説明

磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体

【課題】優れた電磁変換特性とヘッド汚れの抑制を両立することが可能な磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体の提供。
【解決手段】非磁性支持体上に磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより磁性層を形成する工程を含む磁気記録媒体の製造方法。前記磁性層形成用塗布液は、カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物を所定の強磁性粉末および結合剤とともに含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体に関し、詳しくは、優れた電磁変換特性とヘッド汚れの抑制とを両立し得る磁気記録媒体を製造することができる磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となった。このデータ転送技術の向上とともに、情報を記録、再生および保存するための記録再生装置および記録媒体には更なる高密度記録化が要求されている。
【0003】
高密度記録領域において良好な電磁変換特性を得るためには、微粒子磁性体を使用するとともに、微粒子磁性体を高度に分散させ、磁性層表面の平滑性を高めることが有効であることが知られている。例えば特許文献1には、結合剤の極性基量を増やし、特定の範囲とし、更に、磁性粉末の含水率を特定の範囲を制御することにより、磁性体に対する結合剤の吸着性を上げ、磁性体同士の凝集を防ぎ分散性を高めることが、提案されている。
【特許文献1】特開2003−132531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らの検討の結果、特許文献1に記載の方法により、極性基量を増やした結合剤を使用し、磁性層の表面性を高めた磁気記録媒体においては、磁性体の分散性は向上し、それにより、得られる磁性層の表面性は向上し、良好な電磁変換特性を得ることができるものの、走行中にヘッド汚れが顕著に発生することが明らかとなった。ヘッド汚れは、ノイズ増大やヘッド寿命低下の原因となるため低減することが望まれる。
【0005】
そこで本発明の目的は、優れた電磁変換特性とヘッド汚れの抑制を両立することが可能な磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、磁性層表面に、極性基量を増やした結合剤由来の低分子成分が存在することがヘッド汚れの原因ではないかと推察した。なお、磁性層の表面平滑性が高まるほど、走行中のヘッドと磁性層との接触面積が増え、磁性層表層に存在する上記低分子成分がヘッドに付着する割合が高くなると考えられる。
そこで本発明者らは、上記知見に基づき、磁性層表層に存在する低分子成分を低減する手段として、第一に、磁性層に添加する結合剤として、比較的高分子量の結合剤を使用することを検討した。しかし、本発明者らの検討の結果、分散性向上のために多量の極性基を導入すると、高分子量結合剤を使用したにもかかわらず、磁性層表面には依然として低分子成分が存在することが明らかとなった。本発明者らは、この理由は、多量の極性基導入により磁性体への吸着性が高まった結合剤が、磁性体表面の活性点と接触することにより、加水分解等によるポリマー鎖の切断が生じ、その結果低分子成分が遊離することにあると考えた。
本発明者らは、以上の知見に基づき更に検討を重ねた結果、多量の極性基を導入した高分子量結合剤とともに、強磁性粉末の含水率を特定の範囲とし、かつ、カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物を使用して磁性層を形成することにより、高分子結合剤の切断を抑制しつつ磁性層の分散性を高めることができ、それにより、優れた電磁変換特性を有し、かつ、ヘッド汚れが抑制された磁気記録媒体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]非磁性支持体上に磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより磁性層を形成する工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁性層形成用塗布液は、下記成分A、成分Bおよび成分Cを含む、磁気記録媒体の製造方法。
成分A:10〜40nmの範囲の平均粒子サイズを有し、かつ含水率が0.3〜3.0質量%である強磁性粉末;
成分B:(イ)−SO3M、−OSO3M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、およびCOOM(ここで、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムを表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.2〜0.7meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤、および/または、(ロ)−CONR12、−NR12、および−N+123(ここで、R1、R2およびR3は、各々独立に、水素原子またはアルキル基を表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.5〜5meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤;
成分C:カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物。
[2]前記磁性層形成用塗布液を、成分A、成分Bおよび成分Cを同時に混合することにより、または、成分Aと成分Cとを混合して得られた混合物に、成分Bを混合することによって調製することを含む[1]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[3]前記成分Bが、(イ)−SO3M、−OSO3M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、およびCOOM(ここで、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムを表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.2〜0.7meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤である[1]または[2]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[4]前記カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物が、環式化合物である[1]〜[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[5]前記環式化合物が、脂環式化合物、芳香族化合物および複素環化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種である[4]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[6]前記環式化合物に含まれる環状構造が、シクロヘキサン環、ベンゼン環、ピリジン環およびナフタレン環からなる群から選ばれる少なくとも一種である[4]または[5]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[7]前記強磁性粉末が、六方晶フェライト粉末である[1]〜[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[8]前記結合剤が、ポリウレタン樹脂である[1]〜[7]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[9]磁性層表面の中心線平均粗さが1.0〜3.0nmの範囲である磁気記録媒体を製造する、[1]〜[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法。
[10]非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法により製造されたものである磁気記録媒体。
[11]前記磁性層表面の中心線平均粗さが1.0〜3.0nmの範囲である[10]に記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた電磁変換特性とヘッド汚れの抑制とを両立した高密度記録用磁気記録媒体を製造することができる、磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性支持体上に磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより磁性層を形成する工程を含む磁気記録媒体の製造方法に関する。前記磁性層形成用塗布液は、下記成分A、成分Bおよび成分Cを含むことを特徴とするものである。
成分A:10〜40nmの範囲の平均粒子サイズを有し、かつ含水率が0.3〜3.0質量%である強磁性粉末;
成分B:(イ)−SO3M、−OSO3M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、およびCOOM(ここで、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムを表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.2〜0.7meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤、および/または、(ロ)−CONR12、−NR12、および−N+123(ここで、R1、R2およびR3は、各々独立に、水素原子またはアルキル基を表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.5〜5meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤;
成分C:カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、強磁性粉末として、平均粒子サイズが10〜40nmの範囲である微粒子磁性体(成分A)を成分BおよびCとともに使用することにより、磁性層表面平滑性を高めることができ、これにより優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得ることができる。より詳細には、結合剤の磁性体への吸着性を高め分散性を向上するために、磁性層結合剤に上記極性基を所定量導入し、かつ、強磁性粉末の含水率を所定量にする。これにより、強磁性粉末の分散性が向上し、磁性層表面平滑性を高めることができる。その上で、質量平均分子量が20,000〜200,000と比較的高分子量の結合剤を、前記化合物とともに磁性層に含有させることにより、上記平滑性を有する磁性層における走行中のヘッド汚れを抑制することができる。この理由は、以下の2点にあると考えられる。
