説明

磁石固定治具

【解決手段】本発明は、回転砥石による磁石切削又は研削加工において、ワックスによる接着固定が不要で、被切断物の着脱が容易で且つ切断中及び切断後の磁石のずれがなく精度よく加工可能となる磁石固定治具を提供する。
【効果】円板状又は円筒状の台金の外周部に砥石を固着した外周刃又は研削砥石を回転軸に取り付け希土類磁石を切削又は研削加工する際に使用する希土類磁石を固定するための磁石固定治具であって、磁石を挟む一対の固定治具は、金属からなる部品と円柱状のゴムから構成され、金属部品にはゴムの直径よりも浅い溝を設け、その溝の中にゴムをはめ込むと共に、溝の体積はゴムの体積以上の空間を持つようにして、ゴムの突き出しを設け、磁石に先ずゴムが接触しゴムとの摩擦力で横ずれが防止され、更にゴムが突き出し分変形して金属部と磁石が接触することで把持方向のずれがなくなり、強固に保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石を回転砥石を用いて切断又は研削加工する際に希土類磁石を固定するための磁石固定治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石の製品を製造する場合、プレス成形の段階で製品形状とほぼ同様な形状とする1個取りを行う場合と、希土類磁石を大きなブロック状に成形し、加工工程で切断する場合(多数個取り)がある。1個取りの場合、成形品、焼結・熱処理品及び加工処理品(製品)において、形状と大きさがほぼ同じであり、正常な焼結をすることができれば、加工工程の負担が比較的少なく、ニアネットシェイプな焼結体を得ることができる。但し、小さい製品や磁化方向の厚みが薄い製品を製造する場合、プレス成形、焼結において正常な形状の焼結体を得ることが難しくなり、歩留まりの低下を招きやすく、ひどい場合は製造できなくなってしまう。
【0003】
これに対し、多数個取りの場合、上記のような問題もなく、またプレス成形、焼結・熱処理等の工程での生産性が高く、汎用性もあるため、希土類磁石製造の主流となってきている。但し、この場合、成形品及び焼結・熱処理品においては、形状と大きさがほぼ同じであるが、その後の工程である加工時に切断や研削による成形工程が必要であり、いかに効率よく無駄なく切断、成形加工して、加工処理品を得ることができるかが重要なポイントとなってくる。
希土類磁石の加工には、通常、円板状台金の外周部分にダイヤモンド砥粒を固着したダイヤモンド砥石の外周刃や研削砥石を用いる。
【0004】
このような砥石を使用して希土類磁石を切断加工するとき、磁石を固定するため、磁石はカーボンベースなどの基板上にワックスなどの切断後に除去可能な接着剤で接着し固定することが一般的である。まず、ワックスによる接着のためには、カーボン板と磁石を加熱し、溶かしたワックスを磁石とカーボン板の間に塗布、冷却して固める。この状態で切断し、切断後は、再度加熱してワックスを溶かし、切断された磁石をカーボン板から外す。この状態では、磁石にワックスが付着したままなので、溶剤などでワックスを除去する必要がある。
【0005】
このように、ワックス接着を使用した磁石の固定は、切断以外の加熱接着、加熱剥離、洗浄という付属の工程が発生し、非常に手間がかかり、切断工程のコストアップを招いていた。
この場合、固定が不十分であると精度が悪化したり、切断時にカケが生じたりする問題点がある。
この問題に対し、接着を用いない固定治具により磁石又は被切断物を固定することが特許文献1:特開2001−212730号公報、特許文献2:特開2006−68998号公報に提案されている。
【0006】
しかし、これらのものは、ゴムや樹脂の弾性を利用して挟み込むものである。磁石の加工は、先に述べたように、焼結後のものを加工することから始まるが、その寸法精度は、焼結前の成形時の粉密度や成形圧力、更に焼結時の雰囲気や温度などの影響を受け、寸法ばらつきはかなり大きくなる。そのようなものを接着を用いず強固に保持するためには、上記特許文献1,2のように弾性体の変形による固定が求められるが、弾性体による保持は、弾性ゆえに切断中に動くことや弾性体の劣化などの問題があり、カケの問題や寸法精度の問題が十分に解決されないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−212730号公報
