説明

神経細胞の細胞死抑制剤等

【課題】
神経細胞の細胞死を効果的に抑制するために用いることができる神経細胞の細胞死抑制剤、及び当該細胞死抑制剤を用いた細胞死抑制方法、並びに、上記の細胞死抑制剤を応用することにより細胞死耐性を獲得した神経細胞及びその製造方法を提供すること等。
【解決手段】
二糖分析によって決定されるΔDi−diSの含有率が30〜100%であるコンドロイチン硫酸を有効成分とする神経細胞の細胞死抑制剤、コンドロイチン硫酸Eを有効成分とする神経細胞の細胞死抑制剤、これらを用いる細胞死抑制方法及び細胞死耐性を獲得した神経細胞の製造方法、並びに上記製造方法によって製造される細胞死耐性を獲得した神経細胞等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンドロイチン硫酸を有効成分とする神経細胞の細胞死抑制剤、これを用いた細胞死抑制方法及び細胞死耐性を獲得した神経細胞の製造方法、及び上記製造方法によって製造される神経細胞等、並びにコンドロイチン硫酸を有効成分とする神経細胞の保護剤、及びこれを用いた保護方法、並びに上記細胞死抑制剤又は神経細胞の保護剤を応用した組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に、本明細書において用いる略号を示す。
NMDA:N−メチル−D−アスパラギン酸
AMPA:α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸
KA:カイニン酸

