説明

磁気軸受のセンサーレス稼動のための方法と装置

この発明は、磁気軸受のセンサーシステムに関し、二つの作動コイル(1、2)、クロック化された二つの出力段(4,5)、作動コイル(1,2)を流れるリップル電流を持つ電流を検出する電流計(3)及びセンサーインターフェイスから成る。クロック化された出力段(3,4)は、予め決められた順番でパルス幅が少し狭められ或いは広められるようパルス幅変調された出力電圧を与える。クロック化された出力段(3,4)のパルス幅は、互いに固定された位相関係で変調される。このセンサーシステムは、クロック出力段を有する磁気軸受のためのセンサーシステムを特定する目的を果たす。発明は、磁気軸受、それを制御する装置、磁気軸受ないの位置を検出する方法にも関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の磁気軸受のためのセンサーシステム、磁気軸受のための請求項10に記載の制御装置、請求項14に記載の磁気軸受および請求項15に記載の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気軸受は、モーターのローターや、ポンプの翼車のような可動部品の非接触の案内又は保持のために用いられる。機械的な接触を除くことで、特に摩擦損失が最適化され、磨耗が減少され、粒子の発生が避けられる。磁気軸受の基本的な部品は、下のものである
1.一つ又は複数の電磁石から成る作動システム。
【0003】
2.支持すべき物体の現在の位置を検出し、目標位置に制御するセンサーシステム。
【0004】
3.信号検出、調整およびエネルギーの流れを制御するための電気的構成部品。
【0005】
一般的に、センサーシステムは、作動システムに固定的に連結され、それに追加して設置される構成部品である。この構成部品の大きさを最適にするためには、センサーシステムが少ない場所を占有すること或いは、場所を必要としないことが望ましい。作動システムの作動コイルのインピーダンスが位置に依存して変化するという効果を利用することにより、上に述べた作動コイルを有する作動システムが、位置センサーの機能を持つことができる。それに基づく技術的解決が、すでに特許文献に記載されている。これには、特に次の作動原理が用いられている。
【0006】
高周波ブリッジスイッチを用いて作動コイルのインピーダンスを決定することと、基準誘導率との比較または、磁気軸受の軸と同軸の別の作動コイルとの比較(独国特許0749538)。
【0007】
作動コイルを流れる電流に正弦波交番電流を追加変調すること、これにより得られた位置に依存する電圧を検出しフィルタリングすること(欧州特許0749538)。
【0008】
上の二つの作動原理においては、その熱損失が小さいことや構成部品が小さいことからこの種の応用分野においてよく用いられるクロック化された終段と組み合わされる場合に不利が予測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許第0749538号明細書
【特許文献2】欧州特許第0749538号明細書
【発明の概要】
【0010】
本発明の課題は、クロック化された最終出力段を有する磁気軸受のためのセンサーシステムを提供することである。
【0011】
上記目的は、請求項14に記載の磁気軸受に用いる請求項10に記載の制御装置のための請求項1に記載のセンサーシステム、および請求項15に記載の方法により解決される。
【0012】
上に述べられたパルス幅変調は、クロック化された終段を具備する磁気軸受において、簡単な位置検出を可能にする。この検出は、二つの作動コイルのクロック化された励起の平均オン・オフ比には本質的に依存しない。
【0013】
好ましくは、予め決められた順番は、次々と続くパルスの幅が、ある小さい量だけ交互に長くされ又は短くされることである。次々と続くパルスの幅は、パルス幅変調の励起が二倍のクロック周波数を有するように、交互に短くされ又は長くされてもよい。二つの終段の代わりに、クロック化された終段のクロック周波数を多数備えることができることも明らかである。特にセンサーシステムのクロック化は、そのセンサーシステムに組み込まれた上位のクロック化ユニット、特に制御ユニットを有しても良い。
【0014】
有利には、作動コイルのリップル電流の差は、少なくとも一つの電流計により検出するのが良い。
【0015】
電流計の構成に関しては、作動コイルのリップル電流の差を検出するための電流計は、電流変成器である電磁誘導センサーが使用されるのが好ましい。この電磁誘導センサーは、一つのコアを巻く二つの対向するコイルから成り、各コイルは二つの作動コイルの一つに対応されている。コイル内の電流に依存して、残留磁化が起き、これを検出する。この磁化は、作動コイルの誘導率の変化を指示することができる。特に、二つ又は複数の作動コイルの差を、差出力として供給する単一の電磁誘導電流計により計測することが可能である。
