説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁気記録を行う複数の磁性体記録要素が非磁性体によって分離されている磁気記録層を有する磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】各磁性体記録要素を分離する空隙には中間金属層を露出させ、一方、磁性体記録要素の上部には非金属層を形成し、これらの性質の違いにより、超臨界流体に溶解した非磁性金属の有機金属化合物を還元する際に、金属中間層表面に選択的に非磁性体金属を堆積させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録を行う複数の磁性体記録要素が非磁性体によって分離されている磁気記録層を有する磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクドライブは使用用途の拡大や小型化の流れにあり、ドライブに搭載される磁気記録媒体においては益々の高記録密度化が求められている。
【0003】
しかし磁気記録媒体の高記録密度化に伴い、磁気ヘッドの記録磁界の広がりに起因する記録対象トラック以外(隣接トラック)への書き込み(クロスライト)、および/または対象トラック以外の信号の読み出し(クロスリード)などの問題が顕在化してきた。
【0004】
そこで、一層の記録密度向上を実現出来得る磁気記録媒体の候補として、磁気記録層を磁気的に分離した記録要素を有するディスクリートトラック媒体およびパターン媒体が提案されている(特許文献1など参照)。ここで、ディスクリートトラック媒体とは、同心円状の複数の記録トラックのそれぞれが、隣接する記録トラックと磁気的に分離されている媒体を意味する。また、パターン媒体は、1ビットに相当する複数の記録要素のそれぞれが、隣接する記録要素と磁気的に分離されている媒体を意味する。これらの磁気記録媒体では、磁気ヘッドの安定浮上という観点から、記録要素間の空隙をSiO2などの非磁性の材料で充填し、記録要素及び充填材の上面を平坦化することが好ましいと考えられている。
【0005】
記録要素間の空隙を充填する手法としては、例えばスパッタリング法、CVD 法、IBD法などのドライプロセスによる成膜手法が知られている(特許文献2、3、および4など参照)。
【0006】
また、平坦化手段としては、エッチングガスによるエッチング、イオンビームエッチング、化学研磨法(CMP)などが知られている(特許文献2および特許文献4など参照)。また、スパッタリング法により基板上に堆積させた充填材をその融点以上に加熱し、平坦化する方法も行われている(特許文献3参照)。
【0007】
さらに、特定の条件下で選択的にCVDを行い、記録要素間の空隙を選択的に充填する試みも行われている(特許文献5参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平9−97419号公報
【特許文献2】特開2006−85899号公報
【特許文献3】特開2005−100496号公報
【特許文献4】特開2006−196143号公報
【特許文献5】特開2006−92659号公報
【特許文献6】特表2003−514115号公報
【非特許文献1】近藤英一、表面技術、Vol.57,No.10, pp.13-18(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記のドライプロセスによる製膜方法では、磁性体記録要素間の空隙だけを選択的に充填するのは困難であり、元の凹凸に沿って充填材が堆積することになる。したがって、空隙を充填する材料の上面が当該記録要素の高さとほぼ同じかそれ以上にまで充填された時点で充填を止め、続いて凸部上の不要な充填材を除去するというプロセスを経なければ、磁気ヘッドの浮上に耐えられる略平坦な面は得られない。
【0010】
さらに、平坦化工程においても、従来のCMP法などにあっては、数nmレベルでの操作制御は困難であり、生産性の点にも問題がある。
【0011】
また、特許文献5に記載される選択的CVD法は、六フッ化タングステン(WF6)またはトリイソブチルアルミニウム(Al(C493)のような、ガス化可能な特殊な金属化合物を用いる必要があり、汎用的ではない。
【0012】