【特許文献2】特開2006−68998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、希土類磁石の砥石による加工において、加工中及び切断終了直後の被切断物又は被研削物を強固に固定し、加工後の加工物の寸法精度を向上させることができる磁石固定治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、外周部に磁石外周刃を有する円形リング状台金を回転軸に所定の間隔で複数取り付けてなる希土類磁石切断用具又は外周部に研削砥石を有する円形リング状もしくは円筒状台金を回転軸に取り付けてなる希土類磁石研削用具を上記回転軸の回転と一体に回転させると共に、希土類磁石に対し相対的に移動させて該移動方向に沿って上記希土類磁石を切断又は研削加工する際に上記希土類磁石を固定する磁石固定治具において、希土類磁石が載置される基台と、この基台の上記切断用具又は研削用具の相対的移動方向両側に配設され、上記希土類磁石配置側の対向面にそれぞれ溝が形成されてなる金属製支持部材と、上記両支持部材にそれぞれ形成された溝内に上記希土類磁石配置側に一部突出し、かつ溝の底部に当接した状態で挿入されたゴム製の挟持部材とを備え、上記一方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材と他方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材との間に上記希土類磁石が挟持固定され、かつ上記各溝の容積がこの溝に挿入される挟持部材の容積以上に形成されてなることを特徴とする磁石固定治具を提供する。
【0010】
また本発明は、外周部に磁石外周刃を有する円形リング状台金を回転軸に所定の間隔で複数取り付けてなる希土類磁石切断用具又は外周部に研削砥石を有する円形リング状もしくは円筒状台金を回転軸に取り付けてなる希土類磁石研削用具を上記回転軸の回転と一体に回転させると共に、希土類磁石に対し相対的に移動させて該移動方向に沿って上記希土類磁石を切断又は研削加工する際に上記希土類磁石を固定する磁石固定治具において、基台と、この基台に上記切断用具又は研削用具の相対的移動方向に互いに所定間隔離間して配設され、上面にそれぞれ係止突起部が形成されてなる金属製支持部材であって、互いに離間して配設された両支持部材の係止突起部間に希土類磁石が配置されると共に、上記係止突起部の該磁石と対向する面にそれぞれ溝が形成されてなる支持部材と、上記両支持部材にそれぞれ形成された溝内に上記希土類磁石配置側に一部突出し、かつ溝の底部に当接した状態で挿入されたゴム製の挟持部材とを備え、上記一方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材と他方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材との間に上記希土類磁石が挟持固定され、かつ上記各溝の容積がこの溝に挿入される挟持部材の容積以上に形成されてなることを特徴とする磁石固定治具を提供する。これらの治具を用いることにより、希土類磁石を確実に保持、固定し、治具からずれることが防止される。
【0011】
この場合、ゴムからなる挟持部材の断面形状が円形であり、この挟持部材が挿入される支持部材の溝の断面形状が底部に向うに従って幅広になる台形形状又はその底辺側の一方もしくは双方の角部が丸味を帯びた台形形状であり、該溝の開口部の寸法が上記挟持部材の直径Dに対して0.8×D〜0.95×Dの範囲であり、かつ開口部から底部までの距離が0.75×D〜0.85×Dの範囲であり、台形状溝の底辺と斜辺のなす角度が60°〜70°であること、また挟持部材の溝からの突き出し量が、0.1〜4mmの範囲で、切断されるべき希土類磁石の寸法ばらつきの2倍以上であることが、上記目的を達成するためにより有効であり、希土類磁石が、上記一方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材と他方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材との間に挟持されていると共に、一方の支持部材と他方の支持部材とに対しても当接されて係止されることにより、磁石の固定係止がよりしっかりとなされる。
【0012】
なお、上記希土類磁石を切断加工する際に希土類磁石を固定する磁石固定治具の場合、上記基台の上面及び両支持部材の各上面から下面にかけてそれぞれ複数の希土類磁石切断用具の磁石外周刃が挿入されるガイド溝が形成されたものであることが好適である。
