説明

禁煙誘導方法

【課題】
喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人の肺癌易罹患性検査方法を用いて、客観的なデータを基づいた禁煙に誘導する方法を提供することである。UGT1A7の核酸配列のエキソン1領域の遺伝子変異を検査することにより、肺癌の危険因子の検査予測方法を利用して禁煙に誘導する方法を提供する。禁煙に誘導する方法に適したUGT1A7の核酸配列のエキソン1領域の遺伝子変異を検査するためのオリゴヌクレオチドプライマーを提供する。
【解決手段】
UGT1A7の核酸配列のエキソン1の特定の変異が肺癌の独立した危険因子になりうることから、喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人の本酵素遺伝子の変異検査を行いその結果を喫煙者に通知することで、禁煙誘導を有効にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は禁煙誘導するための方法として用いられ、肺癌易罹患性の診断に有用なUDP-グルクロン酸転移酵素の核酸配列検査を行い、その検査結果に基づいて肺癌易罹患性を評価して、その結果を被検者に通知して禁煙を促す材料として用いる禁煙誘導方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
禁煙を誘導する方法には、経皮的にニコチンを投与するニコチンパッドや食物的にニコチンを投与するニコチンガム等による喫煙に代わるニコチン投与や、喫煙したくなくなる化学物質を吸入する方法が知られている(例えば特許文献1)。また喫煙の害を訴える禁煙啓蒙法が一般に知られている。この禁煙啓蒙法は主観的に禁煙の害を喫煙者に理解させる方法であるが、多くの喫煙者がその害を理解することはできるが、実際に禁煙にたどり着くのは困難を極めるケースが多い。しかし、禁煙支援を求めて受診した喫煙者の喫煙関連遺伝子型を検査して、遺伝子型を通知する禁煙指導で効果があることが明らかにされている(非特許文献1)。具体的には、発がん物質を活性化する酵素、解毒する酵素の遺伝子型を調べるもので、チトクロームP450 タイプ1A1 (CYP1A1)、グルタチオン‐S-トランスフェラーゼ タイプM1(GSTM1)、グルタチオン‐S-トランスフェラーゼ タイプT1(GSTT1)、NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ、キノン1(NQO1)の4つの酵素遺伝子の型を調べるものである。一方、小林らは、UDP-グルクロン酸転移酵素、タイプ1A7(UGT1A7)の遺伝子変異を調べた結果、特定の変異を有しているヒトに於いて、明らかに肺癌罹患率が高くなることを見出している(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−531631
【非特許文献1】厚生労働省がん研究助成金による研究報告集平成15年度
【非特許文献2】Eur. J. Cancer 2005 Oct;41(15):2360-5.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人について、各人の発癌性物質の代謝能を予測することによる肺癌易罹患性の診断のための検査方法を用いて、客観的なデータを基づいた禁煙に誘導する方法を提供することである。UGT1A7の核酸配列のエキソン1領域の遺伝子変異を検査することにより、発癌性物質の代謝能を予測する検査を行うとともに、肺癌の危険因子の検査予測方法を利用して禁煙に誘導する方法を提供する。さらに、公知の遺伝子変異検査とUGT1A7遺伝子変異検査を組み合わせることによる禁煙に誘導する方法を提供する。禁煙に誘導する方法にUGT1A7の核酸配列のエキソン1領域の遺伝子変異を検査するためのオリゴヌクレオチドプライマーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らはUGT1A7の核酸配列のエキソン1の特定の変異が肺癌の独立した危険因子になりうることから、当該変異を特異的に検査するために有用なオリゴヌクレオチドプライマーを開発し、そのプライマーにより喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人に本酵素遺伝子の変異検査を行いその結果を喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人に通知することが、禁煙に誘導する方法として有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
本発明は、以下の構成からなる。
1、被検者の遺伝子検査結果に基づいて肺癌易罹患性を判定し、その判定結果を基に禁煙誘導を行う方法において、配列表の配列番号1に記載のUDP−グルクロン酸転移酵素(UGT1A7)の核酸配列の、33番目のcからaへの変異(コドン11)、387番目のtからgへの変異(N129K)、391番目のcからaへの変異(コドン131)、392番目のgからaへの変異(R131K)及び622番目のtからcへの変異(コドン208)のうち、少なくとも1つの変異を検査することを特徴とする禁煙誘導の方法。
2、配列表の配列番号2及び3に記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、配列表の配列番号1に記載のUDP−グルクロン酸転移酵素(UGT1A7)の核酸配列の一部を増幅させる工程を含む前記1に記載の方法。
3、配列表の配列番号4〜6に記載のオリゴヌクレオチドプライマーのうち少なくとも1種類のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、配列表の配列番号1に記載の核酸配列の33番目のcからaへの変異(コドン11)、391番目のcからaへの変異(コドン131)、及び622番目のtからcへの変異(コドン208)のうち、少なくとも1つの変異を検査する工程を含む前記1または2のいずれか1項に記載の方法。
4、配列表の配列番号1で表した核酸配列の33番目のcからaへの変異(コドン11)、391番目のcからa(コドン131)及び622番目のtからcへの変異(コドン208)の3つの変異を組み合わせて検査する工程を含む前記1〜3のいずれか1項に記載の方法。
5、公知の禁煙誘導方法と請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法を組み合わせる禁煙誘導の方法。
6、配列表の配列番号2〜6に記載のオリゴヌクレオチドプライマーのうち、配列番号2及び3の組み合わせ、又は配列番号4〜6のいずれか1または少なくとも2種類を含む試薬、キット。