一方、充填材を溶媒に溶解し、当該溶液を加工表面に塗布する、いわゆるウェットプロセスを用いた場合には、磁性体記録要素間の空隙が微細になればなるほど表面張力の影響により均一な充填が難しいといった問題が生じている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以上の点を鑑みてなされたものであって、磁気記録を行う複数の磁性体記録要素を有する磁性体記録媒体において、各記録要素を分離する空隙に非磁性体金属を選択的に堆積させることによって、上記目的を達成しえることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0014】
詳細には、本発明は、各磁性体記録要素を分離する空隙には中間金属層を露出させ、一方、該磁性体記録要素の上部には非金属層を形成し、これらの性質の違いにより、超臨界流体に溶解した非磁性体金属の有機金属化合物を選択的に還元し、中間金属層表面に選択的かつ均一に非磁性体金属を堆積させるものである。このようにして、磁気記録を行う複数の磁性体記録要素が非磁性体によって分離されている磁気記録層を有する磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は上記製造方法における超臨界流体が水素ガスを溶解した超臨界CO2であることを含む。また、本発明は、上記製造方法における非磁性金属が導電性を有する材料であることを含み、また該導電性を有する非磁性金属は、銅、クロム、チタン、ニオブ、またはタンタルであることを含む。本発明は、上記製造方法における有機金属化合物が、金属アセチルアセトナート、金属アセテート、金属アセチルアセテート、シクロオクタジエンジメチル金属、金属ヘキサフルオロアセチルアセトナート、または金属ジイソブチリルメタナートであることを含む。
【0016】
さらに、本発明は、上記いずれかの製造方法により製造された磁性体記録媒体も含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、磁気記録を行う複数の磁性体記録要素が非磁性体によって分離されている磁気記録層を有する磁気記録媒体の製造において、前述のような余剰充填材を除去するプロセスを省くことができ、かつ均一に非磁性体金属を充填することのできる磁気記録媒体の製造方法、およびそれによって得られる磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の単なる一例であって、当業者であれば、適宜設計変更可能である。
【0019】
図1は、本発明の製造方法により、磁気記録を行う複数の磁性体記録要素が非磁性体によって分離されている磁気記録層を有する磁気記録媒体を製造する工程を示したものである。本発明により製造された磁気記録媒体1300は、基板102上に、中間金属層104、中間金属層104上に分離されて設けられた磁性体記録要素103、磁性体記録要素103上に設けられた非金属層105、および隣接する磁性体記録要素103の間の中間金属層104上に堆積した非磁性体金属層106を有する(図1(3)参照)。以下、工程ごとに説明する。
【0020】
(中間金属層形成工程)
まず、中間金属層104を基板102上に形成する(図示せず)。中間金属層104は、その後に設けられる磁性体記録要素103および非磁性体金属層106の下地層となる。
【0021】
本発明において用いる基板102は、非磁性体であり、かつ、後述する磁性体記録要素103の形成およびそのパターン加工に用いられる条件(溶媒、温度など)に耐えるものが用いられる。さらに寸法安定性に優れていることが好ましい。更に詳しくは、非磁性基板102はガラス、またはアルミニウムを母材としたもの、シリコン単結晶基板などが用いられる。
【0022】
中間金属層104は非磁性体金属であればよく、導電性であるのが好ましい。中間金属層104は、化学安定性の観点からRu、Os、Pt、Pd、Ir、Rh、Au、これらを主成分とする合金を用いて形成することができる。
【0023】
中間金属層104の形成は、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法など当該技術において知られている任意の方法を用いて実施することができる。中間金属層は、通常0.1nm以上20nm以下の膜厚を有する。このような範囲内の膜厚とすることによって、磁気記録層の磁気特性や電磁変換特性を劣化させることなしに、高密度記録に必要な特性を磁気記録層に付与することが可能となる。
【0024】
本発明において、任意選択的に、さらに基板102と中間金属層104との間に、磁気記録層の結晶構造を制御してその性能を向上させるための非磁性下地層、軟磁性裏打ち層(SUL層)、および/またはシード層(いずれも図示せず)を設けてもよい。
【0025】
非磁性下地層は、Ti、またはCrTi合金のようなCrを含む非磁性材料を用いて形成することができる。
【0026】
