説明

磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体の製造装置

【課題】磁気記録媒体の保護層をCVD法等で作製する場合において、磁気転写に用いられるパターン形成体の繰り返し使用回数が減少するのを抑制する。
【解決手段】基板上に、スパッタ法を用いて、密着層、軟磁性下地層、配向制御層、非磁性下地層、および垂直記録層を順次積層し(ステップ201〜205)、得られた積層体に対し、垂直記録層の磁化の向きを一方向に揃えるために第1の向きの直流磁界を印加する初期磁化を行い(ステップ206)、初期磁化が施された積層体に、予めサーボ・パターンに対応した凹凸が形成されたマスタ情報記録体を密着させ、第1の向きとは逆となる第2の向きに直流磁界を印加することによってサーボ・パターンを積層体に磁気転写し(ステップ207)、サーボ・パターンが磁気転写された積層体の垂直記録層上に、プラズマCVD法を用いて保護層を積層する(ステップ208)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハード・ディスク・ドライブ等に代表される磁気記録装置では、回転する磁気記録媒体に対し、磁気ヘッドを用いたデータの書き込みおよび読み取りが行われる。
この種の磁気記録装置では、磁気記録媒体上の目的とする位置に磁気ヘッドを移動させ、且つ、その位置でのデータの書き込みおよび読み取りを行わせるために、磁気ヘッドの位置決めを行っている。このため、磁気記録媒体には、予め、磁気ヘッドによって読み取られるとともに磁気ヘッドの位置決めに使用される位置決めデータが記録されている。
【0003】
公報記載の従来技術として、磁気記録媒体に対する位置決めデータ等の記録を、所謂磁気転写方式にて行うことが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、基板の片面あるいは両面に、軟磁性層、非磁性層、磁性層、保護層および潤滑層を順次形成してなる磁気記録媒体を用意し、記録すべきデータに対応したパターンが形成されたパターン形成体を磁気記録媒体に重ね合わせた状態で、パターン形成体と磁気記録媒体とを挟んで一方向に向かう磁力を加えることで、磁気記録媒体に対するパターンの磁気的な転写を行っている。
【0004】
また、他の公報記載の従来技術として、磁気ヘッドが磁気記録媒体に接触した際に磁性層を保護するため、または磁気記録媒体の耐食性を高めるために設けられる保護層を、CVD(Chemical Vapor Deposition)法(特許文献2参照)、イオンビーム法(特許文献3参照)を用いて成膜することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−295250号公報
【特許文献2】特開2004−95163号公報
【特許文献3】特開2000−226669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、CVD法においては、原料ガスの反応によって反応室で生成された反応生成物の一部が塵となって浮遊し、保護層に付着することがある。また、イオンビーム法においても、原料ガスを分解してイオン化する際に反応室で生成された反応生成物の一部が塵となって浮遊し、保護層に付着することがある。このようにして得られた磁気記録媒体に磁気転写を行うと、パターン形成体に塵に起因する傷がついてしまい、パターン形成体を繰り返し使用できる回数が減少し、パターン形成体の寿命が短くなってしまうことがあった。
本発明は、磁気記録媒体の保護層をCVD法等で作製する場合において、磁気転写に用いられるパターン形成体の繰り返し使用回数が減少するのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、被積層体上に、スパッタ法を用いて磁性層を積層する工程と、被積層体に磁性層が積層された積層体に、第1の向きの直流磁界を印加する工程と、第1の向きの直流磁界を印加した後の積層体に、パターンが形成されたパターン形成体を接触させた状態で、第1の向きとは逆の第2の向きの直流磁界を印加する工程と、第2の向きの直流磁界を印加した後の積層体の磁性層に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法またはイオンビーム法を用いて磁性層を保護するための保護層を積層する工程とを含んでいる。
【0008】
この製造方法において、磁性層は、垂直磁気記録方式にて情報の記録が行われるものからなり、第1の向きの直流磁界を印加する工程では、磁性層の面に垂直な方向に第1の向きの直流磁界の印加を行い、第2の向きの直流磁界を印加する工程では、磁性層の面に垂直な方向に第2の向きの直流磁界の印加を行うことを特徴とすることができる。
【0009】
そして、保護層を積層する工程では、保護層としてダイヤモンド・ライク・カーボンを積層することを特徴とすることができる。
【0010】
また、他の観点から捉えると、本発明の磁気記録媒体の製造装置は、被積層体上に、スパッタ法を用いて磁性層を成膜する磁性層成膜室と、磁性層成膜室に開閉機構を介して接続され、被積層体に磁性層が積層された積層体に、第1の向きの直流磁界を印加して磁性層を初期磁化し、磁性層を初期磁化した後の積層体に、パターンが形成されたパターン形成体を接触させた状態で、第1の向きとは逆の第2の向きの直流磁界を印加することによって磁性層にパターンを磁気的に転写する磁気処理室と、磁気処理室に開閉機構を介して接続され、磁性層にパターンが磁気転写された積層体の磁性層に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法またはイオンビーム法を用いて磁性層を保護するための保護層を成膜する保護層成膜室とを含んでいる。
【0011】
この製造装置において、磁気処理室に開閉機構を介して接続されるとともに保護層成膜室に開閉機構を介して接続され、磁気処理室から送られてくる積層体を一時的に収容した後に保護層成膜室に送る一時収容室をさらに含むことを特徴とすることができる。
【0012】
そして、保護層成膜室では、保護層としてダイヤモンド・ライク・カーボンを成膜することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本構成を有していない場合、すなわち、プラズマCVD法等を用いて保護層を形成した磁気記録媒体に磁気転写を行う場合と比較して、磁気転写においてパターン形成体と磁気記録媒体との間に塵が噛み込まれることに起因して、パターン形成体の繰り返し使用回数が減少するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態が適用される磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置の構成の一例を示した図である。
【図2】磁気記録媒体の断面構成の一例を示す図である。
【図3】磁気記録媒体の上面図である。
【図4】本実施の形態における磁気記録媒体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図5】成膜・磁気転写工程で用いられるインライン成膜・磁気転写装置の構成の一例を示す上面図である。
【図6】インライン成膜・磁気転写装置で用いられるキャリアの構成の一例を示す図である。
【図7】磁気転写室に設けられる磁気転写装置の構成の一例を示す図である。
【図8】磁気転写装置で用いられるマスタ情報記録体の構成の一例を示す図である。
【図9】磁気記録媒体の製造方法における成膜・磁気転写工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態が適用される磁気記録媒体1を備えた磁気記録再生装置の構成の一例を示した図である。
この磁気記録再生装置は、データを磁気的に記録する磁気記録媒体1と、磁気記録媒体1を回転駆動させる回転駆動部2と、磁気記録媒体1にデータを書き込むとともに磁気記録媒体1に記録されたデータを読み取る磁気ヘッド3と、磁気ヘッド3を搭載するキャリッジ4と、キャリッジ4を介して磁気記録媒体1に対して磁気ヘッド3を相対移動させるヘッド駆動部5と、外部から入力された情報を処理して得られた記録信号を磁気ヘッド3に出力し、磁気ヘッド3からの再生信号を処理して得られた情報を外部に出力する信号処理部6とを備えている。
ここで、本実施の形態では、磁気記録媒体1が円盤状の形状を有しており、後述するように、その両面にそれぞれデータを記録するための記録層が形成されている。そして、図1に示す例では、1台の磁気記録再生装置に複数(ここでは3枚)の磁気記録媒体1が取り付けられている。
