説明

磁気軸受装置および磁気浮上ステージ

【課題】電磁石ターゲットを挟むように電磁石および永久磁石を設けた構成において、支持する浮上体の重量が変化した場合にも、所望の磁気軸受特性を維持することが可能な磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】このスラスト磁気軸受装置100(磁気軸受装置)は、浮上体110に取り付けられ、磁性材からなる電磁石ターゲット1と、上側磁極部21と励磁コイル22とを含み、電磁石ターゲット1に対向するように配置され、電磁石ターゲット1を磁気吸引力により支持するスラスト電磁石2と、電磁石ターゲット1のスラスト電磁石2とは反対側の部分に対向するように配置され、電磁石ターゲット1を磁気吸引力により吸引する永久磁石31を含むスラスト磁極3とを備え、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との距離を調整可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気軸受装置および磁気浮上ステージに関し、特に、電磁石ターゲットを磁気吸引力により支持する電磁石を備える磁気軸受装置、および、このような磁気軸受部を備える磁気浮上ステージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁石ターゲットを磁気吸引力により支持する電磁石を備える磁気軸受装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、磁極および励磁巻線(励磁コイル)を含む電磁石と、回転軸(浮上体)が取り付けられ、電磁石により支持される電磁石ターゲットと、電磁石および電磁石ターゲットを収納するハウジングと、ハウジングに固定的に支持された永久磁石とを備えたスラスト軸受部(磁気軸受装置)が開示されている。このスラスト軸受部では、電磁石ターゲットの下方側に電磁石を配置するとともに、電磁石ターゲットの上方側に永久磁石を配置している。これにより、電磁石ターゲットを上下両側からの磁気吸引力で支持することができるので、電磁石ターゲットを一方側からの磁気吸引力で支持する場合に比べて、電磁石ターゲットを支持する堅さ(剛性)を高めることが可能であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−125105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、永久磁石による磁気吸引力により電磁石ターゲットの剛性を高めることが可能である一方、永久磁石による磁気吸引力は一定であるため、支持する回転軸(浮上体)の重量が変化した場合などに、回転軸を定位置で支持するために電磁石の電流を変化させる際に、永久磁石の吸引力が一定であることに起因して所望の磁気軸受特性を維持することができないという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、電磁石ターゲットを挟むように電磁石および永久磁石を設けた構成において、支持する浮上体の重量が変化した場合にも、所望の磁気軸受特性を維持することが可能な磁気軸受装置、および、このような磁気軸受部を備える磁気浮上ステージを提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面における磁気軸受装置は、浮上体に取り付けられ、磁性材からなる電磁石ターゲットと、第1磁極と励磁コイルとを含み、電磁石ターゲットに対向するように配置され、電磁石ターゲットを磁気吸引力により支持する電磁石と、電磁石ターゲットの電磁石とは反対側の部分に対向するように配置され、電磁石ターゲットを磁気吸引力により吸引する永久磁石を含む第2磁極とを備え、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を調整可能に構成されている。
【0008】
この発明の第1の局面による磁気軸受装置では、上記のように、電磁石ターゲットに対向するように電磁石を配置し、電磁石ターゲットの電磁石とは反対側の部分に対向するように永久磁石を含む第2磁極を配置するとともに、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を調整可能に構成することによって、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を調整することにより永久磁石を含む第2磁極による磁気吸引力を調整することができる。これにより、電磁石ターゲットを挟むように電磁石および永久磁石を設けた構成において、支持する浮上体の重量が変化した際に、浮上体を定位置で支持するために電磁石の電流を変化させた場合にも、永久磁石(第2磁極)による磁気吸引力を調整することによって、磁気軸受特性を調整して所望の磁気軸受特性を維持することができる。また、この第1の局面による磁気軸受装置では、永久磁石(第2磁極)の電磁石ターゲットに対する距離の調整により永久磁石による磁気吸引力を調整することができるので、一旦設定した磁気軸受特性を状況に応じて容易に変更することができる。
【0009】
