説明

移動体の位置表示装置

【課題】平均化したタイミングで指針駆動用パルスを発生する専用の制御部を有していなくても、指針の動きが円滑な移動体の位置表示装置の提供。
【解決手段】移動体2の位置を指針11の指し示す位置により表示する移動体の位置表示装置1において、入力される上記移動体の位置に関する位置パルスデータに一次遅れ演算を施して位置信号を発生するフィルタ手段21と、上記位置信号を順次取り込み、上記移動体の移動に対応する指針駆動信号を生成する指針駆動信号生成手段22と、上記指針駆動信号に基づいて上記指針を動かすモータ17を制御する駆動手段26と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体の位置を表示する移動体の位置表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の移動体の位置表示装置は、エレベータに適用されており、カゴの移動速度に対応して生成されたかご位置パルスデータを一定周期の間隔で順次取り込み、演算によりかごの移動速度に対応した数の指針駆動用パルスを出力し、その指針駆動用パルスによるモータ駆動により、かご位置を指針によって表示し、指針駆動用パルスを一定周期に対応した時間内で平均化された間隔で出力しモータに供給する手段を備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この移動体の位置表示装置によれば、各一定周期での指針駆動用パルスのパルス間隔を平均化することにより指針の動きが滑らかになり、一見古い装置の指針式のかご位置装置
が滑らかな動きを示し、意匠性と共に性能の信頼性をも合わせ持つこととなり、エレベータの評価を上げることになる。
【0004】
【特許文献1】特開平4−121382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この移動体の位置表示装置には、指針駆動用パルスのパルス間隔を各一定周期内で平均化するための専用の制御部を備えることが必須である。しかし、エレベータなどに用いられる移動体の位置表示装置では、かごの位置を示す位置パルスデータを発生する専用の制御部を有しておらず、一定周期内で最初にかごなどの駆動に関するメイン制御を実行した後、位置パルスデータが発生される。それゆえ、位置パルスデータが発生されるタイミングは、一定の演算周期の先頭からそれぞれ異なった時点となる。このため、位置パルスデータのタイミングを基に指針駆動用パルスを出力すると、指針の動きが階段状になりぎこちないという問題がある。
【0006】
この発明の目的は、平均化したタイミングで指針駆動用パルスを発生する専用の制御部を有していなくても、指針の動きが円滑な移動体の位置表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係わる移動体の位置表示装置は、移動体の位置を指針の指し示す位置により表示する移動体の位置表示装置において、入力される上記移動体の位置に関する位置パルスデータに一次遅れ演算を施して位置信号を発生するフィルタ手段と、上記位置信号を順次取り込み、上記移動体の移動に対応する指針駆動信号を生成する指針駆動信号生成手段と、上記指針駆動信号に基づいて上記指針を動かすモータを制御する駆動手段と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係わる移動体の位置表示装置の効果は、位置パルスデータに一次遅れ演算を施し位置信号に加算する一次フィルタと、位置信号を一定の周期で順次取り込み、かごの移動速度に対応した指針駆動信号を出力する指針駆動信号生成部と、を備えるので、位置パルスデータを平均化するための専用の制御部を有していなくても、指針を滑らかに動かすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態に係わる移動体の位置表示装置の全体構成図である。
この発明の実施の形態に係わる移動体は、エレベータのかご2であり、かご2の上端部にロープ3の一端が固定され、ロープ3の他端に釣合錘4が固定されている。また、ロープ3は巻上機のシーブ5に掛けられ、巻上機のシーブ5はモータ6により回転される。
そして、かご2は、モータ6の回転により上昇または下降するので、モータ6の回転位置を用いてかご2の位置を測定することができる。
【0010】
