説明

磁気記録媒体

【課題】1TB以上の記録容量に対応しうる高記録密度特性に優れた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性支持体の一方の面に、非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性塗料を塗布することにより形成された非磁性層と、この非磁性層上に磁性粉末と結合剤とを含む磁性塗料を塗布することにより形成された磁性層とを有する磁気記録媒体において、前記磁性粉末は略粒状で、平均粒子径が10〜40nmであり、前記磁性塗料が予めメディア型分散機で分散処理された後、高圧湿式噴射衝突型分散機にて分散処理されることを特徴とする磁気記録媒体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗型の再生ヘッド(MRヘッド)を用いる磁気記録再生システムに好適な高記録密度特性に優れた塗布型の磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気テープは、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータ用テープなど種々の用途があるが、特にデータバックアップ用テープの分野では、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化にともない、1巻当たり数10〜200GBの記録容量のものが商品化されている。また、今後1TBを超える大容量バックアップテープが提案されており、その高記録密度化は不可欠である。
【0003】
高記録容量化のための手段として、記録再生装置からのアプローチでは,記録信号の短波長化やトラックピッチの狭幅化が用いられるが、これにより磁気テープからの漏れ磁束が小さくなるため、再生ヘッドに微小磁束でも高い出力が得られるMRヘッドを使用することが主流となってきている。
【0004】
媒体からのアプローチでは、磁性粉末の微粒子化とともに、磁気特性の改善がはかられており、従来は、オーディオ用や家庭用のビデオテープに使用されていた強磁性酸化鉄、Co変性強磁性酸化鉄、酸化クロムなどの磁性粉末が主流であったが、現在では、コンピュータ用テープとして、粒子サイズが25〜65nm程度の針状の強磁性鉄系金属粉が提案されている。(特許文献1)
【0005】
また、短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、磁性粉末の高保磁力化がはかられ、鉄−コバルトの合金化により、198.9kA/m程度の保磁力が実現されている(特許文献2〜4)。
【0006】
また低ノイズ化を実現するための磁性粉末として、粒子形状が板状で、粒子サイズ(粒子径)が10〜40nm程度の微粒子のバリウムフェライト磁性粉末や(特許文献5)、結晶磁気異方性を有することで、微粒子化と高保磁力化を両立できる磁性粉末として、形状が球状乃至粒状で、粒子サイズが5〜200nm程度のホウ素含有強磁性鉄系金属磁性粉(特許文献6)や、5〜50nm程度の窒化鉄磁性粉(特許文献7)が提案されている。
【0007】
一方、媒体製造技術側からのアプローチでは、微粒子磁性粉末を含む磁性層成分に対する混練・分散処理(特許文献9)、塗布直前の再分散処理(特許文献10、11)、磁性層の下に非磁性の下塗り層を設ける同時重層塗布(特許文献12)、さらには塗布工程後に行われる高圧カレンダ処理(特許文献13)などの技術の改善により、磁性層の充填性、配向性、表面平滑性が向上し、媒体のS/Nが向上することが知られている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−79004号公報
【特許文献2】特開平3−49026号公報
【特許文献3】特開平5−234064号公報
【特許文献4】特開平6−25702号公報
【特許文献5】特開2004-30828号公報
【特許文献6】特開2001−181754号公報
【特許文献7】WO03/07933A1パンフレット
【特許文献8】特開平3−17827号公報
【特許文献9】特開2004−22158号公報
【特許文献10】特開2001−6171号公報
【特許文献11】特開2003−115107号公報
【特許文献12】特開昭63−187418号公報
【特許文献13】特公平7−60504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、高密度磁気記録媒体(例えば1TB以上の容量に対応)を作製するにあたり、上記のような従来公知の技術では、微粒子磁性粉末を高いレベルで充填し、十分分散するのは、ほぼ限界に達している。
【0010】
磁性粉末の改良に関しては、針状の磁性粉末を使用する限り、粒子サイズは実用上40nm程度が限度である。なぜなら、これよりも微粒子化すると、飽和磁化、保磁力が低下するのみならず、比表面積が著しく大きくなり、磁性塗料中で磁性粉末の粒子一個一個を独立した状態にまで解しきることができず、結果として大きな磁性粒子として振る舞い、高いレベルの平滑性、充填性、磁気特性、を得ることができないためである。
【0011】
一方、特許文献5等に開示されているバリウムフェライト磁性粉末の形状、粒子サイズ(粒子径)は、針状の磁性粉末に比べて微粒子化が可能で、高Hcのものが得られるが、形状が六方晶の板状粉末であるため、板状の面と面とで密着し、極めて強い凝集体を形成するため、微細分散することができず、また、所望のテープ特性を得ることが困難であった。
【0012】
また、特許文献6、7に開示されているホウ素含有強磁性鉄系金属磁性粉末や窒化鉄磁性粉末は高Hc、高飽和磁化量のものが得られ、粒子形状が本質的に球状ないし楕円状であるため、比表面積が最小となる球形に近い形状をとり、従来の磁性粉末と比べて、バインダ樹脂との相互作用を小さくすることでき、分散には有利に働き、磁性粉末としては、最も好ましい。しかしながら、この文献に記載の磁性塗料の製造方法では磁性粉末の粒子一個一個を独立した状態にまでには解すことが困難で、分散安定性についても未だ不十分であり、所望のテープ特性を得るには至っていない。
【0013】
このように、たとえ磁気特性が優れ微粒子化した磁性粉末を使用しても、従来技術では高いレベルでの分散性や分散安定性を確保することが困難であるため、所望の平滑性、充填性、磁気特性を有する磁性層を形成することができず、高記録密度特性を満足させるまでには至っていなかった。
【0014】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、高密度磁気記録媒体において、1TB容量以上に対応するための高記録密度特性に優れた磁気記録媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の目的を達成するため、MRヘッドを用いる磁気記録再生システムに好適な磁気記録媒体として、非磁性支持体の一方の面に、無機粉体を含む下塗塗料を塗布することにより形成された下塗層と、この下塗層の上に、強磁性粉末を含む磁性塗料を塗布することにより形成された磁性層とを有し、次のような構成としたことを特徴とする。
【0016】
前記磁性粉末として、形状が略粒状で、粒子径が10〜40nmである強磁性粉末を使用し、この磁性粉末を含む磁性層を形成するに当たっては、前記磁性塗料が、予めメディア型分散機にて分散処理された後、高圧噴射衝突型分散機により再分散処理を経て製造されたものを用いることを特徴とする。(請求項1)
【0017】
前記高圧噴射衝突型分散機には加圧手段を有し、磁性塗料への加圧条件が50〜250MPaとして分散処理されることを特徴とする。
前記磁性層の厚さが0.1μm未満とすることを特徴とする。(請求項3)
【0018】
このような構成によれば、磁性層の平滑性、充填性、磁気特性(高残留密度化)を高いレベルに向上させることができ、結果として優れた高記録密度特性を有する磁気記録媒体が得られる。
【0019】
なお、略粒状磁性粉末とは、球状磁性粉末、および針状磁性粉末の場合は軸比(長軸長/短軸長)が3未満の、板状磁性粉末の場合は板状比(板径/板厚さ)が3未満の磁性粉末を称する。