【0016】
図2は、図1に示す磁気記録媒体1の断面構成の一例を示す図である。なお、磁気記録媒体1に対するデータの記録方式には面内記録方式と垂直記録方式とが存在するが、本実施の形態では、垂直記録方式において使用される磁気記録媒体1について説明を行う。
この磁気記録媒体1は、基板100と、基板100の上に形成された密着層110と、密着層110の上に形成された軟磁性下地層120と、軟磁性下地層120の上に形成された配向制御層130と、配向制御層130の上に形成された非磁性下地層140と、非磁性下地層140の上に形成された垂直記録層150と、垂直記録層150の上に形成された保護層160と、保護層160の上に形成された潤滑層170とを備えている。そして、本実施の形態では、基板100の両面のそれぞれに、密着層110、軟磁性下地層120、配向制御層130、非磁性下地層140、垂直記録層150、保護層160、および潤滑層170が形成されるようになっている。なお、以下の説明においては、必要に応じて、基板100の両面に密着層110から保護層160までを積層したもの、換言すれば、基板100に潤滑層170以外を形成したものを、積層基板180と称することがある。また、以下の説明においては、必要に応じて、基板100の両面に密着層110から垂直記録層150までを形成したもの、換言すれば、基板100に保護層160および潤滑層170以外を形成したものを、積層体190と称することがある。
【0017】
本実施の形態では、基板100として非磁性体が使用されており、例えばアルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよく、例えばガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものを用いることもできる。
【0018】
これらのうち、ガラス基板としては、例えば、通常のガラスや結晶化ガラスなどを用いることができ、通常のガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。また、セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0019】
また、基板100は、後述するようにCo又はFeが主成分となる軟磁性下地層120と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。このため、基板100と軟磁性下地層120との間に密着層110を設けることが好ましい。なお、密着層110の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択することが可能である。また、密着層110の厚みは2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0020】
軟磁性下地層120は、垂直記録方式を採用した場合において、記録再生時のノイズの低減を図るために設けられる。
本実施の形態において、軟磁性下地層120は、密着層110の上に形成される第1軟磁性層121と、第1軟磁性層121の上に形成されるスペーサ層122と、スペーサ層122の上に形成される第2軟磁性層123とを備えている。すなわち、軟磁性下地層120は、第1軟磁性層121と第2軟磁性層123とによってスペーサ層122を挟み込んだ構成を有している。
これらのうち、第1軟磁性層121および第2軟磁性層123は、Fe:Coを40:60〜70:30(原子比)の範囲で含む材料を用いるのが好ましく、またその透磁率や耐食性を高めるためTa、Nb、Zr、Crからなる群から選ばれる何れか1種を1atm%〜8atm%の範囲で含有させるのが好ましい。
また、スペーサ層122としては、Ru、Re、Cu等を用いることができるが、この中では特にRuを用いるのが好ましい。
【0021】
配向制御層130は、非磁性下地層140を介してこの上に積層される垂直記録層150の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善するために設けられる。
配向制御層130を構成する材料については、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金が好ましく、またこれらの合金を多層化したものを用いてもよい。例えば、基板100側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用することが好ましい。
【0022】
非磁性下地層140は、この上に積層される垂直記録層150の初期積層部における結晶成長の乱れを抑制し、記録再生時のノイズの発生を抑制するために設けられる。ただし、非磁性下地層140については、必ずしも設ける必要はない。
本実施の形態において、非磁性下地層140は、Coを主成分とする金属に、さらに酸化物を含んだ材料からなることが好ましい。非磁性下地層140におけるCrの含有量は、25原子%〜50原子%とすることが好ましい。非磁性下地層140における酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。非磁性下地層140における酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましい。
【0023】
本実施の形態における垂直記録層150は、非磁性下地層140の上に形成される第1磁性層151と、第1磁性層151の上に形成される第1非磁性層152と、第1非磁性層152の上に形成される第2磁性層153と、第2磁性層153の上に形成される第2非磁性層154と、第2非磁性層154の上に形成される第3磁性層155とを備えている。すなわち、垂直記録層150では、第1磁性層151と第2磁性層153とによって第1非磁性層152を挟み込み、第2磁性層153と第3磁性層155とによって第2非磁性層154を挟み込んだ構成を有している。
【0024】
これらのうち、第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155は、磁気ヘッド3から供給される磁気エネルギーによって垂直記録層150の厚さ方向に磁化の向きを反転させ、その状態を維持することでデータを記憶するために設けられる。なお、これら第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155が、本発明における磁性層に対応している。
これら第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155は、Coを主成分とする金属からなる磁性粒子と非磁性の酸化物とを含み、磁性粒子を酸化物で囲んだグラニュラ型構造を有するものを用いることが好ましい。
【0025】
ここで、第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155を構成する酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。また、垂直記録層150の中で最下層となる第1磁性層151については、2種類以上の酸化物からなる複合酸化物を含んでいることが好ましい。その中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなどを好適に用いることができる。
【0026】
また、第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155を構成する磁性粒子に適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14原子%、Pt含有量18原子%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOからなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)などの組成物を挙げることができる。
【0027】
また、第1非磁性層152および第2非磁性層154は、垂直記録層150を構成する第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155の個々での磁化反転を容易とし、磁性粒子全体での磁化反転の分散を小さくすることで、ノイズを低減するために設けられる。