また、磁石固定治具の複数台を切断又は研削用具の相対的移動方向に沿って連設して配設することができる。この場合、互いに連設する一の磁石固定治具と他の磁石固定治具とがその連設側支持部材を共通して連設していると共に、該支持部材の切断又は研削用具の相対的移動方向の両面にそれぞれゴム製挟持部材挿入用溝を形成してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、希土類磁石の回転砥石を用いる切断、研削加工において、従来に比べてワックス接着を行うことなく、簡単な治具で磁石を固定でき、更に加工中のワークの横ずれなどを防止することができるため、高精度な加工を高速で行うことができ、産業上その利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る磁石固定治具の斜視図である。
【図2】同治具を用いて磁石を切断する場合の状態を示す側面図である。
【図3】磁石固定治具における溝と挟持部材の一例を示す説明図である。
【図4】磁石固定治具における溝と挟持部材の他の例を示す説明図である。
【図5】磁石固定治具における溝と挟持部材の別の例を示す説明図である。
【図6】希土類磁石切断用具の一例を示す斜視図である。
【図7】磁石固定治具の連設例を示す斜視図である。
【図8】本発明の他の実施例に係る磁石固定治具の斜視図である。
【図9】同治具を用いて磁石を研削する状態を示す斜視図である。
【図10】押し圧付与機構を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、希土類磁石は、円形リング状又は円筒状の台金の外周部に砥石を固着した外周刃又は研削砥石を回転軸に取り付け、希土類磁石を切削又は研削加工する。
回転砥石と希土類磁石とを配置し、回転砥石と希土類磁石とのいずれか又は双方を、砥石を回転させながらその砥粒部を希土類磁石に接触させて相対的に移動させる(砥石の移動、希土類磁石の移動又はそれら双方に移動させる)ことにより、希土類磁石を加工することができる。
上記希土類磁石を回転砥石により加工するに際しては、磁石を固定する必要があり、本発明はこの磁石を固定するための磁石固定治具に係る。
【0016】
図1,2は、本発明の一実施例に係る磁石固定治具10を示し、この治具10は、主として希土類磁石を切断する場合に使用するものである。
上記治具10は、希土類磁石Mが載置される基台12と、基台12の互いに対向する一方の両側に配設された支持部材14,14と、これら支持部材14,14の互いに対向する各対向面(上記磁石配置側の面)に形成された溝16,16に挿入された挟持部材18とを備える。
【0017】
ここで、上記基台12は、スチール、ステンレススチール、アルミニウム、真鍮等の金属によって形成され、上面中央部に凹部13を有する。上記支持部材14,14は、上記基台12の後述する希土類磁石切断用具22の相対的移動方向の両側に配設されるもので、スチール、ステンレススチール、アルミニウム、真鍮等の金属によって形成される。上記溝16,16は両支持部材14,14の対向面にそれぞれ形成される。図1,2においては、溝16,16は各面にそれぞれ互いに対向した状態で3個形成されているが、溝16,16形成数はこれに限られず、各面にそれぞれ1〜10個、特に1〜5個形成することができる。
【0018】
ゴムとしては、天然ゴムはもちろん、合成ゴムでもよい。合成ゴムの例としては、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、ブチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム等が好ましく、またその物性は、硬度Hsが10〜80、更にHs40〜70であることが希土類磁石を強固に挟持固定し、係止し得ることから好ましい。なお、複数の溝に互いに異なる材質あるいは異なる硬度のゴムを挿入しても差し支えない。
【0019】
この場合、上記挟持部材18は、溝16内にその一部が溝16から突出すると共に、溝16の底部に当接した状態で挿入される。上記挟持部材18は、図3〜5に示したように、断面円形であることが好ましく、また上記溝16はその開口部と溝16の底部との間の距離が挟持部材18の直径より小さく、また溝16の容積が挟持部材18の容積以上に形成され、その断面形状が底部に向うに従って幅広になる台形形状又は図3〜5に示したようにその底辺側の一方もしくは双方の角部が丸味を帯びた台形形状であることが好ましい。
【0020】
即ち、これにより挟持部材18が希土類磁石によって押圧されて上記突出部が溝16内に押し込まれ、変形する際、挟持部材18が溝16内の両側に膨出するように変形することができる。またこの際、希土類磁石は両支持部材14,14の溝16,16内にそれぞれ挿入されている挟持部材18,18により挟持されると共に、両支持部材14,14に対しても当接されて係止され、希土類磁石が確実に固定される。
