説明

神経成長促進剤

【課題】神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用を有する、黒霊芝の抽出物を含有することを特徴とする神経成長促進剤を提供する。

【構成】本発明は、黒霊芝の抽出物を含有することを特徴とする神経成長促進剤である。本発明の黒霊芝の抽出物は、280〜330nmに吸収の極大を示し、分子内に芳香環を含有し、酢酸エチル可溶分の溶液は、着色性であるといった特徴がある。さらにこの神経成長促進剤は、安全性が高く、優れた神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用を有する黒霊芝の抽出物を含有する神経成長促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
神経成長因子(nerve growth factor)は、末梢神経及び中枢神経細胞の分化や機能維持、シナプスの形成や損傷の修復等に重要な役割を演じる蛋白質であり、神経損傷時の神経細胞の変性を防ぐ作用を有する(非特許文献1)。しかし、神経成長因子は分子量1万以上の高分子蛋白質であり、治療剤として用いる場合にその投与方法が制約され、安全性の面からも問題がある。
【0003】
そこで、生体内の神経成長因子の産生を促進すべく、種々の神経成長因子産生促進剤が提案されている。例えば、神経成長因子産生促進作用を有するものとしてフミヅキタケ属キノコ菌糸体培養上清(特許文献1)やシメジ属キノコ抽出物(特許文献2)等が開示されている。しかし、何れも効果の面において充分ではない。
【0004】
神経細胞は、細胞体と突起を有しており、突起には神経情報を他の神経細胞に伝える軸索と、他の神経細胞からの情報を受け取る樹状突起の2種類が存在する。神経細胞は、神経成長因子による刺激や外部環境の影響を受けて神経突起を伸ばして神経回路を形成する。
その結果、神経終末と他のニューロンの神経細胞の樹状突起との間にシナプスが形成され、信号伝達が行われる。又、記憶障害又は認知症等の患者において神経突起の消失が見られることから、神経突起の伸長に伴うシナプス形成は記憶と密接な関係があると考えられている。
【0005】
神経突起伸展を促進することは、種々の障害により破綻した神経細胞同士のシナプス応答を再編、増強することができ、神経変性により低下した機能の回復を期待できることから、種々の神経突起伸展促進剤が提案されている。
例えば、神経突起伸展促進作用を有する組成物としてシトラール等の香料成分(特許文献3)、ペプチド(特許文献4、5)、ビスマス、ヒ素等の重金属を含むヘテロポリ酸(特許文献6)等が開示されている。しかし、これらは何れも安全性や安定性の面で問題がある。
【0006】
神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用を持つ物質として、ポリエン系化合物が開示されている(特許文献7)。この物質は両作用を有するため、前述の神経成長因子産生促進剤や神経突起伸展促進剤より有効な神経成長促進剤となり得る。しかし、該ポリエン化合物は特定の微生物が産生する新規物質であり、安全面において問題がある。
この様な状況下、神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用を併せ持ち、且つ安全な神経成長促進剤の開発が待望されていた。
【0007】
黒霊芝は、マンネンタケ科(Ganodermataceae)、マンネンタケ属(Ganoderma)に属するキノコで、学名はG.atrum、G.japonicum、G.sinenseである(非特許文献2)。マンネンタケ属のキノコとしては、一般に赤霊芝(G.lucidum)が広く知られており、マンネンタケ或いは霊芝を赤霊芝の通称として用いることもある。黒霊芝と赤霊芝は形状が類似するが、黒霊芝は赤霊芝に特有の苦味トリテルペン成分(ガノデリン酸類)を含まない為、両者の味は全く異なる(非特許文献3)。又、外観色も黒霊芝が黒褐色であるのに対して赤霊芝は赤褐色を呈し、両キノコは全く別種と解されている。
【0008】
黒霊芝に関しては、高血圧抑制剤(特許文献8)、抗血栓剤(特許文献9)、及び脳機能改善剤(特許文献10)の発明が開示されている。しかし、前述の高血圧抑制剤はアンジオテンシン変換酵素の阻害作用、抗血栓剤は血小板凝集抑制作用、脳機能改善剤はアセチルコリントランスフェラーゼ及びプロリルエンドペプチダーゼの阻害作用に基づくものである。即ち、黒霊芝に関し、本願の神経成長促進剤に係る神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用は全く報告されていない。又、神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用と、前述のアセチルコリントランスフェラーゼ阻害作用等とは全く異なる概念である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−230927号