【発明の効果】
【0006】
本発明は、UGT1A7のエキソン1領域の変異を検査する肺癌発症の危険因子の予測結果を喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人に通知することを利用することにより、禁煙誘導に格段の効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明をさらに詳細に説明するため、実施態様を例示して説明する。
本発明は、喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人を対象に肺癌罹患率を予測しうる検査を実施し、その結果を喫煙者に通知することを特徴とする禁煙を誘導する方法に関するものである。UGT1A7のエキソン1領域の遺伝子配列において、変異を持たない正常型アレルをUGT1A7 *1、コドン131に変異を有しコドン11とコドン208が正常であるアレルをUGT1A7 *2、コドン11、コドン131及びコドン208の3箇所に変異を有するアレルをUGT1A7*3、コドン11とコドン208の2箇所に変異を有するアレルをUGT1A7 *4と表す。各コドン番号の検査対象塩基種とアレルの表記を表1に示した。ここに示した3箇所のコドンにおける変異を検査することにより、4種のアレルを検査できるという、格段の効果をもたらす。両アレル共に正常である遺伝子型はUGT1A7 *1/*1、片方のアレルが正常でもう一方のアレルがUGT1A7*3である遺伝子型はUGTIA7 *1/*3、片方のアレルがUGT1A7 *2でもう一方のアレルがUGT1A7 *3である遺伝子型はUGT1A7 *2/*3のごとく表す。
【0008】
【表1】

