磁気記録媒体
【課題】熱アシスト記録方式で情報の記録を行う磁気記録媒体において、媒体の加熱を効率的に行うことができ、レーザ光の照射径を実現できる磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体4にレーザ光を照射して媒体を部分的に加熱し、加熱により保磁力が低下した部分に外部から磁界を印加して記録を行う熱アシスト磁気記録方式に使用する磁気記録媒体4に、磁気記録媒体4の基板40側に設けられた放熱層41、磁気記録媒体4の表面側に設けられた記録層46、及び放熱層41と記録層46の間に設けられた熱保持層50を少なくとも設け、熱保持層50は、その実効屈折率が記録層46の実効屈折率より低屈折率であり、かつ、比熱、密度、熱伝導率で決まる温度拡散率が、ガラスより高く、金属よりも低い部材で構成した。温度拡散率が高い材料はポーラス構造、グラニュラ構造を用いて低くして使用することができる。
【解決手段】磁気記録媒体4にレーザ光を照射して媒体を部分的に加熱し、加熱により保磁力が低下した部分に外部から磁界を印加して記録を行う熱アシスト磁気記録方式に使用する磁気記録媒体4に、磁気記録媒体4の基板40側に設けられた放熱層41、磁気記録媒体4の表面側に設けられた記録層46、及び放熱層41と記録層46の間に設けられた熱保持層50を少なくとも設け、熱保持層50は、その実効屈折率が記録層46の実効屈折率より低屈折率であり、かつ、比熱、密度、熱伝導率で決まる温度拡散率が、ガラスより高く、金属よりも低い部材で構成した。温度拡散率が高い材料はポーラス構造、グラニュラ構造を用いて低くして使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は磁気記録媒体に関し、特に、熱アシスト記録用の磁気記録媒体の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体の記録容量を増大させるために、磁気記録媒体の高密度化が進んでいるが、高密度化が進むと、磁気的に記録したデータが周囲の熱の影響で消えてしまう熱揺らぎの問題が生じる。熱揺らぎの問題を回避するためには、記録媒体に用いる磁性材料の保持力を高める必要がある。ところが、磁性材料の保持力を高くしすぎると、既存の磁気ヘッドでは記録できなくなってしまう。熱アシスト記録方式は、レーザ光で記録媒体を加熱しながらデータを記録することにより、磁気記録媒体の熱揺らぎの問題を回避するものである。
【0003】
熱アシスト記録方式は、記録媒体の保護層を通して記録層にレーザ光を照射し、キュリー温度近傍まで記録層を加熱して保磁力を低下させて既存の磁気ヘッドで磁気記録を行う方式である。この方式では、レーザ光の照射停止後に記録層の温度が低下すると、記録層の保磁力が回復するので、熱揺らぎ耐性を持たせることができる。図1は、熱アシスト記録方式における、記録層の温度に対する保持力の関係を示している。装置使用時の温度がT2であり、T1がキュリー温度である。レーザ光の照射によってキュリー温度T1と装置温度T2の間で記録層の温度が変化し、保持力が変化する。
【0004】
熱アシスト記録方式で記録密度を向上させるには、ヘッドによる書き込み磁界のトラック幅方向の縮小と同時に、記録層のキュリー温度近傍に達する熱スポット径の微小化が必要である。ここで、熱スポット径を熱分布の半値全幅、光スポット径を光強度分布の半値全幅と定義すると、一般に熱スポット径は、光スポット径より大きい。これは、加熱されると同時に、熱が四方八方に拡散するためである。また熱スポット径は、熱源が記録媒体上を回転移動することによる移動速度や、構成材料の熱拡散に関する物理係数によって、サイズや形状が変動する。
【0005】
このような熱アシスト記録方式は、これまでに光磁気記録等のリムーバブル光ディスクに適用されていた。この時の光スポット径及び熱スポット径は、波長程度であった。一方、記録容量が光ディスクより高い1Tb/inch2を超える高密度大容量を目指すには、記録ビットが数十nm以下でなければならない。高密度大容量を実現するために磁気ディスクに要求される熱スポット径は、波長より微小な数十nm程度以下であり、光スポット径においては更に微小なサイズが要求される。このような光ディスクを応用した熱アシスト記録用の記録媒体の構造が特許文献1に、磁気ディスク用にした記録媒体構造が特許文献2に、垂直記録用に裏打ち層も考慮した記録媒体の構造が特許文献3に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−56504号(図2)
【0007】
【特許文献2】特開2008−210447号(図3)
【0008】
【特許文献3】特開2005−317178(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、このような熱アシスト記録方式では、波長以下の微小な光スポットを発生させる光ヘッドは、光スポット径を波長以下に縮小する程記録媒体に照射する光量が減少するという問題点がある。そこで、光量の減少問題を改善するために記録媒体では、(1)記録層で効率よく熱を発生させること、及び(2)記録層で必要な温度に到達した熱分布の径を縮小することが重要である。そして、記録層で効率よく熱を発生させるためには、(1A)光を効率良く熱に変換すること、及び(1B)記録層に供給する光量を増やすことが考えられる。
【0010】
(1A)を実現するためには、記録層の材料に複素屈折率の大きな材料を使用すれば良いことが知られている。また、(1B)を実現するためには、記録層の下方に干渉層と、干渉層の記録層と反対側に反射層を入れれば良いことが分かっている。この干渉層には一般に高屈折率材料が用いられており、反射層にはアルミニウムや金が用いられている。しかし、熱アシスト記録方式ではこの方法が使用できない。その理由は、干渉させるには、波長の1/2程度の光路差が必要である。例えば、記録装置に使用される光源では、波長が400nmの青色半導体レーザの波長が最短である。したがって光路差は、200nmとなる。しかし、磁気ディスクに適用する熱アシスト記録方式に必要な光スポット径は、波長の1/10程度の数十nm程度以下にする必要があり、サイズが合わない。このため干渉層を入れて光量を増加できないといった課題がある。
【0011】
一方、(2)を実現するには、熱が拡散しにくくする必要がある。しかし熱を拡散しにくくすると冷却が遅くなってしまう。熱アシスト記録方式では、記録媒体を急速に加熱した後に、急速に冷却しなければならないので、熱が記録トラック方向や表面の四方に広がらずに下方に逃げるような、熱の拡散に方向性を持たせる方が良い。
【0012】
図2は特許文献2に示される記録媒体4の構成を示すものである。記録媒体4は、ガラス基板40の上に、放熱層41、下地層(中間層)43、下層記録層46Lと上層記録層46Uからなる記録層46,保護層47及び潤滑層48が積層されて構成されている。図3は特許文献3に示される記録媒体4の構成を示すものである。記録媒体4は、ガラス基板40の上に、放熱層41、軟磁性裏打ち層42、熱障壁層44、放熱層45、記録層46、及び保護層47が積層されて構成されている。
【0013】
図2に示す特許文献2や、図3に示す特許文献3では、比熱、密度、熱伝導率が変数である温度拡散率が、例えば鉄よりも数倍ほど大きいアルミニウムや銅等の放熱層41を記録層46の下側に配置し、横方向より下側に多くの熱を逃がすことで、記録層46の熱スポット径縮小を図っていた。しかし記録層46で必要な温度を得るには、放熱層41に熱を逃がす程度によって光量を増加させる必要があった。この光量増加問題を改善する他の方法に、熱スポットの広がりを考慮しながら加熱温度を上昇させる方法がある。例えば特許文献3では、誘電体材料の例えば二酸化シリコン〔SiO2〕等の酸化物を用いた断熱層もしくは熱障壁層44を記録層46と放熱層41の間に挿入している。しかし、酸化物のような断熱効果が大きい材料を配置することは、熱が下方向に逃げず、横方向に拡散することになるため、熱スポットの縮小に反してしまう。
【0014】
また、垂直磁気記録の記録媒体4は、図4に示すような構成をしている。記録媒体4は、ガラス基板40の上に、軟磁性裏打ち層42、中間層43、記録層46、保護層47及び潤滑層48が積層されて構成されている。図4は単純化されているが、実際の各層は多層化されている。熱アシスト記録方式に垂直磁気記録方式を適用する場合は、記録層46の下に中間層43や軟磁性裏打ち層42が必要である。この裏打ち層42は、垂直磁気記録ヘッドから発生する漏れ磁束を、媒体に効率よく引き込むものであり、記録層46から離れるほど効果が小さくなるので、図2のような光ディスク用の記録媒体4の構造が適用できないといった課題がある。また、図3の構成では、記録層46と裏打ち層42の間に放熱層45と熱障壁層44が挿入されていることで効果が小さくなるという課題がある。
【0015】
