説明

神経栄養因子とその利用法

【課題】神経栄養作用を持つ素材とその応用品を提供する。
【解決手段】下記の構造式で示される5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体を含有することを特徴とする神経栄養因子とその応用品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体を有効成分とする神経栄養因子に関するものであり、例えば、抗痴呆剤としてもしくは末梢神経障害治療剤又は神経細胞保護剤等として使用することが期待される。さらに、本発明の神経栄養因子を有効成分とする医薬組成物や食用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体
は下記の構造式

を有する化合物であり、5−クロロアセチル−2−ジメチルアミノ−1,3−セレナゾール、5−クロロアセチル−2−ピペリジノ−1,3−セレナゾール、5−クロロアセチル−2−モルフォリノ−1,3−セレナゾールの構造式は、

である。
セレナゾール類縁体の工業的な利用法として、写真感光材料(特許文献1)、アポトーシスに起因する脳細胞死の抑制薬(特許文献2)、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(特許文献3)、脳動脈中膜肥厚抑制剤(特許文献4)、喘息治療剤(特許文献5)、抗癌性組成物(特許文献6)、経皮的冠動脈形成術後の再狭窄抑制剤(特許文献7)、難聴を治療する方法(特許文献8)、局所コルチコステロイドを用いた包茎の治療のための医薬組成物(特許文献9)、チオレドキシン・レダクターゼ基質(特許文献10)、アルツハイマー病予防・治療剤(特許文献11)、後天性免疫不全症候群治療剤(特許文献12)として有用であることが知られている。
【0003】
これまで、鬱、ストレス、アルツハイマー病等の疾患の予防法として、クルクミン、コール酸、シムノール用いる技術(例えば特許文献13)、アラキドン酸や中鎖脂肪酸を用いる技術(例えば特許文献14)、ヨモギやクマザサを用いる技術(例えば特許文献15)、テアニンを用いる技術(例えば特許文献16)、L-カルニチンまたはアルカノイルを用いる技術(例えば特許文献17)、ドコサヘキサエン酸を用いる技術(例えば特許文献18,19)、イソフラボノイドを用いる技術(例えば特許文献20,21)が知られている。
【0004】
一方、代表的な神経栄養因子として神経成長因子(以下NGFと称する)が知られている。NGFには、神経突起の伸張作用及び神経伝達物質の産生を調節する作用があり、老動物の神経細胞に対し再生作用を持つことが試験管内で証明されている。しかし、NGFは脳血管関門(以下BBBと称する)透過性を持たないため、末梢からまたは経口投与では脳内に移行できず、培養細胞には効果的であっても生体に対しては実用的でないことが明らかになっている。従って、NGFとは異なりBBB透過作用を持つ化合物が抗痴呆剤としてもしくは末梢神経障害治療剤又は神経細胞保護剤として求められている。
【特許文献1】特開2006−119428号公報
【特許文献2】特開2000−344663号公報
【特許文献3】特開2000−16935号公報
【特許文献4】特開2001−261555号公報
【特許文献5】特開平9−263533号公報
【特許文献6】特開平6−172330号公報
【特許文献7】特開平5−255084号公報
【特許文献8】特表2005−516028号公報
【特許文献9】特表2004−519451公報
【特許文献10】WO00/58281号公報
【特許文献11】WO98/08831号公報
【特許文献12】WO96/33712号公報
【特許文献13】WO96/33712
【特許文献14】特開2003−48831
【特許文献15】特開平10−276719
【特許文献16】特開平7−173059
【特許文献17】特表2002−527389
【特許文献18】特表2002−527387
【特許文献19】特表平8−511533
【特許文献20】特表2001−511117
【特許文献21】特表2001−500480
【特許文献22】特開2003−2813
【特許文献23】特開2002−58450
【特許文献24】特開平11−318387
【特許文献25】特開平9−169662
【非特許文献1】バイオケミカル ファーマコロジー;Vol. 33, No.20, 3235〜3239(1984)
【非特許文献2】バイオケミカル ファーマコロジー;Vol.33, No.20、3241〜3245(1984)
【非特許文献3】I.Gayら Biochim Biophys Acta 1684, 18-28, 2004
【非特許文献4】M. Koketsu ら Synthesis, 31-36, 2006.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、公知技術の神経栄養作用は効果が不十分で、実用化が遅れていている。また、5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体の神経栄養作用、すなわち神経細胞の神経突起伸長作用、アポトーシス抑制作用、マイトジェン活性化蛋白キナーゼキナーゼ(MEK1/2)およびマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(ERK1/2)のリン酸化促進作用、ニューロフィラメント発現亢進作用を利用する先行技術は知られていない。
【0006】
そこで、本発明は、神経栄養作用を持つ素材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体が神経栄養作用を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は次の[1]〜[9]である。
[1]5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体を含有することを特徴とする神経栄養因子。
[2]5−アシル−2−アミノ-1,3-セレナゾール類縁体が5−クロロアセチル−2−ジメチルアミノ−1,3−セレナゾール、5−クロロアセチル−2−ピペリジノ−1,3−セレナゾール、5−クロロアセチル−2−モルフォリノ−1,3−セレナゾールのうちの1種または2種以上の混合物である前記[1]記載の神経栄養因子。
[3]神経細胞のマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(ERK1/2)のリン酸化を促進する作用を有する前記[1]または前記[2]記載の神経栄養因子。
[4]神経細胞のマイトジェン活性化蛋白キナーゼキナーゼ(MEK1/2)のリン酸化を促進する作用を有する前記[1]または前記[2]記載の神経栄養因子。
[5]神経細胞のタンパク質(ニューロフィラメント)の発現を促進する作用を有する前記[1]または前記[2]記載の神経栄養因子。
[6]神経細胞のアポトーシスを抑制する作用を有する前記[1]または前記[2]記載の神経栄養因子。
[7]神経細胞の神経突起伸長を促進する作用を有する前記[1]または前記[2]記載の神経栄養因子。