【0021】
ゴムはその変形時に体積の変化をほとんど伴わない特徴がある。よって、ゴムからなる挟持部材18の断面積以上の大きさを持つ溝16にゴム製挟持部材18がはめ込まれていれば、ゴム製挟持部材18は磁石との接触を保ったまま、磁石が金属製支持部材14の表面と接触するまで変形することが可能となる。
【0022】
本発明者らは実験及び考察の結果、挟持部材18を形成するゴムとの接触による摩擦力と、ゴムの変形による磁石寸法のばらつき吸収、更に金属製支持部材14による強固な固定の組み合わせにより、加工中の磁石を強固に固定できることを見出した。
【0023】
加工中の磁石が動くと加工寸法に狂いが生じるほか、磁石に対して不要な力が働くことになり、カケなどの問題を生じる。そのため磁石は強固に保持されることが求められる。それには、金属製支持部材14で強固に保持することが望ましいが、実際の磁石の寸法はばらつきがあり、一般に平面で構成される金属製支持部材14のみでは点接触による固定となってしまい、強固に保持することは難しい。点接触の場合は、摩擦力が小さくなってしまうことと、点を中心に回転しやすくなるためである。更に、焼結後の一般には鋳放しとよばれるものでは寸法ばらつきは1mm以上ある場合があり、その場合、支持部材14と接触する面の凸凹は1mm以上の場合もある。そのようなものをほとんど変形しない金属製支持部材14だけで固定することは難しい。また、金属と磁石の接触では摩擦力が期待できない。
【0024】
そこで、一般には金属製支持部材14の表面にゴムなどを貼り付けて寸法ばらつきや表面の凸凹を吸収して保持しようとする。しかし、この場合は、ゴムなどの弾性が固定後も残るため、加工中に砥石からかかる力によってゴムが変形して磁石がずれてしまう。
【0025】
ゴムが変形して、寸法のばらつきを吸収すると共に、金属製支持部材14でも接触して強固に磁石を固定し、更にそこまでゴムが変形した状態であってもゴムと磁石の接触が保たれ、ゴムによる摩擦力が期待できる治具が求められる。
【0026】
本発明者らは、上記の考え方より、金属製支持部材14に溝16を設けて、棒状のゴム製挟持部材18を金属製支持部材14の溝16にはめ込み、更に溝16の深さはゴム製挟持部材18よりも小さくしてゴム製挟持部材18を突き出すと共に、ゴム製挟持部材18の変形量を吸収できるように溝16の断面積をゴム製挟持部材18の断面積よりも大きくすることで、固定時にワークに対してまずゴム製挟持部材18を接触させ、更にゴム製挟持部材18の変形後金属製支持部材14が接触して保持し、その状態でゴム製挟持部材18と磁石は接触を保って摩擦力で保持を強固にすることができることを見出したものである。
【0027】
磁石固定治具の材質は、磁石が治具固定する方向に対して動きを規制するため、磁石が回転しようとしたりする力に対し十分耐えうるような強度を持つことが望ましく、そのため上述したようにスチール、ステンレススチール、アルミニウム、真鍮等の金属材料が使用される。
【0028】
ここで、溝16に挟持部材18を挿入した際、挟持部材18はその一部が溝16から突出するが、その突出量は、上記磁石の寸法ばらつき相当以上であることが好ましく、また溝16は、断面円形状の円柱状ゴム製挟持部材18が挿入されるが、上述したとおり、図3〜5に示すようにほぼ台形形状となり、その溝16の開口部の寸法が挟持部材18の直径Dに対して0.8×D〜0.95×Dの範囲であり、開口部から底部までの距離が0.75×D〜0.85×Dの範囲であり、台形状溝の底辺と斜辺のなす角度が60°〜70°であることが好ましい。なお、上記挟持部材18の直径Dは磁石寸法のばらつきにより必要とされる突き出し量に応じて適宜選定されるが、通常1〜30mmの範囲である。突き出し量は、通常0.1〜4mmの範囲であるが、挟持される磁石の寸法ばらつきの約2倍以上あることが望ましく、寸法ばらつきが1mmならば突き出し量は2mm以上でこの場合直径は10mmとなり、寸法ばらつきが0.5mmならば突き出し量1mm以上で直径5mmとなる。保持される磁石の形状に応じて、複数の異なるゴム径及び溝形状を組み合わせても構わない。
【0029】