【発明の効果】
【0020】
微粒子で、略粒状の磁性粉末を用い、予めメディア型分散機にて分散処理後、高圧噴射衝突型分散機により再分散処理を経て製造した磁性塗料を使用して磁性塗膜を形成するので、高充填で平滑な磁性塗膜が形成でき、高記録密度特性に優れた磁気記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に用いられるMRヘッド型記録再生装置においては、従来の電磁誘導ヘッド型記録再生装置に比べて再生感度が高い反面、これまで注意が払われなかった微小なノイズも同時に読み出されやすくなる。特に、短波長記録領域ほど、媒体ノイズの影響が大きく、ノイズを低下させることが大きな課題となっていた。
【0022】
そのためには磁性層の塗膜の単位体積中に含まれる磁性粉末粒子の数をできるだけ多くすることが必要で磁性粉末の粒子径(粒子体積)を小さくし、充填性を大きくすることが好ましい。
このような観点から本発明者らは磁性粉末の形状にまず着目した。
【0023】
磁性粉末の形状は、従来、針状、板状が一般的であったが、最近では先述したように球状(粒状)のものも提案されている(特許文献6、特許文献7)。磁気記録媒体の磁性塗膜を形成する際に、一般に磁性粉末を配向させる工程が設けられ、これにより再生出力を大きくしている。針状、板状など形状異方性のある磁性粉末を使用した場合、この工程で配向方向にこれらの磁性粉末が配列するが、完全に配列することはなく、ある割合の磁性粉末は、形状的に配列を乱す形になって磁性粉末の充填性を低下させるので、前述したノイズの低減には障害となる場合がある。ところが球状の磁性粉末の場合は、形状異方性がないために配向の乱れによるによる充填構造の乱れは生じないので高い充填度の塗膜が得られる。本発明者らの検討によれば、前述の観点から針状磁性粉末や板状磁性粉末であっても針状比(長軸長/短軸長)や板状比(板径/板厚さ)が1に近づくと粒状粉と同様の効果が得られ、針状比や板状比は3未満が好ましく、2以下がさらに好ましいことが分かった。
【0024】
磁性層中に含ませる磁性粉末の平均粒子径としては、10〜40nmの範囲にあるのが好ましく、15〜30nmの範囲がより好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm未満では、粒子の表面エネルギーが大きくなって分散が困難になり、平均粒子径が40nmを越えるとノイズが大きくなるためである。磁性粉末としては、強磁性鉄系金属磁性粉末や窒化鉄磁性粉末、板状の六方晶Ba−フエライト磁性粉末等が好ましい。
【0025】
強磁性鉄系金属磁性粉末には、Mn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属を合金として含ませてもよい。その中でも、Co、Niが好ましく、とくにCoは飽和磁化を最も向上できるので、好ましい。上記の遷移金属元素の量としては、鉄に対して、5〜50原子%とするのが好ましく、10〜30原子%とするのがより好ましい。また、イツトリウム、セリウム、イツテルビウム、セシウム、プラセオジウム、サマリウム、ランタン、ユ―ロピウム、ネオジム、テルビウムなどから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を含ませても良い。その中でも、セリウム、ネオジムとサマリウム、テルビウム、イツトリウムを用いたときに、高い保磁力が得られ好ましい。希土類元素の量は鉄に対して0.2〜20原子%、好ましくは0.3〜15原子%、より好ましくは0.5〜10原子%である。
【0026】
強磁性鉄系金属磁性粉末にホウ素を含ませてもよい。ホウ素を含ませることにより、平均粒子径が40nm以下の粒状ないし楕円状の超微粒子が得られる。また同ホウ素の量は、磁性粉末全体中、鉄に対して0.5〜30原子%、好ましくは1〜25原子%、より好ましくは2〜20原子%である。上記両原子%は、蛍光X線分析により測定される値である(特許文献6)。
【0027】
窒化鉄磁性粉末は,公知のものを用いることができ,形状は針状の他に球状や立方体形状などの不定形のものを用いることができる。粒子径や比表面積については磁気記録用の磁性粉末としての要求特性をクリアするためには,限定した磁性粉末の製造条件とすることが必要である(特許文献7)。
【0028】
強磁性鉄系金属磁性粉末および窒化鉄磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mが好ましく、200〜300kA/mがより好ましい。飽和磁化量は、60〜200A・m/kg(60〜200emu/g)が好ましく、80〜180A・m/kg(80〜180emu/g)がより好ましい。
【0029】
強磁性鉄系金属磁性粉末および窒化鉄磁性粉末の平均粒子径としては、10〜40nmが好ましく、13〜20nmがより好ましい。この範囲が好ましいのは、平均粒子径が10nm未満となると、保磁力が低下したり、粒子の表面エネルギーが増大するため塗料中での分散が困難になったり、平均粒子径が40nmより大きいと、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなるためである。また、この強磁性粉末のBET比表面積は、35m/g以上が好ましく、40m/g以上がより好ましく、50m/g以上が最も好ましい。通常100m/g以下である。
【0030】
また、前記強磁性鉄系金属磁性粉、窒化鉄磁性粉末をAl,Si,P,Y,Zrまたは、これらの酸化物で表面処理して使用してもかまわない。
【0031】
六方晶Ba−フエライト磁性粉末の保磁力は、120〜320kA/mが好ましく、飽和磁化量は、40〜60A・m/kg(40〜60emu/g)が好ましい。また,粒径(板面方向の大きさ)は10〜30nmが好ましく、10〜25nmがより好ましく、10〜20nmがさらに好ましい。粒径が10nm未満となると、粒子の表面エネルギーが増大するため塗料中への分散が困難になり、30nmを越えると、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなる。また、板状比(板径/板厚)は3未満が好ましく、2以下がより好ましい。また、六方晶Ba−フエライト磁性粉末のBET比表面積は、1〜100m2/gが好ましく用いられる。
【0032】
なお、これらの強磁性粉末の磁気特性は、いずれも試料振動形磁束計で外部磁場1273.3kA/m(16kOe)での測定値をいうものである。
【0033】
また、上記の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した磁性層断面の写真から各粒子の最大径(針状粉では長軸径、板状粉では板径)を実測し、100個の平均値により求めたものである。
【0034】
ところで長手記録の本質的な課題である、記録および再生減磁による出力低下の影響を低減するには、上層磁性層の厚さを薄くすることが有効であるが、長軸方向の粒子サイズが40〜100nm程度の針状の磁性粉未を使用する限り、上層磁性層の厚さにも限界が生じる。なぜなら、磁界配向により、針状粒子は、平均的に針状方向が媒体の面内方向に並行になるように並ぶが、この配向には分布があるため、針状方向が媒体面に垂直になるように分布した粒子も存在する。このような粒子が存在すると、針状の磁性粉未が上層磁性層表面から突き出て、媒体の表面平滑性を損ない、ノイズを著しく増大させる原因となる。この問題は、上層磁性層の厚さが薄くなるほど顕著になるため、針状の磁性粉未を使用する限り、上層磁性層の厚さが0.09μm程度以下で表面の平滑な塗膜を作製することは難しいのが現状である。
【0035】
これに対して、本発明に用いる磁性粉未は、粒子サイズが小さいだけでなく、粒子形状が球形に近い略粒状をとるため、針状の磁性粉未のように上層磁性層の表面から粒子が突き出るような現象は生じず、さらに本発明にある高圧噴射衝突型分散機による処理をすることにより微細分散ができ、表面平滑性が極めて良好な上層磁性層を形成できる。また、上層磁性層の厚さが薄くなると、上層磁性層からの磁束が小さくなり、その結果、出力が低下する問題を生じるが、本発明に使用する上記磁性粉未は、粒子形状が略粒状であるため、針状の磁性粉未に比べて、磁性粉未を上層磁性層中に高充填しやすく、その結果、高磁束密度が得られやすいという大きな利点も有している。