上記第1の局面による磁気軸受装置において、好ましくは、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を調整するアクチュエータをさらに備える。このように構成すれば、アクチュエータにより、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を容易に調整することができるので、第2磁極による磁気吸引力を容易に調整することができる。これにより、支持する浮上体の重量が変化した場合でも、容易に、磁気軸受特性を調整して所望の磁気軸受特性を維持することができる。
【0010】
この場合、好ましくは、電磁石に流れる電流を検出する電流検出手段と、少なくとも電流検出手段により検出された電磁石に流れる電流に基づいて、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を、所望の磁気軸受特性が得られる第2磁極と電磁石ターゲットとの目標距離になるようにアクチュエータを制御する制御部とをさらに備える。このように構成すれば、支持する浮上体の重量が変化したことに伴って電磁石に流れる電流が変化した場合でも、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を電磁石に流れる電流に応じた目標距離に調整して容易に所望の磁気軸受特性を維持することができる。
【0011】
上記制御部を備える構成において、好ましくは、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を検出する距離検出手段と、電流検出手段により検出された電磁石に流れる電流と、距離検出手段により検出された第2磁極と電磁石ターゲットとの距離とに基づいて、所望の磁気軸受特性が得られる第2磁極と電磁石ターゲットとの目標距離を演算する演算部とをさらに備え、制御部は、演算部により演算された目標距離になるように、アクチュエータを制御するように構成されている。このように構成すれば、演算部により、電磁石に流れる電流および第2磁極と電磁石ターゲットとの距離の両方に基づいて精度よく第2磁極と電磁石ターゲットとの目標距離が演算されるので、所望の磁気軸受特性を精度よく維持することができる。
【0012】
上記演算部を備える構成において、好ましくは、演算部は、電流検出手段により検出された電磁石に流れる電流と、距離検出手段により検出された第2磁極と電磁石ターゲットとの距離とに基づいて、所望の磁気軸受特性が得られるように、剛性の指標となるコンプライアンス特性を所定の値に維持するための第2磁極と電磁石ターゲットとの目標距離を演算するように構成されている。このように構成すれば、支持する浮上体の重量が変化した際に、浮上体を定位置で支持するために電磁石の電流を変化させた場合にも、剛性の指標となるコンプライアンス特性を所定の値に維持することにより所望の磁気軸受特性を維持することができる。
【0013】
上記アクチュエータを備える構成において、好ましくは、アクチュエータは、空気圧で駆動されるように構成されている。このように構成すれば、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を調整するアクチュエータの空気圧による減衰効果を利用して、電磁石ターゲットに振動が発生した場合にも振動を有効に減衰させることができる。これにより、電磁石ターゲットの振動を減衰させるための減衰装置を別途設けることなく、振動を迅速に低減することができるので、磁気軸受装置の制御応答性を向上させることができる。
【0014】
上記第1の局面による磁気軸受装置において、好ましくは、電磁石は、電磁石ターゲットの上方に配置され、電磁石ターゲットを鉛直上方向の磁気吸引力により支持するスラスト電磁石を含み、第2磁極は、電磁石ターゲットの下方に配置され、電磁石ターゲットを磁気吸引力により鉛直下方向に吸引する永久磁石を含むスラスト磁極を含む。このように構成すれば、電磁石ターゲットを鉛直方向に支持する磁気軸受装置において、支持する浮上体の重量が変化した場合でも、電磁石ターゲットに対するスラスト磁極による鉛直下方向への磁気吸引力およびスラスト電磁石による鉛直上方向への磁気吸引力のそれぞれを調整して所望の磁気軸受特性を維持することができる。
【0015】
この発明の第2の局面における磁気浮上ステージは、浮上ステージ部と、浮上ステージ部を鉛直方向に支持する磁気軸受部とを備え、磁気軸受部は、浮上ステージ部に取り付けられ、磁性材からなる電磁石ターゲットと、第1磁極と励磁コイルとを有し、電磁石ターゲットに対向するように配置され、電磁石ターゲットを磁気吸引力により支持する電磁石と、電磁石ターゲットの電磁石とは反対側の部分に対向するように配置され、電磁石ターゲットを磁気吸引力により吸引する永久磁石を有する第2磁極とを含み、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を調整可能に構成されている。
【0016】
