説明

磁気記録媒体

【課題】基板上に、微粒子で高保磁力であり、かつ高価な白金を含まない磁性微粒子を単層配列させることにより高密度磁気記録媒体を得る。
【解決手段】基板上に単層配列された磁性粒子を有する磁気記録媒体において、該磁性粒子が、少なくとも鉄および窒素を構成元素とし、かつ少なくともFe162相を含む、平均粒子サイズが5〜50nmの球状ないし楕円状の磁性粒子である磁気記録媒体。この磁気記録媒体は、Fe162相の高い磁気異方性を反映して、79.6〜398.0kA/m(1000〜5000Oe)の大きな保磁力を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも鉄と窒素を構成元素として含む球状ないしは楕円状の窒化鉄微粒子を基板上に単層配列した、高密度記録に適した磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ハードディスク媒体などの磁気記録媒体は、取り扱われる情報量の急激な増加に伴い、一層の記録密度の向上が要求されている。これを実現するためには、磁性膜の磁性粒子の微粒子化が必須であり、例えばハードディスクにおいては、磁性膜を構成する磁性粒子の微粒子化により、低ノイズ化されSNRの向上が図られている。しかしながら、ハードディスク媒体などに通常使用されているCoCrPtなどの磁性材料は、微粒子化に伴う熱揺らぎにより磁化が不安定になるため、10nm程度が微粒子化の下限と考えられている。
【0003】
この熱揺らぎの問題を克服するために、より高い磁気異方性を有する磁性材料として、FePtやCoPtなどの遷移金属−白金系合金粒子が注目されている。これらの磁性材料をハードディスク媒体に適用するには、通常スパッタ法により、基板上に薄膜を形成する。しかしながら、この薄膜では成膜初期段階におけるランダムな核生成により粒子サイズ分布が広くなる問題がある。さらに磁気特性を発現させるためには加熱処理が不可欠で、そのため粒子間焼結により粒成長が起こり、高密度記録媒体を実現するために最も重要なノイズ低減が図れなくなる。
【0004】
この加熱処理に起因する問題を解決するために、FePtやCoPtなどの高異方性材料の微粒子を、アーク放電プロセス(特許文献1)や化学的なプロセス(特許文献2)により合成することが検討されている。これらの合成法では、薄膜形成に比べて粒子サイズが小さく、かつ粒子サイズ分布の狭い磁性粒子が得られている。
【0005】
また非特許文献1には、FeCoのナノサイズの磁性粒子をオレイン酸およびオレイルアミンで被覆し、この粒子の分散体を基板上に滴下して、被覆磁性粒子の自己組織化作用を利用して粒子同士が凝集しないように単層配列させることが記載されている。この構造体は、500〜600℃以上の温度で加熱処理するとFePt粒子の結晶構造転移により、高い磁気異方性が発現することが示されている。このような自己組織化を利用した磁気記録媒体は、磁性粒子が、適度な間隔で基板上に単層配列して固定されているため、磁性粒子同士が磁気的相互作用を及ぼさず、磁性粒子1個に1ビットの信号を記録することが可能になり、究極の高密度磁気媒体として期待されている。
【0006】
また非特許文献2には、FePtやCoPtに第三元素を添加することにより、400℃付近の低い加熱処理温度で磁気異方性が発現することが記載されている。
【0007】
またさらに、基板上にあらかじめ有機コーティング膜を形成しておき、同じく有機コーティング膜を表面に結合したFePtやCoPtなどの粒子を基板上の有機コーティング膜に結合することにより、加熱処理工程においてFePtやCoPtなどの粒成長防止することが開示されている(特許文献3)。また同様の目的で、基板上にカップリング剤層を形成しておいて、このカップリング剤層にFePtやCoPtなどの磁性粒子を固定することが示されている(特許文献4)。
【0008】
一方特許文献5には、FePtやCoPtなどの遷移金属−白金系合金とは全く異なり、5〜50nmの微粒子であるにもかかわらず高い保磁力を示す磁性材料としてFe16を主相として含む窒化鉄微粒子が示されており、高密度磁気記録媒体用の磁性微粒子として極めて有望であることが記載されている。
【特許文献1】特表平9−506210号公報
【特許文献2】特開2000−48340号公報
【特許文献3】特開2003−168606号公報
【特許文献4】特開2005−25816号公報
【特許文献5】特開2004−273094号公報
【非特許文献1】S. Sun, C.B. Murray, D. Weller, L. Folks, A. Moser: Science 2000, 287, p. 1989.