【0016】
電流計の構成に関して、代わりとして、又はそれを補うものとして、コンデンサーと抵抗から成る電流変成器を有している。この電流変成器は、パルス幅変調の決められた順番で繰り返される周波数に同調する共振回路を形成している。この共振回路を形成するコンデンサーと抵抗およびその誘導率は、センサーシステム内で、又は制御ユニット内において、障害となるいかなる影響も与えない受動的構成部を成す。
【0017】
電流計の信号は、センサーインターフェイスに算術的に連結され、特に、予め決められた順番によるパルス幅変調の時間と同期して作用する整流回路に供給されるのが好ましい。算術的連結は、加算および減算を含む。リップル電流の差の符号を修正するために、リップル電流のクロックと同じクロックで作動するジャンプ機能により乗算することにより整流作用をし、平滑電流は、例えば時間積分により、およそ一定の出力電圧を供給するよう整流できる。この出力電圧は、(場合によっては、符号を有している)二つの作動コイルの誘導率の差、ひいては二つの作動コイルの間にある被検出物の位置に対応している。
【0018】
パルス幅変調の予め決められた順番と同期整流のクロックの間には、位相変化装置により調節可能な時間遅延があるのが好ましい。
【0019】
有利には、センサー信号のための信号経路又は同期整流後の信号のための信号経路か、両方の信号経路に信号増幅及び/又は信号フィルタリングのための構成部が挿入される。信号増幅又は信号フィルタリングは、信号を修正して、例えば誘導率の理想的な関係からの偏位などの障害の影響が抑えられ、特に、誘導率の電流依存性が把捉され計算により抑えること又は均すことができる。これらの信号処理は、電流計とセンサーインターフェイスとの間の信号経路において、又は二つの作動コイルの二つのリップル電流の差を整流した後にセンサーインターフェイスにおいて行うか、これらを組み合わせて行うこともできる。
【0020】
好ましくは、リップル電流から得られた位置信号は、終段のパルス幅を制御するための信号を得るために、制御部において他の信号と算術的に連結される。制御部における算術的連結は、例えば位置信号を目標値に合わせることを含み、これにより調整値が得られる、例えば算出する。この値を制御部が出力する。センサーシステムは本質的に終段のパルス幅に依存せず、それにより制御部とセンサーシステムとの連結が避けられるので、制御部は、終段のパルス幅を調節量として制御することも考えられる。
【0021】
好ましくは、調節装置の別の信号は、作動コイルの電流現在値又はその算術的派生値である。
【0022】
制御装置に関して、好ましくは、センサーシステムと制御部のための共通のシステムクロック発生器が用いられる。この場合、制御装置のシステムクロックは、上位に位置するシステムの構成部により同期される。上位に配置されるシステムは、例えば磁気軸受に部分的に支持されたクロックモーターで在り得る。
【0023】
上に述べたセンサーシステム又は制御装置の構成は、特に、磁気軸受の位置検出のための方法の実施を可能にする。その方法に含まれるステップは、終段に対して、パルス幅変調された出力電圧を供給するステップで、パルス幅は、予め決められた順番で少しの量だけ短く又は長くされ、クロック化された終段のパルス幅変調は、確実な位相関係で行われるステップと電流計によりリップル電流の差を検出するステップを含む。リップル電流の差は、磁気軸受の制御部の入力量である。
【0024】
その他の利点や特徴は従属する請求項と好ましい実施例の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
この発明は、添付された図面に関連して、以下に詳細に説明される。
【図1】この発明の方法を実施する例としての制御装置におけるこの発明のセンサーシステムの実施例における回路図の概観を示す。
【図2】この発明による磁気軸受の実施例の二つの作動コイルのリップル電流の理論波形で、同じ励起(下の図)において二つの作動コイルは異なる誘導率(L1>L2)を持つことを示す(上の図)。
【図3】二つの作動コイルのリップル電流の理論上予期される波形と(上の図)、異なるオン・オフ比で励起されている図と、異なる誘導率(中央と下の図)を示す図。
【図4】図1に従う概観図のL1>L2の場合における、機能を決定する幾つかの点における信号の流れを示す。
【図5】図1に従う概観図のL1<L2の場合における、機能を決定する幾つかの点における信号の流れを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1には、この発明の磁気軸受のためのこの発明によるセンサーシステム又は制御装置が例示されている。
【0027】
この作動原理は、磁気軸受の二つの作動コイルの誘導率が、支持される物体の位置に依存して変化するということに基づいている。このことは、各作動コイル1,2に、出力終段4,5からのクロック化されたパルス幅変調された信号を与えると、各作動コイル1,2のリップル電流の波形が変化する結果をもたらす。