【特許文献2】特開2007−137878号
【特許文献3】特開2007−302572号
【特許文献4】特開2006−42684号
【特許文献5】特開2005−239712号
【特許文献6】特開2007−99634号
【特許文献7】特開平8−319289号
【特許文献8】特開2008−255041
【特許文献9】特開2005−162627
【特許文献10】特開2008−156240
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】薬学雑誌、116(4)、286−308、1996
【非特許文献2】今関六也編著 「原色日本新菌類図鑑(II)」保育社、1989年
【非特許文献3】日本醸造協会誌、85(6)、385−392、1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用を併せ持ち、且つ安全な神経成長促進剤を提供し、脳虚血性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病等の予防・治療に資することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは黒霊芝の作用について鋭意研究検討した結果、黒霊芝の抽出物が高い神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用を有する黒霊芝の抽出物を含有することを特徴とする神経成長促進剤、黒霊芝の抽出物が溶媒分画及び/又は吸着による精製物であって且つ所定の物性を有する神経成長促進剤、並びにこれらの神経成長促進剤を配合した米飯用組成物に関する。
【0014】
本発明に用いられる黒霊芝は、中国や日本市場等で流通しているものを用いることができる。又、自生品や自家栽培品を用いても良い。
【0015】
本発明に用いられる黒霊芝は、子実体、菌糸体、天産物、栽培物、培養物等を問わず使用することができる。又、必要に応じてそのままの状態、破砕物、乾燥物等を適宜選択して抽出操作に付することができる。
【0016】
本発明に係る神経成長促進剤は、黒霊芝の子実体を溶媒抽出することにより得ることができる。抽出する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール、ケトン類、アセトニトリル、エステル類等や、これら有機溶媒の含水溶媒が良く、特に好ましくは、安全性の面から水、エタノール、又は含水エタノールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。又、塩基性下で抽出することも好ましい。
【0017】
黒霊芝の抽出物をさらに精製するには、黒霊芝抽出物又は後述の吸着精製物を互いに混合しない溶媒で液・液分配抽出して精製する方法がある。
【0018】
液・液分配抽出に用いる溶媒としては、前述の溶媒を用いることが可能である。例えば、(水又は含水アルコール)・炭化水素系、(水又は含水アルコール)・エーテル系、(水又は含水アルコール)・エステル系、水・ブタノール系等を採用できる。これらにとらわれず、互いに混合しない溶媒系であれば採用できる。好ましくは、前述の黒霊芝抽出物に含水低級アルコールと炭化水素溶媒を加えて抽出し、炭化水素溶媒可溶分を除去した残液にエステル溶媒を加えて抽出することにより黒霊芝の抽出物の精製物を得ることができる。又、酸や塩基による分別抽出を行うこともできる。
【0019】
黒霊芝の抽出物をさらに精製するには、黒霊芝抽出物又は前述の溶媒分画物を吸着剤に吸着させ、吸着されたものを溶媒で溶出する方法がある。
【0020】
吸着剤としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂、イオン交換樹脂、オクタデシル化シリカゲル、シリカゲル、セルロース、デキストラン、修飾デキストラン等の吸着剤が挙げられる。中でも、スチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂やオクタデシル化シリカゲルが好ましい。
【0021】
吸着方法としては、吸着剤をカラムに充填し、これに抽出物の溶液を通す方法や、抽出物の溶液に吸着剤をそのまま混合する方法等があるが、特に限定されない。
【0022】
