説明

移動体の案内装置

【課題】移動体の摺動面の潤滑油の入替りを促進し、潤滑油の温度上昇を防止できるようにすること。
【解決手段】支持体の案内面12に摺動部材14の摺動面10を接触させながら案内する移動体の案内装置において、摺動面10に開口する潤滑油帰還路28と、潤滑油帰還通路28にそれぞれ連通すると、潤滑油供給通路24と潤滑油排出通路26とを移動体に設け、移動体の移動に伴い摺動面10と潤滑油帰還通路28との間で潤滑油を帰還させながら、潤滑油供給通路24を介して潤滑油源から摺動面10へ潤滑油を供給し、潤滑油排出通路26を介して摺動面10から外部へ潤滑油を排出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の送り軸等に用いられる移動体の案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の送り軸等に用いられる案内装置は、支持体の案内面に移動体の摺動面を案内させて、軸送り装置により移動体を移動させるものである。一般に、案内装置には、動圧すべり案内方式、静圧案内方式、一部荷重補償すべり案内方式等がある。本発明は、動圧すべり案内方式による移動体の案内装置に関するものである。
【0003】
特許文献1には、支持体の案内面に案内される移動体の摺動面に周囲をランド部で包囲した潤滑油ポケットを複数個設け、移動体が移動する際に、移動体の移動方向の後部に溜った潤滑油が移動方向の前部へ流れるように潤滑油ポケットの中の前部と後部を潤滑油帰還管路によって連通させた移動体の案内装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、コラムの正面に形成されたガイドの案内面に接触しながら移動するサドルの摺動面の発熱部位を予めシミュレーションによって特定し、発熱量の少ない部位の方から発熱量の多い方向に向けて冷却液が流通するようにサドル内に流体管路を配設して、該流体管路内に冷却液を循環させて摺動面の発熱部位を効果的に冷却するようにした工作機械の移動体の冷却装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−175840号公報
【特許文献2】特開2009−61564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている案内装置によれば、移動体の移動に伴って、潤滑油ポケット内の後方に溜った潤滑油が潤滑油帰還管路を通って潤滑油ポケット内の前方に流れるので、潤滑油ポケット内において局所的な圧力上昇が防止され、潤滑油が摺動面から外部に流出する量が少なくなるとの効果を奏する。然しながら、特許文献1の案内装置では、潤滑油の積極的な回収や供給する潤滑油の冷却を行なっていないために、潤滑油が高温となって性能が落ちる問題がある。更に、潤滑油は潤滑油ポケットに封じられてしまうために、潤滑油の熱が摺動面や案内面に伝播して機械の精度に悪影響を及ぼす問題がある。
【0007】
特許文献2に開示されている工作機械の移動体の冷却装置では、サドルは冷却されるが、案内面や摺動面、潤滑油は冷却されず、潤滑油が高温となって性能が落ちる問題がある。また、特許文献2の移動体の冷却装置は、摺動面の潤滑系統とは独立系統である冷却油循環管路が必要となる。
【0008】
本発明は、従来技術の問題点を解決することを技術課題としており、摺動面の潤滑油ポケット内の潤滑油の温度上昇を防止し、また、潤滑油配管系統とは別の冷却液配管系統を設けなくても摺動面や案内面の冷却が行える移動体の案内装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するために、本発明によれば、支持体の案内面と、移動体の摺動面との間に潤滑油を供給して移動体を案内する移動体の案内装置において、前記移動体の摺動面に設けられた潤滑油ポケットと、前記潤滑油ポケットの中に開口され、前記移動体の移動方向の前部と後部を連通した潤滑油帰還通路と、前記潤滑油帰還通路に連通し、潤滑油源から供給される潤滑油を前記潤滑油帰還通路を通して前記潤滑油ポケットに供給する潤滑油供給通路と、前記潤滑油帰還通路に連通し、前記潤滑油ポケットから潤滑油を前記潤滑油帰還通路を通して外部へ排出する潤滑油排出通路とを具備する移動体の案内装置が提供される。
