説明

神経細胞の延長されたインビトロ培養のための方法および系

成熟な神経細胞の延長されたインビトロ培養に関連する細胞培養系、および、この細胞培養系を調製するための方法が提供される。好ましい実施形態において、本発明は、成熟な神経網膜細胞および毛様体から単離された細胞の混合物を含む細胞培養系を提供する。神経網膜細胞の神経変性を変更する生物活性薬剤を同定するための方法もまた提供される。本発明の特定の実施形態において、成熟な網膜神経細胞は、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞および/または光受容細胞である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本出願は、米国仮特許出願番号60/395,973(2002年7月12日出願)(その全体が、本明細書中で参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、一般に、神経細胞の延長されたインビトロ培養を提供する細胞培養系に関する。本発明は特に、網膜神経細胞の延長された培養に関する。この細胞培養系は、神経変性疾患(特に、網膜の疾患および障害)を処置するために使用され得る生物活性薬剤を同定するために有用である。本発明はまた、網膜変性疾患または網膜変性障害を処置するために有用であり得る細胞を同定するための細胞培養方法を使用することに関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
一般には、神経細胞の、そして、特に、網膜神経細胞のインビトロ培養が、問題であった。何年にもわたって、完全に成熟なニューロンは、可塑性ならびに損傷後の修復能および再生能を欠くと考えられていた。成熟な中枢神経系(CNS)ニューロンが培養され得、かつ、再生するように刺激され得るなら、損傷または疾患状態のCNS組織の移植および機能の修復が実現可能になり得る。
【0004】
第1のステップとして、研究者の集団は、CNS由来のニューロンのインビトロでの増殖を研究してきた。これらの研究のいくつかは、形質転換したか、または不死化した神経細胞に関し、いくつかの細胞は、腫瘍原性組織由来であった。網膜の培養に関して、インビトロ網膜器官培養、網膜外植片培養および網膜外植片/膜培養の技術が報告されている。さらに、研究者は、胚性組織もしくは胚性幹細胞由来、または、新生児の網膜由来の網膜神経細胞培養物の分析を報告した。しかし、有糸分裂後の神経細胞の長期間培養を達成できないことが、神経生物学の分野において、大きなバリケードとなっている。一般には、成熟な、完全に分化した神経組織、そして、特に、成熟な網膜ニューロンから得た初代細胞が、インビトロで、延長された期間にわたって培養され得るならば、これは、細胞間相互作用の観察;神経活性化合物および神経活性物質の選択および分析;インビボCNS試験およびインビボ眼試験のための制御された代理の系の提供;ならびに、一貫した集団からの単一細胞の潜在的な分析を含む、神経生物学的研究のための有益なツールを構成する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の簡単な要旨)
簡単に述べると、本発明は、生物活性薬剤を同定するために使用され得る神経細胞、および、神経変性疾患(神経変性性網膜疾患および神経変性性網膜障害を含む)の処置に有用な細胞の延長された細胞培養のための組成物および方法を提供する。本発明の1つの局面は、成熟な神経細胞と毛様体から単離された細胞の混合物を含む細胞培養系を提供する。本発明の特定の実施形態において、成熟な神経細胞は、成熟な網膜神経細胞を含み、この成熟な網膜神経細胞は、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞および/または光受容細胞である。
【0006】
別の局面において、本発明は、(i)成熟な網膜神経細胞;(ii)毛様体から単離された細胞;および(iii)胚性網膜細胞の混合物を含む網膜細胞培養系を提供し、ここで、成熟な網膜神経細胞は、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞および/または光受容細胞である。特定の実施形態において、胚性網膜細胞は、網膜幹細胞を含み、そして、特定の他の実施形態において、胚性網膜細胞は、胚性網膜前駆細胞を含む。
【0007】
本発明はまた、成熟な網膜神経細胞と毛様体から単離された細胞とを同時に培養する工程を包含する、網膜細胞培養系を生成するための方法を提供する。別の実施形態において、成熟な網膜神経細胞と毛様体から単離された細胞とを同時に培養する工程を包含する、インビトロにおいて成熟な網膜神経細胞の生存を増強するための方法が提供される。特定の実施形態において、これらの方法は、(i)成熟な網膜神経細胞;(ii)毛様体から単離された細胞;および(iii)胚性網膜細胞を同時に培養する工程を包含する。特定の具体的な実施形態において、胚性網膜細胞は、網膜幹細胞および胚性網膜前駆細胞からなる群から選択される。
【0008】
本発明はまた、神経細胞の生存を増強し得る生物活性薬剤を同定するための方法を提供し、この方法は、(i)本明細書中に記載されるような細胞培養系の神経細胞と候補薬剤との間の相互作用を許容する条件下で、かつ、この相互作用を許容するのに十分な時間、候補薬剤と本発明の細胞培養系とを接触させる工程;および(ii)候補薬剤の存在下での細胞培養系の神経細胞の生存と、候補薬剤の不在下での細胞培養系の神経細胞の生存とを比較し、そこから、神経細胞の生存を増強し得る生物活性薬剤を同定する工程を包含する。特定の実施形態において、神経細胞は網膜神経細胞である。
【0009】
別の実施形態において、本発明は、神経細胞の神経変性を阻害し得る生物活性薬剤を同定するための方法を提供し、この方法は、(i)本明細書中に記載されるような細胞培養系の神経細胞と候補薬剤との間の相互作用を許容する条件下で、かつ、この相互作用を許容にするのに十分な時間、生物活性薬剤をこの細胞培養系に接触させる工程;および(ii)この生物活性薬剤の存在下での細胞培養系の神経細胞の構造と、この生物活性薬剤の不在下での細胞培養系の神経細胞の構造とを比較し、そこから、神経細胞の神経変性を阻害し得る生物活性薬剤を同定する工程、を包含する。特定の実施形態において、神経細胞は、網膜神経細胞である。
【0010】
本発明はまた、網膜疾患を処置し得る生物活性薬剤を同定するための方法を提供し、この方法は、本明細書中に記載されるような細胞培養系の神経細胞と候補薬剤との間の相互作用を許容する条件下で、かつ、この相互作用を許容するのに十分な時間、生物活性薬剤を本発明の細胞培養系に接触させる工程;および(ii)この生物活性薬剤の存在下での細胞培養系の神経細胞の神経変性と、この生物活性薬剤の不在下での細胞培養系の神経細胞の神経変性とを比較し、そこから、網膜疾患を処置し得る生物活性薬剤を同定する工程、を包含する。特定の実施形態において、神経細胞は、網膜神経細胞である。特定の具体的な実施形態において、処置される網膜疾患は、黄斑変性症、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、網膜色素変性症またはアルツハイマー病に関連する網膜障害である。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、網膜疾患を処置するための方法を提供し、この方法は、単離された網膜幹細胞の導入を必要とする被験体の網膜組織に、この単離された網膜幹細胞を導入する工程を包含し、ここで、処置される網膜疾患は、黄斑変性症、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、網膜色素変性症またはアルツハイマー病に関連する網膜障害である。
【0012】