本実施の形態において、第1非磁性層152および第2非磁性層154は、例えばRuおよびCoを含んでいることが好ましい。
【0028】
なお、この例では、垂直記録層150を構成する磁性層を3層(第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155)としていたが、これに限られるものではなく、4層以上の磁性層を備えた構成とすることも可能である。また、この例では、垂直記録層150を構成する各磁性層(第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155)の間に非磁性層(第1非磁性層152および第2非磁性層154)を設けていたが、これに限られるものではなく、例えば異なる組成を有する2つの磁性層を、重ねて配置するようにしてもかまわない。
【0029】
保護層160は、垂直記録層150の腐食を抑制するとともに、磁気ヘッド3が磁気記録媒体1に接触したときに、磁気記録媒体1の表面の損傷を防いで保護するため、また磁気記録媒体1の耐食性を高めるために設けられる。
保護層160としては、従来公知の材料を使用することができ、例えばC、SiO、ZrOを含むものを使用することが可能である。そして、これらの中でも、Cを含むものとすることが好ましく、特にアモルファス状の硬質炭素膜やダイヤモンド・ライク・カーボン(Diamond Like Carbon:DLC)を用いることが、保護層160の硬度を保ちつつ薄層化を図るという観点から好ましい。さらに保護層160の厚みは、1〜10nmとすることが、図1に示す磁気記録再生装置において磁気ヘッド3と磁気記録媒体1との距離を小さくできるので、高記録密度の点から好ましい。
【0030】
潤滑層170は、磁気ヘッド3が磁気記録媒体1に接触したときに磁気ヘッド3および磁気記録媒体1の表面の摩耗を抑制するため、また磁気記録媒体1の耐食性を高めるために設けられる。
潤滑層170としては、従来公知の材料を使用することができ、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を用いることが好ましい。潤滑層170の厚さは、1〜2nmとすることが、図1に示す磁気記録再生装置において磁気ヘッド3と磁気記録媒体1との距離を小さくできるので、高記録密度の点から好ましい。
【0031】
図3は、図1に示す磁気記録媒体1の上面図である。また、図3には、磁気記録媒体1の表面に設けられる複数のデータ領域を模式的に示している。
本実施の形態における磁気記録媒体1は、上述したように円盤状の形状を有しており、その中央部には磁気記録媒体1の表裏を貫通する円形状の孔が形成されている。以下の説明では、磁気記録媒体1における円形状の孔の縁を内端1aと称し、磁気記録媒体1における外周の縁を外端1bと称する。
【0032】
図3に示す磁気記録媒体1の表面には、磁気ヘッド3(図1参照)を用いたデータの読み書きを行うための読み書きデータ記憶領域A1と、磁気ヘッド3を用いたデータの読み書きにおいて磁気ヘッド3の位置決めに用いられるデータ(位置決めデータという)を記憶する位置決めデータ記憶領域A2とが設けられている。この例において、位置決めデータ記憶領域A2は、磁気記録媒体1の表面に、放射状に複数設けられている。また、磁気記録媒体1の表面には、同心円状に、複数のトラックTが設けられる。なお、図示はしていないが、図3に示す磁気記録媒体1の裏面にも、同様にして、読み書きデータ記憶領域A1と位置決めデータ記憶領域A2とが設けられている。ただし、磁気記録媒体1の表裏面のそれぞれに設けられた位置決めデータ記憶領域A2は、表裏で位置を合わせなくてもかまわない。
【0033】
磁気記録媒体1の位置決めデータ記憶領域A2には、位置決めデータとして、例えば、磁気ヘッド3による読み取り時において検出信号の利得調整に用いられるAGC(Auto Gain Control)パターン、サーボ信号の検出に用いられる検出パターン、サーボ・トラックのシリンダ情報あるいはセクタ情報の検出に用いられるアドレス・パターン、そして目的とするトラックTに磁気ヘッド3を移動させた後にそのトラックT上に磁気ヘッド3を追従させるのに用いられるバースト・パターン(いずれも図示せず)等を含むサーボ・パターンが記憶されている。なお、サーボ・パターンは、磁気記録媒体1に設けられた垂直記録層150の厚み方向の磁化の向きを、位置決めデータに合わせて適宜反転させることで構成されている。
【0034】
図4は、本実施の形態における磁気記録媒体1の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施の形態では、磁気記録媒体1における積層体190の成膜過程において、上述した位置決めデータ記憶領域A2にサーボ・パターンの書き込みを行っていること、より具体的には、積層基板180(図2参照)の製造中にサーボ・パターンの磁気転写を行っていることに特徴がある。
【0035】
磁気記録媒体1の製造に先立ち、予め円盤状に形成されるとともに中央部に表裏を貫通する円形状の孔が形成された基板100を準備し、予備洗浄を行った後、この基板100に対する研磨を行う(ステップ101)。ステップ101における基板100の研磨は、例えばダイヤモンドスラリーを用いたメカニカルポリッシュで行うことが望ましい。
【0036】
そして、研磨後の基板100は、その平均表面粗さ(Ra)が1nm(10Å)以下、好ましくは0.5nm以下であるとことが、磁気ヘッド3(図1参照)を低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、研磨後の基板100の表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下(より好ましくは0.25nm以下。)であることが、磁気ヘッド3を低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、研磨後の基板100の端面のチャンファー部の面取り部と、側面部との少なくとも一方の表面平均粗さ(Ra)が10nm以下(より好ましくは9.5nm以下。)のものを用いることが、磁気ヘッド3の飛行安定性にとって好ましい。なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
【0037】
次に、研磨が施された基板100に対し、前洗浄を行う(ステップ102)。ステップ102における基板100の前洗浄は、研磨が施された基板100を、純水あるいは超純水に浸漬して超音波振動を加えながら行うことが好ましい。そして、前洗浄がなされた基板100は、速やかにスピン法等で乾燥させることが好ましい。
【0038】
続いて、前洗浄が施された基板100に対し、密着層110、軟磁性下地層120、配向制御層130、非磁性下地層140、垂直記録層150および保護層160を順次積層するとともに、垂直記録層150の形成後且つ保護層160の形成前にサーボ・パターンを磁気転写する成膜・磁気転写工程を行う(ステップ103)。このような成膜・磁気転写工程を行うことで、サーボ・パターンが記録された積層基板180(図2参照)が得られる。なお、成膜・磁気転写工程の詳細については後述する。
【0039】
そして、成膜・磁気転写工程によって得られた積層基板180に対し、潤滑剤を塗布し(ステップ104)、積層基板180に潤滑層170を形成する。続いて、潤滑層170が塗布された積層基板180を100℃程度で数分間加熱するベークを行う(ステップ105)。これにより、潤滑層170に含まれる水分が揮発し、且つ、積層基板180の最表面側に設けられた保護層160と保護層160に接する潤滑層170との密着性が高まる。以上により、サーボ・パターンが記録された磁気記録媒体1が得られる。なお、ステップ103とステップ104との間において、積層基板180の表面を、純水等を用いてスピン洗浄するようにしてもよい。
【0040】
次いで、ベークが施された磁気記録媒体1の表面をワイピングする(ステップ106)。ワイピング工程は、磁気記録媒体1の表面に付着したスパッタダスト等を拭き取るために行われる。
【0041】
ワイピング工程は、例えば布製のワイピングテープ等を用いて行なわれ、このワイピングテープを磁気記録媒体1の表面に対して相対走行させつつ、ゴム製のコンタクトロールまたはパッドによってワイピングテープ表面を磁気記録媒体1の表面に押し当てることにより、磁気記録媒体1の表面を軽く拭くことによって行われる。このような処理を行うことにより、磁気記録媒体1の表面に付着していたスパッタダスト等が除去されることになる。その結果、得られた磁気記録媒体1を図1に示す磁気記録再生装置に組み込んだ場合に、磁気記録媒体1に対する磁気ヘッド3の浮上量をより小さくすることが可能となる。