吸着剤の溶出溶媒としては、各吸着剤の特性により選択できるが、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール等の溶媒が良く、特に好ましくは、水やエタノールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。更に、上記溶出溶媒に酸やアルカリを添加してpH調整して用いても良い。
【0023】
本発明に係る黒霊芝の抽出物には、次の事項によって特徴付けられる成分が含まれている(以下、黒霊芝の特定成分と記す)。該特定成分は、黒霊芝の抽出物を前述の溶媒分画、吸着、又は溶媒分画と吸着の組み合わせによる精製で得ることができる。
(1)赤外吸収スペクトルを測定すると(KBr法)、2925、1700、1600、1455、1170、835cm−1に吸収の極大を示す。
(2)上記黒霊芝の成分をエタノールに溶解し、紫外吸収スペクトルを測定すると、280〜330nmに吸収の極大を示す。
(3)分子内に芳香環を含有する。
(4)本成分に酢酸エチルを加えたとき、酢酸エチル可溶分の溶液は着色性であり、主として茶色〜赤褐色を示す。
【0024】
上記のうち、(3)はH、13C−NMR分析により判別可能である。即ち、溶媒として重メタノール(CDOD)を用いて測定した場合、6〜8ppm(H−NMR)、100〜150ppm(13C−NMR)に芳香族に置換した水素原子のスペクトル吸収が認められる。上記のスペクトル分析値は分析器、手法、ピークの幅広さ等により、若干数値の誤差がある場合がある。(4)については、本成分約1〜10mgに酢酸エチル1mLを加えることで着色性を判別できる。
【0025】
又、黒霊芝の特定成分は、定法により加水分解を行うと、ヒドロキシケイヒ酸を遊離する性質がある。例えば、水酸化ナトリウム水溶液等を用いた定法より加水分解でき、HPLC等で分析することで確認できる。
【0026】
黒霊芝の特定成分は、以下に示した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により確認できる(図1参照)。黒霊芝の特定成分のHPLCチャートを示す。横軸は保持時間(分)、縦軸は強度を示す。本分析によれば、保持時間が約10〜25分の幅広のピーク群が黒霊芝の特定成分である。
(A)カラム:オクタデシル化シリカゲル(内径4.5mm×250mm)
(B)カラム温度:40℃
(C)展開溶媒:0.2%リン酸/0.2%リン酸を含有するアセトニトリルを用い、0.2%リン酸を含有するアセトニトリルを20%〜100%に20分かけて直線的に溶媒を変化させ、100%で25分保持する(計45分分析)。
(D)流速:1mL/分
(E)検出:313nm
(F)試料:10mg/mLのエタノール溶液を0.02mL導入
【0027】
黒霊芝の抽出物や溶媒分画又は吸着による精製物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて濃縮、希釈、ろ過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理をして用いても良い。更に、抽出や精製した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。又、黒霊芝の抽出物や精製物は、単独又は組み合わせて用いることができる。
【0028】
本発明の神経成長促進剤は、黒霊芝の抽出物や溶媒分画又は吸着による精製物をそのまま使用しても良く、必要に応じて賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、香料、保存料、溶解補助剤、及び溶剤等を加えて用いることもできる。具体的には、乳糖、ショ糖、ソルビット、マンニット、澱粉、沈降性炭酸カルシウム、重質酸化マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、セルロース又はその誘導体、アミロペクチン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、界面活性剤、水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、カカオ脂、ラウリン脂、ワセリン、パラフィン、高級アルコール等を用いることができる。
【0029】
本発明の神経成長促進剤は、食品、医薬部外品又は医薬品の何れにも用いることができる。経口用としては、例えば散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、米飯用組成物等が挙げられる。非経口用としては、注射液又は座薬等として用いることができる。
【0030】