SUL層は、磁気記録層に垂直方向磁界を集中させるための層である。SUL層に用いることのできる軟磁性材料は、FeTaC、センダスト(FeSiAl)合金などの結晶性材料;FeTaC、CoFeNi、CoNiPなどの微結晶性材料;またはCoZrNd、CoZrNb、CoTaZrなどのCo合金を含む非晶質材料を含む。SUL層の膜厚は、記録に使用する磁気ヘッドの構造や特性によって最適値が変化するが、おおむね10nm以上500nm以下程度であることが、生産性の観点から望ましい。
【0027】
シード層は磁気記録層の結晶構造を制御するための層である。シード層の形成に用いることのできる材料は、NiFeAl、NiFeSi、NiFeNb、NiFeB、NiFeNbB、NiFeMo、NiFeCrなどのようなパーマロイ系材料;CoNiFe、CoNiFeSi、CoNiFeB、CoNiFeNbなどのようなパーマロイ系材料にCoをさらに添加した材料;Co;あるいはCoB,CoSi,CoNi,CoFeなどのCo基合金を含む。シード層は磁気記録層の結晶構造を制御するのに充分な膜厚を有することが望ましく、通常の場合、3nm以上50nm以下の膜厚を有することが望ましい。
【0028】
前述の下地層、SUL層、およびシード層の形成は、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法など当該技術において知られている任意の方法を用いて実施することができる。
【0029】
(磁気記録層形成工程)
次いで、磁気記録材料層113を、中間金属層104の上に形成する。磁気記録材料層113は、後述する方法により一部除去され、磁気記録を行う複数の磁性体記録要素103を形成する。
【0030】
磁気記録材料層113は、垂直磁気記録を行うために、磁気記録材料層113の材料の磁化容易軸(六方最密充填(hcp)構造のc軸)が、記録媒体表面(すなわち情報記録媒体用基板の主平面)に垂直方向に配向していることが必要である。
【0031】
磁気記録材料層113に用いることのできる磁性材料は、たとえばCoPt、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTaなどの合金材料を含む。磁気記録材料層113は、好適には、少なくともCoとPtを含む合金の強磁性材料を用いて形成することができる。あるいはまた、ディスクリートトラック媒体を形成する場合には、非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料を用いて、磁気記録材料層113を形成してもよい。用いることができるグラニュラー構造を有する材料は、CoPt−SiO2、CoCrPtO、CoCrPt−SiO2、CoCrPt−Al23、CoPt−AlN、CoCrPt−Si34などを含むが、これらに限定されるものではない。グラニュラー構造を有する材料を用いた場合、磁気記録材料層113内で近接する磁性結晶粒間の磁気的分離を促進し、ノイズの低減、SNRの向上および記録分解能の向上といった磁気記録特性の改善を図ることができる。
【0032】
磁気記録材料層113の膜厚(すなわち、磁気記録層の膜厚)は、特に限定されるものではない。しかしながら、生産性および記録密度向上の観点から、磁気記録材料層113は、好ましくは30nm以下、より好ましくは15nm以下の膜厚を有する。磁気記録材料層113の形成は、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法など当該技術において知られている任意の方法を用いて実施することができる。
【0033】
(非金属層形成工程)
次に、上記磁気記録材料層113の上に、非金属材料層115を形成する。非金属材料層115は、後述する方法により磁気記録材料層113とともに一部除去され、磁性体記録要素103の上部表面を保護する非金属層105を形成する。
【0034】
非金属材料層115は、表面で有機金属の還元反応が起こりにくい非金属材料であればよく、カーボン(アモルファスカーボンなど)、あるいは磁気記録媒体保護膜用の材料として知られている種々の薄膜材料を用いて形成することができる。
【0035】
非金属材料層115の形成は、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法、CVD法など当該技術において知られている任意の方法を用いて実施することができる。非金属材料層115の膜厚は、特に限定されるものではないが、得られる磁気記録媒体の高密度化などの観点から2〜15nmが好ましい。
【0036】
(非金属層及び磁気記録層の一部除去工程)