【0042】
ここで、ワイピング工程に用いられるワイピングテープとしては、超極細繊維よりなる布帛を帯状にスリットしたワイピングテープや、超極細繊維マルチフィラメント糸の織編物等が用いられる。
【0043】
また、このようなワイピングテープを用いる磁気記録媒体1のワイピング方法は、具体的には、磁気記録媒体1を回転させつつ、この磁気記録媒体1の磁性層側の面に、ワイピングテープの表面(拭き面)を押し当てることにより行われる。これにより、磁気記録媒体1の表面のスパッタダスト等が拭き取られ、表面が清浄化する。ここで、ワイピングテープは、供給リールと巻取りリールとの間に掛け渡されており、供給リールから順次供給され、巻取りリールに巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取りリール側に走行する途中で、ワイピングテープは、拭き面と反対側の面(裏面)がゴム等のバッキングロールまたはフェルト等により押圧され、その拭き面が磁気記録媒体1の表面に押し当てられる。
【0044】
そして、ワイピングが施された磁気記録媒体1の表面に対しバーニッシュを行う(ステップ107)。
バーニッシュ工程は、磁気記録媒体1の表面に形成または付着した突起物を除去するため、その表面を、研磨テープを用いて研磨する工程である。このような処理を行うことにより、得られた磁気記録媒体1を図1に示す磁気記録再生装置に組み込んだ場合に、磁気記録媒体1に対する磁気ヘッド3の浮上量をより小さくすることができる。
【0045】
バーニッシュ工程は、アルミナ砥粒を塗布した研磨テープ等を用いて行なわれ、この研磨テープをゴム製のコンタクトロールによって磁気記録媒体1の表面に押し当てることにより、磁気記録媒体1の表面を軽く研磨することにより行われる。このような処理を行うことにより、磁気記録媒体1の表面の異常突起等が除去される。
【0046】
バーニッシュ工程に用いられる研磨テープ(バーニッシュテープ)としては、通常ポリエステル製のベースフィルム上に研磨材層を形成してなるテープを使用する。そして、この研磨材層が磁気記録媒体1の磁性層側の面と接触して摺動することによって、磁気記録媒体1の表面に付着した微小な塵埃が除去されると共に、その表面に存在する異常突起等が研磨・除去されて、その表面が平滑化される。研磨材としては、平均粒子径が0.05μm〜50μm程度の、酸化クロム、α−アルミナ、炭化珪素、非磁性酸化鉄、ダイヤモンド、γ−アルミナ、α,γ−アルミナ、熔融アルミナ、コランダム、人造ダイヤモンド等が用いられる。
【0047】
また、このような研磨テープを用いる磁気記録媒体1のバーニッシュ加工は、具体的には、磁気記録媒体1を回転させつつ、この磁気記録媒体1の磁性層側の面に、研磨テープの砥粒面を押し当てることにより行われる。これにより、磁気記録媒体1の表面の突起が研磨除去され平滑化される。ここで、研磨テープは、供給リールと巻取りリールとの間に掛け渡されており、供給リールから順次供給され、巻取りリールに巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取りリール側に走行する途中で、研磨テープは、砥粒面と反対側の面(裏面)がゴム等のバッキングロールまたはフェルト等により押圧され、研磨テープの研磨面が磁気記録媒体1の表面に押し当てられる。
【0048】
続いて、バーニッシュが施された磁気記録媒体1に対しグライド検査を行う(ステップ108)。グライド検査工程では、磁気転写済の磁気記録媒体1の表面に突起物が無いかどうかを検査する。磁気ヘッド3を用いて磁気記録媒体1をデータの書き込み(記録)および読み出し(再生)を実行する際に、磁気記録媒体1の表面に浮上量(磁気記録媒体1と磁気ヘッド3の間隔)以上の高さの突起があると、磁気ヘッド3が突起にぶつかって磁気ヘッド3が損傷したり、磁気記録媒体1に欠陥が発生したりする原因となる。このため、グライド検査では、そのような高い突起の有無を検査する。
【0049】
次いで、グライド検査に合格した磁気記録媒体1に対し、サーティファイ検査を行う(ステップ109)。サーティファイ検査工程では、通常の磁気記録再生装置と同様に、磁気記録媒体1に対して磁気ヘッド3で予め決められた信号を記録した後、記録した信号を再生し、得られた再生信号によって磁気記録媒体1の記録不良を検出し、磁気記録媒体1の電気特性や欠陥の有無など磁気記録媒体1の品質を確かめる。上述した方法で製造した磁気記録媒体1には、既にサーボ・パターンが書き込まれているため、従来の方式でのサーティファイ検査を実施することが困難となっている。このため、本実施の形態では、磁気記録媒体1に磁気転写されたサーボ・パターン(位置決めデータ)を利用して磁気ヘッド3を特定箇所に位置づけし、データの読み書きを行う形式の検査を行う。
そして、サーティファイ検査に合格した磁気記録媒体1が、製品として出荷されることになる。
【0050】
では、上述したステップ103における成膜・磁気転写工程について、より詳細に説明する。図5は、成膜・磁気転写工程で用いられるインライン成膜・磁気転写装置10の構成の一例を示す上面図である。
【0051】
本実施の形態のインライン成膜・磁気転写装置10は、複数の処理室を、複数のゲートバルブ15を介して四角形状に接続して構成されている。また、インライン成膜・磁気転写装置10の内部には、処理室と同じ数のキャリア20が配置されており、これら複数のキャリア20が、複数のゲートバルブ15(15a〜15t)を介して、図中時計回り方向(図中の矢印参照)に循環しながら、各処理室に順次搬送されるようになっている。
【0052】
より具体的に説明すると、インライン成膜・磁気転写装置10は、処理室として、キャリア20に対する基板100(図2参照)の取り付けを行う取り付け室1000と、ゲートバルブ15aを介して取り付け室1000に接続され、スパッタ法により密着層110の成膜を行う第1成膜室1001と、ゲートバルブ15bを介して第1成膜室1001に接続され、キャリア20を図中時計回り方向に90°回転させる第1方向転換室11とを備えている。また、インライン成膜・磁気転写装置10は、処理室として、ゲートバルブ15cを介して第1方向転換室11に接続され、スパッタ法により第1軟磁性層121の成膜を行う第2成膜室1002と、ゲートバルブ15dを介して第2成膜室1002に接続され、スパッタ法によりスペーサ層122の成膜を行う第3成膜室1003と、ゲートバルブ15eを介して第3成膜室1003に接続され、スパッタ法により第2軟磁性層123の成膜を行う第4成膜室1004と、ゲートバルブ15fを介して第4成膜室1004に接続され、スパッタ法により配向制御層130の成膜を行う第5成膜室1005と、ゲートバルブ15gを介して第5成膜室1005に接続され、キャリア20を図中時計回り方向に90°回転させる第2方向転換室12とを備えている。
【0053】
さらに、インライン成膜・磁気転写装置10は、処理室として、ゲートバルブ15hを介して第2方向転換室12に接続され、スパッタ法により非磁性下地層140の成膜を行う第6成膜室1006と、ゲートバルブ15iを介して第6成膜室1006に接続され、スパッタ法により第1磁性層151の成膜を行う第7成膜室1007と、ゲートバルブ15jを介して第7成膜室1007に接続され、スパッタ法により第1非磁性層152の成膜を行う第8成膜室1008と、ゲートバルブ15kを介して第8成膜室1008に接続され、スパッタ法により第2磁性層153の成膜を行う第9成膜室1009と、ゲートバルブ15lを介して第9成膜室1009に接続され、キャリア20を図中時計回り方向に90°回転させる第3方向転換室13とを備えている。さらにまた、インライン成膜・磁気転写装置10は、処理室として、ゲートバルブ15mを介して第3方向転換室13に接続され、スパッタ法により第2非磁性層154の成膜を行う第10成膜室1010と、ゲートバルブ15nを介して第10成膜室1010に接続され、スパッタ法により第3磁性層155の成膜を行う第11成膜室1011とを備えている。
【0054】