従来より、グルタミン酸及びアスパラギン酸等の興奮性アミノ酸によって、神経細胞のの細胞死が引き起こされることが知られており、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンが興奮性アミノ酸による神経細胞の細胞死を抑制することについても知られている(非特許文献1等)。しかしながら、コンドロイチン硫酸Eが神経細胞の細胞死を抑制する効果については知られていない。
【0003】
一方、例えば脳性麻痺等の周生期脳障害においては、仮死や脳出血後における興奮性アミノ酸の放出による神経細胞の細胞死が原因の一つであることも知られている(非特許文献2等)。
【0004】
【非特許文献1】オカモト Mら、ニューロサイエンス・レターズ、1994年、第172巻、p.51−54
【非特許文献2】ジョンストン MVら、ブレイン・パソロジー、2005年、第15巻、第3号、p.234−240
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、神経細胞の細胞死を効果的に抑制するために用いることができる神経細胞の細胞死抑制剤、及び当該細胞死抑制剤を用いた細胞死抑制方法、並びに、上記の細胞死抑制剤を応用することにより細胞死耐性を獲得した神経細胞及びその製造方法を提供すること等を課題とする。また本発明は、神経細胞を変性及び変質等から保護するために用いることができる神経細胞の保護剤、及び当該保護剤を用いた神経細胞の保護方法を提供すること等を課題とする。また本発明は、上記の神経細胞の細胞死抑制剤又は保護剤を応用した組成物を提供すること等を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、コンドロイチン硫酸Eが神経細胞の細胞死を抑制する効果を有し、神経細胞の細胞死抑制剤の有効成分として非常に好適であること等を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は下記のものを提供する。
(1)二糖分析によって決定されるΔDi−diSの含有率が30〜100%であるコンドロイチン硫酸を有効成分とする、神経細胞の細胞死抑制剤。
(2)コンドロイチン硫酸Eを有効成分とする、神経細胞の細胞死抑制剤。
【0007】
(以下、上記(1)及び(2)をまとめて「本発明細胞死抑制剤」ということがある。)
(3)細胞死が、興奮性アミノ酸受容体を介して惹起される細胞死である、上記(1)又は(2)に記載の細胞死抑制剤。
(4)興奮性アミノ酸受容体を介して惹起される細胞死が、下記群から選択される1又は2以上の物質によって惹起される細胞死である、上記(3)に記載の細胞死抑制剤;
NMDA、KA、AMPA、グルタミン酸、アスパラギン酸。
(5)細胞死がアポトーシスである、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の細胞死抑制剤。
(6)神経細胞に上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の細胞死抑制剤を接触させるステップを少なくとも含む、神経細胞の細胞死抑制方法(以下、「本発明細胞死抑制方法」という)。
(7)神経細胞に上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の細胞死抑制剤を接触させるステップを少なくとも含む、細胞死耐性を獲得した神経細胞の製造方法(以下、「本発明神経細胞製造方法」という)。
(8)上記(7)に記載の製造方法によって製造される、細胞死耐性を獲得した神経細胞(以下、「本発明神経細胞」という)。
【0008】
さらに本発明は、下記のものをも提供する。
(9)神経細胞と、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の細胞死抑制剤とを有効成分として少なくとも含む組成物(以下、「本発明組成物1」という)。
(10)二糖分析によって決定されるΔDi−diSの含有率が30〜100%であるコンドロイチン硫酸を有効成分とする、神経細胞の保護剤。
(11)コンドロイチン硫酸Eを有効成分とする、神経細胞の保護剤。
(以下、上記(10)及び(11)をまとめて「本発明保護剤」ということがある。)
(12)神経細胞に上記(10)又は(11)に記載の保護剤を接触させるステップを少なくとも含む、神経細胞の保護方法(以下、「本発明保護方法」という)。
(13)神経細胞と、上記(10)又は(11)に記載の保護剤とを有効成分として少なくとも含む組成物(以下、「本発明組成物2」という)。
【発明の効果】
【0009】
本発明細胞死抑制剤、本発明細胞死抑制方法、又は本発明組成物1によれば、神経細胞の細胞死を非常に効果的に、且つ簡便に抑制することができる。またこれらは、試薬、医薬、健康食品及び機能性食品等、並びにこれらの利用等において好適に用いることができる。また、本発明神経細胞は、細胞死耐性を獲得した神経細胞であることから、神経細胞の過剰な細胞死によって引き起こされる疾患又は障害の治療、改善、緩和又は予防等を目的とした移植用の細胞等として好適に用いることができる。また、本発明神経細胞製造方法によれば、本発明神経細胞を効率的且つ簡便に製造することができる。また本発明保護剤、本発明保護方法、又は本発明組成物2によれば、神経細胞を細胞死、変性及び変質等の原因となる刺激及び変化等から、非常に効果的に、且つ簡便に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、発明を実施するための最良の形態により本発明を詳説する。
<1> 本発明細胞死抑制剤
本発明細胞死抑制剤は、二糖分析によって決定されるΔDi−diSの含有率が30〜100%であるコンドロイチン硫酸を有効成分とする、神経細胞の細胞死抑制剤を提供する。
【0011】
上記において二糖分析は、コンドロイチン硫酸に作用して不飽和二糖を生成させる酵素を用いてコンドロイチン硫酸を酵素処理し、該コンドロイチン硫酸の構成二糖を反映して生成する不飽和二糖を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、同定及び定量することを意味する。
【0012】
上記の酵素としては、最終的に不飽和二糖まで分解できる限りにおいて特に限定されないが、例えばコンドロイチナーゼを用いることができる。
【0013】
上記のHPLCによる方法は、当業者には公知の方法であり、コンドロイチン硫酸を酵素処理して得た不飽和二糖の溶出位置を、標準不飽和二糖の溶出位置と比較することにより行うことができる。HPLCの溶出位置は、通常紫外部(例えば波長232nm)の吸収によりモニターし、各二糖単位のコンドロイチン硫酸中での含量は、その溶出パターンの積分値(面積)を濃度既知の標準不飽和二糖の溶出パターンの積分値(面積)と比較することにより求めることができる。
【0014】
近接する溶出位置をもつΔDi−UA2S〔2-acetamido-2-deoxy-3-O-(2-O-sulfo- β-D-gluco-4-enopyranosyluronic acid)-D-galactose 〕、ΔDi−4S及びΔDi−6Sの区別、並びに、ΔDi−diS 〔2-acetamido-2-deoxy-3-O-(2-O-sulfo- β-D-gluco-4-enopyranosyluronic acid)-4-O-sulfo-D-galactose 〕及びΔDi−diSE の厳密な区別は、特異的なスルファターゼ(例えばコンドロ−6−スルファターゼ等)による消化により行うことができる。
【0015】
すなわち、例えば不飽和二糖をコンドロ−6−スルファターゼにより処理した結果、HPLCの溶出位置がΔDi−4Sの位置にシフトした分がΔDi−diSであると同定される。また、溶出位置が近接する不飽和二糖同士の分離が可能なカラム(例えば、ゾルバックス SAX(Zorbax SAX)カラム;Rockland Technologies 社製等)を用いて、これら不飽和二糖を厳密に区別することが可能である。
【0016】
なお、グルコサミノグリカン中のD−グルクロン酸残基の1位とN−アセチル−D−ガラクトサミン残基の4, 6−二硫酸化物の3位とがグリコシド結合した構造、及びL−イズロン酸残基の1位とN−アセチル−D−ガラクトサミン残基の4, 6−二硫酸化物の3位とがグリコシド結合した構造は、二糖分析においてはいずれもΔDi−diS として検出される。
【0017】
なお、より具体的な二糖分析の方法については、後述する製造例を参照されたい。
【0018】
上記の本発明細胞死抑制剤における有効成分のコンドロイチン硫酸は、二糖分析によって決定されるΔDi−diSの含有率が30〜100%であることを特徴としている。
【0019】
このようなコンドロイチン硫酸は、上記の二糖分析における特徴を有している限りにおいて、その起源等によって特に限定されるものではなく、天然から得られるコンドロイチン硫酸及び天然から得られるコンドロイチン硫酸を化学的又は酵素的に改変したコンドロイチン硫酸(以下、「半合成コンドロイチン硫酸」と記載することがある)のいずれであってもよい。
【0020】
本発明細胞死抑制剤の有効成分としては、コンドロイチン硫酸Eを用いることが最も好ましい。