【0036】
さらに、飽和磁化についていえば、金属または合金磁性粉未は、一般に、粒子サイズが小さくなると比表面積が大きくなって、飽和磁化に寄与しない表面酸化層の割合が大きくなり、飽和磁化に寄与する磁性体部分が小さくなる。つまり、粒子サイズが小さくなるにしたがい、飽和磁化も小さくなる。このような飽和磁化の減少も、使用可能な粒子サイズの限界を決める要因のひとつとなっている。これに対して、本発明に使用する上記磁性粉末は、粒子形状が略粒状であるため、同一体積で比較した場合、比表面積は最小となり、微粒子であるにもかかわらず、高い飽和磁化を維持することが可能となるのである。
【0037】
以上のように、本発明に使用する上記略粒状磁性粉未は、飽和磁化、保磁力、粒子サイズ、粒子形状のすべてが薄層の上層磁性層を得るのに本質的に適しており、さらに高圧噴射衝突型分散機による処理が微細分散に極めて有効に働き、磁気記録媒体を作製したときに、すぐれた記録再生特性が得られる。
【0038】
なお、上層磁性層(情報記録層)のテープ長手方向の残留磁束密度と磁性層厚さの積は、0.0018〜0.05μTmが好ましく、0.0036〜0.05μTmがより好ましく、0.004〜0.05μTmがさらに好ましい。残留磁束密度と磁性層厚さの積が、0.0018μTm未満では、MRヘッドによる再生出力が小さく、0.05μTmを越えるとMRヘッドによる再生出力が歪みやすくなる。このような磁性層を有する磁気記録媒体は、記録波長を短くでき、加えて、MRヘッドで再生した時の再生出力を大きくでき、しかも再生出力の歪が小さく出力対ノイズ比を大きくできるので好ましい。
【0039】
前述したように磁性粉末の配向工程での充填構造の乱れという観点では、磁性粉末の形状としては略粒状のものが好ましいが、本発明で用いられる磁性粉末は微粒子であり、強磁性であるため、磁性粉末の粒子一個一個を独立した状態にまで解しきることが困難であるばかりか、解された粒子の再凝集が極めて起こりやすいという問題に直面した。そのため従来技術では本発明にある略粒状磁性粉末の特性を活かす媒体を得ることはできなかった。
【0040】
そこで本発明者らは、略粒状磁性粉末の一個一個を独立させるまで微細分散し、再凝集を抑制する手段について鋭意検討を行った結果、本磁性粉末を含む磁性塗料を予めメディア型分散機にて分散処理した後、高圧噴射衝突型分散機による再分散処理を施すことにより、達成できることを見出した。
【0041】
すなわち、上記のようなプロセスを経ることで本発明にある略粒状磁性粉末の分散性や分散安定性を十分に確保できることが明らかとなった。そのため媒体の平滑性の向上を図れるだけではなく配向性や充填性にも好影響を与え、結果として出力の向上はもとより媒体ノイズの低減が可能となる。
【0042】
ここでいうメデイア型分散機とは、分散容器内に微小メデイアを充填し塗料とともに、メディアを攪拌し塗料分散を行うもので、例えば、メディアとしてφ1.0mm以下とするジルコニアビーズを使用し、ビーズの充填率を50〜90vol%、攪拌羽根周速を6m〜15m/secの条件下で稼動するサンドミルなどの分散機をいう。分散方法の例としては、上記サンドミルの条件下で、単独および複数用い、分散滞留時間を10〜180分となるように、1回〜複数回ミルベッセルを通過させたり、攪拌機を付帯させた循環タンクを設け、循環させながら複数回ミルベッセル内を通過させる手法などが挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
【0043】
なおミルベッセルを複数用いる場合、使用するビーズを各ミルベッセルごとに変えてもよく、径の大きいビーズ(φ0.5〜φ0.1mm)が最初に用いられ、径の小さい(φ0.1〜0.5mm)ビーズが最後に用いられることが好ましい。
【0044】
先述した高圧湿式噴射衝突分散機とは、高圧加圧手段により磁性塗料を高圧に加圧し、被分散塗料を狭い隙間から噴射させ被分散塗料同士あるいは被分散塗料と装置内壁との衝突による、せん断、摩砕作用を利用して微細化する装置であり分散メデイアを使用しないことが特徴である(詳細は後述する)。本発明において、この分散処理により特に有効に微細分散が実現できる理由としては、本発明で用いられる磁性粉末の形状は略粒状であるために、針状や板状の磁性粉末のように磁性粉末同士の重なりがなく、被分散塗料同士および被分散塗料と装置内壁での衝突の際には、磁性粉末自体が微細な分散メディアとして機能すると推定されること、およびメディア型分散処理の欠点であるショートパスによる残留未分散物を分散させて、その残留をなくせること、などが挙げられる。さらに、メディア型分散処理の時間を従来より少なくして、メディアの磨耗粉の混入も低減できるため、媒体の磁束密度低下を抑制できるメリットがある。
【0045】
また、本発明による再分散処理をすることで、磁性粉末同士の独立性を増すことが可能となり、微細分散とともに再凝集を抑制できる効果のあることがあらたに分かった。これは、メデイアを使わない、高せん断分散によるものである。その結果、塗料の流動性を大幅に改良することができ、磁界配向性の向上と後述する磁性層の薄層化にあたっての諸問題も解決できる。
【0046】
上述した高圧湿式噴射衝突型分散機を使用する際には、予めメディア型分散機で処理された塗料を使用する。その理由としては、メディア型分散機で処理されない場合、粗大な凝集体が磁性塗料中に含まれるため、高圧プランジャーポンプのシール、ピストンなどを痛めやすく、微細な隙間構造(たとえば噴射ノズル)に詰りが生じたり、衝突チャンバー内壁の磨耗が促進しやすくなり、生産における連続稼動が困難となるためである。
【0047】
本発明で用いる高圧湿式噴射衝突分散機の好ましい態様は、以下の通りである。
本発明者らは、高圧湿式噴射衝突分散機は通常、10〜350MPaの加圧条件で用いられるが、磁性塗料に適用するにあたって、加圧条件としては50〜250MPaの高圧条件で使用することにより、分散性と分散安定性について高度に両立できることを見出した。加圧条件としては100〜200MPaの範囲がより好ましい。
【0048】
50MPa以下では、せん断力、衝撃力が弱いため、十分な磁気特性、平滑性が得られず、250MPa以上では塗料の急激な発熱を招き、磁性粉末からのバインダの剥離、高分子の切断などにより、かえって分散性や分散安定性が悪化する。
【0049】
高圧湿式噴射衝突分散機としては、上述の条件を満たすものであれば特に制限はなく、(株)スギノマシン製のアルティマイザ―、吉田機械興業(株)製のナノマイザー、三和機械(株)製のホモゲナイザー、マイクロフルイディックス社製のマイクロフルイダイザー等が本発明に利用できる。これらの、高圧湿式噴射衝突分散機は、衝突チャンバー自体には冷却手段を有していないが、塗料の発熱対策として、衝突チャンバーを経た塗料を配管中、および/または熱交換器プレートで冷却する構造になっている。
【0050】
本発明で用いる高圧湿式噴射衝突分散機のさらに好ましい態様は、以下の通りである。
図1に本発明の磁気記録媒体を製造するにあたって使用する高圧噴射衝突型分散機の衝突チャンバーの代表的な構成例を示す。図1-aは筒状のチャンバー内の片側に噴射ノズル、その反対側に衝突面が設けられたタイプ、図1-bは図1-aの筒状のチャンバーを短くし、噴射ノズルと衝突面が近接したタイプ、図1-cは筒状のチャンバーの両側から対向するよう噴射ノズルが設けられたタイプ、図1-dは噴射ノズルに一定の角度を設け対向衝突させるタイプ、図1−eは円筒状の隙間より放射状に噴射されチャンバー外壁に衝突させるタイプで、図1のa〜cではいずれのチャンバーにも冷却ジャケットが設けられ、高圧で塗料の衝突が行われる際の急激な発熱に対して、冷却が可能な機構となっている。また、配管内の塗液の押し出し、洗浄、ならびに後述する塗料循環自己冷却機能を持たせるため、チャンバー内に流入口を設けている。衝突のパターンとしては、代表的な5種を挙げたが、これらの組み合わせ、応用でもかわない。