(1)磁性体に吸着せず遊離した結合剤が磁性層表層部に存在したとしても、結合剤の分子量が比較的高いため、ヘッドに付着しにくくなり、ヘッド汚れの原因とはならないものと考えられる。
(2)結合剤由来の低分子成分が発生する原因は、磁性体表面の活性点に結合剤が接触することにより、結合剤が加水分解することにあると考えられる。上記のように比較的多量の極性基を導入した結合剤は磁性体への吸着性が高いため、磁性層表面の活性点と結合剤が接触する割合が高い。これに対し、前記化合物(成分C)は磁性体との吸着性が高いため、磁性層成分として使用すると磁性体表面に付着し磁性層表面の活性点を失活させることができると考えられる。これにより、結合剤の加水分解等によるポリマー鎖の切断による低分子成分生成を抑制することができると推察される。
以下に、本発明の磁気記録媒体の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0010】
成分C
前記磁性層形成用塗布液は、カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物(成分C)を少なくとも一種含む。強磁性粉末の分散性を良くするためには、磁性体同士の凝集を防ぐ必要がある。磁性体同士の凝集を防ぐには、磁性体表面に結合剤を吸着させる必要がある。この際に、カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物を磁性体と更に吸着させることにより、磁性体同士の凝集を防ぎ、磁性体同士の分散性を向上させることができる。更に、カルボキシル基および/または水酸基を含有する化合物は、磁性体との吸着性が高く、磁性体に対していわゆる表面修飾剤として機能することができる。これにより、強磁性粉末(成分A)と結合剤(成分B)との接触により、成分B由来の低分子成分が多量に生成することを抑制することができる。
【0011】
前記化合物は、カルボキシル基または水酸基のいずれか一方のみを有することもでき、両方を有することもできる。前記化合物1分子あたりの上記置換基の数は、少なくとも1つであり、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3である。
【0012】
前記化合物(いわゆる表面修飾剤)は、カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有するものであれば、環式化合物であっても、鎖式化合物であってもよいが、環式化合物であることが好ましい。
【0013】
前記環式化合物が有する環状構造は、脂肪族環、芳香族環、複素環のいずれであってもよい。即ち、前記環式化合物として、脂環式化合物、芳香族化合物および複素環化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。また、環状構造は単環であっても縮合環であってもよい。また、1分子中に含まれる環状構造は1種でも2種以上であってもよく、異なる種類の環状構造が連結基によって連結した構造であってもよい。例えば、前記環式化合物に含まれる環状構造が、シクロヘキサン環、ベンゼン環、ピリジン環およびナフタレン環からなる群から選ばれる少なくとも一種であるものを好適に挙げることができる。
【0014】
前記環式化合物が脂環式化合物である場合、含まれる環状構造としては、例えば炭素数5〜30の縮環してもよい脂肪族環であり、好ましくは炭素数5〜10の縮環してもよい脂肪族環であり、より好ましくはシクロヘキサン環である。
【0015】
前記環式化合物が芳香族化合物である場合、含まれる芳香族環は、5員環、6員環または7員環もしくはそれらが縮環を形成していることが好ましく、5員環または6員環であることがより好ましく、6員環であることがさらに好ましい。具体例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環を挙げることができ、中でもベンゼン環およびナフタレン環が好ましい。
【0016】
前記環式化合物が複素環式化合物である場合、複素環に含まれるヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子を挙げることができ、窒素原子が好ましい。前記複素環は、例えば炭素数1〜30であり、好ましくは炭素数1〜20であり、特に好ましくは炭素数1〜12である。前記複素環の具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、チアゾール環やこれらのベンゾ縮環体やヘテロ環縮環体などが挙げられる。前記複素環としては、ピリジン環が好ましい。
【0017】
前記環式化合物は、カルボキシル基および水酸基以外の置換基を有することもできる。前記置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、ニトロ基、炭素原子数1〜16のアルキル基、炭素原子数1〜16のアルケニル基、炭素原子数2〜16のアルキニル基、炭素原子数1〜16のハロゲン原子で置換されたアルキル基、炭素原子数1〜16のアルコキシ基、炭素原子数2〜16のアシル基、炭素原子数1〜16のアルキルチオ基、炭素原子数2〜16のアシルオキシ基、炭素原子数2〜16のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基、炭素原子数2〜16のアルキル基で置換されたカルバモイル基及び炭素原子数2〜16のアシルアミノ基が含まれる。該置換基は、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のハロゲン原子で置換されたアルキル基が好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のハロゲン原子で置換されたアルキル基がより好ましく、特に、ハロゲン原子、炭素原子数1〜3のアルキル基、トリフルオロメチル基を挙げることができる。
【0018】
前記環式化合物として、好ましい具体例としては、1−ナフトエ酸、カテコール、フェノール、フタル酸、4−tert-ブチルフェノール、4−tert-ブチル安息香酸、4−ブチルフェノール、4−ヒドロキシピリジン、シクロヘキサンカルボン酸を挙げることができ、好ましくはカテコールまたは1-ナフトエ酸であり、より好ましくは1-ナフトエ酸である。
【0019】
前記成分Cは、公知の方法により容易に合成可能であり、市販品として入手可能なものもある。
【0020】
磁性層中の前記成分Cの含有量は適宜設定することができるが、好ましくは強磁性粉末100質量部に対して0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜10質量部、更に好ましくは、1〜8質量部である。成分Cの含有量を上記範囲の上限以下とすることにより、膜が可塑化することを抑制し、膜剥がれが生じることを抑制することができる。一方、成分Cの含有量を上記範囲の下限以上とすることにより、より、ヘッド汚れを抑制することができる。
【0021】
結合剤(成分B)
前記磁性層形成用塗布液に含まれる結合剤(成分B)は(イ)−SO3M、−OSO3M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、およびCOOM(ここで、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムを表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.2〜0.7meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤、および/または、(ロ)−CONR12、−NR12、および−N+123(ここで、R1、R2およびR3は、各々独立に、水素原子またはアルキル基を表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.5〜5meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤を含む。即ち、前記結合剤は、(イ)または(ロ)のいずれか一方を満たしてもよく、両方を満たしてもよい。前記結合剤は、少なくとも(イ)を満たすことが好ましく、(イ)であることがより好ましい。(イ)の極性基としては、−SO3M、−OSO3M、−PO(OM)2、−COOMのいずれかを有するものが好ましい。ここで、アルキル基は好ましくは炭素数1〜18のアルキル基であり、直鎖構造であっても分岐構造であっても構わない。前記(イ)における極性基の含有量は、0.2〜0.7meq/gであり、好ましくは0.25〜0.6meq/g、更に好ましくは0.3〜0.5meq/gである。また、前記(ロ)における極性基の含有量は、0.5〜5meq/gであり、好ましくは1〜4meq/g、更に好ましくは1.5〜3.5meq/gである。上記極性基の含有量が上記範囲外であると、磁性体の分散性を高め表面平滑性に優れた磁性層を得ることが困難となる。前記極性基は、一種のみ含まれてもよく、二種以上含まれてもよい。前記(イ)、(ロ)における極性基含有量は、複数種の極性基が含まれる場合はそれらの合計量とする。前記極性基は、例えば付加重合または共重合により結合剤に所望量導入させることができる。
【0022】
前記結合剤の質量平均分子量は、20,000〜200,000の範囲である。前記質量平均分子量が20,000未満では、ヘッド汚れが顕著に発生する。これは磁性層表層部の低分子成分が多くなるからと考えられる。一方、前記質量平均分子量が200,000を超えると、分散性が低下し、良好な電磁変換特性を得ることが困難になる。前記質量平均分子量は、好ましくは30,000〜180,000、より好ましくは50,000〜150,000である。
【0023】
前記結合剤は、前述の(イ)および/または(ロ)を満たし、かつ前述の範囲の質量平均分子量を有するものであれば、その構造等は特に限定されるものではなく、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの重合体、混合物等を使用することができる。このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用でき、中でも、ポリウレタン樹脂を含むものが好ましい。例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものを好適に挙げることができる。本発明の製造方法は、特に、ポリウレタン樹脂を使用した磁気記録媒体において、ヘッド汚れを効果的に抑制することができる。
【0024】
ポリウレタン樹脂の構造はポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。
【0025】
前記結合剤は、公知の方法で合成可能である。または、市販品をそのままもしくは所望量の極性基を導入して使用することもできる。
【0026】