【0010】
また本発明によれば、支持体の案内面と、移動体の摺動面との間に潤滑油を供給して移動体を案内する移動体の案内装置において、前記移動体の摺動面に周囲をランド部で囲った潤滑油ポケットが設けられ、その潤滑油ポケットの中の摺動面に多数の凹部が形成されてなる潤滑油ポケットと、前記潤滑油ポケットの中に開口され、前記移動体の移動に伴って、移動方向の後部に溜った潤滑油が移動方向の前部に流れるように前記潤滑油ポケットの中の前部と後部を連通した潤滑油帰還通路と、前記潤滑油帰還通路に連通し、潤滑油タンクから供給される潤滑油を前記潤滑油帰還通路を通して前記潤滑油ポケットに供給する潤滑油供給通路と、前記潤滑油帰還通路に連通し、前記潤滑油ポケットから潤滑油を前記潤滑油帰還通路を通して排出し、前記潤滑油タンクに回収する潤滑油排出通路と、前記潤滑油ポケットに供給される潤滑油を冷却する潤滑油温度制御装置とを具備する移動体の案内装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、移動体が移動する度に、潤滑油ポケット内の潤滑油は潤滑油帰還通路及び潤滑油排出通路を通して外部に排出され、潤滑油源から潤滑油供給通路及び潤滑油帰還通路を通して潤滑油ポケットに潤滑油が供給されることにより、潤滑油ポケット内の潤滑油が入替り、潤滑油ポケット内の潤滑油の温度上昇が抑制される。また、潤滑油排出通路を通って排出された潤滑油を潤滑油源の潤滑油タンクに回収し、冷却して潤滑油ポケットに供給する循環サイクルを形成することにより、潤滑油ポケットには冷却された潤滑油が流通することになり、冷却液配管系統を別に設けなくても摺動面や案内面を冷却することができる。よって移動体の移動に関する精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による移動体の案内装置を備えた工作機械の側面図である。
【図2】図1の矢視Aによる工作機械の部分正面図である。
【図3】本発明の好ましい実施の形態による案内装置を備えた移動体として図1の工作機械のB軸ベースの摺動面を示す部分平面図である。
【図4】本発明の好ましい実施の形態による案内装置を備えた移動体として図1の工作機械のB軸ベースの一部を示す部分断面図である。
【図5】本発明による他の実施の形態による案内装置を備えた移動体として図1の工作機械のB軸ベースの一部を示す部分断面図である。
【図6】摺動面に機械加工によって形成した多数の凹部の1つを拡大して示す摺動面の平面図である。
【図7】摺動面に機械加工によって形成した多数の凹部の1つを拡大して示す長軸に沿う摺動面の断面図である。
【図8】摺動面に機械加工によって形成した多数の凹部の1つを拡大して示す短軸に沿う摺動面の断面図である。
【図9】摺動面に多数の凹部を規則正しく配列した一例を示す摺動面の部分平面図である。
【図10】本発明の好ましい実施の形態による案内装置の作用を説明するためのB軸ベースの一部の断面図である。
【図11】本発明の好ましい実施の形態による案内装置の作用を説明するためのB軸ベースの一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1、2を参照すると、本発明による移動体の案内装置を備えた機械の一例として工作機械、特に横形マシニングセンタ100が図示されている。工作機械100は、工場の床面に固定される支持体としてのベッド102を具備しており、該ベッド102の前方部分の上面には、移動体としてのB軸ベース110がZ軸送り機構を介して前後方向(Z軸方向)に移動可能に取付けられている。また、ベッド102の後方部分の上面には、X軸送り機構を介して左右方向(X軸方向)に移動可能にコラム104が取付けられている。コラム104の前面にY軸送り機構を介して上下方向(Y軸方向)に移動可能に主軸頭106が取付けられ、該主軸頭106には、先端部に工具Tを取付ける主軸108が水平の回転軸線Osを中心に回転可能に支持されている。
【0014】
