説明

移動体の車輪劣化診断方法とその装置

【課題】軌道上を移動する複数の移動体の車輪の劣化具合を個々に精度よく診断できる安価な車輪劣化診断装置を提供する
【解決手段】移動体に車軸を介して取付けられる車輪が軌道上を接触して転動する際、車軸の軸心から軸心が偏心した車輪を検出可能な異常車輪検知手段と、前記軌道の一部を形成して隔設される検査レールに取付けられ該検査レール上を車輪が転動する際に発する振動を検出する振動収集センサと1個の車輪が検査レールを通過する間に振動収集センサを介して振動情報を収集する振動解析装置とを備えた

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール等軌道上を走行する移動体が備える車輪の劣化診断方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体から突出される車輪支持具に回動自在に取付けられた車輪が転動して軌道上を移動体が進退する構成にあって、特には、軌道が人間の身長より高い位置に配設され前記車輪支持具が車輪を介して軌道と対向される構造の場合、車輪が車軸から外れても落下せず判りにくい。このため、移動体の走行抵抗が突然大きくなって(例えば、左右前後の4輪車の場合は2輪が故障して初めて走行抵抗が突然大きくなる)車輪異常が判り、修理のために生産設備の突然停止に追込まれる。また、破損車輪を新品に交換するため、部品交換までの間は生産が停止される。このため、設備停止期間短縮のため車輪の予備品を沢山保有する等経済的ロスが生じるので車輪の劣化状況を把握できる装置が望まれていた。
【0003】
このような折、トロリローラ等の軸受部劣化検査方法とその装置が特開2005−61933号公報に開示されている。
該装置によれば、ローラ(車輪)が転動するレールのローラ(車輪)接触面(走行面)に凹凸部を形成したローラ偏向部を設け、該ローラ偏向部を転動するローラが傾く際にローラの傾きの大きさを測定してローラの軸受部の劣化を検査するようにされている。これにより、トロリ走行中に短時間かつ簡単にローラの劣化検査を行うことができるので定期検査のためのトロリ装置の停止時間を低減でき、トロリ装置の稼動効率を向上できる。とされている。
【0004】
また、回転機械設備の故障診断方法及びその装置が特開2001−208655号公報に開示されている。ここでは、機械設備が発する振動波形から求めた周波数スペクトルをパワー合成した振動値Aと回転数成分とその高調波成分の周波数スペクトルをパワー合成した故障値Bを算出し故障スペクトルB/Aを使って故障診断できるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−61933号公報
【特許文献2】特開2001−208655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の測定装置には、
1)ローラ偏向部を転動するローラが交番荷重による衝撃力を受けローラ軸受部の劣化が促進される。
2)ローラ偏向部に形成される凹凸形状の加工は放電加工等特殊加工が必須とされ形状加工費が高価になる。
3)高価ながらも成形したローラ偏向部は経時的に磨耗するので劣化度が同じローラでも磨耗の大きいローラ偏向部を転動する際に比べて磨耗の少ないローラ偏向部を転動する際の方がローラの傾きが大きくなるので検査精度の正確さに欠ける。
4)帯光照射装置や照射線の傾きを観測する観測手段、その観測結果を表示する表示手段等を備えるため装置が複雑化し価格が高価になる。等の問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法とその装置には、
