説明

磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体

【課題】短波長記録特性に優れた磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】非磁性支持体の一方の主面に磁性粉末と結合剤とを含む磁性塗料を塗布することにより磁性層形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記磁性塗料が、バッチ式混練装置にて第1の固形分濃度にて前記磁性粉末と前記結合剤とを混練し、磁性混練物を得る混練工程と、前記バッチ式混練装置内で、第2の固形分濃度にまで希釈を行い第1希釈物を得る第1希釈工程と、前記第1希釈物を前記バッチ式混練装置の排出部から排出手段により排出する排出工程を経て製造され、前記排出部にはドロップドアが配設され、前記排出手段がモーノポンプであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗型の再生ヘッド(MRヘッド)を用いる磁気記録再生システムに好適な高記録密度特性に優れた塗布型の磁気記録媒体の製造方法およびその製造方法により得られる磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気テープは、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータ用テープなど種々の用途があるが、特にデータバックアップ用テープの分野では、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化にともない、1巻当たり数10〜800GBの記録容量のものが商品化されている。また、今後1TBを超える大容量バックアップテープが提案されており、その高記録密度化は不可欠である。
【0003】
高記録容量化のための手段として、記録再生装置からのアプローチでは,記録信号の短波長化やトラックピッチの狭幅化が用いられるが、これにより磁気テープからの漏れ磁束が小さくなるため、再生ヘッドに微小磁束でも高い出力が得られるMRヘッドを使用することが主流となってきている。
【0004】
媒体からのアプローチでは、磁性粉末の微粒子化とともに、磁気特性の改善がはかられており、従来は、オーディオ用や家庭用のビデオテープに使用されていた強磁性酸化鉄、Co変性強磁性酸化鉄、酸化クロムなどの磁性粉末が主流であったが、現在では、コンピュータ用テープとして、粒子サイズが25〜65nm程度の針状の強磁性鉄系金属粉が提案されている。
【0005】
また、短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、磁性粉末の高保磁力化がはかられ、鉄−コバルトの合金化により、198.9kA/m程度の保磁力が実現されている。
【0006】
また低ノイズ化を実現するための磁性粉末として、粒子形状が板状で、粒子サイズ(粒子径)が10〜40nm程度の微粒子のバリウムフェライト磁性粉末や、結晶磁気異方性を有することで、微粒子化と高保磁力化を両立できる磁性粉末として、形状が球状乃至粒状で、粒子サイズが5〜50nm程度の窒化鉄磁性粉(特許文献1など)が提案されている。
【0007】
一方、媒体製造技術側からのアプローチでは、磁性塗料の製造方法に関して、バッチ式混練装置を使う方法(特許文献2)、連続式混練装置を使う方法(特許文献3など)、磁性層の下に非磁性の下塗り層(以下、単に非磁性層、下塗り層ともいう)を設ける同時重層塗布(特許文献4など)などの技術の改善により、磁性層の充填性、表面平滑性の向上、磁性層の薄層化による短波長記録特性の向上が図られている。
【0008】
【特許文献1】特許第3886968号公報
【特許文献2】特開2000−195043号公報
【特許文献3】特開平2−178364号公報
【特許文献4】特開昭63−187418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、磁性粉末が微粒子になるほど、磁性粉末粒子を一次粒子にまで十分分散することが困難になるので、微粒子で高保磁力の磁性粉末を用いて磁性塗料を作製し、非磁性の下塗り層の上に磁性層を同時重層塗布しても、磁性塗料に含まれる磁性粉末が良好に分散されていない場合には、所望の短波長記録特性を得ることができない。磁性粉末を良好に分散させるために、バッチ式や連続式の混練装置を使うことが提案されている(特許文献2、3)が、この方法では、微粒子の磁性粉末を良好に分散させるのは、不十分であった。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑み、短波長記録特性に優れた磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、MRヘッドを用いる磁気記録再生システムに好適な磁気記録媒体の製造方法について鋭意検討した結果、磁性塗料の製造工程を下記のように構成すれば、上記目的を達成できることを見出し本発明をなすに至った。
【0012】
すなわち、非磁性支持体の一方の主面に磁性粉末と結合剤とを含む磁性塗料を塗布することにより磁性層形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記磁性塗料が、バッチ式混練装置にて第1の固形分濃度にて前記磁性粉末と前記結合剤とを混練し、磁性混練物を得る混練工程と、前記バッチ式混練装置内で、第2の固形分濃度にまで希釈を行い第1希釈物を得る第1希釈工程と、前記第1希釈物を前記バッチ式混練装置の排出部から排出手段により排出する排出工程を経て製造され、前記排出部にはドロップドアが配設され、前記排出手段がモーノポンプであることを特徴とする。
【0013】
前記第1の固形分濃度が、90〜70重量%であり、前記第2の固形分濃度が、69〜50重量%であることを特徴とする。
【0014】
前記磁性塗料が、排出工程後前記第1希釈物を、連続式混練装置にて第3の固形分濃度にまで希釈して第2の希釈物を得る第2希釈工程をさらに経て製造されることを特徴とする。
【0015】
前記第3の固形分濃度が、50〜25重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
