説明

神経変性疾患の治療におけるヒドロキシム酸クロライドの使用

本発明は、神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物の調製における、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライド、その光学的に活性なエナンチオマー又はエナンチオマーの混合物、及びラセミ化合物又は光学的に活性な化合物の医薬的に受容可能な塩から成る群から選択される化学物質の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患の治療における、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
知られているとおり、神経変性疾患は、進行性の破壊的な慢性老人性疾患である。平均余命の増加に伴い、これらの老人性疾患の発生率は今後十年間に劇的に増加するであろう。これらの疾患の治療は現在対症のみであり、原因治療はこれらの多病因疾患の多くの未知な原因により存在しない。これらの疾患、例えば、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、多発性硬化症(MS)、ニューロパシー、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)における、病因及び細胞損傷の実際の所在及び中枢神経系(CNS)における損失は異なり得るが、疾患の発達、及び細胞内事象において多くの共通な点が存在する。
【0003】
いくつかの神経変性疾患の対症療法において多くの進歩がされてきたが、これらの疾患の進行を遅くし、及び場合によっては停止させる、薬理学的及び生物薬理学的治療のための対処されていない多大な必要性が未だ存在する。
【0004】
ADは最も一般的な神経変性疾患であり、痴呆症の最も一般的な形態である(全ケースの約80%に関係する)。ADは、記憶喪失、言語悪化、障害性視空間能力、誤判断、無関心により特徴付けられるが、運動機能は保存される。
【0005】
アルツハイマー病の症状は、最初に記憶低下として現れ、そして数年間にわたり、認知、性格、及び機能を果たす能力が破壊される。混乱と不穏状態もまた生じうる。脳中のアミロイド斑及び神経原線維の変化は当該疾患の明確な特徴であり、記憶に重要であり他の精神的能力である脳領域における神経細胞の損失もまた存在する。当該疾患は通常60歳以上で始まり、そして年齢と共にそのリスクは上昇する。より若い人もアルツハイマーとなり得るが、一般的ではない。65〜74歳の約3%の男女がADを有し、そして85歳以上では半数近くが当該疾患を有し得る。
【0006】
今日、アルツハイマー病の治療法は存在せず、患者は通常、診断から約8〜10年間生存する。市場にいくつかの薬物が存在し、一定期間、いくつかの症状の悪化を防ぐことを助けることができる。更に、いくつかの医薬は、ADの行動性の症状を制御することを助けることができる。
【0007】
現在、軽度から中程度のADの症状を治療するためにFDAにより認可された4つの薬物が存在する。これらの医薬は、コリンエステラーゼ阻害剤として知られ、その研究が示唆するとおり、記憶及び思考に重要であると信じられる脳内化学物質のアセチルコリンの分解を防止するように作用する。これらのうち、当該疾患自体を停止する薬物は無いが、これらは一定期間悪化を遅らせ又は予防することを助けることができ、そしてより長い期間、独立を維持することを助けることができる。当該疾患が進行すると、脳はアセチルコリンをだんだんと産生しなくなり、これらの薬物は最終的にその効果を失う。Exelon 及び Reminyle はこのクラスの最も成功的で、且つ市販された薬物である(Neurodegenerative Disorders: The world market 2002-207; a Visiongain Report;VISIONGAIN TM, 2003を参照のこと; また: Terry AV and Buccafusco JJ: The cholinergic hypothesis of age and Alzheimer's disease related cognitive deficits: recent challenges and their implications for novel drug development; The Journal of pharmacology and experimental therapeutics, 306: 821-27, 2003; and Cummings JL: Use of cholinesterase inhibitors in clinical practice: evidence based recommendations; Am J Geriatr Psychiatry 11: 131-45,2003も参照のこと)。
【0008】
ADの他の治療試験は、抗酸化剤としてイチョウ抽出物を含むが、これらの研究はAD患者において明確な有効性を示すには程遠い。
【0009】
今日まで試験された非ステロイド性の抗炎症剤は、有効性を示さなかった。
【0010】
欧州で新たに認可された、Merz 社及び Lundbeck 社 により販売されている非特異性NMDAアンタゴニストである Ebixa(メマンチン)は、治療において金本位と評される Aricept と競合するセットである。臨床試験はこれまでのところ肯定的な結果を生じている(Mintzer JE: The search for better noncholinergic treatment options for Alzheimer's disease, J Clin Psychiatry 64, suppl 9: 18-22,2003 ; and Reisberg B et al. : Memantine in moderate to severe Alzheimer's disease, N Engl J Med 348: 1333-41,2003.)。他にも、現在までに議論の余地のあるアプローチは、アミロイドベータ生成物を低下し、そして免疫化によりアミロイド沈着物を取り除くことが可能な薬物を開発するための免疫化がある。