後述するように、本発明の製造方法により製造される磁気記録媒体は、磁性層と非磁性支持体との間に、非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性層を有することもできる。非磁性層に使用可能な結合剤としては、磁性層に使用可能な結合剤を挙げることができる。また、通常磁性層に使用される結合剤を用いることもできる。
【0027】
磁性層、非磁性層には、非磁性粉末または強磁性粉末に対し、例えば5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で前記結合剤を用いることができる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましい。但し、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0℃〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)、降伏点は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)のものを用いることが好ましい。
【0028】
ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMR、ミリオネートMTL、武田薬品社製タケネートD−102、タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住友バイエル社製デスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL、等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0029】
先に説明したように、成分Cを使用することによりヘッド汚れを低減できる理由は、高分子量バインダー(結合剤)の使用と、成分Cが磁性層表面の活性点を失活させ、結合剤が加水分解等による低分子成分生成を防ぐことにより、磁性層表層におけるヘッド汚れの原因となり得る低分子成分量を低減できていることにあると考えられる。以下の方法により、結合剤(樹脂成分)の質量平均分子量を測定することができる。
(樹脂成分の質量平均分子量測定方法)
結合剤をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて評価する。質量平均分子量はジメチルホルムアミド(DMF)溶媒を用いて標準ポリスチレン換算で求めた値を樹脂成分の質量平均分子量とする。
【0030】
磁性層表面粗さ
本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造される磁気記録媒体の磁性層の表面粗さは、中心線平均粗さとして、1.0〜3.0nmの範囲であることが好ましい。磁性層の中心線平均粗さが3.0nm以下であることにより、より良好な電磁変換特性を得ることができ、1.0nm以上とすることにより、安定走行が増す。また、磁性層の中心線平均粗さは、1.5〜3.0nmであることが好ましく、1.5〜2.5nmであることがより好ましい。前記成分A、BおよびCを含む磁性層形成用塗布液を使用することにより表面平滑性に優れた磁性層を形成することができ、更に、強磁性粉末の粒子サイズ、磁性層塗布液の分散条件、カレンダー条件、非磁性支持体中のフィラー量の調整、平滑化のための下塗り層の使用、等によって磁性層の表面平滑性を制御することもできる。
【0031】
強磁性粉末(成分A)
磁性層形成用塗布液に含まれる強磁性粉末(成分A)としては、六方晶フェライト粉末、強磁性金属粉末を使用することができ、六方晶フェライト粉末をより好適に使用することができる。信号を記録する領域の長さが、磁性層に含まれる磁性体の大きさと近い大きさになると明瞭な磁化遷移状態を作り出すことができないため、実質的に記録することが不可能となる。このため記録波長が短波長化するほど磁性体サイズは小さくすべきである。本発明では、優れた電磁変換特性を得るため、強磁性粉末として、平均粒子サイズが10〜40nmのものを使用する。前記平均粒子サイズが10nm未満では、粒子を個々に分散することが困難になる。このことは、個々の磁性体を結合剤で被覆することが困難になることを意味する。数個の凝集した磁性体の表面を結合剤が被覆しているため、磁性体間に結合剤がないものが存在することになり、磁性体間の結合が弱くなり、これにより、磁性層の塗膜強度が低下すると考えられる。前記平均粒子サイズが40nmを超えると、良好な電磁変換特性を得ることが困難となる。前記平均粒子サイズは、好ましくは15〜40nmであり、より好ましくは15〜30nmである。
【0032】
強磁性粉末の平均粒子サイズは、以下の方法により測定することができる。
強磁性粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を強磁性粉末の平均粒子サイズとする。
【0033】
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0034】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。粉体サイズ測定において、標準偏差/平均値をパーセント表示したものを変動係数と定義する。
【0035】
本発明の磁気記録媒体の製造方法において使用される磁性層形成用塗布液に含まれる強磁性粉末の含水率は、0.3〜3質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%、より好ましくは0.8〜1.5質量%である。含水率が上記範囲であることにより、所定量の極性基を含有する結合剤(成分B)の磁性体への吸着が最適化され、分散性が向上するため、高いS/Nを示す磁気記録媒体を得ることができる。強磁性粉末の含水率が0.3質量%に満たないと、結合剤が十分に吸着せず、分散性が低下して好ましくない。含水率が3質量%を越えると、磁性層形成用塗布液中のポリイソシアネート等の硬化剤と結合剤との反応が過剰に進行し、磁性層形成用塗布液の粘度上昇が発生して好ましくない。含水率の調整は、磁性体作製後に乾燥、加湿によって行うことができる。なお、含水率の測定は、カールフィッシャー法によって行うことができる。カールフィッシャー法による含水率の測定方法としては、以下の方法を用いることができる。
気化装置温度を120℃とし、キャリアガス(N2)を300ml/minの流量で流し、試料約300mgを精秤し、三菱化学(株)製の気化装置(VA-05)付き微量水分計(CA-05)を用いて得られる絶対水分量から試料の水分を次式により算出する。
含水率(%)=A/(10×S)
但し、A:水分量(μg)、S:試料量(mg)。
【0036】
磁性層形成用塗布液に含まれる強磁性粉末としては、強磁性金属粉末および六方晶フェライト粉末を挙げることができる。
【0037】
(i)六方晶フェライト粉末
六方晶フェライト粉末には、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、それらのCo等の置換体等がある。より具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、さらに一部にスピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられる。その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般には、Co−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用できる。また原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。
【0038】
六方晶フェライト粉末として、平均板径10〜40nmのものを使用する。好ましくは15〜40nm、更に好ましくは15〜30nmの範囲である。
【0039】
六方晶フェライトの平均板状比[(板径/板厚)の算術平均]は1〜15であることが好ましく、1〜7であることが更に好ましい。平均板状比が1〜15であれば、磁性層で高充填性を保持しながら充分な配向性が得られ、かつ、粒子間のスタッキングによるノイズ増大を抑えることができる。また、上記粒子サイズの範囲内におけるBET法による比表面積(SBET)は、40m2/g以上が好ましく、40〜200m2/gであることがさらに好ましく、60〜100m2/gであることが最も好ましい。
【0040】
六方晶フェライト粉末の粒子板径・板厚の分布は、通常狭いほど好ましい。粒子板径・板厚は、前述のように、粒子TEM写真より、例えば500粒子を無作為に測定することで測定できる。粒子板径・板厚の分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すと、σ/平均サイズ=0.1〜1.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには、一般に、粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
【0041】
一般に、抗磁力(Hc)は、143.3〜318.5kA/m(1800〜4000Oe)程度の六方晶フェライト粉末は作製可能である。六方晶フェライト粉末の抗磁力(Hc)は、好ましくは167.2〜294.5kA/m(2100〜3700Oe)、更に好ましくは199.0〜278.6kA/m(2500〜3500Oe)である。
抗磁力(Hc)は、粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。
【0042】
六方晶フェライト粉末の飽和磁化(σs)によっても磁性層のφmを制御することができる。一般に、飽和磁化(σs)は高い方が好ましいが、微粒子になるほど小さくなる傾向がある。本発明では、所望のφmを考慮して六方晶フェライト粉末の飽和磁化(σs)を選択することが好ましく、具体的には、30〜80A・m2/kg(emu/g)の範囲とすることが好ましい。飽和磁化(σs)の改良のため、マグネトプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合することや、含有元素の種類と添加量の選択等がよく知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。磁性体を分散する際に磁性体粒子表面を後述する分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。磁性体のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、一般に、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。磁性体に含まれる水分も分散に影響するため、本発明では前述の範囲の含水率を有する強磁性粉末を使用する。
【0043】
六方晶フェライト粉末の製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。六方晶フェライト粉末は、必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性粉末に対し、例えば0.1〜10質量%であり表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着が100mg/m2以下になり好ましい。六方晶フェライト粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。
