末端基
【化2】

【0031】
本発明の噴霧化装置で使用できる溶媒は、バートレル(登録商標)XF、HFE7100,PF5060およびAk225を含む。
【0032】
本発明の潤滑剤に添加できる添加剤は、X1−pおよびその誘導体を含む。潤滑剤塗膜の厚さは、少なくとも0.5nm、好ましくは、少なくとも1nm、より好ましくは、少なくとも1.2nmで、一般に3nm未満、好ましくは、1nm〜3nmの範囲内になければならない。より大きい塗膜厚さを提供する特に注目される分子量成分は、1kD〜10kDの範囲、好ましくは、2kD〜8kDの範囲内にある。
【0033】
ポリマーの分子成分の分布、すなわち、多分散性を記述する1つの方法は、
=Σm/Σm
で定義される重量平均分子量(但し、mは、分子量Mを有するポリマー内の分子成分の総質量)を、
=ΣN/ΣN
で定義される数平均分子量(但し、Nは、分子量Mを有するポリマー内の各分子成分の総数)と比較する方法である。ポリマーの重量平均分子量(M)は、常に数平均分子量(M)より大きい。これは、後者が各クラスM内の分子の寄与率をカウントし、前者は、その質量で寄与率を秤量するからである。それ故、大きい分子量を有する分子成分は、重み付け係数として数ではなく質量が使用される時に平均に寄与する程度がより大きい。
【0034】
すべての多分散ポリマーで、M/M比は常に1より大きく、この比率が1から外れる量は、ポリマーの多分散性の尺度である。M/M比が大きいほど、ポリマーの分子量分布の幅は広がる。
【0035】
気相の分子量分布は、適切な表面への蒸気の凝縮によってサンプリングでき、その後、較正されたサイズの排他クロマトグラフィシステムによって分析できる。
【0036】
新鮮な潤滑剤は、分子成分の分子量分布が比較的狭いことが望ましい。実際、分布が狭いほど、蒸気内の1つまたは複数の成分の定常状態の濃度を維持することが容易になる。例えば、ポリマー内の最大および最小の分子量の成分が極めて類似した分子量を有する場合、それらの蒸気圧も極めて類似している。他方、分子量(蒸気圧)が大きく異なる場合、潤滑剤の加熱には、はるかに高い温度と定常状態の濃度を維持する工程管理が必要である。本発明で使用する潤滑剤は、1〜1.6の範囲、好ましくは、1〜1.3の範囲、より好ましくは、1〜1.2の範囲内のM/M比を有さなければならない。
【0037】
本発明は、比較的大きいかまたは小さい多分散性を備えた任意の市販の潤滑剤、または比較的小さい多分散性を備えた潤滑剤を得るために事前精留された潤滑剤で実施できる。本発明の好ましい実施例は、潤滑剤の事前精留を含まない。しかし、事前精留された潤滑剤を用いて比較的狭い分子量の潤滑剤を提供することができる。本発明で事前精留された潤滑剤を用いる場合、分離を可能にする蒸留、クロマトグラフィ、抽出または他の技術によって分子量別の事前精留された潤滑剤を得ることができる。
【0038】

本発明の一実施例について以下に説明する。
【0039】
マイクロ秒の範囲の最小時間開くことができ、毎回マイクロ/ナノリットルの量の同じ量の液体を正確に定量分配できる高速マイクロディスペンシングバルブを用いた真空噴霧実験を行い検査した。
【0040】
マイクロディスペンシングバルブの製造元は、Lee Companyである。バルブの詳細は、インターネットの以下のサイト:
(http://www.theleeco.com/EFSWEB2.NSF/4c8c908c6ad08610852563a9005dae17/495b9554ac723c4d85256783006a1f83!OpenDocument)にある。本発明の実施例で使用されるバルブの型式は、高速マイクロディスペンシングバルブ(INKX0514300A)である。
【0041】
使用した潤滑剤溶液は、0.005wt%のZdol−TXのバートレル(登録商標)XFである。図4は、バルブが5秒間開いている間に真空下で噴霧して塗膜したディスクのHDI画像を示す。FTIRによる潤滑剤の平均厚さは、約12Åである。潤滑剤の厚さは、潤滑剤の濃度、バルブの開く期間、および潤滑剤溶液の圧力を調整することで制御できる。厚さと組成物は、FTIRによって測定された。
【0042】
本出願は、本文および図でいくつかの数の範囲を開示する。本発明は、開示された数の範囲にわたって実施可能であるため、本明細書に正確な範囲の制限が一字一句言明されていなくても、開示された数の範囲は、開示された数の範囲内の任意の範囲または値を本質的に容認する。
【0043】
以上の説明は、当業者が本発明を実施し使用するためのものであり、特定の用途とその要件の文脈で提供されている。好ましい実施例の種々の修正は当業者には明らかであり、本明細書に記載する一般原理は、本発明の精神と範囲とを逸脱することなく、他の実施例および用途に適用できる。それ故、本発明は、図示の実施例に限定されず、本明細書に開示された原理および特徴と一致するように最も広義に解釈すべきである。最後に、本願で参照する特許および公報の全文は、参照により本明細書に組み込むものとする。上記および他の実施態様は、添付の特許請求の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体を製造する方法であって、
磁気記録媒体をチャンバ内に配置するステップと、
潤滑剤と溶媒とを含む液体をマイクロディスペンシングバルブを通してチャンバ内に提供するステップと、
チャンバ内で液体の蒸気圧より小さい圧力を維持して液体の少なくとも一部をチャンバ内の気体に浮遊する液滴に噴霧化するステップと、
液滴を介して磁気記録媒体上に潤滑剤を蒸着させるステップと、
を含む方法。
【請求項2】
マイクロディスペンシングバルブが、0.3マイクロ秒未満開き、開いた時に、約100ナノリットルから約500マイクロリットルの液体を定量分配する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液滴のサイズが、0.1〜10マイクロメートルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
潤滑剤のM/M比が、1〜1.6である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
液体が、異なる組成物の複数の潤滑剤を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
潤滑剤が、少なくとも1つのフッ素化油を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
液滴による磁気記録媒体への潤滑剤の蒸着前または蒸着中に磁気記録媒体をUVに暴露するステップをさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法を実行する装置。
【請求項9】
添加剤が、フッ素化油を含む、請求項6に記載の処理装置。
【請求項10】
マイクロディスペンシングバルブからホルダまでの液滴の経路が見通し線経路である、請求項6に記載の処理装置。
【請求項11】
チャンバと、真空チャンバに装着されたマイクロディスペンシングバルブと、チャンバ内の媒体のホルダとを備える装置で磁気記録媒体を製造する方法であって、マイクロディスペンシングバルブを通して、潤滑剤と、潤滑剤とは異なる溶媒とを含む液体を、液体の少なくとも一部をチャンバ内の気体に浮遊する液滴に分解することで噴霧化するステップと、液体の蒸気圧よりも圧力が低くなるようにチャンバ内の気体を加圧するステップとを含み、マイクロディスペンシングバルブが0.3マイクロ秒未満開き、マイクロディスペンシングバルブが開くたびに、約100ナノリットルから約500マイクロリットルの量の液体を定量分配する方法。
【請求項12】
マイクロディスペンシングバルブに注入される前に、液体を加圧するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
マイクロディスペンシングバルブに注入される前に、液体の流速を制御するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
液体が、異なる組成物の複数の潤滑剤を含む、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−20894(P2010−20894A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−163591(P2009−163591)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(500373758)シーゲイト テクノロジー エルエルシー (278)
【Fターム(参考)】