そこで本出願は、水平磁気記録並びに垂直磁気記録に係わらず、熱アシスト記録方式で情報の記録を行う磁気記録媒体において、キュリー温度に到達できる加熱を効率的に行うことができ、かつ数十nm以下の微小な熱スポット径を実現できる、磁気記録媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本出願の磁気記録媒体は、磁気記録媒体にレーザ光を照射し、磁気記録媒体のレーザ光の照射部分を加熱してその保磁力を低下させ、保持力が低下した部分に外部から磁界を印加して記録を行う熱アシスト磁気記録方式に使用する磁気記録媒体であって、磁気記録媒体の基板側に設けられた放熱層、磁気記録媒体の表面側に設けられた記録層、及び放熱層と記録層の間に設けられた熱保持層を備え、熱保持層は、その実効屈折率が記録層の実効屈折率より低屈折率であり、かつ、比熱、密度、熱伝導率で決まる温度拡散率が、ガラスより高く、金属よりも低い部材で構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本出願によれば、水平磁気記録並びに垂直磁気記録に係わらず、熱アシスト記録方式で情報の記録を行う磁気記録媒体において、キュリー温度に到達できる加熱を効率的に行うことができ、かつ数十nm以下の微小な熱スポット径を実現でき、光ヘッドから照射される光量を低減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】熱アシスト記録方式における、記録層の温度に対する保持力の関係を示す特性図である。
【図2】従来の磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
【図3】従来の磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
【図4】従来の磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
【図5】(a)は磁気記録媒体を備えたハードディスク装置の概略構成を示す斜視図、(b)は(a)の一部を部分的に拡大して示す部分拡大平面図である。
【図6】(a)は図2(a)、(b)に示したサスペンションの先端部に取り付けられたヘッドスライダの一実施例の構成を示す断面図、(b)は(a)の部分拡大断面図である。
【図7】この出願の磁気記録媒体の第1の形態の構成を示す断面図である。
【図8】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第1の実施例の構成を説明する構成図である。
【図9】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第2の実施例の構成を説明する構成図である。
【図10】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第3の実施例の構成を説明する構成図である。
【図11】この出願の磁気記録媒体の第2の形態の構成を示す断面図である。
【図12】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第4の実施例の構成を説明する構成図である。
【図13】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第5の実施例及び記録層の構成を説明する構成図である。
【図14】図13に示した磁気記録媒体の熱保持層、中間層、及び記録層の構成を説明する組立斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を用いて本出願の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。なお、磁気記録媒体の構成において、既に説明した磁気記録媒体と同じ構成部材には同じ符号を付して説明する。
【0020】
図5(a)はディスク状の磁気記録媒体4を使用する記憶装置である、ロード/アンロード方式のHDD(ハードディスク装置)1の一実施例の構成を示すものである。また、図1(b)は図1(a)に示されるHDD1にあるヘッドスライダ15の位置を示すものである。磁気記録媒体4は複数枚設けられることもあり、HDD1のベース2の上の一方の側に設けられたスピンドルモータ3によって回転する。
【0021】
HDD1のベース2の上の他方の側には、回転軸6を中心にしてスイングするスイングアーム5と、このスイングアーム5を駆動するボイスコイルモータ7、及び信号処理基板13がある。スイングアーム5の先端部にはサスペンション14があり、このサスペンション14には、磁気記録媒体4にアクセスしてデータの読み書きを行うヘッドを備えるヘッドスライダ15が取り付けられている。
【0022】
また、ロード/アンロード方式のHDD1では、アンロード時にはヘッドを磁気記録媒体4の外側に退避させる。このため、ロード/アンロード方式のHDD1には、磁気記録媒体4の外周部近傍のベース2の上に、サスペンション14の先端部を保持するランプ機構10がある。ランプ機構10には、サスペンション14の先端部に設けられたリフトタブ9を保持するためのランプ11がある。ランプ機構10は磁気記録媒体4の外側のベース2の上に設けられる。
【0023】
ヘッドスライダ15が設けられたサスペンション14の先端部には、スイングアーム5をランプ11に保持させるためのリフトタブ9がある。ランプ11のスイングアーム側の面は、スイングアーム5の回転軌跡Tに合わせて円周面となっている。このため、リフトタブ9は、スイングアーム5の回転によってランプ11の上に乗り上げ、磁気記録媒体4の外部でランプ11によって保持される。ランプ機構10の本体12は、ネジ8によってベース2に固定される。
【0024】
図6(a)は、図5(a)、(b)に示したサスペンション14の先端部に取り付けられたヘッドスライダ15の一実施例の構成を示す断面図であり、図6(b)は図6(a)の部分拡大断面図である。この実施例では、磁気記録媒体4を局部的に加熱する加熱手段として、レーザ光が用いられている。レーザ光の発生源については公知であるので説明を省略するが、レーザ光の発生源は、例えば図5(a)の信号処理基板13等に設けられており、レーザ光の発生源から出射されたレーザ光は、光ファイバでスイングアーム5を経てサスペンション14に導かれる。また、記録時に、磁気記録媒体4を局部加熱するために、パルス電源やパルス変調回路を信号処理基板13に備えても良い。
【0025】
図6(a)にはこのレーザ光を導く光ファイバ16がサスペンション14の下部に設置された状態が示されている。この実施例では、サスペンション14の先端部にカップリングレンズ17を介してヘッドスライダ15が取り付けられており、光ファイバ16はこのカップリングレンズ17に接続されている。ヘッドスライダ15にはその詳細を図6(b)に示す磁気ヘッド20が設けられており、磁気ヘッド20の先端側にカップリングレンズ17に接続された光導波路18が設けられている。光導波路18の先端部には、SiとSiO2 等で積層された多層膜29が設けられており、多層膜29がヘッドスライダ15の浮上面に露出している。光導波路18を通るレーザ光は、この多層膜29を通じて縮小された光スポットが磁気記録媒体4に向けて出射され、符号Hで示すように磁気記録媒体4を部分的に加熱する。レーザ光を照射する多層膜29の部分は光ヘッドとも呼ばれる。
【0026】
図6(b)に示すように、磁気ヘッド20は、記録ヘッド部21、再生ヘッド部25及び光ヘッド29の3つのヘッド部から構成されている。記録ヘッド部21は磁極励磁用コイル22、書き込み用磁極23、及びヨーク24から構成されている。この図に示す太線Mが、記録時の磁束の流れを示している。再生ヘッド部25は2つのシールド層26,27に挟まれた再生素子28を備えている。再生素子28には磁気抵抗効果素子(MRヘッド)が使用されることが多かったが、現在は再生感度と記録密度が更に大きい巨大磁気抵抗効果素子(GMRヘッド)やトンネル磁気抵抗効果型の素子(TMRヘッド)が使用されている。光導波路18と光ヘッド29は、書き込み用磁極23に隣接して設けられている。
【0027】
以上のように構成された熱アシスト記録方式のHDD1においては、磁気記録媒体4として、記録層で効率よく熱を発生させる点と、記録層で必要な温度に到達した熱分布の径を縮小する点が重要である。本発明者らは、記録層の下の数十nm程度以下の距離に配置した層の屈折率(n)が小さいほど、記録層内の電界強度を増加できることを計算によって見出した。そこで、屈折率の小さい材料を記録層の下に配置して、記録層に供給する光量を増加させると、記録層で効率よく熱を発生させることができた。
【0028】
また、温度拡散率の小さい酸化物による断熱層で熱分布を広げず、金属のような温度拡散率の大きな放熱層で熱が逃げ過ぎて光量増加とならないように、温度拡散率が小さい酸化物と温度拡散率が大きい金属の間に位置する材料層を、記録層の下方に配置した。このように、屈折率が小さい材料と温度拡散率が中程度を同時に実現した熱保持層を、記録層の下に配置することにより、記録層に供給する光量を増加させて、記録層で効率よく熱を発生させることができた。ここで、温度拡散率が中程度とは、温度拡散率がガラスよりも高く、金属よりも低い程度のことを言う。以上に基づき、以下にこの出願における磁気記録媒体の具体的な実施例の構成を説明する。なお、以下の説明においては、水平記録用の磁気記録媒体の構成を第1の形態、垂直記録用の磁気記録媒体の構成を第2の形態とする。
【0029】
図7は、本出願における第1の形態の磁気記録媒体4の構成を示すものである。第1の形態では、磁気記録媒体4の支持基板40の上に、放熱層41、熱保持層50、中間層43、記録層46、保護層47、及び潤滑層48がこの順に積層されている。潤滑層48が光ヘッド29を搭載した磁気ヘッド20(図6参照)に対向する面となる。光ヘッドからのレーザ光は、潤滑層48と保護層47を透過して記録層46に照射される。したがって、潤滑層48や保護層47は、照射されるレーザ光に対して透明とすれば良いが、この実施例では潤滑層48に有機材料系、保護層47にDLC(ダイアモンド・ライク・カーボン)を使用しており、必ずしも透明でない。これは、潤滑層48と保護層47が数nm程度の厚さであるため、光の吸収が無視できるからである。なお、照射するレーザ光は、例えば、波長λ=400nmのレーザ光である。