磁性塗料が、バッチ式混練装置にて第1の固形分濃度にて前記磁性粉末と前記結合剤とを混練し、磁性混練物を得る混練工程と、前記バッチ式混練装置内で、第2の固形分濃度にまで希釈を行い第1希釈物を得る第1希釈工程と、前記第1希釈物を前記バッチ式混練装置の排出部から排出手段により排出する排出工程を経て製造され、前記排出部にはドロップドアが配設され、前記排出手段がモーノポンプであるので、第2の固形分濃度を比較的高く設定しても、バッチ式混練装置から良好に磁性混練物の希釈物を排出することができ、その希釈物中で、磁性粉末の凝集が起こることがない。
【0017】
第1希釈物を、連続式混練装置にて第3の固形分濃度にまで希釈して第2の希釈物を得る第2希釈工程をさらに経て磁性塗料を製造するために、一層均一でかつ磁性粉の凝集のない希釈が可能となる。また、磁性混練物を効率よく良好に希釈できるので、短波長記録特性に優れた磁気記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
磁性塗料の製造にあたっては、通常、まず、磁性粉末と結合剤、その他の添加物とを混合(混合工程)した後、混練装置内で有機溶媒を添加して、比較的高い第1の固形分濃度にて高剪断力を加えて混練する(混練工程)。この混練工程を行うことにより、結合剤樹脂中に磁性粉末が高充填された、高粘度の磁性混練物が得られる。この混練工程においては、例えば混練槽内に一対のブレードを備えたニーダのようなバッチ式混練装置が用いられる。
【0019】
次に、有機溶媒、樹脂液を添加して、第2の固形分濃度にまで希釈して、比較的低粘度の第1の希釈物を得る(第1希釈工程)。希釈は、混練装置内でさらに有機溶媒や樹脂液を添加することにより行われる。
【0020】
第1の希釈物は、撹拌槽に移送されて、必要に応じて潤滑剤、樹脂液、有機溶媒が配合されて撹拌(第2希釈工程)され、均一な希釈物(第2の希釈物)にされて分散工程に送られる。
【0021】
従来技術では、第1希釈工程で、分散工程に供する固形分濃度まで希釈するか、さらに第2の希釈工程を設けて段階的に希釈して、分散工程に供する固形分濃度まで希釈するかのいずれかの方法により、分散工程に供する希釈物を作製していた。この方法では、混練工程で得た高粘度の磁性混練物をギアポンプなどの排出手段でニーダから取り出せる程度に希釈する必要があり、高速回転のできないブレードで撹拌しながら低い固形分濃度にまで希釈しなければならないために、均一な希釈が困難であった。
【0022】
本発明では、後述するように、第1希釈工程後の第1の希釈物を、混練装置からドロップドアを介してモーノポンプにより排出する(排出工程)ために、第2の固形分濃度を従来よりも高く設定することができるので、ニーダ中で無理な希釈を行う必要がない。
【0023】
排出工程後、第1の希釈物を、希釈手段で第3の固形分濃度にまで希釈して第2の希釈物を得る第2希釈工程を行うと好ましい。この希釈手段は連続式混練装置であると好ましい。
【0024】
第1の希釈物または第2の希釈物は、その後の分散工程で分散槽内に分散メディアを充填し、撹拌翼で強制撹拌して塗料を分散するメディア型分散機で分散される。
【0025】
通常、分散工程では、混練工程で得られる磁性混練物の固形分濃度よりも、低い固形分濃度で分散が行われる。したがって、必然的に分散工程の前に磁性塗料の希釈を行うが、従来技術では混練工程後の塗料の希釈に十分注意が払われていなかったため、均一な希釈が行われず、後に続く分散工程での分散効率が低下したり、良好な分散が行えなかったりした。
【0026】
そこで本願発明者らは、混練工程後、混練槽内で希釈を完了させず、高い固形分濃度の第1希釈物を得た後、混練槽から第1希釈物を排出し、希釈に適した攪拌手段を持つ希釈手段へ送液して、第1希釈物を更に希釈して希釈工程を完了させることで均一な希釈が可能であることを見出した。またその時、混練槽から希釈手段への第1希釈物の排出・送液をモーノポンプを用いることで、混練槽で低い固形分濃度にまで希釈しなくても、排出・送液が可能になり、効率よく希釈を行うことができることも見出した。
【0027】
本発明は、上述の、磁性混練物に有機溶媒や樹脂液を添加して比較的低粘度の希釈塗料を得る希釈工程を効率よく良好に行い、次工程の分散工程で良好な分散状態の磁性塗料を得る方法に関するものである。
【0028】
図1に、本発明の磁気記録媒体の製造方法の混練工程、希釈工程に用いる一例の製造ラインの概略図を示す。本製造ラインは、バッチ式混練装置であるバッチ式ニーダ1と連続式混練装置である2軸押し出し機2とが、直列に配管で連結されている。バッチ式ニーダ1には、原材料配合用タンク3、取り出し口であるドロップドア6が備えられている。バッチ式ニーダ1と連続式混練装置である2軸押し出し機2とを連結する配管には排出手段であるモーノポンプ5が配設されている。2軸押し出し機2は、必須の構成ではなく、撹拌手段を備えたタンクのような他の希釈手段であっても良い。2軸押し出し機2には、複数個の希釈用タンク4が備えられている。モーノポンプ5と2軸押し出し機2とを連結する配管に三方バルブ7を配設して、第1の希釈物を2軸押し出し機以外の希釈手段に送液できるようにしてもよい。
【0029】
バッチ式混練装置としては、特に制限はなく従来公知のものが使用でき、(株)モリヤマや(株)井上製作所等製の市販のバッチ式ニーダを用いることができる。また、磁性混練物を上部から押さえつけながら、高剪断力で混練できる加圧式ニーダを用いるとより好ましい。
【0030】
バッチ式ニーダ1の底部の取り出し口として、ドロップドア6が備えられていることが好ましい。ドロップドア6は、バッチ式ニーダ1の底部の一部を形成し、片側が回動自在に固定された回転軸になっており取り出し時には、片開きで開口できるようになっている。バッチ式ニーダ1の底部のかなりの広い面積を占めており、第1の希釈物を取り出す際には、広い開口部が得られるようになっている。取り出し口を広い開口部とすることにより、第2の固形分濃度を高くしても第1の希釈物の取り出しが可能になる。
【0031】
送液ポンプ5は、モーノポンプを用いることが好ましい。モーノポンプを用いることにより、第2の固形分濃度を高くしても送液することが可能になる。モーノポンプとは、高粘度物、粉体、粒状物などを定量的に輸送できるポンプで、外側ステータとヘリカルロータとからなるプログレッシブキャビティ(空間前進型)ポンプである。