【非特許文献2】O. Kitakami, Y. Shimada, K. Oikawa, H. Daimon, F. Fukamichi: Appl. Phys. Letter. 2001, 78, p. 1104.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の方法で得られた磁性粒子は、薄膜形成の場合に比べて粒子サイズが小さく、かつ粒子サイズ分布の狭いことに特徴がある。しかしこのような方法で作製した磁性粒子は、基板上に磁性粒子の膜を形成するときに凝集しやすい。一方、非特許文献1に記載されたオレイン酸およびオレイルアミンで被覆したFePtやCoPtなどの遷移金属−白金合金微粒子の自己組織化を利用した磁気記録媒体は、超高密度磁気記録媒体の有望な候補の一つであるが、FePtやCoPtが本来有する高い磁気異方性を発現させるためには、500〜600℃以上での加熱処理が必要であり、この加熱処理により、粒成長を起こして粒子サイズが大きくなる問題がある。また、非特許文献2のように第3元素を添加する方法では、400℃程度の低温での熱処理により磁気異方性が発現する利点があるが、同時に粒子間焼結も低温で起こりやすくなり、粒子サイズが大きくなる問題がある。
【0010】
このようにFePtやCoPtのような遷移金属−白金合金系の磁性粒子では、磁気異方性を発現させるための加熱処理が不可欠であり、そのために粒子間焼結による粒成長が起こる。これを防止するために、基板上および磁性粒子表面にあらかじめ有機コーティング膜を形成する特許文献3の方法や、基板上にカップリング剤層を形成する特許文献4の方法は、加熱処理時の粒成長をある程度防止することができるが、FePtやCoPtなどの遷移金属−白金系の磁性材料を用いる限り、高温での熱処理が必要なことには変わりない。さらに白金そのものが高価であることも、この磁性材料を実用化する上での大きな障害である。
【0011】
一方、特許文献5に記載されたFe16を主相として含む磁性粒子は、微粒子で高保磁力が得られ、かつ高価な白金を使用しないという大きな利点があるが、自己組織化を利用した膜のように、粒子の凝集体が生成しない単層配列膜を形成することは困難である。
【0012】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたもので、その目的は、基板上に、微粒子で高保磁力、かつ高価な白金を使用しない窒化鉄微粒子を単層配列させた磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的に対して鋭意検討した結果、基板上にまずナノサイズのマグネタイト(Fe34)粒子を単層配列した後に、基板上に単層配列されたマグネタイト粒子を、還元ガス気流中で還元して金属鉄とし、続いて、窒化ガス中で窒化処理をすることにより、平均粒子サイズが5〜50nmのFe162相を主相とする窒化鉄粒子が単層配列した膜が得られることがわかった。このFe162相を主相とする窒化鉄粒子の単層膜は、Fe162相の高い磁気異方性を反映して、79.6〜398.0kA/m(1000〜5000Oe)の大きな保磁力を示し、高密度磁気記録媒体として最適であることを見出した。
【0014】
即ち、本発明は、上記目的を達成するために、基板上に単層配列された磁性粒子を有する磁気記録媒体において、該磁性粒子が、少なくとも鉄および窒素を構成元素とし、かつ少なくともFe162相を含む、平均粒子サイズが5〜50nmの球状ないし楕円状の磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
【0015】
加えて、マグネタイト粒子に、希土類元素またはホウ素、シリコン、アルミニウムおよびリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をあらかじめ添加しておくことにより、窒化鉄粒子とする加熱処理工程での粒子の形状を維持しやすくなる。
【0016】