これにより、ゴム製挟持部材18を部材表面から突き出すことができ、更に溝16の断面積はゴム製挟持部材18の断面積よりも大きくすることができることから、ゴム製挟持部材18が変形して溝16の中に入ることでゴム製挟持部材18と磁石の接触を保ったまま、磁石と金属製支持部材14表面を接触させることが可能となる。また、この形状であれば、円柱状ゴム製挟持部材18が容易に溝16から外れることもない。一方、ゴム製挟持部材18を取り付ける際は、ゴム製挟持部材18が変形するので狭い開口部から入れることも可能であるし、横から入れることも可能である。
【0030】
ここで、図3は直径2mmの挟持部材18を溝16に挿入した例で、この例では挟持部材18の外方突出部の突出長は0.42mmであり、図4は直径3mmの挟持部材18を用い、突出長を0.63mmとした例であり、図5は直径4mmの挟持部材18を用い、突出長0.84mmとした例である。
【0031】
このように、溝16の断面積が挟持部材18の断面積よりも大きくなっていることで、その突き出した挟持部材18が磁石と接触し固定時の押し圧がかかることにより変形して磁石と支持部材14も接触して磁石を固定する。
【0032】
上記図1,2の磁石固定治具は、希土類磁石の切断加工する際に好適に用いられる磁石固定治具であって、この場合、図示したように、基台12の上面及び両支持部材14,14の各上面から下面にかけてそれぞれ複数の希土類磁石切断用具の砥石外周刃が挿入されるガイド溝20が形成されて、櫛歯状に形成されている。
【0033】
この希土類磁石の切断加工に用いられる希土類磁石切断用具22は、図2及び図6に示したように、外周部に砥石外周刃24を有する円形リング状台金26を回転軸28に所定の間隔で複数取り付けたもので、上記複数の円形リング状台金26の砥石外周刃24が上記回転軸28の回転と一体に回転しつつ上記ガイド溝20内を一方の支持部材14側から他方の支持部材14側に相対的に移動することで、上記所定間隔に対応した所定の間隔で希土類磁石が切断されるものである。
【0034】
このように、切断される希土類磁石を磁石固定治具により押圧した状態で固定し、回転砥石に研削液を供給して、砥石を回転させながら、その砥粒部を希土類磁石に接触させて相対的に移動させて(砥石の移動、希土類磁石の移動又はそれら双方の移動)、切断砥石ブレードの砥石外周刃により希土類磁石を切削することにより、希土類磁石を切断することができる。
【0035】
従来、希土類磁石のマルチ切断加工においては、希土類磁石をカーボンベース等の基板上にワックス等の希土類磁石の切断後に除去可能な接着剤を用いて希土類磁石を接着し、基板を固定して切断する方法が採られていた。これに対して、本発明の磁石固定治具を用いて、希土類磁石を挟み込んで固定することで、従来のような接着、剥離、洗浄の工程を省略し、加工の省力化を図ることができる。
【0036】
また、本発明の磁石固定治具を使用して切断すると、加工時のワークの横方向の回転や縦方向の回転が規制され、結果治具からの磁石のずれがなくなり、精度よい切断加工が可能となる。
そして、図に示されるように、磁石固定治具を構成する部品は、希土類磁石をその加工方向と平行に支持部材のどちらか一方又は両方が直線状に移動することにより、磁石の着脱を行う。この直線状に移動する機構を持つことにより、切断方向に対しさまざまな寸法の磁石に対してこの治具が使用可能となる。すなわち、切断方向の磁石寸法が大きくなった場合には、治具をのせる台を長いものに交換するか、複数の台を組み合わせて磁石の長さ相当にすることで対応可能となる。
【0037】
固定治具のどちらか一方又は両方を、希土類磁石を加工方向に平行に両端側から押圧し固定するが、その押圧状態を保持するため、押し圧源としてビス(図示せず)によって台に着脱可能に固定することができる。なお、ビスによって押し圧を発生させ固定する代わりに、後述するように(図10)、空気圧や油圧、カムクランプなど力を発生させるものであればそれを用いて直線状の力を発生させ押圧して固定することも好適である。更には、油圧シリンダやボールネジ等も利用することができる。
【0038】
本発明において、上記磁石固定治具は、その複数台を切断又は研削用具の相対的移動方向に連設して用いることができる。
図7はその一例を示したもので、2台の治具を連設した例である。
【0039】
この場合、図示したように、中間の支持部材14は2台の治具に対し共通の支持部材として用いられ、従って該中間の支持部材14の磁石に対向し得る両面に溝16,16が形成され、これら溝16,16に挟持部材18,18が挿入されるものである。また、図7では、2台の治具が連設されているが、更にそれ以上の治具が連設可能なように、図7の両端の支持部材14,14面には、それぞれ溝16,16が形成され、挟持部材挿入可能となっており、このように支持部材の切断又は研削用具の相対的移動方向両面に挟持部材挿入用溝を形成しておくことができる。