[8]前記[1]から前記[7]に記載の神経栄養因子を有効成分として配合してなる医薬用組成物。
[9]前記[1]から前記[7]に記載の神経栄養因子を有効成分として配合してなる食用組成物。
【0008】
すなわち、本発明は、5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体を含有することを特徴とする神経栄養因子とその利用法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の神経栄養因子を食品または医薬品として摂取することにより、抗痴呆剤もしくは末梢神経障害治療剤又は神経細胞保護剤等としての効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で使用する5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体は、脂溶性の有機セレン化合物であり、セレン元素と窒素元素を1位と3位に含有する5員環の化合物である。本発明で用いる5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体は文献記載の方法(非特許文献4)で化学合成により得ることができる。
【0011】
本発明における神経細胞とは別名ニューロンと呼ばれる細胞で、大きく分けると、細胞体、樹状突起、軸索、シナプスという部分からなる。本発明における神経栄養作用は、神経細胞の神経突起伸長作用、神経細胞のアポトーシス抑制作用、神経細胞のマイトジェン活性化蛋白キナーゼキナーゼ(MEK1/2)およびマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(ERK1/2)のリン酸化促進作用、神経細胞のニューロフィラメント発現亢進作用を指す。
【0012】
本発明の神経栄養因子の作用機作としては、5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体が細胞膜のレセプターを活性化し、次いで細胞生存のシグナル伝達経路であるマイトジェン活性化キナーゼ経路を活性化し、ニューロフィラメントやMAP2等の神経分化を誘導するタンパク質が発現し最終的に神経細胞の分化を誘導する。
【0013】
本発明の神経栄養因子は、5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体を0.01から50%、好ましくは0.1から30%、より好ましくは1から10%含有する。5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体の含有量が0.01%未満では神経栄養作用が認められない。また。5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体含有量が50%より多くしても、活性の顕著な増加は認められない。
【0014】
次に、本発明の神経栄養因子を配合してなる医薬用組成物および食用組成物について説明する。本発明の神経栄養因子を配合してなる製剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜に選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤があげられる。
【0015】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の神経栄養因子の配合量は0.01から50%、好ましくは0.1から30%、より好ましくは1から10%含有する。神経栄養因子の含有量が0.01%未満では神経栄養活性が認められない。また。神経栄養因子の含有量が50%より多くしても、活性の顕著な増加は認められない。この種の製剤には本発明の神経栄養因子の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0016】
上記の神経栄養因子を含有する医薬用組成物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0017】
本発明の神経栄養因子は食用組成物としても利用可能である。すなわち、前述のようにして得られる5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体を有効成分としてなる神経栄養因子は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
【0018】
これらの食品類あるいは食用組成物における本発明の神経栄養因子の配合量は、当該食品や組成物の種類や状態等により一律に規定しがたいが、約0.01〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%である。配合量が0.01重量%未満では経口摂取による所望の効果が小さく、50重量%を超えると食品の種類によっては風味を損なったり当該食品を調製できなくなる場合がある。なお、本発明の神経栄養因子は、原料が食品であれば、これをそのまま食用に供してもさしつかえない。
【0019】
本発明の医薬用組成物および食用組成物は、細胞死を予防あるいは治癒をねらいとして利用するものであれば、それを使用する上で何ら制限を受けることなく適用される。
【0020】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
5-クロロアセチル-2-ジメチルアミノ-1,3-セレナゾ−ルの製造例および物性値
アルゴン気流下、N,N-ジメチル-N’-(ジメチルアミノセレノカルボニル)ホルムアミジン (63 mg, 0.3 mmol) のメタノール溶液 (5 ml) に、1,3-ジクロロアセトン (197
mg, 1.5 mmol) を加え、2時間還流した。反応終了をTLC (酢酸エチル) にて確認し、混合溶液をジクロロメタンで抽出した後、溶媒留去し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー (酢酸エチル:ヘキサン=1:5) で単離精製し、黄白色固体の5-クロロアセチル-2-ジメチルアミノ-1,3-セレナゾ−ル (49 mg, 64%) を得た。
物性値: Mp: 102-104 °C, IR
(KBr): 1655 cm-1, 1H NMR (500 MHz, CDCl3, rt):
d
3.21 (br. s, 6H, N-CH3), 4.45 (s, 2H, CH2), 7.91 (s, 1H,
CH), 13C NMR (125 MHz, CDCl3, rt): d 44.2, 130.3,
150.6, 178.9, 183.7, 13C NMR (125 MHz, CDCl3, -40 °C): d 39.3, 43.9,
44.5, 129.6, 150.6, 178.7, 183.5, 77Se NMR (95 MHz, CDCl3):
d 527.5,
MS (CI): m/z = 253 [M++1], Anal. Calcd for C7H9ClN2OSe:
C, 33.42; H, 3.61; N, 11.14. Found; C, 33.63; H, 3.86; N, 10.84.