本発明の神経成長促進剤の摂取量は、投与形態、使用目的、年齢、体重等によって異なるが黒霊芝の抽出物又は溶媒分画若しくは吸着による精製物を0.1〜5,000mg/日、好ましくは1〜3000mg/日の範囲で1日1回から数回投与できる。尚、投与方法や投与量は種々の条件で変動するので、上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、該範囲を超えて投与する場合もある。又、製剤化における神経成長促進剤の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る神経成長促進剤は、優れた神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展作用を発揮し、且つ安全性の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、本発明の処方例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例に示す配合量の部とは重量部をし、%は重量%を示す。
【実施例1】
【0033】
製造例1 黒霊芝の熱水抽出物1
黒霊芝子実体の乾燥物100gに2Lの精製水を加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮後、凍結乾燥して、黒霊芝の熱水抽出物を5.4g得た。
【0034】
製造例2 黒霊芝の50%エタノール抽出物
黒霊芝子実体の乾燥物100gに精製水1L及びエタノール1Lを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して黒霊芝の50%エタノール抽出物を2.9g得た。
【0035】
製造例3 黒霊芝のエタノール抽出物
黒霊芝子実体の乾燥物1kgにエタノール15Lを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、黒霊芝のエタノール抽出物を20g得た。
【0036】
製造例4 黒霊芝のカラム精製物
製造例1の黒霊芝子実体の熱水抽出物10.0gを精製水に溶解し、スチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂500mLを充填したカラムに通液した。次いで、精製水、10、20、50、80、90、100%エタノール各1Lで溶出させた後、80%以上のエタノール画分をまとめ、それぞれを濃縮乾固して黒霊芝のカラム精製物を約0.40g得た。
【0037】
製造例5 黒霊芝の溶媒分画精製物
製造例3の黒霊芝のエタノール抽出物2.00gをエタノール350mLに溶解し、同容量の精製水とヘキサンを加えて抽出した。水層部分を1/2に濃縮し、同容量の酢酸エチルを加えて抽出した後、濃縮乾固し、ヘキサン画分0.84g、酢酸エチル画分0.56g、水画分0.60g得た。このうち、酢酸エチル画分を黒霊芝の溶媒分画精製物とした。
【0038】
製造例6 黒霊芝のHPLC精製物
製造例3の黒霊芝のエタノール抽出物0.50gを分取HPLCにより精製し、黒霊芝のHPLC精製物を0.21g得た。
<HPLC分画条件>
(A)充填剤:オクタデシル化シリカゲル(内径20mm×長さ250mm)
(B)展開溶媒:0.2%リン酸/0.2%リン酸を含有するアセトニトリルを用い、0.2%リン酸を含有するアセトニトリルを20%から100%を20分かけて直線的に溶媒を変化させ、100%で25分保持する。
(C)流速:10mL/分
(D)検出:350nm
【0039】
製造例7 黒霊芝の溶媒分画・カラム精製物
製造例3の黒霊芝のエタノール抽出物2.0gをエタノール350mLに溶解し、同容量の精製水とヘキサンを加えて抽出した。水層部分を1/2に濃縮し、同容量の酢酸エチルを加えて抽出した後、濃縮乾固し、酢酸エチル画分0.56gを得た。これを50%エタノールに溶解し、スチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂100mLを充填したカラムに通液した。次いで、精製水、10、20、50、80、90、100%エタノール各1Lを溶出させた後、80%以上のエタノール画分をまとめ、黒霊芝の溶媒分画・カラム精製物を0.24g得た。
【0040】
<製造例6及び7のスペクトル解析>
赤外吸収スペクトル解析
製造例6の黒霊芝のHPLC精製物及び製造例7の黒霊芝の溶媒分画・カラム精製物をKBr法で赤外吸収スペクトルを測定した。その結果、3294、2926、1698、1604、1456、1169、823cm−1に吸収の極大を示した。
紫外吸収スペクトル分析
製造例6の黒霊芝のHPLC精製物及び製造例7の黒霊芝の溶媒分画・カラム精製物の5mgを100mLのエタノールに溶解し、紫外吸収スペクトルを測定した。その結果、295.3nmに吸収の極大を示した。