基板の材質は特に限定されるものではないが、ガラス基板が低コストで好ましい。また基板と窒化鉄粒子単層膜の間に、非磁性中間膜または軟磁性膜のいずれか一方の膜あるいは両方の膜を形成すると、磁気記録媒体として用いたときに、より高い記録密度を実現できる。また窒化鉄粒子単層膜の表面にさらに保護膜を形成すると、磁気記録媒体として使用したときに、より安定な特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、自己組織化作用を利用した単層配列膜が、高磁気記録媒体として、特に超高密度ハードディスク媒体として極めて有望であると考えた。しかしながら、現在主に検討されているCoPtやFePt微粒子の単層配列膜は、磁気異方性を発現させるためには本質的に高温での熱処理が必要であり、基板や下地膜への熱の影響が大きく、実用化する上で大きな問題である。さらに白金は産出量が限られた高価な希少金属であり、磁性材料に白金を使用することは、実用上、大きな問題である。
【0018】
一方、塗布型の磁気記録媒体用磁性粒子として、Fe162相を主相とする窒化鉄粒子が開発されている(特許文献5、WO 2003/079332およびWO 2003/079333参照)。この窒化鉄粒子は、マグネタイト粒子を還元して金属鉄粒子にした後、金属鉄粒子を窒化処理することにより作製される。この窒化鉄粒子は、比較的低温での熱処理により作製され、平均粒子サイズが5〜50nmと微小であり、かつ粒子形状が球状ないし楕円状であるにもかかわらず、79.6〜398.0kA/m(1000〜5000Oe)の大きな保磁力を達成できる。
【0019】
本発明では、この窒化鉄粒子の製造技術を応用して、基板上にまずナノサイズのマグネタイト(Fe34)粒子を単層配列した後、基板と共に還元ガス気流中でマグネタイト粒子を還元して金属鉄粒子に転化し、続いて、アンモニアのような窒化ガス中で金属鉄収支を窒化処理する。このような製造方法によれば、平均粒子サイズが5〜50nmで粒子形状が球状ないし楕円状のFe162相を主相とする窒化鉄粒子が単層配列した膜が得られる。この窒化鉄粒子の単層配列膜は、Fe162相の高い磁気異方性を反映して、79.6〜398.0kA/m(100〜5000Oe)の大きな保磁力を示し、特にディスク状の超高密度磁気記録媒体として極めて有用である。
【0020】
基板としては、ガラス基板が好ましいが、本発明の製造方法では熱処理温度が低いため、耐熱性プラスチック基板(例えば、ポリカーボネート基板など)も使用可能である。また熱処理温度が低いため、遷移金属−白金系合金磁性膜においては大きな課題であった、基板と磁性膜の間に形成する各種の膜への熱の影響も少ない。
【0021】
本発明の窒化鉄磁性粒子において、鉄に対する窒素の割合は1.0〜20.0原子%、好ましくは5.0〜18.0原子%である。窒素の割合が小さすぎると、Fe162 相の形成量が少なく、保磁力増加の効果が少なくなる。一方、窒素の割合が大きすぎると、Fe4N相やFe3相など磁気異方性の小さい窒化鉄相が形成されやすくなり、保磁力が低下しやすくなる。
【0022】
本発明に従って製造した窒化鉄系磁性粒子は、原料のマグネタイト粒子の形状をほぼ反映して、球状ないしは楕円状となるが、特に球状であるのが好ましい。また単層配列させたときの磁性粒子同士の間隔は、マグネタイト粒子の自己組織化を利用して単層配列させたときのマグネタイト粒子の間隔によりほぼ決まるため、マグネタイト粒子の分散液(通常、水分散液)に添加する分散剤(界面活性剤)等の種類や添加量を調節することにより、制御することができる。
【0023】
このようにして得られた窒化鉄磁性粒子の粒子サイズも、マグネタイト粒子の粒子サイズによりほぼ決まるため、マグネタイトの粒子サイズを制御することにより、5〜50nmの範囲で任意の粒子サイズに調節できる。
【0024】
さらに、マグネタイト粒子にあらかじめ希土類元素や、ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの元素を含有させておくと、加熱工程での粒子形状保持性がさらに向上する。これら元素の割合は、窒化鉄磁性粒子にした状態で、鉄に対して0.05〜20.0原子%、好ましくは0.1〜15.0原子%とするのがよい。これら元素の割合が大きすぎると、鉄が窒化されにくくなる傾向があり、保磁力が低下しやすくなる。一方、これら元素の割合が小さくても特に問題は生じない。これら元素の割合が0.05原子%以上であれば、加熱処理時に形状保持効果が顕著に現われる。