5-クロロアセチル-2-ピペリジノ-1,3-セレナゾ−ルの製造例および物性値
アルゴン気流下、N,N-ジメチル-N’-(ピペリジノセレノカルボニル)ホルムアミジン (74 mg, 0.3 mmol) のメタノール溶液 (3 ml) に、1,3-ジクロロアセトン (195
mg, 1.5 mmol) を加え、3時間還流した。反応終了をTLC (酢酸エチル) にて確認し、混合溶液をジクロロメタンで抽出した後、溶媒留去し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー (酢酸エチル:ヘキサン=1:5) で単離精製し、白色固体の5-クロロアセチル-2-ピペリジノ-1,3-セレナゾ−ル (62 mg, 70%) を得た。
物性値: Mp: 112-114 °C, IR (KBr): 1648 cm-1, 1H NMR
(500 MHz, CDCl3, rt): d 1.72 (m, 6H, CH2), 3.60 (m, 4H, CH2),
4.44 (s, 2H, CH2), 7.87 (s, 1H, CH), 1H NMR (500 MHz,
CDCl3, -40 °C): d 1.74 (m, 6H, CH2), 3.37 (m, 2H, CH2), 3.87
(m, 2H, CH2), 4.55 (s, 2H, CH2), 7.87 (s, 1H, CH), 13C
NMR (125 MHz, CDCl3, rt): d 24.0, 25.3, 44.2, 129.4, 150.9, 178.6, 183.8,
13C NMR (125 MHz, CDCl3, -40 °C): d 23.7, 25.1,
44.4, 47.7, 54.7, 128.6, 150.9, 178.3, 183.6, 77Se NMR (95 MHz, CDCl3)
: d 526.4,
MS (FAB): m/z = 293 [M++1], Anal. Calcd for C10H13ClN2OSe:
C, 41.18; H, 4.49; N, 9.61. Found; C, 40.82; H, 4.64; N, 8.74.