【0021】
すなわち、本発明細胞死抑制剤は、コンドロイチン硫酸Eを有効成分とする、神経細胞の細胞死抑制剤を提供する。
【0022】
コンドロイチン硫酸Eは、例えば、イカやナマコ等に例示される当該コンドロイチン硫酸Eを含む原料から、物理的抽出法、酵素抽出法、有機溶媒分画法、イオン交換樹脂分画法に例示される通常の方法を、単独で、又は組み合わせて採用することにより、抽出・精製して得ることができる。
【0023】
なお、原料としてイカを用いる場合、イカの軟骨由来のコンドロイチン硫酸Eを用いることが好ましく、マイカ及び/又はアカイカの軟骨由来のコンドロイチン硫酸Eを用いることがより好ましい。なお、イカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Eは、生化学工業株式会社より市販されており、本発明においてはこのような市販のコンドロイチン硫酸を用いることもできる。
【0024】
一方、二糖分析によって決定されるΔDi−diSの含有率が30〜100%である半合成コンドロイチン硫酸の具体例としては、例えばガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸E及びガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸Aが例示される。
【0025】
ガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸Eは、例えば上述したようなコンドロイチン硫酸Eを出発物質として、またガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸Aはコンドロイチン硫酸Aを出発物質として用い、ガラクトサミンの6位を特異的に硫酸化することにより得ることができる。ガラクトサミンの6位を特異的に硫酸化する方法としては、例えば特公平6−99485号公報や K. Nagasawa, H. Uchiyama, N. Wajima, Carbohydr. Res., 158, 183 (1986)に記載の方法を挙げることができる。この方法は、ヘキソサミン残基の4位が硫酸化されているコンドロイチン硫酸の塩を、極性有機溶媒中で硫酸化試薬と反応させることによりヘキソサミン残基の6位を特異的に硫酸化するという方法である。この反応に用いることのできる極性有機溶媒は、反応に影響しないものであればどのような溶媒でもよく、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ピリジン、トリメチルアミン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などを挙げることができる。硫酸化試薬は、例えばピリジン−SO3複合体、N,N−ジメチルホルムアミド−SO3 複合体、トリメチル(又はトリエチル)アミン−SO3 複合体等を用いることができる。硫酸化反応の反応温度は、−10〜30℃、好ましくは0〜10℃である。反応時間は、30分間〜5時間であり、好ましくは1時間〜2時間である。反応により得られるコンドロイチン硫酸は、通常の分離方法によって反応混合物から単離することができ、必要により精製することができる。
【0026】
また近年、コンドロイチンやコンドロイチン硫酸のN−アセチルガラクトサミン残基の6位に選択的に硫酸基を転移する酵素である「コンドロイチン 6−スルホトランスフェラーゼ」が精製されており(J. Biol. Chem. 268(29), 21968-21974 (1993))、このスルホトランスフェラーゼを用いて、酵素的に6位に選択的に硫酸基を導入する方法によっても上記コンドロイチン硫酸を調製することができる。
上述のコンドロイチン硫酸E及び半合成コンドロイチン硫酸の調製方法/入手方法は例示のためのものであり、最終的に本発明細胞死抑制剤の有効成分のコンドロイチン硫酸が得られる限り、調製方法は特に限定されない。
【0027】
以下、コンドロイチン硫酸E及び半合成コンドロイチン硫酸の具体的な製造例と分析結果を例示する。
製造例1:マイカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Eの製造
マイカより採取した軟骨240gを細断し、20分間煮沸した後、水240mlとアクチナーゼ(科研製薬株式会社製)2.4gで、pH7.5、55℃の条件下で一晩抽出した。この抽出液に炭酸ナトリウム1.2gを添加して、pH10.5、50℃の条件下で1時間攪拌した後、ろ過し、ろ液を200mlまでに濃縮した。この濃縮溶液を0.5N NaOH水溶液及び0.2%NaHSO3 水溶液により35℃で2時間アルカリ処理した後、エタノール200ml、エタノール+3%酢酸ナトリウム(pH4.8)200ml、エタノール+3%酢酸ナトリウム(pH4.8)240mlで3回分画し、その溶液を、レジンHPA−11M(三菱化成株式会社(現三菱化学株式会社)製)に吸着させた。塩化ナトリウム濃度を3.7M にしたときの溶出液を濃縮、ろ過し、純水に対して透析したものを200mlまで濃縮した。この濃縮溶液に活性炭0.5gを加え、pH4.8、50℃条件下で1時間攪拌した。その後、ろ過、精密ろ過を行い、4倍量のエタノールを加えて得た沈殿物を乾燥し、コンドロイチン硫酸Eロット1(マイカ軟骨由来)を得た。
【0028】
また上記と同様の方法で、マイカより採取した別のロットの軟骨から、コンドロイチン硫酸Eロット2(マイカ軟骨由来)を得た。
製造例2:アカイカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Eの製造
製造例1と同様の方法で、アカイカより採取した軟骨から、コンドロイチン硫酸E(アカイカ軟骨由来)を調製した。
製造例3:アカイカ軟骨由来のガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸Eの製造
製造例2で調製したアカイカ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Eのガラクトサミン残基の6位の特異的硫酸化を、後述する製造例4と同様に行い、ガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸E(アカイカ軟骨由来)を得た。
製造例4:チョウザメ脊索由来のガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸Aの製造
チョウザメ脊索由来のコンドロイチン硫酸A(平均分子量:1万、生化学工業株式会製)3gを水150mlに溶解し、6℃でDowex 50〔H+ 〕カラム(ダウケミカル製)でイオン交換した後、10%トリ−n−ブチルアミン/エタノールでpH5.0に調整し、ジエチルエーテル300mlで2回洗浄した。20℃で減圧下でエーテルを留去した後、水層を凍結乾燥し、さらに五酸化リン存在下に減圧乾燥してコンドロイチン硫酸Aのトリ−n−ブチルアミン塩を調製した。この塩をDMF300mlに溶解した後に、0℃でピリジン−SO3 複合体(アルドリッチ社製)7.5g/DMF100mlをゆっくり滴下し、1時間攪拌して硫酸化した。水100mlを添加して反応を止め、0.1N NaOH水溶液でpH9.0に調整した後、流水で透析し、40℃下、エバポレーターで濃縮し、イオン交換(SA−12A(三菱化学株式会社製):150ml及びPK−220(三菱化学株式会社製):150ml)に付した。1N NaOH水溶液で中和した後、40℃下、エバポレーターで濃縮し、5%になるように酢酸ナトリウムを加え、5倍量のエタノールを加えて得た沈殿物を乾燥し、ガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸A(チョウザメ脊索由来)を得た。
製造例5:クジラ軟骨由来のガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸Aの製造
クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸A(平均分子量:2万5千〜5万、生化学工業株式会社製)を上記製造例4と同様に処理し、ガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸Aロット1(クジラ軟骨由来)を得た。
【0029】
また、クジラより採取した別のロットの軟骨から、上記と同様の方法でガラクトサミン6位硫酸化コンドロイチン硫酸Aロット2(クジラ軟骨由来)を調製した。
【0030】
上記で製造したコンドロイチン硫酸E及び半合成コンドロイチン硫酸について、コンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸Cの標準標品をスタンダードとしたゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography;以下、「GPC」とする) を用いた光散乱法によって求めた分子量、及び硫黄含量の測定結果を下記表1に、また、二糖分析の測定結果を下記表2に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