1つの実施形態において、本発明は、成熟な神経細胞の延長された培養のための方法を提供し、この方法は、成熟な神経細胞を毛様体細胞と共にインキュベートする工程を特徴とする。別の実施形態において、本発明は、インビトロ細胞培養系を提供し、この細胞培養系は、成熟な神経細胞の混合物と、成熟な網膜幹細胞の供給源を特徴とする。毛様体は、網膜幹細胞の好ましい供給源である。なお別の実施形態において、本発明は、生物活性分子をスクリーニングするための方法を提供し、この方法は、成熟な神経細胞と毛様体細胞の混合物を含むインビトロ細胞培養系を使用する。毛様体細胞が、成熟な神経細胞とのインビトロ同時培養のために好ましいが、CNS幹細胞の他の供給源を含む幹細胞の供給源がまた、これらの方法および系における用途を見出し得る。
【0013】
本発明は、成熟な網膜ニューロンのインビトロ培養および生存に特に適しているが、開示される方法および系はまた、種々の種から得られる他の神経細胞型の延長されたインビトロ培養にも有用である。毛様体細胞(および/または幹細胞の供給源)および神経細胞は、同じ種から得られる必要はない。さらに、本発明において有用な幹細胞の供給源は、初代細胞;腫瘍形成細胞、形質転換細胞または不死化細胞;成体細胞、胚性細胞または新生児細胞;あるいは、網膜細胞または非網膜細胞であり得る。
【0014】
これらの方法および系は、インビトロで網膜ニューロンを培養するために使用され得るだけでなく、他の中枢神経系細胞を用いる用途を見出し得る。また、インビトロでの培養が困難な他の成熟な分化した初代細胞は、有利に、本発明の方法および系に従って、毛様体細胞(または、より一般的には、幹細胞の供給源)と同時に培養され得る。
【0015】
本発明のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照して明らかとなる。さらに、本発明の特定の局面をより詳細に記載する、本明細書中に示される参考文献は、それゆえ、その全体が参考として援用される。
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明を詳細に示す前に、以下の用語を定義することが、本発明の理解の助けとなり得る。
【0017】
用語「ニューロン」は、神経上皮細胞前駆体から生じる細胞を示すために、本明細書中で使用される。成熟なニューロン(すなわち、成体由来の、完全に分化した細胞)は、いくつかの特異的な抗原性マーカーを提示する。
【0018】
用語「毛様体」は、網膜の周辺領域と虹彩との間に存在する組織を示すために、本明細書中で使用され、これらの全ては、発生の間に、同じ神経上皮から生じる。
【0019】
用語「神経上皮」は、発生の間に、神経性上皮から生じる細胞および組織を示すために、本明細書中で使用され、このような細胞としては、網膜細胞、間脳細胞および中脳細胞が挙げられる。神経上皮はまた、第5神経系の細胞(ニューロンおよびグリア)を生じる、神経外胚葉(より具体的には、初期脊椎動物胚の背側表面上の外胚葉)として定義される(On−line Medical Dictionary,Dept.of Medical Oncology,University of Newcastle upon Tyne;1998年3月4日;インターネットにより検索される)<URL:http://cancerweb.ncl.ac.uk/cgi−bin/omd?query=neuroepithelium&action=Search+OMD。
【0020】
神経変性性眼疾患(例えば、緑内障および黄斑変性症)は、米国単独で千七百万人近くの患者が罹患している。盲目に関するクオリティオブライフの損失を考慮すると、この領域における薬物の研究開発は、非常に重要である。
【0021】
緑内障は、視野の欠失(しばしば、任意の他の一般的な症状を伴わない)を引き起こす疾患群を記載するために使用される幅広い用語である。この症状の欠失は、しばしば、疾患の末期まで、緑内障の診断を遅延させる。緑内障の罹患率は、米国において3百万人と見積もられており、盲目うちの約120,000ケースが、この状態に起因している。これの疾患はまた、日本において四百万ケースが罹患している。世界の他の部分においては、処置へのアクセスは、なお少ないが、緑内障は、世界規模での盲目の主要な原因としてランク付けされる。緑内障に冒されている被験体が盲目にならない場合であっても、被験体らの視覚は、しばしば、ひどく損なわれる。周囲の視覚の欠失は、網膜における神経節細胞の死により息起こされる。神経節細胞は、眼を脳へと接続する特定の型の投影ニューロンである。緑内障はしばしば、眼内圧の増加により達成される。今日の処置としては、眼内圧を低下させる薬物の使用が挙げられる。しかし、眼内圧の低下はしばしば、疾患の進行を完全に停止するには不十分である。神経節細胞は、圧力に対して非常に感受性であり、眼内圧を低下させる前に、既に永続的な変性を受けていると考えられる。さらに、正常圧の緑内障のケースの数が増えていることが観察されており、この緑内障では、神経節細胞が、眼内圧の上昇が観察されることなく変性している。今日の緑内障薬物は、眼内圧を処置するのみであるため、神経節細胞の変性を防止または逆行させる新しい治療剤を同定する必要性が存在する。最近の報告は、網膜ニューロンに特異的に影響を及ぼすということを除いては、脳におけるアルツハイマー病およびパーキンソン病と同様に、緑内障が神経変性疾患であることを示唆する。眼の網膜ニューロンは、脳の間脳ニューロン起源である。これは、しばしば、神経系の部分としてみなされないが、網膜ニューロンは、光感受細胞からのシグナルを処理する、視覚の重要な構成要素である。
【0022】
黄斑変性症は、周辺視覚に影響を及ぼす緑内障とは逆に、中心視覚に影響を及ぼす疾患である。黄斑変性症の罹患率は、米国において、千三百万人の患者が存在すると推定されており、世界規模の盲目の主要な原因である。黄斑変性症は、網膜の中央部分の光受容細胞の欠失を生じる疾患(網膜黄斑と呼ばれる)である。黄斑変性症は、以下の2つの型に分類され得る:乾燥型および湿潤型。乾燥形態は、湿潤型よりも一般的であり、約90%の年齢関連性の黄斑変性症(ARMD)患者が、乾燥形態と診断される。この疾患の湿潤形態は通常、より深刻な失明をもたらす。年齢関連性の黄斑変性症の正確な原因は、依然として知られていない。乾燥形態のARMDは、黄斑組織の加齢および黄斑組織が薄くなること、ならびに、黄斑における色素沈着に由来し得る。湿潤ARMDでは、新しい血管が、網膜の下で増殖し、血液および流体を漏出する。この漏出は、網膜細胞を死滅させ、中央視覚に盲点を生じる。ARMDを処置するために利用可能な、唯一のFDAに認可されたプロトコールは、専用の薬物をレーザー光凝固術と組合せて使用する、光力学療法である。しかし、この処置は、ARMDの新規の湿潤形態のケースのうちの半分に適用され得るのみである。乾燥形態の黄斑変性症を有する患者の大多数については、利用可能な処置はない。黄斑は、霊長類(ヒトを含む)には存在するが、げっ歯類には存在しない;それゆえ、現在は、黄斑の良好な動物モデルが利用可能でない。良好な動物モデルが存在しないことにより、この障害を処置するための新規薬物を開発するための主要な障害となっている。
【0023】
アルツハイマー病(AD)は、老人の間での痴呆の最も一般的な形態である。痴呆は、日常の活動を行う個人の能力に深刻な影響を及ぼす、脳の障害である。アルツハイマーは、米国単独で、四百万人を冒す疾患である。この疾患は、記憶および他の精神機能に欠かせない脳の領域における神経細胞の欠失により特徴付けられる。いくつかの薬物は、限られた時間の間、ADの症状を防止し得るが、疾患を処置するか、または、精神機能の進行的な低下を完全に停止する薬物は、存在しない。最近の研究は、ニューロンまたは神経細胞を補佐するグリア細胞が、AD患者において欠落し得ることを示唆するが、ADの原因は、未知なままである。ADを有する個人は、緑内障および黄斑変性症の高い発生率を有するようであるが、このことは、類似の病因が、眼および脳のこれらの神経変性性疾患の根底にあり得ることを示唆する(Giassonら、Free Radic.Biol.Med.32:1264−75(2002);Johnsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:11830−35(2002);Dentchevら、Mol.Vis.9:184−90(2003)を参照のこと)。