1)軌道上を転動する車輪は移動体を構成する複数の部品や移動体に積載される回転機械が起振源とされる高調波を多く出すので診断精度が低い。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑み、移動体に備えられる車輪が転動して移動する軌道に前記車輪が接触して転動可能な検査レールを設け該検査レールに取付けられた振動収集センサが収集する振動データから検査レール上を移動する移動体の車輪の劣化具合を監視できる振動解析装置と車輪が車軸から外れたことを検知可能な異常車輪検知手段とを備え、軌道上を移動する複数の移動体の車輪の劣化具合を個々に精度よく診断できる安価な車輪劣化診断装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、載荷可能な移動体に車軸を介して取付けられる車輪が軌道上を接触して転動する搬送装置の車輪劣化診断装置であって、前記車軸の軸心から軸心が偏心した前記車輪を検出可能な異常車輪検知手段と、前記軌道の一部を形成して隔設される検査レールに取付けられ該検査レール上を前記車輪が転動する際に発する振動を検出する振動収集センサと1個の前記車輪が検査レールを通過する間に前記振動収集センサを介して振動情報を時系列的に収集する振動解析装置とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2においては、請求項1記載の異常車輪検知手段が車輪の異常を監視する工程と
請求項1記載の振動解析装置が時系列的に収集した振動情報を高速フーリエ変換して卓越周波数を抽出し該卓越周波数のピーク値を時系列的にデータ保存する工程と前記異常車輪検知手段が前記車軸の軸心から軸心が偏心した車輪を検出するとその信号により振動解析装置が偏心した車輪を検知した時間以前の卓越周波数のピーク値を時系列的に呼び出し該卓越周波数のピーク値と車輪転動時間との相関が高い卓越周波数を算出し該算出された卓越周波数を監視周波数として登録する工程と該監視周波数の振動レベルの一定高さ以上の値を閾値として設定し前記振動収集センサが収集する振動レベルが該閾値を越すとアラーム信号を発するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1においては、移動体に取付けられる車輪が車軸から偏心したこと、すなわち、車輪に内蔵されるベアリングの破損が確実に検出できる。また、検査レール上を1個の被診断車輪が通過中に該車輪の振動情報を収集して解析するので他車輪の振動情報の進入が少なく精度の高い車輪劣化診断が可能である。また、車輪に内蔵されるベアリングの破損後それまでに収集した振動情報から車輪劣化に相関の高い周波数を抽出しその周波数の振動レベルを監視するので車輪の故障予知精度が高い。さらにまた、診断情報を収集する振動収集センサを検査レール上の一箇所に取付けるだけで、ここを通過する複数の移動体の車輪を個々に診断できる。
【0014】
請求項2においては、異常車輪を検知するとその時間から遡って、車輪劣化に相関のある振動周波数を特定することができるので精度の高い車輪劣化指標を設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では、図1乃至図3を用いて本発明に係る移動体の車輪劣化診断装置の第一実施例について説明する。
【0016】
1は移動体10に備えられる回動自在の車輪14が接触して転動する車輪走行面を有し移動体10の進路を案内する一対のレール部材1a,1bから成る軌道。
2はレール部材1aを形成し適宜間隔を介して隔設される検査レールであり、全長のうち移動体進行方向(矢印7)上流側半分に、隣接するレール部材1aに形成される車輪走行面4と同一平面上とされる車輪走行面4が形成される一方、移動体進行方向下流側半分は該車輪走行面4より低位とされる凹部2aが形成されている。3はレール部材1bを形成し適宜間隔を介して隔設される検査レールであり、全長のうち移動体進行方向(矢印7)上流側半分に、隣接するレール部材1bに形成される車輪走行面4より低位とされる凹部3aが形成される一方、移動体進行方向下流側半分は隣接するレール部材1bに形成される車輪走行面4と同一平面上とされる車輪走行面4が形成されている。
【0017】
5,6はリミットスイッチであり、車輪14が軌道1の所定位置に達すると移動体10に設けられたドグ10a,10bが該リミットスイッチを押圧すると振動解析装置17に働きかけて振動情報の収集を開始させる。
【0018】
10は移動体であり平面視長方形とされ上面コーナの4箇所に夫々車輪支持具11が取付けられ、該支持具11に軸が水平とされる車軸12が取付けられている。該車軸12にラジアルボールベアリング13を介して車輪14が回動自在に取付けられている。