5-クロロアセチル-2-ジメチルアミノ-1,3-セレナゾ−ルの製造例および物性値
アルゴン気流下、N,N-ジメチル-N’-(モルフォリノセレノカルボニル)ホルムアミジン (76 mg, 0.3 mmol) のメタノール溶液 (4 ml) に、1,3-ジクロロアセトン (195
mg, 1.5 mmol) を加え、1時間還流した。反応終了をTLC (酢酸エチル) にて確認し、混合溶液をジクロロメタンで抽出した後、溶媒留去し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー (酢酸エチル:ヘキサン=1:3) で単離精製し、白色固体の5-クロロアセチル-2-ジメチルアミノ-1,3-セレナゾ−ル (62 mg, 70%) を得た。
物性値: Mp: 138-140 °C, IR (KBr): 1630 cm-1, 1H NMR
(500 MHz, CDCl3, rt): d 3.62 (t, J = 5.2 Hz, 4H, CH2),
3.82 (t, J = 5.2 Hz, 4H, CH2), 4.46 (s, 2H, CH2),
7.89 (s, 1H, CH), 13C NMR (125 MHz, CDCl3, rt): d 44.2, 49.7,
65.9, 130.5, 150.1, 179.0, 183.9, 77Se NMR (95 MHz, CDCl3):
d 536.1,
MS (CI): m/z = 295 [M++1], Anal. Calcd for C9H11ClN2O2Se:
C, 36.82; H, 3.78; N, 9.54. Found; C, 37.44; H, 4.10; N, 9.29.
【実施例1】
【0022】
アポトーシス抑制作用の測定:96穴プレートを用いて、馬血清10容量%、牛胎児血清5容量%を含むDMEM培地(日水製薬)にPC−12細胞(岐阜薬科大学から分与)を5万個/mL濃度で48時間培養し、5-クロロアセチル-2-ピペリジノ-1,3-セレナゾ−ル(上記の製造例の方法で調製)を100μMになるように添加し、48または120時間後にMTTの8mg/ml溶液を6.3μl添加し、37℃で2時間インキュベートした後Lysis Buffer(ドデシル硫酸ナトリウム〔和光純薬工業(株)〕:ジメチルホルムアミド〔和光純薬工業(株)〕=20:80(w/w);pH4.7)を50μl添加し、細胞を溶解した。37℃で一晩インキュベート後562nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(アマシャム社製)を使用して測定した。
スタート時のOD562−所定時間培養時のOD562(染色度)を求めて、生細胞数の指標とした。結果を表1に示した。
【0023】
【表1】

【実施例2】
【0024】
ニューロフィラメント発現量の測定:既往の方法で、18日齢のラット胎児から大脳ニューロンを採取し、馬血清10容量%、牛胎児血清5容量%を含むDMEM培地(日水製薬)で24時間培養した。24時間後に無血清のDMEM培地に交換し、さらに24時間後に5-クロロアセチル-2-モルフォリノ-1,3-セレナゾ−ル(上記の製造例の方法で調製)を10μM添加した。48または120時間後に大脳ニューロンの細胞質のタンパク質をリシスバッファーで採取した。採取したタンパク質を、SDS−PAGEで分離後、タンパク質をナイロンメンブレンにブロットした。ブロッキング後にニューロフィラメントマウスIgG抗体(シグマ社)で反応後、アビジンービオチン化ホースラディッシュペルオキシダーゼコンプレックスで処理した。ペルオキシダーゼ活性をジアミノベンジディン−H2O2を用いてニューロフィラメントを可視化することにより、ニューロフィラメントの発現量を測定した。陽性対象として、NGFβとEGF(いずれもシグマ製)を25ng/mL添加し同じ操作を行った。結果を表2に示した。同表中の記号は、ニューロフィラメントの発現について−:なし、+:あり、++:顕著にありを意味する。
【0025】
【表2】