【0028】
図2には、二つの作動コイル1、2のリップル電流の理論波形が示されており、作動コイル1は作動コイルの誘導率L2より大きい誘導率L1を有している。磁気軸受の稼動時においては、通常は、二つの作動コイル1、2の励起のオン・オフ比率が異なっているので、各リップル電流を誘導率の評価に単純に利用することはできない。
【0029】
このことから、次々と続くパルスのオン・オフ関係を、交互に僅かな一定量(Dither)だけ多く又は少なくされる結果として、平均のオン・オフ比率は変化しないことになる。結局のところ、二つの作動コイル1,2の各々に流れるリップル電流は、周期的な振幅変調を有し、この変調は、理想的な誘導率L1、L2の場合には、二つの作動コイル1、2を流れる平均電流に依存せず、同時に平均オン・オフ比率に依存しない。
【0030】
図3には、作動コイル1,2のパルス幅変調された励起の理論波形と、それによりもたらされる各コイルのリップル電流波形が示されている。二つの作動コイル1、2に対する異なるオン・オフ比率の励起と、異なる電流レベルにもかかわらず、リップル電流の振幅変調が、オン・オフの変調の結果として保持されている。リップル電流の変調の検出のために、作動コイルの導線に、二つの電流の差を検出する電流計3が設けられている。最も簡単な場合には、この電流計は、電磁誘導による電流変成器から成る。電流変成器3により得られた差信号(図1のDiff.)は、センサーインターフェイス6により利用される。この利用は、一段又は多段の増幅、システムクロックCLKに由来するクロック信号DCLKに同期した整流及び一段又は多段のフィルターを含む。派生したクロック信号DCLKは、クロック発生器11により与えられるシステムクロックCLKの半分の周波数を有し、位相変化装置12を超えて接続されている。この位相変化装置12は、齎されるリップル電流が、オン・オフ状態の励起に対して遅れを有しているという事実を考慮している。
【0031】
センサーインターフェイス6の出力信号は、作動コイル1,2を有する磁気軸受により支持されている物体の現在位置の情報を含んでいる。これに続く制御部において、二つの作動コイルのリップル電流の差信号は、場合によってはその信号の処理を経た後、目標値と比較され、位置ずれが、公知の方法により制御部7により処理される。制御部7は、位置ずれ値から又は場合によっては作動コイル1、2を流れる電流の現在値から、およびその他のパラメーター(例えば磁気軸受の作動コイル1,2の間に支持されているローラーの回転数)から、クロック化された出力終段4,5のための平均オン・オフ比率を決定する。図の簡略化の理由により、対応する信号の矢印は示されていない。このオン・オフ比率は、続いて二つの加算点8,9において、ディザー量子信号(Dither)を用いて変調される。ディザー量子信号はディザー量子信号発生器10内でシステムクロックCLKから得られ、システムクロックCLKの正確に半分の周波数を示し、場合によっては位相シフトを有している。出力終段4,5は、同様に、システムクロックによりトリガーされ、システムクロックに対して固定の位相関係にある。システム障害を避けるため、システム内に統合された複数の作動システムが同じシステムクロックで制御される。
【0032】
図4,5において、作動コイル1,2の誘導率L1,L2が互いに異なる値をとる場合に、得られる理論的信号波形が示されている。示されている波形は、下から上に;
第1の作動コイル1の励起電圧、
第2の作動コイル2の励起電圧、
二つの作動コイル1、2の差電流を検出する電磁誘導電流計3の出力信号、
システムクロックCLK、
この場合に位相が最適に調節されたクロック信号DCLK、
検出された差電流信号Diffの同期整流後の波形Vrect、
増幅されていない位置信号、
である。
【0033】
作動コイル1,2の異なる誘導率L1,L2の結果として、増幅されていない図4の位置信号は、0ボルトのオフセット電圧に関して、負極性を示し、図5の位置信号は正極性を示している。二つの図は、単純に互いに交換した異なる誘導率L1,L2の同じ作動コイル1、2を前提としている。結果(図4、5の最上の図)は、夫々に対して、符号を有するほぼ等しい直流電圧信号であり、これは、作動コイル1,2に対してローターがどこにあるかを示している。
【0034】
上に詳述した実施例においては、パルス幅変調のために、直後に続くパルスが小さくされた又は大きくされたパルス幅を有しているので、変調が、作動コイル1、2の2倍の励起期間を有するようにされている。3倍又はそれ以上のパルス幅を用いて、変調を励起の数倍にできることも明らかである。
【0035】
この発明は、センサーインターフェイス6の出力が制御部7の入力とされる実施例について上に詳述された。センサーシステムの出力が他の目的に利用されることも可能であることが明らかである。