【0025】
希土類元素としては、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジムなどが挙げられる。これらのうち、イットリウム、サマリウムまたはネオジムは、とくに還元時の粒子形状保持効果が大きいことから、これら元素の中からなくとも1種を選択して使用するのが望ましい。
【0026】
本発明の窒化鉄磁性粒子の単層配列膜の製造方法について、詳細に説明する。
出発原料としては、鉄酸化物または水酸化物を使用する。たとえばγ−ヘマタイト(γ−Fe23)、α−ヘマタイト(α−Fe23)、マグネタイト(Fe34)、ゲータイト(FeOOH)などが挙げられる。中でもマグネタイト粒子は、粒子サイズをコントロールがしやすいため、特に好ましい。
原料粒子の平均粒子サイズは、特に限定されないが、通常5〜50nmが好ましく、5〜30nmがより好ましい。この範囲のサイズのマグネタイト粒子を出発原料に用いると、窒化鉄粒子としたときに超高密度記録媒体に最適な粒子サイズの単層配列膜が得られる。
【0027】
例えばマグネタイト粒子は、2価の鉄塩と3価の鉄塩を所定の割合で含む水溶液にアルカリ溶液を加えて鉄の共沈水和物を生成させ、空気を吹き込みながらこの水和物を酸化させることによりマグネタイト粒子を合成することができる。マグネタイト粒子の粒子サイズは、鉄塩濃度やアルカリ濃度、酸化時の温度などによりコントロールできる。またこの水和共沈物に水熱処理を施すと、より粒子サイズ分布の良好なマグネタイト粒子を得ることができる。
希土類元素やホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどを含有させるには、このマグネタイト粒子を乾燥させることなく、分散液の状態でこれら元素の金属塩を添加し、アルカリ液を加えてマグネタイト粒子の表面にこれら元素の水酸化物を析出させることが好ましい。
【0028】
次に界面活性剤により、マグネタイト粒子の表面処理を行う。この表面処理は、水分散体の状態で行うこともできるが、有機溶媒に溶解する界面活性剤の種類がより豊富なこともあり、有機溶媒中で処理することが好ましい。この場合、マグネタイト粒子を水洗後、マグネタイト粒子を乾燥させることなく溶剤置換により有機溶媒分散体とすることが好ましい。例えば、水からエチルアルコールに置換し、さらにトルエンに置換し、最終的にトルエン分散体とすることができる。このトルエン中に分散したマグネタイト粒子に、例えばオレイン酸やステアリン酸などの界面活性剤を適量添加して、マグネタイト粒子の表面を界面活性剤で処理することができる。
【0029】
上述した状態のマグネタイト粒子は、トルエン溶媒中に凝集することなく均一に分散しており、この分散液をガラス板等の基板上に滴下すると、マグネタイト粒子がほぼ一定の間隔で単層配列した膜が得られる。
【0030】
このようにしてガラス基板上にマグネタイト粒子の単層配列膜を形成した後、ガラス基板ごと電気炉などの加熱装置に入れ、まず還元ガス気流中で加熱還元する。還元ガスは、特に限定されないが、水素ガスが好ましく使用される。還元温度は、好ましくは300〜450℃、より好ましくは350〜400℃である。還元温度が300℃より低くなると、還元反応が十分進まなくなり、また、450℃を超えると、マグネタイト粒子同士の融合成長が起こりやすくなり、粒子サイズが大きくなるため好ましくない。還元時間は、還元温度により異なるが、好ましくは1〜8時間である。還元時間が短すぎると、十分に金属鉄まで還元されず、また還元時間が長すぎると、粒子同士の融合成長が起こりやすくなる。
【0031】
