説明

移動体の接触検知方法

【課題】二つの物体を近づける場合に、両者間の隙間を維持したままできるだけ両者を近づけるとともに、両者が近づいたことを検出することを可能とするための、移動体の接触検知方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一方が移動体として移動する二つの物体同士が、所定の距離まで近づいたかを検知するための移動体の接触検知方法であって、少なくとも二つの物体の間に設けたい所定の距離よりも厚い可撓性を有するベース部と、ベース部の少なくとも一部の表層部に形成される可撓性を有する光反射部と、を有する接触センサーを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方が移動体として移動する二つの物体同士が、所定の距離まで近づいた否かを検知するための、移動体の接触検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体デバイス等の製造において、例えば、所定の厚さのシリコンからなるウェーハを製造後、そのウェーハの表面に半導体デバイスを形成し、ウェーハの裏面側を研削して所定の厚さにした後、各半導体デバイスに分割するという一連の工程が知られている。
【0003】
この一連の工程のうち、ウェーハの裏面側を研削する工程においては、砥石による研削や研磨をグラインダーと呼ばれる研削装置(例えば、特許文献1参照)によって実施することが知られている。研削装置は、ウェーハを保持しつつ回転させるチャックテーブルと、研削ホイールを下面に装着したホイールマウントを高速回転させるスピンドルを有する構成とし、高速回転する研削ホイールを下降させることで、研削ホイールの環状基台の下側に配設した砥石によってウェーハを徐々に薄く研削する加工が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−075929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年のウェーハの大径化に伴い、研削ホイールも大径化されるようになっており、大径化した研削ホイールをホイールマウントに装着する際の作業性を考慮する必要が生じている。具体的には、研削ホイールのホイールマウントへの装着は、ホイールマウントを備えるスピンドルを徐々に下降させ、研削ホイールとホイールマウントの間の距離を縮めたうえで、研削ホイールを持ち上げるなどして、ホイールマウントの下面に装着することで行われる。そして、大径化した研削ホイールはより重量が大きいものとなるため、研削ホイールを持ち上げる作業の負担がますます大きいものとなる。
【0006】
ここで、研削ホイールとホイールマウントの間の距離を可能な限り縮めることができれば、研削ホイールを持ち上げる負担も減り、作業の容易化を図ることができる。しかしながら、従来は目視で研削ホイールとホイールマウントの間の距離を確認していたため、両者の衝突や、衝突に伴う損傷の発生を懸念して、研削ホイールとホイールマウントの間の距離に余裕を持たせざるを得ず、作業の容易化を図ることが困難であった。
【0007】
他方、上述の研削装置に限らず、装置の部品同士を組み付ける作業において、互いの距離をできるだけ近づけることが好ましい状況は多くあると考えられる。また、このような装置の組み付けを行う状況に限らず、二つの物体を近づける状況において、一方が移動体となり他方の静止体に近づける場合、或いは、両方が移動して互いに近づく場合において、両者間の隙間を維持したままできるだけ両者を近づけるとともに、両者が近づいたことを検出するニーズが存在するものと考える。
【0008】
そこで、本発明は、二つの物体を近づける場合に、両者間の隙間を維持したままできるだけ両者を近づけるとともに、両者が近づいたことを検出することを可能とするための、移動体の接触検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明によると、少なくとも一方が移動体として移動する二つの物体同士が、所定の距離まで近づいたかを検知するための移動体の接触検知方法であって、少なくとも二つの物体の間に設けたい所定の距離よりも厚い可撓性を有するベース部と、ベース部の少なくとも一部の表層部に形成される可撓性を有する光反射部と、を有する接触センサーを用い、光反射部の一部が二つの物体の間に挟まれるように接触センサーを設置するとともに、移動体を移動させて光反射部に接触させることで、ベース部とともに光反射部を撓ませ、光反射部において二つの物体の間に挟まれる部位と挟まれない部位の境界部の周囲に形成される撓み箇所における、移動体の接触前後での色の変化に基づいて、二つの物体同士が所定の距離まで近接したか否かを検知する、ことを特徴とする移動体の接触検知方法が提供される。