【0032】
バッチ式ニーダは、一般に、ブレードの回転数はさほど大きくないので、均一な希釈は比較的困難である。第2の固形分濃度を高くすることにより、バッチ式ニーダ1内で無理に低い固形分濃度にまで希釈する必要がなくなるので、希釈にともなう凝集を防ぐことができる。
【0033】
連続式混練装置としては、特に制限はなく従来公知のものが使用でき、(株)日本製鋼所や(株)栗本鐵工所等製の市販の2軸押し出し機を用いることができる。
【0034】
次に製造手順について説明する。原材料配合用タンク3より、磁性粉末、結合剤、その他の添加物、有機溶媒をバッチ式ニーダ1に配合する。その後、ブレード11を回転させて配合物を均一に混合する。所定時間混合後、原材料配合用タンク3より、所定量の有機溶媒を配合し、配合物を第1の固形分濃度に設定する。これにより、配合物は、それまでの粉体状から高粘度の練り物状に変化し、高い剪断力が加えられる。第1の固形分濃度の好ましい範囲は、使用する磁性粉や結合剤の種類、組成により異なるが、90〜70重量%が好ましい。この範囲が好ましいのは、70重量%未満では粘度が小さくなって十分な剪断力が加えられず、90重量%を超えると混練物が練り物状にまとまらず、やはり十分な剪断力が加えられないからである。
【0035】
所定時間混練後、ブレード11を回転させながら原材料配合用タンク3から有機溶媒を複数回添加することにより、バッチ式ニーダ1内で第2の固形分濃度にまで希釈(第1希釈工程)を行う。有機溶媒の添加回数は5〜20回が好ましい。添加回数は多いほうが、磁性混練物がより均一に希釈できるので好ましいが、あまり添加回数が多いと作業が煩雑になったり、作業時間が長くなるので、上記の範囲が好ましい。バッチ式ニーダ1内での希釈は、ドロップドア6から磁性混練物を希釈した第1希釈物が取り出せて、モーノポンプ5で送液できる程度に行えばよく、その固形分濃度は、69〜50重量%の範囲が好ましい。ただし必要以上に固形分濃度を低くすると、希釈物がソルベントショックにより再凝集したり、希釈に時間がかかるので、なるべく、上記の条件を満たす範囲で高い固形分濃度が好ましい。
【0036】
次に、ドロップドア6を開き、送液ポンプ5を駆動してバッチ式ニーダ1内で希釈を行った第1の希釈物を2軸押し出し機2に送液する。第1の希釈物は、2軸押し出し機2のバレル(不図示)と回転するスクリュー(不図示)との間を通過する際に剪断力を受けながら希釈用タンク4から配合される有機溶媒により、第3の固形分濃度にまで、さらに希釈(第2希釈工程)して第2の希釈物を得ることができる。図では、2軸押し出し機を1基しか用いていないが、2基以上用いて第3の固形分濃度にまで希釈してもよい。第3の固形分濃度は、50〜25重量%であることが好ましい。
【0037】
このように、バッチ式ニーダ1で希釈した後、2軸押し出し機2を通過させることで、より均一に希釈された塗料が得られる。これは、バッチ式ニーダ1のブレードの回転数(3〜60rpm)に対して、2軸押し出し機2のスクリューの回転数(50〜2000rpm)が遥かに大きくできるために、希釈後の低粘度の塗料に対しても高剪断力を与えて均一に希釈を行うことができるからである。
第1希釈工程を行った後の第1希釈物を、三方バルブ7を操作して、2軸押し出し機2に送らず、他の希釈手段に送ってもよい。他の希釈手段としては、撹拌手段を備えたタンクなどを用いてもよい。
【0038】
このようにして得られた希釈塗料は、必要に応じて、タンク中で撹拌機により撹拌しながら、さらに希釈を行ってもよい。希釈塗料は、メディア型分散機による分散工程など、従来公知の技術、手法により磁性粉末の微分散が行われ、磁性塗料が製造される。本発明者らの検討によると、前述の希釈工程で十分均一な希釈が行われない場合には、後の分散工程でも分散効率が低下したり、所望の分散レベルが得られない。したがって、本発明の、混練、希釈方法により得られた磁性塗料を用いて製造された磁気記録媒体は、短波長記録特性に優れたものが得られる。
【0039】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法により得られる磁気記録場体の構成要素についてさらに詳述する。
【0040】
〈非磁性層〉
非磁性層の厚さは、0.2μm以上1.0μm未満が好ましく、0.9μm以下がより好ましい。この範囲が好ましいのは、0.2μm未満では、磁性層の厚さむらの低減効果、耐久性の向上効果が小さくなり、また1.0μm以上になると、磁気テープの全厚が厚くなりすぎ、テープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0041】
非磁性層に使用する非磁性粉末には、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウムなどがあるが、酸化鉄単独または酸化鉄と酸化アルミニウムの混合系が好ましく使用される。非磁性粉末の粒子形状は、球状、板状、針状、紡錘状のいずれでもよいが、針状、紡錘状の場合は、通常、長軸長50〜200nm、短軸長5〜100nmのものが好ましい。また、粒状の場合は粒径5〜200nm、より好ましくは5〜100nmのものが使用される。
【0042】
さらに、導電性改良の目的で、粒子径0.01〜0.1μmのカーボンブラックを添加することが好ましい。非磁性層を平滑にかつ厚みムラを少なく塗布するには、上記の非磁性粉末およびカーボンブラックは粒度分布がシャープなものを用いるのがとくに好ましい。カーボンブラックの代わりに、平均粒子径10〜100nmの板状ITO(インジウム、スズ複合酸化物)粉末を用いてもよい。
【0043】
磁気記録媒体の温度・湿度膨張係数、弾性率、磁性層の平滑性の制御のために、平均粒子径10〜100nmの非磁性板状粉末を添加しても良い。非磁性板状粉末としては、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄なとの元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。
【0044】
なお、非磁性層に使用する結合剤(バインダ樹脂)としては、後記の磁性層と同様のものを用いることができる。
【0045】
〈磁性粉末〉