【0040】
また、図8は、希土類磁石、特にかまぼこ型磁石の固定治具を示すもので、この例においては2台の固定治具30が研削用具の相対的移動方向に沿って連設されたものである。32は長板状基台であり、この基台32上に互いに所定間隔離間して3個の金属製支持部材34,34,34が移動方向かつ着脱可能に固定されている。これら支持部材34のうち両端の支持部材34は短軸四角柱状の主体35の外端側に断面偏平三角形状の係止突起部36が一体に突設された状態に形成されている。また、中央の支持部材34は、短軸四角柱状の主体35の中央部に断面偏平三角形状の係止突起部36が一体に突設されている。そして、上記各係止突起部36間にかまぼこ型希土類磁石Mが係合し得るようになっている。また、上記各係止突起部36の磁石Mに対向する面にはそれぞれ溝38が形成され、この溝38にゴム製挟持部材40が上述した図1,2における場合と同様の態様で挿入されるようになっている。
【0041】
上記固定治具30は図9に示すように、かまぼこ型希土類磁石Mの上面を研削するのに有効で、外周部に凹状の研削砥石部42を有する円形リング状台金44に図示していないが回転軸を取り付けた希土類磁石研削用具46を回転させながら上記研削用具の相対的移動方向に移動させ、上記凹状の研削砥石部42を磁石Mのかまぼこ型上面に当てて研削するものである。
【0042】
なお、磁石の加工内容が、外周切断刃を複数枚スペーサを介して重ねたマルチ刃による切断ならば、ゴム製挟持部材18を入れた状態で治具をそのマルチ刃で切断し、刃の通るところのある治具を作ることができる。
また、成形砥石を使った加工の場合も、治具にゴムを組み込んだ状態でゴム製挟持部材18を入れた金属製治具を砥石で加工して治具を完成させることができる。
【0043】
これらの製作時には、磁石、又はカーボンのブロック等で作った磁石相当の形状を持つダミーを挟み込んだ状態で加工することで、ゴム製挟持部材18が外れたりすることなく治具の加工ができる。
【0044】
なお、上述した図面に示す例では、支持部材の溝は、支持部材の長さ方向(切断用具又は研削用具の回転軸の軸方向)に沿ってこれと平行に形成し、従って該溝に挿入される円柱状乃至丸棒状のゴム製挟持部材もこれと同方向に配設されるが、本発明はかかる態様に限定されるものではなく、例えば支持部材の高さ方向(切断用具又は研削用具の回転軸の軸方向に対し垂直方向)に形成し、この溝にゴム製挟持部材を挿入してもよい。この場合、図1,7に示すように、支持部材に円形リング状台金の砥石外周刃が挿入される複数のガイド溝が形成されている場合は、支持部材に形成された各ガイド溝間に挟持部材挿入用溝を形成し、これらの各溝にゴム製挟持部材を挿入することが好ましい。
【0045】
図10は固定治具に押し圧を与える機構を示したもので、この例は複数の固定治具に同時に押し圧を与える態様を示す。図10において、50は基礎台で、その上に配設された載置台52を介して複数の固定治具54をこの例にあっては切断加工方向に連設したものである。これら固定治具54の連設列の切断加工方向の一側方には係止壁56が設けられ、固定治具の連設列がこの係止壁56によって係止されていると共に、他方の側方には、エアシリンダ58又はカムクランプ60が配設され、そのピストン59又はカム61により固定治具連設列が上記係止壁56方向に押圧されているものである。
このように、本発明では、磁石を挟む部品は、切断方向に平行な直線運動による固定のため、1つの押し圧源で複数の磁石を同時に固定することが可能である。
なお、上記押し圧付与機構は、1台の固定治具に適用してもよいことは勿論であり、また上述したように、ビスなどにより固定治具を加工方向移動可能かつ着脱可能に基礎台に配設、固定するようにしてもよい。
【0046】
本発明は、希土類磁石を切断又は研削の対象とし、この被切断又は研削物である希土類磁石(希土類焼結磁石)は特に限定されるものではないが、一例を挙げれば、特にR−Fe−B系(RはYを含む希土類元素のうちの少なくとも1種、以下同じ)の希土類磁石(希土類焼結磁石)の切断又は研削に好適に適用できる。
【0047】
R−Fe−B系希土類焼結磁石としては、質量百分率で5〜40%のR、50〜90%のFe、0.2〜8%のBを含有するもの、更に、磁気特性や耐食性を改善するために、必要に応じてC、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Hf、Ta、W等の添加元素の1種以上を含むものが好適である。これらの添加元素の添加量は、Coの場合は30質量%以下、その他の元素の場合は8質量%以下が通常である。添加元素をこれ以上加えると逆に磁気特性を劣化させてしまう。