【0044】
(iii)強磁性金属粉末
磁性層に使用する強磁性金属粉末は、特に制限されるべきものではないが、α−Feを主成分とする強磁性金属粉末を用いることが好ましい。これらの強磁性金属粉末には、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。特に、Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つをα−Fe以外に含むことが好ましく、Co、Y、Alの少なくとも一つを含むことがさらに好ましい。Coの含有量はFeに対して0原子%以上40原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは15原子%以上35原子%以下、より好ましくは20原子%以上35原子%以下である。Yの含有量は1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、特に好ましくは4原子%以上9原子%以下である。Alは1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、より好ましくは4原子%以上9原子%以下である。
【0045】
これらの強磁性金属粉末には、後述する分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。具体的には、特公昭44−14090号公報、特公昭45−18372号公報、特公昭47−22062号公報、特公昭47−22513号公報、特公昭46−28466号公報、特公昭46−38755号公報、特公昭47−4286号公報、特公昭47−12422号公報、特公昭47−17284号公報、特公昭47−18509号公報、特公昭47−18573号公報、特公昭39−10307号公報、特公昭46−39639号公報、米国特許第3026215号、同3031341号、同3100194号、同3242005号、同3389014号などに記載されている。
【0046】
強磁性金属粉末には少量の水酸化物、または酸化物が含まれてもよい。強磁性金属粉末は公知の製造方法により得られたものを用いることができ、下記の方法を挙げることができる。複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元してFeまたはFe−Co粒子などを得る方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて微粉末を得る方法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末には、公知の徐酸化処理、すなわち有機溶剤に浸漬したのち乾燥させる方法、有機溶剤に浸漬したのち酸素含有ガスを送り込んで表面に酸化膜を形成したのち乾燥させる方法、有機溶剤を用いず酸素ガスと不活性ガスの分圧を調整して表面に酸化皮膜を形成する方法のいずれを施すこともできる。
【0047】
磁性層に使用される強磁性金属粉末のBET法による比表面積は、45〜100m2/gであることが好ましく、より好ましくは50〜80m2/gである。45m2/g以上であれば低ノイズであり、100m2/g以下であれば良好な表面性を得ることができる。
強磁性金属粉末の結晶子サイズは40〜180Åであることが好ましく、より好ましくは40〜150Å、更に好ましくは40〜110Åである。強磁性金属粉末の平均長軸長(平均粒子サイズ)は10〜50nmであり、好ましくは10〜40nmであり、さらに好ましくは15〜30nmである。強磁性金属粉末の針状比は3以上15以下であることが好ましく、さらには3以上12以下であることが好ましい。強磁性金属粉末のσsは80〜180A・m2/kgであることが好ましく、より好ましくは80〜150A・m2/kg、更に好ましくは80〜120A・m2/kgである。強磁性金属粉末の抗磁力は2000〜3500Oe(160〜280kA/m)であることが好ましく、更に好ましくは2200〜3000Oe(176〜240kA/m)である。
【0048】
前述のように、強磁性金属粉末の含水率は0.3〜3質量%とする。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化することが好ましい。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は4〜12とすることができ、好ましくは6〜10である。強磁性金属粉末は必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性金属粉末に対し0.1〜10%とすることができ、表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着量が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性金属粉末は可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特性に影響を与えることは少ない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は空孔が少ないほうが好ましく、その値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。また形状については先に示した粒子サイズについての特性を満足すれば針状、米粒状、紡錘状のいずれでもかまわない。強磁性金属粉末自体のSFDは小さい方が好ましく、0.8以下であることが好ましい。強磁性金属粉末のHcの分布を小さくすることが好ましい。尚、SFDが0.8以下であると、電磁変換特性が良好で、出力が高く、また、磁化反転がシャープでピークシフトも少なくなり、高密度デジタル磁気記録に好適である。Hcの分布を小さくするためには、強磁性金属粉末においてはゲ−タイトの粒度分布を良くする、焼結を防止するなどの方法がある。
【0049】
本発明の製造方法において、磁気記録媒体の磁性層、非磁性層、および任意に設けられるバック層を形成するために使用される結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他については、それらに関する公知技術を互いに適宜適用することができる。特に、結合剤量、種類、添加剤の添加量、種類に関する公知技術が適用できる。
【0050】
磁性層形成用塗布液には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。これら添加剤としては、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基を持つシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェネチルホスホン酸、α−メチルベンジルホスホン酸、1−メチル−1−フェネチルホスホン酸、ジフェニルメチルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ベンジルフェニルホスホン酸、α−クミルホスホン酸、トルイルホスホン酸、キシリルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、クメニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ヘプチルフェニルホスホン酸、オクチルフェニルホスホン酸、ノニルフェニルホスホン酸等の芳香族環含有有機ホスホン酸およびそのアルカリ金属塩、オクチルホスホン酸、2−エチルヘキシルホスホン酸、イソオクチルホスホン酸、イソノニルホスホン酸、イソデシルホスホン酸、イソウンデシルホスホン酸、イソドデシルホスホン酸、イソヘキサデシルホスホン酸、イソオクタデシルホスホン酸、イソエイコシルホスホン酸等のアルキルホスホン酸およびそのアルカリ金属塩、リン酸フェニル、リン酸ベンジル、リン酸フェネチル、リン酸α−メチルベンジル、リン酸1−メチル−1−フェネチル、リン酸ジフェニルメチル、リン酸ビフェニル、リン酸ベンジルフェニル、リン酸α−クミル、リン酸トルイル、リン酸キシリル、リン酸エチルフェニル、リン酸クメニル、リン酸プロピルフェニル、リン酸ブチルフェニル、リン酸ヘプチルフェニル、リン酸オクチルフェニル、リン酸ノニルフェニル等の芳香族リン酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、リン酸オクチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸イソオクチル、リン酸イソノニル、リン酸イソデシル、リン酸イソウンデシル、リン酸イソドデシル、リン酸イソヘキサデシル、リン酸イソオクタデシル、リン酸イソエイコシル等のリン酸アルキルエステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキルスルホン酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸ブチル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、エルカ酸等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸およびこれらの金属塩、またはステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブトキシエチル、アンヒドロソルビタンモノステアレート、アンヒドロソルビタントリステアレート等の炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも分岐していても良い一塩基性脂肪酸と、炭素数2〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良い1〜6価アルコール、炭素数12〜22の不飽和結合を含んでも分岐していても良いアルコキシアルコールまたはアルキレンオキサイド重合物のモノアルキルエーテルのいずれか一つとからなるモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステルまたは多価脂肪酸エステル、炭素数2〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミンなどが使用できる。また、上記炭化水素基以外にもニトロ基およびF、Cl、Br、CF3、CCl3、CBr3等の含ハロゲン炭化水素等炭化水素基以外の基が置換したアルキル基、アリール基、アラルキル基を持つものでもよい。
【0051】
また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノールエチレンオキサイド付加体等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、ホスホニウムまたはスルホニウム類等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル基等の酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸またはリン酸エステル類、アルキルベタイン型等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。