磁性層中に含ませる磁性粉末の平均粒子径としては、10〜40nmの範囲にあるのが好ましく、15〜30nmの範囲がより好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm未満では、粒子の表面エネルギーが大きくなって分散が困難になり、平均粒子径が40nmを越えるとノイズが大きくなるためである。磁性粉末としては、強磁性鉄系金属磁性粉末や窒化鉄磁性粉末、板状の六方晶Ba−フエライト磁性粉末等が好ましい。
【0046】
強磁性鉄系金属磁性粉末には、Mn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属を合金として含ませてもよい。その中でも、Co、Niが好ましく、とくにCoは飽和磁化を最も向上できるので、好ましい。上記の遷移金属元素の量としては、鉄に対して、5〜50原子%とするのが好ましく、10〜30原子%とするのがより好ましい。また、イツトリウム、セリウム、イツテルビウム、セシウム、プラセオジウム、サマリウム、ランタン、ユ―ロピウム、ネオジム、テルビウムなどから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を含ませても良い。その中でも、セリウム、ネオジムとサマリウム、テルビウム、イツトリウムを用いたときに、高い保磁力が得られ好ましい。希土類元素の量は鉄に対して0.2〜20原子%、好ましくは0.3〜15原子%、より好ましくは0.5〜10原子%である。
【0047】
窒化鉄磁性粉末は,公知のものを用いることができ,形状は針状の他に球状や立方体形状などの不定形のものを用いることができる。粒子径や比表面積については磁気記録用の磁性粉末としての要求特性をクリアするためには,限定した磁性粉末の製造条件とすることが必要である。
【0048】
強磁性鉄系金属磁性粉末および窒化鉄磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mが好ましく、200〜300kA/mがより好ましい。飽和磁化量は、60〜200A・m/kg(60〜200emu/g)が好ましく、80〜180A・m/kg(80〜180emu/g)がより好ましい。
【0049】
強磁性鉄系金属磁性粉末および窒化鉄磁性粉末の平均粒子径としては、10〜40nmが好ましく、13〜20nmがより好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm未満となると、保磁力が低下したり、粒子の表面エネルギーが増大するため塗料中での分散が困難になったり、平均粒子径が40nmより大きいと、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなるためである。また、この強磁性粉末のBET比表面積は、35m/g以上が好ましく、40m/g以上がより好ましく、50m/g以上が最も好ましい。通常100m/g以下である。
【0050】
また、前記強磁性鉄系金属磁性粉、窒化鉄磁性粉末をAl,Si,P,Y,Zrまたは、これらの酸化物で表面処理して使用してもかまわない。
【0051】
六方晶Ba−フエライト磁性粉末の保磁力は、120〜320kA/mが好ましく、飽和磁化量は、40〜60A・m/kg(40〜60emu/g)が好ましい。また,粒径(板面方向の大きさ)は10〜30nmが好ましく、10〜25nmがより好ましく、10〜20nmがさらに好ましい。粒径が10nm未満となると、粒子の表面エネルギーが増大するため塗料中への分散が困難になり、30nmを越えると、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなる。また、板状比(板径/板厚)は3未満が好ましく、2以下がより好ましい。また、六方晶Ba−フエライト磁性粉末のBET比表面積は、1〜100m2/gが好ましく用いられる。
【0052】
なお、これらの強磁性粉末の磁気特性は、いずれも試料振動形磁束計で外部磁場1273.3kA/m(16kOe)での測定値をいうものである。
【0053】
また、上記の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した磁性層断面の写真から各粒子の最大径(針状粉では長軸径、板状粉では板径)を実測し、100個の平均値により求めたものである。
【0054】
〈非磁性支持体〉
磁性支持体の厚さは、用途によって異なるが、通常、2〜5μmのものが使用される。より好ましくは2.5〜4.5μmである。この範囲の厚さの非磁性支持体が使用されるのは、2μm未満では製膜が難しく、またテープ強度が小さくなり、5μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、テープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0055】
非磁性支持体の長手方向のヤング率は9.8GPa(1000kg/mm)以上が好ましく、10.8GPa(1100kg/mm)以上がより好ましい。非磁性支持体の長手方向のヤング率が9.8GPa(1000kg/mm)以上がよいのは、長手方向のヤング率9.8GPa(1000kg/mm)未満では、テープ走行が不安定になるためである。また、ヘリキャルスキャンタイプでは、長手方向のヤング率(MD)/幅方向のヤング率(TD)は、0.60〜0.80の特異的範囲が好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、0.65〜0.75の範囲がより好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、0.60〜0.80の特異的範囲がよいのは、0.60未満または0.80を越えると、メカニズムは現在のところ不明であるが、磁気ヘッドのトラックの入り側から出側間の出力のばらつき(フラットネス)が大きくなるためである。このばらつきは長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が0.70付近で最小になる。さらに、リニアレコーディングタイプでは、長手方向のヤング率/幅方向のヤング率は、理由は明らかではないが、0.70〜1.30のが好ましい。このような特性を満足する非磁性支持体には二軸延伸の芳香族ポリアミドベースフィルム、芳香族ポリイミドフィルム等がある。