【0011】
PDは、発生率及び重要性において第二の神経変性疾患である。パーキンソン病は、黒質として知られる脳領域中の一定の脳細胞が死滅又は損なわれた場合に発生する。神経細胞死の正確な理由は不明であるが、酸化ストレス及びミトコンドリア電子伝達鎖障害−特にコンプレックスIの低下した活性−が広く認められる。これらの神経細胞は、黒質と線条体間のシグナルを伝達する原因となる化学的メッセンジャーである、ドーパミンとして知られる重要な化学物質を産生する。
【0012】
パーキンソン病の症状は以下を含む:手、腕、足、顎の振戦又は不随意性及び律動性運動は第一の特徴である。古典的に、振戦は個々に静止において現れ、意図的な動きで改善し、これはしばしば多様な問題、例えば、「すくみ」、低下した精神的能力又は機敏、声の変化、及び低下した顔の表現に導く;筋肉硬直又は肢硬直は全ての筋肉群で発生するが、最も一般的には、腕、肩、又は首である;姿勢の不安定性、又は肘、膝、及び股関節における屈曲を伴う曲げ伸ばし;瞬きを含む自動的な動作の漸進的な喪失、及び嚥下の頻度の低下;不安定歩行;鬱;痴呆。
【0013】
同時発生的な疾患の患者は、多くの治療選択肢を有し、その数は今後10〜15年で徐々に増えると思われる。パーキンソン病の治療のための第一の有効な治療法である、カルビドパ/レボドパ(Sinemet-Bristol Myers Squibb)は、1970年に導入され、当該疾患の治療に革命をもたらした。当該治療は症状、例えば、振戦、運動緩徐、バランス、及び硬直の制御において極めて有効であることを証明した。しかしながら、運動障害の副作用及び長い治療により低下した効果は、副作用を停止するための他の治療及び/又は補助的な薬物の必要性を示した。1980年代から市場に出回ったドーパミンアンタゴニストは、この必要性を満たした。これらの薬物は、新たに診断されたパーキンソン病患者におけるカルビドパ/レボドパ治療の必要性を遅らせることにおける、ドーパミン制御因子のタイプとして、及び単独療法としての有効性を証明した。他の新たに開発された治療薬、例えば、COMT阻害剤、抗コリン剤、及びセレギリン/デプレニルもまた、顕著ではないにしろ、PDの市場において有効性を有した(Neurodegenerative Disorders: The world market 2002-207; a Visiongain Report; VISIONGAIN TM 2003を参照のこと)。
【0014】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、しばしばルー・ゲーリック病と称される、は随意筋の制御に関連する神経細胞(ニューロン)を攻撃する急速進行性で、常に致死性の神経疾患である。当該疾患は、最も一般的な運動ニューロン疾患であり、これは運動ニューロンの漸進的な変性及び死により特徴付けられる(Rowland LP, Schneider NA: Amyotrophic lateral sclerosis. N Engl J Med 344: 1688-1700,2001. )。運動ニューロンは、制御ユニット及びニューロン系と身体の随意筋間の重大な通信リンクとして機能する、脳、脳幹、及び脊髄に局在する神経細胞である。脳中の運動ニューロンからのメッセージ(上位運動ニューロンと称される)は、脊髄中の運動ニューロン(下位運動ニューロンと称される)に伝達され、そしてこれらから特定の筋肉に伝達される。ALSにおいて、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンはともに変性し、又は死に、筋肉へメッセージを送ることを停止する。機能できないと、当該筋肉はしだいに弱まり、衰弱し(萎縮症)、及び単収縮する(線維束形成)。最終的に、自発的な動作を開始及び制御するための脳の能力が喪失する。ALSを伴うほとんどの人が、通常症状の開始から3〜5年以内に呼吸不全で死亡する。
【0015】
ALSの原因は知られていない。しかしながら、科学者がSOD1酵素を産生する遺伝子における突然変異が家族性ALSに関連したことを発見した1993年に、この問題に対する重要なステップに達した(Rosen D R et al. : Mutations in Cu/Zn superoxide dismutase gene are associated with familial amyotrophic lateral sclerosis. Nature, 362: 59-62, 1993.)。当該酵素は身体をフリーラジカルにより生じる損傷から防止する強力な抗酸化物質である。フリーラジカルは正常な代謝において細胞により産生される極めて不安定な分子である(主な源はミトコンドリアである)。中和されない場合、フリーラジカルは蓄積し、そして細胞中のDNA、膜脂質、及びタンパク質の無作為な損傷の原因と成りうる。SOD1遺伝子突然変異がどのように運動ニューロン変性に導くのかは未だ明確ではないが、研究者はフリーラジカルの蓄積が、当該遺伝子の不完全な機能によりもたらされることを結論づけた。
【0016】