【0052】
上記潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも純粋ではなく主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれても構わない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0053】
これらの添加物の具体例としては、例えば、日本油脂社製:NAA−102、ヒマシ油硬化脂肪酸、NAA−42、カチオンSA、ナイミーンL−201、ノニオンE−208、アノンBF、アノンLG、竹本油脂社製:FAL−205、FAL−123、新日本理化社製:エヌジエルブOL、信越化学社製:TA−3、ライオン社製:アーマイドP、ライオン社製:デュオミンTDO、日清オイリオ社製:BA−41G、三洋化成社製:プロフアン2012E、ニューポールPE61、イオネットMS−400等が挙げられる。
【0054】
分散剤
前述の化合物(成分C)は分散剤として機能し得る。また、本発明では非磁性層形成用塗布液に前記化合物(成分C)を添加することもできる。更に本発明では前記化合物とともに分散性向上効果を有する他の化合物を併用することもできる。併用可能な分散剤としては、脂環式化合物、芳香族化合物および複素環化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。成分Cおよび成分C以外の環式化合物中、分散剤として添加し得る化合物としては、例えば、フェノール、安息香酸、シクロヘキサノール、シクロヘキサンカルボン酸、1-ナフトエ酸、カテコール、およびその構造異性体、フタル酸、およびその構造異性体、シクロヘキサンジカルボン酸、およびその構造異性体、4-tert-ブチルフェノール、およびその構造異性体、4-ブチルフェノール、およびその構造異性体、4-ヒドロキシピリジン、およびその構造異性体、4-tert-ブチル安息香酸、およびその構造異性体、ナイアシンなどが挙げられる。
【0055】
また、磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0056】
カーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCAN XC−72、旭カーボン社製#80、#60、#55、#50、#35、三菱化学社製#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10B、コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN150、50、40、15、RAVEN−MT−P、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用したりしてもかまわない。また、カーボンブラックを磁性層塗布液に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独または組み合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合、強磁性粉末の質量に対して0.1〜30質量%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。したがって本発明で使用されるこれらのカーボンブラックは、磁性層および非磁性層でその種類、量、組み合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性を基に目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0057】
研磨剤
研磨剤としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素チタンカ−バイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモ−ス硬度6以上の公知の材料を単独または組合せて使用することができる。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90%以上であれば効果にかわりはない。これら研磨剤の粒子サイズは0.01〜2μmが好ましく、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。タップ密度は0.3〜2g/cc、含水率は0.1〜5%、pHは2〜11、比表面積は1〜30m2/gが好ましい。研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、板状のいずれでもよいが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。具体的には住友化学社製AKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT−20、HIT−30、HIT−55、HIT−60、HIT−70、HIT−80、HIT−100、レイノルズ社製ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、不二見研磨剤社製WA10000、上村工業社製UB20、日本化学工業社製G−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業社製TF100、TF140、イビデン社製ベータランダムウルトラファイン、昭和鉱業社製B−3などが挙げられる。これらの研磨剤は必要に応じ非磁性層に添加することもできる。非磁性層に添加することで表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層、非磁性層の添加する研磨剤の粒径、量はむろん最適値に設定すべきものである。
【0058】
有機溶剤としては、公知のものが使用できる。有機溶媒としては、具体的には、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。
【0059】
これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。本発明で用いる有機溶媒は磁性層と非磁性層でその種類は同じであることが好ましい。その添加量は変えてもかまわない。非磁性層に表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性を上げる、具体的には上層溶剤組成の算術平均値が非磁性層溶剤組成の算術平均値を下回らないことが肝要である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0060】
本発明で使用されるこれらの分散剤、潤滑剤、界面活性剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。例えば、無論ここに示した例のみに限られるものではないが、分散剤は極性基で吸着または結合する性質を有しており、磁性層では主に強磁性金属粉末の表面に、また非磁性層では主に非磁性粉末の表面に前記の極性基で吸着または結合し、例えば、一度吸着した環状化合物は、金属または金属化合物等の表面から脱着し難いと推察される。したがって、強磁性金属粉末表面または非磁性粉末表面は、脂環、芳香環、複素環等で被覆されたような状態になるので、該強磁性金属粉末または非磁性粉末の結合剤成分に対する親和性が向上し、さらに強磁性金属粉末あるいは非磁性粉末の分散安定性を改善することができる。また、潤滑剤としては遊離の状態で存在するため非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い、表面へのにじみ出しを制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を非磁性層で多くして潤滑効果を向上させるなどが考えられる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0061】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明の製造方法では、非磁性支持体上に直接磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより磁性層を形成してもよいが、非磁性支持体上に非磁性層形成用塗布液を塗布した後、磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより、非磁性支持体上に非磁性層と磁性層をこの順に有する磁気記録媒体を得ることもできる。非磁性層形成用塗布液は、非磁性粉末と結合剤を含み、任意に添加剤を含むことができる。非磁性層形成用塗布液に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。
【0062】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、Ca
CO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0063】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜500nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5nm〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0064】
非磁性粉末の比表面積は、例えば1〜150m2/gであり、好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、所望の結合剤量で分散できるため好ましい。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定するため好ましい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましく、強熱減量が小さいものが好ましい。
【0065】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、好ましくは1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/100Åが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0066】