【0024】
本発明は、一般には、神経疾患または障害の処置(特に、眼および脳の変性疾患の処置)に適し得る、新しい神経活性化合物または神経活性物質の同定および生物学的試験における用途を見出す、インビトロ神経細胞培養系を提供する。本明細書中で提供される、培養された成熟なニューロンは、疾患により損傷を受けたCNS組織の再生を可能にし得る候補薬物を同定するための化合物スクリーニングに特に有用である。その症状を処置、治癒、防止、緩和し得るか、または、その症状の進行を遅延もしくは停止し得る薬剤を同定するために、本発明が有用であり得る、神経変性性疾患または障害としては、緑内障、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管(動脈または静脈)閉塞、網膜色素変性症、および、アルツハイマー病またはパーキンソン病のような他の神経変性性疾患に関連する網膜障害が挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
さらに、遺伝学およびプロテオミクスのような新規な技術の出現により、数千の新しい、比較的特徴付けられていない遺伝子およびタンパク質が同定されている。薬物の発見および開発の1つの障害は、ハイスループットスクリーニングに利用可能な、数千または数百万の低分子およびタンパク質の治療剤候補に、優先順位を付けるかを決定する方法である。これらのハイスループット系の多くは、試験分子の、標的細胞の酵素活性の刺激もしくは阻害、または、標的分子もしくは標的細胞への試験分子の結合に基づく。インビボ系が、標的分子または標的細胞と、標的分子の細胞内環境もしくは標的細胞を取り囲む組織環境内の周囲の分子との間の複合体相互作用を特色とするため、単離された生化学アッセイにより同定された候補分子が、インビボの場面において、その影響を発揮する方法を予測することは困難である。例えば、特定の標的タンパク質(例えば、転写因子および細胞表面レセプター)は、しばしば、生物学的機能を発揮するために、複数のサブユニット複合体を形成する。さらに、潜在的な治療剤に対する標的タンパク質の応答は、その細胞内含量に依存する傾向がある。本発明により提供される、培養された神経細胞を使用するアッセイは、インビボ標的分子環境をよりよく模倣する。
【0026】
別の研究開発の障害は、標的を確証するための、遺伝的分析または配列情報の、機能生物学への相関に関する。バイオインフォマティクスおよび遺伝学の技術は、生物学的疾患または障害に関連している遺伝的変異または欠損に関連する、染色体領域にマッピングする、新しい遺伝子を同定した。しかし、数千および数百万の興味深い遺伝子(および、その対応する遺伝子産物)の正確な生物学的機能を同定および分析することが、非常に取り組み甲斐のあることが分かった。良好な細胞モデルがないと、各タンパク質の真の生物学的機能を解明することが困難である。従って、バイオインフォマティクスおよびゲノム学の技術は、現在、迅速に、潜在的な疾患の原因となるタンパク質および候補治療剤を同定し得るが、このような分子の各々の生物学的重要性および機能を特徴付けることは、困難かつ時間を費やすままである。本明細書中で提供されるような、一貫した、再現可能な細胞ベースのアッセイ系は、このような機能分析を加速する。さらに、本発明の培養された神経細胞を使用することにより、細胞内機能単位または他の型の非タンパク質分子(例えば、リボソーム、脂質または炭水化物)を標的かする生物活性薬剤の同定を可能にし得る。
【0027】
次世代の薬物発見プラットフォーム技術は、「セロミクス(cellomics)」を組み込み得る。セロミクスは、インビトロで培養された細胞の包括的な分析を利用する。細胞ベースのスクリーニング系は、候補生物薬剤が、単純なタンパク質−標的分析よりもより生理的な状態で対応する標的分子と相互作用することを可能にする。
【0028】
1つの実施形態において、本発明は、延長された期間(好ましくは、2週間または4週間より長く、より好ましくは、2ヶ月より長く、そして、なおより好ましくは、3ヶ月より長く)インビトロで網膜ニューロンを培養するための方法を提供する。網膜ニューロンは、出生後の非ヒト霊長類および出生後のトリ由来であるが、任意の成体または出生後の網膜組織が、本発明における用途に適切であり得る。網膜細胞および網膜組織の供給源は、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類、イヌ、ブタ、ウシまたは他の哺乳動物供給源)、鳥類、または他の属由来であり得る。
【0029】
この方法によりインビトロで培養され得る網膜神経細胞の型としては、神経節細胞、光受容体、双極細胞、水平細胞およびアマクリン細胞が挙げられる。本発明の特徴は、網膜ニューロンと、毛様体細胞、および/または、幹細胞の供給源との同時培養である。毛様体は、眼のレンズに作用して、遠近調節を生じる筋肉群、および、虹彩の動脈輪を含む、眼内の組織である。内部毛様体上皮は、色素沈着した網膜上皮と連続しており、外側毛様体上皮は眼房水を分泌する。毛様体由来の色素沈着した上皮は、網膜幹細胞を含むと報告されている(Tropepeら、Science 287:2032−36(2000);Fischerら、Develop.Biol.220.197−200(2000))。毛様体由来の細胞が好ましいが、CNS由来の幹細胞の供給源がまた、本発明において使用され得る。成体または出生後の毛様体細胞が好ましい。胚性細胞(特に、網膜胚性細胞)が、この細胞培養系において使用され得、これらとしては、胚性幹細胞および胚性神経前駆体細胞が挙げられる。成体胚性幹細胞または出生後幹細胞の供給源(網膜幹細胞または非網膜幹細胞;CNS由来の幹細胞または他の組織型由来の幹細胞;哺乳動物、鳥類、または他の属および種由来の幹細胞)がまた、使用され得る。幹細胞の供給源(網膜幹細胞の供給源を含む)は、初代細胞であっても、インビトロで永久に培養され得る、不死化細胞、形質転換細胞、腫瘍形成性細胞、または、遺伝操作された細胞であってもよい。
【0030】
本発明は、一般に、生物活性薬剤(特に、神経活性薬剤)を同定および分析するための効率的な方法を提供する。このような方法の使用により、中枢神経系および網膜の疾患および障害(神経変性性疾患、癲癇、黄斑変性症および緑内障を含むがこれらに限定されない)を処置するために有用な薬剤が、選択および試験され得る。本発明に従って、生物活性薬剤としては、例えば、ペプチド、ポリペプチド(例えば、神経細胞レセプターに結合するリガンド、増殖因子、栄養因子など)、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、抗体またはその結合フラグメント、あるいは低分子が挙げられ得る。神経細胞(例えば、網膜神経細胞)の神経変性を変更(統計的に有意な様式で増加または減少する)し得る生物活性薬剤をスクリーニングする方法における用途のための候補薬剤は、化合物、組成物または分子の「ライブラリー」または収集として提供され得る。このような分子は代表的には、「低分子」として当該分野で公知の化合物を含み、かつ、10ダルトン未満(好ましくは、10ダルトン未満、そして、なおより好ましくは、10ダルトン未満)の分子量を有する。好ましくは、生物活性薬剤は、神経細胞の神経変性を阻害するか、減じるか、または、防止する。候補薬剤はさらに、コンビナトリアルライブラリーのメンバーとして提供され得、このコンビナトリアルライブラリーは、好ましくは、複数の反応容器内で実施される複数の所定の化学反応に従って調製される合成薬剤を含む。得られた生成物は、スクリーニングされ得、その後の反復性の選択および合成手順により、例えば、ペプチド(例えば、PCT/US91/08694、PCT/US91/04666を参照のこと)または、本明細書中に提供されるような低分子(例えば、PCT/US94/08542、米国特許第5,798,035号、米国特許第5,789,172号、米国特許第5,751,629号を参照のこと)を含み得る他の組成物の合成コンビナトリアルライブラリーを提供し得る。当業者は、このようなライブラリーの多様な分類が、確立された手順に従って調製され得ることを理解する。