多くの異なる特徴が神経変性疾患に存在するが、共通の特徴は、細胞喪失、漸進性及び進行性の一定の中枢神経系の変性である。活性酸素種(ROS)産物と中和能力における不均衡は年齢とともに増加し、そして神経変性疾患はこれを悪化させる。ALSにおけるSODの役割は、フリーラジカルにより引き起こされる損傷から脳を保護する強力な抗酸化物質として上述したものである。パーキンソン病ROSは、正常なドーパミン代謝における自動酸化により、又はモノアミンオキシダーゼの作用により産生される(Lev N et al. : Apoptosis and Parkinson's disease; Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological psychiatry 27: 245-50, 2003.)。ADにおいて、疾患の発達に導く正確な起因事象は複雑であるが、ニューロン死が部分的にフリーラジカル損傷により媒介されることが広く受け入れられている(Pratico D and Delanty N: Oxidative injury in diseases of the central nervous system: Focus on Alzheimer's disease, Am J Med 109: 577-85, 2000.)。
【0017】
現在、ALSに苦しむ患者の唯一の実績のある治療薬であるリルゾールは、約3ヶ月間生存期間を延ばす(Miller, R. G., Mitchell, J. D.,Lyon, M. & Moore, D. H. Riluzole for amyotrophic lateral sclerosis (ALS) /motor neuron disease (MND). Cochrane. Database. Syst. Rev. CD001447 (2002))。
【0018】
このように、ALSの治療に利用するための新たな治療的戦略の認識は重要性を有する。
【0019】
いくつかのタイプのヒドロキシアミン誘導体は、生理的ストレスにさらされた細胞中でシャペロン発現を増強し、シャペロン系の機能に関する疾患の治療において有用であることがWO 97/16439により知られている。ヒドロキシアミンの多様な新規のカテゴリーは、公表された当該特許出願において開示されている。ヒドロキシム酸ハライド、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドもまたこれに属するが、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドについては明確に述べられていない。
【0020】
N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドは、インスリン耐性を低下することができる優れた種であるとして、WO 00/50403において最初に開示され、権利が主張された。述べられているとおり、それは一連の慢性糖尿病合併症、特に、網膜症、ニューロパシー、及び腎症、並びに患者におけるインスリン耐性の低下の間に糖尿病により引き起こされる神経変性の病理低下の治療に有用である。当該化合物の化学的特徴及びその調製物の合成手順の詳細もまた上記文献に記載されている。
【0021】
糖尿病の治療、特にII型(非インスリン依存性、NIDDM)糖尿病の治療における、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドは、WO 03/026653に記載されている。
【0022】
本明細書に開示される発明は、活性主成分として、メトホルミンとN−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドの組み合わせを含む、経口投与可能な抗高血糖性組成物に関する。当該顕著な抗高血糖効果は、当該2つの活性剤の組み合わせに由来する相乗効果に基づくものである。
【0023】
N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドに関して、糖尿病の治療以外の当該化合物の使用を示唆する特許文献は存在しない。
【発明の開示】
【0024】
我々は、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドが、神経変性疾患の治療において有用となる生物特徴を有することを発見した。mSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいて行った研究実験において、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドは、ALSの当該マウスモデルにおいて通常発生する進行性の運動ニューロン及び筋機能の喪失を防止した。
【0025】
上記の認識に基づき、本発明は、神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物の調製における、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドの新規な使用を供する。
【0026】
好ましくは、本発明は、筋萎縮性側索硬化症の治療又は予防のための医薬組成物の調製における、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドの新規な使用を供する。
【0027】
更に本発明は、治療的有効量のN−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドを患者に投与する、神経変性疾患の治療又は予防の方法を供する。
【0028】
好ましくは、本発明は、治療的有効量のN−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドを患者に投与する、筋萎縮性側索硬化症の治療又は予防の方法を供する。
【0029】
本発明に関して、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドの語は、遊離塩基、無機又は有機酸と形成されるその医薬的に受容可能な酸付加塩、並びにラセミ化合物、及びそれぞれの光学的に活性なエナンチオマー及びエナンチオマー混合物、並びに光学的に活性なエナンチオマー又はエナンチオマー混合物の医薬的に受容可能な塩としての、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドに関する。
