神経再生改善のための補体阻害
本発明は、例えば、中枢神経系又は末梢神経系の損傷又は疾患に罹っている哺乳動物における、軸索再生を必要とする病態の治療に用いられる方法及び薬剤に関する。これらの方法に用いられる薬剤は、補体系の阻害により軸索再生を促進する。本発明に従って治療され得る軸索再生を必要とする病態は、物理的損傷、並びに末梢神経系又は中枢神経系の神経変性障害を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、中枢神経系又は末梢神経系の損傷又は疾患に罹っている哺乳動物における、軸索再生を必要とする病態の治療に用いられる方法及び薬剤に関する。これらの方法に用いられる薬剤は、補体系の阻害により軸索再生を促進する。
【背景技術】
【0002】
軸索変性は、毒性、虚血性、又は外傷性傷害によって引き起こされた多くのタイプの慢性神経変性疾患及び軸索に対する損傷にしばしば生じる。軸索変性は、神経標的からのニューロン分離に至り、ニューロン機能の損失をもたらす可能性がある。軸索変性の1つのモデルは、Waller(1850年)によって最初に記載されたウォラー変性(WD)と称される、損傷の際の離断軸索の遠位部分に見られる自己破壊過程である。WDの過程においては、神経線維が切断又は圧潰されると、その損傷に対して遠位の部分(すなわち、ニューロン細胞の核から離れた軸索の部分)が変性する。たいていのニューロンタンパク質は神経細胞体内で合成され、特殊な軸索輸送系によって軸索に運ばれるため、離断軸索の変性は、必要なタンパク質及び他の物質の枯渇から生じると長い間考えられていた。しかし、軸索が離断後数週間も生存した自然発生変異体マウス株のC57BL/WIdsの発見により、ウォラー変性は、活発な調節された自己破壊プログラムを含むことが示唆された。
【0003】
実際、末梢神経系(PNS)におけるWD中の最も顕著な細胞応答の1つは、マクロファージの増殖及び侵入である(Bruck、1997年)。マクロファージはWDの間、広範囲の細胞応答に関与する。マクロファージは活性化すると、シュワン細胞に対して分裂促進的である因子を放出する(Baichwalら、1988年)。WDの完了は、マクロファージがミエリン及び軸索デブリを分解する食作用能力に依存する(Griffinら、1992年)。さらにマクロファージは、軸索再生に阻害的な分子を分解でき(Bediら、1992年)、並びに、神経成長因子(NGF)などの神経栄養因子の誘導を介して軸索の成長を促進できるインターロイキン−1(IL−1)などの因子を放出できる(Lindholmら、1987年)。
【0004】
WD中のマクロファージ動員の原因となる正確な機序は完全には理解されていない。マクロファージの動員及び活性化において役割を果たし得る因子の一群は、血清補体タンパク質である。補体タンパク質の免疫媒介末梢損傷の重要性は以前研究されている。
【0005】
Meadら(2002年)は、膜攻撃複合体(MAC)を形成できないC6欠損PVG/cラットが、脱ミエリン化も軸索損傷も示さず、多発性硬化症に関する抗体媒介の実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにおける臨床的スコアを、対応させたC6充足ラットに比較した際に有意に低下させたことを示した。しかし、単核細胞の侵入レベルは、C6充足ラットに見られたものと等しかった。Meadら(2002年)は、脱ミエリン化及び軸索損傷は、Abの存在下で生じ、MAC沈着を含む補体カスケード全体の活性化を必要とすると結論づけた。
【0006】
Jungら(1995年)は、組換えヒト可溶性補体受容体1型(sCR1)を用いる処置により、ルイスラット(ヒトギラン−バレー症候群の動物モデル)におけるミエリン誘導実験的自己免疫神経炎(EAN)の臨床徴候が著しく抑制されたことを開示した。長期の脱ミエリン化及び軸索変性もまた防止された。これらの発見は、末梢神経系における炎症性脱ミエリン化中の補体の機能的重要性を強調している。
【0007】
実際、EANにおいては、補体の枯渇により、インビボでミエリンの破壊及びマクロファージの動員が減少する(Feasbyら、1987年;Vriesendorpら、1995年)。他のグループも、補体カスケードの阻害により、中枢神経系(CNS)の神経変性疾患における損傷が減少することを示唆している(例えば、Woodruffら、2006年;Leinhaseら、2006年)。
【0008】
Dailyら(1998年)は、補体枯渇動物における遠位変性神経へのマクロファージ動員の有意な減少を開示している。また、マクロファージが大型化及び多空胞化できないこと、並びにミエリンを除去するマクロファージの能力低下によって示されるように、補体枯渇によりマクロファージ活性化も減少した。正常な状況では、ミエリンは除去され、神経の近位部分が出芽を形成し、それは変性した神経経路に沿って徐々に成長する。しかし、再生は遅く(2〜2.5mm/日)、変性神経の環境には軸索の成長を阻害する多くの因子があり、必要な成長因子が制限されたり、さらに欠如している場合があり得る。ミエリン自体が主要な阻害因子であることが提案されている。したがって、ミエリンの迅速な除去が軸索の再生にとって必須条件と考えられている。したがって、補体枯渇動物におけるミエリンの除去遅延によって、軸索再生の障害がもたらされることが予想される。これらの発見は、末梢神経変性中のマクロファージの動員と活性化の両方における血清補体に関する役割、並びに軸索再生促進におけるマクロファージの活発な役割を示している。
【0009】
実際、米国特許第6,267,955号には、軸索再生を阻害することが報告されているミエリンデブリの除去をもたらすために、哺乳動物の中枢又は末梢の神経系の損傷又は疾患の部位近辺に単核食細胞を投与し、軸索再生を助けるために、星状細胞及び乏突起膠細胞の調節を促進するマクロファージ誘導サイトカインを放出させる方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
軸索変性は、遺伝的及び後天的な脱ミエリン化ニューロパシーの両方における障害の主な原因である。現行の治療研究の多くは、ミエリン化の回復を目標にしているが、本発明者らは、脱ミエリン化の結果:二次的な軸索変性に焦点を当てている。本発明者らはモデルとして、圧潰損傷後の急性脱ミエリン化及び軸索変性並びに引き続いての神経再生を用いた。神経再生を促進及び改善する手段及び方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書における実施例において、WDの間のラットにおいて、及び慢性脱ミエリン化ニューロパシーの神経生検において、補体(C)系の活性化を本発明者らは観察した。本発明は、補体C6因子の欠損したラットにおいて、軸索再生が増強するという驚くべき発見に基づいている。この驚くべき発見は、補体系及び/又はマクロファージ活性化の操作によって、軸索再生を促進する新規な方法を開く。
【発明を実施するための形態】
【0012】
したがって、第1の態様において、本発明は、軸索再生を必要とする病態を治療するための方法に関する。該方法は、哺乳動物の補体系の阻害剤の投与、又は該阻害剤を含む薬剤(例えば、製薬組成物)の投与を含む。該阻害剤の有効量を投与することが好ましい。したがって、この態様において本発明は、軸索再生を必要とする病態を治療する方法に使用するための、哺乳動物の補体系の阻害剤、又は該阻害剤を含む薬剤に関する。同様に、この態様において本発明は、軸索再生を必要とする病態の治療用薬剤の製造のための、哺乳動物の補体系の阻害剤の使用に関する。本発明の方法及び使用において、該薬剤は、軸索再生を促進するための薬剤であることが好ましい。
【0013】
本発明の文脈において、「軸索再生の促進」は、軸索変性の減少又は防止とは区別される。本明細書において、軸索再生の促進(又はプロモーション)とは、非処置対象に比較して、処置されている対象における軸索の再生が改善されることを意味すると解される。軸索再生の改善は、非処置対象に比較して、処置対象においてより早い時点で(軸索損傷後、又は治療開始後)生じる再生であることが好ましい。軸索再生の改善はまた、非処置対象に比較して、処置対象においてより高い率及び/又はより広い範囲で生じる再生も含み得る。したがって、本発明による薬剤は、感覚機能又は運動機能の獲得を生じることが好ましい。
【0014】
軸索再生の改善は、ヒト対象において比較的容易に実施される機能試験によって判定されることが好ましく、例えば、感覚機能又は運動機能の回復は、当業界で利用できる標準化された試験で判定されることが好ましい(例えば、Wongら、2006年;Jerosch−Herold、2005年を参照)。好適な試験は定量的であり、標準化されていることが好ましく、それらの心理測定特性が評価され定量化されたものであることがより好ましい。このような試験としては、例えば、バインシュタイン感覚増強試験(WEST)又はセメス−バインシュタインモノフィラメント試験(SWMT)及び触覚に関する形状−質感識別(STI)試験が挙げられる。軸索再生の改善は、Hareら(1992年)及びDe Koningら(1986年)によって記載されているような感覚機能又は運動機能に関する機能試験により、試験動物において実験的に判定することができる。したがって、本発明による薬剤は、例えば、上記で指示された試験において判定できるような感覚機能又は運動機能の獲得を生じることが好ましい。
【0015】
軸索再生の改善はまた、組織学的試験によって、試験動物において実験的に判定することもできる。例えば、再ミエリン化の改善は、処置動物対非処置動物における軸索周囲のミエリン鞘の測定値比較によって判定することができ、それにより、より厚いミエリン鞘が、再ミエリン化の改善を示す。より効率的な軸索再生は、非処置動物における小さな軸索のクラスターに比較して、処置動物における単一の大直径の軸索の出芽生成として判定することができる。
【0016】
該阻害剤の適切な用量は、上記のような感覚機能又は運動機能の改善によって見ることのできる軸索再生の促進に有効な量である。「有効量」、「治療的量」又は「有効用量」とは、所望の薬理学的又は治療的な効果を引き出し、その結果、損傷又は障害の有効な治療をもたらす上で十分な量を意味する。
【0017】
神経損傷を最少化するために、及び/又はできるだけ早く軸索再生を促進するために、本発明の方法において、該薬剤は神経損傷発生の少し後に、すなわち、24時間、12時間、6時間、3時間、2時間、又は1時間以内に投与されることが好ましく、神経損傷発生後、45分、30分、20分又は10分以内に投与されることがより好ましい。本発明の一実施形態において、該薬剤は、神経損傷を最少化するために、及び/又は神経の手術による損傷の際に直ちに軸索再生を促進するために、神経損傷の危険性がある手術の前に投与できる(例えば、予防的手段として)(下記参照)。
【0018】
軸索再生を必要とする病態
軸索再生を必要とする種々の病態を、本発明の方法及び/又は薬剤によって治療することができる。該病態には、PNSの損傷並びにCNSの損傷が含まれる。該病態には、物理的損傷の結果としての、並びに疾患に起因する神経外傷が含まれる。このような疾患には、免疫媒介炎症性の障害又は損傷並びに/或いは後天的及び/又は遺伝的であり得る進行性神経変性障害が含まれる。
【0019】
PNS及びCNSの物理的損傷は、手術による損傷などの外傷性損傷、又は非外傷性損傷であり得る。本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる外傷性のPNS及びCNSとしては、衝突、自動車事故、銃創、骨折、脱臼、裂傷、又は穿通性外傷の他の形態からの損傷を含む、脊髄損傷並びに末梢神経に対する外傷性創傷が挙げられる。外傷によって損傷した治療し得る末梢神経としては、指神経、正中神経、尺骨神経、どう骨神経、顔面神経、脊髄副神経及び上腕神経叢神経が挙げられる。
【0020】
本明細書において、手術のPNS損傷は、手術操作中に、神経の除去又は切開が臨床的に必要となった場合に生じる末梢神経に対する損傷と解される。これは、毎年数千もの手術操作において発生する。本発明の方法及び/又は薬剤によって治療し得る手術損傷末梢神経の一例として、例えば、勃起機能及び膀胱制御を支える海綿体神経が挙げられ;これらの神経は、前立腺腫瘍及びその周囲の組織を手術による除去中に損傷されることが多い。本発明により治療し得る手術により損傷した末梢神経の別の例は、冠状動脈バイパス移植(CABG)後の横隔神経である。
【0021】
本発明の方法及び/又は薬剤によって治療し得る非外傷性物理的PNS損傷としては、エントラップメント症候群としても知られている末梢神経の圧縮及び/又は接着が挙げられる。最も一般的なエントラップメント症候群は、手根管症候群である。
【0022】
さらに、免疫媒介炎症性の障害又は損傷を、本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる。これらには、自己免疫がベースであり、乏突起膠細胞又はミエリンに直接生じた損傷の結果、神経の脱ミエリン化をもたらすと考えられている中枢及び末梢の神経系の脱ミエリン化疾患が含まれる。このような脱ミエリン化疾患としては、例えば、ギラン−バレー症候群(GBS;炎症性脱ミエリン化多発性ニューロパシーとも称される、急性突発性多発神経根炎、急性突発性多発神経炎、フレンチポリオ及びランドリー上行性麻痺)が挙げられる。本発明の方法及び/又は薬剤は、GBSにおける急性期に引き続く軸索再生を促進するために適用されることが好ましい。同様に、GBSの慢性対応物と考えられる慢性炎症性脱ミエリン化多発性ニューロパシー(CIDP)を、本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる。
【0023】
多発性硬化症(MS)は、本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる別の脱ミエリン化疾患である。
【0024】
本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる、遺伝子要素を有するさらなる神経変性CNS及び/又はPNS障害としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS、時には、ルーゲーリック病(Lou Gehrig’s disease)と称される)、シャルコー−マリー−ツース病(遺伝性運動及び感覚ニューロパシー、HMSN)及びハンチントン病(HD)が挙げられる。
【0025】
補体系
補体系(McAleer及びSim、1993年;Reid及びLaw、1988年を参照)は、感染に対する宿主の防御に関する。この系が活性化すると、反応及び相互作用の触媒的セットが生じ、破壊のために活性化している細胞、生物又は粒子の標的化をもたらす。補体系は、調節されたカスケード系において共に作用し病原体(例えば細菌)の細胞外形態を攻撃する30種以上の血漿タンパク質及び膜タンパク質のセットを含む。補体系は、2つの異なる酵素活性化カスケードである古典的経路及び代替経路を含み、これらは、膜攻撃経路として知られている共通の末端非酵素的経路に集束する。
【0026】
古典的経路として知られている第1の酵素活性化カスケードは、数種の成分、C1、C4、C2、C3及びC5(経路における順序で挙げてある)を含む。補体系の古典的経路の開始は、免疫的及び非免疫的活性化因子の両方による第1の補体成分(C1)の結合及び活性化に引き続いてなされる。C1は、C1q、C1r及びC1sのカルシウム依存性の複合体を含み、C1q成分の結合によって活性化される。C1qは6つの同一のサブユニットを含有し、各サブユニットは、3つの鎖(A鎖、B鎖及びC鎖)を含む。各鎖は、コラーゲン様尾部に連結している球状の頭部領域を有する。抗原−抗体複合体によるC1qの結合及び活性化は、C1qの頭部群領域を介して生じる。タンパク質、脂質及び核酸などの多数の非抗体C1q活性化因子が、コラーゲン様幹部領域上の明確な部位を介してC1qに結合してこれを活性化する。次いで、C1qrs複合体が補体成分のC4及びC2の活性化を触媒し、C4b2a複合体を形成し、これがC3コンバターゼとして働く。
【0027】
代替経路として知られる第2の酵素活性化カスケードは、補体系の活性化及び増幅のための迅速な抗体依存性経路である。この代替経路は、数種の成分、C3、B因子、及びD因子(経路における順序で挙げてある)を含む。代替経路の活性化は、C3のタンパク質分解開裂形態であるC3bが細菌などの表面活性化物質に結合した際に生じる。次いでB因子がC3bに結合し、D因子により開裂して、活性酵素、Baを生じる。次いで酵素Baは、より多くのC3を開裂してより多くのC3bを生じさせ、活性化表面上にC3b−Ba複合体の広範な沈着が生じる。
【0028】
このように、古典的補体経路と代替補体経路は両方とも、C3因子をC3a及びC3bへと分割するC3コンバターゼを生じさせる。この時点で、両方のC3コンバターゼが、C5コンバターゼへとさらに集合する(C4b2a3b及びC3b3bBb)。これらの複合体は引き続き、補体成分C5を、2つの成分:C5aポリペプチド(9kDa)とC5bポリペプチド(170kDa)に開裂する。C5aポリペプチドは、元はロイコサイトに関連しており、現在、肝細胞及びニューロンなどの種々の組織に発現することが知られている7膜貫通Gタンパク質結合受容体に結合する。C5a分子は、ヒト補体系の初期走化成分であり、ロイコサイト走性、平滑筋収縮、細胞内シグナル伝達経路の活性化、好中球−内皮接着、サイトカイン及び脂質伝達物質放出及びオキシダント形成などの種々の生体応答を引き起こし得る。
【0029】
大型のC5b断片は、補体カスケードの後期成分、C6、C7、C8及びC9に連続的に結合し、C5b−9膜攻撃複合体(「MAC」)を形成する。親油性のC5b−9 MACは、赤血球を直接溶解することができ、またより大量に白血球に対して溶解性であり、筋肉、上皮細胞及び内皮細胞などの組織に対し損傷性がある。溶解以下の量で、C5b−9 MACは、接着分子のアップレギュレーション、細胞内カルシウム増加及びサイトカイン放出を刺激し得る。また、溶解以下の濃度で、C5b−9 MACは、細胞溶解を引き起こさずに、内皮細胞及び血小板などの細胞を刺激し得る。C5a及びC5b−9 MACの非溶解性作用は同等であり、互換性がある。
【0030】
補体系は健康の維持に重要な役割を果たしているが、疾患を引き起こすか、又は疾患に寄与する可能性がある。
【0031】
補体系の阻害剤
本発明の方法及び/又は薬剤に使用される哺乳動物補体系の阻害剤は、アンタゴニスト、ポリペプチド、ペプチド、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、miRNA、リボゾーム、siRNA、又は小型分子であり得る。該阻害剤は、膜攻撃複合体の形成を阻害又は阻止することが好ましい。該阻害剤は、補体の古典的経路と代替経路の両方を介して補体系の活性化を阻止することが好ましい。好ましい阻害剤は、C3コンバターゼ及びMAC集合を阻止する阻害剤である。さらなる好ましい阻害剤は、C5、C6、C7、C8及びC9のうちの一種又は複数種を阻止する阻害剤である。したがって、以下の化合物が、本発明の方法及び/又は薬剤に使用できる。
【0032】
本発明に用いられる好ましい補体阻害剤は、補体調節剤、補体受容体又はそれらの誘導体である。これらには、C1阻害剤、CR1、DAF、MCP、及びCD59などの補体系の全ての天然調節剤が含まれる。さらに、共通構造単位(CSR)を含有する補体系の天然調節剤誘導体が含まれる。CR1、MCP、DAF、C4bp、fHは全て、短いコンセンサス反復(SCR)を含有する。SCRは、CR1のFアロタイプにおいて、直列に30回反復される60〜70のアミノ酸の構造モチーフであり;反復の数はアロタイプによって変動し得る。SCRのコンセンサス配列は、4つのシステイン、1つのグリシン及び1つのトリプトファンを含み、これは全てのSCR中で不変である。他の16の位置は保存され、同一のアミノ酸又は保存的置換が30のSCRの半分以上に見られる(Klicksteinら、1987年、1988年;Hourcadeら、1988年)。SCRを含有する補体調節剤は、少なくとも3、6、12、25又は30のSCRを含むことが好ましい。SCRを含有する補体調節剤は、補体受容体の可溶性受容体であることが好ましい。その好適な例としては、例えば、30のSCRを含有するsCR1(TP10)、sMCP、sDAF、及びDAF/MCPのハイブリッドであるCAB−2が挙げられる。これらの分子の修飾によって、膜に対する標的化が可能になる。
【0033】
可溶性CR1は補体活性化の好ましい阻害剤である。なぜならば、CR1のみが、両方の経路のC3コンバターゼを解離させる能力、及びI因子によるC3b及びC4bのタンパク質分解性不活化における補因子活性に関する能力を有し、C3bとC4bの両方に関する特異性を合わせ持っているからである。さらに、CR1のこれらの機能は、代替経路活性化機能によって制限されないことから、非免疫的刺激による活性化及び古典的経路と代替経路の両方の補体活性化の阻害に関して、該受容体は好適なものになる。可溶性CR1(sCR1)断片は、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを欠いたcDNAを用い、組換えDNA法によって調製されている(国際公開第89/09220号;国際公開第91/05047号)。本発明の方法及び/又は薬剤に用いられる好ましいsCR1分子は、1)ATCCに寄託され、帰属登録番号がCRL 10052である、プラスミドpBSCR1/pTCSgptを担持するチャイニーズハムスター卵巣細胞、DUX B11によって発現されるタンパク質の特徴を有する可溶性CR1タンパク質;又は2)可溶性補体受容体1TP10(Avant Immunotherapeutics社)である。
【0034】
本発明の方法及び/又は薬剤に用いられるさらなる補体調節剤は、C1阻害剤(C1INH)である。C1INHは、セリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン類)ファミリーのメンバーであり、C1複合体のC1r及びC1sの両方の阻害形成物上の活性部位に結合する。血漿由来のC1INHの利点は、ヒトにおける血清中半減期が長いこと(70時間)である。代替として、遺伝子導入ヒトC1INHを使用し得る(国際公開第01/57079号)。
【0035】
本発明の方法及び/又は薬剤に用いられるさらに別の膜結合補体受容体は、Crry−Ig(Quiggら、1998年)である。Crryは、3つのコンバターゼレベルで減衰促進活性を有する膜補体阻害剤であり、補体の古典的経路と代替経路の両方を阻害する。Crryはまた、C3b及びC4bのI因子媒介開裂に関して、CR1の補因子活性と同等の補因子活性を有する。Crry−Igは、Crryと非補体活性化マウスIgG1相手のFcタンパク質との融合により、半減期を増加させた(40時間)組換え可溶性タンパク質である。全体的に、Crry−Igは強力な補体阻害剤である。
【0036】