【0030】
記録層46には、磁気特性、複素屈折率n*=nr−niにおけるnr・niが大きい光学特性、及び温度拡散率が小さい温度特性、の3つの特性を満足する材料を使用する。ここで、nrは屈折率、niは減衰係数である。しかし、図7に示すような平面の連続膜構造において、この3つの特性を同時に満足する材料の選定が難しい。しかし、温度拡散率は、記録層46の構造で向上することができる。例えば、ビットパターンド媒体のように記録ビットごとに、温度拡散率が小さい酸化物や空気層で断絶することで、マクロ的に温度拡散率を低減することができる。またビットパターン化することにより、光ヘッドからの照射光が局在化し、光スポットが縮小できることが知られている。なお、記録層46は、複数層で構成されているのが一般的である。ここでは記録層の材料については、趣旨でないため説明を省略するが、記録層46は、例えばコバルト〔Co〕(n*=1.6−2.75j @400nm、α=2.7E−7)で構成することができる。ここで、jは複素数、@400nmは波長400nmにおけるαの値、2.7E−7は2.7のマイナス7乗を示す。
【0031】
基板40は、磁気ディスク装置用の磁気記録媒体4では、アルミニウムやガラスが使用される。本願の磁気記録媒体4では基板40にガラスを使用している。放熱層41は、熱保持層50と基板40の間にある連続膜であり、温度拡散率αは、(放熱層41のα>記録層46のα≧熱保持層50のα)の関係となっている。温度拡散率αが大きい材料としては、アルミニウム〔Al〕(α=9.4E−5)、銅〔Cu〕(α=1.2E−4)、金〔Au〕(α=1.3E−4)等の金属がある。
【0032】
屈折率が小さい材料と温度拡散率が中程度を同時に実現する熱保持層50は、記録層46と基板40の間に配置している。そしてこの熱保持層50には、屈折率がn<1となる材料を用いている。屈折率がn<1の材料としては、インジウム〔In〕(n*=0.48−3.878j @ 400nm、α=4.8E−5)や、高温アニールした窒化ジルコニウム〔ZrN〕(0.99−0.01j @ 400nm、α=不明)を用いることができる。
【0033】
熱保持層50に用いるInや、高温アニールしたZrNは特殊な材料である。これらの特殊な材料以外には、Al(n*=0.4−4.45j @ 400nm α=9.4E−5)や、Cu(n*=0.86−1.98j @ 400nm α=1.2E−4)等の金属、もしくはこれらを含む合金を一般的に使用することができる。しかし、Al、Cu、或いはこれらを含む合金は、金属材料として温度拡散率αが大きい。
【0034】
そこで、第1の実施例では、熱保持層50を、図8に示すように、金属材料51を、気孔52の周辺部に形成させたポーラス構造にした。熱保持層50のポーラス構造の作成方法は、溶融金属に直接ガスを吹き込むガスインジェクション法や、液体から固体へ変化する時の溶融金属に含むガスの溶解度差を利用して気泡を発生させる一方向凝固法等があり、これらの方法で構造を作成後、化学機械研磨法(CMP)で平坦化し、その後に記録層の作成プロセスに移行するといった方法である。
【0035】
このようにして金属材料の密度ρを低下させることにより、熱伝導率kと熱容量(Cp・ρ)が低下する(Cpは比熱)。熱伝導率kは、経験的に密度変化量の1.6〜1.8乗とされる。つまり密度変化量が0.5ならば熱伝導率αは、0.33〜0.29=(0.5の1.6〜1.8乗)だけ変化することになる。例えば、低屈折率であるAlの密度を42%にすると、Coと同等の熱伝導率となり、Alの密度を27%にするとCoの半分の熱伝導率となる。このように熱容量より熱伝導率の減少が大きいので、密度を変えることにより温度拡散率も低下させることができる。すなわち、記録層46からの温度の低下を抑制することができて、必要なキュリー温度に記録層46を加熱できる。
【0036】
このように、第1の実施例では、熱保持層50を構成する金属材料として、屈折率は小さく(n<1)、温度拡散率αが大きいAl、Cu、或いはこれらを含む合金を使用する。合金にはAuを含めても良い。そして、図8に示すように、これらの金属材料51をポーラス構造にすることにより、温度拡散率αを中程度にした。この結果、屈折率が小さく、かつ温度拡散率が中程度を同時に実現した熱保持層50を記録層46に下に配置することができ、記録層46に供給する光量が増加して、記録層46で効率よく熱を発生させることができた。
【0037】
この出願の第2の実施例の磁気記録媒体4の構成は図7に示した構成を備えており、以上説明した第1の実施例とは、熱保持層50の構成のみが異なる。よって、第2の実施例では熱保持層50の構成のみを説明する。
【0038】
図9は、第2の実施例の熱保持層50の構造を示すものである。第2の実施例では、屈折率がn<1で、温度拡散率αが大きいAlやCu等の金属材料54を、酸化物系の酸化物材料53で孤立させたグラニュラー構造にしている。酸化物材料53は、SiO2(n*=1.47−0.0j @ 400nm, α=5.8E−7)や五酸化タンタル〔Ta2O5〕(n*=2.23−0.0j @ 400nm α=2.3E−6)等の誘電体材料である。n<1の金属材料54と酸化物材料53の比率を変えることにより、実効的な屈折率と、密度の変化による温度拡散率αを低下させている。AlやCuを酸化物で孤立させるのは、構造による温度拡散率αを小さくするためである。
【0039】
熱保持層50のグラニュラー構造の作成方法は、例えば、以下の通りである。まず、金属膜を成膜後、電子ビーム描画装置でパターニングする。次に、RIE(反応性イオンエッチング)やイオンミリング装置でパターニングし、その後に酸化物を成膜する。更に、化学機械研磨法(CMP)で平坦化してから、記録層46の作成プロセスに移行する。
【0040】
このように、第2の実施例では、熱保持層50を構成する金属材料として、屈折率がn<1で、温度拡散率αが大きいAlやCu等の金属材料54を、酸化物系の酸化物材料53で孤立させたグラニュラー構造にして温度拡散率αを中程度にした。この結果、屈折率が小さく、かつ温度拡散率が中程度を同時に実現した熱保持層50を記録層46に下に配置することができ、記録層46に供給する光量が増加して、記録層46で効率よく熱を発生させることができた。
【0041】
この出願の第3の実施例の磁気記録媒体4の構成は図7に示した構成を備えており、以上説明した第1、第2の実施例とは、熱保持層50の構成のみが異なる。よって、第3の実施例では熱保持層50の構成のみを説明する。
【0042】
図10は、第3の実施例の熱保持層50の構造を示すものである。第3の実施例では、屈折率がn<1で、温度拡散率αが大きいAlやCu等の金属材料54に、円柱状の中空の穴55を作ったグラニュラー構造にしている。第3の実施例では、n<1の金属材料54の密度を中空の穴55を設けることによって変えることにより、実効的な屈折率と、密度の変化による温度拡散率αを低下させている。
【0043】
第3の実施例でも、屈折率が小さく、かつ温度拡散率が中程度を同時に実現した熱保持層50を記録層46に下に配置することができ、記録層46に供給する光量が増加して、記録層46で効率よく熱を発生させることができた。
【0044】
次に、本出願における第2の形態の垂直記録用の磁気記録媒体4の構成を、図11を用いて説明する。垂直磁気記録に適用する磁気記録媒体4は、記録層46の下に中間層43と軟磁性裏打ち層60が必要である。従って、第2の形態では、磁気記録媒体4の支持基板40の上に、放熱層41、熱保持層(裏打ち層)60、中間層43、記録層46、保護層47、及び潤滑層48をこの順に積層した。潤滑層48が光導波路18を搭載した磁気ヘッド20(図6参照)に対向する面となる。潤滑層48、保護層47、記録層46、中間層43、放熱層41及び基板願40の構成は第1の形態と同じであるので、ここではこれらの説明を省略する。また、照射するレーザ光は、例えば、波長λ=400nmのレーザ光である。
【0045】
第2の形態の磁気記録媒体4における熱保持層60は、第1の形態における熱保持層50において必要であった、材料の屈折率が小さいという条件と、温度拡散率が中程度であるという2つの条件に加え、熱保持層60の材料が軟磁性材料であることが必要である。そのために熱保持層60には、屈折率は低いが温度拡散率が高い金属材料や、屈折率が中程度で温度拡散率が低い酸化物材料をそのまま成膜して使うことができない。そこで、第2の形態においても、屈折率が低く温度拡散率が高い金属材料を、ポーラス構造や、金属と酸化物を用いたグラニュラー構造にすることにより、温度拡散率を下げる。この第2の形態の熱保持層60の構成を、以下に第4と第5の実施例として説明する。
【0046】
図12は、この出願の第4の実施例の熱保持層60の構造を示すものである。第4の実施例では、熱保持層60を軟磁性裏打ち層とするために、屈折率がn>1である鉄〔Fe〕、ニッケル〔Ni〕等を含有する軟磁性材料、例えばニッケル鉄〔FeNi〕等を積層している。ここで、Fe(n*=2.87−3.27j @ 400nm, α=2.3E−5)、Ni(n*=1.44−2.44j @ 400nm、 α=2.3E−5)、Co(n*=1.6−2.75j @ 400nm、 α=2.7E−7)である。
【0047】