次いで、図示しない任意の方法により、磁気記録材料層113および非金属材料層115の一部を除去して磁性体記録要素103を形成し、かつ中間金属層104を露出させる(図1(2))。
【0037】
磁気記録材料層113および非金属材料層115の一部を除去する方法には、ドライエッチング法など当該技術において知られている任意の方法を用いて実施することができる。ドライエッチングに用いるガスは、当該磁気記録材料層113および/または非金属材料層115に用いる材料によって、当業者が適宜選択することができる。当該除去工程は、少なくとも中間金属層104が露出するまで行われる。
【0038】
また、当該除去工程を所定のパターンに沿って行うことにより、所望の区画に分離された磁性体記録要素103およびその上部表面を保護する非金属層105を形成することができる。例えば、上記非金属材料層115の上に任意にマスク層(図示せず)を設け、該マスク層にフォトリソグラフ法および/またはナノインプリント法などの当該技術において知られている任意の方法により所望のパターンを転写後、ドライエッチングにより磁気記録材料層113および非金属材料層115の一部を除去し、所望のパターンを有する空隙により分離された磁性体記録要素103および非金属層105を形成してもよい。例えば、本発明では、ディスクリートトラック媒体の場合、トラック幅が15〜50nmの磁性体記録要素103を15〜50nmの間隔で分離して形成することができる。また、パターン媒体の場合には、ビット径が5〜30nmの大きさの磁性体記録要素を5〜30nmの間隔で分離して形成することができる。
【0039】
(非磁性体金属の充填工程)
前記磁性体記録要素103および非金属層105を分離する空隙に露出する中間金属層104の上で超臨界流体に溶解した有機金属化合物を選択的に還元させて、非磁性体金属層106を形成する。
【0040】
還元されて非磁性体金属層106を形成する有機金属化合物には、銅、クロム、チタン、ニオブ、タンタルなどを中心金属とする有機金属化合物が含まる。好ましくは、該有機金属化合物は、前述の金属を含む金属アセチルアセトナート、金属アセテート、金属アセチルアセテート、シクロオクタジエンジメチル金属、金属ヘキサフルオロアセチルアセトナート、金属ジイソブチリルメタナートを含む。
【0041】
本発明に用いることができる超臨界流体は、前記有機金属化合物を溶解し、かつその中で該有機金属化合物の還元反応が進行するものであれば特に限定されるものではなく、二酸化炭素(CO2)、水、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ジメチルエーテル、エタノールなどの既知の超臨界流体を用いることができる。操作性、超臨界流体としての溶媒能、および/または経済性などの観点から、CO2が好ましい。
【0042】
さらに、有機金属化合物の還元反応を促進させるため、水素などの還元剤を前記超臨界流体に添加してもよい。還元剤は水素が好ましい。添加する還元剤の量は超臨界流体に対して 10ppm〜2,000ppmが好ましい。
【0043】
図2は、本実施形態に用いられる超臨界流体による非磁性体金属の充填装置の概要である。以下、超臨界流体を用いた非磁性体金属の選択的堆積工程の好ましい実施形態を、図2を参照に、さらに具体的に述べる。
【0044】
(1)サイホン式の高圧容器201に入れられた液体CO2を高圧容器201から取り出し、高圧ポンプ204で反応チャンバー207に供給する。ここで、取り出したCO2の一部が取り出しの際に減圧されて気化している場合には、取り出したCO2を冷却ユニット203で完全に液化させてもよい。有機金属化合物の還元反応を促進させるために、超臨界流体に少量の水素(還元剤)を添加する場合には、混合装置205を通して、水素(還元剤)を液体CO2に混合してもよい。
【0045】
(2)反応チャンバー207に、上記工程により形成した、所望のパターンを有する空隙により分離された磁性体記録要素103および非金属層105を設けた加工媒体1200および適量の有機金属化合物を設置する。
【0046】
(3)前記反応チャンバー207を液体CO2で満たし、バルブ206aと206bを閉じた後、ヒータ208にて加熱し、超臨界CO2流体を生成する。加熱温度は150〜300℃、反応チャンバー内の圧力は10〜15MPaが好ましい。圧力は、反応チャンバーに設けられた圧力計(図示せず)の値を基準に、CO2の加熱により内部の圧力が目的の圧力より高くなった場合には、バルブ206bを開け、圧力調整器209にて所望の圧力に調整してもよい。
【0047】