NMRスペクトル分析
製造例6の黒霊芝のHPLC精製物及び製造例7の黒霊芝の溶媒分画・カラム精製物を用い、定法によりH、13C−NMR分析した結果、6.6〜7.6ppm(H−NMR)、100〜150ppm(13C−NMR)にスペクトル吸収を認め、芳香環の存在が確認された。なお、溶媒は重メタノール(CDOD)を用いた。
溶液の色
製造例6の黒霊芝のHPLC精製物及び製造例7の黒霊芝の溶媒分画・カラム精製物の10mgに5mLの酢酸エチルを加えた。酢酸エチル可溶分を濾過した後、溶液の色を目視にて確認した。その結果、溶液の色は、赤褐色を示した。
【0041】
製造例8 黒霊芝の熱水抽出物2
黒霊芝子実体の乾燥物250kgに5kLの精製水を加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過して固形分濃度を測定した。該固形分に相当するデキストリンを加えて濃縮し、スプレー乾燥して黒霊芝の熱水抽出物を25kg得た。
【0042】
比較製造例1 赤霊芝の熱水抽出物
赤霊芝子実体の乾燥物100gに2Lの精製水を加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮後、凍結乾燥して、赤霊芝の熱水抽出物を6.0g得た。
【0043】
比較製造例2 赤霊芝の溶媒分画精製物
製造例5の黒霊芝を赤霊芝に変えて同様に行い、酢酸エチル画分(溶媒分画精製物)を0.64g得た。
【実施例2】
【0044】
本発明の神経成長促進剤は、処方例として下記の製剤化を行うことができる。
【0045】
処方例1 散剤
処方 配合量
1.黒霊芝のHPLC精製物(製造例6) 20部
2.乾燥コーンスターチ 30
3.微結晶セルロース 50
[製法]成分1〜3を混合し、散剤とする。
【0046】
処方例2 錠剤
処方 配合量
1.黒霊芝の溶媒分画・カラム精製物(製造例7) 5部
2.乾燥コーンスターチ 25
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20
4.微結晶セルロース 40
5.ポリビニルピロリドン 7
6.タルク 3
[製法]成分1〜5を混合し、次いで10%の水を結合剤として加えて、押出し造粒後乾燥する。成形した顆粒に成分6を加えて混合し打錠する。1錠0.52gとする。
【0047】
処方例3 錠菓
処方 配合量
1.黒霊芝のエタノール抽出物(製造例3) 1.5部
2.乾燥コーンスターチ 50.0
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.4
6.香料 0.1
[製法]成分1〜4を混合し、10%の水を結合剤として加え流動層増粒する。成形した顆粒に成分5及び6を加えて混合し打錠する。1粒1.0gとする。
【0048】
処方例4 飲料
処方 配合量
1.黒霊芝の熱水抽出物2(製造例8) 1.0部
2.赤霊芝の熱水抽出物(比較製造例1) 0.3
3.ステビア 0.02
4.マルチトール 3.6
5.グルコン酸液(50%) 0.6
6.香料 0.2
7.水 94.3
[製法]成分1〜6を成分7の一部の水に撹拌溶解する。次いで、成分7の残りの水を加えて混合する。
【0049】
処方例5 米飯添加物
処方 配合量
1.黒霊芝の熱水抽出物2(製造例8) 10.0部
2.デキストリン 89.0
3.微粒子二酸化ケイ素 1.0
[製法]成分1〜3を混合して米飯添加物を得る。使用に当たっては、加水時に米1合に対して該添加物を2.0g加えて炊飯する。
【実施例3】
【0050】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【0051】
実験例1 神経成長因子産生促進作用
中西らの方法(Brain Res., 659, p169,1994)に従い、哺乳1日齢ラットの大脳皮質から調製した初代アストロサイトを10%牛胎児血清含有ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中、1x10個/ウェルの細胞密度にて、12ウェルプレートへ播種した。2〜3日ごとに培地交換を行い、7日間培養した。コンフルエントに達したところで、試料を添加し、更に24時間培養を行った。試料添加は、終濃度の1000倍濃度のDMSO(ジメチルスルフォキシド)溶液を調整し、0.5%牛胎児血清を含むDMEMにて1000倍希釈したものに培地交換することで行った。対照群は、0.5%牛胎児血清を含むDMEMにてDMSOを1000倍希釈したものを用いた。
【0052】