そこで、モータ6の回転位置を検出するためにモータ6に位置検出器7が配置されている。この位置検出器7は、位置検出信号を出力する。
エレベータの全体を制御するエレベータ制御部8は、かご2の位置に係わる位置検出信号、呼び登録、行先階登録などに基づいてかご2の運行を制御し、その後位置表示のための信号を発生する。この位置表示のための信号は、かご2の位置に係わる位置パルスデータ、速度信号、運転方向信号、停止信号である。そして、エレベータ制御部8は、位置検出信号に基づいて位置パルスデータを出力する位置データ発生部9を備える。位置データ発生部9は、かご2の運行制御の後で入力される位置検出信号に基づいて位置パルスデータを発生しているので、位置パルスデータが発生されるタイミングは、図2に示すように、演算周期の中でばらついている。
【0011】
この発明の実施の形態に係わる移動体の位置表示装置1は、一端を中心として回動される指針11、指針11の一端を中心に円弧上に所定の角度θ離間した丸印12および階床数が表示される位置表示板13、指針11の一端を中心に指針11を回動する減速機15、指針駆動用パルスと運転方向信号とにより減速機15の軸を回転するパルスモータ17を備える。
【0012】
また、移動体の位置表示装置1は、位置パルスデータを一次遅れ演算して位置信号を発生するフィルタ手段としての一次フィルタ21、位置信号を各階床表示数字間の指針11の回転角度θを一定にするために各階床間の距離で補正して指針駆動信号を発生する指針駆動信号生成手段としての指針駆動信号生成部22、指針駆動信号に含まれる一次フィルタ21の遅れ分を補正するオフセット信号を指針駆動信号に加算して指針補正信号を発生する加算手段としての加算器23を備える。
一次フィルタ21は、入力される位置パルスデータに一次遅れ演算を施し、それを位置信号に加算しているので、出力される位置信号は、図2に示すように、所定の時定数で飽和する。
【0013】
また、移動体の位置表示装置1は、停止信号が入力されたとき位置表示板13の指針11が各階表示数字の丸印12に向いて停止するように補償信号を発生する補償手段としての補償部24、指針補正信号または補償信号の一方を駆動部26に入力する切換スイッチ25、入力される指針補正信号または補償信号に基づいて指針駆動用パルスを発生する駆動手段としての駆動部26を備える。
【0014】
また、移動体の位置表示装置1は、一次フィルタ21の一次遅れ演算に用いる時定数を変更する時定数変更手段としての時定数変更部28を備える。時定数変更部28は、かご2の速度が早くなるに従い時定数を短くしている。これは、図3に示すように、かご2の速度が遅い加減速時では、かご2の位置変化が少ないので、位置パルスデータの変化も少なく、時定数が長くてもよい。一方、かご2の速度が加減速時より早い一定速時では、かご2の位置変化が加減速時より大きいので、位置パルスデータの変化も大きく、時定数を短くすることが必要である。
【0015】
エレベータ制御部8は、かご2の停止を位置検出器7からの位置検出信号により検出するとともに、呼び登録された階に向かって走行しているかご2が停止する直前に、停止する階およびかご2が停止したことを示す停止信号を補償部24に送信する。また、エレベータ制御部8は、現在かご2が停止している階と呼び登録されている階とから運転方向を求め運転方向信号を発生し、パルスモータ17に送信される。また、エレベータ制御部8は、位置検出信号を時間微分することにより速度信号を生成し時定数変更部28に送信する。
【0016】
一次フィルタ21は、時点t(iは演算周期に付ける連番)で入力される位置パルスデータPに対して一次遅れの演算を施して算出された一次遅れの値を位置信号Prに加算する。この一次遅れの演算は、位置パルスデータPに対する1/(1+sT)演算である。なお、sはラプラス演算子、Tは時定数である。
指針駆動信号生成部22は、各階床間の距離と回転角θが対応付けられたテーブルを有しており、各階床に停止しているかご2の位置を基準点にして、位置信号Prに基づき指針駆動信号を生成する。
【0017】
加算器23は、指針駆動信号およびオフセット信号が入力され、指針駆動信号にオフセット信号を加算した信号が指針補正信号として出力される。このオフセット信号は、一次フィルタ21で一次遅れの演算が施されるときに発生する遅れ分を補正することのできる大きさの信号である。この指針補正信号が切換スイッチ25のb端子に入力される。