【符号の説明】
【0036】
1 第1の作動コイル1
2 第2の作動コイル2
3 電流計
4 クロック化された出力終段1
5 クロック化された出力終段2
6 位相変化、整流、増幅およびフィルターを伴うセンサーインターフェイス
7 制御部
8 加算点1
9 加算点2
10 ディザー発生器
11 クロック発生器
12 位相変化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの作動コイル(1、2)、クロック化された二つの出力終段(4,5)、該作動コイル(1,2)を流れるリップル電流を含む電流を検出するための電流センサー(3)、およびセンサーインターフェイス(6)を有する磁気軸受のためのセンサーシステムにおいて、該クロック化された出力終段(3、4)は、パルス幅が決められた順序で僅かな量だけ減少又は増大されるようパルス幅変調された出力電圧を与え、該クロック化された出力終段(3,4)のパルス幅変調が、固定された位相関係で行われることを特徴とする磁気軸受のためのセンサーシステム。
【請求項2】
予め決められた順序は、次々の続くパルスの幅が交互に僅かな量だけ長くされ又は短くされる列であることを特徴とする、請求項1に記載のセンサーシステム。
【請求項3】
該作動コイル(1,2)のリップル電流の差が少なくとも一つの電流センサー(3)により検出される請求項1又は2に記載のセンサーシステム。
【請求項4】
該作動コイル(1,2)のリップル電流の差を検出する電流計(3)として、電流変成器である電磁誘導センサーが用いられる請求項3に記載のセンサーシステム。
【請求項5】
前記予め決められたパルス幅変調の順序を繰り返すような周波数に同調する共振回路を形成するようにコンデンサと抵抗を有する電流変成器が電流計(3)として、設けられている請求項3に記載のセンサーシステム。
【請求項6】
前記電流計(3)の信号が、センサーインターフェイス(6)に算術的に連結され、特に、該パルス幅変調の決められた順序と同期して作動する整流回路に供給される請求項1〜5の一つに記載のセンサーシステム
【請求項7】
前記パルス幅変調の決められた順序と整流回路の同期クロックとの間に位相変化装置(12)により調節可能な時間の遅延が存在することを特徴とする請求項6に記載のセンサーシステム。
【請求項8】
電流計の信号の経路か、前記同期された整流器からの信号経路又はその両方に信号増幅及び/又は信号フィルタリングのための構成要素が挿入されていることを特徴とする請求項6又は7に記載のセンサーシステム。
【請求項9】
出力終段(3,4)のパルス幅を制御する信号を得るために、該リップル電流から得られた位置信号が制御部(7)において、他の信号と算術的に連結されることを特徴とする請求項1〜8の一つに記載のセンサーシステム。
【請求項10】
磁気軸受のための請求項1ないし9の一つに記載のセンサーシステムを有する制御装置。
【請求項11】
出力終段(3,4)のパルス幅を制御する信号を得るために、少なくとも二つの作動コイル(1,2)のリップル電流から得られた位置信号が他の信号と算術的に連結されることを特徴とする請求項10に記載の制御装置。
【請求項12】
該他の信号が、作動コイル(1、2)の現在電流値かその算術的に導かれた値であることを特徴とする請求項11に記載の制御装置。
【請求項13】
該センサーシステムと制御部(7)のために共通のシステムクロック発生装置(DCLK)が設けられ、制御部(7)のシステムクロックが上位に置かれたシステムの構成要素と同期されていることを特徴とする請求項9ないし12の一つに記載の制御装置。
【請求項14】
特に制御装置内に、請求項1ないし9の一つに記載のセンサーシステムを有する、磁気軸受。
【請求項15】
二つの作動コイル、二つのクロック化された出力終段、および作動コイルのリップル電流を検出する電流計を有する磁気軸受の位置検出の方法であって、次のステップを含む方法;
予め決められた順序で、ある小さい量だけパルス幅を短く又は長くされ、クロック化された出力終段のパルス幅変調が固定された位相関係で行われる出力終段に対してパルス幅変調された出力電圧を準備するステップ、および
電流計を用いてリップル電流の差を検出するステップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−534809(P2010−534809A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518488(P2010−518488)
【出願日】平成20年7月19日(2008.7.19)
【国際出願番号】PCT/DE2008/001190
【国際公開番号】WO2009/015639
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(504466409)シャエフラー カーゲー (59)
【Fターム(参考)】