表2中で、「N.D.」は検出限界以下であることを示す。また、表2中で0S、4S、6S、diSD、diSE及びtriSは、コンドロイチナーゼABC(リアーゼの一種)処理により生成した後述の式(1)の不飽和二糖を表し、その硫酸基組成と共に下記表3に示す。
【0033】
【表3】

本発明細胞死抑制剤の有効成分のコンドロイチン硫酸は、その薬学上許容しうる塩であってもよい。例えば、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との間で形成された塩又はジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩のうち、薬学上許容しうる塩を本発明において用いることができる。
【0034】
本発明細胞死抑制剤の有効成分のコンドロイチン硫酸の分子量は、特に限定されないが、より効果的な神経細胞の細胞死抑制効果を得ることが期待されるといった観点から、平均分子量が5kDa〜150kDaのコンドロイチン硫酸を用いることが好ましく、5kDa〜100kDaのコンドロイチン硫酸を用いることがより好ましく、5kDa〜75kDaのコンドロイチン硫酸を用いることが極めて好ましく、25kDa〜75kDaのコンドロイチン硫酸を用いることが最も好ましい。
【0035】
なおコンドロイチン硫酸の平均分子量は、同一試料でも測定方法や測定条件等によって多少異なることは当業者にとって常識であり、本発明細胞死抑制剤の有効成分のコンドロイチン硫酸は、上記平均分子量の範囲のものに厳密に限定されるべきものではない。
【0036】
本発明細胞死抑制剤は、神経細胞の細胞死を抑制する目的で用いることができる。
【0037】
上記の神経細胞は、その由来によって特に限定されるものではないが、具体的な由来としては、例えば大脳皮質(なかでも大脳新皮質、海馬等の大脳辺縁系皮質等)、間脳(なかでも視床、視床下部、大脳基底核等)、小脳、橋、延髄及び脊髄等の中枢神経系、又は体表、深部組織及び内臓器官等に分布する末梢神経系に例示される神経系を構成する組織又は器官等が例示されるが、なかでも中枢神経系を構成する組織又は器官等であることが好ましく、なかでも大脳皮質であることがより好ましい。また、神経細胞は、例えばヒト由来の胚性幹細胞等の幹細胞を分化させて得られるものであってもよい。
【0038】
神経細胞は、その存在形態によって特に限定されるものではなく、例えば上記の神経系を構成する器官又は組織等の一部分として存在するものであってもよく、当該器官又は組織等から分離又は単離された細胞として存在するものであってもよいが、後者であることが好ましい。また、神経細胞は例えば生物体内に存在するものであってもよく、生物体外に摘出、分離又は単離されたものであってもよいが、後者であることが好ましい。生物体外に摘出、分離又は単離され、且つ神経系を構成する器官又は組織等から分離又は単離された神経細胞としては、例えば大脳皮質を由来として分離、培養して得られる神経細胞が好ましいものとして例示される。当該神経細胞のより具体的な入手方法等については、後述する実施例を参照されたい。
【0039】
上記において生物体は、その種類によって特に限定されるものではないが、例えばヒト、マウス、ラット、ブタ、ウマ、イヌ及びネコ等に例示される動物であることが好ましく、なかでもヒトであることがより好ましい。また上記の生物体は、その生死状態によっても特に限定されるものではなく、生存状態、死亡状態、仮死状態及び脳死状態等に例示されるいずれの状態であってもよい。また上記の生物体は、その年齢等によっても特に限定されるものではないが、例えば胎児であることが好ましい。
【0040】
また、神経細胞はその種類も特に限定されるものではないが、例えば興奮性神経細胞であることが好ましい。
【0041】
上記の細胞死の種類は特に限定されず、壊死(necrosis)であってもよく、プログラムされた細胞死(programmed cell death)であってもよいが、プログラムされた細胞死であることが好ましく、なかでもアポトーシスであることがより好ましい。
【0042】
また、上記の細胞死が惹起されるメカニズムについても特に限定されないが、本発明細胞死抑制剤は、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、NMDA、KA又はAMPAに例示される興奮性アミノ酸等に対する受容体である、興奮性アミノ酸受容体を介して惹起される神経細胞の細胞死を抑制する目的で好適に用いることができる。
【0043】
また、細胞死がアポトーシスである場合、本発明細胞死抑制剤はカスパーゼ3の活性を抑制することにより、細胞死を抑制する効果を発揮することが好ましい。したがって本発明細胞死抑制剤は、「カスパーゼ3の活性抑制剤」なる概念をも包含する。
【0044】
本発明細胞死抑制剤は、神経細胞の細胞死を抑制する目的で用いられる限りにおいて、その使用方法によって限定されるものではない。よって、本発明細胞死抑制剤を用いるタイミングは、神経細胞の細胞死を抑制する効果が期待されるタイミングである限りにおいて特に限定されず、神経細胞の細胞死が誘発される前のタイミングで本発明細胞死抑制剤を当該神経細胞に接触させてもよく、神経細胞の細胞死が誘発された後のタイミングで本発明細胞死抑制剤を当該神経細胞に接触させてもよく、上記の両方のタイミングで本発明細胞死抑制剤を当該神経細胞に接触させてもよいが、神経細胞の細胞死が誘発される前のタイミングで本発明細胞死抑制剤を当該神経細胞に接触させることが、細胞死が誘発される前の段階において神経細胞に細胞死に対する耐性を獲得させておくことにより、細胞死を効果的に予防することが期待されるといった観点から好ましいといえる。なお、本明細書においては、細胞死に対する耐性を、単に「細胞死耐性」と記載することがある。
【0045】
上記において「誘発」とは、神経細胞の細胞死の原因となり得る現象が起こることを意味するが、このような現象としては、例えばグルタミン酸、NMDA、KA及びAMPA等の興奮性アミノ酸の増加等が例示される。
以上に説明した様に、本発明細胞死抑制剤は、神経細胞に細胞死耐性を獲得させるために用いられる「耐性付与剤」、及び神経細胞の「細胞死予防剤」の概念をも包含する。
本発明細胞死抑制剤を当該神経細胞に接触させる方法は、本発明細胞死抑制剤の有効成分のコンドロイチン硫酸の分子と神経細胞とが接触する条件である限りにおいて限定されない。接触を行う時間としては、好ましくは1〜48時間が例示され、より好ましくは3〜24時間が例示される。また接触を行う際の温度についても特に限定されないが、20℃〜40℃であることが好ましく、37℃であることがより好ましい。
【0046】
本発明細胞死抑制剤は、神経細胞の細胞死を抑制する目的で用いられる限りにおいて、その品目等によっても限定されるものではないが、具体的な品目としては、例えば試薬、医薬、健康食品及び機能性食品等が例示される。以下、上記の各品目について、その使用目的、使用方法及び使用形態等の詳細について具体例を示すが、これらはあくまでも例示であり、本発明細胞死抑制剤はこれらによって限定的に解釈されるべきものではない。
【0047】
本発明細胞死抑制剤を試薬として用いる場合、インビトロにおいて用いてもよく、インビボにおいて用いてもよい。
当該試薬をインビトロで用いる場合、例えば神経細胞に細胞死耐性を獲得させる目的で、細胞死が誘発される前の神経細胞に接触させることにより用いることができる。この様にして得られる細胞死耐性を獲得した細胞は、神経細胞の細胞死が関連する疾患又は障害、好ましくは神経細胞の過剰な細胞死によって引き起こされる疾患又は障害の治療、改善、緩和又は予防等を目的とした移植のために用いられる神経細胞として、好適に用いることができる。このような疾患又は障害の具体例としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳性麻痺等の周生期脳障害、脳梗塞、仮死、脳出血及び脳の物理的損傷に伴う疾患又は障害等が挙げられる。当該神経細胞及びその製造方法等については、後述する<3>本発明神経細胞製造方法及び<4>本発明神経細胞における説明を参照されたい。
【0048】
上記試薬をインビボで用いる場合、例えばマウス、ラット、ブタ、ウマ、イヌ及びネコ等に例示される動物の脳室内、又は脳脊髄液腔内等に例示される部位に、当該試薬を投与することにより用いることができる。投与の方法については特に限定されないが、具体的には後述する本発明細胞死抑制剤を医薬として用いる場合における説明を参照されたい。
【0049】
本発明細胞死抑制剤を医薬として用いる場合、例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、脳性麻痺等の周生期脳障害、脳梗塞、仮死、脳出血及び脳の物理的損傷に伴う疾患又は障害等に例示される、神経細胞の細胞死によって引き起こされる疾患又は障害、より好ましくは神経細胞の過剰な細胞死によって引き起こされる疾患又は障害の治療、改善、緩和又は予防等を目的として用いることができる。
【0050】
すなわち、本発明細胞死抑制剤は、上記のような疾患又は障害の「治療剤」、「改善剤」、「緩和剤」及び「予防剤」の概念をも包含する。
【0051】
本発明細胞死抑制剤を医薬として用いる場合において、当該医薬はその投与対象によって特に限定されるものではないが、例えばヒト、ウマ、イヌ及びネコ等の動物を投与対象とすることが好ましい。
【0052】
また、上記医薬は、その投与方法によっても特に限定されるものではないが、例えば注射、経口等の投与方法によって経口又は非経口的に投与することができるが、例えば脳室内注射及び脊髄液腔内注射に例示される注射によって投与することが好ましい。上記の投与方法は、対象となる疾患又は障害の性質や重篤度等に応じて、適宜選択することができる。
本発明細胞死抑制剤は、これらの投与方法に応じて適宜製剤化することができる。選択し得る剤型も特に限定されず、例えば注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、坐剤等から広く選択することができる。
【0053】
また、これらの製剤調製にあたり慣用の賦形剤、結合剤、滑沢剤、その他着色剤、崩壊剤等通常医薬品の製剤上用いられる成分を配合することができる。さらに、本発明細胞死抑制剤には、有効成分のコンドロイチン硫酸以外の物質として、細胞死抑制作用を有する他の物質を有効成分として配合することもできる。
上述の「細胞死抑制作用を有する他の物質」は、本発明細胞死抑制剤の有効成分のコンドロイチン硫酸との組合せ配合又は組合せ投与により、重篤な副作用が惹起されない限りにおいて、また、一方の物質が他方の物質の本来有する細胞死抑制作用を阻害する物質ではない限りにおいて、特に限定されない。
【0054】
本発明細胞死抑制剤の有効成分のコンドロイチン硫酸の配合量並びに本発明細胞死抑制剤の投与量は、その製剤の投与方法、投与形態、使用目的、患者の具体的症状、患者の体重等に応じて個別的に決定されるべき事項であり、特に限定はされないが、コンドロイチン硫酸の臨床投与量として1日当り約0.1mg/kg 〜300mg/kg を例示することができる。また、上記製剤の投与間隔は1日1回程度でも可能であり、1日2〜4回、又はそれ以上の回数に分けて投与することもできる。また、例えば点滴等により連続的に投与することも可能である。
【0055】
なお、後述する実施例においては、本発明細胞死抑制剤のコンドロイチン硫酸の毒性は確認されなかった。コンドロイチン硫酸ナトリウムは、マウス(♂、♀)及びラット(♂、♀)に対する毒性が低いことは知られている。またコンドロイチン硫酸Eは、抗トロンビン活性がヘパリンに比較して極めて弱いことが報告されている(J. Biol. Chem., 265(26), 15424-15431, 1990)。これらのことから、本発明細胞死抑制剤の有効成分のコンドロイチン硫酸の安全性は高いといえる。
【0056】
上記の医薬によって神経細胞の細胞死が抑制されたか否かは、例えば下記の様にして判断することができる。すなわち、当該医薬を用いることにより、神経細胞の細胞死によって引き起こされる疾患又は障害が引き起こされる確率が低減した場合、上記疾患又は障害の程度が改善された場合、又は、公知の臨床学的方法により神経細胞の細胞死が抑制されたことが確認された場合等においては、神経細胞の細胞死が抑制されたと判断することができる。
【0057】
本発明細胞死抑制剤を健康食品又は機能性食品として用いる場合においては、例えば神経細胞の細胞死が関連する疾患又は障害、好ましくは神経細胞の過剰な細胞死によって引き起こされる疾患又は障害の改善、緩和又は予防等を目的として用いることができる。
【0058】
本発明細胞死抑制剤の形態は、その摂取方法に応じて適宜選択することができ、例えばタブレットに例示される固形、粉末、顆粒、ゼリー及び液体等に例示される形態を選択することができる。
【0059】
摂取量についても特に限定されないが、例えば大人が摂取する場合、一日当たり有効成分の重量として、例えば約100〜2000mg摂取することが好ましく、約200〜1000mg摂取することがより好ましい。
【0060】
健康食品又は機能性食品の調製にあたっては、慣用の食用成分を配合することができる。さらに、有効成分のコンドロイチン硫酸以外の物質として、細胞死抑制作用を有する他の食用成分を有効成分として配合することもできる。
【0061】
上記の健康食品又は機能性食品によって神経細胞の細胞死が抑制されたか否かは、上述した医薬の場合と同様の方法により、判断することができる。