【0009】
発癌性物質の一種であるベンゾ(アルファ)ピレン代謝を指標としてUGT1A7の酵素活性を正常型と上述の何らかの変異をもつ型(変異型)で比較すると、変異型では正常型の約15〜38%の活性を示すに過ぎない(非特許文献2)。従って、このような発癌性物質に暴露される機会と発癌の関係から、UGT1A7の遺伝子変異検査は、癌とりわけ肺癌との関連を検査する方法として有用であり、肺癌の発症と喫煙の関連を理解、予測する上においても有用な検査である。この検査結果を喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人に通知し客観的データに基づいた禁煙誘導を行うことが可能となる。
【0010】
(検査試料)
検査しようとするUGT1A7核酸配列のゲノムDNAは肝臓、腎臓、白血球、毛髪等の臓器、組織等特に限定されることなく得ること可能である。白血球からゲノムDNAを得る方法の一つに市販のキット、例えばキアゲン社のQuiagen Blood DNAキットを用いることができる。得られたゲノムDNAを用いて、配列番号1に記載の領域を含むゲノムDNAを、例えば、配列表の配列番号2に記載の5´−CCCAAGGCAAAGATGATGAGT−3´と配列番号3に記載の5´−CAGTTCGCAACAACCAAATTG−3´のオリゴヌクレオチドプライマー対を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させる。ここで用いるオリゴヌクレオチドプライマーの塩基配列は記載の配列のみに限定されるものではなく、数塩基の付加、欠落及び一部変異があるものも含まれる。ゲノムDNAを増幅する手段はPCRに限られたものではなく、LAMP、LCR、NASBA等の公知の増幅工程により増幅させることも可能である。
【0011】
(変異検出)
得られた増幅産物の変異を検出する方法は直接シーケンス法を初め、種々の公知の方法が適用され特に限定されるものではない。制限酵素による断片化試料の電気泳動分析やDNA試料を溶液内ハイブリザイズさせるFISH法等により、検査することも可能である。その他サザンハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(J. Mol. Biol., 98: 503-517, 1975等参照)、ジデオキシ塩基配列決定法、DNAの増幅手法を組合せた各種の検出法[例えばPCR−制限酵素断片長多型分析法(RFLP: Restriction fragment length polymorphism),PCR−単鎖高次構造多型分析法(Proc.
Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86:
2766-2770, 1989等参照),PCR−特異的配列オリゴヌクレオチド法(SSO: Specific sequence oligonucleotide),PCR−SSOとドットハイブリダイゼーション法を用いる対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド法(Nature, 324: 163-166, 1986等参照)]等を例示することができる。さらにオリゴヌクレオチドプローブを用いる核酸チップ又は核酸アレイによって簡便に検出することも可能である。
【0012】
本発明に有用な手段の一つとして、ジデオキシ塩基配列決定法を利用した1塩基伸長法が挙げられる。この方法は、前述の配列表の配列番号2及び3に記載のプライマー対を用いてPCR法にて予め増幅させた核酸試料に、配列表の配列番号4〜6に記載のオリゴヌクレオチドプライマーとジデオキシヌクレオチド(dNTP)をDNAポリメラーゼ存在下で反応させ、検査ターゲットの塩基を1塩基だけオリゴヌクレオチドプライマーに付加させた後、オリゴヌクレオチドプライマーに付加した塩基種を解析することにより、変異の有無を検査することができる。
【0013】
本発明で用いるオリゴヌクレオチドプライマー類のオリゴヌクレオチドは、常法に従い、自動合成機、例えばDNAシンセサイザー(パーキンエルマー社)等を用いて容易に合成することができ、得られるオリゴヌクレオチドは更に必要に応じて、市販の精製用カートリッジ等を用いて精製することもできる。オリゴヌクレオチドプライマー、ヌクレオチド基質、DNAポリメラーゼ、緩衝液、コントロールDNA等を組み合わせて検査試薬、キットとして提供することもできる。
【0014】
本発明には公知の喫煙障害に関連する遺伝子変異検査を行う工程を組み合わせることも可能である。公知の喫煙障害に関連する遺伝子変異検査として、チトクロームP450 タイプ1A1 (CYP1A1)、チトクロームP450 タイプ2E1(CYP2E1)グルタチオン‐S-トランスフェラーゼ タイプM1(GSTM1)、グルタチオン‐S-トランスフェラーゼ タイプT1(GSTT1)、NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ、キノン1(NQO1)、インターロイキン1B(IL-1B)、アルコール脱水素酵素タイプ2(ALDH2)、がん遺伝子L-myc L/S型等の検査が挙げられる。これらの遺伝子変異検査結果と、本発明のUGT1A7遺伝子変異検査結果を合わせて評価し、その評価結果に基づいて禁煙誘導の方法とする。禁煙誘導の効果を高めるためには可能な限り多くの客観的データに基づいて指導すれば、喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人の検査結果が喫煙のリスクファクターに該当する機会が増えることからより効果的である。
【0015】
本発明の方法を実施する対象は、喫煙者のみならず喫煙者の周囲に居る人にも及ぶ。受動喫煙の害が大きく取り扱われていることからも、喫煙者の周囲に居る人に対しても検査を行い、その結果を喫煙者及び/又は喫煙者の周囲に居る人にも通知し、喫煙の有害性をより広い対象に対して客観的に示すことによって、禁煙誘導の効果を高める。例えば、喫煙者の家族或いは喫煙者からの受動喫煙を余儀なくされている人が、自ら本発明の遺伝子変異検査を受けその結果を喫煙者に示すことにより、喫煙者に対し効果的な禁煙指導が行えると同時に、データベースに基づいた客観的な嫌煙理由を示す方法としても利用される。
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。
【実施例1】
【0016】
(試料の調製)
キアゲン社のQuiagen Blood DNAキットを用いてゲノムDNAを分離し精製した。それぞれについてUGT1A7のエキソン1の領域を配列番号2及び3に記載のオリゴヌクレオチドプライマー対を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させた。PCRの条件は94℃で10分間の変性、94℃で0.5分間の放置、58℃で0.5分間、72℃で1分間のサイクルを35サイクル行った。その後、72℃で7分間最終の伸長反応を行った。増幅した試料をジクロロローダミン使用ダイターミネーター法シーケンシングキット(dRhodamine Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction
Kit)を用いて直接シーケンス法にて配列を確認した。

