説明

磁気軸受装置

【課題】 センサの対ノイズ性を劣化させずに、ラジアル磁気軸受の負荷容量の増大を可能とし、これにより、内面研削盤のように全周波数域における高剛性化が必要な装置への搭載を好適なものとした磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】 軸受ターゲット部22,23の外径がセンサターゲット部24,25の外径よりも大きくなされるとともに、軸受ターゲット部22,23の材質の耐力がセンサターゲット部24,25の耐力よりも大きくなされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気軸受装置に関し、特に、内面研削盤のように高速回転で使用される装置で使用するのに適した磁気軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体と、回転体をラジアル制御軸方向に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受と、回転体をアキシアル制御軸方向に非接触支持するアキシアル磁気軸受と、回転体のラジアル方向の位置を検出するためのラジアル変位センサと、回転体のアキシアル方向の位置を検出するためのアキシアル変位センサとを備えている磁気軸受装置は、よく知られており(特許文献1など)、種々の用途に使用されている。
【0003】
通常、ラジアル磁気軸受およびラジアル変位センサが対向させられる回転体のターゲット部は、ターゲット部に隣接する回転体の外周部が非磁性材料とされているのに対し、磁性材料である環状のけい素鋼板(無方向性電磁鋼板の一例)が積層されたものとされており、センサターゲット部と軸受ターゲット部とは、従来、同じ材質でかつ同じ径とされていた。すなわち、センサターゲット部は、センサの対ノイズ性が重要であり、軸受ターゲット部は、センサの対ノイズ性を考慮することが不要であるにもかかわらず、同じ材質とされていた。
【特許文献1】特開2001−214934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内面研削盤に磁気軸受装置を搭載する場合、全周波数域において磁気軸受の高剛性化が必要であり、このためには、軸受ターゲット部は、大径化することが好ましいが、大径化すると、遠心応力が増大するという問題があり、DN値が500万レベルとなる高速回転に適した磁気軸受装置は実現されていない。
【0005】
この発明の目的は、センサの対ノイズ性を劣化させずに、ラジアル磁気軸受の負荷容量の増大を可能とし、これにより、内面研削盤のように全周波数域における高剛性化が必要な装置への搭載をより好適なものとした磁気軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による磁気軸受装置は、回転体と、回転体の軸受ターゲット部に対向させられて回転体をラジアル制御軸方向に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受と、回転体のセンサターゲット部に対向させられて回転体のラジアル方向の位置を検出するラジアル変位センサとを備えている磁気軸受装置において、軸受ターゲット部の外径がセンサターゲット部の外径よりも大きくなされるとともに、軸受ターゲット部の材質の耐力がセンサターゲット部の耐力よりも大きくなされていることを特徴とするものである。
【0007】
磁気軸受装置は、例えば内面研削盤などのように、回転駆動される回転軸の先端に砥石(またはその他の工具)が取り付けられた工作機械のスピンドル装置として使用される。
【0008】
磁気軸受装置は、例えば、ケーシング、ケーシング内に水平または垂直に配置された回転軸、回転軸を非接触支持する1つの制御型アキシアル磁気軸受および前後または上下の2つの制御型ラジアル磁気軸受、ならびに、回転軸のアキシアル方向の位置を検出するための1つのアキシアル変位センサおよび回転軸のラジアル方向の位置を検出するための前後または上下の2つのラジアル変位センサを備えているものとされる。ここで、各磁気軸受および各変位センサは、公知のものであり、通常、各ラジアル磁気軸受は、X軸方向磁気軸受およびY軸方向磁気軸受からなるものとされ、各ラジアル変位センサは、X軸方向変位センサおよびY軸方向変位センサからなるものとされる。
【0009】
軸受ターゲット部は、従来、外径および材質ともに、センサターゲット部と同じとされていたが、センサターゲット部に比べて、外径が大きくかつ材質の耐力が大きいものとされる。耐力(0.2%耐力)は、降伏点応力と言い換えることができ、これが大きい程、大きい遠心力に耐えることができる。軸受ターゲット部の外径が大きいものとされることにより、磁極面積が増大し、ラジアル磁気軸受の負荷容量が増大するが、高速回転中に軸受ターゲット部に発生する遠心応力が増大し、耐久性が低下する。そこで、従来、ターゲット部同士は同じ材質とされていたところ、軸受ターゲット部を形成する材質が変更されて、その耐力が大きいもの(「高張力電磁鋼板」と称されることがある)とされる。このような高張力電磁鋼板としては、新日本製鐵株式会社製の高張力ハイライトコア:50HST570Yなどを使用することができる。高張力電磁鋼板は、センサの対ノイズ性の点では最適ではないので、センサターゲット部については、外径が相対的に小さく、耐久性には有利であることから、これを従来と同じ電磁鋼板(例えば、日本金属株式会社製のけい素鋼板:ST100)製とすることで、センサの対ノイズ性が確保される。こうして、ラジアル磁気軸受の負荷容量の増大とセンサの対ノイズ性の確保とを両立させることができる。