【0010】
好ましくは、光反射部に対し光源から光を照射する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、二つの物体を近づける場合に、両者間の隙間を維持したままできるだけ両者を近づけるとともに、両者が近づいたことを検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】研削装置の外観斜視図である。
【図2】研削時におけるチャックテーブルと研削ホイールとの位置関係を示す斜視図である。
【図3】研削ホイールの斜視図である。
【図4】ホイールマウントに固定された研削ホイールの断面図である。
【図5】(A)は接触センサーの斜視図である。(B)は接触センサーの側面図である。
【図6】(A)はホイールマウントと研削ホイールの間に接触センサーを設置した状態について示す側面図である。(B)はホイールマウントと研削ホイールの間に接触センサーを設置した状態について示す上面図である。
【図7】(A)は所定の距離にホイールマウントを研削ホイールに近づけた状態について示す側面図である。(B)は接触センサーの色が変化した状態について示す上面図である。
【図8】(A)接触センサーを取り除く状況について示す側面図である。(B)はホイールマウントに研削ホイールを装着した状態について示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明にかかる移動体の接触検知方法を実施することが想定される一つの装置例である研削装置2の外観斜視図を示している。研削装置2のハウジング4は、水平ハウジング部分6と、垂直ハウジング部分8から構成される。
【0014】
垂直ハウジング部分8には上下方向に伸びる一対のガイドレール12、14が固定されている。この一対のガイドレール12、14に沿って研削手段(研削ユニット)16が上下方向に移動可能に装着されている。研削ユニット16は支持部20を介して一対のガイドレール12、14に沿って上下方向に移動する移動基台18に取り付けられている。
【0015】
研削ユニット16は、支持部20に取り付けられたスピンドルハウジング22と、スピンドルハウジング22中に回転可能に収容されたスピンドル24と、スピンドル24を回転駆動するサーボボータ26を含んでいる。
【0016】
研削装置2は、研削ユニット16を一対のガイドレール12,14に沿って上下方向に移動する研削ユニット送り機構44を備えている。研削ユニット送り機構44は、ボール螺子46と、ボール螺子46の一端部に固定されたパルスモータ48から構成される。パルスモータ48をパルス駆動すると、ボール螺子46が回転し、移動基台18の内部に固定されたボール螺子46のナットを介して移動基台18が上下方向に移動される。
【0017】
50は研削すべきウェーハ11を吸引保持するチャックテーブルであり、図示しないチャックテーブル移動機構によりY軸方向に移動可能に構成されている。即ち、チャックテーブル50は図示したウェーハ搬入・搬出位置と、研削ホイール30に対向する研削位置との間でY軸方向に移動される。52、54は蛇腹である。
【0018】
図2に示されるように、スピンドル24の先端部にはホイールマウント28が固定されており、このホイールマウント28には研削ホイール30が螺子31で装着されている。研削ホイール30は、環状基台32の下側の自由端部に粒径0.3〜1.0μmのダイアモンド砥粒をビトリファイドボンド等で固めた複数の研削砥石34が固着されて構成されている。
【0019】
図3に示すように、研削ホイール30は円環状の環状基台32を有して構成される。環状基台32の複数箇所には、環状基台32をホイールマウント28に装着するための螺子孔33が上下方向に形設されている。図4に示されるように、各螺子孔33は、ホイールマウント28に上下方向に形設された貫通孔29に対応する位置に設けられており、貫通孔29を通じて螺子孔33に対し螺子31を螺挿することにより、図2に示すように、研削ホイール30がホイールマウント28の下部に装着される。
【0020】
そして、本実施例では、ホイールマウント28への研削ホイール30の装着作業を容易とすべく、研削ホイール30に対しホイールマウント28が所定の距離まで近づけるために、図5(A)(B)に示される接触センサー60が用いられる。接触センサー60は、ベース部61と、ベース部61の少なくとも一部の表層部に形成される光反射部62とを有して構成される。
【0021】
ベース部61は、ゴムやスポンジなどの弾性体から構成することができ、本実施例では平板形状をした部材にて構成される。なお、ベース部61は、平板形状に限らず、棒状や、シート状のもので構成することも考えられる。
【0022】