非磁性層形成用塗布液に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、例えば、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製DPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPB−550BX、DPN−550RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、MJ−7、α−酸化鉄E270、E271、E300、チタン工業製STT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、T−600B、T−100F、T−500HDなどが挙げられる。堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25、宇部興産製100A、500A、チタン工業製Y−LOPおよびそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0067】
非磁性層形成用塗布液には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のマイクロビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2(245〜588MPa)、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2(294〜490MPa)であり、薄膜硬度計(日本電気製HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。詳細は「薄膜の力学的特性評価技術」リアライズ社を参考にできる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0068】
非磁性層形成用塗布液に用いられるカーボンブラックの比表面積は、例えば100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、例えば20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。
【0069】
非磁性層形成用塗布液に用いることができるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化学社製#3050B、#3150B、#3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、コロンビアカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。
【0070】
また、カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。本発明の非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。
【0071】
また非磁性層形成用塗布液には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0072】
非磁性層形成用塗布液に使用される結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0073】
非磁性支持体
本発明において、非磁性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ガラス転移温度が100℃以上の支持体を用いることが好ましく、ポリエチレンナフタレート、アラミドなどの高強度支持体を用いることが特に好ましい。また必要に応じ、磁性面とベース面の表面粗さを変えるため、特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などを行ってもよい。
【0074】
非磁性支持体としては、WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000で測定した中心面平均表面粗さ(Ra)が8.0nm以下、好ましくは4.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下のものを使用することが好ましい。これらの支持体は単に中心面平均表面粗さ(Ra)が小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また表面の粗さ形状は必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとしては一例としてはCa、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機微粉末が挙げられる。支持体の最大高さRmaxは1μm以下、十点平均粗さRzは0.5μm以下、中心面山高さRpは0.5μm以下、中心面谷深さRvは0.5μm以下、中心面面積率Srは10%以上、90%以下、平均波長λaは5μm以上、300μm以下であることがそれぞれ好ましい。所望の電磁変換特性と耐久性を得るため、これら支持体の表面突起分布をフィラーにより任意にコントロールすることができ、0.01μmから1μmの大きさのものを各々を0.1mm2あたり0個から2000個の範囲でコントロールすることができる。
【0075】
本発明に用いられる支持体のF−5値は好ましくは5〜50kg/mm2(49〜490MPa)である。また、支持体の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。破断強度は5〜100kg/mm2(49〜980MPa)、弾性率は100〜2000kg/mm2(0.98〜19.6GPa)であることがそれぞれ好ましい。温度膨張係数は10-4〜10-8/℃であることが好ましく、より好ましくは10-5〜10-6/℃である。湿度膨張係数は10-4/RH%以下であることが好ましく、より好ましくは10-5/RH%以下である。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差でほぼ等しいことが好ましい。
【0076】
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法において、下塗り層を設けてもよい。下塗り層を設けることによって支持体と磁性層または非磁性層との接着力を向上させることができる。密着性向上のための下塗り層としては、溶剤への可溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。また後述するように、下塗り層として平滑化層を設けることもできる
【0077】
層構成
本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造する磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μm、より好ましくは3〜50μm、特に好ましくは3〜10μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に下塗り層を設ける場合、下塗り層の厚みは、例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。
【0078】
また支持体と非磁性層または磁性層との間、支持体とバックコート層との間に平滑化を目的とした中間層を設けることができ、例えば非磁性支持体の表面に、ポリマーを含有した塗布液を塗布、乾燥して形成するか、分子中に放射線硬化官能基を有する化合物(放射線硬化型化合物)を含有した塗布液を塗布し、その後、放射線を照射し、塗布液を硬化させて形成することができる。
放射線硬化型化合物の数平均分子量は、200〜2000の範囲であることが好ましい。分子量がこの範囲であると、比較的低分子量であるので、カレンダー工程において塗膜が流動し易く成形性が高く、平滑な塗膜を形成することができる。
放射線硬化型化合物として好ましいものは、分子量200〜2000の2官能のアクリレート化合物であり、更に好ましいものはビスフェノールA、ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールFやこれらのアルキレンオキサイド付加物にアクリル酸、メタクリル酸を付加させたものである。
【0079】
上記放射線硬化型化合物は、ポリマー型の結合剤と併用されてもよい。併用される結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。放射線として紫外線を用いる場合は、重合開始剤を併用することが好ましい。重合開始剤としては、公知の光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤および光アミン発生剤等を用いることができる。
また、放射線硬化型化合物は、非磁性層に用いることもできる。
【0080】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には10〜150nmであり、好ましくは20〜120nmであり、さらに好ましくは30〜100nmであり、特に好ましくは30〜80nmである。また、磁性層の厚み変動率(σ/δ)は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±30%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0081】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.2〜2.0μmであることが好ましく、0.3〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0082】
バックコート層
本発明の磁気記録媒体の製造方法により、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を有する磁気記録媒体を形成することもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。特に前記非磁性層の処方を適用することが好適である。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0083】
本発明の製造方法により製造される磁気記録媒体の好ましい物性等の詳細は、本発明の磁気記録媒体について後述する通りである。
【0084】
以下に、本発明の磁気記録媒体の製造方法に関し、詳細な手順の具体的態様について説明する。
【0085】
本発明の製造方法において使用される磁性層形成用塗布液は、前記成分A、成分Bおよび成分Cを含むものである。それらの詳細は、先に説明した通りである。また、磁性層形成用塗布液を塗布する面は、必ずしも非磁性支持体表面ではなく、例えば、非磁性層を有する磁気記録媒体を製造する場合は、非磁性層上に直接または間接に塗布することができる。
【0086】
磁性層、非磁性層またはバック層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨材、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバック層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0087】