【0019】
15は検査レール2の下面に取付けられ検査レール2を介してラジアルボールベアリング13や車輪14等が発する振動情報を収集する振動収集センサであり、振動解析装置17に接続される。16は検査レール3の下面に取付けられ検査レール3を介してラジアルボールベアリング13や車輪14等が発する振動情報を収集する振動収集センサであり、振動解析装置17に接続される。
図10に示すように、振動収集センサ15と振動収集センサ16と振動解析装置17とで車輪劣化解析装置を構成する。17は振動収集センサ15,16から送られる振動データをCPUに取込み高速フーリエ変換(FFT)したデータを表示装置等の外部装置に出力できる公知の振動解析装置であり、振動情報を高速フーリエ変換(FFT)等公知の加工をして特定の周波数の振動レベルの推移を時系列的に格納及び加工できる振動解析装置である。
【0020】
上記構成において、その作用を説明する。
図1乃至図3において、移動体10が図1矢印方向7に進行して図示しない移動体特定装置が移動体の個体番号を特定(例えば移動体に付与された番号)した後、前輪が検査レール2,3に載ると(又は、前輪が検査レール2,3に載る直前に)ドグ10aがリミットスイッチ5を押圧する。これにより、リミットスイッチが振動解析装置17に働きかけて振動収集センサ15,16による振動情報収集が開始され一定時間内で振動情報を収集した後振動情報収集動作を終了する。この際、左前輪14は検査レール2の車輪走行面4に必ず当接して転動しながら移動するので、その際に発せられる強い振動が検査レール2の下面に取付けられた振動収集センサ15により確実に収集される。一方、右前輪は検査レール3に形成された凹部3a上を移動し検査レール3の上を通過するが接触していないので検査レール3の下面に取付けられた振動収集センサ16は(ノイズ等の)弱い振動しか収集しない。
【0021】
移動体10がさらに進行すると、左前輪は検査レール2の車輪走行面4を通過する一方、右前輪が検査レール3の車輪走行面4上を転動し始めるとドグ10aがリミットスイッチ6を押圧する。これにより、リミットスイッチ6が振動解析装置17に働きかけて振動収集センサ15,16による振動情報収集が開始される。この際は、左前輪14が検査レール2に形成される凹部2a上を移動し検査レール2の上を通過するが接触していないので検査レール2の下面に取付けられた振動収集センサ15は(ノイズ等の)弱い振動しか収集しない。一方、右前輪は検査レール3の車輪走行面4に必ず当接して転動しながら移動するので、その際に発せられる強い振動が検査レール3の下面に取付けられた振動収集センサ16により確実に収集される。
【0022】
車輪14が正常の場合は前述のように凹部2a,3aに接触することはない。しかし、ラジアルボールベアリング13が破損してボールが脱落した状態になると車輪14の軸心は自重により車軸12の軸心より下方に落下して偏心するので車輪14が凹部に接触して移動する。すると、振動収集センサ15,16はその振動を収集して振動解析装置17に送ると振動解析装置17は「車輪脱落」データを表示装置に送り表示装置が「車輪脱落」を表示する。
【0023】
さらに移動体10が進行して、前輪が検査レール2,3を通過する一方後輪が検査レール2,3に載ると(又は、後輪が検査レール2,3に載る直前に)ドグ10bがリミットスイッチ5を押圧する。これにより、リミットスイッチ5が振動解析装置17に働きかけて前述同様に振動情報収集が開始・終了する。この際も、左後輪14が検査レール2の車輪走行面4に接触して移動するので、同様に強い振動が振動収集センサ15により収集される。一方、右後輪は検査レール3に形成される凹部3a上を移動し検査レール3の上を通過するが接触していないので同様に振動収集センサ16は(ノイズ等の)弱い振動を収集する。さらに移動体10が進行すると、左後輪は検査レール2の車輪走行面14を通過する一方、右後輪が検査レール3の車輪走行面4上を移動し始めるとドグ10bがリミットスイッチ6を押圧する。これにより、リミットスイッチ6が振動解析装置17に働きかけて前述同様に振動情報収集が開始され終了する。