B軸ベース110には、B軸テーブル(図示せず)が鉛直軸線(B軸)を中心として回転可能に支持されている。B軸ベース110内にはB軸送り機構としてのサーボモーター(図示せず)が組込まれている。B軸テーブルの上面にはイケール等のワーク取付部材112が取付けられており、該ワーク取付部材112のワーク取付面112aにはワークWが取付けられる。
【0015】
X軸送り機構は、ベッド102の上面において左右方向に水平に延設された一対のX軸ガイドレール102a及び該X軸ガイドレール102a沿いに摺動可能にコラム104の下面に取付けられた摺動部材(図示せず)から成るX軸案内装置と、ベッド102内においてX軸方向に延設されたX軸ボールねじ(図示せず)、コラム104の下端部分に取付けられ前記X軸ボールねじに係合するナット(図示せず)及び前記X軸ボールねじの一端に連結され該X軸ボールねじを回転駆動するサーボモータ(図示せず)から成るX軸送り装置とを具備する。
【0016】
同様に、Y軸送り機構は、コラム104内に鉛直に延設された一対のY軸ガイドレール(図示せず)及び該Y軸ガイドレール沿いに摺動可能に主軸頭106に取付けられた摺動部材(図示せず)から成るY軸案内装置と、コラム104内においてY軸方向に延設されたY軸ボールねじ(図示せず)、主軸頭106内に取付けられ前記Y軸ボールねじに係合するナット(図示せず)及び前記Y軸ボールねじの一端に連結され該Y軸ボールねじを回転駆動するサーボモータ(図示せず)から成るY軸送り装置とを具備する。
【0017】
同様に、Z軸送り機構は、本発明による案内装置を備えたZ軸案内装置と、ベッド102内においてZ軸方向に延設されたZ軸ボールねじ114(図2)、B軸ベース110の下面に取付けられZ軸ボールねじ114に係合するナット116(図2)及び前記Z軸ボールねじの一端に連結され該Z軸ボールねじを回転駆動するサーボモータ(図示せず)を備えたZ軸送り装置とを具備する。本実施の形態において、前記案内装置は、ベッド102の上面において前後方向に水平かつX軸ガイドレール102aに対して垂直に延設され、一対のZ軸ガイドレール102bによって形成される案内面12と、B軸ベース110に形成され案内面12に接触、案内される摺動面10とを含む。実際の工作機械では、B軸ベース110にかかる上下左右の力を受けるために、Z軸ガイドレール102bは、下案内面12a及び側部案内面12bを更に有しており、B軸ベース110もそれらに対応する摺動面110a、110bを有している。本実施の形態では、案内面12を支持体の案内面として説明する。
【0018】
B軸ベース110には、摺動面10の潤滑油ポケット20の進行方向両端部に開口している潤滑油帰還路28と、潤滑油源30から潤滑油帰還路28に連通し、潤滑油ポケット20へ向けて潤滑油を供給するための潤滑油供給通路24と、潤滑油帰還路28に連通し、潤滑油帰還路28を通して潤滑油ポケット20内の潤滑油を排出する潤滑油排出路26とが形成されている。
【0019】
潤滑油源30は、潤滑油排出通路26に連通する潤滑油排出管路34を介して摺動面10から回収した潤滑油を貯留する潤滑油タンク36、潤滑油を冷却して温度を一定に制御するための潤滑油温度制御装置38、潤滑油タンク36から潤滑油を吸引し潤滑油供給管路32を介して潤滑油供給通路24へ潤滑油を圧送するポンプ40、ポンプ40の吐出側に設けられポンプ40により潤滑油中に発生する脈動を除去するアキュムレータ42を具備する。脈動の少ないポンプを用いたり、脈動の影響が問題とならない場合は、アキュムレータを省略してもよい。
【0020】
なお、潤滑油源30から移動するB軸ベース110へ潤滑油供給管路32及び潤滑油排出管路34を接続するために、ベッド102及びB軸ベース110の側面に継手118、120を配設して、該継手118、120の間をケーブルガイド等により保護するようにできる。また、潤滑油タンク36は、仕切り壁36cによって内部空間を受入側タンク36aと供給側タンク36bとに分割し、新しい潤滑油及び潤滑油排出管路34からの潤滑油を受入側タンク36aに貯留し、該受入側タンク36aに貯留されている潤滑油を潤滑油温度制御装置38によって温度調整して供給側タンク36bに貯留し、該供給側タンク36bから潤滑油をポンプ40によって案内装置へ供給するようにできる。