前記化合物(成分C)の添加効果を効果的に得るためには、強磁性粉末と結合剤とが接触する段階で、成分Cが存在することが好ましい。これは、成分Cが強磁性粉末表面に付着する前に、結合剤が強磁性粉末表面と接触することを回避するためである。従って、磁性層形成用塗布液は、前述の成分A(強磁性粉末)、成分B(結合剤)、および成分C(環式化合物)を同時に混合することにより、または成分Aと成分Cとを混合して得られた混合物に、成分Bを混合することによって調製することが好ましい。なお、成分Aと成分Cとを混合して得られた混合物に、成分Bを混合することによって調製することがより好ましい。まず、成分Aと成分Cを混合することにより、強磁性粉末表面に、より成分Cが吸着し、結合剤由来の低分子成分の発生を抑制することができる。
具体的には、以下の方法により成分A、成分Bおよび成分Cを混合することが好ましい。
(1)予め成分Aと成分Cとを乾式で15〜30分間程度分散した後、有機溶媒へ添加する。成分Bは、前記分散物と同時に添加してもよく、前記分散物添加後に添加してもよい。
(2)成分Aと成分Cを有機溶剤中で15〜30分間程度分散した後、乾固する。乾固した混合物を適宜粉砕して有機溶媒中に添加する。成分Bは、前記混合物と同時に添加してもよく、前記混合物添加後に添加してもよい。
(3)成分Aと成分Cとを有機溶剤中で15〜30分間程度分散した後。成分Bを添加する。
(4)成分A、BおよびCを有機溶媒中に同時に添加し、分散する。
【0088】
磁気記録媒体の製造工程では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布して非磁性層を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0089】
磁性層塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0090】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0091】
このようにして得られた塗布原反は、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、次いでカレンダー処理に施され得る。
カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどを利用することができる。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0092】
塗布原反の表面平滑性は、カレンダーロール温度、カレンダーロール速度、カレンダーロールテンションを制御することによって行うことができる。塗布型媒体の特性を考慮すると、カレンダーロール圧力、カレンダーロール温度を制御することが好ましい。カレンダーロール圧力を低くする、あるいはカレンダーロール温度を低くすることにより、最終製品の表面平滑性は低下する。逆に、カレンダーロール圧力を高くする、あるいはカレンダーロール温度を高くすることにより、最終製品の表面平滑性は高まる。
【0093】
これとは別に、カレンダー処理工程後に得られた磁気記録媒体を、サーモ処理して熱硬化を進行させることもできる。このようなサーモ処理は、磁性層塗布液の配合処方により適宜決定すればよいが、例えば35〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。またサーモ処理時間は、12〜72時間、好ましくは24〜48時間である。
【0094】
カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0095】
カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度を、例えば60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲とすることができ、圧力は、例えば100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲であり、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲で、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲とすることができる。また、磁性層表面の平滑性を高めるため、非磁性層表面にカレンダー処理をすることもできる。非磁性層に対するカレンダー処理も、上記条件で行うことが好ましい。
【0096】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等を選定することができる。
【0097】
更に本発明は、非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体に関する。本発明の磁気記録媒体は、前述の本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造されたものである。本発明の磁気記録媒体に含まれる各成分および各層の好ましい物性等の詳細は、先に説明した通りである。
以下、本発明の磁気記録媒体の物理特性について説明する。
【0098】
[物理特性]
磁性層の抗磁力(Hc)は、143.2〜318.3kA/m(1800〜4000Oe)が好ましく、159.2〜278.5kA/m(2000〜3500Oe)が更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下である。
【0099】
本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において、例えば0.50以下であり、好ましくは0.3以下である。また、表面固有抵抗は、好ましくは磁性面104〜108Ω/sq、帯電位は−500V〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0100】
磁性層のガラス転移温度(動的粘弾性測定装置(例えばレオバイブロン等)により、110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50〜180℃が好ましく、非磁性層のそれは0〜180℃が好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
【0101】
磁性層中に含まれる残留溶媒は、好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは40容量%以下、さらに好ましくは30容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0102】
本発明の磁気記録媒体は、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当たりをよくすることができる。
【実施例】
【0103】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。また、実施例中の「部」特に示さない限り質量部を示す。
【0104】
[実施例1]
磁性層塗布液
成分A)六方晶バリウムフェライト粉末 100部
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn = 1/9/0.2/1
Hc:176kA/m(2200Oe)、平均板径:20nm、平均板状比:3
BET比表面積:65m2/g
σs:49A・m2/kg(49emu/g)
pH:7
成分B)ポリウレタン樹脂 17部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、
−SO3Na=0.35meq/g
成分C)環式化合物(1-ナフトエ酸) 5部
α−アルミナ(粒子サイズ0.15μm) 5部
ダイヤモンド粉末(平均粒径60nm) 1部
カーボンブラック(平均粒径20nm) 1部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0105】
非磁性層塗布液
非磁性無機粉体 85部
α−酸化鉄
表面処理層:Al23、SiO2
平均長軸長 0.15μm
平均針状比:7
BET法による比表面積 52m2/g
PH8
カーボンブラック 15部
塩化ビニル共重合体 10部
(日本ゼオン社製MR110)
ポリウレタン樹脂 10部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタンジイソシアネート系、
−SO3Na=0.2meq/g
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0106】
バックコート層塗布液
微粒子状カーボンブラック粉末 100部
(キャポット社製BPr800、平均粒子サイズ:17nm)
粗粒子状カーボンブラック粉末 10部
(カーンカルブ社製、サーマルブラック、平均粒子サイズ:270nm)
α−アルミナ(硬質無機粉末)
平均粒子サイズ:200nm、モース硬度:9
ニトロセルロース樹脂 140部
ポリウレタン樹脂 15部
ポリエステル樹脂 5部
分散剤:オレイン酸銅 5部
銅フタロシアニン 5部
硫酸バリウム 5部
(堺化学工業(株)製BF−1、平均粒径:50nm、モース硬度3)
メチルエチルケトン 1200部
酢酸ブチル 300部
トルエン 600部
【0107】
上記の非磁性層塗布液については、各成分をオープンニーダーで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製コロネートL)を5部加え、更にメチルエチルケトン、シクロヘキサノン混合溶媒40部を加え、混合、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過して非磁性層塗布液を調製した。
磁性層塗布液については、六方晶フェライト粉末と1-ナフトエ酸とを乾式で15分間分散させた後、この分散物を上記磁性層成分とともにオープンニーダーで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート(日本ポリウレタン(株)製コロネートL)を3部加え、更にメチルエチルケトン、シクロヘキサノン混合溶媒40部を加え、混合、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過して磁性層塗布液を調製した。
バックコート層塗布液については、上記成分を連続ニーダーで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液に、ポリイソシアネート40部(コロネートL、日本ポリウレタン工業(株)製)、メチルエチルケトン1000部を添加し、攪拌した後、1μmの孔径を有するフィルターを用いて濾過した。
【0108】
得られた非磁性層塗布液および磁性層用塗布液を、非磁性層は乾燥後の膜厚で1.5μm、磁性層は乾燥後の膜厚で0.10μmになるように、更に乾燥後のテ−プ総厚が8.6μmになるように厚さ7μmの支持体(二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート)上に同時重層塗布を行い、乾燥させた。その後、磁性層面とは反対の面に、バックコート層を乾燥後に厚さ0.5μmになるように塗布した。
【0109】