【0010】
なお、センサターゲット部用電磁鋼板1枚分の厚み(例えば0.1mm程度)は、磁気軸受ターゲット部用電磁鋼板1枚分の厚み(例えば0.35mm程度)に比べて、薄いものとすることが好ましい。この場合、センサターゲット部は、厚みが薄いことでノイズの影響が出やすいものとなるが、上記構成により、対ノイズ性の低下が抑えられる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の磁気軸受装置によると、軸受ターゲット部の外径がセンサターゲット部の外径よりも大きいので、ラジアル磁気軸受の負荷容量を増大することができ、回転体の軸受ターゲット部の材質の耐力がセンサターゲット部の耐力よりも大きくなされていることで、軸受ターゲット部の高速回転性能の劣化が防止される。センサターゲット部は、相対的に外径が小さいことから、材質の耐力が相対的に小さいが対ノイズ性に優れた材質とすることができ、こうして、ラジアル磁気軸受の負荷容量の増大とラジアル変位センサの対ノイズ性の確保とを両立させることができる。これにより、内面研削盤のように全周波数域における高剛性化が必要な工作機械等に搭載するのにより好適な磁気軸受装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、この発明による磁気軸受装置を内面研削盤に適用した実施形態を示している。
【0014】
内面研削盤は、ワーク(W)の内面を研削する砥石(工具)(2)が取り付けられた磁気軸受スピンドル(磁気軸受装置)(1)と、内面が被研削面であるワーク(W)を保持して回転させるワーク保持台(3)と、磁気軸受スピンドル(1)を軸方向に移動させるスピンドル移動手段(図示略)と、ワーク保持台(3)を磁気軸受スピンドル(1)に対して相対的に移動させて砥石(2)にワーク(W)に対する切込み動作を行わせるワーク保持台移動手段(図示略)とを備えている。
【0015】
磁気軸受スピンドル(1)は、鉛直円筒状のケーシング(10)の内側で鉛直軸状の回転軸(11)が回転する縦型のものである。砥石(2)は、クイル(12)を介して回転軸(11)に支持されている。以下の説明において、回転軸(11)の鉛直な軸方向(アキシアル方向)の制御軸(アキシアル制御軸)をZ軸、Z軸と直交するとともに互いに直交する2つの水平な径方向(ラジアル方向)の制御軸(ラジアル制御軸)をX軸およびY軸とする。
【0016】
磁気軸受スピンドル(1)の機械本体部分には、回転軸(11)を軸方向に非接触支持する1組の制御型アキシアル磁気軸受(13)、回転軸(11)を径方向に非接触支持する上下2組の制御型ラジアル磁気軸受(14)(15)、回転軸(11)のアキシアル方向の変位を検出するための1個のアキシアル変位センサ(16)と、回転軸(11)のラジアル方向の変位を検出するための前後2組のラジアル変位センサ(17)(18)と、回転軸(11)を高速回転させるためのビルトイン型電動モータ(19)、ならびに回転軸(11)の軸方向および径方向の可動範囲を規制して回転軸(11)を磁気軸受(13)(14)(15)で支持していないときに回転軸(11)を機械的に支持する上下2組のタッチダウン用の保護軸受(20)(21)が設けられている。
【0017】
磁気軸受スピンドル(1)は、図示省略するが、センサ回路、DSP、電磁石駆動回路およびインバータなどからなるコントローラ部分(磁気軸受制御装置)を有している。
【0018】
アキシアル磁気軸受(13)は、回転軸(11)の下部に一体に形成されたフランジ部(12a)をZ軸方向の両側から挟むように配置された1対のアキシアル電磁石(13a)(13b)を備えている。
【0019】
アキシアル変位センサ(16)は、回転軸(11)の下端面にZ軸方向の下側から対向するように配置され、回転軸(11)の下端面との距離(空隙)に比例する距離信号を出力する。
【0020】
2組のラジアル磁気軸受(14)(15)は、回転軸(11)の上下端部近傍に配置されており、上側のラジアル磁気軸受(14)とアキシアル磁気軸受(13)との間にモータ(19)が配置されている。各ラジアル磁気軸受(14)(15)は、回転軸(11)をX軸方向の両側からおよびY軸方向の両側から挟むように配置された2対のラジアル電磁石(14a)(15a)を備えている。
【0021】
上側のラジアル変位センサ(17)は、上側のラジアル磁気軸受(14)の近傍上方に配置されており、下側のラジアル変位センサ(18)は、下側のラジアル磁気軸受(7)の近傍下方に配置されており、各ラジアル変位センサ(17)(18)は、回転軸(11)の外周面との距離に比例する距離信号を出力する。
【0022】