また、軟磁性裏打ち層は、スパイクノイズとよばれる磁壁に起因する大きなノイズが問題となるので、一般に単独層では使用せず、磁区制御をする、例えば数nmのルテニウム〔Ru〕を複数積層して使用する。また、軟磁性裏打ち層は、100nm以上の厚さとする。このように軟磁性裏打ち層は厚く、多層構造をしている。そこで、熱アシスト記録方式における光量増加をさせるために、軟磁性層の屈折率をn<1にする。
【0048】
第4の実施例では、図12に示すように、屈折率がn<1であり、磁気的には透明なAlやCu等の金属材料54を、軟磁性材料61を用いて孤立させたグラニュラー構造とした。これにより金属材料54の屈折率を実効的に低下させている。AlやCuを孤立させるのは、AlやCuの温度拡散率αが軟磁性材料より大きいので、軟磁性材料を孤立させると、温度拡散率が大きくなるためである。
【0049】
第4の実施例でも、屈折率が小さく、かつ温度拡散率が中程度である、を同時に実現した熱保持層60を記録層46に下に配置することができ、記録層46に供給する光量が増加して、記録層46で効率よく熱を発生させることができた。
【0050】
図13と図14は、この出願における第5の実施例の熱保持層60の構造を示すものである。第5の実施例では、熱保持層60のグラニュラー構造における孤立させた材料64と、記録層46における記録トラック62の位置関係を規定している。第5の実施例では、磁気記録媒体4を平面視した時に、熱保持層60において孤立させた材料64が、熱保持層60の上の層の記録層46における記録トラック62と重ならないようにしている。63は記録トラック62のビットである。
【0051】
このように、磁気記録媒体4の厚さ方向において、記録トラック62を横切らないように、孤立材料64を熱保持層60に配置したことにより、記録トラック62方向での温度分布を軽減することができた。また、孤立材料64を温度拡散率αが大きい材料にすることで、記録トラック62の間(クロストラック方向)の温度上昇を低下させることができ、クロストラックイレーズを軽減することができる。
【0052】
以上、本出願を特にその好ましい実施の形態を参照して詳細に説明した。本出願の容易な理解のために、本出願の具体的な形態を以下に付記する。
【0053】
(付記1) 磁気記録媒体に光を照射し、前記磁気記録媒体の光の照射部分を加熱してその保磁力を低下させ、保持力が低下した部分に外部から磁界を印加して記録を行う熱アシスト磁気記録方式に使用する磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体の基板側に設けられた放熱層、
前記磁気記録媒体の表面側に設けられた記録層、及び
前記放熱層と前記記録層の間に設けられた熱保持層を備え、
前記熱保持層は、その実効屈折率が前記記録層の実効屈折率より低屈折率であり、かつ、比熱、密度、熱伝導率で決まる温度拡散率が、ガラスより高く、金属よりも低い部材で構成したことを特徴とする磁気記録媒体。
(付記2) 前記熱保持層を構成する部材の温度拡散率は、この熱保持層を構成する材料間の比率や密度を変更する温度拡散率変更手段を用いて、ガラスより高く、金属よりも低くしたことを特徴とする付記1に記載の磁気記録媒体。
(付記3) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、密度を変更可能なポーラス構造を用いたことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記4) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料と酸化物系の誘電体材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、材料間の比率を変更可能な、非磁性材料を酸化物系の誘電体材料で孤立させたグラニュラー構造を用いたことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記5) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料に中空の穴がある材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、密度を変更可能なグラニュラー構造を用いたことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
【0054】
(付記6) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料と軟磁性材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、材料間の比率を変更可能な、非磁性材料を軟磁性材料で孤立させたグラニュラー構造を用いたことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記7) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、軟磁性材料を屈折率がn<1の材料と合金化した材料を使用したことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記8) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、アニール処理により屈折率をn≦1にしたZrN、もしくはInの連続した単層膜を使用したことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記9) 屈折率がn<1の前記非磁性材料が、Al、Cu,Auの少なくとも1つを含む材料であることを特徴とする付記3から6の何れかに記載の磁気記録媒体。
(付記10) 前記グラニュラー構造において、孤立させる材料は、磁気記録媒体の記録層の記録トラックを、前記磁気記録媒体の厚さ方向において横切らない位置に配置したことを特徴とする付記4から6の何れかに記載の磁気記録媒体。
【0055】
(付記11) 前記光はレーザ光であることを特徴とする付記1から10の何れかに記載の磁気記録媒体。
(付記12) 前記磁気記録媒体が水平記録用の磁気記録媒体であることを特徴とする付記3から5の何れかに記載の磁気記録媒体。
(付記13) 前記磁気記録媒体が垂直記録用の磁気記録媒体であることを特徴とする付記6から8の何れかに記載の磁気記録媒体。
(付記14) 付記1から13の何れかの磁気記録媒体で構成した磁気ディスク。
(付記15) 付記14に記載の磁気ディスクを使用したハードディスク装置。
【符号の説明】
【0056】
1 ハードディスク装置
4 磁気記録媒体
18 光導波路
20 磁気ヘッド
29 多層膜(光ヘッド)
40 ディスク基板
41 放熱層
42 軟磁性裏打ち層
46 記録層
50、60 熱保持層
51 金属
52 気孔
53 酸化物材料
54 n<1の金属材料
61 軟磁性材料
62 記録トラック
64 孤立材料
【技術分野】
【0001】
本出願は磁気記録媒体に関し、特に、熱アシスト記録用の磁気記録媒体の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体の記録容量を増大させるために、磁気記録媒体の高密度化が進んでいるが、高密度化が進むと、磁気的に記録したデータが周囲の熱の影響で消えてしまう熱揺らぎの問題が生じる。熱揺らぎの問題を回避するためには、記録媒体に用いる磁性材料の保持力を高める必要がある。ところが、磁性材料の保持力を高くしすぎると、既存の磁気ヘッドでは記録できなくなってしまう。熱アシスト記録方式は、レーザ光で記録媒体を加熱しながらデータを記録することにより、磁気記録媒体の熱揺らぎの問題を回避するものである。
【0003】
熱アシスト記録方式は、記録媒体の保護層を通して記録層にレーザ光を照射し、キュリー温度近傍まで記録層を加熱して保磁力を低下させて既存の磁気ヘッドで磁気記録を行う方式である。この方式では、レーザ光の照射停止後に記録層の温度が低下すると、記録層の保磁力が回復するので、熱揺らぎ耐性を持たせることができる。図1は、熱アシスト記録方式における、記録層の温度に対する保持力の関係を示している。装置使用時の温度がT2であり、T1がキュリー温度である。レーザ光の照射によってキュリー温度T1と装置温度T2の間で記録層の温度が変化し、保持力が変化する。
【0004】
熱アシスト記録方式で記録密度を向上させるには、ヘッドによる書き込み磁界のトラック幅方向の縮小と同時に、記録層のキュリー温度近傍に達する熱スポット径の微小化が必要である。ここで、熱スポット径を熱分布の半値全幅、光スポット径を光強度分布の半値全幅と定義すると、一般に熱スポット径は、光スポット径より大きい。これは、加熱されると同時に、熱が四方八方に拡散するためである。また熱スポット径は、熱源が記録媒体上を回転移動することによる移動速度や、構成材料の熱拡散に関する物理係数によって、サイズや形状が変動する。
【0005】
このような熱アシスト記録方式は、これまでに光磁気記録等のリムーバブル光ディスクに適用されていた。この時の光スポット径及び熱スポット径は、波長程度であった。一方、記録容量が光ディスクより高い1Tb/inch2を超える高密度大容量を目指すには、記録ビットが数十nm以下でなければならない。高密度大容量を実現するために磁気ディスクに要求される熱スポット径は、波長より微小な数十nm程度以下であり、光スポット径においては更に微小なサイズが要求される。このような光ディスクを応用した熱アシスト記録用の記録媒体の構造が特許文献1に、磁気ディスク用にした記録媒体構造が特許文献2に、垂直記録用に裏打ち層も考慮した記録媒体の構造が特許文献3に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−56504号(図2)