【0031】
本発明は、神経変性性疾患(網膜疾患(例えば、緑内障、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管(動脈または静脈)閉塞、網膜色素変性症およびアルツハイマー病のような他の変性疾患に関連する網膜障害が挙げられるがこれらに限定されない)を処置するために有用であり得る生物活性薬剤を同定するための方法を提供する。本明細書中に記載されるような生物活性薬剤は、本発明の細胞培養系を含むスクリーニングアッセイに組み込まれ得、生物活性薬剤が神経細胞の神経変性を変更(統計学的に有意な様式で、減じるか、阻害するか、防止するか、または、加速する)し得るか否かを決定し得る。好ましい生物活性薬剤は、神経細胞の神経変性を阻害するかまたは減じる薬剤であるか、あるいは、神経細胞を再生し得る薬剤である。神経細胞の神経変性を阻害する生物活性薬剤は、例えば、候補薬剤と細胞(特に、細胞培養系の成熟な神経細胞または網膜神経細胞)との間の相互作用を許容する条件下で、かつ、この相互作用を許容するのに十分な時間、本明細書中に記載されるような薬剤のライブラリーからの候補薬剤を、細胞培養系と接触させる(混合するか、合わせるか、または、他の方法により、薬剤と細胞培養系との間の相互作用を許容する)ことによって同定され得る。生物活性薬剤は、神経細胞または網膜神経細胞に直接作用して、細胞の生存または神経変性に影響を及ぼし得る。あるいは、生物活性薬剤は、別の神経細胞の生存または神経変性に影響を及ぼすことによって、結果的にこの薬剤に応答する、ある細胞と相互作用させることによって、間接的に作用し得る。
【0032】
神経細胞の神経変性を効率的に変更し、好ましくは、阻害する生物活性薬剤は、当該分野で公知で、かつ、薬剤の神経細胞の構造または形態学;神経細胞マーカー(例えば、β3−チューブリン、ロドプシン、リカバリン、ビシニン、カルレチニン、Thy−1、タウ、微小管関連タンパク質2など(例えば、Espanelら、Int.J.Dev.Biol.41:469−76(1997);Ehrlichら、Exp.Neurol.167:215−26(2001);Kosikら、J.Neurosci.7:3142−53(1987)を参照のこと))の発現;および/または細胞の生存(すなわち、細胞の生存率または細胞死までの時間)に対する影響を決定するために本明細書中に記載される技術により同定され得る。好ましくは、生物活性薬剤は、神経細胞(例えば、網膜神経細胞)の生存を増強し、すなわち、この薬剤は、神経細胞が生存可能である期間が延長するように、生存を促進するか、または生存を延長する。候補薬剤が細胞の生存を増強するか、または、神経変性を減じるか、阻害するか、もしくは妨害する能力は、当業者に公知のいくつかの方法のうちのいずれか1つにより決定され得る。例えば、候補薬剤の不在下および存在下での、細胞形態の変化は、例えば、光学顕微鏡、共焦点顕微鏡または当該分野で公知の他の鏡検方法により、可視的な検査によって決定され得る。細胞の生存は、例えば、生存細胞および/または非生存細胞を計数することによって決定され得る。免疫化学的技術または免疫組織学的技術(例えば、固定細胞の染色またはフローサイトメトリー)を使用して、(例えば、細胞骨格タンパク質(例えば、シナプシン)、中間フィラメントタンパク質(例えば、グリア線維性酸性タンパク質、フィブロネクチン、アクチン、ビメンチン、チューブリンなど)に対する特異的抗体を使用することによって)、細胞骨格構造を同定し、評価し得るか、または、本明細書中に記載されるような細胞マーカーの発現を評価し得る。細胞の保全性、形態および/または生存に対する候補薬剤の影響はまた、神経細胞ポリペプチド(例えば、細胞骨格ポリペプチド)のリン酸化状態を測定することにより決定され得る(例えば、Sharmaら、J.Biol.Chem.274:9600−06(1999);Liら、J.Neurosci.20:6055−62(2000)を参照のこと)。神経細胞の再生または神経細胞の増殖は、例えば、標識されたデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはそれらの誘導体(例えば、トリチウム化チミジン)の取り込みを測定することによって、あるいは、BrdUに特異的に結合する抗体を使用することにより検出され得る、ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込みを測定することによって、当該分野で公知のいくつかの方法のうちのいずれかにより決定され得る。
【0033】
いくつかの状況において、このような方法は、神経変性の症状を改善するだけでなく、神経変性の状態を逆行させるように作用する候補治療剤の同定を可能にし得る。開示される方法および細胞培養系は、ニューロン間で生じる固有の相互作用の非常に正確な測定を可能し、かつ、ニューロン構造における精密さの詳細な分析を可能にする。例えば、本発明の方法および培養細胞は、神経チップ、細胞ベースのバイオセンサおよび、培養ニューロンを刺激し、培養ニューロンからのデータを記録するための他の多電極デバイスもしくは電気生理学的デバイスと適合性である(例えば、M.P.Maherら、J.Neurosci.Meth.87:45−56,1999;K.H.Gilchristら、Biosensors & Bioelectronics 16:557−64,2001を参照のこと)。
【0034】
(薬物発見のための神経学的標的のスクリーニング)
神経変性性疾患は、罹患率の主要な原因であり、インビトロ神経細胞培養モデルは、この領域における薬物の発見に有益であり得る。減数分裂後の神経細胞の培養は、非常に難しいので、神経学的疾患および眼科疾患に関連する薬物をスクリーニングする場合、良好なパラダイムを有することが重要である。以前に記載したように、標的分子の潜在的な薬物候補に対する応答は、標的分子の細胞内環境に依存する傾向がある。従って、スクリーニングアッセイにおいて、最終的に薬物で処置される細胞型に密接に関連する培養細胞を使用することが重要である。
【0035】
薬物/治療剤候補を適切に評価するために、細胞ベースのスクリーニング系において使用するための組織特異的な培養細胞が、同定され、かつ、評価されなければならない。神経学の分野において、PC12細胞(ラットのクロム親和性細胞由来)、NT2細胞(ヒト奇形癌腫由来)またはヒト神経芽細胞株のような細胞株を用いて、薬物候補をスクリーニングしてきた。これらの細胞は、プロトタイプニューロンのいくつかの特徴を有するが、これらの細胞は、腫瘍由来であり、生理学的な神経細胞とは異なると考えられる、未成熟な神経表現型を有する。
【0036】
(インビトロ細胞培養系)
他の群が、胚性網膜ニューロンのインビトロ培養において報告されているが、これらの細胞は、成熟な網膜細胞により発現される網膜特異的なタンパク質の全てを発現しないか、または、これらの細胞は、短い時間だけ培養され得る。X.Luoら(IOVS 42:1096−1106,2001)は、インビトロでの網膜細胞の培養を報告したが、彼らの系は、本発明のインビトロ細胞培養系が、毛様体細胞(または、幹細胞の供給源)との同時培養を含むという点で、本明細書中に開示されるものとは異なった。
【0037】
成人および老齢のヒト、ブタおよびげっ歯類の網膜ニューロンが、単層培養条件において生存したことを報告したのは1つのグループのみである(Gaudinら、Investig.Ophthalmol.&Visual Sci.37:2258−68,1996)。このグループは、光受容細胞が、底に横たわるグリアと関連して、神経炎プロセスを再生することを報告し、このプロセスは、長期の生存および神経突起生成に必須であると述べられている。Gaudinらは、ブタ網膜細胞が、最初に播種されたニューロンに対して、インビトロで10日後に、5〜10%の生存を示し;ラット網膜細胞が、最初に播種されたニューロンに対して、インビトロで2週間後に、約1%の生存を示し;そして、ヒト網膜細胞が、最初に播種されたニューロンに対して、インビトロで2ヶ月後に、約1%の生存を示したと推定した。