【0056】
〈潤滑剤〉
非磁性層には磁性層と非磁性層に含まれる全粉体に対して0.5〜5.0重量%の高級脂肪酸を含有させ、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸のエステルを含有させると、ヘッドとの摩擦係数が小さくなるので好ましい。この範囲の高級脂肪酸添加が好ましいのは、0.5重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、5.0重量%を越えると非磁性層が可塑化してしまい強靭性が失われるおそれがあるからである。また、この範囲の高級脂肪酸のエステル添加が好ましいのは、0.2重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、3.0重量%を越えると磁性層への移入量が多すぎるため、テープとヘッドが貼り付く等の副作用を生じるおそれがあるためである。脂肪酸としては、炭素数10以上の脂肪酸を用いるのが好ましい。炭素数10以上の脂肪酸としては、直鎖、分岐、シス・トランスなどの異性体のいずれでもよいが、潤滑性能にすぐれる直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。これらの中でも、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが好ましい。磁性層における脂肪酸の添加量としては、非磁性層と磁性層の間で脂肪酸が転移するので、特に限定されるものではなく、磁性層と非磁性層を合わせた脂肪酸の添加量を上記の量とすればよい。非磁性層に脂肪酸を添加すれば、必ずしも磁性層に脂肪酸を添加しなくてもよい。
【0057】
磁性層には磁性粉末に対して0.5〜3.0重量%の脂肪酸アミドを含有させ、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸のエステルを含有させると、テープ走行時の摩擦係数が小さくなるので好ましい。この範囲の脂肪酸アミドが好ましいのは、0.5重量%未満ではヘッド/磁性層界面での直接接触が起りやすく焼付き防止効果が小さく、3.0重量%を越えるとブリードアウトしてしまいドロップアウトなどの欠陥が発生するおそれがあるからである。脂肪酸アミドとしてはパルミチン酸、ステアリン酸等の炭素数が10以上の脂肪酸アミドが使用可能である。また、上記範囲の高級脂肪酸のエステル添加が好ましいのは、0.2重量%未満では摩擦係数低減効果が小さく、3.0重量%を越えるとヘッドに貼り付く等の副作用を生じるおそれがあるためである。なお、磁性層の潤滑剤と非磁性層の潤滑剤の相互移動を排除するものではない。
【0058】
〈分散剤〉
非磁性層や磁性層に含まれる非磁性粉末やカーボンブラック、磁性粉末は、分散剤としては、リン酸系分散剤、カルボン酸系分散剤、アミン系分散剤、キレ―ト剤、各種シランカップリング剤などが好適なものとして用いられる。これらの分散剤は、混練前処理工程、混練工程や初期分散工程の後に配合するのが好ましい。リン酸系分散剤としては、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチルなどのアルキルリン酸エステル類、フエニルホスホン酸、モノオクチルフエニルホスホン酸などの芳香族リン酸類などが挙げられ、市販品として、東邦化学製の「GARFAC RS410」、城北化学工業製の「JP−502」、「JP−504」、「JP−508」などを用いることができる。また、カルボン酸系分散剤としては、安息香酸、フタル酸、テトラカルボキシルナフタレン、ジカルボキシルナフタレン、炭素数12〜22の脂肪酸などが挙げられる。
【0059】
アミン系分散剤としては炭素数8〜22の脂肪族アミン、芳香族アミン、アルカノールアミン、アルコキシアルキルアミン等がある。さらに、キレ―ト剤としては、1,10−フエナントロリン、EDTA、ジメチルグリオキシム、アセチルアセトン、グリシン、ジチアゾン、ニトリロ三酢酸などが挙げられる。これら分散剤の使用量としては、磁性粉末100重量部あたり、0.5〜5重量部となる割合とするのが好ましい。
【0060】
分散剤は、いずれの層においても結合剤100重量部に対して通常、0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0061】
〈磁性層〉
磁性層の厚さは、0.01μm以上、0.1μm未満が好ましく、0.06μm以下がより好ましく、0.04μm以下がさらに好ましい。この範囲が好ましいのは、0.01μm未満では得られる出力が小さいのと、均一な磁性層を塗布するのが困難であり、0.1μmを超えると短波長記録に対する分解能が低下するためである。
【0062】
磁性層(非磁性層の場合も同様)に用いるバインダ樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂とを組み合わせものが挙げられる。中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体とポリウレタン樹脂を併用するのが好ましい。ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタンなどがある。
【0063】
官能基として、−COOH、−SOM、−OSOM、−P=O(OM)、−O−P=O(OM)[これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩を示す]、−OH、−NR'R''、−N+R'''R''''R'''''[これらの式中、R'、R''、R'''、R''''、R'''''は水素または炭化水素基を示す]、エポキシ基を有する高分子からなるウレタン樹脂等のバインダ樹脂が使用される。このようなバインダ樹脂を使用するのは、上述のように磁性粉末等の分散性が向上するためである。2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも−SOM基どうしの組み合わせが好ましい。
【0064】
これらのバインダ樹脂は、磁性粉末100重量部に対して、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で用いられる。特に、バインダ樹脂として、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部と、ポリウレタン樹脂2〜20重量部とを、複合して用いるのが最も好ましい。