【0048】
R−Fe−B系希土類焼結磁石は、例えば、原料金属を秤量して、溶解、鋳造し、得られた合金を平均粒径1〜20μmまで微粉砕し、R−Fe−B系希土類永久磁石粉末を得、その後、磁場中で成形し、次いで1,000〜1,200℃で0.5〜5時間焼結し、更に400〜1,000℃で熱処理して製造することが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0050】
[実施例1]
超硬合金(WC−90質量%/Co−10質量%の組成)製の150mmφ×60mmφ×0.5mmtのドーナツ円板状台金の外周縁部にレジンボンド法によりダイヤモンド砥粒(平均粒径150μmの人工ダイヤモンドを体積含有率で25%含有させたもの)を固着させてこれを砥石部(砥石外周刃)とし、外周切断刃(切断砥石ブレード)を作製した。
この成形砥石を用いて、Nd−Fe−B系希土類焼結磁石を被切断物として切断試験を行った。切断試験は次のような条件で行った。
また、被切断物であるNd−Fe−B系希土類焼結磁石は長さ100mm×幅30mm×高さ17mmに竪両頭研磨機を用いて±0.05mmの精度に加工したものを用いた。
【0051】
Nd−Fe−B系希土類焼結磁石の切削方向前後で挟む支持部材は切断方向の長さ15mmとし、アルミニウム製の部品とした。支持部材はそれぞれ磁石側に形成した溝にゴム棒からなる挟持部材をはめ込んでいる。
この場合、ゴムの材質はニトリルゴムで硬度Hs66とし、断面形状は3mmφの円形状で、溝の形状は図4に示したものであり、その開口部の寸法は2.49mm、開口部と溝底部との間の距離は2.37mmであり、溝の底辺と斜辺とのなす角度が66°である。そして、挟持部材(ゴム棒)の突出長は0.63mmである。
【0052】
この磁石固定治具により、図1,2に示すように被加工物を固定した。
切断操作は以下のとおりとした。
使用する研削液は30L/minとした。まず、回転砥石をNd−Fe−B系希土類焼結磁石を固定している一方の支持部材上でNd−Fe−B系希土類焼結磁石側に降下させ、砥石を5,000rpmで回転させ、研削液を研削液供給ノズルから供給しながら、150mm/minの速度で他方の支持部材側へ移動させて切削し、Nd−Fe−B系希土類焼結磁石を成形加工した。
上記の加工を行い、得られた加工後の1つのワークの4つの端部及び中央部の寸法を測定した。なお、測定値の最大値と最小値の差を寸法バラツキとした。
【0053】
[比較例1]
カーボン板にワックスを用いて接着し、同じ条件で切断試験を行った。
【0054】
[比較例2]
挟持部材をはめ込まず支持部材の接触だけで磁石を固定して加工を行った。
【0055】
[比較例3]
支持部材表面にゴム板(厚さ1mm)を貼り付け、ゴム板だけの接触で磁石を固定して加工を行った。
【0056】
結果を表1にまとめて示す。
実施例1では、それぞれ小さな寸法ばらつきとなった。実施例1では、一部の磁石が刃の回転方向に沿ってずれた形跡があったが、その動き自体は刃と接触する方向の動きではなく金属製の強固な治具であったため磁石が治具から外れることはなく、寸法精度に影響は出なかった。比較例1でも同程度であるが、接着と剥離,洗浄作業が必要であった。比較例2では、加工中に磁石が外れてしまい、最後まで加工できなかった。比較例3では、加工はできたが、弾性的な保持のため、寸法精度がよくなかった。
【0057】
【表1】

【符号の説明】
【0058】
10 磁石固定治具
12 基台
13 凹部
14 支持部材
16 溝
18 挟持部材
20 ガイド溝
22 希土類磁石切断用具
24 砥石外周刃
26 円形リング状台金
28 回転軸
30 固定治具
32 長板状基台
34 金属製支持部材
35 短軸四角柱状の主体
36 係止突起部
38 溝
40 挟持部材
42 研削砥石部
44 円形リング状台金
46 希土類磁石研削用具
50 基礎台
52 載置台
54 固定治具
56 係止壁
58 エアシリンダ
59 ピストン
60 カムクランプ