【0038】
本明細書中に開示される神経細胞培養系は、毛様体から単離された細胞(および/または幹細胞の供給源)が、インビトロ培養環境の一部として成熟な神経細胞と共に含められるという点で、以前の系とは異なる。本発明の好ましいインビトロ細胞培養系は、培養物における全ての主要な網膜神経細胞型(光受容細胞、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞および神経節細胞)を含み、そしてまた、成熟な網膜ニューロンも含む。成熟な網膜ニューロンの維持のための、開示されるインビトロ培養系へと、これらの異なる型の細胞を組み込むことによって、この系は、自然なインビボ状態により類似する、「人工器官」に本質的に似ている。本発明の1つの実施形態において、本発明の細胞培養系は、成熟な網膜と、毛様体から単離された細胞の混合物である。細胞は、機械的手段(例えば、解剖およびティーズ(teasing)(摩砕))または、より厳密な機械的方法(例えば、超音波処理)によって、単離され得る。眼の組織はまた、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼおよびデオキシリボヌクレアーゼのような酵素で処理されて、細胞を解離し得る。好ましくは、本発明の細胞培養系は、機械的方法と酵素的分解の組み合わせにより調製される。細胞培養系はまた、培地、栄養物、および、細胞のインビトロ培養に必要とされ、当該分野で周知の条件(例えば、温度および気体の適切な混合)を含む。
【0039】
本発明の特定の実施形態において、神経細胞培養系は、成熟な神経細胞(例えば、成熟な網膜神経細胞、毛様体から単離された細胞、および胚性網膜細胞)の混合物を含む。胚性網膜細胞としては、例えば、網膜幹細胞および胚性網膜前駆細胞が挙げられる。神経前駆細胞は、規定された形態および組織学的な型を有する細胞へと分化する能力を有する。胚性前駆細胞としては、高増殖ポテンシャルを示し、広範種々の分化した子孫(組織の主要な細胞表現型を含む)を産生し得る未分化細胞が挙げられる(Gageら、Annu.Rev.Neurosci.18:159−92(1995))。網膜前駆細胞としては、成熟な網膜細胞の5つの型(光受容体、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞および神経節細胞)のうちのいずれか1つに分化する細胞が挙げられる。幹細胞は、前駆細胞および別の幹細胞へと分裂し得る。前駆細胞はまた、成人の網膜組織由来であり得る。同時培養した細胞の混合物はまた、中枢神経系から単離された幹細胞、好ましくは、網膜幹細胞を含み得、これらは、胚性網膜幹細胞または成人由来の網膜幹細胞であり得る。胚性前駆細胞およびCNS幹細胞(網膜幹細胞を含む)は、哺乳動物供給源(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類、ブタ、または他の哺乳動物)、トリ供給源(例えば、ニワトリ)または他の動物から得られ得る。
【0040】
このインビトロ培養系は、インビトロで多数の網膜の生理学を特徴付けるために使用され得る、生理学的網膜モデルとして機能し得る。この生理学的網膜モデルはまた、一般神経学の幅広いモデルとして使用され得、疾患モデルが、種々の有害因子(例えば、グルコースの酸素欠乏、圧力、光への曝露、種々の毒素またはこれらの組み合わせ)を添加することによって、これらの技術を基礎として構築され得る。慢性疾患モデルは、特に重要である。なぜならば、大抵の神経変性性疾患が慢性的であるからである。延長された期間が、細胞の分析を可能にするので、このインビトロ細胞培養系の使用により、長期の疾患発症プロセスにおける初期の事象が同定され得る。
【0041】
開示される、混合培養系は、それ自体が、直接的および間接的な薬理的薬剤効果の両方の同定をもたらし得る。例えば、いくつかの薬物候補は、他の細胞型の生存を増強または減少する様式で、1つの細胞型を刺激し得る。細胞/細胞相互作用および細胞/細胞外成分相互作用は、疾患の機構および薬物機能を理解する上で重要であり得る。例えば、1つの神経細胞型は、別の神経細胞型の増殖または生存に影響を及ぼす、栄養性因子を分泌し得る(例えば、WO 99/29279を参照のこと)。
【0042】
このインビトロ細胞培養系はまた、ニューロンを生存させる生物活性分子の同定を可能にするモデル系としても使用され得る。さらに、このインビトロ細胞培養系は、短い時間枠の間ではその効果を示し得ない生物活性分子の長期の効果を研究するために有用であり得る。さらに、この系は、種々の毒素または神経毒素を検出および/または同定する際の用途を見出し得る。長期間の細胞培養系が利用可能であることは、神経毒性学の分野において特に有益であり得る。なぜならば、いくつかの化学物質および活性薬剤が、低い用量で毒性効果を有するが、それは、延長された時間を超えてのみであるためである。
【0043】
本明細書中に記載される本発明の細胞培養系は、インビトロモデルとして使用され得、神経変性性疾患および障害の処置に有用であり得る細胞型を同定および評価し得る。本発明の1つの実施形態において、種々の神経細胞型が、網膜神経細胞(または、他の神経細胞)および毛様体から単離された細胞の混合物に添加される。本明細書中に開示されるように、この細胞モデルにおいて、細胞の混合物に、胚性網膜細胞または網膜幹細胞を添加すると、細胞の死を阻害することによって、網膜神経細胞の生存数が増加され得(例えば、光受容細胞)、従って、このことは、網膜幹細胞が、変性性網膜疾患を処置するのに有用であり得ることを示す。網膜障害または異形成の処置としては、神経前駆細胞の移植が研究されている(例えば、WO 00/47238;Seilerら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.39:2121−31(1998));Aramantら、Restor.Neurol.Neurosci.2:9−22(1990)を参照のこと)。前駆細胞の子孫は、固有の経路に沿って、完全に分化した表現型へと分化し得るが、幹細胞は、前駆細胞および別の幹細胞へと分裂し得、従って、細胞の強力な継続供給源を提供し、損傷した細胞または死細胞を置き換える。
【0044】
従って、本発明は、網膜幹細胞が、神経変性性疾患および障害(特に、本明細書中に記載されるような神経変性性網膜疾患)を処置するのに有用であり得るという発見に関する。このような処置を必要とする被験体は、ヒトもしくは非ヒト霊長類、または、他の動物であり得、これらの被験体は、神経変性性網膜疾患の発症した症状を有するか、または、神経変性性疾患を発症する危険を有する。このような被験体の処置は、さらなる細胞死を予防するか、または、網膜幹細胞を投与することによって、損傷した組織および細胞を置換、増大、修復もしくは最増殖させることを包含すると理解される。好ましくは、網膜幹細胞は、神経変性性疾患の末期より前に、そして、好ましくは、神経変性の開始より前の時点か、または、さらなる神経変性を防止、遅延もしくは減じる時点で(すなわち、最初の診断後直ぐに)、このような投与を必要とする被験体に投与される。例として、黄斑変性症の診断は、疾患の初期段階でなされ得る。本発明に従って、診断時の網膜幹細胞の導入は、光受容細胞の死を防止することにより、網膜神経細胞のさらなる神経変性を遅延するか、予防するか、減じるか、または、阻害し得る。網膜幹細胞が好ましいが、幹細胞の別の供給源(特に、他の中枢神経系幹細胞)がまた使用され得る。
【0045】