次に、還元ガスを流した状態で、温度を110〜200℃まで降温する。この温度に達した後に、ガスを還元ガスから窒化ガス、例えばアンモニアに切り替え、窒化ガスを流しながら、窒化処理を行う。窒化温度が低すぎると、Fe162相の生成が不十分になり、高い保磁力を得にくくなる。一方窒化温度が高すぎると、Fe4NやFe3Nなどの相が生成しやすくなり、保磁力が低下しやすくなる。窒化時間は、6〜30時間が好ましい。窒化時間が短すぎると、十分に窒化が進まないため、高い保磁力を得にくくなる。窒化時間が長すぎても特に問題となることはないが、Fe162相の生成が飽和するため、効率が悪くなる。
【0032】
このようにして窒化鉄磁性粒子とした後、酸素を微量含有する窒素ガスを流して、窒化鉄粒子の表面を酸化させて、粒子表面に保護膜を形成することが好ましい。保護膜を形成させない状態で、空気中に取り出すと、窒化鉄粒子は急激に酸化して飽和磁化が低下する。
【0033】
この保護膜形成は、40〜100℃程度で、2〜24時間程度かけて行うことが好ましい。この条件で形成した保護膜は、窒化鉄粒子の表面で緻密な酸化膜となり、基板を空気中に取り出しても、その後に窒化鉄粒子のさらなる酸化を防止できる安定な性質を示す。
【0034】
上記の方法により、窒化鉄粒子が単層配列した磁性膜を得られるが、ハードディスク等の磁気記録媒体として使用する場合には、窒化鉄磁性膜上に、さらにダイヤモンドライクカーボン膜のような各種の保護膜を形成し、さらにこの保護膜上に潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0035】
またハードディスク等の磁気記録媒体として使用する場合には、目的に応じて窒化鉄磁性膜の下地層として非磁性中間膜や軟磁性膜を形成することが好ましい。このような下地層や保護層は特に限定されるものではなく、従来のハードディスク等で下地層として一般に使用されているものを使用できる。
【0036】
以下、本発明の実施例について、より具体的に説明する。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
(A)マグネタイト粒子の作製
鉄塩として塩化鉄を使用した。0.12モルの塩化第一鉄と0.2モルの塩化第二鉄を1000ccの水に溶解した。この鉄塩の水溶液に、25℃に保持した状態で攪拌しながら、NaOHの水溶液(濃度10wt%)をpHが10.0になるまで滴下し、鉄の水酸化物を析出させた。この懸濁液を25℃で約4時間攪拌した。次に、デカンテーションによりpHが8以下になるまで水洗した。その後、上澄水を除去し、アンモニア水によりpHを9.0に調節した。この懸濁液をオートクレーブに入れ、180℃で4時間水熱処理を行った。水熱処理後の分散液に、鉄に対してアルミニウムが4原子%になるようにアルミン酸ナトリウムを添加し、4時間攪拌した後、pHが8以下になるまでデカンテーションで水洗した。
【0038】
(B)界面活性剤処理
上記(A)で作製したマグネタイト粒子を濾過し、余分な水を除去した。水に濡れている状態のマグネタイト粒子を別の容器に移し替え、エチルアルコールを加えて再分散した。このエチルアルコール分散液を再度濾過し、エチルアルコールに濡れた状態のマグネタイト粒子を別の容器に移し替え、さらにエチルアルコールを加え、再度分散した。この操作を5回繰り返し、分散溶媒を水からエチルアルコールに置換した。
次にエチルアルコールに濡れた状態のマグネタイト粒子を別の容器に移し替え、トルエンを加えた。エチルアルコールへの分散と同様の操作を3回繰り返し、溶媒をエチルアルコールからトルエンに置換した。
このアルミニウム被着マグネタイト粒子のトルエン分散体を約4時間静置して沈降させ、上澄みトルエンを除去した。この懸濁液に、マグネタイト粒子に対して4wt%になるようにオレイン酸を添加し、1時間攪拌した。
【0039】
(C)マグネタイト単層配列膜の作製
上記マグネタイト粒子のトルエン分散液を、スポイドを使ってスライドガラス上に滴下し、分散液がガラス板上に一様に広がった状態で、40℃で約10時間放置して乾燥した。乾燥後は、オレイン酸を通してマグネタイト粒子がガラス板に固着した単層配列膜を得た。