この発明の第2の局面による磁気浮上ステージでは、上記のように、電磁石ターゲットに対向するように電磁石を配置し、電磁石ターゲットの電磁石とは反対側の部分に対向するように永久磁石を含む第2磁極を配置するとともに、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を調整可能に構成することによって、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を調整することにより永久磁石を含む第2磁極による磁気吸引力を調整することができる。これにより、電磁石ターゲットを挟むように電磁石および永久磁石を設けた構成において、支持する浮上ステージ部の重量が変化した際に、浮上ステージ部を定位置で支持するために電磁石の電流を変化させた場合にも、永久磁石(第2磁極)による磁気吸引力を調整することによって、磁気軸受特性を調整して所望の磁気軸受特性を維持することができる。また、この第2の局面による磁気浮上ステージでは、永久磁石(第2磁極)の電磁石ターゲットに対する距離の調整により永久磁石による磁気吸引力を調整することができるので、一旦設定した磁気軸受特性を状況に応じて容易に変更することができる。
【0017】
上記第2の局面による磁気浮上ステージにおいて、好ましくは、第2磁極と電磁石ターゲットとの距離を調整するアクチュエータと、浮上ステージ部を水平面内の第1水平方向に非接触状態で駆動する第1水平方向駆動部と、浮上ステージ部を第1水平方向に直交する水平面内の第2水平方向に非接触状態で駆動する第2水平方向駆動部とをさらに備える。このように構成すれば、第1水平方向駆動部および第2水平方向駆動部による水平面内の動作に伴って浮上ステージ部に外乱が生じた場合でも、この第2の局面による磁気浮上ステージでは、アクチュエータにより磁気軸受部の磁気軸受特性を調整して所望の磁気軸受特性を維持することができるので、浮上ステージ部の安定した浮上状態を得ることができ、その結果、第1水平方向駆動部および第2水平方向駆動部により、浮上ステージ部を水平面内で安定して動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態によるスラスト磁気軸受装置を示す概略図である。
【図2】本発明の第2実施形態による磁気浮上ステージの全体構成を示す概略平面図である。
【図3】図2の300−300線に沿った概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1を参照して、本発明の第1実施形態によるスラスト磁気軸受装置100の構成について説明する。なお、スラスト磁気軸受装置100は、本発明の「磁気軸受装置」の一例である。
【0021】
本発明の第1実施形態によるスラスト磁気軸受装置100は、図1に示すように、浮上体110を鉛直方向(Z方向)の所定位置(定位置)に非接触で浮上させるように構成されている。また、スラスト磁気軸受装置100は、浮上体110に取り付けられた電磁石ターゲット1と、電磁石ターゲット1の上方(Z1方向)に所定の距離を隔てて配置されたスラスト電磁石2と、電磁石ターゲット1の下方(Z2方向)に所定の距離を隔てて配置された永久磁石31を含むスラスト磁極3とを備えている。なお、スラスト電磁石2は、本発明の「電磁石」の一例であり、スラスト磁極3は、本発明の「第2磁極」の一例である。
【0022】
電磁石ターゲット1は、磁性材からなり、水平方向に延びるように形成されている。また、スラスト電磁石2は、上側フレーム120に固定的に取り付けられ、電磁石ターゲット1の上面(Z1方向の表面)に対向するように設置されている。また、スラスト電磁石2は、上側磁極部21と、上側磁極部21に巻き付けられた励磁コイル22とにより構成されている。また、スラスト電磁石2は、鉛直上方向(Z1方向)の磁気吸引力により電磁石ターゲット1を支持するように構成されている。具体的には、スラスト電磁石2は、励磁コイル22に電流を流して鉛直上方向の磁気吸引力を発生させる。なお、上側磁極部21は、本発明の「第1磁極」の一例である。
【0023】
スラスト磁極3は、電磁石ターゲット1の下面(Z2方向の表面)に対向するように配置されている。また、スラスト磁極3は、上記した永久磁石31と、永久磁石31が中央部に配置された下側磁極部32とにより構成されている。すなわち、下側磁極部32は、凹形状を有するとともに、凹形状の底面中央部に永久磁石31が埋め込まれるように配置されている。また、永久磁石31は、左右方向(水平方向)にN極およびS極が配列されている。また、スラスト磁極3は、鉛直下方向(Z2方向)の磁気吸引力により電磁石ターゲット1を吸引するように構成されている。また、電磁石ターゲット1を、重力に加えてスラスト磁極3による磁気吸引力によっても鉛直下方向(Z2方向)に吸引することにより、電磁石ターゲット1が鉛直下方向に重力のみで吸引される場合に比べて、電磁石ターゲット1の剛性を高めることができる。
【0024】
ここで、第1実施形態では、スラスト磁極3は、アクチュエータ33により鉛直方向(Z方向)に移動可能に構成されており、電磁石ターゲット1からの離間距離Dが調整可能に構成されている。アクチュエータ33は、下側フレーム130の上面に固定的に設置され、スラスト磁極3の下側(Z2方向側)に配置されている。また、アクチュエータ33は、空気圧で駆動されるように構成されている。
【0025】