<2> 本発明細胞死抑制方法
本発明細胞死抑制方法は、神経細胞に本発明細胞死抑制剤を接触させるステップを少なくとも含む、神経細胞の細胞死抑制方法である。
【0062】
上記の「本発明細胞死抑制剤」及び「接触」に関する説明については、<1>本発明細胞死抑制方法における説明を参照されたい。
【0063】
本発明細胞死抑制方法は、例えば本発明細胞死抑制剤を生物体外において神経細胞に接触させる場合、上記以外のステップとして、例えば神経細胞を含む器官又は組織等を生物体外に摘出するステップ、上記の器官又は組織等から神経細胞を分離又は単離するステップ、本発明細胞死抑制剤を接触させる前に分離又は単離された神経細胞を培養するステップ、本発明細胞死抑制剤を接触させた後の神経細胞を培養するステップ、神経細胞が細胞死耐性を獲得したか否か、又は細胞死抑制効果が得られたか否かを評価するステップ等に例示されるその他のステップを含んでいてもよい。
【0064】
上記の培養における培養温度は特に限定されないが、好ましくは20℃〜40℃、より好ましくは37℃において培養することが好ましい。
【0065】
また、細胞死耐性を評価するステップについては、後述する<3>本発明神経細胞製造方法における説明を参照されたい。
【0066】
一方、例えば本発明細胞死抑制剤を生物体内において神経細胞に接触させる場合、上記以外のステップとして、例えば本発明細胞死抑制剤を接触させる前に神経細胞を含む器官又は組織等を露出させるステップ、及び本発明細胞死抑制剤を接触させた後に上記露出を行った部位を処置するステップ、細胞死抑制効果が得られたか否かを評価するステップ等に例示されるその他のステップを含んでいてもよい。
【0067】
本発明細胞死抑制方法は、これを行う目的等によって特に限定されるものではないが、例えば神経細胞に細胞死耐性を獲得させることを目的として、又は、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳性麻痺等の周生期脳障害、脳梗塞、仮死、脳出血及び脳の物理的損傷に伴う疾患又は障害等に例示される、神経細胞の細胞死によって引き起こされる疾患又は障害、より好ましくは神経細胞の過剰な細胞死によって引き起こされる疾患又は障害の治療、改善、緩和又は予防すること等を目的として好適に行うことができる。これらに関する説明ついては、<1>本発明細胞死抑制剤における説明を参照されたい。
【0068】
なお、本発明細胞死抑制方法において、本発明細胞死抑制剤を生物体内において神経細胞に接触させる場合、当該生物体はヒトを除く動物であることが好ましい。

<3> 本発明神経細胞製造方法
本発明神経細胞製造方法は、神経細胞に本発明細胞死抑制剤を接触させるステップを少なくとも含む、細胞死耐性を獲得した神経細胞の製造方法である。
【0069】
上記において、「神経細胞」、「本発明細胞死抑制剤」、「接触」に関する説明については、<1>本発明細胞死抑制方法における説明を参照されたい。
【0070】
また、本発明神経細胞製造方法は、上記以外のステップとして、例えば神経細胞を含む器官又は組織等を生物体外に摘出するステップ、上記の器官又は組織等から神経細胞を分離又は単離するステップ、本発明細胞死抑制剤を接触させる前に分離又は単離された神経細胞を培養するステップ、本発明細胞死抑制剤を接触させた後の神経細胞を培養するステップ、神経細胞が細胞死耐性を獲得したか否かを評価するステップ等に例示されるその他のステップを含んでいてもよい。
【0071】
上記の培養における培養温度は特に限定されないが、好ましくは20℃〜40℃、より好ましくは37℃において培養することが好ましい。
【0072】
神経細胞が細胞死耐性を獲得したか否かは、例えば下記のようにして評価することができる。すなわち、まず本発明細胞死抑制剤を接触させた後の神経細胞と、本発明細胞死抑制剤を接触させてないコントロールの神経細胞に、それぞれNMDA、KA、AMPAに例示される興奮性アミノ酸を加えて細胞死を誘発する。細胞死の誘発後、約24時間後に、細胞死の程度を乳酸脱水素酵素(以下、「LDH」と略記する)の活性を測定することにより、又は生存細胞の指標であるMAP2陽性細胞の数をカウントすることにより評価する。LDHは一般に、細胞死によって細胞外に放出される。従って、培地中のLDH活性が高い程細胞死の程度が高く、当該活性が低い程細胞死の程度が低いと評価することができる。本発明細胞死抑制剤を用いた場合において、コントロールの場合と比較して、上記の様にして評価される神経細胞の細胞死の程度が低ければ、神経細胞が細胞死耐性を獲得したものと評価することができる。
【0073】
本発明神経細胞製造方法によって製造される神経細胞については、後述する<4>本発明神経細胞を参照されたい。

<4>本発明神経細胞
本発明神経細胞は、本発明神経細胞製造方法によって製造される、細胞死耐性を獲得した神経細胞である。
【0074】
本発明神経細胞製造方法については、上記<3>本発明神経細胞製造方法における説明を参照されたい。また、神経細胞が細胞死耐性を獲得したか否かについても、例えば上記<3>本発明神経細胞製造方法で例示した方法により確認することができる。
【0075】
本発明神経細胞は、その使用目的及び使用方法等によって限定されるものではないが、
本発明神経細胞は、細胞死耐性を獲得した神経細胞であることから、例えば神経細胞の過剰な細胞死によって引き起こされる疾患又は障害の治療、改善、緩和又は予防等を目的とした移植用の細胞等として好適に用いることができる。
【0076】
上記の移植において、本発明神経細胞が移植される部位については、特に限定されないが、例えば本発明神経細胞を、脳梗塞の治療、改善又は緩和等を目的とした移植用の細胞として用いる場合、梗塞部位に本発明神経細胞を移植することが好ましい。

<5>本発明組成物1
本発明組成物1は、神経細胞と、本発明細胞死抑制剤とを有効成分として少なくとも含む組成物である。
【0077】
上記において、本発明細胞死抑制剤、及び「神経細胞」に関する説明ついては、上記<1>本発明細胞死抑制剤における説明を参照されたい。
【0078】
本発明組成物1は、神経細胞及び本発明細胞死抑制剤以外の成分として、緩衝剤、保存剤等に例示されるその他の成分を含んでいてもよい。
【0079】
本発明組成物1は、その使用目的及び使用方法等によって限定されるものではないが、例えば神経細胞の過剰な細胞死によって引き起こされる疾患又は障害の治療、改善、緩和又は予防等を目的とした細胞の移植のために用いられる組成物として好適に用いることができる。
【0080】
発明組成物1のより具体的な使用方法については、上記<4>本発明神経細胞における「本発明神経細胞」なる用語を、「本発明組成物1」なる用語に置き換えた説明を参照することができる。
【0081】
また上記の移植の方法についても、上記<4>本発明神経細胞における説明を参照されたい。