【0021】
図3、4を参照すると、B軸ベース110の摺動面10は、支持体としてのベッド102の2本の案内面12に対応させて、B軸ベース110の両側部に配設されている。図3は、B軸ベース110の一方の側部に設けられた摺動面10を示しており、摺動面10には、ランド部18によって囲繞される潤滑油ポケット20が形成されており、該潤滑油ポケット20には、潤滑油の油溜りとなる凹部22がキサゲ加工等により形成されている。潤滑油ポケット20を囲繞するランド部18は、潤滑油ポケット20の中の摺動面10と略同一の高さに形成され、その表面は、摺動面10と略同一の平面度を有している。所望の平面度を得るために、潤滑油が摺動面10から流出しない程度の細かさのキサゲ加工をランド部18に施してもよい。
【0022】
また、本実施の形態では、2つのランド部18及び潤滑油ポケット20が、各摺動面10においてB軸ベース110の長手方向に互いに離間させて配置されており、両者間の中央部は逃げ部37となっている。逃げ部37は摺動面10全体の平面度が出し易く、しかも、偏摩擦しないように適宜設けるものであり、大型の移動体では、ランド部18及び潤滑油ポケット20を各摺動面10に3箇所設け、逃げ部37を2箇所設ける構造にしてもよい。
【0023】
更に、本実施の形態では、ランド部18及び潤滑油ポケット20は、B軸ベース110に貼付された摺動部材14に形成されている。潤滑油帰還通路28は夫々摺動部材14に形成された第1ポート44及び第2ポート46によって潤滑油ポケット20に開口している。本実施の形態では、潤滑油帰還路28は、1つの潤滑油ポケット20に対して2つずつ設けられ、2つの第1ポート44を連通する油溝44aと、2つの第2ポートを連通する油溝46aが形成されている。摺動部材14は、耐摩耗性が高くかつ摩擦係数の低い材料、例えばフッ素樹脂から薄板状に形成され、例えばターカイトやベアリーの商品名で市販されているベアリング材料を用いることができる。
【0024】
図4の実施の形態では、潤滑油帰還通路28の第1ポート44を延長させた通路形態で潤滑油供給通路を形成し、第2ポート46を延長させた通路形態で潤滑油排出通路を形成したが、図5の実施の形態では、潤滑油帰還通路28の第1ポート44と第2ポート46をつなげる横方向に形成された通路部分を延長した通路形態で潤滑油供給通路24及び潤滑油排出通路26を形成している。このように各潤滑油通路を形成しても本発明の作用、効果を奏する。B軸ベース110内に潤滑油帰還通路28、潤滑油供給通路24及び潤滑油排出通路26をどのような形態に形成するかは、その他種々考えられる。
【0025】
図6は、摺動面10と凹部22との稜線15を表す閉曲線である。閉曲線は楕円弧状、長円弧状等の細長形状に形成される。図7は、凹部22の長軸ALに沿う断面であり、凹部22は半径RLを有する。図8は、凹部22の短軸ASに沿う断面であり、凹部22は半径RSを有する。本実施の形態では、半径RLは50mmで、半径RSは10mmで、凹部22の深さは0.12mmである。凹部22の加工は、切刃先半径10mmで回転半径50mmの工具をNC工作機械に装着して行うことができる。また、工具を回転させずにヘール加工によって凹部を加工してもよい。
【0026】
図9は、摺動面に多数の凹部を規則正しく配列した一例を示す部分平面図である。凹部22の長軸ALが45度の傾きをもって交互にクロスして配列されている。凹部22はX、Z軸方向にピッチPx、Pzを有して形成される。凹部22の長軸方向端部の円弧部は部分的に互いに重なるように形成されている。凹部22が重なり合っている部分22aは凹部22に溜った潤滑油が隣の凹部22に流れるための通路となる。摺動面10に凹部22を加工した残りの部分23が案内面12との接触部分となる。凹部22の長軸ALの傾き角度を変えたり、凹部刻設のピッチPx、Pzを変えて形成してもよい。凹部22の長軸ALが傾き角度をもって形成されているので、摺動面10に供給された潤滑油はその傾き角度に沿って流れ、摺動面10の全面に行き亘るように供給される。
【0027】
以下、図10、11を参照して、本実施の形態の作用を説明する。