また、スラスト磁気軸受装置100には、電磁石ターゲット1とスラスト電磁石2との離間距離を検出するための上側センサ4と、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dを検出するための下側センサ5とが設けられている。上側センサ4は、ギャップセンサであり、スラスト電磁石2が取り付けられる上側フレーム120の下面に固定的に取り付けられている。また、下側センサ5は、ギャップセンサであり、スラスト磁極3の下側磁極部32に固定的に取り付けられている。なお、下側センサ5は、本発明の「距離検出手段」の一例である。
【0026】
また、スラスト磁気軸受装置100は、励磁コイル22に流れる電流を検出する電流検出器6と、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との目標離間距離を演算する演算器7と、アクチュエータ33の駆動を制御する制御器8とをさらに備えている。なお、電流検出器6は、本発明の「電流検出手段」の一例であり、演算器7は、本発明の「演算部」の一例である。また、制御器8は、本発明の「制御部」の一例である。
【0027】
演算器7は、電流検出器6から励磁コイル22に流れる電流の検出結果を取得するとともに、下側センサ5から電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dの検出結果を取得するように構成されている。また、演算器7は、浮上体110の重量変化や外乱などにより浮上体110に外力が生じた場合に、励磁コイル22に流れる電流および電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dに基づいて、浮上体110の外力を推定して電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との目標離間距離を演算するように構成されている。ここで、第1実施形態では、浮上体110の重量変化や外乱などにより浮上体110に外力が生じた場合に、電磁石ターゲット1を定位置で支持しながら、所望の磁気軸受特性を維持するための電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との間の距離を目標離間距離として設定している。
【0028】
第1実施形態においては、演算器7は、浮上体110の重量変化や外乱などにより浮上体110に外力が生じた場合でも、浮上体110を定位置で支持したまま、磁気軸受特性を所望の値に維持するための電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との距離を目標離間距離として取得する。ここで、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との距離を調整することにより、電磁石ターゲット1に対するスラスト磁極3(永久磁石31)の磁気吸引力を調整することによって、磁気軸受装置の不平衡剛性Kuを調整することが可能である。したがって、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との距離を調整することにより、剛性の指標となるコンプライアンス特性を調整することが可能である。
【0029】
制御器8は、演算器7による演算結果に基づいて、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との距離が目標離間距離になるようにアクチュエータ33をZ方向に動作させるように構成されている。
【0030】
次に、第1実施形態によるスラスト磁気軸受装置100において、浮上体110に外力が生じた場合の動作について説明する。
【0031】
まず、浮上体110の重量変化や外乱などにより浮上体110に外力が生じると、電磁石ターゲット1を定位置で支持するために、励磁コイル22に流れる電流を変化させてスラスト電磁石2による鉛直上方向への磁気吸引力を変化させる。そして、演算器7により、電流検出器6により検出されるスラスト電磁石2の電流および下側センサ5により検出される電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dに基づいて、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との目標離間距離を演算する。具体的には、演算器7は、浮上体110に外力が生じた前後において、浮上体110を定位置で支持したまま、磁気軸受特性を変化させないための電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との距離を求める。その後、制御器8により、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dが目標離間距離となるようにアクチュエータ33をZ方向に駆動させる。これにより、スラスト磁極3による鉛直下方向への磁気吸引力を所望の大きさに変化させることができる。
【0032】