【0024】
このようにして、車輪14が1輪ずつ検査レールを通過する度に車輪が発する振動情報が振動解析装置17に蓄積され移動体毎に左右前後輪の振動データが時系列的に格納される。こうして、検査レール2,3に取付けられた振動収集センサ15,16は車輪の劣化が進行するに合わせて変化する振動情報を収集しながら車輪が脱落した振動情報も収集し、振動解析装置17からの指示により表示装置が車輪の寿命予測や車輪の交換を指示する。
例えば、前述「車輪脱落」信号を受けると、車輪が脱落した時間以前に収集された振動情報を高速フーリエ変換し振動レベルが高い卓越周波数とその前後の任意周波数の振動レベルの積分値(面積)複数が呼び出され(又は複数の卓越周波数の振動レベルのピーク値)統計的手法により前記面積と車輪の累積転動時間との相関関係が算出され、高い相関関係にある卓越周波数とその前後の任意周波数(図6では1200〜1300ヘルツ)が抽出される。
以後、該周波数域が監視すべき周波数として登録され、手動又は自動的に危険信号を出力する振動レベル(図6では面積)が設定される。これにより、交換された車輪は前述脱落車輪が残した卓越周波数域の振動レベルから寿命が予測されると共に一定以上の振動レベルに達すると危険信号が出力され部品交換の準備がされる。
【0025】
図6について説明する。
図6は、収集した振動データを高速フーリエ変換し、各周波数の振動レベルのピーク値と周波数1000ヘルツピッチの間隔で囲む面積を数値化し車輪の累積転動時間別に表したものであり、車輪の累積転動時間に比べて振動レベル(図例では面積指標で示す)の上昇が著しい周波数域が1200〜1300ヘルツであることがわかる。この周波数域を卓越周波数域として監視し、この周波数域の振動レベルが一定以上を越えると(また、振動レベルの指標は当該周波数の振幅、振動エネルギ、加速度、規定振動レベルを超える回数等のレベルが用いられる)ベアリング交換を促すアラームが出力される。
【0026】
本実施例では、検査レールに車輪が接触して転動する車輪走行面と該走行面より低位とされ正常な車輪は接触しない凹部とを一体的に形成し、検査レールに備えられる車輪走行面と検査レールに隣接するレール部材に備えられる車輪走行面とを同一平面上に存する構成としたがこれに限るものではない。すなわち、前記レール部材1a(又は1b)と空隙を介して隣接される検査レールは、例えば、前記レール部材1a(又は1b)と同一断面のレール部材を前記車輪走行面と前記凹部との高低差に対応する高低差を付けて連結して検査レールを構成し、該検査レールの車輪走行面を隣接されるレール部材1a(又は1b)に備えられた車輪走行面と同一平面上にするよう配設してもよい。
【0027】
なお、本実施例のように移動体10に車輪支持具11を介して車輪14を取付け、車輪と移動体との間隔が固定される構成では車輪数が4個以上になると最悪3個しか車輪走行面に接触しない場合があるので、図9に示すように、検査レール21,31は進行方向に対して適宜ずらして検査レール上の車輪走行面を隣接するレール部材上の車輪走行面より車輪が乗越える範囲で高位になるよう配置し、前述実施例同様、左車輪が左側検査レール上の車輪走行面を通過中は右車輪は隣接するレール部材と非接触で通過する一方、右側車輪が右側検査レール上の車輪走行面を通過中は左側車輪は隣接するレール部材と非接触で通過するように配置してもよい。また、前述実施例の検査レール2,3上に備えられた車輪走行面4上に車輪14が乗越え可能な凸部を形成させてもよい。
【0028】
なお、図4に示すように、左右の車輪支持具11,11を連結する連結部材22を移動体10の中心部から突設される軸受け部材に取付けられる枢軸20を介して移動体10に枢着され車輪と移動体との間隔が自在に変化可能とされる構成では、4輪以上の車輪が設けられていても連結部材22で連結される車輪は同一平面上に接地するので前記凹部2a,3aを省略した検査レール21,31を利用できる。
【0029】