<6>本発明保護剤
本発明は、二糖分析によって決定されるΔDi−diSの含有率が30〜100%であるコンドロイチン硫酸を有効成分とする、神経細胞の保護剤を提供する。
【0082】
また本発明は、コンドロイチン硫酸Eを有効成分とする、神経細胞の保護剤を提供する。
【0083】
上記における、「二糖分析」及び「神経細胞」なる用語、並びに「ΔDi−diSの含有率が30〜100%であるコンドロイチン硫酸」に関する説明等については、<1>本発明細胞死抑制剤における説明を参照されたい。
【0084】
本発明保護剤は、神経細胞を保護する目的として用いられるものである限り、その他の目的等によって限定されるものではないが、例えば神経細胞を、細胞死、変性及び変質等の原因となる刺激及び変化等から保護する目的で用いることができる。
【0085】
上記の細胞死、変性及び変質等は、これらが惹起されるメカニズム等によって限定されるものではないが、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、NMDA、KA又はAMPAに例示される興奮性アミノ酸等に対する受容体である、興奮性アミノ酸受容体を介して惹起されるものであることが好ましい。また、上記の細胞死、変性及び変質等がアポトーシス、又はアポトーシスに関連して引き起こされる変性又は変質等である場合、本発明保護剤はカスパーゼ3の活性を抑制することにより、その神経細胞の保護効果を発揮することが好ましい。したがって本発明保護剤は、「カスパーゼ3の活性抑制剤」なる概念をも包含する。
【0086】
本発明保護剤は、その使用方法によって限定されるものではないが、例えば本発明保護剤を、神経細胞を細胞死の原因となる刺激及び変化等から保護する目的で用いる場合、例えば<1>本発明細胞死抑制剤に記載の本発明細胞死抑制剤の使用方法と同様の方法により使用することができる。
【0087】
本発明保護剤をその他の目的で用いる場合においては、<1>本発明細胞死抑制剤に記載の方法における「細胞死」なる用語を、「変性」又は「変質」等の用語に置き換えた説明を、使用方法の例示として参照することができる。
【0088】
また、本発明保護剤は、神経細胞を保護する目的で用いられる限りにおいて、その品目等によっても限定されるものではないが、具体的な品目としては、例えば試薬、医薬、健康食品及び機能性食品等が例示される。各品目についての、その使用目的、使用方法及び使用形態等の詳細については、例えば本発明保護剤を、神経細胞を細胞死の原因となる刺激及び変化等から保護する目的で用いる場合、<1>本発明細胞死抑制剤における説明を参照することができる。また、本発明保護剤をその他の目的で用いる場合においては、<1>本発明細胞死抑制剤の各品目の説明における「細胞死」なる用語を、「変性」又は「変質」等の用語に置き換えた説明を、各品目の説明として参照することができる。
【0089】
また、本発明保護剤によって神経細胞が保護されたか否かは、例えば本発明保護剤を、神経細胞を細胞死の原因となる刺激及び変化等から保護する目的で用いる場合、<1>本発明細胞死抑制剤に記載の方法と同様の方法により、判断することができる。また、本発明保護剤をその他の目的で用いる場合においては、<1>本発明細胞死抑制剤の「細胞死」なる用語を、「変性」又は「変質」等の用語に置き換えた説明を、本発明保護剤によって神経細胞が保護されたか否かを判断する方法の例示として参照することができる。
【0090】
また、細胞死がアポトーシスである場合、本発明保護剤はカスパーゼ3の活性を抑制することにより、細胞死を抑制する効果を発揮することが好ましい。したがって本発明保護剤は、「カスパーゼ3の活性抑制剤」なる概念をも包含する。
【0091】
本発明保護剤は、例えば生体外に摘出、分離又は単離された神経細胞を保存するために用いられる、「保存剤」の概念をも包含する。

<7>本発明保護方法
本発明保護方法は、神経細胞に本発明保護剤を接触させるステップを少なくとも含む、神経細胞の保護方法である。
【0092】
上記の「本発明保護剤」については、<6>本発明保護剤を参照されたい。また、「神経細胞」、「接触」なる用語については、<2>本発明細胞死抑制方法における説明を参照されたい。
【0093】
本発明保護方法は、<2>本発明細胞死抑制方法の場合と同様に、上記以外のステップを含んでいてもよい。
【0094】
本発明保護方法は、例えば生体外に摘出、分離又は単離された神経細胞を保存するために行われる、「保存方法」の概念をも包含する。
【0095】
なお、本発明保護方法において、本発明保護剤を生物体内において神経細胞に接触させる場合、当該生物体はヒトを除く動物であることが好ましい。

<8>本発明組成物2
本発明組成物2は、神経細胞と、本発明保護剤とを有効成分として少なくとも含む組成物である。
【0096】
上記において、本発明保護剤、及び「神経細胞」に関する説明ついては、上記<6>本発明保護剤における説明を参照されたい。
【0097】
本発明組成物2は、神経細胞及び本発明保護剤以外の成分として、緩衝剤、保存剤等に例示されるその他の成分を含んでいてもよい。
【0098】
本発明組成物2は、その使用目的及び使用方法等によって限定されるものではないが、例えば神経細胞の過剰な細胞死によって引き起こされる疾患又は障害の治療、改善、緩和又は予防等を目的とした細胞の移植のために用いられる組成物として好適に用いることができる。
【0099】
発明組成物2のより具体的な使用方法については、上記<4>本発明神経細胞における「本発明神経細胞」なる用語を、「本発明組成物2」なる用語に置き換えた説明を参照することができる。
【0100】
また上記の移植の方法についても、上記<4>本発明神経細胞における説明を参照されたい。
【0101】
以下、本発明を実施例により具体的に詳説する。
【実施例】
【0102】
以下の実施例においては下記の略号を用いる。
【0103】
CS:コンドロイチン硫酸
CS−A:コンドロイチン硫酸A
CS−B:コンドロイチン硫酸B
CS−C:コンドロイチン硫酸C
CS−D:コンドロイチン硫酸D
CS−E:コンドロイチン硫酸E
CS−A(クジラ軟骨由来、約25〜50kDa、生化学工業株式会社製):CS−A(25〜50kDa)
CS−B(ブタ皮由来、11〜25kDa、生化学工業株式会社製):CS−B(11〜25kDa)
CS−C(サメ軟骨由来、約40〜80kDa、生化学工業株式会社製):CS−C(40〜80kDa)
CS−D(サメヒレ由来、約30kDa、生化学工業株式会社製):CS−D(30kDa)
CS−E(イカ軟骨由来、約75kDa、生化学工業株式会社製):CS−E(75kDa)
CS−E(イカ軟骨由来、2糖、生化学工業株式会社製):CS−E(2糖)
CS−E(イカ軟骨由来、約3kDa、生化学工業株式会社製):CS−E(3kDa)
CS−E(イカ軟骨由来、約5kDa、生化学工業株式会社製):CS−E(5kDa)
CS−E(イカ軟骨由来、約12kDa、生化学工業株式会社製):CS−E(12kDa)
CS−E(イカ軟骨由来、約25kDa、生化学工業株式会社製):CS−E(25kDa)
なお、CS−E(2糖)、CS−E(3kDa)、CS−E(5kDa)、CS−E(12kDa)及びCS−E(25kDa)は、分子量が約75kDaのCS−Eを、羊睾丸ヒアルロニダーゼにより酵素分解することにより調製したものを使用した。