図1にこのマグネタイト粒子の単層配列膜の電子顕微鏡写真を示す。平均粒子サイズが10nm程度のマグネタイト粒子が凝集することなく、ほぼ単層で配列していることがわかる。
(D)窒化鉄粒子単層配列膜の作製
上述したマグネタイト粒子の単層配列膜を、以下のようにして還元・窒化し、窒化鉄の単層配列膜を作製した。
マグネタイト粒子の膜を形成したスライドガラスを、管状電気炉に入れ水素気流(30ml/分)中370℃で8時間加熱還元して、マグネタイト粒子を金属鉄粒子に還元した。
次に水素ガスを流した状態で、140℃まで降温し、温度が140℃に達した時点で、水素ガスをアンモニアガスに切り替えた。アンモニアガスを100ml/分で流しながら、140℃で20時間窒化処理を行い、Fe162を主相として含む窒化鉄とした。その後、アンモニアガスを流しながら、60℃まで降温し、温度が60℃に達した時点で、アンモニアガスから酸素を1000ppm含有する酸素−窒素混合ガスに切り替え、60℃で2時間酸化安定化処理を行った。さらにこの混合ガスを流しながら室温まで降温し、室温で混合ガスを8時間流した後、空気中に取り出した。
【0040】
窒化鉄粒子とすることにより、マグネタイト粒子に比べて若干収縮して、平均粒子サイズが減少するが、窒化鉄粒子はほぼ単層配列している。
この窒化鉄粒子膜を基板ともにX線回折装置により構造解析すると、ブロードであるがFe162に相当する明瞭な回折線と、酸化被膜に相当するブロードな回折線が観測された。また窒化鉄としては、ほぼFe162単相で、その他の相はほとんど認められなかった。
【0041】
基板とともにこの窒化鉄膜に1274kA/m(16kOe)の磁界を印加して試料振動型磁力計を用いて測定した結果、保磁力は(258.7kA/m)3250Oeであった。またガラス基板から窒化鉄粒子を剥がし、窒化鉄粒子中の窒素およびアルミニウムの含有量を調べたところ、それぞれ鉄に対して6.2原子%および3.4原子%であった。
【0042】
(実施例2)
実施例1の(A)におけるマグネタイト粒子の作製方法において、水熱処理の温度を180℃から130℃に変更した以外は、実施例1と同様にしてマグネタイト粒子の分散液を作り、スライドガラス基板上にマグネタイト粒子の単層配列膜を作製した。このマグネタイト粒子は、実施例1のマグネタイト粒子に比べて若干小さく、平均粒子サイズは約8nmであった。
【0043】
このマグネタイト粒子の単層配列膜を実施例1と同様の方法で還元・窒化・安定化処理を行い窒化鉄粒子の単層配列膜を作製した。平均粒子サイズが8nmより小さくなった窒化鉄粒子が、実施例1と同様にほぼ単層配列している。
この窒化鉄粒子膜をX線回折により構造解析した結果、ブロードであるがFe162に相当する明瞭な回折線と、酸化被膜に相当するブロードな回折線が観測された。また窒化鉄としては、ほぼFe162単相であることがわかった。この窒化鉄膜の保磁力は、(229.2kA/m)2880Oeで、窒化鉄粒子中の窒素およびアルミニウムの含有量は、それぞれ鉄に対して4.8原子%および3.5原子%であった。
【0044】
(比較例1)
実施例1の(D)における窒化鉄粒子単層配列膜の作製において、窒化処理を省いた以外は、実施例1と同様にして単層配列膜を作製した。即ち、還元した後、窒化処理を行うことなく酸化安定処理を行った。この膜はX線回折で調べたところ、金属鉄にもとづくブロードな回折線と酸化被膜に相当するブロードな回折線が観測された。またこの金属鉄粒子は、平均粒子サイズが8nm程度で、重なることなくほぼ単層配列していたが、窒化していないため保磁力は(8.8kA/m)110Oeであり、著しく低い値であった。また粒子中の窒素およびアルミニウムの含有量は、それぞれ鉄に対して0原子%および3.4原子%であった。
【0045】