本実施形態では、ベース部61の厚み寸法Mは、少なくともホイールマウント28と研削ホイール30の間に確保する所定の距離H(図7(A)参照)よりも大きく設定される。なお、このほか、ベース部61と光反射部62の合計の厚みを所定の距離H(図7(A)参照)よりも大きく設定することとしてもよい。ここでいう「所定の距離H」とは、ホイールマウント28と研削ホイール30の間において最終的に設定される距離であって、言い換えれば、「ホイールマウント28と研削ホイール30をできるだけ近づけた場合の距離」となる。
【0023】
光反射部62は、可撓性を有し、且つ、光を反射する樹脂フィルムや、アルミ箔などの光反射性を有する部材から構成することができ、本実施例ではベース部61の一側表面に貼設されるシート状の部材にて構成される。光反射部62は、後述するように、その一部が変形することで被検知物体との接触を検知するものである。光反射部62に物体が接触した際には、界面となる光反射部62の表面に対する光の入射角が変更することになり(反射角が変更すると解釈してもよい)、オペレータによって視認される色に変化が生じることになる。この色の変化が検知情報となり、ホイールマウント28が光反射部62に接触したことがオペレータによって検知される。
【0024】
なお、本実施例では、ベース部61と光反射部62を別部材の組み合わせにて構成したが、このほかにも、ベース部61に塗装を施すことでベース部61の表層部に検知部を形成することや、光反射部62を厚みのある部材にて構成して光反射部62単独で接触センサー60を構成することとしてもよい。さらにベース部61のオモテ、ウラの両面や、すべての表層部をシート状の光反射部62で覆う形態なども考えられる。
【0025】
以上のように構成した接触センサー60を利用して、以下では、ホイールマウント28に研削ホイール30を装着する例について説明する。
【0026】
図6(A)に示すように、チャックテーブル50の上に治具35を載置し、この治具35の上に研削砥石34を下側にして研削ホイール30を載置する。治具35の具体的な構成については特に限定するものではないが、後のホイールマウント28への固定作業において、研削ホイール30を持ち上げることなく、容易作業を行えるように、研削ホイール30の上下位置を変更可能にする構成とすることが好ましい。
【0027】
次いで、研削ホイール30をホイールマウント28の下方に位置づけるように、チャックテーブル50をY軸方向に移動させる。この際、ホイールマウント28がチャックテーブル50から上方に十分離れた位置にあるように、移動基台18(図1参照)を上昇させておく。
【0028】
次いで、図6(A)(B)に示すように、研削ホイール30の環状基台32の上面32aに接触センサー60を載置する。ここで接触センサー60は、光反射部62の一部が研削ホイール30とホイールマウント28の間に挟まれる位置に配置される。これにより、光反射部62において挟まれる部位63aと挟まれない部位63bの境界部63が構成される。なお、チャックテーブル50をY軸方向に移動させる前に、予め接触センサー60を研削ホイール30の上面32aに接着しておいてもよい。
【0029】
本実施形態では、接触センサー60のベース部61が研削ホイール30の上面32aに載置され、光反射部62がホイールマウント28の下面28bに対向するように配置されることで、光反射部62を上方から視認可能としている。
【0030】
接触センサー60の上方となる位置には、接触検知の際の光反射部62の色の変化をより視認しやすくするために、光反射部62を照らし得る光源64を設けることが好ましい。なお、本明細書にいう「色の変化」とは、色の三属性(色相、明度、彩度)の少なくとも一つが変化することをいうものであり、オペレータの視覚によって識別できるものをいうものである。
【0031】
次いで、図7(A)に示すように、ホイールマウント28の下面28bを接触センサー60に近づけるように徐々に下降させ、下面28bにより光反射部62の一部が下方に押し下げられると、研削ホイール30とホイールマウント28の間に挟まれる部位63aと挟まれない部位63bの境界部63の周囲において、光反射部62が変形することによりなる撓み箇所62aが形成される。
【0032】
この撓み箇所62aが形成される前後では、境界部63における光の入射角に変更が生じるため、視認される色に変化が生じる。そして、オペレータはこの色の変化を視認することで、ホイールマウント28の下面28bが接触センサー60に接触したことを検知することができる。
【0033】
オペレータは、この検知に基づき、ホイールマウント28が研削ホイール30に近づいたこと、つまりは、ホイールマウント28が研削ホイール30から所定の距離Hの位置に到達したことを把握することができる。
【0034】
次いで、図8(A)ホイールマウント28の下降を停止させるとともに、ホイールマウント28と研削ホイール30の間に挟まれた接触センサー60を取り除く。接触センサー60は弾性体で構成されるため、接触センサー60は容易に取り除くことができる。