補体成分に対する抗体又は抗体断片は、本発明の方法及び/又は薬剤に用いられるさらなる化合物のクラスである。原理的に、任意の補体因子に対する抗体が使用できる。しかし、好ましい抗体は、C3コンバターゼ及び/又はMAC集合を阻止する抗体である。さらに好ましい抗体は、C5、C6、C7、C8及びC9の1つ又は複数を阻止する抗体である。該抗体又はその断片は、モノクローナル抗体(MAb)であることが好ましい。補体成分に対するMAbは、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ法、又はそれらの組み合わせの使用など、当業界に知られている種々多様な技法を用いて調製することができる。例えば、当業界に知られており教示されているもの(すなわち、Harlowら、1998年;Hammerlingら、1981年)を含めたハイブリドーマ法を用いて、モノクローナル抗体を作製することができる。
【0037】
ヒトの治療では、抗補体MAbは、キメラ抗体、脱免疫抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体を用いることが好ましいと考えられる。このような抗体は、免疫原性を減少させ、したがって、ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答を避けることができる。抗体は、抗体依存性の細胞の細胞毒性を増大させず(Canfield及びMorrison、1991年)、補体媒介細胞溶解を増大させない(Xuら、1994年;Pulitoら、1996年)IgG4、IgG2、又は他の遺伝子変異したIgG又はIgMであることが好ましい。キメラ抗体は、当業界によく知られた組換え法によって作製され、動物の可変領域及びヒトの定常領域を有する。ヒト化抗体は、キメラ抗体よりもヒトペプチド配列を高程度に有する。ヒト化抗体においては、抗原結合及び特異性を担っている相補性決定領域(CDR)のみが動物由来であり、動物抗体に対応するアミノ酸配列を有しており、該分子の残りのほぼ全ての部分(いくつかの場合、可変領域内フレームワーク領域の狭い部分を除いて)は、ヒト由来であり、アミノ酸配列においてヒト抗体に対応する。Riechmannら、1988年;Winter、米国特許第5,225,539号;Queenら、米国特許第5,530,101号を参照されたい。脱免疫抗体は、国際公開第9852976号に記載されているように、T細胞及びB細胞のエピトープが除去されている抗体である。脱免疫抗体はインビボで適用された場合、免疫原性を減少させる。
【0038】
ヒト免疫グロブリン発現ライブラリー(Stratagene社、ラジョーラ、カリフォルニア州)を用いてヒト抗体の断片(VH、VL、Fv、Fd、Fab又は(Fab’)2を作製し、これらの断片を用いて、キメラ抗体の作製のための技法と同様な技法を用いて、ヒト抗体全体を構築するなど、数種の方法によって、ヒト抗体を作製することができる。ヒト抗体はまた、ヒト免疫グロブリンゲノムにより、遺伝子導入マウスにおいて作製することもできる。このようなマウスは、Abgenix社、フレモント、カリフォルニア州、及びMedarex社、アナンデール、ニュージャージー州から入手できる。
【0039】
また、重鎖と軽鎖のFv領域を連結したペプチド一本鎖結合分子を作出することもできる。一本鎖抗体(「ScFv」)及びそれらの構築方法は、米国特許第4,946,778号に記載されている。或いは、Fabを、同様な手段によって構築し発現させることができる(Evansら、1995年)。
【0040】
本発明の文脈において使用できる別のクラスの抗体は、重鎖抗体及びそれらの誘導体である。例えば、ラクダ科に天然に見出されるこのような一本鎖重鎖抗体及びそれらの単離された可変ドメインは一般に、「VHHドメイン」又は「ナノ体」と称される。重鎖抗体及び可変ドメインを得るための方法は、とりわけ以下の参考文献に提供されている:国際公開第94/04678号、国際公開第95/04079号、国際公開第96/34103号、国際公開第94/25591号、国際公開第99/37681号、国際公開第00/40968号、国際公開第00/43507号、国際公開第00/65057号、国際公開第01/40310号、国際公開第01/44301号、欧州特許第1134231号、国際公開第02/48193号、国際公開第97/49805号、国際公開第01/21817号、国際公開第03/035694号、国際公開第03/054016号、国際公開第03/055527号、国際公開第03/050531号、国際公開第01/90190号、国際公開第03/025020号、国際公開第04/041867号、国際公開第04/041862号、国際公開第04/041865号、国際公開第04/041863号、国際公開第04/062551号。
【0041】
ヒト抗体全体及び部分的ヒト抗体の全ては、マウスMAbs全体よりも免疫原性が小さく、該断片及び一本鎖抗体もまた免疫原性が小さい。したがって、これらのタイプの抗体は全て、免疫応答又はアレルギー性応答を引き起こしにくい。その結果、それらは、動物抗体全体よりも、ヒトにおけるインビボ投与により適しており、特に、反復投与又は長期投与が必要な場合はそうである。また、より小さなサイズの抗体断片は、腫瘍の治療などの急性疾患適用におけるより良好な用量蓄積に関して重要であり得る組織生体利用率の改善の助けになり得る。
【0042】
好適な抗補体抗体、例えば、米国特許第6,355,245号に記載されているような、HB−11625(N19−8)のATCC記号を有するハイブリドーマ5G1.1によって産生される抗C5 MAb;Quidel、サンディエゴ、カリフォルニア州からの抗C3aR MAb[カタログ番号 A203];Kacaniら(2001年)に記載されているような抗ヒトC3aR抗体であるhC3aRZ1及びhC3aRz2;オランダ国のHycult Biotechnology BVからのマウス抗ヒトC5a抗体[クローン、557、2942及び2952];Fungら(2003年)に記載されているような、Tanox社からの抗ヒトC5a抗体[137−26];米国特許第5,480,974号に開示されているC5a抗体;Oppermannら(1993年)に記載されているような抗EX1ヒトC5aR MAbS5/1;Kacaniら(2001年)に記載されているような抗C5aR MAbS5/1;及び米国特許第5,177,190号に記載されているような抗C5a MAbをすでに入手することができる。
【0043】
本発明の方法及び/又は薬剤に使用できるさらなる化合物は、コブラ毒因子(CVF)又はB因子の結合及び天然の液相調節剤に抵抗性であるC3コンバターゼ活性の形成によるC3枯渇の誘導体である。好ましいCVF誘導体は、例えば、損傷部位に標的化できる誘導体である。
【0044】
他の有用な化合物としては、ヘパリン、N−アセチル化ヘパリン及びスラミンなどのポリアニオン性阻害剤が挙げられる。ヘパリンは、C1に結合することによってCを阻害し、C3コンバターゼ及びMAC集合を遮断する。N−アセチル化ヘパリンは、減少した抗凝集活性を有する。
【0045】
さらに、補体を阻害する種々の合成及び/又は天然の小型分子を、本発明の方法及び/又は薬剤に用いることができる。例えば、C5を阻害する天然阻害剤K−76COOH(スタキボトリス(Stachybotrys)補体由来)、及びC3に結合してこれを阻害し、それによってコンバターゼ形成を防ぐローズマリー由来のロズマリン酸、例えば、C1r、C1s、D因子及びC3/C5コンバターゼに結合するナファモスタットメシレート(FUT−175)、例えば、C1s−INH−248及びBCX−1470(安全性に関してヒトにおいて試験済み)などのC1補体阻害剤、セルピン類のカルボキシ末端部分を含有する誘導体などの補体結合天然分子の一部を含有する分子又はそれらの誘導体などのペプチド阻害剤、コンプスタチン(compstatin)(C3に結合する13a.a.の環状分子)、及びC5受容体アゴニストであるPMX53及びPMX205、などの合成プロテアーゼ阻害剤がある。
【0046】
アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、miRNA、リボザイム、siRNAなど、補体の核酸阻害剤を作製する方法は、当業者自体に知られている。このような核酸阻害剤は、例えば、アルキル及びメトキシエチル置換基を含む2’−O置換リボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)及びモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチド並びにエチレン架橋ヌクレオチド(ENA)などの一種又は複数種の修飾ヌクレオチド並びにそれらの組み合わせを含むことが好ましい。
【0047】
本発明の上記方法において、該化合物は、任意の簡便な経路、例えば、注入又はボーラス注射によって投与することができる。種々の送達系が知られており、該阻害化合物の送達に使用することができる。これらには、リポソーム、ミクロ粒子、又はミクロカプセル中へのカプセル化が含まれる。本発明の方法において、経口及び/又は経粘膜経路(経鼻、吸入、経直腸)による該化合物の投与を除外しないが、通常、補体阻害剤は、例えば、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、及び皮下の経路など、非経口的に投与される。該化合物は、全身的に投与してもよいし、例えば、注射及び/又は任意の神経外科的に好適な技法を用いて、疾患又は損傷の部位に、又はその近辺に、局部的、局所的、又は領域的に投与してもよい。
【0048】
本発明はさらに、活性成分として上記に定義した補体阻害剤を含む製薬製剤に関する。該組成物は、該活性成分に加えて、少なくとも薬学的に許容できる担体を含むことが好ましい。該製薬担体は、患者に該阻害剤を送達するのに好適な任意の適合性の非毒性物質であり得る。滅菌水、アルコール、脂肪、ワックス、及び不活性固体が担体として使用できる。薬学的に許容できるアジュバント、緩衝剤、分散剤なども該製薬組成物中に組み込むことができる。
【0049】
経口投与には、該阻害剤は、カプセル剤、錠剤、及び散剤などの固体剤形、エリキシル剤、シロップ剤、及び懸濁剤などの液体剤形で投与することができる。活性成分は、不活性成分、並びにグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、澱粉、セルロース又はセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウムなどの粉末担体と共に、ゼラチンカプセル内にカプセル化することができる。錠剤とカプセル剤は両方とも、数時間にわたって薬剤の連続的放出を提供するために、除放製品として製造することができる。圧縮錠剤は、不快な味を遮蔽し、大気から錠剤を保護するために糖コーティング又はフィルムコーティングできるか、又は胃腸管内での選択的崩壊のために腸溶コーティングできる。経口投与用の液体剤形は、患者受容性を高めるために、着色剤及び香料を含有できる。
【0050】
しかし、該阻害剤は、非経口的に投与することが好ましい。非経口用製剤に好適な担体としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、及び水が挙げられる。非経口投与用組成物は一般に、滅菌等張性水性緩衝液における溶液である。滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前、又は後に、滅菌ろ過膜を通すろ過によって容易に達成される。一般的な静脈内注射用組成物は、0.9%の滅菌NaClの10〜50ml又は20%のアルブミン溶液を任意に添加した5%のグルコース及び適切な量(1〜1000μg)の阻害剤を含有するように構成できる。一般的な筋内注射用製薬組成物は、例えば、1〜10mlの滅菌緩衝水及び1〜1000μgの該阻害剤を含有するように構成される。非経口投与用組成物を調製するための方法は、当業界によく知られており、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing、イーストン、ペンシルベニア州、1980年)(全ての目的のために、参照としてその全体が援用されている)などの種々の提供源により詳細に記載されている。必要な場合は、該組成物は、可溶化剤、及び注射部位の痛みを緩和するために、リドカインなどの局所麻酔剤を含むこともできる。一般に該成分は、活性剤の量を活性単位において表示しているアンプル又はサッシェなどの気密密封容器内に含有された単位剤形において、別個に、又は一緒に混合して供給される。該組成物が注入により投与される場合は、滅菌した薬剤グレードの「注射用水」又は生理食塩水を含有する注入用ボトルによって小分けすることができる。該組成物が注射によって投与される場合、投与前に成分を混合できるように、注射用滅菌水又は生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0051】
該阻害剤がポリペプチド又は抗体である方法では、該阻害剤は、製薬組成物として、哺乳動物、昆虫又は微生物の細胞培養から、遺伝子導入哺乳動物の乳汁又は他の出所源から精製することができ、製薬担体と共に精製形態で投与することができる。ポリペプチドを含む製薬組成物を製造する方法は、米国特許第5,789,543号及び米国特許第6,207,718号に記載されている。好ましい形態は、意図された投与様式及び治療適用に依存する。製薬組成物中の本発明の該ポリペプチド又は抗体の濃度は広く変化し得る。すなわち、約0.1重量%未満、通常は少なくとも約1重量%から20重量%又はそれ以上まで変化し得る。
【0052】
本明細書及びその請求項において、動詞の「含む」及びその接合体は、その語に引き続く事項が含まれるが、明記されていない事項が除外されないことを意味する、非限定的な意味で用いられる。また、不定冠詞「a」又は「an」による要素の記述は、文脈においてその要素がただ1つあることを明白に必要としていない限り、1つ超の要素が存在している可能性を排除するものではない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】脛骨神経の再生に及ぼす補体C6欠損の影響を示す図である。野生型及びC6欠損PVGラットにおいて、右坐骨神経を30秒間圧潰した。損傷の1週間後及び5週間後に、脛骨神経を分析した。対照画像:PVGラットの左脛骨神経。
【図2】C6欠損により、食作用性細胞の流入/活性化の遅延に至ることを示す図である。損傷後0、24、48及び72時間後に、WT(野生型)、C6−/−(C6欠損)及びC6+(C6を補足したC6欠損ラット)ラットからの坐骨神経の非連続切片におけるED1(CD68)免疫反応性(−ir)細胞をカウントした。星印(*)によって示される統計的な有意性はp<0.05を意味する。
【図3】再生に及ぼすC6再構成の影響、再生中のミエリン化軸索の分析、損傷の5週間後におけるラット脛骨神経近位部位の準薄切片についての光学顕微鏡を示す図である。左から右へ:非圧潰神経;野生型神経(WT);C6欠損神経(C6−/−);及びC6で再構成したC6欠損神経(C6+)。
【図4】機能回復に及ぼすC6再構成の影響、0.1mAから0.5mAの範囲の電流でフットフリック装置によって測定した感覚機能の回復を示す図である。値は、対照レベルに対して正規化されている。矢印(→)は、圧潰損傷を実施した時を示す。WT=野生型ラット;C6−/− =C6欠損ラット;及びC6+ =C6欠損ラットにおけるC6再構成。C6−/−とWT(*)又はC6+(†)との間の統計的有意性は、p<0.05でのものである。
【図5】組換えヒトC1阻害剤(rhC1INH)が、圧潰後の補体活性化を阻害することを示し、rhC1INH又は媒体(PBS)だけで処置した損傷野生型ラット坐骨神経のC1q、C4c及びC3cの免疫染色を示す図である。
【図6】外傷後の神経再生に及ぼす可溶性CR1の影響、0.1mAから0.5mAの範囲の電流でフットフリック装置によって測定した感覚機能の回復を示す図である。値は、対照レベルに対して正規化されている。矢印(→)は、圧潰損傷を実施した時を示す。PBS=媒体だけによる対照;sCR1=可溶性CR1。
【図7】神経圧潰後のマクロファージの活性化が、補体カスケードの下流要素の活性化に依存していることを示す図である。CD68陽性細胞は、ED1抗体による免疫染色によって判定した。野生型(WT)動物及び媒体(PBS)処置動物においては、神経圧潰の72時間後、損傷坐骨神経の遠位部分におけるCD68陽性細胞の数が増加した。sCR1による処置によって、この活性化は、C6欠損ラット(C6−)に見られるのと同様なレベルまで抑止された。C6欠損ラットにおけるC6再構成(C6+)により、活性化におけるこの抑止からのほぼ完全な回復がもたらされた。
【図8】機能の回復を示す図である。(a)野生型ラット(n=8)、C6−/−ラット(n=8)及びC6+ラット(n=8)において、損傷後5週間にわたる運動機能の回復を示す、坐骨神経圧潰損傷後(時間=0)の坐骨機能指数(SFI)及びフットプリントを示す図である。対照レベルは0近辺であり、一方、−140近辺の値は、機能の完全な損失を示している(1週)。星印(*)は、ボンフェローニ補正をした二元配置分散分析検定によって判定した、p≦0.05での、ラットの野生型群とC6−/−群との間の有意差を意味し、一方、十字印(†)は、ラットのC6−/−群とC6+群との間の有意差を意味する。野生型及びC6+のフットプリントに比較して、C6−/−フットプリント(4週)におけるより幅広い足指の拡がりによって、筋肉の強度増加が示される。(b)野生型ラット(n=8)、C6−/−ラット(n=8)及びC6+ラット(n=8)における坐骨神経圧潰損傷(時間=0)後のフットフリック分析であり、損傷後5週間にわたる感覚機能の回復を示している。値は、対照レベル(100%の機能)のパーセンテージとして表されている。星印(*)は、ボンフェローニ補正をした二元配置分散分析検定によって判定した、p≦0.05での、ラットの野生型群とC6−/−群との間の有意差を意味し、一方、十字印(†)は、ラットのC6−/−群とC6+群との間の有意差を意味する。
【図9】C阻害ラットの感覚機能の回復を示す図である。野生型PBS処置ラット(n=6)及びsCR1処置ラット(n=6)における坐骨神経圧潰損傷(時間=0)後のフットフリック分析により、損傷後5週間にわたる感覚機能の回復が示されている。値は、対照レベル(100%の機能)のパーセンテージとして表されている。星印(*)は、ボンフェローニ補正した二元配置分散分析検定によって判定した、p≦0.05を意味している。
【図10】病態を示す図であり、非損傷ラット(n=6)、圧潰損傷の5週間後での野生型ラット(n=5)、C6−/−ラット(n=5)、sCR1処置ラット(n=6)からの脛骨神経の遠位端の断面のチオニン染色及び電子顕微鏡を示す図である。野生型神経において小径の薄くミエリン化した軸索の再生クラスターが存在し(矢印→)、一方、非損傷対照と同様に、C6−/−処置神経及びsCR1処置神経に存在する単一の大径の軸索に注意されたい。バーは、50μm(光学顕微鏡、左枠)及び10μm(電子顕微鏡、右枠)。
【図11a】補体活性化のsCR1阻害を示す図であり、毎日の処置による経時的sCR1の濃度を示しているsCR1処置ラットの血漿中sCR1濃度を示す図である。0日目は、圧潰損傷の日である。ラットは、−1、0、1、2、3、4、5及び6日目に、sCR1(15mg/kg/日)又はPBS(等量)の腹腔内注射を受けた。各処置の直前に採血した。データは、平均値±SDを表す。統計的有意性は、ボンフェローニ補正をした二元配置分散分析検定によって判定した(*は、p≦0.001)。
【図11b】補体活性化のsCR1阻害を示す図であり、PBS処置対照に比較して、sCR1処置ラットにおける活性の低下を示しているPBS処置ラット及びsCR1処置ラットの血漿溶血活性を示す図である。0日目は、圧潰損傷の日である。ラットは、−1、0、1、2、3、4、5及び6日目に、sCR1(15mg/kg/日)又はPBS(等量)の腹腔内注射を受けた。各処置の直前に採血した。データは、平均値±SDを表す。統計的有意性は、ボンフェローニ補正した二元配置分散分析検定によって判定した(*は、p≦0.001)。
【図12】補体活性化のsCR1阻害を示す図であり、評価された全面積のパーセンテージとして表されたMAC免疫反応性の定量化を示す図である。データは、平均値±SDを表す。統計的有意性は、ボンフェローニ補正した二元配置分散分析によって判定される(*は、p≦0.001)。
【図13】マクロファージの分析を示す図であり、坐骨神経の非連続切片におけるCD68−ir細胞の定量化により、非損傷神経に比較して、PBS処置神経における多数の細胞、及びsCR1処置神経におけるわずかな増加が示されている図である。データは、平均値±SDを表す。統計的有意性は、ボンフェローニ補正した二元配置分散分析によって判定される。
【図14】マクロファージの分析を示す図であり、損傷3日後における非損傷神経(a)、PBS処置神経(b)及びsCR1処置神経(c)からのCD68−ir細胞坐骨神経のサイズ分布を示す図である。CD68−ir細胞のサイズ分布のピークが、非損傷神経及びsCR1処置神経における0〜40μm2のサイズからPBS処置神経における40〜120μm2のサイズへシフトしていることに注意されたい。
【図15】代替経路活性化の分析を示す図である。(a)損傷2日後におけるラットの坐骨神経のウェスタンブロット分析であり、非損傷対照に比較して、損傷神経における開裂fBbタンパク質の量がより多いことを示している。(b)fBb免疫反応性バンドの相対的定量化を示す図である。非損傷対照におけるfBb免疫反応性を、1.0倍の相対的発現として規定する。値は総タンパク質に対して正規化され、3つのブロットの平均値±SDとして表される。統計的有意性は、独立t検定によって判定される。
【実施例】
【0054】
(実施例1):野生型ラットに比較して、補体成分C6欠損ラットにおける外傷後の神経回復の改善
1.1 電子顕微鏡分析
本発明者らは、急性及び慢性の神経損傷並びに再生中における補体系の役割を探索した。モデルとして、補体C6欠損PVGラット株(Bhole及びStahl、2004年)を用い、これを野生型PVGラットと比較した。補体系は多くの機能を有しているので、補体カスケードの最も末端のエフェクターのみが欠損している動物モデルを選択した。
【0055】
神経圧潰の急性モデル(Glass、2004年)において、神経再生に及ぼす補体阻害剤の効果を試験した。野生型並びにC6欠損PVGラットにおいて、右坐骨神経を30秒間圧潰した。次いで、損傷の1週間後及び5週間後、脛骨神経を分析した(図1を参照)。
【0056】
1週目、電子顕微鏡は、野生型及びC6欠損ラットにおいて、等しく重篤な変性を示す。5週目、C6欠損ラットは、すでにミエリン化軸索を示すが、野生型ラットは、初期回復を示す。C6欠損ラットにおいて、最もミエリン化した軸索は、シュワン細胞と通常の1対1の比を示す(PVGラットの左脛骨神経の対照画像と比較されたい)。対照的に、野生型ラットでは、各々の再生クラスターにいくつかのミエリン化線維がある。
【0057】
本発明者らは、外傷後の神経回復に及ぼすC6欠損の2つの効果を見出した:
1)ウォラー変性中のミエリンのクリアランスは、C6欠損ラットにおいて遅延した。野生型ラットは、すでに24時間後にWD(ミエリン変性、マクロファージ活性化)の徴候を示した。C6欠損ラットにおいて、この過程は遅延した。わずか72時間後に、ミエリン変性が認識でき、マクロファージ活性化は生じなかった。1週間後、両方の型のラットが重篤な神経変性を示した。
2)しかし予想外なことに、外傷後の神経回復は、野生型ラットに比較して、補体成分C6欠損ラットにおいてはるかに良好であった。単一軸索の再ミエリン化は、C6欠損ラットにおいてはるかに速やかに生じ、小型軸索のクラスターではなく、単一の大直径の軸索の出芽が生じたため、出芽過程はより効率的であった。図1を参照されたい。
【0058】
1.2 C6欠損は、食細胞の流入/活性化の遅延を導く
ミエリンクリアランスにおけるマクロファージの重要な役割を考慮して、本発明者らは次に、圧潰後のマクロファージの数及び活性化状態を分析した。
【0059】
外傷後、0時間目、24時間目、48時間目及び72時間目に、野生型ラット、C6欠損ラット、及びC6を補足したC6欠損ラットそれぞれから採取した圧潰坐骨神経の非連続的切片において、ED1(CD68)免疫反応性(−ir)細胞をカウントした。
【0060】
野生型ラットとC6欠損ラットの両方において、CD68(ED1抗体)陽性細胞が圧潰神経に蓄積した。しかしC6欠損ラットは、CD68陽性細胞の出現遅延を示した(図2、実線と点線とを比較)。C6補足では、CD68細胞の蓄積が回復した(72時間の時点を参照)。C6欠損ラットにおいて、免疫組織化学CR3(ED7抗体)染色によってアッセイすると、マクロファージの活性化は無かった(示していない)。
【0061】
これらのラットのリンパ節がCR3陽性細胞を含有しているため、C6欠損ラットが、マクロファージ活性化それ自体を欠失しているということを排除することができた。また、C6再構成の際、CD68陽性細胞の蓄積及びマクロファージ上のCR3発現は回復し、引き続き、ミエリン変性が生じた。これは、C6の下流の補体経路における段階、すなわち、WDへの膜攻撃複合体(MAC)形成に直接関連する。
【0062】
7日後、C6欠損細胞及び野生型細胞に、等しい数のCD68陽性細胞が見られた。これらの細胞は、C6欠損ラットにおいて、ED7(CR3)を示さず、マクロファージは活性化されていない可能性が高い(データは示していない)。
【0063】
1.3 C6欠損及び再構成の神経病理学的アッセイ及び機能アッセイ
図3は、再生中のミエリン化軸索の光学顕微鏡分析を示す。野生型ラット、C6欠損ラット及びC6で再構成したC6欠損ラットの損傷5週間後、ラット脛骨神経の近位の準薄切片を分析した。少数の薄くミエリン化した軸索が野生型(WT)に存在し、一方、多数の厚くミエリン化した軸索がC6欠損(C6−/−)神経に存在する。C6で再構成したラット(C6+)からの神経は、C6欠損神経よりも少数のミエリン化軸索を示す。
【0064】
図4は、該神経の機能回復に及ぼすC6再構成の効果を示す。感覚機能の回復を、0.1mAから0.5mAの範囲の電流で、フットフリック装置によって測定した。値は対照レベルに対して正規化した。矢印(→)は、圧潰損傷が実施された時点を示す。野生型ラットは、完全に回復するまでに4週間かかるが、C6欠損ラットは、圧潰後3週間ですでに回復する。C6欠損ラットにおけるC6再構成は、圧潰後、野生型の(緩徐な)再生表現型をもたらす。(C6−/−)とWT(*)又はC6+(†)との間の統計的有意性は、p<0.05でのものである。
【0065】
神経病理学的アッセイ及び機能アッセイにおける精製ヒトC6によるC6欠損ラットの再構成が野生型表現型を回復させること(図3及び図4)から、圧潰後のPNSの再生に及ぼす観察された効果はC6欠損によるものであると本発明者らは結論づける。
【0066】
(実施例2):ヒトC1阻害剤による神経圧潰後の補体活性化の阻害
組換えヒトC1阻害剤(rhC1INH;Pharming、ライデン、オランダ国から入手)が、神経圧潰後の急速な(1時間)補体活性化を阻害できるかどうかを試験した。図5は、神経圧潰後1時間目にrhC1INH又は媒体(PBS)単独で処置した損傷野生型ラット坐骨神経のC1q、C4c及びC3c免疫染色を示す。全ての圧潰神経に、C1qに対する高免疫反応性が存在し、圧潰損傷後のC1qアップレギュレーションが確認される。C4c及びC3cの免疫反応性は、予想どおりPBS処置神経において検出されたが、損傷1時間後に殺処置したrhC1INH処置ラットからの神経には、C4c及びC3cの免疫反応性は検出されなかった。このことは、圧潰後のrhC1INHによる補体カスケードの効果的な阻止を実証しており、補体活性化の代替経路はウォラー変性の圧潰損傷モデルに関与していないことを示唆している。したがって、神経圧潰後の補体カスケードの活性化は、古典的経路を介して生じる。しかし、1つ注意すべきことがある:ラットにおけるrhC1INHの短い半減期のため、本発明者らがモニターできたのは、圧潰後1時間のC3及びC4の開裂のみであった。したがって、それより後の時点で代替経路による活性化が生じることを除外することはできない。
【0067】
(実施例3):外傷後神経の再生に及ぼす可溶性CR1の効果
次に本発明者らは、外傷後神経の再生に及ぼす可溶性CR1(sCR1)の効果を試験した。sCR1は、C3/C5コンバターゼを阻害し、それによって、補体系の古典的経路と代替経路の両方に影響を及ぼす。
【0068】
野生型PVGラットを、15mg/kg/日の用量で、可溶性CR1(Avant Immunotherapeutics社からのTP10)によって処置した(TP10可溶性CR1は、P.Morgan教授、カーディフ、英国から得た)。対照ラットは、同容量(600μl)の媒体単独(PBS)によって処置した。可用性CR1又はPBSを、腹腔内に、圧潰の24時間前、引き続き毎日、最高8回の注射(圧潰後6日目まで)で送達した。右足の坐骨神経を圧潰し、左足を対照として用いた。組織学及び感覚機能の両方を分析した。
【0069】
図6は、フットフリック試験による機能分析において、PBS処置ラットに比較してsCR1処置ラットでは、より速やかな感覚機能の回復が見られることを示している。フットフリック試験は、上記の実施例1.3のとおりに実施された。
【0070】
圧潰72時間後の神経の組織学的分析により、sCR1が、マクロファージの流入及び活性化を強力に阻害したことが示されている(図7を参照)。sCR1処置により、C6の欠損に比較して、CD68陽性により測定されたマクロファージ活性の阻害と同様なレベルがもたらされた。
【0071】
(実施例4):末梢神経損傷モデルにおいて、補体活性化の阻害は軸索の再生及び回復を促進する
4.1 方法
4.1.1 動物
本試験は、学術医療センター動物倫理委員会(Academic Medical Center Animal Ethics Committee)により承認され、実験動物の管理に関する指針に従っている。12週齢のオスPVG/c(野生型)は、Harlan(英国)から入手し、PVG/c−(C6−/−)ラットは、本発明者らの施設で飼育した。ラットの体重は、200gと250gとの間であり、試験開始の前、少なくとも2週間順化させた。ラットは、実験の全過程を通して、同じ動物施設で飼育し、FELASAの推奨事項に従って微生物学的状態をモニターした。ラットはプラスチックケージ内に対にして入れた。ラット用固形飼料と水を自由に与え、20℃の室温で、12時間:12時間の明:暗サイクルで飼育した。
【0072】
4.1.2 PVG/c−(C6−/−)ラットの遺伝子型決定
C6−/−ラットには、C6遺伝子に31の塩基対(bp)の欠失がある(Bhole及びStahl、2004年)。遺伝子型決定は、Ramagliaら(2007年)に従って実施した。
【0073】
4.1.3 再構成試験用にヒトC6の投与
C6はヒト血清から精製した(Meadら、2002年)。8匹のC6−/−ラットに、圧潰損傷の1日前(−1日目)及びそれ以降1週間毎日(0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目)C6をPBS中4mg/kg/日の用量で静脈内投与した。8匹の野生型ラット及び8匹のC6−/−ラットを、等容量の媒体(PBS)単独で処置した。精製ヒトC6で再構成したC6−/−ラットは、本文中、C6+として示される。
【0074】
4.1.4 阻害試験のためのsCR1投与
組換え可溶性補体受容体1(sCR1)は、以前記載された(Piddlesdenら、1994年)とおりに入手した。6匹のラットに、15mg/kg/日の用量でsCR1を腹腔内投与した。6匹のラットを等容量の媒体(PBS)単独によって処置した。この処置を、圧潰損傷の1日前(−1日目)及びそれ以降1週間毎日(0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目)行った。
【0075】
4.1.5 血液溶解アッセイ及びELISA
野生型PBS処置ラット、C6−/−PBS処置ラット、C6+及びsCR1処置ラットからの血液サンプルを、圧潰損傷の1日前(−1日目)及びそれ以降、損傷1週間後まで毎日(0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目)尾部静脈から採取した。サンプルは全て、各処置注射の直前に採取した。血漿を分離し、標準的な補体溶血アッセイ(Morgan、2000年)により、C6活性及びsCR1阻害効果をモニターするために使用するまで、−80℃で保存した。連続希釈を用い、以前記載されたELISAアッセイ(Mulliganら、1992年)を用いて、二重アッセイで、sCR1の血漿レベルを測定した。
【0076】
4.1.6 運動試験及び感覚試験
実験は全て、遺伝子型及び処置群に関して盲検化された同じ研究者によって行われた。運動試験と感覚試験は両方とも、損傷後5週間まで毎週、一日のうちの同じ時間に実施された。運動機能の回復は、標準化された歩行跡分析を用いて評価し、Hareら(1992年)による坐骨機能指数(SFI)を導き出した。簡単に述べると、ラットをプレキシグラスプラットホームをわたって歩行させ、その間のそれらの歩行パターンをプラットフォーム下のカメラによって記録した。ImageProの分析プログラム(Media Cybernatics、オランダ国)を用い、記録されたフットプリントから坐骨神経機能指数を算出した。プリント長(PL)、足指(第1から第5)の拡がり(TS)及び中間足指(第2から第4)の拡がり(IT)を、非損傷の正常な足から(NPL、NTS、NIT)、並びに損傷実験側の反対側の足から(EPL、ETS、EIT)記録した。SFIは、式:−38.3*[(EPL−NPL)/NPL]+109.5*[(ETS−NTS)/NTS]+13.3*[(EIT−NIT)/NIT]によって導いた。ラットによるプリントが生じなかった場合は、De Koningら(1986年)に従って、EPL=60mm、ETS=6mm及びEIT=6mmの標準値を用いた。感覚機能の回復は、De Koningら(1986年)によるフットフリック試験によって評価した。簡単に述べると、0.1〜0.5mAの変動電流によるショック源を用いた。記録は、損傷の1日前、及び損傷後5週間まで毎週行った。ラットを固定し、各ラット及び刺激に関して、ラットの足裏の同一箇所に2つの刺激電極を置いた。応答は、ラットが足を引込めた場合に正のスコアを付けた。引込みが生じた時の電流(mA)を記録した。値は、正常な機能のパーセンテージとして表される。
【0077】
4.1.7神経圧潰損傷
全ての外科的処置は、イソフルランの深い麻酔下(2.5%容量のイソフルラン、1L/分O2及び1L/分N2O)で無菌的に実施された。左大腿を剃り、大腿上部の切開術により坐骨神経を露出させた。平滑な湾曲鉗子を用いて坐骨ノッチの準位で10秒間で3回この神経を圧潰した。圧潰部位を、神経を狭窄しない縫合糸によりマークした。右側大腿において、坐骨神経を露出させたが侵害しない偽手術を実施した。縫合糸も設置した。次に筋肉及び皮膚をステッチで閉じた。右肢を対照として用いた。圧潰後、ラットを、1週間(野生型n=5;C6−/−n=5;C6+n=2)、3週間(野生型n=6;C6−/−n=6;C6+n=3)及び5週間(野生型n=5;C6−/−n=5;C6+n=3;野生型sCR1処置n=6;野生型PBS処置n=6)回復させた。
【0078】
4.1.8坐骨神経の組織学的検査
イソフルランの深い麻酔下、全てのラットにピパラジン−N−N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝液(pH7.6)中4%パラホルムアルデヒドを心臓内に灌流させた。左右の脛骨神経を各ラットから取り出し、0.1MのPIPES緩衝液(pH7.6)中、1%のグルタルアルデヒド、1%のパラホルムアルデヒド及び1%のデキストラン(分子量20,000)により後固定した。それらを、10mm長さの1つの近位セグメント及び1つの遠位セグメントに分けた。各セグメントを、エポキシ樹脂中に従来どおり加工処理した。0.5μmのセミシン樹脂切片をチオニンとアクリジンオレンジで染色し、デジタルカメラ(Leica DFC500、オランダ)に接続した光学顕微鏡(Leica DM5000B、オランダ)により画像を捕捉した。圧潰損傷後5週目に野生型及びC6−/−ラットからの脛骨神経の超薄切片を電子顕微鏡検査した。以前に記載されたとおり(King,1999年)、切片を酢酸ウラニルとクエン酸鉛とで対比させた。電子顕微鏡(FEO10、Philips、オランダ)に接続されたデジタルカメラにより画像を捕捉した。損傷5週後における軸索の再生クラスター数をセミシン樹脂切片上で測定した。各群の各ラット当り、全切片を評価した。g比は、ミエリン化軸索直径に対する非ミエリン化軸索直径の数値比率であり、神経切片全体にわたって算出した。大口径(>8μm)ミエリン化線維の頻度を神経切片全体にわたって算出した。
【0079】
4.1.9統計解析
ボンフェローニ補正による二元配置ANOVAを実施して、溶血アッセイ(p<0.001)、ELISAアッセイ(p<0.001)、SFI(p≦0.05)、フットフリック試験(p≦0.05)における統計的有意差を判定した。
【0080】
4.2結果及び考察
急性外傷後の神経再生に及ぼすC活性化の効果を試験するために、2つの相補的方法、すなわち第一にC6欠損(C6−/−)効果、並びにC活性化の阻害を調べることによりラットモデルにおける坐骨神経の圧潰損傷からの回復に及ぼすCの効果を判定した。
【0081】
本試験は、5週間にわたるスキームに従って設定した。時間0は圧潰損傷時である。各群のラットを、プラセボ(PBS)又は精製C6タンパク質若しくはsCR1により、損傷前日(−1日目)及び、その後、損傷後1週間後まで毎日処置した。損傷前日(−1日目)及び損傷後0日目、1日目、2日目、3日目、5日目、並びに7日目に各ラットから血液を採取して血清中補体溶血活性を測定した。坐骨神経機能指数(SFI)による運動機能の回復及びフットフリック試験による感覚機能の回復を判定するために、ベースライン値用に損傷前日及びその後、損傷の5週間後まで毎週機能分析を実施した。損傷部位から遠位の脛骨神経の病理学的分析を、損傷後1週目、3週目及び5週目に実施して神経再生を判定した。
【0082】
機能の回復及び組織学的検査に及ぼす効果の両方を測定した。C6欠損に関する対照として、精製C6タンパク質(4mg/kg/日;n=8)により血漿中溶血活性(CH50)を野生型レベルに回復した(>80%:p<0.001、二元配置ANOVA)C6−/−ラット(C6+)を再構成した(表1)。C活性化の阻害は、3つのC活性化経路の全てを阻害するヒト膜C調節因子CR1の組換え可溶性形態である可溶性C受容体1(sCR1)(15mg/kg/日;n=6)(Weismanら、1990年)による全身処置により達成された。この処置により、溶血C活性が処置の全経過にわたってPBS媒体処置の対照の約30%に減じた(n=6、p<0.001、二元配置ANOVA)(表1)。損傷3日後、血漿中のこのレベルのC阻害により、神経中の活性化Cの沈着が完全に抑止されることを本発明者らは見出した。
【0083】
運動機能の回復は、損傷後毎週、ラットの歩行パターンから算出された坐骨神経機能指数(SFI)(Hareら、1992年)を測定することによってモニターした。損傷後1週目では、損傷脚の足を使用して歩行した動物は無く、歩行プラットフォーム上にフットプリントを生じなかったことから、脚の筋肉の神経支配が完全に喪失されたことが示唆された。損傷後2週目から全試験を通して、C6−/−ラット(n=16)は、野生型動物よりも有意に高いSFIを生じた(n=16、p≦0.05、二元配置ANOVA)(図8a)。該プリント長及びつま先拡がりパラメータの増加により、より高いSFIが生じ、それぞれ、ふくらはぎ及び足の小筋肉の神経再支配を示している。精製C6タンパク質によるC6−/−ラットの再構成(C6+)により、損傷後4週目及び5週目においてSFIを野生型レベルに著しく減じた(n=8、p≦0.05、二元配置ANOVA)。これらのデータにより、C6欠損ラットでは、野生型と比較してより速い運動機能の回復が生じることを示している。感覚機能の回復は、フットフリック試験によりアッセイした。損傷後1週目において、足裏が0.5mAの電気ショックにより刺激された際に、足を引込めた動物はいなかったことから、感覚神経支配の完全喪失が示唆された。損傷後2週目から3週目において、C6−/−ラットは、野生型ラット(n=16)及びC6+ラット(n=8)と比較して、20〜50%の大きな感覚機能の回復を示した(p≦0.05、二元配置ANOVA)。この感覚機能は、損傷後4週目と5週目の群間では相違はなかった(図8b)。同様に、sCR1で処置された動物は、損傷後2週目と4週目との間のPBS処置ラット(n=6)よりも感覚機能のより速い回復を示した(10〜30%の増加、n=6;p≦0.05、二元配置ANOVA)(図9)。これらのデータにより、坐骨神経圧潰損傷後、C欠損及びC活性化阻害は両方とも足裏に対して感覚神経支配の回復を促進し、改善することが示されている。
【0084】
損傷神経の組織学的再生を追跡するために、異なる時点で脛骨神経を分析した。再生過程は、元々損傷を受けた軸索の出芽である軸索再生クラスターの発生によりマークされる。最初、軸索出芽は、単一シュワン細胞の細胞質内に滞留するが、後に放射状区分けにより分離される。シュワン細胞と軸索との間に1:1の関係が確立されると、ミエリン化前SCが開始され、軸索を被鞘してミエリン及び基底層管が形成される。この段階で、再生クラスターは、小口径で、隣接シュワン細胞内に薄くミエリン化された軸索の群として出現する(図10、矢印)。1つの軸索がその標的に到達すると、残りの軸索出芽が排除される一方、残存する軸索のサイズが増大する。損傷5週目における組織学的切片に対して、未処置の野生型及びPBS媒体処置の対照は、再生クラスターを欠いているC6−/−及びsCR1処置ラットと対照的に、小口径の薄くミエリン化された軸索の再生クラスターを示し、Cが阻害されるか、又は欠いている場合より迅速な回復が確認される(図10)。損傷後5週目において未処置の野生型処置対照(0.05±0.02;n=5)、C6+処置対照(0.06±0.01;n=3)及びPBS媒体処置対照(なし;n=6)と比較して、C6−/−処置動物(0.59±0.20%、n=5)及びsCR1処置動物(0.58±0.11%、n=6)において、大口径(>8μm)のミエリン化線維の頻度が増加したが、一方、低(<4μm)及び中間(4〜8μm)口径のミエリン化線維の頻度に相違は見られなかった。ミエリンの厚さは、ラット群の間で変わらなかった(0.69±0.01のg比、n=5、野生型;0.65±0.02、n=5、C6−/−;0.65±0.01、n=3、C6+;0.70±0.01、n=6、sCR1処置;0.66±0.003、n=6、PBS媒体処置)(データは示さない)。
【0085】
これらのデータをまとめると、C6の欠如、又はC活性化がsCR1により阻害される場合に、末梢神経損傷後の軸索再生及び機能の回復が増強されることが示されている。したがってMACを形成する能力は、神経回復の負の決定因子である。
【0086】
軸索圧潰損傷後の機能回復には、圧潰部位で損傷したシュワン細胞管に軸索が再進入することが必要である。遠位断端においては一旦、軸索は、損傷前にたどった経路を再探査し、先に神経支配されていたまさに同一の筋線維に特異的なシナプスを生じることが必要である。この作業において、軸索は、誘引的且つ反発的分子のきっかけにより誘導されるが(Tessier−Lavigne及びGoodman、1996年;Yu及びBargmann、2001年)、最近の証拠により、物理的因子もまた、重要な役割を果たしていることが示された(Nguyenら、2002年)。したがって、完全な神経内膜管を維持することは、成人末梢神経の再生に関して非常に重要となり得る。
【0087】
C活性化の遮断、特にMAC形成の遮断により、神経再生時の組織損傷が軽減され、軸索の誘導に必要な構造を奪回されると考えられ、より効率的な再生及び機能回復がもたらされる。ミエリン鞘の厚み増加の欠如下での機能の改善は、大口径線維数の増加により説明することができる。
【0088】
この10年間にわたる多くの証拠により、回復時のマクロファージの有益な役割の可能性が示されている(Kieferら、2001年)。損傷後の後期に、マクロファージは、炎症過程の消散に関与する抗炎症性サイトカイン類を分泌する。炎症が終結すると、マクロファージは、成長因子及び分化因子の分泌を介してシュワン細胞の増殖と生存、再ミエリン化及び回復に寄与する。損傷後早期に、C阻害によって、神経内膜マクロファージの浸潤が著しく減少する(C阻害の欠如下の25倍と比較して5倍の増加)を本発明者らは示した(Ramagliaら、2007年)。これは、常在性マクロファージ集団の増殖によるものであり、一方、血行性マクロファージからは殆ど寄与が無いと本発明者らは推定した。血行性マクロファージの有害効果は、神経内膜集団により行使できる有益な効果とは分離した可能性がある。
【0089】
本発明者らの知見は、Cカスケードの遮断、又はMACの選択的阻害が、外傷性損傷後、及びC依存神経損傷が報告されている末梢ニューロパシー並びに神経変性疾患における再生を促進する新規な治療的アプローチに対してドアを開くものである。
【表1】
野生型PBS処置ラット、C6−/−PBS処置ラット及び精製ヒトC6で再構成されたC6−/−ラット(C6+)並びにsCR1処置ラット。損傷(0日目)前日(−1日目)に処置を開始し、1週間まで毎日処置を繰り返した。血漿を、−1日目、2日目、4日目、7日目、処置直前に採取した。値は、1時点につき1群当り6匹から8匹までのラットの平均±S.D.である。統計的有意性(*)とは、ボンフェローニ補正による二元配置ANOVA検定によって判定されたp≦0.001のことである。n.d.は、未測定のことである。
【0090】
(実施例5)
5.1材料及び方法
5.1.1動物
本試験は、Acdemic Medical Center Animal Ethics Committeeにより承認され、実験動物の管理に関する指針に従っている。
【0091】