【0007】
【特許文献2】特開2008−210447号(図3)
【0008】
【特許文献3】特開2005−317178(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、このような熱アシスト記録方式では、波長以下の微小な光スポットを発生させる光ヘッドは、光スポット径を波長以下に縮小する程記録媒体に照射する光量が減少するという問題点がある。そこで、光量の減少問題を改善するために記録媒体では、(1)記録層で効率よく熱を発生させること、及び(2)記録層で必要な温度に到達した熱分布の径を縮小することが重要である。そして、記録層で効率よく熱を発生させるためには、(1A)光を効率良く熱に変換すること、及び(1B)記録層に供給する光量を増やすことが考えられる。
【0010】
(1A)を実現するためには、記録層の材料に複素屈折率の大きな材料を使用すれば良いことが知られている。また、(1B)を実現するためには、記録層の下方に干渉層と、干渉層の記録層と反対側に反射層を入れれば良いことが分かっている。この干渉層には一般に高屈折率材料が用いられており、反射層にはアルミニウムや金が用いられている。しかし、熱アシスト記録方式ではこの方法が使用できない。その理由は、干渉させるには、波長の1/2程度の光路差が必要である。例えば、記録装置に使用される光源では、波長が400nmの青色半導体レーザの波長が最短である。したがって光路差は、200nmとなる。しかし、磁気ディスクに適用する熱アシスト記録方式に必要な光スポット径は、波長の1/10程度の数十nm程度以下にする必要があり、サイズが合わない。このため干渉層を入れて光量を増加できないといった課題がある。
【0011】
一方、(2)を実現するには、熱が拡散しにくくする必要がある。しかし熱を拡散しにくくすると冷却が遅くなってしまう。熱アシスト記録方式では、記録媒体を急速に加熱した後に、急速に冷却しなければならないので、熱が記録トラック方向や表面の四方に広がらずに下方に逃げるような、熱の拡散に方向性を持たせる方が良い。
【0012】
図2は特許文献2に示される記録媒体4の構成を示すものである。記録媒体4は、ガラス基板40の上に、放熱層41、下地層(中間層)43、下層記録層46Lと上層記録層46Uからなる記録層46,保護層47及び潤滑層48が積層されて構成されている。図3は特許文献3に示される記録媒体4の構成を示すものである。記録媒体4は、ガラス基板40の上に、放熱層41、軟磁性裏打ち層42、熱障壁層44、放熱層45、記録層46、及び保護層47が積層されて構成されている。
【0013】
図2に示す特許文献2や、図3に示す特許文献3では、比熱、密度、熱伝導率が変数である温度拡散率が、例えば鉄よりも数倍ほど大きいアルミニウムや銅等の放熱層41を記録層46の下側に配置し、横方向より下側に多くの熱を逃がすことで、記録層46の熱スポット径縮小を図っていた。しかし記録層46で必要な温度を得るには、放熱層41に熱を逃がす程度によって光量を増加させる必要があった。この光量増加問題を改善する他の方法に、熱スポットの広がりを考慮しながら加熱温度を上昇させる方法がある。例えば特許文献3では、誘電体材料の例えば二酸化シリコン〔SiO2〕等の酸化物を用いた断熱層もしくは熱障壁層44を記録層46と放熱層41の間に挿入している。しかし、酸化物のような断熱効果が大きい材料を配置することは、熱が下方向に逃げず、横方向に拡散することになるため、熱スポットの縮小に反してしまう。
【0014】
また、垂直磁気記録の記録媒体4は、図4に示すような構成をしている。記録媒体4は、ガラス基板40の上に、軟磁性裏打ち層42、中間層43、記録層46、保護層47及び潤滑層48が積層されて構成されている。図4は単純化されているが、実際の各層は多層化されている。熱アシスト記録方式に垂直磁気記録方式を適用する場合は、記録層46の下に中間層43や軟磁性裏打ち層42が必要である。この裏打ち層42は、垂直磁気記録ヘッドから発生する漏れ磁束を、媒体に効率よく引き込むものであり、記録層46から離れるほど効果が小さくなるので、図2のような光ディスク用の記録媒体4の構造が適用できないといった課題がある。また、図3の構成では、記録層46と裏打ち層42の間に放熱層45と熱障壁層44が挿入されていることで効果が小さくなるという課題がある。
【0015】
そこで本出願は、水平磁気記録並びに垂直磁気記録に係わらず、熱アシスト記録方式で情報の記録を行う磁気記録媒体において、キュリー温度に到達できる加熱を効率的に行うことができ、かつ数十nm以下の微小な熱スポット径を実現できる、磁気記録媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本出願の磁気記録媒体は、磁気記録媒体にレーザ光を照射し、磁気記録媒体のレーザ光の照射部分を加熱してその保磁力を低下させ、保持力が低下した部分に外部から磁界を印加して記録を行う熱アシスト磁気記録方式に使用する磁気記録媒体であって、磁気記録媒体の基板側に設けられた放熱層、磁気記録媒体の表面側に設けられた記録層、及び放熱層と記録層の間に設けられた熱保持層を備え、熱保持層は、その実効屈折率が記録層の実効屈折率より低屈折率であり、かつ、比熱、密度、熱伝導率で決まる温度拡散率が、ガラスより高く、金属よりも低い部材で構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本出願によれば、水平磁気記録並びに垂直磁気記録に係わらず、熱アシスト記録方式で情報の記録を行う磁気記録媒体において、キュリー温度に到達できる加熱を効率的に行うことができ、かつ数十nm以下の微小な熱スポット径を実現でき、光ヘッドから照射される光量を低減できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】熱アシスト記録方式における、記録層の温度に対する保持力の関係を示す特性図である。
【図2】従来の磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
【図3】従来の磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
【図4】従来の磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
【図5】(a)は磁気記録媒体を備えたハードディスク装置の概略構成を示す斜視図、(b)は(a)の一部を部分的に拡大して示す部分拡大平面図である。
【図6】(a)は図2(a)、(b)に示したサスペンションの先端部に取り付けられたヘッドスライダの一実施例の構成を示す断面図、(b)は(a)の部分拡大断面図である。
【図7】この出願の磁気記録媒体の第1の形態の構成を示す断面図である。
【図8】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第1の実施例の構成を説明する構成図である。
【図9】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第2の実施例の構成を説明する構成図である。
【図10】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第3の実施例の構成を説明する構成図である。
【図11】この出願の磁気記録媒体の第2の形態の構成を示す断面図である。
【図12】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第4の実施例の構成を説明する構成図である。
【図13】この出願の磁気記録媒体の熱保持層の第5の実施例及び記録層の構成を説明する構成図である。
【図14】図13に示した磁気記録媒体の熱保持層、中間層、及び記録層の構成を説明する組立斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を用いて本出願の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。なお、磁気記録媒体の構成において、既に説明した磁気記録媒体と同じ構成部材には同じ符号を付して説明する。
【0020】
図5(a)はディスク状の磁気記録媒体4を使用する記憶装置である、ロード/アンロード方式のHDD(ハードディスク装置)1の一実施例の構成を示すものである。また、図1(b)は図1(a)に示されるHDD1にあるヘッドスライダ15の位置を示すものである。磁気記録媒体4は複数枚設けられることもあり、HDD1のベース2の上の一方の側に設けられたスピンドルモータ3によって回転する。
【0021】
HDD1のベース2の上の他方の側には、回転軸6を中心にしてスイングするスイングアーム5と、このスイングアーム5を駆動するボイスコイルモータ7、及び信号処理基板13がある。スイングアーム5の先端部にはサスペンション14があり、このサスペンション14には、磁気記録媒体4にアクセスしてデータの読み書きを行うヘッドを備えるヘッドスライダ15が取り付けられている。
【0022】
また、ロード/アンロード方式のHDD1では、アンロード時にはヘッドを磁気記録媒体4の外側に退避させる。このため、ロード/アンロード方式のHDD1には、磁気記録媒体4の外周部近傍のベース2の上に、サスペンション14の先端部を保持するランプ機構10がある。ランプ機構10には、サスペンション14の先端部に設けられたリフトタブ9を保持するためのランプ11がある。ランプ機構10は磁気記録媒体4の外側のベース2の上に設けられる。