(4)反応チャンバー207内の有機金属化合物は、超臨界CO2流体に徐々に溶解し、加工媒体1200と接触する。超臨界流体は表面張力がゼロであるため(非特許文献1)、加工媒体1200表面に形成された微細なパターンを有する空隙であっても均一に浸入することができる。そして、超臨界CO2流体に溶解している有機金属化合物が導電性の中間金属層104と接触し、有機金属化合物の還元反応が中間金属層104上で優先的に開始される。一方、磁性体記録要素103の上部表面に設けられた非金属層105上では、有機金属化合物の還元反応が進行しないため、非磁性体金属は堆積しない。その結果、隣接する前記磁性体記録要素103および非金属層105の間に露出する中間金属層104上のみに、選択的に非磁性体金属層106を形成させることができる。
【0048】
また、超臨界CO2流体を利用した金属充填装置は、図2に示すバッチ式の構成に限らず、例えば超臨界CO2流体をフローするタイプ(図示せず)でも良い。
【0049】
さらに、任意選択的に、このようにして得られた磁気記録媒体1300の表面を、ポリッシュして、基板表面形状を整えてもよい。
【0050】
最後に、任意選択的に、非金属層105および非磁性体層107を覆うように、保護層、および/または潤滑剤層を形成してもよい。保護層は、その下にある磁気記録層以下の各構成層を保護するための層である。保護層は、カーボン(アモルファスカーボンなど)、あるいは磁気記録媒体保護膜用の材料として知られている種々の薄膜材料を用いて形成することができる。保護層は、一般的にスパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法、CVD法などを用いて形成することができる。
【0051】
また、潤滑剤層は、記録/読み出し用ヘッドが磁気記録媒体に接触している際の潤滑を付与するための層であり、たとえば、パーフルオロポリエーテル系の液体潤滑剤、または当該技術において知られている種々の液体潤滑剤材料を使用して形成することができる。液体潤滑剤層は、ディップコート法、スピンコート法などの当該技術において知られている任意の塗布方法を用いて形成することができる。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
φ65mmで、厚さ0.635mmの公称寸法2.5インチのシリコン基板102を、洗浄・乾燥後、主平面上に、スパッタ法を用いて、膜厚2nmのCrTiからなる下地層、膜厚40nmのCoZrNdからなるSUL層、膜厚16nmのCoNiFeSiからなるシード層、膜厚12nmのRuからなる中間金属層104を形成し、その後、膜厚20nmのCoCrPt−SiO2系磁気記録材料層113、膜厚10nmのアモルファスカーボン非金属材料層115を形成して被加工出発媒体1100とした。
【0053】
この被加工出発媒体1100表面に、ナノプリント法を用いてパターン状のレジスト層を形成した。最初に、被加工出発媒体1100表面に、スピンオングラス(SOG)と呼ばれるレジストをスピンコートした。得られた塗膜に対して、120秒間にわたって、電鋳で作製したNi製スタンパーを圧力15kN/cm2(150MPa)で押圧し、凹凸パターンを有するレジスト層を形成した。レジスト層の凸部における膜厚は50nmであった。続いて、レジスト層のパターン凹部に残存するSOG残膜を酸素アッシングにより除去して、非金属材料層115を露出させた。次いでArミリングによって露出した非金属材料層115およびその下にある磁気記録材料層113を除去して、複数の磁性体記録要素103を形成した。ここで、Arミリングの終点は、エンドポイントモニターを用いて中間金属層104の露出を確認することによって決定した。Ruが化学的に安定であることからも、中間金属層104としてRuを用いることが有利である。得られた複数の磁性体記録要素103のそれぞれは、直径20nmを有するドットであり、20nmの間隔で配置された。
【0054】
次いで、図2に示した超臨界流体による非磁性体金属の充填装置を用いて、上記で得られた加工媒体1200の露出した中間金属層104上に非磁性体金属を堆積させた。詳細には、2.5Lの容積を持つ反応チャンバー207中のテフロン(登録商標)製の支持冶具に加工媒体1200を10枚設置し、同時に、銅(II)アセチルアセトナート10gを含むテフロン(登録商標)製ビーカーも反応チャンバー207内に設置した。銅(III)アセチルアセトナートの量は10gに限らず、磁性体記録要素103を分離するパターン状に形成された空隙を還元された金属銅が十分に充填できる量であれば良い。反応チャンバー207を密閉後、バルブ206aを開き、40℃、7.4MPaの水素ガスを溶解させた液体CO2で反応チャンバー207を満たした。その後、加熱用ヒータ208によりチャンバー内温度を230℃まで上昇させて、超臨界CO2流体を生成した。このときの圧力は12MPaであった。当該温度および圧力を60秒間にわたって保持し、加工媒体1200の磁性体記録要素103間の空隙に金属銅を充填した。