B軸ベース110が、図10において矢印Z1で示すように、ベッド102に対して相対的に潤滑油帰還通路28の第1ポート44側に移動するとき、潤滑油ポケット20内の潤滑油は、矢印L1で示すように、B軸ベース110に対して相対的に潤滑油帰還通路28の第2ポート46側に移動する。これによって、潤滑油ポケット20内では、第2ポート46側が相対的に高圧になり第1ポート44側が低圧となる。従って、潤滑油源30から潤滑油供給管路32を介して潤滑油供給通路24へ供給された低温の潤滑油は、その一部が第1ポート44から潤滑油ポケット20内に流入し、残りの部分は潤滑油排出通路26へ向けて潤滑油帰還通路28内を流通する。潤滑油ポケット20内に流入した潤滑油は、第2ポート46側へ向けて潤滑油ポケット20内を流通して、第2ポート46から潤滑油排出通路26及び潤滑油排出管路34を介して潤滑油源30へ帰還する。潤滑油が潤滑油ポケット20内を流通する際、従前に潤滑油ポケット20内に存在していた摺動によって温度の上昇した潤滑油は、第1ポート44から新たに供給される低温の潤滑油によって第2ポート46を通じて潤滑油ポケット20から排出される。この潤滑油の入替り作用によって、摺動面10及び案内面12は冷却される。
【0028】
B軸ベース110が、図11において矢印Z2で示すように、ベッド102に対して相対的に潤滑油帰還通路28の第2ポート46側に移動するとき、潤滑油ポケット20内の潤滑油は、矢印L2で示すように、B軸ベース110に対して相対的に潤滑油帰還通路28の第1ポート44側に移動する。これによって、潤滑油ポケット20内では、第1ポート44側が相対的に高圧になり第2ポート46側が低圧となる。従って、潤滑油ポケット20内の摺動によって温度の上昇した潤滑油が第1ポート44から潤滑油供給通路24へ向って流出し、潤滑油供給通路24からの低温の潤滑油と合流して幾分温度が低下し、潤滑油帰還通路28内に流入する。潤滑油帰還通路28内を流通する潤滑油の一部が、第2ポート46を介して潤滑油ポケット20内に流入し、残りの部分は潤滑油排出通路26及び潤滑油排出管路34を介して潤滑油源30へ帰還する。潤滑油が潤滑油ポケット20内を流通する際、従前に潤滑油ポケット20内に存在していた温度の上昇した潤滑油は、第2ポート46から新たに供給される幾分温度が低下した潤滑油によって第1ポート44を通じて潤滑油ポケット20から排出される。この潤滑油の入替り作用によって、摺動面10及び案内面12は冷却される。
【0029】
B軸ベース110が第1ポート44側に移動するときには、反対方向の第2ポート46側に移動するときよりも多くの潤滑油源30からの潤滑油が摺動面に供給されることとなるが、B軸ベース110はZ軸方向に往復移動するので、B軸ベース110の移動方向に関する潤滑油供給量の不均一性は問題とならず、所定の加工プロセスを繰り返す間に摺動面10と案内面12の間の潤滑油の温度は略一定に制御可能である。
【0030】
潤滑油ポケット20に形成した油溝44a、46aは、第1、第2ポート44、46の開口面積を実質拡大する作用があり、潤滑油ポケット20の幅全域にわたって潤滑油を供給したり排出したりして、潤滑油ポケット20全体に早く潤滑油を行き渡らせることができる。
【0031】
本実施の形態によれば、摺動面10と案内面12との間の潤滑油を直接冷却可能となり、摺動面10及び案内面12の発熱領域を直接冷却可能となる。また、摺動面10に形成されたランド部18に包囲された潤滑油ポケット20に潤滑油が供給されるので、摺動面10と案内面12との間から漏洩する潤滑油量が低減され、循環させる潤滑油量も少量、例えば1000cm3/minとすることができる。
【0032】
既述の実施の形態では、潤滑油ポケット20及びランド部18は、案内面12と接触して案内される摺動面10に貼付された摺動部材14に形成されているが、B軸ベース110が鋳物等で造られている場合には、摺動部材14をB軸ベース110に貼付することなく、潤滑油ポケット20及びランド部18を摺動面10に直接形成するようにできる。また、摺動面110a、110bに摺動部材14を貼付して摺動面10と同様の構成とすることもできる。更に、X軸案内装置及びY軸案内装置も同様の構成とすることができる。