第1実施形態では、上記のように、電磁石ターゲット1の上面に対向するようにスラスト電磁石2を配置し、電磁石ターゲット1の下面に対向するように永久磁石31を含むスラスト磁極3を配置するとともに、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dを調整可能に構成することによって、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dを調整することにより永久磁石31を含むスラスト磁極3による磁気吸引力を調整することができる。これにより、電磁石ターゲット1を挟むようにスラスト電磁石2および永久磁石31を設けた構成において、支持する浮上体110の重量が変化した際に、浮上体110を定位置で支持するためにスラスト電磁石2の電流を変化させた場合にも、永久磁石31(スラスト磁極3)による磁気吸引力を調整することによって、磁気軸受特性を調整して所望の磁気軸受特性を維持することができる。その結果、浮上体110の重量変化に対して安定した浮上状態を得ることができる。また、このスラスト磁気軸受装置100では、永久磁石31を含むスラスト磁極3の電磁石ターゲット1に対する離間距離Dの調整により永久磁石31による磁気吸引力を調整することができるので、一旦設定した磁気軸受特性を状況に応じて容易に変更することができる。
【0033】
また、第1実施形態では、上記のように、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dを調整するアクチュエータ33を設けることによって、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dを容易に調整することができるので、スラスト磁極3による磁気吸引力を容易に調整することができる。これにより、支持する浮上体110の重量が変化した場合でも、容易に、磁気軸受特性を調整して所望の磁気軸受特性を維持することができる。
【0034】
また、第1実施形態では、上記のように、スラスト電磁石2に流れる電流に基づいて、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dを所望の磁気軸受特性が得られる電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との目標離間距離になるようにアクチュエータ33を制御する制御器8を設けることによって、支持する浮上体110の重量が変化したことに伴ってスラスト電磁石2に流れる電流が変化した場合でも、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dをスラスト電磁石2に流れる電流に応じた目標離間距離に調整して容易に所望の磁気軸受特性を維持することができる。
【0035】
また、第1実施形態では、上記のように、スラスト電磁石2に流れる電流と、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dとに基づいて、所望の磁気軸受特性が得られる電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との目標離間距離を演算する演算器7を設け、制御器8を、演算器7により演算された目標離間距離になるように、アクチュエータ33を制御するように構成することによって、演算器7により、スラスト電磁石2に流れる電流および電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dの両方に基づいて精度よく電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との目標離間距離が演算されるので、所望の磁気軸受特性を精度よく維持することができる。
【0036】
また、第1実施形態では、上記のように、演算器7により、スラスト電磁石2に流れる電流と、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dとに基づいて、剛性の指標となるコンプライアンス特性を所定の値に維持するための電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との目標離間距離を演算することによって、支持する浮上体110の重量が変化した際に、浮上体110を定位置で支持するためにスラスト電磁石2の電流を変化させた場合にも、剛性の指標となるコンプライアンス特性を所定の値に維持することができる。これにより、所望の磁気軸受特性を維持することができる。
【0037】
また、第1実施形態では、上記のように、アクチュエータ33を空気圧で駆動されるように構成することによって、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離Dを調整するアクチュエータ33の空気圧による減衰効果を利用して、電磁石ターゲット1に振動が発生した場合にも振動を有効に減衰させることができる。これにより、電磁石ターゲット1の振動を減衰させるための減衰装置を別途設けることなく、振動を迅速に低減することができるので、スラスト磁気軸受装置100の制御応答性を向上させることができる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、図2および図3を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、上記第1実施形態のスラスト磁気軸受装置100と同様の構成のスラスト磁気軸受装置100aを磁気浮上ステージ200に適用した場合について説明する。なお、第2実施形態では、上記第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付してその説明を省略する。また、スラスト磁気軸受装置100aは、本発明の「磁気軸受部」の一例である。