その後、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧350kg/cm(343kN/m)、温度80℃でカレンダー処理を行い、得られたロールを50℃で48時間加熱処理を行った。次いで、1/2インチ幅にスリットして磁気テ−プを作製した。
【0110】
[実施例2〜5、14、15、23〜25、比較例1、5、6、9、10]
磁性層塗布液および非磁性層塗布液に含まれるポリウレタン樹脂を、表1に示す質量平均分子量、極性基種および極性基量を有するポリウレタン樹脂に変更した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0111】
[実施例6〜13、16〜20、比較例2]
磁性層塗布液に含まれる成分Cおよび/またはその添加量を、表1に示すように変更した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0112】
[実施例21、22]
磁性層塗布液に含まれる六方晶フェライトを、表1に示す平均板径を有するものに変更した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0113】
[実施例28]
磁性層塗布液に含まれる六方晶フェライト粉末を表1に示す平均長軸長を有する強磁性金属粉末に変更し、かつ成分Cとして表1に示す化合物を使用し、磁性層形成時、磁性層と非磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに、0.3T(3000G)の磁力を持つコバルト磁石と0.15T(1500G)の磁力を持つソレノイドにより配向させ乾燥させ(同時重層塗布)、その後バックコート層を乾燥後に厚さ0.5μmになるように塗布した以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0114】
[実施例29]
磁性層塗布液調製時、六方晶フェライト粉末、結合剤および1−ナフトエ酸を同時に分散した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0115】
[比較例3]
磁性層塗布液に成分Cを添加しなかった点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0116】
[比較例4]
磁性層塗布液および非磁性層塗布液に含まれるポリウレタン樹脂を、表1に示す質量平均分子量、極性基種および極性基量を有するポリウレタン樹脂に変更し、かつ成分Cを添加しなかった点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0117】
[比較例7、8]
磁性層塗布液に含まれる六方晶フェライトを、表1に示す平均板径を有するものに変更した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0118】
[実施例26、27、比較例11、12]
磁性層塗布液に含まれる六方晶フェライトを、表1に示す含水率を有するものに変更した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0119】
1.磁性層表面粗さ
下記条件にて測定した。
装置:日本Veeco社製 Nanoscope III
モード:コンタクトモード
測定範囲:40μm角
スキャンライン:512*512
スキャンスピード:2Hz
スキャン方向:媒体長手方向
2.S/N
(走行方法)
磁気テープテスタを用いてリールとリールの間でテープを巻き取り/送り出しを行いながら走行速度6m/s、バックテンション0.7N、テープ/ヘッド角(ラップ角の1/2)10度で1巻800mのテープサンプルを走行させた。
リニアヘッドを用いて、上記の「走行方法」にてテープサンプルを走行させながら、19.0MHz(線記録密度160KFCI)の信号を記録し再生した。再生信号をAdvantest社製:R3361Cに入力し19.0MHzのピーク信号を信号出力(S)、19.0MHz±0.3MHzを除く1MHz〜37.7MHzの範囲における積分ノイズ(N)を測定した。その比をSNRとした。20dB以上であれば電磁変換特性が良好と判断できる。
3.ヘッド汚れ
上記の「走行方法」でテープサンプルを500m走行させた。走行後のヘッドを光学顕微鏡で観察し、ヘッド汚れを評価した。光学顕微鏡で観察したヘッドの画像をPCに取り込み、2値化処理を行った。(ヘッドは倍率50で観察した)ヘッドのテープ摺動面に対して、汚れが占める面積比が0〜5%を○、5〜15%を△とし、15%以上を×とした。
【0120】
【表1】

【0121】
評価結果
実施例1〜29では、平滑な磁性層を得ることができ、電磁変換特性も良好であった。また磁性層表面性が高いにもかかわらずヘッド汚れは見られなかった。
一方、所定の極性基を含まない結合剤を使用した比較例1では磁性層表面が粗くなり良好な電磁変換特性を得ることはできなかった。
表面修飾剤としてカルボキシル基および/または水酸基を有する化合物に代えて、カルボキシル基も水酸基を持たない環式化合物(アニリン)を使用した比較例2では磁性層の分散が不十分となり磁性層表面の平滑性が低下し、これにより電磁変換特性が低下した。
表面修飾剤を添加しなかった比較例3では、ヘッド汚れが発生した。これは結合剤が磁性体との接触により切断され、磁性層表面に低分子成分が多数存在したためと考えられる。
結合剤の極性基量が少ない比較例4、5では、磁性層表面が粗く電磁変換特性が劣化した。一方、結合剤の極性基量が過剰な比較例6では電磁変換特性が低下した。
比較例7では、強磁性粉末の粒子径が小さすぎたため、先に説明したように磁性体間の結合が弱くなり磁性層の塗膜強度が低下したことにより、S/Nの評価ができないほど膜剥がれが発生した。これに対し、強磁性粉末の粒子径が大きすぎた比較例8では電磁変換特性が低下した。
結合剤の質量平均分子量が小さい比較例9では、ヘッド汚れが発生した。これは、磁性層表面に低分子成分が多数存在したためと考えられる。
また、質量平均分子量が20万を超える結合剤を使用した比較例10では、磁性層の分散が不十分となり電磁変換特性が低下した。
比較例11では、磁性体の含水率が少なく、磁性層表面が粗く電磁変換特性が悪化した。これは、結合剤が磁性体に充分に吸着できなかったためと考えられる。磁性体の含水率が過剰な比較例12では、磁性層表面が粗く電磁変換特性が悪化した。これは、含水率が高いため、磁性塗料中のポリイソシアネートとの反応が進んだため、磁性層表面が粗くなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の磁気記録媒体は、高密度記録用磁気記録媒体として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に磁性層形成用塗布液を塗布および乾燥することにより磁性層を形成する工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁性層形成用塗布液は、下記成分A、成分Bおよび成分Cを含む、磁気記録媒体の製造方法。
成分A:10〜40nmの範囲の平均粒子サイズを有し、かつ含水率が0.3〜3.0質量%である強磁性粉末;
成分B:(イ)−SO3M、−OSO3M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、およびCOOM(ここで、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムを表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.2〜0.7meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤、および/または、(ロ)−CONR12、−NR12、および−N+123(ここで、R1、R2およびR3は、各々独立に、水素原子またはアルキル基を表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.5〜5meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤;
成分C:カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物。
【請求項2】
前記磁性層形成用塗布液を、成分A、成分Bおよび成分Cを同時に混合することにより、または、成分Aと成分Cとを混合して得られた混合物に、成分Bを混合することによって調製することを含む請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記成分Bが、(イ)−SO3M、−OSO3M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、およびCOOM(ここで、Mは水素原子、アルカリ金属またはアンモニウムを表す)からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を0.2〜0.7meq/g含有し、かつ質量平均分子量が20,000〜200,000の範囲である結合剤である請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記カルボキシル基および/または水酸基を1分子中に少なくとも1つ有する化合物が、環式化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記環式化合物が、脂環式化合物、芳香族化合物および複素環化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項4に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記環式化合物に含まれる環状構造が、シクロヘキサン環、ベンゼン環、ピリジン環およびナフタレン環からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項4または5に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記強磁性粉末が、六方晶フェライト粉末である請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記結合剤が、ポリウレタン樹脂である請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
磁性層表面の中心線平均粗さが1.0〜3.0nmの範囲である磁気記録媒体を製造する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたものである磁気記録媒体。
【請求項11】
前記磁性層表面の中心線平均粗さが1.0〜3.0nmの範囲である請求項10に記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開2009−99240(P2009−99240A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80264(P2008−80264)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】