【0065】
これらのバインダ樹脂とともに、バインダ樹脂中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。これらの架橋剤は、バインダ樹脂100重量部に対して、通常1〜30重量部の割合で用いられる。より好ましくは5〜20重量部である。しかし、非磁性層の上にウエット・オン・ウエットで磁性層が塗布される場合には非磁性塗料からある程度のポリイソシアネートが拡散供給されるので、ポリイソシアネートを併用しなくても磁性層はある程度架橋される。
【0066】
また、磁性層には、粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmの非磁性板状粒子を添加してもよい。また、必要に応じて、従来公知の研磨材を添加することができるが、これらの研磨材としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度6以上のものが単独または組み合せで使用される。研磨材の粒径としては、厚みが0.01〜0.09μmと薄い磁性層では、通常粒子径(数平均粒子径)で10nm〜150nmとすることが好ましい。添加量は磁性粉末に対して5〜20重量%が好ましい。より好ましくは8〜18重量%である。
【0067】
さらに、本発明の磁性層には導電性向上のために、既述した製法で作製した板状ITO粒子、板状カーボンブラック、導電性向上と表面潤滑性向上を目的に従来公知のカーボンブラック(CB)を添加することができるが、これらのカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmのものが好ましい。この範囲が好ましいのは、粒子径が10nm以下になるとカーボンブラックの分散が難しく、100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、出力低下の原因になるためである。添加量は磁性粉末に対して0.2〜5重量%が好ましい。より好ましくは0.5〜4重量%である。
【0068】
〈バックコート層〉
本発明の磁気記録媒体を構成する非磁性支持体の他方の面(磁性層が形成されている面とは反対側の面)には、走行性の向上等を目的としてバックコート層を設けることができる。バックコート層の厚さは0.2〜0.8μmが好ましい。この範囲が良いのは、0.2μm未満では、走行性向上効果が不充分で、0.8μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記録容量が小さくなるためである。カーボンブラック(CB)としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。通常、小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックを使用する。小粒径カーボンブラックには、粒子径(数平均粒子径)が5nm〜200nmのものが使用されるが、粒子径10nm〜100nmのものがより好ましい。この範囲がより好ましいのは、粒子径が10nm以下になるとカーボンブラックの分散が難しく、粒子径が100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、磁性層への裏移り(エンボス)原因になるためである。大粒径カーボンブラックとして、小粒径カーボンブラックの5〜15重量%、粒子径300〜400nmの大粒径カーボンブラックを使用すると、表面も粗くならず、走行性向上効果も大きくなる。小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラック合計の添加量は無機粉体重量を基準にして60〜98重量%が好ましく、70〜95重量%がより好ましい。中心線平均表面粗さRaは3〜8nmが好ましく、4〜7nmがより好ましい。バックコート層に磁性があると磁気記録層の磁気信号が乱れる場合があるので、通常、バックコート層は非磁性である。
【0069】
また、バックコート層には、強度、温度・湿度寸法安定性向上等を目的に、先に述べたような粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmの非磁性板状粒子を添加することができる。非磁性板状粒子の成分は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。導電性改良の目的で、既述した製法で作製した板状ITO(インジウム、スズ複合酸化物)粒子や板状カーボンブラックを添加してもよい。バックコート層には、バックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして、板状ITO粒子とカーボンブラックを、その合計量が60〜98重量%となるように添加する。カーボンブラックは粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmのものが好ましい。また、必要に応じて、粒子径が0.1μm〜0.6μmの酸化鉄を添加してもよい。添加量はバックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして2〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。
【0070】
バックコート層には、バインダ樹脂として、前述した磁性層や非磁性層に用いる樹脂と同じものを使用できるが、これらの中でも摩擦係数を低減し走行性を向上させるため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを複合して併用することが好ましい。バインダ樹脂の含有量は、通常、前記カーボンブラックと前記無機非磁性粉末との合計量100重量部に対して40〜150重量部、好ましくは50〜120重量部、より好ましくは60〜110重量部、さらに好ましくは70〜110重量部である。前記範囲が好ましいのは、50重量部未満では、バックコート層の強度が不十分であり、120重量部を越えると摩擦係数が高くなりやすいためである。セルロース系樹脂を30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂を20〜50重量部使用することが好ましい。また、さらにバインダ樹脂を硬化するために、ポリイソシアネート化合物などの架橋剤を用いることが好ましい。