【0039】
本発明の第2実施形態による磁気浮上ステージ200は、半導体基板に回路パターンを現像する露光装置に用いられるものであり、ウエハを支持可能に構成されている。また、磁気浮上ステージ200は、図2および図3に示すように、Y方向から見て逆U字形状の浮上ステージ部201と、浮上ステージ部201のX方向の両側でY方向に延びるように形成された2つのスラスト磁気軸受装置100aとを備えている。また、浮上ステージ部201は、X方向の両端部において2つのスラスト磁気軸受装置100aの2つの電磁石ターゲット1に取り付けられている。なお、浮上ステージ部201は、本発明の「浮上体」の一例である。
【0040】
また、磁気浮上ステージ200は、内部に2つのスラスト磁気軸受装置100aを収納する筐体202と、浮上ステージ部201上に設置されたウエハ保持器203とをさらに備えている。筐体202の内側上面には、2つのスラスト磁気軸受装置100aの2つのスラスト電磁石2が固定的に設置されている。また、2つのスラスト電磁石2は、X方向において浮上ステージ部201を両側から挟むように配置されている。また、各スラスト電磁石2は、浮上ステージ部201に取り付けられた対応する電磁石ターゲット1の上面(Z1方向の表面)に対向するように設置されている。また、筐体202の内側上面には、上側センサ4が各スラスト電磁石2に隣接するように固定的に設置されている。
【0041】
また、筐体202の内側下面上には、2つのスラスト磁気軸受装置100aの2つのアクチュエータ33が固定的に設置されている。また、2つのアクチュエータ33の上部には、2つのスラスト磁極3が鉛直方向(Z方向)に移動可能に設けられている。また、各スラスト磁極3は、浮上ステージ部201に取り付けられた対応する電磁石ターゲット1の下面(Z2方向の表面)に対向するように設置されている。ここで、この第2実施形態においても、2つの永久磁石31を含む2つのスラスト磁極3が2つのアクチュエータ33により鉛直方向に駆動されることによって、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離が調整可能である。また、各スラスト磁極3の下側磁極部32には、下側センサ5が固定的に取り付けられている。上記の構成により、磁気浮上ステージ200は、2つのスラスト磁気軸受装置100aにより、浮上ステージ部201を鉛直方向(Z方向)の所定位置(定位置)に非接触で支持している。
【0042】
また、図2に示すように、浮上ステージ部201のY方向の両側には、浮上ステージ部201をX方向に動作させるための一対のXリニアモータ204aおよび204bが設けられている。一対のXリニアモータ204aおよび204bは、X方向に延びるように形成されている。また、図3に示すように、浮上ステージ部201の内側には、浮上ステージ部201をY方向に動作させるための一対のYリニアモータ205aおよび205bが設けられている。一対のYリニアモータ205aおよび205bは、Y方向に延びるように形成されている。これにより、磁気浮上ステージ200では、浮上ステージ部201をX方向、Y方向およびZ方向の3軸方向に動作させることが可能である。なお、Xリニアモータ204aおよび204bは、本発明の「第1水平方向駆動部」の一例であり、Yリニアモータ205aおよび205bは、本発明の「第2水平方向駆動部」の一例である。
【0043】
また、図2および図3には図示していないが、第2実施形態の2つのスラスト磁気軸受装置100aにも、上記第1実施形態と同様の電流検出器6、演算器7および制御器8が設けられている。
【0044】
なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0045】
第2実施形態では、上記のように、2つの電磁石ターゲット1の上面に対向するように2つのスラスト電磁石2を配置し、2つの電磁石ターゲット1の下面に対向するように永久磁石31を含む2つのスラスト磁極3を配置するとともに、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離を調整可能に構成することによって、電磁石ターゲット1とスラスト磁極3との離間距離を調整することにより永久磁石31を含む2つのスラスト磁極3による磁気吸引力を調整することができる。これにより、2つの電磁石ターゲット1を挟むように2つのスラスト電磁石2および2つの永久磁石31を設けた構成において、支持する浮上ステージ部201の重量が変化した際に、浮上ステージ部201を定位置で支持するために2つのスラスト電磁石2の電流を変化させた場合にも、2つの永久磁石31(スラスト磁極3)による磁気吸引力を調整することによって、磁気軸受特性を調整して所望の磁気軸受特性を維持することができる。その結果、浮上ステージ部201の重量変化に対して安定した浮上状態を得ることができる。また、この磁気浮上ステージ200では、永久磁石31(スラスト磁極3)の電磁石ターゲット1に対する離間距離の調整により2つの永久磁石31による磁気吸引力を調整することができるので、一旦設定した磁気軸受特性を状況に応じて容易に変更することができる。