幹細胞は、医学分野で公知の標準的な移植手順(異形成組織の近くまたはその部位(好ましくは網膜組織)での移植を含む)に従って、このような導入を必要とする被験体に導入され得、そしてまた、ある部位(例えば、眼のガラス体)への網膜幹細胞の注射を含み得る。移植は、自家移植(処置される被験体由来の幹細胞)であっても、同系(syngeneic)移植(同じ種由来、すなわち、同じ組織適合性遺伝子を有する)であっても、同種(allogeneic)移植(同じ種であるが異なる株、すなわち、ドナーとレシピエントが、異なる組織適合性遺伝子を有する)であっても、異種移植(ドナーとレシピエントが、異なる種または属に属する)であってもよい。ヒトにおける移植について、非ヒト霊長類が、幹細胞の供給源として使用され得る。あるいは、トランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックブタ)が、網膜幹細胞の受容可能な供給源であり得る。組織移植片が、被験体により拒絶されない可能性を増加する(すなわち、移植された組織に対するレシピエントの免疫応答を減少または抑制する)ための手順および方法は、当該分野で周知である。
【0046】
本発明の方法および系はまた、神経細胞のRNAおよびDNAの供給源を提供するために使用され得る。例えば、記載される方法および系に従って培養された神経細胞は、神経細胞cDNAライブラリーの構築に十分かつ適切な物質を提供し得る。さらに、このような神経細胞培養は、プロテオミクス分析に有用であり得る。
【0047】
特許請求される本発明の方法および系は、生物兵器テロに使用される分子を検出するためのバイオセンサとしての使用、特に、生物兵器テロの神経活性分子に対するバイオセンサとしての用途を見出し得る。開示される方法および系はまた、このような生物兵器テロの分子の効果を相殺し得る治療剤を同定および開発するために使用され得る。
【0048】
毛様体細胞(および/または幹細胞)を成熟な神経細胞と合わせることにより提供される有益な効果はまた、非網膜ニューロン(例えば、他の中枢神経系および末梢神経系のニューロン)の延長された培養を支持するために使用され得る。さらに、毛様体以外の細胞(例えば、非網膜幹細胞または他のCNS由来の幹細胞)は、有利に、本発明のインビトロ細胞培養系において、種々の型の神経細胞との同時培養と組み合せられ得る。
【0049】
胚性網膜幹細胞はまた、同時培養条件下において、霊長類の光受容体の生存を増強した。因子(例えば、毛様体神経栄養性因子(CNTF)、脳由来の神経栄養性因子(BDNF)、線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)、およびグリア細胞株由来の神経栄養性因子(GDNF))の組み合わせが、器官細胞培養系において光受容体の生存を改善することが報告されている(JM Ogilvieら、Exp.Neurol.161:676−85,2000)。しかし、これらの因子は、本発明のインビトロ細胞培養系で達成可能な期間にわたって、神経細胞の生存を持続しない。本明細書中に提供されるインビトロ細胞培養系は、成熟な網膜ニューロンの生存を増強するさらなる栄養性因子を検出および同定する際に有用であり得る。
【0050】
(プラットフォーム)
本明細書中に記載されるインビトロ細胞培養系は、2ヶ月を超える、成熟な霊長類網膜ニューロンの培養における生存を可能にする。現在までに、成熟な網膜ニューロンを使用して薬物候補をスクリーニングする能力は、霊長類の培養におけるニューロンの寿命までに制限されていた。除核の遅延、および、組織の解離の遅延が、ニューロンの回収および生存に有害な影響を及ぼしている(例えば、Gaudinら、前出を参照のこと)。ニューロンは、神経組織から解離した直後に劣化し始める。結果として生じるニューロンの劣化は、製薬産業による適切な化合物スクリーニングを妨げる。また、現在では、突出ニューロンまたは光受容細胞を分析することは困難である。光受容体は、黄斑変性症において影響を受ける主な細胞型であり、盲目の主要な原因である。神経節細胞は、網膜における突出ニューロンであり、これらの細胞は、緑内障の患者において影響を受け、そしてまた、盲目の主要な原因である。
【0051】
本発明の方法の使用により、網膜ニューロンは、延長された期間、インビトロで培養され得、完全に成熟なニューロンが、2ヶ月を超える期間にわたって生存し得る。光受容体および関連する神経節突出ニューロンを、延長した期間にわたって培養する能力は、網膜疾患に影響を及ぼす化合物のスクリーニングを可能にする。開示される方法および細胞培養系はまた、脳および脊髄の疾患に適用可能であり得る。
【0052】
本明細書中に記載される方法および系はまた、遺伝的に変異した動物モデルから得られた成熟な神経細胞にも適用され得る。例えば、成熟なニューロンは、網膜ジストロフィー(rd/rd)対立遺伝子を発現する動物から得られ得る。延長した細胞培養条件における、野生型と変異型の神経細胞の比較は、生物活性分子の同定、あるいは、ストレスに対する曝露、または、化合物もしくは栄養物の添加/除去の際に、これらの細胞内でアップレギュレートもしくはダウンレギュレートされた部分の同定の助けとなり得る。脳、眼または他のCNS障害または疾患に関連する、特徴付けられた対立遺伝子を保有する他の動物モデルは、特許請求される方法および系において、成熟な分化した細胞(成熟なニューロン細胞を含む)の供給源として使用するために受け入れ可能であり得る。
【0053】
本発明の細胞培養系および方法は、接着増強物質(例えば、ポリ−リジン、Matrigel、ラミニン、ポリオルニチン、ゼラチンおよび/またはフィブロネクチン)でコーティングされた任意のガラス表面(例えば、カバーガラスを含む)と組み合せて使用され得る。フィーダー細胞層(例えば、グリアフィーダー層または胚性線維芽細胞フィーダー層)がまた、本明細書中に提供される方法および系における用途を見出し得る。
【0054】
従って、本発明は、成熟な神経細胞の延長された培養のための方法を提供し、この方法は、毛様体細胞(および/または幹細胞の供給源)と共に、成熟な神経細胞をインキュベートする工程を特徴とする。本発明は、さらに、インビトロ細胞培養系を提供し、この系は、成熟な神経細胞と毛様体細胞(および/または幹細胞の供給源)の混合物を特徴とする。また、成熟な神経細胞および毛様体細胞(および/または幹細胞の供給源)の混合物を含有するインビトロ細胞培養系を使用して、生物活性分子をスクリーニングするための方法が提供される。
【0055】
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに例示される。
【実施例】
【0056】
(実施例1 網膜神経細胞培養系の調製)
記載されるものは除いて、全ての化合物および試薬は、Sigma Chemical Corporation(St.Louis,MO)から入手した。
【0057】
(組織の供給源)
Macaca nemestrinaおよびMacaca fascicularisの眼を、the Tissue Distribution Programにより、the University of Washington(Seattle,WA)のthe Regional Primate Research Centerから入手した。これらの実験における動物の使用は、the National Institute of Healthおよびthe University of Washington Animal Care Committeeにより確立されたガイドラインに従った。4〜17歳のサルを、網膜組織の供給源として使用した(サルは、4歳で完全に成熟する)。ニワトリを、透明なNalgeneケージ中、約25℃にて飼育した。ニワトリに、水およびPurinaニワトリスターターを自由に与え、16時間明、8時間暗(6:00AMに点灯する)のサイクルを維持した。クロロホルム過麻酔を使用してニワトリを屠殺し、眼球摘出した。
【0058】
(組織の調製および細胞培養)