また、インライン成膜・磁気転写装置10は、処理室として、ゲートバルブ15oを介して第11成膜室1011に接続され、密着層110から垂直記録層150までが積層された基板100すなわち積層体190に対する初期磁化を行う初期磁化室1012と、ゲートバルブ15pを介して初期磁化室1012に接続され、初期磁化が施された積層体190にサーボ・パターンを磁気転写する磁気転写室1013と、ゲートバルブ15qを介して磁気転写室1013に接続され、キャリア20を図中時計回り方向に90°回転させる第4方向転換室14とを備えている。ここで、本実施の形態では、隣接して配置される初期磁化室1012および磁気転写室1013の両者が、磁気処理室として機能している。そして、インライン成膜・磁気転写装置10は、処理室として、ゲートバルブ15rを介して第4方向転換室14に接続され、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により保護層160の成膜を行う第12成膜室1014と、ゲートバルブ15sを介して第12成膜室1014と接続され、キャリア20から積層基板180(図2参照)の取り外しを行う取り外し室1015とを備えている。なお、取り外し室1015および取り付け室1000は隣接して配置されており、両者はゲートバルブ15tを介して接続されている。なお、取り外し室1015および取り付け室1000にガスを供給する必要がない場合、ゲートバルブ15tは不要となる。
【0055】
また、インライン成膜・磁気転写装置10は、取り付け室1000に接続され、取り付け室1000に基板100を搬入するためのロボット(図示せず)が配置された取り付け補助室1000aと、取り外し室1015に接続され、取り外し室1015から積層基板180を搬出するためのロボット(図示せず)が配置された取り外し補助室1015aとをさらに備えている。
なお、第11成膜室1011が本発明における磁性層成膜室に、第4方向転換室14が本発明における一時収容室に、第12成膜室1014が本発明における保護層成膜室に、それぞれ対応している。
【0056】
本実施の形態において、ゲートバルブ15(15a〜15t)は、閉動作に伴って、隣接する2つの処理室(例えばゲートバルブ15aの場合は取り付け室1000および第1成膜室1001)を仕切り、且つ、開動作に伴って、隣接する2つの処理室の仕切りを解除するようになっている。また、1つの処理室に設けられた2つのゲートバルブ15(例えば第1成膜室1001におけるゲートバルブ15a、15b)を閉動作させることにより、この1つの処理室を密閉状態とすることができるようになっている。
【0057】
さらに、第1成膜室1001〜第11成膜室1011および第12成膜室1014には、それぞれ、ガス供給源に接続されたガス導入管(ともに図示せず)が設けられており、図示しないバルブを開閉操作することにより、ガス導入管を介して各種ガスが導入されるようになっている。また、各処理室(取り付け室1000、第1成膜室1001〜第11成膜室1011、初期磁化室1012、磁気転写室1013、第12成膜室1014、および第1方向転換室11〜第4方向転換室14)には、それぞれ、真空ポンプに接続されたガス排気管(ともに図示せず)が設けられており、図示しないバルブを開閉操作することにより、ガス排気管を介して処理室の内部を減圧排気することが可能となっている。したがって、取り付け室1000、初期磁化室1012、磁気転写室1013、および第1方向転換室11〜第4方向転換室14にはガス供給は行われないものの、ガス排気管を介した減圧がなされ、これら各室が真空環境下におかれるようになっている。
【0058】
図6は、インライン成膜・磁気転写装置10で用いられるキャリア20の構成の一例を示す図である。
このキャリア20は、矩形状の支持台21と、支持台21の上部に並べて設けられ、それぞれに基板100を取り付けるための開口が形成された第1ホルダ22および第2ホルダ23と、第1ホルダ22の開口の周縁に設けられて基板100の保持に用いられる第1保持部材24と、第2ホルダ23の開口の周縁に設けられて基板100の保持に用いられる第2保持部材25と、支持台21の下方に設けられてキャリア20の搬送に用いられる磁石部材26とを備えている。
【0059】
本実施の形態において、第1保持部材24および第2保持部材25は、それぞれ基板100の外端周縁を保持するように構成されている。これにより、キャリア20は、2枚の基板100を、それぞれ立てた状態で保持することになり、キャリア20に保持される2枚の基板100は、それぞれの第1面および第2面が側方に向かう状態となる。
【0060】
また、磁石部材26は、極性の異なる2つの磁極(N極およびS極)を、横方向に交互に並べた構成を有している。そして、図5に示すインライン成膜・磁気転写装置10の下方には、極性の異なる2つの磁極(N極およびS極)を螺旋状に配列した他の磁石部材(図示せず)が配置されており、この他の磁石部材を回転させることに伴って磁石部材26が受ける磁力により、キャリア20が図中矢印方向(横方向)に移動するようになっている。このため、キャリア20の移動においては、第1ホルダ22側が先頭となり、第2ホルダ23側が後尾となる。
【0061】
図7は、図5に示す磁気転写室1013に設けられる磁気転写装置70の構成の一例を示す図である。
磁気転写装置70は、磁気転写室1013において移動可能に取り付けられ、サーボ・パターンが予め記録されたマスタ情報記録体200を固定した状態で保持する第1記録体ホルダ30と、第1記録体ホルダ30に対向して配置されるとともに、磁気転写室1013において移動可能に取り付けられ、サーボ・パターンが予め記録されたマスタ情報記録体200を固定した状態で保持する第2記録体ホルダ40とを備える。ここで、第1記録体ホルダ30および第2記録体ホルダ40は、互いに近づく側および遠ざかる側に移動するように構成されている。そして、第1記録体ホルダ30に取り付けられたマスタ情報記録体200および第2記録体ホルダ40に取り付けられたマスタ情報記録体200は、互いに対向した状態で配置される。また、磁気転写室1013においては、第1記録体ホルダ30と第2記録体ホルダ40との間を、キャリア20(図6参照)が通過するようになっており、2枚のマスタ情報記録体200の間に、キャリア20に保持された基板100が順次対向配置されるようになっている。
【0062】
また、マスタ情報記録体200を保持した第1記録体ホルダ30の背面側には、第1磁石51を備えた第1磁石部材50が配置されている。第1磁石部材50は、第1記録体ホルダ30の背面に対向配置される第1磁石51と、第1磁石51を保持する第1磁石保持部52と、第1磁石保持部52の背面側から伸びる第1磁石支持部53とを備えている。第1磁石支持部53は、磁気転写室1013に対し、図中矢印方向に回転可能に支持されている。これにより、第1磁石支持部53の進退に伴って第1磁石保持部52に保持された第1磁石51が進退するとともに、第1磁石支持部53の回転に伴って第1磁石保持部52に保持された第1磁石51が回転するようになっている。
【0063】
一方、マスタ情報記録体200を保持した第2記録体ホルダ40の背面側には、第2磁石61を備えた第2磁石部材60が配置されている。第2磁石部材60は、第2記録体ホルダ40の背面に対向配置される第2磁石61と、第2磁石61を保持する第2磁石保持部62と、第2磁石保持部62の背面側から伸びる第2磁石支持部63とを備えている。第2磁石支持部63は、磁気転写室1013に対し、図中矢印方向に回転可能に支持されている。これにより、第2磁石支持部63の進退に伴って第2磁石保持部62に保持された第2磁石61が進退するとともに、第2磁石支持部63の回転に伴って第2磁石保持部62に保持された第2磁石61が回転するようになっている。
【0064】
また、第1磁石部材50において、第1磁石51は、第1磁石保持部52に対し、第1磁石支持部53の回転中心から偏倚した位置に放射方向に取り付けられている。また、第1磁石51は、第1記録体ホルダ30と対向する側が一方の極性の磁極(例えばN極)となるように第1磁石保持部52に保持されている。
一方、第2磁石部材60において、第2磁石61は、第2磁石保持部62に対し、第2磁石支持部63の回転中心から偏倚した位置に放射方向に取り付けられている。また、第2磁石61は、第2記録体ホルダ40と対向する側が他方の極性の磁極(例えばS極)となるように第2磁石保持部62に保持されている。
【0065】
そして、本実施の形態では、第1磁石51と第2磁石61とが、第1記録体ホルダ30および第2記録体ホルダ40を挟んで対向するように配置される。また、第1磁石部材50および第2磁石部材60は、第1磁石51と第2磁石61とを対向させた状態を維持しながら、ともに回転するように構成されている。
【0066】