1 各種CSの神経細胞の細胞死抑制効果の検証
各種CSの、NMDAによって誘発される神経細胞の細胞死を抑制する効果について検証した。

1−1
ブルワー GJ(Brewer GJ)ら、ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス・リサーチ、1993年、第35巻、第5号、p.567−576に記載の方法に従って、胎生16日齢ラット胎仔大脳皮質から単一細胞浮遊液を調製し、B−27添加物(インビトロジェン)を含むNeurobasal medium(神経細胞培養用基礎培地、インビトロジェン)を用いて37℃にて培養した。培養10〜14日目に各種CSを上記培地中で100μg/mlとなるように添加するか、又はコントロールとして上記培地を添加し、24時間後、上記の各培地にNMDAを加えて細胞死を誘発し、更に24時間培養した。細胞死の程度を、上記培養後の各培地中に存在するLDHの活性を、コー,J.Y.(Koh,J.Y.)ら、ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス・メソッズ、1987年、第20巻、第1号、p.83−90に記載の方法に従って測定し、評価した。また、生存細胞数を常法によって抗MAP2抗体を用いてMAP2の蛍光免疫染色を行い、蛍光顕微鏡下200倍で観察した5視野分のMAP2陽性細胞をカウントすることにより測定した。
【0104】
培地中のLDH活性の測定結果を図1に示す。
【0105】
CS−E(75kDa)を用いて上記の処理を行った場合の培地中のLDH活性は、コントロールの約40%に減少した。一方、他の種類のCS、すなわちCS−A、CS−B、CS−C及びCS−Dでは、コントロールと同程度か、又はそれ以上のLDH活性が確認された。
【0106】
MAP2陽性細胞のカウント結果を図2に示す。CS−Eを用いて上記の処理を行った場合のMAP2陽性細胞数は、コントロールの約3倍であることが確認された。一方、他の種類のCS、すなわちCS−A、CS−B、CS−C及びCS−Dでは、上記のような顕著な生存細胞数の増加は確認されなかった。
【0107】
以上の結果より、上記のCS−Eを、NMDAによって細胞死が誘発される前に添加して培養することにより、神経細胞の細胞死を抑制することができることが確認され、CS−Eが神経細胞の細胞死抑制作用を有することが明らかになった。

1−2 CS−E濃度の検討
CS−E(75kDa)の濃度を、それぞれ1、3、5、10、50、100 μg/mlと変化させることの他、上記1−1と同様の方法により、CS−Eで神経細胞を処理した上で、細胞死の誘発、培養を行い、培地中のLDH活性を測定した。
【0108】
測定結果を図3に示す。培地中のLDH活性は、CS−E濃度が10、50、100 μg/mlの場合において、それぞれコントロールの約95、84、74%であり、当該範囲において濃度依存的に、且つ非常に効果的に神経細胞の細胞死を抑制できることが明らかになった。

1−3 CS−Eを用いた処理を行うタイミングの検討
CS−E(75kDa)を用いた処理を行うタイミングを、培地にNMDAを添加する24時間前、3時間前、直前、又はNMDAを添加した直後と変化させることの他、上記1−1と同様の方法により、CS−Eによる神経細胞の処理、細胞死の誘発、培養を行い、培地中のLDH活性を測定した。
【0109】
結果を図4に示す。培地中のLDH活性は、CS−Eを用いた処理を、NMDAを加える24時間前、3時間前、直前に行った場合、それぞれコントロールの約70、85、92%と減少することが確認されたことから、NMDAにより細胞死を誘発する前にCS−Eを用いた処理を行うことにより、非常に効果的に神経細胞の細胞死を抑制することができることが明らかになった。特に、NMDAによる神経細胞の細胞死の誘発を行う、24時間前、又は3時間前にCS−Eを用いた処理を行った場合おいて、コントロールと比して統計的に有意な神経細胞の細胞死の抑制効果が得られることが確認されたことから、神経細胞の細胞死の誘発を行う3時間程度以上前にCS−Eによる処理を行うことにより、より効果的に神経細胞の細胞死を抑制できることが明らかになった。

1−4 CS−Eの分子量の検討
CS−E(75kDa)以外のCS−Eとして、CS−E(3kDa)、CS−E(5kDa)、CS−E(12kDa)、CS−E(25kDa)を用い、上記1−1と同様の方法により、CS−Eで神経細胞を処理した上で、細胞死の誘発、培養を行い、培地中のLDH活性を測定した。
【0110】
測定結果を図5に示す。培地中のLDH活性は、CS−E(3kDa)、CS−E(5kDa)、CS−E(12kDa)、CS−E(25kDa)、CS−E(75kDa)を用いた場合において、それぞれコントロールの約83%、41%、35%、19%、18%に減少した。よって、5kDa以上の分子量を有するCS−Eが、より強い神経細胞の細胞死抑制作用を有することが明らかになった。

2 カスパーゼ3活性の検証
CS−Eが有する神経細胞の細胞死の抑制効果とアポトーシスとの関連を、培地中のカスパーゼ3活性を測定することにより検証した。
【0111】
CS−E(75kDa)の濃度を、それぞれ10、100μg/mlと変化させ、上記1と同様の方法により、CS−Eで神経細胞を処理した上で、神経細胞の細胞死の誘発、培養を行い、神経細胞の細胞死の誘発後(NMDA添加後)1時間、3時間、6時間及び10時間における、培地中のカスパーゼ3活性を、BIOMOL QuantiZymeTM Assay System CASPASE-3 Cellular Activity Assay Kit PLUS -AK-703(BIOMOL社)を用いて、細胞1個あたり、1分間に合成基質を1 fmol分解する活性(fmol/min/cell)測定した。
【0112】
結果を図6に示す。
【0113】
10μg/ml、及び100 μg/mlのCS−Eで神経細胞を処理した場合、コントロールと比して、上記のいずれの時間においても、カスパーゼ3の活性が減少していることが確認された(図6)。アポトーシスを引き起こすカスケード反応の1段階として、カスパーゼ3の活性化があることが知られている。このことから、CS−Eによってカスパーゼ3の活性が抑制されることにより、神経細胞のアポトーシスが抑制されることが示唆された。
【0114】
また別のロットの神経細胞を用いて、同様の方法により、NMDA添加後5時間におけるカスパーゼ3活性を、それぞれ4プレートずつ(1プレートにつき細胞約1〜1.5×106個)測定して得られた結果を、図7に示す。

3 KA又はAMPAによって誘発される神経細胞の細胞死の抑制効果の検証
3−1 KAによって誘発される神経細胞の細胞死の抑制効果の検証
細胞死の誘発に用いる興奮性アミノ酸を100、又は1000 μM/mlのKAに変え、さらに処理に用いるCS−Eの濃度をそれぞれ0、10、100 μg/mlと変化させることの他、上記実施例1と同様の方法により、CS−E(75kDa)で神経細胞を処理した上で、細胞死の誘発、培養を行い、培地中のLDH活性を測定した。
【0115】
結果を図8に示す。KA濃度100 μM/mlにおいては、処理に用いたCS−Eの濃度がそれぞれ10、100 μg/mlの場合、CS−Eで処理しなかった場合(0 μM/ml)に比べ、LDH活性がそれぞれ約80、67%に減少した。また、KA濃度1000 μM/mlにおいては、処理に用いたCS−Eの濃度がそれぞれ10、100 μg/mlの場合、CS−Eで処理しなかった場合(0 μM/ml)に比べ、LDH活性がそれぞれ約80、79%に減少した。以上のことから、CS−Eを、KAによって細胞死を誘発する前に添加して培養することにより、神経細胞の細胞死を抑制することができることが確認され、CS−Eが神経細胞の細胞死抑制作用を有することが確認された。