【0033】
本実施の形態では、潤滑油排出通路26を通った潤滑油を潤滑油源30に回収したが、回収せずに外部に排出してもよい。その場合、潤滑油源30から新しい潤滑油が次々に潤滑油ポケット20に供給され、潤滑油温度制御装置38を設けなくても従前の潤滑油が潤滑油ポケット20から排出されるので、潤滑油ポケット20内の潤滑油温度は上昇しない。また、潤滑油排出通路26を通った潤滑油を潤滑油源30に回収し、再度潤滑油ポケット20に循環させる場合、潤滑油温度制御装置38を設けなくても、潤滑油は潤滑油排出管路34、潤滑油タンク36、潤滑油供給管路32を流通する間に放熱されて潤滑油ポケット20に供給されるので、潤滑油ポケット20内の潤滑油温度はほとんど上昇しない。
【符号の説明】
【0034】
10 摺動面
12 案内面
14 摺動部材
18 ランド部
20 潤滑油ポケット
22 凹部
24 潤滑油供給通路
26 潤滑油排出通路
28 潤滑油帰還通路
30 潤滑油源
32 潤滑油供給管路
34 潤滑油排出管路
36 潤滑油タンク
38 潤滑油温度制御装置
40 ポンプ
42 アキュムレータ
44 第1ポート
46 第2ポート
100 工作機械
102 ベッド
104 コラム
106 主軸頭
108 主軸
110 B軸ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の案内面と、移動体の摺動面との間に潤滑油を供給して移動体を案内する移動体の案内装置において、
前記移動体の摺動面に設けられた潤滑油ポケットと、
前記潤滑油ポケットの中に開口され、前記移動体の移動方向の前部と後部を連通した潤滑油帰還通路と、
前記潤滑油帰還通路に連通し、潤滑油源から供給される潤滑油を前記潤滑油帰還通路を通して前記潤滑油ポケットに供給する潤滑油供給通路と、
前記潤滑油帰還通路に連通し、前記潤滑油ポケットから潤滑油を前記潤滑油帰還通路を通して外部へ排出する潤滑油排出通路と、
を具備することを特徴とした移動体の案内装置。
【請求項2】
前記潤滑油排出通路は、前記潤滑油源に接続され、排出された潤滑油を前記潤滑油源に回収する請求項1に記載の移動体の案内装置。
【請求項3】
前記潤滑油源は、前記潤滑油排出通路から潤滑油を受入れる潤滑油タンクと、前記潤滑油タンクに貯留されている潤滑油を冷却する潤滑油温度制御装置と、前記潤滑油タンクから前記潤滑油供給通路へ潤滑油を吐出するポンプと、を具備する請求項1〜5の何れか1項に記載の移動体の案内装置。
【請求項4】
前記潤滑油源は、前記ポンプによって前記潤滑油供給通路に吐出される潤滑油に生じる脈動を低減するアキュムレータを更に具備する請求項3に記載の移動体の案内装置。
【請求項5】
支持体の案内面と、移動体の摺動面との間に潤滑油を供給して移動体を案内する移動体の案内装置において、
前記移動体の摺動面に周囲をランド部で囲った潤滑油ポケットが設けられ、その潤滑油ポケットの中の摺動面に多数の凹部が形成されてなる潤滑油ポケットと、
前記潤滑油ポケットの中に開口され、前記移動体の移動に伴って、移動方向の後部に溜った潤滑油が移動方向の前部に流れるように前記潤滑油ポケットの中の前部と後部を連通した潤滑油帰還通路と、
前記潤滑油帰還通路に連通し、潤滑油タンクから供給される潤滑油を前記潤滑油帰還通路を通して前記潤滑油ポケットに供給する潤滑油供給通路と、
前記潤滑油帰還通路に連通し、前記潤滑油ポケットから潤滑油を前記潤滑油帰還通路を通して排出し、前記潤滑油タンクに回収する潤滑油排出通路と、
前記潤滑油ポケットに供給される潤滑油を冷却する潤滑油温度制御装置と、
を具備することを特徴とした移動体の案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−91142(P2013−91142A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236025(P2011−236025)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000154990)株式会社牧野フライス製作所 (116)
【Fターム(参考)】