【0051】
なお、図1には狭い間隙として、噴射ノズルを例として挙げたが、これらは単なる例示にすぎず、狭い間隙を形成できるものであれば、形状は特に問わない。
【0052】
間隙としては0.001mm〜0.4mmが好ましく、さらに好ましくは0.01mm〜0.2mmである。0.001mmより小さい場合には、塗料の供給量が確保できなかったり、ノズルで目詰りしたり、塗料の急激な発熱を招き、磁性粉末からのバインダの剥離、高分子の切断などにより分散性や分散安定性が悪化するなどの弊害があり、0.4mmより大きい場合には、せん断力が低下するため所望の分散性が得られない場合がある。
【0053】
なお、上記のような高い圧力で塗料を衝突させるためには、衝突チャンバーを経た塗料を配管中、および/または熱交換器プレートで冷却する構造とするだけではなく、分散機の衝突チャンバーに冷却手段を組み込むことがより好ましい。例えば、衝突チャンバーの外部に冷却ジャケットを設けたり、衝突チャンバーに冷却ジャケットを設けられない場合には、衝突チャンバーを冷却槽内に設置したり、衝突チャンバーに超低温空気発生装置を設置させ空冷させたりする方法などが挙げられる。
【0054】
また衝突チャンバー内部に被分散塗料を大量に循環できる流路、すなわち狭い隙間を通らずにチャンバー内部に入る流入口を通って被分散塗料が循環できる流路の形成により、衝突による発熱を被分散塗料自身で冷却する(塗料循環自己冷却)方法も挙げられる。これらの冷却手段は、単独もしくは組み合わせて用いてもよく、冷却効率の観点からは組み合わせて用いることがなお好ましい。
【0055】
加圧手段としては、プランジャーポンプを用いるのが一般的であるが、脈動を無くし吐出量を一定にする方が、より均一な分散ができるため複数のプランジャーポンプの位相をずらして使用することが好ましい。
【0056】
平均粒子径が40nm以下の超微粒子磁性粉末を塗膜中に高充填化し、かつ高分散させるためには、下記のような工程で塗料製造を行うことが好ましい。混練工程の前工程として、磁性粉末の顆粒を解砕機を用いて解砕し、その後、混合機でリン酸系の有機酸等やバインダ樹脂と混合し、磁性粉末の表面処理、バインダ樹脂との混合を行う工程を設ける。混練工程として、連続式2軸混練機により固形分濃度75〜90重量%、磁性粉末に対するバインダ樹脂の割合が12〜30重量%で混練を行う。混練工程の後工程としては、連続式2軸混練機かまたは他の希釈装置を用いて、少なくとも1回以上のバインダ樹脂溶液および/または溶媒を加えて混練希釈する工程、サンドミル等のメディア型分散機による分散工程などにより塗料分散を行う。その後溶媒、潤滑剤、結合剤、を加えて希釈・配合・ろ過を行う。さらに前述したように高圧噴射衝突型分散機により再分散処理する工程を行い、必要に応じて超音波分散機などを塗布直前に行うことにより磁性塗料とすることが好ましい。なお高圧衝突型分散機による再分散処理については、メディア型分散機による分散工程の後であれば、前述したタイミングに限らずどのタイミングで用いてもよい。
【0057】
以下に、先行技術との相違について説明する。
電磁変換特性を向上させる先行技術として例えば既述した特許文献1、5が挙げられる。また磁性塗料の再分散処理による分散性の向上については特許文献10〜11があげられる。
【0058】
特許文献1に記載の技術は磁気記録媒体において、粒子サイズが平均長軸長で25〜65nm、平均軸比が3.5〜6の磁性金属粉末を含ませたものであり、本発明で用いられる磁性粉末の軸比とは相違し、さらに分散手段も相違するため、本発明とは異なっており所望の高記録密度特性は得られない。
【0059】
特許文献5に記載の技術は、磁気記録媒体において、平均板径が10〜40nmの六方晶系フェライト磁性粉末が使用され、有機酸、有機酸塩による湿式処理がなされることについて規定しているが、本発明の分散方法とは相違するため、本発明とは異なっており所望の高記録密度特性は得られない。
【0060】
特許文献10の記載の技術では、磁性層を形成する直前に磁性塗料をホモジナイザーで処理し、塗料の温度を20〜35℃に保つことが開示されている。しかし、ホモジナイザーの詳細な記載がなく、加圧手段、噴射衝突の有無などが不明瞭であり、磁性粉末が、長軸長:0.15μm、針状比:6のものを使用しており、本発明とは異なっており所望の高記録密度特性は得られない。
【0061】
特許文献11の記載の技術では、磁性塗料の再分散処理として超音波処理装置を使用し、塗布(乾燥固化)までの時間について規定されている。しかし、磁性粉末に関する形状の規定がないことや、分散手段が相違するため、本発明とは異なっており所望の高記録密度特性は得られない。
【0062】
次に、本発明の磁気テープの構成要素についてさらに詳述する。
〈非磁性支持体〉
磁性支持体の厚さは、用途によって異なるが、通常、2〜5μmのものが使用される。より好ましくは2.5〜4.5μmである。この範囲の厚さの非磁性支持体が使用されるのは、2μm未満では製膜が難しく、またテープ強度が小さくなり、5μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、テープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0063】
非磁性支持体の長手方向のヤング率は9.8GPa(1000kg/mm)以上が好ましく、10.8GPa(1100kg/mm)以上がより好ましい。非磁性支持体の長手方向のヤング率が9.8GPa(1000kg/mm)以上がよいのは、長手方向のヤング率9.8GPa(1000kg/mm)未満では、テープ走行が不安定になるためである。また、ヘリキャルスキャンタイプでは、長手方向のヤング率(MD)/幅方向のヤング率(TD)は、0.60〜0.80の特異的範囲が好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、0.65〜0.75の範囲がより好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、0.60〜0.80の特異的範囲がよいのは、0.60未満または0.80を越えると、メカニズムは現在のところ不明であるが、磁気ヘッドのトラックの入り側から出側間の出力のばらつき(フラットネス)が大きくなるためである。このばらつきは長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が0.70付近で最小になる。さらに、リニアレコーディングタイプでは、長手方向のヤング率/幅方向のヤング率は、理由は明らかではないが、0.70〜1.30のが好ましい。このような特性を満足する非磁性支持体には二軸延伸の芳香族ポリアミドベースフィルム、芳香族ポリイミドフィルム等がある。
【0064】
〈下塗層〉
下塗層の厚さは0.2μm以上、1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらにより好ましい。この範囲が好ましいのは、0.2μm未満では、磁性層の厚さむら低減効果、耐久性向上効果が小さいためである。1.0μmを越えると磁気テープの全厚が厚くなり過ぎてテープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0065】
下塗層には、膜厚の均一性、表面平滑性の確保、剛性、寸法安定性の制御のために、粒子径が10nm〜100nm(より好ましくは10nm〜49nm)の非磁性板状粒子を添加する。非磁性板状粒子の成分は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。導電性改良の目的で、既述した製法で作製した板状ITO(インジウム、スズ複合酸化物)粒子を添加する。下塗層には、下塗層中の全無機粉体の重量を基準にして、板状ITO粒子を、15〜95重量%となるように添加する。10nm〜100nmの板状のグラファイトのようなカーボンを板状のITOの代わりに使用してもよい。必要に応じてカーボンブラックを添加してもよい。カーボンブラックは粒子径が10nm〜100nmのものが好ましい。また、さらに、従来公知の酸化鉄、酸化アルミニウムなどの酸化物粒子を添加してもよい。その場合、できるだけ微粒子(例えば10nm〜100nm)のものを用いるのが好ましい。なお、下塗層に使用するバインダ樹脂は、磁性層と同様のものが用いられる。