【実施例2】
【0017】
実施例1に記載の方法で調製した試料の直接シーケンス法で配列を確認し、各アミノ酸をコードするコドン11(33C/A)、コドン131(391C/A)及びコドン208(622T/C)について、両アレル共に正常型(UGT1A7*1)、一方のアレルは正常型でもう片方のアレルが上記3箇所全てで変異型である(UGT1A7*1/*3)及び一方のアレルはコドン131(391C/A)が変異型でもう片方のアレルが上記3箇所全てで変異型(UGT1A7*2/*3)である3検体について、配列表の配列番号4〜6のオリゴヌクレオチドプライマーへのジデオキシヌクレオチドの1塩基伸長を行いその配列を確認にした。その結果を図1に示した。
正常型ではコドン11の配列はC、コドン131でC,コドン208でTであるのに対して、
UGT1A7*1/*3型ではコドン11の配列はCとA、コドン131でCとA,コドン208でTとCとなっていることが確認された。次いで、UGT1A7*2/*3型ではコドン11の配列はCとA、コドン131でA、コドン208でTとCとなっていることが確認された。このことより、配列表の配列番号4〜6のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてUGT1A7の変異を検査できることが判った。

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、客観的データに基づいた禁煙誘導の方法として利用され、更に禁煙誘導をするために必要な検査又は嫌煙主張の妥当性を表すために有用な検査として、臨床検査の分野で用いられる診断薬キットとして製造される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】1塩基伸長法による検査結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の遺伝子検査結果に基づいて肺癌易罹患性を判定し、その判定結果を基に禁煙誘導を行う方法において、配列表の配列番号1に記載のUDP−グルクロン酸転移酵素(UGT1A7)の核酸配列の、33番目のcからaへの変異(コドン11)、387番目のtからgへの変異(N129K)、391番目のcからaへの変異(コドン131)、392番目のgからaへの変異(R131K)及び622番目のtからcへの変異(コドン208)のうち、少なくとも1つの変異を検査することを特徴とする禁煙誘導の方法。
【請求項2】
配列表の配列番号2及び3に記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、配列表の配列番号1に記載のUDP−グルクロン酸転移酵素(UGT1A7)の核酸配列の一部を増幅させる工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
配列表の配列番号4〜6に記載のオリゴヌクレオチドプライマーのうち少なくとも1種類のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、配列表の配列番号1に記載の核酸配列の33番目のcからaへの変異(コドン11)、391番目のcからaへの変異(コドン131)、及び622番目のtからcへの変異(コドン208)のうち、少なくとも1つの変異を検査する工程を含む請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
配列表の配列番号1で表した核酸配列の33番目のcからaへの変異(コドン11)、391番目のcからa(コドン131)及び622番目のtからcへの変異(コドン208)の3つの変異を組み合わせて検査する工程を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
公知の禁煙誘導方法と請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法を組み合わせる禁煙誘導の方法。
【請求項6】
配列表の配列番号2〜6に記載のオリゴヌクレオチドプライマーのうち、配列番号2及び3の組み合わせ、又は配列番号4〜6のいずれか1または少なくとも2種類を含む試薬、キット。








【図1】
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【公開番号】特開2007−312684(P2007−312684A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146112(P2006−146112)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(592037055)株式会社日本医学臨床検査研究所 (13)
【出願人】(802000042)株式会社三重ティーエルオー (20)
【Fターム(参考)】