【0035】
次いで、図8(B)に示すように、研削ホイール30を上方に移動させるように治具35を調整し、環状基台32の上面32aをホイールマウント28の下面28bに当着させるとともに、ホイールマウント28の貫通孔29に対し上側から螺子31を挿入し、研削ホイール30の螺子孔33に螺挿することで、ホイールマウント28に対する研削ホイール30が装着される。
【0036】
以上のように、本実施形態においては、半導体ウェーハの研削装置を例として説明したが、本発明は多くの使用形態が考えられる。例えば、本実施形態では、ホイールマウント28と研削ホイール30の二つの物体同士の関係では、一方のホイールマウント28のみが移動する形態としたが、例えば、二つの物体がそれぞれ移動して互いに近づき合う場合においても本発明は適用することが可能となるものである。
【0037】
このように、本発明では、少なくとも一方が移動体として移動する二つの物体同士が、所定の距離まで近づいたかを検知するための移動体の接触検知方法とすることができるのである。そして、具体的な方法として、少なくとも二つの物体の間に設けたい所定の距離よりも厚い可撓性を有するベース部61と、ベース部61の少なくとも一部の表層部に形成される可撓性を有する光反射部62と、を有する接触センサー60を用い、光反射部62の一部が二つの物体の間に挟まれるように接触センサーを設置するとともに、光反射部に対し光源64から光を照射し、移動体を移動させて光反射部62に接触させることで、ベース部61とともに光反射部62を撓ませ、光反射部62において二つの物体の間に挟まれる部位63aと挟まれない部位63bの境界部63の周囲に形成される撓み箇所62aにおける、移動体の接触前後での色の変化に基づいて、二つの物体同士が所定の距離まで近接したかを検知するものである。
【0038】
このような本発明によれば、特に物体の種類を問わず、二つの物体を近づける場合に、両者間の隙間を維持したままできるだけ両者を近づけるとともに、両者が近づいたことを検出するための方法として、幅広く使用することが可能である。特に、本実施形態の構成によれば、設置場所が限定されない、電源を必要としない、安価で構成できる、など、多くの有利な点を備えた上で実施することが可能となる。
【0039】
さらに、本実施形態の構成であれば、図5(B)に示されるベース部61の厚み寸法Mを設定することで、図7(A)に示される所定の距離Hを設定することも可能となる。つまり、例えば、ベース部61の厚み寸法Mを31mmとした場合では、所定の距離Hを約30mmに実現するといったことが可能となるものであり、厚み寸法Mの異なる複数の接触センサーを用意することによれば、要求される所定の距離Hが異なる状況において、適宜対応することが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
22 スピンドルハウジング
24 スピンドル
28 ホイールマウント
30 研削ホイール
32 環状基台
34 研削砥石
35 治具
60 接触センサー
61 ベース部
62 光反射部
62a 撓み箇所
63 境界部
64 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が移動体として移動する二つの物体同士が、所定の距離まで近づいたかを検知するための移動体の接触検知方法であって、
少なくとも該二つの物体の間に設けたい所定の距離よりも厚い可撓性を有するベース部と、
該ベース部の少なくとも一部の表層部に形成される可撓性を有する光反射部と、
を有する接触センサーを用い、
該光反射部の一部が該二つの物体の間に挟まれるように該接触センサーを設置するとともに、
該移動体を移動させて該光反射部に接触させることで、該ベース部とともに該光反射部を撓ませ、
該光反射部において該二つの物体の間に挟まれる部位と挟まれない部位の境界部の周囲に形成される撓み箇所における、該移動体の接触前後での色の変化に基づいて、
該二つの物体同士が所定の距離まで近接したか否かを検知する、ことを特徴とする移動体の接触検知方法。
【請求項2】
前記光反射部に対し光源から光を照射する、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動体の接触検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35097(P2013−35097A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172715(P2011−172715)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】