【0055】
その後、反応チャンバー207を150℃まで降温し、バルブ206bおよび圧力調整器209を通してCO2を排気した。
【0056】
次いで、表面を平坦化するためにArガスによるバックエッチングを行い、表面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)を0.2nm以下にするように調整した。さらに、この上にアモルファスカーボン(a−C)からなる膜厚3nmの保護層を形成した。最後に、ディップ法を用いて、潤滑剤からなる膜厚2nmの潤滑剤層を形成し、磁気記録媒体を得た。
【0057】
以上述べた方法により短時間で、浮上安定性の高い平滑表面が得られ、この結果、安価で、しかも信頼性の高い磁気記録媒体が得られた。なお、浮上安定性は、圧電素子を搭載した試験用ヘッドを磁気記録媒体上で走行させ、磁気記録媒体凸部に衝突した際の圧電素子からの信号が、回転速度がどの速度まで減速すると出てくるのかを調べることによった(アバランシェ試験)。
【0058】
(実施例2)
実施例1で述べた銅(II)アセチルアセトナートの代わりに、クロム(III)アセチルアセトナート、チタン(III)アセチルアセトナート、ニオブ(III)アセチルアセトナート、タンタル(III)アセチルアセトナートをそれぞれ用い、加工媒体1200表面にパターン状に形成された空隙に金属チタン、金属クロム、金属チタン、金属ニオブ、金属タンタルをそれぞれ充填した。他の条件は実施例1と同じである。この場合にも、良好な浮上安定性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造方法を示した図である。
【図2】本実施形態に用いられる超臨界流体による非磁性体金属の充填装置の概要を示した図である。
【符号の説明】
【0060】
102 基板
103 磁性体記録要素
104 中間金属層
105 非金属層
106 非磁性体金属層
113 磁気記録材料層
115 非金属材料層
1100 被加工出発媒体
1200 加工媒体
1300 磁気記録媒体
201 高圧容器
203 冷却ユニット
204 高圧ポンプ
205 混合装置
206a バルブ
206b バルブ
207 反応チャンバー
208 ヒータ
209 圧力調整器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に中間金属層を形成する工程と、
中間金属層の上に磁気記録材料層を形成する工程と、
磁性体材料層の上に非金属材料層を形成する工程と、
非金属材料層及び磁気記録材料層の一部を除去して複数の磁性体記録要素を形成し、かつ中間金属層を露出させる工程と
非磁性体金属の有機金属化合物を溶解した超臨界流体を用い、前記有機金属化合物を金属に還元することで、露出した中間金属層の上に非磁性体金属材料を選択的に堆積し、前記複数の磁性体記録要素が非磁性体金属材料で分離された磁気記録層を形成する工程と
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記超臨界流体が水素ガスを溶解した超臨界CO2であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記非磁性体金属が導電性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記非磁性体金属が銅、クロム、チタン、ニオブ、またはタンタルであることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記有機金属化合物が金属アセチルアセトナート、金属アセテート、金属アセチルアセテート、シクロオクタジエンジメチル金属、金属ヘキサフルオロアセチルアセトナート、または金属ジイソブチリルメタナートであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法で製造された磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−289337(P2009−289337A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141073(P2008−141073)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】