【0018】
補償部24は、停止信号が入力されたとき、停止する階を表示する数字に対する丸印12の中心に指針11が向くように、指針駆動信号を補償して補償信号を生成し、切換スイッチ25のa端子に入力する。
切換スイッチ25は、停止信号が入力されたとき、a端子をc端子に接続し、それ以外のとき、b端子をc端子に接続する。
このように切換スイッチ25が切り換えられることにより、通常に走行しているとき指針補正信号が駆動部26に入力され、エレベータ制御部8から停止信号が発信されたとき補償信号が駆動部26に入力される。
【0019】
駆動部26は、指針補正信号または補償信号が入力されると、それに基づいて指針駆動用パルスを発生し、パルスモータ17に送信される。
【0020】
次に、実施の形態1に係わる位置表示装置1の動作を図4のフローチャートを参照して説明する。なお、例として、現在かご2が2階に停止しており、3階から呼びが発生した場合を説明する。指針11は、図1に実線で示すように、数字2に対応する丸印12の中心に向いて停止している。
ステップS101で、演算周期が始まり指針駆動処理が開始すると、停止信号が入力されているか否かを判断する。入力されていないときステップS102に進み、入力されているときステップS109に進む。この例では、エレベータ制御部8が、3階から呼びが発生したとき停止信号の出力を停止する。
ステップS102で、切換スイッチ25は、b端子をc端子に接続を切り換える。
ステップS103で、時定数変更部28は、速度信号に基づいて時定数を選択して一次フィルタ21の時定数を変更する。
【0021】
ステップS104で、一次フィルタ21は、位置パルスデータに一次遅れの演算を施し、位置信号Prを生成する。
ステップS105で、指針駆動信号生成部22は、位置信号Prに基づいて指針駆動信号を生成する。
ステップS106で、加算器23は、指針駆動信号にオフセット信号を加算して指針補正信号を発生する。なお、切換スイッチ25では、b端子とc端子が接続されているので、駆動部26に指針補正信号が入力される。
ステップS107で、駆動部26は、指針補正信号に基づいて指針駆動用パルスを発生する。
ステップS108で、パルスモータ17は、運転方向信号に基づき回転方向を設定し、指針駆動用パルスに従って回転し、減速機15は、パルスモータ17の回転軸の回転を減速し、指針11を時計方向に回転して指針駆動処理を終了する。
【0022】
ステップS109で、切換スイッチ25は、a端子をc端子に接続を切換る。
ステップS110で、補償部24は、停止信号に基づいて指針11が数字3に対応する丸印12の中心に向かうように補償信号を発生する。
ステップS111で、駆動部26は、補償信号に基づいて指針駆動用パルスを発生する。
ステップS112で、パルスモータ17は、運転方向信号に基づき回転方向を設定し、指針駆動用パルスに従って回転し、減速機15は、パルスモータ17の回転軸の回転を減速し、指針11を時計方向に回転して指針駆動処理を終了する。この結果、指針11は、図1の点線で示すように、数字3に対応する丸印12の中心に向いて停止する。
【0023】
かご2の速度パターンにおいて、一定速の走行に移行すると、速度も早くなるので、時定数変更部28は、加速しながら走行するときの第1時定数Taより短い第3時定数Tcに一次フィルタ21の時定数を設定する。これにより、一次フィルタ21は、位置パルスデータの入力からの遅れがかご2の加速時よりも小さい位置信号Prを発生することができる。
【0024】
また、かご2の速度パターンにおいて、一定速から減速に移行すると、速度も遅くなるので、時定数変更部28は、かご2の加速時より短い第2時定数Tbに一次フィルタ21の時定数を設定する。これにより、一次フィルタ21は、位置パルスデータの入力からの遅れがかご2の加速時より小さい位置信号Prを発生することができる。
【0025】
次に、時定数に関して具体的な数値を示して説明する。一次フィルタ21の時定数を20msec、演算周期を10msecとした場合の位置信号を示す移動体の位置のタイムチャートを図5に示す。図5には、かご2の実働位置を一点鎖線、一次遅れ演算を施さない位置信号を点線で表している。図5に示すように、位置パルスデータを一次フィルタ21を通過させることによりオフセット分だけ遅れた滑らかに変化する位置信号を発生することができる。