摘出した眼を、その赤道に沿って半分に切断し、神経網膜(毛様体を含んでも含まなくてもよい)を、1mM Hepes緩衝液(pH7.4)および2%スクロースを含むHankの緩衝化生理食塩水溶液(HBSS;Gibco BRL)中で、眼の前側表面から解剖した。各網膜を、Ca2+、Mg2+を含まない、HBSS(0.125% トリプシン(Gibco BRL,Invitrogen Life Technologies,Carlsbad,CA)、100U/ml ヒアルロニダーゼ、10U/ml コラゲナーゼ、および0.1mg/ml DnaseIを含有)5ml中、37℃にて15分間インキュベートしながら解離し、その後、5%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco BRL)と共に不活性化した。酵素的に解離された細胞を、5mlのプラスチックピペットを用いて10分間摩砕し、次いで、先端熱加工したガラスピペットを用いて20分間摩砕した。解離した細胞を、1500×gにて10分間の遠心分離により回収し、25μg/mlのインシュリン、100μg/mlのトランスフェリン、60μM プトレッシン、30μM セレニウム、20nM プロゲステロン、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、0.05M Hepesおよび1% FBSを含有するダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)/F12培地(Gibco BRL)中に再懸濁した。細胞を、24ウェルプレートの1ウェルあたり200,000細胞で、ポリD−リジンおよびMatrigel(Becton Dickinson Biosciences,Franklin Lakes,NJ)でコーティングしたカバーガラス上に、プレーティングした。各ウェルの培地の半分を48時間毎に交換した。細胞を37℃および5% COにてインキュベートし、14日〜3ヶ月維持した。いくつかの場合において、E6ニワトリ胚性網膜細胞(24ウェルプレートの1ウェルあたり300,000細胞)を、成熟なサル毛様体細胞および網膜細胞をプレーティングする1日前に、コーティングされたカバーガラス上にプレーティングした。簡単にいうと、E6ニワトリ胚性網膜細胞を得るために、卵をH&N International WAから入手し、加湿したインキュベーター内に6日間維持した(胚日数6または「E6」に対応する)。6日目の胚を卵から取り出し、胚性網膜細胞を得て、上記のようにプレーティングした。
【0059】
(実施例2 培養細胞の免疫細胞化学分析)
培養網膜細胞の免疫細胞化学分析を、当該分野で周知の方法に従って実施した。杆体光受容体を、ロドプシン特異的抗体4D2(1:1000希釈;Dr.R.Moday,University of British Columbia,Vancouver,British Columbia,Canadaから提供された)を用いて標識することにより同定した。Tuj 1抗体(これは、β3−チューブリンを認識し(そして、神経節細胞に特異的である))を使用して、神経節細胞を同定した。リカバリンに対する霊長類固有(すなわち、ニワトリの細胞または組織には結合しない)抗体(1:1000希釈、Dr.J.Hurley,University of Washington,Seattle,WAから提供された)を使用して、霊長類の光受容細胞を同定した。ビシニンに対する抗体を使用して、ニワトリの光受容細胞を同定した。ブロモデオキシウリジン(BrdU、1:80希釈;Developmental Studies Hybridoma Bank,University of Iowa,Iowa City,Iowa)に対する抗体を使用して、BrdU含有細胞を同定した。4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で核染色した。一次抗体の免疫反応性を検出するために、Alexa 488結合体化ヤギ抗体またはAlexa 568結合体化ヤギ抗体(Molecular Probes,Eugene,OR)を使用した。Axioplan2顕微鏡(Carl Zeiss,NY)に取り付けられたSpotスライダー−RTカメラ(Diagnostic Instruments,Inc.,MI)を使用して画像を取得した。
【0060】
(実施例3 神経細胞の増強された生存の分析)
成熟な網膜ニューロンを、毛様体の上皮の不在下にて培養した場合、全ての網膜ニューロンが1〜2日で死滅した。毛様体細胞を、成熟な網膜ニューロンと共に同時培養した場合(毛様体の上皮の不在下における成熟なニューロンの培養に使用した条件と同一の条件下で)、種々のニューロンが、実施例2に記載されるような免疫細胞化学技術により同定された。これらの培養物は、延長された期間維持するに従って、網膜ニューロンの持続的な生存が観察された。図1A〜1Cは、インビトロ培養の3ヶ月後の、霊長類の成熟な網膜ニューロンの生存を示す。生存細胞の存在を、DAPIを用いる核染色により確認した(図1Aおよび1Bを参照のこと;例示的な細胞の薄い染色を、白矢印により示した)。標識された抗−β3−チューブリン抗体を用いた免疫染色は、長期の培養における神経節細胞の存在を示す(図1Aおよび1B;例示的な細胞を、黒矢印により示す)。アマクリン細胞および水平細胞を、カルレチニンに特異的な抗体を用いる免疫染色により同定した(図1A;例示的な細胞を円で囲む)。培養物中に存在する光受容細胞を、抗リカバリン抗体および抗ロドプシン抗体を使用する免疫組織化学により同定した(図1C;例示的な細胞を円で囲む)。
【0061】
この生存の増強が、他の種の網膜ニューロンにも適用されるか否かを分析するために、ニワトリの網膜を同様の様式で培養した。成熟なニワトリ網膜細胞を、ニワトリ毛様体由来の細胞と同時培養した場合、ニワトリ網膜ニューロンは、少なくとも12日間生存した。実施例2に記載されるように、免疫細胞化学分析を実施した。抗−β3−チューブリンを用いる免疫染色は、神経節細胞の存在を示した(図1E)。光受容細胞を、抗ビシニン抗体および抗ロドプシン抗体を用いて免疫染色することにより同定した(図1D)。培養物中に存在したアマクリン細胞および水平細胞を、カルレチニンに特異的な抗体を用いて免疫染色することにより同定した(図1E;例示的な細胞を円で囲む)。細胞の核を、DAPIを用いて染色することにより同定した(図1Dおよび1Eを参照のこと)。対照的に、成熟なニワトリ網膜細胞を、ニワトリ毛様体細胞の不在下にて培養した場合、次の日まで生存したニワトリ網膜ニューロンはなかった。従って、毛様体細胞は、種々の種から得られた網膜ニューロンの生存を促進する。毛様体細胞は、げっ歯類および鳥類における網膜幹細胞を含む(Tropepeら、Science 287:2032−36,2000;Fischerら、Develop.Biol.220:197−200,2000)。
【0062】
生存する成熟なニューロンが新しく産生された細胞か否かを決定するために、プレーティング後に、1μM BrdUを培養物に添加した。BrdUで標識されたニューロンは検出されず、このことは、生存するニューロンが、記載される実験条件下で解離および培養された成熟な網膜ニューロン由来であったことを示す。
【0063】
胚性網膜幹細胞が、成熟な網膜ニューロンの生存を促進し得るか否かを決定するために、E6ニワトリ胚性網膜細胞(24ウェルプレートの1ウェルあたり300,000細胞)を、成熟なサル毛様体細胞および網膜細胞をプレーティングする1日前に、培養物に添加した。リカバリン免疫反応性の網膜ニューロン数の増加が観察された。使用したリカバリンに対する抗体は、霊長類の杆体および錐状体光受容体には結合するが、ニワトリ細胞型のいずれにも結合しない。より具体的には、リカバリン免疫反応性細胞は、胚性ニワトリ網膜細胞が、幹細胞の供給源として添加された場合に、800,000μmあたり8.6個から78.9個まで細胞が増加した(図2A)。生存する光受容体の数のほぼ10倍の増加が観察された(図2Bおよび2C)。
【0064】