【0030】
N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドが、好ましくは酸付加塩の形態において使用されることは注目すべきである。更に、当該化合物の任意的な光学活性形態が好ましく、特に(+)−R−N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドが好ましいことは注目すべきである。より好ましくは、後者の光学活性エナンチオマーの酸付加塩であり、そして最も好ましくは(+)−R−N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライド・シトレートである。
【0031】
「神経変性疾患」の語は、既知のタイプの神経変性疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、多発性硬化症(MS)、及び多様なタイプのニューロパシーに関する。
【実施例】
【0032】
発明を実施するための最良の形態
以下の生物試験は、試験化合物として、(+)−R−N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライド・シトレートで行った。当該化学化合物は化合物Aと称することとする。
【0033】
当該実験において、両性別のmSOD1(G93A)マウスを使用した。全ての実験動物は、Zhu他により2002年に記載されたものと同様の措置に従い(Zhu, S. et al. Minocycline inhibits cytochrome c release and delays progression of amyotrophic lateral sclerosis in mice. Nature 417, 74-78 (2002))、35日齢から化合物A(10mg/kg、腹腔内)で毎日処理した。
【0034】
筋機能及び運動単位数のアセスメント
疾患の進行の程度、等尺性張力の記録、及び運動単位数のアセスメントを測定するために、後肢筋機能の生体のin vivo 電気生理アセスメントを両後肢筋中の長指伸(EDL)筋において行った。
【0035】
遺伝子導入動物及びこれらの野生型の両同腹仔を抱水クロラール(4%抱水クロラール、1ml/体重100g、腹腔内)で麻酔し、そしてこれらの収縮特徴及び運動単位数のin vivo アセスメントのためにEDL筋を調製した。EDL筋の遠位腱を解剖し、そして絹糸を介して等張力トランスデューサー(筋力計UFI装置)に接続させた。ピンで両足を強固にテーブルに安定させた。坐骨神経を解剖で切除し、そしてEDL筋の神経と離れているその全ての分岐を切除した。それから当該神経の遠位端を双極銀電極を使用して刺激した。神経刺激において最大単収縮が生じるまで筋肉の長さを調節した。等張性収縮は、運動神経の切断端を0.02msのパルス幅を使用して刺激することにより誘発させた。強縮性収縮は、40、80、及び100Hzにおいて500ms間EDL筋を刺激することにより誘発させた。
【0036】
各筋肉において運動単位数を評価するために、EDL筋の運動神経を、毎回4秒間刺激した。個々の運動軸索が漸加すると、単収縮張力の段階的な増加を得るように、当該刺激の強さをだんだんと増加させた。各筋肉に存在する運動単位数の評価を得るために段階的な増加数をカウントした(Dick, J. , Greensmith, L. & Vrbova, G. Blocking of NMDA receptors during a critical stage of development reduces the effects of nerve injury at birth on muscles and motoneurones Neuromuscul. Disord, 5,371-382(1995))。
【0037】
単収縮張力の記録から、我々は、EDLの半弛緩時間、収縮後に弛緩する筋肉にかかる時間の長さ、を含む、処理された及び処理されていないmSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおけるEDL筋のいくつかの収縮特徴を評価した。
【0038】
疲労パターン
EDLは通常速筋であるため、特徴的な疲労パターンを生じるように継続的に刺激すると直ぐに疲労する。これらの実験におけるEDLの疲労パターンを調査するため、両後肢の筋肉を250ms間40Hzにおいて、毎秒、3分間刺激し、そして筋収縮を記録した。
【0039】
筋組織学
実験の最後に両肢のEDL筋を除去し、秤量し、そして融解イソペンタン中でスナップ凍結させた。当該筋肉は組織分析を行うまで−80℃で保管した。
【0040】
運動ニューロンの生存のアセスメント
生理的実験の完了後、腰髄の断面からの前角中の坐骨運動プールにおける運動ニューロンの数をカウントすることにより、運動ニューロンの生存を評価した(White, C.M.,Greensmith, L. & Vrbova, G. Repeated stimuli for axonal growth causes motoneuron death in adult rats: the effect of botulinum toxin followed by partial denervation. Neuroscience 95,1101-1109 (2000) )。マウスを深く麻酔し(4%抱水クロラール、1ml/100g体重、腹腔内)、そして4%パラホルムアルデヒドを含む固定液で経心的に灌流させた。脊髄を除去し、そして同じ固定液中で腰部領域を2時間固定(postfixed)し、スクロース(MPB中30%)において凍結保護し、そして凍結横断面をニッスル染色(ガロシアニン)で明るく対比染色した。両前角中のニッスル染色した運動ニューロンの数を光学顕微鏡下でカウントした。連続切片中の同じ細胞を2回カウントすることを避けるために、運動ニューロンの生存はレベルL2〜L5間の脊髄の腰部の全ての三番目のセクションにおける坐骨運動プールにおいて評価した。核小体が高拡大率において明確に見えるこれらのニューロンのみをカウントに入れた。