ラジアル磁気軸受(14)(15)が対向させられている回転軸(11)の軸受ターゲット部(22)(23)と、ラジアル変位センサ(17)(18)が対向させられている回転軸(11)のセンサターゲット部(24)(25)とは、磁性材料である環状の電磁鋼板が積層されたものとされている。これらのターゲット部(22)(23)(24)(25)に隣接する回転軸(11)の外周部は、非磁性材料とされている。
【0023】
軸受ターゲット部(22)(23)は、センサターゲット部(24)(25)に比べて、外径が大きくなされている。また、材質については、センサターゲット部(24)(25)の材質は、従来から使用されている電磁鋼板(例えば、日本金属株式会社製のけい素鋼板:ST100)とされ、軸受ターゲット部(22)(23)を形成する材質は、その耐力がセンサターゲット部(24)(25)の材質より大きいもの(例えば、新日本製鐵株式会社製の高張力ハイライトコア:50HST570Y)とされている。従来のターゲット部を構成する電磁鋼板は、高速回転の限度として、DN値が400万程度であり、高張力電磁鋼板は、このDN値を540万程度に上げることができる。したがって、例えば、5万回転(rpm)として、一般的な電磁鋼板の耐力が400MPa、高張力電磁鋼板の耐力が650MPaであるので、センサターゲット部(24)(25)に発生するフープ応力を320MPa、軸受ターゲット部(22)(23)に発生するフープ応力を600MPa程度とすることで、それぞれの材質の耐力以下とすることができる。
【0024】
保護軸受(20)(21)はアンギュラ玉軸受などの転がり軸受よりなり、各保護軸受(20)(21)の外輪がケーシング(10)に固定され、内輪が回転軸(11)の周囲に所定の隙間をあけて配置されている。2組の保護軸受(20)(21)はいずれも径方向の支持が可能なものであり、少なくとも1組は軸方向の支持も可能なものである。運転停止あるいは停電などによって磁気軸受(13)(14)(15)が作動していない状態では、回転軸(11)は保護軸受(20)(21)に支持される。
【0025】
この内面研削盤によると、磁気軸受スピンドル(1)のコントローラ部分により、従来のものと同様に、各変位センサ(16)(17)(18)の出力に応じて、各磁気軸受(13)(14)(15)の電磁石電流が制御されて、回転軸(11)が軸方向に非接触支持される。
【0026】
そして、回転軸(11)の軸受ターゲット部(22)(23)の外径が相対的に大きくされていることで、ラジアル磁気軸受(14)(15)の負荷容量を増大することができる。ラジアル磁気軸受(14)(15)の負荷容量を増大するには、軸受ターゲット部(22)(23)を軸方向に長くすることでも可能であるが、この場合には、固有振動数が低下するという問題があり、軸方向長さを長くすることなく、磁極面積を増大させることで、高速回転性能の劣化が防止される。そして、センサの対ノイズ性を確保するのに有利なように、軸受ターゲット部(22)(23)の材質の耐力がセンサターゲット部(24)(25)に比べて大きくなされていることで、ラジアル磁気軸受(14)(15)の負荷容量の増大とラジアル変位センサ(17)(18)の対ノイズ性の確保とを両立させることができる。
【0027】
なお、上記において、磁気軸受スピンドル(1)は、内面研削盤用として説明したが、研削以外の種々の工作機械やその他の装置に適用可能なことはもちろんである。また、上記実施形態では、回転軸(1)を垂直軸として示しているが、回転軸は水平軸であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、この発明による磁気軸受装置の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0029】
(1) 磁気軸受スピンドル(磁気軸受装置)
(11) 回転軸
(13) アキシアル磁気軸受
(14)(15) ラジアル磁気軸受
(16) アキシアル変位センサ
(17)(18) ラジアル変位センサ
(22)(23) 軸受ターゲット部
(24)(25) センサターゲット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と、回転体の軸受ターゲット部に対向させられて回転体をラジアル制御軸方向に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受と、回転体のセンサターゲット部に対向させられて回転体のラジアル方向の位置を検出するラジアル変位センサとを備えている磁気軸受装置において、
軸受ターゲット部の外径がセンサターゲット部の外径よりも大きくなされるとともに、軸受ターゲット部の材質の耐力がセンサターゲット部の耐力よりも大きくなされていることを特徴とする磁気軸受装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−293673(P2009−293673A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146401(P2008−146401)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】