【0023】
ヘッドスライダ15が設けられたサスペンション14の先端部には、スイングアーム5をランプ11に保持させるためのリフトタブ9がある。ランプ11のスイングアーム側の面は、スイングアーム5の回転軌跡Tに合わせて円周面となっている。このため、リフトタブ9は、スイングアーム5の回転によってランプ11の上に乗り上げ、磁気記録媒体4の外部でランプ11によって保持される。ランプ機構10の本体12は、ネジ8によってベース2に固定される。
【0024】
図6(a)は、図5(a)、(b)に示したサスペンション14の先端部に取り付けられたヘッドスライダ15の一実施例の構成を示す断面図であり、図6(b)は図6(a)の部分拡大断面図である。この実施例では、磁気記録媒体4を局部的に加熱する加熱手段として、レーザ光が用いられている。レーザ光の発生源については公知であるので説明を省略するが、レーザ光の発生源は、例えば図5(a)の信号処理基板13等に設けられており、レーザ光の発生源から出射されたレーザ光は、光ファイバでスイングアーム5を経てサスペンション14に導かれる。また、記録時に、磁気記録媒体4を局部加熱するために、パルス電源やパルス変調回路を信号処理基板13に備えても良い。
【0025】
図6(a)にはこのレーザ光を導く光ファイバ16がサスペンション14の下部に設置された状態が示されている。この実施例では、サスペンション14の先端部にカップリングレンズ17を介してヘッドスライダ15が取り付けられており、光ファイバ16はこのカップリングレンズ17に接続されている。ヘッドスライダ15にはその詳細を図6(b)に示す磁気ヘッド20が設けられており、磁気ヘッド20の先端側にカップリングレンズ17に接続された光導波路18が設けられている。光導波路18の先端部には、SiとSiO2 等で積層された多層膜29が設けられており、多層膜29がヘッドスライダ15の浮上面に露出している。光導波路18を通るレーザ光は、この多層膜29を通じて縮小された光スポットが磁気記録媒体4に向けて出射され、符号Hで示すように磁気記録媒体4を部分的に加熱する。レーザ光を照射する多層膜29の部分は光ヘッドとも呼ばれる。
【0026】
図6(b)に示すように、磁気ヘッド20は、記録ヘッド部21、再生ヘッド部25及び光ヘッド29の3つのヘッド部から構成されている。記録ヘッド部21は磁極励磁用コイル22、書き込み用磁極23、及びヨーク24から構成されている。この図に示す太線Mが、記録時の磁束の流れを示している。再生ヘッド部25は2つのシールド層26,27に挟まれた再生素子28を備えている。再生素子28には磁気抵抗効果素子(MRヘッド)が使用されることが多かったが、現在は再生感度と記録密度が更に大きい巨大磁気抵抗効果素子(GMRヘッド)やトンネル磁気抵抗効果型の素子(TMRヘッド)が使用されている。光導波路18と光ヘッド29は、書き込み用磁極23に隣接して設けられている。
【0027】
以上のように構成された熱アシスト記録方式のHDD1においては、磁気記録媒体4として、記録層で効率よく熱を発生させる点と、記録層で必要な温度に到達した熱分布の径を縮小する点が重要である。本発明者らは、記録層の下の数十nm程度以下の距離に配置した層の屈折率(n)が小さいほど、記録層内の電界強度を増加できることを計算によって見出した。そこで、屈折率の小さい材料を記録層の下に配置して、記録層に供給する光量を増加させると、記録層で効率よく熱を発生させることができた。
【0028】
また、温度拡散率の小さい酸化物による断熱層で熱分布を広げず、金属のような温度拡散率の大きな放熱層で熱が逃げ過ぎて光量増加とならないように、温度拡散率が小さい酸化物と温度拡散率が大きい金属の間に位置する材料層を、記録層の下方に配置した。このように、屈折率が小さい材料と温度拡散率が中程度を同時に実現した熱保持層を、記録層の下に配置することにより、記録層に供給する光量を増加させて、記録層で効率よく熱を発生させることができた。ここで、温度拡散率が中程度とは、温度拡散率がガラスよりも高く、金属よりも低い程度のことを言う。以上に基づき、以下にこの出願における磁気記録媒体の具体的な実施例の構成を説明する。なお、以下の説明においては、水平記録用の磁気記録媒体の構成を第1の形態、垂直記録用の磁気記録媒体の構成を第2の形態とする。
【0029】
図7は、本出願における第1の形態の磁気記録媒体4の構成を示すものである。第1の形態では、磁気記録媒体4の支持基板40の上に、放熱層41、熱保持層50、中間層43、記録層46、保護層47、及び潤滑層48がこの順に積層されている。潤滑層48が光ヘッド29を搭載した磁気ヘッド20(図6参照)に対向する面となる。光ヘッドからのレーザ光は、潤滑層48と保護層47を透過して記録層46に照射される。したがって、潤滑層48や保護層47は、照射されるレーザ光に対して透明とすれば良いが、この実施例では潤滑層48に有機材料系、保護層47にDLC(ダイアモンド・ライク・カーボン)を使用しており、必ずしも透明でない。これは、潤滑層48と保護層47が数nm程度の厚さであるため、光の吸収が無視できるからである。なお、照射するレーザ光は、例えば、波長λ=400nmのレーザ光である。
【0030】
記録層46には、磁気特性、複素屈折率n*=nr−niにおけるnr・niが大きい光学特性、及び温度拡散率が小さい温度特性、の3つの特性を満足する材料を使用する。ここで、nrは屈折率、niは減衰係数である。しかし、図7に示すような平面の連続膜構造において、この3つの特性を同時に満足する材料の選定が難しい。しかし、温度拡散率は、記録層46の構造で向上することができる。例えば、ビットパターンド媒体のように記録ビットごとに、温度拡散率が小さい酸化物や空気層で断絶することで、マクロ的に温度拡散率を低減することができる。またビットパターン化することにより、光ヘッドからの照射光が局在化し、光スポットが縮小できることが知られている。なお、記録層46は、複数層で構成されているのが一般的である。ここでは記録層の材料については、趣旨でないため説明を省略するが、記録層46は、例えばコバルト〔Co〕(n*=1.6−2.75j @400nm、α=2.7E−7)で構成することができる。ここで、jは複素数、@400nmは波長400nmにおけるαの値、2.7E−7は2.7のマイナス7乗を示す。
【0031】
基板40は、磁気ディスク装置用の磁気記録媒体4では、アルミニウムやガラスが使用される。本願の磁気記録媒体4では基板40にガラスを使用している。放熱層41は、熱保持層50と基板40の間にある連続膜であり、温度拡散率αは、(放熱層41のα>記録層46のα≧熱保持層50のα)の関係となっている。温度拡散率αが大きい材料としては、アルミニウム〔Al〕(α=9.4E−5)、銅〔Cu〕(α=1.2E−4)、金〔Au〕(α=1.3E−4)等の金属がある。
【0032】
屈折率が小さい材料と温度拡散率が中程度を同時に実現する熱保持層50は、記録層46と基板40の間に配置している。そしてこの熱保持層50には、屈折率がn<1となる材料を用いている。屈折率がn<1の材料としては、インジウム〔In〕(n*=0.48−3.878j @ 400nm、α=4.8E−5)や、高温アニールした窒化ジルコニウム〔ZrN〕(0.99−0.01j @ 400nm、α=不明)を用いることができる。
【0033】
熱保持層50に用いるInや、高温アニールしたZrNは特殊な材料である。これらの特殊な材料以外には、Al(n*=0.4−4.45j @ 400nm α=9.4E−5)や、Cu(n*=0.86−1.98j @ 400nm α=1.2E−4)等の金属、もしくはこれらを含む合金を一般的に使用することができる。しかし、Al、Cu、或いはこれらを含む合金は、金属材料として温度拡散率αが大きい。
【0034】
そこで、第1の実施例では、熱保持層50を、図8に示すように、金属材料51を、気孔52の周辺部に形成させたポーラス構造にした。熱保持層50のポーラス構造の作成方法は、溶融金属に直接ガスを吹き込むガスインジェクション法や、液体から固体へ変化する時の溶融金属に含むガスの溶解度差を利用して気泡を発生させる一方向凝固法等があり、これらの方法で構造を作成後、化学機械研磨法(CMP)で平坦化し、その後に記録層の作成プロセスに移行するといった方法である。
【0035】
このようにして金属材料の密度ρを低下させることにより、熱伝導率kと熱容量(Cp・ρ)が低下する(Cpは比熱)。熱伝導率kは、経験的に密度変化量の1.6〜1.8乗とされる。つまり密度変化量が0.5ならば熱伝導率αは、0.33〜0.29=(0.5の1.6〜1.8乗)だけ変化することになる。例えば、低屈折率であるAlの密度を42%にすると、Coと同等の熱伝導率となり、Alの密度を27%にするとCoの半分の熱伝導率となる。このように熱容量より熱伝導率の減少が大きいので、密度を変えることにより温度拡散率も低下させることができる。すなわち、記録層46からの温度の低下を抑制することができて、必要なキュリー温度に記録層46を加熱できる。
【0036】
このように、第1の実施例では、熱保持層50を構成する金属材料として、屈折率は小さく(n<1)、温度拡散率αが大きいAl、Cu、或いはこれらを含む合金を使用する。合金にはAuを含めても良い。そして、図8に示すように、これらの金属材料51をポーラス構造にすることにより、温度拡散率αを中程度にした。この結果、屈折率が小さく、かつ温度拡散率が中程度を同時に実現した熱保持層50を記録層46に下に配置することができ、記録層46に供給する光量が増加して、記録層46で効率よく熱を発生させることができた。