上記から、本発明の具体的な実施形態が例示の目的のために本明細書中に記載されているが、種々の改変が、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、サル網膜細胞およびトリ網膜細胞の免疫組織化学染色を示す。サル網膜細胞を、3ヶ月間培養した(図1A、1Bおよび1C)。トリ網膜細胞を14日間培養した(図1Dおよび1E)。細胞を、抗−β3−チューブリン抗体を使用して、免疫学的分析に供し(図1A、1Bおよび1E;例示的な細胞を、黒矢印で示す)、神経節細胞を同定し、カルチニンに対する抗体を使用して、アマクリン細胞および水平細胞を同定した(図1Aおよび1E、例示的な細胞を円で囲む)。これらの細胞を、DAPIで染色して、核を同定した(図1A、1B、1Dおよび1Eでは薄く染色した;代表的に染色された細胞を、図1A、1B、および1Dにおいて、白矢印で示す)。光受容細胞を、リカバリンに対する抗体(図1C;例示的な細胞を円で囲む);ビシニン(visinin)に対する抗体(D、例示的な細胞を白矢印で示す);または、光受容細胞の突起を染色するロドプシンに対する抗体(図1Cおよび1D;例示的な細胞を円で囲む)を用いて同定した。スケールバー:20μm。
【図2】図2は、サル毛様体細胞とトリ胚性細胞とを同時に培養した場合の、サル網膜細胞の生存を示す。図2Aは、800,000μmあたりのリカバリンを発現する細胞の数を示す棒グラフであり、胚性トリ網膜細胞と同時に培養しているか、または、同時に培養していない。図2Bは、サル細胞を単独で培養した場合の、抗リカバリン抗体を用いて免疫組織化学染色された細胞である、サル網膜細胞の数を示し、図2Cは、胚性トリ網膜細胞と同時培養した場合の、サル細胞の数を示す。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
成熟な神経細胞および毛様体から単離された細胞の混合物を含む、細胞培養系。
【請求項2】
前記成熟な神経細胞が成熟な網膜神経細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項3】
前記成熟な網膜神経細胞が、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞および光受容細胞からなる群から選択される、請求項2に記載の細胞培養系。
【請求項4】
成熟な網膜神経細胞および毛様体から単離された細胞の混合物を含む、網膜細胞培養系。
【請求項5】
前記成熟な網膜神経細胞が、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞および光受容体からなる群から選択される、請求項4に記載の網膜細胞培養系。
【請求項6】
成熟な網膜神経細胞および毛様体から単離された細胞の混合物を含む網膜細胞培養系であって、該成熟な網膜神経細胞は、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞および光受容細胞からなる群から選択される、網膜細胞培養系。
【請求項7】
(i)成熟な網膜神経細胞;(ii)毛様体から単離された細胞;および(iii)胚性網膜細胞の混合物を含む、網膜細胞培養系。
【請求項8】
前記胚性網膜細胞が網膜幹細胞を含む、請求項7に記載の細胞培養系。
【請求項9】
前記胚性網膜細胞が胚性網膜前駆細胞を含む、請求項7に記載の細胞培養系。
【請求項10】
前記成熟な網膜神経細胞が、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞および光受容細胞からなる群から選択される、請求項7に記載の細胞培養系。
【請求項11】
成熟な網膜神経細胞と、毛様体から単離された細胞とを同時に培養する工程を包含する、網膜細胞培養系を生成するための方法。
【請求項12】
成熟な網膜神経細胞と、毛様体から単離された細胞とを同時に培養する工程を包含する、インビトロにおいて成熟な網膜神経細胞の生存を増強するための方法。
【請求項13】
(i)成熟な網膜神経細胞;(ii)毛様体から単離された細胞;および(iii)胚性網膜細胞を同時に培養する工程を包含する、請求項11または請求項12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記胚性網膜細胞が、網膜幹細胞および胚性網膜前駆細胞からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
神経細胞の生存を増強し得る生物活性薬剤を同定するための方法であって、(i)請求項1〜10のいずれか1項に記載の細胞培養系の神経細胞と、候補薬剤との間の相互作用を許容する条件下で、かつ、該相互作用を許容するのに十分な時間、該候補薬剤と該細胞培養系とを接触させる工程;および(ii)該候補薬剤の存在下での該細胞培養系の神経細胞の生存と、該候補薬剤の不在下での該細胞培養系の神経細胞の生存とを比較し、そこから、該神経細胞の生存を増強し得る生物活性薬剤を同定する工程、を包含する、方法。
【請求項16】
神経細胞の神経変性を阻害し得る生物活性薬剤を同定するための方法であって、(i)請求項1〜10のいずれか1項に記載の細胞培養系の神経細胞と候補薬剤との間の相互作用を許容にする条件下で、かつ、該相互作用を許容するのに十分な時間、該生物活性薬剤と該細胞培養系とを接触させる工程;および(ii)該生物活性薬剤の存在下での該細胞培養系の神経細胞の構造と、該生物活性薬剤の不在下での該細胞培養系の神経細胞の構造とを比較し、そこから、該神経細胞の神経変性を阻害し得る生物活性薬剤を同定する工程、を包含する、方法。
【請求項17】
網膜疾患を処置し得る生物活性薬剤を同定するための方法であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の細胞培養系の神経細胞と候補薬剤との間の相互作用を許容する条件下で、かつ、該相互作用を許容するのに十分な時間、該生物活性薬剤と該細胞培養系とを接触させる工程;および(ii)該生物活性薬剤の存在下での該細胞培養系の神経細胞の神経変性と、該生物活性薬剤の不在下での該細胞培養系の神経細胞の神経変性とを比較し、そこから、網膜疾患を処置し得る生物活性薬剤を同定する工程、を包含する、方法。
【請求項18】
前記神経細胞が網膜神経細胞である、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記網膜疾患が、黄斑変性症、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、網膜色素変性症およびアルツハイマー病に関連する網膜障害からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
単離された網膜幹細胞の導入を必要とする被験体の網膜組織に、該単離された網膜幹細胞を導入する工程を包含する、網膜疾患を処置するための方法。
【請求項21】
前記網膜疾患が、黄斑変性症、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、網膜色素変性症およびアルツハイマー病に関連する網膜障害からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。

【図2】
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【公表番号】特表2006−506970(P2006−506970A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−521788(P2004−521788)
【出願日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/021968
【国際公開番号】WO2004/007749
【国際公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(504216387)ユニバーシティ オブ ワシントン (2)
【Fターム(参考)】