【実施例3】
【0026】
マイトジェン活性化蛋白キナーゼキナーゼ(MEK1/2)およびマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(ERK1/2)のリン酸化能の測定:馬血清10容量%、牛胎児血清5容量%を含むDMEM培地(日水製薬)にPC−12細胞(岐阜薬科大学から分与)を200万個/mL濃度で48時間培養し、牛血清アルブミン(シグマ社)を1%含むDMEM培地(日水製薬)で8時間保持した。次に、5-クロロアセチル-2-ジメチルアミノ-1,3-セレナゾ−ル(上記の製造例の方法で調製)を100μMになるように添加し、10分後にタンパク質をリシスバッファーで採取した。採取したタンパク質を、SDS−PAGEで分離後、タンパク質をナイロンメンブレンにブロットした。ブロッキング後にマイトジェン活性化蛋白キナーゼキナーゼ(MEK1/2)およびマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(ERK1/2)ウサギIgG抗体(セルシグナルテクノロジー社)で反応後、アビジンービオチン化ホースラディッシュペルオキシダーゼコンプレックス(サンタクルズ社)で処理した。タンパク質量と相関するペルオキシダーゼ活性の測定を次の方法で行った。すなわち、BCL(GEヘルスケア社)を用い、発生した化学発光をX線用フィルム(GEヘルスケア社製)に焼き付けることにより可視化し、リン酸化したマイトジェン活性化蛋白キナーゼキナーゼ(MEK1/2)およびリン酸化したマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(ERK1/2)の量を画像処理ソフトウエアで数値化した。数値は、無添加に対する比とした。結果を図1に示した。
【実施例4】
【0027】
神経突起伸長作用の測定:馬血清10容量%、牛胎児血清5容量%を含むDMEM培地(日水製薬)にPC−12細胞(岐阜薬科大学から分与)を5万個/mL濃度で48時間培養した。5-クロロアセチル-2-ピペリジノ-1,3-セレナゾ−ルを10μM含有する培地に交換し、24と48時間後に1平方mmで神経分化を起こした細胞の割合を顕微鏡下目視で測定した。結果を表3に示した。
【0028】
【表3】

【比較例1】
【0029】
ヨモギ抽出物(一丸ファルコス(株)製)、テアニン(太陽化学(株)製)、ドコサヘキサエン酸(日本油脂(株)製)を、それぞれ実施例1に示した培地中に1mg/ml溶解し、スタート時のOD562−所定時間培養時のOD562(染色度)を求めて、生細胞数の指標とした。結果を表1に併せて示した。
【比較例2】
【0030】
ヨモギ抽出物(一丸ファルコス(株)製)、テアニン(太陽化学(株)製)、ドコサヘキサエン酸(日本油脂(株)製)を、それぞれ実施例1に示した培地中に1mg/ml溶解し、に関して実施例2の方法でニューロフィラメントの発現を測定した。結果を表2に示した。
【比較例3】
【0031】
ヨモギ抽出物(一丸ファルコス(株)製)、テアニン(太陽化学(株)製)、ドコサヘキサエン酸(日本油脂(株)製)に関して実施例3の方法でマイトジェン活性化蛋白キナーゼキナーゼ(MEK1/2)およびマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(ERK1/2)のリン酸化能を測定した。結果を図1に併せて示した。
【比較例4】
【0032】
ヨモギ抽出物(一丸ファルコス(株)製)、テアニン(太陽化学(株)製)、ドコサヘキサエン酸(日本油脂(株)製)に関して実施例4の方法で神経突起伸長作用を測定した。結果を表3に併せて示した。
【0033】
表1〜3、図1に示されるように、本発明の神経栄養因子は、従来神経活性化作用があると言われていた、ヨモギ抽出物、テアニン、ドコサヘキサエン酸よりも格段に優れた神経栄養作用が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体または5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体を含有することを特徴とする、神経栄養因子とその応用品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明と従来品のマイトジェン活性化蛋白キナーゼキナーゼ(MEK1/2)およびマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(ERK1/2)のリン酸化能を比較した説明図である(実施例3、比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体を含有することを特徴とする神経栄養因子。
【請求項2】
5−アシル−2−アミノ−1,3−セレナゾール類縁体が5−クロロアセチル−2−ジメチルアミノ−1,3−セレナゾール、5−クロロアセチル−2−ピペリジノ−1,3−セレナゾール、5−クロロアセチル−2−モルフォリノ−1,3−セレナゾールのうちの1種または2種以上の混合物である請求項1記載の神経栄養因子。
【請求項3】
神経細胞のマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(ERK1/2)のリン酸化を促進する作用を有する請求項1または2記載の神経栄養因子。
【請求項4】
神経細胞のマイトジェン活性化蛋白キナーゼキナーゼ(MEK1/2)のリン酸化を促進する作用を有する請求項1または2記載の神経栄養因子。
【請求項5】
神経細胞のタンパク質(ニューロフィラメント)の発現を促進する作用を有する請求項1または2記載の神経栄養因子。
【請求項6】
神経細胞のアポトーシスを抑制する作用を有する請求項1または2記載の神経栄養因子。
【請求項7】
神経細胞の神経突起伸長を促進する作用を有する請求項1または2記載の神経栄養因子。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の神経栄養因子を有効成分として配合してなる医薬用組成物。
【請求項9】
請求項1〜7に記載の神経栄養因子を有効成分として配合してなる食用組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−100954(P2008−100954A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285716(P2006−285716)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】