【0066】
〈潤滑剤〉
下塗層には磁性層と下塗層に含まれる全粉体に対して0.5〜5.0重量%の高級脂肪酸を含有させ、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸のエステルを含有させると、ヘッドとの摩擦係数が小さくなるので好ましい。この範囲の高級脂肪酸添加が好ましいのは、0.5重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、5.0重量%を越えると下塗層が可塑化してしまい強靭性が失われるおそれがあるからである。また、この範囲の高級脂肪酸のエステル添加が好ましいのは、0.2重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、3.0重量%を越えると磁性層への移入量が多すぎるため、テープとヘッドが貼り付く等の副作用を生じるおそれがあるためである。脂肪酸としては、炭素数10以上の脂肪酸を用いるのが好ましい。炭素数10以上の脂肪酸としては、直鎖、分岐、シス・トランスなどの異性体のいずれでもよいが、潤滑性能にすぐれる直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。これらの中でも、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが好ましい。磁性層における脂肪酸の添加量としては、下塗層と磁性層の間で脂肪酸が転移するので、特に限定されるものではなく、磁性層と下塗層を合わせた脂肪酸の添加量を上記の量とすればよい。下塗層に脂肪酸を添加すれば、必ずしも磁性層に脂肪酸を添加しなくてもよい。
【0067】
磁性層には磁性粉末に対して0.5〜3.0重量%の脂肪酸アミドを含有させ、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸のエステルを含有させると、テープ走行時の摩擦係数が小さくなるので好ましい。この範囲の脂肪酸アミドが好ましいのは、0.5重量%未満ではヘッド/磁性層界面での直接接触が起りやすく焼付き防止効果が小さく、3.0重量%を越えるとブリードアウトしてしまいドロップアウトなどの欠陥が発生するおそれがあるからである。脂肪酸アミドとしてはパルミチン酸、ステアリン酸等の炭素数が10以上の脂肪酸アミドが使用可能である。また、上記範囲の高級脂肪酸のエステル添加が好ましいのは、0.2重量%未満では摩擦係数低減効果が小さく、3.0重量%を越えるとヘッドに貼り付く等の副作用を生じるおそれがあるためである。なお、磁性層の潤滑剤と下塗層の潤滑剤の相互移動を排除するものではない。
【0068】
〈分散剤〉
下塗層や磁性層に含まれる非磁性粉末やカーボンブラック、磁性粉末は、分散剤としては、リン酸系分散剤、カルボン酸系分散剤、アミン系分散剤、キレ―ト剤、各種シランカップリング剤などが好適なものとして用いられる。これらの分散剤は、混練前処理工程、混練工程や初期分散工程の後に配合するのが好ましい。リン酸系分散剤としては、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチルなどのアルキルリン酸エステル類、フエニルホスホン酸、モノオクチルフエニルホスホン酸などの芳香族リン酸類などが挙げられ、市販品として、東邦化学製の「GARFAC RS410」、城北化学工業製の「JP−502」、「JP−504」、「JP−508」などを用いることができる。また、カルボン酸系分散剤としては、安息香酸、フタル酸、テトラカルボキシルナフタレン、ジカルボキシルナフタレン、炭素数12〜22の脂肪酸などが挙げられる。
【0069】
アミン系分散剤としては炭素数8〜22の脂肪族アミン、芳香族アミン、アルカノールアミン、アルコキシアルキルアミン等がある。さらに、キレ―ト剤としては、1,10−フエナントロリン、EDTA、ジメチルグリオキシム、アセチルアセトン、グリシン、ジチアゾン、ニトリロ三酢酸などが挙げられる。これら分散剤の使用量としては、磁性粉末100重量部あたり、0.5〜5重量部となる割合とするのが好ましい。
【0070】
分散剤は、いずれの層においても結合剤100重量部に対して通常、0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0071】
〈磁性層〉
磁性層の厚さは、0.01μm以上、0.1μm未満が好ましく、0.06μm以下がより好ましく、0.04μm以下がさらに好ましい。この範囲が好ましいのは、0.01μm未満では得られる出力が小さいのと、均一な磁性層を塗布するのが困難であり、0.1μmを超えると短波長記録に対する分解能が低下するためである。
【0072】
磁性層(下塗層の場合も同様)に用いるバインダ樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂とを組み合わせものが挙げられる。中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体とポリウレタン樹脂を併用するのが好ましい。ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタンなどがある。
【0073】
官能基として、−COOH、−SOM、−OSOM、−P=O(OM)、−O−P=O(OM)[これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩を示す]、−OH、−NR'R''、−N+R'''R''''R'''''[これらの式中、R'、R''、R'''、R''''、R'''''は水素または炭化水素基を示す]、エポキシ基を有する高分子からなるウレタン樹脂等のバインダ樹脂が使用される。このようなバインダ樹脂を使用するのは、上述のように磁性粉末等の分散性が向上するためである。2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも−SOM基どうしの組み合わせが好ましい。
【0074】
これらのバインダ樹脂は、磁性粉末100重量部に対して、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で用いられる。特に、バインダ樹脂として、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部と、ポリウレタン樹脂2〜20重量部とを、複合して用いるのが最も好ましい。
【0075】
これらのバインダ樹脂とともに、バインダ樹脂中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。これらの架橋剤は、バインダ樹脂100重量部に対して、通常1〜30重量部の割合で用いられる。より好ましくは5〜20重量部である。しかし、下塗層の上にウエット・オン・ウエットで磁性層が塗布される場合には下塗塗料からある程度のポリイソシアネートが拡散供給されるので、ポリイソシアネートを併用しなくても磁性層はある程度架橋される。
【0076】
また、磁性層には、粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmの非磁性板状粒子を添加してもよい。また、必要に応じて、従来公知の研磨材を添加することができるが、これらの研磨材としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度6以上のものが単独または組み合せで使用される。研磨材の粒径としては、厚みが0.01〜0.09μmと薄い磁性層では、通常粒子径(数平均粒子径)で10nm〜150nmとすることが好ましい。添加量は磁性粉末に対して5〜20重量%が好ましい。より好ましくは8〜18重量%である。
【0077】