【0071】
バックコート層には、前述した磁性層や非磁性層に用いる架橋剤と同様の架橋剤を使用する。架橋剤の量は、バインダ樹脂100重量部に対して、通常、10〜50重量部の割合で用いられ、好ましくは10〜35重量部、より好ましくは10〜30重量部である。前記範囲が好ましいのは、10重量部未満ではバックコート層の塗膜強度が弱くなりやすく、35重量部を越えるとSUSに対する動摩擦係数が大きくなるためである。
【0072】
〈有機溶剤〉
磁性塗料、非磁性塗料、バックコート塗料に使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で又は混合して使用され、さらにトルエンなどと混合して使用される。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部は、重量部である。また、実施例および比較例中の平均粒子径は、数平均粒子径である。
【0074】
実施例1:
<非磁性塗料成分>
(1)A成分
針状酸化鉄 80部
カーボンブラック 17部
粒状アルミナ粉末 3部
メチルアシッドフォスフェート 1部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 9部
(含有−SONa基:0.7×10−4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5部
(ガラス転移温度:40℃、含有−SONa基:1×10−4当量/g)
テトラヒドロフラン 13部
シクロヘキサノン 63部
メチルエチルケトン 137部
(2)B成分
ステアリン酸ブチル 2部
ステアリン酸 1部
シクロヘキサノン 50部
トルエン 50部
(3)C成分
ポリイソシアネート 6部
シクロヘキサノン 9部
トルエン 9部
【0075】
<磁性塗料成分>
(1)a成分
強磁性鉄系金属磁性粉末 100部
(Al−Y−Fe−Co)〔σs:120Am2/kg(120emu/g)
Hc:176.3kA/m(2215Oe)平均粒子径:45nm、真密度ρ:5.7g/cc〕
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂 17部
ポリエステルポリウレタン樹脂 6部
粒状アルミナ粉末(平均粒子径:0.2μm) 10部
メチルアシッドフォスフェート 4部
メチルエチルケトン 4部
トルエン 4部
テトラヒドロフラン 8部
(2)b成分
メチルエチルケトン 8部
シクロヘキサノン 8部
(3)c成分
メチルエチルケトン 30部
シクロヘキサノン 30部
(4)d成分
パルミチン酸アミド 2部
ステアリン酸アミド 2部
シクロヘキサノン 60部
トルエン 60部
(5)e成分
ポリイソシアネート 6部
メチルエチルケトン 20部
シクロヘキサノン 160部
トルエン 20部
【0076】
上記の非磁性成分においてA成分を回分式ニーダで混練し、B成分を加えて撹拌の後、サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これにC成分を加え撹拌し、非磁性塗料を得た。
【0077】
これとは別に、上記の磁性塗料成分のうち、まず、a成分を、高速攪拌混合機にて、予め高速混合しておき(混合工程)、その混合粉末にb成分を加え、固形分濃度81重量%(第1の固形分濃度)で、図1で示したバッチ式ニーダ1を用いて、ブレード11を低速回転(30rpm)させながら4時間混練した(混練工程)。その後、c成分を5分割して5回に分けて原材料配合用タンク3より3時間かけて加えて、ブレードを高速回転(45rpm)させながら固形分濃度を60重量%(第2の固形分濃度)まで希釈(第1希釈工程)し、第1希釈物を得た。その後、ブレードを高速回転させたまま、ドロップドア6を開けて、希釈物をモーノポンプ5の入り口に落とし込んだ。希釈物はモーノポンプ5により、連続式混練機である2軸押し出し機2に送られ、d成分を3分割して希釈用タンク4より加えてスクリューを高速回転させながら(1300rpm)さらに希釈され、固形分濃度を40重量%(第3の固形分濃度)まで希釈(第2希釈工程)し希釈塗料(第2希釈物)を得た。
【0078】
希釈塗料をナノミル(浅田鉄工社製)にて滞留時間60分で分散を行った(分散工程)。最後に、e成分を加えて攪拌し配合を行い(配合工程)、磁性塗料を得た。
【0079】
上記非磁性塗料を、厚さ5μmのポリエチレンナフタレートフィルムからなる非磁性支持体上に、乾燥、カレンダ後の厚さが0.9μmになるように塗布し、非磁性層上に、上記の磁性塗料をエクストルージョン型コータにてウエット・オン・ウエット(同時重層塗布)で、乾燥、カレンダ後の厚さが0.08μmになるように塗布し、磁場配向(N−N対向磁石(398kA/m)+ソレノイドコイル(398kA/m))処理後、ドライヤおよび遠赤外線を用いて乾燥し、磁気シートを作製した。
【0080】
<バックコート層用塗料成分>
カーボンブラック(平均粒子径25nm) 80部
カーボンブラック(平均粒子径350nm) 10部
粒状酸化鉄(平均粒子径50nm) 10部
ニトロセルロース 45部
ポリウレタン樹脂 30部
シクロヘキサノン 260部
トルエン 260部
メチルエチルケトン 525部
【0081】
上記のバックコート層用塗料成分をサンドミルで分散した後、ポリイソシアネート15部を加えてバック層用塗料を調整し、ろ過後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に、カレンダ後の厚みが0.5μmになるよう塗布し乾燥させた。
【0082】
このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧196kN/mの条件で鏡面化処理(カレンダ処理)し、磁気シートをコアに巻いた状態で60℃48時間エージングして評価用の磁気シートを作製した。
【0083】
実施例2:
b成分とc成分とを以下のように変更し、第1の固形分濃度を72重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の評価用の磁気シートを作製した。
(2)b成分
メチルエチルケトン 18部
シクロヘキサノン 18部
(3)c成分
メチルエチルケトン 20部
シクロヘキサノン 20部
【0084】
実施例3:
c成分とd成分とを以下のように変更し、第2の固形分濃度を52重量%に変更した以外は実施例1と同様にして実施例3の評価用の磁気シートを作製した。
(3)c成分
メチルエチルケトン 47部
シクロヘキサノン 47部
(4)d成分
パルミチン酸アミド 2部
ステアリン酸アミド 2部
シクロヘキサノン 42部
トルエン 42部
【0085】
実施例4:
三方バルブ7を操作し、第1希釈物を2軸押し出し機に送液せず、撹拌装置の付いたタンクに送液し、タンク内でd成分を配合して第3の固形分濃度を40重量%になるように第2希釈工程を行い希釈塗料を得るように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4の評価用の磁気シートを作製した。
【0086】
比較例1:
バッチ式ニーダを、ドロップドア、モーノポンプを有せず、その代わりボールバルブ、ギアポンプを有する、図2に示したような従来型の排出部、排出手段を備えたバッチ式ニーダに変更し、c成分とd成分とを以下のように変更して第2の固形分濃度を48重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1の評価用の磁気シートを作製した。
(3)c成分
メチルエチルケトン 58部
シクロヘキサノン 58部
(4)d成分
パルミチン酸アミド 2部
ステアリン酸アミド 2部
シクロヘキサノン 32部
トルエン 32部
【0087】
比較例2:
b成分とc成分とを以下のように変更し、第1の固形分濃度を68重量%に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2の評価用の磁気シートを作製した。
(2)b成分
メチルエチルケトン 24重量部
シクロヘキサノン 24重量部
(3)c成分
メチルエチルケトン 14重量部
シクロヘキサノン 14重量部
【0088】
評価の方法は、以下のように行った。
【0089】
〈希釈塗料の分散状態〉
希釈塗料をアプリケータを用いて、乾燥厚さが90μmとなるようにPETフイルム上に塗布し、乾燥後、光学顕微鏡にて倍率100倍で塗膜表面を観察し、5mm×5mmの視野中の50μm以上の大きさの凝集物の個数を数えた。凝集物の個数が10個以下を○、11個〜20個を△、21個以上を×として評価した。
【0090】
〈磁性層の表面粗さ〉
ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000を用い、走査型白色光干渉法にて表面粗さを測定し、10点平均粗さRzで評価した。測定の際には、50倍の対物レンズを用い、2倍ズームで測定した。よって、倍率は100倍である。測定視野は72μm×54μmである。
【0091】
〈磁気特性〉
評価用の磁気シートに、外部磁場0.8MA/m(10kOe)をかけた、常法に従って、角型(Br/Bs)を測定した。測定には、東英工業製の試料振動型磁束計VSM−P7を用いた。
【0092】
表1に各評価用磁気シートの評価結果を示した。表から明らかなように、本発明に係る実施例1〜4の磁気シートは、ドロップドア、モーノポンプを備えたバッチ式混練装置で、混練、希釈したものであり、好ましい固形分濃度で混練、希釈されているために、請求項1を満たさない本発明の対象外の比較例1、2の磁気シートに比較して、希釈後の凝集物が少なく、良好に混練、希釈されており、そのため磁気シートの平滑性、磁気特性が良好であることから、短波長記録特性に優れた磁気シートが得られている。















【0093】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造方法に用いる、一例の混練、希釈装置の構成図である。
【図2】モーノポンプ、ドロップドアを備えない混練・希釈装置の構成図である。
【符号の説明】
【0095】
1 バッチ式ニーダ
2 2軸押し出し機
3 原材料配合用タンク
4 希釈用タンク
5 モーノポンプ
6 ドロップドア
7 三方バルブ
8 ギアポンプ
9 ボールバルブ
11 ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体の一方の主面に磁性粉末と結合剤とを含む磁性塗料を塗布することにより磁性層形成してなる磁気記録媒体の製造方法において、前記磁性塗料が、バッチ式混練装置にて第1の固形分濃度にて前記磁性粉末と前記結合剤とを混練し、磁性混練物を得る混練工程と、前記バッチ式混練装置内で、第2の固形分濃度にまで希釈を行い第1希釈物を得る第1希釈工程と、前記第1希釈物を前記バッチ式混練装置の排出部から排出手段により排出する排出工程を経て製造され、前記排出部にはドロップドアが配設され、前記排出手段がモーノポンプであることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の固形分濃度が、90〜70重量%であり、前記第2の固形分濃度が、69〜50重量%であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性塗料が、排出工程後前記第1希釈物を連続式混練装置にて第3の固形分濃度にまで希釈して第2の希釈物を得る第2希釈工程をさらに経て製造されることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記第3の固形分濃度が、50〜25重量%であることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4の製造方法にて製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−230770(P2009−230770A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70965(P2008−70965)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】