【0037】
この出願の第2の実施例の磁気記録媒体4の構成は図7に示した構成を備えており、以上説明した第1の実施例とは、熱保持層50の構成のみが異なる。よって、第2の実施例では熱保持層50の構成のみを説明する。
【0038】
図9は、第2の実施例の熱保持層50の構造を示すものである。第2の実施例では、屈折率がn<1で、温度拡散率αが大きいAlやCu等の金属材料54を、酸化物系の酸化物材料53で孤立させたグラニュラー構造にしている。酸化物材料53は、SiO2(n*=1.47−0.0j @ 400nm, α=5.8E−7)や五酸化タンタル〔Ta2O5〕(n*=2.23−0.0j @ 400nm α=2.3E−6)等の誘電体材料である。n<1の金属材料54と酸化物材料53の比率を変えることにより、実効的な屈折率と、密度の変化による温度拡散率αを低下させている。AlやCuを酸化物で孤立させるのは、構造による温度拡散率αを小さくするためである。
【0039】
熱保持層50のグラニュラー構造の作成方法は、例えば、以下の通りである。まず、金属膜を成膜後、電子ビーム描画装置でパターニングする。次に、RIE(反応性イオンエッチング)やイオンミリング装置でパターニングし、その後に酸化物を成膜する。更に、化学機械研磨法(CMP)で平坦化してから、記録層46の作成プロセスに移行する。
【0040】
このように、第2の実施例では、熱保持層50を構成する金属材料として、屈折率がn<1で、温度拡散率αが大きいAlやCu等の金属材料54を、酸化物系の酸化物材料53で孤立させたグラニュラー構造にして温度拡散率αを中程度にした。この結果、屈折率が小さく、かつ温度拡散率が中程度を同時に実現した熱保持層50を記録層46に下に配置することができ、記録層46に供給する光量が増加して、記録層46で効率よく熱を発生させることができた。
【0041】
この出願の第3の実施例の磁気記録媒体4の構成は図7に示した構成を備えており、以上説明した第1、第2の実施例とは、熱保持層50の構成のみが異なる。よって、第3の実施例では熱保持層50の構成のみを説明する。
【0042】
図10は、第3の実施例の熱保持層50の構造を示すものである。第3の実施例では、屈折率がn<1で、温度拡散率αが大きいAlやCu等の金属材料54に、円柱状の中空の穴55を作ったグラニュラー構造にしている。第3の実施例では、n<1の金属材料54の密度を中空の穴55を設けることによって変えることにより、実効的な屈折率と、密度の変化による温度拡散率αを低下させている。
【0043】
第3の実施例でも、屈折率が小さく、かつ温度拡散率が中程度を同時に実現した熱保持層50を記録層46に下に配置することができ、記録層46に供給する光量が増加して、記録層46で効率よく熱を発生させることができた。
【0044】
次に、本出願における第2の形態の垂直記録用の磁気記録媒体4の構成を、図11を用いて説明する。垂直磁気記録に適用する磁気記録媒体4は、記録層46の下に中間層43と軟磁性裏打ち層60が必要である。従って、第2の形態では、磁気記録媒体4の支持基板40の上に、放熱層41、熱保持層(裏打ち層)60、中間層43、記録層46、保護層47、及び潤滑層48をこの順に積層した。潤滑層48が光導波路18を搭載した磁気ヘッド20(図6参照)に対向する面となる。潤滑層48、保護層47、記録層46、中間層43、放熱層41及び基板願40の構成は第1の形態と同じであるので、ここではこれらの説明を省略する。また、照射するレーザ光は、例えば、波長λ=400nmのレーザ光である。
【0045】
第2の形態の磁気記録媒体4における熱保持層60は、第1の形態における熱保持層50において必要であった、材料の屈折率が小さいという条件と、温度拡散率が中程度であるという2つの条件に加え、熱保持層60の材料が軟磁性材料であることが必要である。そのために熱保持層60には、屈折率は低いが温度拡散率が高い金属材料や、屈折率が中程度で温度拡散率が低い酸化物材料をそのまま成膜して使うことができない。そこで、第2の形態においても、屈折率が低く温度拡散率が高い金属材料を、ポーラス構造や、金属と酸化物を用いたグラニュラー構造にすることにより、温度拡散率を下げる。この第2の形態の熱保持層60の構成を、以下に第4と第5の実施例として説明する。
【0046】
図12は、この出願の第4の実施例の熱保持層60の構造を示すものである。第4の実施例では、熱保持層60を軟磁性裏打ち層とするために、屈折率がn>1である鉄〔Fe〕、ニッケル〔Ni〕等を含有する軟磁性材料、例えばニッケル鉄〔FeNi〕等を積層している。ここで、Fe(n*=2.87−3.27j @ 400nm, α=2.3E−5)、Ni(n*=1.44−2.44j @ 400nm、 α=2.3E−5)、Co(n*=1.6−2.75j @ 400nm、 α=2.7E−7)である。
【0047】
また、軟磁性裏打ち層は、スパイクノイズとよばれる磁壁に起因する大きなノイズが問題となるので、一般に単独層では使用せず、磁区制御をする、例えば数nmのルテニウム〔Ru〕を複数積層して使用する。また、軟磁性裏打ち層は、100nm以上の厚さとする。このように軟磁性裏打ち層は厚く、多層構造をしている。そこで、熱アシスト記録方式における光量増加をさせるために、軟磁性層の屈折率をn<1にする。
【0048】
第4の実施例では、図12に示すように、屈折率がn<1であり、磁気的には透明なAlやCu等の金属材料54を、軟磁性材料61を用いて孤立させたグラニュラー構造とした。これにより金属材料54の屈折率を実効的に低下させている。AlやCuを孤立させるのは、AlやCuの温度拡散率αが軟磁性材料より大きいので、軟磁性材料を孤立させると、温度拡散率が大きくなるためである。
【0049】
第4の実施例でも、屈折率が小さく、かつ温度拡散率が中程度である、を同時に実現した熱保持層60を記録層46に下に配置することができ、記録層46に供給する光量が増加して、記録層46で効率よく熱を発生させることができた。
【0050】
図13と図14は、この出願における第5の実施例の熱保持層60の構造を示すものである。第5の実施例では、熱保持層60のグラニュラー構造における孤立させた材料64と、記録層46における記録トラック62の位置関係を規定している。第5の実施例では、磁気記録媒体4を平面視した時に、熱保持層60において孤立させた材料64が、熱保持層60の上の層の記録層46における記録トラック62と重ならないようにしている。63は記録トラック62のビットである。
【0051】
このように、磁気記録媒体4の厚さ方向において、記録トラック62を横切らないように、孤立材料64を熱保持層60に配置したことにより、記録トラック62方向での温度分布を軽減することができた。また、孤立材料64を温度拡散率αが大きい材料にすることで、記録トラック62の間(クロストラック方向)の温度上昇を低下させることができ、クロストラックイレーズを軽減することができる。
【0052】
以上、本出願を特にその好ましい実施の形態を参照して詳細に説明した。本出願の容易な理解のために、本出願の具体的な形態を以下に付記する。
【0053】
(付記1) 磁気記録媒体に光を照射し、前記磁気記録媒体の光の照射部分を加熱してその保磁力を低下させ、保持力が低下した部分に外部から磁界を印加して記録を行う熱アシスト磁気記録方式に使用する磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体の基板側に設けられた放熱層、
前記磁気記録媒体の表面側に設けられた記録層、及び
前記放熱層と前記記録層の間に設けられた熱保持層を備え、
前記熱保持層は、その実効屈折率が前記記録層の実効屈折率より低屈折率であり、かつ、比熱、密度、熱伝導率で決まる温度拡散率が、ガラスより高く、金属よりも低い部材で構成したことを特徴とする磁気記録媒体。
(付記2) 前記熱保持層を構成する部材の温度拡散率は、この熱保持層を構成する材料間の比率や密度を変更する温度拡散率変更手段を用いて、ガラスより高く、金属よりも低くしたことを特徴とする付記1に記載の磁気記録媒体。
(付記3) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、密度を変更可能なポーラス構造を用いたことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記4) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料と酸化物系の誘電体材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、材料間の比率を変更可能な、非磁性材料を酸化物系の誘電体材料で孤立させたグラニュラー構造を用いたことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記5) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料に中空の穴がある材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、密度を変更可能なグラニュラー構造を用いたことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
【0054】