61 カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に磁石外周刃を有する円形リング状台金を回転軸に所定の間隔で複数取り付けてなる希土類磁石切断用具又は外周部に研削砥石を有する円形リング状もしくは円筒状台金を回転軸に取り付けてなる希土類磁石研削用具を上記回転軸の回転と一体に回転させると共に、希土類磁石に対し相対的に移動させて該移動方向に沿って上記希土類磁石を切断又は研削加工する際に上記希土類磁石を固定する磁石固定治具において、希土類磁石が載置される基台と、この基台の上記切断用具又は研削用具の相対的移動方向両側に配設され、上記希土類磁石配置側の対向面にそれぞれ溝が形成されてなる金属製支持部材と、上記両支持部材にそれぞれ形成された溝内に上記希土類磁石配置側に一部突出し、かつ溝の底部に当接した状態で挿入されたゴム製の挟持部材とを備え、上記一方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材と他方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材との間に上記希土類磁石が挟持固定され、かつ上記各溝の容積がこの溝に挿入される挟持部材の容積以上に形成されてなることを特徴とする磁石固定治具。
【請求項2】
外周部に磁石外周刃を有する円形リング状台金を回転軸に所定の間隔で複数取り付けてなる希土類磁石切断用具又は外周部に研削砥石を有する円形リング状もしくは円筒状台金を回転軸に取り付けてなる希土類磁石研削用具を上記回転軸の回転と一体に回転させると共に、希土類磁石に対し相対的に移動させて該移動方向に沿って上記希土類磁石を切断又は研削加工する際に上記希土類磁石を固定する磁石固定治具において、基台と、この基台に上記切断用具又は研削用具の相対的移動方向に互いに所定間隔離間して配設され、上面にそれぞれ係止突起部が形成されてなる金属製支持部材であって、互いに離間して配設された両支持部材の係止突起部間に希土類磁石が配置されると共に、上記係止突起部の該磁石と対向する面にそれぞれ溝が形成されてなる支持部材と、上記両支持部材にそれぞれ形成された溝内に上記希土類磁石配置側に一部突出し、かつ溝の底部に当接した状態で挿入されたゴム製の挟持部材とを備え、上記一方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材と他方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材との間に上記希土類磁石が挟持固定され、かつ上記各溝の容積がこの溝に挿入される挟持部材の容積以上に形成されてなることを特徴とする磁石固定治具。
【請求項3】
ゴムからなる挟持部材の断面形状が円形であり、この挟持部材が挿入される支持部材の溝の断面形状が底部に向うに従って幅広になる台形形状又はその底辺側の一方もしくは双方の角部が丸味を帯びた台形形状であり、該溝の開口部の寸法が上記挟持部材の直径Dに対して0.8×D〜0.95×Dの範囲であり、かつ開口部から底部までの距離が0.75×D〜0.85×Dの範囲であり、台形状溝の底辺と斜辺のなす角度が60°〜70°である請求項1又は2記載の磁石固定治具。
【請求項4】
挟持部材の溝からの突き出し量が、0.1〜4mmの範囲で、切断されるべき希土類磁石の寸法ばらつきの2倍以上である請求項1乃至3のいずれか1項記載の磁石固定治具。
【請求項5】
希土類磁石が、上記一方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材と他方の支持部材の溝内に挿入された挟持部材との間に挟持されていると共に、一方の支持部材と他方の支持部材とに対しても当接されて係止される請求項1乃至4のいずれか1項記載の磁石固定治具。
【請求項6】
上記希土類磁石を切断加工する際に希土類磁石を固定する磁石固定治具であって、上記基台の上面及び両支持部材の各上面から下面にかけてそれぞれ複数の希土類磁石切断用具の磁石外周刃が挿入されるガイド溝が形成された請求項1乃至5のいずれか1項記載の磁石固定治具。
【請求項7】
磁石固定治具の複数台が切断又は研削用具の相対的移動方向に沿って連設されてなる請求項1乃至6のいずれか1項記載の磁石固定治具。
【請求項8】
互いに連設する一の磁石固定治具と他の磁石固定治具とがその連設側支持部材を共通して連設していると共に、該支持部材の切断又は研削用具の相対的移動方向の両面にそれぞれゴム製挟持部材挿入用溝を形成してなる請求項7記載の磁石固定治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−6249(P2013−6249A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141504(P2011−141504)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】