上記結果より明らかなように、実施例1、2の磁性膜は窒化鉄粒子が単層配列しており、かつ高密度磁気記録媒体に最適な高い保磁力を示す。一方比較例1の磁性膜は、単層配列した磁性膜は得られるが、保磁力が著しく小さく、高密度磁気記録媒体に適さないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1で使用したマグネタイト粒子をガラス基板上に単層配列した磁性膜の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に単層配列された磁性粒子を有する磁気記録媒体において、該磁性粒子が、少なくとも鉄および窒素を構成元素とし、かつ少なくともFe162相を含む、平均粒子サイズが5〜50nmの球状ないし楕円状の磁性粒子であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
磁性粒子中の鉄に対する窒素の割合が1.0〜20.0原子%である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
磁性粒子が希土類元素をさらに含有する請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
希類土元素がイットリウム、サマリウムおよびネオジムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
磁性粉末中の鉄に対する希土類元素の割合が0.05〜20.0原子%である請求項3または4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
磁性粉末がホウ素、シリコン、アルミニウムおよびリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有する請求項1〜5のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
磁性粉末中の鉄に対するホウ素、シリコン、アルミニウムおよびリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の割合が0.1〜20.0原子%である請求項6に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
基板がディスク状である請求項1〜7のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
基板の材質がガラスである請求項8記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
基板面内の任意の方向に測定した保磁力(Hc)が79.6〜398.0kA/m(1,000〜5,000Oe)である請求項1〜9のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
基板と磁性粒子単層膜の間に、非磁性中間膜および軟磁性膜からなる群から選ばれる少なくとも1つの膜をさらに有する請求項1〜10のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
さらに、磁性粒子単層膜の表面に形成された保護膜を有する請求項1〜11のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
基板上にγ−ヘマタイト(γ−Fe23)、α−ヘマタイト(α−Fe23)、マグネタイト(Fe34)およびゲータイト(FeOOH)からなる群から選ばれる少なくとも一種の粒子の分散液を塗布してこの粒子を基板上に単層配列させ、次いで、基板上に単層配列された粒子を300〜500℃の温度で加熱還元して粒子を金属鉄粒子に転化し、得られた金属鉄粒子を、窒化ガス雰囲気中、110〜200℃の温度で窒化して、基板上に単層配列された、少なくともFe162相を含む平均粒子サイズが5〜50nmの球状ないし楕円状の磁性粒子を得る工程を含んでなる、磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−204524(P2008−204524A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37594(P2007−37594)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】