【0041】
統計分析
評価される全てのパラメーターのために、当該結果は独立な試料の比較のために Mann-Whitney U 検定を用いて分析した。全ての例において両側検定を使用し、そして有意性は、P<0.05に設定した。
【0042】
結果
35日齢におけるmSOD1(G93A)遺伝子導入マウスは、腰部運動ニューロン変性の顕微鏡的特徴をすでに示し、110日齢までの後肢麻痺は明らかである。mSOD1(G93A)遺伝子導入マウスが当該疾患の後期になると、120日齢において、後肢筋機能における化合物Aでの治療効果、並びに運動単位及び運動ニューロンの生存を評価した。
【0043】
運動単位の生存
野生型マウスにおいて、通常、EDL筋中に28+/−0.6(平均値+/−S.E.M、n=11)の運動単位が存在する。120日齢のmSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいては、たった8.3+/−0.7(平均値+/−S.E.M、n=10)の運動単位が存在した。しかしながら、化合物Aで処理したmSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいては、運動単位の生存において有意な向上が存在し、120日齢において、14.3+/−0.6(平均値+/−S.E.M、n=10)の運動単位が生存した(p=0.003)。
【0044】
EDL筋の収縮特徴
i)EDL筋の半緩和時間
単収縮張力の記録から、我々は処理及び未処理mSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいて、いくつかのEDL筋の収縮特徴を調査した。EDLは、通常、速性、疲労性筋肉であり、そして野生型マウスのEDLの半緩和時間、筋肉が収縮後弛緩するまでにかかる時間の長さは、25.8ms+/−2.4(平均値+/−S.E.M、n=10)である。一方、未処理マウスにおいては、半緩和時間は除神経及び筋萎縮の結果を示し、そして43.3ms+/−6.93(平均値+/−S.E.M、n=10)であった。化合物Aで処理したマウスにおいては、半緩和時間は有意に向上し、32.2ms+/−1.80(平均値+/−S.E.M、n=10)であった(p=0.030)。
【0045】
ii)EDL筋の疲労パターン及び疲労指標
EDLは通常速筋であるため、特徴的な疲労パターンを生じるように継続的に刺激すると直ぐに疲労する。EDL筋の疲労パターンは、野生型、mSOD1(G93A)遺伝子導入マウス、及び処理型mSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいて検査した。3分間の刺激後の張力における低下が測定され、そして疲労指標(FI)が計算された。120日齢のmSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいて、運動ニューロンの変性、除神経、及び筋繊維表現型において生じる変化の結果としてEDL筋は疲労耐性となる。従って、120日齢におけるmSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいて、EDLは、野生型マウスにおける0.848+/−0.028(平均値+/−S.E.M、n=10)と比較して、0.255+/−0.04(平均値+/−S.E.M、n=10)の疲労指標を有する。しかしながら、化合物Aで処理したマウスにおいては、EDLは0.416+/−0.07(平均値+/−S.E.M、n=10)の疲労指標を有する。従って、EDLの疲労指標は、未処理型mSOD1(G93A)同腹仔と比較して、処理型mSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいて有意に向上した(p=<0.05)。
【0046】
運動ニューロンの生存
生理実験の比較後、腰部脊髄の横断面由来の前角における坐骨運動プール中の運動ニューロンの数をカウントすることにより、運動ニューロンの生存をアッセイした。運動単位の生存において観察された増加と一致して、処理型mSOD1(G93A)遺伝子導入マウスの坐骨運動プールにおいて生存している運動ニューロンの数も、未処理型mSOD1(G93A)同腹仔と比較して有意に増加した。野生型マウスにおいて、検査された坐骨運動プールのセグメント中、593+/−15.8(平均値+/−S.E.M、n=13)であった。120日齢の未処理型mSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいて、有意な数の運動ニューロンが死に、273+/−14(平均値+/−S.E.M、n=7)の運動ニューロンのみが生存した。しかしながら、化合物Aで処理されたmSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいては、120日齢にも関わらず、412+/−28(平均値+/−S.E.M、n=4)の運動ニューロンの生存を伴う運動ニューロン生存が劇的に増加した(p=0.002)。
【0047】
これらの結果は、毎日の化合物A(10mg/kg、腹腔内)でのmSOD1(G93A)遺伝子導入マウスの処理後、運動単位と運動ニューロンの生存の両方、並びに疾患の後期(120日)において後肢筋機能の向上が存在することを示す。
【0048】
寿命