(付記6) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料と軟磁性材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、材料間の比率を変更可能な、非磁性材料を軟磁性材料で孤立させたグラニュラー構造を用いたことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記7) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、軟磁性材料を屈折率がn<1の材料と合金化した材料を使用したことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記8) 前記熱保持層を構成する部材の材料として、アニール処理により屈折率をn≦1にしたZrN、もしくはInの連続した単層膜を使用したことを特徴とする付記2に記載の磁気記録媒体。
(付記9) 屈折率がn<1の前記非磁性材料が、Al、Cu,Auの少なくとも1つを含む材料であることを特徴とする付記3から6の何れかに記載の磁気記録媒体。
(付記10) 前記グラニュラー構造において、孤立させる材料は、磁気記録媒体の記録層の記録トラックを、前記磁気記録媒体の厚さ方向において横切らない位置に配置したことを特徴とする付記4から6の何れかに記載の磁気記録媒体。
【0055】
(付記11) 前記光はレーザ光であることを特徴とする付記1から10の何れかに記載の磁気記録媒体。
(付記12) 前記磁気記録媒体が水平記録用の磁気記録媒体であることを特徴とする付記3から5の何れかに記載の磁気記録媒体。
(付記13) 前記磁気記録媒体が垂直記録用の磁気記録媒体であることを特徴とする付記6から8の何れかに記載の磁気記録媒体。
(付記14) 付記1から13の何れかの磁気記録媒体で構成した磁気ディスク。
(付記15) 付記14に記載の磁気ディスクを使用したハードディスク装置。
【符号の説明】
【0056】
1 ハードディスク装置
4 磁気記録媒体
18 光導波路
20 磁気ヘッド
29 多層膜(光ヘッド)
40 ディスク基板
41 放熱層
42 軟磁性裏打ち層
46 記録層
50、60 熱保持層
51 金属
52 気孔
53 酸化物材料
54 n<1の金属材料
61 軟磁性材料
62 記録トラック
64 孤立材料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体に光を照射し、前記磁気記録媒体の光の照射部分を加熱してその保磁力を低下させ、保持力が低下した部分に外部から磁界を印加して記録を行う熱アシスト磁気記録方式に使用する磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体の基板側に設けられた放熱層、
前記磁気記録媒体の表面側に設けられた記録層、及び
前記放熱層と前記記録層の間に設けられた熱保持層を備え、
前記熱保持層は、その実効屈折率が前記記録層の実効屈折率より低屈折率であり、かつ、比熱、密度、熱伝導率で決まる温度拡散率が、ガラスより高く、金属よりも低い部材で構成したことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記熱保持層を構成する部材の温度拡散率は、この熱保持層を構成する材料間の比率や密度を変更する温度拡散率変更手段を用いて、ガラスより高く、金属よりも低くしたことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、密度を変更可能なポーラス構造を用いたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料と酸化物系の誘電体材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、材料間の比率を変更可能な、非磁性材料を酸化物系の誘電体材料で孤立させたグラニュラー構造を用いたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料に中空の穴がある材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、密度を変更可能なグラニュラー構造を用いたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料と軟磁性材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、材料間の比率を変更可能な、非磁性材料を軟磁性材料で孤立させたグラニュラー構造を用いたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、軟磁性材料を屈折率がn<1の材料と合金化した材料を使用したことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、アニール処理により屈折率をn≦1にしたZrN、もしくはInの連続した単層膜を使用したことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
屈折率がn<1の前記非磁性材料が、Al、Cu,Auの少なくとも1つを含む材料であることを特徴とする請求項3から6の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記グラニュラー構造において、孤立させる材料は、磁気記録媒体の記録層の記録トラックを、前記磁気記録媒体の厚さ方向において横切らない位置に配置したことを特徴とする請求項4から6の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項1】
磁気記録媒体に光を照射し、前記磁気記録媒体の光の照射部分を加熱してその保磁力を低下させ、保持力が低下した部分に外部から磁界を印加して記録を行う熱アシスト磁気記録方式に使用する磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体の基板側に設けられた放熱層、
前記磁気記録媒体の表面側に設けられた記録層、及び
前記放熱層と前記記録層の間に設けられた熱保持層を備え、
前記熱保持層は、その実効屈折率が前記記録層の実効屈折率より低屈折率であり、かつ、比熱、密度、熱伝導率で決まる温度拡散率が、ガラスより高く、金属よりも低い部材で構成したことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記熱保持層を構成する部材の温度拡散率は、この熱保持層を構成する材料間の比率や密度を変更する温度拡散率変更手段を用いて、ガラスより高く、金属よりも低くしたことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、密度を変更可能なポーラス構造を用いたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料と酸化物系の誘電体材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、材料間の比率を変更可能な、非磁性材料を酸化物系の誘電体材料で孤立させたグラニュラー構造を用いたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料に中空の穴がある材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、密度を変更可能なグラニュラー構造を用いたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、照射光の波長で屈折率がn<1の非磁性材料と軟磁性材料を使用し、前記温度拡散率変更手段として、材料間の比率を変更可能な、非磁性材料を軟磁性材料で孤立させたグラニュラー構造を用いたことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、軟磁性材料を屈折率がn<1の材料と合金化した材料を使用したことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記熱保持層を構成する部材の材料として、アニール処理により屈折率をn≦1にしたZrN、もしくはInの連続した単層膜を使用したことを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
屈折率がn<1の前記非磁性材料が、Al、Cu,Auの少なくとも1つを含む材料であることを特徴とする請求項3から6の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記グラニュラー構造において、孤立させる材料は、磁気記録媒体の記録層の記録トラックを、前記磁気記録媒体の厚さ方向において横切らない位置に配置したことを特徴とする請求項4から6の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−267305(P2010−267305A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115664(P2009−115664)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
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