さらに、本発明の磁性層には導電性向上のために、既述した製法で作製した板状ITO粒子、板状カーボンブラック、導電性向上と表面潤滑性向上を目的に従来公知のカーボンブラック(CB)を添加することができるが、これらのカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmのものが好ましい。この範囲が好ましいのは、粒子径が10nm以下になるとカーボンブラックの分散が難しく、100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、出力低下の原因になるためである。添加量は磁性粉末に対して0.2〜5重量%が好ましい。より好ましくは0.5〜4重量%である。
【0078】
〈バックコート層〉
本発明の磁気テープを構成する非磁性支持体の他方の面(磁性層が形成されている面とは反対側の面)には、走行性の向上等を目的としてバックコート層を設けることができる。バックコート層の厚さは0.2〜0.8μmが好ましい。この範囲が良いのは、0.2μm未満では、走行性向上効果が不充分で、0.8μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記録容量が小さくなるためである。カーボンブラック(CB)としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。通常、小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックを使用する。小粒径カーボンブラックには、粒子径(数平均粒子径)が5nm〜200nmのものが使用されるが、粒子径10nm〜100nmのものがより好ましい。この範囲がより好ましいのは、粒子径が10nm以下になるとカーボンブラックの分散が難しく、粒子径が100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、磁性層への裏移り(エンボス)原因になるためである。大粒径カーボンブラックとして、小粒径カーボンブラックの5〜15重量%、粒子径300〜400nmの大粒径カーボンブラックを使用すると、表面も粗くならず、走行性向上効果も大きくなる。小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラック合計の添加量は無機粉体重量を基準にして60〜98重量%が好ましく、70〜95重量%がより好ましい。中心線平均表面粗さRaは3〜8nmが好ましく、4〜7nmがより好ましい。バックコート層に磁性があると磁気記録層の磁気信号が乱れる場合があるので、通常、バックコート層は非磁性である。
【0079】
また、バックコート層には、強度、温度・湿度寸法安定性向上等を目的に、先に述べたような粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmの非磁性板状粒子を添加することができる。非磁性板状粒子の成分は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。導電性改良の目的で、既述した製法で作製した板状ITO(インジウム、スズ複合酸化物)粒子や板状カーボンブラックを添加してもよい。バックコート層には、バックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして、板状ITO粒子とカーボンブラックを、その合計量が60〜98重量%となるように添加する。カーボンブラックは粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmのものが好ましい。また、必要に応じて、粒子径が0.1μm〜0.6μmの酸化鉄を添加してもよい。添加量はバックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして2〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。
【0080】
バックコート層には、バインダ樹脂として、前述した磁性層や下塗層に用いる樹脂と同じものを使用できるが、これらの中でも摩擦係数を低減し走行性を向上させるため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを複合して併用することが好ましい。バインダ樹脂の含有量は、通常、前記カーボンブラックと前記無機非磁性粉末との合計量100重量部に対して40〜150重量部、好ましくは50〜120重量部、より好ましくは60〜110重量部、さらに好ましくは70〜110重量部である。前記範囲が好ましいのは、50重量部未満では、バックコート層の強度が不十分であり、120重量部を越えると摩擦係数が高くなりやすいためである。セルロース系樹脂を30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂を20〜50重量部使用することが好ましい。また、さらにバインダ樹脂を硬化するために、ポリイソシアネート化合物などの架橋剤を用いることが好ましい。
【0081】
バックコート層には、前述した磁性層や下塗層に用いる架橋剤と同様の架橋剤を使用する。架橋剤の量は、バインダ樹脂100重量部に対して、通常、10〜50重量部の割合で用いられ、好ましくは10〜35重量部、より好ましくは10〜30重量部である。前記範囲が好ましいのは、10重量部未満ではバックコート層の塗膜強度が弱くなりやすく、35重量部を越えるとSUSに対する動摩擦係数が大きくなるためである。
【0082】
〈有機溶剤〉
磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料に使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で又は混合して使用され、さらにトルエンなどと混合して使用される。
【実施例】
【0083】
以下に実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例の部は重量部を示す。また、実施例および比較例の平均粒子径は、数平均粒子径を示す。
【0084】
実施例1:
《下塗塗料成分》
(1)
・非磁性板状酸化鉄粉末(平均粒子径:50nm) 76部
・カーボンブラック(平均粒子径:25nm) 24部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3Na基:1×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸 1部
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0085】
《磁性塗料成分》
(1)混練工程
・磁性粉末 (Y−N−Fe) 100部
(Y/Fe:5.5at%、
N/Fe:11.9at%
σs:103A・m/kg(103emu/g)、
Hc:211.0kA/m(2650Oe)、
平均粒子径:17nm、軸比:1.1)
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 13部
(含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂(PU) 4.5部
(含有−SO3Na基:1.0×10-4当量/g)
・粒状アルミナ粉末(平均粒子径:80nm) 10部
・メチルアシッドホスフェート(MAP) 3部
・テトラヒドロフラン(THF) 20部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 9部
(2)希釈工程
・パルミチン酸アミド(PA) 2.5部
・ステアリン酸n−ブチル(SB) 1部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 350部
(3)配合工程
・ポリイソシアネート 1.5部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 29部
【0086】