3−2 AMPAによって誘発される神経細胞の細胞死の抑制効果の検証
細胞死の誘発に用いる興奮性アミノ酸を100、500、又は1000 μM/mlのAMPAに変え、さらに処理に用いるCS−Eの濃度をそれぞれ0、10、100 μg/mlと変化させることの他、上記実施例1と同様の方法により、CS−E(75kDa)で神経細胞を処理した上で、細胞死の誘発、培養を行い、培地中のLDH活性を測定した。
【0116】
結果を図9に示す。AMPA濃度10 μM/mlにおいては、処理に用いたCS−Eの濃度がそれぞれ10、100 μg/mlの場合、CS−Eで処理しなかった場合(0 μM/ml)に比べ、LDH活性がそれぞれ約67、28%に減少した。AMPA濃度100 μM/mlにおいては、処理に用いたCS−Eの濃度がそれぞれ10、100 μg/mlの場合、CS−Eで処理しなかった場合(0 μM/ml)に比べ、LDH活性がそれぞれ約67、42%に減少した。また、AMPA濃度500 μM/mlにおいては、処理に用いたCS−Eの濃度がそれぞれ10、100 μg/mlの場合、CS−Eで処理しなかった場合(0 μM/ml)に比べ、LDH活性がそれぞれ約79、55%に減少した。また、AMPA濃度1000 μM/mlにおいては、処理に用いたCS−Eの濃度がそれぞれ10、100 μg/mlの場合、CS−Eで処理しなかった場合(0 μM/ml)に比べ、LDH活性がそれぞれ約61、37%に減少した。以上のことから、CS−Eを、AMPAによって細胞死を誘発する前に添加して培養することにより、神経細胞の細胞死を抑制することができることが確認され、CS−Eが神経細胞の細胞死抑制作用を有することが確認された。

4 NMDAcurrentに対する影響の検証
上記1−1と同様の方法により神経細胞を培養し、培養13日目にCS−E 100 μg/mlを投与し、24時間後(培養14日目)に神経細胞のNMDAに対する反応をパッチクランプ法で測定した。パッチ電極で細胞を-80mV〜+40mVに電位固定した後、NMDA 50μMを他のガラス管を用いて細胞近傍に微量投与し、細胞膜に流れる電流を測定した。結果を図10に示す。
【0117】
この結果により、本発明によれば、実質的にNMDAcurrentに対してほとんど影響を与えることなく、神経細胞の細胞死を抑制することも可能であることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】NMDAによって神経細胞の細胞死を誘発した場合において、処理に用いたCSの種類及び分子量と、培地中のLDH活性との関係を示す図である。
【図2】NMDAによって神経細胞の細胞死を誘発した場合において、処理に用いたCSの種類と、MAP2陽性細胞数との関係を示す図である。
【図3】NMDAによって神経細胞の細胞死を誘発した場合において、処理に用いたCS−Eの濃度変化に伴う、LDH活性の変化を示す図である。
【図4】NMDAによって神経細胞の細胞死を誘発した場合において、CS−Eを用いた処理を行うタイミングと、LDH活性との関係を示す図である。
【図5】NMDAによって神経細胞の細胞死を誘発した場合において、処理に用いたCS−Eの分子量と、LDH活性との関係を示す図である。
【図6】NMDAによって神経細胞の細胞死を誘発した場合(図中、PC、CS−E 10 μl/ml、CS−E 100 μl/mlで示す)、及び神経細胞の細胞死を誘発しなかった場合(図中、NCで示す)におけるカスパーゼ3活性(fmol/min/cell)の変化を、経時的に測定した結果を示す図である。CS−E 10 μl/ml、CS−E 100 μl/mlは、それぞれ処理に10 μl/mlのCS−E、100μl/mlのCS−Eを用いた場合の結果を示す。また、PCは、CS−Eを用いた処理を行わなかった場合の結果を示す。NCは、CS−E及びNMDAを用いた処理を行わなかった場合の結果を示す。
【図7】NMDA添加後5時間における、NMDAによって神経細胞の細胞死を誘発した場合(図中、PC、CS−E 100 μl/mlで示す)、及び神経細胞の細胞死を誘発しなかった場合(図中、NCで示す)におけるカスパーゼ3活性(fmol/min/cell)を測定した結果を示す図である。CS−E 100 μl/mlは、処理に100μl/mlのCS−Eを用いた場合の結果を示す。また、PCは、CS−Eを用いた処理を行わなかった場合の結果を示す。NCは、CS−E及びNMDAを用いた処理を行わなかった場合の結果を示す。
【図8】KAによって神経細胞の細胞死を誘発した場合において、処理に用いたKAの濃度変化、及びCS−Eの濃度変化と、LDH活性との関係を示す図である。
【図9】AMPAによって神経細胞の細胞死を誘発した場合において、処理に用いたKAの濃度変化、及びCS−Eの濃度変化と、LDH活性との関係を示す図である。
【図10】CS−EのNMDAcurrentに対する影響を示す図である。縦軸は、各々の細胞で記録した電流をそれぞれの細胞膜容量で割った値であり、単位細胞膜表面積当たりに流れる電流を示している。Controlは、神経細胞の処理にCS−Eを用いず、培養液を用いた場合の結果を示す。グラフはcontrol n=6, CS-E n=5の平均±SDを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二糖分析によって決定されるΔDi−diSの含有率が30〜100%であるコンドロイチン硫酸を有効成分とする、神経細胞の細胞死抑制剤。
【請求項2】
コンドロイチン硫酸Eを有効成分とする、神経細胞の細胞死抑制剤。
【請求項3】
細胞死が、興奮性アミノ酸受容体を介して惹起される細胞死である、請求項1又は2に記載の細胞死抑制剤。
【請求項4】
興奮性アミノ酸受容体を介して惹起される細胞死が、下記群から選択される1又は2以上の物質によって惹起される細胞死である、請求項3に記載の細胞死抑制剤;
N−メチル−D−アスパラギン酸、カイニン酸、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸。
【請求項5】
細胞死がアポトーシスである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞死抑制剤。
【請求項6】
神経細胞に請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞死抑制剤を接触させるステップを少なくとも含む、神経細胞の細胞死抑制方法。
【請求項7】
神経細胞に請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞死抑制剤を接触させるステップを少なくとも含む、細胞死耐性を獲得した神経細胞の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法によって製造される、細胞死耐性を獲得した神経細胞。
【請求項9】
神経細胞と、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞死抑制剤とを有効成分として少なくとも含む組成物。
【請求項10】
二糖分析によって決定されるΔDi−diSの含有率が30〜100%であるコンドロイチン硫酸を有効成分とする、神経細胞の保護剤。
【請求項11】
コンドロイチン硫酸Eを有効成分とする、神経細胞の保護剤。
【請求項12】
神経細胞に請求項10又は11に記載の保護剤を接触させるステップを少なくとも含む、神経細胞の保護方法。
【請求項13】
神経細胞と、請求項10又は11に記載の保護剤とを有効成分として少なくとも含む組成物。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−308614(P2007−308614A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139813(P2006−139813)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】