図8は、磁気転写装置70で用いられるマスタ情報記録体200の構成の一例を示す図である。ここで、図8(a)はマスタ情報記録体200の上面図を、また、図8(b)は図8(a)におけるVIIIB−VIIIB断面図を、それぞれ示している。
【0067】
パターン形成体の一例としてのマスタ情報記録体200は、基板100よりも直径が大きい円盤状の形状を有している。また、マスタ情報記録体200の一方の面(形成面に対応)には、サーボ・パターンに対応する微細な凹凸が形成されたサーボ・パターン形成領域SPが設けられている。この例において、サーボ・パターン形成領域SPは、マスタ情報記録体200の一方の面に、中央部と外縁部とを除いて、放射状に複数設けられている。なお、図7に示す第1記録体ホルダ30あるいは第2記録体ホルダ40にマスタ情報記録体200を取り付けた際には、サーボ・パターン形成領域SPを設けた面が、互いに露出した状態で対向することになる。
【0068】
次に、マスタ情報記録体200の構造について説明すると、マスタ情報記録体200は、円盤状の基体201と、この基体201の一方の面に形成されたマスタ磁性層202と、マスタ磁性層202の上に形成されたマスタ保護層203とを備えている。ここで、図8(b)は、サーボ・パターン形成領域SPにおけるマスタ情報記録体200の断面構成を示しており、この部位には、サーボ・パターンに対応した凸部204および凹部205が存在している。
なお、大気圧環境下で磁気転写工程を行う場合は、マスタ情報記録体200と磁気記録媒体1との吸着を防ぐため、マスタ情報記録体200の表面に転写パターンに応じた凹凸形状を設け、また、サーボ・パターン形成領域SP以外の領域は、サーボ・パターン形成領域SPにおける凹部205と同じ高さとすることが望ましい。ただし、本実施の形態では、磁気転写工程を真空環境下で行うことが可能であり、前述のマスタ情報記録体200と磁気記録媒体1との吸着の問題は生じない。したがって、本実施の形態のマスタ情報記録体200として、その表面に存在する凹部205を非磁性材料で埋め込むことにより、凸部204と略同じ高さとした平滑性の高いものを用いることもできる。
【0069】
マスタ情報記録体200は公知の方法によって製造できるが、例えば次の製造方法を掲げることができる。先ず、シリコンウェハの表面に電子線レジストをスピンコート法により塗布する。塗布後、このレジストに対し、電子線露光装置を用いて、サーボ・パターンに対応させて変調した電子ビームを照射し、レジストを露光する。その後、レジストを現像し、未露光部分を除去して、シリコンウェハ上にレジストのパターンを形成する。
【0070】
次いで、このレジストパターンをマスクとして用い、シリコンウェハに対して反応性エッチング処理を行い、レジストでマスクされていない箇所を掘り下げる。このエッチング処理後、シリコンウェハ上に残存するレジストを溶剤で洗浄除去する。その後、シリコンウェハを乾燥させてマスタ情報記録体200を作製するための原盤を得る。
【0071】
この原盤上に、Niからなる導電層をスパッタリング法により10nm程度形成する。その後、この導電層を形成した原盤を母型として用い、電鋳法により、この原盤上に数μm厚のNi層を形成する。その後、Ni層を原盤から外し、このNi層を洗浄等して、表面に凸部を配設した基体201を得る。
【0072】
次いで、この基体201の表面にマスタ磁性層202を形成する。このマスタ磁性層202については磁気記録媒体1に用いられる磁性層(第1磁性層151等)と同じものが使用できる。またマスタ磁性層202の上には磁気記録媒体1と同様にマスタ保護層203を形成する。このマスタ保護層203は、マスタ情報記録体200の耐摩耗性すなわちマスタ情報記録体200の転写耐久性を高めるものであり、数nm程度の厚さの硬質炭素膜等を用いることができる。以上の製造工程によってマスタ情報記録体200を得ることができる。
なお、このようにして得られたマスタ情報記録体200は、例えば10万枚以上の磁気記録媒体の製造(磁気転写)に繰り返し使用される。
【0073】
図9は、本実施の形態の磁気記録媒体1の製造方法における成膜・磁気転写工程の一例を示すフローチャートである。以下では、図5に示すインライン成膜・磁気転写装置10、図7に示す磁気転写装置70、図8に示すマスタ情報記録体200、および図9を参照しながら説明を行う。なお、この説明では、初期の状態において、各処理室にそれぞれ1つずつキャリア20が配置されているものとする。また、以下では、詳細な説明を省略するが、各キャリア20は同期して移動および停止を行うものとし、各キャリア20が図中時計回りに移動している間は、すべてのゲートバルブ15が開放された状態になり、各キャリア20が停止している間は、すべてのゲートバルブ15が閉鎖された状態になるものとする。
【0074】
まず、取り付け室1000内に配置されたキャリア20に対し、2枚の基板100が取り付けられる。2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、取り付け室1000内から第1成膜室1001へと移動する。そして、第1成膜室1001において、2枚の基板100の両面に、スパッタ法による密着層110の積層を行う(ステップ201)。密着層110が積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第1成膜室1001から第1方向転換室11へと移動し、時計回り方向に90°回転して向きを変える。
【0075】
密着層110が積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第1方向転換室11から第2成膜室1002へと移動する。そして、第2成膜室1002において、密着層110が積層された2枚の基板100の両面に、スパッタ法による第1軟磁性層121の積層を行う(ステップ202a)。第1軟磁性層121までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第2成膜室1002から第3成膜室1003へと移動する。そして、第3成膜室1003において、第1軟磁性層121までが積層された2枚の基板100の両面に、スパッタ法によるスペーサ層122の積層を行う(ステップ202b)。スペーサ層122までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第3成膜室1003から第4成膜室1004へと移動する。そして、第4成膜室1004において、スペーサ層122までが積層された2枚の基板100の両面に、スパッタ法による第2軟磁性層123の積層を行う(ステップ202c)。これらステップ202aからステップ202cまでが、軟磁性下地層120を積層する軟磁性下地層積層工程(ステップ202)となる。
【0076】
第2軟磁性層123までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第4成膜室1004から第5成膜室1005へと移動する。そして、第5成膜室1005において、第2軟磁性層123までが積層された2枚の基板100の両面に、スパッタ法による配向制御層130の積層を行う(ステップ203)。配向制御層130までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第5成膜室1005から第2方向転換室12へと移動し、時計回り方向に90°回転して向きを変える。
【0077】
配向制御層130までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第2方向転換室12から第6成膜室1006へと移動する。そして、第6成膜室1006において、配向制御層130までが積層された2枚の基板100の両面に、スパッタ法による非磁性下地層140の積層を行う(ステップ204)。なお、基板100に密着層110、軟磁性下地層120、配向制御層130、および非磁性下地層140を積層したものが、本発明における被積層体に対応している。
【0078】