培養後、その培養上清を回収し、Promega社製NGF Emax ImmunoAssay Systemを用い、付属の手順書に従い測定した。ウェルプレートは、NalgenNunc社製MaxiSorpを用いた。測定は、各試験群につき3ウェルを用いた。
【0053】
表1に示すように、黒霊芝の抽出物、カラム精製物、溶媒分画精製物、HPLC精製物、及び溶媒分画・カラム精製物は、赤霊芝の熱水抽出物や溶媒分画精製物と比べて高い神経成長因子産生促進作用を示した。
【0054】
【表1】

【0055】
実験例2 神経突起伸展促進作用
神経突起伸展促進剤は、神経成長因子の神経突起形成作用を増強すると考えられている。そこで、神経細胞様の挙動を示し、神経のモデル細胞として広く用いられているラット副腎髄質褐色細胞腫由来細胞株であるPC12細胞(独立行政法人 理化学研究所より入手)を用い、各試料の神経成長因子共存下における神経突起伸展促進作用を評価した。
【0056】
PC12細胞をポリ−D−リシンコート24穴プレートに5×10個/ウェルで播種し、5%ウマ血清、10%牛胎児血清を含むDMEM中にて2日間培養した。次いで、ITS(インスリン<終濃度10μg/mL>、Sodium Selenite<終濃度6.7ng/mL>、トランスフェリン<終濃度5.5μg/mL>)を添加したDMEM/F−12培地(invitrogen)で3回洗浄を行った。試料溶液は、ITS(前述の濃度)およびNGF(マウス7S<終濃度10ng/mL>)を含むDMEM/F−12培地に溶解させ、0.2μmの滅菌フィルターを通したものを用い、各ウェルに1mL添加した。培地は2日おきに交換を行った。試料添加から5日後に細胞をメタノールで固定し、細胞の形態を位相差顕微鏡(100倍)にて観察した。各処理群につき3ウェルを用いた。神経突起伸展促進作用は、以下の基準にて各処理群の細胞をスコア化し、各細胞のスコアの総和を細胞数で序した値を各試験群のスコアとした。
0:神経突起なし又は神経突起が細胞の直径より短い、1:神経突起が細胞の直径と同じ長さ、2:神経突起が細胞の直径の2〜3倍の長さ、3:神経突起が細胞の直径の3倍以上の長さ
【0057】
表2に示すように、黒霊芝の抽出物、カラム精製物、溶媒分画精製物、HPLC精製物、及び溶媒分画・カラム精製物は、赤霊芝の熱水抽出物や溶媒分画精製物と比べて高い神経突起伸展促進作用を示した。
【0058】
【表2】

【0059】
処方例4の飲料を25〜60歳の男女23名が1日30mL摂取し、1ヶ月後に血液を検査した。中性脂肪値、総コレステロール値、血圧等に低下が認められたが、肝臓機能等を示す血液検査項目は何れのパネラーも正常値の範囲内であり、高い安全性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る黒霊芝の抽出物は、優れた神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展作用を有し、且つ安全性の高い神経成長促進剤である。従って、医薬品、食品、及び医薬部外品としての利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】黒霊芝の特定成分のHPLCチャートを示す。横軸は保持時間(分)、縦軸は強度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経成長因子産生促進作用及び神経突起伸展促進作用を有する、黒霊芝の抽出物を含有することを特徴とする神経成長促進剤。
【請求項2】
抽出物が溶媒分画及び/又は吸着による精製物であって、且つ(1)〜(4)の物性を有するものである、請求項1記載の神経成長促進剤。
(1)赤外吸収スペクトルを測定すると(KBr法)、2925、1700、1600、1455、1170、835cm−1に吸収の極大を示し、
(2)本成分をエタノールに溶解し、紫外吸収スペクトルを測定すると、280〜330nmに吸収の極大を示し、
(3)分子内に芳香環を含有し、
(4)本成分に酢酸エチルを加えたとき、酢酸エチル可溶分の溶液は着色性であり、茶色〜赤褐色を示す。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の神経成長促進剤を配合したことを特徴とする米飯用組成物。



【図1】
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【公開番号】特開2010−189330(P2010−189330A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36349(P2009−36349)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】