12週齢のオスPVG/cを、Harlan(英国)から入手した。動物の体重は、200gと250gとの間であり、試験開始前、少なくとも2週間順化させた。実験の全過程を通して、動物を同じ動物施設で飼育し、FELASAの推奨事項に従って微生物学的状態をモニターした。動物を、プラスチックケージ内に対にして入れた。ラット用固形飼料と水とを自由に与え、20℃の室温で12時間:12時間の明:暗のサイクルで飼育した。
【0092】
5.1.2阻害試験のためのsCR1又はCetorの投与
組換え可溶性補体受容体1(sCR1)を、以前に記載されたとおりに得た(Piddlesdenら、1994年)。補体C1阻害剤(Cetor)は、Sanquin(アムステルダム、オランダ)により恵与された。sCR1を、15mg/kg/日の用量で12匹のラットに腹腔内投与した。Cetorを、50U/ラット/日の用量で6匹のラットに静脈内投与した。12匹のラットを、等容量の媒体(PBS)単独で処置した。この治療薬を、圧潰損傷前日(−1日目)及び該神経を損傷後3日目に取り出すまで24時間ごと(0日目、1日目、2日目)に投与した。10匹のラットを、損傷後6日目まで(−1日目、0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目)sCR1(6匹)又はPBS(4匹)で処置し、処置の終了(7日目)の1日後に該神経を取り出した。
【0093】
5.1.3溶血アッセイ及びELISA
PBS処置ラットとsCR1処置ラットからの血液サンプルを、ラットを損傷後3日目に殺処理されるまで損傷前日(−1日目)及びそれ以降(0日目、1日目、2日目)に尾静脈から採血した。6日目まで処理した群で、追加の血液サンプルを損傷後3日目、5日目、7日目に採血した。全てのサンプルを、各処置注射直前に採血した。血漿を分離し、標準的な補体溶血アッセイによりsCR1阻害活性をモニターするために使用するまで−80℃で保存した(Morgan、2000年)。
【0094】
sCR1の血漿中レベルは、連続希釈を用い、以前に記載された(Mulliganら、1992年)とおりにELISAアッセイを用いて測定し、二重反復試験を行った。
【0095】
5.1.4神経圧潰損傷及び組織処理
全ての外科的処置は、イソフルランの深い麻酔下(2.5%容量のイソフルラン、1L/分O2及び1L/分N2O)で無菌的に実施された。左大腿を剃り、大腿上部の切開術により坐骨神経を露出させた。平滑な湾曲鉗子(7号)を用いて坐骨ノッチの準位で10秒間で3回この神経を圧潰した。圧潰部位を、神経を狭窄しない縫合糸によりマークした。右側大腿において、坐骨神経を露出させたが侵害しない偽手術を実施した。縫合糸も設置した。次に筋肉及び皮膚をステッチで閉じた。圧潰後、ラットを、3日間(PBS処置n=8;sCR1処置n=6;Cetor処置n=6)及び7日間(PBS処置n=4;sCR1−処置n=6)回復させた。
【0096】
全てのラットにピパラジン−N−N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝液(pH7.6)中4%パラホルムアルデヒドを心臓内灌流させた。左右の脛骨神経を各ラットから取り出し、5mm長さの1つのセグメントを、圧潰部位の遠位から採取した。免疫組織化学用に、各セグメントを従来どおりパラフィンワックス中に加工処理した。
【0097】
5.1.5免疫組織化学
パラフィンワックス切片を、3段階免疫ペルオキシダーゼ法を用いて染色した。インキュベーションは全て室温で(RT)で実施した。脱パラフィン及び再水和後、内因性ペルオキシダーゼ活性を、メタノール中1%のH2O2で20分間遮断した。全ての場合に、マイクロ波による抗原回復を用いた(10mMのTris/1mMのEDTA pH6.5中、800Wで3分間、次いで440Wで10分間)。非特異的結合部位を遮断するために、Tris緩衝生理食塩水(TBS)中10%の正常ヤギ血清(NGS)中で20分間、スライドをインキュベートした。1%のBSA中で希釈した適切な一次抗体(表2を参照)と共に90分間インキュベーションした後、1%のBSA中で1:200に希釈したDakoCytomation(Glostrup、DK)からのビオチン化ヤギ抗ウサギIgG又はヤギ抗マウスIgG中で30分間、及び西洋わさびペルオキシダーゼ標識ポリストレプトアビジン(ABC複合体、DAKO)中で30分間、切片をインキュベートした。ペルオキシダーゼ活性を可視化するために、スライドを、酢酸緩衝液(pH5)中0.05%の3−アミノ−9−エチルカルバゾールで5分間インキュベートし、次いでヘマトキシリンにより30秒の対比染色を行い、ゼラチンに乗せた。二次的複合体単独で免疫染色された切片を、実験ごとに陰性対照として含み、一方、ラットの脊髄及びリンパ節の切片は、陽性対照として用いた。
【0098】
光学顕微鏡(Olympus、BX41、オランダ)に取付けたデジタルカメラ(Olympus、DP12、オランダ)により画像を捕捉した。
【表2】
【0099】
5.1.6免疫組織化学の定量分析
分析は全て、Image Pro Plusバージョン5.02(Media Cybernatics、オランダ)により実施した。CD68(ED1クローン)−免疫反応細胞は、CD68陽性シグナルが核と関連した場合に陽性と評価した。ラット1匹当り30枚の坐骨神経の非連続切片を評価した。各切片に関して、全神経面積の>90%を含む3つの非重なり視野の平均をとった。MAC及びMBP免疫染色の定量化は、調べた1切片当り2つの非重なり視野上で40倍の倍率で実施した。ラット1匹当り10枚の切片を評価した。染色された表面積を、調べた全面積のパーセンテージとして表した。
【0100】
5.1.7タンパク質抽出及びウェスタンブロット解析
圧潰損傷後2日目に殺処理した2匹の無処置ラットからの凍結坐骨神経を、20mmol l−1のTris(pH7.4)、5mmol l−1の1,4−ジチオ−DL−トレイトール(DTT)及び0.4%のSDS並びに6%のグリセロール中、乳棒と乳鉢を用いて液体窒素中でホモジナイズした。このホモジネートを、10,000×g、2℃で10分間遠心分離した。上澄液フラクションを集め、タンパク質分析用に用いた。タンパク質濃度は、標品としてウシ血清アルブミン(BSA)を用い、DCタンパク質アッセイキット(Bio−Rad Laboratories、米国)により測定した。
【0101】
タンパク質抽出物(20μg/サンプル)を5分間沸騰させ、10%のSDS−PAGEにより分離し、4℃で一晩ニトロセルロース膜に移した。ブロッティング前にタンパク質の添加を確認するために、ニトロセルロース膜をPonseauレッドで30秒間染色した。該膜を、0.5%のツイーン20(TBST)及び5%の脱脂ドライミルクを含有する50mmol l−1のTrisHCl中、室温で1時間プレインキュベートした。5%の脱脂ドライミルクを含有するTBST中で希釈したポリクローナルヤギ抗因子Bb(fBb)(Quidel、サンディエゴ、カリフォルニア州)中で、ブロットを2時間インキュベートした。TBST中で洗浄後、5%の脱脂ドライミルクを含有するTBST中、1:2000に希釈したポリクローナルウサギ抗ヤギ西洋わさびペルオキシダーゼ複合化二次抗体中で、膜を1時間インキュベートした。TBST中で膜を30分間洗浄し、増強化学発光法(ECL、Amersham、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、米国)を用いて、免疫反応性バンドを検出した。免疫反応性バンドの定量化は、Advanced Image Data Analyzerソフトウェアバージョン3.4(Raytest、独国)を用いて実施した。
【0102】
5.1.7統計解析
ボンフェローニ修正による二元配置ANOVAを実施して統計的有意差(p≦0.001)を判定した。免疫ブロッティング定量化の統計解析は、不対t検定により判定された(p≦0.05)。
【0103】
5.2結果
5.2.1 sCR1は急性神経外傷後の補体活性化を遮断する
ウォラー変性(WD)に及ぼす全ての補体活性化経路の阻害効果を判定するために、本発明者らは、sCR1によりラットを処置した。処置は、坐骨神経の圧潰損傷前日に開始した。15mg/kg/日の用量のsCR1又は等容量の媒体のいずれかを毎日の腹腔内注射後、血漿中sCR1レベル及びCH50を測定した。sCR1レベルは、注射初日後に増加し、溶血性補体活性は、対照の約30%に減少した(図11)。
【0104】
sCR1処置ラットは、圧潰神経において補体活性化阻害を示した(図12)。sCR1処置神経は、殆どMAC沈着を示さなかったが(0.8±0.9%)、一方、MAC免疫反応性は、PBS処置ラットの神経で調べた全面積の31.4±7.8%にわたった。MAC免疫反応性は、非損傷の対照神経には検出できなかった。sCR1処置神経においては、C4c及びC3cの沈着も又防止されたが、一方、PBS処置神経において免疫反応性の高い量が検出された(示していない)。これらの結果により、sCR1は急性神経損傷後の補体活性化の有効な阻害剤であることが示されている。
【0105】
5.2.2 sCR1は、損傷後3日目に神経の軸索損失を防止する
WDに及ぼすsCR1媒介補体阻害効果を判定するために、損傷後3日目における軸索及びミエリンの形態学的変化を分析した。
【0106】
神経線維(SMI31)の染色により、PBS処置ラットの坐骨神経が、軸索膨潤並びに分解の徴候である薄い免疫反応性の軸索鞘によって区切られた空の拡大した軸索空間、及び該神経内のまばらな軸索デブリを有することが示された(データは示していない)。対照的に、sCR1処置ラットは、非損傷の対照神経と同様、依然として軸索の典型的な断続的外観を呈し、損傷後3日目に軸索破壊の奪回を示した。ミエリン(MBP)の免疫染色により、損傷後3日目にPBS処置ラットの神経内にミエリン破壊の徴候が明らかとなったが、一方、sCR1処置ラットの神経は、非損傷の対照神経と同様に典型的な輪状ミエリン染色を呈し、損傷後のこの時点でミエリン分解の奪回を示した(データは示していない)。これらの知見により、sCR1は、損傷後3日目に神経の軸索分解及びミエリン分解を防止することを示している。
【0107】
損傷後7日目におけるPBS及びsCR1処置ラットの両方の坐骨神経の分析により、両方のラット群における軸索破壊及びミエリン破壊が示され、圧潰損傷後のsCR1処置神経ではWDは遅延するが、防止されないことが示されている(データは示していない)。
【0108】
MBP染色の定量化により、圧潰神経において非損傷神経と比較して有意に低い免疫反応性が示された(21.7±3.5%)。MBP免疫反応性デブリ量は、PBS処置ラットとsCR1処置ラットとの神経間で異なった。PBS処置神経は、sCR1処置神経(7.6±1.0%)と比較して、有意に低いパーセンテージ(2.1±1.3%)のMBP免疫反応性面積を示した。このことは、ミエリンデブリのクリアランスが、sCR1処置神経において遅延することを示している。
【0109】
5.2.3 sCR1は、損傷後3日目にマクロファージの蓄積と活性化を防止する
補体活性化が、マクロファージの動員及び活性化を媒介するため、マクロファージの蓄積と形態学的変化をモニターした。マクロファージの代謝状態に関するマーカーとして、リソソームマーカーであるCD68抗体(ED1クローン)を用いた。少数のCD68免疫反応性細胞が、対照の非損傷神経に見られた(5.3±1.7個の細胞/mm2)。その数は、PBS処置ラットの神経では損傷後3日目に261.2±10.7個の細胞/mm2に増加したが、一方、sCR1処置ラットからの神経は、より緩やかな増加を示した(63.1±4.7個の細胞/mm2)(図13)。
【0110】
PBS処置ラットの神経は、損傷後3日目に大型で且つ非対称のCD68免疫反応性細胞(平均サイズ103.6±71.8μm2)を示したが、一方、sCR1処置ラットの神経では、非損傷の対照神経に見られるサイズ(平均サイズ18.8±6.6μm2)と同様のサイズと形状である小型で円形の細胞(平均サイズ22.8±14.1μm2)が検出された(データは示していない)。
【0111】
CD68免疫反応性細胞サイズの分布測定は、非損傷の神経においては11個の細胞、PBS処置神経においては778個の細胞及びsCR1処置神経においては294個の細胞に対して実施した。PBS処置神経における細胞サイズの分布は、約60μm2の大きい細胞集団で、20μm2から400μm2を超える範囲の細胞寸法でばらつきが高いことを示した。対照的にsCR1処置神経は、非損傷対照神経に見られた細胞サイズと同様、0μm2から40μm2の範囲の細胞寸法を示した(図14)。MBPとCD68の共存により、PBS処置神経ではミエリンを飲み込むマクロファージを示すが、一方、小型の休止マクロファージが、非損傷神経及びsCR1処置神経の形態学的に非損傷のミエリン鞘間に見ることができる(データは示していない)。これらの結果は、マクロファージがPBS処置神経においては活性化されるが、sCR1処置神経では活性化されないことを示している。
【0112】
5.2.4急性神経外傷後の代替経路の活性化
急性神経外傷後に、補体系の古典的な経路が活性化されることを本発明者らは見出した。坐骨神経の圧潰損傷によって代替経路も又起動するかどうかを判定するために、因子Bの開裂から生じる60kDタンパク質断片であるBbの発現レベルを測定した。非損傷のラット神経のタンパク質抽出物には、低レベルのBb免疫反応性が検出されたが、一方、圧潰損傷後2日目にほぼ2倍の増加(1.8±0.2)が見られた(図15A、B)。これらの結果は、急性神経外傷後に代替経路のループが起動し、より多くの開裂fBを生じさせることを示している。
【0113】
5.2.5 WDに及ぼすC1阻害剤の効果
代替経路が病状を引き起こすのに十分であるかどうかを判定するために、ラットをC1阻害剤(Cetor)で処置した。補体C1阻害剤、Cetorによる古典的経路、及びレクチン経路の阻害により、種々の補体経路の寄与を判定することが可能になると考えられた。Cetorの投与量は、de Smetらの研究から外挿した。古典的経路(C4c)の活性化産物に関するCetor処置圧潰神経の免疫染色は陰性であり、したがって古典的経路の阻害が示唆された。
【0114】
低量のMAC免疫反応性(調べた全面積の7.3±2.7%)が、損傷後3日目にCetor処置動物の神経に見られ、その染色は、主としていくつかの線維の軸索区画に局在化した(データは示していない)。神経細線維(SMI31クローン)染色により、正常な断続軸索免疫反応性を有する線維、及び非定形輪状の免疫反応性の輪郭のある拡大軸索空間を有する線維が示された。このことは、神経細線維の破壊と一致する、リン酸化神経細線維エピトープの異常分布を示している(データは示していない)。これらの知見は、MAC沈着と軸索損失との間の密接な関連を示唆している。ミエリン(MBP)の染色により、正常な輪状ミエリン形態が示され(データは示していない)、CD68の染色により、sCR1処置神経に見られた細胞数と同様の細胞数(59.8±28.3個の細胞/mm2)が明らかとなった。さらに218個の細胞に対して測定されたCD68免疫反応性細胞の平均サイズ(19.1±10.5μm2)及びサイズ分布は、sCR1処置神経又は非損傷対照と相違はなかった(データは示していない)。MBP及びCD68の共存により、形態学的に非損傷のミエリン鞘間に小型の休止マクロファージが示される(データは示していない)。これらの結果により、損傷後3日目においてマクロファージ活性化の欠如とミエリン形態の保存との間の関連性が示唆される。
【0115】
5.3考察
本発明は、補体活性化の古典的経路、レクチン経路、及び代替経路の阻害剤、sCR1による全身処置により、末梢神経損傷後の早期軸索損失及びミエリン破壊が防止されることを示している。
【0116】
sCR1の損傷ラットへの毎日投与により、全身及び局所の両方の補体活性化が防止された結果、神経中のMAC沈着が遮断された。未処置動物では、圧潰損傷は、ミエリンを拡大させ、貪食するCD68陽性細胞の急速な増加に至る。阻害剤処置神経においては、CD68陽性細胞のわずかな増加だけを検出できたが、拡大はできなかった。このことは、損傷後2日目にすでに生じる神経内膜のマクロファージ集団の増殖及び分化によるものであると思われる(Muellerら、2001年)。長期及び短期の両方の常在マクロファージは、リソソームED1抗原を新たに発現し、ミエリンを貪食する可能性を有する(Leonhardら、2002年)。しかしながら、これは、補体媒介事象である(Bruck W及びFriede、1991年)。sCR1処置神経においては、補体活性化が阻害されることから、神経組織に補体オプソニンは沈着されず、標的認識は妨害され、ミエリン食作用が防止される。さらにまた、補体阻害によって、走化性が非効率的となり、PBS処置神経に見られるさらなる4倍増加の恐らく原因となる血液由来のマクロファージ動員が防止される。
【0117】
マクロファージの動員及び活性化の減少にもかかわらず、溶血性補体活性が低く維持された場合でも、損傷後7日目でのsCR1は、神経の軸索分解及びミエリン破壊を防止することができない。したがって、補体活性化の阻害は、WDの早期事象のみに影響を及ぼすと本発明者らは結論する。sCR1がC4開裂の下流であるC3コンバターゼを阻害し、したがってC4c沈着に対する作用は殆どないと考えられるため、sCR1処置神経におけるC4c沈着の欠失は注目すべき知見である。しかしながら、以前の研究でも認めたように(Piddlesdenら、1994年)、sCR1によるC媒介損傷の遮断によっても、損傷組織への全体的なC沈着が阻害され、C4cレベルが検出できないという結果ももたらされる。
【0118】
古典的経路のほかに、代替経路もまた、末梢神経の圧潰損傷後に活性化されることを本発明者らは立証した。C1阻害剤(Cetor)である、C1q−C1r−C1s(及びMBL−MASP)複合体6,10の活性化を遮断しするセリンプロテアーゼ阻害剤による補体の古典的(及びレクチン)経路の遮断により、神経内へのMAC沈着は減少したが、除かれはしなかった。代替経路の低率活性化は、生理学的条件下で生じ、補体阻害剤により負に調節されることから、損傷部位での膜結合補体調節成分の破壊は、代替経路を制御不能とし、さらに多くのC3コンバターゼを生成し、MAC沈着に至る可能性がある。また、古典的経路の活性化時に蓄積すると考えられる低レベルのC3bがCetorによる阻害を免れて、低レベルのC5コンバターゼを形成し、さらに活性化を増幅させる代替経路に対する基質として作用する可能性を、本発明者らは除外することができない。補体活性化の部分的遮断の結果、マクロファージの蓄積を減少させ、活性化を防ぐC3沈着を減少させる一方、低量のMACは、依然として神経内に蓄積される。興味深いことに、これは、著しい軸索損傷を引き起こすのに十分であり(しかし、ミエリン分解は多くない)、MAC誘導損傷に対する軸索の感受性を強調している。また、これはミエリン損失が軸索損失の間接的効果であること、及びオプソニン化表面を標的にし、活性化したミエリンを剥ぎ取り、分解するためにマクロファージを必要とすることを示唆している。
【0119】
本発明者らのデータは、C1阻害剤の処置により生じる低レベルのMAC沈着でも、著しい軸索損傷を引き起こすのに十分であることを示している。
【0120】
本発明は、C阻害剤により、機械的損傷による早期の軸索分解及びミエリン破壊から末梢神経が保護されることを立証している。ギラン・バレー症候群などのPNSの脱ミエリン化疾患に対する以前の試験は、疾患表現型を誘導するために末梢神経ミエリンで免疫化された動物モデルに対して実施しているため、それらの知見は、抗原−抗体複合体が、補体活性化を媒介すると思われる疾患に直接適用できる。圧潰損傷後末梢神経のWDにおいて、補体活性化は、損傷された軸索及びミエリンのエピトープを直接標的にする抗体依存様式で生じる。したがって、これらのデータにより、C阻害剤が一次的遺伝的欠陥に重ねられた免疫系の二次的役割が最近見られている(Martini R及びToykaのレビュー、2004年)、遺伝性末梢ニューロパシーなどの非自己免疫疾患の治療においても有望なツールであることを示している。
(参考文献)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、中枢神経系又は末梢神経系の損傷又は疾患に罹っている哺乳動物における、軸索再生を必要とする病態の治療に用いられる方法及び薬剤に関する。これらの方法に用いられる薬剤は、補体系の阻害により軸索再生を促進する。
【背景技術】
【0002】
軸索変性は、毒性、虚血性、又は外傷性傷害によって引き起こされた多くのタイプの慢性神経変性疾患及び軸索に対する損傷にしばしば生じる。軸索変性は、神経標的からのニューロン分離に至り、ニューロン機能の損失をもたらす可能性がある。軸索変性の1つのモデルは、Waller(1850年)によって最初に記載されたウォラー変性(WD)と称される、損傷の際の離断軸索の遠位部分に見られる自己破壊過程である。WDの過程においては、神経線維が切断又は圧潰されると、その損傷に対して遠位の部分(すなわち、ニューロン細胞の核から離れた軸索の部分)が変性する。たいていのニューロンタンパク質は神経細胞体内で合成され、特殊な軸索輸送系によって軸索に運ばれるため、離断軸索の変性は、必要なタンパク質及び他の物質の枯渇から生じると長い間考えられていた。しかし、軸索が離断後数週間も生存した自然発生変異体マウス株のC57BL/WIdsの発見により、ウォラー変性は、活発な調節された自己破壊プログラムを含むことが示唆された。
【0003】
実際、末梢神経系(PNS)におけるWD中の最も顕著な細胞応答の1つは、マクロファージの増殖及び侵入である(Bruck、1997年)。マクロファージはWDの間、広範囲の細胞応答に関与する。マクロファージは活性化すると、シュワン細胞に対して分裂促進的である因子を放出する(Baichwalら、1988年)。WDの完了は、マクロファージがミエリン及び軸索デブリを分解する食作用能力に依存する(Griffinら、1992年)。さらにマクロファージは、軸索再生に阻害的な分子を分解でき(Bediら、1992年)、並びに、神経成長因子(NGF)などの神経栄養因子の誘導を介して軸索の成長を促進できるインターロイキン−1(IL−1)などの因子を放出できる(Lindholmら、1987年)。
【0004】
WD中のマクロファージ動員の原因となる正確な機序は完全には理解されていない。マクロファージの動員及び活性化において役割を果たし得る因子の一群は、血清補体タンパク質である。補体タンパク質の免疫媒介末梢損傷の重要性は以前研究されている。
【0005】
Meadら(2002年)は、膜攻撃複合体(MAC)を形成できないC6欠損PVG/cラットが、脱ミエリン化も軸索損傷も示さず、多発性硬化症に関する抗体媒介の実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルにおける臨床的スコアを、対応させたC6充足ラットに比較した際に有意に低下させたことを示した。しかし、単核細胞の侵入レベルは、C6充足ラットに見られたものと等しかった。Meadら(2002年)は、脱ミエリン化及び軸索損傷は、Abの存在下で生じ、MAC沈着を含む補体カスケード全体の活性化を必要とすると結論づけた。
【0006】