マウスの別々のグループ中、120日齢における処理型mSOD1(G93A)遺伝子導入マウスにおいて観察される運動単位数及び運動ニューロン生存率における有意な向上の観点において、我々は化合物Aでの処理が、mSOD1(G93A)遺伝子導入マウスの寿命において有効性を有するか否かを調査した。その側面を着けたときに正常に戻れないこと、及び約20%の体重の喪失の両方により測定されたとおり、我々は未処理のmSOD1(G93A)遺伝子導入マウスが、125+/−1.8(平均値+/−S.E.M、n=18)日の平均寿命を有したことを見出した。しかしながら、化合物Aで処理したグループにおいて、体重の減少は遅延し、且つ寿命は有意に向上し、mSOD1(G93A)マウスは平均153+/−2.6(平均値+/−S.E.M、n=7)日間生存した。これは、22%以上の寿命の有意な増加を示す(p=<0.001)。
【0049】
上記生物学的特徴は、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドを神経変性疾患の治療に有用とする。全ての種類の神経変性疾患を考慮に入れることができるが、本発明の化合物は特にALSの治療に有用である。当該化合物の用量は、患者の状態及び疾病に依存し、当該一日量は、0.1〜400mg/kg体重、特には0.1〜100mg/kg体重である。人の治療において、経口一日量は、好ましくは10〜300mgである。これらの用量は、単位剤形において投与され、これは一定の場合、特に経口的処理において、各日のために2〜3回の少用量に分けてもよい。
【0050】
好ましくは、ラセミ化合物の立体異性体、最も好ましくは(+)エナンチオマーが使用され、この場合、上記制限中より少量の活性成分であっても治療に十分である。
【0051】
上記活性物質は、当業界に既知な手段において、通常の医薬組成物に処方される。これらの医薬組成物は、通常の補助物質及び担体に追加して、活性成分として、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライド、又はその立体異性体の1つ、又はこれらの1つの酸付加塩を含む。
【0052】
上記医薬組成物は、治療に一般的に使用される固体又は液体調製物の形態において調製することができる。単純な又はコート化錠剤、ドラジェー、顆粒、カプセル、溶液、シロップを経口投与用に調製することができる。これらの医薬は、通常の方法により生産することができる。これらの製品は、充填剤、例えば、微結晶セルロース、スターチ、又はラクトース、潤滑剤、例えば、ステアリン酸、又はステアリン酸マグネシウム、コーティング剤、例えば、糖、塗膜形成剤、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、芳香剤又は甘味料、例えば、メチルパラベン、又はサッカリン、又は着色剤を含んでよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患の治療又は予防のための医薬組成物の調製における、N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライド、その光学的に活性なエナンチオマー又はエナンチオマーの混合物、及びラセミ化合物又は光学的に活性な化合物の医薬的に受容可能な塩から成る群から選択される化学物質の使用。
【請求項2】
前記化学物質が、(+)−R−N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記化学物質が、(+)−R−N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドの塩である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記化学物質が、(+)−R−N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライド・シトレートである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライド、その光学的に活性なエナンチオマー又はエナンチオマーの混合物、及びラセミ化合物又は光学的に活性な化合物の医薬的に受容可能な塩から成る群から選択される化学物質の治療的有効量が患者に投与される、神経変性疾患の治療又は予防の方法。
【請求項7】
前記化学物質が(+)−R−N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記化学物質が、(+)−R−N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライドの塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記化学物質が、(+)−R−N−[2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)−プロポキシ]−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシミドイル・クロライド・シトレートである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記神経変性疾患が、筋萎縮性側索硬化症である、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−509920(P2007−509920A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537449(P2006−537449)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【国際出願番号】PCT/HU2004/000098
【国際公開番号】WO2005/041965
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(506149900)シトルックス コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】