また、オフセット分だけ遅れた滑らかに変化する位置信号に基づいて指針駆動信号生成部22が生成した指針駆動信号に、オフセット分のオフセット信号を加算器23で加算して指針補正信号を得て、該指針補正信号により指針11を回転するので、かご2の正確な位置を速やかに知ることができる。
【0026】
このような移動体の位置表示装置1は、位置パルスデータに一次遅れ演算を施し位置信号を生成する一次フィルタ21と、位置信号を順次取り込みかご2の移動に対応した数の指針駆動信号を生成する指針駆動信号生成部22と、該指針駆動信号によりパルスモータ17を駆動する駆動部26と、を備えているので、生成するタイミングを揃えることのできる専用の制御部を有しない位置表示装置1でも、滑らかに指針11を動かすことができる。
【0027】
また、かご2の速度に基づいて一次フィルタ21の時定数を変更することができるので、位置パルスデータの大小に応じて一次遅れ演算を変更でき、一層滑らかに指針11を動かすことができる。
また、かご2の停止にともなって入力される停止信号に基づいて指針11が予め定められた位置に停止するように指針11を駆動するための補償信号が駆動部26に入力されるので、指針11を階床を示す数字または丸印12の中心に向くように確実に停止することができる。
【0028】
また、一次遅れ演算にともない発生するオフセットを含む指針駆動信号にオフセット信号を加算して指針補正信号を発生するので、指針11が指し示す位置とかご2の位置とをより一致させることができる。
なお、上述の実施の形態では移動体としてエレベータのかご2を検討したが、ロープウエイのかごなど他の移動体の位置を表示する場合にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施の形態に係わる移動体の位置表示装置の全体構成図である。
【図2】かごを一定速で走行しているときの位置パルスデータおよび位置信号のタイムチャートである。
【図3】かごを起動から停止まで走行したときの位置パルスデータおよび位置信号のタイムチャートである。
【図4】この発明に係わる移動体の位置表示装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】時定数20msecで一次遅れ演算を施した位置信号のタイムチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1 位置表示装置、2 かご、3 ロープ、4 釣合錘、5 シーブ、6 モータ、7 位置検出器、8 エレベータ制御部、9 位置データ発生部、11 指針、12 丸印、13 位置表示板、15 減速機、17 パルスモータ、21 一次フィルタ、22 指針駆動信号生成部、23 加算器、24 補償部、25 切換スイッチ、26 駆動部、28 時定数変更部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の位置を指針の指し示す位置により表示する移動体の位置表示装置において、
入力される上記移動体の位置に関する位置パルスデータに一次遅れ演算を施して位置信号を発生するフィルタ手段と、
上記位置信号を順次取り込み、上記移動体の移動に対応する指針駆動信号を生成する指針駆動信号生成手段と、
上記指針駆動信号に基づいて上記指針を動かすモータを制御する駆動手段と、
を備えることを特徴とする移動体の位置表示装置。
【請求項2】
入力される上記移動体の速度に関する速度信号に基づいて上記一次遅れ演算の時定数を変更する時定数変更手段を備えることを特徴とする請求項1に記載する移動体の位置表示装置。
【請求項3】
上記移動体が停止したときに入力される停止信号に基づいて上記指針を予め定められた位置に停止する補償信号を発生する補償手段を備え、
上記駆動手段は、上記移動体が停止したとき入力される上記補償信号に基づいて上記指針を動かすモータを制御することを特徴とする請求項1または2に記載する移動体の位置表示装置。
【請求項4】
上記一次遅れ演算により発生する遅れ分に相当するオフセット信号を加算して上記指針駆動信号を補正する加算手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載する移動体の位置表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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