この際の検査レール21,31では凹部2a,3aを廃止する。その代わりに、図5に示すように、車輪が転動する中空部に開口する孔41aを貫通させ、該孔41aを介して車輪検知センサ55a,55bを配設する。車輪検知センサは透過型超音波センサや透過型光電センサを利用すると良い。これにより、ドグ10a又は10bによりリミットスイッチ6が押圧されて開始される検査中において、正常な車輪であれば上下に存する孔41aを結ぶ空間には音波や光軸を遮断するものが存在しないので車輪検知センサ55a,55bは反応しない。しかし、前述のようにラジアルボールベアリング13が破損してボールが脱落することにより車輪14の軸心は車軸12の軸心より後方(移動体の進行方向と逆方向=2点鎖線で示す円)に移動するので前記孔41aを結ぶ空間に車輪が存在し音波や光軸が遮断されて車輪検知センサ55a,55bがラジアルボールベアリングの破損を検知する。
【0030】
また、検査レールに備えられる車輪走行面は移動体に備えられる車輪が接触して転動するようにすればよいので車輪支持構造によっては隣接されるレール部材の車輪走行面に対して高低差があってもよい。例えば、図7に示すように、枢軸20を介して前後の車輪が枢動可能にすれば検査レールに備えられる車輪走行面と隣接されるレール部材の車輪走行面との間に車輪が載り移り可能な高低差があってもよい。要するに、車輪支持構造に応じて車輪が検査レールの車輪走行面に接触して転動するように配設すればよい。
【0031】
また、検査レールの断面は図8に示すように断面「コ」字状のレール部材51の開口側を対向して配設し車輪支持具52にレール部材51の車輪走行面を転動可能に一対の車輪を取付ける構造にも利用できることは言うまでもない。
【0032】
また、検査レールと隣接されるレール部材との間に空隙部を設けたがこれに限るものではない。すなわち、検査レールとレール部材との間に音の速度が遅く伝わる固体(布や気泡を内蔵するプラスチックやゴム等音速が遅く伝わる固体)を挟持させてもよい。
【0033】
また、前述実施例では、ボールベアリングを使用したがローラベアリングやニードルベアリング等ベアリング構成部品のインナーレースとアウターレースとの間にボール又はローラ等を回動自在に挿入したベアリングでもよい。
【0034】
ところで、外れた車輪を検知する異常車輪検知手段は次に示す利点がある。
1)車軸から車輪が外れた事実がわかる。
2)車輪が外れたことによりラジアルボールベアリング等減摩部材が寿命まで使用されたことを知らせる。
一方、欠点は、
1)破損したことが突然判るので、生産設備が突然生産停止に追込まれる。
2)破損してから新品部品に交換するため、部品交換までの間は生産が停止される。
【0035】
一方、振動情報を収集して車輪の劣化を時系列的に監視する車輪劣化監視装置は次に示す利点がある。
1)図6に示すように、車輪の累積転動時間の長期化に伴いある周波数の振動レベルが卓越して上昇する(移動体の構造によって卓越周波数は異なる)ので、該周波数域の振動レベルの推移を時系列的に把握すると車輪破損時期の予測が可能。
2)予測に基づいて破損前に部品手配・部品入手ができる。
3)入手した部品は、休日等非稼動時に部品交換できるので生産設備の生産停止を回避できる。
一方、欠点は、
1)振動情報は隔設される検査レールを介して収集されるので連続性のある振動データを入手できない。このため、検査レール上で異常を起こした車輪の振動情報は収集できるが他のレール上で生じた異常情報は収集できない。
2)このことは、振動情報から近い将来ベアリングが破損する予想をしても実際には他のレール上でベアリングが破損すると卓越周波数の振動レベルのピーク値が激減してしまうので実際にベアリングが破損しているにもかかわらず周波数波形はベアリングが破損していない時のものに似ているため車輪破損を見逃してしまう。
3)卓越周波数の振動レベルは移動体の速度上昇や重量の増加によって上昇する一方速度低下や重量減量によって下降する。このため、同じ移動体でも載荷物に重量差がある場合や速度差がある場合は卓越周波数の振動レベルのバラツキが大きいため破損時期の予測のバラツキが大きい。このため、交換用部品を在庫として所有する期間が長くなる。
4)前述のように破損時期の予測のバラツキが大きいので安全を見て早めに新品に交換すると、まだ寿命が来ていない部品を捨てることになり不経済である。