Jungら(1995年)は、組換えヒト可溶性補体受容体1型(sCR1)を用いる処置により、ルイスラット(ヒトギラン−バレー症候群の動物モデル)におけるミエリン誘導実験的自己免疫神経炎(EAN)の臨床徴候が著しく抑制されたことを開示した。長期の脱ミエリン化及び軸索変性もまた防止された。これらの発見は、末梢神経系における炎症性脱ミエリン化中の補体の機能的重要性を強調している。
【0007】
実際、EANにおいては、補体の枯渇により、インビボでミエリンの破壊及びマクロファージの動員が減少する(Feasbyら、1987年;Vriesendorpら、1995年)。他のグループも、補体カスケードの阻害により、中枢神経系(CNS)の神経変性疾患における損傷が減少することを示唆している(例えば、Woodruffら、2006年;Leinhaseら、2006年)。
【0008】
Dailyら(1998年)は、補体枯渇動物における遠位変性神経へのマクロファージ動員の有意な減少を開示している。また、マクロファージが大型化及び多空胞化できないこと、並びにミエリンを除去するマクロファージの能力低下によって示されるように、補体枯渇によりマクロファージ活性化も減少した。正常な状況では、ミエリンは除去され、神経の近位部分が出芽を形成し、それは変性した神経経路に沿って徐々に成長する。しかし、再生は遅く(2〜2.5mm/日)、変性神経の環境には軸索の成長を阻害する多くの因子があり、必要な成長因子が制限されたり、さらに欠如している場合があり得る。ミエリン自体が主要な阻害因子であることが提案されている。したがって、ミエリンの迅速な除去が軸索の再生にとって必須条件と考えられている。したがって、補体枯渇動物におけるミエリンの除去遅延によって、軸索再生の障害がもたらされることが予想される。これらの発見は、末梢神経変性中のマクロファージの動員と活性化の両方における血清補体に関する役割、並びに軸索再生促進におけるマクロファージの活発な役割を示している。
【0009】
実際、米国特許第6,267,955号には、軸索再生を阻害することが報告されているミエリンデブリの除去をもたらすために、哺乳動物の中枢又は末梢の神経系の損傷又は疾患の部位近辺に単核食細胞を投与し、軸索再生を助けるために、星状細胞及び乏突起膠細胞の調節を促進するマクロファージ誘導サイトカインを放出させる方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
軸索変性は、遺伝的及び後天的な脱ミエリン化ニューロパシーの両方における障害の主な原因である。現行の治療研究の多くは、ミエリン化の回復を目標にしているが、本発明者らは、脱ミエリン化の結果:二次的な軸索変性に焦点を当てている。本発明者らはモデルとして、圧潰損傷後の急性脱ミエリン化及び軸索変性並びに引き続いての神経再生を用いた。神経再生を促進及び改善する手段及び方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書における実施例において、WDの間のラットにおいて、及び慢性脱ミエリン化ニューロパシーの神経生検において、補体(C)系の活性化を本発明者らは観察した。本発明は、補体C6因子の欠損したラットにおいて、軸索再生が増強するという驚くべき発見に基づいている。この驚くべき発見は、補体系及び/又はマクロファージ活性化の操作によって、軸索再生を促進する新規な方法を開く。
【発明を実施するための形態】
【0012】
したがって、第1の態様において、本発明は、軸索再生を必要とする病態を治療するための方法に関する。該方法は、哺乳動物の補体系の阻害剤の投与、又は該阻害剤を含む薬剤(例えば、製薬組成物)の投与を含む。該阻害剤の有効量を投与することが好ましい。したがって、この態様において本発明は、軸索再生を必要とする病態を治療する方法に使用するための、哺乳動物の補体系の阻害剤、又は該阻害剤を含む薬剤に関する。同様に、この態様において本発明は、軸索再生を必要とする病態の治療用薬剤の製造のための、哺乳動物の補体系の阻害剤の使用に関する。本発明の方法及び使用において、該薬剤は、軸索再生を促進するための薬剤であることが好ましい。
【0013】
本発明の文脈において、「軸索再生の促進」は、軸索変性の減少又は防止とは区別される。本明細書において、軸索再生の促進(又はプロモーション)とは、非処置対象に比較して、処置されている対象における軸索の再生が改善されることを意味すると解される。軸索再生の改善は、非処置対象に比較して、処置対象においてより早い時点で(軸索損傷後、又は治療開始後)生じる再生であることが好ましい。軸索再生の改善はまた、非処置対象に比較して、処置対象においてより高い率及び/又はより広い範囲で生じる再生も含み得る。したがって、本発明による薬剤は、感覚機能又は運動機能の獲得を生じることが好ましい。
【0014】
軸索再生の改善は、ヒト対象において比較的容易に実施される機能試験によって判定されることが好ましく、例えば、感覚機能又は運動機能の回復は、当業界で利用できる標準化された試験で判定されることが好ましい(例えば、Wongら、2006年;Jerosch−Herold、2005年を参照)。好適な試験は定量的であり、標準化されていることが好ましく、それらの心理測定特性が評価され定量化されたものであることがより好ましい。このような試験としては、例えば、バインシュタイン感覚増強試験(WEST)又はセメス−バインシュタインモノフィラメント試験(SWMT)及び触覚に関する形状−質感識別(STI)試験が挙げられる。軸索再生の改善は、Hareら(1992年)及びDe Koningら(1986年)によって記載されているような感覚機能又は運動機能に関する機能試験により、試験動物において実験的に判定することができる。したがって、本発明による薬剤は、例えば、上記で指示された試験において判定できるような感覚機能又は運動機能の獲得を生じることが好ましい。
【0015】
軸索再生の改善はまた、組織学的試験によって、試験動物において実験的に判定することもできる。例えば、再ミエリン化の改善は、処置動物対非処置動物における軸索周囲のミエリン鞘の測定値比較によって判定することができ、それにより、より厚いミエリン鞘が、再ミエリン化の改善を示す。より効率的な軸索再生は、非処置動物における小さな軸索のクラスターに比較して、処置動物における単一の大直径の軸索の出芽生成として判定することができる。
【0016】
該阻害剤の適切な用量は、上記のような感覚機能又は運動機能の改善によって見ることのできる軸索再生の促進に有効な量である。「有効量」、「治療的量」又は「有効用量」とは、所望の薬理学的又は治療的な効果を引き出し、その結果、損傷又は障害の有効な治療をもたらす上で十分な量を意味する。
【0017】
神経損傷を最少化するために、及び/又はできるだけ早く軸索再生を促進するために、本発明の方法において、該薬剤は神経損傷発生の少し後に、すなわち、24時間、12時間、6時間、3時間、2時間、又は1時間以内に投与されることが好ましく、神経損傷発生後、45分、30分、20分又は10分以内に投与されることがより好ましい。本発明の一実施形態において、該薬剤は、神経損傷を最少化するために、及び/又は神経の手術による損傷の際に直ちに軸索再生を促進するために、神経損傷の危険性がある手術の前に投与できる(例えば、予防的手段として)(下記参照)。
【0018】
軸索再生を必要とする病態
軸索再生を必要とする種々の病態を、本発明の方法及び/又は薬剤によって治療することができる。該病態には、PNSの損傷並びにCNSの損傷が含まれる。該病態には、物理的損傷の結果としての、並びに疾患に起因する神経外傷が含まれる。このような疾患には、免疫媒介炎症性の障害又は損傷並びに/或いは後天的及び/又は遺伝的であり得る進行性神経変性障害が含まれる。
【0019】
PNS及びCNSの物理的損傷は、手術による損傷などの外傷性損傷、又は非外傷性損傷であり得る。本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる外傷性のPNS及びCNSとしては、衝突、自動車事故、銃創、骨折、脱臼、裂傷、又は穿通性外傷の他の形態からの損傷を含む、脊髄損傷並びに末梢神経に対する外傷性創傷が挙げられる。外傷によって損傷した治療し得る末梢神経としては、指神経、正中神経、尺骨神経、どう骨神経、顔面神経、脊髄副神経及び上腕神経叢神経が挙げられる。
【0020】
本明細書において、手術のPNS損傷は、手術操作中に、神経の除去又は切開が臨床的に必要となった場合に生じる末梢神経に対する損傷と解される。これは、毎年数千もの手術操作において発生する。本発明の方法及び/又は薬剤によって治療し得る手術損傷末梢神経の一例として、例えば、勃起機能及び膀胱制御を支える海綿体神経が挙げられ;これらの神経は、前立腺腫瘍及びその周囲の組織を手術による除去中に損傷されることが多い。本発明により治療し得る手術により損傷した末梢神経の別の例は、冠状動脈バイパス移植(CABG)後の横隔神経である。
【0021】
本発明の方法及び/又は薬剤によって治療し得る非外傷性物理的PNS損傷としては、エントラップメント症候群としても知られている末梢神経の圧縮及び/又は接着が挙げられる。最も一般的なエントラップメント症候群は、手根管症候群である。
【0022】
さらに、免疫媒介炎症性の障害又は損傷を、本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる。これらには、自己免疫がベースであり、乏突起膠細胞又はミエリンに直接生じた損傷の結果、神経の脱ミエリン化をもたらすと考えられている中枢及び末梢の神経系の脱ミエリン化疾患が含まれる。このような脱ミエリン化疾患としては、例えば、ギラン−バレー症候群(GBS;炎症性脱ミエリン化多発性ニューロパシーとも称される、急性突発性多発神経根炎、急性突発性多発神経炎、フレンチポリオ及びランドリー上行性麻痺)が挙げられる。本発明の方法及び/又は薬剤は、GBSにおける急性期に引き続く軸索再生を促進するために適用されることが好ましい。同様に、GBSの慢性対応物と考えられる慢性炎症性脱ミエリン化多発性ニューロパシー(CIDP)を、本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる。
【0023】
多発性硬化症(MS)は、本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる別の脱ミエリン化疾患である。
【0024】
本発明の方法及び/又は薬剤によって治療できる、遺伝子要素を有するさらなる神経変性CNS及び/又はPNS障害としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS、時には、ルーゲーリック病(Lou Gehrig’s disease)と称される)、シャルコー−マリー−ツース病(遺伝性運動及び感覚ニューロパシー、HMSN)及びハンチントン病(HD)が挙げられる。
【0025】
補体系
補体系(McAleer及びSim、1993年;Reid及びLaw、1988年を参照)は、感染に対する宿主の防御に関する。この系が活性化すると、反応及び相互作用の触媒的セットが生じ、破壊のために活性化している細胞、生物又は粒子の標的化をもたらす。補体系は、調節されたカスケード系において共に作用し病原体(例えば細菌)の細胞外形態を攻撃する30種以上の血漿タンパク質及び膜タンパク質のセットを含む。補体系は、2つの異なる酵素活性化カスケードである古典的経路及び代替経路を含み、これらは、膜攻撃経路として知られている共通の末端非酵素的経路に集束する。
【0026】
古典的経路として知られている第1の酵素活性化カスケードは、数種の成分、C1、C4、C2、C3及びC5(経路における順序で挙げてある)を含む。補体系の古典的経路の開始は、免疫的及び非免疫的活性化因子の両方による第1の補体成分(C1)の結合及び活性化に引き続いてなされる。C1は、C1q、C1r及びC1sのカルシウム依存性の複合体を含み、C1q成分の結合によって活性化される。C1qは6つの同一のサブユニットを含有し、各サブユニットは、3つの鎖(A鎖、B鎖及びC鎖)を含む。各鎖は、コラーゲン様尾部に連結している球状の頭部領域を有する。抗原−抗体複合体によるC1qの結合及び活性化は、C1qの頭部群領域を介して生じる。タンパク質、脂質及び核酸などの多数の非抗体C1q活性化因子が、コラーゲン様幹部領域上の明確な部位を介してC1qに結合してこれを活性化する。次いで、C1qrs複合体が補体成分のC4及びC2の活性化を触媒し、C4b2a複合体を形成し、これがC3コンバターゼとして働く。
【0027】
代替経路として知られる第2の酵素活性化カスケードは、補体系の活性化及び増幅のための迅速な抗体依存性経路である。この代替経路は、数種の成分、C3、B因子、及びD因子(経路における順序で挙げてある)を含む。代替経路の活性化は、C3のタンパク質分解開裂形態であるC3bが細菌などの表面活性化物質に結合した際に生じる。次いでB因子がC3bに結合し、D因子により開裂して、活性酵素、Baを生じる。次いで酵素Baは、より多くのC3を開裂してより多くのC3bを生じさせ、活性化表面上にC3b−Ba複合体の広範な沈着が生じる。
【0028】
このように、古典的補体経路と代替補体経路は両方とも、C3因子をC3a及びC3bへと分割するC3コンバターゼを生じさせる。この時点で、両方のC3コンバターゼが、C5コンバターゼへとさらに集合する(C4b2a3b及びC3b3bBb)。これらの複合体は引き続き、補体成分C5を、2つの成分:C5aポリペプチド(9kDa)とC5bポリペプチド(170kDa)に開裂する。C5aポリペプチドは、元はロイコサイトに関連しており、現在、肝細胞及びニューロンなどの種々の組織に発現することが知られている7膜貫通Gタンパク質結合受容体に結合する。C5a分子は、ヒト補体系の初期走化成分であり、ロイコサイト走性、平滑筋収縮、細胞内シグナル伝達経路の活性化、好中球−内皮接着、サイトカイン及び脂質伝達物質放出及びオキシダント形成などの種々の生体応答を引き起こし得る。
【0029】
大型のC5b断片は、補体カスケードの後期成分、C6、C7、C8及びC9に連続的に結合し、C5b−9膜攻撃複合体(「MAC」)を形成する。親油性のC5b−9 MACは、赤血球を直接溶解することができ、またより大量に白血球に対して溶解性であり、筋肉、上皮細胞及び内皮細胞などの組織に対し損傷性がある。溶解以下の量で、C5b−9 MACは、接着分子のアップレギュレーション、細胞内カルシウム増加及びサイトカイン放出を刺激し得る。また、溶解以下の濃度で、C5b−9 MACは、細胞溶解を引き起こさずに、内皮細胞及び血小板などの細胞を刺激し得る。C5a及びC5b−9 MACの非溶解性作用は同等であり、互換性がある。
【0030】
補体系は健康の維持に重要な役割を果たしているが、疾患を引き起こすか、又は疾患に寄与する可能性がある。
【0031】
補体系の阻害剤
本発明の方法及び/又は薬剤に使用される哺乳動物補体系の阻害剤は、アンタゴニスト、ポリペプチド、ペプチド、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、miRNA、リボゾーム、siRNA、又は小型分子であり得る。該阻害剤は、膜攻撃複合体の形成を阻害又は阻止することが好ましい。該阻害剤は、補体の古典的経路と代替経路の両方を介して補体系の活性化を阻止することが好ましい。好ましい阻害剤は、C3コンバターゼ及びMAC集合を阻止する阻害剤である。さらなる好ましい阻害剤は、C5、C6、C7、C8及びC9のうちの一種又は複数種を阻止する阻害剤である。したがって、以下の化合物が、本発明の方法及び/又は薬剤に使用できる。
【0032】
本発明に用いられる好ましい補体阻害剤は、補体調節剤、補体受容体又はそれらの誘導体である。これらには、C1阻害剤、CR1、DAF、MCP、及びCD59などの補体系の全ての天然調節剤が含まれる。さらに、共通構造単位(CSR)を含有する補体系の天然調節剤誘導体が含まれる。CR1、MCP、DAF、C4bp、fHは全て、短いコンセンサス反復(SCR)を含有する。SCRは、CR1のFアロタイプにおいて、直列に30回反復される60〜70のアミノ酸の構造モチーフであり;反復の数はアロタイプによって変動し得る。SCRのコンセンサス配列は、4つのシステイン、1つのグリシン及び1つのトリプトファンを含み、これは全てのSCR中で不変である。他の16の位置は保存され、同一のアミノ酸又は保存的置換が30のSCRの半分以上に見られる(Klicksteinら、1987年、1988年;Hourcadeら、1988年)。SCRを含有する補体調節剤は、少なくとも3、6、12、25又は30のSCRを含むことが好ましい。SCRを含有する補体調節剤は、補体受容体の可溶性受容体であることが好ましい。その好適な例としては、例えば、30のSCRを含有するsCR1(TP10)、sMCP、sDAF、及びDAF/MCPのハイブリッドであるCAB−2が挙げられる。これらの分子の修飾によって、膜に対する標的化が可能になる。
【0033】
可溶性CR1は補体活性化の好ましい阻害剤である。なぜならば、CR1のみが、両方の経路のC3コンバターゼを解離させる能力、及びI因子によるC3b及びC4bのタンパク質分解性不活化における補因子活性に関する能力を有し、C3bとC4bの両方に関する特異性を合わせ持っているからである。さらに、CR1のこれらの機能は、代替経路活性化機能によって制限されないことから、非免疫的刺激による活性化及び古典的経路と代替経路の両方の補体活性化の阻害に関して、該受容体は好適なものになる。可溶性CR1(sCR1)断片は、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを欠いたcDNAを用い、組換えDNA法によって調製されている(国際公開第89/09220号;国際公開第91/05047号)。本発明の方法及び/又は薬剤に用いられる好ましいsCR1分子は、1)ATCCに寄託され、帰属登録番号がCRL 10052である、プラスミドpBSCR1/pTCSgptを担持するチャイニーズハムスター卵巣細胞、DUX B11によって発現されるタンパク質の特徴を有する可溶性CR1タンパク質;又は2)可溶性補体受容体1TP10(Avant Immunotherapeutics社)である。
【0034】
本発明の方法及び/又は薬剤に用いられるさらなる補体調節剤は、C1阻害剤(C1INH)である。C1INHは、セリンプロテアーゼ阻害剤(セルピン類)ファミリーのメンバーであり、C1複合体のC1r及びC1sの両方の阻害形成物上の活性部位に結合する。血漿由来のC1INHの利点は、ヒトにおける血清中半減期が長いこと(70時間)である。代替として、遺伝子導入ヒトC1INHを使用し得る(国際公開第01/57079号)。
【0035】
本発明の方法及び/又は薬剤に用いられるさらに別の膜結合補体受容体は、Crry−Ig(Quiggら、1998年)である。Crryは、3つのコンバターゼレベルで減衰促進活性を有する膜補体阻害剤であり、補体の古典的経路と代替経路の両方を阻害する。Crryはまた、C3b及びC4bのI因子媒介開裂に関して、CR1の補因子活性と同等の補因子活性を有する。Crry−Igは、Crryと非補体活性化マウスIgG1相手のFcタンパク質との融合により、半減期を増加させた(40時間)組換え可溶性タンパク質である。全体的に、Crry−Igは強力な補体阻害剤である。
【0036】
補体成分に対する抗体又は抗体断片は、本発明の方法及び/又は薬剤に用いられるさらなる化合物のクラスである。原理的に、任意の補体因子に対する抗体が使用できる。しかし、好ましい抗体は、C3コンバターゼ及び/又はMAC集合を阻止する抗体である。さらに好ましい抗体は、C5、C6、C7、C8及びC9の1つ又は複数を阻止する抗体である。該抗体又はその断片は、モノクローナル抗体(MAb)であることが好ましい。補体成分に対するMAbは、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ法、又はそれらの組み合わせの使用など、当業界に知られている種々多様な技法を用いて調製することができる。例えば、当業界に知られており教示されているもの(すなわち、Harlowら、1998年;Hammerlingら、1981年)を含めたハイブリドーマ法を用いて、モノクローナル抗体を作製することができる。
【0037】
ヒトの治療では、抗補体MAbは、キメラ抗体、脱免疫抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体を用いることが好ましいと考えられる。このような抗体は、免疫原性を減少させ、したがって、ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答を避けることができる。抗体は、抗体依存性の細胞の細胞毒性を増大させず(Canfield及びMorrison、1991年)、補体媒介細胞溶解を増大させない(Xuら、1994年;Pulitoら、1996年)IgG4、IgG2、又は他の遺伝子変異したIgG又はIgMであることが好ましい。キメラ抗体は、当業界によく知られた組換え法によって作製され、動物の可変領域及びヒトの定常領域を有する。ヒト化抗体は、キメラ抗体よりもヒトペプチド配列を高程度に有する。ヒト化抗体においては、抗原結合及び特異性を担っている相補性決定領域(CDR)のみが動物由来であり、動物抗体に対応するアミノ酸配列を有しており、該分子の残りのほぼ全ての部分(いくつかの場合、可変領域内フレームワーク領域の狭い部分を除いて)は、ヒト由来であり、アミノ酸配列においてヒト抗体に対応する。Riechmannら、1988年;Winter、米国特許第5,225,539号;Queenら、米国特許第5,530,101号を参照されたい。脱免疫抗体は、国際公開第9852976号に記載されているように、T細胞及びB細胞のエピトープが除去されている抗体である。脱免疫抗体はインビボで適用された場合、免疫原性を減少させる。
【0038】
ヒト免疫グロブリン発現ライブラリー(Stratagene社、ラジョーラ、カリフォルニア州)を用いてヒト抗体の断片(VH、VL、Fv、Fd、Fab又は(Fab’)2を作製し、これらの断片を用いて、キメラ抗体の作製のための技法と同様な技法を用いて、ヒト抗体全体を構築するなど、数種の方法によって、ヒト抗体を作製することができる。ヒト抗体はまた、ヒト免疫グロブリンゲノムにより、遺伝子導入マウスにおいて作製することもできる。このようなマウスは、Abgenix社、フレモント、カリフォルニア州、及びMedarex社、アナンデール、ニュージャージー州から入手できる。
【0039】
また、重鎖と軽鎖のFv領域を連結したペプチド一本鎖結合分子を作出することもできる。一本鎖抗体(「ScFv」)及びそれらの構築方法は、米国特許第4,946,778号に記載されている。或いは、Fabを、同様な手段によって構築し発現させることができる(Evansら、1995年)。
【0040】