非磁性下地層140までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第6成膜室1006から第7成膜室1007へと移動する。そして、第7成膜室1007において、非磁性下地層140までが積層された2枚の基板100の両面に、スパッタ法による第1磁性層151の積層を行う(ステップ205a)。第1磁性層151までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第7成膜室1007から第8成膜室1008へと移動する。そして、第8成膜室1008において、第1磁性層151までが積層された基板100の両面に、スパッタ法による第1非磁性層152の積層を行う(ステップ205b)。第1非磁性層152までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第8成膜室1008から第9成膜室1009へと移動する。そして、第9成膜室1009において、第1非磁性層152までが積層された2枚の基板100の両面に、スパッタ法による第2磁性層153の積層を行う(ステップ205c)。第2磁性層153までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第9成膜室1009から第3方向転換室13へと移動し、時計回り方向に90°回転して向きを変える。
【0079】
第2磁性層153までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第3方向転換室13から第10成膜室1010へと移動する。そして、第10成膜室1010において、第2磁性層153までが積層された2枚の基板100の両面に、スパッタ法による第2非磁性層154の積層を行う(ステップ205d)。第2非磁性層154までが積層された2枚の基板100を保持したキャリア20は、次に、第10成膜室1010から第11成膜室1011へと移動する。そして、第11成膜室1011において、第2非磁性層154までが積層された2枚の基板100の両面に、スパッタ法による第3磁性層155の積層を行う(ステップ205e)。これらステップ205aからステップ205eまでが、垂直記録層150を積層する垂直記録層積層工程(ステップ205)となる。なお、このステップ205が、『磁性層を積層する工程』に対応している。また、以上の手順により、基板100の両面に、それぞれ、密着層110、軟磁性下地層120、配向制御層130、非磁性下地層140および垂直記録層150が積層された積層体190が得られる。
【0080】
垂直記録層150までが積層された2枚の積層体190を保持したキャリア20は、次に、第11成膜室1011から初期磁化室1012へと移動する。そして、初期磁化室1012において、2枚の積層体190の初期磁化を行う(ステップ206)。なお、このステップ206が、『第1の向きの直流磁界を印加する工程』に対応している。この例では、垂直記録方式で用いられる磁気記録媒体1を製造対象としているため、初期磁化工程は、積層体190の表面に垂直方向に一方向(第1の向きに対応)の初期直流磁界を印加することによって行われる。その際に印加する初期直流磁界は永久磁石、電磁石によって発生させることが可能であり、より安定で磁力の強いNdFeB系の焼結磁石を用いて発生させるのが好ましい。また、初期磁化工程は磁気記録媒体1と磁石とを非接触状態で行うことが、磁気記録媒体1の表面の清浄性を維持する上で好ましい。
【0081】
初期磁化が施された2枚の積層体190を保持したキャリア20は、次に、初期磁化室1012から磁気転写室1013へと移動する。そして、磁気転写室1013において、初期磁化が施された2枚の積層体190に対するサーボ・パターンの磁気転写を行う(ステップ207)。なお、このステップ207が、『第2の向きの直流磁界を印加する工程』に対応している。
【0082】
磁気転写工程についてより具体的に説明すると、磁気転写室1013では、まず、第1記録体ホルダ30に取り付けられたマスタ情報記録体200と第2記録体ホルダ40に取り付けられたマスタ情報記録体200との間に、第1ホルダ22に保持された積層体190を対向させた状態でキャリア20が停止する。次に、第1記録体ホルダ30および第2記録体ホルダ40が、第1ホルダ22に保持された積層体190に近づく側に移動し、第1記録体ホルダ30に取り付けられたマスタ情報記録体200と第2記録体ホルダ40に取り付けられたマスタ情報記録体200とによって、第1ホルダ22に保持された積層体190を挟み込んだ状態で停止する。
【0083】
次に、第1磁石部材50および第2磁石部材60では、第1磁石保持部52および第2磁石保持部62が、第1磁石支持部53および第2磁石支持部63を軸とし、2枚のマスタ情報記録体200と積層体190とを挟んで、第1磁石51および第2磁石61を対向させた状態を維持しながら1回転する。
第1磁石51および第2磁石61が1回転する間、2枚のマスタ情報記録体200に挟まれた積層体190には、第1磁石51および第2磁石61により、初期磁化工程とは逆向き(第2の向きに対応)の転写直流磁界が周方向に順次印加される。すると、積層体190のうち、第1記録体ホルダ30側のマスタ情報記録体200と接する側では、このマスタ情報記録体200の凹部205と対向する部位における磁性層の磁化の向きは初期磁化工程後の状態を維持するものの、凸部204と接する部位における磁性層の磁化の向きは反転した状態となる。また、この積層体190のうち、第2記録体ホルダ40側のマスタ情報記録体200と接する側でも、このマスタ情報記録体200の凹部205と対向する部位における磁性層の磁化の向きは初期磁化工程後の状態を維持するものの、凸部204と接する部位における磁性層の磁化の向きは反転した状態となる。このようにして、積層体190の両面には、それぞれ、マスタ情報記録体200に設けられた凹凸の配列からなるサーボ・パターンが、磁化の向きの配列からなるサーボ・パターンとして転写される。
【0084】
その後、第1記録体ホルダ30および第2記録体ホルダ40が、第1ホルダ22に保持された磁気転写済の積層体190から離れる方向に移動する。それから、磁気転写室1013におけるキャリア20の位置がずらされ、2枚のマスタ情報記録体200の間に、第2ホルダ23に保持された積層体190を対向させた状態に移行する。そして、上述した手順に沿って、第2ホルダ23に保持された積層体190に対するサーボ・パターンの磁気転写が行われる。なお、磁気転写工程においては、マスタ情報記録体200と積層体190との吸着を防ぐため、磁気転写室1013の内部を、大気圧よりも減圧しておくことが好ましい。
【0085】
サーボ・パターンが記録された2枚の積層体190を保持したキャリア20は、次に、磁気転写室1013から第4方向転換室14へと移動し、時計回りに90°回転して向きを変える。
【0086】
サーボ・パターンが記録された2枚の積層体190を保持したキャリア20は、次に、第4方向転換室14から第12成膜室1014へと移動する。そして、第12成膜室1014において、サーボ・パターンが記録された2枚の積層体190の両面に、CVD法等による保護層160の積層を行う(ステップ208)。なお、このステップ208が、『保護層を積層する工程』に対応している。ここで、保護層160として上述したDLCを使用する場合にあっては、炭化水素ガスからDLCを得るプラズマCVD法を用いることが、得られる保護層160の平滑さおよび硬度を確保するという観点から好ましい。また、プラズマCVD法で保護層160を積層する場合にあっては、直流電源、高周波電源およびパルス電源のいずれを用いてもかまわない。以上の手順により、積層基板180が得られる。また、本実施の形態では、積層基板180の製造が完了した時点で、既にサーボ・パターンも記録済みとなっている。
【0087】
サーボ・パターンが記録された2枚の積層基板180を保持したキャリア20は、次に、第12成膜室1014から取り外し室1015へと移動する。そして、取り外し室1015において、キャリア20から2枚の積層基板180が取り外される。
【0088】
なお、上述した各工程は、各処理室において並列に行われる。例えば、取り付け室1000において取り付け室1000内に配置されたキャリア20に2枚の基板100の取り付けを行っているとき、取り付け室1000よりもキャリア20の移動方向下流側に隣接する第1成膜室1001では、他のキャリア20に取り付けられた2枚の基板100に対する密着層110の成膜を行っている。また、他の処理室においても、他の成膜、キャリア20の回転、初期磁化、磁気転写、および積層基板180の取り外しを行っている。
【0089】
本実施の形態では、上述したように、垂直記録層150の上に形成される保護層160を、CVD法で成膜している。このため、第12成膜室1014では、室内に供給される原料ガスの反応に伴って積層体190に保護層160が積層されていくのであるが、その際、反応生成物の一部は第12成膜室1014の内壁等に付着、堆積する。また、このようにして第12成膜室1014の内壁等に付着したカーボンダスト等の反応生成物は、内壁等への付着力が弱く、内壁等から剥がれて第12成膜室1014内に落下しあるいは浮遊する。その結果、このような反応生成物のダストが、積層体190に積層された保護層160に付着してしまうことがある。