上記の下塗塗料成分において(1)を回分式ニーダで混練したのち、(2)を加えて攪拌の後サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これに(3)を加え攪拌・濾過した後、下塗塗料(下塗層用塗料)とした。
【0087】
これとは別に、上記の磁性塗料の成分において(1)混練工程成分を予め高速混合しておき、その混合粉末を連続式2軸混練機で混練し、さらに(2)希釈工程成分を加え連続式2軸混練機で少なくとも2段階以上に分けて希釈を行い、サンドミルで滞留時間を60分(メディア:ジルコニア0.5φ、ビーズ充填率80vol%、羽根周速10m/s)として分散し、これに(3)配合工程成分を加え攪拌・ろ過後、高圧湿式噴射衝突型分散機(衝突チャンバーのパターン図1-a)にて、オリフィス径0.2mm,加圧条件を150MPaとして、衝突チャンバーを2回通過させて、再分散処理を行い磁性塗料とした。なお衝突チャンバーのジャケットには5℃の冷却水を10L/minで流すとともに、チャンバー通過後に設置させた熱交換プレート内へも同様の流量で冷却水を流した。
【0088】
上記の下塗塗料を、芳香族ポリアミドフィルム(厚さ3.9μm、MD=11GPa、MD/TD=0.7、商品名:ミクトロン、東レ社製)からなる非磁性支持体(ベースフィルム)上に、乾燥、カレンダ後の厚さが0.9μmとなるように塗布し、この下塗層上に、さらに上記の磁性塗料を磁場配向処理、乾燥、カレンダ処理後の磁性層の厚さが0.090μmとなるようにエクストルージョン型コータにてウエット・オン・ウエットで塗布し、磁場配向処理後、ドライヤおよび遠赤外線を用いて乾燥し、磁気シートを得た。
【0089】
《バックコート層用塗料成分》
・カーボンブラック(平均粒子径:25nm) 80部
・カーボンブラック(平均粒子径:350nm) 10部
・非磁性板状酸化鉄粉末(平均粒子径:50nm) 10部
・ニトロセルロース 45部
・ポリウレタン樹脂(−SO3Na基含有) 30部
・シクロヘキサノン 260部
・トルエン 260部
・メチルエチルケトン 525部
【0090】
上記バックコート層用塗料成分をサンドミルで滞留時間45分として分散した後、ポリイソシアネート15部を加えてバックコート層用塗料を調整しろ過後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に、乾燥、カレンダ後の厚みが0.5μmとなるように塗布し、乾燥した。
【0091】
このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧196kN/mの条件で鏡面化処理し、磁気シートをコアに巻いた状態で70℃にて72時間エージングし、バック層付き磁気シートを得た。
磁気シートをスリットマシンにより1/2インチ幅に裁断した。
【0092】
スリットマシン(磁気テープ原反を所定幅の磁気テープに裁断する装置)は、構成している各種要素を下記のように改良したものを用いた。巻き出し原反からスリット刃物群に至るウェブ経路中にテンションカットローラを設け、このテンションカットローラをサクションタイプとし、吸引部は多孔質金属を埋め込んだメッシュサクションとした。刃物駆動部に動力を伝達する機構を持たないモータ直結のダイレクトドライブとした。
【0093】
上記のようにして得られた磁気テープを、カートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。
【0094】
実施例2:
高圧噴射衝突型分散機の衝突チャンバーの冷却機構を用いなかった以外は、実施例1と同様にして実施例2のコンピュータ用テープを作製した。
【0095】
実施例3:
高圧噴射衝突型分散機の衝突チャンバーを図1-cに変更し、衝突チャンバーの冷却機構をジャケット冷却方式から塗料循環自己冷却方式(分散塗料を4kg/minで自己循環)に変更し、オリフィス径を0.2mmから0.15mmに変更した以外は実施例1と同様にして実施例3のコンピュータ用テープを作製した。
【0096】
実施例4:
高圧噴射衝突型分散機の加圧条件を150MPsから250MPsに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4のコンピュータ用テープを作製した。
【0097】
実施例5:
磁性粉末を、磁性粉末 (Y−N−Fe)(Y/Fe:5.5at%、N/Fe:11.9at%、σs:103A・m/kg(103emu/g)、Hc:211.0kA/m(2650Oe)、平均粒子径:17nm、軸比:1.1)から、磁性粉末(Y−N−Fe)(σs:75A・m/kg(75emu/g)、Hc:170kA/m(2135Oe)、平均粒子径:14nm、軸比:1.1)に変更し、磁性層の厚みを0.090μmから0.095μmに変更した以外は実施例1と同様にして実施例5のコンピュータ用テープを作製した。
【0098】
実施例6:
磁性粉末を、磁性粉末 (Y−N−Fe)(Y/Fe:5.5at%、N/Fe:11.9at%、σs:103A・m/kg(103emu/g)、Hc:211.0kA/m(2650Oe)、平均粒子径:17nm、軸比:1.1)から、磁性粉末(Ba−Fe)(σs:51A・m/kg(51emu/g)、Hc:163.2kA/m(2051Oe)、平均粒子径:24nm、板状比:2.8)に変更し、磁性層の厚みを0.090μmから0.085μmに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例6のコンピュータ用テープを作製した。
【0099】
実施例7:
磁性粉末を、磁性粉末 (Y−N−Fe)(Y/Fe:5.5at%、N/Fe:11.9at%、σs:103A・m/kg(103emu/g)、Hc:211.0kA/m(2650Oe)、平均粒子径:17nm、軸比:1.1)から、磁性粉末(Al−Y−Co−Fe)(σs:110A・m/kg(110emu/g)、Hc:164kA/m(2060Oe)、平均粒子径:40nm、軸比:2.9)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例7のコンピュータ用テープを作製した。
【0100】
実施例8:
高圧噴射衝突型分散機の加圧条件を150MPsから40MPsに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例8のコンピュータ用テープを作製した。
【0101】
実施例9:
高圧噴射衝突型分散機の加圧条件を150MPsから260MPsに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例9のコンピュータ用テープを作製した。
【0102】
実施例10:
高圧噴射衝突型分散機の加圧条件を150MPsから260MPsに変更し、高圧噴射衝突型分散機のパス回数を2パスから1パスに変更し、磁性層を0.090μmから0.108μmに変更した以外は、実施例1と同様にして実施例10のコンピュータ用テープを作製した。
【0103】
比較例1:
磁性粉末を、磁性粉末 (Y−N−Fe)(Y/Fe:5.5at%、N/Fe:11.9at%、σs:103A・m/kg(103emu/g)、Hc:211.0kA/m(2650Oe)、平均粒子径:17nm、軸比:1.1)から、磁性粉末(Al−Y−Co−Fe)(σs:125A・m/kg(125emu/g)、Hc:179kA/m(2250Oe)、平均粒子径:45nm、軸比:3.5)に変更し、磁性層の厚さを0.090μmから0.115μmに変更し、高圧噴射衝突型分散機を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のコンピュータ用テープを作製した。
【0104】
比較例2:
磁性粉末を、磁性粉末 (Y−N−Fe)(Y/Fe:5.5at%、N/Fe:11.9at%、σs:103A・m/kg(103emu/g)、Hc:211.0kA/m(2650Oe)、平均粒子径:17nm、軸比:1.1)から、磁性粉末(Al−Y−Co−Fe)(σs:125A・m/kg(125emu/g)、Hc:179kA/m(2250Oe)、平均粒子径:45nm、軸比:3.5)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2のコンピュータ用テープを作製した。