本発明の文脈において使用できる別のクラスの抗体は、重鎖抗体及びそれらの誘導体である。例えば、ラクダ科に天然に見出されるこのような一本鎖重鎖抗体及びそれらの単離された可変ドメインは一般に、「VHHドメイン」又は「ナノ体」と称される。重鎖抗体及び可変ドメインを得るための方法は、とりわけ以下の参考文献に提供されている:国際公開第94/04678号、国際公開第95/04079号、国際公開第96/34103号、国際公開第94/25591号、国際公開第99/37681号、国際公開第00/40968号、国際公開第00/43507号、国際公開第00/65057号、国際公開第01/40310号、国際公開第01/44301号、欧州特許第1134231号、国際公開第02/48193号、国際公開第97/49805号、国際公開第01/21817号、国際公開第03/035694号、国際公開第03/054016号、国際公開第03/055527号、国際公開第03/050531号、国際公開第01/90190号、国際公開第03/025020号、国際公開第04/041867号、国際公開第04/041862号、国際公開第04/041865号、国際公開第04/041863号、国際公開第04/062551号。
【0041】
ヒト抗体全体及び部分的ヒト抗体の全ては、マウスMAbs全体よりも免疫原性が小さく、該断片及び一本鎖抗体もまた免疫原性が小さい。したがって、これらのタイプの抗体は全て、免疫応答又はアレルギー性応答を引き起こしにくい。その結果、それらは、動物抗体全体よりも、ヒトにおけるインビボ投与により適しており、特に、反復投与又は長期投与が必要な場合はそうである。また、より小さなサイズの抗体断片は、腫瘍の治療などの急性疾患適用におけるより良好な用量蓄積に関して重要であり得る組織生体利用率の改善の助けになり得る。
【0042】
好適な抗補体抗体、例えば、米国特許第6,355,245号に記載されているような、HB−11625(N19−8)のATCC記号を有するハイブリドーマ5G1.1によって産生される抗C5 MAb;Quidel、サンディエゴ、カリフォルニア州からの抗C3aR MAb[カタログ番号 A203];Kacaniら(2001年)に記載されているような抗ヒトC3aR抗体であるhC3aRZ1及びhC3aRz2;オランダ国のHycult Biotechnology BVからのマウス抗ヒトC5a抗体[クローン、557、2942及び2952];Fungら(2003年)に記載されているような、Tanox社からの抗ヒトC5a抗体[137−26];米国特許第5,480,974号に開示されているC5a抗体;Oppermannら(1993年)に記載されているような抗EX1ヒトC5aR MAbS5/1;Kacaniら(2001年)に記載されているような抗C5aR MAbS5/1;及び米国特許第5,177,190号に記載されているような抗C5a MAbをすでに入手することができる。
【0043】
本発明の方法及び/又は薬剤に使用できるさらなる化合物は、コブラ毒因子(CVF)又はB因子の結合及び天然の液相調節剤に抵抗性であるC3コンバターゼ活性の形成によるC3枯渇の誘導体である。好ましいCVF誘導体は、例えば、損傷部位に標的化できる誘導体である。
【0044】
他の有用な化合物としては、ヘパリン、N−アセチル化ヘパリン及びスラミンなどのポリアニオン性阻害剤が挙げられる。ヘパリンは、C1に結合することによってCを阻害し、C3コンバターゼ及びMAC集合を遮断する。N−アセチル化ヘパリンは、減少した抗凝集活性を有する。
【0045】
さらに、補体を阻害する種々の合成及び/又は天然の小型分子を、本発明の方法及び/又は薬剤に用いることができる。例えば、C5を阻害する天然阻害剤K−76COOH(スタキボトリス(Stachybotrys)補体由来)、及びC3に結合してこれを阻害し、それによってコンバターゼ形成を防ぐローズマリー由来のロズマリン酸、例えば、C1r、C1s、D因子及びC3/C5コンバターゼに結合するナファモスタットメシレート(FUT−175)、例えば、C1s−INH−248及びBCX−1470(安全性に関してヒトにおいて試験済み)などのC1補体阻害剤、セルピン類のカルボキシ末端部分を含有する誘導体などの補体結合天然分子の一部を含有する分子又はそれらの誘導体などのペプチド阻害剤、コンプスタチン(compstatin)(C3に結合する13a.a.の環状分子)、及びC5受容体アゴニストであるPMX53及びPMX205、などの合成プロテアーゼ阻害剤がある。
【0046】
アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、miRNA、リボザイム、siRNAなど、補体の核酸阻害剤を作製する方法は、当業者自体に知られている。このような核酸阻害剤は、例えば、アルキル及びメトキシエチル置換基を含む2’−O置換リボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)及びモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチド並びにエチレン架橋ヌクレオチド(ENA)などの一種又は複数種の修飾ヌクレオチド並びにそれらの組み合わせを含むことが好ましい。
【0047】
本発明の上記方法において、該化合物は、任意の簡便な経路、例えば、注入又はボーラス注射によって投与することができる。種々の送達系が知られており、該阻害化合物の送達に使用することができる。これらには、リポソーム、ミクロ粒子、又はミクロカプセル中へのカプセル化が含まれる。本発明の方法において、経口及び/又は経粘膜経路(経鼻、吸入、経直腸)による該化合物の投与を除外しないが、通常、補体阻害剤は、例えば、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、及び皮下の経路など、非経口的に投与される。該化合物は、全身的に投与してもよいし、例えば、注射及び/又は任意の神経外科的に好適な技法を用いて、疾患又は損傷の部位に、又はその近辺に、局部的、局所的、又は領域的に投与してもよい。
【0048】
本発明はさらに、活性成分として上記に定義した補体阻害剤を含む製薬製剤に関する。該組成物は、該活性成分に加えて、少なくとも薬学的に許容できる担体を含むことが好ましい。該製薬担体は、患者に該阻害剤を送達するのに好適な任意の適合性の非毒性物質であり得る。滅菌水、アルコール、脂肪、ワックス、及び不活性固体が担体として使用できる。薬学的に許容できるアジュバント、緩衝剤、分散剤なども該製薬組成物中に組み込むことができる。
【0049】
経口投与には、該阻害剤は、カプセル剤、錠剤、及び散剤などの固体剤形、エリキシル剤、シロップ剤、及び懸濁剤などの液体剤形で投与することができる。活性成分は、不活性成分、並びにグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、澱粉、セルロース又はセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウムなどの粉末担体と共に、ゼラチンカプセル内にカプセル化することができる。錠剤とカプセル剤は両方とも、数時間にわたって薬剤の連続的放出を提供するために、除放製品として製造することができる。圧縮錠剤は、不快な味を遮蔽し、大気から錠剤を保護するために糖コーティング又はフィルムコーティングできるか、又は胃腸管内での選択的崩壊のために腸溶コーティングできる。経口投与用の液体剤形は、患者受容性を高めるために、着色剤及び香料を含有できる。
【0050】
しかし、該阻害剤は、非経口的に投与することが好ましい。非経口用製剤に好適な担体としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、及び水が挙げられる。非経口投与用組成物は一般に、滅菌等張性水性緩衝液における溶液である。滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前、又は後に、滅菌ろ過膜を通すろ過によって容易に達成される。一般的な静脈内注射用組成物は、0.9%の滅菌NaClの10〜50ml又は20%のアルブミン溶液を任意に添加した5%のグルコース及び適切な量(1〜1000μg)の阻害剤を含有するように構成できる。一般的な筋内注射用製薬組成物は、例えば、1〜10mlの滅菌緩衝水及び1〜1000μgの該阻害剤を含有するように構成される。非経口投与用組成物を調製するための方法は、当業界によく知られており、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(第15版、Mack Publishing、イーストン、ペンシルベニア州、1980年)(全ての目的のために、参照としてその全体が援用されている)などの種々の提供源により詳細に記載されている。必要な場合は、該組成物は、可溶化剤、及び注射部位の痛みを緩和するために、リドカインなどの局所麻酔剤を含むこともできる。一般に該成分は、活性剤の量を活性単位において表示しているアンプル又はサッシェなどの気密密封容器内に含有された単位剤形において、別個に、又は一緒に混合して供給される。該組成物が注入により投与される場合は、滅菌した薬剤グレードの「注射用水」又は生理食塩水を含有する注入用ボトルによって小分けすることができる。該組成物が注射によって投与される場合、投与前に成分を混合できるように、注射用滅菌水又は生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0051】
該阻害剤がポリペプチド又は抗体である方法では、該阻害剤は、製薬組成物として、哺乳動物、昆虫又は微生物の細胞培養から、遺伝子導入哺乳動物の乳汁又は他の出所源から精製することができ、製薬担体と共に精製形態で投与することができる。ポリペプチドを含む製薬組成物を製造する方法は、米国特許第5,789,543号及び米国特許第6,207,718号に記載されている。好ましい形態は、意図された投与様式及び治療適用に依存する。製薬組成物中の本発明の該ポリペプチド又は抗体の濃度は広く変化し得る。すなわち、約0.1重量%未満、通常は少なくとも約1重量%から20重量%又はそれ以上まで変化し得る。
【0052】
本明細書及びその請求項において、動詞の「含む」及びその接合体は、その語に引き続く事項が含まれるが、明記されていない事項が除外されないことを意味する、非限定的な意味で用いられる。また、不定冠詞「a」又は「an」による要素の記述は、文脈においてその要素がただ1つあることを明白に必要としていない限り、1つ超の要素が存在している可能性を排除するものではない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】脛骨神経の再生に及ぼす補体C6欠損の影響を示す図である。野生型及びC6欠損PVGラットにおいて、右坐骨神経を30秒間圧潰した。損傷の1週間後及び5週間後に、脛骨神経を分析した。対照画像:PVGラットの左脛骨神経。
【図2】C6欠損により、食作用性細胞の流入/活性化の遅延に至ることを示す図である。損傷後0、24、48及び72時間後に、WT(野生型)、C6−/−(C6欠損)及びC6+(C6を補足したC6欠損ラット)ラットからの坐骨神経の非連続切片におけるED1(CD68)免疫反応性(−ir)細胞をカウントした。星印(*)によって示される統計的な有意性はp<0.05を意味する。
【図3】再生に及ぼすC6再構成の影響、再生中のミエリン化軸索の分析、損傷の5週間後におけるラット脛骨神経近位部位の準薄切片についての光学顕微鏡を示す図である。左から右へ:非圧潰神経;野生型神経(WT);C6欠損神経(C6−/−);及びC6で再構成したC6欠損神経(C6+)。
【図4】機能回復に及ぼすC6再構成の影響、0.1mAから0.5mAの範囲の電流でフットフリック装置によって測定した感覚機能の回復を示す図である。値は、対照レベルに対して正規化されている。矢印(→)は、圧潰損傷を実施した時を示す。WT=野生型ラット;C6−/− =C6欠損ラット;及びC6+ =C6欠損ラットにおけるC6再構成。C6−/−とWT(*)又はC6+(†)との間の統計的有意性は、p<0.05でのものである。
【図5】組換えヒトC1阻害剤(rhC1INH)が、圧潰後の補体活性化を阻害することを示し、rhC1INH又は媒体(PBS)だけで処置した損傷野生型ラット坐骨神経のC1q、C4c及びC3cの免疫染色を示す図である。
【図6】外傷後の神経再生に及ぼす可溶性CR1の影響、0.1mAから0.5mAの範囲の電流でフットフリック装置によって測定した感覚機能の回復を示す図である。値は、対照レベルに対して正規化されている。矢印(→)は、圧潰損傷を実施した時を示す。PBS=媒体だけによる対照;sCR1=可溶性CR1。
【図7】神経圧潰後のマクロファージの活性化が、補体カスケードの下流要素の活性化に依存していることを示す図である。CD68陽性細胞は、ED1抗体による免疫染色によって判定した。野生型(WT)動物及び媒体(PBS)処置動物においては、神経圧潰の72時間後、損傷坐骨神経の遠位部分におけるCD68陽性細胞の数が増加した。sCR1による処置によって、この活性化は、C6欠損ラット(C6−)に見られるのと同様なレベルまで抑止された。C6欠損ラットにおけるC6再構成(C6+)により、活性化におけるこの抑止からのほぼ完全な回復がもたらされた。
【図8】機能の回復を示す図である。(a)野生型ラット(n=8)、C6−/−ラット(n=8)及びC6+ラット(n=8)において、損傷後5週間にわたる運動機能の回復を示す、坐骨神経圧潰損傷後(時間=0)の坐骨機能指数(SFI)及びフットプリントを示す図である。対照レベルは0近辺であり、一方、−140近辺の値は、機能の完全な損失を示している(1週)。星印(*)は、ボンフェローニ補正をした二元配置分散分析検定によって判定した、p≦0.05での、ラットの野生型群とC6−/−群との間の有意差を意味し、一方、十字印(†)は、ラットのC6−/−群とC6+群との間の有意差を意味する。野生型及びC6+のフットプリントに比較して、C6−/−フットプリント(4週)におけるより幅広い足指の拡がりによって、筋肉の強度増加が示される。(b)野生型ラット(n=8)、C6−/−ラット(n=8)及びC6+ラット(n=8)における坐骨神経圧潰損傷(時間=0)後のフットフリック分析であり、損傷後5週間にわたる感覚機能の回復を示している。値は、対照レベル(100%の機能)のパーセンテージとして表されている。星印(*)は、ボンフェローニ補正をした二元配置分散分析検定によって判定した、p≦0.05での、ラットの野生型群とC6−/−群との間の有意差を意味し、一方、十字印(†)は、ラットのC6−/−群とC6+群との間の有意差を意味する。
【図9】C阻害ラットの感覚機能の回復を示す図である。野生型PBS処置ラット(n=6)及びsCR1処置ラット(n=6)における坐骨神経圧潰損傷(時間=0)後のフットフリック分析により、損傷後5週間にわたる感覚機能の回復が示されている。値は、対照レベル(100%の機能)のパーセンテージとして表されている。星印(*)は、ボンフェローニ補正した二元配置分散分析検定によって判定した、p≦0.05を意味している。
【図10】病態を示す図であり、非損傷ラット(n=6)、圧潰損傷の5週間後での野生型ラット(n=5)、C6−/−ラット(n=5)、sCR1処置ラット(n=6)からの脛骨神経の遠位端の断面のチオニン染色及び電子顕微鏡を示す図である。野生型神経において小径の薄くミエリン化した軸索の再生クラスターが存在し(矢印→)、一方、非損傷対照と同様に、C6−/−処置神経及びsCR1処置神経に存在する単一の大径の軸索に注意されたい。バーは、50μm(光学顕微鏡、左枠)及び10μm(電子顕微鏡、右枠)。
【図11a】補体活性化のsCR1阻害を示す図であり、毎日の処置による経時的sCR1の濃度を示しているsCR1処置ラットの血漿中sCR1濃度を示す図である。0日目は、圧潰損傷の日である。ラットは、−1、0、1、2、3、4、5及び6日目に、sCR1(15mg/kg/日)又はPBS(等量)の腹腔内注射を受けた。各処置の直前に採血した。データは、平均値±SDを表す。統計的有意性は、ボンフェローニ補正をした二元配置分散分析検定によって判定した(*は、p≦0.001)。
【図11b】補体活性化のsCR1阻害を示す図であり、PBS処置対照に比較して、sCR1処置ラットにおける活性の低下を示しているPBS処置ラット及びsCR1処置ラットの血漿溶血活性を示す図である。0日目は、圧潰損傷の日である。ラットは、−1、0、1、2、3、4、5及び6日目に、sCR1(15mg/kg/日)又はPBS(等量)の腹腔内注射を受けた。各処置の直前に採血した。データは、平均値±SDを表す。統計的有意性は、ボンフェローニ補正した二元配置分散分析検定によって判定した(*は、p≦0.001)。
【図12】補体活性化のsCR1阻害を示す図であり、評価された全面積のパーセンテージとして表されたMAC免疫反応性の定量化を示す図である。データは、平均値±SDを表す。統計的有意性は、ボンフェローニ補正した二元配置分散分析によって判定される(*は、p≦0.001)。
【図13】マクロファージの分析を示す図であり、坐骨神経の非連続切片におけるCD68−ir細胞の定量化により、非損傷神経に比較して、PBS処置神経における多数の細胞、及びsCR1処置神経におけるわずかな増加が示されている図である。データは、平均値±SDを表す。統計的有意性は、ボンフェローニ補正した二元配置分散分析によって判定される。
【図14】マクロファージの分析を示す図であり、損傷3日後における非損傷神経(a)、PBS処置神経(b)及びsCR1処置神経(c)からのCD68−ir細胞坐骨神経のサイズ分布を示す図である。CD68−ir細胞のサイズ分布のピークが、非損傷神経及びsCR1処置神経における0〜40μm2のサイズからPBS処置神経における40〜120μm2のサイズへシフトしていることに注意されたい。
【図15】代替経路活性化の分析を示す図である。(a)損傷2日後におけるラットの坐骨神経のウェスタンブロット分析であり、非損傷対照に比較して、損傷神経における開裂fBbタンパク質の量がより多いことを示している。(b)fBb免疫反応性バンドの相対的定量化を示す図である。非損傷対照におけるfBb免疫反応性を、1.0倍の相対的発現として規定する。値は総タンパク質に対して正規化され、3つのブロットの平均値±SDとして表される。統計的有意性は、独立t検定によって判定される。
【実施例】
【0054】
(実施例1):野生型ラットに比較して、補体成分C6欠損ラットにおける外傷後の神経回復の改善
1.1 電子顕微鏡分析
本発明者らは、急性及び慢性の神経損傷並びに再生中における補体系の役割を探索した。モデルとして、補体C6欠損PVGラット株(Bhole及びStahl、2004年)を用い、これを野生型PVGラットと比較した。補体系は多くの機能を有しているので、補体カスケードの最も末端のエフェクターのみが欠損している動物モデルを選択した。
【0055】
神経圧潰の急性モデル(Glass、2004年)において、神経再生に及ぼす補体阻害剤の効果を試験した。野生型並びにC6欠損PVGラットにおいて、右坐骨神経を30秒間圧潰した。次いで、損傷の1週間後及び5週間後、脛骨神経を分析した(図1を参照)。
【0056】
1週目、電子顕微鏡は、野生型及びC6欠損ラットにおいて、等しく重篤な変性を示す。5週目、C6欠損ラットは、すでにミエリン化軸索を示すが、野生型ラットは、初期回復を示す。C6欠損ラットにおいて、最もミエリン化した軸索は、シュワン細胞と通常の1対1の比を示す(PVGラットの左脛骨神経の対照画像と比較されたい)。対照的に、野生型ラットでは、各々の再生クラスターにいくつかのミエリン化線維がある。
【0057】
本発明者らは、外傷後の神経回復に及ぼすC6欠損の2つの効果を見出した:
1)ウォラー変性中のミエリンのクリアランスは、C6欠損ラットにおいて遅延した。野生型ラットは、すでに24時間後にWD(ミエリン変性、マクロファージ活性化)の徴候を示した。C6欠損ラットにおいて、この過程は遅延した。わずか72時間後に、ミエリン変性が認識でき、マクロファージ活性化は生じなかった。1週間後、両方の型のラットが重篤な神経変性を示した。
2)しかし予想外なことに、外傷後の神経回復は、野生型ラットに比較して、補体成分C6欠損ラットにおいてはるかに良好であった。単一軸索の再ミエリン化は、C6欠損ラットにおいてはるかに速やかに生じ、小型軸索のクラスターではなく、単一の大直径の軸索の出芽が生じたため、出芽過程はより効率的であった。図1を参照されたい。
【0058】
1.2 C6欠損は、食細胞の流入/活性化の遅延を導く
ミエリンクリアランスにおけるマクロファージの重要な役割を考慮して、本発明者らは次に、圧潰後のマクロファージの数及び活性化状態を分析した。
【0059】
外傷後、0時間目、24時間目、48時間目及び72時間目に、野生型ラット、C6欠損ラット、及びC6を補足したC6欠損ラットそれぞれから採取した圧潰坐骨神経の非連続的切片において、ED1(CD68)免疫反応性(−ir)細胞をカウントした。
【0060】
野生型ラットとC6欠損ラットの両方において、CD68(ED1抗体)陽性細胞が圧潰神経に蓄積した。しかしC6欠損ラットは、CD68陽性細胞の出現遅延を示した(図2、実線と点線とを比較)。C6補足では、CD68細胞の蓄積が回復した(72時間の時点を参照)。C6欠損ラットにおいて、免疫組織化学CR3(ED7抗体)染色によってアッセイすると、マクロファージの活性化は無かった(示していない)。
【0061】
これらのラットのリンパ節がCR3陽性細胞を含有しているため、C6欠損ラットが、マクロファージ活性化それ自体を欠失しているということを排除することができた。また、C6再構成の際、CD68陽性細胞の蓄積及びマクロファージ上のCR3発現は回復し、引き続き、ミエリン変性が生じた。これは、C6の下流の補体経路における段階、すなわち、WDへの膜攻撃複合体(MAC)形成に直接関連する。
【0062】
7日後、C6欠損細胞及び野生型細胞に、等しい数のCD68陽性細胞が見られた。これらの細胞は、C6欠損ラットにおいて、ED7(CR3)を示さず、マクロファージは活性化されていない可能性が高い(データは示していない)。
【0063】
1.3 C6欠損及び再構成の神経病理学的アッセイ及び機能アッセイ
図3は、再生中のミエリン化軸索の光学顕微鏡分析を示す。野生型ラット、C6欠損ラット及びC6で再構成したC6欠損ラットの損傷5週間後、ラット脛骨神経の近位の準薄切片を分析した。少数の薄くミエリン化した軸索が野生型(WT)に存在し、一方、多数の厚くミエリン化した軸索がC6欠損(C6−/−)神経に存在する。C6で再構成したラット(C6+)からの神経は、C6欠損神経よりも少数のミエリン化軸索を示す。
【0064】
図4は、該神経の機能回復に及ぼすC6再構成の効果を示す。感覚機能の回復を、0.1mAから0.5mAの範囲の電流で、フットフリック装置によって測定した。値は対照レベルに対して正規化した。矢印(→)は、圧潰損傷が実施された時点を示す。野生型ラットは、完全に回復するまでに4週間かかるが、C6欠損ラットは、圧潰後3週間ですでに回復する。C6欠損ラットにおけるC6再構成は、圧潰後、野生型の(緩徐な)再生表現型をもたらす。(C6−/−)とWT(*)又はC6+(†)との間の統計的有意性は、p<0.05でのものである。
【0065】
神経病理学的アッセイ及び機能アッセイにおける精製ヒトC6によるC6欠損ラットの再構成が野生型表現型を回復させること(図3及び図4)から、圧潰後のPNSの再生に及ぼす観察された効果はC6欠損によるものであると本発明者らは結論づける。