【0090】
従来の手法においては、保護層160および潤滑層170までを積層して得られた磁気記録媒体1に対して初期磁化および磁気転写を行っていた。このため、ワイピング工程やバーニッシュ工程で除去しきれなかった反応生成物のダストが付着した状態の磁気記録媒体1に磁気転写を行った場合に、マスタ情報記録体200の接触面がダストによって傷つけられてしまい、結果として、マスタ情報記録体200の寿命(転写に使用しうる回数)が短くなってしまうことがある。特に本実施の形態では、マスタ情報記録体200に凹凸によるサーボ・パターンを形成しているため、接触時に凹凸が欠けたり変形してしまったりした場合には、以降の磁気転写において転写不良が生じてしまうことになる。
【0091】
これに対し、本実施の形態では、垂直記録層150をスパッタ法によって形成した後であって、垂直記録層150の上に保護層160をCVD法等によって形成する前に、垂直記録層150に対する初期磁化およびサーボ・パターンの磁気転写を行うようにした。スパッタ法による成膜では、上述したCVD法とは異なり、例えばターゲットの未使用部分を覆うことにより処理室の内壁に反応生成物が付着するという事態は生じにくく、また処理室の内壁に付着したスパッタ膜は剥離が生じにくいことから、その結果、反応生成物の塊が積層体190の表面に付着するという事態も生じにくい。したがって、本実施の形態で説明した手順を採用することで、磁気転写工程におけるマスタ情報記録体200の機械的な破損および低寿命化を抑制することができる。また、ワイピング工程およびバーニッシュ工程を、従来よりも簡略化することが可能になる。
【0092】
また、本実施の形態では、所謂インライン成膜装置における処理室の1つとして初期磁化室1012および磁気転写室1013をそれぞれ設け、第11成膜室1011から送られてくる積層体190を、外気に晒さないまま初期磁化および磁気転写できるようにした。これにより、磁気転写前の積層体190に何らかの異物が付着するという事態の発生を回避しやすくなる。
【0093】
さらに、本実施の形態では、磁気転写室1013と保護層160の積層に用いられる第12成膜室1014とを、第4方向転換室14を介して接続するようにした。本実施の形態のインライン成膜・磁気転写装置10では、キャリア20を移動させる際に各ゲートバルブ15(15a〜15t)を一時的に開放状態にするため、第12成膜室1014で発生した反応生成物のダストが、キャリア20の移動方向上流側に流れてくるおそれがある。このため、第12成膜室1014と磁気転写室1013との間に第4方向転換室14を配置することにより、第12成膜室1014で発生した反応生成物のダストが磁気転写室1013に流れ込むという事態を発生しにくくしている。
【0094】
なお、本実施の形態では、初期磁化室1012と磁気転写室1013とを別々に設けていたが、共通の処理室(磁気処理室)としてもよい。この場合には、共通の処理室内において、キャリア20に取り付けられた2枚の積層体190に対し、初期磁化および磁気転写を順番に行うようにすればよい。
【0095】
また、本実施の形態では、ステップ208における保護層160の積層を、CVD法(より具体的にはプラズマCVD法)にて行うようにしていたが、これに限られるものではなく、例えばイオンビーム法(イオンビーム蒸着法と呼ばれることもある)にて行うようにしてもよい。
保護層160をイオンビーム法によって積層する場合にあっては、図5に示す第12成膜室1014内に、例えばフィラメント状のカソード電極とカソード電極の周囲に配置されたアノード電極、積層体190側に設けたイオン加速電極を設ける。そして、実際の製造においては、保護層160の積層対象となる2枚の積層体190を第12成膜室1014内に搬入した後に、室内を減圧してから炭素および水素を含む原料の気体を導入し、カソード電極を高温に通電加熱し、またアノード電極とカソード電極との間で放電を生じさせる。これに伴い、原料の気体はイオン化されることになる。そして、イオン化した原料の気体を各積層体190の表面(より具体的には垂直記録層150における第3磁性層155の表面)に加速照射する。またこの際に、図示しない磁場発生装置により外部から磁場を印加することによってイオンを収束させ、各積層体190の表面に照射されるイオンの密度を高めることで、各積層体190の表面に、高密度で緻密な炭素膜すなわち保護層160を形成することが可能となる。このような手法を用いた場合、保護層160の表層部(露出面側)の硬度が高めることが可能になることから、製造によって得られた磁気記録媒体1の表面を傷つけられにくくすることができる。
【符号の説明】
【0096】
1…磁気記録媒体、10…インライン成膜・磁気転写装置、100…基板、110…密着層、120…軟磁性下地層、130…配向制御層、140…非磁性下地層、150…垂直記録層、160…保護層、170…潤滑層、180…積層基板、190…積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被積層体上に、スパッタ法を用いて磁性層を積層する工程と、
前記被積層体に前記磁性層が積層された積層体に、第1の向きの直流磁界を印加する工程と、
前記第1の向きの直流磁界を印加した後の前記積層体に、パターンが形成されたパターン形成体を接触させた状態で、当該第1の向きとは逆の第2の向きの直流磁界を印加する工程と、
前記第2の向きの直流磁界を印加した後の前記積層体の前記磁性層に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法またはイオンビーム法を用いて当該磁性層を保護するための保護層を積層する工程と
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記磁性層は、垂直磁気記録方式にて情報の記録が行われるものからなり、
前記第1の向きの直流磁界を印加する工程では、前記磁性層の面に垂直な方向に当該第1の向きの直流磁界の印加を行い、
前記第2の向きの直流磁界を印加する工程では、前記磁性層の面に垂直な方向に当該第2の向きの直流磁界の印加を行うこと
を特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記保護層を積層する工程では、当該保護層としてダイヤモンド・ライク・カーボンを積層することを特徴とする請求項1または2記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
被積層体上に、スパッタ法を用いて磁性層を成膜する磁性層成膜室と、
前記磁性層成膜室に開閉機構を介して接続され、前記被積層体に前記磁性層が積層された積層体に、第1の向きの直流磁界を印加して当該磁性層を初期磁化し、当該磁性層を初期磁化した後の当該積層体に、パターンが形成されたパターン形成体を接触させた状態で、当該第1の向きとは逆の第2の向きの直流磁界を印加することによって当該磁性層に当該パターンを磁気的に転写する磁気処理室と、
前記磁気処理室に開閉機構を介して接続され、前記磁性層に前記パターンが磁気転写された前記積層体の当該磁性層に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法またはイオンビーム法を用いて当該磁性層を保護するための保護層を成膜する保護層成膜室と
を含む磁気記録媒体の製造装置。
【請求項5】
前記磁気処理室に開閉機構を介して接続されるとともに前記保護層成膜室に開閉機構を介して接続され、当該磁気処理室から送られてくる前記積層体を一時的に収容した後に当該保護層成膜室に送る一時収容室をさらに含むことを特徴とする請求項4記載の磁気記録媒体の製造装置。
【請求項6】
前記保護層成膜室では、前記保護層としてダイヤモンド・ライク・カーボンを成膜することを特徴とする請求項4または5記載の磁気記録媒体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−243254(P2011−243254A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114646(P2010−114646)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】