【0046】
また、第2実施形態では、Xリニアモータ204a、204bやYリニアモータ205a、205bの駆動に伴って浮上ステージ部201に外乱が生じた場合でも、2つのスラスト磁気軸受装置100aの2つの永久磁石31による磁気吸引力を調整することにより、磁気軸受特性を調整して所望の磁気軸受特性を維持することができる。これにより、安定した浮上ステージ部201の浮上状態を得ることができるので、Xリニアモータ204a、204bおよびYリニアモータ205a、205bにより、浮上ステージ部201を水平面内で安定して動作させることができる。
【0047】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0048】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0049】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、電磁石ターゲットの上方にスラスト電磁石を配置し、電磁石ターゲットの下方に第2磁極としてのスラスト磁極を配置する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電磁石ターゲットの下方に電磁石を配置し、電磁石ターゲットの上方に第2磁極を配置する構成であってもよい。
【0050】
また、上記第1および第2実施形態では、磁気軸受装置の一例として、電磁石ターゲットを鉛直方向において支持するスラスト磁気軸受装置を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電磁石ターゲットを水平方向において支持する磁気軸受装置であってもよいし、鉛直方向および水平方向以外の方向において支持する磁気軸受装置であってもよい。
【0051】
また、上記第1および第2実施形態では、電磁石ターゲットと第2磁極としてのスラスト磁極との距離をアクチュエータにより調整する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電磁石ターゲットと第2磁極との距離を調整可能な構成であればよく、たとえば、電磁石ターゲットと第2磁極との距離を手動で調整する構成であってもよい。
【0052】
また、上記第1および第2実施形態では、アクチュエータを空気圧で駆動する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、空気圧以外でアクチュエータを駆動する構成であってもよい。
【0053】
また、上記第1および第2実施形態では、スラスト電磁石に流れる電流、および、電磁石ターゲットと第2磁極としてのスラスト磁極との距離の両方に基づいて、電磁石ターゲットとスラスト磁極との目標離間距離を演算する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電磁石に流れる電流に基づいていれば、電磁石に流れる電流にのみ基づいて電磁石ターゲットとスラスト磁極との目標離間距離を演算する構成であってもよいし、電磁石に流れる電流および電磁石ターゲットと第2磁極との距離に加えて、その他の要素にも基づいて目標離間距離を演算する構成であってもよい。
【0054】
また、上記第1および第2実施形態では、距離検出手段の一例として、電磁石ターゲットと第2磁極としてのスラスト磁極との距離を検出するギャップセンサからなる下側センサを示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電磁石ターゲットと第2磁極との距離を検出可能であれば、たとえば、アクチュエータの駆動距離(第2磁極の移動距離)を検出して電磁石ターゲットと第2磁極との距離を取得する距離検出手段であってもよい。
【0055】
また、上記第2実施形態では、磁気軸受装置としてのスラスト磁気軸受装置を、露光装置に用いられる磁気浮上ステージに適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明の磁気軸受装置を露光装置以外の用途に用いられる装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 電磁石ターゲット
2 スラスト電磁石(電磁石)
3 スラスト磁極(第2磁極)
5 下側センサ(距離検出手段)
6 電流検出器(電流検出手段)
7 演算器(演算部)
8 制御器(制御部)
21 上側磁極部(第1磁極)
22 励磁コイル
31 永久磁石
33 アクチュエータ
100、100a スラスト磁気軸受装置(磁気軸受装置、磁気軸受部)
110 浮上体
200 磁気浮上ステージ
201 浮上ステージ部
204a、204b Xリニアモータ(第1水平方向駆動部)