【0066】
(実施例2):ヒトC1阻害剤による神経圧潰後の補体活性化の阻害
組換えヒトC1阻害剤(rhC1INH;Pharming、ライデン、オランダ国から入手)が、神経圧潰後の急速な(1時間)補体活性化を阻害できるかどうかを試験した。図5は、神経圧潰後1時間目にrhC1INH又は媒体(PBS)単独で処置した損傷野生型ラット坐骨神経のC1q、C4c及びC3c免疫染色を示す。全ての圧潰神経に、C1qに対する高免疫反応性が存在し、圧潰損傷後のC1qアップレギュレーションが確認される。C4c及びC3cの免疫反応性は、予想どおりPBS処置神経において検出されたが、損傷1時間後に殺処置したrhC1INH処置ラットからの神経には、C4c及びC3cの免疫反応性は検出されなかった。このことは、圧潰後のrhC1INHによる補体カスケードの効果的な阻止を実証しており、補体活性化の代替経路はウォラー変性の圧潰損傷モデルに関与していないことを示唆している。したがって、神経圧潰後の補体カスケードの活性化は、古典的経路を介して生じる。しかし、1つ注意すべきことがある:ラットにおけるrhC1INHの短い半減期のため、本発明者らがモニターできたのは、圧潰後1時間のC3及びC4の開裂のみであった。したがって、それより後の時点で代替経路による活性化が生じることを除外することはできない。
【0067】
(実施例3):外傷後神経の再生に及ぼす可溶性CR1の効果
次に本発明者らは、外傷後神経の再生に及ぼす可溶性CR1(sCR1)の効果を試験した。sCR1は、C3/C5コンバターゼを阻害し、それによって、補体系の古典的経路と代替経路の両方に影響を及ぼす。
【0068】
野生型PVGラットを、15mg/kg/日の用量で、可溶性CR1(Avant Immunotherapeutics社からのTP10)によって処置した(TP10可溶性CR1は、P.Morgan教授、カーディフ、英国から得た)。対照ラットは、同容量(600μl)の媒体単独(PBS)によって処置した。可用性CR1又はPBSを、腹腔内に、圧潰の24時間前、引き続き毎日、最高8回の注射(圧潰後6日目まで)で送達した。右足の坐骨神経を圧潰し、左足を対照として用いた。組織学及び感覚機能の両方を分析した。
【0069】
図6は、フットフリック試験による機能分析において、PBS処置ラットに比較してsCR1処置ラットでは、より速やかな感覚機能の回復が見られることを示している。フットフリック試験は、上記の実施例1.3のとおりに実施された。
【0070】
圧潰72時間後の神経の組織学的分析により、sCR1が、マクロファージの流入及び活性化を強力に阻害したことが示されている(図7を参照)。sCR1処置により、C6の欠損に比較して、CD68陽性により測定されたマクロファージ活性の阻害と同様なレベルがもたらされた。
【0071】
(実施例4):末梢神経損傷モデルにおいて、補体活性化の阻害は軸索の再生及び回復を促進する
4.1 方法
4.1.1 動物
本試験は、学術医療センター動物倫理委員会(Academic Medical Center Animal Ethics Committee)により承認され、実験動物の管理に関する指針に従っている。12週齢のオスPVG/c(野生型)は、Harlan(英国)から入手し、PVG/c−(C6−/−)ラットは、本発明者らの施設で飼育した。ラットの体重は、200gと250gとの間であり、試験開始の前、少なくとも2週間順化させた。ラットは、実験の全過程を通して、同じ動物施設で飼育し、FELASAの推奨事項に従って微生物学的状態をモニターした。ラットはプラスチックケージ内に対にして入れた。ラット用固形飼料と水を自由に与え、20℃の室温で、12時間:12時間の明:暗サイクルで飼育した。
【0072】
4.1.2 PVG/c−(C6−/−)ラットの遺伝子型決定
C6−/−ラットには、C6遺伝子に31の塩基対(bp)の欠失がある(Bhole及びStahl、2004年)。遺伝子型決定は、Ramagliaら(2007年)に従って実施した。
【0073】
4.1.3 再構成試験用にヒトC6の投与
C6はヒト血清から精製した(Meadら、2002年)。8匹のC6−/−ラットに、圧潰損傷の1日前(−1日目)及びそれ以降1週間毎日(0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目)C6をPBS中4mg/kg/日の用量で静脈内投与した。8匹の野生型ラット及び8匹のC6−/−ラットを、等容量の媒体(PBS)単独で処置した。精製ヒトC6で再構成したC6−/−ラットは、本文中、C6+として示される。
【0074】
4.1.4 阻害試験のためのsCR1投与
組換え可溶性補体受容体1(sCR1)は、以前記載された(Piddlesdenら、1994年)とおりに入手した。6匹のラットに、15mg/kg/日の用量でsCR1を腹腔内投与した。6匹のラットを等容量の媒体(PBS)単独によって処置した。この処置を、圧潰損傷の1日前(−1日目)及びそれ以降1週間毎日(0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目)行った。
【0075】
4.1.5 血液溶解アッセイ及びELISA
野生型PBS処置ラット、C6−/−PBS処置ラット、C6+及びsCR1処置ラットからの血液サンプルを、圧潰損傷の1日前(−1日目)及びそれ以降、損傷1週間後まで毎日(0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目)尾部静脈から採取した。サンプルは全て、各処置注射の直前に採取した。血漿を分離し、標準的な補体溶血アッセイ(Morgan、2000年)により、C6活性及びsCR1阻害効果をモニターするために使用するまで、−80℃で保存した。連続希釈を用い、以前記載されたELISAアッセイ(Mulliganら、1992年)を用いて、二重アッセイで、sCR1の血漿レベルを測定した。
【0076】
4.1.6 運動試験及び感覚試験
実験は全て、遺伝子型及び処置群に関して盲検化された同じ研究者によって行われた。運動試験と感覚試験は両方とも、損傷後5週間まで毎週、一日のうちの同じ時間に実施された。運動機能の回復は、標準化された歩行跡分析を用いて評価し、Hareら(1992年)による坐骨機能指数(SFI)を導き出した。簡単に述べると、ラットをプレキシグラスプラットホームをわたって歩行させ、その間のそれらの歩行パターンをプラットフォーム下のカメラによって記録した。ImageProの分析プログラム(Media Cybernatics、オランダ国)を用い、記録されたフットプリントから坐骨神経機能指数を算出した。プリント長(PL)、足指(第1から第5)の拡がり(TS)及び中間足指(第2から第4)の拡がり(IT)を、非損傷の正常な足から(NPL、NTS、NIT)、並びに損傷実験側の反対側の足から(EPL、ETS、EIT)記録した。SFIは、式:−38.3*[(EPL−NPL)/NPL]+109.5*[(ETS−NTS)/NTS]+13.3*[(EIT−NIT)/NIT]によって導いた。ラットによるプリントが生じなかった場合は、De Koningら(1986年)に従って、EPL=60mm、ETS=6mm及びEIT=6mmの標準値を用いた。感覚機能の回復は、De Koningら(1986年)によるフットフリック試験によって評価した。簡単に述べると、0.1〜0.5mAの変動電流によるショック源を用いた。記録は、損傷の1日前、及び損傷後5週間まで毎週行った。ラットを固定し、各ラット及び刺激に関して、ラットの足裏の同一箇所に2つの刺激電極を置いた。応答は、ラットが足を引込めた場合に正のスコアを付けた。引込みが生じた時の電流(mA)を記録した。値は、正常な機能のパーセンテージとして表される。
【0077】
4.1.7神経圧潰損傷
全ての外科的処置は、イソフルランの深い麻酔下(2.5%容量のイソフルラン、1L/分O2及び1L/分N2O)で無菌的に実施された。左大腿を剃り、大腿上部の切開術により坐骨神経を露出させた。平滑な湾曲鉗子を用いて坐骨ノッチの準位で10秒間で3回この神経を圧潰した。圧潰部位を、神経を狭窄しない縫合糸によりマークした。右側大腿において、坐骨神経を露出させたが侵害しない偽手術を実施した。縫合糸も設置した。次に筋肉及び皮膚をステッチで閉じた。右肢を対照として用いた。圧潰後、ラットを、1週間(野生型n=5;C6−/−n=5;C6+n=2)、3週間(野生型n=6;C6−/−n=6;C6+n=3)及び5週間(野生型n=5;C6−/−n=5;C6+n=3;野生型sCR1処置n=6;野生型PBS処置n=6)回復させた。
【0078】
4.1.8坐骨神経の組織学的検査
イソフルランの深い麻酔下、全てのラットにピパラジン−N−N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝液(pH7.6)中4%パラホルムアルデヒドを心臓内に灌流させた。左右の脛骨神経を各ラットから取り出し、0.1MのPIPES緩衝液(pH7.6)中、1%のグルタルアルデヒド、1%のパラホルムアルデヒド及び1%のデキストラン(分子量20,000)により後固定した。それらを、10mm長さの1つの近位セグメント及び1つの遠位セグメントに分けた。各セグメントを、エポキシ樹脂中に従来どおり加工処理した。0.5μmのセミシン樹脂切片をチオニンとアクリジンオレンジで染色し、デジタルカメラ(Leica DFC500、オランダ)に接続した光学顕微鏡(Leica DM5000B、オランダ)により画像を捕捉した。圧潰損傷後5週目に野生型及びC6−/−ラットからの脛骨神経の超薄切片を電子顕微鏡検査した。以前に記載されたとおり(King,1999年)、切片を酢酸ウラニルとクエン酸鉛とで対比させた。電子顕微鏡(FEO10、Philips、オランダ)に接続されたデジタルカメラにより画像を捕捉した。損傷5週後における軸索の再生クラスター数をセミシン樹脂切片上で測定した。各群の各ラット当り、全切片を評価した。g比は、ミエリン化軸索直径に対する非ミエリン化軸索直径の数値比率であり、神経切片全体にわたって算出した。大口径(>8μm)ミエリン化線維の頻度を神経切片全体にわたって算出した。
【0079】
4.1.9統計解析
ボンフェローニ補正による二元配置ANOVAを実施して、溶血アッセイ(p<0.001)、ELISAアッセイ(p<0.001)、SFI(p≦0.05)、フットフリック試験(p≦0.05)における統計的有意差を判定した。
【0080】
4.2結果及び考察
急性外傷後の神経再生に及ぼすC活性化の効果を試験するために、2つの相補的方法、すなわち第一にC6欠損(C6−/−)効果、並びにC活性化の阻害を調べることによりラットモデルにおける坐骨神経の圧潰損傷からの回復に及ぼすCの効果を判定した。
【0081】
本試験は、5週間にわたるスキームに従って設定した。時間0は圧潰損傷時である。各群のラットを、プラセボ(PBS)又は精製C6タンパク質若しくはsCR1により、損傷前日(−1日目)及び、その後、損傷後1週間後まで毎日処置した。損傷前日(−1日目)及び損傷後0日目、1日目、2日目、3日目、5日目、並びに7日目に各ラットから血液を採取して血清中補体溶血活性を測定した。坐骨神経機能指数(SFI)による運動機能の回復及びフットフリック試験による感覚機能の回復を判定するために、ベースライン値用に損傷前日及びその後、損傷の5週間後まで毎週機能分析を実施した。損傷部位から遠位の脛骨神経の病理学的分析を、損傷後1週目、3週目及び5週目に実施して神経再生を判定した。
【0082】
機能の回復及び組織学的検査に及ぼす効果の両方を測定した。C6欠損に関する対照として、精製C6タンパク質(4mg/kg/日;n=8)により血漿中溶血活性(CH50)を野生型レベルに回復した(>80%:p<0.001、二元配置ANOVA)C6−/−ラット(C6+)を再構成した(表1)。C活性化の阻害は、3つのC活性化経路の全てを阻害するヒト膜C調節因子CR1の組換え可溶性形態である可溶性C受容体1(sCR1)(15mg/kg/日;n=6)(Weismanら、1990年)による全身処置により達成された。この処置により、溶血C活性が処置の全経過にわたってPBS媒体処置の対照の約30%に減じた(n=6、p<0.001、二元配置ANOVA)(表1)。損傷3日後、血漿中のこのレベルのC阻害により、神経中の活性化Cの沈着が完全に抑止されることを本発明者らは見出した。
【0083】
運動機能の回復は、損傷後毎週、ラットの歩行パターンから算出された坐骨神経機能指数(SFI)(Hareら、1992年)を測定することによってモニターした。損傷後1週目では、損傷脚の足を使用して歩行した動物は無く、歩行プラットフォーム上にフットプリントを生じなかったことから、脚の筋肉の神経支配が完全に喪失されたことが示唆された。損傷後2週目から全試験を通して、C6−/−ラット(n=16)は、野生型動物よりも有意に高いSFIを生じた(n=16、p≦0.05、二元配置ANOVA)(図8a)。該プリント長及びつま先拡がりパラメータの増加により、より高いSFIが生じ、それぞれ、ふくらはぎ及び足の小筋肉の神経再支配を示している。精製C6タンパク質によるC6−/−ラットの再構成(C6+)により、損傷後4週目及び5週目においてSFIを野生型レベルに著しく減じた(n=8、p≦0.05、二元配置ANOVA)。これらのデータにより、C6欠損ラットでは、野生型と比較してより速い運動機能の回復が生じることを示している。感覚機能の回復は、フットフリック試験によりアッセイした。損傷後1週目において、足裏が0.5mAの電気ショックにより刺激された際に、足を引込めた動物はいなかったことから、感覚神経支配の完全喪失が示唆された。損傷後2週目から3週目において、C6−/−ラットは、野生型ラット(n=16)及びC6+ラット(n=8)と比較して、20〜50%の大きな感覚機能の回復を示した(p≦0.05、二元配置ANOVA)。この感覚機能は、損傷後4週目と5週目の群間では相違はなかった(図8b)。同様に、sCR1で処置された動物は、損傷後2週目と4週目との間のPBS処置ラット(n=6)よりも感覚機能のより速い回復を示した(10〜30%の増加、n=6;p≦0.05、二元配置ANOVA)(図9)。これらのデータにより、坐骨神経圧潰損傷後、C欠損及びC活性化阻害は両方とも足裏に対して感覚神経支配の回復を促進し、改善することが示されている。
【0084】
損傷神経の組織学的再生を追跡するために、異なる時点で脛骨神経を分析した。再生過程は、元々損傷を受けた軸索の出芽である軸索再生クラスターの発生によりマークされる。最初、軸索出芽は、単一シュワン細胞の細胞質内に滞留するが、後に放射状区分けにより分離される。シュワン細胞と軸索との間に1:1の関係が確立されると、ミエリン化前SCが開始され、軸索を被鞘してミエリン及び基底層管が形成される。この段階で、再生クラスターは、小口径で、隣接シュワン細胞内に薄くミエリン化された軸索の群として出現する(図10、矢印)。1つの軸索がその標的に到達すると、残りの軸索出芽が排除される一方、残存する軸索のサイズが増大する。損傷5週目における組織学的切片に対して、未処置の野生型及びPBS媒体処置の対照は、再生クラスターを欠いているC6−/−及びsCR1処置ラットと対照的に、小口径の薄くミエリン化された軸索の再生クラスターを示し、Cが阻害されるか、又は欠いている場合より迅速な回復が確認される(図10)。損傷後5週目において未処置の野生型処置対照(0.05±0.02;n=5)、C6+処置対照(0.06±0.01;n=3)及びPBS媒体処置対照(なし;n=6)と比較して、C6−/−処置動物(0.59±0.20%、n=5)及びsCR1処置動物(0.58±0.11%、n=6)において、大口径(>8μm)のミエリン化線維の頻度が増加したが、一方、低(<4μm)及び中間(4〜8μm)口径のミエリン化線維の頻度に相違は見られなかった。ミエリンの厚さは、ラット群の間で変わらなかった(0.69±0.01のg比、n=5、野生型;0.65±0.02、n=5、C6−/−;0.65±0.01、n=3、C6+;0.70±0.01、n=6、sCR1処置;0.66±0.003、n=6、PBS媒体処置)(データは示さない)。
【0085】
これらのデータをまとめると、C6の欠如、又はC活性化がsCR1により阻害される場合に、末梢神経損傷後の軸索再生及び機能の回復が増強されることが示されている。したがってMACを形成する能力は、神経回復の負の決定因子である。
【0086】
軸索圧潰損傷後の機能回復には、圧潰部位で損傷したシュワン細胞管に軸索が再進入することが必要である。遠位断端においては一旦、軸索は、損傷前にたどった経路を再探査し、先に神経支配されていたまさに同一の筋線維に特異的なシナプスを生じることが必要である。この作業において、軸索は、誘引的且つ反発的分子のきっかけにより誘導されるが(Tessier−Lavigne及びGoodman、1996年;Yu及びBargmann、2001年)、最近の証拠により、物理的因子もまた、重要な役割を果たしていることが示された(Nguyenら、2002年)。したがって、完全な神経内膜管を維持することは、成人末梢神経の再生に関して非常に重要となり得る。
【0087】
C活性化の遮断、特にMAC形成の遮断により、神経再生時の組織損傷が軽減され、軸索の誘導に必要な構造を奪回されると考えられ、より効率的な再生及び機能回復がもたらされる。ミエリン鞘の厚み増加の欠如下での機能の改善は、大口径線維数の増加により説明することができる。
【0088】
この10年間にわたる多くの証拠により、回復時のマクロファージの有益な役割の可能性が示されている(Kieferら、2001年)。損傷後の後期に、マクロファージは、炎症過程の消散に関与する抗炎症性サイトカイン類を分泌する。炎症が終結すると、マクロファージは、成長因子及び分化因子の分泌を介してシュワン細胞の増殖と生存、再ミエリン化及び回復に寄与する。損傷後早期に、C阻害によって、神経内膜マクロファージの浸潤が著しく減少する(C阻害の欠如下の25倍と比較して5倍の増加)を本発明者らは示した(Ramagliaら、2007年)。これは、常在性マクロファージ集団の増殖によるものであり、一方、血行性マクロファージからは殆ど寄与が無いと本発明者らは推定した。血行性マクロファージの有害効果は、神経内膜集団により行使できる有益な効果とは分離した可能性がある。
【0089】
本発明者らの知見は、Cカスケードの遮断、又はMACの選択的阻害が、外傷性損傷後、及びC依存神経損傷が報告されている末梢ニューロパシー並びに神経変性疾患における再生を促進する新規な治療的アプローチに対してドアを開くものである。
【表1】
野生型PBS処置ラット、C6−/−PBS処置ラット及び精製ヒトC6で再構成されたC6−/−ラット(C6+)並びにsCR1処置ラット。損傷(0日目)前日(−1日目)に処置を開始し、1週間まで毎日処置を繰り返した。血漿を、−1日目、2日目、4日目、7日目、処置直前に採取した。値は、1時点につき1群当り6匹から8匹までのラットの平均±S.D.である。統計的有意性(*)とは、ボンフェローニ補正による二元配置ANOVA検定によって判定されたp≦0.001のことである。n.d.は、未測定のことである。
【0090】
(実施例5)
5.1材料及び方法
5.1.1動物
本試験は、Acdemic Medical Center Animal Ethics Committeeにより承認され、実験動物の管理に関する指針に従っている。
【0091】
12週齢のオスPVG/cを、Harlan(英国)から入手した。動物の体重は、200gと250gとの間であり、試験開始前、少なくとも2週間順化させた。実験の全過程を通して、動物を同じ動物施設で飼育し、FELASAの推奨事項に従って微生物学的状態をモニターした。動物を、プラスチックケージ内に対にして入れた。ラット用固形飼料と水とを自由に与え、20℃の室温で12時間:12時間の明:暗のサイクルで飼育した。
【0092】
5.1.2阻害試験のためのsCR1又はCetorの投与
組換え可溶性補体受容体1(sCR1)を、以前に記載されたとおりに得た(Piddlesdenら、1994年)。補体C1阻害剤(Cetor)は、Sanquin(アムステルダム、オランダ)により恵与された。sCR1を、15mg/kg/日の用量で12匹のラットに腹腔内投与した。Cetorを、50U/ラット/日の用量で6匹のラットに静脈内投与した。12匹のラットを、等容量の媒体(PBS)単独で処置した。この治療薬を、圧潰損傷前日(−1日目)及び該神経を損傷後3日目に取り出すまで24時間ごと(0日目、1日目、2日目)に投与した。10匹のラットを、損傷後6日目まで(−1日目、0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目)sCR1(6匹)又はPBS(4匹)で処置し、処置の終了(7日目)の1日後に該神経を取り出した。
【0093】
5.1.3溶血アッセイ及びELISA
PBS処置ラットとsCR1処置ラットからの血液サンプルを、ラットを損傷後3日目に殺処理されるまで損傷前日(−1日目)及びそれ以降(0日目、1日目、2日目)に尾静脈から採血した。6日目まで処理した群で、追加の血液サンプルを損傷後3日目、5日目、7日目に採血した。全てのサンプルを、各処置注射直前に採血した。血漿を分離し、標準的な補体溶血アッセイによりsCR1阻害活性をモニターするために使用するまで−80℃で保存した(Morgan、2000年)。
【0094】
sCR1の血漿中レベルは、連続希釈を用い、以前に記載された(Mulliganら、1992年)とおりにELISAアッセイを用いて測定し、二重反復試験を行った。
【0095】
5.1.4神経圧潰損傷及び組織処理
全ての外科的処置は、イソフルランの深い麻酔下(2.5%容量のイソフルラン、1L/分O2及び1L/分N2O)で無菌的に実施された。左大腿を剃り、大腿上部の切開術により坐骨神経を露出させた。平滑な湾曲鉗子(7号)を用いて坐骨ノッチの準位で10秒間で3回この神経を圧潰した。圧潰部位を、神経を狭窄しない縫合糸によりマークした。右側大腿において、坐骨神経を露出させたが侵害しない偽手術を実施した。縫合糸も設置した。次に筋肉及び皮膚をステッチで閉じた。圧潰後、ラットを、3日間(PBS処置n=8;sCR1処置n=6;Cetor処置n=6)及び7日間(PBS処置n=4;sCR1−処置n=6)回復させた。
【0096】
全てのラットにピパラジン−N−N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝液(pH7.6)中4%パラホルムアルデヒドを心臓内灌流させた。左右の脛骨神経を各ラットから取り出し、5mm長さの1つのセグメントを、圧潰部位の遠位から採取した。免疫組織化学用に、各セグメントを従来どおりパラフィンワックス中に加工処理した。
【0097】
5.1.5免疫組織化学