【0036】
これに対して、上記装置を組合わせると車輪破損及び車輪破損するまでの間の卓越周波数の振動レベルの上下動は車輪に作用する条件の違いによる変動であることが判る等上記装置の夫々の利点を有する他に、次の利点がある。
1)車輪が脱落した時間以前に収集した複数の卓越周波数の振動レベルのピーク値又は卓越周波とその前後の任意周波数(図6の例では、1200〜1300ヘルツが相当する)の振動レベルの積分値(面積)等を統計的手法により解析すると卓越周波数の振動レベルと車輪の累積転動時間とは高い相関関係にあることが判るので監視すべき周波数と振動レベルがわかり、より精度良い車輪寿命(ベアリング寿命)が予測可能になる。
2)これらにより、交換部品の在庫数と在庫所有期間が著しく短縮される効果がある。
3)また、車輪毎の寿命予測線が可視化できるので該予測線から異常に外れる振動レベルにより、車輪と軌道との間の異物の存在やベアリングのグリス不足、車輪の組付け不良、ベアリングの品質不良等が判るようになる。等優れた効果が派生する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る移動体の車輪劣化診断装置の第一実施例の側面図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】本発明に係る移動体と軌道の第一実施例の要部正面図。
【図4】本発明に係る移動体と軌道の他の実施例の要部正面図。
【図5】車輪の脱落を検知する手段の他の実施例を示す検査レールの側面図。
【図6】振動解析装置の解析結果の一例を示す説明図。
【図7】本発明に使用される車輪連結構造例を示す側面図
【図8】本発明に使用される軌道の断面例を示す要部正面図
【図9】本発明に係る検査レールの他の配置例を示す平面図
【図10】本発明に使用した車輪劣化解析装置の構成図
【符号の説明】
【0038】
1 軌道
1a レール部材
1b レール部材
2 検査レール
2a 凹部
3 検査レール
3a 凹部
4 車輪走行面
5 リミットスイッチ
6 リミットスイッチ
11 車輪支持具
12 車軸
13 ラジアルボールベアリング
14 車輪
15 振動収集センサ
16 振動収集センサ
17 振動解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
載荷可能な移動体に車軸を介して取付けられる車輪が軌道上を接触して転動する搬送装置の車輪劣化診断装置であって、前記車軸の軸心から軸心が偏心した前記車輪を検出可能な異常車輪検知手段と、前記軌道の一部を形成して隔設される検査レールに取付けられ該検査レール上を前記車輪が転動する際に発する振動を検出する振動収集センサと1個の前記車輪が検査レールを通過する間に前記振動収集センサを介して振動情報を収集する振動解析装置とを備えたことを特徴とする移動体の車輪劣化診断装置
【請求項2】
請求項1記載の異常車輪検知手段が車輪の異常を監視する工程と
請求項1記載の振動解析装置が時系列的に収集した振動情報を高速フーリエ変換して卓越周波数を抽出し該卓越周波数のピーク値を時系列的にデータ保存する工程と
前記異常車輪検知手段が前記車軸の軸心から軸心が偏心した車輪を検出するとその信号により振動解析装置が偏心した車輪を検知した時間以前の卓越周波数のピーク値を時系列的に呼び出し該卓越周波数のピーク値と経過時間との相関が高い卓越周波数を算出し該算出された卓越周波数を監視周波数として登録する工程と
該監視周波数の振動レベルの一定高さ以上の値を閾値として設定し前記振動収集センサが収集する振動レベルが該閾値を越すとアラーム信号を発するようにしたことを特徴とする移動体の車輪劣化診断方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−39708(P2008−39708A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217636(P2006−217636)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000189556)
【Fターム(参考)】