205a、205b Yリニアモータ(第2水平方向駆動部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮上体に取り付けられ、磁性材からなる電磁石ターゲットと、
第1磁極と励磁コイルとを含み、前記電磁石ターゲットに対向するように配置され、前記電磁石ターゲットを磁気吸引力により支持する電磁石と、
前記電磁石ターゲットの前記電磁石とは反対側の部分に対向するように配置され、前記電磁石ターゲットを磁気吸引力により吸引する永久磁石を含む第2磁極とを備え、
前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの距離を調整可能に構成されている、磁気軸受装置。
【請求項2】
前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの距離を調整するアクチュエータをさらに備える、請求項1に記載の磁気軸受装置。
【請求項3】
前記電磁石に流れる電流を検出する電流検出手段と、
少なくとも前記電流検出手段により検出された前記電磁石に流れる電流に基づいて、前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの距離を、所望の磁気軸受特性が得られる前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの目標距離になるように前記アクチュエータを制御する制御部とをさらに備える、請求項2に記載の磁気軸受装置。
【請求項4】
前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの距離を検出する距離検出手段と、
前記電流検出手段により検出された前記電磁石に流れる電流と、前記距離検出手段により検出された前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの距離とに基づいて、前記所望の磁気軸受特性が得られる前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの目標距離を演算する演算部とをさらに備え、
前記制御部は、前記演算部により演算された目標距離になるように、前記アクチュエータを制御するように構成されている、請求項3に記載の磁気軸受装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記電流検出手段により検出された前記電磁石に流れる電流と、前記距離検出手段により検出された前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの距離とに基づいて、前記所望の磁気軸受特性が得られるように、剛性の指標となるコンプライアンス特性を所定の値に維持するための前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの目標距離を演算するように構成されている、請求項4に記載の磁気軸受装置。
【請求項6】
前記アクチュエータは、空気圧で駆動されるように構成されている、請求項2〜5のいずれか1項に記載の磁気軸受装置。
【請求項7】
前記電磁石は、前記電磁石ターゲットの上方に配置され、前記電磁石ターゲットを鉛直上方向の磁気吸引力により支持するスラスト電磁石を含み、
前記第2磁極は、前記電磁石ターゲットの下方に配置され、前記電磁石ターゲットを磁気吸引力により鉛直下方向に吸引する永久磁石を含むスラスト磁極を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気軸受装置。
【請求項8】
浮上ステージ部と、
前記浮上ステージ部を鉛直方向に支持する磁気軸受部とを備え、
前記磁気軸受部は、
前記浮上ステージ部に取り付けられ、磁性材からなる電磁石ターゲットと、
第1磁極と励磁コイルとを有し、前記電磁石ターゲットに対向するように配置され、前記電磁石ターゲットを磁気吸引力により支持する電磁石と、
前記電磁石ターゲットの前記電磁石とは反対側の部分に対向するように配置され、前記電磁石ターゲットを磁気吸引力により吸引する永久磁石を有する第2磁極とを含み、
前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの距離を調整可能に構成されている、磁気浮上ステージ。
【請求項9】
前記第2磁極と前記電磁石ターゲットとの距離を調整するアクチュエータと、
前記浮上ステージ部を水平面内の第1水平方向に非接触状態で駆動する第1水平方向駆動部と、
前記浮上ステージ部を前記第1水平方向に直交する水平面内の第2水平方向に非接触状態で駆動する第2水平方向駆動部とをさらに備える、請求項8に記載の磁気浮上ステージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−185368(P2011−185368A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51834(P2010−51834)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】