【0105】
比較例3:
磁性塗料のサンドミルによる分散工程を省き、高圧噴射衝突型分散機の分散パス回数を2パスから6パスに変更した以外は、実施例1と同様にして比較例3のコンピュータ用テープを作製した。
【0106】
比較例4:
高圧噴射衝突型分散機を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例4のコンピュータ用テープを作製した。
【0107】
比較例5:
磁性粉末を、磁性粉末 (Y−N−Fe)(Y/Fe:5.5at%、N/Fe:11.9at%、σs:103A・m/kg(103emu/g)、Hc:211.0kA/m(2650Oe)、平均粒子径:17nm、軸比:1.1)から、磁性粉末(Ba−Fe)(σs:50A・m/kg(50emu/g)、Hc:164.8kA/m(2070Oe)、平均粒子径:24nm、軸比:3.2)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例5のコンピュータ用テープを作製した。
【0108】
比較例6:
磁性粉末を、磁性粉末 (Y−N−Fe)(Y/Fe:5.5at%、N/Fe:11.9at%、σs:103A・m/kg(103emu/g)、Hc:211.0kA/m(2650Oe)、平均粒子径:17nm、軸比:1.1)から、磁性粉末(Al−Y−Co−Fe)(σs:108A・m/kg(108emu/g)、Hc:167.2kA/m(2100Oe)、平均粒子径:40nm、軸比:3.5)に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例7のコンピュータ用テープを作製した。
【0109】
評価の方法は、以下のように行った。
〈磁性層厚さ〉
試料の磁気記録媒体を樹脂埋めし、それを集束イオンビーム加工装置で厚さ方向の断面を切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で10万倍にて10視野の写真撮影を行い、磁性層表面、磁性層−下塗層界面を縁取りする。つぎに、写真1視野当り、界面に非磁性粉末のかかっていない任意の5個所(計50個所)を選び、それぞれ縁取りした線間の距離を磁性層の厚さとして計測し、それらを平均して磁性層厚さとした。
【0110】
〈磁性粉末の粒子径〉
上記と同様の方法で必要枚数の磁性層断面の写真撮影を行い、磁性層中の磁性粉末の外形を縁取りする。その外径の最大さしわたしを粒子径として計測する。100個の磁性粉末を計測し、その平均値を平均粒子径とした。
【0111】
〈磁性層の表面粗さ〉
ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000による走査型白色光干渉法にてScan Lengthを5μmで測定した。測定視野は、350μm×260μmである。磁性層の中心線平均表面粗さをRaとして求めた
【0112】
〈C/N測定〉
テープの電磁変換特性測定には、ドラムテスターを用いた。ドラムテスターには電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.2μm)とMRヘッド(トラック幅8μm)を装着し、誘導型ヘッドで記録、MRヘッドで再生を行った。両ヘッドは回転ドラムに対して異なる場所に設置されており、両ヘッドを上下方向に操作することで、トラッキングを合わせることができる。磁気テープはカートリッジに巻き込んだ状態から適切な量を引き出して廃棄し、更に60cmを切り出し、更に4mm幅に加工して回転ドラムの外周に巻き付けた。
【0113】
出力及びノイズは、ファンクションジェネレータにより矩形波を記録電流電流発生器に入力制御し、波長0.2μmの信号を書き込み、MRヘッドの出力をプリアンプで増幅後、スペクトラムアナライザーに読み込んだ。0.2μmのキャリア値を媒体出力Cとした。また0.2μmの矩形波を書き込んだときに、記録波長0.2μm以上に相当するスペクトルの成分から、出力及びシステムノイズを差し引いた値の積分値をノイズ値Nとして用いた。更に両者の比をとってC/Nとし、C、C/Nともに比較例1のテープの値との相対値を求めた。
【0114】
<分散安定性>
分散安定性の評価には、前述した重層塗布用として配合した磁性塗料と、6hrエージングした塗料の塗膜角形比(SQ)の劣化率を尺度として用いた。なおここでの塗膜角形比の劣化率は、アプリケータによる簡易塗布直後に、5kOeの反発磁場中にて自然乾燥させ得られた塗膜を、試料振動形磁束計で外部磁場1273.3kA/m(16kOe)での測定し、(SQ(エージング前)−SQ(6hrエージング後))/SQ(エージング前)*100より求めた。
【0115】
表1および表2に各コンピュータ用テープの評価結果を示した。表から明らかなように、本発明に係る実施例1〜10の各コンピュータ用テープは、磁性粉末の形状、粒子径、およびメディア型分散機による分散処理後に高圧噴射衝突型にて再分散処理を行っており、本発明の対象内の磁気記録媒体であり、請求項1を満たさない本発明の対象外の比較例1〜6の各コンピュータ用テープに比較してC/Nが高く、角形比の劣化率が小さい。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
次に、図2、図3を用いて、本発明の請求項2にある高圧噴射衝突型分散機の加圧条件の臨界的意義等を明らかにする。図2には、前記分散機の圧力と、テープのC/Nの関係を示す。実施例1を基本組成とし、圧力の範囲変化させて実験を行った。図から明らかなように、圧力の範囲が50〜250Mpaの範囲内では、C/Nが1.0(dB)を上回り、該範囲外に比べてより好ましいことが分かる。
【0119】
また図3には、前記分散機の圧力と、簡易塗膜の角形比劣化率の関係を示す。図から明らかなように、圧力の範囲が50〜250Mpaの範囲内では角形比劣化率が1.0(%)より小さくなり、該範囲外に比べてより好ましいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造装置である高圧噴射衝突型分散機の衝突チャンバーの諸代表例を示す概略図である。
【図2】高圧噴射衝突型分散機の加圧条件とテープC/Nとの関係を示す図である。
【図3】高圧噴射衝突型分散機の加圧条件と分散安定性との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0121】
1 噴射ノズル
2 塗料流入口
3 塗料排出口
4 冷却水流入口
5 冷却水排出口
6 塗料循環冷却用の流入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体の一方の面に非磁性層と、この非磁性層上に磁性粉末と結合剤とを含む磁性塗料を塗布することにより形成された磁性層とを有する磁気記録媒体において、前記磁性粉末は略粒状で、平均粒子径が10〜40nmであり、前記磁性塗料が予めメディア型分散機で分散処理された後、高圧湿式噴射衝突型分散機にて分散処理されることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記高圧湿式噴射衝突型分散機は、加圧手段を有し、磁性塗料への加圧条件が50〜250MPaとして分散処理されることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁性層の厚さが0.1μm未満である請求項1または2に記載の磁気記録媒体

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−107627(P2006−107627A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292998(P2004−292998)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】