パラフィンワックス切片を、3段階免疫ペルオキシダーゼ法を用いて染色した。インキュベーションは全て室温で(RT)で実施した。脱パラフィン及び再水和後、内因性ペルオキシダーゼ活性を、メタノール中1%のH2O2で20分間遮断した。全ての場合に、マイクロ波による抗原回復を用いた(10mMのTris/1mMのEDTA pH6.5中、800Wで3分間、次いで440Wで10分間)。非特異的結合部位を遮断するために、Tris緩衝生理食塩水(TBS)中10%の正常ヤギ血清(NGS)中で20分間、スライドをインキュベートした。1%のBSA中で希釈した適切な一次抗体(表2を参照)と共に90分間インキュベーションした後、1%のBSA中で1:200に希釈したDakoCytomation(Glostrup、DK)からのビオチン化ヤギ抗ウサギIgG又はヤギ抗マウスIgG中で30分間、及び西洋わさびペルオキシダーゼ標識ポリストレプトアビジン(ABC複合体、DAKO)中で30分間、切片をインキュベートした。ペルオキシダーゼ活性を可視化するために、スライドを、酢酸緩衝液(pH5)中0.05%の3−アミノ−9−エチルカルバゾールで5分間インキュベートし、次いでヘマトキシリンにより30秒の対比染色を行い、ゼラチンに乗せた。二次的複合体単独で免疫染色された切片を、実験ごとに陰性対照として含み、一方、ラットの脊髄及びリンパ節の切片は、陽性対照として用いた。
【0098】
光学顕微鏡(Olympus、BX41、オランダ)に取付けたデジタルカメラ(Olympus、DP12、オランダ)により画像を捕捉した。
【表2】
【0099】
5.1.6免疫組織化学の定量分析
分析は全て、Image Pro Plusバージョン5.02(Media Cybernatics、オランダ)により実施した。CD68(ED1クローン)−免疫反応細胞は、CD68陽性シグナルが核と関連した場合に陽性と評価した。ラット1匹当り30枚の坐骨神経の非連続切片を評価した。各切片に関して、全神経面積の>90%を含む3つの非重なり視野の平均をとった。MAC及びMBP免疫染色の定量化は、調べた1切片当り2つの非重なり視野上で40倍の倍率で実施した。ラット1匹当り10枚の切片を評価した。染色された表面積を、調べた全面積のパーセンテージとして表した。
【0100】
5.1.7タンパク質抽出及びウェスタンブロット解析
圧潰損傷後2日目に殺処理した2匹の無処置ラットからの凍結坐骨神経を、20mmol l−1のTris(pH7.4)、5mmol l−1の1,4−ジチオ−DL−トレイトール(DTT)及び0.4%のSDS並びに6%のグリセロール中、乳棒と乳鉢を用いて液体窒素中でホモジナイズした。このホモジネートを、10,000×g、2℃で10分間遠心分離した。上澄液フラクションを集め、タンパク質分析用に用いた。タンパク質濃度は、標品としてウシ血清アルブミン(BSA)を用い、DCタンパク質アッセイキット(Bio−Rad Laboratories、米国)により測定した。
【0101】
タンパク質抽出物(20μg/サンプル)を5分間沸騰させ、10%のSDS−PAGEにより分離し、4℃で一晩ニトロセルロース膜に移した。ブロッティング前にタンパク質の添加を確認するために、ニトロセルロース膜をPonseauレッドで30秒間染色した。該膜を、0.5%のツイーン20(TBST)及び5%の脱脂ドライミルクを含有する50mmol l−1のTrisHCl中、室温で1時間プレインキュベートした。5%の脱脂ドライミルクを含有するTBST中で希釈したポリクローナルヤギ抗因子Bb(fBb)(Quidel、サンディエゴ、カリフォルニア州)中で、ブロットを2時間インキュベートした。TBST中で洗浄後、5%の脱脂ドライミルクを含有するTBST中、1:2000に希釈したポリクローナルウサギ抗ヤギ西洋わさびペルオキシダーゼ複合化二次抗体中で、膜を1時間インキュベートした。TBST中で膜を30分間洗浄し、増強化学発光法(ECL、Amersham、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、米国)を用いて、免疫反応性バンドを検出した。免疫反応性バンドの定量化は、Advanced Image Data Analyzerソフトウェアバージョン3.4(Raytest、独国)を用いて実施した。
【0102】
5.1.7統計解析
ボンフェローニ修正による二元配置ANOVAを実施して統計的有意差(p≦0.001)を判定した。免疫ブロッティング定量化の統計解析は、不対t検定により判定された(p≦0.05)。
【0103】
5.2結果
5.2.1 sCR1は急性神経外傷後の補体活性化を遮断する
ウォラー変性(WD)に及ぼす全ての補体活性化経路の阻害効果を判定するために、本発明者らは、sCR1によりラットを処置した。処置は、坐骨神経の圧潰損傷前日に開始した。15mg/kg/日の用量のsCR1又は等容量の媒体のいずれかを毎日の腹腔内注射後、血漿中sCR1レベル及びCH50を測定した。sCR1レベルは、注射初日後に増加し、溶血性補体活性は、対照の約30%に減少した(図11)。
【0104】
sCR1処置ラットは、圧潰神経において補体活性化阻害を示した(図12)。sCR1処置神経は、殆どMAC沈着を示さなかったが(0.8±0.9%)、一方、MAC免疫反応性は、PBS処置ラットの神経で調べた全面積の31.4±7.8%にわたった。MAC免疫反応性は、非損傷の対照神経には検出できなかった。sCR1処置神経においては、C4c及びC3cの沈着も又防止されたが、一方、PBS処置神経において免疫反応性の高い量が検出された(示していない)。これらの結果により、sCR1は急性神経損傷後の補体活性化の有効な阻害剤であることが示されている。
【0105】
5.2.2 sCR1は、損傷後3日目に神経の軸索損失を防止する
WDに及ぼすsCR1媒介補体阻害効果を判定するために、損傷後3日目における軸索及びミエリンの形態学的変化を分析した。
【0106】
神経線維(SMI31)の染色により、PBS処置ラットの坐骨神経が、軸索膨潤並びに分解の徴候である薄い免疫反応性の軸索鞘によって区切られた空の拡大した軸索空間、及び該神経内のまばらな軸索デブリを有することが示された(データは示していない)。対照的に、sCR1処置ラットは、非損傷の対照神経と同様、依然として軸索の典型的な断続的外観を呈し、損傷後3日目に軸索破壊の奪回を示した。ミエリン(MBP)の免疫染色により、損傷後3日目にPBS処置ラットの神経内にミエリン破壊の徴候が明らかとなったが、一方、sCR1処置ラットの神経は、非損傷の対照神経と同様に典型的な輪状ミエリン染色を呈し、損傷後のこの時点でミエリン分解の奪回を示した(データは示していない)。これらの知見により、sCR1は、損傷後3日目に神経の軸索分解及びミエリン分解を防止することを示している。
【0107】
損傷後7日目におけるPBS及びsCR1処置ラットの両方の坐骨神経の分析により、両方のラット群における軸索破壊及びミエリン破壊が示され、圧潰損傷後のsCR1処置神経ではWDは遅延するが、防止されないことが示されている(データは示していない)。
【0108】
MBP染色の定量化により、圧潰神経において非損傷神経と比較して有意に低い免疫反応性が示された(21.7±3.5%)。MBP免疫反応性デブリ量は、PBS処置ラットとsCR1処置ラットとの神経間で異なった。PBS処置神経は、sCR1処置神経(7.6±1.0%)と比較して、有意に低いパーセンテージ(2.1±1.3%)のMBP免疫反応性面積を示した。このことは、ミエリンデブリのクリアランスが、sCR1処置神経において遅延することを示している。
【0109】
5.2.3 sCR1は、損傷後3日目にマクロファージの蓄積と活性化を防止する
補体活性化が、マクロファージの動員及び活性化を媒介するため、マクロファージの蓄積と形態学的変化をモニターした。マクロファージの代謝状態に関するマーカーとして、リソソームマーカーであるCD68抗体(ED1クローン)を用いた。少数のCD68免疫反応性細胞が、対照の非損傷神経に見られた(5.3±1.7個の細胞/mm2)。その数は、PBS処置ラットの神経では損傷後3日目に261.2±10.7個の細胞/mm2に増加したが、一方、sCR1処置ラットからの神経は、より緩やかな増加を示した(63.1±4.7個の細胞/mm2)(図13)。
【0110】
PBS処置ラットの神経は、損傷後3日目に大型で且つ非対称のCD68免疫反応性細胞(平均サイズ103.6±71.8μm2)を示したが、一方、sCR1処置ラットの神経では、非損傷の対照神経に見られるサイズ(平均サイズ18.8±6.6μm2)と同様のサイズと形状である小型で円形の細胞(平均サイズ22.8±14.1μm2)が検出された(データは示していない)。
【0111】
CD68免疫反応性細胞サイズの分布測定は、非損傷の神経においては11個の細胞、PBS処置神経においては778個の細胞及びsCR1処置神経においては294個の細胞に対して実施した。PBS処置神経における細胞サイズの分布は、約60μm2の大きい細胞集団で、20μm2から400μm2を超える範囲の細胞寸法でばらつきが高いことを示した。対照的にsCR1処置神経は、非損傷対照神経に見られた細胞サイズと同様、0μm2から40μm2の範囲の細胞寸法を示した(図14)。MBPとCD68の共存により、PBS処置神経ではミエリンを飲み込むマクロファージを示すが、一方、小型の休止マクロファージが、非損傷神経及びsCR1処置神経の形態学的に非損傷のミエリン鞘間に見ることができる(データは示していない)。これらの結果は、マクロファージがPBS処置神経においては活性化されるが、sCR1処置神経では活性化されないことを示している。
【0112】
5.2.4急性神経外傷後の代替経路の活性化
急性神経外傷後に、補体系の古典的な経路が活性化されることを本発明者らは見出した。坐骨神経の圧潰損傷によって代替経路も又起動するかどうかを判定するために、因子Bの開裂から生じる60kDタンパク質断片であるBbの発現レベルを測定した。非損傷のラット神経のタンパク質抽出物には、低レベルのBb免疫反応性が検出されたが、一方、圧潰損傷後2日目にほぼ2倍の増加(1.8±0.2)が見られた(図15A、B)。これらの結果は、急性神経外傷後に代替経路のループが起動し、より多くの開裂fBを生じさせることを示している。
【0113】
5.2.5 WDに及ぼすC1阻害剤の効果
代替経路が病状を引き起こすのに十分であるかどうかを判定するために、ラットをC1阻害剤(Cetor)で処置した。補体C1阻害剤、Cetorによる古典的経路、及びレクチン経路の阻害により、種々の補体経路の寄与を判定することが可能になると考えられた。Cetorの投与量は、de Smetらの研究から外挿した。古典的経路(C4c)の活性化産物に関するCetor処置圧潰神経の免疫染色は陰性であり、したがって古典的経路の阻害が示唆された。
【0114】
低量のMAC免疫反応性(調べた全面積の7.3±2.7%)が、損傷後3日目にCetor処置動物の神経に見られ、その染色は、主としていくつかの線維の軸索区画に局在化した(データは示していない)。神経細線維(SMI31クローン)染色により、正常な断続軸索免疫反応性を有する線維、及び非定形輪状の免疫反応性の輪郭のある拡大軸索空間を有する線維が示された。このことは、神経細線維の破壊と一致する、リン酸化神経細線維エピトープの異常分布を示している(データは示していない)。これらの知見は、MAC沈着と軸索損失との間の密接な関連を示唆している。ミエリン(MBP)の染色により、正常な輪状ミエリン形態が示され(データは示していない)、CD68の染色により、sCR1処置神経に見られた細胞数と同様の細胞数(59.8±28.3個の細胞/mm2)が明らかとなった。さらに218個の細胞に対して測定されたCD68免疫反応性細胞の平均サイズ(19.1±10.5μm2)及びサイズ分布は、sCR1処置神経又は非損傷対照と相違はなかった(データは示していない)。MBP及びCD68の共存により、形態学的に非損傷のミエリン鞘間に小型の休止マクロファージが示される(データは示していない)。これらの結果により、損傷後3日目においてマクロファージ活性化の欠如とミエリン形態の保存との間の関連性が示唆される。
【0115】
5.3考察
本発明は、補体活性化の古典的経路、レクチン経路、及び代替経路の阻害剤、sCR1による全身処置により、末梢神経損傷後の早期軸索損失及びミエリン破壊が防止されることを示している。
【0116】
sCR1の損傷ラットへの毎日投与により、全身及び局所の両方の補体活性化が防止された結果、神経中のMAC沈着が遮断された。未処置動物では、圧潰損傷は、ミエリンを拡大させ、貪食するCD68陽性細胞の急速な増加に至る。阻害剤処置神経においては、CD68陽性細胞のわずかな増加だけを検出できたが、拡大はできなかった。このことは、損傷後2日目にすでに生じる神経内膜のマクロファージ集団の増殖及び分化によるものであると思われる(Muellerら、2001年)。長期及び短期の両方の常在マクロファージは、リソソームED1抗原を新たに発現し、ミエリンを貪食する可能性を有する(Leonhardら、2002年)。しかしながら、これは、補体媒介事象である(Bruck W及びFriede、1991年)。sCR1処置神経においては、補体活性化が阻害されることから、神経組織に補体オプソニンは沈着されず、標的認識は妨害され、ミエリン食作用が防止される。さらにまた、補体阻害によって、走化性が非効率的となり、PBS処置神経に見られるさらなる4倍増加の恐らく原因となる血液由来のマクロファージ動員が防止される。
【0117】
マクロファージの動員及び活性化の減少にもかかわらず、溶血性補体活性が低く維持された場合でも、損傷後7日目でのsCR1は、神経の軸索分解及びミエリン破壊を防止することができない。したがって、補体活性化の阻害は、WDの早期事象のみに影響を及ぼすと本発明者らは結論する。sCR1がC4開裂の下流であるC3コンバターゼを阻害し、したがってC4c沈着に対する作用は殆どないと考えられるため、sCR1処置神経におけるC4c沈着の欠失は注目すべき知見である。しかしながら、以前の研究でも認めたように(Piddlesdenら、1994年)、sCR1によるC媒介損傷の遮断によっても、損傷組織への全体的なC沈着が阻害され、C4cレベルが検出できないという結果ももたらされる。
【0118】
古典的経路のほかに、代替経路もまた、末梢神経の圧潰損傷後に活性化されることを本発明者らは立証した。C1阻害剤(Cetor)である、C1q−C1r−C1s(及びMBL−MASP)複合体6,10の活性化を遮断しするセリンプロテアーゼ阻害剤による補体の古典的(及びレクチン)経路の遮断により、神経内へのMAC沈着は減少したが、除かれはしなかった。代替経路の低率活性化は、生理学的条件下で生じ、補体阻害剤により負に調節されることから、損傷部位での膜結合補体調節成分の破壊は、代替経路を制御不能とし、さらに多くのC3コンバターゼを生成し、MAC沈着に至る可能性がある。また、古典的経路の活性化時に蓄積すると考えられる低レベルのC3bがCetorによる阻害を免れて、低レベルのC5コンバターゼを形成し、さらに活性化を増幅させる代替経路に対する基質として作用する可能性を、本発明者らは除外することができない。補体活性化の部分的遮断の結果、マクロファージの蓄積を減少させ、活性化を防ぐC3沈着を減少させる一方、低量のMACは、依然として神経内に蓄積される。興味深いことに、これは、著しい軸索損傷を引き起こすのに十分であり(しかし、ミエリン分解は多くない)、MAC誘導損傷に対する軸索の感受性を強調している。また、これはミエリン損失が軸索損失の間接的効果であること、及びオプソニン化表面を標的にし、活性化したミエリンを剥ぎ取り、分解するためにマクロファージを必要とすることを示唆している。
【0119】
本発明者らのデータは、C1阻害剤の処置により生じる低レベルのMAC沈着でも、著しい軸索損傷を引き起こすのに十分であることを示している。
【0120】
本発明は、C阻害剤により、機械的損傷による早期の軸索分解及びミエリン破壊から末梢神経が保護されることを立証している。ギラン・バレー症候群などのPNSの脱ミエリン化疾患に対する以前の試験は、疾患表現型を誘導するために末梢神経ミエリンで免疫化された動物モデルに対して実施しているため、それらの知見は、抗原−抗体複合体が、補体活性化を媒介すると思われる疾患に直接適用できる。圧潰損傷後末梢神経のWDにおいて、補体活性化は、損傷された軸索及びミエリンのエピトープを直接標的にする抗体依存様式で生じる。したがって、これらのデータにより、C阻害剤が一次的遺伝的欠陥に重ねられた免疫系の二次的役割が最近見られている(Martini R及びToykaのレビュー、2004年)、遺伝性末梢ニューロパシーなどの非自己免疫疾患の治療においても有望なツールであることを示している。
(参考文献)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸索再生を必要とする病態の治療用薬剤製造のための哺乳動物の補体系阻害剤の使用。
【請求項2】
前記薬剤が再生を促進させる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記軸索再生を必要とする病態が、末梢神経の物理的損傷である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記軸索再生を必要とする病態が、末梢神経系又は中枢神経系の神経変性障害である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
前記阻害剤が、膜攻撃複合体の形成を阻害する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記阻害剤が、補体活性化の古典的経路の活性化を遮断する、請求項1から5までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記阻害剤が、補体活性化の古典的経路及び代替経路の両方の活性化を遮断する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記阻害剤が、補体調節剤、補体受容体、補体成分に対する抗体又は抗体断片、コブラ毒因子、補体のポリアニオン性阻害剤、K−76COOH、ロズマリン酸、ナファマスタットメシレート、C1s−INH−248、コンプスタチン、PMX53、PMX205、及びそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記阻害剤が、補体受容体の可溶性誘導体である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記補体受容体の可溶性誘導体が、可溶性CR1又はCrry−Igである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記阻害剤が、C3コンバターゼ、C5、C6、C7、C8、C9及びMAC集合体の1つ又は複数を遮断する抗体である、請求項7に記載の使用。
【請求項12】
前記抗体が、ヒト又はヒト化抗体である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記阻害剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、miRNA、リボザイム、C3コンバターゼ、C5、C6、C7、C8、C9の1つ又は複数の発現を遮断するsiRNAである、請求項7に記載の使用。
【請求項14】
前記阻害剤が、損傷部位に又はその近辺に投与される、請求項1から13までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項1】
軸索再生を必要とする病態の治療用薬剤製造のための哺乳動物の補体系阻害剤の使用。
【請求項2】
前記薬剤が再生を促進させる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記軸索再生を必要とする病態が、末梢神経の物理的損傷である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記軸索再生を必要とする病態が、末梢神経系又は中枢神経系の神経変性障害である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
前記阻害剤が、膜攻撃複合体の形成を阻害する、請求項1から4までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記阻害剤が、補体活性化の古典的経路の活性化を遮断する、請求項1から5までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記阻害剤が、補体活性化の古典的経路及び代替経路の両方の活性化を遮断する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記阻害剤が、補体調節剤、補体受容体、補体成分に対する抗体又は抗体断片、コブラ毒因子、補体のポリアニオン性阻害剤、K−76COOH、ロズマリン酸、ナファマスタットメシレート、C1s−INH−248、コンプスタチン、PMX53、PMX205、及びそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記阻害剤が、補体受容体の可溶性誘導体である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記補体受容体の可溶性誘導体が、可溶性CR1又はCrry−Igである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記阻害剤が、C3コンバターゼ、C5、C6、C7、C8、C9及びMAC集合体の1つ又は複数を遮断する抗体である、請求項7に記載の使用。
【請求項12】
前記抗体が、ヒト又はヒト化抗体である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記阻害剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、miRNA、リボザイム、C3コンバターゼ、C5、C6、C7、C8、C9の1つ又は複数の発現を遮断するsiRNAである、請求項7に記載の使用。
【請求項14】
前記阻害剤が、損傷部位に又はその近辺に投与される、請求項1から13までのいずれか一項に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2010−505946(P2010−505946A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532314(P2009−532314)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050490
【国際公開番号】WO2008/044928
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(506421600)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050490
【国際公開番号】WO2008/044928
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(506421600)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]